特許第6491685号(P6491685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491685
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】新規プロシアニジン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/62 20060101AFI20190318BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20190318BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20190318BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C07D311/62CSP
   A61K31/353
   A61K36/18
   A61P3/10
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-63166(P2017-63166)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-165252(P2018-165252A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】595082696
【氏名又は名称】キューサイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英介
(72)【発明者】
【氏名】▲櫛▼引 夏花
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−085868(JP,A)
【文献】 特開2009−156813(JP,A)
【文献】 KARONEN,M. et al.,Phytochemical Analysis,2007年,Vol.18,p.378-386
【文献】 韓立坤 等,生薬学雑誌,2006年,Vol.60, No.2,p.68-72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 311/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
MEDLINE(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、及びガロカテキンが重合した基本骨格を有し、
前記基本骨格に含まれる各構成単位のモル比が、エピカテキン:カテキン:エピガロカテキン:ガロカテキン=0.75〜1.50:0.42〜0.84:0.57〜1.14:0.10〜0.20であり、
前記構成単位間の結合様式がB型であること
を特徴とするプロシアニジン。
【請求項2】
分子量が1,000−114,000であることを特徴とする、請求項1に記載のプロシアニジン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプロシアニジンを有効成分とするα-アミラーゼ阻害剤。
【請求項4】
アカショウマの水及び/又は含水有機溶媒による抽出物を合成吸着剤で吸着処理し、該合成吸着剤を含水有機溶媒で溶出処理する工程を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のプロシアニジンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規プロシアニジンとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食後に生じる一過的な高血糖状態(すなわち、食後過血糖)をコントロールすることは、糖尿病の予防及び治療における重要な課題である。
食事により摂取された炭水化物は、まず、唾液及び膵液に含まれるα-アミラーゼによって二糖類にまで分解される。その後、小腸粘膜上皮細胞の膜上に局在するα-グルコシダーゼによって単糖へと分解され、該膜上に局在するトランスポーターを介して該細胞内に取り込まれた後、血中へと輸送される。単糖にまで分解されないと小腸粘膜上皮細胞には取り込まれないため、α-アミラーゼ又はα-グルコシダーゼの活性を阻害することにより、多糖類の摂取を実質的に抑制することが可能となる。
【0003】
これまで、α-アミラーゼ及び/又はα-グルコシダーゼの活性阻害を作用機序とする薬剤が複数開発され、その一部は既に食後過血糖改善剤として糖尿病患者に処方されている。しかしながら、それらの薬剤には種々の副作用が知られるため、より副作用が少ないことを期待して、植物由来ポリフェノールへの期待が高まっている(非特許文献1)。
【0004】
