特許第6491599号(P6491599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491599
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】セメント質系用の気泡形成材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20190318BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20190318BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20190318BHJP
   C04B 24/08 20060101ALI20190318BHJP
   C04B 24/00 20060101ALI20190318BHJP
   C04B 38/02 20060101ALI20190318BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20190318BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C09K3/00 111B
   C04B28/02
   C04B24/26 E
   C04B24/08
   C04B24/00
   C04B38/02 H
   C08L91/00
   C08L51/08
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-536175(P2015-536175)
(86)(22)【出願日】2013年10月14日
(65)【公表番号】特表2016-500720(P2016-500720A)
(43)【公表日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】EP2013071423
(87)【国際公開番号】WO2014060352
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2016年10月13日
(31)【優先権主張番号】12188533.9
(32)【優先日】2012年10月15日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504274505
【氏名又は名称】シーカ・テクノロジー・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴォムバッハー フランツ
(72)【発明者】
【氏名】ビュルゲ クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】クルツ クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】シュムッツ マルク
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/149714(WO,A1)
【文献】 特表2006−511418(JP,A)
【文献】 特開平08−059320(JP,A)
【文献】 特開平03−232751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C04B 24/00
C04B 28/00
C04B 38/00
C08L 51/00
C08L 91/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡形成剤であって、
発泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と、
消泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と、
水と、
を含有し、
発泡効果を有する前記気泡形成材料の少なくとも1種がトール油であり、
消泡効果を有する前記気泡形成材料の少なくとも1種が塩基性アニオン界面活性剤であり、
発泡効果を有する前記少なくとも1種の気泡形成材料の効果と、消泡効果を有する前記少なくとも1種の気泡形成材料の効果とが互いに打ち消し合う、気泡形成剤。
【請求項2】
発泡効果を有する2種の気泡形成材料を含有する、請求項1に記載の気泡形成剤。
【請求項3】
前記トール油が、蒸留トール油である、請求項1又は2に記載の気泡形成剤。
【請求項4】
発泡効果を有する前記気泡形成材料の第2の種が界面活性剤である、請求項2又は3に記載の気泡形成剤。
【請求項5】
前記界面活性剤が、アニオン界面活性剤である、請求項4に記載の気泡形成剤。
【請求項6】
