特許第6491637号(P6491637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6491637硬化性組成物及びその硬化物、並びにウェハレベルレンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491637
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】硬化性組成物及びその硬化物、並びにウェハレベルレンズ
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20190318BHJP
   C08G 59/30 20060101ALI20190318BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20190318BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C08G59/24
   C08G59/30
   G02B1/04
   G02B3/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-505152(P2016-505152)
(86)(22)【出願日】2015年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2015054128
(87)【国際公開番号】WO2015129503
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2017年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-38275(P2014-38275)
(32)【優先日】2014年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓起
(72)【発明者】
【氏名】石田 恭平
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−184394(JP,A)
【文献】 特開2007−270114(JP,A)
【文献】 特開2004−352771(JP,A)
【文献】 特表2013−525551(JP,A)
【文献】 特開平01−026693(JP,A)
【文献】 特開2011−138089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
G02B 1/04
G02B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、Xは単結合又は連結基を示す)
で表される脂環エポキシ化合物(A)、分子内に2以上のグリシジル基を有し、且つシロキサン結合により構成された環状シロキサン骨格を有するシロキサン化合物(B)、及び硬化剤(C)を含み、
硬化性組成物全量における脂環エポキシ化合物(A)の含有量が5〜70重量%、
硬化性組成物全量におけるシロキサン化合物(B)の含有量が1〜50重量%、
硬化剤(C)の含有量が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物100重量部に対して、0.01〜15重量部であることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
脂環エポキシ化合物(A)が、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル及び/又は2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン−1−イル)プロパンである請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
ウェハレベルレンズ用硬化性組成物である請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の硬化性組成物を成型に付すことを特徴とするウェハレベルレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の硬化性組成物の成型物であるウェハレベルレンズ。
【請求項7】
請求項に記載のウェハレベルレンズを備えるカメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環エポキシ化合物及びシロキサン化合物を含む硬化性組成物、該硬化性組成物を硬化して得られる硬化物、並びに、該硬化性組成物を使用して得られるウェハレベルレンズに関する。本願は、2014年2月28日に日本に出願した、特願2014−038275号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ(特に、車載カメラ用レンズ)用材料としては、耐熱性、透明性、及び寸法安定性に優れるガラスが用いられてきた。しかし、たとえ低融点ガラスであっても溶融温度が約400℃以上と高いため加工性の点で劣り、その上、金型が熱で劣化して繰り返し使用することができなくなるため、製造コストが高くつくことが問題であった。そこで、近年、樹脂材料への代替が盛んに検討されている。
【0003】
レンズ用樹脂材料としては、シクロオレフィンポリマーやポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を使用することが知られているが(特許文献1)、前記樹脂は耐熱性の点で劣るため車載カメラ用レンズのように耐熱性が求められる用途においては使用不可能であった。
【0004】
耐熱性の問題を解決する方法としては、イソシアヌル環を主骨格とする構造を有するエポキシ化合物を使用する方法が挙げられる(特許文献2)。しかし、前記エポキシ化合物は硬化性の点で劣るため、2〜3分程度の加熱で速やかに硬化することが求められるウェハレベルレンズの材料として使用することは困難であった。また、得られる硬化物は高温環境下に長期間曝すと黄変し易く、透明性を維持することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−263627号公報
