(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多相撮影された複数患者の医用画像に基づいて、造影血流動態の臨床的な事前知識から導き出された造影血流の流路となる血管及び臓器の位置に関心領域を設定し、当該関心領域の画素値を測定し保存した複数患者血管信号値データベースであって、所定の血管における基準正規化信号強度曲線と、当該基準正規化信号強度曲線と前記所定の血管との関係に関するパラメータを保存する複数患者血管信号値データベースと、
少なくとも3相撮影された対象患者の医用画像に基づいて、造影血流動態の臨床的な事前知識から導き出された造影血流の流路となる血管及び臓器の位置に関心領域を設定し、当該関心領域の画素値を測定する対象患者血管信号値測定部と、
前記複数患者血管信号値データベースに保存された前記基準正規化信号強度曲線と、前記基準正規化信号強度曲線と前記対象患者の血管との関係に関するパラメータと、前記対象患者血管信号値測定部で得られた対象患者の血管信号値とから、前記対象患者の前記所定の血管の造影剤の到達距離の指標と循環速度の指標を計算し、前記所定の血管の時間造影強度曲線を推定する時間造影強度曲線推定部と、を備える、
ことを特徴とする血流動態解析システム。
少なくとも3相撮影された前記対象患者の前記医用画像に基づいて、少なくとも1つの入力血管に対して得られた前記時間造影強度曲線を入力時系列群として参照し、線形および非線形的最適化に基づいて、前記対象患者の所定の組織の薬物動態解析モデルの係数の最適な係数を算出する薬物動態解析モデル解析部と、
前記対象患者の所定の組織の時間造影強度曲線を生成する時間造影強度曲線生成部と、
前記所定の組織の時間造影強度曲線に基づいて、任意の時刻の仮想ダイナミック像を生成する仮想ダイナミック像生成部と、
任意の時刻を指定するユーザインターフェースを備え、当該任意の時刻における前記仮想ダイナミック像を表示する表示部と、
を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の血流動態解析システム。
前記仮想ダイナミック像生成部は、前記ユーザインターフェースにより任意の時刻が指定された際に、対象の臓器の入力血管における時間造影強度曲線のピーク造影強度の時刻を取得し、当該時刻における仮想ダイナミック像を生成し、
前記表示部は、前記ユーザインターフェースにより任意の時刻が指定された際に、前記ピーク造影強度の時刻にジャンプし、当該時刻における前記仮想ダイナミック像を表示する
ことを特徴とする請求項2に記載の血流動態解析システム。
前記仮想ダイナミック像生成部は、対象の臓器に複数の入力血管がある場合、それぞれ入力血管の時間造影強度曲線の造影強度の差分値が最大となる時刻を取得し、当該時刻における仮想ダイナミック像を生成する、
ことを特徴とする請求項2に記載の血流動態解析システム。
前記入力血管は、少なくとも、大動脈およびその分枝(総頚動脈、内頚動脈、外頚動脈、腕頭動脈、鎖骨下動脈、椎骨動脈、気管支動脈、肋間動脈、副腎動脈、卵巣動脈、精巣動脈、腰動脈)、腹腔動脈およびその分枝(総肝動脈、固有肝動脈、胃十二指腸動脈、上前膵十二指腸動脈、後膵十二指腸動脈、左胃動脈、右胃動脈、右胃大網動脈、左胃大網動脈、背側膵動脈、脾動脈、大膵動脈)、上腸間膜動脈およびその分枝(膵十二指腸動脈、空腸動脈、回結腸動脈、右結腸動脈、中結腸動脈)、下腸間膜動脈およびその分枝、総腸骨動脈、外腸骨動脈およびその分枝、内腸骨動脈およびその分枝、門脈、肺動脈のうち一つである、
ことを特徴とする請求項2ないし請求項12のいずれか1項に記載の血流動態解析システム。
前記所定の組織は肝臓であり、前記少なくとも1つの入力血管は、大動脈から肝動脈と門脈であり、前記仮想ダイナミック像は、肝動脈造影下の仮想ダイナミック像および門脈造影下の仮想ダイナミック像の少なくともいずれか一つを含む、
ことを特徴とする請求項2ないし請求項12のいずれか1項に記載の血流動態解析システム。
前記時間造影強度曲線は、前記所定の組織の画像を含む撮影画像の全画素について生成され、前記少なくとも1つの入力血管は、大動脈から肝動脈と門脈であり、前記仮想ダイナミック像は、肝動脈造影下の仮想ダイナミック像および門脈造影下の仮想ダイナミック像の少なくともいずれか一つを含む、
ことを特徴とする請求項2ないし請求項12のいずれか1項に記載の血流動態解析システム。
前記造影血流の流路となる血管及び臓器は、大動脈、左心房、脾静脈、上腸間膜静脈、右腎静脈、下大静脈、上大静脈、右心房、右心室、左心室、下腸間膜静脈、門脈である、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項20のいずれか1項に記載の血流動態解析システム。
多相撮影された複数患者の医用画像に基づいて、造影血流動態の臨床的な事前知識から導き出された造影血流の流路となる血管及び臓器の位置に関心領域を設定し、当該関心領域の画素値を測定し保存した複数患者血管信号値データベースであって、所定の血管における基準正規化信号強度曲線と、当該基準正規化信号強度曲線と前記所定の血管との関係に関するパラメータを保存する複数患者血管信号値データベースを参照するステップと、
対象患者血管信号値測定部により、少なくとも3相撮影された対象患者の医用画像に基づいて、造影血流動態の臨床的な事前知識から導き出された造影血流の流路となる血管及び臓器の位置に関心領域を設定し、当該関心領域の画素値を測定するステップと、
時間造影強度曲線推定部により、前記複数患者血管信号値データベースに保存された前記基準正規化信号強度曲線と、前記基準正規化信号強度曲線と前記対象患者の血管との関係に関するパラメータと、前記対象患者血管信号値測定部で得られた対象患者の血管信号値とから、前記対象患者の前記所定の血管の造影剤の到達距離の指標と循環速度の指標を計算し、前記所定の血管の時間造影強度曲線を推定するステップと、を備える、
ことを特徴とする血流動態解析方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
<肝血流動態解析システムの概要>
図1は、本発明の一実施形態における肝血流動態解析システム1の概要を示すである。
図1に示すように、本実施形態における肝血流動態解析システム1は、肝血流動態解析装置100と、ビューワ200と、画像サーバ300とを備えている。肝血流動態解析装置100と、ビューワ200と、画像サーバ300とは、ネットワークNを介して通信可能に接続されている。
【0018】
肝血流動態解析装置100およびビューワ200は、いわゆるコンピュータであり、それぞれ内部に演算制御部(CPU:Central Processing Unit)、主記憶部(RAM:Random Access Memory)、外部記憶部(HDD:Hard Disk Drive)、通信コントローラを備えている。
【0019】
肝血流動態解析装置100は、コンピュータにキーボードやマウス等の入力デバイスと、液晶ディスプレイ等のモニタ(表示部)とを接続して構成されている。それぞれの外部記憶部には、OS(オペレーティングシステム)およびアプリケーションのプログラムが記憶されている。通信コントローラは、ネットワークNの接続線と接続され、例えばWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)やDICOM(Digital Imaging and COmmunications in Medicine)通信プロトコル、TCP/IPプロトコル等のデータ通信制御によりネットワークNを介して行なうデータ通信を制御する。
【0020】
画像サーバ300は、図示を省略する画像診断装置とネットワークNを介して接続されており、画像診断装置で作成されたCT画像等の医用画像を画像データベースに登録して保管する。画像診断装置は、患者を撮影して、その撮影結果を反映したCT画像等の医用画像作成し、作成した医用画像を画像サーバ300に送信する。
【0021】
ビューワ200は、ユーザによる操作に基づいて、CT画像を画像サーバ300から取得する。また、ビューワ200は、ユーザによる操作に基づいて、肝血流動態解析装置100によって生成された仮想ダイナミック像等を取得する。
【0022】
なお、本実施形態では、肝血流動態解析装置100とビューワ200とを別体の装置としているが、肝血流動態解析装置100とビューワ200とを兼ねる構成であっても良い。
【0023】
[肝血流動態解析装置の機能ブロック]
