(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの方法では、近年用いられる大型重合缶等、様々なタイプの重合缶に充分対応できていない。すなわち、分散力が乏しく可塑剤吸収性の低い粗大なビニル系樹脂粒子となったり、分散力が強く微細なビニル系樹脂粒子になりすぎてかさ比重が小さすぎたり、微細なビニル系樹脂粒子ではあるが可塑剤吸収性が低い等の問題があり、安定して満足したビニル系樹脂粒子を得るのには不十分であった。また、特許文献4に記載の教示に従い、連鎖移動剤の存在下でビニルエステルを塊状重合又は溶液重合しても重合反応が迅速に進まないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、塩化ビニルのようなビニル系化合物を懸濁重合するに際して、微細で粒度の均一性が高く、可塑剤吸収性が高く、かさ比重が適正な樹脂粒子を得るのに適した分散安定剤として好適な変性ビニルアルコール系重合体を高効率で生産可能とする製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ハロゲン化メタンの存在下、ビニルエステル系モノマーを懸濁重合し、得られたビニルエステル系重合体をケン化することで得られた変性ビニルアルコール系重合体を懸濁重合用分散安定剤として使用することが課題解決に有効であることを見出し、本発明に至った。特許文献4には懸濁重合とハロゲン化メタンを組み合わせて変性ビニルアルコール系重合体を製造することやその利点は具体的に開示されていないし、特許文献4の教示からは、当該組み合わせによって、ビニルエステル系モノマーの重合反応速度が顕著に上昇するといった有利な効果が得られることは予測できない。
【0010】
本発明は上記知見を基礎として完成したものであり、以下のように例示される。
【0011】
本発明は一側面において、
(1)一般式(I)〜(III)で示されるハロゲン化メタンの一種又は二種以上の存在下、ビニルエステル系単量体を水性媒体中で懸濁重合させてビニルエステル系重合体を得る工程と、
H
2CX
2 ・・・(I)
(式中、二つのXはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択されるハロゲン原子である。)
HCX
3 ・・・(II)
(式中、三つのXはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択されるハロゲン原子である。)
CX
4 ・・・(III)
(式中、四つのXはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択されるハロゲン原子である。)
(2)工程(1)で得られたビニルエステル系重合体をアルコール系媒体中に溶解する工程と、
(3)工程(2)で得られたビニルエステル系重合体のアルコール系媒体溶液にアルカリを加えてケン化反応させる工程と、
を含む末端にホルミル基を有する変性ビニルアルコール系重合体の製造方法である。
【0012】
本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体の製造方法の一実施形態においては、ハロゲン化メタンとして、トリブロモメタンを使用する。
【0013】
本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体の製造方法の別の一実施形態においては、工程(3)におけるケン化度を65〜90モル%に調整する。
【0014】
本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体の製造方法の更に別の一実施形態においては、変性ビニルアルコール系重合体のホルミル基含有率が0.01〜0.30モル%である。
【0015】
本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体の製造方法の更に別の一実施形態においては、変性ビニルアルコール系重合体の重合度が300〜4,000である。
【0016】
本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体の製造方法の更に別の一実施形態においては、工程(1)におけるハロゲン化メタンの合計添加量は、ビニルエステル単量体100質量部に対して、0.1〜10質量部である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、微細で粒度の均一性が高く、可塑剤吸収性が高く、かさ比重が適正な樹脂粒子を得ることが可能な懸濁重合用分散安定剤として好適な変性ビニルアルコール系重合体を収率よく、簡便に製造することのできる製造方法が提供される。よって、本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体の製造方法は工業的に極めて有利なものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。
本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体の製造方法は一実施形態において、
(1)一般式(I)〜(III)で示されるハロゲン化メタンの一種又は二種以上の存在下、ビニルエステル系単量体を水性媒体中で懸濁重合させてビニルエステル系重合体を得る工程と、
H
2CX
2 ・・・(I)
(式中、二つのXはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択されるハロゲン原子である。)