発泡効果を有する前記少なくとも1種の気泡形成材料と消泡効果を有する前記少なくとも1種の気泡形成材料との比が10:90〜90:10である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の気泡形成剤。
【請求項7】
発泡効果を有する前記少なくとも1種の気泡形成材料と消泡効果を有する前記少なくとも1種の気泡形成材料との比が30:70〜70:30である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の気泡形成剤。
【請求項8】
ニトリロ三酢酸、pH調整物質又はアルカリ液を含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の気泡形成剤。
【請求項9】
前記アルカリ液が、水酸化ナトリウムアルカリ液である、請求項8に記載の気泡形成剤。
【請求項10】
保存剤を含有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の気泡形成剤。
【請求項11】
発泡効果を有する前記気泡形成材料を合計で0.02重量%〜5.00重量%と、消泡効果を有する前記気泡形成材料を合計で0.02重量%〜5.00重量%と、水80重量%〜99.9重量%と、任意にアルカリ液0.05重量%〜1.0重量%と、任意に保存剤0.01重量%〜0.5重量%とを含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の気泡形成剤。
【請求項12】
セメント質系における気泡の形成のための請求項1〜11のいずれか一項に記載の気泡形成剤の使用。
【請求項13】
前記セメント質系が、コンクリート混合物及びモルタル混合物である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
流動化剤を更に使用する、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項15】
前記流動化剤が、ポリカルボキシレートエーテルである、請求項14に記載の使用
【請求項16】
前記セメント質系における水/セメント比が0.2〜0.8である、請求項12〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記セメント質系における水/セメント比が0.4〜0.7である、請求項12〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記気泡形成剤が、前記セメント質系の結合材の含有量に対して0.01重量%〜1重量%の量で使用される、請求項12〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記気泡形成剤が、前記セメント質系の結合材の含有量に対して0.05重量%〜0.6重量%の量で使用される、請求項12〜17のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント質系用の気泡形成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート及びモルタル等のセメント質系は、例えば加工性を改善するために、又は凍結防止塩に対する十分な耐性を達成するためにエアレーション処理を行わなければならない。通常、エアレーション処理は気泡形成剤を液体混合物に組み込むことにより達成される。セメント質系の混合プロセスにより、10μm〜250μmの範囲の気泡が形成され、これらの気泡は気泡形成剤の添加により安定化する。特に、凍結防止塩に耐性のあるセメント質系にはおよそ10μm〜250μmの範囲の気泡が十分になくてはならない。そうでなければ、セメント質系は0℃未満の温度への冷却の際に形成される氷の結晶に対して十分な膨張空間を有さず、それによりセメント質系の剥離及び更には破壊が起こる可能性がある。
【0003】
様々な気泡形成材料、例えば様々なカチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤又は更にはトール油が従来技術により知られている(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3を参照されたい)。しかしながら、既知の気泡形成材料には、例えば経時的な、特に混合後最初の数分以内の発泡、経時的な、特に混合後最初の数分以内の消泡、経時的な気泡構造の変形、流動化剤、フライアッシュ及びスラグ等の他のコンクリート添加剤及び他の結合材に対する異なる感受性又は不十分な相溶性、並びに混合時間及び混合のタイプに応じて異なる空気量等の様々な不利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第95/26936号
