(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の粒子線照射装置の一形態を示す正面図である。
図1では、照射対象の患者を頭部側から水平方向に見たものである。
本発明の粒子線照射装置Sは、略鉛直方向に沿って設置する環状加速器1、ビーム輸送手段3、および照射野形成装置4を、回転機構kを用いて同一の回転軸Cの周りに回転させる。
【0025】
換言すれば、粒子線照射装置Sは、環状加速器1、入射用加速器2(
図2(a)、(b)参照)、ビーム輸送手段3、および照射野形成装置4が同一の回転軸C周りに回転可能なように配置される。
粒子線照射装置Sでは、
図1に示すように、環状加速器1内での最重量物である偏向電磁石6が回転軸Cに対して対称的に配置されており、重量バランスに優れている。
【0026】
これにより、粒子線照射装置Sでは、照射対象の患者Jに対して任意の方向からの照射を可能にしつつ、装置の小型化、高精度化を実現している。粒子線照射装置Sの小型化・低コスト化により、粒子線照射装置Sが普及する可能性が広がる。
【0027】
<<実施形態1>>
図2(a)は、本発明の実施形態1に係る粒子線照射装置を患者の足もと側から見た斜視図であり、
図2(b)は、実施形態1に係る粒子線照射装置を患者の頭部側から見た斜視図である。
実施形態1の粒子線照射装置Sは、入射用加速器2(2A、2B)と環状加速器1とビーム輸送手段3と照射野形成装置4を備えている。
【0028】
そして、照射野形成装置4の先端のビーム照射ポート4pから、照射対象の患者Jに所定の線量の荷電粒子ビームが照射される。
粒子線照射装置Sは、図示しないコントローラにより制御される。
【0029】
<入射用加速器2>
入射用加速器2は、荷電粒子を生成して所定のエネルギーに加速した荷電粒子を環状加速器1に供給する役割をもつ。
入射用加速器2は、イオン源2Aと線形加速器2Bとを備えている。イオン源2Aと線形加速器2Bと環状加速器1とは、高真空に保たれる入射ビーム路2mで連結されている。
【0030】
イオン源2Aは、中性ガスに高速の電子を衝突させるなどしてイオンを生成し、線形加速器2Bにて環状加速器1で加速可能な状態に加速する。イオン化される原子、粒子としては、例えば、水素、ヘリウム、炭素、窒素、酸素、ネオン、シリコン、アルゴンなどがある。
【0031】
線形加速器2Bは、イオン源2Aから供給される荷電粒子を所定のエネルギーまで加速して、環状加速器1に供給する。線形加速器2Bとしては、例えば、高周波の4極電場によって荷電粒子の加速と集束を行うRFQライナックやドリフトチューブライナックが用いられる。線形加速器2Bによって、荷電粒子は、例えば、核子あたり数MeV程度のエネルギーに加速される。
【0032】
<環状加速器1>
環状加速器(シンンクロトロン)1は、入射用加速器2の線形加速器2Bから供給される荷電粒子を、環状加速器1から出射される出射ビームのエネルギーまで加速する。
線形加速器2Bから供給される荷電粒子は、入射インフレクタ2Cによって、入射用加速器2からの軌道が偏向され、周回軌道をもつ環状加速器1に入射される。
環状加速器1は、荷電粒子を出射ビームのエネルギーまで加速するための構成要素として、発散四極電磁石5と偏向電磁石6と収束電磁石7と不図示の高周波加速空胴とを備えている。
【0033】
環状加速器1は、出射ビームを取り出すための構成要素として、出射用静電デフレクタ8aと出射用偏向電磁石8bとを備えている。なお、出射ビームとは、照射対象に照射するために、環状加速器1から取り出される荷電粒子ビームをいう。
【0034】
出射用静電デフレクタ8aは、取り出される荷電粒子ビームを環状加速器1内を周回する荷電粒子ビームの外側方向にけり出すため、周回する荷電粒子ビームに電場を印加して取り出される荷電粒子ビームを分離するデフレクタ電極を有している。
環状加速器1は、発散電磁石5と偏向電磁石6と収束電磁石7が周回状に構成されている。
【0035】
