(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491484
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】シリコン化学蒸気輸送による炭化シリコン結晶成長
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
C30B29/36 A
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-7872(P2015-7872)
(22)【出願日】2015年1月19日
(65)【公開番号】特開2016-52980(P2016-52980A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年5月19日
(31)【優先権主張番号】14/475,803
(32)【優先日】2014年9月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515017142
【氏名又は名称】ツーシックス、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】II−VI INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】イリヤ、ツビーバック
(72)【発明者】
【氏名】バラタラジャン、レンガラジャン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン、ケイ.ブルーハード
(72)【発明者】
【氏名】マイケル、シー.ノーラン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、イー.アンダーソン
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−319098(JP,A)
【文献】
特開2002−015619(JP,A)
【文献】
特表2009−500287(JP,A)
【文献】
特開平11−199396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを用いる化学蒸気輸送によるSiC結晶成長のための方法であって、
(a)隙間を空けて位置づけられる炭化シリコン種結晶と固体炭素原料とを含むSiC成長システムを提供するステップと、
(b)前記SiC成長システムを加熱し、前記SiC成長システムに、ガス状ハロシランおよび還元ガスを導入するステップであって、前記ガス状ハロシランおよび前記還元ガスは、前記SiC成長システム内で反応して、元素シリコン蒸気を生成するステップと、
(c)ステップ(b)の前記元素シリコン蒸気をステップ(a)の前記固体炭素原料と反応させて、シリコンベアリングおよび炭素ベアリング蒸気を生成するステップと、
(d)ステップ(c)の前記シリコンベアリングおよび炭素ベアリング蒸気をステップ(a)の前記SiC種に輸送するステップと、
(e)ステップ(c)の前記シリコンベアリングおよび炭素ベアリング蒸気をステップ(a)の前記SiC種上に析出して、前記炭化シリコン単結晶を成長させるステップと、
を備え、
前記固体炭素原料は、
0.5mmから6mmの平均粒度、および、
0.4g/cm3から1.0g/cm3の密度、および、
200m2/gから2000m2/gの表面積、
の少なくともいずれか1つを有するペレット、球、および粒子、のうちの1つ以上の形態の多孔質炭素を含む、方法。
【請求項2】
前記ハロシランガスおよび前記還元ガスは、前記SiC成長システムに、別々に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)の前記ガス状ハロシランおよび前記還元ガスの反応は、炭化シリコン種結晶の反対側の前記固体炭素原料の側に存在する反応域で生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記SiC成長システムは、前記炭化シリコン種結晶は、前記固体炭素原料よりも低い温度である温度勾配を形成するよう加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記SiC成長システムは、成長用坩堝を含み、