【特許文献2】スイス国特許第689619号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第19528912号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を克服するという課題に基づくものである。特別かつ有利な特性を備える新規の気泡形成材料が利用可能となることが必要とされている。特に、一定の気泡量の導入を可能にする気泡形成材料を提供することが必要とされている。さらに、安定した気泡を得ることも必要とされている。様々な粒度分布の使用、様々な流動化剤(高流動化剤)の使用、様々なタイプの混合機の使用、様々な補助剤(supplements)の使用、及び様々な結合材組成物の使用に依らない気泡形成材料を提供することも望まれている。
【0006】
上記の課題は、発泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と、消泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と、水とを含有する気泡形成剤により解決される。したがって本発明の要旨は混合中に発泡に関して反対の挙動を示す少なくとも2つの異なる気泡導入物質を含有する気泡形成剤である。
【0007】
本発明はセメント質系における気泡の形成のための本発明による気泡形成剤の使用にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、発泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と、消泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と、水とを含有する気泡形成剤に関する。
【0009】
本明細書において発泡は、空気量の増大が混合プロセスの終了後40分以内に起こることを意味する。消泡は、混合プロセスの終了後40分以内に空気量が減少することを意味する(それぞれ、DIN EN 1015−7に準拠して測定される)。
【0010】
このため、発泡により混合中に空気の導入の増大が起こる、すなわち安定性が増大する一方で、消泡により空気の導入が低減する、すなわち気泡の不安定化が起こる。
【0011】
効果の異なる気泡形成材料のこの組合せにより、適応性の広く有用な気泡形成剤がもたらされる。気泡形成物質を混ぜ合わせる際、発泡又は消泡に関する中間の挙動を示す気泡形成材料を使用しない代わりに、全体の結果が中間の挙動となるように、発泡効果を有する気泡形成材料と消泡効果を有する気泡形成材料とを混ぜ合わせるようにすることが重要である。
【0012】
本発明による気泡形成剤の使用により、特によりしっかりした空気の導入及びより安定した気泡がもたらされる。中でも、本発明による気泡形成剤を使用することで、セメント又はモルタルのタイプ、骨材及び粒の組成、混合機のタイプ、混合時間、温度、並びに混合強度に応じた気泡の量及び気泡サイズの依存性を最小限に抑えるか又は排除することも可能である。例えば結合材及び高流動化剤等の追加の使用物質に応じた依存性は、本発明による気泡形成剤を用いることで劇的に低減することができる。
【0013】
好ましい実施の形態では、発泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料の効果と消泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料の効果とが互いに打ち消し合う。本明細書において互いに打ち消し合うとは、混合プロセスの終了後40分以内の空気量の変化が元の空気量の20%(相対値)以下であることを意味する(DIN EN 1015−7に準拠して測定される)。空気量の変化が元の空気量の10%(相対値)以下、とりわけ特に好ましくは元の空気量の5%(相対値)以下であることが特に好ましい。
【0014】
発泡効果を有する気泡形成材料及び消泡効果を有する気泡形成材料に関して、使用されるセメント質系に応じて、同じ物質を、発泡効果を有する気泡形成材料と更には消泡効果を有する気泡形成材料との両方に使用することができることを初めて指摘している。これは、同じ物質を或る系では発泡効果を有する気泡形成材料として、また別の系では消泡効果を有する気泡形成材料として使用することができることを意味する。当然ながら、同じ物質は同じ系においては2つの可能な効果の内の一方しか有することができない。
【0015】
原則として、本発明による気泡形成剤における発泡効果を有する気泡形成材料としては、既知の気泡形成材料であればどれでも使用することが可能である。しかしながら、上記気泡形成材料がトール油、アニオン界面活性剤及び/又は脂肪酸であることが有益である。蒸留トール油を使用することが特に好ましい。上記トール油は、特に規定済みの安定した組成を有することが有益である。蒸留トール油の脂肪酸画分を使用することが特に好ましい。Chemische Fabrik Schweizerhallから市販されているSylvatal 25/30の形での蒸留トール油の使用がとりわけ特に好ましい。発泡効果を有する気泡形成材料として、脂肪族アルコールスルフェート、特にアニオン性脂肪族アルコールスルフェート、アミノ酸誘導体、特にアニオン性アミノ酸誘導体、例えばサルコシネート、オレフィンスルホネート、特にアニオン性オレインスルホネート、スルホスクシナメート、特にアニオン性スルホスクシナメートを使用することも好ましい。