環状加速器1に入射した荷電粒子ビームは、発散電磁石5と収束電磁石7とによって発散と収束とを繰り返しつつ偏向電磁石6によって偏向されることで、環状加速器1内の周回軌道上を周回する。
【0036】
高周波加速空胴は、内部に設けられる加速ギャップ(図示せず)の間に発生する電界によって、環状加速器1の周回軌道を周回する荷電粒子を加速するものである。高周波加速空胴において、加速ギャップの間を通る荷電粒子は、正のエネルギーゲインを得られる位相で高周波電界が印加されて加速され、周回毎にエネルギーが増加していく。また、出射ビームの出射終了後、加速ギャップの間で発生する電界の位相を逆にすることによって、荷電粒子を減速し放射線の発生を抑制する。
【0037】
環状加速器1において、荷電粒子は、所定のエネルギー、例えば核子あたり数百MeVのエネルギーまで加速される。
この際、偏向電磁石6、発散電磁石5および収束電磁石7は、高周波加速空胴における加速または減速に同期して、加速または減速された荷電粒子のエネルギーに応じて、荷電粒子が環状加速器1の周回軌道に沿った軌道を描くように、磁場強度がコントローラにより制御される。
【0038】
周回軌道上で所定のエネルギーに加速された荷電粒子ビームは、出射用静電デフレクタ8aと出射用偏向電磁石8bとによって、その軌道を変更されて、環状加速器1から出射され、出射ビームとしてビーム輸送手段3に取り出される。
ビーム輸送手段3は、照射野形成装置4に出射ビームである荷電粒子ビームを導く。照射野形成装置4において、取り出された出射ビームの荷電粒子ビームは、照射深度を調整しつつ一定なビーム径で照射野が形成される。そして、照射野形成装置4の先端のビーム照射ポート4pから、形成された照射野をもつ荷電粒子ビームが、照射対象の患者Jに照射される。
なお、環状加速器1は環状であれば、ひし形、6角形、円形など形状は特に限定されない。
【0039】
<環状加速器1の制御>
コントローラは、入射用加速器2(イオン源2A、線形加速器2B)、入射インフレクタ2Cと、環状加速器1を構成する発散電磁石5、偏向電磁石6、収束電磁石7、高周波加速空胴、出射用静電デフレクタ8a、出射用偏向電磁石8bなどを制御する。
【0040】
これにより、イオン源2Aでの荷電粒子の生成、線形加速器2Bによる前段加速、環状加速器1への入射、加速および荷電粒子ビームの環状加速器1からの出射、さらに、ビーム輸送手段3、照射野形成装置4を通過しての取り出した荷電粒子ビーム(出射ビーム)の照射対象への照射の制御が遂行される。
【0041】
入射用加速器2、環状加速器1、ビーム輸送手段3などの随所には荷電粒子のモニタ(図示せず)が配置され、荷電粒子の軌道、電流量およびエネルギーが測定され、コントローラにその測定信号がフィードバックされることによって、制御が行われる。
【0042】
<粒子線照射装置Sの機器レイアウト>
図3(a)は、
図2(a)のA方向矢視図、
図3(b)は、
図3(a)の左側面図、
図3(c)は、
図3(a)の右側面図である。
図4(a)は、
図3(a)の上面図のB方向矢視図、
図4(b)は、
図3(a)の下面図のD方向矢視図、
図4(c)は、
図3(a)のE方向矢視図である。
【0043】
粒子線照射装置Sでは、機器レイアウト上、水平面(地表面)に対して垂直な鉛直面として、以下の第1の鉛直面と、第2の鉛直面と、第3の鉛直面の3つがある。
そして、それぞれ第1、第2、第3の垂直面(鉛直面)に、環状の環状加速器1、入射用加速器2(イオン源2A、線形加速器2B)、照射野形成装置4がそれぞれ配置されている。粒子線照射装置Sは、これらの機器(1、2、4)が一体化されて、共通する同一の軸Cの周りに回転する。
【0044】
(i―1)第1の垂直面(鉛直面)p1
第1の垂直面(鉛直面)p1は、環状の環状加速器1のビーム周回軌道面となる面である。かつ、第1の垂直面(鉛直面)p1は、環状加速器1の周回軌道の中心(環状の中心)を通る軸、つまり水平面(地表面)と平行な方向の軸を回転軸Cとして、この第1の垂直面(鉛直面)p1内で、その環状の環状加速器1が回転するように、環状加速器1を縦置き(鉛直方向)に配置する。すなわち、環状加速器1の荷電粒子ビームの周回軌道は、回転軸Cに垂直な平面(第1の垂直面(鉛直面))p1内にある。