前記固体炭素原料のすべては、前記成長用坩堝の端間に隙間を空けて位置づけられ、
前記炭化シリコン種結晶は、前記成長用坩堝の一端に位置づけられる、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記成長用坩堝は、前記ガス状ハロシランおよび前記還元ガスを、前記炭化シリコン種結晶と反対側の前記成長用坩堝の端に導入するための1つまたは複数のガス入口を含み、
前記成長用坩堝は、1つまたは複数のガス出口を含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b、c、およびe)のガス状副生成物は、前記1つまたは複数のガス出口を介して、前記成長用坩堝を出る、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記成長用坩堝は、前記炭化シリコン種結晶の反対側の前記成長用坩堝の端に隙間を空けて配置された前記固体炭素原料のすべてを支持する多孔板を含み、
前記多孔板と前記炭化シリコン種結晶の反対側の前記成長用坩堝の前記端との間の前記空間は、ステップ(b)が生じる反応域を画定する、
請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記炭化シリコン種結晶は、前記固体炭素原料よりも低い温度となる温度勾配を形成するように加熱が生じる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記成長用坩堝および前記多孔板は、SiC結晶成長温度でSi蒸気による腐食に対して実質的に安定である材料から作られる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記成長用坩堝および前記多孔板は、グラファイトから作られる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記還元ガスは水素であり、または、
前記ハロシランガスはSiCl4であり、または、
前記還元ガスは水素であり且つ前記ハロシランガスはSiCl4である、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記炭化シリコン種結晶は、4H、6H、または3Cポリタイプである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
窒素含有ガスを前記SiC成長システムに導入して、n型炭化シリコン単結晶を成長させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ガス状アルミニウム前駆体を前記SiC成長システムに導入して、p型炭化シリコン単結晶を成長させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ガス状バナジウム前駆体を前記SiC成長システムに導入して、バナジウムドープ、半絶縁性炭化シリコン単結晶を成長させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記固体炭素原料は、
0.5mmから6mmの平均粒度と、
0.4g/cm3から1.0g/cm3の密度と、
200m2/gから2000m2/gの表面積と、
を有する前記ペレット、前記球、および前記粒子、のうちの1つ以上の形態の前記多孔質炭素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(b)の前記ガス状ハロシランおよび前記還元ガスは、前記SiC成長システム内のガス反応で反応して、前記元素シリコン蒸気を生成する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化シリコン(SiC)(silicon carbide)結晶成長に関し、より詳しくは、気相(gaseous phase)または蒸気相(vapor phase)からバルクSiC単結晶を成長させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4Hおよび6Hポリタイプの炭化シリコンの単結晶は、ショットキーダイオード、電界効果トランジスタ、およびバイポーラトランジスタを含む、電力スイッチング用の超高周波AlGaN系HEMTトランジスタおよびSiC系素子を含むSiC系およびAlGaN系半導体素子に格子整合する基板として働く。他の用途には、超高速光導電スイッチ、過酷環境用センサ、および放射線検出器などがある。
