特許第6491554号(P6491554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491554
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】主桁の転倒防止装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
   E01D19/04 101
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-134172(P2015-134172)
(22)【出願日】2015年7月3日
(65)【公開番号】特開2017-14828(P2017-14828A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】木部 洋
(72)【発明者】
【氏名】中井 督介
(72)【発明者】
【氏名】松岡 勤
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−120290(JP,A)
【文献】 特開2004−218248(JP,A)
【文献】 特開平6−116913(JP,A)
【文献】 特開2004−84263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向に対向し、橋軸方向に互いに相対変位自在に分離した主桁を下部構造上で支持し、橋軸方向に対向する支承体間に跨って設置され、前記いずれか一方の支承体が、それが支持する前記主桁と共に前記下部構造に対して橋軸方向の軸回りに転倒することを防止する主桁の転倒防止装置であり、
前記対向する支承体の底面と前記下部構造の上面との間に、前記主桁の幅方向に並列して橋軸方向に沿って架設され、前記支承体に直接、もしくは間接的に接続される複数本の回転防止材を備えることを特徴とする主桁の転倒防止装置。
【請求項2】
少なくとも前記回転防止材の軸方向両端部に接合され、前記回転防止材と共に前記支承体の一部を高さ方向に挟み込む固定部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の主桁の転倒防止装置。
【請求項3】
前記回転防止材の軸方向両端部に接合され、前記主桁の幅方向に並列する複数個の前記固定部材は互いに連結され、一体化していることを特徴とする請求項2に記載の主桁の転倒防止装置。
【請求項4】
前記固定部材は前記回転防止材に重なって接合される接合部と、前記支承体の一部の上面に重なり、前記回転防止材と共に前記支承体の一部を高さ方向に挟み込む挟持部を持ち、この挟持部上に、高さ方向に距離を置いて対向する受け梁と、この上下に対向する受け梁を前記回転防止材の軸方向両端部寄りにおいて連結する支圧板を有する保持部材が接合され、前記回転防止材の軸方向両端部の前記保持部材の支圧板間につなぎ材が架設されていることを特徴とする請求項2、もしくは請求項3に記載の主桁の転倒防止装置。
【請求項5】
前記保持部材の前記受け梁の長さ方向両側は前記支承体に少なくとも前記主桁の幅方向に係合していることを特徴とする請求項4に記載の主桁の転倒防止装置。
【請求項6】
前記受け梁は、前記支承体を構成し、前記下部構造に固定された下沓にのみ、少なくとも前記主桁の幅方向に係合していることを特徴とする請求項5に記載の主桁の転倒防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋軸方向に対向し、互いに相対変位自在に分離した主桁を下部構造上で支持し、下部構造上で橋軸方向に対向する支承体間に跨って設置され、いずれか一方の支承体が、それが支持する主桁と共に橋軸方向の軸回りに転倒することを防止する主桁の転倒防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋軸方向に対向し、橋軸方向に互いに相対変位自在に分離した主桁(橋桁)は対向する側の端部において同一の橋脚等の下部構造上で橋軸方向に対向する支承体に支持される(特許文献1参照)。この同一の下部構造上で対向する主桁の、下部構造からの落下を防止する方法としては、対向する主桁の側面間に直接、引張力を負担するケーブル(PC鋼材)を架設し、端部を定着させる方法もあるが(特許文献2、3参照)、主桁が既存の場合、ケーブルの端部を定着させるための受け材を主桁に固定するために、主桁の内部にアンカーボルト等を埋設しなければならないことがある。
【0003】
しかしながら、主桁の内部には橋軸方向にプレストレスを導入するためのPC鋼材の他、コンクリートの補強のための鉄筋が多く混在していることがあるため、鉄筋との干渉とコンクリートへの損傷の面から主桁にアンカーボルト等を打ち込むことができないことがある。その場合、下部構造上で対向する支承体間にケーブルを架設し、支承体同士を連結することにより間接的に対向する主桁を連結せざるを得ない(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−120290号公報(段落0011〜0018、図1図4
【特許文献2】特開2007−262746号公報(図7
【特許文献3】特開2008−106451号公報(図7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では支承体の内、主桁に固定された上沓と下部構造に固定された下沓の間に橋軸方向を向いたケーブルを架設し、端部を下沓に定着させている(図1)。ここではケーブルを支承体の幅方向(主桁の幅方向(橋軸直角方向))の中央に1本、配置するだけであるため(段落0018、図1図4)、ケーブルは対向する支承体間に生じる引張力に抵抗することはできるものの、いずれか一方の支承体がその上の主桁と共に橋軸方向の軸回りに転倒(回転)しようとするときの捩りモーメントには抵抗することができない。
