(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
膨張用ガスのガス導入口を備えたエアバッグ本体と、前記エアバッグ本体内に前記ガス導入口を覆って取着固定されるインナー布部とを有し、前記膨張用ガスにより前記エアバッグ本体が膨張展開するエアバッグであって、
前記インナー布部は、長さ方向の一端がガス流出口として開口した第1開口端部と、長さ方向の他端がガス流出口として開口した第2開口端部とを有し、
前記インナー布部の取着固定部は、前記インナー布部の位置を前記エアバッグ本体の前記ガス導入口に対応させて、前記エアバッグ本体のガス導入口周縁部に固定され、
前記インナー布部の前記第1開口端部及び前記第2開口端部は、それぞれ、上下方向を向くように配されて、前記エアバッグ本体を構成するとともに前記インナー布部が取着固定された基布と当該基布に折り畳む前の状態で重なり合って対向する基布との間に挟まれた状態で、前記エアバッグ本体とともに所定の手順で、左右方向に沿った折り目にて折り畳まれて、上下別々の第1巻体部に少なくとも1回折り返された状態でそれぞれ巻き込まれてなる、
ことを特徴とするエアバッグ。
前記エアバッグは、前記エアバッグ本体を左右方向に沿った折り目にて前記インナー布部の前記第1開口端部及び前記第2開口端部を巻き込みながら上下方向に向けて折り畳まれて形成される上下別々の前記第1巻体部と、上下の前記第1巻体部の形成後に前記エアバッグ本体に形成された上下の前記第1巻体部を上下方向に沿った折り目にて左右方向に向けて折り畳まれて形成される左右別々の第2巻体部とを有してなる請求項1記載のエアバッグ。
前記インナー布部は、1枚の矩形状の基布を用いて、同基布の相対する二辺の端縁部を重ね合わせ、その重ね合わせた前記端縁部同士を接合することによって筒状に構成され、
前記インナー布部の前記端縁部間の接合は、前記エアバッグの膨張展開中に破断可能な強度を有してなる、
請求項1又は2記載のエアバッグ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エアバッグを先に上下方向に折り畳み(横折りし)、その後で左右方向に折り畳む(縦折りする)ような特許文献1のエアバッグ装置や、エアバッグの内側に整流布を設けて、エアバッグ内に噴出された高温、高圧ガスを整流布によりエアバッグの上下方向へ分岐させるようにした特許文献2のエアバッグ装置では、エアバッグが膨張展開する際に、乗員の姿勢にかかわらず、乗員を適切に保護するために、インパネの配置や形態などを含めた車両前席周りのレイアウトを工夫したり、また、特別な制御装置や特別な構造を採用したりする必要があった。
【0007】
その結果、車両のデザインや各種部品の配置が制限され、設計の自由度の低下を招くことや、製造コストの増大を招くことがあった。このため、より簡単な構造で、エアバッグを乗員側方向に直交する方向へより迅速に膨張展開できるようにするエアバッグ装置を開発することが望まれていた。
【0008】
そこで、本発明は、特別な制御装置などを用いることなく、簡単な構造をもって、エア
バッグを乗員側方向に直交する方向へより迅速に且つ広く膨張展開させて、乗員の着座姿勢に関わらず、乗員を前方側から広い面積で安定して緩衝支持することが可能なエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明により提供されるエアバッグは、基本的な構成として、膨張用ガスのガス導入口を備えたエアバッグ本体と、前記エアバッグ本体内に前記ガス導入口を覆って取着固定されるインナー布部とを有し、前記膨張用ガスにより前記エアバッグ本体が膨張展開するエアバッグであって、前記インナー布部は、長さ方向の一端がガス流出口として開口した第1開口端部と、長さ方向の他端がガス流出口として開口した第2開口端部とを有し、前記インナー布部の取着固定部は、前記インナー布部の位置を前記エアバッグ本体の前記ガス導入口に対応させて、前記エアバッグ本体のガス導入口周縁部に固定され、前記インナー布部の前記第1開口端部及び前記第2開口端部は、
それぞれ、上下方向を向くように配されて、前記エアバッグ本体を構成するとともに前記インナー布部が取着固定された基布と当該基布に折り畳む前の状態で重なり合って対向する基布との間に挟まれた状態で
、前記エアバッグ本体とともに所定の手順で
、左右方向に沿った折り目にて折り畳まれて、
上下別々の第1巻体部に少なくとも1回折り返された状態で
それぞれ巻き込まれてなることを最も主要な特徴とするものである。
【0011】
この場合、前記エアバッグは、前記エアバッグ本体を左右方向に沿った折り目にて前記インナー布部の前記第1開口端部及び前記第2開口端部を巻き込みながら上下方向に向けて折り畳まれて形成される
