特許第6491754号(P6491754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6491754高強度と超低弾性係数を有するチタン合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491754
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】高強度と超低弾性係数を有するチタン合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20190318BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20190318BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20190318BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   C22C14/00 Z
   C22F1/18 H
   C22C30/00
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 675
   !C22F1/00 630L
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-536505(P2017-536505)
(86)(22)【出願日】2015年9月25日
(65)【公表番号】特表2017-535676(P2017-535676A)
(43)【公表日】2017年11月30日
(86)【国際出願番号】KR2015010175
(87)【国際公開番号】WO2016052941
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年3月28日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0130903
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513102958
【氏名又は名称】コリア インスティテュート オブ マシーナリー アンド マテリアルズ
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE OF MACHINERY & MATERIALS
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ヘ・パク
(72)【発明者】
【氏名】チョン・テク・ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ハク・ソン・イ
(72)【発明者】
【氏名】チェ・クン・ホン
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/050324(WO,A1)
【文献】 特開2003−003225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
C22F 1/00 − 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金元素としてNb、Zr及びOを含み、残部のTiと不可避不純物からなり、
下記式1で定義される原子価電子比(e/a)が4.19〜4.21、下記式2で定義されるMo当量(Moeq)が8.19〜9.03、下記式3で定義されるAl当量(Aleq)が1.60〜10.78である、チタン合金:
[式1]
原子価電子比(e/a)=Ti(原子%)×0.04+Nb(原子%)×0.05+Zr(原子%)×0.04
[式2]
Mo当量(Moeq)=Nb(質量%)/3.6
[式3]
Al当量(Aleq)=Zr(質量%)/6+O(質量%)×10。
【請求項2】
合金元素としてNb:30〜34質量%、Zr:5.7〜9.7質量%、O:0.03〜1.0質量%を含み、残部のTiと不可避不純物からなり、
下記式1で定義される原子価電子比(e/a)が4.17〜4.22、下記式2で定義されるMo当量(Moeq)が8.33〜9.44、下記式3で定義されるAl当量(Aleq)が1.25〜11.62である、チタン合金:
[式1]
原子価電子比(e/a)=Ti(原子%)×0.04+Nb(原子%)×0.05+Zr(原子%)×0.04
[式2]
Mo当量(Moeq)=Nb(質量%)/3.6
[式3]
Al当量(Aleq)=Zr(質量%)/6+O(質量%)×10。
【請求項3】
前記チタン合金は、断面減少率90%での冷間圧延条件で冷間加工後、酸素濃度の増加に対する超弾性延伸率(%)減少の相関係数が−0.5(%/質量%)以上である、請求項1又は2に記載のチタン合金。
【請求項4】
前記チタン合金は、断面減少率90%での冷間圧延条件で冷間加工後、2.5%以上の超弾性延伸率を有する、請求項1又は2に記載のチタン合金。
【請求項5】
前記チタン合金は、断面減少率90%での冷間圧延条件で冷間加工後、60GPa以下の弾性係数と、1000MPa以上の引張強度を有する、請求項1又は2に記載のチタン合金。
【請求項6】
前記チタン合金は、断面減少率90%での冷間圧延条件で冷間加工後、引張強度(MPa)を平均弾性係数(GPa)で割った値が0.020以上である、請求項1又は2に記載のチタン合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形的弾性変形をし、超高強度、超低弾性係数、安定的超弾性特性を同時に有するチタン合金に関する。