【0016】
加えて、発泡効果を有する気泡形成材料として、ホスフェート、特にアニオン性ホスフェート、両性化合物、例えばコカミドプロピルベタイン、アルキルフェノールエトキシレート、特に非イオン性アルキルフェノールエトキシレート、アミドエトキシレート、特に非イオン性アミドエトキシレート、アミンエトキシレート、特に非イオン性アミンエトキシレートを使用することが可能である。
【0017】
特に発泡効果を有する気泡形成材料は、少なくとも1種の不飽和脂肪酸、好ましくは少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸を含有する。いくつかの異なる脂肪酸を含有する混合物、特に少なくとも1種の一価不飽和脂肪酸と少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸との混合物を使用することも有益である。例えば、リノール酸及びオレイン酸を、任意に樹脂酸とともに含有する混合物が好適である。本明細書では脂肪酸はトール油及び/又は蒸留トール油に由来するものであることが好ましい。
【0018】
好ましい実施の形態において、本発明による気泡形成剤は2種の発泡効果を有する気泡形成材料を含有する。これにより、骨材、添加剤及び他の影響に対する感受性が低減されるという利点がもたらされる。
【0019】
2種の発泡効果を有する気泡形成材料が本発明による気泡形成剤に使用される場合、トール油、好ましくは蒸留トール油に加えて、界面活性剤、好ましくはアニオン界面活性剤、特にラウリルエーテルスルフェートが使用されることが有益である。この組合せの使用には、骨材、添加剤及び他の影響に対する感受性が低減されるという更なる利点がある。
【0020】
好ましい実施の形態において、界面活性剤、有益にはアニオン界面活性剤、特に好ましくは塩基性アニオン界面活性剤が、消泡効果を有する気泡形成材料として使用される。消泡効果を有する気泡形成材料が、例えばアニオン界面活性剤である場合、アニオン界面活性剤は所与のセメント質系において同時に発泡効果を有する気泡形成材料となることができないことは明らかである。消泡効果を有する気泡形成材料として、脂肪族アルコールエーテルスルフェート、特にアニオン性脂肪族アルコールエーテルスルフェート、及びアルコールエトキシレート、特に非イオン性アルコールエトキシレートを使用することも可能である。
【0021】
加えて、消泡効果を有する気泡形成材料として、ホスフェート、特にアニオン性ホスフェート、両性化合物、例えばコカミドプロピルベタイン、アルキルフェノールエトキシレート、特に非イオン性アルキルフェノールエトキシレート、アミドエトキシレート、特に非イオン性アミドエトキシレート、及びアミンエトキシレート、特に非イオン性アミンエトキシレートを使用することができる。
【0022】
本発明による気泡形成剤における発泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と消泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料との比は、原則として可変であり、使用する材料及び装置に応じて異なる。しかしながら、この比は10:90〜90:10、好ましくは30:70〜70:30であることが有益であることが分かっている。この比はスラグ及び/又はフライアッシュとともに本発明による気泡形成剤を使用することが可能となるように、また炭素粒子のマイナスの影響が隠蔽されるように選択されるのが好ましい。この後者の特徴が気泡の炭素に対する感受性を低減する。
【0023】
特に好ましい実施の形態において、本発明による気泡形成剤は、溶解度を増大させる物質、好ましくは安定化剤、錯化剤、とりわけ特に好ましくはニトリロ三酢酸、可溶化剤、及び/又はpH調整物質、特に好ましくはアルカリ液、とりわけ特に好ましくは水酸化ナトリウムアルカリ液を含有する。アルカリ液を使用することで、本発明による気泡形成剤が安定化する。
【0024】
好ましい実施の形態において、本発明による気泡形成剤は保存剤を含有する。原則として、既知の保存剤であればどれでも使用することができるが、ホルムアルデヒドを切断する保存剤の使用が特に好ましい。
【0025】