植物由来ポリフェノールには単量体ポリフェノールと重合体ポリフェノール(一般に、タンニンと呼ばれる)があり、重合体ポリフェノールはさらに縮合型と加水分解型に分けられる。縮合型タンニンは、単量体ポリフェノールの一種であるフラボノイドが炭素−炭素結合を介して重合した基本骨格を有するものである。そして、縮合型タンニンのうち、フラバン−3−オールを基本骨格の構成単位とするものは、プロシアニジンと呼ばれている。
【0005】
プロシアニジンは、抗酸化作用、抗炎症作用、抗脂肪蓄積作用、血管弛緩作用等を有することが知られており、高血圧や心疾患等の治療薬としての使用が提案されている(特許文献1)。さらに、近年、多糖消化阻害作用を有することが報告され、食後過血糖をコントロールし得る手段として注目されている。
例えば、ブドウ(非特許文献2)、ツルドクダミ(非特許文献3)、柿(非特許文献4)、シナモン(非特許文献5)から抽出されたプロシアニジンには、α-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼの活性を阻害する作用があることが報告されている。また、ブドウ由来プロシアニジンを摂取した糖尿病モデルラットでは、血糖値が低下することが報告されている(非特許文献6)。
【0006】
これらのプロシアニジンは、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキンから選ばれる2種又は3種のフラバン−3−オールが重合した基本骨格に、没食子酸や糖類等が副次的にエステル結合した構造を有するものである(ブドウ:非特許文献7、ツルドクダミ:非特許文献3、柿:非特許文献8、シナモン:非特許文献5)。そして、当該多糖消化阻害作用の強弱は、その構造の違いに起因すると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5456955号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kim Y., et al, Nutrients, doi:10.3390/nu8010017, 2016
【非特許文献2】Lavelli V., et al, Food Funct., 7:1655-1663, 2016
【非特許文献3】Wang H., et al, Molecules, 18:2255-2265, 2013
【非特許文献4】Lee Y. A., et al, J. Nutr. Sci. Vitaminol, 53:287-292, 2007
【非特許文献5】Lin G-M., et al, J. Sci. Food Agric., 96:4749-4759, 2016
【非特許文献6】Pinent M., et al, Endocrinology, 145:4985-4990, 2004
【非特許文献7】Kennedy J. A., et al, Phytochemistry, 55:77-85, 2000
【非特許文献8】Xu S.-F., et al, Fitoterapia, 83:153-160, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記技術的背景を鑑みてなされたものであり、優れた多糖消化阻害作用を有する新規プロシアニジンと、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明者が鋭意検討を行った結果、アカショウマから抽出されたプロシアニジンが、これまで報告されていない4種類のフラバン−3−オールが重合した基本骨格を有する新規プロシアニジンであり、且つ、非常に高いα-アミラーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、及びガロカテキンが重合した基本骨格を有することを特徴とするプロシアニジン。
[2] 前記構成単位間の結合様式がB型であることを特徴とする、[1]に記載のプロシアニジン。
[3] 前記基本骨格に含まれる各構成単位のモル比が、エピカテキン:カテキン:エピガロカテキン:ガロカテキン=0.50〜2.00:0.28〜1.12:0.38〜1.52:0.07〜0.26であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のプロシアニジン。
[4] 分子量が1,000−114,000であることを特徴とする、[1]−[3]のいずれかに記載のプロシアニジン。
[5] アカショウマの水及び/又は含水有機溶媒による抽出物を合成吸着剤で吸着処理し、該合成吸着剤を含水有機溶媒で溶出処理する工程を含むことを特徴とする、[1]−[4]のいずれかに記載のプロシアニジンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、多糖消化阻害作用に優れる新規プロシアニジンとその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたプロシアニジン濃縮画分を1H-NMRにより解析した結果(1H-NMR スペクトル)である。
