(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491831
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/52 20060101AFI20190318BHJP
C04B 35/83 20060101ALI20190318BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20190318BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20190318BHJP
F16J 15/34 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
C04B35/52
C04B35/83
C04B14/38
C08J5/04CEZ
F16J15/34 F
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-150894(P2014-150894)
(22)【出願日】2014年7月24日
(65)【公開番号】特開2016-23125(P2016-23125A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 敦哉
(72)【発明者】
【氏名】遠宮 賢輔
【審査官】
吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−029368(JP,A)
【文献】
特開2002−180369(JP,A)
【文献】
特開2004−306531(JP,A)
【文献】
特開昭57−117661(JP,A)
【文献】
特開2009−029651(JP,A)
【文献】
特開平05−345668(JP,A)
【文献】
特開平06−183835(JP,A)
【文献】
米国特許第05525558(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/83
C04B 35/52
C04B 14/38
D04H 1/4242
C08J 5/04
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維および固定剤粉末をミキサーに投入し、前記ミキサーにより前記炭素繊維を解繊させつつ前記固定剤粉末と解繊した前記炭素繊維を混合させて、混合体を形成する第一工程と、前記混合体を金型に入れて熱間圧縮成形し成形品を形成する第二工程と、前記成形品を焼成する第三工程とを有し、
前記炭素繊維は集束剤を除去した炭素繊維であり、前記第一工程においては前記集束剤を除去した前記炭素繊維を解繊して前記混合体を形成することを特徴とする、摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【請求項2】
前記ミキサーは、前記炭素繊維および固定剤粉末を撹拌および混合する撹拌部と、前記炭素繊維および固定剤粉末を前記ミキサー内で循環させる循環部と、を有し、
前記第一工程において、前記循環部により前記炭素繊維を循環させることで、前記撹拌部に前記炭素繊維を接触させて解繊させることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【請求項3】
前記混合体は、乾燥雰囲気中で形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【請求項4】
前記成形品は、前記混合体を一括で熱間圧縮成形して形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【請求項5】
前記固定剤粉末として合成樹脂粉末を用いることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂粉末として熱硬化性樹脂粉末を用いることを特徴とする請求項5に記載の摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐摩耗性や耐熱性が要求される摺動用部材、例えば、メカニカルシール部材、軸受、耐熱部品には、従来から炭素基材が多く用いられることがある。また、炭素基材の機械的強度を高めて摺動封止用部材の寿命を長くすることが行われている。そのような炭素基材に関し、特許文献1には「高強度用炭素基材の特性としては、嵩密度が1.77g/cm
3以上、平均細孔半径が1.5μm以下、曲げ強度が450(kgf/cm
2)以上のものが望ましい。」(段落0011)と記載されている。しかし、このような密度が大きく、曲げ強度の大きな高強度用炭素基材は、製造コストが嵩む。しかも、過酷な条件で使用される部品には曲げ強さが不足している。簡易な方法の観点からは、特許文献2に記載されるように、分散溶媒中に繊維状物を含む分散混合液を、抄紙スクリーンを介して該混合液の上方側から吸引することにより、該抄紙スクリーンの下面に該繊維状物よりなるシートを形成し、目付(単位面積当たりの重量)が安定した2次元ランダムシートを製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−212182号
【特許文献2】特開平08−120600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、得られたシートは分散溶媒を除去するために乾燥を行う必要がある。また、乾燥前に、シート数枚を重ね、ニードリング処理を実施する。次いで必要に応じ乾燥後のシートヘマトリックス材を添加するなど、工程数が多くなる。このように繊維を漉いて形成したシートを素材に使用した摩擦材では、車両のエンジンの出力アップ等による摩擦材への負荷の増大により、層間剥離を生じ易く、負荷の増大に対応するのが難しくなっている。また、ニードリング処理による絡合によるものであるため、その配向性が低い。そのため、摩擦材として使用した際、摩擦材が相手部材を押圧する弾力性の低下が起こり易い。今後、軽量化に向けて、炭素繊維の活用は不可欠となってくることが予想される中で、更なる強度の改善が要請されている。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は炭素繊維を用いた強度