図2(A)は、肝血流動態解析装置100の機能ブロックを表すブロック図である。
図2(A)に示すように、肝血流動態解析装置100は、制御部10と、記憶部40と、通信処理部50とを備えている。制御部10は、血管時間造影強度曲線推定部11と、薬物動態解析モデル解析部12と、仮想ダイナミック像生成部13とを備えている。血管時間造影強度曲線推定部11は、対象患者血管信号値測定部21と、時間造影強度推定部22とを備えている。
【0024】
対象患者血管信号値測定部21は、少なくとも3相撮影された対象患者の医用画像に基づいて、造影血流動態の臨床的な事前知識から導き出された造影血流の流路となる血管及び臓器の位置に関心領域を設定し、当該関心領域の画素値を測定する。対象患者血管信号値測定部21の機能の詳細については後述する。
【0025】
時間造影強度曲線推定部22は、複数患者血管信号値データベース41に保存された基準正規化信号強度曲線と、基準正規化信号強度曲線と対象患者の血管との関係に関するパラメータと、対象患者血管信号値測定部21で得られた対象患者の血管信号値とから、対象患者の所定の血管における造影剤の到達距離の指標と循環速度の指標を計算し、所定の血管の時間造影強度曲線を推定する。時間造影強度曲線推定部22の機能の詳細については後述する。
【0026】
薬物動態解析モデル解析部12は、少なくとも3相撮影された対象患者の医用画像に基づいて、少なくとも1つの入力血管に対して得られた時間造影強度曲線を入力時系列群として参照し、線形および非線形的最適化に基づいて、対象患者の所定の組織の薬物動態解析モデルの係数の最適な係数を算出する。薬物動態解析モデルの一例としては、コンパートメントモデルが挙げられる。薬物動態解析モデル解析部12の詳細については後述する。
【0027】
仮想ダイナミック像生成部13は、所定の組織の時間造影強度曲線に基づいて、任意の時刻の仮想ダイナミック像を生成する。また、仮想ダイナミック像生成部13は、時間変化を保持した仮想ダイナミック動画像データを生成するようにしてもよい。仮想ダイナミック像生成部13の機能の詳細については後述する。
【0028】
記憶部40は、対象患者血管信号値測定部21、時間造影強度曲線推定部22は、薬物動態解析モデル解析部12、および仮想ダイナミック像生成部13によって算出、測定、推定、解析、または生成されたデータ等の肝血流動態解析処理に必要なデータを記憶する。また、記憶部50は、複数患者血管信号値データベース41の記憶部としても用いられる。
【0029】
複数患者血管信号値データベース41を作成するには、多相撮影された複数患者のCT画像データを含むデータを利用して、所定の部位における血管の時刻と基準正規化信号強度曲線との関係に関するパラメータを計算する。そして、複数患者血管信号値データベース41は、このように計算したパラメータを保存する。複数患者血管信号値データベース41の詳細については後述する。
【0030】
通信処理部50は、ネットワークNを介して、ビューワ200および画像サーバ300との通信を行う。
【0031】
[ビューワの機能ブロック]
図2(B)は、ビューワ200の機能ブロックを表すブロック図である。
図2(B)に示すように、ビューワ200は、制御部210と、表示部211と、通信処理部212と、記憶部213とを備えている。制御部210は、表示部211、通信処理部212、および記憶部213の制御を行う。
【0032】
通信処理部212は、ネットワークNを介して、肝血流動態解析装置100および画像サーバ300との通信を行う。
【0033】
表示部211は、例えば液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイ等により構成され、肝血流動態解析装置100の仮想ダイナミック像生成部13により生成された仮想ダイナミック像を表示する。後述するように、表示部211は、任意の時刻を指定するユーザインターフェースを備えており、ユーザインターフェースにより指定された任意の時刻における仮想ダイナミック像を表示する。表示部211における表示例等については後述する。
【0034】
<肝血流動態解析システム1の処理の概要>
次に、肝血流動態解析システム1の処理の概要について、図面を参照しつつ説明する。
図3は、肝血流動態解析システム1の処理の概要を説明するための図である。
図4は、3相画像における肝臓の流入血管である腹部大動脈と門脈の造影信号強度の一例を示す図である。
図5は、腹部大動脈と門脈について推定した時間造影強度曲線の一例を示す図である。
【0035】
本実施形態の肝血流動態解析システム1は、
図3に示すように、実際に撮影したCT画像が、造影前の画像IM1、造影早期相の画像IM2、および造影後期相の画像IM3の3相画像だけであっても、任意の時刻における仮想ダイナミック像としての仮想ダイナミックCT画像IMnを作り出すシステムである。
【0036】
本実施形態においては、任意の時刻における仮想ダイナミックCT画像IMnを作り出すために、組織の血流動態(造影血流の授受関係)を、血管と組織という2つのコンパートメント間の物質の移行としてモデル化し、組織の時間造影強度曲線を推定する方法を用いる。
【0037】
モデル化する方法としては、薬物動態解析モデル解析法の一例としてのコンパートメントモデル解析法を用いる。コンパートメントモデル解析法は、血管と組織間の複雑な物質の濃度変化を、よりシンプルなモデル式に変換し、シミュレーションを行って、時間造影強度曲線を推定する方法である。この方法を用いることにより、飛び飛びの測定値から、組織の滑らかな時間造影強度曲線を推定することができる。
【0038】
コンパートメントモデルの入力には、流入血管の時間造影強度曲線が必要となるが、従来の方法では、3相画像から得られるデータだけでは、時間分解能が不十分である。そこで、本実施形態においては、まず、
図4に示すような、3相画像における、肝臓の流入血管である腹部大動脈と門脈の造影信号強度に基づいて、腹部大動脈と門脈の時間造影強度曲線を推定する。
図4においては、0秒が造影前、40秒が造影早期相、および120秒が造影後期相のそれぞれの腹部大動脈と門脈の造影信号強度を示している。
【0039】
本実施形態では、これらの3相の造影信号強度に基づいて補間を行うことにより、
図5に示すように、腹部大動脈と門脈の時間造影強度曲線を推定する。補間の詳細については後述する。
【0040】
以上のように、本実施形態における肝血流動態解析システム1の処理は、流入血管の時間造影強度曲線の推定処理と、コンパートメントモデル解析法による組織の時間造影強度曲線の推定処理と、仮想ダイナミックCT画像の表示処理とに分かれている。以下、これらの3つの処理について、それぞれ詳しく説明する。
【0041】
[A:流入血管の時間造影強度曲線の推定処理]
本実施形態においては、日常的な検査で広く用いられる、患者の造影前、早期相、後期相の3相画像データから高精度な流入血管の時間造影強度曲線を推定する。そのため、造影剤の体循環に関する臨床的事前知識を利用する。また、多相撮影された複数患者の血流動態データベースを用意する。以下、本実施形態における流入血管の時間造影強度曲線の推定方法について詳しく説明する。
【0042】
(A−1:学習フェイズ)
本実施形態における流入血管の時間造影強度曲線の推定方法は、多相撮影された複数患者の血流動態データベースを用いて、少ない撮影回数で得られた画像データから、主血管(大動脈,門脈等)の尤もらしい時間造影強度曲線を推定する方法である。この方法は、大きく分けて、学習フェイズと、テストフェイズとを備えている。まず、学習フェイズについて説明する。
【0043】
造影剤は、腕の静脈から注入された後、様々な血管(血流路)を通り全身を回って拡散し、循環する。血流路のなかには、短いものや長いものが存在する。例えば、
図6に示すように、造影剤は、RA(右心房)からLA(左心房)を通り、AOからRRV(右腎静脈)への腎臓を通る排出系の血流路は短い時間で循環する。また、AO(大動脈)からSMV(上腸間膜静脈)への消化器系を通る消化系の血流路は、中間の時間で循環する。さらに、AO(大動脈)からIVC(下大静脈)への末端を通る全身系の血流路は、足の末端も含むため、最も時間を要して循環する。
【0044】
(被験者60人分の10時相における平均CT値の取得)