【0045】
(i―2)第2の垂直面(鉛直面)p2
第2の垂直面(鉛直面p2)は、回転軸Cに垂直な鉛直方向に、第1の垂直面(鉛直面)p1と間隔をおいて位置する面である。第2の垂直面(鉛直面)p2は、照射野形成装置4とその照射野形成装置4の先端のビーム照射ポート4pとを、回転軸Cに向けて垂直に設置する面であり、回転軸Cを回転中心として、第2の垂直面(鉛直面)p2内で、照射野形成装置4およびビーム照射ポート4pが回転するように、照射野形成装置4およびビーム照射ポート4pが配置される。
【0046】
(i―3)第3の垂直面(鉛直面)p3
第3の垂直面(鉛直面)p3は、回転軸Cに垂直な鉛直方向に、第1の垂直面(鉛直面)p1と間隔をおいて、第2の垂直面(鉛直面)p2とは反対側に位置する面である。
第3の垂直面(鉛直面)p3内には、入射用加速器2(イオン源2A、線形加速器2B等)が配置される。この構成により、上述の回転軸Cを回転中心として、第3の垂直面(鉛直面)内で、入射用加速器2(イオン源2A、線形加速器2B等)が回転する。
【0047】
そして、粒子線照射装置Sのそれぞれ機器は、3つの各垂直面(鉛直面)p1、p2、p3に以下のように設置される。
第1に、第1の垂直面(鉛直面)p1における環状加速器1と、第2の垂直面(鉛直面)p2における照射野形成装置4とは、ビーム輸送手段3の偏向電磁石3a、3bによって、第1の垂直面(鉛直面)p1内の環状加速器1のビーム周回軌道から荷電粒子ビームを取り出される。取り出された荷電粒子ビームは、第2の垂直面(鉛直面)p2に配置された照射野形成装置4に導くように、一体的な構造とされている。
【0048】
また、第2に、第1の垂直面(鉛直面)p1における環状加速器1と、第3の垂直面(鉛直面)p3における入射用加速器2(イオン源2A、線形加速器2B)とは、入射インフレクタ2C(偏向電磁石)(
図2参照)によって、第3の垂直面(鉛直面)p3の入射用加速器2(イオン源2A、線形加速器2B等)から得られる荷電粒子ビームを、第1の垂直面(鉛直面)p1の環状加速器1に入射させるように、一体的な構造とされている。
以上説明したように、粒子線照射装置Sの機器全体を、同一の回転軸C周りに回転可能なように配置する機器レイアウトとしている。
【0049】
<環状加速器1の回転機構>
次に、粒子線照射装置Sの機器を回転軸C周りに回転させる機構について説明する。
図5は、粒子線照射装置Sが回転機構にセットされた状態を示す一方向から見た斜視図であり、
図6は、粒子線照射装置Sが回転機構にセットされた状態を示す
図5の逆方向から見た斜視図である。
粒子線照射装置Sの機器が回転軸C周りに回転するように、粒子線照射装置Sの機器を設置する円筒状の回転架台Tを、回転軸Cが中心軸となるようにセットする。
【0050】
具体的には、台座d1、d2の上に、ターニングローラーおよびこれを駆動するモータを有する回転手段r1、r2、r3、r4が設置される。
回転架台Tは、回転手段r1、r2、r3、r4に支持されるとともに回転駆動される。
回転架台Tの周囲には、粒子線照射装置Sの環状加速器1が固定されるとともに、環状加速器1に連結される入射用加速器2、出射系のビーム輸送手段3、照射野形成装置4等が共に、固定される。
【0051】
上記構成により、回転手段r1、r2、r3、r4により回転架台Tを回転駆動することにより、粒子線照射装置Sを回転軸C周りに回転させる。そして、粒子線照射装置Sの照射野形成装置4の先端のビーム照射ポート4pから、照射対象の患者Jの患部に出射ビームの荷電粒子ビームが回転軸C周りに回転しつつ照射される。
【0052】
なお、回転架台Tとして、円筒状の場合を例に挙げて説明したが、回転架台Tはトラス構造でもよく、環状加速器1に連結される入射用加速器2、出射系のビーム輸送手段3、照射野形成装置4等が共に一体となって回転できれば、その構造は任意に選択できる。
