特許第6491752号(P6491752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491752
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】薄膜製造用仮想陰極蒸着(VCD)
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/32 20060101AFI20190318BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20190318BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20190318BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C23C14/32 H
   H05H1/46 A
   C01B32/05
   C01G15/00 B
【請求項の数】36
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-535158(P2017-535158)
(86)(22)【出願日】2015年9月18日
(65)【公表番号】特表2017-534765(P2017-534765A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】IB2015057205
(87)【国際公開番号】WO2016042530
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】1416497.4
(32)【優先日】2014年9月18日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517094909
【氏名又は名称】プラズマ エーピーピー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】ヤルモリッチ、ドミトリー
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/186697(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H05H 1/00− 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空陰極と、
基板ホルダと、
前記中空陰極を挟んで前記基板ホルダと反対側に配置されターゲットホルダと、
前記ターゲットホルダに最も近い前記中空陰極の端部においてプラズマを前記中空陰極の内部に供給するためのプラズマ供給要素と、
前記プラズマ供給要素がプラズマを前記中空陰極に供給し、高電圧パルスが前記中空陰極に印加されると仮想プラズマ陰極が形成され、前記仮想プラズマ陰極が、前記ターゲットホルダ内に保持されたターゲットに向けられた電子ビームを生成するように、前記中空陰極に接続されて前記中空陰極に高電圧パルスを供給する電源ユニットと、
を備え、
アブレーションされたターゲット材料のプルームが、前記中空陰極を通過する、
薄膜蒸着装置。
【請求項2】
前記プラズマ供給要素が、前記中空陰極に隣接し、ガス容器を画定する中空キャップ電極を備えることを特徴とする請求項1に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項3】
前記中空キャップ電極は、絶縁リングによって前記中空陰極から隔てられ、ガス流スリットは、前記ガス容器から前記中空陰極の内部に延在していることを特徴とする請求項2に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項4】
前記ガス流スリットは、0.1mm〜10mmの範囲の幅を有することを特徴とする請求項3に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項5】
前記中空陰極内に初期プラズマを生成するために前記中空陰極に接続された電気トリガユニットを備えることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項6】
前記電気トリガユニットは、1kV〜60kVの範囲の電圧を有する電気パルスを生成するように動作可能であることを特徴とする請求項5に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項7】
前記電気トリガユニットは、0.01kA〜1kAの範囲の電流を有する電気パルスを生成するように動作可能であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項8】
前記電気トリガユニットは、1μs未満の持続時間を有する電気パルスを生成するように動作可能であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項9】
前記ガス容器にガスを供給するためのガス管を備えることを特徴とする請求項2乃至請求項8のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項10】
前記ガス管は導電性であり、前記電気トリガユニットを前記中空陰極に接続することを特徴とする請求項5に直接的または間接的に従属する請求項9に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項11】
前記中空陰極は、実質的に円筒形であることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項12】
前記陰極は長手方向軸を有し、前記長手方向軸は、前記ターゲットホルダ内に保持されたターゲットの表面に対して、および、前記基板ホルダ内に保持された基板の表面に対して実質的に垂直であることを特徴とする請求項11に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項13】
前記中空陰極の直径は、0.1mm〜100mmの範囲にあることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項14】
前記中空陰極の直径は、2 mm〜40mmの範囲にあることを特徴とする請求項13に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項15】
前記中空陰極の直径は、0.1mm〜2mmの範囲にあることを特徴とする請求項13に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項16】
