(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した多層階建てのユニット式建物では、上階部の床部に物が落下する等して衝撃音(床衝撃音)が発生した場合、その床衝撃音が階間空間を通じて拡散することが想定される。その場合、その床衝撃音が階間空間を通じて下階部の広範囲に伝わるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、下階部と上階部とを有する多層階建てのユニット式建物において、上階部で発生した床衝撃音が下階部に広く伝わるのを抑制することができる建物の吸音構造を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、第1の発明の建物の吸音構造は、下階部と、その下階部の上方に隣接する上階部とを備え、前記下階部は、複数の下階ユニットが並設されることにより構成され、前記上階部は、複数の上階ユニットが並設されることにより構成され、前記下階部と前記上階部との間の階間部分には、前記下階部の天井面材と前記上階部の床面材との間の空間である階間空間が形成されており、前記階間空間では、前記下階ユニットの下階天井大梁と前記上階ユニットの上階床大梁とが上下に対向配置され、該対向配置された各大梁により階間大梁部が構成されており、前記階間空間は、上下に隣接する前記下階ユニット及び前記上階ユニットのユニット境界部ごとに、前記階間大梁部により複数のユニット階間空間部に区画されており、前記階間大梁部を構成する前記下階天井大梁及び前記上階床大梁はいずれも前記ユニット階間空間部に開放された溝部を有する形鋼からなるユニット式建物に適用され、隣り合う前記ユニット階間空間部の境界部に位置する前記階間大梁部は境界階間大梁部であり、その境界階間大梁部には、前記下階天井大梁及び前記上階床大梁の各溝部にそれぞれ吸音材がそれら大梁に沿って配設されていることを特徴とする。
【0008】
多層階建てのユニット式建物において、下階部の天井面材と上階部の床面材との間の階間空間では、下階ユニットの下階天井大梁と上階ユニットの上階床大梁とが上下に対向配置され、それら対向配置された両大梁により階間大梁部が構成されている。この場合、階間空間は、上下に隣接する下階ユニット及び上階ユニットのユニット境界部ごとに、階間大梁部によって複数のユニット階間空間部に区画されている。階間大梁部を構成する下階天井大梁及び上階床大梁はいずれも溝部を有する形鋼からなり、その溝部をユニット階間空間部に向けて配設されている。
【0009】
このような多層階建てのユニット式建物において、本発明では、隣り合うユニット階間空間部の境界部に位置する階間大梁部(境界階間大梁部)に着目し、その階間大梁部を構成する下階天井大梁及び上階床大梁の各溝部に吸音材を配設している。この場合、それらの吸音材が隣り合うユニット階間空間部の境界部においてそれらユニット階間空間部のうち一方のユニット階間空間部に面して配置されるため、階間空間において当該一方のユニット階間空間部から他方のユニット階間空間部へ拡散される音を吸音材により吸収することができる。これにより、階間空間における音の拡散を抑制することができるため、上階部で生じた床衝撃音が階間空間を通じて下階部に広く伝わるのを抑制することができる。
【0010】
第2の発明の建物の吸音構造は、第1の発明において、前記隣り合うユニット階間空間部の境界部では、それら各ユニット階間空間部をそれぞれ区画する一対の前記境界階間大梁部が隣接配置されており、前記一対の境界階間大梁部ではそれぞれ、前記下階天井大梁及び前記上階床大梁の各溝部に前記吸音材が配設されていることを特徴とする。
【0011】
隣り合うユニット階間空間部の境界部では、それら各ユニット階間空間部をそれぞれ区画する一対の境界階間大梁部が隣接配置されている。この場合、それら一対の境界階間大梁部では、下階天井大梁及び上階床大梁の各溝部がそれぞれ各ユニット階間空間部に向けて開放されている。そこで本発明では、それら一対の境界階間大梁部に対してそれぞれ、下階天井大梁及び上階床大梁の各溝部に吸音材を配設している。この場合、吸音材が隣り合うユニット階間空間部のそれぞれに面して配置されるため、隣り合うユニット階間空間部のうち一方から他方に拡散される音、及び、他方から一方に拡散される音のそれぞれを吸音材により吸収することができる。これにより、階間空間における音の拡散を双方向に抑制することができるため、上階部で生じた床衝撃音が階間空間を通じて下階部に広く伝わるのを好適に抑制することができる。
