(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属触媒及びヨウ化メチルを含む触媒系、並びに、酢酸、酢酸メチル、水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを反応槽で反応させて酢酸を生成させるカルボニル化反応工程と、
前記カルボニル化反応工程で得られた反応混合物を蒸発槽において蒸気流と残液流とに分離する蒸発工程と、
前記残液流を反応槽に戻す残液流リサイクル工程と、
前記蒸気流を蒸留に付して酢酸を精製する蒸留工程と、
を備えた酢酸の製造方法であって、
前記蒸発槽は、反応混合物供給ラインが接続された胴部と、蒸気流排出ラインが接続された頂部と、残液流リサイクルラインが接続された底部とを有し、前記胴部は、径大の上部円筒部、径小の下部円筒部、及び上部円筒部と下部円筒部とを連結する逆円錐台筒状の連結部とを有しており、且つ、下記(a)及び(b)のうち、少なくとも(b)の触媒沈降、蓄積防止構造を有することを特徴とする酢酸の製造方法。
(a)蒸発槽の前記逆円錐台筒状連結部の内壁面の傾斜角度θが5°〜85°である構造
(b)板状のボルテックスブレーカー本体部と、ボルテックスブレーカー本体部を水平に支持する脚部とを備えたボルテックスブレーカーが、前記ボルテックスブレーカー本体部が蒸発槽底部の残液流リサイクルライン連結部の直上を覆うように配設されており、ボルテックスブレーカー本体部の周端部と蒸発槽底部の内底面との間隙を通過する残液流の線速rが10m/hより大きくなるように設計されている構造
前記(b)において、さらに、蒸発槽の底部及び/又は残液流リサイクルラインに一酸化炭素含有ガス導入ラインが接続されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の酢酸の製造方法。
前記蒸留工程が、前記蒸気流を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富むオーバーヘッド流と、酢酸に富む酢酸流とに分離する脱低沸工程を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の酢酸の製造方法。
さらに、プロセスからのオフガスを、少なくとも酢酸を含む吸収溶媒で吸収処理して、一酸化炭素に富むストリームと酢酸に富むストリームとに分離するスクラバー工程を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の酢酸の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態を示す酢酸製造フロー図である。この酢酸製造フローに係る酢酸製造装置は、反応槽1と、蒸発槽2と、蒸留塔3と、デカンタ4と、蒸留塔5と、蒸留塔6と、イオン交換樹脂塔7と、スクラバーシステム8と、アセトアルデヒド分離除去システム9と、コンデンサ1a,2a,3a,5a,6aと、熱交換器2bと、リボイラー3b,5b,6bと、ライン11〜56と、ポンプ57とを備え、酢酸を連続的に製造可能に構成されている。本実施形態の酢酸の製造方法では、反応槽1、蒸発槽2、蒸留塔3、蒸留塔5、蒸留塔6、およびイオン交換樹脂塔7において、それぞれ、反応工程、蒸発工程(フラッシュ工程)、第1蒸留工程、第2蒸留工程、第3蒸留工程、および吸着除去工程が行われる。第1蒸留工程は脱低沸工程、第2蒸留工程は脱水工程、第3蒸留工程は脱高沸工程ともいう。第1蒸留工程、第2蒸留工程、第3蒸留工程は、本発明における「酢酸を精製する蒸留工程」に含まれる。なお、本発明において、工程は上記に限らず、特に、蒸留塔6、イオン交換樹脂塔7、アセトアルデヒド分離除去システム9(脱アセトアルデヒド塔など)の設備は付帯しない場合がある。
【0017】
反応槽1は、反応工程を行うためのユニットである。この反応工程は、下記の化学式(1)で示される反応(メタノールのカルボニル化反応)によって酢酸を連続的に生成させるための工程である。酢酸製造装置の定常稼働状態において、反応槽1内には、例えば撹拌機によって撹拌されている反応混合物が存在する。反応混合物は、原料であるメタノールおよび一酸化炭素と、金属触媒と、助触媒と、水と、製造目的である酢酸と、各種の副生成物とを含み、液相と気相とが平衡状態にある。
CH
3OH + CO → CH
3COOH (1)
【0018】
反応混合物中の原料は、液体状のメタノールおよび気体状の一酸化炭素である。メタノールは、メタノール貯留部(図示略)からライン11を介して反応槽1に所定の流量で連続的に供給される。一酸化炭素は、一酸化炭素貯留部(図示略)からライン12を介して反応槽1に所定の流量で連続的に供給される。一酸化炭素は必ずしも純粋な一酸化炭素でなくてもよく、例えば窒素、水素、二酸化炭素、酸素等の他のガスが少量(例えば5質量%以下、好ましくは1質量%以下)含まれていてもよい。
【0019】
反応混合物中の金属触媒は、メタノールのカルボニル化反応を促進するためのものであり、例えばロジウム触媒やイリジウム触媒を使用することができる。ロジウム触媒としては、例えば、化学式[Rh(CO)
2I
2]
-で表されるロジウム錯体を使用することができる。イリジウム触媒としては、例えば化学式[Ir(CO)
2I
2]
-で表されるイリジウム錯体を使用することができる。金属触媒としては金属錯体触媒が好ましい。反応混合物中の触媒の濃度(金属換算)は、反応混合物の液相全体に対して、例えば200〜5000質量ppmであり、好ましくは400〜2000質量ppmである。
【0020】
助触媒は、上述の触媒の作用を補助するためのヨウ化物であり、例えば、ヨウ化メチルやイオン性ヨウ化物が使用される。ヨウ化メチルは、上述の触媒の触媒作用を促進する作用を示し得る。ヨウ化メチルの濃度は、反応混合物の液相全体に対して例えば1〜20質量%である。イオン性ヨウ化物は、反応液中でヨウ化物イオンを生じさせるヨウ化物(特に、イオン性金属ヨウ化物)であり、上述の触媒を安定化させる作用や、副反応を抑制する作用を示し得る。イオン性ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどのアルカリ金属ヨウ化物などが挙げられる。反応混合物中のイオン性ヨウ化物の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば1〜25質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。また、例えばイリジウム触媒などを用いる場合は、助触媒として、ルテニウム化合物やオスミウム化合物を用いることもできる。これらの化合物の使用量は総和で、例えばイリジウム1モル(金属換算)に対して、0.1〜30モル(金属換算)、好ましくは0.5〜15モル(金属換算)である。
【0021】
反応混合物中の水は、メタノールのカルボニル化反応の反応機構上、酢酸を生じさせるのに必要な成分であり、また、反応系の水溶性成分の可溶化のためにも必要な成分である。反応混合物中の水の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.1〜15質量%であり、好ましくは0.8〜10質量%である。水濃度は、酢酸の精製過程での水の除去に要するエネルギーを抑制して酢酸製造の効率化を進めるうえでは15質量%以下が好ましい。水濃度を制御するために、反応槽1に対して所定流量の水を連続的に供給してもよい。
【0022】
反応混合物中の酢酸は、酢酸製造装置の稼働前に反応槽1内に予め仕込まれた酢酸、および、メタノールのカルボニル化反応の主生成物として生じる酢酸を含む。このような酢酸は、反応系では溶媒として機能し得る。反応混合物中の酢酸の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば50〜90質量%であり、好ましくは60〜80質量%である。
【0023】
