【実施例】
【0036】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0037】
実施例1:新規プロシアニジンの精製方法1
アカショウマエキス末(ビーエイチエヌ株式会社製)を水に懸濁し、吸引ろ過して得られたろ液を、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤(ダイヤイオンHP20、三菱化学株式会社製)に吸着させた。当該合成吸着剤を水で洗浄し、50%メタノール水溶液を用いて溶出した。得られた溶出液を濃縮し、水に懸濁した後、遠心分離して上清を回収し、サイズ排除クロマトグラフィー(Toyopearl HW-40F、東ソー バイオサイエンス社製)に供して分画した(溶出液として水を使用)。最先端(0.2〜0.3カラムボリューム)に溶出された画分を、プロシアニジン濃縮画分として回収した。
当該プロシアニジン濃縮画分に対し、
1H-NMRにより解析した結果を
図1に示す。また、下記条件下で逆相HPLCに供した結果を
図2に示す。
【0038】
<逆相HPLCの条件>
カラム:InertSustain C18(直径4.6mm×長さ250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
移動相:
0〜30分間:0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)、5% メタノール水溶液
−0.1% TFA、95% メタノール水溶液のグラジエント溶出
30〜40分間:0.1% TFA、95% メタノール水溶液
流速:1.0mL/min
検出:UV254nm
【0039】
図2において、保持時間18.85分をピークとして溶出されたものが本発明に係るプロシアニジンである。当該プロシアニジンについて、下記手法に従ってα-アミラーゼ阻害活性を測定した。結果は実施例2の結果と合わせて表1に示す。
【0040】
<アミラーゼ阻害活性試験>
・反応溶液(500μl)
(1)被験物質(乾燥させたもの) in 水、100μl
(2)Starch azure 1.4mg in buffer、350μl
(3)0.5U/mL ブタ膵臓由来α-アミラーゼ in buffer、50μl
*buffer:0.01M CaCl
2含有0.1M トリス塩酸緩衝液(pH6.9)
・方法
2.0ml容マイクロチューブに(2)を入れて37℃で5分間インキューベーションした後、(1)、(3)の順に添加し、振盪しながら37℃でさらに15分間インキューベーションした。50%酢酸水溶液を加えて反応を停止させた後、遠心を行い(4℃、1500×g、5分間)、上清200μlを96ウェルマイクロプレートに移して595nmの吸光度を測定した。なお、blankには前記酵素液の代わりにバッファーを、negative controlには被験物質の代わりに水、positive controlには被験物質としてアカルボース(10μM)を用いた。
各被験物質について2回の反復測定を行い、平均値を算出し、下記式(1)に従ってα-アミラーゼ活性阻害率を算出した。なお、下記式(1)において、OD
sampleは被験物質を添加したウェル、OD
sample blankは被験物質の存在下で酵素の代わりにバッファーを添加したウェル、OD
controlはnegative controlウェル、OD
control blankはnegative controlにおいてさらに酵素の代わりにバッファーを添加したウェルの吸光度をそれぞれ表す。
【0041】
【数1】
【0042】
実施例2:新規プロシアニジンの精製方法2
アカショウマエキス末(ビーエイチエヌ株式会社製)を水に懸濁し、吸引ろ過して得られたろ液を、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤(ダイヤイオンHP20、三菱化学株式会社製)に吸着させた。当該合成吸着剤を水で洗浄し、50%メタノール水溶液を用いて溶出した。得られた溶出液をSephadex LH-20(GEヘルスケア株式会社製)に直接吸着させ、50%メタノール水溶液、100%メタノールにより順次洗浄後、70%アセトン水溶液を用いて溶出してプロシアニジン濃縮画分を得た。
【0043】
実施例1及び2の抽出方法によって得られたプロシアニジンの収量とα-アミラーゼ阻害活性を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、本発明に係る方法でアカショウマから精製されたプロシアニジンのα-アミラーゼ阻害活性は非常に高く、食後過血糖改善剤として糖尿病患者に処方されるアカルボースの当該活性(IC
50=10.2〜83.33μg/mL)よりも重量濃度比において高いことが明らかとなった。
これまで、ブドウの皮(IC
50=12.5〜27.4μg/mL、非特許文献2)、ツルドクダミの塊茎(IC
50=2.9±0.15μg/mL、非特許文献3)、柿の葉(IC
50=約50μg/mL、非特許文献4)、シナモン(IC
50=4.8〜1,320μg/mL、非特許文献5)、アカシア樹皮(IC
50=38μg/mL、Kusano R., et al, J. Nat. Prod., 74:119-128, 2011)、サポジラ(IC