そこで、本実施形態における学習フェイズは、LA(左心房),AAO(腹部大動脈),RRV(右腎静脈),SPV(脾静脈),SMV(上腸間膜静脈),IVC(下大静脈),PV(門脈)の7箇所の部位に注目領域を設定し、それぞれの注目領域での10時相の平均CT値を測定する。そして、このような注目領域での10時相の平均CT値を60人の被験者について用意して、入力データとして用いる。なお、60人はあくまで目安であり被験者の数は問わない。なお設定する注目領域は、上で述べた血管や臓器に限定されることなく、大動脈およびその分枝(総頚動脈、内頚動脈、外頚動脈、腕頭動脈、鎖骨下動脈、椎骨動脈、気管支動脈、肋間動脈、副腎動脈、卵巣動脈、精巣動脈、腰動脈)、腹腔動脈およびその分枝(総肝動脈、固有肝動脈、胃十二指腸動脈、上前膵十二指腸動脈、後膵十二指腸動脈、左胃動脈、右胃動脈、右胃大網動脈、左胃大網動脈、背側膵動脈、脾動脈、大膵動脈)、上腸間膜動脈およびその分枝(膵十二指腸動脈、空腸動脈、回結腸動脈、右結腸動脈、中結腸動脈)、下腸間膜動脈およびその分枝、総腸骨動脈、外腸骨動脈およびその分枝、内腸骨動脈およびその分枝、門脈、肺動脈のうち一つが含まれていればよい。
【0045】
ここで、10時相の平均CT値とは、造影剤注入後撮影時刻0秒,22秒,28秒,34秒,40秒,46秒,52秒,58秒,90秒,210秒における平均CT値をいう。なお、造影剤注入後撮影時刻0秒とは、造影前画像の撮影時刻としている。この時刻や数はこの限りではない。また、平均CT値とは、注目領域に相当する所定のボクセル領域の平均CT値のことである。
図7は、LA(左心房)に設定した注目領域における10時相の平均CT値の一例を示している。
図7では、被験者60人分の10時相の平均CT値のうち、一部を示している。
【0046】
(造影信号強度の計算)
以上のような各部位における被験者60人分の10時相の平均CT値を取得した後、被験者毎、部位毎で、造影前画像(0秒)のAAO (腹部大動脈)の画素値と、0秒を除く9時相の注目領域における画素値との差分値を算出することにより、造影信号強度を計算し、
図8に示すように造影強度曲線を求める。
【0047】
(造影血流循環の速さ(体内時計)の正規化)
次に、造影血流循環の速さ(体内時計)の正規化を行う。この正規化は、被験者毎、部位毎で、造影前を除く造影撮影の全てのタイミング、つまり、0秒を除く9時相における造影剤到達スコアを計算することにより行う。
【0048】
前記正規化の計算は、以下のようなアルゴリズムに従う。
(a)各部位の中で最大の造影信号強度を取得する。
(b)各部位において、最大の造影信号強度に対する割合を0から1の範囲で表す。つまり、ある部位の造影信号強度が最大の造影信号強度である場合には、当該部位に最大値1を割り当てる。しかし、ある部位の造影信号強度が最大の造影信号強度ではない場合には、最大の造影信号強度を1とした場合の当該部位の造影信号強度の割合を計算する。
(c)各部位において造影剤が到達したかを判断する。最大の造影信号強度の部位には、造影剤が多く存在していると考えられるので、最大値1が割り当てられた部位には、造影剤が到達したと判断する。
【0049】
上記のアルゴリズムを、9時相について、時刻の早い順(0秒に近い順)に行う。ある時相において最大値1が割り当てられ、造影剤が到達したと判断された部位は、残りの時相においても最大値1を割り当てる。
【0050】
図9は、AAO(腹部大動脈)における造影血流循環の速さ(体内時計)を正規化したデータの一例を示している。また、
図10は、RRV(右腎静脈)における造影血流循環の速さ(体内時計)を正規化したデータの一例を示している。なお、
図9および
図10においては、被験者60人分のデータのうちの一部のデータを示している。
【0051】
(造影信号強度の正規化)
次に、造影信号強度の正規化を行う。本実施形態では、被験者毎、部位毎で、造影前を除く造影撮影の全てのタイミング、つまり、0秒を除く9時相における造影信号強度を正規化する。この正規化は、次のようなアルゴリズムに従う。
(a)各部位の造影信号強度の最大値を取得する。
(b)各部位において、造影信号強度の最大値に対する割合を[0,1]で表す。つまり、ある部位の造影信号強度が最大値である場合には、当該部位に最大値1を割り当てる。しかし、ある部位の造影信号強度が最大値ではない場合には、当該部位に最小値0を割り当てる。
【0052】
(対象撮影時相のDynamic phase index(DPI)の計算)
次に、対象部位(血管)のDynamic phase index(DPI)を計算する。DPIは、対象部位の基準正規化信号強度曲線を推定するための指標であり、撮像時相における造影剤の到達距離の指標である。DPIは、以下の式を用いて最適化計算により求められる。
【0053】
DPI=w_x(1)*pAAO+w_x(2)*pRRV+w_x(3)*pSPV+w_x(4)*pSMV+w_x(5)*pIVC
【0054】
上記の式において、w_x(i)は最適化の変数ベクトルであり、重み係数を表す。iは1から5までの数値をとる。また、pが付された指標は、各血管の造影剤到達スコアであり、それぞれ以下の内容となっている。
【0055】
pAAO・・・腹部大動脈の造影剤到達スコア
pRRV・・・右腎静脈の造影剤到達スコア
pSPV・・・脾静脈の造影剤到達スコア
pSMV・・・上腸間膜静脈の造影剤到達スコア
pIVC・・・下大静脈の造影剤到達スコア
【0056】
DPIの計算においては、上記の各血管の造影剤到達スコアの他、対象部位の正規化信号強度rX、および対象部位の平衡相(210秒)での正規化信号強度の平均値rX_eqを入力データとして用いる。なお、平均値rX_eqは、対象部位の正規化信号強度rXを学習データ数(60人)で割って平均化したものである。
【0057】
DPIの計算における最適化変数の範囲は、それぞれ0〜1の範囲であり、ピークの前と後で分けたときの早期相および後期相それぞれの多項式近似の次数は、それぞれ4次となっている。
【0058】
本実施形態では、対象部位の正規化造影強度曲線からピークタイミングを計算し、早期相、後期相タイミングに分割、多項式近似を行った際の推定誤差を評価値とし、評価値を最小化する変数ベクトルw_xを求める。
【0059】
DPIの計算における最適化の処理は、以下の手順で行う。
(a)まず、DPIを計算する。
図11は、計算したDPIをプロットした図を示している。計算に使用するタイミングは、連続撮影されているタイミング(22秒,28秒,34秒,40秒,46秒,52秒,58秒)を使用する。
(b)次に、
図12に示すような正規化信号強度曲線を用いて、
図13に示すように、DPIを早期相帯と後期相帯とに分離する。
(c)次に、早期相について正規化信号強度をDPIで多項式フィッティングする。
図14(A)は、早期相について正規化信号強度をDPIで多項式フィッティングした例を示している。
(d)そして、後期相について正規化信号強度をDPIで多項式フィッティングする。
図14(B)は、後期相について正規化信号強度をDPIで多項式フィッティングした例を示している。
【0060】
フィッティング誤差や反復回数に関する条件を満足するまで、(a)から(d)を繰り返す。その結果、規格化された、対象部位(血管)の曲線を得ることができる。
【0061】
以上のように、DPIを計算することにより、標準的な血流循環モデルを作成することができる。
【0062】
(対象患者のDynamic speed index(DSI)を計算)
次に、対象患者のDynamic speed index(DSI)を計算する。DSIは、循環時間速さ(体内時計)を求めるための指標であり、対象患者固有の循環速度を示す指標である。上述したDPIの時間特性は、患者によって様々なので、DSIを計算することによって循環時間速さ(体内時計)を求め、循環時間速さ(体内時計)により、DPIを正規化する。その結果、標準的な血流循環モデルを作成することができる。DSIは、以下の式を用いて最適化計算により求められる。
【0063】
DSI=w_x(1)*pAAO(I,J)+w_x(2)*pRRV(I,J)+w_x(3)*pSPV(I,J)+w_x(4)*pSMV(I,J)+w_x(5)*pIVC(I,J)
【0064】
上記の式において、w_x(i)は最適化の変数ベクトルであり、重み係数を表す。iは1から5までの数値をとる。また、pが付された指標は、DPIの計算に用いた指標と同様であり、各血管の造影剤到達スコアを表す。それぞれ以下の内容となっている。
【0065】
pAAO・・・腹部大動脈の造影剤到達スコア
pRRV・・・右腎静脈の造影剤到達スコア
pSPV・・・脾静脈の造影剤到達スコア
pSMV・・・上腸間膜静脈の造影剤到達スコア
