(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の例示の実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、本開示の式中の構造単位は、ブロック構造等の特定の結合様式を意図するものではないことに留意すべきである。また、本開示で記載する特性値は、特記がない限り、[実施例]の項において記載する方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値であることを意図する。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明の一形態(以下「本実施形態」という。)が提供する樹脂組成物は、(a)ポリイミド前駆体と、(b)アルコキシシラン化合物と、を含有する。
以下、本実施形態の樹脂組成物に含有される各成分について、順に説明する。
【0019】
[(a)ポリイミド前駆体]
本実施形態における(a)ポリイミド前駆体は、350℃において1時間加熱して膜厚0.1μmのポリイミド樹脂膜とした時の308nmの吸光度が0.1以上0.8以下となるポリイミド前駆体である。この吸光度を0.8以下とすることにより、可視光領域における吸光度が十分に抑えられ、フレキシブル透明基板等への適用が可能となる他、レーザー剥離後のポリイミド樹脂膜の変色を抑制することが可能となる。
レーザー剥離のメカニズムはいまだ明らかではないが、本発明者らは、照射された308nmのレーザー光によって、支持体の近傍にあるポリイミド樹脂膜中の、(a)ポリイミド前駆体及び(b)アルコキシシラン化合物のうちの少なくとも一方に由来する部分の一部がガス化する結果、ポリイミド樹脂膜が支持体から剥離するものと推察している。しかし、樹脂膜の吸光度が0.8を超える場合には、短時間で多量のガスが発生し、その結果、剥離後の樹脂膜が変色すると推察される。剥離後の樹脂膜の変色をより効果的に抑制する観点から、上記の吸光度は、0.7以下が好ましく、0.6以下が特に好ましい。
一方、上記吸光度を0.1以上とすることにより、低いエネルギー照射によっても、樹脂膜を容易に剥離することが可能となる。上記吸光度が0.1未満である場合には、基板上の樹脂膜はガス化に必要なエネルギーを吸収することができず、従って後述の(b)アルコキシシラン化合物を使用した場合であっても剥離することができない。このような観点から、上記の吸光度は、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることが特に好ましい。
【0020】
本実施形態における(a)ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応することにより得られるポリアミド酸である。
上記テトラカルボン酸二無水物としては、具体的には、例えば、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(以下、6FDAとも記す。)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−シクロヘキセン−1,2ジカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAとも記す。)、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAとも記す。)、メチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,1−エチリデン−4,4’−ジフタル酸二無水物、2,2−プロピリデン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,2−エチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,3−トリメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,4−テトラメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,5−ペンタメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、4,4’−ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(以下TAHQとも記す)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAとも記す。)、チオ−4,4’−ジフタル酸二無水物、スルホニル−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3−ビス[2−(3,4−ジカルボキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン二無水物、1,4−ビス[2−(3,4−ジカルボキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2−ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物(以下、CHDAと記す。)、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、メチレン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、1,2−エチレン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、1,1−エチリデン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、2,2−プロピリデン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、オキシ−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、チオ−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、スルホニル−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、rel−[1S,5R,6R]−3−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物、エチレングリコール−ビス−(3,4−ジカルボン酸無水物フェニル)エーテル等が挙げられる。上記ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0021】
