(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対象の身体若しくは身体領域の磁気共鳴画像法(MRI)画像を強調する方法を実施するための組成物を調整するためのアスコルベート又は医薬として許容されるその塩の使用であって、前記方法が、メグルミン、グルコース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース及び/又はトレハロースと合剤にされたアスコルベート又は医薬として許容されるその塩を、MRI画像を強調する量で前記対象に非経口投与するステップと、次いで、前記対象のMRIにより前記身体又は身体領域の画像を生成するステップとを含み、それによって前記合剤にされたアスコルベート又は医薬として許容されるその塩がMRI画像を強調し、
前記組成物が、アスコルベート又は医薬として許容されるその塩と、メグルミン、グルコース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース及び/又はトレハロースとの合剤である、使用。
前記臓器が、副腎、下垂体、胸腺、黄体、網膜、脳、脾臓、肺、精巣、リンパ節、肝臓、甲状腺、小腸粘膜、白血球、膵臓、腎臓又は唾液腺組織を含む、請求項1に記載の使用。
前記合剤にされたアスコルベート又は医薬として許容されるその塩が、対象の体重1キログラム当たり0.02、0.1、0.2又は0.5グラムから対象の体重1キログラム当たり5、10、20、30又は40グラムまでの量で投与される、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用。
前記生成ステップが、前記合剤にされたアスコルベート又は医薬として許容されるその塩の非経口投与中又は非経口投与後5、10、30、40、60、90若しくは120分以内に行われる、請求項1から11のいずれか1項に記載の使用。
前記身体領域が、副腎、下垂体、胸腺、黄体、網膜、脳、脾臓、肺、精巣、リンパ節、肝臓、甲状腺、小腸粘膜、白血球、膵臓、腎臓又は唾液腺組織を含む、請求項15又は16に記載の組成物。
前記合剤にされたアスコルベート又は医薬として許容されるその塩が、対象の体重1キログラム当たり0.02、0.1、0.2又は0.5グラムから対象の体重1キログラム当たり5、10、20、30又は40グラムまでの量で投与される、請求項15から20のいずれか1項に記載の組成物。
前記組成物が、MRI画像を生成する間又は生成する前の5、10、30、40、60、90若しくは120分以内に非経口投与される、請求項15から26のいずれか1項に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】アスコルベート及びアスコルベートラジカルの不均化を示す図である。
図1Aでは、アスコルベートは二酸であるが、pH7.4では99%がモノアニオン(AscH
−)として存在する。
図1Aでは、アスコルベートは二酸であるが、7.4の生理的pHではアスコルベートの99%が、そのモノアニオン(AscH
−)として存在する。アスコルベートラジカル(Asc
・−)は、酸化型及び還元型のアスコルベートとの平衡状態で(しかしまた、はるかに低濃度で)存在する。
図1Bでは、Asc
・−の不均化は、その転換の主要な経路であり、NMRタイムススケールで「中間の」プロトン交換速度に分類される速度定数(k
obs)を有する。この速度定数は、リン酸塩の存在下で10倍増加し得る(Bors W,Buettner GR. (1997) The vitamin C radical and its reactions in Vitamin C in Health and Disease, ed. by L. Packer and J. Fuchs, Marcel Dekker, Inc., New York, Chapter 4, pp75−94)。
【
図2】糖、糖アルコール及びアスコルベートのT
2緩和度(r
2=mM
−1秒
−1)を示す図である。比較は単糖及び二糖を含む。本明細書中で論じる通り、濃度が高いほどコントラスト効果が減少していることに注目されたい。これは、類似した部分の自己会合及びプロトン交換の減少に伴って起こると考えられる。
【
図3】アスコルベートのスピン−スピン緩和(T
2強調)MRIコントラストに関するインビトロ(「ファントム」)実験を示す図である。
図3Aでは、アスコルベートの漸増濃度を有する5つのファントムにおける定量的T
2マッピングを示している。従来の高速スピンエコー(FSE)収集による対照(リン酸緩衝生理食塩水)と比較して統計学的に有意な、わずか1〜5mMの「負のT
2コントラスト」(信号損失)が認められる。したがって、感度は、高取り込み組織における薬理学的用量のアスコルベート後に予想される組織/細胞濃度の下限である(例えば、(腫瘍及び脳、10〜30mM)。これはまた、組織の酸化性基質又は交換触媒による相乗効果を含んでいない。
図3Bでは、アスコルベートのT
2強調に対するH
2O
2の相乗効果を示している。H
2O
2は、インビボでの非経口アスコルベート後に脳及び腫瘍で100〜200マイクロモル濃度まで上昇し、アスコルビン酸によるT
2コントラスト効果に対して顕著な相乗作用をもたらす。前述の通り、この相乗効果は、ファントムにおいて30分間にわたって経時的にゆっくり減少するが、インビボにおいては、アスコルベートの薬理学的投与後にH
2O
2が生成される限り、持続するであろう。
図3Cでは、中性/生理的pH(7.0〜7.4)で最大化されるアスコルベートのT
2効果に対するpHの影響を実証している。この結果は、平衡状態でのアスコルベートのラジカル及び酸化型を用いたアスコルベート不均化の速度動態に関する以前の研究と一致している(
図1)。