HCX
3 ・・・(II)
(式中、三つのXはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択されるハロゲン原子である。)
CX
4 ・・・(III)
(式中、四つのXはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択されるハロゲン原子である。)
(2)工程(1)で得られたビニルエステル系重合体をアルコール系溶媒中に溶解する工程と、
(3)工程(2)で得られたビニルエステル系重合体のアルコール系媒体溶液にアルカリを加えてケン化反応させる工程と、
を含む末端にホルミル基を有する変性ビニルアルコール系重合体の製造方法である。
【0019】
(1.工程(1))
本発明において、ビニルエステル系単量体の懸濁重合を行う工程(1)で使用するハロゲン化メタンとしては、ハロゲン2つが結合したジクロロメタン、ジブロモメタン、ヨウ化メチレン、ハロゲン3つが結合したトリクロロメタン、トリブロモメタン、ヨードホルム、ハロゲン4つが結合した四塩化炭素、四臭化炭素が挙げられ、これらを単独若しくは混合して使用することができる。これらのハロゲン化メタンは、懸濁重合の際に連鎖移動剤として働き、ビニルエステル系重合体の重合度を制御するとともに、重合体末端に結合する。
ハロゲン化メタンにより誘導された重合体末端は、ケン化反応の際に加水分解され、ホルミル基が誘導される。したがって、本発明に係る製造方法により得られた変性ビニルアルコール系重合体は末端にホルミル基を有することができる。当該変性ビニルアルコール系重合体は、塩化ビニルのようなビニル系化合物を懸濁重合する際に、このホルミル基を起点として重合体末端に二重結合が生成することで、懸濁重合用分散安定剤として優れた性能を付与するものと考えられる。
【0020】
微細化で粒度の均一性が高く、可塑剤吸収性が高く、かさ比重が適正な樹脂粒子を得るのに適した変性ビニルアルコール系重合体(分散安定剤)が高い生産効率で得られるという観点から、一般式(II)で表せるハロゲンが3つ結合したトリハロメタンの使用が好ましく、トリブロモメタンの使用が特に好ましい。
【0021】
ハロゲン化メタンの添加量は、目的とする変性ビニルアルコール系重合体の重合度との関係で調整する。ハロゲン化メタンの添加量が多ければ重合体の重合度が下がり、少なければ重合体の重合度が上がる。変性ビニルアルコール系重合体の重合度としては、好ましくは300〜4,000の範囲であり、より好ましくは400〜2,000の範囲、更に好ましくは500〜1,000の範囲である。変性ビニルアルコール系重合体の重合度が低過ぎた場合、懸濁重合用分散安定剤としての性能が低下してポリマー粒子の粗大化や粒度の不均一化を招いて安定性に乏しくなる一方で、変性ビニルアルコール系重合体の重合度が高過ぎた場合は粘度が高くなることで取り扱いが困難となる。このような範囲の重合度を得るのに好適なハロゲン化メタンの合計添加量は、ハロゲン化メタンの種類にもよるが、ビニルエステル単量体100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜9.5質量部の範囲がより好ましく、0.2〜9.0質量部の範囲が更により好ましい。
【0022】
本発明における重合度は、JIS K6726:1994に準拠する方法にて、粘度平均重合度として測定される。すなわち、変性ビニルアルコール系重合体を完全にケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から求める。
【0023】
本発明において、ビニルエステル単量体としては、特に限定されるものではないが、酢酸ビニルの他、蟻酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等が使用可能である。入手及び取り扱いの容易さからは、酢酸ビニルの使用が好ましい。
【0024】
本発明においては、本発明の趣旨を損なわない範囲で、ビニルエステル単量体と共重合可能な単量体、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸或いはこれら不飽和モノカルボン酸のアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸或いはこれら不飽和ジカルボン酸のアルキルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのニトリル又はアミド、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのオレフィンスルホン酸或いはこれらの塩、飽和分岐脂肪酸ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、α−オレフィン、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン等を共重合させることも可能である。かかる単量体の混合割合はビニルエステル単量体の合計モル数に対して10モル%以下、好ましくは5モル%以下が適当である。
【0025】
本発明におけるビニルエステル系単量体の重合方法は、水性媒体中での懸濁重合によるものであり、他の重合方法では何らかの不具合が伴う。例えば、溶液重合の場合、溶媒そのものが連鎖移動剤として働くため、ハロゲン化メタンの連鎖移動剤としての働きが一部阻害されてしまう。塊状重合では、モノマーの転化率の上昇とともに粘度が上昇することで撹拌不良や重合阻害等の不具合が生じ、実用上問題となる。また、溶液重合及び塊状重合の何れにおいても重合反応が進みにくく、生産効率が劣る。