0.02重量%〜6重量%、特に0.2重量%〜6重量%の発泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と、0.02重量%〜6重量%、特に0.2重量%〜6重量%の消泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成材料と、80重量%〜99.9重量%の水と、任意に0.02重量%〜2.5重量%のアルカリ液と、任意に0.01重量%〜0.5重量%の保存剤とを含有する気泡形成剤を使用することが特に好ましい。
【0026】
特に好ましい実施の形態において、本発明による気泡形成剤は0.02重量%〜5.0重量%、特に0.2重量%〜5.0重量%の発泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成剤と、0.02重量%〜5.0重量%、特に0.2重量%〜5.0重量%の消泡効果を有する少なくとも1種の気泡形成剤と、80重量%〜99.9重量%の水と、任意に0.05重量%〜1.0重量%のアルカリ液と、任意に0.01重量%〜0.5重量%の保存剤とを含有する。このような気泡形成剤には、空気導入の際の粒度分布及び/又は混合機のタイプに対する感受性が低いという更なる利点がある。
【0027】
本発明はセメント質系、好ましくはコンクリート混合物及びモルタル混合物における気泡の形成のための上記の本発明による気泡形成剤の使用にも関する。
【0028】
本発明による気泡形成剤は、あらゆる既知のセメント質系における気泡の形成に使用することができる。セメント質系はコンクリート混合物又はモルタル混合物であるのが好ましい。
【0029】
本発明は更に、セメント質系、好ましくはコンクリート混合物及びモルタル混合物における気泡の形成のための上記の本発明による気泡形成剤の使用に関する。
【0030】
本明細書において、セメント質系はセメント質結合材を含有する系を指すものである。本明細書におけるセメント質結合材は、特にセメントクリンカーの含有量が少なくとも5重量%、特に少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも35重量%、とりわけ特に好ましくは少なくとも65重量%である結合材又は結合材組成物を指すものである。セメントクリンカーはポルトランドセメントクリンカーであるのが好ましい。本明細書において、セメントクリンカーは、特に粉砕セメントクリンカーを表す。
【0031】
特に、無機結合材は水硬性結合材、好ましくはセメントを含有する。セメントクリンカーの含有量が35重量%以上のセメントが特に好ましい。CEM I、CEM II及び/又はCEM IIIAタイプのセメント(EN 197−1規格に準拠)が特に好ましい。全無機結合材における水硬性結合材の含有量は、有利には少なくとも5重量%、特に少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも35重量%、とりわけ特に好ましくは少なくとも65重量%である。更なる有益な実施の形態によれば、無機結合材は、95重量%以上の水硬性結合材、特にセメントクリンカーのみからなる。
【0032】
しかしながら、結合材が他の結合材を含有するか又は他の結合材のみからなることも有益であり得る。他の結合材は特に、潜在的な水硬性結合材及び/又はポゾラン結合材である。好適な潜在的な水硬性結合材及び/又はポゾラン結合材は、例えばスラグ、フライアッシュ及び/又はシリカ粉塵である。結合材が例えば石灰岩、石英粉末及び/又は顔料等の不活性物質を含有することも可能である。
【0033】
有利な実施の形態では、無機結合材は、5重量%〜95重量%、特に5重量%〜65重量%、特に好ましくは15重量%〜35重量%の潜在的な水硬性結合材及び/又はポゾラン結合材(複数の場合もあり)を含有する。有益な潜在的な水硬性結合材及び/又はポゾラン結合材はスラグ及び/又はフライアッシュである。
【0034】
特に好ましい実施の形態では、無機結合材は水硬性結合材、特にセメント又はセメントクリンカーと、潜在的な水硬性結合材及び/又はポゾラン結合材、好ましくはスラグ及び/又はフライアッシュとを含有する。本明細書において潜在的な水硬性結合材及び/又はポゾラン結合材の含有量は、特に好ましくは5重量%〜65重量%、特に好ましくは15重量%〜35重量%である一方、水硬性結合材の含有量は少なくとも35重量%、特に好ましくは少なくとも65重量%である。
【0035】
本発明について、「無機結合材」は「無機結合材組成物」と同等であると考えられる。同じことがセメント質結合材という表現にも当てはまる。
【0036】
好ましい実施の形態では、セメント質系、好ましくはコンクリート混合物及びモルタル混合物は流動化剤を含有する。流動化剤として、例えばポリカルボキシレートエーテル、ビニルコポリマー、メラミン−又はナフタリン−ホルムアルデヒド凝集物、リグニンスルホネート又は炭水化物を使用することができ、ポリカルボキシレートエーテル含有高流動化剤によってより多くの水の低減を達成することができることから、ポリカルボキシレートエーテル含有高流動化剤の使用が特に好ましい。本発明によれば、ポリカルボキシレートエーテルは気泡形成材料としては不適であり、気泡形成材料ではないと考えるものとする。流動化剤は0.5重量%〜1.5重量%の量で、特に好ましくは0.6重量%〜1.2重量%の量で使用するのが好ましい。