図4Dでは、アスコルベートが、いくつかのFDAに認可されている薬物及び造影製剤(contrast formulation)中に賦形剤として一般的に使用されているソルビタール(sorbital)のアミン糖誘導体であるメグルミンにより塩化された(メグルミンと塩形成した)場合の顕著な相乗効果を示している。
【
図4】Na塩又はメグルミン塩としてのアスコルベートの比較を示すグラフである。生理的濃度のPO
4(2mM)及びHCO
3−(25mM)緩衝剤を含む溶液を調製する。
【
図5】アスコルビン酸Na+生理学的交換触媒を示すグラフである。各溶液は、脱イオン水中で中性(pH=7.0)に設定する。生理学的交換触媒の濃度は、インビボの血清及び細胞外空間と同じである:PO
4=2mM、ブドウ糖=5mMであり、HCO
3−は25mMである。
【
図6】アスコルビン酸Na/メグルミンとグルコースとの交換相乗作用を示すグラフである。溶液は、交換触媒としても寄与する生理的緩衝液PO
4(2mM)及びHCO
3−(25mM)の設定で比較する。
【
図7】Na Asc/メグルミンと糖アルコール、単糖及び二糖との交換相乗作用を示すグラフである。溶液は全て、2mMのPO
4及び25mMのHCO
3−の共存下で調製する。
【
図8】Na Asc/メグルミンと糖アルコール、単糖及び二糖との交換相乗作用に関する、対照を用いない倍率変更データを示すグラフである。溶液は全て、2mMのPO
4及び25mMのHCO
3−を用いて調製する。
【
図9】インビボにおける、高用量の非経口アスコルベート(2g/kg、右IJ iv注射)後のアスコルベートT2コントラスト変化を示す図である。
図9Aでは、正常C57ブラックマウスの中脳を通る従来の単一スライスアキシャルFSEのT2WI画像を示している。右の2つの画像は、アスコルベートi.v.投与中及び投与後におけるコントラスト変化の「初回通過」抽出を示す。脳組織のT2信号を、アスコルビン酸投与の直後及び10分後に収集し、次にアスコルビン酸投与前に収集したT2脳信号から差し引く。アスコルベートが信号強度の減少をもたらすので、より高信号の投与前スキャンからの減算により、脳組織を通る通過灌流(血流)の正味の陽性「マップ」が得られる。10分において、灌流効果はほぼ消失し、組織取り込みに関連する早期の信号強度変化が観察され始めている。
図9Bでは、高用量アスコルベートの組織取り込みによる信号変化を示している。信号強度のカラー−リュートマップは投与前スキャンから減算されず、したがって、正常C57マウスでは30〜60分に最大となる、予想された経時的T2信号減少を示している。
【
図10】新皮質拡延性抑制の齧歯類モデルにおけるアスコルベートT2強調を示す図である。例示した実験において、下の列の画像は、小さい頭蓋切除を、隣接した頭頂葉皮質に局所的に拡散している、高濃度のKClに浸漬されたゲルフォーム(赤い矢印)と共に示している。頭蓋切除部位は、ブレグマの後方1mmであり、頭蓋骨の目印は、下にある脳の後方1/3を表している。上の2つの列は、ブレグマの前方3mm及び4mmの、すなわち、SD誘導部位から離れた齧歯類脳のT2画像及び信号変化の定量的カラーリュートT2マップを示している。前方スライスにおけるT2信号変化は、右大脳皮質では左大脳皮質に比較して明瞭なT2非対称を示している(この場合も、SDは依然として右半球に限定されている)。これらの顕著な皮質信号変化は、
18F−FDG PET並びに直接マイクロダイアリシス及びメタボロミック測定でも観察される、SDによって生じる既知の代謝亢進活性と一致している。注目すべきことに、逆の観察(T2信号の局所的増加)が頭蓋切除部位自体(3列目)の直下で見られ、KCl注入部位での限局性水腫(自由水の増加)と一致している。
【
図11A】非経口アスコルベートを用いた灌流及びバイアビリティの心臓イメージングを示す図である。7Tにおけるラット心臓イメージングの2つの主要イメージング面、コロナル及びアキシャルを示している。
【
図11B】非経口アスコルベートを用いた灌流及びバイアビリティの心臓イメージングを示す図である。アスコルベートi.v.注射の最初のボーラスによる、左心室全体にわたるT
2信号強度の一過性減少を示している。
【
図12A】モルモットにおける、アスコルベートの3つの異なる製剤のi.v.投与後のT2コントラスト変化を示す図である。アスコルベートの緩徐注入の前及び60分の緩徐注入後における高速スピンエコー(FSE)T2画像は、脳実質の全体にわたって劇的な信号強度差を示している。
【
図12B】モルモットにおける、アスコルベートの3つの異なる製剤のi.v.投与後のT2コントラスト変化を示す図である。3つの異なるアスコルベート製剤の投与後のモルモット大脳皮質(Cx)及び大脳基底核(BG)の両方に関する標準化された信号強度変化を示している。
【
図12C】モルモットにおける、アスコルベートの3つの異なる製剤のi.v.投与後のT2コントラスト変化を示す図である。3つの異なるアスコルベート製剤の投与後のモルモット大脳皮質(Cx)及び大脳基底核(BG)の両方に関する定量的緩和度測定値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の対象は、一般に、研究又は獣医学のための、ヒト対象と動物対象(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマなど)の両方を含む哺乳類対象である。対象は男性でも女性でもよく、新生児、乳児、若年、青年、成人及び老齢対象を含む任意の年齢であることができる。
【0016】
臨床磁気共鳴画像法(MRI)は公知であり、市販の装置によって及び当分野で公知の技術によって行うことができる。例えば、S.Bushong and G.Clarke, Magnetic Resonance Imaging: Physical and Biological Principles (Mosby, 4
