【文献】
Angewandte Chemie. International Edition, 1999, Vol.38, No.16, pp.2393-2395
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の波長の光の照射によって光応答性核酸を、一本鎖である第1の核酸と、一本鎖であり且つ前記第1の核酸と相補的な配列を有する第2の核酸とから構成される二重鎖核酸の前記第1の核酸に会合可能な形態にする工程と、
光応答性核酸を前記第1の核酸に相補的に会合させることにより、前記第1の核酸から前記第2の核酸を解離させる工程と、
解離した第2の核酸に第1プライマーを相補的に会合させる工程と、
DNA合成酵素によって第1プライマーを起点として相補鎖を伸長させる工程と、
前記第1の波長とは異なる波長の第2の波長の光の照射によって光応答性核酸を前記第1の核酸に会合できない形態にする工程と、
光応答性核酸と前記第1の核酸との会合を解離させる工程と、
解離した第1の核酸に第2プライマーを相補的に会合させる工程と、
DNA合成酵素によって第2プライマーを起点として相補鎖を伸長させる工程と
を含み、
実質的に等温条件下且つ鎖交換反応促進物質の存在下で、前記全ての工程を繰り返すことにより二重鎖核酸の増幅を行う、核酸増幅方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の核酸増幅方法(以下、単に「方法」ともいう)では、光応答性核酸を用いることで、PCR法で行われるような温度サイクルを経ずに光照射によって二重鎖核酸の増幅反応の進行を制御することができる。すなわち、本実施形態の方法では、鋳型核酸と相補鎖とからなる二重鎖核酸を変性して解離させるための加熱工程と、プライマーを鋳型核酸に相補的に会合させるための冷却工程とを必要としない。よって、実質的に一定の温度で反応系をインキュベートすればよい。
【0011】
なお、反応系とは、核酸増幅反応に必要な因子が存在し、その核酸増幅反応が起こる限定された場または空間を意味する。本実施形態においては、反応系として、例えば、二重鎖核酸、光応答性核酸、プライマー、DNA合成酵素およびDNA合成酵素の基質であるdNTP混合物(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPの4種の混合物)を含む、光の透過が可能な容器に収められた反応液やエマルションのような微小液滴が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
本明細書において、「二重鎖核酸」とは、一本鎖核酸である第1の核酸と、該第1の核酸と会合可能な程度に相補的な一本鎖核酸である第2の核酸とが、水素結合により会合した状態の核酸をいう。また、ステム・ループ構造を形成している核酸も「二重鎖核酸」に含まれる。この場合、二重鎖状態となっている「ステム」部分における一方の鎖を第1の核酸とし、他方の鎖を第2の核酸とする。
【0013】
本明細書において、「相補的に会合する」との表現は、あるポリヌクレオチドの全部または一部の領域が、ストリンジェントな条件下で、別のポリヌクレオチドの全部または一部の領域と水素結合を介して結合することをいう。本明細書においては、「相補的な会合」と「ハイブリダイゼーション」とは、2つのポリヌクレオチドが水素結合を介して二重鎖を形成する点で同義である。なお、「ストリンジェントな条件」は、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行う際に当業者が一般的に用いる条件であればよく、例えば、2つのポリヌクレオチドの間に少なくとも90%以上、好ましくは少なくとも95%以上の配列同一性があるときに、一方のポリヌクレオチドが他方のポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズすることができる条件が挙げられる。ハイブリダイゼーションでのストリンジェンシーは、温度、塩濃度、ポリヌクレオチドの鎖長およびGC含量、ならびにハイブリダイゼーション緩衝液に含まれるカオトロピック剤の濃度の関数であることが知られている。ストリンジェントな条件としては、例えば、Sambrook, J.ら, 1998, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (第2編), Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載された条件などを用いることもできる。
【0014】
本明細書において、「完全に相補的に塩基配列」とは、あるポリヌクレオチドに含まれる全ての塩基に対して、ワトソン・クリックモデルの相補的塩基対を形成するポリヌクレオチドの塩基配列を意味する。
【0015】
本実施形態の方法に関して、光応答性核酸によって解離された第2の核酸を増幅する態様(実施態様1)を、以下に説明する。なお、実施態様1について、望ましい反応原理を
図1に例示したので参照されたい。
図1には、アゾベンゼンを結合させた光応答性核酸を用いた場合の反応原理が示されている。なお、
図1では、アローヘッドを有する直線で核酸鎖を示しており、当該直線においてアローヘッドを有する側が核酸鎖の3'側であり、その反対側が5'側である。また、
図1では、二重鎖核酸における第1の核酸を破線で示し、第2の核酸を実線で示している。
【0016】
本実施態様では、まず、第1の波長の光の照射によって光応答性核酸を二重鎖核酸の第1の核酸に会合可能な形態にする工程が行われる。