【特許文献2】特開2000−344867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、速やかに硬化して、高温環境下においても長期に亘って黄変を抑制し、優れた透明性を維持することができる硬化物を形成する硬化性組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、高温環境下において長期に亘って黄変を抑制し、優れた透明性を維持することができる硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、分子内に2以上のグリシジル基を有し、耐熱性及び黄変防止性に優れた硬化物を形成することができるシロキサン化合物と、硬化性に優れた特定の脂環エポキシ化合物、及び硬化剤を含有する硬化性組成物は、加熱することにより速やかに硬化物を形成することができる優れた硬化性を有し、高温環境下においても長期に亘って黄変を抑制し、優れた透明性を維持することができる硬化物を形成できることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
(式中、Xは単結合又は連結基を示す)
で表される脂環エポキシ化合物(A)、分子内に2以上のグリシジル基を有するシロキサン化合物(B)、及び硬化剤(C)を含むことを特徴とする硬化性組成物を提供する。
【0009】
本発明は、また、脂環エポキシ化合物(A)が、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル及び/又は2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン−1−イル)プロパンである前記の硬化性組成物を提供する。
【0010】
本発明は、また、硬化性組成物全量(100重量%)に脂環エポキシ化合物(A)を5〜70重量%含有する前記の硬化性組成物を提供する。
【0011】
本発明は、また、ウェハレベルレンズ用硬化性組成物である前記の硬化性組成物を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記の硬化性組成物を成型に付すことを特徴とするウェハレベルレンズの製造方法を提供する。
【0014】
本発明は、また、前記のウェハレベルレンズの製造方法により得られるウェハレベルレンズを提供する。
【0015】
本発明は、また、前記のウェハレベルレンズを備えるカメラを提供する。
【0016】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] 式(1)で表される脂環エポキシ化合物(A)、分子内に2以上のグリシジル基を有するシロキサン化合物(B)、及び硬化剤(C)を含むことを特徴とする硬化性組成物。
[2] 脂環エポキシ化合物(A)が、式(1)で表され、式中のXが4級炭素及び/又はヘテロ原子を含有する連結基である化合物である[1]に記載の硬化性組成物。
[3] 脂環エポキシ化合物(A)が、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル及び/又は2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン−1−イル)プロパンである[1]に記載の硬化性組成物。
[4] 脂環エポキシ化合物(A)の含有量が、硬化性組成物全量(100重量%)の5〜70重量%である[1]〜[3]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[5] シロキサン化合物(B)が、式(2)で表される環状シロキサン骨格を有する化合物である[1]〜[4]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[6] シロキサン化合物(B)が、分子内に2以上のグリシジルエーテル基を有する環状シロキサンである[1]〜[5]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[7] シロキサン化合物(B)のエポキシ当量が100〜350g/eqである[1]〜[6]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[8] シロキサン化合物(B)が、式(2-1)〜(2-11)で表される化合物である[1]〜[4]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[9] シロキサン化合物(B)の含有量が、硬化性組成物全量(100重量%)の1〜50重量%である[1]〜[8]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[10] 更に、水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物及び/又はイソシアヌル酸グリシジル化合物を硬化性組成物全量(100重量%)の5〜40重量%含有する[1]〜[9]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[11] 更に、水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物を硬化性組成物全量(100重量%)の5〜40重量%含有する[1]〜[10]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[12] 更に、イソシアヌル酸グリシジル化合物を硬化性組成物全量(100重量%)の5〜30重量%含有する[1]〜[11]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[13] 硬化性組成物に含まれる全エポキシ基(100モル%)に占める脂環エポキシ基の割合が60〜83モル%である[1]〜[12]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[14] 硬化剤(C)がカチオン重合開始剤である[1]〜[13]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[15] 硬化剤(C)の含有量が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物100重量部に対して0.01〜15重量部である[1]〜[14]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[16] 