上下別々の前記第1巻体部と、
上下の前記第1巻体部の形成後に前記エアバッグ本体
に形成された上下の前記第1巻体部を上下方向に沿った折り目にて左右方向に向けて折り畳まれて形成される
左右別々の第2巻体部とを有していることが好ましい。
【0012】
更に、本発明のエアバッグにおいて、前記インナー布部は、1枚の矩形状の基布を用いて、同基布の相対する二辺の端縁部を重ね合わせ、その重ね合わせた前記端縁部同士を接合することによって筒状に構成され、前記インナー布部の前記端縁部間の接合は、前記エアバッグの膨張展開中に破断可能な強度を有していることが好ましい。
【0013】
そして、本発明によれば、上述した構成を備えるエアバッ
グと、膨張用ガスを発生させるインフレータと、前記インフレータ及び前記エアバッグを保持するリテーナとを備え、前記膨張用ガスが、前記インナー布部内に供給され、前記インナー布部の前記第1及び第2開口端部の前記ガス流出口を介して前記エアバッグ本体内に流入することにより、前記エアバッグ本体が膨張展開することを最も主要な特徴とするエアバッグ装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により提供されるエアバッグでは、複数の基布を用いて構成されたエアバッグ本体内に、エアバッグ本体のガス導入口を覆う筒状のインナー布部が取着固定されるが、この筒状のインナー布部は、インナー布部の長さ方向の両端にガス流出口が形成されており、一方のガス流出口を備えた第1開口端部と、他方のガス流出口を備えた第2開口端部と、エアバッグ本体に取着固定される第1開口端部と第2開口端部との間の領域に開口したインナー開口部とを有する。
【0015】
また、筒状のインナー布部は、インナー開口部の位置をエアバッグ本体のガス導入口に対応させて取着固定部をエアバッグ本体のガス導入口周縁部に縫製等により固定することによってエアバッグ本体内に取り付けられている。更に、エアバッグ本体内に配されるインナー布部の第1及び第2開口端部は、エアバッグ本体が所定の手順で折り畳まれる際に、エアバッグ本体を構成する基布間に挟まれた状態でエアバッグ本体と一緒に所定の手順
で折り畳まれている。
【0016】
このような本発明のエアバッグによれば、インフレータで発生した膨張用ガスはインナー布部を通じてエアバッグ内に供給される。この場合、先ず、インナー布部が膨張して展開するが、インナー布部の第1開口端部と第2開口端部とは上述のようにエアバッグ本体と一体に折り畳まれている。
【0017】
このため、インナー布部が膨張することによって、インナー布部の第1及び第2開口端部の折り返しが積極的に広げられる(展開する)と同時に、その第1及び第2開口端部と一緒に折り畳まれているエアバッグ本体の折り畳み部分の折り返しも広げる(展開させる)ため、エアバッグ本体の乗員側方向に直交する方向への展開が促進され、エアバッグ本体を膨張初期の段階で乗員側方向に直交する方向へより迅速に膨張展開させることができる。
【0018】
更に、インナー布部の第1及び第2開口端部の折り畳みが解消されると、そのインナー布部の第1及び第2開口端部に形成されたガス流出口を介して、膨張用ガスを乗員側方向に直交する方向に向けてエアバッグ本体内に噴き出すことができるため、乗員側方向に直交する方向へのエアバッグの膨張展開を更に促しながら、エアバッグを車両後方に向けて展開膨張させることができる。
【0019】
このように、本発明のエアバッグでは、特別な制御装置などを用いることなく、簡単な構造をもって、エアバッグを乗員側方向に直交する方向へより迅速に且つ広く膨張展開させて、エアバッグの乗員側の壁部(乗員対向部)を車両後方側へ移動させることができる。これにより、乗員が例えばインパネに接近して着座したり、前傾姿勢で着座したりする場合でも、本発明のエアバッグによって乗員を前方側から広い面積をもって安定して緩衝支持して、乗員の安全を適切に確保することができる。
【0020】
このような本発明のエアバッグにおいて、インナー布部は、第1開口端部及び第2開口端部が上下方向を向くように配されている。
なお本明細書において、前方とは、主としてエアバッグに対してインフレータが配される方向を言い、後方とは、主としてエアバッグが膨張してインパネの開口部から飛び出す方向を言う。また、乗員側方向とは、エアバッグ装置の配置や向きによるものの、本発明では、説明を判り易くするために、主に後方を意味するものとする。
【0021】
また、「左右方向」とは、上述した前後方向に直交する方向であって、車幅方向に沿った方向を言い、乗員側からエアバッグを見たときの左方及び右方をそれぞれ左方向及び右方向とする。更に、「上下方向」とは、上述した前後方向と左右方向とに直交する方向を言い、例えば車高方向に沿った方向を言う。