図1を参照すると、この工程では、第1の核酸に会合できない形態の光応答性核酸(
図1の(A)参照)が、可視光照射によって、第1の核酸に会合可能な形態となる(
図1の(B)参照)。
【0017】
増幅対象である二重鎖核酸は、二重鎖DNA、二重鎖RNA、および一本鎖RNAと一本鎖DNAとのハイブリッドのいずれであってもよい。また、二重鎖核酸の形状は特に限定されず、プラスミドDNAのような環状の二重鎖核酸であってもよいし、一本鎖核酸が分子内で相補的に自己会合したヘアピン状の二重鎖核酸であってもよい。二重鎖核酸の由来は特に限定されず、ゲノムDNAなどの天然由来の二重鎖核酸であってもよいし、天然由来の核酸から合成または増幅された二重鎖核酸(例えば、mRNA-cDNAハイブリッド、二重鎖cDNAなど)であってもよい。相補鎖合成のための鋳型となり得るのであれば、二重鎖核酸は、公知の標識物質などで修飾されていてもよいし、核酸を構成するヌクレオチドが人工的な誘導体に置換されていてもよい。
【0018】
本明細書において、「光応答性核酸」とは、所定の波長の光の照射によって異性化して立体構造が変化する有機基を1つ以上結合させた一本鎖核酸である。なお、そのような有機基を結合させた核酸自体は当該技術において公知であり、例えば、国際公開第01/21637号パンフレットに記載の光応答性オリゴヌクレオチドが挙げられる。本実施形態においては、光照射による光応答性核酸中の有機基の立体構造の変化を利用して、二重鎖核酸の第1の核酸との相補的な会合および会合状態からの解離を可逆的に行うことができる。光応答性核酸に用いられる核酸としては、DNAやRNAを用いることができる。また、PS−オリゴ、PNA(ペプチド核酸)、モルホリノオリゴ、2’O−置換RNA、BNA (Bridged Nucleic Acid)など従来公知の人工核酸であってもよい。これらの中でも、DNAが好ましい。
【0019】
光応答性核酸において、核酸と、該核酸に光応答性を与えうる有機基(以下、「光応答性有機基」ともいう)との結合様式は、該有機基が核酸の側鎖部分となるように結合されている限り、特に限定されない。ここで、核酸の側鎖部分とは、核酸を構成する各ヌクレオチドの五炭糖から分岐する塩基に相当する部分である。なお、核酸の主鎖は、核酸を構成するヌクレオチド間の五炭糖とリン酸との結合からなる鎖である。本実施形態では、光応答性有機基が核酸の5’末端のヌクレオチドまたは3’末端のヌクレオチドに結合している場合も、核酸の側鎖部分として結合されているものとする。光応答性有機基の核酸への結合様式の例として、核酸の側鎖部分となるように有機基をヌクレオチドに直接結合させるか、または、核酸の主鎖に適当な介在基を挿入し、この介在基に有機基を連結させることにより間接的に核酸に有機基を結合させることが挙げられる。そのような介在基は当業者が適宜決定できるが、例えば、炭素原子数が1〜10、好ましくは1〜6のアルキレン基、あるいはアミノ酸またはその誘導体からなる基などが挙げられる。
【0020】
光応答性有機基としては、所定の波長の光の照射により、実質的に平面状の構造から非平面状の構造へ可逆的に異性化することができる基が好適である。そのような有機基として用いうる化合物としては、例えば、アゾベンゼン、スチルベン、スピロピラン、およびこれらの誘導体などが挙げられる。アゾベンゼンおよびスチルベンは光照射によりトランス型からシス型へ異性化し、スピロランは光照射によりメロシアニン型からスピロピラン型へ異性化することが知られている。
【0021】
本実施形態においては、光応答性核酸としては、その融解温度(Tm)が、同一の塩基配列の核酸のTmに比べて向上するような光応答性有機基を結合させた核酸が好ましい。そのような光応答性核酸としては、アゾベンゼンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種を1つ以上結合させた核酸が好適に用いられる。アゾベンゼンの誘導体の種類は、二重鎖の形成を妨げない限り特に限定されないが、熱による異性化が生じにくいことからジメチルアゾベンゼンが特に好ましい。なお、アゾベンゼンまたはその誘導体を結合した核酸自体は、当該技術において公知であり、一般に製造または入手可能である。
【0022】
アゾベンゼンまたはその誘導体は、波長400 nm以上の可視光の照射によって平面状のトランス体となり、波長300〜400 nmの紫外光の照射によって立体的な形状のシス体となる。したがって、可視光の照射により、光応答性核酸中のアゾベンゼンは、二重鎖の形成を妨げない平面状のトランス体となるので、光応答性核酸は所定の核酸鎖と相補的に会合して、二重鎖を形成することができる。他方で、紫外光の照射により、光応答性核酸中のアゾベンゼンまたはその誘導体は立体的な形状のシス体となるので、二重鎖の形成が妨げる立体障害が生じる。これにより、光応答性核酸と所定の核酸鎖との二重鎖は解離する。なお、アゾベンゼンまたはその誘導体を結合させた光応答性核酸による二重鎖の形成と解離を例示したモデルを
図2に示したので参照されたい。
図2に示される光応答性核酸では、アゾベンゼンは、核酸の主鎖に挿入されたD-トレオニノールを介して核酸の側鎖部分となるように結合されているが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
よって、アゾベンゼンまたはその誘導体を結合させた光応答性核酸を本実施形態の方法に用いる場合は、第1の波長の光として波長400 nm以上の可視光の照射によって、当該光応答性核酸を第1の核酸に会合可能な形態にすることができる。