脂環エポキシ化合物(A)、シロキサン化合物(B)、水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物、イソシアヌル酸グリシジル化合物、及び硬化剤(C)以外の化合物の含有量が、硬化性組成物全量(100重量%)の5重量%以下である[10]〜[15]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[17] 硬化性組成物の粘度[25℃、せん断速度20(1/s)における]が0.05〜5Pa・sである[1]〜[16]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[18] ウェハレベルレンズ用硬化性組成物である[1]〜[17]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[19] 車載カメラに使用するウェハレベルレンズ用硬化性組成物である[1]〜[17]の何れか1つに記載の硬化性組成物。
[20] [1]〜[19]の何れか1つに記載の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物。
[21] 硬化物[厚み0.5mm]の波長400nmの光の内部透過率が70%以上である[20]に記載の硬化物。
[22] 硬化物[厚み0.5mm]の波長450nmの光の内部透過率が80%以上である[20]又は[21]に記載の硬化物。
[23] ガラス転移温度(Tg)が100〜200℃である[20]〜[22]の何れか1つに記載の硬化物。
[24] 25℃における波長589nmの光の屈折率(JIS K 7142準拠)が1.45〜1.55である[20]〜[23]の何れか1つに記載の硬化物。
[25] [1]〜[19]の何れか1つに記載の硬化性組成物を成型に付すことを特徴とするウェハレベルレンズの製造方法。
[26] [25]に記載のウェハレベルレンズの製造方法により得られるウェハレベルレンズ。
[27] [26]に記載のウェハレベルレンズを備えるカメラ。
【発明の効果】
【0017】
本発明の硬化性組成物は上記構成を有するため2〜3分程度の加熱により速やかに硬化物を形成することができる優れた硬化性を有し、得られる硬化物は高温環境下において長期に亘って黄変を抑制し、優れた透明性を維持することができる。そのため、ウェハレベルレンズ用材料(特に、車載カメラに使用するウェハレベルレンズ用材料)として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[脂環エポキシ化合物(A)]
本発明の硬化性組成物の必須成分である脂環エポキシ化合物(A)は、下記式(1)
【化2】
(式中、Xは単結合又は連結基を示す)
で表される、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(=脂環エポキシ基)を有する化合物である。但し、脂環エポキシ化合物(A)には、下記のシロキサン化合物(B)は含まれない。
【0019】
式(1)中、Xは単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。前記連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、カルボニル基(−CO−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、アミド結合(−CONH−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びこれらが複数個結合した基等を挙げることができる。
【0020】
上記二価の炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、二価の脂環式炭化水素基等を挙げることができる。炭素数が1〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基等を挙げることができる。上記二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2−シクロペンチレン基、1,3−シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等を挙げることができる。
【0021】
本発明における脂環エポキシ化合物(A)は、なかでも、脱水素により共役系構造(特に、π電子共役系構造)をとりにくい化合物が、より一層耐熱透明性に優れた硬化物を得ることができる点で好ましく、特に、一分子内の2個の脂環エポキシ基が4級炭素及び/又はヘテロ原子を含有する連結基を介して結合している化合物が好ましい。
【0022】
脂環エポキシ化合物(A)の代表的な例としては、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル及び/又は2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン−1−イル)プロパン[=2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン]等を挙げることができる。
【0023】
本発明の硬化性組成物全量(100重量%)における脂環エポキシ化合物(A)の含有量(配合量)は、例えば5〜70重量%程度、好ましくは15〜60重量%、特に好ましくは30〜60重量%である。脂環エポキシ化合物(A)の含有量が上記範囲を外れると、硬化性組成物の硬化性と硬化物の黄変防止性を兼ね備えることが困難となる傾向がある。尚、本発明の硬化性組成物において、脂環エポキシ化合物(A)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
また、本発明の硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%;例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物等の硬化性化合物の総和)に対する脂環エポキシ化合物(A)の含有量(配合量)は、例えば20〜70重量%程度、好ましくは30〜60重量%、特に好ましくは40〜60重量%である。脂環エポキシ化合物(A)の含有量が上記範囲を外れると、硬化性と得られる硬化物の耐熱透明性を兼ね備えることが困難となる傾向がある。