【0012】
第3の発明の建物の吸音構造は、第1又は第2の発明において、前記複数のユニット階間空間部のうち所定のユニット階間空間部は、その周囲が前記境界階間大梁部を含む複数の前記階間大梁部により囲まれており、前記複数の階間大梁部のそれぞれにおいて前記下階天井大梁及び前記上階床大梁の各溝部に前記吸音材が大梁に沿って配設されることで、前記所定のユニット階間空間部がそれら吸音材により囲まれた吸音空間部となっていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、(所定の)ユニット階間空間部を囲む複数の階間大梁部のそれぞれにおいて下階天井大梁及び上階床大梁の各溝部に吸音材が配設され、それにより、所定のユニット階間空間部がそれら吸音材により囲まれた吸音空間部となっている。この場合、その吸音空間部では、音を各吸音材により吸収して減衰させることができるため、上階部から下階部に階間空間(吸音空間部)を通じて伝わる床衝撃音の低減を図ることができる。
【0014】
また、吸音空間部はその周囲が吸音材により囲まれているため、吸音空間部と隣接する各ユニット階間空間部それぞれへの音の拡散を抑制することができる。この場合、階間空間における音の拡散をより一層抑制することができるため、上階部からの床衝撃音が階間空間を通じて下階部に広く伝わるのをより一層抑制することができる。
【0015】
第4の発明の建物の吸音構造は、第3の発明において、前記下階部には、前記天井面材の下方空間として下階居室が設けられており、前記下階居室の上方に位置する前記ユニット階間空間部が前記吸音空間部とされていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、下階居室の上方に位置するユニット階間空間部が吸音空間部とされているため、上階部からの床衝撃音はその吸音空間部において吸音され減衰された後、下階居室に伝わることになる。これにより、居住者が滞在することの多い下階居室に伝わる床衝撃音について低減を図ることができる。
【0017】
第5の発明の建物の吸音構造は、第3又は第4の発明において、前記上階部には、前記床面材の上方空間として上階居室又は廊下のいずれかである音発生空間が設けられており、前記音発生空間の下方に位置する前記ユニット階間空間部が前記吸音空間部とされていることを特徴とする。
【0018】
居住者が滞在したり移動したりする居室や廊下では、他の部屋と比べて床衝撃音が発生し易いと考えられる。そこで本発明では、この点に鑑み、上階部に設けられた居室(上階居室)又は廊下のいずれか(音発生空間)の下方に位置するユニット階間空間部を吸音空間部としている。この場合、音発生空間にて床衝撃音が発生した場合、その音が下方の吸音空間部において吸音され減衰されるため、音発生空間から下階部に伝わる床衝撃音を好適に抑制することができる。
【0019】
第6の発明の建物の吸音構造は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記下階部には、前記天井面材の下方空間として下階居室が設けられ、前記上階部には、前記床面材の上方空間として上階居室又は廊下のいずれかである音発生空間が設けられ、前記音発生空間は、前記下階居室の真上位置とは異なる位置に配置され、前記ユニット階間空間部として、前記下階居室の上方には第1ユニット階間空間部が設けられ、前記音発生空間の下方には第2ユニット階間空間部が設けられ、前記第1ユニット階間空間部と前記第2ユニット階間空間部との間において当該第2ユニット階間空間部を区画する前記境界階間大梁部には、前記下階天井大梁及び前記上階床大梁の各溝部に前記吸音材が配設されていることを特徴とする。
【0020】
ところで、上階部に設けられた居室(上階居室)や廊下が、下階部に設けられた居室(下階居室)の真上位置とは異なる位置に配置されている構成であっても、上階居室や廊下で生じた床衝撃音が階間空間を通じて下階居室に伝わるおそれはある。そこで本発明では、この点に鑑みて、下階部に設けられた下階居室の上方に位置するユニット階間空間部(以下、第1ユニット階間空間部という)と、上階部に設けられた上階居室又は廊下のいずれか(音発生空間)の下方に位置するユニット階間空間部(以下、第2ユニット階間空間部という)との間において当該第2ユニット階間空間部を区画する境界階間大梁部に対し同大梁部を構成する下階天井大梁及び上階床大梁の各溝部に吸音材を配設している。この場合、第2ユニット階間空間部から第1ユニット階間空間部に拡散される床衝撃音を吸音材により吸収することができるため、かかる音の拡散を抑制することができる。これにより、音発生空間で生じた床衝撃音が階間空間(詳しくは第1及び第2ユニット階間空間部)を通じて下階居室に伝わるのを抑制することができる。