【0024】
光応答性核酸における光応答性有機基の数は、異性化により二重鎖を解離することができる限り特に限定されない。一例を挙げれば、光応答性有機基は、光応答性核酸において2〜10塩基に1つの割合で導入すればよい。
【0025】
本明細書においては、光応答性核酸の塩基配列に言及する場合は、核酸に結合された光応答性有機基を無視して、通常の核酸の塩基配列と同様にヌクレオチドの塩基部分にのみ着目する。例えば、光応答性核酸が、所定の一本鎖核酸にアゾベンゼンまたはその誘導体が複数結合したものであるとき、この光応答性核酸の塩基配列は、その所定の一本鎖核酸と同じ塩基配列であると考える。
【0026】
光応答性核酸の塩基配列は、増幅対象の二重鎖核酸の第1の核酸と相補的に会合できる塩基配列であれば特に限定されないが、光応答性核酸は、第1の核酸の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列を有することが特に好ましい。
【0027】
光応答性核酸の鎖長は、第1の核酸との相補的な会合を維持できる長さであれば特に限定されないが、通常10〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜50ヌクレオチドを有する。なお、光応答性核酸が、相補鎖合成の起点となる3'末端を提供しないようにするために、光応答性核酸の3'末端に、第1の核酸とは相補的でない塩基を1〜数個さらに付加してもよい。また、光応答性核酸を複数種類用いてもよい。
【0028】
本実施形態の方法では、光応答性核酸の塩基配列および鎖長によって、二重鎖核酸の各鎖における後述の第1プライマーおよび第2プライマーの会合可能な領域が決まるので、二重鎖核酸における増幅したい領域に応じて、光応答性核酸を設計することが望ましい。
【0029】
本実施形態において、照射する光の波長(第1波長および後述の第2波長)は、光応答性有機基の種類に応じて適宜設定することができる。また、光の照射時間も光応答性有機基の種類に応じて適宜設定できるが、アゾベンゼンの場合では、通常1〜300秒、好ましくは15〜60秒である。また、増幅反応を繰り返す場合、光の照射を、通常1〜300秒ごと、好ましくは15〜60秒ごとに行えばよい。光源は、反応系に所定の波長の光を照射できるものであれば特に限定されず、例えば、アゾベンゼンの場合では、水銀ランプと可視光フィルターの組み合わせ、所定の波長のLEDなどが挙げられる。
【0030】
本実施態様では、上記のようにして核酸鎖に会合可能な形態となった光応答性核酸を、第1の核酸に相補的に会合させることにより、該第1の核酸から第2の核酸を解離させる工程が行われる。
図1を参照すると、この工程では、二重鎖核酸(
図1の(C)参照)と光応答性核酸(
図1の(B)参照)との鎖交換により、光応答性核酸と第1の核酸とが二重鎖を形成し、第2の核酸が第1の核酸から解離した状態となる(
図1の(D)参照)。
【0031】
この工程は、第2の核酸が、光応答性核酸により鎖交換されうる状態で行われることが望ましい。このような状態は、二重鎖核酸において塩基対間の水素結合の形成と解離の両方が起こりうる条件下で生じさせることができる。そのような条件の具体例としては、用いるプライマーのTm付近であって、且つDNA合成酵素の活性を維持可能な温度(例えば、45〜70℃、好ましくは55〜65℃)で反応系をインキュベートするか、または後述の鎖交換反応促進物質を反応系に添加することが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。このような条件下では、二重鎖核酸を構成する2本の核酸鎖が解離したときに、光応答性核酸がその塩基配列の相補性によって、該二重鎖核酸の第1の核酸に相補的に会合することができる。これにより、二重鎖核酸の第2の核酸を解離させることができる。
【0032】
なお、第2の核酸における解離する部分の鎖長は、光応答性核酸の鎖長(より詳細には、光応答性核酸における第1の核酸と相補的に会合する部分の鎖長)に依存する。すなわち、本実施形態においては、光応答性核酸の鎖長が二重鎖核酸の鎖長よりも短い場合は、第2の核酸の一部分が第1の核酸から解離される。反対に、光応答性核酸の鎖長が二重鎖核酸の鎖長よりも長い場合は、第2の核酸の全部が解離される。
【0033】
本実施形態においては、光応答性核酸と第1の核酸とを効率よく会合させるために、増幅反応の開始時において、光応答性核酸の濃度を、二重鎖核酸の濃度よりも高くすることが好ましい。各核酸の具体的な濃度は当業者が適宜設定できるが、光応答性核酸の濃度を、二重鎖核酸の濃度の10倍以上にすることが特に好ましい。
【0034】
光応答性核酸と第1の核酸とを効率よく会合させるためには、本実施形態の方法を、高塩濃度の条件下で行うことも有利である。そのような塩は、核酸を損傷しうるものでなく、且つDNA合成反応を妨げるものでなければ特に限定されないが、例えば、NaCl、KClなどが挙げられる。塩濃度としては、2本の核酸鎖が相補的に会合した状態を維持でき、且つDNA合成酵素が機能する範囲内で設定することが望ましく、例えば、NaClを用いる場合は1Mまでの濃度とすることができる。
【0035】