反応混合物に含まれる主な副生成物としては、例えば酢酸メチルが挙げられる。この酢酸メチルは、酢酸とメタノールとの反応によって生じ得る。反応混合物中の酢酸メチルの濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.1〜30質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。反応混合物に含まれる副生成物としては、ヨウ化水素も挙げられる。このヨウ化水素は、上述のような触媒や助触媒が使用される場合、メタノールのカルボニル化反応の反応機構上、不可避的に生じることとなる。反応混合物中のヨウ化水素の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.01〜2質量%である。また、副生成物としては、例えば、水素、メタン、二酸化炭素、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド、ジメチルエーテル、ギ酸、プロピオン酸、並びに、ヨウ化ヘキシルおよびヨウ化デシルなどのヨウ化アルキル等が挙げられる。
【0024】
以上のような反応混合物が存在する反応槽1内において、反応温度は例えば150〜250℃に設定され、全体圧力としての反応圧力は例えば2.0〜3.5MPa(絶対圧)に設定され、一酸化炭素分圧は、例えば0.4〜1.8MPa(絶対圧)、好ましくは0.6〜1.5MPa(絶対圧)に設定される。
【0025】
装置稼働時の反応槽1内の気相部の蒸気には、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸およびプロピオン酸などが含まれる。この蒸気は、反応槽1内からライン13を介して抜き取ることが可能である。蒸気の抜き取り量の調節によって、反応槽1内の圧力を制御することが可能であり、例えば、反応槽1内の圧力は一定に維持される。反応槽1内から抜き取られた蒸気は、コンデンサ1aへと導入される。
【0026】
コンデンサ1aは、反応槽1からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸およびプロピオン酸などを含み、コンデンサ1aからライン14を介して反応槽1へと導入され、リサイクルされる。ガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などを含み、コンデンサ1aからライン15を介してスクラバーシステム8へと供給される。スクラバーシステム8では、コンデンサ1aからのガス分から有用成分(例えばヨウ化メチル、水、酢酸メチル、酢酸など)が分離回収される。この分離回収には、本実施形態では、ガス分中の有用成分を捕集するための吸収液を使用して行う湿式法が利用される。吸収液としては、少なくとも酢酸及び/又はメタノールを含む吸収溶媒が好ましい。吸収液には酢酸メチルが含まれていてもよい。例えば、吸収液として後述の蒸留塔6からの蒸気の凝縮分を使用できる。分離回収には、圧力変動吸着法を利用してもよい。分離回収された有用成分(例えばヨウ化メチルなど)は、スクラバーシステム8からリサイクルライン48を介して反応槽1へと導入され、リサイクルされる。有用成分を捕集した後のガスはライン49を介して廃棄される。なお、ライン49から排出されるガスは、後述する蒸発槽2の底部205あるいは残液流リサイクルライン18,19へ導入するCO源として利用することができる。スクラバーシステム8での処理およびその後の反応槽1へのリサイクル及び廃棄については、他のコンデンサからスクラバーシステム8へと供給される後記のガス分についても同様である。本発明の製造方法においては、プロセスからのオフガスを、少なくとも酢酸を含む吸収溶媒で吸収処理して、一酸化炭素に富むストリームと酢酸に富むストリームとを分離するスクラバー工程を有することが好ましい。
【0027】
装置稼働時の反応槽1内では、上述のように、酢酸が連続的に生成する。そのような酢酸を含む反応混合物が、連続的に、反応槽1内から所定の流量で抜き取られてライン16を介して次の蒸発槽2へと導入される。
【0028】
蒸発槽2は、蒸発工程(フラッシュ工程)を行うためのユニットである。この蒸発工程は、ライン16(反応混合物供給ライン)を介して蒸発槽2に連続的に導入される反応混合物を、部分的に蒸発させることによって蒸気流(揮発相)と残液流(低揮発相)とに分けるための工程である。反応混合物を加熱することなく圧力を減じることによって蒸発を生じさせてもよいし、反応混合物を加熱しつつ圧力を減じることによって蒸発を生じさせてもよい。蒸発工程において、蒸気流の温度は例えば100〜260℃、好ましくは120〜200℃であり、残液流の温度は例えば80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、槽内圧力は例えば50〜1000kPa(絶対圧)である。また、蒸発工程にて分離される蒸気流および残液流の割合に関しては、質量比で、例えば10/90〜50/50(蒸気流/残液流)である。本工程で生じる蒸気は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸およびプロピオン酸などを含み、蒸発槽2内からライン17(蒸気流排出ライン)に連続的に抜き取られる。蒸発槽2内から抜き取られた蒸気流の一部はコンデンサ2aへと連続的に導入され、当該蒸気流の他の一部はライン21を介して次の蒸留塔3へと連続的に導入される。前記蒸気流の酢酸濃度は、例えば50〜85質量%、好ましくは55〜75質量%である。本工程で生ずる残液流は、反応混合物に含まれていた触媒および助触媒(ヨウ化メチル、ヨウ化リチウムなど)や、本工程では揮発せずに残存する水、酢酸メチル、酢酸、ギ酸およびプロピオン酸などを含み、ポンプ57を用い、連続的に蒸発槽2からライン18を介して熱交換器2bへと導入される。熱交換器2bは、蒸発槽2からの残液流を冷却する。降温した残液流は、連続的に熱交換器2bからライン19を介して反応槽1へと導入され、リサイクルされる。なお、ライン18とライン19とを併せて残液流リサイクルラインと称する。前記残液流の酢酸濃度は、例えば55〜90質量%、好ましくは60〜85質量%である。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態を示す蒸発槽の概略断面図である。蒸発槽2は、反応混合物供給ライン16が接続された胴部と、蒸気流排出ライン17が接続された頂部201と、残液流リサイクルライン18が接続された底部205とを有している。前記胴部は、径大の上部円筒部202、径小の下部円筒部204、及び上部円筒部202と下部円筒部204とを連結する逆円錐台筒状の連結部203とを有している。反応槽1からの反応混合物は反応混合物供給ライン16から蒸発槽2内に導入され、反応混合物の一部は蒸発して蒸気となり、蒸気流排出ライン17から排出される。反応混合物のうち蒸発しなかった成分は下部円筒部204に貯まり、蒸発槽缶出液(残液流)として、底部205に接続された残液流リサイクルライン18及び19を通って反応槽1に戻される。上部円筒部202は蒸気を満たす空間として機能し、下部円筒部204は揮発しなかった残液の貯留部として機能する。そのため、上部円筒部202は径大に、下部円筒部204は径小に設計されている。
【0030】
蒸発槽2の底部205及び/又は残液流リサイクルライン(ライン18及び/又はライン19)には、一酸化炭素含有ガスを導入するための一酸化炭素含有ガス導入ライン54を接続することが好ましい。蒸発槽2の下部円筒部204に貯まる残液や、残液流リサイクルライン18,19(特にライン18)を通過する残液流に一酸化炭素を導入することにより、残液流中の一酸化炭素溶存量が増大して触媒の安定性が増し、触媒の沈降、蓄積を防止できる。導入する一酸化炭素含有ガス中の一酸化炭素の含有量は、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。
【0031】
蒸発槽2には、一旦揮発した蒸気が揮発しなかった液に同伴して残液流リサイクルライン18内に流入することを防止するため、蒸発槽2の底部205近くにボルテックスブレーカーxを配設することが好ましい。ガスが多量に底部205に流入すると、残液流を反応槽1に送液するためのポンプ57(触媒循環ポンプ)がキャビテーションを起こし、ポンプが破損するおそれが生じる。