前記中空陰極は、直径対長さ比が0.1〜10の範囲であることを特徴とする請求項11乃至請求項15のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項17】
前記ターゲットホルダ内に保持されたターゲットの表面と前記中空陰極との距離と、前記中空陰極の直径との比は、0.1〜10であり、好ましくは略1であることを特徴とする請求項11乃至請求項16のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項18】
前記電源ユニットは、−1kV〜−60kVの範囲の、好ましくは−5kV〜−20kVの範囲の電圧を有する電気パルスを生成するように動作可能であることを特徴とする請求項1乃至請求項17のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項19】
前記電源ユニットは、0.1kA〜10kAの範囲の電流を有する電気パルスを生成するように動作可能であることを特徴とする請求項1乃至請求項18のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項20】
前記電源ユニットは、0.1μs〜100μsの範囲の持続時間を有する電気パルスを生成するように動作可能であることを特徴とする請求項18または請求項19に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項21】
前記中空陰極、前記基板ホルダ、前記ターゲットホルダ、および前記プラズマ供給要素を収容するプロセスチャンバと、前記プロセスチャンバ内の圧力を維持するためのポンプ要素とを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項20のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項22】
前記プロセスチャンバ内の圧力は、10−3Pa〜1Paの範囲に維持されることを特徴とする請求項21に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項23】
複数の中空陰極を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項22のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項24】
補助ガス容器をさらに備え、前記ガス容器は、複数のアパーチャによって前記ガス容器に接続されることを特徴とする請求項1乃至請求項23のいずれかに記載の薄膜蒸着装置。
【請求項25】
前記ガス容器内に配置された補助トリガ電極をさらに備えることを特徴とする請求項24に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項26】
前記補助トリガ電極に接続された補助トリガ電気トリガユニットをさらに備えることを特徴とする請求項25に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項27】
中空陰極、基板、およびターゲットを、前記基板と前記ターゲットを前記中空陰極を挟んで反対側に配置するように提供し、
前記ターゲットに最も近い前記中空陰極の端部でプラズマを前記中空陰極の内部に供給し、
仮想プラズマ陰極が形成され、前記仮想プラズマ陰極が前記ターゲットホルダ内に保持されたターゲットに向けられた電子ビームを生成するように、前記中空陰極に高電圧パルスを供給する、
薄膜蒸着方法であって、
アブレーションされたターゲット材料のプルームは、前記中空陰極を通って前記基板に向かって通過する、
薄膜蒸着方法。
【請求項28】
前記中空陰極に隣接しガス容器を画定する中空キャップ電極にガスを供給し、電気トリガパルスを前記中空陰極に供給して前記中空キャップ電極内にプラズマを発生させることを含むことを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記電気トリガパルスは、1kV〜60kVの範囲の電圧と、0.01kA〜1kAの範囲の電流とを有することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記電気トリガパルスは、1μs未満の持続時間を有することを特徴とする請求項28または請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ターゲットの表面と前記中空陰極との間の距離と、前記中空陰極の直径との比が0.1〜10の範囲に、好ましくは略1になるように前記ターゲットを配置することを含むことを特徴とする請求項27乃至請求項30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記高電圧パルスが、−1kV〜−60kVの範囲、好ましくは−5kV〜−20kVの範囲の電圧と、0.1kA〜10kAの範囲の電流を有することを特徴とする請求項27乃至請求項31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記高電圧パルスが、0.1μs〜100μsの範囲の持続時間を有することを特徴とする請求項27乃至請求項32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
請求項1乃至請求項26のいずれかに記載の装置を用いて実行されることを特徴とする請求項27乃至請求項33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記ターゲットは、前記電子ビームが生成されているとき前記仮想プラズマ陰極に対して陽極として機能することを特徴とする請求項1に記載の薄膜蒸着装置。
【請求項36】
前記仮想プラズマ陰極は、前記電子ビームの形成後に消滅して、前記アブレーションされたターゲット材料のプルームが前記基板ホルダに向かって伝搬するように前記仮想プラズマ陰極があったところを通過することを可能にすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に薄膜を蒸着させるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に膜を作製するには、一般に、基板に向けられた分子、原子またはイオンの流れが必要である。この流れは、凝縮して適切な基板表面上に固体状態の膜を形成するが、一般に、このような蒸着方法は、物理的気相成長法(PVD)と呼ばれる。例としては、パルスレーザ電子成長法(PLD)およびパルス電子成長法(PED)が挙げられる。レーザーまたは電子ビームからの非常に高いエネルギー密度のパルスは、ターゲットをアブレーションすることができる(いくらかの量の固体ターゲットをプラズマに変える)。このプラズマは、ターゲット化合物を含む組成物を用いてプラズマプルームの形態でターゲットの方に外側に膨張する。