【0025】
[シロキサン化合物(B)]
本発明の硬化性組成物の必須成分であるシロキサン化合物(B)は、得られる硬化物に、長期に亘って高温環境下に曝した場合の黄変防止性(=耐熱透明性)を付与する化合物であり、分子内に2以上のグリシジル基を有し、さらに、シロキサン結合(Si−O−Si)により構成されたシロキサン骨格を有する化合物である。シロキサン化合物(B)におけるシロキサン骨格としては、例えば、環状シロキサン骨格やポリシロキサン骨格[例えば、直鎖状又は分岐鎖状のシリコーン(直鎖状又は分岐鎖状ポリシロキサン)や、かご型やラダー型のポリシルセスキオキサン等]等を挙げることができる。
【0026】
本発明におけるシロキサン化合物(B)としては、なかでも、硬化性に優れ、得られる硬化物が耐熱透明性に特に優れる点で、下記式(2)で表される環状シロキサン骨格を有する化合物(以後、「環状シロキサン」と称する場合がある)が好ましい。
【0027】
【化3】
【0028】
上記式(2)中、R1、R2は、グリシジル基を含有する一価の基又はアルキル基を示す。但し、式(2)で表される化合物におけるn個のR1及びn個のR2のうち、少なくとも2個はグリシジル基を含有する一価の基である。また、式(2)中のnは3以上の整数を示す。尚、式(2)で表される化合物におけるR1、R2は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、複数のR1は同一であってもよいし、異なっていてもよい。複数のR2も同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0029】
上記グリシジル基を含有する一価の基としては、−A−O−R3で表されるグリシジルエーテル基[Aはアルキレン基を示し、R3はグリシジル基を示す]が好ましい。上記A(アルキレン基)としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基等の炭素数が1〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基等を挙げることができる。
【0030】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜18(好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜3)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0031】
式(2)中のnは3以上の整数を示し、なかでも、硬化性組成物の硬化性、及び硬化物の耐熱性及び機械強度に優れる点で3〜6の整数が好ましい。
【0032】
シロキサン化合物(B)が分子内に有するグリシジル基の数は2個以上であり、硬化性組成物の硬化性、硬化物の耐熱性及び機械強度の観点から2〜6個が好ましく、特に好ましくは2〜4個である。
【0033】
シロキサン化合物(B)のエポキシ当量(JIS K7236に準拠)は、硬化性組成物の硬化性、及び硬化物の耐熱透明性に優れる点で100〜350が好ましく、特に好ましくは150〜300、最も好ましくは200〜270である。
【0034】
本発明の硬化性組成物には、シロキサン化合物(B)以外にも他のシロキサン化合物(例えば、脂環エポキシ基含有環状シロキサン、特開2008−248169号公報に記載の脂環エポキシ基含有シリコーン樹脂、特開2008−19422号公報に記載の1分子中に少なくとも2個のエポキシ官能性基を有するオルガノポリシルセスキオキサン樹脂等)を含有していてもよいが、本発明の硬化性組成物に含まれる全シロキサン化合物に占めるシロキサン化合物(B)の割合は、10重量%以上であることが好ましく、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上、最も好ましくは80重量%以上である。
【0035】
シロキサン化合物(B)としては、より具体的には、下記式(2-1)〜(2-11)で表される、分子内に2以上のグリシジル基を有する環状シロキサン等を挙げることができる。
【化4】
【0036】
尚、本発明の硬化性組成物において、シロキサン化合物(B)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。シロキサン化合物(B)としては、例えば、商品名「X−40−2701」、「X−40−2728」、「X−40−2738」、「X−40−2740」(以上、信越化学工業(株)製)等の市販品を用いることができる。
【0037】
本発明の硬化性組成物全量(100重量%)におけるシロキサン化合物(B)の含有量(配合量)は、例えば1〜50重量%程度、好ましくは5〜45重量%、特に好ましくは10〜40重量%、最も好ましくは20〜40重量%である。シロキサン化合物(B)の含有量が上記範囲を外れると、硬化性と得られる硬化物の耐熱透明性を兼ね備えることが困難となる傾向がある。
【0038】
また、本発明の硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%;例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物等の硬化性化合物の総和)に対するシロキサン化合物(B)の含有量(配合量)は、例えば1〜60重量%程度、好ましくは5〜55重量%、特に好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは25〜40重量%である。シロキサン化合物(B)の含有量が上記範囲を外れると、硬化性と得られる硬化物の耐熱透明性を兼ね備えることが困難となる傾向がある。
【0039】
[硬化剤(C)]
本発明の硬化性組成物の必須成分である硬化剤(C)は、脂環エポキシ化合物(A)やシロキサン化合物(B)等の硬化性基(特に、エポキシ基)を有する硬化性化合物の硬化反応を開始乃至促進させることにより、又は上記硬化性化合物と反応することにより、上記硬化性化合物を硬化させる働きを有する化合物である。尚、本発明の硬化性組成物において、硬化剤(C)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
硬化剤(C)としては、例えば、紫外線照射又は加熱処理を施すことによりカチオン種を発生して、重合を開始させるカチオン重合開始剤(酸発生剤)を用いることができる。