【0006】
例えば地震時等の水平力が対向する一方の主桁を橋軸方向の水平軸回りに回転させようとする力として作用したときには、主桁を支持する支承体ごと、他方の主桁に対して回転しようとすることが想定されるが、対向する支承体間に架設されているケーブルが1本では一方の主桁の回転を阻止することはできない。特許文献1を含め、通常の落橋防止装置は一方の主桁が橋軸方向の軸回りに回転する事態を想定していないため、このことに対応するだけの機能を備えていない。
【0007】
本発明は上記背景より、地震時等に一方の主桁が橋軸方向の水平軸回りに回転しようとするときに、その回転を阻止することを可能にする主桁の転倒防止装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明の主桁の転倒防止装置は、橋軸方向に対向し、橋軸方向に互いに相対変位自在に分離した主桁を下部構造上で支持し、橋軸方向に対向する支承体間に跨って設置され、前記いずれか一方の支承体が、それが支持する前記主桁と共に前記下部構造に対して橋軸方向の軸回りに転倒することを防止する主桁の転倒防止装置であり、
前記対向する支承体の底面と前記下部構造の上面との間に、前記主桁の幅方向に並列して橋軸方向に沿って架設され、前記支承体に直接、もしくは間接的に接続される複数本の回転防止材を備えることを構成要件とする。
【0009】
「対向する支承体の底面と下部構造の上面との間に」とは、図1に示すように回転防止材2が同一の下部構造9上で橋軸方向に対向する支承体7、7に跨り、両支承体7、7の底面と下部構造9の上面(天端面)との間に配置されることを言う。対向する支承体7、7の内、一方の支承体7を構成する下沓71と上沓72は橋軸方向に相対移動可能に接続され(可動支承)、他方の支承体7を構成する下沓71と上沓72は主桁8の幅方向(橋軸直角方向)の水平軸回りに回転自在に連結される(固定支承)。図1では右側の支承体7が可動支承を、左側の支承体7が固定支承を示している。ここでの可動支承と固定支承は後述の転倒しようとする一方の支承体7と、その支承体7の転倒を阻止しようとする他方の支承体7とは関係ない。下沓71と上沓72はそれぞれ下部構造9と主桁8に定着(固定)される。主桁8の幅方向は主に橋軸直角方向であるが、主桁8に支持される床版が長方形でない、例えば平行四辺形状の場合には床版の短辺方向を指す。
【0010】
いずれの支承体7においても下沓71は下部構造9の天端上に設置されるベースプレート11、敷きモルタル13等の支持部材上に載置され、支持部材と下沓71を貫通するアンカーボルト10で下部構造9に定着されることから、下沓71(支承体7)と下部構造9の天端との間には、支持部材の厚さ程度の空隙が生じている。回転防止材2はこの下沓71の底面と下部構造9の天端面との間に確保されている空隙を利用して両支承体7、7と下部構造9との間に差し込まれる。
【0011】
下部構造9は主に橋脚、または橋台を指す。一方の支承体7と他方の支承体7に区別はなく、以下では可動支承であるか固定支承であるかに関係なく、転倒しようとする支承体7を便宜的に一方の支承体7と言い、一方の支承体7の転倒に拘わらず、下部構造9に定着された状態を維持しようとする支承体7を他方の支承体7と言う。「回転防止材が橋軸方向に沿って架設される」とは、回転防止材2の軸方向が橋軸方向と平行であるか、平行に近い状態、例えば回転防止材2の軸線と橋軸方向とのなす角度が15度程度以下にあることを言う。回転防止材2の軸方向が水平に対してなす角度の大きさは既存の支承体7、7の下部構造9上での定着状態による。
【0012】
回転防止材2が両支承体7、7の底面と下部構造9との間に跨る理由は、一方の支承体7がその上の主桁8と共に橋軸方向の軸回りに転倒(回転)しようとするときに、その支承体7に接続され、浮き上がろうとする回転防止材2に生じる捩りモーメントに同じ回転防止材2が抵抗できる反力を他方の支承体7から得られるだけの、他方の支承体7との接触区間を確保するためである。
【0013】
一方の支承体7が転倒しようとするときには、その支承体7の回転中心から遠い側の回転防止材2が回転中心軸回りに捩りモーメントを受けながら、一方の支承体7に追従して下部構造9から浮き上がろうとする。そのとき、同じ回転防止材2の他方の支承体7に接続されている区間は他方の支承体7が下部構造9に定着された状態を維持する限り、他方の支承体7の底面から下向きに押さえ付けられる力を受ける。この回転防止材2の他方の支承体7から受ける下向きの力が捩りモーメントの反力になり、回転防止材2とそれに接続されている一方の支承体7の浮き上がりを阻止しようとする。
【0014】
一方の支承体7がその上の主桁8と共に転倒しようと(浮き上がろうと)することは、一方の支承体7を下部構造9に定着させているアンカーボルト10が軸方向引張力を受けて伸び変形し、降伏したとき、あるいは更に破断に至ったときに起こると想定される。本発明では一方の支承体7を下部構造9に定着させているアンカーボルト10が伸び変形等したときにも、他方の支承体7を定着させているアンカーボルト10は降伏、あるいは破断に至らず、弾性状態を維持することを前提にする。
【0015】
