特許第6491875号(P6491875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6491875-電気絶縁膜の形成方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491875
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】電気絶縁膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/10 20160101AFI20190318BHJP
【FI】
   C23C4/10
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-259919(P2014-259919)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121366(P2016-121366A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 純一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】永井 正也
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−169371(JP,A)
【文献】 特開平02−008358(JP,A)
【文献】 特開2002−121024(JP,A)
【文献】 特開2009−235558(JP,A)
【文献】 特開2011−114010(JP,A)
【文献】 特開2011−187752(JP,A)
【文献】 特開2014−185741(JP,A)
【文献】 特開2014−047362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧が印加される金属部材に電気絶縁膜を形成する形成方法において、粒径が1μm以上30μm未満であり、かつ平均粒径が15μm以上25μm未満である酸化アルミニウム粉末に、バンドギャップ値が2eV以上かつ熱伝導率が150W/m・K以上、粒径が1μm以上10μm未満、平均粒径が2μm以上5μm未満であるセラミック粉末を2〜40質量%添加した混合粉を用いてプラズマ溶射を行なうことを特徴とする電気絶縁膜の形成方法。
【請求項2】
電圧が印加される金属部材に電気絶縁膜を形成する形成方法において、粒径が1μm以上30μm未満であり、かつ平均粒径が1μm以上5μm未満である酸化アルミニウム粉末に、バンドギャップ値が2eV以上かつ熱伝導率が150W/m・K以上、平均粒径が2μm以上5μm未満であるセラミック粉末を2〜20質量%添加し、スプレードライヤーで造粒した混合粉を用いてプラズマ溶射を行なうことを特徴とする電気絶縁膜の形成方法。
【請求項3】
前記電気絶縁膜の膜厚を50μm以上200μm未満とすることを特徴とする請求項1または2に記載の電気絶縁膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧が印加される可能性のある部位に装着する様々な金属部材に電気絶縁膜を形成する方法に関し、詳しくは、電気絶縁性と熱伝導性に優れた電気絶縁膜を安価に形成することが可能な形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に実用化されている設備、装置、機械(以下、設備機器という)は、多数の金属製の部品(以下、金属部材という)で組み立てられており、様々な金属部材が回転や摺動を行なうことによって、その機能を果たすように構成されている。そして、多種多様な設備機器の中には、電力で駆動するもの、電気を蓄積するもの、電気を放電するもの等があり、それらの設備機器で使用される金属部材には、電流が漏出する可能性がある。
【0003】
そのような設備機器にて、電圧が印加される可能性がある部位に装着される金属部材は、電流が流れることによって生じる腐食(以下、電蝕という)が進行し易いという問題がある。そこで、金属部材の電蝕を防止するための技術が検討されている。
【0004】
たとえば特許文献1には、金属部材の一例である軸受けの、同心に配置された金属製の外輪と内輪のいずれかをセラミックスの溶射層で被覆して電気的に絶縁することによって、電気の流れを遮断して、電蝕を防止する技術が開示されている。この技術では、アルミナ(Al2O3)の粉末に、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、酸化クロム(CrO2)の粉末を混合した混合粉を用いて溶射を行ない、さらに封孔処理を施して電気絶縁膜を形成する。つまり、低融点の混合物を混ぜることによって主原料であるアルミナ(Al2O3)絶縁膜の隙間を埋めることにより気孔率を小さくし、かつ、そのばらつきを抑えることによって、軸受けの安定した絶縁性(すなわち耐電蝕性)を得る技術である。