【0026】
懸濁重合の際に使用する水性媒体としては、イオン交換等により十分に精製した水を用いることが好ましいが、事前に使用に問題が無いことを確認出来れば、工業用水等でも使用することは可能である。
また、水性媒体中には、pHを調整するための緩衝剤や、泡立ちを抑えるための消泡剤等を加えることも可能である。
【0027】
ビニルエステル系単量体を懸濁重合するに際しては、一般的に分散安定剤が使用される。この際の分散安定剤としては、特に制限するものではなく、一般的な懸濁重合用の分散安定剤であるポリビニルアルコール類、メチルセルロース類、ポリビニルピロリドン類等が使用可能であるが、本発明で製造する変性ビニルアルコール系重合体との構造の類似点等の観点からは、ポリビニルアルコール類を使用することが好ましく、かつ推奨される。
【0028】
ビニルエステル単量体を懸濁重合する際の重合開始剤は、特に限定するものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリルなどのアゾ化合物、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどの過酸化物、ジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物、t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネートなどのパーエステル化合物などを単独又は組み合わせて使用することができる。また、重合反応温度は、特に限定するものではないが、通常30〜90℃程度の範囲で設定することができる。
【0029】
重合開始剤の使用量は適宜調整すればよいが、本発明は、重合反応を効率的に行える為、高効率生産およびコストダウンに寄与する。すなわち、同一条件で同一添加量の重合開始剤を入れて重合した際、重合速度を速くできる。例えば、後述する実施例1で示したように、酢酸ビニル100部に対してアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.03部添加し、反応温度が約60℃であった場合、懸濁重合では反応時間6時間で重合率90%に達するのに対し、溶液・バルク重合(比較例1、比較例6)では重合が遅延する。
【0030】
懸濁重合に際しての、ビニルエステル系単量体のビニルエステル系重合体への重合率は、特に制限するものではないが、生産性の観点からは50%以上とすることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。本発明において重合率はポリマー濃度測定法で測定される値を指す。つまり、重合中に重合液をサンプリングしてその重量を測り、モノマー及び溶媒を留去して得られるポリマーの重量を元に重合液のポリマー濃度を算出して、モノマーに対するポリマー量を求めて重合率を算出する。
【0031】
(2.工程(2))
本発明の懸濁重合で得られたビニルエステル系重合体は、次の工程でアルコール系媒体中に溶解させる。この際、ビニルエステル系重合体は、ウェット状態でも使用可能ではあるが、ケン化工程でのケン化度の制御の容易さ、及びアルカリ使用量の低減を考えると乾燥状態としてから使用することが好ましい。
使用するアルコール系媒体としては、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられるが、メタノールの使用が好ましい。アルコール系媒体中の重合体の濃度は、20〜70質量%の範囲が好ましい。
【0032】
(3.工程(3))
本発明は、ビニルエステル系重合体を溶解したアルコール系媒体中にアルカリを加えることで、ケン化反応を行う。アルカリは触媒として作用することができる。
ケン化反応に用いるアルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができる。
これらアルカリの使用量はビニルエステル系単量体に対して1〜100ミリモル当量にすることが必要である。ケン化反応温度には、特に制限はないが、通常10〜70℃の範囲であり、好ましくは30〜50℃の範囲から選ぶのが望ましい。反応は通常1〜3時間にわたって行われる。
【0033】
ビニルエステル系重合体の一般的なケン化反応では、酸触媒も使用可能であるが、本発明においては、酸触媒を使用した場合、末端構造のホルミル基への誘導が不十分となるため好ましくない。
【0034】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体のケン化度は、特に規定するものではなく、一般的なポリビニルアルコール同様、65モル%以上の任意の値に調節できるものである。
しかし、本発明のビニルアルコール系重合体をビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤として使用する場合には、ケン化度は65〜90モル%の範囲であることが好ましく、より好ましくは70〜85モル%の範囲に調節する。
【0035】
変性ビニルアルコール系重合体のケン化度は、JIS K6726:1994に準拠して測定される。すなわち、水酸化ナトリウムで試料中の残存酢酸基(モル%)を定量し、100から差し引くことで求めることができる。
【0036】