【0037】
気泡の形成のために本発明による気泡形成剤が導入されるセメント質系における水/セメント比は、好ましくは0.2〜0.8、特に好ましくは0.4〜0.7である。
【0038】
別の好ましい実施の形態において、本発明による気泡形成剤はセメント質系の結合材含有量に対して0.1重量%〜2重量%、好ましくは0.2重量%〜1.2重量%の量で使用される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1. 本発明による気泡形成剤の調製:
2種の気泡形成剤(LM 1及びLM 2)を表1に従って調製した。ここでは、調製を水から開始し、水にSylvatal 25/30及びRewopol TS 35 Hを添加して、調製物を混合した。続いて、水酸化ナトリウムアルカリ液を添加して、調製物を再び混合した。最後に、およそ28%のTexapon NSOと、Grotan TK 5 PLUSと、配合物に応じてニトリロ三酢酸とを添加し、調製物を再び混合した。
【0040】
【表1】
【0041】
2. モルタル及びコンクリートの試験
以下の混合物(粒度分布)を調製した。
【0042】
標準モルタル:
750gのセメント(Normo4(Holcim、スイス)と、CEM I 42.5N(Jura Cement、スイス)と、CEM I 42.5N(Vigier、スイス)との1:1:1混合物)
141gの石灰岩フィラー(Nekafill, Tetstal AG、スイス)
738gの0〜1mmの砂粒(Kieswerk Hauser AG、スイス)
1107gの1mm〜4mmの礫岩(Kieswerk Hauser AG、スイス)
1154gの4mm〜8mmの礫岩(Sakret AG、スイス)
【0043】
調製変法A:砂粒、礫岩、フィラー及びセメントを1分間、パグミル混合機(Hobart A200N)にて混合した。流動化剤及び気泡形成剤(複数の場合もあり)を混合水に添加して、これを撹拌しながら3分以内に砂粒、礫岩、フィラー及びセメントに添加した。水/セメント含有量(w/c値)は0.42〜0.70であった。
【0044】
調製変法B:砂粒、礫岩、フィラー及びセメントを1分間、タンブラー型混合機(50kgのDEMAコンクリート混合機GBM 50)にて混合した。流動化剤及び気泡形成剤(複数の場合もあり)を混合水に添加して、これを撹拌しながら3分以内に砂粒、礫岩、フィラー及びセメントに添加した。水/セメント含有量(w/c値)は0.42〜0.44であった。
【0045】
SCC(自己充填コンクリート):
820gのセメント(Normo4(Holcim、スイス)と、CEM I 42.5N(Jura Cement、スイス)と、CEM I 42.5N(Vigier、スイス)との1:1:1混合物)
80gのフライアッシュ(Saffament, Safa Saarfilterasche-Vertriebs-GmbH & Co. KG、ドイツ)
1300gの石灰岩フィラー(Nekafill, Tetstal AG、スイス)
1450gの0〜1mmの砂粒(Kieswerk Hauser AG、スイス)
1800gの1mm〜4mmの礫岩(Kieswerk Hauser AG、スイス)
【0046】
調製:砂粒、礫岩、フィラー及びセメントを1分間、パグミル混合機(Hobart A200)にて混合した。流動化剤及び気泡形成剤(複数の場合もあり)を混合水に添加して、これを撹拌しながら3分以内に砂粒、礫岩、フィラー及びセメントに添加した。水/セメント含有量(w/c値)は0.42〜0.70であった。
【0047】
コンクリート:
7.5kgのセメント(Normo4(Holcim、スイス)と、CEM I 42.5N(Jura Cement、スイス)と、CEM I 42.5N(Vigier、スイス)との1:1:1混合物)
2.0kgの石灰岩フィラー(Nekafill, Tetstal AG、スイス)
7.0gの0〜1mmの砂粒(Kieswerk Hauser AG、スイス)
10.5kgの1mm〜4mmの礫岩(Kieswerk Hauser AG、スイス)
7.5kgの4mm〜8mmの礫岩(Sakret AG、スイス)
7.5kgの8mm〜16mmの礫岩(Sakret AG、スイス)
15.0kgの16mm〜32mmの礫岩(Sakret AG、スイス)
【0048】
調製変法A:砂粒、礫岩、フィラー及びセメントを30秒間、パグミル混合機(Zyklos)にて混合した。流動化剤及び気泡形成剤(複数の場合もあり)を混合水に添加して、これを撹拌しながら3分以内に砂粒、礫岩、フィラー及びセメントに添加した。水/セメント含有量(w/c値)は0.45であった。