【0041】
紫外線照射によりカチオン種を発生するカチオン重合開始剤としては、例えば、ヘキサフルオロアンチモネート塩、ペンタフルオロヒドロキシアンチモネート塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアルゼネート塩等を挙げることができる。例えば、商品名「UVACURE1590」(ダイセル・サイテック(株)製)、商品名「CD−1010」、「CD−1011」、「CD−1012」(以上、米国サートマー製)、商品名「イルガキュア264」(BASF製)、商品名「CIT−1682」(日本曹達(株)製)、商品名「CPI−101A」(サンアプロ(株)製)等の市販品を使用しても良い。
【0042】
加熱処理を施すことによりカチオン種を発生するカチオン重合開始剤としては、例えば、アリールジアゾニウム塩、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩、アレン−イオン錯体等を上げることができる。例えば、商品名「PP−33」、「CP−66」、「CP−77」(以上、(株)ADEKA製)、商品名「FC−509」(スリーエム製)、商品名「UVE1014」(G.E.製)、商品名「サンエイド SI−60L」、「サンエイド SI−80L」、「サンエイド SI−100L」、「サンエイド SI−110L」、「サンエイド SI−150L」(以上、三新化学工業(株)製)、商品名「CG−24−61」(チバ・ジャパン製)等の市販品を使用しても良い。さらに、アルミニウムやチタン等の金属とアセト酢酸若しくはジケトン類とのキレート化合物とトリフェニルシラノール等のシラノールとの化合物、又はアルミニウムやチタン等の金属とアセト酢酸若しくはジケトン類とのキレート化合物とビスフェノールS等のフェノール類との化合物であってもよい。
【0043】
硬化剤(C)の含有量(配合量)は、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物100重量部に対して、例えば0.01〜15重量部程度、好ましくは0.01〜10重量部、特に好ましくは0.05〜10重量部、最も好ましくは0.1〜5重量部である。硬化剤(C)を上記範囲内で使用することにより、耐熱性、耐光性、透明性に優れた硬化物を得ることができる。
【0044】
[他の硬化性化合物]
本発明の硬化性組成物は、脂環エポキシ化合物(A)及びシロキサン化合物(B)以外の硬化性化合物(「他の硬化性化合物」と称する場合がある)を含んでいてもよい。他の硬化性化合物としては、例えば、脂環エポキシ化合物(A)及びシロキサン化合物(B)以外のエポキシ化合物(「他のエポキシ化合物」と称する場合がある)、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等を挙げることができる。他の硬化性化合物を含有することにより、硬化性組成物の粘度が制御され取り扱い性が向上したり、硬化物を形成する際の硬化収縮が抑制される場合がある。尚、本発明の硬化性組成物において他の硬化性化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
他のエポキシ化合物としては、例えば、1分子内に脂環エポキシ基を1個、又は3個以上含有する脂環エポキシ化合物[例えば、1,2:8,9−ジエポキシリモネン、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2−エチルヘキシル等]、脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物[例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物等]、芳香族グリシジルエーテル系エポキシ化合物[例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールAのクレゾールノボラック型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、トリスフェノールメタンから得られるエポキシ化合物等]、脂肪族グリシジルエーテル系エポキシ化合物[例えば、脂肪族ポリグリシジルエーテル等]、グリシジルエステル系エポキシ化合物、グリシジルアミン系エポキシ化合物、水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物(核水素化芳香族グリシジルエーテル系エポキシ化合物)、イソシアヌル酸グリシジル化合物等を挙げることができる。
【0046】
他のエポキシ化合物としては、なかでも、透明性及び耐湿性に優れた硬化物を得ることができる点で、水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物及び/又はイソシアヌル酸グリシジル化合物が好ましい。
【0047】
上記水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物としては、具体的には、2,2−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、及びこれらの多量体等のビスフェノールA型ジグリシジル化合物を水素化した化合物(=水素化ビスフェノールA型ジグリシジル化合物);ビス[o,o−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[o,p−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[p,p−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、及びこれらの多量体等のビスフェノールF型ジグリシジル化合物を水素化した化合物(=水素化ビスフェノールF型ジグリシジル化合物);水添ビフェノール型エポキシ化合物;水添フェノールノボラック型エポキシ化合物;水添クレゾールノボラック型エポキシ化合物;ビスフェノールAの水添クレゾールノボラック型エポキシ化合物;水添ナフタレン型エポキシ化合物;トリスフェノールメタンから得られるエポキシ化合物の水添エポキシ化合物等を挙げることができる。
【0048】
上記イソシアヌル酸グリシジル化合物としては、具体的には、イソシアヌル酸トリグリシジル、イソシアヌル酸ジグリシジルモノアリル、イソシアヌル酸モノグリシジルジアリル等を挙げることができる。