【0003】
現在では、SiC基板に対する共通要件は、導電性n型、導電性p型、半絶縁性Nu型、もしくは半絶縁性Pi型などの特定の電気特性、転位、マイクロパイプ、および炭素混在物などの結晶欠陥の密度が低い高結晶品質、ならびに100mm、150mm、および200mmなどの大きな基板直径がある。SiC基板は、他の適用可能な基板材料と競合するよう、価格が手頃でなければならない。
【0004】
大型商業用SiC単結晶は、物理的蒸気輸送法(PVT)の技術により、従来は成長させる。PVT成長は、最も一般的にはグラファイトで作られた、密封した坩堝で実行する。成長のための準備として、坩堝は、その坩堝の底部に一般に配置される多結晶SiC原料、およびその坩堝の上部に一般に配置されるSiC単結晶種で充填される。充填された坩堝は、一般に数Torrから50Torrの所望の圧力まで不活性ガスで満たされ、一般に2000℃から2400℃の成長温度に加熱される。垂直温度勾配が、SiC源およびSiC種の間に坩堝内で作り出される。ここで、SiC原料温度は、SiC単結晶種の温度よりも高い。
【0005】
高温では、SiC原料は、Si、Si
2C、およびSiC
2などの、揮発性分子のスペクトルを坩堝内部に放出しながら昇華する。垂直温度勾配によって駆動されると、これらの種は、SiC種に拡散し、SiC単結晶種上でSiC単結晶の成長を引き起こすよう凝縮する。炭化シリコンのPVT成長の領域における先行技術は、米国特許第6,805,745号、米国特許第5,683,507号、米国特許第5,667,587号、および米国特許第5,746,827号を含み、それらのすべては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0006】
従来のPVT成長処理には、欠点があった。具体的には、炭化シリコン昇華の分解特性のため、蒸気相の化学量は、シリコンの初期過剰から炭素の過剰へのPVT成長の間、次第に変化する。これにより、原料減少、SiC源における炭素残留物の生成、および転位ならびにマイクロパイプなどの結晶欠陥に繋がる成長SiC結晶における炭素混在物の発生に繋がる。
【0007】
PVTに対するいくつかの代替法が、当分野で知られている。主に、高温CVD(HTCVD)、ハライドCVD(HCVD)、高温ガス源法(HTGSM)、およびハロシラン補助PVT(HAPVT)が、米国特許第6,824,611号、欧州特許第0835336号、欧州特許第0859879号、米国特許第2005/0255245号、および米国特許第2012/0152165号に開示され、それらのすべては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0008】
上記の方法のすべては、SiC昇華成長の高温で実行される化学気相成長(CVD)の一般的な方法の変形である。成長の間、ガス状シリコン前駆体(シランまたはハロシラン)、およびガス状炭素前駆体(プロパンまたはメタンなどの炭化水素)が、成長用坩堝内に注入され、それらは、反応して、さまざまなSi−C−HまたはSi−C−H−Clガス状分子を形成する。これらの種は、SiC単結晶種に向けて移動し、SiC単結晶種の成長界面で吸着し、吸着状態で反応して、SiC単結晶種上でSiC単結晶の成長を引き起こす。ガス状副生成物は、成長界面から脱着し、設けられたガス出口またはガス流路を介して、坩堝から出る。
【0009】
HTCVD、HCVD、およびHTGSM技術の欠点の一つは、熱的に不安定であり、高温にさらされた場合に分解する、ガス状炭化シリコンおよびシランを使用することが原因である。それらの熱的分解は、ガス出口の閉塞に繋がる炭素および元素シリコン(elemental silicon)の析出に伴う。この望ましくない熱的分解を減らすために、水素による強い希釈、ならびに高いガス流速を用いる。これは、今度は低効率な結晶化および高価な原材料の損失に繋がる。
【0010】
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,512,471号で開示されるHAPVTの方法は、改良PVT技術であり、PVT坩堝は、従来の方式で、SiC原料(パウダー)およびSiC単結晶種で充填され、次いで、SiC昇華成長温度に加熱される。成長の間、SiCl