本発明に係る製造方法により得られた変性ビニルアルコール系重合体は一実施形態において、ホルミル末端(−COH)を有することができる。変性ビニルアルコール系重合体のホルミル基含有率は、ホルミル末端に起因する不飽和二重結合起点を増加させて、適度な粒子径を有するビニル系樹脂を得るという観点から、0.01モル%以上であることが好ましく、0.02モル%以上であることがより好ましく、0.03モル%以上であることが更により好ましい。また、分散剤としたときのビニル系樹脂の着色を抑制するという観点、安定性を向上させて水溶液としたときの粘度上昇やゲル化を防止するという観点から、0.30モル%以下であることが好ましく、0.28モル%以下であることがより好ましく、0.26モル%以下であることが更により好ましい。
【0037】
本発明において、変性ビニルアルコール系重合体中のホルミル末端の含有率は、以下の手順で求めることとする。変性ビニルアルコール系重合体を重水に溶解し、80℃で
1H−NMRスペクトル(積算回数を7000回)を得る。PVAの主鎖のメチレン基(1.2〜2.0ppm)のピークの積分値を基準として9.2〜9.8ppmに帰属されるホルミル基のピークの積分値から、各末端の含有量を算出する。具体的には、変性PVAの主鎖のメチレン基の積分値をbとし、ホルミル末端の積分値をaとすると、ホルミル末端の含有率(%)はa/(b/2)×100と計算される。
【0038】
本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体は、生成するビニル系粒子の微細化を促進させ、また、生成するビニル系粒子の多孔性を増大しやすいという観点から、変性ビニルアルコール系重合体の二重結合量に比例する0.2質量%水溶液の波長325nmにおける吸光度が0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましい。本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体は、二重結合量が増え、変性ビニルアルコール系重合体の安定性が低下する観点から、0.2質量%水溶液の波長325nmにおける吸光度が2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明においては、変性ビニルアルコール系重合体の0.2質量%水溶液の波長325nmにおける吸光度は以下のようにして測定する。測定対象の変性PVAを水に溶解して25℃の0.2質量%水溶液を調製する。次に、当該水溶液をセル(光路長さ10mm)に入れ、波長325nmにおける吸光度を測定する。なお、実施例においては、島津製作 所社製の吸光光度計「UV−1800」を用いて吸光度測定を行った。
【0040】
(4.懸濁重合用安定剤)
本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体は懸濁重合用分散安定剤として好適に使用可能である。懸濁重合用分散安定剤には、本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体以外のPVAや、その他の各種添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、例えば、pH調整剤、架橋剤、防腐剤、防黴剤、ブロッキング防止剤、消泡剤等が挙げられる。本発明の効果を有意に発揮するという観点から、懸濁重合用分散安定剤は本発明に係る変性ビニルアルコール系重合体を10質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、70質量%以上含有することが更により好ましい。
【0041】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、特にビニル系化合物の懸濁重合に好適に用いることができる。ビニル系化合物の単量体としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステルおよび塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステルおよび無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、本発明の懸濁重合用分散安定剤は、特に好適には塩化ビニルを単独で、または塩化ビニルを塩化ビニルと共重合することが可能な単量体と共に懸濁重合する際に用いられる。塩化ビニルと共重合することができる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0042】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は可塑剤吸収性の優れた塩化ビニル粒子を製造する点では軟質用塩化ビニルの製造に適しているが、粒度分布等に優れている点から硬質用塩化ビニルの製造にも適用できる。また、可塑剤吸収性の優れた塩化ビニル粒子を製造できるということは、得られる塩化ビニル粒子の空隙が多いことを意味するため、本発明の懸濁重合用分散安定剤は脱モノマー性にも優れていることや、得られた塩化ビニル粒子にフィッシュアイが少ないことも期待できる。
【0043】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、単独でもまた他の安定剤、例えばセルロース系誘導体、界面活性剤等と併用することができる。
【0044】
本発明の懸濁重合用分散安定剤を使用することにより、高温水仕込重合法により懸濁重合を行っても樹脂粒子が多孔性であり、粒径分布が均一な塩化ビニル樹脂が得られる。以下、ビニル系化合物の重合法について例を挙げ具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0045】