【0003】
PEDを可能にするには、ターゲット表面で10 W/cm以上の電子ビームエネルギー密度を提供する電子ビーム源が必要である。そのような電子ビームを発生する公知の装置及び方法(US7557511又はWO2011IT00301)は、C.Schultheissによる米国特許第5,576,593号で紹介されたチャネル火花放電(Channel Spark Discharge、CSD)に基づく。CSD装置は、プラズマ生成をトリガするための活性化グループを有する中空陰極プラズマ源と、誘電性管状要素とを含む。その管状要素は、中空陰極プラズマから抽出された電子の束を、陽極として働く標的に向かって案内する。米国特許第7557511号に記載されているように、プロセスチャンバ内の圧力に強く依存する最適条件下では、管状要素によって方向付けられその出口から出てくる高度に集束されたビームを生成することが可能であり、ビーム誘起空間電荷中和により管状要素を越えて伝搬させることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PED技術は、金属、半導体、および優れた品質を有する誘電体材料コーティングを含む異なるタイプのフィルムを製造するために使用されてきた。世界中の多くの研究所での蒸着実験が成功したにもかかわらず、薄膜蒸着のためのパルス電子ビームの工業的応用はまだ成功していない。CSDに基づく電子ビーム源が工業的な用途に失敗した主な理由は、誘電体管状素子の寿命が短く(一般に10 ショット未満)、ショットの間のパルスの再現性が低く、広域蒸着のスケーラビリティの問題があるからである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
新しいタイプの薄膜蒸着装置および方法が提案されている。蒸着装置の動作は、パルス電源グループによって生成された仮想陰極群に対して高電圧(1〜60kV)の高電流(0.1〜10kA)電気パルスを適用することに基づいている。仮想陰極群装置は、ガス容器に供給されたガスから初期プラズマを発生させる。この初期プラズマは、ターゲットの前に投入され、仮想プラズマ陰極を形成する。この仮想陰極プラズマは、パルス電源によって提供され、電子ビームを発生させる負の電位バイアスを得る。電子ビームの形成は、仮想陰極として機能するプラズマの境界と陽極として機能するターゲットとの間に形成される薄いシース内で起こる。プラズマ境界とターゲットとの間の距離が短いため、空間電荷限界が高く、これにより、固体ターゲットアブレーションに十分な高エネルギーおよび高電流のパルス電子ビーム生成が可能になる。
【0006】
仮想プラズマ陰極は、ターゲットの前に一時的に現れ、電子ビームでそれをアブレーションした後に消滅して、ターゲットのアブレーションされた材料が基板に向かって伝搬し、凝縮して薄膜を形成する。アブレーションされた材料は、プラズマプルームの形態で仮想陰極プラズマが配置された部分を通ってターゲット表面の外側に伝搬する。このようにして、電子ビーム源の稼働時間を制限する要因、すなわち、アブレーションされた材料による陰極の汚染は、陰極がプラズマから形成された仮想のものなので回避され、従来の固体材料陰極のようには汚染されることがない。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、中空陰極と、基板ホルダと、中空陰極を挟んで基板ホルダと反対側に配置されターゲットホルダと、ターゲットホルダに最も近い中空陰極の端部においてプラズマを中空陰極の内部に供給するためのプラズマ供給要素と、プラズマ供給要素がプラズマを中空陰極に供給し、高電圧パルスが中空陰極に印加されると仮想プラズマ陰極が形成され、仮想プラズマ陰極が、ターゲットホルダ内に保持されたターゲットに向けられた電子ビームを生成するように、中空陰極に接続されて中空陰極に高電圧パルスを供給する電源ユニットと、を備え、アブレーションされたターゲット材料のプルームが、中空陰極を通過する薄膜蒸着装置が提供される。
【0008】
プラズマ供給要素は、中空陰極に隣接し、ガス容器を画定する中空キャップ電極を備えてもよい。
【0009】
中空キャップ電極は、絶縁リングによって中空陰極から隔てられ、ガス流スリットは、ガス容器から中空陰極の内部に延在していてもよい。
【0010】
ガス流スリットは、0.1mm〜10mmの範囲の幅を有していてもよい。
【0011】
薄膜蒸着装置は、中空キャップ電極内に初期プラズマを生成するために、中空キャップ電極に接続された電気トリガユニットを備えてもよい。
【0012】
電気トリガユニットは、1kV〜60kVの範囲の電圧を有する電気パルスを生成するように動作可能であってもよい。
【0013】
電気トリガユニットは、0.01kA〜1kAの範囲の電流を有する電気パルスを生成するように動作可能であってもよい。
【0014】
電気トリガユニットは、1μs未満の持続時間を有する電気パルスを生成するように動作可能であってもよい。
【0015】
薄膜蒸着装置は、ガス容器にガスを供給するためのガス管を備えていてもよい。
【0016】
ガス管は導電性であり、トリガユニットを中空陰極に接続してもよい。
【0017】
中空陰極は、実質的に円筒形であってもよい。
【0018】
中空陰極は、長手方向軸を有してもよく、長手方向軸は、ターゲットホルダ内に保持されたターゲットの表面および基板ホルダ内に保持された基板の表面に実質的に垂直であってもよい。
【0019】
中空陰極の直径は、0.1mm〜100mmの範囲内であってもよい。
【0020】
中空陰極の直径は、2mm〜40mmの範囲であってもよい。
【0021】
中空陰極の直径は、0.1mm〜2mmの範囲であってもよい。
【0022】
中空陰極は、直径対長さの比が0.1〜10の範囲であってもよい。
【0023】
ターゲットホルダ内に保持されたターゲットの表面と中空陰極との距離と、中空陰極の直径との比は、0.1〜10であってもよく、好ましくは略1であってもよい。
【0024】
電源ユニットは、−1kV〜−60kVの範囲、好ましくは−5kV〜−20kVの範囲の電圧を有する電気パルスを生成するように動作可能であってもよい。
【0025】
電源ユニットは、ターゲットのアブレーションのためのエネルギーを提供するために、0.1kA〜10kAの範囲の電流で電気パルスを生成するように動作可能であってもよい。