th Ed. 2014)を参照のこと。一部の実施形態において、MRIは、灌流(例えば、血流)イメージングである。一部の実施形態において、MRIは、代謝イメージングである。代謝イメージングは、代謝亢進又は代謝低下を示す腫瘍又は機能障害組織の同定/キャラクタリゼーションを含むがこれに限定されない、18F FDG PETに類似した診断バイオマーカーとして使用することができる。
【0017】
本明細書中に教示したMRIによって画像化できる「身体又は身体領域」は、対象の身体又は身体の任意の領域、例えば、臓器又は臓器系、軟部組織、骨など又はそれらの任意の部分を含む。身体組織の例としては、頭部、頸部、胸部、腹部、骨盤、肢(複数可)、筋肉、脂肪、他の軟部組織、骨などが挙げられるが、これらに限定するものではない。臓器の例としては、副腎、下垂体、胸腺、黄体、網膜、脳、脾臓、肺、精巣、リンパ節、肝臓、甲状腺、小腸粘膜、白血球、膵臓、腎臓、唾液腺組織、心臓などが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0018】
本明細書で使用するMRI画像の「強調」は、MRI信号における構造又は体液のコントラストを強調することによってMRI可視化を容易にすることを含む。
【0019】
「MRI造影剤」は、MRIスキャン中に体内の構造又は体液のコントラストを強調できる物質である。例として、常磁性造影剤、例えば、ガドリニウム(III)含有造影剤又はマンガンキレート、及び超常磁性造影剤(例えば、鉄白金粒子)が挙げられるが、これに限定するものではない。例えば、米国特許出願公開第2014/0350193号(Axelssonら)、米国特許出願公開第2014/0234210号(Linら)も参照のこと。
【0020】
本明細書中で使用する「非経口投与」は、例えば注射又は注入による、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、骨内又は髄腔内投与を含むが、これらに限定するものではない。非限定的な例として、静脈内(i.v.)アクセスが対象には困難である場合(例えば、低血圧)又はそれ以外の投与経路が好適なMRI画像をもたらすであろう場合には、腹腔内投与若しくは他の非経口投与を使用できる。
【0021】
MRイメージング及び造影剤の臨床的応用について説明する。臨床磁気共鳴画像法(MRI)は、組織中の水及び高分子からのプロトン(
1H)NMR信号を収集することにより、身体の高解像度画像を生成する。「T
1強調」MR画像の場合、縦緩和速度(スピン格子緩和速度を示す、1/T
1)が増加する領域で信号強度が増加する。「T2強調」MRIでは、横緩和速度(スピン−スピン緩和速度を示す、1/T
2)が増加すると信号強度が減少する。T
1強調画像及びT
2強調画像はいずれも、実質的に全ての臨床MRI研究においてルーチン的に収集される。
【0022】
患部を正常組織からより明確に描出し、解剖学的定義(anatomical definition)を改善し且つ生理学的又は病理学的機能のキャラクタリゼーションを向上させることを目的として、MRIにおいては静脈造影剤をルーチン的に投与して1/T
1又は1/T
2を更に増加させる。現在認可されているMRI造影剤はほとんど全て、ランタニド金属ガドリニウム(Gd)のキレートをベースにしているが、よりごく一部の血管造影及び灌流研究は、腎機能不全/腎不全患者において認可外の酸化鉄材料(例えば、Feraheme)を使用して行われている。商業的なGd系材料は、造影材料が蓄積しやすい患部組織において1/T
1を増加させるために最も一般的に使用されている。
【0023】
MRIによる組織灌流測定のために、1/T
1又は1/T
2コントラストのいずれかに基づく収集ストラテジーにより、Gd系薬剤又は酸化鉄ナノ粒子を使用することができるが、1/T
2コントラストアプローチがますます好まれている。灌流イメージングは、腫瘍の攻撃性、治療に対する腫瘍応答並びに心臓、脳及び他の臓器における組織バイアビリティのキャラクタリゼーションのために現在臨床的に使用されている。
【0024】
アスコルビン酸について説明する。アスコルビン酸(「L−アスコルビン酸」、「アスコルベート」、「ビタミンC」)は、天然に存在する有機化合物及び必須栄養素であり、正常に機能していない場合には最も顕著な壊血病の症状をもたらす、いくつかのコラーゲン合成反応を含む少なくとも8つの酵素反応における抗酸化剤及び補因子として重要な性質を有する。ほとんどの哺乳類は、肝臓においてアスコルビン酸を産生する。肝臓において、酵素L−グルノラクトンオキシダーゼによりグルコースがアスコルビン酸に変換される。しかし、ヒト、高等霊長類、モルモット及びほとんどのコウモリにおいては、突然変異により、L−グルノラクトンオキシダーゼの発現が低いか存在せず、したがって、アスコルベートは食事又は食餌で摂取しなければならない(Lachapelle,M.Y.;Drouin,G. (2010). ”Inactivation dates of the human and guinea pig vitamin C genes”. Genetica 139 (2): 199−207)。全ての動物種において、L−アスコルビン酸/アスコルベートは最も豊富な細胞内抗酸化剤であり、細胞内濃度は腫瘍、脳細胞及びいくつかの他の組織で10〜30mMに達し得る。血漿中レベルの100倍を超えるビタミンCを蓄積する組織としては、副腎、下垂体、胸腺、黄体及び網膜が挙げられる。10〜50倍の濃度を有する組織としては、脳、脾臓、肺、精巣、リンパ節、肝臓、甲状腺、小腸粘膜、白血球、膵臓、腎臓及び唾液腺が挙げられる(Hediger MA (May 2002). ”New view at C”. Nat. Med. 8 (5): 445−6)。
【0025】
食事又は食餌による過剰のビタミンCは吸収されず、血液中の過剰のビタミンCは尿中に速やかに排出される。ビタミンCは、著しく低い毒性を示し、ラットにおけるLD