【0021】
第7の発明の建物の吸音構造は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記境界階間大梁部を構成する前記下階天井大梁及び前記上階床大梁のうち少なくともいずれかには梁貫通孔が形成されており、前記各大梁のうち前記梁貫通孔が形成された大梁の前記溝部には、前記吸音材が前記梁貫通孔を塞ぐように配設されていることを特徴とする。
【0022】
階間空間において境界階間大梁部を構成する下階天井大梁及び上階床大梁には、配線や配管等を通すために梁貫通孔が形成されている場合がある。この場合、隣り合うユニット階間空間部の間で音が梁貫通孔を通じて拡散され易い(漏れ易い)。そこで本発明では、この点に鑑み、境界階間大梁部を構成する下階天井大梁及び上階床大梁のうち梁貫通孔が形成されている大梁の溝部には吸音材を当該梁貫通孔を塞ぐように配設している。これにより、梁貫通孔を通じた音の拡散(音漏れ)を好適に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、鉄骨ラーメン構造を有する二階建てのユニット式建物において本発明を具体化している。
図1はユニット式建物の概要を示す斜視図であり、
図2は建物ユニット20の構成を示す斜視図である。
【0025】
図1に示すように、住宅等の建物10は、基礎11上に設けられた建物本体12と、その上方に設けられた屋根部13とを備える。建物本体12は、下階部としての一階部分14と、上階部としての二階部分15とを有する二階建てであり、複数の建物ユニット20が互いに連結されることにより構成されている。建物ユニット20は製造工場においてあらかじめ製造され、その後施工現場にトラック等により運搬されるものとなっている。
【0026】
なお、以下の説明では、一階部分14を構成する建物ユニット20を「下階ユニット20A」ともいい、二階部分15を構成する建物ユニット20を「上階ユニット20B」ともいう。また、下階ユニット20Aと上階ユニット20Bとは上下に1対1の関係で配設されている。
【0027】
図2には建物ユニット20の斜視図を示す。
図2に示すように、建物ユニット20は、その四隅に配設される4本の柱21と、各柱21の上端部及び下端部をそれぞれ連結する各4本の天井大梁22及び床大梁23とを備えている。この場合、それら柱21、天井大梁22及び床大梁23により直方体状の骨格(フレーム)が形成されている。柱21は四角筒状の角形鋼よりなる。天井大梁22及び床大梁23は断面コ字状の溝形鋼よりなり、その溝部22a,23aを水平方向の内側に向けて設置されている。また、天井大梁22(詳細には、そのウエブ)には、複数の箇所に梁貫通孔22bが設けられている。
【0028】
建物ユニット20の長辺部の相対する天井大梁22の間には、所定間隔で複数の天井小梁25が架け渡されている。同じく建物ユニット20の長辺部の相対する床大梁23の間には、所定間隔で複数の床小梁26が架け渡されている。天井小梁25と床小梁26とはそれぞれ同間隔でかつ各々上下に対応する位置に設けられている。例えば、天井小梁25はリップ溝形鋼よりなり、床小梁26は角形鋼よりなる。天井小梁25によって天井面材27が支持され、床小梁26によって床面材28が支持されている。
【0029】
次に、建物10の間取りについて説明する。
図3は(a)が一階部分14の間取りを示す平面図であり、(b)が二階部分15の間取りを示す平面図である。
【0030】
まず、一階部分14の間取りについて説明する。
図3(a)に示すように、一階部分14には、屋内空間(一階空間部)として、玄関31と、玄関ホール32と、リビングダイニング33(LD)と、キッチン34と、浴室35と、洗面室36と、トイレ37と、廊下38とが設けられている。リビングダイニング33は、キッチン34と連続して設けられており、キッチン34とともに連続空間を形成している。リビングダイニング33は、互いの桁面(長辺側の側面)同士を向き合わせて隣り合う2つの建物ユニット20(すなわち下階ユニット20A)の内部に跨がって形成されている。詳しくは、リビングダイニング33は、上記2つの下階ユニット20Aのうち屋外側に配置された下階ユニット20Aの内部空間全域と、屋内側に配置された下階ユニット20Aの内部空間の一部とを用いて形成されている。なお、リビングダイニング33が下階居室に相当する。