図3は、本発明の一実施形態を示す蒸発槽に設置されるボルテックスブレーカーの平面図(上から見た図)である。ボルテックスブレーカーxは、板状のボルテックスブレーカー本体部206と、ボルテックスブレーカー本体部206を水平に支持するための脚部207とからなる。脚部207は安定のため複数個あるのが好ましい。脚部207は、蒸発槽2の底部205の内底面に固定できる。板状のボルテックスブレーカー本体部206は、蒸発槽2の底部205における残液流リサイクルライン18との連結部の直上を覆うように配設されることが好ましい。なお、板状のボルテックスブレーカー本体部206は、平らな板状でもよく、下若しくは上に凸の曲面を有する板状であってもよい。
【0032】
そして、本発明では、蒸発槽2は、下記(a)及び(b)のうち少なくとも1つの触媒沈降、蓄積防止構造を有している。
(a)蒸発槽2の前記逆円錐台筒状連結部203の内壁面の傾斜角度(水平面に対する角度)θが5°〜85°である構造
(b)板状のボルテックスブレーカー本体部206と、ボルテックスブレーカー本体部206を水平に支持する脚部207とからなるボルテックスブレーカーxが、前記ボルテックスブレーカー本体部206が蒸発槽底部205の残液流リサイクルライン18との連結部の直上を覆うように配設されており、ボルテックスブレーカー本体部206の周端部と蒸発槽底部205の内底面との間隙cを通過する残液流の線速rが10m/hより大きく設計されている構造
【0033】
蒸発槽2が構造(a)を有する場合は、蒸発槽2内で沈降した触媒が上記逆円錐台筒状連結部203の内壁面の上に積もったとしても、上記連結部203の内壁面の傾斜角度が一定値以上であるため、そのような触媒は、ライン16から導入された反応混合物のうち揮発せずに下方に落下する液に同伴して蒸発槽2の底部205にまで達し、そこから残液流リサイクルライン18及び19を経由して反応槽1にリサイクルされる。沈降した触媒の微粒子が蒸発槽2に留まらず反応槽1にリサイクルされれば、一酸化炭素分圧の高い反応槽1中で再溶解されるため、結果的に反応槽中の触媒濃度の低下が抑制され、酢酸の生産量の低下や変動を防止できる。前記逆円錐台筒状の連結部203の内壁面の傾斜角度θは5°〜85°の範囲であればよいが、傾斜角度θの下限は、好ましくは10°、より好ましくは20°、さらに好ましくは30°、特に好ましくは35°(とりわけ40°)であり、傾斜角度θの上限は、好ましくは80°、より好ましくは75°、さらに好ましくは70°である。傾斜角度θが5°未満であると、沈降した触媒が前記連結部203の内壁面の上に堆積しやすくなり、反応槽1にリサイクルされる触媒の量が減り、反応槽1中の触媒濃度が低下して酢酸生産量が低下する。傾斜角度θが85°を超えると、前記逆円錐台筒状連結部203の高さ方向の長さが大きくなり、蒸発槽2全体の大きさが増大するので好ましくない。
【0034】
蒸発槽2が構造(b)を有する場合は、ボルテックスブレーカー本体部206の周端部と蒸発槽底部205の内底面との間隙cを通過する残液流の線速rが大きいので、蒸発槽2の底部205付近において触媒が沈降したとしても、沈降した触媒は勢いよく残液流に同伴されて残液流リサイクルライン18に流入し、ライン19を経て反応槽1にリサイクルされる。リサイクルされた沈降触媒は前記のように反応槽1中で再溶解するため、反応槽1における触媒濃度を所望の値に維持でき、酢酸の生産量の低下や変動を防止できる。特に、蒸発槽2の底部や残液流リサイクルライン18,19に一酸化炭素含有ガスが導入される場合には、前記残液流の線速rが速いと、一酸化炭素ガスが蒸発槽2の上方に上昇するのが抑制され、蒸発槽2の底部205から残液流リサイクルライン18、19に流入しやすくなる。そのため、触媒の沈降が著しい蒸発槽2の底部205および残液流リサイクルライン18,19での一酸化炭素濃度(溶存量)が上昇して、触媒の安定性が向上する。そのため、反応槽1における酢酸生産量の低下や変動をより確実に防止できる。前記線速rは10m/hより大きい値であればよいが、好ましくは20m/h以上、より好ましくは30m/h以上、さらに好ましくは50m/h以上、特に好ましくは80m/h以上(とりわけ100m/h以上)である。前記rの上限は、例えば6000m/h(特に4000m/h)である。
【0035】
前記線速rが10m/h以下の場合は、沈降した触媒が残液流に同伴されて残液流リサイクルライン18に流入する割合が減少するので、反応槽1にリサイクルされる触媒の量も減り、酢酸の生産量が低下する。また、蒸発槽2の底部205や残液流リサイクルライン18,19に一酸化炭素含有ガスを導入した場合であっても、前記線速rが10m/h以下の時は、導入した一酸化炭素含有ガスが蒸発槽2の上方に上昇しやすくなり、一酸化炭素含有ガスが蒸発槽2のフラッシュガスとともに次工程(蒸留塔(脱低沸塔)3やコンデンサ(除熱コンデンサ)2a)に移動するため、一酸化炭素を導入する効果(触媒の安定化効果)が薄れる。前記線速rが大きすぎる場合は、圧力損失が大きくなり、発生する残液流のリサイクルができなくなる場合がある。もしくは、蒸発槽2中の液深を大きくする必要が生じる。なお、前記線速r(m/h)は、残液流排出量(残液流リサイクルライン18を流れる液流量)(m
3/h)を、ボルテックスブレーカー本体部206の周端部と蒸発槽底部205の内底面との間隙cの長さ(距離)(m)とボルテックスブレーカー本体部206の周長さ(m)との積で割ることにより求められる。前記線速rは、間隙cの長さ(距離)やボルテックスブレーカー本体部206の周長さを変化させることで調整できる。
【0036】
蒸発槽2の底部205や残液流リサイクルライン18,19に一酸化炭素含有ガスを導入する場合、その導入量はトータルで、残液流排出量(残液流リサイクルライン18を流れる液流量)に対して、例えば0.02NL(ノルマルリットル)/kg以上、好ましくは0.05NL/kg以上、さらに好ましくは0.1NL/kg以上である。前記導入量の上限は、例えば5NL/kg(好ましくは3NL/kg、より好ましくは1NL/kg)である。一酸化炭素含有ガス導入量が少なすぎると、CO溶存量が低下して触媒が不安定となりやすい。一酸化炭素含有ガス導入量が多すぎる場合、ポンプ57がキャビテーションを起こし破損するおそれが生じる。
【0037】
本発明の製造方法においては、残液流リサイクルライン18,19を通過する残液流の線速r′を速くすると、触媒が沈降したとしても、線速の速い残液流が沈降した触媒を同伴しつつ反応槽1に運ぶので、沈降した触媒が残液流リサイクルライン18、19中で蓄積するのを防止できる。前記線速r′は、蒸発槽底部205の缶出部(残液流リサイクルライン18の始点)から反応槽1に至る全流路の80%以上(好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)において10m/hより大きいことが好ましい。前記線速r′は、より好ましくは100m/h以上、さらに好ましくは500m/h以上、特に好ましくは1000m/h以上、最も好ましくは2000m/h以上である。なお、前記線速r′(m/h)は、残液流リサイクル量(残液流リサイクルラインを流れる液流量)(m
3/h)を、残液流リサイクルラインの断面積(m
2)で割ることにより求められる。
【0038】
蒸発槽2は前記の構造(a)と構造(b)のうち一方の構造のみを備えている場合であっても、蒸発槽2での触媒の沈降、蓄積をかなりな程度抑制できるが、構造(a)と構造(b)をともに備えることにより、蒸発槽2での触媒の沈降、蓄積を著しく減少でき、反応槽1における酢酸の生産性及び運転安定性を大幅に改善できる。
【0039】
コンデンサ2aは、蒸発槽2からの蒸気流を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸およびプロピオン酸などを含み、コンデンサ2aからライン22,23を介して反応槽1へと導入され、リサイクルされる。ガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などを含み、コンデンサ2aからライン20,15を介してスクラバーシステム8へと供給される。上述の反応工程での酢酸の生成反応は発熱反応であるところ、反応混合物に蓄積する熱の一部は、蒸発工程(フラッシュ工程)において、反応混合物から生じた蒸気に移行する。この蒸気のコンデンサ2aでの冷却によって生じた凝縮分が反応槽1へとリサイクルされる。すなわち、この酢酸製造装置においては、メタノールのカルボニル化反応で生じる熱がコンデンサ2aにて効率よく除去されることとなる。