【0022】
上述のようにインナー布部が第1及び第2開口端部を上下方向に向けて配されていることにより、膨張用ガスの供給によりインナー布部が膨張したときに、インナー布部から噴きだす膨張用ガスの流れを上下方向に安定して向けることができる。このため、エアバッグの上下方向への展開を積極的に促して、エアバッグを、例えば乗員に接触する前に、上下方向に迅速に膨張展開させることができる。それにより、例えば膨張展開中のエアバッグが乗員の顎下に入り込んで乗員の頭部を突き上げるといった事態が生じることを確実に防止することができる。
【0023】
またこの場合、本発明のエアバッグは、エアバッグ本体を左右方向に沿った折り目にてインナー布部の第1開口端部及び第2開口端部を巻き込みながら上下方向に向けて折り畳まれて形成される第1巻体部と、第1巻体部の形成後にエアバッグ本体を上下方向に沿っ
た折り目にて左右方向に向けて折り畳まれて形成される第2巻体部とを有している。
【0024】
これにより、膨張用ガスが供給されてインナー布部が展開膨張すると、インナー布部の第1及び第2開口端部の折り畳みを解消して、膨張用ガスの流れがインナー布部により上下方向に向けられると同時に、後から左右方向に向けて折り畳まれた第2巻体部の折り畳みを先に解消するようにしてエアバッグが展開する。
【0025】
従って、エアバッグを、上述したように上下方向へ向けて迅速に膨張させるとともに、そのエアバッグの上下方向への展開よりも早く、左右方向への展開も迅速に行われるため、乗員側方向に直交する左右方向及び上下方向に開いたエアバッグによって、乗員を前方側からより広い面積で安定して緩衝支持することができる。
【0026】
更に、本発明のエアバッグにおいて、インナー布部は、1枚の矩形状の基布を用いて、同基布の相対する二辺の端縁部を重ね合わせ、その重ね合わせた端縁部同士を接合することによって筒状に構成され、そのインナー布部の端縁部間の接合は、エアバッグの膨張展開中に破断可能な強度を有している。
【0027】
すなわち、本発明のエアバッグにおいて、インナー布部の接合部分は、例えば、エアバッグの折り畳みが解消される段階、すなわち、エアバッグを乗員側方向に直交する方向(上下方向や左右方向)に展開させる段階では維持されて、当該インナー布部により、上述のような膨張用ガスの流れを制御でき、その後、エアバッグがある程度広く展開して乗員側方向(車両後方)に向けて膨張させる段階において、インナー布部の接合部分は、次第に増大する膨張用ガスの温度及び圧力を受けて破断するように構成されている。
【0028】
このようにエアバッグの膨張展開途中でインナー布部の接合部分が破断することにより、エアバッグ本体に対する膨張用ガスの局部的な集中を防止できるため、エアバッグ本体に対して部分的な補強を行う必要がなくなるとともに、エアバッグの乗員側方向に向けた展開膨張を所定の挙動で円滑に行うことができる。
【0029】
そして、本発明によれば、上述した構成を備えたエアバッ
グと、膨張用ガスを発生させるインフレータと、インフレータ及びエアバッグを保持するリテーナとを備え、インフレータから発生する膨張用ガスが、インナー布部内に供給され、そのインナー布部の第1及び第2開口端部の前記ガス流出口を介してエアバッグ本体内に流入することにより、前記エアバッグ本体が膨張展開するエアバッグ装置が提供される。
【0030】
このような本発明のエアバッグ装置であれば、特別な制御装置や特別な構造などを用いることなく、簡単な構造をもって、エアバッグを乗員側方向に直交する方向へより迅速に且つ広く展開させながら、乗員側方向へ向けて膨張させることができる。このため、乗員の着座姿勢に関わらず、乗員をエアバッグによって前方側から広い面積で安定して緩衝支持できるため、乗員の安全を適切に確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
ここで、
図1は、本実施形態に係るエアバッグ装置20が搭載されたインパネを示す斜視図である。
図2は、同エアバッグ装置20の使用態様を示す車幅方向に直交する方向の断面図である。
図3は、同エアバッグ装置20のエアバッグを単体で展開膨張させた状態の斜視図である。また、
図4は、同エアバッグのエアバッグ本体内に配されるインナー布部を示す斜視図であり、
図5は、同エアバッグを構成する部材を分解した状態で示す平面図である。
【0033】
本実施形態のエアバッグ装置20は、
図1及び