pIVC・・・下大静脈の造影剤到達スコア
【0066】
上記の式において、各造影剤到達スコアに用いられる変数IとJは、次のような意味を持つ。まず、変数Iは、患者番号である。次に、変数Jは、撮影時刻を示す指標を表す。撮影時刻は、J=1のとき22秒、J=2のとき34秒、J=3のとき40秒、J=4のとき40秒、J=5のとき46秒、J=6のとき52秒、および、J=6のとき58秒を示す。本実施形態では、60人の患者について、これらの6相の撮影時刻における各血管の造影剤到達スコアを用い、これらのスコアの線形和を求める。
【0067】
対象部位のDSIは、上記の式を用いて、最適化計算を行うことにより求める。最適化変数の範囲は、それぞれ0〜1の範囲である。
【0068】
DSIの最適化(最小化)計算を行う際には、上記DSIの多項式近似を行った際の推定誤差を評価値とし、この評価値を最小化する変数ベクトルw_xを求める。最適化(最小化)のアルゴリズムは以下のようになる。
【0069】
(a)重み係数w_xにおけるDSIを計算する。例えば、
図15(A),(B)のように60人の患者のうちの5人について、重み係数w_xにおけるDSIを計算する。
(b)次に、DSI時刻(Tm=DSI*T)を計算する。
図16は、時刻Tと、DSI時刻(Tm=DSI*T)の関係を示す図である。
(c)次に、DSI時刻(Tm=DSI*T)を用いて、DPIを多項式フィッティングする。
図17にDSI時刻(Tm)を用いて、DPIを多項式フィッティングした例を示す。
(d)そして、フィッティング誤差や反復回数に関する条件を満足するまで、(a)から(c)を繰り返す。
【0070】
以上のようにDPIを求め、その後にDSIを求め、DSI時刻(Tm)を用いてDPIを多項式フィッティングすることにより、対象部位(血管)の時刻と正規化信号強度の関係を求め、患者によって異なるDPIの時間特性を統一化することができる。つまり、DSIというパラメータを導入することにより、患者間で循環速度のばらつきがあり、実時間Tでは比較できなかったDPIをDSI時刻(Tm)によって比較することができる。
【0071】
学習フェィズにおいては、予め、入力データとしたLA(左心房),AAO(腹部大動脈),RRV(右腎静脈),SPV(脾静脈),SMV(上腸間膜静脈),IVC(下大静脈),PV(門脈)の7箇所の部位に注目領域に対し10相にわたって測定された60人分の平均CT値を複数患者血管信号値データベース41として、記憶部40に記憶させる。
【0072】
また、計算で求めたDPI、DSI、重み係数、および各造影剤到達スコア等のパラメータを、血流動態パラメータ記憶部に記憶しておいてもよい。予め計算し記憶しておいた血流動態パラメータを使用することも可能である。
【0073】
(A−2:テストフェイズ)
次に、テストフェイズについて説明する。テストフェイズでは、対象患者における3相画像の観測値から、DSIとDPIを求め、流入血管の時間造影強度曲線を計算する。以下、テストフェイズにおける処理の手順について説明する。
【0074】
(A−2−1)各部位における注目領域の画素値と造影前画像の腹部大動脈(AAO)の画素値との差分値の計算
まず、対象患者血管信号値測定部21は、対象患者において、各部位における注目領域の画素値と、造影前画像の腹部大動脈(AAO)の画素値との差分値dX(j)を、以下の式により計算する。
【0075】
dX(j)=max(0,(X(j)−AAO(1)))
【0076】
ここで、jは、撮影時刻番号であり、例えば、j=1のとき0秒、j=2のとき40秒、j=3のとき130秒を示す。AAO(1)は、造影前画像の腹部大動脈(AAO)の画素値である。X(j)は、注目領域における各撮影時刻の画素値である。また、max(A,B,...)という演算は、AやB、その他全ての引数を比較して大きい方を結果として取得する演算である。
【0077】
図18に、LA(左心房),AAO(腹部大動脈),RRV(右腎静脈),SPV(脾静脈),SMV(上腸間膜静脈),IVC(下大静脈),PV(門脈)に0秒、40秒、130秒における画素値の例を示す。
図19は、
図18に示す画素値をプロットした図である。
【0078】
(A−2−2)対象患者の造影血流循環の速さ(体内時計)の正規化
次に、時間造影強度曲線推定部22は、対象患者の造影血流循環の速さ(体内時計)の正規化を行う。この正規化を行うために、まず、対象患者の各部位において、早期相(40秒)のタイミングでの造影剤到達スコアを計算する。計算は、以下のようなアルゴリズムにより行う。
【0079】
(a)まず、各部位の中で最大信号強度Maxを取得する。
Max=max(t_dLA,t_dAAO,t_dRRV,t_dSPV,t_dSMV,t_dPV,t_dIVC)
(b)次に、各部位X(LA,AAO,RRV,SPV,SMV,IVC,PV)において早期相(40秒)のタイミングでの造影剤到達スコアt_pX(t_pLA,t_pAAO,t_pRRV,t_pSPV,t_pSMV,t_pIVC,t_pPV)を計算する。造影剤到達スコアt_pXは、最大信号強度Maxに対する早期相(40秒)のタイミングでの各部位の差分値t_dXの割合として表され、以下の式により計算する。
t_pX=t_dX/Max
【0080】
ここで、t_dXは、早期相(40秒)のタイミングにおける、ある部位Xの画素値と造影前のAAOの画素値との差分値を示す。
【0081】
(c)流路に従った各部位Xの造影剤到達スコアt_pXの修正
次に、時間造影強度曲線推定部22は、流路に従って、各部位Xの造影剤到達スコアt_pX(t_pAAO,t_pRRV,t_pSPV,t_pSMV)を、次式により修正する。
t_pAAO=max(t_pAAO,t_pRRV,t_pSMV,t_pIVC)
t_pRRV=max(t_pRRV,t_pSMV,t_pIVC)
t_pSPV=max(t_pSPV,t_pIVC)
t_pSMV=max(t_pSMV,t_pIVC)
【0082】
(3)対象患者のDSIの算出
次に、時間造影強度曲線推定部22は、対象患者のDSIを算出する。対象患者のDSIであるt_DSIの算出には、学習フェイズで算出したDSI重みパラメータを使用する。
t_DSI=dsi_w(1)*t_pAAO+dsi_w(2)*t_pRRV+dsi_w(3)*t_pSPV+dsi_w(4)*t_pSMV+dsi_w(5)*t_pIVC
【0083】
ここにおいて、dsi_wは、各部位におけるDSIの重みパラメータである。
【0084】
(4)対象患者のDPIの算出
次に、時間造影強度曲線推定部22は、対象患者のDPIを算出する。対象患者のDPIの算出には、以下の式を用いて行い、学習フェイズで算出したDPI重みパラメータを使用する。
【0085】
t_DPI=dpi_w(1)*t_pAAO+dpi_w(2)*t_pRRV+dpi_w(3)*t_pSPV+dpi_w(4)*t_pSMV+dpi_w(5)*t_pIVC
【0086】
ここにおいて、dpi_wは、各部位のDPIの重みパラメータである。
早期相のタイミングでの造影剤到達スコアpXを使用する。
【0087】
(5)対象患者における対象血管の時間造影強度曲線の推定
次に、時間造影強度曲線推定部22は、対象患者の対象血管の時間造影強度曲線を推定する。サンプリング時刻は、1〜210秒とする。対象血管の時間造影強度曲線の推定処理は、以下のような手順により行う。
(a)まず、時間造影強度曲線推定部22は、DSI時刻mTを以下の式により計算する。
mT=t_DSI*T
ここにおいて、t_DSIは対象患者のDSIであり、Tはサンプリング時刻である。
図20は、サンプリング時刻TとDSI時刻mTとの関係を示す図である。
【0088】
(b)次に、時間造影強度曲線推定部22は、DSI時刻mTから、平衡相時間帯であるかどうかを表す変数eqPhaseを以下の式により計算する。
eqPhase=mT>eq_limit ? 1 : 0
なお、条件式?A:Bという演算は、条件式が真であればAを、偽であればBを返す演算である。
【0089】
ここで、eq_limitは、各血管での平衡相開始時刻(定数)を示す。
図21は、サンプリング時刻TとDSI時刻mTとの関係を示す図に平衡相開始時刻eq_limitを示した図であり、
図22は、サンプリング時刻Tと平衡相時間帯eqPhaseとの関係を示す図である。
【0090】
(c)時間造影強度曲線推定部22は、DSI時刻と学習フェイズで求めたDPI重みパラメータの多項式フィッティングにより、DSI時刻に対応するDPIを計算する。この際、DPIの値がマイナスの値になる場合には、ゼロに変換する。例えば、