上記ジアミンとしては、具体的には、例えば、4,4'−(ジアミノジフェニル)スルホン(以下、4,4'−DASとも記す)、3,4'−(ジアミノジフェニル)スルホン及び3,3'−(ジアミノジフェニル)スルホン、2,2’−ビス(卜リフルオロメチル)ペンジジン(以下、TFMBとも記す)、2,2−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル、1,4−ジアミノベンゼン(以下p−PDとも記す)、1,3−ジアミノベンゼン、4−アミノフェニル4’−アミノベンゾ工−卜、4,4’−ジアミノべンゾエ−卜、4,4’−(又は3,4’−3,3’−2,4’−)ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−(又は3,3’−)ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−(又は3,3’−)ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ベンゾフェノンジアミン、3,3’−ベンゾフェノンジアミン、4,4’−ジ(4−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、4,4’−ジ(3−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、3,3’,5,5’−テ卜ラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2’,6,6’−テ卜ラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,6,6’−テ卜ラトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス{(4−アミノフェニル)−2−プロピル}1,4−ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)フルオレン、3,3’−ジメチルベンチジン、3,3’−ジメトキシベンチジン及び3,5−ジアミノ安息香酸、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、ビス(4−アミノフェニル−2−プロピル)−1,4−ベンゼン3,3’−ビス(卜リフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(3,3’−TFDB、2,2’−ビス[3(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(3−BDAF)、2,2’−ビス[4(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロフロパン(4−BDAF)、2,2’−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(3,3’−6F)、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(4,4’−6F)等が挙げられる。
【0022】
本実施形態における(a)ポリイミド前駆体は、上記の要件を充足するものであれば、その構造は限定されない。しかしながら、YIを抑制する観点から、下記式(5)及び(6):
【化7】
{式中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に、炭素数4〜32の4価の有機基である。}のそれぞれで示される構造単位から選択される1種以上を有することが好ましい。
本発明の樹脂組成物を硬化膜とした時の線膨張係数(CTE)を可及的に低く抑制するとの観点からは、上記一般式(5)で示される構造単位を有するものであることが好ましく、
本発明の樹脂組成物を硬化膜とした時のYIの低下及び複屈折率の低下の観点からは、上記一般式(6)で示される構造単位を有するものであることが好ましい。
前記式(5)中のX
1及び前記式(6)中のX
2は、それぞれ、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位であり、使用したテトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を除去して得られる4価の基である。
【0023】
前記式(5)中のX
1は、PMDA、BPDA、ODPA、6FDA、及びTAHQから選択される1種以上のテトラカルボン酸位無水物に由来する4価の基であることが好ましい。前記式(5)中のX
1は、これらのうち、
PMDAに由来する4価の基とBPDAに由来する4価の基との双方を含むことが、残留応力の低減、Tg向上、及び機械伸度向上の観点から好ましく、
PMDAに由来する4価の基と、ODPA又は6FDAに由来する4価の基と、の双方を含むことが、YIの低下及び機械伸度向上の観点から好ましく、そして、
PMDAに由来する4価の基と、TAHQに由来する4価の基と、の双方を含むことが、YIの低下、Tg向上、及び機械伸度向上の観点から好ましい。
【0024】
上記一般式(5)で示される構造単位を有する(a)ポリイミド前駆体としては、下記式(5−1):
【化8】
で示される構造単位、及び、下記式(5−2):
【化9】
で示される構造単位を有するポリイミド前駆体が好ましい。
【0025】
ここで、前記共重合体の構造単位(5−1)と(5−2)との比(モル比)は、得られるポリイミド樹脂膜のCTE及び黄色度(YI)の観点から、(5):(6)=90:10〜50:50が好ましい。上記式(5)及び(6)の比は、たとえば、
1H−NMRスペクトルの結果から求めることができる。共重合体は、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
このようなポリイミド前駆体(共重合体)は、PMDA及び6FDAと、TFMBと、を重合させることにより得ることができる。すなわち、PMDAとTMFBとが重合することにより構造単位(5−1)を形成し、6FDAとTFMBとが重合することにより構造単位(5−2)を形成する。上記構造単位(5−1)及び(5−2)の比は、PMDA及び6FDAの使用比率を変えることにより、調整することができる。
【0026】
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体は、必要に応じて、本発明が所期する性能を損なわない範囲で、上記式(5)で示される構造単位以外の構造単位を含有していてもよい。
本実施の形態に係る(a)ポリイミド前駆体(共重合体)は、上記構造単位(5)の質量が、該共重合体の全質量を基準として、30質量%以上であることが低CTEの観点から好ましく、70質量%以であることが低YIの観点から好ましい。最も好ましくは100質量%である。
【0027】
前記式(6)中のX
2は、PMDA、BPDA、ODPA、6FDA、及びTAHQから選択される1種以上のテトラカルボン酸位無水物に由来する4価の基であることが好ましい。前記式(6)中のX
2は、これらのうち、
PMDA又はBPDAに由来する4価の基を含むことが、残留応力の低減、Tg向上、及び機械伸度向上の観点から好ましく、
ODPA又は6FDAに由来する4価の基を含むことが、YIの低下及び機械伸度向上の観点から好ましく
TAHQに由来する4価の基を含むことが、YIの低下、Tg向上、及び機械伸度向上の観点から好ましい。
【0028】
前記式(6)中のX
2としては、BPDAに由来する4価の基を含むことが好ましい。この場合のポリイミド前駆体は、下記式(6−1)
【化10】