50=4.2μg/mL、Wang H., et al, J. Agric. Food Chem., 60:3098-3104, 2012)等、さまざまな植物から精製されたプロシアニジンについてα-アミラーゼ阻害活性が報告されているが、本発明で見出されたアカショウマ由来プロシアニジンの当該活性は、これらのものと比較しても傑出したものである。
よって、アカショウマ由来プロシアニジンは、既知の薬剤及び植物由来プロシアニジンと比べて、非常に高いα-アミラーゼ阻害活性を有することが示された。
【0046】
実施例3:新規プロシアニジンの構成単位の解析
前記アカショウマ由来プロシアニジンの基本骨格を構成する単位の種類とその比率を明らかにするために、チオール分解を行い、分解産物をNMRを用いて解析した。
実施例2で得られたプロシアニジン(濃縮画分)2.5mgを0.1M塩酸/メタノール溶液200μLに溶解し、ベンジルメルカプタン5μLを加えて混合した。当該混合溶液を、40℃で90分間加熱して反応させた。当該反応液を濃縮乾固し、メタノールに再溶解させた後、下記条件下での逆相HPLCに供して分析した。
なお、ガロカテキン、エピガロカテキンは280nmの吸光度が小さいので、検出は270nmで行った。等モル濃度のエピカテキン及びエピガロカテキン標品を解析したところ、270nm(検出)のピーク面積比がエピカテキン:エピガロカテキン=1.57:1.00であったので、吸光度からモル比を計算する際には、ガロカテキン及びエピガロカテキンの実測値(ピーク面積)に1.57を乗じて補正した。結果を
図3に示す。
【0047】
<逆相HPLCの条件>
カラム:InertSustain C18 HP 3μm
(直径4.6mm×長さ150mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
移動相:
0〜60分間:0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)、20% メタノール水溶液
−0.1% TFA、95% メタノール水溶液のグラジエント溶出
60分後〜:0.1% TFA、95% メタノール水溶液
流速:1.0mL/min
検出:UV270nm
【0048】
図3において複数の溶出ピークが認められ、複数の分解産物が生じたことがわかる。これらの分解産物に対し、NMRを行って構造を同定した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されるように、アカショウマから上記方法によって精製されたプロシアニジンは、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンの4種類のフラバン−3−オールを基本骨格の構成単位とする新規プロシアニジンであった。また、各構成単位の比率(モル比)は、エピカテキン:カテキン:エピガロカテキン:ガロカテキンが1.0:0.56:0:76:0.13であることも明らかとなった。さらに、末端に主にカテキンを有しており、前記カテキンの比率(0.56)に占める末端カテキンの割合は0.17(伸長部分のカテキンの割合は0.39)であることも明らかとなった。なお、後述するように、当該プロシアニジンは種々の重合度のものの混合物であるため、各構成単位の比率には幅があると考えられる。
【0051】
結果は割愛するが、本解析においてA型の結合を有したプロシアニジン分解産物は検出されず、LC-MSを行っても該当する質量イオンは見つからなかった。このことから、本発明に係る新規プロシアニジンは、B型の結合のみ有するB型プロシアニジンであることが明らかとなった。
【0052】
実施例4:新規プロシアニジンの分子量の解析
実施例1及び2で得られたプロシアニジンに対し、下記条件によるゲル濾過HPLCを行い、ポリスチレンを標準試料として分子量分布を解析した。ポリスチレンによる検量線を
図4に、実施例1及び2で得られたプロシアニジンのHPLCチャートを
図5及び
図6にそれぞれ示す。また、検量線から計算された各プロシアニジンの分子量分布を表3に表す。
【0053】
<ゲル濾過HPLCの条件>
カラム:Shodex GF-510 HQ(直径7.5mm×長さ300mm、昭和電工株式会社製)
移動相:10mM 臭化リチウム(LiBr) in N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
流速:0.4mL/min
測定温度:室温
試料濃度:4mg/mL
試料注入量:10μL
【0054】
【表3】
【0055】
表3より、アカショウマから実施例1の方法によって精製されたプロシアニジンの分子量は、中央値が約15,000、最大が約114,000、最少が約2,000であり、実施例2の方法によって精製されたプロシアニジンの分子量は、中央値が約8,300、最大が約41,300、最少が約1,000であることがわかる。当該値を重合度に換算(1ユニットを分子量300として計算)すると、概算値として、
実施例1:平均重合度が50、最大378、最少6
実施例2:平均重合度が27、最大138、最少3
となる。
よって、アカショウマに含まれるプロシアニジンは、約3〜400個のフラバン−3−オールが重合した基本骨格を有し、分子量が約1,000〜114,000の範囲にあるヘテロな分子の集団であることが明らかとなった。