図23のようにDPIが得られた場合には、
図24のようにDPIの値を変換する。
【0091】
(d)時間造影強度曲線推定部22は、早期相での観測画素値を用いてDPIを補正する。
図24は、時刻と補正前のDPIとの関係を示す図であり、
図25は、時刻と補正後のDPIとの関係を示す図である。
【0092】
(e)時間造影強度曲線推定部22は、学習フェイズで得られたDPIピーク値の学習データ数分の平均値peakDPIを用いて、早期相と後期相を分離する。
図26は、
図25にDPIピーク値の学習データ数分の平均値peakDPIの直線を示した図である。
図27は、
図26におけるDPIの経時的変化を示す曲線と、平均値peakDPIの直線との交点に基づいて、早期相、後期相、および平衡相を分離した例を示す図である。
【0093】
(f)時間造影強度曲線推定部22は、上述した処理により分離した早期相と後期相とのそれぞれで、DPIと学習フェイズで得られた多項式係数とを用いて正規化信号強度曲線を計算する。
図28は、
図27に示す早期相で計算した正規化信号強度曲線の例を示している。また、
図29は、
図27に示す後期相で計算した正規化信号強度曲線の例を示している。そして、
図30は、
図28に示す正規化信号強度曲線と、
図29に示す正規化信号強度曲線とを連結して作成した早期相、後期相、および平衡相の正規化信号強度曲線を示している。
【0094】
図28におけるeDPIとは、早期相における推定DPI値を示し、eRxとは、波形の振幅が0〜1に正規化された基準波形を示す。また、
図29におけるdDPIとは、後期相における推定DPI値を示す。さらに、
図30におけるmodified_edPI vs eRxとは、
図28に示す早期相における推定DPI値と基準波形との関係、および
図29に示す後期相における推定DPI値と基準波形との関係とを連結したことを意味する。
【0095】
(g)時間造影強度曲線推定部22は、平衡相における正規化信号強度曲線を推定する。
図31は、
図27と同様に、平均値peakDPIに基づいて、早期相、後期相、および平衡相を分離した図、
図32は、上記(b)の処理で計算した、DSI時刻mTに基づく平衡相時間帯eqPhaseを示す図である。
【0096】
図31と
図32とを比較すると明らかなように、平均値peakDPIに基づいて早期相、後期相、および平衡相を分離した場合の平衡相の開始時刻t1と、DSI時刻mTに基づく平衡相時間帯eqPhaseの開始時刻t2とは異なっている。本実施形態では、DSI時刻mTに基づく平衡相時間帯eqPhaseの開始時刻t2から、正規化信号強度曲線の計算を行い、平均値peakDPIに基づいて分離した平衡相の開始時刻t1から、DSI時刻mTに基づく平衡相時間帯eqPhaseの開始時刻t2までの正規化信号強度はゼロとしている。
図33は、DSI時刻mTに基づく平衡相時間帯eqPhaseの開始時刻t2から計算を行った正規化信号強度曲線の例を示している。
【0097】
図34は、早期相の正規化信号強度曲線と、後期相の正規化信号強度曲線とを連結した正規化信号強度曲線を示す図である。本実施形態では、この早期相と後期相の正規化信号強度曲線に対して、DSIを使用して、対応する時刻計算を行い、サンプリング時刻Tに対する早期相と後期相の正規化信号強度曲線を求めている。
【0098】
図35は、以上のようにして求めたサンプリング時刻Tに対する早期相と後期相の正規化信号強度曲線、DSI時刻mTに基づく平衡相時間帯eqPhaseの開始時刻t2から計算を行った正規化信号強度曲線、および平均値peakDPIに基づいて分離した平衡相の開始時刻t1から、DSI時刻mTに基づく平衡相時間帯eqPhaseの開始時刻t2までの正規化信号強度を連結した例を示している。
【0099】
(h)時間造影強度曲線推定部22は、対象血管の時間造影強度曲線の最大値を推定する。
対象血管の時間造影強度曲線の最大値Amplitudeは、もし、対象患者のt_DPIが対象血管の上限下限DPIの範囲外ならば、次式により、t_DPIの値を使用せずに推定する。
【0100】
Amplitude=t_dX(3)/mean(rX(I,8))
ここで、t_dX(i)は、対象血管の造影信号強度であり、t_dX(1)は造影前の対象血管の造影信号強度、t_dX(2)は早期相の対象血管の造影信号強度、t_dX(3)は後期相の対象血管の造影信号強度をそれぞれ示す。また、mean(A)は、ベクトルまたは行列Aの平均を求める演算である。一例として、
図36に、t_dX(3)の対象血管の造影信号強度を示す。
【0101】
また、rX(I,J)は、学習データにおける対象血管の正規化信号強度である。変数Iは、患者番号であり、Jは、撮影時刻を示す指標を表す。J=8は、90秒を示す。つまり、rX(I,8)は、患者番号Iの患者の90秒における学習データの対象血管の正規化信号強度である。一例として、
図37に、rX(I,8)の学習データにおける対象血管の正規化信号強度を示す。
【0102】
一方、対象血管の時間造影強度曲線の最大値Amplitudeは、対象患者のt_DPIが対象血管の上限下限DPIの範囲内ならば、次式により、t_DPIの値を使用して推定する。
【0103】
t_DPIが、peakDPI以下ならば、対象血管の時間造影強度曲線の最大値は、次式から推定される。
Amplitude=t_dX(2)/polyval(eDPIp,t_DPI))
ここで、eDPIpは、学習フェイズで求めた早期相の多項式係数である。なお、polyval(A,B)は、要素ベクトルAと多項式係数Bによる多項式の値を得る演算である。
【0104】
また、t_DPIが、下限のDPI以上ならば、対象血管の時間造影強度曲線の最大値は、次式から推定される。
Amplitude=t_dX(2)/polyval(dDPIp,t_DPI))
ここで、dDPIpは、学習フェイズで求めた早期相の多項式係数である。
【0105】
(i)時間造影強度曲線推定部22は、最大値の推定結果を適用する。
図35で示した全時間的な正規化信号強度曲線に、上述した(h)の処理で推定した対象血管の時間造影強度曲線の最大値Amplitudeを適用することにより、
図38に示す時間造影強度曲線が得られる。
【0106】
(j)時間造影強度曲線推定部22は、実際の後期相の観測値を用いて、平衡相帯を補正する。
図35に示す時間造影強度曲線のうち、平衡相帯を、実際の後期相の観測値を用いて補正すると、
図39に示す時間造影強度曲線が得られる。補正は以下の式により行う。
edRoi(t(9):t(10),roi)=edRoi(t(9):t(10),roi)*(t_dRoi(3,roi)/edRoi(t_T(3),roi)
図39は補正後の時間造影強度曲線を示し、
図35に示す時間造影強度曲線に対して、後期相の観測値t_dRoi(3,roi)を掛けて補正している。なお、A:Bは、任意の整数A、Bにおいて、AからBまで1刻みで増加もしくは減少するベクトルもしくは配列を作成する演算である。
【0107】
(k)時間造影強度曲線推定部22は、未計算の部分の計算(補間)を行う。
図35の時間造影強度曲線において、平均値peakDPIに基づいて分離した平衡相の開始時刻t1から、DSI時刻mTに基づく平衡相時間帯eqPhaseの開始時刻t2までの未計算の部分を線形補間すると、
図40に示す直線が得られる。また、
図41は、
図35の時間造影強度曲線に、上記未計算の部分の補間を行った後の時間造影強度曲線を示す図である。
【0108】
(l)時間造影強度曲線推定部22は、推定した対象血管の時間造影強度の最大値に達する時刻を計算する。
次に、
図41に示す線形補間後の時間造影強度曲線において、上述した(h)の処理で推定した対象血管の時間造影強度曲線の最大値Amplitudeに達する時刻を計算する。
図42に示す例では、41秒で時間造影強度曲線の最大値Amplitudeに達している。
【0109】
(m)時間造影強度曲線推定部22は、最後に、推定した時間造影強度曲線のうち、後期相と平衡相の間を平衡相の直線を使って補正する。
図43(A)は、推定した時間造影強度曲線上に、
図43(B)で示した平衡相の直線を重ねて表示した図である。もし、平衡相の直線の値が、後期相の値よりも大きければ、後期相の値を平衡相の直線の値で書き換える。その後は、必要があれば、点の間を線形補間等の補間を行う。但し、殆どの場合、必要ないと考えられる。