塩化ビニル樹脂粒子等の樹脂粒子を製造する場合には、ビニル系化合物単量体に対し、上述の懸濁重合用分散安定剤を0.01質量%〜0.3質量%、好ましくは0.04質量%〜0.15質量%添加することができる。また、ビニル系化合物と水の比は質量比でビニル系化合物:水=1:0.9〜1:3とすることができ、好ましくは1:1〜1:1.5である。
【0046】
重合開始剤は、ビニル系化合物の重合に従来使用されているものでよく、これにはジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート等のパーエステル化合物、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物、アゾビス−2,4−ジメチルパレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物、更には過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を単独又は組み合わせて使用することができる。
【0047】
更に、ビニル系化合物の重合に適宜使用される重合調整剤、連鎖移動剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤、PH調整剤等を添加することも任意である。
【0048】
ビニル系化合物の重合を実施するに当たっての各成分の仕込み割合、重合温度等はビニル系化合物の懸濁重合で従来採用されている条件に準じて定めればよく、特に限定する理由は存在しない。
【0049】
本発明の懸濁重合用分散安定剤を用いることにより、微細で粒度の均一性が高く、可塑剤吸収性が高く、かさ比重が適正な樹脂粒子を得ることが可能となる。
【0050】
本発明の懸濁重合用分散安定剤により製造される樹脂粒子の粒度はJIS Z8815:1994に従い、篩を用いた粒度分布測定において、累積頻度50%の粒子径(D50)である平均粒径から評価することが出来る。
平均粒径は粗大粒子生成による加工性低下や規格外品の生成を抑える為、140μm以下が好ましく、130μm以下が更に好ましい。
【0051】
本発明の懸濁重合用分散安定剤により製造される樹脂粒子の粒度の均一性は、JIS Z8815:1994に従い、篩を用いた粒度分布測定において、累積頻度80%の粒子径(D80)と累積頻度20%の粒子径(D20)の差より評価することができる。
累積頻度80%の粒子径(D80)と累積頻度20%の粒子径(D20)の差は、粗大粒子生成による加工性低下や規格外品の生成を抑える為、62μm以下が好ましく、60μm以下が更に好ましい。
【0052】
本発明の懸濁重合用分散安定剤により製造される樹脂粒子の可塑剤吸収量は、加工性向上の点で28phr以上であることが好ましく、30phr以上であることが更に好ましい。
【0053】
本発明の懸濁重合用分散安定剤により製造される樹脂粒子のかさ比重は、加工時の生産性向上の点で0.35〜0.60であることが好ましく、0.38〜0.55の範囲であることが更に好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。尚、以下特に断りがない限り、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0055】
(実施例1)
〈変性ビニルアルコール系重合体の作製〉
酢酸ビニル100部と、水120部と、分散剤のポリビニルアルコール(デンカポバールW−20N)0.087部と、変性種であるトリブロモメタン1.0部と、0.03部のアゾビスイソブチロニトリル(粉末として)とを、重合缶に仕込み、窒素雰囲気下、60℃で懸濁重合を行った。重合率が90%に達した時点(反応開始から6時間)で重合を停止し、常法に従い未反応の酢酸ビニルを除去した。
得られた重合体をメタノールに溶解し、メタノール中の重合体の濃度が50%のメタノール溶液を得た。これを水酸化ナトリウムにて40℃でケン化した。水酸化ナトリウムの使用量は得られた重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して23ミリモル当量とした。ケン化度が72mol%程度になる様に酢酸にてケン化反応を停止し、ろ過、乾燥することで粒状の変性ビニルアルコール系重合体を得た。変性ビニルアルコール系重合体の特性を表1に示す。
【0056】
〈塩化ビニルの懸濁重合〉
攪拌器を備えた容量30Lのステンレス製オートクレーブ中に攪拌下30℃の水12kg、上記で得た変性ビニルアルコール系重合体9.5g、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカノエートを4.6g、α−クミルパーオキシネオデカノエートを1g仕込んだ。オートクレーブを真空で脱気した後、塩化ビニル単量体を5kg加え、57℃で4時間重合した。
【0057】
〈塩化ビニル樹脂の評価〉
得られた塩化ビニル樹脂の平均粒径、粒度分布、可塑剤吸収量、及びかさ比重について以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0058】
平均粒径の測定はJIS Z8815:1994に準拠して、60メッシュ(目開き250μm)、80メッシュ(目開き180μm)、100メッシュ(目開き150μm)、150メッシュ(目開き106μm)、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて、累積頻度50%の粒子径(D50)を平均粒径、累積頻度80%の粒子径(D80)と累積頻度20%の粒子径(D20)の差を粒度分布とした。