一方の支承体7が転倒しようとするときには、他方の支承体7を下部構造9に定着させている、降伏に至らないアンカーボルト10の付着力の働きにより他方の支承体7の下に配置されている回転防止材2に他方の支承体7の底面が下向きに係止し続けることで、同じ回転防止材2の一方の支承体7に接続されている区間の浮き上がりを阻止しようとする。結果として一方の支承体7に接続された区間の浮き上がりが防止され、一方の支承体7の転倒が防止される。
【0016】
回転防止材2は基本的には両支承体7、7の、対向する側の反対側の端部間に跨るが、他方の支承体7との十分な接触(接続)区間が確保されればよいため、必ずしも両支承体7、7の、対向する側の反対側の端部間に跨る必要はない。「十分な接触区間」は回転防止材2が他方の支承体7から、一方の支承体7の浮き上がりを阻止できる反力を受けられるだけの、他方の支承体7との接触面積を確保するための区間(橋軸方向の長さ)を意味する。
【0017】
回転防止材2が主桁8の幅方向に並列する理由は、一方の支承体7が主桁8の幅方向のいずれかの向きに転倒(回転)しようとするときに、その向きと反対側(回転中心から遠い側)に位置する(並列する)回転防止材2が上記のように他方の支承体7から、一方の支承体7の浮き上がりを阻止できる反力を受けるためである。一方の支承体7が転倒しようとするときの回転中心側に配置された回転防止材2の回転中心からの距離は小さいことから、その回転防止材2が受ける、一方の支承体7の転倒を阻止しようとする他方の支承体7からの反力が相対的に小さいため、一方の支承体7の転倒を阻止する役割は主に回転中心から遠い側に配置された回転防止材2が果たす。
【0018】
一方の支承体7がアンカーボルト10の伸び変形により、主桁8幅方向のいずれかの向きに回転しようとするときには、回転中心から遠い側に位置する回転防止材2の、一方の支承体7に接続された区間、あるいは一方の支承体7と重なる区間が一方の支承体7に引き摺られて浮き上がろうとする。
【0019】
しかしながら、他方の支承体7が健全なアンカーボルト10により下部構造9に固定された状態を維持することで、浮き上がろうとする回転防止材2の内、他方の支承体7に接続された、あるいは重なる区間が浮き上がりを阻止されるため、一方の支承体7に接続等された区間の浮き上がりも阻止されるか、浮き上がり量が低減される。結果として一方の支承体7の回転が防止され、主桁8の回転が防止される。同じ状況は一方の支承体7に反対側の向きに回転しようとするときにも生じ、他方の支承体7が回転しようとするときにも、一方の支承体7が下部構造9に固定された状態を維持する限り、同じ状況が生じる。
【0020】
回転防止材2の、主桁8の幅方向への並列数と幅方向の配置位置は問われない。一方の支承体7が幅方向に回転しようとするときには、支承体7の下面の回転側(幅方向)の端部を回転中心として回転しようとし、前記のようにその反対側の端部寄りに配置された回転防止材2が他方の支承体7から回転(浮き上がり)に抵抗する反力のモーメントを受けるため、理論上は、回転防止材2は支承体7の幅方向端部寄りに配置されることが合理的である。反力のモーメントは回転しようとする(回転中心)側の端部から回転防止材2の軸までの距離が大きい程、大きくなることによる。但し、既設の支承体7の形状から、回転防止材2を幅方向の端部寄りに配置できないこともあるため、回転防止材2は幅方向中央寄りに配置されることもある。
【0021】
「回転防止材が支承体に直接、もしくは間接的に接続される」の「接続」は支承体7に接合されることと、接合と同等程度に支承体7との一体性を確保した状態に支承体7に係合するか、支承体7を拘束する等、支承体7に連係することを言う。「直接」は回転防止材2が直接、支承体7のいずれかの部分にボルト等により接合等、接続されることを言い、「間接的」は回転防止材2と支承体7に跨る、例えば固定部材3を介して回転防止材2が間接的に支承体7に接続されること(請求項2)を言う。
【0022】
間接的に接続される場合の固定部材3は回転防止材2の少なくとも軸方向両端部において回転防止材2と共に支承体7の一部を高さ方向に挟み込み、回転防止材2にボルト21等により接合される(請求項2)。支承体7の損傷を避ける意味で、回転防止材2を直接、支承体7に接合することが好ましくない場合には、回転防止材2は接合以外の手段で支承体7に接続される。
【0023】
「回転防止材2が少なくとも回転防止材2の軸方向両端部に接合される」とは、図1に示すように固定部材3が回転防止材2の軸方向の両端部以外に、軸方向の中間部に接合されることもある意味である。下部構造9上で対になる支承体7、7の内の一方は可動支承であることから、図1に示すように一方の支承体7(上沓72)が橋軸方向に移動したときにも他方の支承体7に衝突しない程度に両支承体7、7は距離を置いて配置されるため、この対になる支承体7、7間の空間に固定部材3が配置され、各支承体7に接合されることもある。
【0024】
固定部材3は具体的には回転防止材2に重なってこれに接合される接合部3aと、支承体7の一部の上面に重なり、回転防止材2と共に支承体7の一部を高さ方向に挟み込む挟持部3bを持つ(請求項4)。回転防止材2は支承体7の底面と下部構造9の上面との間に配置される(差し込まれる)ことから、直接、回転防止材2を支承体7に接合等、接続することが難しいことが想定される。
【0025】
そこで、請求項2では図5に示すように回転防止材2と共に支承体7を挟み込む固定部材3が回転防止材2に接合されることで、回転防止材2を間接的に支承体7に接続(接合)することになる。この場合、固定部材3は回転防止材2と共に支承体7を挟み込むため、支承体7を少なくとも高さ方向(鉛直方向)に挟み込みながら、回転防止材2に接合されることが可能になる。
【0026】