特性の高い摺動部材を提供すること。しかも低減された工程数で得ることができ、また、層間剥離を確実に防止することができる摺動部材を提供することにある。
より具体的には、本発明は、工程数およびコストを低減でき、縦横方向に十分な強度を付与することができる
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するために検討を繰り返した結果、以下の製造方法で
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材を製造することにより、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明は下記(1)から(6)の
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法を要旨とする。
(1)炭素繊維および固定剤粉末をミキサーに投入し、前記ミキサーにより前記炭素繊維を解繊させつつ前記固定剤粉末と解繊した前記炭素繊維を混合させて、混合体を形成する第一工程と、前記混合体を金型に入れて熱間圧縮成形し成形品を形成する第二工程と、前記成形品を焼成する第三工程とを有し、前記炭素繊維は集束剤を除去した炭素繊維であり、前記第一工程においては前記集束剤を除去した前記炭素繊維を解繊して前記混合体を形成することを特徴とする
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
(2)前記ミキサーは、前記炭素繊維および固定剤粉末を撹拌および混合する撹拌部と、前記炭素繊維および固定剤粉末をミキサー内で循環させる循環部と、を有し、前記第一工程において、前記循環部により前記炭素繊維を循環させることで、前記撹拌部に前記炭素繊維を接触させて解繊させることを特徴とする上記(1)に記載の
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合体の製造方法。
(3)前記混合体は、乾燥雰囲気中で形成されることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
(4)前記成形品は、前記混合体を一括で熱間圧縮成形して形成されることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
(5)前記固定剤粉末として合成樹脂粉末を用いることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
(6)前記合成樹脂粉末として熱硬化性樹脂粉末を用いることを特徴とする上記(5)に記載の
摺動部材用炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、炭素繊維を解繊させつつ固定剤粉末を混合させることにより、従来法より簡便な方法で、3次元ランダム配合された炭素繊維と固定剤粉末の混合物からなる混合体を形成することができる。また、上記混合体を用いて、炭素繊維強化炭素複合材を形成することにより、縦横方向に十分な強度を有するとともに層間剥離を抑制することができ、例えば、耐摩耗性が要求される摺動部材の用途を拡大することができる。また、炭素繊維を解繊させつつ固定剤粉末を混合させることができるので、工程数およびコストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】炭素繊維強化炭素複合材の製造方法の第一工程および第二工程を説明する図。
【
図2】3次元ランダムに配合された炭素繊維と固定剤粉末の混合物からなる混合体を説明する図。
【
図3】(A)は本発明の成形品の断面、(B)は従来の積層タイプの断面を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に示した実施例に基づき、本発明を説明する。
図1は、混合体を形成する第一工程と、第一工程で形成された混合体から成形品を形成する第二工程と、成形品を焼成する第三工程を示す図である。
【0012】
[炭素繊維]
本発明で用いる炭素繊維1としては、例えば、ピッチ系、PAN系或いはレーヨン系からなるロール状の炭素繊維1を裁断することにより、炭素繊維チョップ2を形成する。炭素繊維チョップ2の繊維長は、短すぎると強化効果が発現せず、長すぎると均一な混合および成形に支障をきたすため、通常1〜150mm、好ましくは10〜100mm程度に裁断される。また、炭素繊維1の形態としては、通常300〜20000本の炭素繊維1の束からなるトウ、ストランド、ロービング、ヤーン等である。なお、炭素繊維1の束に集束剤が付着していると、炭素繊維1の束が解繊され難くなるため、後述するミキサー4への投入前に脱サイジング処理を行ってもよい。
【0013】
[製造方法]
一般に、摩擦材は、例えば周知のモールド法などによって製造できる。具体的には、繊維基材、潤滑材などの各配合物をミキサー等で十分に混合し、加圧型中に入れて常温で予備成形する。次いで、予備成形体を熱間圧縮成形し、その後、炭素化および黒鉛化することで得られる。予備成形や熱間圧縮成形時の圧力は10〜50MPa程度とされ、熱間圧縮成形温度は100〜200℃程度である。また、炭素化は、不活性雰囲気中もしくは真空中で500〜1500℃程度で、黒鉛化は、不活性雰囲気中もしくは真空中で2000℃〜3000℃程度である。ミキサーとしては、アイリッヒミキサー,ユニバーサルミキサーなどが利用される。
【0014】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材は、以下の製造方法により形成される。
先ず、第一工程として、上述した炭素繊維チョップ2および固定剤粉末であるフェノール樹脂3をミキサー4に入れ、撹拌・混合する。固定剤粉末としては、熱硬化性樹脂あるいは合成樹脂粉末など、一般に用いられている固定剤粉末を単独または組み合わせて用いることができる。固定剤粉末、好ましくは熱硬化性樹脂が用いられる。好適な熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂3の他に、尿素・ホルムアルデヒド樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ウレタン樹脂、アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、α,β−不飽和力ルボニル基をペンダントさせたアミノプラスト樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート化ウレタン、アクリレート化エポキシ、およびそれらの組み合わせを挙けることができる。