【0049】
他のエポキシ化合物としては、例えば、商品名「YX8000」、「YX8034」、「YX8040」(以上、三菱化学(株)製)、商品名「TEPIC−VL」(日産化学工業(株)製)、商品名「MA−DGIC」、「DA−MGIC」(以上、四国化成工業(株)製)等の市販品を使用することもできる。
【0050】
上記オキセタン化合物としては、例えば、トリメチレンオキシド、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(クロロメチル)オキセタン、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス([1−エチル(3−オキセタニル)]メチル)エーテル、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、3−エチル−3([(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル)オキセタン等を挙げることができる。
【0051】
上記ビニルエーテル化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、1−メチル−3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−メチル−2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,3−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,2−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、p−キシレングリコールモノビニルエーテル、m−キシレングリコールモノビニルエーテル、o−キシレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、オリゴエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0052】
他の硬化性化合物の含有量(配合量)は、硬化性組成物全量(100重量%)に対して、例えば40重量%以下(好ましくは5〜40重量%)、好ましくは30重量%以下(好ましくは5〜30重量%)である。
【0053】
なかでも、水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物を、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)に対して、例えば5〜40重量%程度含有することが好ましく、特に好ましくは10〜30重量%である。水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物を上記範囲で含有すると、硬化物の耐熱透明性を向上することができる。一方、水素化グリシジルエーテル系エポキシ化合物の含有量が上記範囲を上回ると、硬化性とTgが低下し、ウェハレベルレンズ用材料として使用することが困難となる場合がある。
【0054】
また、イソシアヌル酸グリシジル化合物を、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)に対して、例えば5〜30重量%含有することが好ましく、特に好ましくは5〜20重量%である。イソシアヌル酸グリシジル化合物を上記範囲で含有すると、得られる硬化物の透明性を維持しつつ、硬化性組成物に適度な粘度を付与することができる。一方、イソシアヌル酸グリシジル化合物の含有量が上記範囲を上回ると、硬化性が低下し、ウェハレベルレンズ用材料として使用することが困難となる場合がある。
【0055】
更に、硬化性組成物に含まれる全エポキシ基(グリシジル基及び脂環エポキシ基の和)(100モル%)に占める脂環エポキシ基の割合は、例えば30〜83モル%程度(好ましくは50〜80モル%、特に好ましくは60〜80モル%)であることが、硬化性組成物の硬化性と、得られる硬化物の耐熱透明性を兼ね備えることができる点で好ましい。
【0056】
[添加剤等]
本発明の硬化性組成物は上記化合物の他にも公知乃至慣用の添加剤を含有していても良い。前記添加剤としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物粒子、ゴム粒子、シリコーン系やフッ素系の消泡剤、シランカップリング剤、充填剤、可塑剤、レベリング剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、イオン吸着体、顔料、撥水・撥油剤等を挙げることができる。これらの添加剤の含有量(配合量)は、硬化性組成物(100重量%)に対して、例えば5重量%以下とすることが好ましい。また、本発明の硬化性組成物は溶媒を含んでいてもよいが、あまり多いと硬化物に気泡が生じる場合があるので、硬化性組成物(100重量%)に対して10重量%以下とすることが好ましく、特に好ましくは1重量%以下である。
【0057】
本発明の硬化性組成物は、特に限定されないが、例えば、脂環エポキシ化合物(A)、シロキサン化合物(B)、硬化剤(C)、必要に応じてその他の成分等を配合し、例えば真空下で気泡を除去しながら撹拌・混合することにより調製することができる。撹拌・混合する際の温度は、例えば10〜60℃程度が好ましい。尚、撹拌・混合には、公知乃至慣用の装置(例えば、自転公転型ミキサー、1軸又は多軸エクストルーダー、プラネタリーミキサー、ニーダー、ディゾルバー等)を使用できる。
【0058】
[硬化物]
本発明の硬化性組成物に、例えば、加熱処理及び/又は光照射を施すことにより、硬化物(「本発明の硬化物」と称する場合がある)が得られる。本発明の硬化性組成物は硬化性に優れ、加熱処理を行う場合は、例えば100〜200℃程度(好ましくは120〜160℃)の温度で短時間(例えば1〜10分間程度、好ましくは1〜3分)加熱することで硬化物を形成することができる。そのためウェハレベルレンズ金型の熱による劣化を防止することができる。また、光照射を行う場合は、その光源として、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線、レーザー光等を使用することができる。また、光照射後、例えば50〜180℃程度の温度で加熱処理を施して更に硬化反応を進行させてもよい。