50は強制栄養(forced gavage)によれば一般に体重1kg当たり約11.9グラムと認められている。このような用量(体重の1.2%、又は70kgのヒトに対して0.84kg)による死亡のメカニズムは知られていないが、化学的ではなく機械的である可能性がある(”Safety (MSDS) data for ascorbic acid”. Oxford University. October 9, 2005. Retrieved February 21, 2007)。偶発的又は意図的な中毒死のデータがないことを考えると、ヒトにおけるLD
50は不確かである。したがって、ラットのLD
50をヒトの毒性の指針として使用する。
【0026】
生理的pHにおいて、アスコルビン酸の99%はモノアニオンとして存在する(
図1A)。したがって、ビタミンCの化学的性質とイメージング特性は、この部分によって支配される。供与体抗酸化剤として、モノアニオンは水素原子(H
.又はH
++e
−)を酸化的ラジカルに供与して、共鳴安定化されたトリカルボニルアスコルベートフリーラジカル(Asc
.−)を生成する(
図1B)。もとの還元型又は酸化型アスコルベートへのAsc
.−の不均化反応(
図1c←ありません。)は、インビトロでの主要な排出経路である。このプロセスは、インビボでは、アスコルベートの再循環を助ける酵素によって補われる(May JM,Qu ZC,Neel DR,Li X (May 2003). ”Recycling of vitamin C from its oxidized forms by human endothelial cells”. Biochim. Biophys. Acta 1640 (2−3): 153−61)。アスコルベート又はデヒドロアスコルベートのいずれかへのラジカルの不均化は、電子運搬体又はより普通のカチオンのいずれかとして働く水素の喪失又は獲得によって起こる。また、アスコルビン酸ラジカルの不均化速度定数は10
5〜10
6M
−1s
−1であるので、不均化に伴う水素交換も同じ速度で起こる。NMRタイムスケールにおいて、これらの「中間体」の交換速度は、
1Hスピン−スピン緩和の変更に最適である。
【0027】
アスコルベートの輸送及び排出について説明する。アスコルビン酸は、能動輸送と単純拡散の両方によって身体に吸収される。2つの主要な能動輸送経路は、アスコルビン酸ナトリウムコトランスポーター(SVCT)及びヘキソーストランスポーター(GLUT)である。SVCT1及びSVCT2は、還元型のアスコルベートを、細胞膜を横切って輸入する(Savini I,Rossi A,Pierro C,Avigliano L,Catani MV (April 2008). ”SVCT1 and SVCT2: key proteins for vitamin C uptake”. Amino Acids 34 (3): 347−55)のに対し、GLUT1及びGLUT3グルコーストランスポーターは、酸化型であるデヒドロアスコルビン酸を移動させる(Rumsey SC,Kwon O,Xu GW,Burant CF,Simpson I,Levine M (July 1997). ”Glucose transporter isoforms GLUT1 and GLUT3 transport dehydroascorbic acid”. J. Biol. Chem. 272 (30): 18982−9)。正常な条件下では血漿中のデヒドロアスコルビン酸濃度は低いが、酸化型分子はGLUT1及びGLUT3を横切って、還元型がSVCTを横切って吸収されるよりもはるかに高い速度で吸収される。アスコルベート濃度が薬理学的に上昇すると、デヒドロアスコルベート濃度も増加し、それにより、GLUTトランスポーターが高コピーで存在する場所、例えば、脳(及び血液脳関門)及び腫瘍細胞中での顕著な吸収が可能となる。一旦輸送されると、デヒドロアスコルビン酸は速やかに還元されてアスコルベートにもどる。
【0028】
腎再吸収閾値を超える濃度のアスコルベートは尿中に自由に移り、約30分間の半減期で排泄される。高摂取量(ヒトでは数百mg/日に相当)では、腎再吸収閾値は、男性で1.5mg/dL、女性で1.3mg/dLである(Oreopoulos DG,Lindeman RD,VanderJagt DJ,Tzamaloukas AH,Bhagavan HN,Garry PJ (October 1993). ”Renal excretion of ascorbic acid: effect of age and sex”. J Am Coll Nutr 12 (5): 537−42)。尿中に直接排出されない又は他の身体の代謝によって破壊されるアスコルベートは、L−アスコルビン酸オキシダーゼによって酸化されて除去される。
【0029】
理論に拘泥するものではないが、溶媒水プロトンはアスコルベート分子のヒドロキシルプロトンと交換されるので、「T
2強調コントラスト」とも称される常磁性を伴わないアスコルベート信号変化のメカニズムは、水プロトン(
1H)スピン−スピン緩和速度1/T
2(又は逆数として、スピン−スピン緩和時間を示す、T
2)の強調をベースとする。T
2コントラストに対するプロトン交換の効果は、生理的pHにおけるアスコルベートラジカルの不均化反応によって更に増幅される。アスコルベートの酸化及びアスコルベートラジカルの不均化は、酸化基質、例えば、過酸化水素(H
2O
2)及び/又は水素(「プロトン」)交換触媒の共存によって推進される。
【0030】
特にスピン−スピン交換触媒(例えば、単純な糖、糖アルコール又はアミノ酸)の存在下での及びそれと合剤にされたアスコルベートは、金属系(例えば、ガドリニウム又は鉄)造影材料の使用もイオン化放射線の使用も必要としない、安全で生分解性のMRI造影剤である。この技術により、組織灌流の評価並びに
18F−FDGPETに類似した組織のバイアビリティ及び代謝の高分解能分子キャラクタリゼーションが可能になる。後者は、