図44は、このようにして補正を行った後の時間造影強度曲線を示す。
【0110】
以上のように、テストフェイズでは、対象患者における3相画像の観測値から求めたDPI,DSIパラメータを用いて、時刻から正規化信号強度を得て、流入血管の時間造影強度曲線を計算する。このように、テストフェイズにおいては、DSIとDPIを3相画像の観測値から求めることができ、流入血管の時間造影強度曲線を簡単に計算可能である。
【0111】
[B:コンパートメントモデル解析法による組織の時間造影強度曲線の推定処理]
本実施形態では、以上ようにして計算した対象患者の流入血管の時間造影強度曲線を用いて、薬物動態解析モデル解析部12は、コンパートメントモデル解析法により、組織の時間造影強度曲線を推定する。コンパートメントモデル解析法を用いた肝血流動態解析の利点としては、まず一つとして、初期値とコンパートメントモデル式の係数値が決まると、時間造影強度曲線を推定できることが挙げられる。また、コンパートメントモデル式の係数値によって、肝血流動態に関して定量評価ができることが挙げられる。以下、本実施形態におけるコンパートメントモデル解析法による組織の時間造影強度曲線の推定処理について説明する。
【0112】
肝臓には、2つの代表的な流入血管として門脈と肝動脈がある。門脈は栄養、肝動脈は酸素を運ぶ機能を有している。肝実質と肝癌とでは、支配血管が異なり、肝実質では門脈血が70%で、肝動脈血は30%程度である。また、腫瘍では、肝動脈などの動脈血が支配的になる
【0113】
コンパートメントモデル解析では、注目肝組織が、門脈血と肝動脈血のどちらが支配的かを定量的に評価することができる。また、血流流出の状態も定量的に評価できる。したがって、腫瘍の鑑別に有用である。
【0114】
コンパートメントモデル解析においては、肝動脈造影強度と門脈造影強度をどうブレンドをしたら、肝臓の造影具合を再現可能かを血流流出を加味し計算する。言い換えれば、薬物動態解析モデル解析部12は、肝臓の造影具合から、動脈造影強度曲線と門脈造影強度曲線のブレンドの割合を逆算する。
【0115】
門脈血と肝動脈血のどちらが支配的かは、推定後のコンパートメントモデルの係数に現れる。以下に、肝臓部のコンパートメントモデル式を示す。なお肝動脈の造影強度は、腹部大動脈の造影強度で近似してもよい。
【0117】
上記の式における各係数の意味は以下のようになっている。
Ca(t):肝動脈の造影強度(時間t)
Cp(t):門脈の造影強度(時間t)
Cefs(t):細胞外液腔(extracellular fluid space)の造影強度(時間t)
K
1a:肝動脈から細胞外液腔への流入速度定数
K
1p:門脈から細胞外液腔への流入速度定数
k
2:細胞外液腔から静脈への流出速度定数
τ
a:肝動脈から細胞外液腔への到達時間
τ
p:門脈から細胞外液腔への到達時間
【0118】
また、以下に、脾臓のコンパートメントモデル式を示す。なお脾動脈の造影強度も、腹部大動脈の造影強度で近似してもよい。
【0119】
上記の式における各係数の意味は以下のようになっている。
Ca(t):脾動脈の造影強度(時間t)
Cefs(t):細胞外液腔の造影強度(時間t)
K
1:脾動脈から細胞外液腔への流入速度定数
k
2:細胞外液腔から静脈への流出速度定数
τ
a:脾動脈から細胞外液腔への到達時間
【0120】
対象臓器に従って、上記コンパートメントモデルを選択する。
【0121】
上記コンパートメントモデルを数値解析の1手法であるルンゲクッタ法で数値的に解析する。なお、数値解析法は上記のコンパートメントモデルのような微分方程式を解析的に解くことができればよく、ルンゲクッタ法に限らない。
【0122】
本実施形態では、初期値Cefs(0)はゼロとし、解析時間帯を0秒から210秒で数値解析を行っているが、この限りではない。
【0123】
(各係数の計算の詳細)
薬物動態解析モデル解析部12による上述したコンパートメントモデル式の係数の計算は、遺伝的アルゴリズムと非線形最適化の組み合わせにより行う。非線形最適化は、勾配を利用するため、計算(収束)時間が早いが、初期値によって局所最適解に陥ることがある。遺伝的アルゴリズムは、勾配を利用しないため、大域最適解を得ることができるが、計算(収束)に時間がかかる。そこで、本実施形態では、遺伝的アルゴリズムで当たりの良い初期値を見つけ、そこから高速な非線形最適化を適用することで、計算時間を抑えつつ大域最適解または大域最適解に近い解を求めている。
【0124】
図45にコンパートメントモデル式における係数の最適化の概略手順についてのフローチャートを示す。以下、このフローチャートに基づいて、本実施形態における係数の最適化の概略手順について説明する。
【0125】
1.薬物動態解析モデル解析部12は、サンプリング点(p点)分、コンパートメントモデル式の係数にランダムに値を割り当てる(
図45:S1)。
図46は、各係数にサンプリング点(p点)分の値をランダムに割り当てた一例を示す表である。例えば、等高線で表された山の地図を例にとると、係数の最適解は山の頂点であり、ランダムに割り当てた各係数の値は、山の頂点を目指す登山者の位置を地図上にランダムに割り当てるイメージである。
【0126】
2.薬物動態解析モデル解析部12は、それぞれの係数値でコンパートメントモデル式を数値解析で解き、時間造影強度曲線を計算する(
図45:S2)。
図47(A),(B),(C)は、
図46に示すサンプリング点0,1,p−1における各係数値で、上述した肝臓のコンパートメントモデル式を数値解析で解き、時間造影強度曲線を計算した結果を示す。
図47(A),(B),(C)において、観測値は3相の観測値であり、計算結果は、推定曲線として描かれている。なお、
図47(A),(B),(C)は、サンプリング点0,1,p−1に対する例示であり、実際は、サンプリング点0〜p−1までのp点分の計算結果が得られる。
【0127】
3.薬物動態解析モデル解析部12は、評価値(観測値との誤差)を計算する(
図45:S3)。
観測値との誤差である評価値Eは、以下の式により求められる。
【0129】
上記の式における各係数の意味は以下のようになっている。
Cefs(t):推定した細胞外液腔(extracellular fluid space)の造影強度(時間t)
Cmes(t):観測した実際の細胞外液腔(extracellular fluid space)の造影強度(時間t)
【0130】
評価値は、
図48(A),(B),(C)に示すように、各観測値と推定曲線上の対応値との距離として表される。
【0131】
4.薬物動態解析モデル解析部12は、評価値が良いものを選択する(
図45:S4)。
評価値が良いものとは、誤差値が最小のものであり、
図48(A),(B),(C)の3つ例示の中では、
図48(B)の場合に誤差値が最小であるため、サンプリング点1において割り当てた係数値を選択する。
【0132】
5.薬物動態解析モデル解析部12は、遺伝的アルゴリズムの各手法に従って、最適解候補付近に割り当てるサンプル点位置を計算する(
図45:S5)。
これは、遺伝的アルゴリズムの交叉、突然変異、世代交代モデルに相当する操作である。これらの操作は、様々な方法があり、従来から行われている方法であるため、ここでは詳細な説明は割愛する。
【0133】
上述した等高線で表された山の地図を例で説明すると、山の頂点を目指す登山者の位置を、山の頂点を含む円内に割り当てるイメージである。
【0134】
6.薬物動態解析モデル解析部12は、設定した条件 を満たすまで、上記ステップ2〜5を繰り返す(
図45:S6)。
上記ステップ2〜5を繰り返すことにより、上述した等高線で表された山の地図を例では、山の頂点を含む円の半径が徐々に狭められ、山の頂点を目指す登山者の位置が徐々に山の頂点に近づくイメージである。
【0135】
7.薬物動態解析モデル解析部12は、コンパートメントモデル式の最適係数を得る(
図45:S7)。
以上のようにして、コンパートメントモデル式の係数の大域最適解または大域最適解に近い解を求めることができる。
【0136】
画像の全画素に対して、上記解析を行い、画素位置に対応するコンパートメントモデルの最適係数を取得する。
【0137】
[C:仮想ダイナミックCT画像の表示処理]
次に、仮想ダイナミック像生成部13により、3相のCT画像から、任意の時刻における仮想ダイナミック像を作り出す処理を、ビューワ200の表示部211における表示例等と共に説明する。
【0138】