【0026】
電源ユニットは、0.1μs〜100μsの範囲の持続時間を有する電気パルスを生成するように動作可能であってもよい。
【0027】
薄膜蒸着装置は、中空陰極、基板ホルダ、ターゲットホルダ、およびプラズマ供給要素を含むプロセスチャンバと、プロセスチャンバ内の圧力を維持するためのポンプ要素とを備えてもよい。
【0028】
プロセスチャンバ内の圧力は、10−5 mbar〜100 mbarの範囲に維持されてもよい。
【0029】
薄膜蒸着装置は、複数の中空陰極を備えてもよい。
【0030】
薄膜蒸着装置は、複数のアパーチャによってガス容器に接続された補助ガス容器をさらに備えてもよい。
【0031】
薄膜蒸着装置は、ガス容器内に配置された補助トリガ電極をさらに備えてもよい。
【0032】
薄膜蒸着装置は、補助トリガ電極に連結された補助トリガ電気トリガユニットをさらに備えてもよい。
【0033】
本発明の第2の態様によれば、中空陰極、基板、およびターゲットを、基板とターゲットを中空陰極を挟んで反対側に配置するように提供し、ターゲットに最も近い中空陰極の端部でプラズマを中空陰極の内部に供給し、仮想プラズマ陰極が形成され、仮想プラズマ陰極がターゲットホルダ内に保持されたターゲットに向けられた電子ビームを生成するように、中空陰極に高電圧パルスを供給する、薄膜蒸着方法であって、アブレーションされたターゲット材料のプルームは、中空陰極を通って基板に向かって通過する薄膜蒸着方法が提供される。
【0034】
この方法は、中空陰極に隣接しガス容器を画定する中空キャップ電極にガスを供給し、中空キャップ電極内にプラズマを発生させるために中空キャップ電極に電気トリガパルスを供給することを含む。
【0035】
電気トリガパルスは、1kV〜60kVの範囲の電圧と、0.01kA〜1kAの範囲の電流とを有してもよい。
【0036】
電気トリガパルスは、1μs未満の持続時間を有してもよい。
【0037】
この方法は、ターゲットの表面と中空陰極との間の距離の中空陰極の直径に対する比が0.1〜10の範囲にあり、好ましくは約1になるようにターゲットを配置することを含んでもよい。
【0038】
高電圧パルスは、最大−60kVの電圧および0.1〜10kAの電流を有してもよい。
【0039】
高電圧パルスは、0.1μs〜100μsの範囲の持続時間を有してもよい。
【0040】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様による装置を用いて実行される、本発明の第2の態様による方法が提供される。
【0041】
本発明およびその技術的利点のより完全な説明のために、以下の説明および添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本発明を具体化する仮想陰極装置の断面図を示す。
図2図2は、図1の装置における初期プラズマおよび仮想陰極プラズマの形成を示す。
図3図3は、図1の装置におけるプルームプラズマ伝搬特性を示す。
図4図4は、広域蒸着のための代替装置を示す。
図5図5は、さらに別の装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に図面を詳細に参照する実施例は、例としてであり、本発明の好ましい実施形態の説明のためのみであることを強調する。また、最も有用であると確信され、本発明の原理および概念的側面を容易に理解されるものを提供するものとして提示される。これに関して、本発明の基本的な理解のために必要以上の、本発明の構造的詳細を示す試みはなされていないが、明細書と図面は、当業者には明らかなように実際に発明を実施することができる。
【0044】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明はその適用において、以下の説明または図面に示される構成要素の構成および配置に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態に適用可能であるか、または様々な方法で実施または実行される。また、本明細書で使用される表現および用語は、説明のためのものであり、限定的であると見なされるべきではないことを理解されたい。
【0045】
プラズマ活性化に先立ち、仮想陰極蒸着(VCD)装置を図1に示す。VCD装置は、図1において参照番号1で全体が示されている。
【0046】
本発明による装置1は、プロセスチャンバ131を備える。プロセスチャンバ131は、プロセスチャンバ内部で10−5〜100mbarの範囲の圧力を提供するために、ガスの一定のポンピング(図1には図示せず)によって提供される。明らかに、プロセスチャンバ131は、外部環境に対して真空気密になるように構築されている。装置1はさらに、参照符号3で全体を示す仮想陰極群を備える。
【0047】
装置1はさらに、参照番号5で全体が示された供給および支持グループを備える。
【0048】
装置1はさらに、参照符号7で全体を示すパルス電源グループを備える。
【0049】
装置1はさらに、参照番号9で全体を示したターゲット群を備える。
【0050】
ターゲット群9は、適切なターゲットホルダ117内に保持されているターゲット115をさらに備える。ターゲット材料は、基板表面125上に薄膜の形態で蒸着されなければならない化学元素を含む。
基板125はまた、プロセスチャンバ131内に保持され、太陽電池、有機トランジスタ、ディスプレイ、光源などのような電気または電子デバイスの一部または構成要素によって、または機械的部品または構成要素によって、特に制限なく、構成される。
【0051】
ターゲットホルダ117は、チャンバ131内に少なくとも部分的に収容され、電気伝導度が1・10 S/mを越え、溶融温度が300℃を越える任意の既知の材料、好ましくはステンレス鋼、タングステン、銅、青銅または他の金属合金から構成される。ターゲットホルダ117は、プロセスチャンバ131とターゲット115との電気的接続を提供する。チャンバ131、ターゲット115、およびターゲットホルダ117の電位は、装置動作中に可能な限りゼロ値(接地電位)に近くなければならない。これは、ターゲットホルダ117の最小の電気的インダクタンスと、チャンバ、ターゲットホルダ、およびターゲットとの間の密接な電気的接触を必要としている。
【0052】
ターゲット115は、仮想陰極群3の対称軸に少なくとも1mmの表面を提供することを特徴とする、ロッド、シリンダー、ペレット、平行六面体、または任意の他の形状を有することができる。これは、図1において116で示されたターゲットアブレーション領域であり、仮想陰極群3の対称軸に対して法線方向の面を有し、回転中の位置や向きを変更せず、また所謂周知の方法でターゲットホルダ117により提供される他のターゲットの移動を変更しないことが好ましい。