4などの、少量のガス状ハロシランは、坩堝内に導入され、随意選択的に、水素も導入することができる。坩堝内に反応性ガスがあることで、成長システム内に存在するハロゲン、水素、および化学元素間での化学反応が生じる。利点には、望ましくない不純物の除去およびSiC結晶成長の促進が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,805,745号
【特許文献2】米国特許第5,683,507号
【特許文献3】米国特許第5,667,587号
【特許文献4】米国特許第5,746,827号
【特許文献5】米国特許第6,824,611号
【特許文献6】欧州特許第0835336号
【特許文献7】欧州特許第0859879号
【特許文献8】米国特許第2005/0255245号
【特許文献9】米国特許第2012/0152165号
【特許文献10】米国特許第8,512,471号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、高温で、Si蒸気が、炭素に対する化学輸送剤の役目を果たすことができることを発見した。本発明によれば、元素Si蒸気は、SiC成長処理中に坩堝内部で生成され、炭素を純粋(または、実質的に純粋な)炭素原料から、SiC種上に析出してSiC結晶成長を引き起こすSi
2CおよびSiC
2分子の形で、SiC種に輸送するために使用することができる。それに応じて、本発明のこのSiC結晶成長法において、固体SiC原料も、炭化水素ガスも、必要とされない。
【0013】
成長のための準備として、グラファイト製坩堝は、隙間を空けて配置された、グラファイト製坩堝内に堆積する、純粋(または、実質的に純粋な)固体炭素原料およびSiC種結晶種で充填される。坩堝を加熱する際、不活性ガスおよび還元ガスによって希釈されたハロシランガスが、坩堝内に導入される。反応性ガスは、坩堝内部で混合され、ハロシランをSi蒸気の形で元素シリコンに還元する化学反応に関わる。次いで、生成したSi蒸気は、ガス流によって、固体炭素原料に輸送され、そこで固体炭素原料の炭素と反応してSiC
2およびSi
2Cなどの、揮発性SiベアリングおよびCベアリング分子を発生させる。Si、SiC
2、およびSi
2C蒸気の混合物は、ガス流により、SiC種にさらに輸送され、蒸気は、SiC単結晶種上に析出され、それにより、SiC単結晶種上でSiC単結晶を成長させる。
【0014】
本明細書では、ハロシランガスは、熱的に安定したガス状ハロシランであることが好ましい。
【0015】
本発明の方法によるSiC単結晶の成長の間、グラファイト製坩堝内の蒸気相の化学量は、時間とともに変化しない。むしろ、成長プロセスは、定常状態であり、固体炭素原料が存続する限り、実行することができる。
【0016】
すなわち、本明細書で開示するのは、化学輸送反応によるSiC結晶成長の方法であり、シリコン蒸気が、普通なら非揮発性の炭素に対する化学輸送剤として使用される。この方法は、シリコンによる化学蒸気輸送、すなわち、SiCVTと呼ぶことができる。本方法は、(a)隙間を空けて位置づけられる炭化シリコン種結晶と固体炭素原料とを含むSiC成長システムを提供するステップと、(b)SiC成長システムを加熱し、SiC成長システムに、ガス状ハロシランおよび還元ガスを導入するステップであって、ガス状ハロシランおよび還元ガスは、SiC成長システムで反応して、元素シリコン蒸気を生成するステップと、(c)ステップ(b)の元素シリコン蒸気をステップ(a)の固体炭素原料と反応させて、シリコンベアリングおよび炭素ベアリング蒸気を生成するステップと、(d)ステップ(c)のシリコンベアリングおよび炭素ベアリング蒸気をステップ(a)のSiC種に輸送させるステップと、(e)ステップ(c)のシリコンベアリングおよび炭素ベアリング蒸気をステップ(a)のSiC種上に析出させて、炭化シリコン単結晶を成長させるステップとを含む。
【0017】
ハロシランガスおよび還元ガスは、SiCVT成長システムに、別々に導入することができる。
【0018】
ステップ(b)は、炭化シリコン種結晶と反対側の固体炭素原料の側に存在する反応域で行うことができる。
【0019】
SiCVT成長システムは、温度勾配を形成するよう加熱することができ、炭化シリコン種結晶は、固体炭素原料より低い温度である。
【0020】