【0031】
続いて、二階部分15の間取りについて説明する。
図3(b)に示すように、二階部分15には、屋内空間(二階空間部)として、居室41と、寝室42と、トイレ43と、廊下44とが設けられている。居室41は、子供部屋として用いられている。居室41には、子供が利用する学習机47やベッド48等が設けられている。居室41は、一階部分14のリビングダイニング33の上方(真上)に位置している。居室41は、互いの桁面(長辺側の側面)同士を向き合わせて隣り合う2つの建物ユニット20(すなわち上階ユニット20B)の内部に跨がって形成されており、詳しくはそれら2つの上階ユニット20Bの内部空間全域を用いて形成されている。また、これら2つの上階ユニット20Bはそれぞれリビングダイニング33を形成する2つの下階ユニット20Aの上方に配設されている。なお、居室41が上階居室及び音発生空間に相当する。
【0032】
廊下44は、居室41及び寝室42にそれぞれ通じているとともに、一階部分14へ延びる階段39にも通じている。廊下44は、ホールとしても利用可能な比較的広いスペースを有して形成されており、その壁際には机49が設けられている。なお、廊下44が音発生空間に相当する。
【0033】
廊下44は、一の上階ユニット20Bの内部空間(詳しくはその一部)を用いて形成されている。廊下44を形成する上階ユニット20Bは、居室41を形成する上記2つの上階ユニット20Bのうち屋内側に配置された上階ユニット20Bと互いの桁面を向き合わせた状態で隣り合っている。
【0034】
次に、一階部分14と二階部分15との間の階間部分の構成について
図4に基づいて説明する。
図4は、階間部分周辺の構成を示す縦断面図である。なお、
図4は、階間部分周辺を
図3(a)のA−A線及び
図3(b)のB−B線で切断した断面図に相当する。
【0035】
図4に示すように、一階部分14の一階空間部31〜38と二階部分15の二階空間部41〜44とは階間部分16により上下に仕切られている。階間部分16は、一階空間部31〜38の天井部と、二階空間部41〜44の床部とを含んで構成されている。
【0036】
階間部分16における一階空間部31〜38の天井部の構成として、下階ユニット20Aの天井大梁22(以下、この符号にAを付す)の下面には当該天井大梁22Aに沿って野縁51が取り付けられている。野縁51の下面には天井面材27がビス等で固定されている。天井面材27は、二枚重ねされた石膏ボードにより構成されている。また、隣り合う天井面材27の間にはそれら両天井面材27を繋ぐ天井繋ぎ面材52が設けられている。天井繋ぎ面材52は、天井面材27と同じ二枚重ねの石膏ボードにより構成され、天井面材27と同じ厚みを有している。天井繋ぎ面材52は、隣り合う下階ユニット20Aの隣接する各天井大梁22Aの野縁51の下面に跨がって配設され、それら野縁51に対してビス等で固定されている。なお、天井大梁22Aが下階天井大梁に相当する。
【0037】
階間部分16における二階空間部41〜44の床部の構成として、上階ユニット20Bの床大梁23(以下、この符号にBを付す)の上面には当該床大梁23Bに沿って根太54が設けられている。根太54の上面には床面材28がビス等で固定されている。床面材28は、パーティクルボードにより構成されている。また、隣り合う床面材28の間にはそれら両床面材28を繋ぐ床繋ぎ面材55が設けられている。床繋ぎ面材55は、床面材28と同じパーティクルボードにより構成され、床面材28と同じ厚みを有している。床繋ぎ面材55は、隣り合う上階ユニット20Bの隣接する各床大梁23Bの根太54の上面に跨がって配設され、それら根太54に対してビス等で固定されている。なお、床大梁23Bが上階床大梁に相当する。
【0038】
階間部分16において一階空間部31〜38(一階部分14)の天井面材27,52と二階空間部41〜44(二階部分15)の床面材28,55の間の空間は階間空間18となっている。階間空間18は、複数の下階ユニット20A及び上階ユニット20Bに跨がって水平方向に拡がるように形成されている。階間空間18は、天井面材27,52により一階空間部31〜38と区画され、床面材28,55により二階空間部41〜44と区画されている。
【0039】
なお、この場合、一階空間部31〜38が一階部分14における天井面材27,52の下方空間に相当し、二階空間部41〜44が二階部分15における床面材28,55の上方空間に相当する。