【0053】
仮想陰極群3は、ターゲット115付近にプラズマを発生させるのに適している。プラズマは、以下でよりよく説明するように、ターゲット表面をアブレーションする電子ビームを生成するための仮想陰極として機能する。仮想陰極プラズマは、初期プラズマ供給アセンブリによって供給される初期プラズマから形成される。本発明の好ましい実施形態では、仮想陰極群3は、チャンバ131内に完全に収容されている。仮想陰極群3は、中空陰極101と、絶縁リング103と、中空キャップ電極105とを備えている。
【0054】
中空陰極は、電気伝導度が1・10 S/mを越え、溶融温度が300℃を越える任意の既知の材料から作製され、ステンレス鋼、タングステン、銅、青銅または他の金属合金であることが好ましい。中空陰極は、0.1〜10の範囲の直径と長さの比を有する中空円筒の形状を有し、壁厚は0.05mmを越える。中空陰極101の直径は、プロセスチャンバ内のガスの圧力に依存して、0.1〜100mmの範囲にある。より具体的には、非限定的な例として、1・10−4 mbar(1・10−2 Pa)の圧力では、直径は、2〜60mmの範囲にあり、100mbar(1・10 Pa)の圧力に対しては直径は、0.1〜10mmの範囲である。中空陰極円筒の対称軸は、ターゲットアブレーション領域116に垂直であり、ターゲット表面の比すなわち中空陰極距離対中空陰極直径の比は、0.1〜10の範囲、好ましくは1に近い。
【0055】
絶縁リング103は、中空陰極101に接続されている。絶縁リング103は、300℃を超える溶融温度を有する任意の誘電材料、好ましくは酸化アルミニウムまたは他のセラミックまたはプラスチック材料から構成される。絶縁リング103は、中空陰極101に接続され固定された位置からガスが流れるのを防止するために、公知の方法で中空陰極に取り付けられる。
【0056】
中空キャップ電極105は、絶縁リング103に接続されている。中空キャップ電極105は、中空陰極101に接続され固定された位置からガスが流れるのを防止するため、絶縁リング103に任意の既知の方法で取り付けられる。中空キャップ電極105は、電気伝導度が1・10 S/mを越え、溶融温度が300℃を越える任意の既知の材料、好ましくはステンレス鋼、タングステン、銅、青銅または他の金属合金から構成される。
【0057】
また、中空キャップ電極105には、ガス管107が接続されている。ガス管107は、中空キャップ電極105に接続され固定された位置からガスが流れるのを防止するために、任意の既知の方法で中空キャップ電極105に取り付けられる。
【0058】
中空キャップ電極の形状は、図1に示すように、中空陰極101および絶縁リング103と一緒になって、ガス容器127を形成する。より詳細には、ガス管107によって供給されたガスはガス容器に入り、次いでスリット129を通ってターゲット115の近傍の中空陰極の内部容積に流入する。スリット129によって画定されるギャップは、中空キャップ電極105の半径と中空陰極101の半径との差の半分以下でなければならない。これは、絶縁リング103の半径方向の寸法、すなわち、その幅に等しい。スリット幅は、それを通過するガス流束を決定し、したがってガス容器127内およびプロセスチャンバ131内のガスの圧力差を決定する。スリット幅は、プロセスチャンバの一定のポンピングのために、ガス容器内の圧力がチャンバ131内の圧力よりも少なくとも2倍高くなるように、0.1〜10mmの範囲で調整することができる。
【0059】
ガス管107、ガス流量制限器109、真空フィードスルー113、および支持要素111が一緒になって、供給および支持グループ5を形成する。供給および支持グループ5は、仮想陰極群3のガスおよび電力の支持および供給者としての役割を果たす。
ガス管107は、非限定的な例として、内径1〜10mmの管である。ガス管107は、電気伝導度が1・10 S/mを越え、溶融温度が300℃を越える任意の既知の材料、好ましくはステンレス鋼、タングステン、銅、青銅または他の金属合金で構成される。
【0060】
また、ガス管107は、電気トリガユニット121と中空キャップ電極105との間の電気的接続を提供するための導電体として機能する。
【0061】
より詳細には、電気トリガユニットは、任意の既知の方法で、0.01kA〜1kAの範囲の電流を有する高電圧(非限定的な例として1〜60kV)の電気パルスを生成し、その電気パルスは、電気ケーブルでプロセスチャンバの外側のガス管の端部に伝わる。ガス管107は、絶縁している真空フィードスルー113を介して中空キャップ電極105に電気パルスを導く。
【0062】
ガス管107は、中空キャップ電極105と真空フィードスルー113とを接続する。より詳細には、図1に示すように、ガス管107は、ガス管107がガス容器127の内部空洞と連通するように、その先端部が中空キャップ電極105の内部空洞の内部に部分的に挿入されている。
【0063】
真空フィードスルー113は、溶融温度が300℃を越える任意の既知の誘電材料、好ましくは酸化アルミニウムまたは他の既知のセラミックまたはプラスチック材料、例えば非限定的な例としてテフロン(登録商標)から構成される。真空フィードスルー113は、真空チャンバの内部容積およびガス管の内部容積がプロセスチャンバ131の外部の大気と連通しないように、ガス管107に任意の既知の方法で真空密封接続を提供する。
【0064】
また、真空フィードスルー113は、真空密封接続(プロセスチャンバの外部からの接続を通したガス流がない)を提供する方法で支持要素111に接続されている。支持要素111は、電気伝導度が1・10 S / mを越え、溶融温度が300℃を越える任意の既知の材料、好ましくはステンレス鋼、タングステン、銅、青銅または他の金属合金から構成される。支持要素111は、電気パルス電源ユニット119と中空陰極101との間の電気的接続を提供するための導電体として機能する。
【0065】
より詳細には、電気パルス電源ユニット119は、電気ケーブルを用いてプロセスチャンバの端部の外側の支持要素111に供給する高電流(0.1〜10kA)の高電圧(非限定的な例として、−60kV〜−1kV)の電気パルスを任意の既知の方法で、生成する。支持要素111は、絶縁している真空フィードスルー113を介して中空陰極101に電気パルスを伝導する。
【0066】