【0040】
蒸留塔3は、第1蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱低沸塔に位置付けられる。第1蒸留工程は、蒸留塔3に連続的に導入される蒸気流を蒸留処理して低沸成分を分離除去する工程である。より具体的には、第1蒸留工程では、前記蒸気流を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富むオーバーヘッド流と、酢酸に富む酢酸流とに分離する。蒸留塔3は、例えば、棚段塔および充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔3として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.5〜3000である。蒸留塔3の内部において、塔頂圧力は例えば80〜160kPa(ゲージ圧)に設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば85〜180kPa(ゲージ圧)に設定される。蒸留塔3の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での酢酸の沸点より低い温度であって90〜130℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点以上の温度であって120〜160℃に設定される。
【0041】
蒸留塔3に対しては、蒸発槽2からの蒸気流がライン21を介して連続的に導入され、蒸留塔3の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン24に連続的に抜き取られる。蒸留塔3の塔底部からは、缶出液がライン25に連続的に抜き取られる。3bはリボイラーである。蒸留塔3における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流としての酢酸流(第1酢酸流;液体)がライン27より連続的に抜き取られる。
【0042】
蒸留塔3の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔3からの上記缶出液及び側流と比較して多く含み、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などを含む。この蒸気には酢酸も含まれる。このような蒸気は、ライン24を介してコンデンサ3aへと連続的に導入される。
【0043】
コンデンサ3aは、蒸留塔3からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などを含み、コンデンサ3aからライン28を介してデカンタ4へと連続的に導入される。デカンタ4に導入された凝縮分は水相(上相)と有機相(ヨウ化メチル相;下相)とに分液される。水相には、水と、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などが含まれる。有機相には、例えば、ヨウ化メチルと、例えば、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などが含まれる。本実施形態では、水相の一部はライン29を介して蒸留塔3に還流され、水相の他の一部は、ライン29,30,23を介して反応槽1に導入されてリサイクルされる。有機相の一部はライン31,23を介して反応槽1に導入されてリサイクルされる。有機相の他の一部、及び/又は、水相の他の一部は、ライン31,50、及び/又は、ライン30,51を介してアセトアルデヒド分離除去システム9に導入される。
【0044】
アセトアルデヒド分離除去システム9を用いたアセトアルデヒド分離除去工程では、有機相及び/又は水相に含まれるアセトアルデヒドを公知の方法、例えば、蒸留、抽出又はこれらの組み合わせにより分離除去する。分離されたアセトアルデヒドはライン53を介して装置外へ排出される。また、有機相及び/又は水相に含まれる有用成分(例えばヨウ化メチルなど)は、ライン52,23を介して反応槽1へとリサイクルされて再利用される。
【0045】
コンデンサ3aで生じるガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などを含み、コンデンサ3aからライン32,15を介してスクラバーシステム8へと供給される。スクラバーシステム8に至ったガス分中のヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などは、スクラバーシステム8にて吸収液に吸収される。ヨウ化水素は吸収液中のメタノールまたは酢酸メチルとの反応によってヨウ化メチルが生じる。そして、当該ヨウ化メチル等の有用成分を含有する液分がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を介して反応槽1へとリサイクルされて再利用される。
【0046】
蒸留塔3の塔底部から抜き取られる缶出液は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔3からの上記のオーバーヘッド流及び側流と比較して多く含み、例えば、プロピオン酸、並びに、飛沫同伴の上述の触媒や助触媒を含む。この缶出液には、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよび水なども含まれる。本実施形態では、このような缶出液の一部は、ライン25,26を介して蒸発槽2へと連続的に導入されてリサイクルされ、缶出液の他の一部は、ライン25,23を介して反応槽1へと連続的に導入されてリサイクルされる。
【0047】
蒸留塔3から側流として連続的に抜き取られる第1酢酸流は、蒸留塔3に連続的に導入される蒸気流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第1酢酸流の酢酸濃度は前記蒸気流の酢酸濃度よりも高い。第1酢酸流の酢酸濃度は、例えば90〜99.9質量%、好ましくは93〜99質量%である。また、第1酢酸流は、酢酸に加えて、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸およびプロピオン酸などを含む。なお、蒸留塔3に対するライン27の連結位置は、蒸留塔3の高さ方向において、図示されているように、蒸留塔3に対するライン21の連結位置より上方であってもよいが、蒸留塔3に対するライン21の連結位置より下方であってもよいし、蒸留塔3に対するライン21の連結位置と同じであってもよい。蒸留塔3からの第1酢酸流は、所定の流量で連続的に、ライン27を介して次の蒸留塔5へと導入される。
【0048】
ライン27を通流する第1酢酸流に、ライン55(水酸化カリウム導入ライン)を介して、水酸化カリウムを供給ないし添加することができる。水酸化カリウムは、例えば水溶液等の溶液として供給ないし添加できる。第1酢酸流に対する水酸化カリウムの供給ないし添加によって第1酢酸流中のヨウ化水素を減少できる。具体的には、ヨウ化水素は水酸化カリウムと反応してヨウ化カリウムと水が生じる。そのことによって、ヨウ化水素に起因する蒸留塔等の装置の腐食を低減できる。なお、水酸化カリウムは本プロセスにおいてヨウ化水素が存在する適宜な場所に供給ないし添加することができる。なお、プロセス中に添加された水酸化カリウムは酢酸とも反応して酢酸カリウムを生じさせる。
【0049】