図2に示すように、インパネ1の表面における上面1a側の内部に配置されるトップマウントタイプである。このエアバッグ装置20は、所定の手順で折り畳まれたエアバッグ10と、エアバッグ10に膨張用ガスを供給するシリンダ型のインフレータ9と、エアバッグ10及びインフレータ9を収納保持するケース4と、エアバッグ10をケース4に取り付けるためのリテーナ7と、折り畳まれたエアバッグ10を覆うエアバッグカバー3と、エアバッグカバー3をケース4に強固に連結するための二つの押え板8と、を備えて構成されている。
【0034】
エアバッグ10をケース4に取り付けるリテーナ7は、四角環状の板金製として、所定位置に下方へ延びる複数の取付ボルト71aを備えて構成されている。リテーナ7は、各取付ボルト71aをエアバッグ10の後述する取付孔14に挿通させるとともに、ケース4の底壁部51bや押え板8の横板部81に挿通させて、各取付ボルト71aにナット71bを螺合させることにより、ケース4に取り付けられる。
【0035】
インフレータ9は、ケース4の下部室6内に収納保持されている。なお本実施形態では、インフレータ9として、シリンダ型のインフレータを用いる場合を図示しているが、本発明では、略円柱形状の外形を呈するディスク型のインフレータを使用しても良い。
【0036】
エアバッグカバー3は、オレフィン系やエステル系等の熱可塑性エラストマー等から形成されて、インパネ1の長方形状に開口する開口2を塞ぐように配置される天井壁部31と、天井壁部31の下面から下方へ延びる略四角筒形状の側壁部34とを有する。
【0037】
天井壁部31は、側壁部34に囲まれた内側に、周囲に薄肉の破断予定部33を配置させて、一つの扉部32を配設させている。この扉部32は、展開膨張するエアバッグ10に押されて破断予定部33が破断した際に、その基端側の端縁部をヒンジ部として回転し、車両の前方側に開くこととなる。なお、本実施形態のエアバッグカバー3は、インパネ1と別体に形成されているが、本発明はこれに限定されず、エアバッグカバーがインパネの一部を構成するようにインパネと一体的に形成されていても良い。
【0038】
押え板8は、横板部81と横板部81の端部から上方へ延びる縦板部82とを備えた断面L字形として、ケース4の車両の前後方向の部位にそれぞれ配置されている。そして、各横板部81には、リテーナ7の各取付ボルト71aを挿通させる貫通孔(図符号省略)が形成され、各縦板部82の上端は、ケース4の係止突起41に挿通可能に形成されている。
【0039】
ケース4は、上方を開口させた直方体形状の上部室5と、上部室5と連通するように、ケース4の下部側に配置される下部室6とを有する。上部室5は、略四角筒形状の周壁部51aと、周壁部51aの下部に配置される底壁部51bとから構成されている。底壁部51bには、リテーナ7の各取付ボルト71aを挿通させるための貫通孔(図符号省略)が形成されている。
【0040】
エアバッグ10は、エアバッグ本体10aと、エアバッグ本体内10aに配されるインナー布部19と、エアバッグ本体10aとインナー布部19の間に介装される補強布(防護布や補強バッチとも呼ばれる)17とを有する。エアバッグ本体10aは、後述するように前方側半部を構成する略円形状の第1基布11の周縁部と、後方側半部を構成する第2基布16の周縁部とを互いに縫い合わせることにより形成されており、
図3に示すように、中心部分が盛り上がるように立体的に丸く膨張展開するような袋状の形態を有している。また、エアバッグ本体10aの内部には、エアバッグ10内に流入する膨張用ガスの流れを変えて整流を行うインナー布部19が取着されている。
【0041】
また、エアバッグ本体10aの前方側下半部(特に、その前方側下半部における幅方向中央部の前端部)には、インフレータ9で発生した膨張用ガスをエアバッグ10内に流入させる長方形状に開口したガス導入口12が設けられている。本実施形態の場合、このガス導入口12は、第1基布11の中心部よりも少し下側の領域に設けられている。
【0042】
また、ガス導入口12の周縁部には、複数の取付孔14が貫通されており、これらの取付孔14には、リテーナ7の各取付ボルト71aが挿通されて、エアバッグ10が、ケース4の底壁部51bに保持されることとなる。更に、エアバッグ本体10aの前方側半部における左右側方側の所定位置には、余剰の膨張用ガスを排気するベントホール15が設けられている。
【0043】
このようなエアバッグ本体10aは、
図4に示すように、ポリアミドやポリエステル等の糸を用いて織成された第1基布11と第2基布16とを縫目Aにて縫合して製造されており、これらの第1基布11と第2基布16は、平面的な縫合作業によって立体的なエアバッグ10を縫製できるように形成されている。
【0044】