【0053】
上記構成によれば、下記の効果を奏する。
1.粒子線照射装置Sの環状加速器1、ビーム輸送手段3、並びに照射野形成装置4を同一の軸周りに配置することにより、従来の粒子線照射装置に比べて、小型で重量バランスに優れる。粒子線照射装置Sでは、回転軸Cに対称に重量物があり(
図1参照)、粒子線照射装置Sを回転させる際に重量バランスが極めてよい。
【0054】
そのため、従来必要であった重量バランスを取るためのカウンターウェイトを削減できる。例えば、従来、カウンターウェイトを60トン設置する必要があったものが、40トンにでき、1/3程度削減できる。そのため、軽量化が図れる。
【0055】
2.また、環状加速器1、ビーム輸送手段3、並びに照射野形成装置4を、照射対象の患者Jの頭尾を結ぶを回転軸Cとして、回転軸Cを中心に回転させる構成とすることで、照射対象の患者Jの体位を変えることなく、照射対象の患者Jの任意の部位への照射が容易にかつ円滑に行える。
【0056】
3.粒子線照射装置Sを回転軸C周りに回転させることで、従来の加速器から照射装置までのビーム輸送経路を短縮化することができるため、コスト低減に繋がる。従来のガントリーや10〜20mのビーム輸送系102(
図12参照)がいらなくなり、従来と比較して大幅な小型化が可能である。そのため、粒子線照射装置Sの占有スペースが小さくなり、設置スペースの狭小化が図れる。従って、敷地が少なく済む。
【0057】
4.上述したように、粒子線照射装置Sを回転軸C周りに回転させることで、従来の加速器から照射装置までの10〜20mのビーム輸送系102を短縮化することができる。また、従来の回転ガントリーでは重量バランスを取るために必須であったカウンターウェイトが削減できることから、コスト低減に資することができる。
【0058】
5.粒子線照射装置Sの環状加速器1が回転軸Cを中心に対称に配置されるため、回転軸Cに対称に重量物(偏向電磁石6、発散・収束電磁石5、7)があり重量バランスが極めてよい。重量バランスが極めて良いため、回転支持構造を簡素化することができる。
【0059】
6.環状加速器1、ビーム輸送手段3、並びに照射野形成装置4を同一の回転軸C周りに配置することにより、エミッタンス非対称性を調整する必要がない粒子線照射システム(装置)が実現できる。
【0060】
従来、
図12に示すように、加速器101が水平面に配置され、加速器101からビーム輸送系102に出射ビームが出射され、回転ガントリー(特許文献2の
図1A参照)で回転させて照射対象の患者Jに荷電粒子ビームを照射していた。そのため、加速器101に連結されるビーム輸送系102の出射ビームの座標と、回転する回転ガントリーから照射される出射ビームの座標とが異なっている。そこで、回転ガントリーからの出射ビームの照射量を精確に取得するため、エミッタンス非対称性を調整してエミッタンスを対称性をもたせるエミッタンス調整装置を1つないし2つ設置する必要があった。加えて、エミッタンスを調整する人の工数が多く、人件費が高くなっている。
【0061】
本粒子線照射装置Sでは、環状加速器1、ビーム輸送手段3、並びに照射野形成装置4を同一の軸周りに配置することで回転ガントリーを必要としないため、回転継ぎ手がない。従って、出射ビームの座標が環状加速器1に静的に固定されるビーム輸送手段3の座標で出射でき、エミッタンスの非対称性を調整する必要がない。そのため、エミッタンス調整装置が必要ない。加えて、エミッタンス調整装置のコスト、エミッタンス調整装置による精度出しメンテナンスのコスト、ランニングコストが解消する。このように、エミッタンスのメンテナンスプログラムがいらなくなる。
従って、大きなコスト削減効果が見込める。
【0062】
7.照射ビームの精度は1mm程度まで出す必要があるが、本粒子線照射装置Sにおける荷電粒子ビームの経路は短い。また、環状加速器1、ビーム輸送手段3、並びに照射野形成装置4を回転軸Cを中心に回動するので、重量バランスがよく、カウンターウェイトが少なく済む。加えて、従来、照射ビームの精度の精度出しのためにビーム輸送路は重くなっていたが、本粒子線照射装置Sでは、ビーム輸送路が短いので、軽量でありながら照射ビームの所望の精度出しが可能である。