蒸留塔5は、第2蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱水塔に位置付けられる。第2蒸留工程は、蒸留塔5に連続的に導入される第1酢酸流を蒸留処理して酢酸を更に精製するための工程である。蒸留塔5は、例えば、棚段塔および充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔5として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.2〜3000である。第2蒸留工程にある蒸留塔5の内部において、塔頂圧力は例えば150〜250kPa(ゲージ圧)に設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば160〜290kPa(ゲージ圧)に設定される。第2蒸留工程にある蒸留塔5の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって130〜160℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点以上の温度であって150〜175℃に設定される。
【0050】
蒸留塔5の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン33に連続的に抜き取られる。蒸留塔5の塔底部からは、缶出液がライン34に連続的に抜き取られる。5bはリボイラーである。蒸留塔5における塔頂部と塔底部との間の高さ位置から、側流(液体または気体)がライン34に連続的に抜き取られてもよい。
【0051】
蒸留塔5の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔5からの上記の缶出液と比較して多く含み、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などを含む。このような蒸気は、ライン33を介してコンデンサ5aへと連続的に導入される。
【0052】
コンデンサ5aは、蒸留塔5からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば水および酢酸などを含む。凝縮分の一部は、コンデンサ5aからライン35を介して蒸留塔5へと連続的に還流される。凝縮分の他の一部は、コンデンサ5aからライン35,36,23を介して反応槽1へと連続的に導入され、リサイクルされる。また、コンデンサ5aで生じるガス分は、例えば一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などを含み、コンデンサ5aからライン37,15を介してスクラバーシステム8へと供給される。スクラバーシステム8に至ったガス分中のヨウ化水素は、スクラバーシステム8にて吸収液に吸収され、吸収液中のヨウ化水素とメタノールまたは酢酸メチルとの反応によってヨウ化メチルが生じ、そして、当該ヨウ化メチル等の有用成分を含有する液分がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を介して反応槽1へとリサイクルされて再利用される。
【0053】
蒸留塔5の塔底部から抜き取られる缶出液(あるいは側流)は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔5からの上記のオーバーヘッド流と比較して多く含み、例えば、プロピオン酸、酢酸カリウム(ライン27等に水酸化カリウムを供給した場合)、並びに、飛沫同伴の上述の触媒や助触媒などを含む。この缶出液には酢酸が含まれるほか、ヨウ化水素も含まれうる。このような缶出液(あるいは側流)は、ライン34を介して、第2酢酸流をなして次の蒸留塔6に連続的に導入されることとなる。
【0054】
第2酢酸流は、蒸留塔5に連続的に導入される第1酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第2酢酸流の酢酸濃度は第1酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第2酢酸流の酢酸濃度は、第1酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて、例えば99.1〜99.99質量%である。また、第2酢酸流は、上記のように、酢酸に加えて、例えば、プロピオン酸、ヨウ化水素などを含みうる。本実施形態では、側流を抜き取る場合、蒸留塔5からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔5の高さ方向において、蒸留塔5への第1酢酸流の導入位置よりも低い。
【0055】
ライン34を通流する第2酢酸流に、ライン56(水酸化カリウム導入ライン)を介して、水酸化カリウムを供給ないし添加することができる。水酸化カリウムは、例えば水溶液等の溶液として供給ないし添加できる。第2酢酸流に対する水酸化カリウムの供給ないし添加によって第2酢酸流中のヨウ化水素を減少できる。具体的には、ヨウ化水素は水酸化カリウムと反応してヨウ化カリウムと水が生じる。そのことによって、ヨウ化水素に起因する蒸留塔等の装置の腐食を低減できる。
【0056】
蒸留塔6は、第3蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱高沸塔に位置付けられる。第3蒸留工程は、蒸留塔6に連続的に導入される第2酢酸流を精製処理して酢酸を更に精製するための工程である。蒸留塔6は、例えば、棚段塔および充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔6として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.2〜3000である。第3蒸留工程にある蒸留塔6の内部において、塔頂圧力は例えば−100〜150kPa(ゲージ圧)に設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば−90〜180kPa(ゲージ圧)に設定される。第3蒸留工程にある蒸留塔6の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって50〜150℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点より高い温度であって70〜160℃に設定される。
【0057】
蒸留塔6の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン38に連続的に抜き取られる。蒸留塔6の塔底部からは、缶出液がライン39に連続的に抜き取られる。6bはリボイラーである。蒸留塔6における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流(液体または気体)がライン46に連続的に抜き取られる。蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6に対するライン46の連結位置は、図示されているように、蒸留塔6に対するライン34の連結位置より上方であってもよいが、蒸留塔6に対するライン34の連結位置より下方であってもよいし、蒸留塔6に対するライン34の連結位置と同じであってもよい。
【0058】
蒸留塔6の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔6からの上記の缶出液と比較して多く含み、酢酸のほか、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノールおよびギ酸などを含む。このような蒸気は、ライン38を介してコンデンサ6aへと連続的に導入される。
【0059】