で示される構造単位を有する。上記式(6−1)の左側のビフェニルユニットは、3,3’位又は3,4’位で結合していることが好ましい。このようなポリイミド前駆体は、BPDAと4,4’−DASとの重合により、得ることができる。この時、BPDAとともに他のテトラカルボン酸二無水物を使用してもよいし、4,4’−DASとともに他のジアミンを使用してもよい。
【0029】
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体は、必要に応じて、本発明が所期する性能を損なわない範囲で、上記式(5)で示される構造単位以外の構造単位を含有してもよい。
本実施の形態に係る(a)ポリイミド前駆体(共重合体)においては、上記構造単位(6)の質量が、該共重合体の全質量を基準として、30質量%以上であることが低複屈折の観点から好ましく、70質量%以上であることが低YIの観点から好ましい。最も好ましくは100質量%である。
【0030】
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体として最も好ましくは、上記式(5)で示される構造単位のみを有するポリイミド前駆体か、又は上記式(6)で示される構造単位のみを有するポリイミド前駆体の場合である。
【0031】
本発明の(a)ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の分子量は、重量平均分子量として、10,000〜500,000が好ましく、10,000〜300,000がより好ましく、20,000〜200,000が特に好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、塗布した樹脂組成物を加熱する工程において、樹脂膜にクラックが発生せず、良好な機械特性を得ることができる。一方、重量平均分子量が500,000以下であれば、ポリアミド酸の合成時に重量平均分子量をコントロールすることができ、或いは適度な粘度の樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
本実施の形態に係る(a)ポリイミド前駆体の数平均分子量は、3,000〜500,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜500,000、さらに好ましくは7,000〜300,000、特に好ましくは10,000〜250,000である。該分子量が3,000以上であることが、耐熱性や強度(例えば強伸度)を良好に得る観点で好ましく、500,000以下であることが、溶媒に対する(a)ポリイミド前駆体の溶解性の観点、及び塗工時に所望の膜厚にて滲みなく塗工できる観点から、好ましい。高い機械伸度を得る観点からは、数平均分子量は50,000以上であることが好ましい。
本開示において、重量平均分子量及び数平均分子量は、それぞれ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレン換算にて求められる値である。
【0033】
好ましい態様において、(a)ポリイミド前駆体は、その構造の一部がイミド化されていてもよい。これについて、詳しくは後述する。
【0034】
本実施形態における(a)ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、従来公知の合成方法で合成することができる。例えば、溶媒に所定の種類及び量のジアミンを溶解させて溶液とし、該溶液に、所定の種類及び量のテトラカルボン酸二無水物を添加し、撹拌する。
各モノマー成分を溶解させる時には、必要に応じて加熱してもよい。反応温度は−30〜200℃が好ましく、20〜180℃がより好ましく、30〜100℃が特に好ましい。反応は、3〜100時間とすることが好ましく、この範囲の時間で重合は完了する。具体的には、上記の好ましい反応温度を上記の好ましい反応時間維持した後、そのまま室温(20〜25℃)、又は適当な温度において撹拌を続け、GPC測定により所望の分子量になったことを確認した時点を反応の終点とすることができる。
【0035】
上述のようにして得られたポリアミド酸に、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール又はN,N−ジメチルホルムアミドジエチルアセタールを加えて加熱することにより、ポリアミド酸の有するカルボン酸の一部、又は全部をエステル化してもよい。この処理により、(a)ポリイミド前駆体と溶媒とを含む溶液の、室温保管時の粘度安定性を向上することができる。
【0036】
上記のようなエステル変性ポリアミド酸は、上記した事後エステル化のほかに、事前エステル化によっても合成することができる。すなわち、上述のテトラカルボン酸二無水物を、予め酸無水物基に対して1当量の1価のアルコールと反応させ、更に塩化チオニル、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の適当な脱水縮合剤と反応させた後に、ジアミンと縮合反応させることによっても、エステル変性ポリアミド酸を得ることができる。
【0037】
上記重合反応の溶媒としては、ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物、並びに生じたポリアミド酸を溶解することのできる溶媒であれば、特に制限はされない。このような溶媒の具体例としては、非プロトン性溶媒、フェノ−ル系溶媒、並びにエーテル及びグリコ−ル系溶媒が挙げられる。
【0038】
具体的には、非プロトン性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチルカプロラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素、下記一般式(8):
【化11】
{式中、R
1はメチル基又はn−ブチル基である。}で示される化合物等のアミド系溶媒;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含りん系アミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ピコリン、ピリジン等の3級アミン系溶媒;酢酸(2−メトキシ−1−メチルエチル)等のエステル系溶媒等が挙げられる。上記式(3)で示される化合物は、市販品として入手可能である。例えば、出光興産社製のエクアミドM100(R
1=メチル基)及びエクアミドB100(R
1=n−ブチル基)である。
【0039】
フェノ−ル系溶媒としては、例えば、フェノ−ル、O−クレゾ−ル、m−クレゾ−ル、p−クレゾ−ル、2,3−キシレノ−ル、2,4−キシレノ−ル、2,5−キシレノ−ル、2,6−キシレノ−ル、3,4−キシレノ−ル、3,5−キシレノ−ル等が挙げられる。
エ−テル及びグリコ−ル系溶媒としては、例えば、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エ−テル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エ−テル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、常圧における沸点が、60〜300℃である溶媒が好ましく、140〜280℃である溶媒がより好ましく、170〜270℃である溶媒が特に好ましい。溶媒の沸点が300℃以下であれば、膜形成における乾燥工程の時間を短くすることができる。溶媒の沸点を60℃以上とすることにより、乾燥工程において、表面の荒れ及び気泡のない均一な樹脂膜を得ることができる。