SiCVT成長システムは、成長用坩堝を含むことができる。すべての固体炭素原料は、成長用坩堝の端間に、隙間を空けて位置づけることができる。炭化シリコン種結晶は、成長用坩堝の一端に位置づけることができる。
【0021】
成長用坩堝は、1つまたは複数のガス入口を含み、ガス状ハロシランおよび還元ガスを、炭化シリコン種結晶と反対側の成長用坩堝の端に導入することができる。成長用坩堝は、成長用坩堝の端に1つまたは複数のガス出口を含むことができ、そこには、炭化シリコン種結晶が位置づけられる。
【0022】
不活性ガス、反応後の還元ガスの残り、ハロシランおよび還元ガス間の反応のガス状副生成物、ならびに炭化シリコン種結晶上に析出しないシリコンベアリングおよび炭素ベアリング蒸気、これらすべてのガスは、1つまたは複数のガス出口を介して、成長用坩堝を出ることができる。
【0023】
成長用坩堝は、炭化シリコン種結晶の反対側の成長用坩堝の端に、隙間を空けて配置された固体炭素原料のすべてを支持する多孔板を含むことができる。多孔板と、炭化シリコン種結晶の反対側の成長用坩堝の端の間の空間は、ステップ(b)を行う反応域を画定することができる。
【0024】
炭化シリコン種結晶が反応域より低い温度になる温度勾配が形成されて、加熱を行うことができる。
【0025】
成長用坩堝および多孔板は、SiC成長温度でSi蒸気による腐食に対して安定である材料から作ることができる。一実施形態において、成長用坩堝および多孔板は、高密度グラファイトから作られる。
【0026】
熱的に安定した、ガス状ハロシランは、SiCl
4とすることができる。還元ガスは、水素とすることができる。
【0027】
炭化シリコン種結晶は、4H、6H、または3Cポリタイプである。
【0028】
本方法は、窒素含有ガスをSiC成長システムに導入して、n型炭化シリコン単結晶を成長させるステップを含むことができる。
【0029】
本方法は、ガス状アルミニウム前駆体をSiC成長システムに導入して、p型炭化シリコン単結晶を成長させるステップを含むことができる。
【0030】
本方法は、ガス状バナジウム前駆体をSiC成長システムに導入して、バナジウムドープ、半絶縁性炭化シリコン単結晶を成長させるステップを含むことができる。
【0031】
本明細書でさらに開示するのは、化学輸送による炭化シリコン結晶成長の方法である。本方法は、(a)隙間を空けて位置づけられた炭化シリコン種結晶および固体炭素原料を含む成長システムにおいて、化学輸送により炭化シリコン種結晶上での炭化シリコン結晶の成長を促進する方法でSiC成長システムを加熱するステップと、(b)ステップ(a)と同時に、成長システムに、ガス状ハロシランおよび還元ガスを導入するステップステップであって、ガス状ハロシランおよび還元ガスは、成長システムで反応して、元素シリコン蒸気を生成するステップと、(c)ステップ(b)の元素シリコン蒸気が固体炭素原料に輸送されてこれと反応し、シリコンベアリングおよび炭素ベアリング蒸気を生成するように、ガス状ハロシランおよび還元ガスの流れ、ならびに加熱を制御するステップと、(d)ステップ(c)のシリコンおよび炭素ベアリング蒸気を炭化シリコン種結晶に輸送してこの上に析出するよう、ガス状ハロシランおよび還元ガスの流れ、ならびに加熱をさらに制御するステップとを含む。
【0032】
本方法は、窒素含有ガスをSiC成長システムに導入して、n型炭化シリコン単結晶を成長させるステップを含むことができる。
【0033】
本方法は、ガス状アルミニウム前駆体をSiC成長システムに導入して、p型炭化シリコン単結晶を成長させるステップを含むことができる。
【0034】
本方法は、ガス状バナジウム前駆体をSiC成長システムに導入して、バナジウムドープ、半絶縁性炭化シリコン単結晶を成長させるステップを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】SiC単結晶のSiCVT成長のための仮想の(imaginary)装置の概念図である。
【
図2】SiC単結晶のSiCVT成長のための例示的装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、本発明の原理を理解する助けとなる概念図である。
図1を参照すると、アンプル10は、シリコン蒸気による腐食に対して安定な材料で作られ、入口11aおよび11b、ならびに出口12を含む。アンプル10は、