18F−FDG(即ち、GLUT1及び3トランスポーター)を取り込む同じグルコース輸送メカニズムによる細胞中へのアスコルベートの取り込み(デヒドロアスコルベートを介する)によって可能である(Rumsey SC,Kwon O,Xu GW,Burant CF,Simpson I,Levine M (July 1997). ”Glucose transporter isoforms GLUT1 and GLUT3 transport dehydroascorbic acid”. J. Biol. Chem. 272 (30): 18982−9)。
【0031】
アスコルベートMRIの潜在的用途は、PETスキャンが有益と既に判明しているが方法体系の改善が更なる臨床的な利益をもたらすであろういくつかの臨床シナリオを含む。これらのシナリオとしては、癌、神経疾患(例えば、認知症、TBI及びてんかん)及び心血管イメージングに関する診断研究が挙げられる。Tc−99m標識薬剤(例えば、Tc−99mセスタミビ(sestimibi)又は「Cardiolite」)を用いた心臓研究は、今後3〜5年の世界的なTc−99m供給の予想される縮小を考慮して代替的ストラテジーを必要とする特に注目すべき診断用途を示している。Tc−99m関連薬剤を用いる心筋灌流及びバイアビリティイメージングは、欠くことのできない、広く実施されている操作であるが、これらのTc−99m依存性薬剤に取って代わる経済的に実現可能な解決策は現在までにいまだに提供されていない。
【0032】
いくつかの悪性腫瘍のための補助化学療法薬としての高用量非経口アスコルベートの使用は、このビタミンを検討する進行中の臨床癌試験の対象である。したがって、本明細書に教示するアスコルベートMRIは、高分解能MRイメージングと治療的投与との結合が送達及び腫瘍応答評価のリアルタイム最適化を可能にし得るという情報を、この化学療法薬の研究及び適用に与えるのに役立ち得る。
【0033】
アスコルベートは、バンコマイシンに似た薬物動態プロフィールを有すると理解されている。経口アスコルベートの体内分布は厳密に制御され、経口用量が一日所要量の100倍を超える場合でも血漿濃度が200μMを超えることはめったにない。(Levine M,Conry−Cantilena C,Wang Y,Welch RW,Washko PW,Dhariwal KR,Park JB,Lazarev A,Graumlich JF,King J,Cantilena LR (April 1996). ”Vitamin C pharmacokinetics in healthy volunteers: evidence for a recommended dietary allowance”. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93 (8): 3704−9)。しかし、静脈内投与されたアスコルベートは、これらの厳密な制御系を回避するので、10mM以上の血漿濃度が達成可能である。10mMを超える血漿濃度が、最大4時間にわたってヒトにおいて安全に持続され、毒性は著しく低い(Hoffer LJ.,Levine M.,Assouline S.,Melnychuk D.,Padayatty SJ.,Rosadiuk K.,Rousseau C.,Robitaille L., and Miller WH., Jr., Phase I clinical trial of i.v. ascorbic acid in advanced malignancy. Ann Oncol 19: 1969−1974, 2008)。
【0034】
より最近の研究は、静脈内注入によって達成される薬理学的アスコルベート濃度が、がん細胞に対しては細胞毒性があるが正常細胞に対しては細胞毒性がない濃度での、アスコルベートラジカルの形成及び過酸化水素(H
2O
2)の産生をもたらすことを示している(Chen Q.,Espey MG.,Sun AY.,Pooput C.,Kirk KL.,Krishna MC.,Khosh DB.,Drisko J.,and Levine M. Pharmacologic doses of ascorbate act as a prooxidant and decrease growth of aggressive tumor xenografts in mice. Proc Natl Acad Sci U S A 105: 11105−11109, 2008)。いくつかの前臨床異種移植研究では、高用量の非経口アスコルベートで注目に値する成長阻害が示され、更に最近の臨床試験でも、優れた安全性プロフィールをも裏付ける有望な結果が同様に示されている。前臨床的なメカニズム研究においては、H
2O
2の産生が目立った特徴である。マイクロダイアリシスによる測定から、H
2O
2濃度が高用量非経口アスコルベート後に100sμM超に上昇し、アスコルベート及びH
2O
2はいずれも、腫瘍及び脳領域、例えば、線条体において最高濃度に達することが明らかである(Chen Q.,Espey MG.,Sun AY.,Pooput C.,Kirk KL.,Krishna MC.,Khosh DB.,Drisko J.,and Levine M. Pharmacologic doses of ascorbate act as a prooxidant and decrease growth of aggressive tumor xenografts in mice. Proc Natl Acad Sci U S A 105: 11105−11109, 2008)。
【0035】