【0040】
二階部分15には、居室41と廊下44とを仕切る間仕切壁57が設けられている。また、一階部分14のリビングダイニング33と二階部分15の居室41とは外壁部58により屋外と仕切られている。外壁部58は、一階部分14及び二階部分15にそれぞれ外壁パネル61と内壁パネル62とを有し、外壁パネル61と内壁パネル62との間にはグラスウールからなる壁内断熱材(図示略)が配設されている。
【0041】
続いて、階間空間18の内部構成について詳しく説明する。
【0042】
階間空間18では、上下に隣接する下階ユニット20A及び上階ユニット20Bについて、その下階ユニット20Aの天井大梁22Aとその上階ユニット20Bの床大梁23Bとが上下に対向して配置されている。具体的には、下階ユニット20Aの(4本の)各天井大梁22Aと上階ユニット20Bの(4本の)各床大梁23Bとがそれぞれ上下に対向して配置されている。この場合、上下に隣接する下階ユニット20A及び上階ユニット20Bの境界部(以下、ユニット境界部ともいう)では、上下に対向する天井大梁22A及び床大梁23Bからなる階間大梁部65が四辺に配置されている。
【0043】
ユニット境界部には、周囲が複数(4辺)の階間大梁部65により区画されたユニット階間空間部67が形成されている。ユニット階間空間部67は、下階ユニット20Aの天井面材27と上階ユニット20Bの床面材28との間において上記複数の階間大梁部65により囲まれた空間となっている。ユニット階間空間部67は、階間空間18において上記ユニット境界部ごとに形成されている。換言すると、階間空間18は、階間大梁部65により上記ユニット境界部ごとに複数のユニット階間空間部67に区画されている。
【0044】
ユニット階間空間部67を囲む各階間大梁部65ではそれぞれ、当該大梁部65を構成する天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aがユニット階間空間部67に向けて開放されている。この場合、隣り合うユニット階間空間部67の境界部では一対の階間大梁部65が隣接配置されているが、それら一対の階間大梁部65のうち一方の階間大梁部65を構成する天井大梁22A及び床大梁23Bと、他方の階間大梁部65を構成する天井大梁22A及び床大梁23Bとは、互いの溝部22a,23aを反対側に向けて(換言すると互いのウェブを対向させて)配設されている。
【0045】
なお、以下の説明では、隣り合うユニット階間空間部67の境界部に配置された階間大梁部65の符号にaを付し、建物10の外周部に配設された階間大梁部65の符号にbを付す。この場合、階間大梁部65aが境界階間大梁部に相当し、階間大梁部65bが屋外側階間大梁部に相当する。
【0046】
ところで、本建物10では、階間大梁部65を構成する天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aにそれぞれグラスウールを吸音材として配設し、それにより階間空間18に吸音構造を構築している。以下においては、かかる吸音構造について
図4に加え
図5を用いながら説明する。
図5は、グラスウールの配設状態を説明するための図である。なお、
図5では、グラスウール69が配設されている階間大梁部65a.65bをドットハッチを付して示している。
【0047】
図4及び
図5に示すように、階間部分16に形成された各ユニット階間空間部67のうち、一階部分14のリビングダイニング33と二階部分15の居室41との間に位置する2つのユニット階間空間部67a,67bについては、その周囲に設けられた各階間大梁部65を構成する天井大梁22A及び床大梁23の各溝部22a,23aにそれぞれグラスウール69が配設されている。グラスウール69は、吸音性能に優れた吸音材である。グラスウール69は、大梁22A,23Bに沿った長尺状に形成され、大梁22A,23Bの長手方向全域に亘って配設されている。また、グラスウール69は、溝部22a,23aを埋めるようにして配設され、その配設状態で大梁22A,23Bの溝部22a,23aを囲む上下のフランジ及びウェブにそれぞれ接触(当接)している。したがって、天井大梁22Aの溝部22aに配設されたグラスウール69については、ウェブに形成された梁貫通孔22bを塞いだ状態で配設されている。
【0048】