図1に模式的に示すように、互いに間隔を開けて(すなわち、隙間を空けて)配置される、固体炭素原料13およびSiC単結晶種14で充填される。アンプル10は、加熱器20の内部に設置され、固体炭素原料13の温度が、SiC単結晶種14の温度よりも高くなるように加熱される。
【0037】
アルゴンなどの不活性キャリアガスは、入口11aを通じてアンプル10に入り、限定するものではないが、四塩化シリコン、すなわち、SiCl
4などの、熱的に安定したガス状ハロシランの添加剤を搬送する。以下で説明するように、ガス状ハロシランは、Si前駆体の役目を果たす。同時に、水素H
2などの還元ガスは、入口11bを通ってアンプル10に入る。アンプル10の内部では、ハロシランガスが還元ガスと混ぜられ、これと反応し、Si蒸気18の形態での元素シリコン(Si)へのSi前駆体(すなわち、この例では、SiCl
4ガス)の化学還元を引き起こす。アンプル10内の反応域17では、ガス状ハロシランと還元ガスが混ぜられ、反応する。不活性キャリアガス、還元ガス、およびSi蒸気に加えて、反応域17におけるガス混合物は、ガス状塩化水素(HCL)を含み、さらに、少量の塩素(Cl、Cl
2)と、SiCl
4、SiCl
2、およびSiHClなどの、ガス状ハロシランとを含むことができることが想定される。
【0038】
Si蒸気18は、キャリアガスおよび還元ガスの一方または両方の流れによって駆動され、固体炭素原料13に向けて輸送され、固体炭素原料13と接触する。固体炭素原料13と接触すると、Si蒸気18は、前記固体炭素原料13の炭素と反応し、Si
2CおよびSiC
2のガス状分子を生成する。すべてのSi蒸気18が固体炭素原料13の炭素との反応によって消費されるのではなく、蒸気相におけるSi
2C、SiC
2、およびSi蒸気の部分圧力が、平衡状態下で、三相SiC−Si−蒸気系の圧力に接近することが期待されることが想定される。
【0039】
Si蒸気の炭素原料との反応ならびにSi
2CおよびSiC
2のガス状分子の生成に続き、Si
2C、SiC
2、およびSi蒸気の混合物は、さらに、キャリアガスおよび/または還元ガスによって、SiC結晶種14に向けて搬送され、前記混合物は、SiC単結晶種14上に析出し、SiC単結晶種14上でのSiC単結晶15の成長を引き起こす。キャリアガス、残りの還元ガス(水素)、およびさまざまなCl含有ガス状副生成物は、出口12を介して、アンプル10を出る。
【0040】
化学の点から見ると、
図1は、化学蒸気輸送のための古典的な構成を示し、Si蒸気18は、普通なら不揮発性である炭素に対する化学輸送剤の役目を果たす。
【0041】
本発明の例示的な、非限定の実施形態を、
図2を参照して説明する。
【0042】
(例示的な実施形態)
図2を参照すると、グラファイト製坩堝21は、以下の寸法を有して準備される。すなわち、直径は、望ましくは、100から200mm、高さは、望ましくは、150から250mm、壁厚は、望ましくは、8から16mmである。坩堝21は、ガス入口23a、23b、1つまたは複数のガス出口24、および蓋22を備える。多孔グラファイト製支持板25は、複数の貫通孔25aを有し、例えば、坩堝21の中間部分の辺りで、蓋22と坩堝21の底29との間に配置される。
【0043】
グラファイト製坩堝21およびグラファイト製支持板25は、望ましくは、密度が1.82g/cm
3から1.95g/cm
3の、高密度、微粒子、低多孔性の純化グラファイトで作られる。適切なグラファイトの例には、Tokai USA(4495 NW 235th Ave, Hillsboro, OR 97124)から販売されているグレードG347およびG348がある。1ppm未満の灰分にハロゲンを精製した後、グラファイト製坩堝21およびグラファイト製支持板25を形成するグラファイトは、SiC結晶成長の高温(2000℃から2300℃)でシリコン蒸気による腐食に対して、高い安定性を実現する。すなわち、グラファイト製坩堝21およびグラファイト製支持板25を形成するグラファイト材料は、腐食による損失が坩堝21および板25のそれぞれの初期重量の2%を超えずに、十分長い時間(100時間まで)、Si蒸気による腐食に耐えることができる。
【0044】
坩堝21は、隙間を空けて配置された、固体炭素原料26およびSiC単結晶種28で充填される。SiC単結晶種28は、機械的付着および高温炭素質接着剤による接着などの、当分野で既知の手段を使用して、坩堝の蓋22に取り付けられる。固体炭素原料26は、グラファイト製支持板25に配置される。