コンデンサ6aは、蒸留塔6からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、酢酸のほか、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノールおよびギ酸などを含む。凝縮分の少なくとも一部については、コンデンサ6aからライン40を介して蒸留塔6へと連続的に還流される。凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,41,42を介して、蒸留塔5へと導入される前のライン27中の第1酢酸流へとリサイクルすることが可能である。これと共に或はこれに代えて、凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,41,43を介して、蒸留塔3へと導入される前のライン21中の蒸気流へとリサイクルすることが可能である。また、凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,44,23を介して、反応槽1へリサイクルしてもよい。さらに、コンデンサ6aからの留出分の一部については、前述したように、スクラバーシステム8へと供給して当該システム内で吸収液として使用することが可能である。スクラバーシステム8では、有用分を吸収した後のガス分は装置外に排出され、そして、有用成分を含む液分がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を介して反応槽1へと導入ないしリサイクルされて再利用される。加えて、コンデンサ6aからの留出分の一部については、装置内で稼働する各種ポンプ(図示略)へと図外のラインを介して導いて当該ポンプのシール液として使用してもよい。更に加えて、コンデンサ6aからの留出分の一部については、ライン40に付設される抜き取りラインを介して、定常的に装置外へ抜き取ってもよいし、非定常的に必要時において装置外へ抜き取ってもよい。凝縮分の一部(留出分)が蒸留塔6での蒸留処理系から除かれる場合、その留出分の量(留出量)は、コンデンサ6aで生ずる凝縮液の例えば0.01〜30質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。一方、コンデンサ6aで生じるガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒドおよびギ酸などを含み、コンデンサ6aからライン45,15を介してスクラバーシステム8へと供給される。
【0060】
蒸留塔6の塔底部からライン39を介して抜き取られる缶出液は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔6からの上記のオーバーヘッド流と比較して多く含み、例えばプロピオン酸、酢酸カリウム(ライン34等に水酸化カリウムを供給した場合)などを含む。また、蒸留塔6の塔底部からライン39を介して抜き取られる缶出液は、この酢酸製造装置の構成部材の内壁で生じて遊離した腐食性金属や、腐食性ヨウ素に由来するヨウ素と当該腐食性金属との化合物も含む。このような缶出液は、本実施形態では酢酸製造装置外に排出される。
【0061】
蒸留塔6からライン46に連続的に抜き取られる側流は、第3酢酸流として、次のイオン交換樹脂塔7に連続的に導入されることとなる。この第3酢酸流は、蒸留塔6に連続的に導入される第2酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第3酢酸流の酢酸濃度は第2酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第3酢酸流の酢酸濃度は、第2酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて、例えば99.8〜99.999質量%である。本実施形態では、蒸留塔6からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6への第2酢酸流の導入位置よりも高い。他の実施形態では、蒸留塔6からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6への第2酢酸流の導入位置と同じかそれよりも低い。なお、蒸留塔6は、単蒸留器(蒸発器)でも代用可能であり、また、蒸留塔5で不純物除去を十分に行えば、蒸留塔6は省略できる。
【0062】
イオン交換樹脂塔7は、吸着除去工程を行うための精製ユニットである。この吸着除去工程は、イオン交換樹脂塔7に連続的に導入される第3酢酸流に微量含まれる主にヨウ化アルキル(ヨウ化ヘキシルやヨウ化デシルなど)を吸着除去して酢酸を更に精製するための工程である。イオン交換樹脂塔7においては、ヨウ化アルキルに対する吸着能を有するイオン交換樹脂が塔内に充填されてイオン交換樹脂床をなす。そのようなイオン交換樹脂としては、例えば、交換基たるスルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基等における脱離性のプロトンの一部が銀や銅などの金属で置換された陽イオン交換樹脂を挙げることができる。吸着除去工程では、例えばこのようなイオン交換樹脂が充填されたイオン交換樹脂塔7の内部を第3酢酸流(液体)が通流し、その通流過程において、第3酢酸流中のヨウ化アルキル等の不純物がイオン交換樹脂に吸着されて第3酢酸流から除去される。吸着除去工程にあるイオン交換樹脂塔7において、内部温度は例えば18〜100℃であり、酢酸流の通液速度[樹脂容積1m
3当たりの酢酸処理量(m
3/h)]は、例えば3〜15m
3/h・m
3(樹脂容積)である。
【0063】
イオン交換樹脂塔7の下端部からライン47へと第4酢酸流が連続的に導出される。第4酢酸流の酢酸濃度は第3酢酸流の酢酸濃度よりも高い。すなわち、第4酢酸流は、イオン交換樹脂塔7に連続的に導入される第3酢酸流よりも酢酸が富化されている。第4酢酸流の酢酸濃度は、第3酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて例えば99.9〜99.999質量%またはそれ以上である。本製造方法においては、この第4酢酸流を図外の製品タンクに貯留することができる。
【0064】
この酢酸製造装置においては、イオン交換樹脂塔7からの上記の第4酢酸流を更に精製するための精製ユニットとして、蒸留塔であるいわゆる製品塔ないし仕上塔が設けられてもよい。そのような製品塔が設けられる場合、当該製品塔は、例えば、棚段塔および充填塔などの精留塔よりなる。製品塔として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.5〜3000である。精製工程にある製品塔の内部において、塔頂圧力は例えば−195〜150kPa(ゲージ圧)に設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば−190〜180kPa(ゲージ圧)に設定される。製品塔の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって50〜150℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点より高い温度であって70〜160℃に設定される。なお、製品塔ないし仕上塔は、単蒸留器(蒸発器)でも代用可能である。
【0065】
製品塔を設ける場合、イオン交換樹脂塔7からの第4酢酸流(液体)の全部または一部が、製品塔に対して連続的に導入される。そのような製品塔の塔頂部からは、微量の低沸点成分(例えば、ヨウ化メチル、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、クロトンアルデヒド、アセトアルデヒドおよびギ酸など)を含むオーバーヘッド流としての蒸気が連続的に抜き取られる。この蒸気は、所定のコンデンサにて凝縮分とガス分とに分けられる。凝縮分の一部は製品塔へと連続的に還流され、凝縮分の他の一部は反応槽1へとリサイクルされるか、系外に廃棄されるか、あるいはその両方であってもよく、ガス分はスクラバーシステム8へと供給される。製品塔の塔底部からは、微量の高沸点成分を含む缶出液が連続的に抜き取られ、この缶出液は、例えば蒸留塔6へ導入される前のライン34中の第2酢酸流へとリサイクルされる。製品塔における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流(液体)が第5酢酸流として連続的に抜き取られる。製品塔からの側流の抜き取り位置は、製品塔の高さ方向において、例えば、製品塔への第4酢酸流の導入位置よりも低い。第5酢酸流は、製品塔に連続的に導入される第4酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第5酢酸流の酢酸濃度は第4酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第5酢酸流の酢酸濃度は、第4酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて例えば99.9〜99.999質量%またはそれ以上である。この第5酢酸流は、例えば、図外の製品タンクに貯留される。なお、イオン交換樹脂塔7は、蒸留塔6の下流に設置する代わりに(又はそれに加えて)、製品塔の下流に設置し、製品塔出の酢酸流を処理してもよい。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0067】