また、光応答性核酸と第1の核酸とを効率よく会合させるためには、本実施形態の方法を、公知の鎖交換反応促進物質の存在下で行うことも有利である。そのような鎖交換反応促進物質は当該技術において公知であり、例えば、カチオン性ホモポリマーおよびカチオン性コポリマーから選択される少なくとも1種が挙げられる。そのようなカチオン性ホモポリマーおよびカチオン性コポリマーとしては、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどのアミノ酸、グルコサミンなどの糖、エチレンイミン、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクノレートなどの合成モノマーのようなカチオン性基を形成しうるモノマーに由来するホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。
【0036】
さらに、上記のカチオン性のホモポリマーまたはコポリマーは、親水性高分子で側鎖修飾されたグラフト型構造を有していることが好ましい。このような側鎖(グラフト鎖)は、例えば、ポリエチレングリコールなどの水溶性ポリアルキレングリコール、デキストラン、プルラン、アミロース、アラビノガラクタンなどの水溶性多糖、セリン、アスパラギン、グルタミン、スレオニンなどの親水性アミノ酸を含む水溶性ポリアミノ酸、アクリルアミドおよびその誘導体をモノマーとして用い合成される水溶性高分子、メタクリル酸およびアクリル酸並びにその誘導体(例えばヒドロキシエチルメタクリレート)をモノマーとして用いて合成される水溶性高分子、ポリビニルアルコールおよびその誘導体からなる群より選ばれる1種以上の水溶性高分子により形成される。なお、カチオン性のホモポリマーまたはコポリマーの分子量、並びに側鎖修飾基自体の鎖長およびグラフトの程度は、特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
【0037】
鎖交換反応促進物質の中でも、カチオン性コポリマーであるポリLリジン−デキストラン共重合体(PLL-g-Dex)が特に好ましい。なお、PLL-g-Dex自体は特開2001−78769号公報に開示されている。
【0038】
反応系における鎖交換反応促進物質の濃度は、核酸増幅反応が阻害されない限り特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
【0039】
本実施態様では、上記のようにして解離した二重鎖核酸の第2の核酸に第1プライマーを相補的に会合させる工程が行われる。
図1を参照すると、この工程では、解離した第2の核酸に第1プライマーが会合して、第2の核酸を鋳型とする増幅反応が可能な状態となる(
図1の(D)および(E)参照)。
【0040】
第1プライマーは、第2の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、相補鎖合成の起点となる3'末端を提供することができるオリゴヌクレオチドであれば、特に限定されない。第1プライマーの鎖長は、通常5〜50ヌクレオチド、好ましくは10〜40ヌクレオチドである。また、第1プライマーは、増幅対象の核酸鎖の塩基配列に基づいて適宜設計できる。なお、プライマー自体は、当該技術において公知の核酸合成方法により製造することができる。
【0041】
ここで、本実施態様では、光応答性核酸は、第1の核酸に相補的に会合しうる塩基配列を有しており、第1プライマーは、第2の核酸に相補的に会合しうる塩基配列を有している。したがって、第1プライマーと光応答性核酸とが相補的に会合する場合が起こりうる。そこで、第1プライマーと光応答性核酸とが相補的に会合する確率を減少させるために、例えば、第1プライマーにおける第2の核酸と相補的に会合する部分の鎖長が光応答性核酸の鎖長よりも短くなるように、第1プライマーを設計してもよい。
【0042】
本実施形態においては、プライマーは公知の標識物質で標識されていてもよい。また、必要に応じて、プライマーの5'末端に、所定の制限酵素の認識配列やタグ配列などの機能的配列のオリゴヌクレオチドを付加してもよい。
【0043】
本実施態様では、解離した第2の核酸に会合した第1プライマーを起点として、DNA合成酵素によって相補鎖を伸長させる工程が行われる。
図1を参照すると、この工程では、解離した第2の核酸を鋳型として、第1プライマーがDNA合成酵素によって伸長されて、新たな二重鎖核酸が生じる(
図1の(E)および(C)参照)。
【0044】
この工程は、本実施態様の核酸増幅反応の最終工程であるが、ここで反応が停止されない場合は、当該工程で生じた二重鎖核酸は、反応系に当初から存在していた二重鎖核酸と同様に、これまでに述べた一連の工程に付され、核酸増幅反応のサイクルが繰り返される。
【0045】
本実施形態に用いられるDNA合成酵素は、鋳型核酸の塩基配列に依存して相補鎖を合成する活性を有する限り特に限定されないが、特に好ましくは鎖置換型DNAポリメラーゼである。本実施形態の方法では、光応答性核酸の鎖長が増幅対象の二重鎖核酸よりも短い場合、二重鎖核酸に解離していない部分が存在するが、鎖置換型DNAポリメラーゼを用いれば、この解離していない部分を解離しながらプライマーを伸長することができる。なお、鎖置換型DNAポリメラーゼは、当該技術において公知であり、一般に入手可能である。鎖置換型DNAポリメラーゼとしては、例えば、Bst DNAポリメラーゼ、Aac DNAポリメラーゼ、Csa DNAポリメラーゼ、BcaBEST(商標) DNAポリメラーゼ、96−7ポリメラーゼなどが挙げられる。それらの中でもBst DNAポリメラーゼが特に好ましい。
【0046】
本実施形態の方法においては、DNA合成酵素による核酸増幅反応を好適に行うための添加剤を反応系に加えてもよい。そのような添加剤としては、例えば、緩衝剤や塩類などが挙げられる。緩衝剤は、DNA合成酵素に好適なpHを与えるものであれば特に限定されず、例えば、Tris-HCl、MES、リン酸緩衝剤などが挙げられる。また、塩類としては、例えば、NaCl、KCl、(NH