同様の理由から、有機溶媒の20℃における蒸気圧は、250Pa以下であることが好ましい。
【0041】
このように、有機溶剤の沸点が170〜270℃であること、及び20℃における蒸気圧が250Pa以下であることが、溶解性、及び塗工時エッジはじきの観点から好ましい。より具体的には、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、エクアミドM100、エクアミドB100等が、好ましい溶媒として挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0042】
本発明における(a)ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、上記に例示した有機溶媒を溶媒とする溶液(以下、ポリアミド酸溶液ともいう)として得られる。得られたポリアミド酸溶液の全量に対するポリアミド酸成分の割合は、塗膜形成性の観点から、5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がさらに好ましく、10〜40質量%が特に好ましい。
【0043】
上記ポリアミド酸溶液の溶液粘度は、25℃において、500〜200,000mPa・sが好ましく、2,000〜100,000mPa・sがより好ましく、3,000〜30,000mPa・sが特に好ましい。溶液粘度は、E型粘度計(東機産業株式会社製VISCONICEHD)を用いて測定できる。溶液粘度が300mPa・s以上であれば膜形成の際に容易に塗布できる。一方で溶液粘度が200,000mPa・s以下であれば、(a)ポリイミド前駆体を合成する際の撹拌が容易になる。
しかしながら、ポリアミド酸合成の際に溶液が高粘度になったとしても、反応終了後に溶媒を添加して撹拌することにより、取扱い性のよい粘度のポリアミド酸溶液を得ることも可能である。
【0044】
本実施の形態の(a)ポリイミド前駆体は、YIが10μm膜厚で15以下であるようなポリイミド膜を形成し得るため、無色透明ポリイミド基板上にTFT素子装置を備えたディスプレイ製造工程に適用し易い利点を有する。本実施の形態の好ましい態様においては、(a)ポリイミド前駆体を溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)に溶解して得られる溶液を支持体の表面に塗布した後、該溶液を窒素雰囲気下300〜550℃(例えば380℃)で加熱(例えば1時間)して得られる膜厚10μmの樹脂膜における黄色度YIが15以下である。膜厚が10μmでない場合には、当業者に知られた方法による膜厚換算の手法によって、10μm膜厚における値を知ることができる。
【0045】
[アルコキシシラン化合物]
次に、本実施の形態に係る(b)アルコキシシラン化合物について説明する。
本実施の形態に係るアルコキシシラン化合物は、0.001重量%NMP溶液とした時の308nmの吸光度が、溶液の厚さ1cmにおいて、0.1以上1.0以下である。この要件を充足すれば、その構造は特に限定されない。吸光度がこの範囲内にあることにより、得られる樹脂膜が、高い透明性を保ったまま、レーザー剥離を容易とすることができる。
上記の吸光度は、レーザー剥離を容易とする観点から、0.12以上が好ましく、0.15以上が特に好ましい。透明性の観点から、0.4以下が好ましく、0.3以下が特に好ましい。
本実施の形態に係る(b)アルコキシシラン化合物による波長308nmの光の吸収は、化合物中のベンゾフェノン基、ビフェニル基、ジフェニルエーテル基、ニトロフェノール基、カルバゾール基等の官能基に帰属される。従来公知の樹脂膜前駆体組成物に含有されていたアルコキシシラン化合物による波長308nmの光の吸光度は0.1未満であった。しかしながら本発明は、波長308nmに吸収を有する官能基を有する(b)アルコキシシラン化合物を用いる。このことにより、得られるポリイミド樹脂膜による可視光領域の吸収を抑制しつつ、低エネルギーのレーザー照射による膜剥離を可能としたものである。
【0046】
上記アルコキシシラン化合物は、例えば、
テトラカルボン酸二無水物とアミノトリアルコキシシラン化合物との反応、
ジカルボン酸無水物とアミノトリアルコキシシラン化合物との反応、
アミノ化合物とイソシアネートトリアルコキシシラン化合物との反応、
アミノ化合物と、酸無水物基を有するトリアルコキシシラン化合物との反応
等により、合成することができる。上記テトラカルボン酸二無水物、ジカルボン酸無水物、及びアミノ化合物は、それぞれ、芳香族環(特にベンゼン環)を有するものであることが好ましい。
【0047】
本実施形態に係るアルコキシシラン化合物は、接着性の観点から、下記一般式(1):
【化12】
{式中、Rは、カルボニル基、単結合、酸素原子、硫黄原子、又は炭素数1〜5のアルキレン基を示す。}で示されるテトラカルボン酸二無水物と、アミノトリアルコキシシラン化合物と、の反応生成物;
下記式(9)及び (10):
【化13】
のそれぞれで示される化合物等であることが好ましい。
【0048】
本実施形態における上記テトラカルボン二無水物とアミノトリアルコキシシランの反応は、例えば、2モルのアミノトリアルコキシシランを適当な溶媒に溶解させて得られた溶液に1モルのテトラカルボン酸二無水物を添加し、好ましくは0℃〜50℃の反応温度において、好ましくは0.5〜8時間の反応時間で行うことができる。
上記溶媒は、原料化合物及び生成物が溶解すれば限定されないが、上記(a)ポリイミド前駆体との相溶性の観点から、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、エクアミドM100(商品名、出光リテール販売社製)、エクアミドB100(商品名、出光リテール販売社製)等が、好ましい。
【0049】
本実施形態に係るアルコキシシラン化合物は、透明性、接着性、及び剥離性の観点から、上記式(9)及び(10)、並びに下記一般式(2)〜(4):
【化14】
のそれぞれで示される化合物より成る群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本実施の形態に係る樹脂組成物における(b)アルコキシシラン化合物の含有量は、十分な接着性と剥離性とが発現される範囲で、適宜設計可能である。好ましい範囲として、(a)ポリイミド前駆体100質量%に対して、(b)アルコキシシラン化合物を0.01〜20質量%の範囲を例示することができる。
【0050】
(a)ポリイミド前駆体100質量%に対する(b)アルコキシシラン化合物の含有量が0.01質量%以上であることにより、得られる樹脂膜において、支持体との良好な密着性を得ることができる。(b)アルコキシシラン化合物の含有量が20質量%以下であることが、樹脂組成物の保存安定性の観点から好ましい。(b)アルコキシシラン化合物の含有量は、(a)ポリイミド前駆体に対して、0.02〜15質量%であることがより好ましく、0.05〜10質量%であることが更に好ましく、0.1〜8質量%であることが特に好ましい。
【0051】