プロセスチャンバの外側で、ガス管107には、ガス流量制限器109が設けられている。ガス流量制限器109は、大気圧以上のガス圧を提供するガス供給アセンブリ123(図示せず)に接続する。ガスは、非限定的な例として、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノンなどであってもよい。ガス流量制限器109は、ガスの圧力差を提供する。ガス管107の内部空洞内のガス圧力は、大気圧よりも低い(非限定的な例として、10−5〜100mbar)。
【0067】
VCD動作の動きは、ここで図2との関連で提示される。VCDの各パルスは、パルス電源グループの起動時に開始される。パルス電源グループ7は、全体がプロセスチャンバ131の外部に配置され、電気パルス電源ユニット119と電気トリガユニット121とを備える。
【0068】
パルス電源ユニット119は、非限定的な例として、1〜60nFの合計静電容量を有するキャパシタのバンクを備える。また、パルス電源ユニット119は、−1〜− 60kVの範囲の電圧でキャパシタバンクを充電することを可能にする高電圧充電器と、電気ケーブルを介して支持要素111の外部端部にコンデンサに蓄積された電荷の高速送電(非限定的な例として、50マイクロ秒未満)を可能にする適切な高電圧スイッチと、を備える。パルス電源グループ7の内部部分は図示されておらず、0.1〜100マイクロ秒の持続時間の電気パルスを、−1kV〜−60kVの電圧範囲で、20kHzまでの繰り返し率で生成する能力を特徴とする任意の既知の装置である。実際には、ほとんどの材料に対して、−5kV〜−20kVの範囲のパルス電圧が適している。
【0069】
高電圧スイッチの起動は、中空陰極101の負の電位バイアスによる初期プラズマ供給動作の誘発につながる。このとき、中空キャップ電極105は、中空陰極と中空キャップ電極との間に電位差が生じるゼロ電位を有する。電気トリガユニットは、任意に、初期プラズマのトリガリングに役立つことができる。すなわち、電気トリガユニットが初期プラズマ201の形成を促進するように活性化されると、電位差をさらに増加させることができる。電気トリガユニット121は、パルス電源ユニット119による高電圧パルス形成の初期段階の間、中空陰極101と中空キャップ電極105との間の1〜60kVの電位差を提供する役目を果たす。すなわち、中空陰極101は、中空キャップ電極がパルスの立上り時に電位がゼロである間、立ち上がり負電位を有する。次に、電気トリガユニットは、中空キャップ電極105の正のバイアスを供給して、中空陰極101に対する電位差を増加させるために、短い(1μs未満)正のパルスを生成することができる。ガス容器内のガスのより高い圧力と組み合わされた電位差は、初期プラズマ201の形成に有利である。電気トリガユニット121は、1〜10nFの出口キャパシタンスを有し、初期プラズマ201を通って電流パルスの流れを導き、電位差を等しくする。
【0070】
ある圧力範囲では、トリガパルスは不要であり、主パルス電圧は初期プラズマを点火するのに十分である。
【0071】
より詳細には、パルス電源ユニット119は、中空陰極から初期プラズマ201を通って中空キャップ電極に電流を供給する。この電流は、電気トリガユニット121に向かって流れ、入口キャパシタンスを充電する。入口キャパシタンスが充電されると、中空キャップ電極が負の高電位を得る。この電流パルスは、初期プラズマ密度を増加させる。電気トリガユニットの出口キャパシタンスが大きいほど、初期プラズマを介して伝達される電荷が高くなり、したがって初期プラズマがより密度が高くなる。初期プラズマ201が 1013 cm−3以上の密度を得ると、中空陰極と中空キャップ電極との間の電位差は、この初期プラズマの高い導電性のために100V未満になる。主パルスは、ターゲットのプラズマ加熱およびアブレーションに必要なエネルギーを提供する。
【0072】
この初期プラズマ201は、ガス容器127からガススリット129を通って中空陰極空洞内に膨張し、中空陰極プラズマ203を形成する。この中空陰極プラズマは、中空陰極効果のため中空陰極の電位プラス約50ボルトの電位を有する。接地されたターゲットに関しては、このプラズマは高い負の電位、すなわちパルス電源グループによって与えられる電位プラス50ボルト(パルス電源ユニット電圧に依存して−0.95〜−59.95kV)を有する。高い負の電位を有する中空陰極プラズマは、ターゲットに向かって電子ビームを放出する仮想陰極として作用する。VCD装置の動作のこの段階において、パルス電源グループは、負の電荷を中空陰極に送り、中空陰極は、電子を中空陰極プラズマ203に放出する。中空陰極プラズマは、次に、接地されたターゲット115に向かって電子ビームを放射する。パルス電源ユニットは、キャパシタバンクに蓄えられたエネルギーを電子ビームに供給する。
【0073】
仮想陰極プラズマの密度は、ターゲットのアブレーション、残留ガスのイオン化、およびピンチ効果によるプラズマを介して伝達される電荷の増加とともに増加する。ピンチ効果は、このプラズマを通過する電流によって生成される磁場によるプラズマの圧縮である。
【0074】
パルス電源ユニットのキャパシタバンクが放電されると、アブレーションされたターゲット材料を含むプラズマは、磁場によって補償されないプラズマ圧力のために爆発的に膨張し始める。この時点で、プラズマ密度は1015 cm−3を超えることがある。
【0075】
VCD動作の次の段階は、図3との関連で説明される。この段階でのパルス電源グループ7は、高電圧パルスの生成を終了し、中空陰極101および中空キャップ電極は、プロセスチャンバ131の接地電位に対して絶対値で1kV未満の電位を有する。
【0076】
ターゲット物質の化学元素を含むプラズマは、仮想陰極群3の対称軸に沿って、ターゲットアブレーション領域116に対して垂直に、速度10〜10 cm/sで基板125に向かって伝搬する。伝搬速度は、ターゲット材料、電気パルスのパワー、およびプロセスチャンバ内の圧力に依存する。また、このプラズマは、温度膨張効果または両極性プラズマ拡散効果のために、対称軸に直交する方向に拡張(半径方向拡張)する。
【0077】
組み合わされた伝搬および半径方向の速度は、図3の矢印で示されたプラズマイオンの軌跡に導く。このイオン軌跡は、プラズマのプルームのような形状になり、これは仮想陰極群の対称軸に関して対称である。このプルームプラズマ305が基板125に到達すると、基板表面上に薄膜303として凝縮する。蒸着された薄膜303は、仮想陰極群の対称軸に対称な厚さプロファイルを有する。蒸着された膜は、蒸着スポットの中央でより厚くなり、縁でより薄くなる。蒸着した膜の組成物は、ターゲット材料の元素を含む。また、蒸着膜組成物は、ガス供給アセンブリ123によって供給されるガスの化学元素を含むことができる。
【0078】