【0059】
かさ比重は、JIS K6720−2:1999に準拠して測定した。
【0060】
可塑剤吸収量は以下の手順で測定した。内径25mm、深さ85mmのアルミニウム合金製容器の底にグラスファイバーを詰め、塩化ビニル樹脂10gを投入した。これに可塑剤(ジオクチルフタレート、以下DOPとする)15mlを加え、30分放置してDOPを塩化ビニル樹脂に充分浸透させた。その後1500Gの加速度下に過剰のDOPを遠心分離し、塩化ビニル樹脂10gに吸収されたDOPの質量を測定して、塩化ビニル樹脂100質量部当たりのDOP質量部(phr)に換算した。
【0061】
(実施例2〜6)
ハロゲン化メタン(変性種)の種類およびその酢酸ビニル100部に対する添加量を表1に記載の条件に変えた以外は実施例1と同様にして、変性ビニルアルコール系重合体を得た。次いで、得られた変性ビニルアルコール系重合体を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。変性ビニルアルコール系重合体及び塩化ビニル樹脂の特性(ホルミル基含有率、重合度、ケン化度、UV吸光度)を表1に示す。
【0062】
(比較例1)
酢酸ビニル100部と、変性種であるトリブロモメタン1.0部と、0.03部のアゾビスイソブチロニトリル(1%メタノール溶液として)とを、重合缶に仕込み、窒素雰囲気下、60℃で重合を行った。6時間まで重合を行ったが、重合率が10%未満であったため、反応を中断した。
【0063】
(比較例2〜3)
変性種およびその酢酸ビニル100部に対する添加量を表1に記載の条件に変えた以外は実施例1と同様にして、変性ビニルアルコール系重合体を得た。次いで、得られた変性ビニルアルコール系重合体を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。変性ビニルアルコール系重合体及び塩化ビニル樹脂の特性を表1に示す。
【0064】
(比較例4)
酢酸ビニル100部と、変性種であるアセトアルデヒド1.2部と、0.03部のアゾビスイソブチロニトリル(1%メタノール溶液として)とを、重合缶に仕込み、窒素雰囲気下、60℃で重合を行った。重合率が90%に達した時点で重合を停止し、常法に従い未反応の酢酸ビニルを除去した。
得られた重合体をメタノールに溶解し、メタノール中の重合体の濃度が50%のメタノール溶液を得た。これを水酸化ナトリウムにて40℃でケン化した。水酸化ナトリウムの使用量は得られた重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して11ミリモル当量とした。ケン化度が72mol%程度になる様に酢酸にてケン化反応を停止し、ろ過、乾燥することで変性ビニルアルコール系重合体を得た。
次いで、得られた変性ビニルアルコール系重合体を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。変性ビニルアルコール系重合体及び塩化ビニル樹脂の特性を表1に示す。
【0065】
(比較例5)
酢酸ビニル100部と、メタノール10部と、変性種であるアセトアルデヒド2.2部と、0.03部のアゾビスイソブチロニトリル(1%メタノール溶液として)とを、重合缶に仕込み、窒素雰囲気下、60℃で重合を行った。重合率が50%に達した時点で重合を停止し、常法に従い未反応の酢酸ビニルを除去した。
得られた重合体をメタノールに溶解し、メタノール中の重合体の濃度が50%のメタノール溶液を得た。これを水酸化ナトリウムにて40℃でケン化した。水酸化ナトリウムの使用量は得られた重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して10ミリモル当量とした。ケン化度が72mol%程度になる様に酢酸にてケン化反応を停止し、ろ過、乾燥することで変性ビニルアルコール系重合体を得た。
次いで、得られた変性ビニルアルコール系重合体を使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。変性ビニルアルコール系重合体及び塩化ビニル樹脂の特性を表1に示す。
【0066】
(比較例6)
酢酸ビニル100部と、メタノール37部と、変性種であるトリブロモメタン0.4部と、0.03部のアゾビスイソブチロニトリル(1%メタノール溶液として)とを、重合缶に仕込み、窒素雰囲気下、60℃で重合を行った。8時間まで重合を行ったが、重合率が10%未満であったため、反応を中断した。
【0067】
<考察>
比較例1及び6では変性種としてトリブロモメタンを使用したが、重合方法が不適切であったために重合率が上がらなかった。比較例2〜5に比べて実施例1〜6は、得られた塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径が小さく、粒径分布も狭い結果であった。特に、変性種としてトリブロモメタンを使用した実施例1〜3では、得られた塩化ビニル樹脂粒子の平均粒径が最も小さく、粒径分布も最も狭い結果となった。
【0068】
【表1】
塩化ビニルのようなビニル系化合物を懸濁重合するに際して、微細で粒度の均一性が高く、可塑剤吸収性が高く、かさ比重が適正な樹脂粒子を得るのに適した分散安定剤として好適な変性ビニルアルコール系重合体を高効率で生産可能とする製造方法を提供する。(1)一般式(I)〜(III)で示されるハロゲン化メタンの一種又は二種以上の存在下、ビニルエステル系単量体を水性媒体中で懸濁重合させてビニルエステル系重合体を得る工程と、