<樹脂組成物>
本発明の別の態様は、前述した(a)ポリイミド前駆体と、(b)アルコキシシラン化合物と、を含有し、(c)好ましくは更に有機溶剤を含有する、樹脂組成物を提供する。樹脂組成物は、典型的にはワニスである。
【0052】
[(c)有機溶剤]
(c)有機溶剤は、本発明における(a)ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)及び(b)アルコキシシラン化合物を溶解できるものであれば特に制限はない。このような(c)有機溶剤としては、上記(a)ポリイミド前駆体の合成時に用いることのできる溶媒として上記した溶媒を用いることができる。(c)有機溶剤は、(a)ポリアミド酸の合成時に用いられる溶媒と同一でも異なってもよい。
(c)有機溶剤の使用量としては、樹脂組成物の固形分濃度が3〜50質量%となる量とすることが好ましい。樹脂組成物の粘度(25℃)としては、500mPa・s〜100,000mPa・sが好ましい。
【0053】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、上記(a)〜(c)成分の他に、界面活性剤又はレベリング剤等を含有してもよい。
【0054】
(界面活性剤又はレベリング剤)
界面活性剤又はレベリング剤を樹脂組成物に添加することによって、樹脂組成物の塗布性を向上することができる。具体的には、塗布後の塗膜におけるスジの発生を防ぐことができる。
このような界面活性剤又はレベリング剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びその他の非イオン界面活性剤が挙げられる。これらの具体例は、それぞれ、以下のとおりである。
【0055】
シリコーン系界面活性剤:オルガノシロキサンポリマーKF−640、642、643、KP341、X−70−092、X−70−093、KBM303、KBM403、KBM803(以上、商品名、信越化学工業社製);SH−28PA、SH−190、SH−193、SZ−6032、SF−8428、DC−57、DC−190(以上、商品名、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製);SILWET L−77、L−7001、FZ−2105、FZ−2120、FZ−2154、FZ−2164、FZ−2166、L−7604(以上、商品名、日本ユニカー社製);DBE−814、DBE−224、DBE−621、CMS−626、CMS−222、KF−352A、KF−354L、KF−355A、KF−6020、DBE−821、DBE−712(Gelest)、BYK−307、BYK−310、BYK−378、BYK−333(以上、商品名、ビックケミー・ジャパン製);グラノール(商品名、共栄社化学社製)等
フッ素系界面活性剤:メガファックF171、F173、R−08(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名);フロラードFC4430、FC4432(住友スリーエム株式会社、商品名)等
【0056】
その他の非イオン界面活性剤:ポリオキシエチレンウラリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル等
これらの界面活性剤の中でも、樹脂組成物の塗工性(塗膜のスジ抑制)の観点から、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が好ましく、YI値及び全光線透過率キュア時の酸素濃度依存性を低減するとの観点から、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
【0057】
界面活性剤又はレベリング剤を用いる場合、その配合量は、樹脂組成物中の(a)ポリイミド前駆体100質量部に対して、0.001〜5質量部が好ましく、0.01〜3質量部がより好ましい。
【0058】
上述の各成分を含有する樹脂組成物を調製した後、得られた溶液を130〜200℃において5分〜2時間加熱することにより、(a)ポリイミド前駆体が析出を起こさない程度に該前駆体の一部をイミド化してもよい。イミド化率は、温度及び時間を適宜に調整することにより制御することができる。(a)ポリイミド前駆体部分イミド化することにより、樹脂組成物の室温保管時の粘度安定性を向上することができる。この場合のイミド化率の範囲としては、5%〜70%とすることが、(a)樹脂前駆体の溶解性及び樹脂組成物の保存安定性の双方のバランスをとる観点から好ましい。
【0059】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、(a)ポリイミド前駆体を合成した際に用いた溶媒と(c)有機溶剤とが同一の場合には、合成した(a)ポリイミド前駆体溶液に(b)アルコキシシラン化合物及びその他の成分を添加して、樹脂組成物とすることができる。(c)有機溶剤及び他の添加剤を添加した後に、必要に応じて室温で攪拌混合してもよい。この攪拌混合は、例えば、撹拌翼を備えたスリーワンモータ(新東化学株式会社製)、自転公転ミキサー等の適宜の装置を用いて行うことができる。ワニスの粘度が高い場合は、粘度を下げる目的で26〜100℃の熱を加えてもよい。
【0060】
一方、(a)ポリイミド前駆体を合成した際に用いた溶媒と(c)有機溶剤とが異なる場合には、合成したポリイミド前駆体溶液中の溶媒を、再沈殿、溶媒留去等の適当な方法により除去して(a)ポリイミド前駆体を得た後に、室温〜80℃の温度範囲で、(c)有機溶剤及び必要に応じてその他の成分を添加して、攪拌混合してもよい。
【0061】
本発明の実施に係る樹脂組成物の水分量は、樹脂組成物の保存時の粘度安定性の観点から、3,000ppm以下であることが好ましく、1,000ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることが更に好ましい。樹脂組成物の水分量が上記範囲内である場合、保存存安定性が良好である理由は不明確である。しかし、該水分がポリイミド前駆体の分解再結合に関与しているためと考えられる。
【0062】
本発明の好ましい態様においては、本実施形態の樹脂組成物を支持体の表面に塗布た後、得られた塗膜を窒素雰囲気下、300℃〜550℃において加熱することによって得られる膜厚10μmの樹脂膜の黄色度は、15以下である。膜厚が10μmでない場合には、当業者に知られた方法による膜厚換算の手法によって、10μm膜厚における値を知ることができる。
本実施の形態に係る樹脂組成物は、室温保存安定性に優れ、室温で2週間保存した場合の粘度変化率は、初期粘度に対して10%以下である。本実施の形態に係る樹脂組成物は、室温保存安定性に優れるから、冷凍保管が不要であり、ハンドリングし易い。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置の透明基板を形成するために用いることができる。具体的には、薄膜トランジスタ(TFT)の基板、カラーフィルタの基板、透明導電膜(ITO、IndiumThinOxide)の基板等を形成するために用いることができる。
【0064】
<樹脂膜>
本発明の別の態様は、前述の樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜を提供する。本発明の更に別の態様は、