本発明を実施するのに有用な非経口投与用の製剤としての医薬として許容され得る担体(例えば、滅菌水又は生理食塩水)中のアスコルベートは、例えば、壊血病の治療で知られている。好適な製剤の例としては、これに限定するものではないが、注射用の水に溶解したアスコルビン酸の滅菌溶液が挙げられ、これは、炭酸水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムでpH(5.5〜7.0の範囲)調整された適量の注射用の水に、水1リットル当たり、アスコルビン酸500mg、エデト酸二ナトリウム0.25mg、水酸化ナトリウム110mgを含む。非経口投与に好適な製剤は、例えば、その滅菌溶液のような、アスコルベートの医薬として許容される塩(例えば、ナトリウム塩又はメグルミン塩)を含んでいてもよく、または、炭酸水素塩(HCO
3−)及び/又はリン酸塩(PO
4)のようなpH緩衝剤、を更に含んでいてもよい。
【0036】
本明細書で使用する用語「医薬として許容される」は、化合物又は組成物が、疾患の重症度及び治療の必要性に鑑みて、過度に有害な副作用を伴わずに本明細書中に記載した治療を達成するために対象に投与するのに好適であることを意味する。
【0037】
本発明を、以下の非限定的な実施例において更に詳細に説明する。
【0038】
[インビトロの例]
(スピン−スピン緩和速度、1/T
2のアスコルベートによる強調)
以前の研究では、バルク水プロトンと低分子量溶質及び高分子の移動可能なプロトン(例えば、−NH
2、−OH、−SH、−NH)との交換によって生じるT
2強調に関するNMR/MRIコントラスト効果について報告されている。このプロトン交換による1/T
2に関するコントラスト効果は、以下のように記載される:
【数1】
【0039】
バルク水は
aに関連(relate)し、交換可能なプロトン(例えば、アスコルベートOH基から)は
bに関連する。f
CRは、Carver及びRichardsから導かれ、Hillらによって改良された5つのパラメーターを有する閉じた関数である。(Carver, J. P.; Richards, R. E. J. General 2−Site Solution For Chemical Exchange Produced Dependence Of T2 Upon Carr−Purcell Pulse Separation J. Magn. Reson. 1972, 6, 89−105; Hills, B. P.; Wright, K. M.; Belton, P. S. N.M.R. studies of water proton relaxation in Sephadex bead suspensions Mol. Phys. 1989, 67, 1309−1326)。アスコルベートのヒドロキシルプロトンに関しては、P
bは交換可能なプロトンの割合であり、kは交換可能なプロトンと水プロトンとの交換速度であり、δω
bはヒドロキシルプロトンとバルク水プロトンとの間の化学シフトであり、T
2bは、ヒドロキシルプロトンの局所的スピン−スピン緩和時間である。τは、T
2強調収集シーケンスにおけるパルス間(90°〜180°)間隔である。
【0040】
T
2コントラストに関してプロトン交換に影響を及ぼす必須であるがしばしば無視されるパラメーターは、交換触媒反応の役割がある(Liepinsh E and Otting, G Proton exchange rates from amino acid side chains − implications for image contrast. Magn Reson Med. 1996 35(1): 30−42)。OH基又はNH基と水との間のプロトン交換の速度定数kは、
【数2】
によって記載できる。K
a、K
b及びK
cはそれぞれ、H
+、OH
−及び他の交換触媒による触媒反応よる交換速度定数を示す。指数yは、所与の交換触媒のメカニズムに応じて1又は2である。速度定数K
a及びK
bは、
【数3】
[式中、K
Dは、プロトン供与体及び受容体の拡散律速遭遇(diffusion controlled encounter)の速度定数(約10
10mol
−1s
−1)であり、pK
D及びpK
Aは、プロトン供与体及び受容体のpK値である]
によって算出できる。pK
H3O+及びpK
OH−=15.7であるが、触媒濃度に対するプロトン移動の非線形依存性のために、K
cは予測がより困難である。それにもかかわらず、中性pHでの効率的な交換触媒反応が、pK
D−pK
Aとの間の少なくとも中程度の差及び生理的pHでの触媒活性酸性型又は塩基性型交換触媒の有意な濃度によって達成される。
【0041】
したがって、H
2Oは、pK
D及びpK
A(H
3O
+及びOH
−に関して)が15.7の比較的弱いプロトン供与体であるので、高濃度にもかかわらず、中性pHでは非効率的な交換触媒である。一方、生理的条件において認められている交換触媒には、有機リン酸塩、炭酸塩(例えば、炭酸水素塩、HCO
3−)並びにカルボキシル及びアミノ基を有する分子がある(Liepinsh E and Otting, G Proton exchange rates from amino acid side chains − implications for image contrast. Magn Reson Med. 1996, 35(1): 30−42)。以下に示すように、アスコルベートはこれまでに認められていないもう1つの強力な触媒であり、好ましいpK
A=6.75の1つのヒドロキシル基を4位に有すると共にpK
A=7.0で平衡となり不均化反応を起こす。したがって、アスコルベートは、「自己触媒」するだけでなく、糖及び他の高分子の塩基性ヒドロキシル基に対して効率的なプロトン交換触媒であるべきである。
【0042】
図2は、pH7の脱イオン水中におけるいくつかの糖、糖アルコール及びアスコルベートの純粋な溶液のT
2強調の比較を示す。溶質濃度10及び20mMにおける、少なくとも6つの異なるエコー時間を含むRARE FSEプロトコールを使用した7Tでの定量的T
2マッピングからのデータを示す。示される通り、T