なお、各ユニット階間空間部67a,67bのうち、ユニット階間空間部67aが(ユニット短手方向で見て)屋外側に位置し、ユニット階間空間部67bが屋内側に位置している。また、ユニット階間空間部67bが第1ユニット階間空間部に相当する。
【0049】
上記の構成では、各ユニット階間空間部67a,67bがそれぞれ、周囲(4辺)を各階間大梁部65a,65b(天井大梁22A及び床大梁23)に配設されたグラスウール69により囲まれている。そのため、これらのユニット階間空間部67a,67bはそれぞれ吸音空間部となっている。また、各階間大梁部65a,65bのうち屋外側の階間大梁部65bに配設されたグラスウール69については、吸音材として用いられているだけでなく、断熱材としても用いられている。つまり、このグラスウール69は、天井大梁22A及び床大梁23Bが熱橋となるのを抑制する梁内断熱材としても用いられている。
【0050】
なお、吸音材としては、必ずしもグラスウール69を用いる必要はなく、ロックウールやフェルト等、他の吸音材を用いてもよい。
【0051】
二階部分15の廊下44の下方に位置するユニット階間空間部67(以下、この符号にcを付す)は、ユニット階間空間部67bに隣接している。このユニット階間空間部67cを囲む各階間大梁部65a,65bのうち、ユニット階間空間部67b側に配置された階間大梁部65a、すなわち隣り合うユニット階間空間部67b、67cの境界部に位置する階間大梁部65aには、その天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aにグラスウール69(吸音材に相当)が配設されている。グラスウール69は、大梁22A,23Bに沿った長尺状に形成され、大梁22A,23Bの長手方向全域に亘って配設されている。この場合、隣り合うユニット階間空間部67b、67cの境界部にて隣接配置された一対の各階間大梁部65aにはそれぞれ、天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aにグラスウール69が配設されている。なお、ユニット階間空間部67cが第2ユニット階間空間部に相当する。
【0052】
また、階間部分16における各階間大梁部65a,65bのうち、屋外側の階間大梁部65bについてはその全部において(つまり、上述したユニット階間空間部67a,b周りの階間大梁部65bだけでなく)、天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aにグラスウール69が配設されている。これらのグラスウール69は、吸音材として用いられているだけでなく、断熱材としても用いられており、詳しくは大梁22A,23Bの熱橋を抑制する梁内断熱材としても用いられている。
【0053】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0054】
隣り合うユニット階間空間部67の境界部に位置する階間大梁部65aについて、同大梁部65aを構成する天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aにそれぞれグラスウール69を吸音材として配設した。この場合、それらのグラスウール69が隣り合うユニット階間空間部67の境界部においてそれらユニット階間空間部67のうち一方のユニット階間空間部67に面して配置されるため、階間空間18において当該一方のユニット階間空間部67から他方のユニット階間空間部67へ拡散される音をグラスウール69により吸収することができる。これにより、階間空間18における音の拡散を抑制することができるため、二階部分15(二階空間部)で生じた床衝撃音が階間空間18を通じて一階部分14(一階空間部)に広く伝わるのを抑制することができる。
【0055】
ところで、隣り合うユニット階間空間部67の境界部(例えば隣り合うユニット階間空間部67a,67bの境界部や、隣り合うユニット階間空間部67b,67cの境界部)では、それらユニット階間空間部67をそれぞれ区画する一対の階間大梁部65aが隣接配置されている。この場合、それら一対の階間大梁部65aでは、天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aがそれぞれ各ユニット階間空間部67に向けて開放されている。そこで上記の実施形態では、この点に鑑みて、それら一対の階間大梁部65aに対してそれぞれ、天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aにグラスウール69を配設した。この場合、グラスウール69が隣り合うユニット階間空間部67のそれぞれに面して配置されるため、隣り合うユニット階間空間部67のうち一方から他方に拡散される音、及び、他方から一方に拡散される音のそれぞれをグラスウール69により吸収することができる。これにより、階間空間18における音の拡散を双方向に抑制することができるため、二階部分15で生じた床衝撃音が階間空間18を通じて一階部分14に広く伝わるのを好適に抑制することができる。