インナー布部19は、第1基布11と第2基布16から構成されるエアバッグ本体10a内に配され、エアバッグ本体10a内に供給される膨張用ガスを所定の方向に案内する部材である。このインナー布部19は、エアバッグ本体10aと同じ材質の糸を用いて織成された基布を、
図3及び
図4に示すように、筒状に形成して構成されており、筒体の上端部と下端部とがガス流出口として開口した上下開口端部19b,19cとなっている。
【0045】
また、この筒状のインナー布部19では、筒体の胴体部における一部の領域がエアバッグ本体10aに取着固定される取着固定部(底面部)として構成されている。また、この取着固定部に対して左右の側壁部が立ち上がるとともに、左右の側壁部の先端部同士が接合されて筒状を形成している。
【0046】
また、筒状のインナー布部19の取着固定部における上下開口端部19b,19c間に配される領域には、インナー開口部19aが形成されており、このインナー布部19は、その取着固定部(底面部)に設けたインナー開口部19aの位置を、エアバッグ本体10aの第1基布11に設けられたガス導入口12に対応させて、インナー布部19のインナー開口部19aとエアバッグ本体10aのガス導入口12とを連通させた状態でエアバッグ本体10aの第1基布11に固定されて取着されている。
【0047】
このため、インフレータ9で発生した膨張用ガスがエアバッグ10に供給されてエアバッグ本体10aが膨張展開するときには、インフレータ9で発生した膨張用ガスが、エアバッグのガス導入口12とインナー布部側面のインナー開口部19aとを介してインナー布部19内に導入され、更に、インナー布部19の上下端部の開口から、エアバッグ本体10aの内部に向けて噴き出される。
【0048】
また、インナー布19としては、
図4に示すように、中央にインナー開口部19aを設けた一枚の布を用いて、このインナー開口部19aをエアバッグのガス導入口12に合わせて取着固定した後に、左右の側壁部の先端同士を接合して形成しても良いし、また、二枚の布の一端部を、エアバッグのガス導入口12の周囲にそれぞれ取着固定した後に、他端部を接合して形成しても良い。
【0049】
さらに、二枚の布の一端部に、これらが接した場合にインナー開口部19aを形成する切り欠き部を設けておき、これらの一端部を揃え、形成されるインナー開口部19aをエアバッグのガス導入口12に合わせて取着固定した後に、左右の側壁部の先端同士を接合して形成しても良い。
【0050】
このインナー布部19をエアバッグ本体の第1基布11に固定する場合は、エアバッグ10の内周面側におけるガス導入口12周縁の取付孔14付近に、ポリアミドやポリエステル等の糸から織成された補強布17が配設されるため、この補強布17を間に挟んだ状態で、インナー布部19がエアバッグ本体10aの第1基布11に縫製により固定される。
【0051】
特に本実施形態の場合、
図4に示すように、インナー布部19は縫目Cで補強布17に縫合されており、さらに、その補強布17は縫目Bで第1基布11に縫合されている。また、この補強布17には、エアバッグ10のガス導入口12及びインナー布部19のインナー開口部19aの形成位置に対応する位置に開口部17aが形成されている。
【0052】
なお、本発明において、補強布17をエアバッグ本体10aとインナー布部19との間に配設するか否かは任意であり、上述のような補強布17を配設しない場合には、インナー布部19はエアバッグ本体10aの第1基布11に直接縫合される。
【0053】
また、インナー布部19をエアバッグ本体10aに固定する手段も特に限定されず、例えばリテーナ7の取付ボルト71aをインナー布部19及びエアバッグ本体10aに形成した各取付孔14を介して挿通させることのみによって、インナー布部19がエアバッグ本体10aに取り付け固定されていても良い。
【0054】
本実施形態において、インナー布部19は、
図5に示すように、略矩形状のインナー布部素材18の左右端縁部を重ね合わせて円筒状に縫うことにより構成されている。この場合、略矩形状のインナー布部素材18は、中央部にインナー開口部19aとなる開口部18aをエアバッグ本体10aのガス導入口12に対応するように備えるとともに、その中央部から左右方向(車幅方向)に延びる左右の帯部18b及び18b’を備えている。
【0055】
従って、インナー布部19は、左右の帯部18b及び18b’の先端縁部(すなわち、略矩形状のインナー布部素材18の相対する二辺側の端縁部)を相互に重ね合わせて縫合することによって、上端及び下端が開口した円筒状に形成されており、この円筒状のインナー布部19の筒胴体部に、ガス導入口12に対応するインナー開口部19aが形成されている。
【0056】