【0015】
固定剤粉末には、さらに、黒鉛粉、セラッミクス粉などの充填材物質を粒子状物質として含むことができる。撹拌・混合の際に、必要に応じ添加剤を用いても良い。添加物として、繊維、カーボンブラックなどを用いることができる。
これら任意成分の添加物の量は、所望の性質が得られるように選択する。
【0016】
ミキサー4は、投入した炭素繊維チョップ2およびフェノール樹脂3からなる分散体7を撹拌・混合する撹拌部5と、分散体7をミキサー4内に循環させる循環部6とを備える。撹拌部5としては、分散体7を撹拌・混合できるものであればよく、例えば、ブレートなどを用いて構成される。また、循環部6としては、分散体7をミキサー4内に循環させるものであればよく、例えば、エアを吹き付けて循環させることができる。
【0017】
続いて、ミキサー4内の分散体7について説明する。ミキサー4に投入された、分散体7は撹拌部5により撹拌・混合されるとともに、循環部6により、ミキサー4内を
図1の矢印のように循環する。分散体7を循環させることにより、上述したように束になっている炭素繊維チョップ2は、撹拌部5により解繊しやすくなる。つまり、循環部6を備えない場合は、炭素繊維チョップ2とフェノール樹脂3からなる分散体7がその自重によりミキサー4の下側に蓄積される。このような状態では、撹拌部5付近の炭素繊維チョップ2のみ撹拌部5と接触することになり、炭素繊維チョップ2の解繊が行われない。
【0018】
分散体7を循環させることにより、撹拌部5には少量の分散体7が次々と接触することになるので、炭素繊維チョップ2が解繊するとともに、解繊した炭素繊維チョップ2とフェノール樹脂3を効率よく混合させることができる。このように、分散体7を撹拌・混合することにより、
図2に示すように、フェノール樹脂3がまとわりついた炭素繊維チョップ2が3次元ランダムに配合された混合体8として形成される。
【0019】
また、上記の撹拌・混合は、乾燥雰囲気中で行うことにより、循環が効率よく行われ、より解繊しやすくなる。なお、本発明の乾燥雰囲気中とは、液体類を使用しない通常の大気中のことを指す。
【0020】
混合体8は、炭素繊維チョップ2が3次元ランダムに配合することで、縦横方向の曲げ強度・圧縮強度が向上する。
【0021】
炭素繊維チョップ2の解繊度合は、撹拌時間・回転数を変化させることにより調整することができる。また、目的とする特性に応じて解繊度合い、固定剤粉末の種類および/または配合割合、追加して添加する添加剤の種類などを変化させて対応することができる。
【0022】
続いて、第二工程について説明する。第二工程では、第一工程で得られた混合体8を金型9に入れて熱間圧縮成形して成形品10とする。熱間圧縮成形の圧力は低すぎると炭素繊維チョップ2が配向せず、逆に高すぎると成形時にフェノール樹脂3が金型9の外に流出するため、10〜50MPa程度に設定される。熱間圧縮成形温度は、130℃未満であると固定粉末剤の反応が不十分で固定化に時間を要するため、130℃〜200℃程度に設定される。ただし、圧力および温度は、繊維長、固定粉末剤の種類および添加剤等に応じて変更される。熱間圧縮成形することにより、混合体8が圧縮されるとともに、混合体8内のフェノール樹脂3が熱硬化する。成形品10は、第一工程で形成された混合体8を一括で熱間圧縮成形することにより形成される。このように、一括で熱間圧縮成形することにより、
図3(A)に示すように、成形品10の断面は、炭素繊維チョップ2が3次元ランダムに配合されたまま圧縮される。また、
図3(B)に示す、従来のように、シートを複数枚積層する必要がなくなる。つまり、本発明の成形品10は明確な積層界面がなく炭素繊維チョップ2が3次元ランダムに配合されているので、縦横方向の曲げ強度・圧縮強度が向上させることができ、工程数およびコストを低減させることもできる。
【0023】
続いて、第三工程について説明する。第三工程では、第二工程で形成された成形品10を焼成することにより炭素繊維強化炭素複合材を形成する。詳しくは、先ず、成形品10を炭素化させる。炭素化は、不活性雰囲気中もしくは真空中で500℃〜1500℃程度の範囲で行われる。ただし、500℃以下では熱硬化樹脂は十分に炭素化せず、後述する黒鉛化工程で新たな空孔を多数発生させる可能性があるため、600℃〜1000℃が好ましい。しかしながら、炭素化することで、フェノール樹脂3が熱分解し、空孔が発生してしまう。この空孔を埋め、緻密化させる方法として、例えばピッチ含浸、樹脂含浸、CVD等を単独あるいは組み合わせて且つ必要に応じて複数回繰り返して処理することができる。さらに、緻密化させた後、黒鉛化させる。黒鉛化は不活性雰囲気下で2000℃〜3000℃の温度で行われる。これは、2000℃以下では、組織が十分に黒鉛化せず、3000℃以上では、結晶化が進みすぎて脆化する可能性があるためである。上記工程により、炭素繊維チョップ2が3次元ランダムに配合された炭素繊維強化炭素複合材を形成することができる。
【0024】
上記のように形成された炭素繊維強化炭素複合材は、炭素繊維チョップ2が3次元ランダムに配合され、縦横方向の曲げ強度・圧縮強度が向上するため、例えば、クラッチや軸受けなどの摺動部材に適用することができる。
【0025】
以上で本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示または説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【0026】
例えば、ミキサーの循環部として、エアを吹き付ける構造としたが、ミキサー自体を回転させて循環させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、縦横方向の強度と、耐摩耗性が要求される摺動部材に最適な炭素繊維強化炭素複合材およびその製造方法である。
【符号の説明】
【0028】
1 炭素繊維
2 炭素繊維チョップ
3 フェノール樹脂(合成樹脂粉末)
4 ミキサー
5 攪拌部
6 循環部
7 分散体
8 混合体
9 金型
10 成形品