【0063】
8.また、環状加速器1から出射ポートのビーム照射ポート4pまでの長さが従来(
図12参照)に比べて短いので(
図2(a)、(b)参照)、出射ビームの精度が出し易い。
【0064】
9.回転軸Cを環状加速器1の中心軸とすれば、粒子線照射装置Sの設計、製作が容易である。
【0065】
10.従って、従来の水平面に加速器を設置する粒子線照射システム(
図12参照)に比べて、小型かつ高精度の粒子線照射装置Sを提供できる。また、照射対象の患者Jへの任意方向からの照射も可能である。
【0066】
11.以上より、小型で重量バランスに優れ任意方向からの照射が可能であり、またエミッタンス非対称性を調整する必要がない高精度かつ低コストの粒子線照射装置Sを実現できる。
【0067】
12.本発明により粒子線照射装置Sの小型化・低コスト化が可能となるので、例えば、陽子線の約2倍の大きさの炭素線の粒子線照射装置Sが広く普及する可能性が大となる。
【0068】
なお、実施形態1では、第1の垂直面(鉛直面)p1、第2の垂直面(鉛直面p2)、第3の垂直面(鉛直面)p3を定義する場合を説明したが、環状加速器1、ビーム輸送手段3、並びに照射野形成装置4を同一の回転軸C周りに回転すれば、第1の垂直面(鉛直面)p1、第2の垂直面(鉛直面p2)、第3の垂直面(鉛直面)p3は特に用いなくともよい。
【0069】
<<実施形態2>>
図7は、本発明の実施形態2に係る粒子線照射装置を照射対象の患者の足もと側から見た斜視図である。
実施形態2に係る粒子線照射装置2Sは、実施形態1の環状加速器1、ビーム輸送手段3、および照射野形成装4等を回転軸Cに対して一体的に回転させる構成を、サイクロトロン21に適用したものである。
これ以外の構成は、実施形態1と同様であるから、同様な構成には同一の符号を付して示し、詳細な説明を省略する。
【0070】
サイクロトロン21は、荷電粒子ビームがらせん状に加速される装置である。
粒子線照射装置2Sは、サイクロトロン21、ビーム輸送手段3、および照射野形成装置4などが一体に構成され、回転軸C周りに一体となって回転する。
【0071】
(i―1)第1の垂直面(鉛直面)p21
第1の垂直面(鉛直面)p21は、円筒状のサイクロトロン21の荷電粒子ビームがらせん状に加速される中心線に対して垂直な面である。かつ、第1の垂直面(鉛直面)p21は、円筒状のサイクロトロン21のらせん状の周回軌道の中心を通る軸、つまり水平面(地表面)と平行な方向の軸を回転軸2Cとして、第1の垂直面(鉛直面)p21に沿って、サイクロトロン21が回転するように、サイクロトロン21を縦置き(に鉛直方向に沿って)配置する。
【0072】
すなわち、サイクロトロン21の荷電粒子ビームのらせん状の周回軌道は、回転軸2Cに垂直な平面(第1の垂直面(鉛直面))p21に、垂直な水平方向にらせんを描いて移動する軌跡をもつ。
【0073】
(i―2)第2の垂直面(鉛直面)p22
第2の垂直面(鉛直面p22)は、回転軸2Cに、第1の垂直面(鉛直面)p21と間隔をおいて位置する垂直な鉛直方向の面である。 第2の垂直面(鉛直面)p22は、照射野形成装置4とその先端のビーム照射ポート4pとを、回転軸2Cに垂直に向けて設置する面であり、回転軸2Cを回転中心として、第2の垂直面(鉛直面)p22内で、その照射野形成装置4およびその先端のビーム照射ポート4pが回転するように、照射野形成装置4を配置する。
【0074】
そして、粒子線照射装置2Sのそれぞれ機器は、2つの各垂直面(鉛直面)p21、p22に以下のように設置される。
第1の垂直面(鉛直面)p21に沿って配置されるサイクロトロン21と、第2の垂直面(鉛直面)p22における照射野形成装置4とは、ビーム輸送手段3の偏向電磁石3a、3bによって、サイクロトロン21のらせん状のビーム周回軌道から荷電粒子ビームが取り出される。取り出された荷電粒子ビームは、第2の垂直面(鉛直面)p22に配置された照射野形成装置4およびその先端のビーム照射ポート4pに導くように、一体的な構造とされている。