前述の樹脂組成物を支持体の表面上に塗布する工程(塗布工程)と、
塗布した樹脂組成物を乾燥し、溶媒を除去する工程(乾燥工程)と、
前記支持体及び前記樹脂組成物を加熱して該樹脂組成物に含まれる樹脂前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程(加熱工程)と、
前記ポリイミド樹脂膜を前記支持体から剥離する工程(剥離工程)と、
を含む、樹脂膜の製造方法を提供する。
【0065】
本実施の形態に係る樹脂膜の製造方法において、支持体としては、その後の工程の乾燥温度における耐熱性を有し、剥離性が良好であれば、特に限定されない。例えば、ガラス(例えば、無アルカリガラス)、シリコンウェハー、PET(ポリエチレンテレフタレート)、OPP(延伸ポリプロピレン)等ステンレス、アルミナ、銅、ニッケル、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド等から成る基板等が用いられる。
【0066】
より具体的には、本実施の形態における樹脂組成物を、上記基板の主面上に形成された接着層上に塗布及び乾燥し、不活性雰囲気下で300〜500℃の温度において加熱・硬化することにより、所望のポリイミド樹脂膜を形成することができる。
最後に、得られたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する。
【0067】
ここで、塗布方法としては、例えば、ドクターブレードナイフコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ロータリーコーター、フローコーター、ダイコーター、バーコーター等の塗布方法、スピンコート、スプレイコート、ディップコート等の塗布方法;
スクリーン印刷及びグラビア印刷に代表される印刷技術;
等を応用することができる。
本発明における樹脂組成物の塗布厚は、目的とするポリイミド樹脂膜の厚さ、及び樹脂組成物中の固形分濃度の割合により、適宜調整されるものである。好ましくは、1〜1,000μm程度である。塗布工程は、室温で実施してもよいし、樹脂組成物を40〜80℃の範囲で加温して実施してもよい。後者の温度を採用すると、樹脂組成物の粘度が下がるから、塗布工程の作業性を向上することができる。
【0068】
塗布工程に続き、乾燥工程を行う。
乾燥工程は、有機溶剤除去の目的で行われる。この乾燥工程は、例えば、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の適宜の装置を利用して行うことができる。乾燥温度は、80〜200℃とすることが好ましく、100〜150℃とすることがより好ましい。
【0069】
続いて、加熱工程を行う。この加熱工程は、上記乾燥工程で樹脂膜中に残留した有機溶剤の除去を行うとともに、樹脂組成物中のポリイミド前駆体のイミド化反応を進行させ、ポリイミド樹脂膜を得る工程である。
加熱工程は、イナートガスオーブン、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の適宜の装置を用いて行うことができる。この加熱工程は、前記乾燥工程と同時に行ってもよいし、前記乾燥工程に続いて逐次的に行ってもよい。
【0070】
加熱工程は、空気雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。安全性、並びに得られるポリイミド樹脂膜の透明性及びYI値の観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。加熱工程における加熱温度は、(c)有機溶剤の種類にもよるが、250℃〜550℃が好ましく、300〜350℃がより好ましい。この加熱温度が250℃以上であれば十分にイミド化でき、加熱温度が550℃以下であれば低YI値及び高耐熱性を有するポリイミド樹脂膜を得ることができる。加熱時間は、好ましくは0.5〜3時間程度である。
【0071】
本発明の場合、該加熱工程における酸素濃度は、得られるポリイミド樹脂膜の透明性及びYI値の観点から、2,000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。酸素濃度を2,000ppm以下にすることにより、得られるポリイミド樹脂膜のYI値を、膜厚10μm換算値として、15以下にすることができる。
【0072】
そして、ポリイミド樹脂膜の使用用途・目的によっては、加熱工程の後、得られたポリイミド樹脂膜を、支持体から剥離する剥離工程が必要となる。この剥離工程は、基材上に形成されたポリイミド樹脂膜を、室温〜50℃程度まで冷却後、実施される。
この剥離工程としては、下記の方法が挙げられる。
(1)前記方法によりポリイミド樹脂膜/支持体を含む積層体を得て、該積層体の支持体側からレーザーを照射して、ポリイミド樹脂膜と支持体との界面をアブレーション加工することにより、ポリイミド樹脂膜を剥離する方法。ここで用いられるレーザーの種類としては、例えば、固体(YAG)レーザー、ガス(UVエキシマー)レーザー等が挙げられる。レーザーの波長としては、308nm等のスペクトルを用いる(特表2007−512568公報及び特表2012‐511173公報等参照)ことが好ましい。
(2)予め支持体上に形成した剥離層上にポリイミド樹脂膜を形成して、ポリイミド樹脂膜/剥離層/支持体を含む積層体を得た後に、ポリイミド樹脂膜を剥離する方法。ここで用いられる剥離層としては、例えば、パリレン(登録商標、日本パリレン合同会社製)、酸化タングステン等を用いる方法;植物油系、シリコーン系、フッ素系、アルキッド系等の離型剤を用いる方法;
等が挙げられる。
(3)支持体としてエッチング可能な金属を用いて、ポリイミド樹脂膜/金属支持体を含む積層体を得て、その後、エッチャントで金属をエッチングすることにより、ポリイミド樹脂膜を得る方法。ここで用いられる金属としては、例えば、銅(具体例としては、三井金属鉱業株式会社製の電解銅箔「DFF」)、アルミ等が挙げられ;
エッチャントとしては、例えば、銅:塩化第二鉄、アルミ:希塩酸等が挙げられる。
(4)前記方法により、ポリイミド樹脂膜/支持体を含む積層体を得た後、ポリイミド樹脂膜表面に粘着フィルムを貼り付け、支持体から粘着フィルム/ポリイミド樹脂膜を分離し、しかる後に、粘着フィルムからポリイミド樹脂膜を分離する方法。
【0073】
これらの剥離方法の中でも、
得られるポリイミド樹脂膜の表裏の屈折率差、YI値、及び伸度の観点からは、方法(1)又は方法(2)が適切であり;
得られるポリイミド樹脂膜の表裏の屈折率差の観点からは方法(1)がより適切である。前記方法(1)と方法(2)とを併用する態様も好適である(特開2010−67957公報、特開2013−179306公報等を参照)。
方法(3)の支持体として銅を用いた場合には、得られるポリイミド樹脂膜のYI値が大きくなり、伸度が小さくなっている。これは、銅イオンが何らかの関与をしているためと考えられる。
【0074】
本実施の形態に係るポリイミド樹脂膜(硬化物)の厚さは、特に限定されず、1〜200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜100μmである。