蒸着した膜の結晶構造は、プルームプラズマ305の種類のイオン化状態、運動エネルギー、および磁束密度によって変えることができ、これは、プロセスチャンバ中の電気パルス電圧、持続時間、電流およびガスの圧力によって変えることができる。
【0079】
2つ以上のVCD装置の動作に基づく広域蒸着装置は、ここで図4と関連して説明される。広域蒸着装置は、複数の仮想陰極群3をさらに備える。
【0080】
広域蒸着装置は、図4には示されていない仮想陰極群の各々のための給電および支持およびパルス電源グループをさらに備える。仮想陰極群は、非限定的な例として、y方向に沿って、対称軸を互いに平行に連続して配置することができる。
【0081】
広域蒸着装置は、ターゲット415をさらに備える。ターゲット415は、中空陰極101の直径よりも大きい直径を有し、2つの横方向の仮想陰極群の対称軸の間の距離よりも大きい長さを有する円筒形状を有することができる。また、ターゲット415は、対応する陰極群に対して同じ位置を有する仮想陰極群3のすべてに対してターゲットアブレーション領域116を提供する他の任意の既知の形状を有することができる。また、このターゲットは、ターゲット群9として先に説明した図1で示した同様の別個のターゲット群から構成することができる。
【0082】
ターゲット409の円筒形状の場合、既知のタイプのターゲット支持システム(図示せず)は、図4のy方向の変位と組み合わされた対称軸の周りの回転を与え、動作中のすべての仮想陰極群によるターゲット409の均一な消費を提供する。
【0083】
広域蒸着装置は、基板125をさらに備える。その基板は、非限定的な例として、y方向に長いシートまたはリボンの形態を有することができる。その基板は図示しない移動システムに設けることができる。移動システムは、基板125をy方向に変位させることができる。
【0084】
y方向に並んだ仮想プラズマ群、y方向の回転と変位を有する円筒形のターゲット、およびyz平面に平行な基板の相互の位置決めは、蒸着された膜の均一性を画定する。より詳細には、仮想陰極群の各々によって提供されるプルームプラズマは、基板に達する前に均一なプラズマ内で合体し、結合することができる。このプラズマの蒸着膜は、基板とターゲット間の距離が仮想陰極群の対称軸間の距離以上であれば、基板におけるy方向の均一な厚さプロファイルを有する。プラズマプルームの半径方向の膨張速度は、x方向の伝搬速度にほぼ等しいかそれ以下である。プルームプラズマ種類の軌跡を図4に示す。
【0085】
基板をz方向に一定速度で移動させることにより、パルス電源グループによって各仮想陰極群に供給されるパルスの一定の繰り返し率と組み合わせて、z方向の基板上に均質な膜プロファイルが得られる。
【0086】
仮想陰極装置のさらなる実施形態を図5に示す。いくつかの適用例、特にダイヤモンド状炭素(「DLC」)膜の基材への蒸着では、ターゲット表面をアブレーションするためにはるかに高い電子ビームエネルギー密度が必要とされる。DLC蒸着の例では、これは黒鉛ターゲットである。
【0087】
ここで図5を参照すると、さらなる実施形態が1'で示されている。図1の装置と同様の方法で、装置1'は、中空陰極101と中空キャップ電極105を備える。ガス管107は、ガスをチャンバ127に供給する。装置1'は、補助ガスチャンバ506を画定する絶縁体103'をさらに備える。補助ガスチャンバは、流量制限器504を介して付加ガス供給源503に接続され、補助ガスチャンバ506へのガスの供給速度を制御可能にする。補助ガスチャンバ506は、チャンバ127内の均一なガス密度を促進するために、複数のアパーチャ507、好ましくは少なくとも3つのアパーチャ507によってガスチャンバ127に接続される。付加的な電極501は、チャンバ127内に配置されており、この例では、ほぼ円筒形のステンレス鋼グリッドを備えている。この例では、追加のトリガパルス電源502によって、5μs未満の立ち上がり時間および0.1Jより大きい総エネルギーを有する3〜30kVのトリガパルス電圧が生成される。これらの変更により、電子ビームは、グラファイトターゲット表面で直径1mm未満のスポットに集束することが可能になる。チャンバ内のガス、好ましくはアルゴンの圧力は10 −2 mb(1Pa)未満であるべきである。パルス電源ユニット119は、グラファイトターゲットをアブレーションし、基板上にDLC膜を蒸着させるために、2Jを超える総パルスエネルギーで10〜20kVのパルスを発生する。基板は、非限定的な例として、プラスチック、金属、セラミックス、電子および光学デバイス、または3D印刷部品を含む、40℃を超える溶融温度を有する任意の固体状態のいかなる材料またはデバイスであり得る。
【0088】
例示的な方法では、装置1'は、グラファイトターゲット117'(純度99%)と、ガラス、ステンレス鋼、ゴルフボール、3D印刷部品、または任意の他の適切な材料とすることができる基板125に提供される。チャンバ127は、10 −5 mbar(10−3 Pa)の初期圧力まで排気される。次いで、アルゴンガスを供給源123、503から導入して、ガス流の80%〜100%を供給する供給源503からのガス供給で、チャンバ内の圧力を3・10−4〜1・10−2 mbar(3・10−2〜10 Pa)まで上昇させる。パルス電源119は、20Hz〜20kHzの繰り返し率で10〜30kVの電圧のパルスを生成するように動作する。パルスがその最大電圧に達すると、トリガパルスはトリガパルス発生器121、502によって供給される。トリガパルス電圧は、+5〜+15kVの範囲内であり、100ns〜1usの範囲、好ましくは100nsの持続時間を有する。第1のトリガパルスは、トリガパルス発生器502によって生成され、第2のパルスは、トリガパルス発生器121によって生成され、第1のパルスと第2のパルスとの間の遅延は、100〜500nsの範囲である。電気パルスは、図1の例のように仮想プラズマ陰極の形成を引き起こし、次いでターゲットをアブレーションする電子ビームを生成する。次いで、プルームプラズマは、ターゲットから10〜50cmの距離に配置された基板上に凝縮する。DLC膜は、パルス繰り返し率(線形依存)および距離(逆二乗依存)に依存して、10〜1000nm/分の速度で基板上に形成される。200Hzのパルス繰り返し率およびターゲットから15cmの距離では、基板温度は40℃を超えなかった。得られたDLC膜は、厚さ200nmの膜に対して平滑な表面(〜100nm rms)を有するコンパクトで部分的に非晶質の部分結晶構造を有する。ターゲット117は、動作中にターゲット表面のより大きな部分を利用するために回転させることができる。これにより、ターゲット材料のより均一な消費が可能になる。
【0089】