【0075】
上記構成によれば、実施形態1の粒子線照射装置Sを、サイクロトロン21に適用した粒子線照射装置2Sの場合にも、照射野形成装置4およびその先端のビーム照射ポート4pがサイクロトロン21と一体に、回転軸2C周りに回転するので、実施形態1と同様な作用効果を奏する。
ここで、回転軸2Cを照射対象の患者Jの頭尾を結ぶ軸とすれば、照射対象の患者Jに何れの方向からの照射も対称に行えるので、調整することなく簡易かつ容易に照射が行える。
【0076】
なお、実施形態2では、第1の垂直面(鉛直面)p21、第2の垂直面(鉛直面)p22を定義する場合を例に挙げて説明したが、照射野形成装置4およびその先端のビーム照射ポート4pがサイクロトロン21と一体に、回転軸2C周りに回転すれば、第1の垂直面(鉛直面)p21、第2の垂直面(鉛直面)p22は特に定義しなくてもよい。
【0077】
<<実施形態3>>
図8(a)は、本発明の実施形態3に係る粒子線照射装置を照射対象の患者の足もと側から見た斜視図であり、
図8(b)は、実施形態3に係る粒子線照射装置を照射対象の患者の頭部側から見た斜視図である。
実施形態3に係る粒子線照射装置3Sは、照射野形成装置34およびその先端のビーム照射ポート34pを環状加速器31の周回軌道が成す面内に配置したものである。
これ以外の構成は、実施形態1と同様であるから、同様な構成には同一の符号を付して示し、詳細な説明を省略する。
【0078】
粒子線照射装置3Sは、実施形態1における環状加速器31の荷電粒子ビームが周回する軌道が配置される第1の垂直面(鉛直面)p1と、照射野形成装置34およびその先端のビーム照射ポート34pが配置される第2の垂直面(鉛直面)p2とを、同一の共通した垂直面(鉛直面)p31とする構成である。
【0079】
したがって、ビーム輸送手段33の偏向電磁石33aによって、同じ垂直面(鉛直面)p31内のビーム周回軌道から、内側(内方側)に荷電粒子ビームを取り出す。そして、取り出した荷電粒子ビームを、同じ垂直面(鉛直面)p31に配置される照射野形成装置34に導くように、一体的な構造として一体化設計する機器レイアウトとしている。
【0080】
この点で、シンクロトロンである環状加速器31のビーム周回軌道の内側(内方)に荷電粒子ビームを出射して同じ垂直面(鉛直面)p31に設置した照射野形成装置34に導くように構成を工夫した実施形態1の変形形態といえる。
【0081】
上記構成によれば、照射野形成装置34を環状加速器31の内側に配置したので粒子線照射装置3Sを小型化できる。そのため、粒子線照射装置3Sの設置スペースや床面積が少なくて済む。
また、ビーム輸送手段33の偏向電磁石が、実施形態1、2に比べて一つ減って、偏向電磁石33a一つで済むので、コスト低減を図れる。
実施形態1の作用効果は同様に奏する。
【0082】
<<変形例>>
図9は、本発明の変形例の粒子線照射装置を模式的に示す斜視図である。
図5、
図6に示す実施形態1の粒子線照射装置Sでは、回転架台Tの周りに環状加速器1を、回転軸Cがその中心軸であって回転軸Cに垂直な面に配置する例を説明した。
変形例の粒子線照射装置4Sは、回転架台Tの周りに環状加速器41を、回転軸Cに対して傾斜する姿勢で設置したものである。
これ以外の構成は、実施形態1と同様であるから、同様な構成には同一の符号を付して示し、詳細な説明を省略する。
【0083】
変形例では、実施形態1と同様、台座d1、d2の上に、ターニングローラーおよびこれを駆動するモータを有する回転手段r1、r2、r3、r4が設置され、円筒状の回転架台Tが回転手段r1、r2、r3、r4に支持されて回動される。
粒子線照射装置4Sの環状加速器41は、円筒状の回転架台Tの回転軸Cに対して傾斜して固定される。また、実施形態と同様な図示しない入射用加速器2(イオン源2A、線形加速器2B)、ビーム輸送手段3、照射野形成装置4などは環状加速器41に一体に、回転架台Tに固定される。