「少なくとも高さ方向」とは、固定部材3の形状によっては固定部材3と回転防止材2が支承体7を高さ方向に挟み込みながら、回転防止材2の軸方向(水平方向等)にも支承体7を挟み込み得ることを言う。例えば図1に示すように回転防止材2の軸方向両端部において対になる固定部材3、3が支承体7に回転防止材2の軸方向に接触する形状をしていれば、対になる固定部材3、3が両支承体7、7を回転防止材2の軸方向にも挟み込みながら、回転防止材2に接合されることになる。
【0027】
回転防止材2と共に支承体7を少なくとも高さ方向に挟み込む固定部材3が回転防止材2にボルト21等により接合されることで、固定部材3と回転防止材2が支承体7を少なくとも高さ方向に挟持した状態を得ることができ、固定部材3と回転防止材2の支承体7への一体性が確保されるため、回転防止材2は支承体7に接続された状態になる。この場合、回転防止材2と固定部材3を直接、支承体7にボルト等により接合しなくても、回転防止材2と固定部材3を支承体7に一体化させた状態を得ることができるため、支承体7への損傷が回避される。
【0028】
請求項2では固定部材3が回転防止材2と共に支承体7の一部を少なくとも高さ方向に挟持した状態を得ることができることで、各回転防止材2と支承体7との一体性が強まるため、一方の支承体7が浮き上がりを生じようとするときに、下部構造9への定着状態を維持する他方の支承体7が回転防止材2を元の、両支承体7、7間に架設された状態を維持し易くなる。この結果、回転防止材2が、浮き上がろうとする一方の支承体7の浮き上がりを阻止するように働く効果が高まるため、一方の支承体7の浮き上がり(回転)が防止され易くなり、その一方の支承体7が支持する主桁8の回転の防止効果が向上する。
【0029】
また回転防止材2の軸方向両端部に接合され、主桁8の幅方向に並列する複数個の固定部材3、3が図6等に示すように互いに連結され、一体化している場合(請求項3)には、各固定部材3が回転防止材2に接合されたときに、並列する回転防止材2、2を互いに連結しながら、隣接する回転防止材2、2間の間隔を一定に保持することができる。この場合、連結された固定部材3、3が並列する回転防止材2、2間の間隔が狭まることを阻止するため、地震動により各回転防止材2が主桁8の幅方向に移動するようなことが防止される。隣接する固定部材3、3は両者間に跨り、それぞれに接合される連結材3dによって互いに連結される。
【0030】
隣接する固定部材3、3が隣接する回転防止材2、2間の間隔を保持することで、一方の支承体7が転倒しようとするときに、支承体7の回転中心から遠い側の回転防止材2までの距離に変化が生じないため、その回転防止材2が他方の支承体7から受ける反力のモーメントが低減することがなくなる。この結果、一方の支承体7の転倒防止効果の低下が生じないため、支承体7の転倒に対する安定性が向上する。回転防止材2、2間の間隔が狭まることがあれば、転倒しようとする支承体7の底面の端部から回転防止材2までの距離が小さくなることがあり、この距離が小さくなれば、反力のモーメントが低減するが、回転防止材2、2間の間隔が保持されれば、反力のモーメントの低減が回避されることによる。
【0031】
固定部材3は前記のように回転防止材2に重なる接合部3aと、支承体7の一部の上面に重なる挟持部3bを持つが、図6図8に示すように挟持部3b上に、高さ方向に距離を置いて対向する(上部及び下部の)受け梁41、42と、上下に対向する受け梁41、42を回転防止材2の軸方向端部寄りにおいて連結する支圧板43を有する保持部材4が接合された上で、回転防止材2の軸方向両端部の保持部材4、4の支圧板43、43間につなぎ材5が架設される場合(請求項4)には、回転防止材2と固定部材3の、両支承体7、7への一体性を強化することが可能になる。
【0032】
保持部材4は上下に対向する受け梁41、42と両受け梁41、42に跨って接合され、両受け梁41、42を連結する支圧板43からなり、下部の受け梁41において固定部材3の挟持部3b上に載置され、ボルト45等により接合される。つなぎ材5は回転防止材2の軸方向両端部に配置された固定部材3、3に接合された保持部材4、4の支圧板43、43間に回転防止材2の軸方向に、またはそれに近い角度で架設され、軸方向引張力が導入された状態で支圧板43に定着させられることで、反力を受ける支圧板43を通じて上下の受け梁41、42を両支承体7、7につなぎ材5の軸方向に密着させる。
【0033】
支圧板43が受けた軸方向圧縮力は受け梁41、42に接合された固定部材3と回転防止材2を両支承体7、7に一体化させるように働く。結果的に回転防止材2と固定部材3の、両支承体7、7への一体性が強まるため、一方の支承体7が浮き上がりを生じようとするときの他方の支承体7と回転防止材2との一体性も強まり、他方の支承体7が一方の支承体7の浮き上がりを阻止する能力が向上する。つなぎ材5は実質的に回転防止材2の軸方向と平行に、もしくは平行に近い状態で架設され、回転防止材2と同様に軸方向が橋軸方向と平行であるか、平行に近い状態になる。
【0034】
前記のように一方の支承体7が転倒しようとするときには、その回転中心から遠い側に位置する回転防止材2が他方の支承体7に上向きに係合することにより他方の支承体7から転倒に抵抗する反力を受けることができる。この転倒に抵抗する反力は、固定部材3の上に保持部材4が接合される請求項4では、保持部材4を構成する受け梁41、42の長さ方向両側を支承体7に少なくとも主桁8の幅方向に係合させることで(請求項5)、受け梁41、42が他方の支承体7から水平方向に受けることもできる。「受け梁の長さ方向」は支承体7の幅方向であり、回転防止材2が並列する方向を指す。「少なくとも主桁8の幅方向」とは、受け梁41、42が主桁8の軸方向(橋軸方向)の、両支承体7、7が対向する向きにも係合することがある意味である。「両支承体7、7が対向する向き」は回転防止材2の軸方向両端部側から中心部側への向きを言う。