4)
2SO
4などが挙げられる。なお、一般的な核酸増幅反応に用いられる緩衝剤や塩類などの添加剤は当該技術において公知であり、DNA合成酵素の種類に応じた適切な添加剤が一般に入手可能である。
【0047】
本実施形態の方法に関して、光応答性核酸と相補的に会合した第1の核酸を増幅する態様(実施態様2)を、以下に説明する。なお、実施態様2について、望ましい反応原理を
図3に例示したので参照されたい。
図3には、アゾベンゼンを結合させた光応答性核酸を用いた場合の反応原理が示されている。なお、
図3では、アローヘッドを有する直線で核酸鎖を示しており、当該直線においてアローヘッドを有する側が核酸鎖の3'側であり、その反対側が5'側である。また、
図3では、二重鎖核酸における第1の核酸を破線で示し、第2の核酸を実線で示している。
【0048】
本実施態様では、まず、第1の波長の光の照射によって光応答性核酸を二重鎖核酸の第1の核酸に会合可能な形態にする工程が行われる(
図3の(A)および(B)参照)。次に、光応答性核酸を第1の核酸に相補的に会合させることにより、二重鎖核酸の第2の核酸を第1の核酸から解離させる工程が行われる(
図3の(B)、(C)および(D)参照)。これらの工程の詳細は、実施態様1について述べたことと同様である。
【0049】
そして、本実施態様では、第2の波長の光の照射によって光応答性核酸を第1の核酸に会合できない形態にする工程が行われる(
図3の(D)および(A)参照)。
【0050】
第2の波長の光は、光応答性核酸を第1の核酸に会合可能な形態にする工程で照射された第1の波長の光とは異なる波長を有し、当該光応答性核酸の有機基を立体異性化させて、光応答性核酸を核酸鎖に会合できない形態にすることができる光であればよい。例えば、アゾベンゼンまたはその誘導体を結合させた光応答性核酸を用いる場合は、第2の波長の光として波長300〜400 nmの紫外光を照射することにより、アゾベンゼンが立体構造のシス体となるので、当該光応答性核酸を第1の核酸に会合できない形態にすることができる。
【0051】
第1の波長の光を照射してから第2の波長の光を照射するまでの時間間隔は、特に限定されず適宜設定できるが、通常1〜300秒、好ましくは15〜60秒である。また、第2の波長の光の照射時間は、光応答性核酸に用いた有機基の種類に応じて適宜設定できるが、アゾベンゼンの場合では、通常1〜300秒、好ましくは5〜60秒である。なお、増幅反応を繰り返す場合、第2の波長の光の照射後、通常1〜300秒、好ましくは5〜60秒後に、第1の波長の光を照射すればよい。光源は、反応系に所定の波長の光を照射できるものであれば特に限定されず、例えば、アゾベンゼンの場合では、水銀ランプと紫外光フィルターの組み合わせ、所定の波長のLEDなどが挙げられる。
【0052】
本実施態様では、上記のようにして核酸鎖に会合できない形態となった光応答性核酸と、第1の核酸との会合を解離させる工程が行われる。この工程では、光応答性核酸の有機基の立体障害により、光応答性核酸の塩基と、第1の核酸の塩基との間の水素結合が維持できず、光応答性核酸と第1の核酸とが解離する(
図3の(D)、(A)および(F)参照)。
【0053】
本実施態様では、上記のようにして解離した第1の核酸に第2プライマーを相補的に会合させる工程が行われる。
図3を参照すると、この工程では、解離した第1の核酸(
図3の(F)参照)に第2プライマーが会合して、第1の核酸を鋳型とする増幅反応が可能な状態となる(
図3の(G)参照)。なお、第2プライマーは、第1の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、相補鎖合成の起点となる3'末端を提供することができるオリゴヌクレオチドであれば特に限定されない。また、第2プライマーの鎖長、塩基配列、合成法、標識などについては、第1プライマーについて述べたことと同様である。
【0054】
本実施態様では、第1の核酸に会合した第2プライマーを起点として、DNA合成酵素によって相補鎖を伸長させる工程が行われる。
図3を参照すると、この工程では、第1の核酸を鋳型として、第2プライマーがDNA合成酵素によって伸長されて、新たな二重鎖核酸が生じる(
図3の(G)および(C)参照)。なお、DNA合成酵素については、実施態様1で述べたことと同様である。
【0055】
この工程は、本実施態様の核酸増幅反応の最終工程であるが、ここで反応が停止されない場合は、当該工程で生じた二重鎖核酸は、反応系に当初から存在していた二重鎖核酸と同様に、これまでに述べた一連の工程に付され、核酸増幅反応のサイクルが繰り返される。
【0056】
本実施形態においては、上記の実施態様1および実施態様2を組み合わせた態様の核酸増幅方法を行うことができる。すなわち、第1プライマーおよび第2プライマーの一対のプライマーを用いて二重鎖核酸を増幅する態様である。以下に、この態様(実施態様3)について説明する。なお、実施態様3について、望ましい反応原理を
図4および
図5に例示したので参照されたい。
【0057】
図4および
図5には、アゾベンゼンを結合させた光応答性核酸を用いた場合の反応原理が示されている。
図4では、光応答性核酸の鎖長が第1の核酸と同じ長さであり、
図5では、光応答性核酸の鎖長が第1の核酸よりも短く、DNA合成酵素として鎖置換型DNAポリメラーゼを用いることを想定している。なお、
図4および