図2】実施例2で得られたプロシアニジン濃縮画分を逆相HPLCにより展開した結果(HPLCチャート)である。
図3】実施例3で得られたチオール分解産物を逆相HPLCにより展開した結果(HPLCチャート)である。
図4】標準試料(ポリスチレン)によるゲル濾過HPLCの検量線である。
図5】実施例1で得られたプロシアニジンをゲル濾過HPLCにより展開したHPLCチャートである。
図6】実施例2で得られたプロシアニジンをゲル濾過HPLCにより展開したHPLCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本書では、別途記載がない限り、%は容量%を表す。
【0015】
[新規プロシアニジン]
本発明に係る新規プロシアニジンは、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンの4種類のフラバン−3−オールが重合した基本骨格を有する縮合型タンニンである。これまで、さまざまな植物からプロシアニジンが同定されているが、その多くは1−3種類のフラバン−3−オールが重合した基本骨格を有するものであり、4種類のフラバン−3−オールを基本骨格の構成単位とするものはまだ報告されていない。
【0016】
本発明においては、前記基本骨格を構成する4種類のフラバン−3−オールの割合(モル比)が、エピカテキン:カテキン:エピガロカテキン:ガロカテキン=0.50〜2.00:0.28〜1.12:0.38〜1.52:0.07〜0.26であることが好ましい。さらに好ましくは、エピカテキン:カテキン:エピガロカテキン:ガロカテキン=0.75〜1.50:0.42〜0.84:0.57〜1.14:0.10〜0.20であり、最も好ましくは、0.9〜1.2:0.50〜0.67:0.68〜0.91:0.12〜0.16である。
【0017】
プロシアニジンは、基本骨格の構成単位の結合様式の違いから、主にA型(単位間に4β→8及び2β→O→7又は4β→6及び2β→O→7の結合を少なくとも1つ有する)、及びB型(単位間の炭素通しの結合が4β→8又は4β→6のみ)に分けられる。
本発明に係る新規プロシアニジンは、B型プロシアニジンであることが好ましい。
【0018】
本発明に係る新規プロシアニジンは、分子量が1,000−114,000のものであってよく、好ましくは3,000−114,000、さらに好ましくは8,000−15,000である。また、前記構成単位の重合度は、3−400、好ましくは10−400、さらに好ましくは25−50であってよい。また、末端に、主にカテキンを有していてもよい。
【0019】
本発明に係る新規プロシアニジンは、前記基本骨格を構成する1以上のフラバン−3−オールにおける1以上のOH基が、誘導体化、例えば、エステル化されていてもよい。当該フラバン−3−オールは、環の3位、5位、7位、3’位及び4’位のうちの1以上で、1以上のエステル基、好ましくは、没食子酸エステル基を含んでもよい。また、1のフラバン−3−オールは、1、2、3、4、または5の没食子酸エステルと結合していてもよい。
本発明に係る新規プロシアニジンは、フラバン-3-オールあたり平均して一個のガロイル基が結合していてもよい。
前記没食子酸エステルの例としては、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等が挙げられる。
【0020】
[新規プロシアニジンの製造方法]
本発明に係る新規プロシアニジンは、アカショウマから抽出することができる。
【0021】
アカショウマ(学名:Astilbe thunbergii var. thunbergii)は、ユキノシタ科チダケサシ属の植物で、本州、四国、九州各地の山地に自生する多年草である。アカショウマの根は、解熱、解毒、消炎等の効用で用いられるショウマ(キンポウゲ科のサラシナショウマ)の根茎の代用品として古くから用いられてきた。なお、厚生労働省からの通達では、ショウマの根茎は医薬品だが、アカショウマの根は非医薬品に相当する(ttps://hfnet.nih.go.jp/usr/annzenn/image/iyakuhin2参照)。
【0022】
本発明に用いるアカショウマ(Astilbe thunbergii var. thunbergii)は、自生又は栽培されたアカショウマのいずれであってもよく、好適な部位は根及び/又は根茎である。生及び乾燥させたもののいずれも用いることができ、抽出効率向上の観点からは、細断化又は粉末化されていることが好ましい。
【0023】