次に、本実施形態のエアバッグ10を製造する方法について説明する。
先ず、
図4及び
図5に示すように、インナー布部素材18を縫糸を用いて縫目Cで補強布17に縫合し、更に、その補強布17を、第1基布11のガス導入口12の開口周縁部に縫糸を用いて縫目Bで縫合する。続いて、インナー布部素材18の左右の帯部18b及び18b’の先端縁部同士を、
図4に示すように、縫糸を用いて縫い目Dで縫合することにより、上端部及び下端部が開口した筒状体のインナー布部19を形成する。その後、第1基布11に第2基布16を重ね、縫い糸を用いて、重ね合わせた第1及び第2基布11
,16の外周縁部を相互に縫目Aで縫合して、エアバッグ本体10aを袋状に形成する。
【0057】
この場合、インナー布部素材18の左右の帯部18b及び18b’の端部同士の縫合等による接合部分は、エアバッグ本体10aの折り畳みが解消されて膨張展開する際に、特にエアバッグ本体10aを上下方向及び左右方向に展開させる段階において、又はエアバッグ本体10aを車両後方に向けて展開膨張させる段階において破断するよう調整されている。
【0058】
通常、膨張用ガスが発生してから、エアバッグ10の折り畳みの解消及び鉛直方向への展開膨張が完了するまでの時間は約15msec程度であって、この間に供給される膨張用ガスの温度及び圧力は次第に増加していく。このため、本実施形態のインナー布部19では、膨張用ガスが発生してから所定の時間内に、膨張用ガスの温度及び圧力で破断するように、インナー布部19の接合部分の強度(すなわち、インナー布部素材18の帯部18b及び18b’の端部間の接合強度)が調整されている。
【0059】
この場合、インナー布部19の接合部分の強度は、例えば、縫合に用いる糸の強度を調整すること、縫い糸の密度を調整すること、及び帯部18b、18b’にスリットを設けること等により、所定の大きさに制御されている。
【0060】
このように、エアバッグ10を車両後方に向けて展開膨張させる際の所定の段階で、インナー布部18の接合部分を破断することにより、エアバッグ本体10aに対する膨張用ガスの局部的な集中を防止できとともに、エアバッグ10の車両後方に向けた展開膨張を所定の挙動で円滑に行うことができる。
【0061】
なお、
図4においては、インナー布部素材18の左右の帯部18b及び18b’の先端縁部間の合わせ目(すなわち、インナー布部19の接合部分)が、筒状のインナー布部19の中心軸と平行に設けられている。
【0062】
しかし、本発明では、インナー布部19の接合部分の破断が上述のような適切な時期に生じる限り、インナー布部19の接合部分は、インナー布部19の中心軸に平行でなくても良い。例えば、インナー布部19の位置や大きさ、インフレータ9の位置等によって、インナー布部19の接合部分を前記中心軸に対して斜めの向きに設けても良く、また、インナー布部19の縫目Dを直線状に形成するのではなく、曲線状やジグザグ状に形成することも可能である。
【0063】
以上のような縫製を行ってエアバッグ10が形成された後、エアバッグ本体10a内にリテーナ7を収容してインナー布部19の内部に配置するとともに、当該リテーナ7の取付ボルト71aをインナー布部19、補強布17、及びエアバッグ本体10aに形成した各取付孔14を介して、エアバッグ10の外側に突出させる。これにより、エアバッグ10にリテーナ7が取り付けられる(言い換えると、エアバッグ10がリテーナ7に保持される)。
【0064】
エアバッグ10にリテーナ7を取り付けた後、エアバッグ10をインナー布部19とともに所定の手順で折り畳む。ここで、エアバッグ10の折り畳み工程について
図6を用いて説明する。なお、以下に説明するエアバッグ10の折り畳み工程は1つの例であり、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の手順や方法を用いてエアバッグを折り畳むことも可能である。
【0065】
図6は、第1基布11と第2基布16を縫合して形成されたエアバッグ10をリテーナ7に取り付けた後、折り畳む工程を表したものであり、各折り畳み工程におけるエアバッ
グ10の背面図及び側面図を主として示している。なお、
図6には図示していないが、この実施形態においては、エアバッグ10におけるインナー布部19は、その上側及び下側開口端部19b,19cが上下方向に向くように配置されている。
【0066】
図6において、矢印で示す方向Hは車幅方向(エアバッグ10の左右方向)を示し、また、矢印で示す方向Vは、高さ方向(エアバッグ10の上下方向)を示している。なお、エアバッグ10の背面図において、ガス導入口12及びベントホール15は、第2基布16の裏側にある第1基布11に設けられている。