【0005】
しかし特許文献1に開示された技術では、電気絶縁膜の厚さは250μm以上必要とされている。その結果、軸受けの熱伝導性が低下するという問題が生じる。熱伝導性が低下すると、回転によって生じる摩擦抵抗の発熱が軸受けに蓄積されて、軸受けの寿命が短縮される原因になる。また、溶射膜を厚く形成することは施工時間が長くなり、軸受けの製造コストが上昇するという問題もある。
【0006】
つまり、良好な電気絶縁性と熱伝導性を兼ね備えた電気絶縁膜を有する金属部材を安価に製造する技術は、まだ確立されていない。
【0007】
一方、特許文献2には金属部材の一例である静電チャックの、金属基材上へAl2O3セラミック溶射層を形成し、その絶縁層の上に、金属溶射層である電極層を有し、その電極層の上には、トップコートとしてAlO溶射層からなる上部絶縁層を形成して、吸着力が強く、一方で電圧の印加を止めた時の応答性能に優れた静電チャックを提供する技術が開示されている。この技術は、Al2O3-TiO2系溶射層のTiO2による作業環境汚染を防止するとともに、TiO2は半導体物質であることから、電荷の移動速度が遅く、電圧の印加を止めた時の応答性が劣るという欠点を補うためにTiO2を排除し、高純度のAl2O3溶射層と無機系ケイ素化合物で封孔処理をすることで静電チャックを形成する技術である。
【0008】
しかし特許文献2に開示された技術では、電気絶縁膜は高純度のAl2O3溶射層であり、焼結セラミック板に比して熱伝導が悪く、シリコンウエハの冷却効率が悪いという問題があった。
【0009】
つまり、良好な電気絶縁性と熱伝導性を兼ね備えた電気絶縁膜を有する金属部材を安価に製造する技術は、まだ確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5025190号公報
【特許文献2】特許第4272786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来の技術の問題点を解消し、電圧が印加される可能性がある部位に装着される金属部材に電気絶縁膜を形成するにあたって、良好な電気絶縁性と熱伝導性を兼ね備えた電気絶縁膜を安価に形成することが可能な、電気絶縁膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、金属部材の電気絶縁性を高めるために、電気絶縁膜の気孔率を低減する技術について検討し、電気絶縁膜の材料として用いる元素や化合物のバンド構造に着目した。そして、電子に占有されたバンドと空のバンドのエネルギー差(いわゆるバンドギャップ値)が2eV以上であり、かつ熱伝導率が150W/m・K以上であるセラミック粉末を、酸化アルミニウム粉末に混合して溶射を行なうことによって、気孔率が小さく、しかも、溶射皮膜中のマイクロクラックを低減し、耐電圧の高い溶射層が得られることを見出した。バンドギャップ値2eV以上かつ熱伝導率150W/m・K以上のセラミック粉末の代表的な例として、炭化ケイ素粉末や窒化アルミニウム粉末等がある。
【0013】
そこで、その溶射層を金属部材の電気絶縁膜として好適に使用するための技術について詳細に研究した。その結果、酸化アルミニウム粉末とセラミック粉末の混合比率や粒径(さらに平均粒径)を適正に規定することによって、金属部材の電気絶縁膜として十分な電気絶縁性を、比較的薄い膜厚で安定して確保できることが判明した。その電気絶縁膜は、従来の酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高く、しかも膜厚が薄いので、熱伝導性も良好である。また、膜厚が薄いことから、溶射の作業時間の短縮と溶射材料の消費量の削減を図ることができ、製造コストの削減に寄与する。
【0014】
そして本発明の形成方法は、多種多様な設備機器の金属部材に適用できる。具体的には、電力で駆動する設備機器(たとえば静電チャック、半導体モジュール、プラズマ処理装置、回転電機、ガスセンサ等)、電気を蓄積する設備機器(たとえばフィルムコンデンサ等)、電気を放電する設備機器(たとえば落雷防護装置、コロナ放電ロール等)などにて、電圧が印加される可能性がある部位に装着される金属部材に本発明の成膜方法を適用すれば、良好な電気絶縁性と熱伝導性を兼ね備えた電気絶縁膜を安価に形成することができる。
【0015】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0016】