【0056】
ユニット階間空間部67a,67bの周囲を囲む(4辺の)各階間大梁部65a,65bのそれぞれについて、天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aにグラスウール69を配設した。この場合、これらのユニット階間空間部67a,67bについては、周囲がグラスウール69により囲まれた吸音空間部となる。これにより、その吸音空間部(ユニット階間空間部67a,67b)では、音を各グラスウール69により吸収して減衰させることができるため、二階部分15から一階部分14に階間空間18(吸音空間部)を通じて伝わる床衝撃音について低減を図ることができる。
【0057】
また、吸音空間部(ユニット階間空間部67a,67b)はその周囲がグラスウール69により囲まれているため、吸音空間部67a,67bと隣接する各ユニット階間空間部67それぞれへの音の拡散を抑制することができる。この場合、階間空間18における音の拡散をより一層抑制することができるため、二階部分15からの床衝撃音が階間空間18を通じて一階部分14に広く伝わるのをより一層抑制することができる。
【0058】
リビングダイニング33の上方(真上)に位置するユニット階間空間部67a,67bを吸音空間部としたため、二階部分15からの床衝撃音は同空間部67a,67bにて吸音されて減衰された後、リビングダイニング33に伝達されることになる。これにより、居住者が滞在することの多いリビングダイニング33へ伝わる床衝撃音の低減を図ることができる。
【0059】
二階部分15の居室41は居住者が滞在する場であるため、他の部屋(例えばトイレ43)と比べて床衝撃音が発生し易いと考えられる。特に、居室41が子供部屋として用いられる場合、それが顕著になると考えられる。そこで、上記の実施形態では、この点に鑑み、居室41の下方(真下)に位置するユニット階間空間部67a,67bを吸音空間部とした。この場合、居室41で床衝撃音が発生すると、その音が下方のユニット階間空間部67a,67b(つまり吸音空間部)において吸音され減衰されるため、居室41から一階部分14に伝わる床衝撃音を好適に抑制することができる。
【0060】
二階部分15の廊下44は居住者が移動する際に用いられる移動空間であるため、床衝撃音が発生し易いと考えられる。ここで、廊下44が一階部分14のリビングダイニング33の真上位置とは異なる位置に配置されている上述の構成であっても、廊下44で床衝撃音が生じた場合、その床衝撃音が階間空間18を通じてリビングダイニング33に伝わるおそれがある。そこで上記の実施形態では、この点に鑑み、廊下44の下方(真下)に位置するユニット階間空間部67cと、リビングダイニング33の上方(真上)に位置するユニット階間空間部67bとの間(境界部)においてユニット階間空間部67cを区画する階間大梁部65aに対して、その天井大梁22A及び床大梁23Bの各溝部22a,23aにグラスウール69を配設した。この場合、ユニット階間空間部67cからユニット階間空間部67bに拡散される床衝撃音をそのグラスウール69により吸収することができるため、かかる音の拡散を抑制することができる。これにより、廊下44で生じた床衝撃音が階間空間18(詳しくはユニット階間空間部67b,67c)を通じてリビングダイニング33へ伝わるのを抑制することができる。
【0061】
階間大梁部65aを構成する天井大梁22Aの溝部22aには、当該天井大梁22Aに形成された梁貫通孔22bを塞ぐようにしてグラスウール69を配設した。この場合、梁貫通孔22bを通じた音(床衝撃音)の拡散(音漏れ)を好適に抑制することができる。
【0062】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、居室41の下方に位置する各ユニット階間空間部67a,67bをそれぞれ吸音空間部としたが、これら各ユニット階間空間部67a,67bのうちいずれか一方だけを吸音空間部としてもよい。また、廊下44の下方に位置するユニット階間空間部67cを吸音空間部としてもよい。この場合、廊下44で床衝撃音が発生した場合、その音がユニット階間空間部67cにおいて吸収され減衰されるため、廊下44から一階部分14(一階空間部31〜38)に伝わる床衝撃音を好適に抑制することができる。