本発明では、アカショウマの水及び/又は含水有機溶媒による抽出物を、特定の合成吸着剤で吸着処理し、該吸着剤を特定の抽出溶媒を用いて溶出処理することにより、新規プロシアニジンを高濃度で含む画分を得ることが可能である。
【0024】
・アカショウマ抽出物の調整
前記アカショウマを抽出する溶媒としては、水、含水有機溶媒、又はこれらの組み合わせ(具体的には、含水有機溶媒で抽出後に水で抽出)が好ましい。なお、含水有機溶媒における水分含量は、10-90%、好ましくは20-80%、さらに好ましくは30-70%、最も好ましくは40-60%である。
【0025】
前記有機溶媒は特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール;酢酸エチル等のエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレンアルコール、グリセリン等のグリコール類;ジエチルエーテル、石油エーテル等のエーテル;アセトン、酢酸等の極性溶媒;ベンゼン、ヘキサン、キシレン等の炭化水素等が挙げられる。このうち、低級アルコール、エステルが好ましく、さらに好ましくは低級アルコールである。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
抽出温度は、常温から溶媒の沸点の範囲内の温度で、溶媒の種類に応じて適宜調整することができる。加圧、常圧、減圧下で行ってもよい。抽出時間も、溶媒の種類に応じて適宜調整してよい。例えば、抽出溶媒として水を用いる場合には、20-140℃、好ましくは60-130℃、さらに好ましくは80-125℃で、1分-1時間、好ましくは、10-30分間の範囲内で行ってもよい。また、抽出溶媒として含水エタノールを用いる場合には、20-100℃、好ましくは40-80℃の範囲内で、1分-1時間、好ましくは、10-30分間の範囲内で行ってもよい。さらに、前記保温期間中に、溶媒の攪拌又は還流を行うと一層好ましい。
抽出に用いる溶媒の量も特に制限されることはなく、例えば、アカショウマの根及び/又は根茎の乾燥物に対し、2-50倍、好ましくは5-50倍、さらに好ましくは10-30倍(重量比)の溶媒を用いてもよい。
【0027】
抽出後に濾過、遠心分離等によって固形物を除去することで、アカショウマ抽出物を得ることができる。また、アカショウマ抽出物として、市販品を用いることもできる。例えば、乾燥根の含水エタノール抽出物である“アカショウマエキス末(ビーエイチエヌ株式会社製)を使用してもよい。
【0028】
・アカショウマ抽出物の吸着処理
前記アカショウマ抽出物を吸着させる吸着剤は、芳香族系合成吸着剤が好ましく、さらに好ましくは、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤である。例として、ダイヤイオンHP20(三菱化学株式会社製)、アンバーライトXAD-2、4(ダウ・ケミカル社製)等を好適に用いることができる。
前記アカショウマ抽出物を吸着処理した合成吸着剤は、水で洗浄した後、含水有機溶媒を用いて溶出処理することができる。当該有機溶媒としては、含水メタノール溶液、含水エタノール溶液等を用いることができる。このうち、特に好ましくは、50%メタノール水溶液である。
得られた溶出液は、さらに慣用の精製法を用いて精製してもよい。次に、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて精製する方法を例示する。
【0029】
・プロシアニジンの精製
前記溶出液は、必要に応じて濃縮、溶媒置換等を行った後、親水性ビニルポリマー系(例として、Toyopearl HW-40F、東ソー バイオサイエンス社製)、又はデキストラン系(例として、Sephadex LH-20、GEヘルスケア株式会社製)の担体を用いて精製してもよい。例えば、親水性ビニルポリマー系担体を用いる場合には、水を溶出液とすることで、本発明に係る新規プロシアニジンを先端溶出画分として(さらに詳しくは、0.2〜0.4カラムボリュームの溶媒による溶出画分として)回収することが可能である。また、デキストラン系担体を用いる場合には、50%メタノール水溶液、100%メタノールで順次洗浄後、70%アセトン水溶液で溶出させてもよい。本発明に係る新規プロシアニジンの濃縮画分は、例えば、α-アミラーゼ活性阻害試験(実施例参照)を行うことで選別可能である。
前記新規プロシアニジンの濃縮画分は、さらに逆相HPLCに供して精製してもよい。
【0030】
[新規プロシアニジンの用途]