後述する出力画面において仮想ダイナミック像を表示させるには、仮想ダイナミック像の入力画面において、所定の条件を設定する必要がある。以下、この所定の条件について説明する。
【0139】
(1)コンパートメントモデル解析に使用するn相画像を選択する。
例えば、本実施形態の場合には、3相画像を選択する。
(2)n相画像において必要な部位に注目領域を設定する。
注目領域の設定は、手動または自動で行うことができる。本実施形態では、手動で設定する例について説明する。
(3)造影剤注入後直後に撮影した画像の注入後経過時刻を入力する。
撮影時刻自体はDICOMタグで取得することが可能だが、造影剤注入時刻が不明であるため、造影剤注入後直後に撮影した画像の注入後経過時刻を入力する。
(4)解析対象臓器に応じたコンパートメントモデルを選択する。
コンパートメントモデルの選択は、肝臓のコンパートメントモデル、または、肝臓のコンパートメントモデルと脾臓のコンパートメントモデル、あるいは、肝臓のコンパートメントモデルと肝臓以外の腹部臓器コンパートメントモデル等を適宜選択することができる。
(5)上述したDPI−DSI変換パラメータ組の選択を行う。
【0140】
仮想ダイナミック像の作成方法を説明する。全画素に対し、得られたコンパートメントモデルの最適係数と入力血管の造影強度曲線を用いて再度数値解析を行い、Cefs(t)を取得する処理を行う。もしくは、最適化の際にCefs(t)を予めメモリ等に保持しておいて、それを利用してもよい。再度数値解析する際に、K1pをゼロとすると、仮想的に門脈の流入を無視した時間造影強度曲線(動脈下造影CT曲線)が得られ、K1aをゼロとすると、仮想的に肝動脈の流入を無視した時間造影強度曲線(門脈下造影CT曲線)が得られる。あとは、全画素にわたり指定された任意時刻に対応するCT値を、線形補間などで求めることで、CT値画像を得ることができる。なお、求める方法線形補間に限らない。
【0141】
図49にビューワ200における入力画面201の一例を示す。入力画面201には、
図49に示すように、解析に使う画像のスタックを複数選択可能に表示させる。
図49に示す例では、6個のスタックのうち、上段の真ん中のスタックが解析に使うスタックとして選択された場合を示している。スタックを選択し、メニューから血流動態解析ボタンをクリックすると、選択されたスタックには、
図49に示すように、部位ROI指定ツール202が表示される。
【0142】
図50に選択されたスタックと部位ROI指定ツール202の拡大図を示す。部位ROI指定ツール202には、大動脈、門脈、左心房、右腎静脈、脾静脈、上腸間膜静脈、下大静脈、脾臓、および肝臓(実質)を部位ROIとして指定する部位ROI指定ボタン203が設けられている。また、部位ROI指定ツール202には、表示する画面の撮影時刻を指定する撮影時刻ボタン204が設けられている。さらに、部位ROI指定ツールに202は、使用するコンパートメントモデルを設定するラジオボックス205が設けられている。
【0143】
部位ROI指定は、部位ROI指定ボタン203のいずれか部位名のボタンをクリックした後、スタック上での部位の位置をクリックすることにより行われる。
図51には、大動脈のボタン203をクリックした後に、スタック上で当該部位の位置Aをクリックした例を示している。ROIの大きさについては、予めプリセットが作成されており、そのプリセットの大きさのROIを設置する。修正が必要であればドラッグすることにより、ROIの大きさを修正することができる。
【0144】
次に、出力画面について説明する。
図52は、出力画面220の一例を示す図である。
図52に示すように、出力画面は6分割されており、上段の3画面には、3相のCT画像が表示されている。出力画面220上には、
図53(A)に示す選択アイコン221が表示される。選択アイコン221は、VDCT,VDCTHA,VDCTAP,K1a,K1p,K2,Vd,TFの8個のアイコンに分かれている。VDCTは仮想ダイナミックCT画像、VDCTHAは門脈造影を行った仮想ダイナミックCT画像、VDCTAPは肝動脈から造影した仮想ダイナミックCT画像のそれぞれを表示する際に選択する。また、K1a,K1p,K2,Vd,TFは、それぞれのパラメータマップを表示する際に選択する。なお、パラメータのうち、Vdは分布容積(Distribution volume)であり、TFは総血流量(Total blood flow)、AFは動脈血流比(Arterial blood flow)、PFは門脈血流比(Portal venous blood flow)である。
【0145】
また、選択アイコン221は、
図53(B)に示すように、アイコンの数を増やしてもよい。
図53(B)においては、VDCTは、大動脈ピーク時刻におけるVDCT、大動脈の信号強度と門脈の信号強度の差分が最大になる時刻におけるVDCT、および門脈ピーク時刻におけるVDCTに分かれている。また、VDCTHAは、大動脈ピーク時刻におけるVDCTHA、大動脈の信号強度と門脈の信号強度の差分が最大になる時刻におけるVDCTHA、および門脈ピーク時刻におけるVDCTHAに分かれている。さらに、VDCTAPは、大動脈ピーク時刻におけるVDCTAP、大動脈の信号強度と門脈の信号強度の差分が最大になる時刻におけるVDCTAP、および門脈ピーク時刻におけるVDCTHAに分かれている。また、選択アイコン221は、パラメータマップだけでなく、表示したい仮想ダイナミック像の時刻ごとに作成して表示することもできる。
【0146】
図54は、出力画面220の表示例を示す図である。出力画面220においては、デフォルトで、代表的なタイミングでのVDCE-CT像(仮想ダイナミックCT画像)が表示される。例えば、大動脈信号強度ピークタイミングにおけるVDCE-CT像が表示される。
【0147】
また、
図54に示す例では、VDCTAPの選択アイコンが選択されており、VDCE-CT像の右隣に、VDCE-CTAP像(肝動脈から造影した仮想ダイナミックCT画像)が表示される。VDCE-CT像、VDCE-CTAP像、およびVDCE-CTHA像(門脈造影を行った仮想ダイナミックCT画像)が表示される画面には、
図54に示すように、時刻スライダー222が表示される。時刻スライダー222を移動させることにより、指定時刻でのそれぞれの画像を表示させることができる。また、ショートカットキーによってVDCE−CT像の指定時刻を変化させることができる。
【0148】
VDCE-CT像が表示され、または、VDCE-CTAP像、もしくはVDCE-CTHA像が表示されているバックグラウンドでは、時刻スライダーを移動させるもしくはショートカットキーで変化させた指定時刻でのVDCE-CT像、または、VDCE-CTAP像、もしくはVDCE-CTHA像のボリュームデータを作成する。そして、時刻スライダー222が移動されて指定時刻が変わったタイミングで、ボリュームデータは破棄され、新たな指定時刻のボリュームデータを作り直すようになっている。
【0149】
また、
図54においては、K1pのパラメータの選択アイコンが選択されており、VDCE-CTAP像の右隣には、K1pのパラメータマップが表示されている。パラメータマップはカラー(ヒートマップ)表示できるようなっている。
【0150】
VDCE-CT像、または、VDCE-CTAP像、もしくはVDCE-CTHA像を表示する場合には、仮想的に作成された画像であることが分かるようにオーバーレイを入れるようにしてもよい。
【0151】
例えば、出力画面220においては、それぞれの画面を例えばダブルクリックすることにより、
図55(A)に示すように、それぞれの画面をオーバーレイ表示してもよい。また、時刻スライダー222で時刻指定を行う場合には、各部位の時間造影強度曲線のピーク造影強度の時刻にジャンプするようにしてもよい。
図55(A)の例では、
図55(B)に示す大動脈のピーク造影強度の時刻と、
図55(C)に示す門脈のピーク造影強度の時刻にジャンプするようにしている。このように、ピーク造影強度の時刻にジャンプすることにより、ピーク造影強度の時刻での対象部位の造影剤染まり具合の診断に有用である。また、2つの入力血管の差分値が最大となる時刻にジャンプすることもまた、診断に有用である。また、ショートカットキー等を用いて、指定された範囲の時刻をループするアニメーションとして描画してもよい。なお、ここでは、大動脈のピーク造影強度の時刻を例示したが、これに限ることなく、例えば、肝動脈のピーク造影強度の時刻にジャンプすることもできる。
【0152】