【0059】
また、加熱処理及び/又は光照射終了後は、更にアニール処理を施して内部歪みを除去することが好ましく、例えば100〜200℃の温度で30分〜1時間程度加熱することが好ましい。
【0060】
本発明の硬化物の400nmにおける内部透過率[厚み0.5mm換算]は例えば70%以上(例えば、70〜100%)、好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上である。また、150℃の高温環境下に220時間程度曝した場合でも黄変を防止することができ、硬化物の400nmにおける内部透過率[厚み0.5mm換算]を70%以上(好ましくは75%以上)に維持することができる。
【0061】
本発明の硬化物の450nmにおける内部透過率[厚み0.5mm換算]は例えば80%以上(例えば、80〜100%)、好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。また、150℃の高温環境下に220時間程度曝した場合でも黄変を防止することができ、硬化物の450nmにおける内部透過率[厚み0.5mm換算]を75%以上(好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上)に維持することができる。
【0062】
本発明の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上程度(例えば100〜200℃)、好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度が100℃未満であると、使用態様によっては(車載カメラ用レンズとして使用する場合等)硬化物の耐熱性が不十分となる場合がある。硬化物のガラス転移温度は、例えば、各種熱分析[DSC(示差走査熱量計)、TMA(熱機械分析装置)等]や動的粘弾性測定等により測定でき、より具体的には、実施例に記載の測定方法により測定できる。
【0063】
本発明の硬化物の屈折率は、例えば0〜1.60程度、好ましくは1.45〜1.55であり、150℃の高温環境下に220時間程度曝した場合でもその値を維持することができる。また、本発明の硬化物のアッベ数は、例えば45以上、好ましくは50以上であり、150℃の高温環境下に220時間曝した場合でもその値を維持することができる。
【0064】
本発明の硬化性組成物は硬化性に優れ、極めて速やかに硬化して、耐熱透明性に優れた硬化物を形成することができる。そのため、ウェハレベルレンズ用硬化性組成物(特に、車載カメラに使用するウェハレベルレンズ用硬化性組成物)として好適に使用することができる。
【0065】
[ウェハレベルレンズの製造方法]
本発明のウェハレベルレンズの製造方法としては、上記硬化性組成物を成型(例えば、キャスティング成型法、射出成型法)に付すことを特徴とする。尚、ウェハレベルレンズ金型は、金属製、ガラス製、及びプラスチック製の何れであっても良い。
【0066】
キャスティング成型法には同時成型法や個片成型法が含まれ、それぞれ下記工程を有する。
(同時成型法)
工程1:上記硬化性組成物を複数個のレンズ型が一定方向に整列した形状を有するウェハレベルレンズ金型に流し込み、加熱及び/又は光照射を施して硬化させる
工程2:ウェハレベルレンズ金型を外してアニール処理を行い、ウェハレベルレンズが複数個結合した形状を有する硬化物を得る
工程3:ウェハレベルレンズが複数個結合した形状を有する硬化物を個片化してウェハレベルレンズを得る
(個片成型法)
工程1:上記硬化性組成物を1個のレンズ型を有するウェハレベルレンズ金型に流し込み、加熱及び/又は光照射を施して硬化させる
工程2:ウェハレベルレンズ金型を外してアニール処理を行い、ウェハレベルレンズを得る
【0067】
射出成型法は下記工程を有する。
工程1:上記硬化性組成物を射出成型用ウェハレベルレンズ金型に流し込み、加熱及び/又は光照射を施して硬化させる
工程2:ウェハレベルレンズ金型を外してアニール処理を行い、バリを切除して、ウェハレベルレンズを得る
【0068】
硬化性組成物の加熱処理、光照射、及びアニール処理は、上記[硬化物]の項に記載の方法により行うことができる。
【0069】
上記同時成型法においては、硬化性組成物は低粘度で流動性に優れることが、金型への充填性に優れる点で好ましい。上記同時成型法において使用される硬化性組成物の25℃、せん断速度20(1/s)における粘度は、例えば0.05〜5Pa・s程度、好ましくは0.1〜2Pa・sである。上記範囲の粘度を有する硬化性組成物は流動性に優れ、気泡が残存しにくく、注入圧の上昇を抑制しつつ金型へ充填することができる。すなわち、塗布性及び充填性に優れ、成型作業全体に亘り、作業性に優れる。
【0070】
本発明の硬化性組成物の硬化物は100〜200℃程度の高温環境下でも優れた耐熱性を有し、形状保持性に優れる。そのため、金型から外した後にアニール処理を施しても、優れたレンズ中心位置精度を有するウェハレベルレンズを効率よく製造することができる。そのため、上記同時成型法の工程3では、ウェハレベルレンズが複数個結合した形状を有する硬化物を複数枚重ね、最上部の硬化物を基準に切断ラインの位置を決定して切断することにより、ウェハレベルレンズを破損することなく分離させることができ、ウェハレベルレンズ又はその積層体を、低コストで効率よく製造することができる。
【0071】
本発明のウェハレベルレンズの製造方法により得られるウェハレベルレンズは高温環境下に長期に亘って曝しても黄変を防止することができ、高い透明性を維持することができる。そのため、例えば、カメラ(車載カメラ、デジタルカメラ、PC用カメラ、携帯電話用カメラ、監視カメラ等のカメラ、特にウェハレベルカメラ)の撮像用レンズ、メガネレンズ、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ等として、とりわけ耐熱性が求められる車載カメラ用ウェハレベルレンズとして好適に使用することができる。
【0072】
更にまた、本発明のウェハレベルレンズの製造方法で得られるウェハレベルレンズは耐熱性に優れるため、回路基板に実装する場合、リフローによって半田付け実装が可能である。そのため、本発明のウェハレベルレンズを備えるカメラは、PCB(Printed Circuit Board)基盤上に、他の電子部品の表面実装と同一の半田リフロープロセスにて、直接実装することができ、極めて効率的な製品製造が可能となる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0074】