【0045】
固体炭素原料26は、大きな比表面積を有する、純粋(または、実質的に純粋)で、多孔質の炭素原料である。一実施形態において、固体炭素原料26は、平均粒度(直径)が、望ましくは、0.5mmから6mm、見かけ密度が、望ましくは、0.4g/cm
3から1.0g/cm
3、および表面積が、望ましくは、200から2000m
2/gである、多孔質の炭素ペレット、球、および/または粒子の形態である。固体炭素原料26としての用途に適切な炭素材料の例には、Schunk Graphite Technology(W146 N9300 Held Drive, Menomonee Falls, WI 53051)から販売されている高純度炭素球FU4562、(これもSchunkから販売されている)高純度炭素ペレットFU 2602/35、およびCancarb(1702 Brier Park Crescent N.W.Medicine Hat, Alberta T1C 1T9 Canada)から販売されている高純度ペレット状カーボンブラックN990UPがある。高多孔性および大きな比表面積のため、固体炭素原料の上記例は、グラファイト製坩堝21およびグラファイト製支持板25を形成するために使用される高密度グラファイト材料と比較して、高温で炭素蒸気に向けて非常に高い反応性を示す。固体炭素原料26の純度は、望ましくは、99.999%以上であり、より望ましくは、99.9999%以上である。
【0046】
グラファイト製支持板25の貫通孔25aの直径は、前記貫通孔25aによって、ペレット、球、および/または粒子の形態の固体炭素原料26が、グラファイト製支持板25を通り抜けることを避ける、または防ぐことができ、一方で、ガス流が、グラファイト製支持板25を越えることを容易にするまたは可能にする大きさである。一実施形態において、グラファイト製支持板25の厚さは、3から6mmであり、各貫通孔25aの直径は、0.4から4mmである。
【0047】
SiC単結晶種28および固体炭素原料26で充填されたグラファイト製坩堝21は、チャンバ30の内側に配置され、断熱材32によって囲まれる。断熱材32は、グラファイトフェルトまたはグラファイトフォームなどの、軽量繊維状グラファイトで作られる。一実施形態において、チャンバ30は、水冷式であり、溶融シリカで作られる。加熱手段34は、坩堝21をSiC成長温度に加熱するために利用される。実施形態において、加熱手段34は、外部RFコイルまたは内部抵抗加熱器によって実現してもよい。
【0048】
結晶成長の準備のため、チャンバ30は、真空ポンプを使用して排気され、入口36を通じてアルゴンを供給することにより、所望の圧力になるよう満たされる。ガス入口36を介してチャンバ30に導入されるアルゴンガスの流れと、チャンバ30の出口38に接続された真空ポンプの動作とを制御することによって、チャンバ30、したがって、坩堝21の内部のAr圧力は、望ましくは、50から300Torrの圧力に制御される。
【0049】
固体炭素原料26およびSiC単結晶種28で充填された坩堝21は、加熱手段34を介して、SiC結晶成長温度に加熱され、その温度は、望ましくは、2000℃から2300℃である。望ましくは30℃から150℃の温度勾配が、比較的温度の高い固体炭素原料26および比較的温度の低いSiC単結晶種28との間に確立されるよう、加熱される。
【0050】
SiCl
4およびH
2のプロセスガスが、入口23aおよび23bをそれぞれ介して、加熱されたグラファイト製坩堝21に供給される。すなわち、アルゴン等のキャリアガスが、入口23aを介してグラファイト製坩堝21に入り、ガス状SiCl
4の添加剤を搬送する。SiCl
4送達の手段は、当分野で既知である(例えば、M.Fanton “Growth of Single Crystal Silicon Carbide by Halide Chemical Vapor Deposition” Ph.D.Thesis, 2007, Penn State University参照)。一実施形態において、液体SiCl
4(
図2では、項目40として示す)は、20℃未満の温度で維持されるバブラ42内に配置され、一方、液体SiCl
4を通る際に泡状になるガス状アルゴン44は、SiCl
4蒸気を成長用坩堝21にもたらすために使用される。