【0067】
図6(A)は、リテーナ7がガス導入口12(及びインナー布部19のインナー開口部19a)の周縁部に配されるリテーナ取付部7aに取り付けられたエアバッグ10を示している。エアバッグ10は前面(正面)側に第1基布11を有するとともに、後面(背面)側に第2基布16を有しており、前面側の第1基布11の上端部には、左右のベントホール15が設けられている。
【0068】
まず、
図6の(A)及び(B)に示すように、エアバッグ本体10aの上下方向にある端部であって、ベントホール15を有さない側の端部(この実施形態の場合は、下端部)を、リテーナ取付部7aの下端部に沿って内折りして、反対側の上方に向けて折り返す。このとき、エアバッグ本体10a内に取着固定されたインナー布部19の下側開口端部19cも、エアバッグ本体10aの第1基布11と第2基布16の間に挟まれた状態で一緒に折り返される。続いて、エアバッグ本体10aの折り返した端部(下端部)を、幅方向(左右方向)に沿った折り目を形成しながら、元の方向(下方)に向けて複数回の内ロール折りで折り返す。
【0069】
これによって、インナー布部19の下側開口端部19cがエアバッグ本体10aとともに折り畳まれた下側の第1巻体部が形成されて、
図6(C)に示した状態となる。この場合、本実施形態では、インナー布部19の下側開口端部19cは、1回折り返された状態で、エアバッグ本体10aの下半部を折り畳んだ第1巻体部に一緒に折り込まれている。すなわち、インナー布部19の下側開口端部19cは、エアバッグ本体10aの下半部を折り畳んだ第1巻体部の最もガス導入口12側に近い1段目の折り畳み部分に一体に折り畳まれている。
【0070】
次に、エアバッグ10の上下方向にあるもう一方の端部であって、ベントホール15を有する側の端部(この実施形態の場合は、上端部)についても同様に、
図6(D)に示すように、リテーナ取付部7aの上端部に沿って内折りして、反対側の下方に向けて折り返す。このとき、エアバッグ本体10a内に取着固定されたインナー布部19の上側開口端部19bも、エアバッグ本体10aの第1基布11と第2基布16の間に挟まれた状態で一緒に折り返される。
【0071】
続いて、エアバッグ本体10aの折り返した端部(上端部)を、幅方向(左右方向)に沿った折り目を形成しながら、元の方向(上方)に向けて複数回の内ロール折りで折り返す。
【0072】
これによって、インナー布部19の上側開口端部19bがエアバッグ本体10aとともに折り畳まれた上側の第1巻体部が形成されて、
図6(E)に示した状態となる。この場合、本実施形態では、インナー布部19の上側開口端部19bは、1回折り返された状態で、エアバッグ本体10aの上半部を折り畳んだ第1巻体部に一緒に折り込まれている。すなわち、インナー布部19の上側開口端部19bは、エアバッグ本体10aの上半部を折り畳んだ第1巻体部の最もガス導入口12側に近い1段目の折り畳み部分に一体に折り畳まれている。
【0073】
なお本実施形態では、インナー布部19の上側開口端部19b及び下側開口端部19cは、エアバッグ本体10aとともに折り畳まれて、1回折り返された状態(巻体の最もガス導入口12側に近い1段目の折り畳み部分のみに折り畳まれた状態)となっている。しかし、本発明では、例えば車両のレイアウトやエアバッグ装置の配設位置などに応じて、インナー布部19の上側開口端部19b及び/又は下側開口端部19cが、1回折り返されるだけにとどまらず、2回折り返されて、第1巻体部の最もガス導入口12側に近い1段目の折り畳み部分と、その隣の2段目の折り畳み部分とに一体に折り畳まれていても良い。
【0074】
次に、
図6(F)に示すように、上下方向に折り畳まれて第1巻体部が形成されたエアバッグ10の左右方向にある一方の端部(この実施形態の場合は、右端部)を、リテーナ取付部7aの右側縁部に沿って内折りして、反対側の左方向に向けて折り返す。続いて、その折り返した右端部を、上下方向に沿った折り目を形成しながら、元の右方向に向けて複数回の内ロール折りで折り返す。これにより、右側の第2巻体部が形成される。
【0075】
その後、エアバッグ10の左右方向にあるもう一方の左端部についても同様に、リテーナ取付部7aの左側縁部に沿って内折りして、反対側の右方向に向けて折り返す。続いて、その折り返した左端部を、上下方向に沿った折り目を形成しながら、元の左方向に向けて複数回の内ロール折りで折り返す。これにより、左側の第2巻体部が形成されて、
図6(G)に示した状態となる。
【0076】