実施例1〜5、比較例1〜3
下記表1に記載の各成分を配合組成(単位;重量部)に従って配合し、室温で自転公転型ミキサーで撹拌・混合することにより、均一で透明な硬化性組成物(カチオン硬化性組成物)を得た。
【0075】
次いで、上記で得られた硬化性組成物を、下記加熱処理方法により硬化させて硬化物を得た。尚、下記硬化物の作製にあたっては平面の金型を用いた。
<加熱処理方法>
インプリント成型機(商品名「NANOIMPRINTER NM−0501」、明昌機工(株)製)を用い下記成型プロファイルにて、厚み0.5mmで硬化・成型し、25℃まで冷却した後に離型し、更に予め180℃に熱したオーブンで30分間加熱してアニール処理を行って硬化物を得た(それぞれ5個ずつ)。
成型プロファイル:25℃で硬化性組成物を金型に塗布し、その後、所定の厚みまでプレス軸位置を調整して金型をプレスし、150℃まで30℃/分で昇温した後、150℃で2分間保持する
【0076】
実施例及び比較例で得られた硬化性組成物及びその硬化物について、以下の評価を行った。
【0077】
[粘度]
実施例及び比較例で得られた硬化性組成物の粘度は、レオメーター(商品名「Physica MCR301」、Anton Paar社製)を使用して測定した、25℃、せん断速度が20(1/s)の時の粘度である。
【0078】
[硬化率]
実施例及び比較例で得られた硬化性組成物について、示差走査熱量計(DSC)(商品名「Q2000」、ティー・エイ・インスツルメント社製)を使用し、窒素雰囲気下において、下記の温度条件で加熱した際の硬化性組成物の硬化発熱量(「硬化性組成物の硬化発熱量」とする)を測定した。
次いで、実施例及び比較例で得られた硬化性組成物を上述の<加熱処理方法>により硬化させて得られた硬化物(成型後、アリール処理前の硬化物)、及びアニール処理後の硬化物について、下記の温度条件で加熱した際の硬化発熱量(「硬化物の硬化発熱量」とする)を測定し、硬化率を下記式により算出した。
(温度条件)
50℃で3分間保持し、続いて20℃/分で250℃まで昇温し、250℃で3分間保持する。
(硬化率の算出式)
硬化率(%)={1−(硬化物の硬化発熱量)/(硬化性組成物の硬化発熱量)}×100
【0079】
[ガラス転移温度:Tg]
実施例及び比較例で得られた硬化物のガラス転移温度を、固体粘弾性測定装置(商品名「RSA−III」、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、窒素気流下、昇温速度5℃/分、測定温度範囲0℃〜300℃、周波数10Hz、歪0.05%の条件で測定し、tanδのピークトップからTgを読み取った。
【0080】
[内部透過率]
実施例及び比較例で得られた硬化物、及び150℃環境下に表1に記載の時間曝した硬化物の400nmにおける内部透過率を、下記式によって算出した。
400nmにおける内部透過率=400nmにおける光線透過率/(1−r)2
r={(n1−1)/(n1+1)}2
400nmにおける光線透過率は分光光度計(商品名「U−3900」、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。n1は400nmにおける屈折率であり、下記方法で測定した400nmにおける屈折率の値を用いた。
450nmにおける内部透過率も、上記に準じて算出した。
【0081】
[屈折率]
実施例及び比較例で得られた硬化物、及び150℃環境下に表1に記載の時間曝した硬化物の屈折率(25℃における、波長589nmの光の屈折率)を、JIS K 7142に準拠した方法で、屈折率計(商品名「Model 2010」、メトリコン社製)を用いて測定した。
【0082】
[アッベ数]
実施例及び比較例で得られた硬化物、及び150℃環境下に表1に記載の時間曝した硬化物のアッベ数を、下記式によって算出した。
アッベ数=(nd−1)/(nf−nc
式中、ndは波長589.2nmの光の屈折率、nfは波長486.1nmの光の屈折率、ncは波長656.3nmの光の屈折率を示す。尚、屈折率は、上記方法で測定した各波長の光の屈折率の値を用いた。
【0083】
上記評価結果を表1にまとめて示す。
【表1】
【0084】
表1の略語について説明する。
[硬化性化合物]
X−40−2728:分子内に2個のグリシジル基を有する環状シロキサン、エポキシ当量:262g/eq、商品名「X−40−2728」、信越化学工業(株)製
X−40−2670:分子内に4個の脂環エポキシ基を有する環状シロキサン、エポキシ当量:184g/eq、商品名「X−40−2670」、信越化学工業(株)製
YX8040:水素化ビスフェノールA型ジグリシジル化合物(商品名「YX8040」、三菱化学(株)製)
A−1:ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル
TEPIC−VL:イソシアヌル酸トリグリシジル(商品名「TEPIC−VL」、日産化学工業(株)製)
PB3600:エポキシ化ポリブタジエン(商品名「エポリードPB3600」、(株)ダイセル製)
[硬化剤]
SI-100L:熱カチオン重合開始剤、アニオン種としてPF6-を有する芳香族スルホニウム塩(商品名「サンエイドSI−100L」、三新化学工業(株)製)
[酸化防止剤]
IRG1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート](商品名「IRGANOX1010」、BASF製)
HP−10:2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(商品名「HP−10」、(株)ADEKA製)
[撥水・撥油剤]
E−1630:3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン(商品名「E−1630」、ダイキン工業(株)製)
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の硬化性組成物は2〜3分程度の加熱により速やかに硬化物を形成することができる優れた硬化性を有し、得られる硬化物は高温環境下において長期に亘って黄変を抑制し、優れた透明性を維持することができる。そのため、ウェハレベルレンズ用材料として好適に使用することができる。