【0084】
照射対象の患者Jは、その頭尾を結ぶ軸が回転軸Cとなるように横たえられる。
そして、回転架台Tが回転手段r1、r2、r3、r4により回動されることで、照射対象の患者Jに任意の方向から粒子線ビームが照射される。
なお、環状加速器41は、回転軸Cに対して任意の角度傾斜して取り付けることが可能である。
【0085】
変形例の粒子線照射装置4Sにおいても、回転軸C周りに、環状加速器41に入射用加速器2(イオン源2A、線形加速器2B)、ビーム輸送手段3、照射野形成装置4などが一体となって回動して、照射対象の患者Jに粒子線ビームが照射されるので、実施形態1と同様な作用効果を奏する。
また、変形例では、環状加速器41を回転軸Cに対して傾斜して設置するので、粒子線照射装置4Sを設置するスペースが既存の建物で、設置空間に制約がある場合、環状加速器41を任意の角度傾斜して設置できるので、環状加速器41を設置し易い。そのため、粒子線照射装置4Sを設置するための自由度が高い。
【0086】
なお、照射対象の患者Jに粒子線ビームを運ぶビームラインbi1(
図9に実線で示す)を環状加速器41の外側に導く場合には、回転手段r1、r2と、回転手段r3、r4との間に粒子線照射装置4Sの全ての機器を配置する必要性がある。しかしながら、照射対象の患者Jに粒子線ビームを運ぶビームラインbi2(
図9に破線で示す)を環状加速器41の内方に導けば、粒子線照射装置4Sの全ての機器を必ずしも、回転手段r1、r2と、回転手段r3、r4との間に配置しなくともよい。
【0087】
<<その他の実施形態>>
1.粒子線照射装置S(21S、31S、41S)の環状加速器1、31、41やサイクロトロン21が回動する回転軸C、2Cは、
図10に示すように、環状加速器1、31、41やサイクロトロン21の粒子線ビームが周回する軌道T内(
図10中、ハッチングで示す)ならば、何れの位置に配置してもよい。なお、
図10は、環状加速器やサイクロトロンが回動する回転軸の位置を模式的に示す正面図である。
【0088】
2.環状加速器1、31、41やサイクロトロン21が回動する回転軸C、2Cは、
図11の回転軸4Cに示すように、何れの角度を有していて何れの方向に向いていてもよい(
図11参照)。
図11は、環状加速器の回転軸を傾けた場合の斜視図である。
例えば、回転軸Cを鉛直方向より水平方向に近い方向にすることで、環状加速器1、31、41やサイクロトロン21の荷電粒子ビームの周回軌道を回転軸Cに垂直な面内にすることで、縦長のスペースに、環状加速器1、31、41やサイクロトロン21を縦置きして配置できる(
図2、
図5、
図7、
図8参照)。
【0089】
また、例えば、回転軸Cを水平方向に対して45度の角度傾斜させて(
図11の角度θ=45度)、環状加速器1、31、41やサイクロトロン21を水平方向に対して135度の角度傾斜させることで、粒子線照射装置S(21S、31S、41S)の設置空間の対角線方向のスペースを有効に活用して、環状加速器1、31、41やサイクロトロン21を配置できる。
【0090】
3.環状加速器1、31、41やサイクロトロン21の回転軸C、2C、4Cと、照射対象の患者Jの頭尾を結ぶ軸は必ずしも一致させなくともよいが、照射の容易性、簡易性の点から回転軸C、2C、4Cと照射対象の患者Jの頭尾を結ぶ軸とを一致させることが最も望ましい。
【0091】
4.回転軸Cを略水平方向に配置するとともに、環状加速器1、31、41やサイクロトロン21のビーム周回軌道は、前記回転軸C、2Cに略垂直とすれば、粒子線照射装置の設計、製作が容易である。
【0092】
5.前記実施形態1〜3、変形例では、様々な構成を説明したが、各構成を適宜選択して組み合わせて構成してもよい。
【0093】
6.前記実施形態1〜3、変形例は、本発明の構成の一例を挙げて説明したものであり、特許請求の範囲の記載の構成内で様々な具体的形態を採用することができる。