【0035】
受け梁41、42が支承体7の幅方向に係合することには、支承体7の幅方向外側から係合する場合と内側から係合する場合がある。いずれの場合も、受け梁41、42の長さ方向両側が支承体7の幅方向に係合することで、一方の支承体7が転倒しようとするときに、その転倒の向きと逆向きの水平方向の反力を受け梁41、42(保持部材4)が支承体7から受けることができる。この水平方向の反力は保持部材4と回転防止材2が接合された固定部材3を介して保持部材4から回転防止材2に伝達されることで、回転防止材2の浮き上がりの防止効果が増すため、一方の支承体7に接続された、回転中心から遠い側の回転防止材2による一方の支承体7の転倒防止効果が一層、向上することになる。
【0036】
支承体7は前記のように下部構造9に固定された下沓71と、主桁8に固定され、下沓71に橋軸直角方向の水平軸回りに回転自在に連結されるか、もしくは橋軸方向に相対移動自在に接続される上沓72から構成され、いずれの場合(可動支承と固定支承)も上沓72は下沓71に対して相対変位可能に連係する。
【0037】
ここで、請求項4、5における保持部材4の上下の受け梁41、42が下沓71と上沓72に跨って設置されるとすれば、受け梁41、42が下沓71と上沓72の相対変位を阻害する可能性がある。そこで、対向する上下の受け梁41、42を図6に示すように支承体7を構成する下沓71にのみ、少なくとも主桁8の幅方向(橋軸直角方向)に係合させることで(請求項6)、平常時に下沓71と上沓72の相対変位を許容し、支承体7の可動支承と固定支承としての機能を維持させることができる。「少なくとも主桁8の幅方向」は受け梁41、42が主桁8の軸方向(橋軸方向)の、両支承体7、7が対向する向きにも係合することがあることを意味する。
【0038】
上下の受け梁41、42(保持部材4)が下沓71に、少なくとも主桁8の幅方向に係合することで、平常時には下沓71と上沓72の相対変位を許容しながらも、一方の支承体7の転倒時に保持部材4が下沓71から上記の水平方向の反力を受けることができる状態が得られる。
【0039】
また受け梁41、42が主桁8の軸方向(橋軸方向)に係合した場合には、回転防止材2の軸方向両端部の保持部材4、4間につなぎ材5が架設されることと併せ、転倒防止装置1全体が両支承体7、7に、両支承体7、7が対向する向きに係合しながら、主桁8の幅方向(水平方向)両側に係合した状態になり、両支承体7、7の一体性がより高められる。この結果、一方の主桁8に固定された一方の支承体7の上沓72が主桁8と共に転倒しようとするときに、一方の支承体7に接続された回転防止材2が他方の支承体7の下沓71からの反力を直ちに受けることが可能になり、一方の支承体7(上沓72)の転倒を早期に阻止することが可能になる。
【発明の効果】
【0040】
橋軸方向に対向する支承体の底面と下部構造の上面との間に、主桁の幅方向に並列して橋軸方向に沿って架設され、支承体に直接、もしくは間接的に接続される複数本の回転防止材を備えることで、一方の支承体がそれを下部構造に定着させているアンカーボルトの伸び変形により回転防止材と共にいずれかの向きに転倒しようとするときに、健全なアンカーボルトにより下部構造に固定された状態を維持する他方の支承体が回転防止材の浮き上がりを阻止することができる。この結果、回転防止材に接続された一方の支承体の浮き上がり(転倒)とそれが固定された主桁の転倒を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】下部構造上で橋軸方向に対向する支承体に転倒防止装置を装着した様子を示した、主桁の幅方向に見たときの縦断面図である。
図2図1のx−x線断面図である。
図3】対向する支承体を橋軸方向に挿通するつなぎ材を架設する前の図1のx−x線断面図である。
図4】(a)は図2のy−y線矢視図、(b)は図2のz−z線矢視図である。
図5】支承体の下沓の下に回転防止材を配置し、下沓に下向きに係合する固定部材を回転防止材に接合した様子を示した斜視図である。
図6図5に示す固定部材の上に保持部材を設置した様子を示した斜視図である。
図7図6に示す保持部材を固定部材にボルトにより接合した様子を示した斜視図である。
図8図7に示す保持部材に支圧板を接合し、支圧板につなぎ材を挿通させた様子を示した斜視図である。
図9図8に示すつなぎ材の端部を支圧板に定着させた様子を示した斜視図である。
図10】つなぎ材の端部を支圧板に定着させた状態での回転防止材と固定部材の端部を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1図2は橋軸方向に対向し、橋軸方向に互いに相対変位自在に分離した主桁8を下部構造9上で支持し、橋軸方向に対向する支承体7、7間に跨って設置され、いずれか一方の支承体7が、それが支持する主桁8と共に下部構造9に対して橋軸方向の軸回りに転倒することを防止する転倒防止装置1の支承体7、7への設置例を示す。転倒防止装置1は対向する支承体7、7の底面と下部構造9の上面(天端面)との間に、主桁8の幅方向に並列して橋軸方向に沿って架設され、支承体7、7に直接、もしくは間接的に接続される複数本の回転防止材2、2を備える。回転防止材2、2は2本以上であればよく、本数は問われない。
【0043】