本発明に係るプロシアニジンは、多糖消化抑制作用に優れ、さらに詳しくは、α-アミラーゼ活性を阻害する作用に優れるものである。当該α-アミラーゼ阻害活性は、IC50値が約1.7〜2.6μg/mLであり、重量濃度比に換算すると、糖尿病患者に処方される食後過血糖改善剤の代表であるアカルボース(Acarbose;バイエル薬品株式会社のGlucobay、CAS登録番号:56180-94-0、IC50値は10.2〜83.33μg/mL、参考文献:Sudha P., et al, BMC Complement Altern Med. 11:5, 2011、Tamil I. G., et al, Indian J. Pharmacol., 42(5):280-2, 2010)よりも高い。
よって、本発明に係るプロシアニジンは、食後過血糖の改善を目的とする多糖消化阻害剤として用いることが可能である。
【0031】
なお、本発明における“多糖”とは、“二以上の単糖がグリコシド結合(好ましくは、α-1,4−グリコシド結合)によって重合したもの”を指す。また、本発明におけるα-アミラーゼ阻害活性とは、α-アミラーゼ(α-Amylase;EC 3.2.1.1)のα-1,4-グルコシド結合切断活性を阻害する活性を意味し、α-グルコシダーゼ阻害活性とは、α-グルコシダーゼ(α-glucosidase;EC 3.2.1.20)のα-1,4-グルコシド結合切断活性を阻害する活性を意味する。
【0032】
本発明に係るプロシアニジンを多糖消化剤として用いる場合には、多糖を摂取する前(食事前)から食中に経口摂取されることが好ましいが、食後間もない時刻であれば経口摂取により十分に効果を奏し得ると考えられる。よって、食前30分〜食後30分、好ましくは食前15分〜食後15分、より好ましくは食前10分〜食後10分、最も好ましくは食前5分〜食中である。
【0033】
摂取量は食事の内容(多糖の量)に合わせて調節することができ、一般的な内容の食事の場合、ヒト(平均体重60kg)に対し、例えば、プロシアニジンとして11-33mg/回を目安とすることができる。
【0034】
前記多糖消化阻害剤は、単独で摂取してもよく、また、医薬的に許容される担体、賦形剤、可塑剤、着色剤、防腐剤等と混合して経口用組成物の形で摂取してもよい。当該経口用組成物に用いる担体としては、例えば、糖アルコール(例として、マンニトール)、無機物(例として、炭酸カルシウム)、微結晶性セルロース、セルロース(例として、カルボキシメチルセルロース)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、寒天、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が挙げられる。
前記経口用組成物の形態は特に限定されることはなく、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、トローチ剤、又は溶液(飲料)等の形態とすることができる。
【0035】
前記多糖消化阻害剤は、一般食品、健康食品、保険機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品等)に配合された状態で、好適に摂取することができる。
前記食品としては、例えば、乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料等の飲料類;プリン、ゼリー、ババロア、ヨーグルト、アイスクリーム、ガム、チョコレート、キャンディー、キャラメル、ビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の菓子類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;味噌、醤油、ドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース、ふりかけなどの各種調味料;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種加工食品等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0037】
実施例1:新規プロシアニジンの精製方法1
アカショウマエキス末(ビーエイチエヌ株式会社製)を水に懸濁し、吸引ろ過して得られたろ液を、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤(ダイヤイオンHP20、三菱化学株式会社製)に吸着させた。当該合成吸着剤を水で洗浄し、50%メタノール水溶液を用いて溶出した。得られた溶出液を濃縮し、水に懸濁した後、遠心分離して上清を回収し、サイズ排除クロマトグラフィー(Toyopearl HW-40F、東ソー バイオサイエンス社製)に供して分画した(溶出液として水を使用)。最先端(0.2〜0.3カラムボリューム)に溶出された画分を、プロシアニジン濃縮画分として回収した。
当該プロシアニジン濃縮画分に対し、1H-NMRにより解析した結果を図1に示す。また、下記条件下で逆相HPLCに供した結果を図2に示す。