図5では、アローヘッドを有する直線で核酸鎖を示しており、当該直線においてアローヘッドを有する側が核酸鎖の3'側であり、その反対側が5'側である。また、
図4および5では、二重鎖核酸における第1の核酸を破線で示し、第2の核酸を実線で示している。
【0058】
実施態様3の一連の工程を、
図4および5を参照して、次のとおり説明する。まず、実施態様1のように、第1の波長の光を照射された光応答性核酸を第1の核酸に相補的に会合させて、第2の核酸を第1の核酸から解離させる(
図4の(A)〜(D)および
図5の(a)〜(d)参照)。そして、解離した第2の核酸に第1プライマーを相補的に会合させて(
図4の(D)および(E)、
図5の(d)および(e)参照)、DNA合成酵素によって第1プライマーを起点として相補鎖を伸長させる(
図4の(E)および(C)、
図5の(e)および(c)参照)。これによって、第2の核酸を鋳型として、二重鎖核酸が増幅される。
【0059】
さらに、
図4では、実施態様2のように、第2波長の光の照射により、光応答性核酸と第1の核酸との会合を解離させる(
図4の(D)、(A)および(F)参照)。そして、解離した第1の核酸に第2プライマーを相補的に会合させて(
図4の(F)および(G)参照)、DNA合成酵素によって第2プライマーを起点として相補鎖を伸長させる(
図4の(G)および(C)参照)。
図5では、
図4の経路とは異なり、第2プライマーが第1の核酸に会合して、相補鎖を途中まで合成した後に(
図5の(f)、(g)および(h)参照)、第1の核酸と光応答性核酸とが解離して、完全な相補鎖が合成されている(
図5の(h)および(c)参照)。しかし、本発明は
図5の経路に限定されない。すなわち、光応答性核酸の鎖長が第1の核酸よりも短い場合でも、
図4の場合と同様に、光応答性核酸が解離した後に、第2プライマーが第1の核酸に会合して相補鎖が合成されることもあり得る。これによって、二重鎖核酸の第1の核酸を鋳型として、二重鎖核酸が増幅される。なお、各工程についての詳細は、実施態様1および2で述べたことと同様である。
【0060】
実施態様3においても、反応が停止されない場合は、新たに生じた二重鎖核酸が、反応系に当初から存在していた二重鎖核酸と同様に、上記の一連の工程に付され、核酸増幅反応のサイクルが繰り返される。このように、実施態様3の増幅反応では、互いに異なる2つの波長の光を交互に照射することにより、二重鎖核酸のそれぞれの鎖の相補鎖を合成して二重鎖核酸を増幅することができる。
【0061】
以下、鋳型核酸がステム・ループ構造を有し、光応答性核酸を2種類用いた実施態様(実施態様4および5)について説明する。実施態様4および5について、望ましい反応原理をそれぞれ
図6および
図7に例示したので参照されたい。なお、
図6および
図7では、アローヘッドを有する直線で核酸鎖を示しており、当該直線においてアローヘッドを有する側が核酸鎖の3'側であり、その反対側が5'側である。また、
図6および7では、二重鎖核酸のステム部分における第1の核酸を破線で示し、第2の核酸を実線で示している。
【0062】
以下、(A)〜(G)は、
図6中の(A)〜(G)に対応する。鋳型となる二重鎖核酸(鋳型核酸という)は、ステム・ループ構造を有している。鋳型核酸と、第1および第2光応答性核酸とが接触すると、二重鎖状態となっているステム部分の第1の核酸および第2の核酸に、それぞれ第1光応答性核酸および第2光応答性核酸がハイブリダイズする(A)。これに紫外光を照射すると、第1および第2の光応答性核酸が核酸にハイブリダイズできない状態となり、鋳型核酸から分離する(B)。光応答性核酸がハイブリダイズしていた領域の一部に第1および第2プライマーがハイブリダイズする(C)。第1および第2プライマーを起点としてDNA合成酵素により核酸増幅を行う(D)。ここに可視光を照射することにより(E)、核酸にハイブリダイズ可能な状態とした光応答性核酸を、鋳型核酸と第1および第2プライマーからの伸長鎖との複合体に接触させ、光応答性核酸が鋳型核酸に結合することにより、第1および第2プライマーからの伸長鎖が分離して増幅産物が生じる(F)。光応答性核酸が結合した鋳型核酸は、(B)〜(F)のサイクルに供され、(F)において増幅産物を合成する。一方で、この増幅産物には第1および第2光応答性核酸がハイブリダイズし、以下、実施態様3と同様の増幅が行われ、増幅産物が生じる(G)。なお、可視光を照射した2種類の光応答性核酸がダイマーを形成しないよう、第1光応答性核酸と第2光応答性核酸とは完全に相補的でないことが好ましい。
【0063】
以下、(A)〜(J)は、
図7中の(A)〜(J)に対応する。実施態様5の(A)〜(D)は、実施態様4の(A)〜(D)と同様である。本実施態様では、プライマーの伸長反応に鎖置換型ポリメラーゼを用いている。そのため、第2プライマーからの伸長により、第1プライマーからの伸長鎖が解離され、第2プライマーからの伸長鎖と鋳型核酸との二重鎖核酸が形成される(E)。可視光の照射(F)により核酸にハイブリダイズ可能な状態とした光応答性核酸を、第2プライマーからの伸長鎖と鋳型核酸との二重鎖核酸にハイブリダイズさせることで、第2プライマーからの伸長鎖が、ステム・ループ構造を有し且つ鋳型核酸に相補的な二重鎖核酸として解離される(G)。この鋳型核酸に相補的な二重鎖核酸のステム部分(第1の核酸および第2の核酸に相当)は鋳型核酸のステム部分と同じ配列を有し、ループ部分は鋳型核酸のループ部分と相補的な配列を有する。ループ部分は本実施態様の核酸増幅サイクルに直接的に関係しないので、鋳型核酸に相補的な二重鎖核酸も(A)以降の核酸増幅サイクルの鋳型として用いられる。一方で、鎖置換型ポリメラーゼによる伸長反応(E)によって解離された第1プライマーからの伸長鎖には第2プライマーがハイブリダイズし(H)、伸長鎖を形成することにより二重鎖核酸が合成される(I)。この二重鎖核酸を鋳型として、実施態様3と同様の増幅が行われ、増幅産物を生成する(J)。なお、可視光を照射した2種類の光応答性核酸がダイマーを形成しないよう、第1光応答性核酸と第2光応答性核酸とは完全に相補的でないことが好ましい。