本実施の形態に係る樹脂膜は、10μm膜厚における黄色度が15以下であることが好ましい。このような特性は、例えば、本開示の樹脂前駆体を、窒素雰囲気下、より好ましくは、酸素濃度2,000ppm以下で、300℃〜550℃、より特別には350℃で、イミド化することにより良好に実現される。
【0075】
<積層体>
本発明の別の態様は、支持体と、該支持体の表面上に形成された、前述の樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜と、を含む、積層体を提供する。
本発明の更に別の態様は、支持体の表面上に、前述の樹脂組成物を塗布する工程(塗布工程)と、
前記支持体及び前記樹脂組成物を加熱して該樹脂組成物に含まれる(a)ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成し、これにより該支持体及び該ポリイミド樹脂膜を含む積層体を得る工程(加熱工程)と、
を含む、積層体の製造方法を提供する。
このような積層体は、例えば、前述の樹脂膜の製造方法と同様に形成したポリイミド樹脂膜を、支持体から剥離しないことによって製造できる。
【0076】
この積層体は、例えば、フレキシブルデバイスの製造に用いられる。より具体的には、支持体上に形成したポリイミド樹脂膜の上に素子又は回路を形成し、その後、支持体を剥離してポリイミド樹脂膜からなるフレキシブル透明基板を具備するフレキシブルデバイスを得ることができる。
従って、本発明の別の態様は、前述の樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜を含むフレキシブルデバイス材料を提供する。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態に係る(a)ポリイミド前駆体を用いて、保存安定性に優れ、塗工性に優れた樹脂組成物を製造することができる。この樹脂組成物から得られるポリイミド樹脂膜の黄色度(YI値)は、キュア時の酸素濃度に依存することが少ない。従って該樹脂組成物は、フレキシブルディスプレイの透明基板における使用に適している。
【0078】
また、本実施の形態に係るポリイミド樹脂膜は、膜の厚さ10μmを基準として、黄色度が15以下であることが好ましい。
一般に、ポリイミド樹脂膜を作製する際に使用するオーブン内の酸素濃度依存性が少ない方が、安定的にYI値の低い樹脂膜を得るのに有利である。しかしながら、本実施の形態に係る樹脂組成物は、2,000ppm以下の酸素濃度において、低いYI値を有するポリイミド樹脂膜を安定して製造することができる。
本実施の形態に係るポリイミド樹脂膜は、フレキシブル基板を取り扱う際の歩留まりを向上させる観点から、破断強度に優れることが好ましい。定量的には、該ポリイミド樹脂膜の引張伸度が30%以上であることが好ましい。
【0079】
本発明の別の態様は、ディスプレイ基板の製造に用いられるポリイミド樹脂膜を提供する。また本発明の更に別の態様は、
支持体の表面上に本実施の形態に係る樹脂組成物を塗布する工程(塗布工程)と、
前記支持体及び前記樹脂組成物を加熱して(a)ポリイミド前駆体をイミド化して、前述のポリイミド樹脂膜を形成する工程(加熱工程)と、
前記ポリイミド樹脂膜上に素子又は回路を形成する工程(実装工程)と、
前記素子又は回路が形成された前記ポリイミド樹脂膜を剥離する工程(剥離工程)と
を含む、ディスプレイ基板の製造方法を提供する。
上記方法において、塗布工程、加熱工程、及び剥離工程は、それぞれ、上述したポリイミド樹脂膜及び積層体の製造方法と同様にして行うことができる。
【0080】
上記物性を満たす本実施の形態に係る樹脂膜は、既存のポリイミド樹脂膜が有する黄色により使用が制限された用途、特にフレキシブルディスプレイ用無色透明基板、カラーフィルタ用保護膜等として好適に使用される。更には、例えば、保護膜、TFT−LCD等における散光シート及び塗膜用途(例えば、TFT−LCDのインターレイヤー、ゲイト絶縁膜、及び液晶配向膜);
タッチパネル用ITO基板、スマートフォン用カバーガラス代替樹脂基板等の無色透明、かつ、低複屈折が要求される分野;
等においても使用可能である。液晶配向膜として本実施の形態に係るポリイミドを適用する時、開口率の増加に寄与し、高コントラスト比のTFT−LCDの製造が可能である。
【0081】
本実施の形態に係る樹脂前駆体を用いて製造される樹脂膜及び積層体は、例えば、半導体絶縁膜、TFT−LCD絶縁膜、電極保護膜、及びフレキシブルデバイスの製造において、特に基板として好適に利用することができる。ここで、フレキシブルデバイスとは、例えば、フレキシブルディスプレイ、フレキシブル太陽電池、フレキシブルタッチパネル電極基板、フレキシブル照明、及びフレキシブルバッテリーを挙げることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について、実施例に基づきさらに詳述する。これらは説明のために記述されるものであって、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における各種評価は次のとおりに行った。
【0083】
(ポリイミド樹脂膜及び積層体の作製)
ポリアミド酸を、スピンコーター(MIKASA社製)を用いてキュア後膜厚が10μmとなるように無アルカリガラス(コーニング社製、10cm×10cm×0.7mm)上に塗工し、ホットプレート上、100℃において30分間プリベークした。その後、キュア炉(光洋リンドバーグ社製)中、窒素雰囲気下、350℃において1時間加熱してキュアすることにより、前記ガラス基板上記形成されたポリイミド膜を有する積層体を得た。
【0084】
(接着性評価)
上記で得られた、ガラス基板上に形成されたポリイミド膜(膜厚10μm)を有する積層体を幅2.5cmに切り出し、ポリイミド膜をガラス基板から少し剥離したうえで、オートグラフを用いて、23℃、50%RH雰囲気下で、剥離角度180°、剥離速度50mm/分にて剥離強度を測定した。
(レーザー剥離強度の測定)
上記に記載したコート方法及びキュア方法によって得た、無アルカリガラス上に膜厚10μmのポリイミド膜を有する積層体に、エキシマレーザー(波長308nm、繰り返し周波数300Hz)を照射し、10cm×10cmのポリイミド膜の全面を剥離するのに必要な最小エネルギーを求めた。
【0085】
(重量平均分子量及び数平均分子量の測定)
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、それぞれ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、下記の条件により測定した。
溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)に対して、測定前に24.8mmol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)及び63.2mmol/Lのリン酸(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えたもの
重量平均分子量を算出するための検量線:スタンダードポリスチレン(東ソー社製)を用いて作成