【0038】
<逆相HPLCの条件>
カラム:InertSustain C18(直径4.6mm×長さ250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
移動相:
0〜30分間:0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)、5% メタノール水溶液
−0.1% TFA、95% メタノール水溶液のグラジエント溶出
30〜40分間:0.1% TFA、95% メタノール水溶液
流速:1.0mL/min
検出:UV254nm
【0039】
図2において、保持時間18.85分をピークとして溶出されたものが本発明に係るプロシアニジンである。当該プロシアニジンについて、下記手法に従ってα-アミラーゼ阻害活性を測定した。結果は実施例2の結果と合わせて表1に示す。
【0040】
<アミラーゼ阻害活性試験>
・反応溶液(500μl)
(1)被験物質(乾燥させたもの) in 水、100μl
(2)Starch azure 1.4mg in buffer、350μl
(3)0.5U/mL ブタ膵臓由来α-アミラーゼ in buffer、50μl
*buffer:0.01M CaCl2含有0.1M トリス塩酸緩衝液(pH6.9)
・方法
2.0ml容マイクロチューブに(2)を入れて37℃で5分間インキューベーションした後、(1)、(3)の順に添加し、振盪しながら37℃でさらに15分間インキューベーションした。50%酢酸水溶液を加えて反応を停止させた後、遠心を行い(4℃、1500×g、5分間)、上清200μlを96ウェルマイクロプレートに移して595nmの吸光度を測定した。なお、blankには前記酵素液の代わりにバッファーを、negative controlには被験物質の代わりに水、positive controlには被験物質としてアカルボース(10μM)を用いた。
各被験物質について2回の反復測定を行い、平均値を算出し、下記式(1)に従ってα-アミラーゼ活性阻害率を算出した。なお、下記式(1)において、ODsampleは被験物質を添加したウェル、ODsample blankは被験物質の存在下で酵素の代わりにバッファーを添加したウェル、ODcontrolはnegative controlウェル、ODcontrol blankはnegative controlにおいてさらに酵素の代わりにバッファーを添加したウェルの吸光度をそれぞれ表す。
【0041】
【数1】
【0042】
実施例2:新規プロシアニジンの精製方法2
アカショウマエキス末(ビーエイチエヌ株式会社製)を水に懸濁し、吸引ろ過して得られたろ液を、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤(ダイヤイオンHP20、三菱化学株式会社製)に吸着させた。当該合成吸着剤を水で洗浄し、50%メタノール水溶液を用いて溶出した。得られた溶出液をSephadex LH-20(GEヘルスケア株式会社製)に直接吸着させ、50%メタノール水溶液、100%メタノールにより順次洗浄後、70%アセトン水溶液を用いて溶出してプロシアニジン濃縮画分を得た。
【0043】
実施例1及び2の抽出方法によって得られたプロシアニジンの収量とα-アミラーゼ阻害活性を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、本発明に係る方法でアカショウマから精製されたプロシアニジンのα-アミラーゼ阻害活性は非常に高く、食後過血糖改善剤として糖尿病患者に処方されるアカルボースの当該活性(IC50=10.2〜83.33μg/mL)よりも重量濃度比において高いことが明らかとなった。
これまで、ブドウの皮(IC50=12.5〜27.4μg/mL、非特許文献2)、ツルドクダミの塊茎(IC50=2.9±0.15μg/mL、非特許文献3)、柿の葉(IC50=約50μg/mL、非特許文献4)、シナモン(IC50=4.8〜1,320μg/mL、非特許文献5)、アカシア樹皮(IC50=38μg/mL、Kusano R., et al, J. Nat. Prod., 74:119-128, 2011)、サポジラ(IC50=4.2μg/mL、Wang H., et al, J. Agric. Food Chem., 60:3098-3104, 2012)等、さまざまな植物から精製されたプロシアニジンについてα-アミラーゼ阻害活性が報告されているが、本発明で見出されたアカショウマ由来プロシアニジンの当該活性は、これらのものと比較しても傑出したものである。
よって、アカショウマ由来プロシアニジンは、既知の薬剤及び植物由来プロシアニジンと比べて、非常に高いα-アミラーゼ阻害活性を有することが示された。
【0046】
実施例3:新規プロシアニジンの構成単位の解析