【0049】
調製変法B:砂粒、礫岩、フィラー及びセメントを30秒間、パグミル混合機(Zyklos)にて混合した。流動化剤及び気泡形成剤(複数の場合もあり)を混合水に添加して、これを撹拌しながら3分以内に砂粒、礫岩、フィラー及びセメントに添加した。水/セメント含有量(w/c値)は0.45であった。
【0050】
以下の実施例において、流動拡散(flow spread)(FS)はDIN EN 1015−3に準拠して40分及び60分[min]後にmm単位で求め、空気量はDIN EN 1015−7に準拠して%単位で求め、分離係数(SF)(mm単位)及び比表面積(SSA)(mm−1単位)はDIN EN 480−11に準拠して求めた。標準モルタルについての160mm以上の流動拡散(FS)又はSCCについてのスランプフロー、及びコンクリートについての40cm以上の流動拡散が良好な加工性を示す。0.25mm未満の分離係数及び25mm−1を超える比表面積が凍結防止塩に対する非常に良好な耐性を示す。
【実施例】
【0051】
3. 実施例
以下で実施形態の例を用いて更に詳細に本発明を説明する。当然ながら、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0052】
3.1. 3つの異なる気泡形成材料と流動化剤としてポリカルボキシレートエーテルとを用いた標準モルタル(調製変法Aに従って調製した)の流動拡散及び空気量を求めた(タンブラー型混合機)。結果は表2から得ることができ、それらの結果から、Texapon NSO CA及びSylvatal 25/40の使用により発泡が起こる一方で、Rewopol TS 35 Hの使用により僅かな消泡が起こることが示される。表2に挙げられる実施例は本発明によるものではない。
【0053】
【表2】
【0054】
3.2. 本発明による気泡形成材料LM 1と、流動化剤としてポリカルボキシレートエーテルとを用いた異なる粒度分布(調製変法Aに従って調製した標準モルタル)の流動拡散及び空気量を求めた。結果は表3から得ることができ、本発明による気泡形成材料LM 1の使用は粒度分布が変化した場合であっても空気量及び気泡の質にほとんど影響しなかったことが示される。
【0055】
【表3】
【0056】
3.3. 様々な気泡形成材料と、流動化剤としてポリカルボキシレートエーテルとを用いた標準モルタル(調製変法Bに従って調製した)の流動拡散及び空気量を求めた(重力式混合機)。結果は表4から得ることができ、本発明による気泡形成剤を使用した場合、空気量はほとんど変化しないが、全て1成分系である既知の気泡形成材料を使用すると発泡が起こることが示される。
【0057】
【表4】
【0058】
3.4. 様々な気泡形成剤と、流動化剤としてポリカルボキシレートエーテルとを用いた標準モルタル(調製変法Bに従って調製した)の流動拡散及び空気量を求めた(ゆっくりと回転させるタンブラー型混合機)。結果は表5から得ることができ、ここでも本発明による気泡形成剤を使用した場合、空気量はほとんど変化しないが、全て1成分系である既知の気泡形成材料を使用すると発泡が起こることが示される。
【0059】
【表5】
【0060】
3.5. 様々な気泡形成材料と、流動化剤としてポリカルボキシレートエーテルとを用いた標準モルタル(調製変法Aに従って調製した)の流動拡散、空気量、比表面積及び分離係数を求めた(Hobart A200N混合機)。結果は表6から得ることができ、本発明による気泡形成剤を使用した場合、空気量はほとんど変化しないが、全て1成分系である既知の気泡形成材料を使用すると発泡が起こることが示される。比表面積(SSA)及び分離係数(SF)についての値から、本発明による気泡形成材料を使用した場合、モルタル又はコンクリートは凍結防止塩に対する良好な耐性を示すことが示される。
【0061】
【表6】
【0062】
3.6. 本発明による気泡形成剤LM 1と、流動化剤としてポリカルボキシレートエーテルとを用いた異なる粒度分布の流動拡散及び空気量を、様々なタイプの混合機を用いて求めた。結果を表7から得ることができ、本発明による気泡形成剤を使用した場合、異なる粒度分布及び異なる混合機のタイプは空気の導入の質に影響しないことが示される。
【0063】
【表7】
【0064】
3.7. 様々な気泡形成材料を用いた標準モルタル(調製変法Bに従って調製した)の流動拡散及び空気量に対する高流動化剤の影響を求めた(50kgのタンブラー型混合機「Stabiloコンクリート混合機6BM50」)。
【0065】
結果は表8から得ることができ、本発明による気泡形成剤を使用した場合、空気量はほぼ一定のままである一方で、全て1成分系である既知の気泡形成剤を使用すると、発泡又はスキミング(skimming)が起こることが示される。
【0066】
【表8】