カラム:Shodex KD−806M(昭和電工社製)
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:PU−2080Plus(JASCO社製)
検出器:RI−2031Plus(RI:示差屈折計、JASCO社製)
UV‐2075Plus(UV−VIS:紫外可視吸光計、JASCO社製)
【0086】
(黄色度(YI値)の評価)
上記実施例及び比較例のそれぞれで調製した樹脂組成物を、表面にアルミ蒸着層を設けた6インチシリコンウェハー基板に、硬化後膜厚が10μmになるようにコートして、前記基板上に塗膜を形成した。この塗膜付き基板を、80℃において60分間プリベークした後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF−2000B)を用いて、350℃において1時間の加熱硬化処理を施して、ポリイミド膜が形成されたウェハーを作製した。このウェハーを希塩酸水溶液に浸漬してポリイミド膜を剥離することにより、ポリイミド膜を得た。
得られたポリイミド膜のYI(膜厚10μm換算)を、日本電色工業(株)製(Spectrophotometer:SE600)を用い、D65光源にて測定した。
【0087】
<アルコキシシラン化合物の合成>
[合成例1]
窒素置換した容量50mlのセパラブルフラスコに、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を19.5g入れ、更に原料化合物1としてBTDA(ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物)2.42g(7.5mmol)及び原料化合物2として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名:LS−3150、信越化学社製社製)3.321g(15mmol)を入れ、室温において5時間反応させることにより、アルコキシシラン化合物1のNMP溶液を得た。
【0088】
[合成例2〜4]
上記合成例1において、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の使用量、並びに原料化合物1及び2の種類及び使用量を、それぞれ表1に記載のとおりとした他は合成例1と同様にして、アルコキシシラン化合物2〜4のNMP溶液を得た。
【0089】
【表1】
【0090】
表1における化合物名の略称は、それぞれ、以下の意味である。
[原料化合物1]
BTDA:ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ANPH:2−アミノ−4−ニトロフェノール
DACA:3,6−ジアミノカルバゾール
[原料化合物2]
LS−3150:商品名、信越化学社製、3−アミノプロピルトリエトキシシラン
LS−3415:商品名、信越化学社製、3−イソシアネートプロピルトリエトキシ
シラン
【0091】
[アルコキシシラン化合物の308nmにおける吸光度測定]
上記アルコキシシラン化合物1〜4を、それぞれ0.001質量%のNMP溶液とし、測定暑さ1cmの石英セルに充填し、UV−1600(島津社製)を用いて波長308nmにおける吸光度を測定した。結果を表2に示した。
表2には、同様の手法によって測定した(3−トリエトキシシリルプロピル)−t−ブチルカルバメート(GELEST社製)(アルコキシシラン化合物5)の吸光度も同時に示した。
【0092】
【表2】
【0093】
<ポリイミド前駆体の合成>
[合成例5]
500mlセパラブルフラスコを窒素置換し、そのセパラブルフラスコに、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を、重合後の固形分含有量が15質量%となる量を入れ、更に、ジアミンとして2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)15.69g(49.0mmol)を入れ、撹拌してTFMBを溶解させた。その後、テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物(PMDA)9.82g(45.0mmol)及び4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)2.22g(5.0mmol)を加えた。次いで、窒素フロー下、80℃において4時間撹拌し、重合を行った。
室温まで冷却後、NMPを追加して溶液粘度を51,000mPa・sに調整することにより、ポリアミド酸のNMP溶液P−1を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は、180,000であった。
【0094】
[合成例6〜11]
上記合成例5において、表3の記載の種類及び量のジアミン及びテトラカルボン酸二無水物をそれぞれ使用した他は合成例5と同様にして、ポリアミド酸のNMP溶液P−2〜P−7を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)を、表3に合わせて示した。
【0095】
[ポリイミド樹脂膜の308nmにおける吸光度測定]
石英ガラス基板上に上記の溶液P−1〜P−7のそれぞれをスピンコートし、窒素雰囲気下、350℃において1時間加熱することにより、膜厚0.1μmのポリイミド樹脂膜をそれぞれ得た。これらのポリイミド膜について、UV−1600(島津社製)を用いて308nmにおける吸光度を測定した。結果を表3に示した。
【0096】
【表3】
【0097】
表3中の化合物名の略称は、それぞれ、以下の意味である。
(ジアミン)
TFMB:2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
4,4’−DAS:4, 4’−(ジアミノジフェニル)スルホン
p−PD:1,4−ジアミノベンゼン
(テトラカルボン酸二無水物)
PMDA:ピロメリット酸二無水物
6FDA:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
CHDA:シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物
【0098】
[実施例1〜8並びに比較例1〜4]
容器中で、表4に示した種類及び量のポリアミド酸溶液及びアルコキシシラン化合物を仕込み、よく撹拌することにより、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を含有する樹脂組成物をそれぞれ調製した。
上記各樹脂組成部について、上記に記載の方法によって測定した接着性、レーザー剥離性、及びYIを、それぞれ表4に示した。比較例2及び3では、(レーザー剥離強度の測定)におけるレーザー強度を300mJ/cm
2まで上げても剥離できなかった。比較例4におけるYI値は30を超えた。
【0099】
【表4】
【0100】
上記の結果から、本発明に係る樹脂組成物から得られるポリイミド膜は、黄色度が小さく、ガラス基板との接着強度が高く、かつレーザー剥離に要するエネルギーが小さい樹脂膜であることが確認された。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。