本発明は、1000MPa以上の強度、60GPa以下の弾性係数を有し、かつ、酸素濃度(質量%)の増加に対する超弾性延伸率(%)減少の相関係数が−0.5(%/質量%)以上の非線形的弾性変形をし、超高強度、超低弾性係数、安定的超弾性特性を同時に有するチタン合金に関する。
本発明は、人体に対して毒性があるアルミニウム(Al)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)などの元素と、生体内で耐食性の低いスズ(Sn)を全く含まず、人体に無害なチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)だけで構成され、かつ、非線形的弾性変形をし、超高強度、超低弾性係数、超弾性特性を同時に有するチタン合金に関する。
本発明は、重くて高融点を有するタンタル(Ta、融点3,017℃)を含まなかったり、少量含むことで、溶解及び凝固時にタンタル(Ta)による組成の不均一を防止することができ、軽いながらも大量生産が可能な非線形的弾性変形をし、超高強度、超低弾性係数、超弾性特性を同時に有するチタン合金に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は代表的な軽量金属で、他の素材が有し得ない特殊性に基づいて各産業分野で大きな付加価値を創出する素材としてよく知られている。
このように、高い比強度及び優れた耐食性を有するため、チタン合金は、航空宇宙用材料、化学工業用材料、生体用材料、電子用品材料、スポーツ用品材料など多様な分野に広く適用可能である。
このうち、生体用には、純チタン、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−7Nb、Ti−Ni合金などが使用されているが、これら金属の弾性係数が人体の骨より高すぎて、相対的に弾性係数の低い骨組織には応力が少なく加えられる応力遮蔽(stress shielding)現象が発生し、これによって、人体システムは、応力が少なく加えられる骨組織を不必要な部分として認識して、破骨細胞を活性化させて溶解する問題を抱えている。
【0003】
また、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)などの元素は、生体組織内で毒性があるので、人体に無害なチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)などの元素で構成された生体親和的な低弾性係数のチタン合金の開発が要求された。
【0004】
このような要求に応えて、生体親和的なチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)などの元素で構成されながらも、弾性係数が低いTi−13Nb−13Zr、Ti−35Nb−5Ta−7Zrなどのような合金が開発された。
【0005】
しかし、一般的な金属の特性上、弾性係数が低くなると強度も低くなるので、これらの素材で作った部品の場合、疲労抵抗性が著しく低下し、部品の小型化に限界があって、患者に極めて有利な最小侵襲法の施行に限界がある。
【0006】
また、整形外科用又は歯並び矯正用素材の場合、低弾性係数及び高強度特性とともに、高い超弾性延伸率が同時に要求される。
【0007】
そして、超高強度、超低弾性係数、超弾性特性が同時に発現される素材は、未来産業であるフレキシブルディスプレイ(flexible display)とウェアラブル装置(wearable device)の構造体及びその他の用途にも使用が可能である。
一方、フレキシブルディスプレイ及びウェアラブル装置に使用される金属は、皮膚とアレルギーを誘発するとの指摘があるニッケル(Ni)が含有されず、かつ、柔軟性が極大化されなければならない。柔軟性は大別して、素材自体の柔軟性及び構造的柔軟性に分類できるが、素材自体の柔軟性向上のためには、非線形的弾性変形をし、安定的超弾性及び超低弾性係数特性を有してこそ、小さな力でも素材を撓みやすくすることができる。
【0008】
また、構造的柔軟性は、素材の厚さが薄いほど向上するが、強度が低い場合、厚さが薄くなると素材自体の疲労抵抗性が格段に減少するので、高強度化が要求される。
【0009】
そのため、フレキシブルディスプレイ及びウェアラブル装置に使用される金属が有するべき特性も、生体用金属と同一であることが分かり、前記産業が最先端の高付加価値産業であることを勘案する時、生体親和的でかつ、超高強度、超低弾性係数、安定的超弾性特性を有するチタン合金の開発が要求される。
【0010】
これに関連し、米国登録特許第7261782号(特許文献1)には、非線形的弾性変形をし、超弾性特性を有するチタン合金が開示されている。
しかし、特許文献1に開示されたチタン合金は、強度が高くなるほど弾性係数が急激に増加するという欠点がある。また、人体に対して毒性を有するバナジウム(V)を含んでいて、生体用チタンとしては適用しにくい。その他にも、融点が3,017℃と極めて高いタンタル(Ta)を含んでいて、繰り返し溶解が必要で、製造費用が高いだけでなく、重いタンタル(Ta)によって合金組成の不均一が頻繁に発生する問題もある。さらに、微量の酸素含有量の変化にも超弾性延伸率が急激に変化して、大量生産時に均一な特性制御が難しい。
【0011】
また、米国登録特許第7722805号(特許文献2)にも、超低弾性と高強度特性を示すチタン合金が開示されている。