実施例1
図1の酢酸製造フローに基づくベンチプラントで実験を行った。反応槽1に、全圧2.8MPa(ゲージ圧)、187℃にて、ヨウ化メチル、水、酢酸メチル、酢酸、ヨウ化リチウム、ロジウム触媒([Rh(CO)
2I
2]
-)を仕込んで、メタノールと一酸化炭素[反応槽CO分圧(絶対圧)1.2MPa]とを連続的に反応させて、反応混合液(ヨウ化メチル7.9質量%、水2.6質量%、酢酸メチル2.0質量%、酢酸(残り)、ヨウ化リチウム13.9質量%、ロジウム触媒910質量ppm)を取り出した。得られた反応混合液を、
図2に示される蒸発槽2にてフラッシュ[圧力0.15MPa(ゲージ圧)、温度143℃]させ、蒸発槽2の蒸気(揮発性成分)を蒸留塔3に供給して蒸留し、側流27として粗酢酸を得た。なお、粗酢酸以外の成分は反応槽1にリサイクルした。蒸発槽2において揮発しなかった残液(缶出液)の組成は、ヨウ化メチル1.1質量%、水2.7質量%、酢酸メチル1.1質量%、酢酸(残り)、ヨウ化リチウム18質量%、ロジウム触媒1290質量ppm(Rh換算)であった。蒸発槽2の缶出液は、触媒循環ポンプ57を用い、残液流リサイクルライン18,19を介して反応槽1にリサイクルした。反応混合液の蒸発槽2への仕込量を100質量部とすると、蒸発槽2の缶出液の量は76質量部に相当した。その他の24質量部は、全て蒸留塔3に仕込んだ。反応槽1のベントガス15は、スクラバーシステム8(この実験では高圧吸収塔)に導入した。さらに、蒸発槽底部205のボルテックスブレーカー本体部206の下方位置に、一酸化炭素含有ガス導入ライン54を介して、前記スクラバーシステム8(高圧吸収塔)のオフガス49(CO:72質量%、H
2:1質量%、CO
2:8質量%、CH
4:9質量%、N
2:10質量%)を、蒸発槽2の残液流排出量(缶出液量)に対して0.2NL/kgで仕込んだ。
その際、蒸発槽2において、上部円筒部202と下部円筒部204とを連結する逆円錐台筒状連結部203の内壁面の傾斜角度θを0°とした(
図2参照)。また、ボルテックスブレーカー本体部206の周端部と蒸発槽底部205の内底面との間隙cを通過する残液流(缶出液)の線速rを50m/hとした。なお、残液流リサイクルライン18,19における残液流の線速r′は2900m/hであった。
このようにして100時間の連続運転を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.15g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び残液流リサイクルライン(缶出液ライン)を開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上にRh沈降が見られたものの、蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部(内壁面)にはごくわずかの触媒しか付着していなかった。
なお、平均Rh沈降速度は下記式により求めた。
平均Rh沈降速度(g/h)={測定開始時における系内溶解Rh総量(g)−100時間後における系内溶解Rh総量(g)+系外からのRh投入総量(g)}/100(h)
【0068】
実施例2
蒸発槽2において、前記θを45°とし、前記線速rを10m/hとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.15g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上には触媒は付着していなかったが、蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部には沈降したRhが付着していた。
【0069】
実施例3
蒸発槽2において、前記θを60°とし、前記線速rを10m/hとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.08g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上及び蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部にはごく僅かの触媒しか付着していなかった。
【0070】
実施例4
蒸発槽2において、前記θを60°とし、前記線速rを50m/hとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.04g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上にはRhは付着しておらず、蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部にはごく僅かの触媒しか付着していなかった。
【0071】
実施例5
蒸発槽2において、前記θを60°とし、前記線速rを100m/hとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.02g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上にも、蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部にも、触媒は全く付着していなかった。
【0072】
実施例6
蒸発槽2において、前記θを60°とし、前記線速rを300m/hとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.01g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上にも、蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部にも、触媒は全く付着していなかった。
【0073】
実施例7
蒸発槽2において、前記θを60°とし、前記線速rを1000m/hとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.007g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203にも、蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部にも、触媒は全く付着していなかった。
【0074】
実施例8
蒸発槽2において、前記θを60°とし、前記線速rを3000m/hとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.005g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上にも、蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部にも、触媒は全く付着していなかった。
【0075】
実施例9
蒸発槽2において、前記θを60°とし、前記線速rを300m/hとし、且つ一酸化炭素含有ガス導入ライン54を介して仕込んだオフガス49の仕込量を蒸発槽2の残液流排出量(缶出液量)に対して0.02NL/kgとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.10g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上、及び蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部に微量の触媒が付着していた。
【0076】