2緩和度は、各分子上の利用可能な交換可能OHプロトン数と概ね相関関係があり、二糖は、予測通り、単糖よりも比例的に大きなコントラスト効果を生成する。注目すべきは、溶質濃度に対する非線形依存性であって、濃度が増加するにつれて緩和度の強調が減少し、これは、純粋な溶液中における糖の自己会合に関連する可能性のある現象である。後者は、以下に記載する観察と特に関連し、アスコルベートと糖がより高い総溶質濃度で一緒に組み合わされると、全体的なT
2効果がむしろ相乗的に強調される。アスコルベートを単糖又は二糖と組み合わせて含む製剤は、MRイメージングのT
2コントラスト効果を増加させるために、両方の種をより高濃度で送達する手段を提供する。
【0043】
図3Aは、中性pHにおける種々の濃度での純粋なアスコルベート溶液のT
2効果のより詳細な実証を図示している。
図3Bは、デヒドロアスコルベートへの酸化及びアルコールベートラジカル不均化を推進するわずかμM濃度(即ち、生理的濃度)の過酸化水素(H
2O
2)の存在下でアスコルベートが存在する場合に、T
2効果が顕著に強調されることを明らかにしている。H
2O
2はそれ自体が交換触媒と考えられるが、H
2O
2がアスコルベートの100倍低い濃度で存在する場合にアスコルベート介在性の1/T
2強調に対して劇的な効果が観察されることから、OHアスコルビルプロトンによる直接交換ではなく、H
2O
2に推進されるアスコルベート酸化/不均化によるプロトン交換がT
2変化に関与する重要な寄与メカニズムであることが示唆される。プロトン交換に対するデヒドロアスコルベートの酸化/不均化の寄与の更なる証拠が
図3Cに示されており、これは、1/T
2増強効果が、アスコルベート−デヒドロアスコルベート不均化の反応速度も最大である中性pHにおいてずば抜けて顕著であることを示している。
【0044】
図3Dのデータは、アスコルベートと適切なpKを有する受容体及び/又は供与体分子との間の交換触媒反応が1/T
2強調変化を顕著に促進し得るという第1の示唆を与えている。ここでのデータは、ナトリウム塩として及びメグルミン(アミノ糖)塩としてのアスコルベートの溶液を比較している。ここで、T
2コントラスト効果(T
2緩和(ms))は、中性pHの水中においてアスコルビン酸メグルミンを用いた場合にはメグルミン単独又はアスコルベート単独と比較して約4倍大きい。
【0045】
引き続き、メグルミンとアスコルベートとの印象的な相乗効果が、塩形成カチオンとしてのアスコルベートとの化学的会合に依存するかどうかを検討した(理論的には、2つの部分(moieties)は水中で完全に会合しているはずである)。
図4は、「塩形成機能」がNa
+カチオンによって果たされる場合にはプロトン交換に実際に相乗作用がもたらされることを明らかにしており、メグルミンの塩基性OH基に加えてアミノ基をアスコルベートとの交換触媒反応に関与させていると推定される。ここでは、実験同士の違いを更によく示すために、対照T
2緩和(ms)値(T
2=840ms)は示していないことに留意されたい。
【0046】
図5は、アスコルベートによるコントラスト効果に対する種々の生理学的交換触媒の影響を調べる一連の実験からのT
2緩和データを要約している。既知の血清及び細胞外濃度のPO
4=2mM、グルコース=5mM及びHCO
3−=25mMを使用し、アスコルベートを10mMとして、これらの部分のそれぞれのT
2緩和を個別に及び組み合わせて調べた。示される通り、水中におけるアスコルベート単独又はアスコルベートとPO
4+との組合せのT
2緩和効果は少ないが、生理的濃度のグルコース又はHCO
3−のいずれかが10mMアスコルベートと共に存在すると劇的に増加し(濃度は非経口投与によって容易且つ安全に達成される)、注目に値する、T
2緩和の50%の変化がもたらされる。最大の強調は、インビボにおいてはアスコルベートと共に既知濃度のグルコース、HCO
3−及びPO
4が存在する場合に見られる。したがって、アスコルベートをただ単にi.v.投与することによって、インビボでのアスコルベートのT
2強調効果は、ファントム研究において生理学的交換触媒を存在させずにアスコルベート単独だけを調べた後に予想されうる効果よりはるかに大きくなるであろう。
【0047】
インビボでは通常存在しない他の糖とアスコルベートとの配合がアスコルベートのコントラスト効果を更に触媒し得る可能性も、上記実験から予測される。
図6は、例えば、メグルミンを同等の濃度(20mM)のアスコルビン酸ナトリウムの溶液に添加し、2mMのPO
4、25mMのHCO
3−のバックグラウンドに加えた場合の追加の相乗作用を示している。データは、生理的濃度(5mM)のグルコースの有無による比較、及び生理学的触媒に添加されたメグルミン単独の効果を示している。明らかなように、最大のコントラスト効果は、全ての部分が組み合わされた場合に観察される。したがって、異なる交換触媒を互いに組み合わせることによってより高いコントラスト効果を達成でき、そのため任意の1つの外部から投与される種の濃度を制限する可能性があると推測される。
【0048】
図7は、この概念を拡張して、アスコルビン酸Na及びメグルミンが他の単糖及び二糖並びに糖アルコールと配合された場合の潜在的な相乗作用を試験したデータを要約している。示される通り、コントラスト効果は、考えられるどの配合物によっても劇的である。
図8には、コントラスト変化の違いをよりよく示すために対照溶液(2mMのPO
4及び25mMのHCO
3−)。このように、最も強い効果は、アスコルベート及びメグルミンが一般的な二糖であるスクロースと組み合わされた場合に観察され、したがって、全てが安全に非経口投与できる部分のみを使用するMRIの有望な候補配合物(即ち、アスコルベート/メグルミン/スクロース)を示唆している。
【0049】
[実施例1]
(インビボの例)
〈正常な脳灌流及び物質代謝〉
図9で、インビボにおける、高用量非経口アスコルベート(2g/kg、右IJiv注射)後のアスコルベートT2コントラスト変化を示す。