しかし、特許文献2に開示されたチタン合金は、強度上昇のために酸素を添加する場合、超弾性延伸率が急激に低下するという欠点があり、主要合金元素として添加されるスズ(Sn)は、生体内で、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)などと比較して耐食性が著しく低くて腐食が発生しやすいという欠点がある。
【0012】
また、強度向上のためには追加の熱処理工程が要求されるため、複雑な工程によって製造費用を増加させて、好ましくない。さらに、微量の酸素含有量の変化にも超弾性延伸率が急激に変化して、大量生産時に均一な特性制御が難しい。
【0013】
また、特許文献1には、タンタル(Ta)とスズ(Sn)を含まないTi−Nb−Zr−O系合金が開示されている。
しかし、この合金の場合、酸素(O)含有量が低すぎると高強度化されず、酸素(O)含有量が高すぎると弾性係数が急激に上昇して成形が困難になるだけでなく、弾性変形率の偏差が大きくなって、大量生産が難しい問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国登録特許第7261782号
【特許文献2】米国登録特許第7722805号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、人体に対して毒性があったり、生体内で耐食性が低かったり、高融点でかつ、重い合金元素を添加しないながらも、高強度、超低弾性係数及び優秀で酸素含有量の変化に安定した超弾性延伸率を実現できるチタン合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明は、合金元素としてNb、Zr及びOを含み、残部のTiと不可避不純物を含み、原子価電子比(e/a)が4.17〜4.22、Mo当量(Moeq)が7.50〜9.72、Al当量(Aleq)が1.42〜14.53である、チタン合金を提供する。
【0017】
また、前記原子価電子比(e/a)は4.19〜4.21、Mo当量(Moeq)が8.19〜9.03、Al当量(Aleq)であるとよい。
【0018】
また、前記チタン合金は、Nb:30〜34質量%、Zr:5.7〜9.7質量%、O:0.03〜1.0質量%を含むことができる。
【0019】
また、前記チタン合金は、冷間加工後、酸素濃度の増加に対する超弾性延伸率(%)減少の相関係数(%/質量%)が−0.5以上であるとよい。
【0020】
また、前記チタン合金は、冷間加工後、2.5%以上の超弾性延伸率を有するとよい。
【0021】
また、前記チタン合金は、冷間加工後、60GPa以下の弾性係数と、1000MPa以上の引張強度を有するとよい。
【0022】
また、前記チタン合金は、冷間加工後、引張強度(MPa)を平均弾性係数(GPa)で割った値が0.020以上であるとよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるチタン合金は、高い強度とともに超低弾性係数を維持することができて、図1に示されているように、弾性延伸率を著しく高めることができて、優れた超弾性特性が要求されるフレキシブルディスプレイ、ウェアラブル装置、航空宇宙分野、発電分野、生活用品分野など多様な分野への応用が可能である。
【0024】
また、本発明によるチタン合金は、酸素含有量の変化に伴う超弾性延伸率の偏差が極めて小さく、実際の大量操業時に不可避に発生する部位別酸素含有量の偏差にもかかわらず均一な素材物性を実現することができて、大量生産性に優れている。
【0025】
さらに、本発明によるチタン合金は、人体に対して毒性があるアルミニウム(Al)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)のような元素を含まず、生体内で耐食性の低いスズ(Sn)を含まないので、生体用材料にも好適に使用可能である。
【0026】
また、本発明によるチタン合金は、低弾性の実現には有利であるが、重くて融点の高いタンタル(Ta)を添加しなくても高強度及び超低弾性を実現するので、タンタル(Ta)を含む従来のチタン合金に比べて、製造が容易で組成の不均一がほとんどないチタン合金を生産することができる。
【0027】
さらに、本発明によるチタン合金は、成形性に優れ、90%以上の冷間成形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】従来のチタン合金と比較した、本発明によるチタン合金の超弾性特性を説明する図である。
図2】Ti−Nb−Zr−(O)合金において、原子価電子比(e/a)の変化に対する強度/弾性係数値を比較したものである。
図3】Ti−Nb−Zr−(O)合金において、Moeqの変化に対する強度/弾性係数値を比較したものである。
図4】Ti−Nb−Zr−(O)合金において、Aleqの変化に対する強度/弾性係数値を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付した図1図4を参照して、本発明による非線形的弾性変形をし、超高強度、超低弾性係数、安定的超弾性特性を同時に有するチタン合金(以下、「チタン合金」と称する)について説明する。
これに先立ち、本明細書及び請求の範囲に使われた用語や単語は、通常的で辞書的な意味で解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則って本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
【0030】