前記アカショウマ由来プロシアニジンの基本骨格を構成する単位の種類とその比率を明らかにするために、チオール分解を行い、分解産物をNMRを用いて解析した。
実施例2で得られたプロシアニジン(濃縮画分)2.5mgを0.1M塩酸/メタノール溶液200μLに溶解し、ベンジルメルカプタン5μLを加えて混合した。当該混合溶液を、40℃で90分間加熱して反応させた。当該反応液を濃縮乾固し、メタノールに再溶解させた後、下記条件下での逆相HPLCに供して分析した。
なお、ガロカテキン、エピガロカテキンは280nmの吸光度が小さいので、検出は270nmで行った。等モル濃度のエピカテキン及びエピガロカテキン標品を解析したところ、270nm(検出)のピーク面積比がエピカテキン:エピガロカテキン=1.57:1.00であったので、吸光度からモル比を計算する際には、ガロカテキン及びエピガロカテキンの実測値(ピーク面積)に1.57を乗じて補正した。結果を図3に示す。
【0047】
<逆相HPLCの条件>
カラム:InertSustain C18 HP 3μm
(直径4.6mm×長さ150mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
移動相:
0〜60分間:0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)、20% メタノール水溶液
−0.1% TFA、95% メタノール水溶液のグラジエント溶出
60分後〜:0.1% TFA、95% メタノール水溶液
流速:1.0mL/min
検出:UV270nm
【0048】
図3において複数の溶出ピークが認められ、複数の分解産物が生じたことがわかる。これらの分解産物に対し、NMRを行って構造を同定した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されるように、アカショウマから上記方法によって精製されたプロシアニジンは、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンの4種類のフラバン−3−オールを基本骨格の構成単位とする新規プロシアニジンであった。また、各構成単位の比率(モル比)は、エピカテキン:カテキン:エピガロカテキン:ガロカテキンが1.0:0.56:0:76:0.13であることも明らかとなった。さらに、末端に主にカテキンを有しており、前記カテキンの比率(0.56)に占める末端カテキンの割合は0.17(伸長部分のカテキンの割合は0.39)であることも明らかとなった。なお、後述するように、当該プロシアニジンは種々の重合度のものの混合物であるため、各構成単位の比率には幅があると考えられる。
【0051】
結果は割愛するが、本解析においてA型の結合を有したプロシアニジン分解産物は検出されず、LC-MSを行っても該当する質量イオンは見つからなかった。このことから、本発明に係る新規プロシアニジンは、B型の結合のみ有するB型プロシアニジンであることが明らかとなった。
【0052】
実施例4:新規プロシアニジンの分子量の解析
実施例1及び2で得られたプロシアニジンに対し、下記条件によるゲル濾過HPLCを行い、ポリスチレンを標準試料として分子量分布を解析した。ポリスチレンによる検量線を図4に、実施例1及び2で得られたプロシアニジンのHPLCチャートを図5及び図6にそれぞれ示す。また、検量線から計算された各プロシアニジンの分子量分布を表3に表す。
【0053】
<ゲル濾過HPLCの条件>
カラム:Shodex GF-510 HQ(直径7.5mm×長さ300mm、昭和電工株式会社製)
移動相:10mM 臭化リチウム(LiBr) in N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
流速:0.4mL/min
測定温度:室温
試料濃度:4mg/mL
試料注入量:10μL
【0054】
【表3】
【0055】
表3より、アカショウマから実施例1の方法によって精製されたプロシアニジンの分子量は、中央値が約15,000、最大が約114,000、最少が約2,000であり、実施例2の方法によって精製されたプロシアニジンの分子量は、中央値が約8,300、最大が約41,300、最少が約1,000であることがわかる。当該値を重合度に換算(1ユニットを分子量300として計算)すると、概算値として、
実施例1:平均重合度が50、最大378、最少6
実施例2:平均重合度が27、最大138、最少3
となる。
よって、アカショウマに含まれるプロシアニジンは、約3〜400個のフラバン−3−オールが重合した基本骨格を有し、分子量が約1,000〜114,000の範囲にあるヘテロな分子の集団であることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6