下部構造9上で橋軸方向に対向する支承体7、7の内、一方(図1の左側)の支承体7は主桁8をその幅方向(橋軸直角方向)の水平軸回りに回転自在に支持する固定支承であり、他方(図1の右側)の支承体7は主桁8を橋軸方向に相対移動自在に支持する可動支承である。一方の支承体7と他方の支承体7のいずれも、支承体7は下部構造9に定着(固定)される下沓71と主桁8に定着(固定)される上沓72から構成され、固定支承では上沓72は下沓71に主桁8の幅方向の水平軸回りに回転自在に接続(連結)され、可動支承では上沓72は下沓71に主桁8の軸方向(橋軸方向)に相対移動自在に接続される。支承体7は下沓71と上沓72を含めて言うこともあるが、いずれか一方を指すこともある。主桁8の幅方向は基本的には橋軸直角方向であるが、床版が平行四辺形状の場合等には床版の短辺方向になる。
【0044】
支承体7の下沓71は図5等に示すように下部構造9の天端上に設置された高さ調整用のベースプレート11等の上に脚部71aにおいて載置され、脚部71aとベースプレート11等を貫通するアンカーボルト10が下部構造9中に埋設されることにより下部構造9に定着される。ベースプレート11は図1図2に示すように下部構造9の天端上に直接、設置される敷きモルタル13等の上に載ることもある。この関係で、下沓71(支承体7)の底面と下部構造9の天端面との間には少なくともベースプレート11の厚さ分の空隙が生じており、この空隙に転倒防止装置1の回転防止材2が差し込まれる。
【0045】
回転防止材2、2を支承体7、7のいずれかの部分に接合(固定)することができる場合には、転倒防止装置1は複数本の回転防止材2、2のみから構成される。但し、回転防止材2、2の支承体7、7への接合に伴い、支承体7の強度や剛性に影響を与える程の損傷を生じさせる可能性がある場合には、支承体7への損傷を回避するために、図1に示すように回転防止材2、2には、少なくとも回転防止材2の軸方向両端部に接合され、回転防止材2と共に支承体7の一部を高さ方向に挟み込む固定部材3が伴われる。この場合、転倒防止装置1は複数本の回転防止材2、2と各回転防止材2の少なくとも軸方向両端部に接合される固定部材3、3から構成される。
【0046】
図面では支承体7の幅方向(主桁8の幅方向)に、幅方向の中心に関して対称に2本の回転防止材2、2を配置しているが、回転防止材2は3本以上、配置されることもある。図面ではまた、回転防止材2の支承体7、7への一体性を高めるために、回転防止材2の軸方向中間部の、支承体7、7の対向する側にも固定部材3、3を接合し、回転防止材2の軸方向に、各支承体7の両側に固定部材3、3を配置している。
【0047】
回転防止材2は支承体7(下沓71)の底面と下部構造9の天端面との間に確保されている上記した空隙に納まる高さを持つ棒状の部材であり、基本的には対になる2個の支承体7、7に跨って下部構造9との間に挿入されたときに、軸方向の両端部が支承体7から突出する程度の長さを持つ。この回転防止材2の、支承体7から突出した部分を直接、支承体7にボルト等を用いて接合することもできるが、上記のように図面では支承体7への損傷を回避するために、回転防止材2と共に支承体7の一部を高さ方向に挟み込む固定部材3を回転防止材2にボルト21を用いて接合している。
【0048】
回転防止材2の上面には固定部材3が直接、もしくは間接的に重なって接合され、回転防止材2の下面は下部構造9の天端面に直接、もしくは間接的に接触することから、回転防止材2は少なくとも上面と下面が平坦等、固定部材3との間で相対的な回転が生じない断面形状に形成される。図面では図9図10等に示すように回転防止材2を方形状の断面形状に形成しているが、回転防止材2の断面形状は特に問われない。図示する形状の場合、回転防止材2は支承体7下の空隙に納まった状態で支承体7の幅方向に転がりを生じにくいため、空隙に配置された状態での安定性が高い利点がある。回転防止材2の上面と固定部材3との間、及び回転防止材2の下面と下部構造9との間には図1図9に示すように間隔を調整するためのスペーサ12が介在することもある。
【0049】
固定部材3は支承体7(下沓71)の一部として上記した脚部71aに連続した下部を回転防止材2と共に高さ方向に挟み込む関係で、図5図7に示すように回転防止材2の上面に重なって接合される接合部(下部フランジ)3aと、支承体7の下部の上面に重なり、回転防止材2と共に支承体7の下部を高さ方向に挟み込む挟持部(上部フランジ)3bと、接合部3aと挟持部3bをつなぐつなぎ部(ウェブ)3cからZ字形の形状をし、接合部3aにおいて回転防止材2にボルト21等により接合される。
【0050】
挟持部3bは支承体7(下沓71)の下部に直接、もしくは間接的に接合されることもあるが、図面では支承体7への損傷の回避のために、挟持部3bを支承体7には直接、接合せず、接合部3aの回転防止材2への接合によって回転防止材2と共に支承体7を上下に挟み込み、支承体7を下向きに押さえ込んだ状態で保持(拘束)している。接合部3aの下面は直接、もしくは間接的に回転防止材2の上面に重なる(接触する)ため、回転防止材2の上面の形状に応じ、平坦面等に形成され、挟持部3bの下面は支承体7の下部の上面に直接、もしくは間接的に重なるため、平坦面等、支承体7の上面に対応した形状に形成される。
【0051】
接合部3aには固定部材3自身を回転防止材2に接合するためのボルト21が挿通する挿通孔が形成され、挟持部3bには後述の保持部材4を接合するためのボルト45が挿通する挿通孔が形成される。またつなぎ部3cは支承体7下部の、回転防止材2軸方向の側面に接触するため、接合部3aと挟持部3b、及びつなぎ部3cは共に板状の形状をし、固定部材3は例えばプレートの組み合わせから形成される。
【0052】