したがって、本明細書に記載された実施例と図面に示された構成は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想を全て代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替できる多様な均等物と変形例があり得ることを理解しなければならない。
【0031】
図1は、従来のチタン合金と比較した、本発明によるチタン合金の超弾性特性の違いを説明する図である。
【0032】
上述のように、人体に有害なアルミニウム(Al)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)などの合金元素、生体内で耐食性の低いスズ(Sn)と合金元素、重くて融点が極めて高いタンタル(Ta)のような合金元素を含まず、超低弾性係数と高強度を実現するために、Ti−Nb−Zr合金が開発された。
このTi−Nb−Zr合金の強度を高めるために、固溶強化元素の酸素(O)を添加すると、強度は高くなり、かつ、弾性係数も急激に増加する。
これにより、図1に示されているように、強度の増加に伴って、弾性変形率は大きな偏差を示すが、大量操業時には不可避に発生する酸素含有量の偏差が部位別に発生し、これによって、従来のチタン合金は、均一な素材物性を実現しにくいだけでなく、高強度と超低弾性係数を同時に実現しにくかった。
【0033】
図1に示されているように、高強度と超低弾性係数を同時に実現する場合、弾性変形率も著しく増加し、その偏差も減少する。
【0034】
本発明者らは、従来のTi−Nb−Zr系合金に酸素を固溶強化元素として添加しても弾性変形率の偏差が大きくなく、かつ、高強度と超低弾性係数を同時に実現できるチタン合金を開発するために努力した結果、従来のチタン合金設計で考慮されていなかった、チタン合金の原子価電子比(e/a)、ベータ相安定化元素のMo当量(Moeq)及びアルファ相安定化元素のAl当量(Aleq)を同時に所定範囲に維持する場合、上記の特性を同時に実現できることを見出し、本発明に至るようになった。
【0035】
本発明において、原子価電子比(e/a)、Mo当量(Moeq)とAl当量(Aleq)は次の式で求める。
[式1]
原子価電子比(e/a)=Ti(原子%)×0.04+Nb(原子%)×0.05+Zr(原子%)×0.04
[式2]
Mo当量(Moeq)=Nb(質量%)/3.6
[式3]
Al当量(Aleq)=Zr(質量%)/6+O(質量%)×10
【0036】
本発明によるチタン合金は、合金元素としてNb、Zr及びOを含み、残部のTiと不可避不純物を含む。
【0037】
すなわち、本発明によるチタン合金は、人体に対して毒性があるアルミニウム(Al)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)のような元素を含まず、生体内で耐食性の低いスズ(Sn)を含まず、融点が極めて高くて重いタンタル(Ta)を含有しない。
【0038】
前記原子価電子比(e/a)が4.17未満で4.22超過の場合、2%以上の超弾性延伸率、60GPa以下の弾性係数と、1000MPa以上の引張強度を同時に実現することができないので、4.17〜4.22が好ましく、原子価電子比(e/a)を4.19〜4.21となるようにすることがより好ましい。
【0039】
前記Mo当量(Moeq)が7.50未満で9.72超過の場合、2%以上の超弾性延伸率、60GPa以下の弾性係数と、1000MPa以上の引張強度を同時に実現することができないので、7.50〜9.72の範囲が好ましく、8.19〜9.03となるようにすることがより好ましい。
【0040】
前記Al当量(Aleq)は1.42未満で14.53超過の場合、2%以上の超弾性延伸率、60GPa以下の弾性係数と、1000MPa以上の引張強度を同時に実現することができないので、1.42〜14.53が好ましく、1.60〜10.78となるようにすることがより好ましい。
【0041】
前記範囲の原子価電子比(e/a)、ベータ相安定化元素のMo当量(Moeq)及びアルファ相安定化元素のAl当量(Aleq)を維持するための、Ti−Nb−Zr−O合金の組成としては、Nb:30〜34質量%、Zr:5.7〜9.7質量%、O:0.03〜1.0質量%を含むことが好ましい。
【0042】
また、本発明によるチタン合金は、合金の溶解及び不均一を阻害しない範囲でタンタル(Ta)を1質量%以下で少量含んでもよい。
【0043】
本発明によるチタン合金は、原料又は製造過程で不可避に含まれる不純物を含むことができ、これらの不純物は1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下となるように管理する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の好ましい実施例及び比較例によるチタン合金を通じて本発明をより詳細に説明する。
本発明の実施例1〜7と比較例1〜4によるチタン合金は、下記表1のような組成を有するようにチタン合金溶湯を製造し、鋳造してビレットを作った後、1000℃で熱間圧延後、常温まで冷却し、最終的に断面減少率90%で冷間圧延を実施して得た。
【0045】
【表1】
【0046】
また、前記表1の比較例5〜11によるチタン合金と下記表2の機械的物性は、以下の特許文献又は論文に開示されたものを示したものであり、原子価電子比(e/a)、モリブデン当量及びアルミニウム当量は、開示された組成により計算した値である。
【0047】
比較例5:大韓民国公開特許公報特2002−0026891
比較例6:Q.Liu et al.,Progress in Natural Science:Materials International,vol23(6)(2013)pp.562−565.