すなわち本発明は、電圧が印加される金属部材に電気絶縁膜を形成する形成方法において、粒径が1μm以上30μm未満であり、かつ平均粒径が15μm以上25μm未満である酸化アルミニウム粉末に、バンドギャップ値が2eV以上かつ熱伝導率が150W/m・K以上、粒径が1μm以上10μm未満、平均粒径が2μm以上5μm未満であるセラミック粉末を2〜40質量%添加した混合粉を用いて、プラズマ溶射を行なう電気絶縁膜の形成方法である。
また本発明は、電圧が印加される金属部材に電気絶縁膜を形成する形成方法において、粒径が1μm以上30μm未満であり、かつ平均粒径が1μm以上5μm未満である酸化アルミニウム粉末に、バンドギャップ値が2eV以上かつ熱伝導率が150W/m・K以上、平均粒径が2μm以上5μm未満であるセラミック粉末を2〜20質量%添加し、スプレードライヤーで造粒した混合粉を用いてプラズマ溶射を行なう電気絶縁膜の形成方法である。
【0019】
本発明によれば、電気絶縁膜の膜厚を50μm以上200μm未満とすることによって、良好な電気絶縁性と熱伝導性を確保することもできるので、好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、良好な電気絶縁性と熱伝導性を兼ね備えた安価な電気絶縁膜を、金属部材に形成することができるので、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】シリコンウエハの特性を調査するための真空チャンバーの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
溶射の材料として使用する粉末は、酸化アルミニウム粉末を主成分とする。酸化アルミニウム粉末の粒子が大きすぎると、溶射によって形成される絶縁膜の内部に気孔が発生し易くなり、電気絶縁性の低下を招く。したがって、酸化アルミニウム粉末の粒径は1μm以上30μm未満とする。一方で、酸化アルミニウム粉末の粒子が小さすぎると、溶射の際に周辺に飛散して、作業環境の悪化を引き起こすばかりでなく、所定の膜厚の電気絶縁膜を得るのに長時間を要する。したがって、酸化アルミニウム粉末の平均粒径は15μm以上25μm未満の範囲内が好ましい。
【0023】
なお、酸化アルミニウム粉末は、Al2O3を99.9質量%以上含有する粉末であり、残部はその製造過程で不可避的に混入する不純物である。不純物は少ないほど好ましい。
【0024】
その酸化アルミニウム粉末に、バンドギャップ値が2eV以上かつ熱伝導率が150W/m・K以上の材料からなるセラミック粉末を添加する。酸化アルミニウム粉末は白色であるから、酸化アルミニウム粉末のみで溶射を行なう場合には、金属部材に白色の電気絶縁膜が形成され、その金属部材を使用することによって生じる汚れが鮮明に現われるという問題がある。これに対して本発明では、酸化アルミニウム粉末にセラミック粉末を添加した混合粉を使用するので、灰色の電気絶縁膜が形成され、汚れが目立たないという利点がある。
【0025】
ただし、バンドギャップ値が2eV未満の材料からなるセラミック粉末を、酸化アルミニウム粉末に添加して溶射を行なうと、電気絶縁膜の電気絶縁性、耐摩耗性、熱伝導性を向上する効果が得られない。また、熱伝導率が150W/m・K未満のセラミック粉末を、酸化アルミニウム粉末に添加して溶射を行なうと、電気絶縁膜の電気絶縁性、耐摩耗性、熱伝導性を向上する効果が得られない。したがって、バンドギャップ値が2eV以上かつ熱伝導率が150W/m・K未満のセラミック粉末を用いる。そのセラミック粉末は、単一種類を使用しても良いし、複数種類を併用しても良い。
【0026】
ただし、混合粉に占めるセラミック粉末の添加量が多すぎると、混合粉中の酸化アルミニウム粉末が減少することを意味しており、電気絶縁膜に求められる電気絶縁性を十分に確保することが困難になる。一方で、セラミック粉末の添加量が少なすぎると、電気絶縁膜の耐摩耗性を向上する効果、および熱伝導性を高める効果が得られない。
【0027】
つまり、バンドギャップ値と熱伝導率が上記の範囲を満足するセラミック粉末は、酸化アルミニウム粉末よりも硬質であるから、そのセラミック粉末を添加することによって、電気絶縁膜の耐摩耗性を向上させ、ひいては、電気絶縁膜の膜厚を薄くすることができる。そして、電気絶縁膜を薄くすれば、溶射の材料として使用する混合粉の使用量の削減、溶射の所要時間の短縮、等の効果が得られ、金属部材の製造コストの削減に寄与する。
【0028】
しかも上記のセラミック粉末は、酸化アルミニウム粉末よりも熱伝導率が高いので、絶縁膜の熱伝導性を向上に寄与する。なお上記のセラミック粉末の例として炭化ケイ素粉末と窒化アルミニウム粉末の物性値を、酸化アルミニウム粉末と比較して表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