つなぎ部3cが支承体7の下部の、回転防止材2軸方向の側面に軸方向外側から接触することで、固定部材3に保持部材4が接合され、回転防止材2の軸方向両端部に配置された保持部材4、4が後述のつなぎ材5により支承体7、7が対向する側へ互いに引き寄せられたときに、支承体7、7に密着した状態になるため、固定部材3と支承体7、7との一体性が強められる。
【0053】
図示する例では図6に示すように回転防止材2の軸方向両端部に配置された固定部材3、3の各挟持部3b上に、両固定部材3、3を回転防止材2の軸方向に互いに連結するつなぎ材5を架設するための保持部材4を載置し、これを挟持部3bにボルト45等により接合している。ボルト45を使用する場合、ボルト45は図6図8に示すように後述する保持部材4の受け梁41、42に形成された挿通孔と、受け梁41、42間に介在する筒状の間隔保持材44の挿通孔を挿通するか、螺合する。固定部材3の挟持部3bの下面は支承体7(下沓71)に接触することから、挟持部3bの下面側にはボルト45に螺合するナットを配置することが難しいため、ボルト45は少なくとも保持部材4の下側の受け梁41の挿通孔には螺合する。各挿通孔のボルト45が螺合する区間には雌ねじが形成される。
【0054】
挟持部3bは基本的には回転防止材2と共に支承体7を上下に挟み込むだけであるが、挟持部3bは接合部3aの回転防止材2への接合に伴い、支承体7の下部を下方へ押さえ込みながら、支承体7のいずれかの部分に水平方向に係合することもある。保持部材4を使用した図示の例では図6に示すように支承体7には保持部材4を水平二方向に係合させている。
【0055】
固定部材3は1本の回転防止材2の少なくとも軸方向の一方の端部毎に1個、配置されるため、対になる支承体7、7の対向する側の反対側の端部には、支承体7の幅方向に並列する回転防止材2、2の本数分の固定部材3が配置される。回転防止材2の端部側において支承体7の幅方向に配列する複数個の固定部材3は互いに独立したままでもよいが、図面では図6図7に示すように一方の支承体7の浮き上がり時に複数本の回転防止材2の挙動を独立させずに連係させるために、回転防止材2の軸方向の端部側に配置された複数個の固定部材3を互いに連結し、一体化させている。支承体7、7の対向する側に配置され、支承体7の幅方向に並列する固定部材3、3も互いに連結される。
【0056】
回転防止材2、2の並列する方向に隣接する固定部材3、3は両者間に跨り、各つなぎ部3cに溶接等により接合される連結材3dによって互いに連結され、少なくとも隣接する固定部材3、3が一体化するか、全体として全固定部材3が一体化する。連結材3dはつなぎ部3cに接合されることで、つなぎ部3cと共に支承体7に密着することができるため、固定部材3と支承体7との一体性を高めることに寄与する。固定部材3が回転防止材2の本数に応じ、回転防止材2の並列方向に3個以上、配列する場合も同様である。
【0057】
保持部材4は図6図8に示すように高さ方向に距離を置いて対向する、板状の下部と上部の受け梁41、42と、両受け梁41、42を回転防止材2の軸方向両端部寄りにおいて連結する、つなぎ材5が挿通する挿通孔43aを有する支圧板43から構成される。下部の受け梁41は固定部材3の挟持部3bの上面に直接、もしくは間接的に重なり、前記したボルト45等により接合され、上部の受け梁42は下部の受け梁41と対になって支圧板43を受ける。支圧板43はつなぎ材5の端部を受け、つなぎ材5の張力を負担するため、受け梁41、42と支圧板43も板状の形状をし、保持部材4もプレートの組み合わせ等から形成される。
【0058】
その場合、保持部材4は上下に対向する2枚のプレートからなる受け梁41、42と、両受け梁41、42の面内方向片側に跨って重なる、プレートからなる支圧板43からコの字状の断面形状に形成される。支圧板43には図7に示すようにつなぎ材5が挿通する挿通孔43aが形成されている。下部の受け梁41と上部の受け梁42間の間隔は図6図7に示すように挿通孔を有する例えば筒状等の間隔保持材44が軸方向を受け梁41、42の対向する方向を向いて架設され、両受け梁41、42に挟持されることによって保持される。
【0059】
受け梁41、42の長さ方向両側、すなわち回転防止材2、2の並列方向両側の一部は支承体7の下沓71の形状に応じて切り欠かれた形状をし、受け梁41、42は下沓71に少なくとも支承体7(主桁8)の幅方向に、例えば支承体7の内側から係合し、受け梁41、42(保持部材4)と下沓71との間で少なくとも支承体7(下沓71)の幅方向の水平力が伝達される状態に連係している。受け梁41、42の長さ方向両側は支承体7にその外側から係合することもある。
【0060】
図面では受け梁41、42を支承体7(下沓71)の幅方向と共に、支承体7、7の対向する方向(主桁8の橋軸方向)の水平二方向に係合させることで、支承体7との間でこれらの二方向の力が伝達される状態にし、回転防止材2と共に下沓71を高さ方向に挟持し、下沓71との一体性を確保している。図面では主桁8の軸方向に、受け梁41、42が支承体7の外側から内側へ向かって係合しているが、受け梁41、42は支承体7の内側から外側へ向かって係合することもある。
【0061】
支圧板43は上下の受け梁41、42の、回転防止材2の軸方向両端部側の側面間に跨って架設され、両受け梁41、42にボルトや溶接等により接合される。つなぎ材5は回転防止材2の軸方向両端部に配置された保持部材4、4の各支圧板43、43の挿通孔43a、43aを挿通して図7図10に示すように両支圧板43、43間に架設される。つなぎ材5は原則として張力が与えられた状態で、端部において支圧板43にナット6等により定着される。図面では図9に示すように支圧板43の表面側に緩衝材52を重ね、この緩衝材52の表面側にナット6を受ける円板状の定着板51を重ね、定着板51にナット6を定着させている。図面ではまた、つなぎ材5を回転防止材2の並列数に合わせて2本、架設しているが、つなぎ材5は1本のみで足りることもある。