【0064】
・居室41の下方に位置する両ユニット階間空間部67a,67b(全体)の外周部に位置する階間大梁部65(詳しくは天井大梁22A及び床大梁23B)に対してのみグラスウール69を配設するようにしてもよい。その場合にも、ユニット階間空間部67a,67b全体がグラスウール69により囲まれるため、これらユニット階間空間部67a,67bにおいて好適に床衝撃音を吸収する(減衰させる)ことができる。
【0065】
・隣り合うユニット階間空間部67b,67cの境界部で隣接する一対の階間大梁部65aのうち、ユニット階間空間部67bを区画する階間大梁部65aに対してグラスウール69を設けないようにしてもよい。その場合でも、ユニット階間空間部67cを区画する階間大梁部65aに設けられたグラスウール69によりユニット階間空間部67cからユニット階間空間部67bへの音の拡散を抑制することができるため、廊下44からの床衝撃音がこれらのユニット階間空間部67b,67cを通じてリビングダイニング33に伝わるのを抑制することができる。
【0066】
・天井大梁22Aに梁貫通孔22bが設けられていることに代えて又は加えて、床大梁23Bに梁貫通孔が設けられている場合もある。その場合、その床大梁23Bの溝部23aにグラスウール69を梁貫通孔を塞ぐようにして配設すればよい。
【0067】
・階間大梁部65において上下に対向する天井大梁22A及び床大梁23Bの間には所定の隙間(梁間隙間)が形成されているが、この梁間隙間にもグラスウールを吸音材として配設するようにしてもよい。その場合、隣り合うユニット階間空間部67の間における音の拡散をより一層抑制することができる。
【0068】
・例えば
図6に示すように、吸音空間部からなるユニット階間空間部67a,67bにおいて下階ユニット20Aの天井面材27の上方に天井吸音材としてのグラスウール71を配設してもよい。このグラスウール71は、所定の厚みを有する板状をなしており、天井面材27に沿って配設されている。グラスウール71は、その端部において天井大梁22Aの溝部22aに配設されたグラスウール69と接触している。詳しくは、グラスウール71は、ユニット階間空間部67a,67bを囲む4辺の天井大梁22Aに配設された各グラスウール69にそれぞれ接触している。つまり、グラスウール71は、各グラスウール69とそれぞれ連続させて設けられている。
【0069】
かかる構成によれば、吸音空間部(ユニット階間空間部67a,67b)において音を各グラスウール69に加えてグラスウール71によっても吸収することができるため、二階部分15から一階部分14に吸音空間部を通じて伝わる衝撃音をより一層低減させることができる。また、グラスウール71をグラスウール69に連続させたことによる吸音効果の向上も期待することができる。なお、天井吸音材としては、グラスウール71以外にロックウール等、他の吸音材を用いてもよい。
【0070】
・
図7(a)に示す建物75では、一の上階ユニット20Bがその下方に配置された下階ユニット20Aに対してセットバック(後退)させて配置されている。この場合、これら上下に隣接する下階ユニット20A及び上階ユニット20Bの境界部にはユニット階間空間部77が形成されている。このユニット階間空間部77と、同ユニット階間空間部77と隣り合うユニット階間空間部78との境界部には階間大梁部79が設けられ、その階間大梁部79を構成する天井大梁22A及び床大梁23Aの各溝部22a,23aにはグラスウール69が配設されている。この場合にも、ユニット階間空間部77からユニット階間空間部78へ拡散される音をグラスウール69により吸収することができるため、階間空間18における床衝撃音の拡散を抑制することができる。
【0071】
また、本例の構成では、セットバックされた上階ユニット20Bの屋外側の床大梁23Bが下階ユニット20Aの屋外側の天井大梁22Aよりも内方(ユニット内側)に配置され、それら各大梁22A,23Bが上下に対向配置されていない。このような構成にあって、それら各大梁22A,23Bの溝部22a,23aにはそれぞれグラスウール69が配設されている。それにより、ユニット階間空間部77を囲む4辺の天井大梁22A及び床大梁23の各溝部22a,23aにそれぞれグラスウール69が配設された状態となっている。