したがって、バンドギャップ値が2eV以上かつ熱伝導率が150W/m・K以上の材料からなるセラミック粉末を添加する場合は、混合粉に占める割合を2〜40質量%の範囲内とする。好ましくは2〜20質量%である。
【0031】
バンドギャップ値および熱伝導率は、それぞれの材料に固有の特性であり、人為的に変化させることはできないので、本発明では、バンドギャップ値および熱伝導率の上限値を特に限定しない。つまり、バンドギャップ値が2eV以上かつ熱伝導率が150W/m・K以上のセラミック粉末を選別して、酸化アルミニウム粉末に添加すれば良い。
【0032】
セラミック粉末の粒子が大きすぎると、溶射によって形成される電気絶縁膜の内部に気孔が発生し易くなり、電気絶縁性の低下を招く。したがって、セラミック粉末の粒径は10μm未満が好ましい。一方で、セラミック粉末の粒子が小さすぎると、電気絶縁膜の耐摩耗性を向上する効果が得られない。したがって、セラミック粉末の粒径は1μm以上が好ましい。より好ましくは、平均粒径が2μm以上5μm未満の範囲内である。
【0033】
このような混合粉を用いて溶射を行なうにあたって、プラズマ炎を用いることが好ましい。プラズマ炎を用いた溶射(以下、プラズマ溶射という)を行なうことによって、プラズマ炎の温度と、酸化アルミニウム粉末、セラミック粉末の融点と、の関係で、選択的に酸化アルミニウム粉末を溶融させ、セラミック粉末を溶融させずに電気絶縁膜を形成することができる。したがって、電気絶縁膜の耐摩耗性と熱伝導性を向上する効果が発揮される。
【0034】
プラズマ溶射においては、酸化アルミニウム粉末が溶融した後、急速に冷却されて、凝固した酸化アルミニウムの結晶粒内にマイクロクラックが多数発生することが知られている。しかし本発明では、熱伝導率の高いセラミック粉末を添加した混合粉を用いてプラズマ溶射を行なうので、凝固に要する所要時間をさらに短縮することができる。その結果、マイクロクラックが発生する前に凝固を完了させることが可能となり、マイクロクラックのない電気絶縁膜を形成することができる。したがって本発明では、プラズマ溶射を行なっても、電気絶縁膜にマイクロクラックはほとんど発生しない。
【0035】
このようにして形成される電気絶縁膜は、比較的薄い膜厚で十分な電気絶縁性が得られる。ただし膜厚が200μm以上では、熱伝導性が損なわれ、金属部材を使用することによって発生する摩擦熱を放散することが困難になる。その結果、摩擦熱が金属部材に蓄積され、金属部材の変形や焼付き等が発生し易くなる。一方で、電気絶縁膜が薄すぎると、金属部材に電蝕が発生し易くなる。したがって、電気絶縁膜の電気絶縁性と熱伝導性とを両立させることができ、さらに十分な電気絶縁性を発揮することもできる。そして、気孔率が小さく、かつ、そのばらつきも小さい電気絶縁膜が得られる。
【0036】
一方、さらにばらつきの小さい高度な電気絶縁膜を得る場合は、単に混合粉末ではなく溶射粉末を造粒法で製作し溶射するのが好ましい。その場合の酸化アルミニウム粉末は平均粒径1μm以上5μm未満とし、混合するセラミック粉末の平均粒径は2μm以上5μm未満である。これらの粉末を有機高分子結合材と純水を混合しスラリーを生成しスプレイドライヤー等で造粒し焼成する。
【0037】
さらに、電気絶縁膜の膜厚を上記のように比較的薄くして、良好な電気絶縁性と熱伝導性を両立させることができるので、溶射の所要時間の短縮のみならず、溶射の材料となる混合粉の使用量の削減を図ることができ、その結果、金属部材の製造コストを削減できる。また、封孔処理を省略できることも、製造コストの削減に寄与する。
【実施例】
【0038】
金属部材の例として軸受けと静電チャックに電気絶縁膜を形成した。その手順と結果について説明する。実施例1、2は軸受けに電気絶縁膜を形成した例、実施例3は静電チャックに電気絶縁膜を形成した例である。
【0039】
<実施例1>
プラズマ溶射によって電気絶縁膜を形成する前に、軸受け素材を有機溶剤で洗浄脱脂後、非溶射部を治具で保護しブラスト処理で粗面化した。
【0040】
そして、平均粒径20μmの酸化アルミニウム粉末に、平均粒径3μmの炭化ケイ素粉末を添加した混合粉を用いて、プラズマ溶射を行ない、軸受けの外輪の外周面に電気絶縁膜(膜厚150μm)を形成した。混合粉に占める炭化ケイ素粉末の割合は20質量%とした。これを発明例とする。
【0041】
これに対して、比較例として、平均粒径20μmの酸化アルミニウム粉末を用いて、プラズマ溶射を行ない、軸受けの外輪の外面に電気絶縁膜(膜厚150μm)を形成した。
【0042】