【0064】
本実施形態の方法は、光応答性核酸およびプライマーを用いることにより、二重鎖核酸の解離、鋳型核酸鎖へのプライマーの会合およびプライマーの伸長というPCR法と同様の増幅反応サイクルを経て、二重鎖核酸を増幅する反応である。したがって、本実施形態の方法は、PCR法から派生した種々の変法に応用されることが期待される。例えば、本実施形態の方法は、光を照射した箇所で特異的に遺伝子を増やすようなインサイチュー核酸増幅に活用できる。
【0065】
増幅産物は、電気泳動などにより検出することができる。また、SYBR(登録商標) GREEN等のインターカレータを反応液に予め添加しておくことによりリアルタイムで増幅をモニターすることもできる。また、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が生じる2種類の蛍光物質を標識した、鋳型核酸に相補的なプローブを用いることにより、増幅産物を検出することもできる。例えば、2種類の蛍光物質が近接している場合、一方の蛍光物質が蛍光を消光するが、エキソヌクレアーゼ活性を有する核酸合成酵素によってプライマー伸長時に当該プローブが分解し、2種類の蛍光物質が離隔することにより蛍光を生じる構成とすることができる。
【0066】
なお、上述の増幅方法においては、光応答性核酸を二種類以上用いることもできる。例えば、2種類の光応答性核酸を用いる場合、解離させたい二重鎖核酸の第2の核酸の塩基配列において、第1の光応答性核酸が結合する領域とは異なる領域に結合する第2の光応答性核酸をさらに用いることができる。第1の光応答性核酸が結合する領域と第2の光応答性核酸が結合する領域とは、二重鎖核酸の第2の核酸の塩基配列において離れた位置にあってもよいし、隣接していてもよい。二種類以上の光応答性核酸を用いることによって、二重鎖核酸が長い配列を有している場合でも精度よく解離させることができる。
【0067】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
実施例1: 光応答性核酸を用いた核酸増幅反応の光照射依存性の検証
本実施例では、光応答性核酸を用いて、光照射に依存する核酸増幅反応を行うことができるか否かについて評価した。
【0069】
(1)核酸および試薬の調製
光応答性核酸として、2', 6'-ジメチルアゾベンゼンを2塩基ごとに1つ結合させた一本鎖DNAを、つくばオリゴサービス株式会社に委託して合成した。この光応答性核酸の配列を以下に示す。
5’- CT(Z)TT(Z)AA(Z)GA(Z)AG(Z)GA(Z)GA(Z)TA(Z)TA(Z)CC(Z)TG(Z)AG(Z)TG(Z)AT(Z)CT(Z)
AG(Z)TG(Z)TA(Z)CT(Z)TA -3’(配列番号1)
【0070】
上記の配列において、(Z)は、2', 6'-ジメチルアゾベンゼンの挿入箇所を示す。なお、2', 6'-ジメチルアゾベンゼンは、一本鎖DNAの主鎖に挿入されたD-トレオニノールを介して、核酸の側鎖部分となるように結合されている。
【0071】
鋳型DNAとして、上記の光応答性核酸と同じ塩基配列を含む50塩基の未修飾一本鎖DNAを、ライフテクノロジーズジャパン株式会社に委託して合成した。この一本鎖DNAの配列を以下に示す。
5’- CTTTAAGAAGGAGATATACCTGAGTGATCTAGTGTACTTAGTATGCTTCC -3’(配列番号2)
【0072】
第1プライマーとして、20塩基の未修飾一本鎖DNAを、ライフテクノロジーズジャパン株式会社に委託して合成した。また、第2プライマーとして、5’末端をテキサスレッドで標識した20塩基の一本鎖DNAを、株式会社日本バイオサービスに委託して合成した。各プライマーの配列を以下に示す。
第1プライマー:5'- GGAAGCATACTAAGTACACT -3'(配列番号3)
第2プライマー:5’-TexasRed- CTTTAAGAAGGAGATATACC -3'(配列番号4)
【0073】
鎖交換促進物質として、カチオン性ブロックコポリマーであるポリLリジン‐デキストラン共重合体(PLL-g-Dex)(PLLの分子量8000、グラフト率90%)を用いた。また、DNA合成酵素として、Bst DNAポリメラーゼ(ニューイングランドバイオラボ社)を用いた。なお、反応溶液には、添付の10xThermoPolバッファー(ニューイングランドバイオラボ社)を希釈して用いた。
【0074】
(2)核酸増幅
以下の4種の試料を2つずつ調製した。
・鋳型DNA(終濃度10 nM)および光応答性核酸(終濃度500 nM)を含む試料
・鋳型DNA(終濃度10 nM)を含むが、光応答性核酸を含まない試料
・光応答性核酸(終濃度500 nM)を含むが、鋳型DNAを含まない試料
・鋳型DNAおよび光応答性核酸を含まない試料
【0075】
なお、上記のいずれの試料にも、1xThermoPolバッファー溶液、第1プライマー(終濃度500 nM)、第2プライマー(終濃度500 nM)、PLL-g-Dex(終濃度78μM)、Bst DNAポリメラーゼ(終濃度0.4 unit/μL)が含まれている。