これらのパラメータで蒸着されたDLC膜は、ターゲット表面における電子ビーム出力密度に依存して、可変sp3/sp2比を有する。DLC膜の硬度は20GPa以上であり、表面はナノ結晶であり、摩擦係数が低く滑らかである。また、柔軟性があり、プラスチック(PETなど)基板上の曲げ(最大半径2mmまで)でははがれない。
【0090】
このタイプのDLCフィルムの用途には、光学、医療目的、またはスポーツ用具のための保護または硬質または生体適合性のコーティングが含まれ得る。低摩擦係数はまた、表面上の空気摩擦を減少させることができ、非限定的な例として、航空機、自動車、またはゴルフボールの空気摩擦損失を低減する。VCD法でゴルフボールをDLC膜で被覆した場合、ゴルフボールの平均飛距離の10〜20%の増加が観察された。このようなDLC膜の用途の別の例は、DLCが赤外光に対して透明であり、ほとんどの化学的に活性な溶媒に対して耐性である一方、ZnSeまたは他の赤外線光学系の耐引掻性を改善する、ZnSeなどの化学的保護層を提供することである。3D印刷部品上のDLCコーティングは、部品の耐摩耗性を改善し、それらを生体適合性にする。したがって、DLC被覆プラスチック部品は、非限定的な例として、インプラント、針、カテーテル、または外科器具のような医療用途に使用することができる。
【0091】
DLC膜を蒸着するためにVCD技術を使用するさらなる利点は、100nm/分を超える高速蒸着速度、60℃未満の低い蒸着温度、低コスト、可変硬度柔軟性、蒸着膜の滑らかな表面、および蒸着中の熱負荷によって基板またはデバイスの損傷を受けることなく、それらの広い領域に蒸着するための適合性である。
【0092】
本明細書に示される装置および方法の他の用途には、In、ZnO、ITOなどの透明導電性酸化物(「TCO」)膜および任意の他の適切な透明ドープ半導体の蒸着が含まれる。一例では、図1の装置を用いてIn膜を蒸着させることができる。この装置には、Inターゲット(純度99.99%)およびターゲットから10〜50cmの距離に配置された基板(ガラス、PETなど)が設けられた。チャンバ137内の圧力は、10−5 mb(10−3 Pa)に低減される。次に酸素ガスをガス源から導入して、チャンバ内の圧力を3・10−4〜8・10−3 mb(3・10−2〜0.8 Pa)まで増加させる。パルス電源は、20Hz〜20kHzの繰り返し率で10〜30kVの電圧のパルスを生成するように動作する。パルスがその最大電圧に達すると、トリガパルスがトリガパルス発生器によって供給される。電気パルスは、仮想プラズマ陰極の形成を引き起こし、仮想プラズマ陰極は、次いでターゲットをアブレーションする電子ビームを発生させる。次いで、プルームプラズマが基板上に凝縮する。透明導電性酸化物であるTCO膜は、パルス繰り返し率(線形依存性)および距離(逆二乗依存性)に依存して、10〜1000nm/分の速度で基板上に形成される。テストでは、200Hzのパルス繰返し率およびターゲットから15cmの距離(PET基板がプルームで損傷しなかった)の場合、基板温度は60℃を超えなかった。得られたTCO膜は、厚さ100nmの膜に対して平滑な表面(〜10nm rms)を有するコンパクトな柱状結晶構造を有する。100nmの厚さの膜は、200Hzのパルス繰り返し率で1分以内に蒸着することができる。このフィルムは、電磁スペクトルの可視領域において80%以上の透明性を有し、そのシート抵抗は100μS/sq未満である。ターゲット材料が操作中にターゲット表面のより広い領域にわたって均一に露出されるように、ターゲットを回転させることができる。
【0093】
Inフィルムは、可視領域で90%を超える透明度を有し、100オングストロームの厚さで20オームの抵抗率を有する。100nm/分より高い蒸着速度が達成された。VCD装置を使用するTCO蒸着は、基板温度が低く、蒸着速度が速く、ポストアニールを必要とせずにTCO膜が高品質であり、低コストの工業プロセスに拡張可能であるため有利である。
【0094】
半導体膜製造のためのVCDの更なる潜在的な付加的な利点は、例えばドーピング材料をターゲットに添加することにより、又は、パルスモードでベース材料の蒸着中に別のターゲットからのドーピング材料を同じ基板上に堆積させる第2のVCDソースを導入することにより、ドーピング分布及び量の正確な制御を用いて基本TCO材料をドーピングすることができることである。このようにして、基本材料内のドーピング材料分布、到着するドーピング種のエネルギー、ドーピングフラックスの密度、およびドーピングの相対量は、第2のVCDソース周波数、パルスのエネルギー、電圧、電子ビームの集束、およびVCDパルスを蓄積する基本材料に対する遅延を含む。この技術は、非限定的な例として、LiまたはNを有するpドープZnOのような新規な材料組成物の開発を可能にする。従来の蒸着技術の主な問題は、基材におけるドーピングの低い溶解度であり、その基材は、第2のVCD源によって基材に高エネルギーでドーピング種を浸漬させることにより溶解することが可能である。
【0095】
さらなる可能な用途は、固体リチウム電池用の固体電解質を形成するためにリチウムリン酸窒化物(LiPON)を蒸着させることである。LiPONの固体電池は優れた性能を示すが、RFスパッタリングで製造されたLiPONの工業蒸着プロセスは、数nm/分の非常に低い蒸着速度を有し、高価で商業的に持続不可能である。本明細書に記載のVCD技術および装置を用いた低コストの蒸着は、工業的スケーラビリティと組み合わされて、LiPON製造を商業的に持続可能にすることができる。LiPON蒸着のためのVCDの利点は、10 −8 S/cmを超える高いイオン伝導度およびより低い電子伝導性を有する高品質のLiPON膜を得るために必要な膜にターゲットの複合組成物を転写する能力である。
【0096】
上記の説明では、実施形態は、本発明の一例または実施形態である。「一実施形態」、「実施形態」または「いくつかの実施形態」の様々な外観は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すとは限らない。
【0097】
本発明の様々な特徴を単一の実施形態の文脈で説明することができるが、特徴を別々にまたは任意の適切な組み合わせで提供することもできる。逆に、明瞭化のために別個の実施形態の文脈で本発明を説明することができるが、本発明は単一の実施形態でも実施することができる。
【0098】
さらに、本発明は様々な方法で実施または実施することができ、本発明は上記の説明に概説したもの以外の実施形態で実施できることを理解されたい。
【0099】
本明細書中で使用される技術用語および科学用語の意味は、他に定義されない限り、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5