これらの軸受けの体積抵抗率と絶縁破壊電圧を測定した結果を表2に示す。なお、体積抵抗率はJIS規格K6911に準拠して測定し、絶縁破壊電圧はJIS規格C2110−2に準拠して測定した。
【0043】
【表2】
【0044】
表2から明らかなように、体積抵抗率および絶縁破壊電圧は、いずれも発明例の方が良好であった。
【0045】
さらに電気絶縁膜の断面を走査型電子顕微鏡(倍率:350倍)で観察したところ、発明例では、マイクロクラックは認められなかった。一方で、比較例では、マイクロクラックが多数発生していた。
【0046】
<実施例2>
酸化アルミニウムに配合する炭化ケイ素および/または窒化アルミニウムの比率を変え、絶縁破壊電圧と熱伝導率およびコストの比較を実施した。プラズマ溶射によって電気絶縁膜を形成する前に、供試片素材を有機溶剤で洗浄脱脂後、ブラスト処理で粗面化した。
【0047】
そして、平均粒径20μmの酸化アルミニウム粉末に、平均粒径3μmの炭化ケイ素粉末および/または窒化アルミニウム粉末を表3に示す配合比で添加した混合粉を用いて、プラズマ溶射を行ない、供試片の方端面に電気絶縁膜(膜厚150μm)を形成した。これを発明例とする。
【0048】
これに対して、比較例として、平均粒径20μmの酸化アルミニウム粉末を用いて、プラズマ溶射を行ない、片端面に電気絶縁膜(膜厚250μm)を形成した。
【0049】
これらの供試片の絶縁破壊電圧と熱伝導率を測定した結果を表3に示す。なお、絶縁破壊電圧はJIS規格 C2110−2に準拠して、熱伝導率は溶射皮膜を機械的に取り出し、レーザフラッシュ法を用いて測定した。コストは比較例を1として、材料コストと加工時間を元に比で算出し表3で比較した。
【0050】
【表3】
【0051】
表3から明らかなように、いずれの組み合わせでも発明例は絶縁特性、熱伝導共に良い結果が得られた。ただし、絶縁特性と熱伝導を両立させることは難しく、要求品質に応じて配合比率を決定することが望ましい。
【0052】
<実施例3>
プラズマ溶射によって電気絶縁膜を形成する前に、フルミニウム合金製静電チャック素材を有機溶剤で洗浄脱脂後、非溶射部を治具で保護しブラスト処理で粗面化した。
【0053】
そして、平均粒径3μmの酸化アルミニウム粉末に、平均粒径3μmの炭化ケイ素粉末を20質量%添加し、有機高分子結合材と純水を混合しスラリーを生成しスプレイドライヤー等で造粒し焼成した。その粉末を用いて、プラズマ溶射を行ない、シリコンウエハ吸着面に電気絶縁膜(厚さ200μm)を形成した。その電気絶縁膜上へタングステンを電極材として溶射し、さらに、その上に電気絶縁膜(厚さ200μm)を形成した。電極材へは静電チャック裏面から絶縁碍子を介して給電ピンを接続した。これを発明例とする。
【0054】
これに対して、比較例として、平均粒径20μmの酸化アルミニウム粉末のみを用いて、プラズマ溶射を行ない、シリコンウエハ吸着面に電気絶縁膜(厚さ300μm)を形成した。その電気絶縁膜上へタングステンを電極材として溶射し、さらに、その上に電気絶縁膜(厚さ300μm)を形成した。電極材へは静電チャック裏面から絶縁碍子を介して給電ピンを接続した。
【0055】
これらの静電チャックを、図1に示すような真空チャンバー1内に設置し、ヘリウムガスラインと電源を接続した。その後、吸着面にシリコンウエハ2を載せ1×10-10kPaまで真空排気した。そして、静電チャック3とシリコンウエハ2間に2.5kVの電圧を10分間印加した後、ヘリウムガス圧を0.5kPaから上昇させ、ガス圧でシリコンウエハ2が浮き上がり引き剥がされる圧力を計測し、静電吸着力を求めた。
【0056】
一方、冷却効率を比較するために予め250℃に加熱したシリコンウエハを静電チャックに設置し真空排気後2.5kVの電圧を印加し、シリコンウエハの表面温度を測定した。静電チャックは冷却せず常温である。静電チャックの静電吸着力とシリコンウエハの表面温度を測定した結果を表4に示す。なお表4では、シリコンウエハを、ウエハとして簡略に記し、その表面温度は、電圧印加3分後の測定値を示す。
【0057】
【表4】
【0058】
表4から明らかなように、発明例は電気絶縁膜を薄くできるので、静電吸着力が比較例よりも0.7kPa高くなった。また発明例は、シリコンウエハの表面温度を18℃低くすることができ、冷却効率が改善されたことが分かる。つまり、シリコンウエハの表面温度および静電吸着力は、いずれも発明例の方が良好であった。
【0059】
以上の通り、本発明によれば、高耐電圧であるが故に電気絶縁膜を薄くすることが可能となるので、静電吸着力を向上することができ、かつ熱伝導性が優れているのでシリコンウエハの冷却効率を向上することができることが確かめられた。
【符号の説明】
【0060】
1 真空チャンバー
2 シリコンウエハ
3 静電チャック
4 電極材
5 絶縁碍子
図1