【0062】
つなぎ材5は原則的に張力が付与されて回転防止材2の軸方向に対向する支圧板43、43間に架設されるため、つなぎ材5には鉄筋、PC鋼材、繊維強化プラスチック等の引張材が使用される。つなぎ材5は図7図8に示すように下沓71に上沓72が接合されたときに下沓71と上沓72間に高さ方向と幅方向に確保された空間内を通して支圧板43、43間に架設される。
【0063】
つなぎ材5に付与された張力は支圧板43から上下の受け梁41、42を通じて支承体7の下沓71に回転防止材2の軸方向の圧縮力として伝達されるが、下部の受け梁41は固定部材3の挟持部3bに接合されているため、下沓71には受け梁41、42と固定部材3を通じて圧縮力が伝達される。
【0064】
つなぎ材5の張力が両支承体7、7の下沓71、71に、両支承体7、7が互いに接近する向きの圧縮力として作用することで、回転防止材2の軸方向両端部に位置する保持部材4、4及び固定部材3、3が両支承体7、7に、回転防止材2の軸方向に圧縮力を及ぼした状態になるため、並列する複数本の回転防止材2と支承体7との一体性が強まる。また保持部材4の受け梁41、42の長さ方向両側が支承体7の下沓71にその幅方向内側から係合した状態にあるため、保持部材4と支承体7との間での幅方向の水平力の伝達効果も高まっている。
【0065】
保持部材4が支承体7の幅方向に係合した状態にあることで、一方の支承体7が転倒しようとするときに、回転防止材2がそれに接合された保持部材4を通じて他方の支承体7(下沓71)からの水平方向の反力も受ける状態にある。この場合、回転防止材2は他方の支承体7には保持部材4(受け梁41、42)を介して間接的に水平方向にも係合するため、鉛直方向に直接的に係合することと併せ、回転防止材2は他方の支承体7から鉛直方向と水平方向の反力を受けることができ、一方の支承体7の転倒を防止する効果を高めている。
【0066】
対になる支承体7、7の、回転防止材2の軸方向の両端部間につなぎ材5が架設された状態で、地震時等に一方の支承体7が支持する主桁8に作用する幅方向の水平力に起因し、一方の支承体7の下沓71を下部構造9に定着させているアンカーボルト10に伸び変形等が生じたとき、主桁8が下部構造9に対して橋軸方向の水平軸回りに転倒しようとする。このとき、一方の支承体7の上沓72が主桁8に引き摺られ、上沓72に接合されている下沓71も転倒しようとする。それに伴い、一方の支承体7の下沓71を下向きに押さえ込んでいる固定部材3の接合部3aに上向きに係合している回転防止材2も浮き上がろうとする。
【0067】
しかしながら、回転防止材2の全長の内、アンカーボルト10に伸び変形が生じていない他方の支承体7の下沓71の下に位置する区間が下沓71に上向きに係合し、保持部材4を介して下沓71に水平方向にも係合することで、下沓71に下向きに押さえ込まれながら、一方の支承体7の転倒と逆向きの水平方向の反力を下沓71から受けるため、回転防止材2全体の浮き上がりが阻止、あるいは抑制される。この結果、一方の支承体7とそれが支持する主桁8の転倒も阻止されるか、元の状態からの回転(捩り)の角度が小さく抑えられる。
【0068】
ここで、一方の支承体7が転倒しようとするときには、その支承体7の幅方向に支承体7の回転中心から遠い側に位置する回転防止材2の、他方の支承体7(下沓72)の下に位置する区間がその支承体7の底面に係合し、その支承体7から鉛直方向の反力を受け、下向きに押さえ込まれた状態を保持しようとする。また保持部材4(受け梁41、42)の、一方の支承体7の回転中心に近い側の端部が他方の支承体7(下沓72)に転倒の向きに係合することで、その支承体7から転倒の向きと逆向きの水平方向の反力を受けるため、他方の支承体7が一方の支承体7の転倒(回転)を2通りに阻止しようとする。従って一方の支承体7の転倒の防止には、支承体7の回転中心から遠い側の回転防止材2と、回転中心に近い側の保持部材4の端部が有効に機能する。
【0069】
一方の支承体7の回転中心から遠い側の回転防止材2は他方の支承体7から、回転中心から支承体7の幅方向に回転防止材2の中心までの水平距離に応じた大きさの下向きの反力を受け、この反力が一方の支承体7が浮き上がろうとするときにその支承体7に作用している捩りモーメントに抵抗する。一方の支承体7の回転中心に近い側の保持部材4の端部は他方の支承体7から、回転中心から受け梁41、42までの鉛直距離に応じた大きさの、転倒の向きと逆向きの反力を受け、この反力も一方の支承体7が浮き上がろうとするときにその支承体7に作用している捩りモーメントに抵抗する。
【符号の説明】
【0070】
1……転倒防止装置、
2……回転防止材、21……ボルト、
3……固定部材、3a……接合部、3b……挟持部、3c……つなぎ部、3d……連結材、
4……保持部材、41……下部の受け梁、42……上部の受け梁、43……支圧板、43a……挿通孔、44……間隔保持材、45……ボルト、
5……つなぎ材、51……定着板、52……緩衝材、6……ナット、
7……支承体、71……下沓、71a……脚部、72……上沓、
8……主桁、
9……下部構造、10……アンカーボルト、11……ベースプレート、12……スペーサ、13……敷きモルタル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10