比較例1
蒸発槽2において、前記θを0°とし、前記線速rを10m/hとした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、100時間での平均Rh沈降速度は0.2g/hであった。また、100時間の実験後、蒸発槽2及び缶出液ラインを開放して内部を調べたところ、連結部203の内壁面上、及び蒸発槽底部205の缶出部から触媒循環ポンプ57までの間の配管内部にRh微粒子が付着していた。
【0077】
以上のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記しておく。
[1]金属触媒及びヨウ化メチルを含む触媒系、並びに、酢酸、酢酸メチル、水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを反応槽で反応させて酢酸を生成させるカルボニル化反応工程と、
前記カルボニル化反応工程で得られた反応混合物を蒸発槽において蒸気流と残液流とに分離する蒸発工程と、
前記残液流を反応槽に戻す残液流リサイクル工程と、
前記蒸気流を蒸留に付して酢酸を精製する蒸留工程と、
を備えた酢酸の製造方法であって、
前記蒸発槽は、反応混合物供給ラインが接続された胴部と、蒸気流排出ラインが接続された頂部と、残液流リサイクルラインが接続された底部とを有し、前記胴部は、径大の上部円筒部、径小の下部円筒部、及び上部円筒部と下部円筒部とを連結する逆円錐台筒状の連結部とを有しており、且つ、下記(a)及び(b)のうち少なくとも1つの触媒沈降、蓄積防止構造を有することを特徴とする酢酸の製造方法。
(a)蒸発槽の前記逆円錐台筒状連結部の内壁面の傾斜角度θが5°〜85°である構造
(b)板状のボルテックスブレーカー本体部と、ボルテックスブレーカー本体部を水平に支持する脚部とを備えたボルテックスブレーカーが、前記ボルテックスブレーカー本体部が蒸発槽底部の残液流リサイクルライン連結部の直上を覆うように配設されており、ボルテックスブレーカー本体部の周端部と蒸発槽底部の内底面との間隙を通過する残液流の線速rが10m/hより大きくなるように設計されている構造
[2]触媒系がさらにイオン性ヨウ化物を含む[1]記載の酢酸の製造方法。
[3]前記(a)の構造において、蒸発槽の前記逆円錐台筒状連結部の内壁面の傾斜角度θが10°〜80°(好ましくは20°〜75°、より好ましくは30°〜75°)である[1]又は[2]記載の酢酸の製造方法。
[4]前記(b)において、さらに、蒸発槽の底部及び/又は残液流リサイクルラインに一酸化炭素含有ガス導入ラインが接続されている[1]〜[3]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[5]前記(b)において、さらに、蒸発槽の底部に一酸化炭素含有ガス導入ラインが接続されている[1]〜[3]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[6]一酸化炭素含有ガス導入ラインから一酸化炭素含有ガスを残液流排出量に対して0.02NL/kg以上(好ましくは0.02〜5NL/kg、より好ましくは0.05〜3NL/kg、さらに好ましくは0.1〜1NL/kg)導入する[4]又は[5]記載の酢酸の製造方法。
[7]導入する一酸化炭素含有ガス中の一酸化炭素の含有量が10質量%以上(好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上)である、[4]〜[6]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[8]前記(b)において、残液流リサイクルラインを流れる残液流の線速r′が、蒸発槽底部缶出部から反応槽に至る全流路の80%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)において10m/h以上(好ましくは100m/h以上、より好ましくは500m/h以上、さらに好ましくは1000m/h以上、特に好ましくは2000m/h以上)である[1]〜[7]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[9]前記蒸留工程が、前記蒸気流を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富むオーバーヘッド流と、酢酸に富む第1酢酸流とに分離する脱低沸工程を含む[1]〜[8]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[10]前記蒸留工程が、前記第1酢酸流を蒸留して、前記第1酢酸流よりも酢酸が富化されている第2酢酸流と、酢酸よりも沸点の低い成分を前記第2酢酸流と比較して多く含むオーバーヘッド流の蒸気とに分離する脱水工程を含む[9]記載の酢酸の製造方法。
[11]前記第2酢酸流に、水酸化カリウム導入ラインを介して、水酸化カリウムを供給ないし添加する[10]記載の酢酸の製造方法。
[12]前記蒸留工程が、前記第2酢酸流を蒸留して、酢酸よりも沸点の低い成分を缶出液と比較して多く含むオーバーヘッド流としての蒸気と、酢酸よりも沸点の高い成分をオーバーヘッド流と比較して多く含む缶出液と、前記第2酢酸流よりも酢酸が富化されている第3酢酸流とに分離する脱高沸工程を含む[10]又は[11]記載の酢酸の製造方法。
[13]さらに、前記第3酢酸流をイオン交換樹脂塔に導入し、前記第3酢酸流中のヨウ化アルキルを吸着除去する工程を含む[12]記載の酢酸の製造方法。
[14]さらに、前記蒸留工程で得られる前記オーバーヘッド流から少なくともアセトアルデヒドを分離するためのアセトアルデヒド分離除去工程を有する[9]〜[13]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[15]さらに、プロセスからのオフガスを、少なくとも酢酸を含む吸収溶媒で吸収処理して、一酸化炭素に富むストリームと酢酸に富むストリームとに分離するスクラバー工程を有する[1]〜[14]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[16]前記(b)において、蒸発槽の底部及び/又は残液流リサイクルラインに一酸化炭素含有ガス導入ラインが接続されており、前記スクラバー工程にて分離された一酸化炭素に富むストリームを前記蒸発槽の底部及び/又は残液流リサイクルラインへ導入するCO源として用いる、[15]記載の酢酸の製造方法。
[17]前記(b)において、前記線速rは、前記ボルテックスブレーカー本体部の周端部と蒸発槽底部の内底面との間隙の長さ及び/又は前記ボルテックスブレーカー本体部の周長さを変化させて調節される、[1]〜[16]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[18]前記蒸発槽内圧力が50〜1000kPa(絶対圧)である、[1]〜[17]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[19]前記蒸発工程にて分離される蒸気流および残液流の割合が、質量比で、10/90〜50/50(蒸気流/残液流)である、[1]〜[18]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[20]前記蒸発工程にて分離される蒸気流の酢酸濃度が50〜85質量%(好ましくは55〜75質量%)である、[1]〜[19]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[21]前記蒸発工程にて分離される残液流の酢酸濃度が55〜90質量%(好ましくは60〜85質量%)である、[1]〜[20]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[22]前記(b)を備える、[1]〜[21]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[23]前記(a)と前記(b)をともに備える、[1]〜[22]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。