更に、エアバッグ10を上述のようにして折り畳んだ後、第1巻体部及び第2巻体部が折り崩れしないように、折り畳んだエアバッグ10を破断可能なラッピングシート(図示を省略)で包んで固定する。そして、ラッピングシートで折り畳み状態が固定されたエアバッグ10は、リテーナ7にインフレータ9が取り付けられ、更に、そのインフレータ9とともにケース4に収納保持されることによって、
図2に示したようなエアバッグ装置20が構成される。
【0077】
このようにして構成された本実施形態のエアバッグ装置20では、車両の衝突等によりインフレータ9から膨張用ガスが発生すると、先ず膨張用ガスが筒状のインナー布部19内に供給されて、インナー布部19を膨らませる。
【0078】
このとき、インナー布部19の上側開口端部19b及び下側開口端部19cはエアバッグ本体10aとともに折り畳まれているため、その上側開口端部19b及び下側開口端部19cの折り返しを戻すように、先に折り畳んだ上下の第1巻体部の折り畳みを部分的に解消しながら、インナー布部19の上側開口端部19b及び下側開口端部19cからエアバッグ本体10aの内部に膨張用ガスを噴き出す。これにより、エアバッグ本体10aは、上下の第1巻体部の折り畳みを部分的に解消しつつ、後から折り畳んだ左右の第2巻体部の折り畳みを解消するように、左右方向に膨張展開する。
【0079】
更に、エアバッグ本体10aは、左右方向への膨張展開を進めながら、インナー布部19によって膨張用ガスの流れが上下方向に向けられているため、上下の第1巻体部の折り畳みを解消するように、上下方向への膨張展開も効果的に促すことができる。
【0080】
従って、本実施形態のエアバッグ10では、特別な制御装置や特別な構造などを用いることなく、簡単な構造をもって、エアバッグ本体10を乗員側方向に直交する上下左右方向に迅速に且つ広く展開させて、エアバッグを車両後方に向けて、特にフロントウインドシールドに沿わせながら車両後方に向けて、安定して膨張させることができる。
【0081】
これにより、乗員が例えばインパネ1に接近して着座したり、前傾姿勢で着座したりする場合でも、本実施形態のエアバッグ10を乗員側方向に直交する方向へ効率的に広くことができるため、当該エアバッグ10によって乗員を前方側から広い面積をもって安定して緩衝支持でき、乗員の安全を適切に確保することができる。
【0082】
特に本実施形態のエアバッグ10は、上述のように、上下方向に向けてインナー布部19の上側開口端部19b及び下側開口端部19cを巻き込みながら折り畳んで第1巻体部を形成した後に、その第1巻体部を左右方向に向けて折り畳んで第2巻体部を形成して構成されている。このため、膨張用ガスがインナー布部19に供給されてエアバッグ本体10a内に吹き出されると、後から折り畳まれた第2巻体部の折り畳みを、第1巻体部よりも先に解消するようにしてエアバッグを展開させることができる。
【0083】
これにより、エアバッグ10を早く開かせることができるため、乗員側方向に直交する左右方向にも上下方向にも広く開いたエアバッグによって乗員を保護することができる。
【0084】
その上、本実施形態のエアバッグ10では、インナー布部19の縫い目Dで縫合された接合部分が、エアバッグの膨張展開中に膨張用ガスの温度及び圧力を受けて破断可能な強度を有して形成されている。これにより、エアバッグ10の初期段階では膨張用ガスの流れを上下方向に促してエアバッグ10を上下方向に積極的に膨張展開させることができる。
【0085】
また、インフレータ9から膨張用ガスが発生して所定時間経過すると、言い換えると、エアバッグ10が所定の段階まで膨張展開すると(例えばエアバッグ10が左右方向及び上下方向にある程度の広さまで膨張展開すると)、次第に増大する膨張用ガスの温度及び圧力によってインナー布部19の接合部分が破断することによって、インナー布部19による膨張用ガスの整流作用が終了する。
【0086】
これにより、膨張展開終了までエアバッグ本体10の一部に膨張用ガスが局部的に集中して吹き付けられることを防止できるため、エアバッグ本体10に部分的な補強を行う必要がなくなり、製造コストを抑えることができる。更に、インナー布部19の接合部分の破断によって、膨張用ガスをエアバッグ10の全体に効率的に行き渡らせることができるため、エアバッグの展開膨張を所定の挙動で円滑に行うことができる。
【0087】
なお、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。例えば、
図1のエアバッグ装置20は、助手席前方のインパネ1の上面1aの内側に配設される場合について説明しているが、本発明のエアバッグ装置20は、必要に応じて、ステアリングホイールなどの車両のその他の部分に装備されるエアバッグ装置(例えば運転席用のエアバッグ装置)にも同様に適用することが可能である。