比較例7:H.Tobe et al.,Materials Transactions,vol50(2009)pp.2721−2725.
比較例8:C.H.Park et al.,Materials Science and Engineering A,vol527(2010)pp.4914−4919.
比較例9:大韓民国公開特許公報特2003−0061007
比較例10:S.Schneider et al.,Materials Research,vol8(2005)pp.435−438.
比較例11:S.Ozan et al.,Acta Biomaterialia,vol20(2015)pp.176−187.
【0048】
前記表1に示されているように、本願発明の実施例1〜7によるチタン合金は、原子価電子比(e/a)が4.17〜4.22、Mo当量(Moeq)が7.50〜9.50、Al当量(Aleq)が1.45〜14.53の範囲に含まれる。
【0049】
一方、比較例1〜11によるチタン合金は、必須原素として酸素(O)を含まなかったり、原子価電子比(e/a)が4.17〜4.22、Mo当量(Moeq)が7.50〜9.50、Al当量(Aleq)が1.45〜14.53の範囲に含まれない。
【0050】
前記表1の組成をもって後続加工又は熱処理を行ったチタン合金の機械的物性を評価した結果を、下記表2にまとめた。
【0051】
【表2】
【0052】
前記表2の結果を、図2図4にまとめた。
前記表2に示されているように、本発明の実施例1〜7によるチタン合金はいずれも、引張強度1000MPa以上、弾性係数50GPa以下の超低弾性係数を実現しながら、同時に2.5%以上の超弾性延伸率を実現している。すなわち、従来のチタン合金が実現することができなかった、高強度、超低弾性係数及び優れた超弾性延伸率を実現したのである。
【0053】
また、本願の実施例3、5及び6に示されているように、酸素含有量が増加しても超弾性延伸率の減少率は極めて低く、減少率は−0.5以上と緩やかになっていることが確認される。すなわち、本願の実施例によるチタン合金は、酸素含有量に対して安定した超弾性特性を実現することができる。
【0054】
一方、比較例1は、実施例1と比較する時、Nb及びZrの含有量は類似するが、酸素の含有量が不足し、本発明の実施例1〜7のような特性を実現することができず、比較例2は、実施例3と比較する時、Nb及びZrの含有量は類似するが、酸素の含有量が高すぎて、本発明の実施例1〜7のような特性を実現することができなかった。
【0055】
その他の比較例3〜11によるチタン合金は、Nb又はZrの含有量が本発明の実施例と異なり、その結果として、本発明の実施例1〜7に比べて強度が低かったり、弾性係数が高すぎたり、超弾性延伸率が低い特性を示した。
【0056】
図2図4は、前記表2の結果を図表で示したものである。
図2から確認されるように、実施例1〜7によるチタン合金の原子価電子比(e/a)は約4.175と4.225の間に位置し、本発明の実施例による原子価電子比(e/a)を有する実施例1〜7が、そうでない比較例に比べて高い引張強度/弾性係数比を示す。
【0057】
また、図3から確認されるように、実施例1〜7によるチタン合金のMo当量(Moeq)は8〜9の間に位置し、Mo当量(Moeq)がこの範囲に属しない比較例に比べて高い引張強度/弾性係数比を示す。
【0058】
さらに、図4から確認されるように、実施例1〜7によるチタン合金のAl当量(Aleq)は1.75〜11の間に位置し、これを外れた比較例に比べて高い引張強度/弾性係数比を示す。
【0059】
以上から確認されるように、上記の3つの条件を全て満足する本発明の実施例1〜7の合金は、高強度、超低弾性係数、高い超弾性延伸率を同時に実現することができるが、そうでない合金は、高強度、超低弾性係数、高い超弾性延伸率のうちの少なくとも1つを実現することができなかった。
図1
図2
図3
図4