【0051】
一実施形態において、バブラ42に供給されるArキャリアガスの質量流量は、望ましくは、60sccmから350sccmであり、バブラ42に含有される液体SiCl
4蒸気の温度は、望ましくは、14℃から18℃であり、成長用坩堝21に供給されるSiCl
4の質量流量は、望ましくは、ほぼ1gから6gのSiの、時間毎のSi送達速度に対応する、12seemから70seemのSiCl
4である。水素H
2は、望ましくは、70seemから300seemの流量で、入口23bを通って坩堝に入る。
【0052】
SiCl
4蒸気およびH
2ガスは、成長用坩堝21内で、反応域46において、混合される。反応域46内にある間、SiCl
4蒸気およびH
2ガスは、化学反応で析出し、Si蒸気の形態の元素SiにSiCl
4を化学還元させる。単純化された形式では、これらの反応は、以下の要約反応として表すことができる。
【0053】
SiCl
4(蒸気)+2H
2(ガス)→Si(蒸気)+4HCl(ガス)
矢印48として示される、生成されたSi蒸気は、ガス入口23aおよび23bに導入されるプロセスガスの流れによって上方に輸送され、有孔のグラファイト製支持板25に作られた貫通孔25aを通る。
【0054】
板25の上部の空間において、前記Si蒸気48は、固体炭素原料26と接触する。Si蒸気48は、固体炭素原料26の炭素と反応し、Si
2CおよびSiC
2のガス状分子を生成する。すべてのSi蒸気48が固体炭素原料26の炭素と反応するのではなく、蒸気相におけるSi
2C、SiC
2、およびSi蒸気の部分圧力が、平衡状態下で、三相SiC−Si−蒸気系の圧力に接近することが期待される。
【0055】
Si
2C、SiC
2、およびSi蒸気の混合物(
図2では、矢印50で示す)は、ガス入口23aおよび23bに導入されたプロセスガスの流れによって、SiC単結晶種28に向けて、さらに輸送される。SiC単結晶種28との接触時に、Si
2C、SiC
2、およびSi蒸気50は、前記SiC単結晶種28で析出し、SiC単結晶種28でSiC単結晶52の成長を引き起こす。
【0056】
SiC単結晶種28上でSiベアリングおよびCベアリング蒸気を析出して成長するSiC単結晶52を形成するのに続き、キャリアガス(例えば、Ar)、余剰水素H
2、塩化水素ガスHCl、およびさまざまなガス状副生成物が、1つまたは複数の出口24を介して、成長用坩堝21を出る。チャンバ30のガス出口38で動作する真空ポンプの影響で、キャリアガス、余剰水素H
2、HCl、およびすべてのガス状副生成物は、チャンバ30から除去される。ガス状副生成物は、SiCl
2、SiCl
4、およびSiHClなどの、ClおよびSi−H−Cl群を含む、少量の、さまざまな分子を含むことができる。
【0057】
上記の方法は、ドーピングされたSiC単結晶52の成長のために利用することができる。n型SiC単結晶の成長の場合、窒素(N
2)ガスでのドーピングを用いることができる。これを実現するために、所望の量のN
2を、ガス入口23aに導入されるキャリアガス(Ar)の流れに加えることができる。あるいは、N
2を、ガス入口23bに導入される水素ガスの流れに加えることができる。
【0058】
p型SiC単結晶の成長の場合、アルミニウムでのドーピングを用いることができる。これには、トリメチルアルミニウム(TMA,C
3H
9Al)などの、ガス状Al前駆体が必要となる。アルミニウムドープSiC単結晶52を成長させるために、所望の量のガス状TMAを、ガス入口23bを介してグラファイト成長用坩堝21に導入されるH
2の流れに加えることができる。
【0059】
半絶縁性SiC単結晶の成長の場合、バナジウムでのドーピングを用いることができる。これには、四塩化バナジウムVCl
4などの、ガス状塩素化バナジウム前駆体が必要となる。バナジウムドープ結晶を成長させるために、所望の量のガス状VCl
4を、ガス入口23aを介してグラファイト成長用坩堝21に導入する前に、SiCl
4を搬送するキャリアガス(Ar)の流れに加えることができる。
【0060】
本発明は、添付図面を参照して説明した。前述の詳細な記述を読み、理解すると、明らかな変形および変更を、他に想到するだろう。本発明は、添付の特許請求の範囲または同等物の範囲内にある限り、すべてのそのような変形および変更を含むものとして解釈されることが意図される。