【0076】
上記の各試料を0.2 mLチューブに20μLずつ分注し、Adhesive tape(サーモサイエンティフィック社)で封をした。そして、チューブをサーマルサークラーPC320(アステック社)により60℃で10分間加熱した。この操作では、第1プライマーにより鋳型DNAの相補鎖を合成することで、本実施例の増幅対象である二重鎖DNAが合成された。
【0077】
各種の試料のうち、一方の試料は、60℃に加熱したサーマルサークラーにて20分間インキュベートした。もう一方の試料には、以下のi)〜iv)の操作を5回行った。
i) チューブを、60℃に加熱したステンレス製チューブラックに移し、水銀ランプ(超高圧UVランプUSH-1030L、オリンパス株式会社)を光源として、可視光フィルター(U-MNIBA3、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長470〜495 nm)をチューブの上部から1分間照射した。
ii) チューブを、60℃に加熱したサーマルサークラーに戻して、1分間インキュベートした。
iii) チューブを、60℃に加熱したステンレス製チューブラックに移し、水銀ランプ(超高圧UVランプUSH-1030L、オリンパス株式会社)を光源として、紫外光フィルター(U-MWU2、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長330〜385 nm)をチューブの上部から1分間照射した。
iv) チューブを、60℃に加熱したサーマルサークラーに戻して、1分間インキュベートした。
【0078】
各チューブから試料を10μLずつ取り出し、これらに1M ポリビニル硫酸カリウム溶液を最終濃度0.1 Mとなるように添加した。そして、4℃で90分間静置した。さらに、これらに、等量のホルムアミドローディング溶液(95%ホルムアミド、NaOH、2%ブロモフェノールブルー)を添加し、95℃で5分間加熱して、電気泳動用サンプルを得た。得られたサンプルを4%尿素含有20%アクリルアミドゲルで電気泳動した(300V、30分間)。そして、モレキュラーイメージャー(バイオラッド社)で、電気泳動後のゲルの蛍光画像を取得した。得られた画像を
図8に示す。また、得られた蛍光画像をtifファイルに変換し、第2プライマーに由来する増幅産物からの蛍光シグナルの強度をImage Jソフトウェア(米国国立衛生研究所(NIH)のウェブサイトから入手可能)で数値化した。
【0079】
(3)結果
図8に示されるように、光応答性核酸が存在しないか、または、光照射がない条件下では、鋳型DNAが存在していても、DNAの増幅を示すシグナルは検出できなかった。これに対して、光応答性核酸の存在下で光照射時において、鋳型DNAに特異的なDNA合成が起こることを確認した(
図8中の矢印部参照)。よって、光照射に依存する核酸増幅反応を行うことができること示された。
【0080】
実施例2: 光応答性核酸を用いた核酸増幅反応の光照射回数への依存性の検証
本実施例では、光応答性核酸を用いた核酸増幅反応が、光照射の回数に依存して進行するか否かを検証した。
【0081】
(1)核酸および試薬の調製
本実施例では、上記の実施例1と同じ光応答性核酸、鋳型DNA、第1プライマーおよび第2プライマーを用いた。また、実施例1と同様に、鎖交換促進物質としてPLL-g-Dex(PLLの分子量8000、グラフト率90%)を用い、DNA合成酵素として、Bst DNAポリメラーゼ(ニューイングランドバイオラボ社)を用いた。なお、反応溶液には、添付の10xThermoPolバッファー(ニューイングランドバイオラボ社)を希釈して用いた。
【0082】
(2)核酸増幅
1xThermoPolバッファー溶液、鋳型DNA(終濃度10 nM)、光応答性核酸(終濃度500 nM)、第1プライマー(終濃度500 nM)、第2プライマー(終濃度500 nM)、PLL-g-Dex(終濃度78μM)およびBst DNAポリメラーゼ(終濃度0.4 unit/μL)を含む試料を4つ調製した。
【0083】
上記の試料を0.2 mLチューブに20μLずつ分注し、Adhesive tape(サーモサイエンティフィック社)で封をした。そして、チューブをサーマルサークラーPC320(アステック社)により60℃で10分間加熱した。この操作では、第1プライマーにより鋳型DNAの相補鎖を合成することで、本実施例の増幅対象である二重鎖DNAが合成された。
【0084】
4つ試料には、実施例1に記載のi)〜iv)の操作をそれぞれ0、2、4および6回行った。その後、実施例1と同様にして、各試料から電気泳動用サンプルを調製し、得られたサンプルを4%尿素含有20%アクリルアミドゲルで電気泳動した(300V、30分間)。そして、モレキュラーイメージャー(バイオラッド社)で、電気泳動後のゲルの蛍光画像を取得した。得られた画像を
図9に示す。また、得られた蛍光画像をtifファイルに変換し、第2プライマーに由来する増幅産物からの蛍光シグナルの強度をImage Jソフトウェアで数値化して、グラフを作成した。作成したグラフを
図10に示す。
【0085】
図9および10に示されるように、光照射回数が0回のときはシグナルが全く検出されなかったが、光照射回数が増えるにしたがって、合成された二重鎖DNAに由来するシグナル強度が増加することを確認した。以上より、2つの波長の光を交互に照射するたびに増幅反応のサイクルが繰り返され、光照射の回数を増やすことによりDNA増幅量を増加できることが示された。