仮想ダイナミック像生成部13は、生成したVDCE−CT,VDCE−CTHA,VDCE−CTAP像の多断面再構成像(MPR、Multi-planar Reconstruction)を作成してもよい。また、仮想ダイナミック像生成部13は、生成したVDCE−CT,VDCE−CTHA,VDCE−CTAP像の曲面のMPR像であるCPR(Curved Planar Reconstruction)を作成してもよい。さらに、また、仮想ダイナミック像生成部13は、生成したVDCE−CT,VDCE−CTHA,VDCE−CTAP像の最大値投影像(MIP、Maximum Intensity Projection)、最小値投影像(MINIP、Minimum Intensity Projection)、または、平均値投影像を作成してもよい。さらに、仮想ダイナミック像生成部13は、生成したVDCE−CT,VDCE−CTHA,VDCE−CTAP像のボリュームレンダリング像を作成してもよい。以上のような多断面再構成像、CPR、最大値投影像、最小値投影像、平均値投影像、またはボリュームレンダリング像において、時刻スライダー222により任意の時刻を指定して、任意の時刻の各画像を表示することにより、様々な視点からの診断に寄与できる。
【0153】
また、ビューワ200においては、プロファイルやヒストグラムなどの表示部211に表示された画像の画像特徴量を計測する計測部を備えてもよい。このような計測部を備えることで、より詳細な解析が可能である。
【0154】
以上のように、本実施形態によれば、日常の検査で使用されるダイナミックCT検査から得られる3相画像(造影前、早期相、後期相)から対象患者の造影血流動態(大動脈と門脈の時間造影強度曲線を高精度に推定することができる。
【0155】
また、本実施形態によれば、造影血流の流路となる主要血管を臨床的な事前知識と、複数患者の血流動態データから得られた血流動態パラメータを使用するため、血管の高精度な造影血流動態から全画素に存在する組織の血流動態および時間造影強度曲線を高精度に推定し、任意の時刻の仮想的なダイナミックCT像を提示することができる。本実施形態では、入力血管の時間造影強度曲線の精度が高いため、組織各点の時間造影強度曲線の精度も高くなる。
【0156】
さらに、本実施形態は、血流動態の臨床的な事前知識と、複数患者から構築した血流動態パラメータを利用することで、患者固有の血流動態を高精度に推定することができる。それだけでなく、全画素に存在する組織の血流動態及び時間造影強度曲線を推定に使用する組織の血流変化モデルは、肝臓の大動脈と門脈の2つの血管の流入を考慮したモデルであるため、仮想的な肝動脈造影下のCT像(CTHA)や門脈造影下のCT像(CTAP)を計算し、提示することが可能である。
【0157】
本実施形態では、仮想ダイナミックCT像として表示することで、最適タイミングと予想される時刻の仮想的な画像を確認することができ、再検査による患者の被爆量増加を防ぐことができる。
【0158】
(変形例)
上述した実施形態においては、3相撮影されたCT画像について本発明を適用した態様について説明したが、本発明はこのような態様に限定される訳ではない。例えば、MRI、核医学検査を含めた医用画像にも拡張可能である。
【0159】
また、上述した実施形態においては、3相撮影されたCT画像について本発明を適用した態様について説明したが、本発明はこのような態様に限定される訳ではない。3相撮影に限らず、4相以上で撮影された医用画像についても適用可能である。なお、利用する造影時相の数は,最低造影後2時相があれば本発明は実行可能であるが,余剰の時相についてもフィッティングの補正に利用することができる。
【0160】
上述した実施形態においては、遺伝的アルゴリズム及び非線形最適化を用いて対象患者の所定の組織の薬物動態解析モデルの係数の最適な係数を算出する態様について説明したが、遺伝的アルゴリズムは、進化的戦略アルゴリズム等の最適化に代替可能であり、本発明はこのような態様に限定される訳ではない。線形および非線形的最適化を用いて対象患者の所定の組織の薬物動態解析モデルの係数の最適な係数を算出することもできる。
【0161】
上述した実施形態においては、薬物動態解析モデルの一例として、コンパーメントモデルを用いた態様について説明したが、本発明はこのような態様に限定される訳ではない。例えば、コンパーメントモデル以外にも、Maximum Slope法などの方法を用いることができる。
【0162】
上述した実施形態においては、細胞外液性造影剤を用いた態様について説明したが、本発明はこのような態様に限定される訳ではない。本発明は、例えば、組織特異性造影剤や血液プール造影剤など,他の種類の造影剤を用いた薬物動態解析にも応用可能である。
【0163】
上述した実施形態では、肝血流の動態解析に本発明を適用した例について説明したが、解析対象は肝臓に限らず、肝臓・脾臓・膵臓・腎臓・副腎・膀胱・前立腺・子宮・卵巣・精巣・消化菅・筋肉・リンパ節などの腹部臓器に適用可能である。また、本発明は、腹部臓器のみならず,腹部脈管が撮像範囲に含まれていれば、甲状腺・肺・心臓・脳といった全身の臓器に応用可能である。
【0164】
本発明においては、上述したように、全画素でCefs(t)のベクトルや配列がメモリに保持されている状態であるので、薬物動態解析手法を問わず、指定された任意時刻に対応する値を、線形補間等の補間処理で取得することで、CT値マップ画像を生成することができる。
【0165】
上述したように、DSIは、循環速度を表す指標である。実際に心不全を評価する基準としては、「循環時間の遅延」という臨床所見があるため、循環時間と比例関係のある循環速度の低下は、心不全の診断として有用な指標になる。これを上述したビューアーで表示すると、心不全の診断に寄与することができる。また、上述したように、DPIは、DSIと密接な関係があるため、DPIとDSIとを併記して表示することで、診断精度向上につながる。
【0166】
上述した実施形態においては、肝血流動態解析装置100とビューワ200とを別体で構成し、ビューワ200に表示部211を設けた態様について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定される訳ではなく、肝血流動態解析装置100とビューワ200とを一体に構成し、肝血流動態解析装置100に表示部を設けるようにしてもよい。
【0167】
上述した実施形態においては、肝血流動態解析装置100の記憶部40を複数患者血管信号値データベース41の記憶部とした態様について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定される訳ではなく、複数患者血管信号値データベース41をクラウド上のストレージあるいはサーバに記憶させるようにしてもよい。
【0168】
上述した解析モデルにおいて、脾臓モデルの際には入力血管として考えられる脾動脈が、肝臓モデルの際には入力血管として考えられる肝動脈と門脈が、それぞれ時間造影強度曲線の補正の対象血管であったが、入力血管の組み合わせはこれに限定されるものではない。例えば、肺モデルにおいては、入力血管として肺動脈と気管支動脈が考えられるが、腹部脈管が撮像範囲に含まれていれば、本発明を用いて肺動脈や気管支動脈の時間造影強度曲線の補正ができ、仮想ダイナミック像の生成が可能である。したがって、ピーク造影強度の時刻にジャンプする表示の対象血管も脾動脈や肝動脈、門脈に限定されるものではなく、時間造影強度曲線が補正された血管にも適用可能である。したがって、差分値を計算する入力血管の組合せも肝動脈と門脈だけに限定されない。
【0169】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【解決手段】複数患者の医用画像に基づき造影血流動態の臨床的な事前知識から導き出された造影血流の流路の血管及び臓器の位置に関心領域を設定し、関心領域の画素値を測定し保存したデータベース41であって、所定の血管の基準正規化信号強度曲線と、基準正規化信号強度曲線と所定の血管との関係に関するパラメータとを保存するデータベース41と、少なくとも3相撮影された対象患者の医用画像に基づいて、関心領域の画素値を測定する血管信号値測定部21と、基準正規化信号強度曲線と、基準正規化信号強度曲線と血管との関係に関するパラメータと、血管信号値とから、所定の血管の造影剤の到達距離の指標と循環速度の指標を計算し、所定の血管の時間造影強度曲線を推定する時間造影強度曲線推定部22とを備える。