図9Aでは、正常C57ブラックマウスの中脳を通る従来の単一スライスアキシャルFSE T2WI画像を示している。右の2つの画像は、アスコルベートi.v.投与中及び投与後におけるコントラスト変化の「初回通過」抽出を示す。脳組織のT2信号を、アスコルベート投与の直後及び10分後に収集し、次にアスコルベート投与前に収集したT2脳信号から差し引く。アスコルベートが信号強度の減少をもたらすので、より高信号の投与前スキャンからの減算により、脳組織を通る通過灌流(血流)の正味の陽性「マップ」が得られる。10分において、灌流効果はほぼ消失し、組織取り込みに関連する早期の信号強度変化が観察され始めている。
図9Bでは、高用量アスコルベートの組織取り込みによる信号変化を示している。信号強度のカラー−リュートマップは投与前スキャンから減算されず、したがって、正常C57マウスでは30〜60分に最大となる、予想された経時的T2信号減少を示している。
【0050】
[実施例2]
(インビボの例)
〈新皮質拡延性抑制と関連した限局性脳代謝亢進〉
図10で、新皮質拡延性抑制の齧歯類モデルにおけるアスコルベートT2強調を示す。拡延性抑制(SD)は、60年前にLoaoによって最初に記載されたCNS組織の実験的に再生可能な病態生理学的現象である。皮質の限局的な領域がイオン摂動の臨界閾値に達した後、細胞脱分極の大きい拡散波が始まり灰白質組織に広がる可能性があるが、その拡散波が誘導された灰白質域に限局されたままであり、白質経路を通らない。誘導メカニズム(例えば、適用された塩化カリウムの局所的高濃度)が同じ領域に対して連続的である場合、拡延性抑制のこれらの波は8〜10分に1回繰り返されて、2〜3時間持続する。SDに伴って脳代謝の顕著な変化が起こり、組織学的に検出可能なニューロン損傷がSD後には存在しないので、これらの物質代謝は、非虚血性の過剰興奮性脳組織、例えば、てんかん発作焦点の代謝フラックスを変化させる。
【0051】
前記実験において、下の列の画像は、小さい頭蓋切除と、隣接した頭頂葉皮質に局所的に拡散している、高濃度のKClに浸漬されたゲルフォーム(赤い矢印)とを、共に示している。頭蓋切除部位は、ブレグマの後方1mmであり、頭蓋骨の目印は、下にある脳の後方1/3を表している。上の2つの列は、ブレグマの前方3mm及び4mmの、すなわち、SD誘導部位から離れた齧歯類脳のT2画像及び信号変化の定量的カラーリュートT2マップを示している。前方スライスにおけるT2信号変化は、右大脳皮質では左大脳皮質に比較して明瞭なT2非対称を示している(この場合も、SDは依然として右半球に限定されている)。これらの顕著な皮質信号変化は、
18F−FDG PET並びに直接マイクロダイアリシス及びメタボロミック測定でも観察される、SDによって生じる既知の代謝亢進活性と一致している。注目すべきことに、逆の観察(T2信号の局所的増加)が頭蓋切除部位自体(3列目)の直下で見られ、KCl注入部位での限局性水腫(自由水の増加)と一致している。
【0052】
[実施例3]
(インビボの例)
〈心臓灌流及び代謝イメージング〉
図11は、非経口アスコルベートを用いた灌流及びバイアビリティの心臓イメージングを示す図である。
図11Aでは、7Tにおけるラット心臓イメージングの2つの主要イメージング面、コロナル及びアキシャルを示している。呼吸同調を伴うレトロスペクティブゲーティングを用いて、7Tにおいて画像を集めた。収集シーケンスは中程度にT2強調されており、コントラスト効果を強調するために更に最適化することができる。
図11Bでは、アスコルベートi.v.注射の最初のボーラスによる、左心室の全体にわたるT2信号強度の一過性減少を示している。初回通過流又は「灌流イメージング」のための最初のボーラスの後、可変フリップ角を使用した定量的T2マップは、心臓組織の緩徐なT2コントラスト変化を示し、アスコルベートの取り込みを反映している。代謝的に活性な生細胞のみが、アスコルベートを取り込むであろう。
【0053】
[実施例4]
(インビボの例)
〈モルモットにおける、アスコルベートの3つの異なる製剤の静脈内投与後のT2コントラスト変化〉
我々は、軽度麻酔したモルモットの全脳におけるT2コントラスト変化を7Tで調べた。モルモットは、ヒトと同様にアスコルベートを内因的に合成できないので、このモデルのMRI効果は患者のMRI変化をより予測できる。アスコルベートは、60分にわたって総用量2g/kgにコントロールされた注入によって、大腿静脈又は頸静脈から非経口投与した。MRIは、90分間行った。
【0054】
図12Aは、アスコルベートの緩徐注入の前及び60分の緩徐注入後における高速スピンエコー(FSE)T2画像が脳実質の全体にわたって劇的な信号強度差を示すことを示している。
【0055】
図12B及び
図12Cにおいて、標準化された信号強度変化及び定量的緩和度測定値が、3つの異なるアスコルベート製剤:(1)100%アスコルビン酸ナトリウム;(2)50%アスコルビン酸ナトリウム及び50%アスコルビン酸メグルミン;及び(3)100%アスコルビン酸メグルミンの投与後のモルモット大脳皮質(Cx)及び大脳基底核(BG)の両方に関して示されている。
図12Bでは、シグナル強度変化は、50%NaAA:50%MegAAからなる第2の製剤(2)の投与中及び投与後のいずれの時点でも最大であり、観察された皮質FSE T2強度の減少は40%を超えている。
図12CのT2緩和度計算値も、製剤(2)の場合はベースラインから10%を超える値を示し、最大値は、製剤(1)又は(3)のいずれよりも統計的に大きい。従来のFSE T2強調画像では、Meg AA(3)の場合の信号強度変化は、ほとんど全ての時点でアスコルビン酸ナトリウム(1)の場合に観察されたものよりも大きいことが認められるが、T2緩和度計算値は、これらの後者2つの製剤間では統計的な差異を示していない。
【0056】
前述したのは、本発明の例証であって、本発明の限定と解してはならない。本発明は以下の特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲の均等形態も本発明に包含される。