(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491887
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】内燃機関用点火コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 38/12 20060101AFI20190318BHJP
F02P 15/00 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
H01F38/12 J
H01F38/12 G
H01F38/12 K
F02P15/00 303A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-3985(P2015-3985)
(22)【出願日】2015年1月13日
(65)【公開番号】特開2016-131176(P2016-131176A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109093
【氏名又は名称】ダイヤモンド電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山根 伸也
(72)【発明者】
【氏名】稲村 卓思
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 修司
(72)【発明者】
【氏名】山村 慎太郎
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−089518(JP,U)
【文献】
特開2009−111027(JP,A)
【文献】
特開2001−352012(JP,A)
【文献】
特開2014−207289(JP,A)
【文献】
特開2009−135438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/12
F02P 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルアセンブリと、
第1の樹脂材料から成る構造体であって前記コイルアセンブリを搭載させるコイル搭載部が形成された高圧側構造体と、
前記第1の樹脂材料とは異なる第2の樹脂材料から成る構造体であって前記コイルアセンブリの少なくとも一部周囲を覆って成るコイル側構造体と、を備え、
前記コイル搭載部の外縁板部の両面は、前記コイル側構造体によって覆われており、
前記コイル搭載部の外縁板部の表面は略円形状の主体部と前記主体部より径方向に突出した矩形部からなる形状であることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
前記高圧側構造体は、高圧端子を格納した筒状体から前記外縁板部に亘り、前記コイル側構造体によって覆われていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
前記外縁板部は、穴部,凹部,凸部,又は,欠き部の何れかによって成る相対移動阻止要素が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項4】
前記外縁板部は、穴部,凹部,凸部,又は,欠き部の何れかによって成る相対移動阻止要素が、当該外縁板部の輪郭に沿った配列で形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項5】
前記相対移動阻止要素は、前記外縁板部の主面に略平行方向に樹脂充填経路を形成させる第1の要素と、前記外縁板部の主面に略垂直方向に樹脂充填経路を形成させる第2の要素と、から構成され、
前記第1の要素は、前記第2の要素を複数配列させている並びのうち、当該第2の要素が途切れている領域に配置されている、ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項6】
前記第2の樹脂材料は、ポリアミド製樹脂から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の内燃機関用点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火コイルに関し、特に、2種類の樹脂構造によって構造体表面が形成される際に好適のものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等に用いられる内燃機関では、ケースレス化させた点火コイルの外表構造の製法が検討されている(特開2009−182137号公報)。かかる製法では、金型内のキャビティ―へコイルアセンブリ等のパーツを配置させ、オーバーモールド製法によって外表構造を形成させる。このため、コイルアセンブリの周囲に形成される樹脂構造及び高圧端子の周囲に形成される樹脂構造は、一の構造体としてこれらの表面が形成されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−182137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、金型キャビティ―の内部へ部品を装着しなければならず、部品装着時の作業が煩雑化するとのの問題が生じる。従来装着時の作業に着目するならば、外表構造としてコイルケースを設け、これにコイルアセンブリ等を装着する作業の方が容易とされる。
【0005】
このような事情から、コイルアセンブリ等を所定の樹脂構造へ搭載させてから、その全体を金型キャビティ―へ装着し、これをオーバーモールドさせることも考えられる。しかし、この場合、コイルアセンブリを事前に搭載させた樹脂構造とオーバーモールドにより形成された樹脂構造との間では、此処を境界として剥離が生じ、構造上又は回路機能上の不具合を起こしてしまう。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、異なる樹脂構造体の境界が形成される場合であっても、これら樹脂構造体の相対移動を抑制させ得る内燃機関用点火コイルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では次のような内燃機関用点火コイルの構成とする。即ち、コイルアセンブリと、第1の樹脂材料から成る構造体であって前記コイルアセンブリを搭載させるコイル搭載部が形成された高圧側構造体と、前記第1の樹脂材料とは異なる第2の樹脂材料から成る構造体であって前記コイルアセンブリの少なくとも一部周囲を覆って成るコイル側構造体とを備え、前記コイル搭載部の外縁板部の両面は、前記コイル側構造体によって覆われて
おり、前記コイル搭載部の外縁板部の表面は略円形状の主体部と前記主体部より径方向に突出した矩形部からなる形状であることとする。
【0008】
好ましくは、前記高圧側構造体は、高圧端子を格納した筒状体から前記外縁板部に亘り、前記コイル側構造体によって覆われていることとする。
【0009】
好ましくは、前記外縁板部は、穴部,凹部,凸部,又は,欠き部の何れかによって成る相対移動阻止要素が形成されていることとする。より好ましくは、前記外縁板部は、穴部,凹部,凸部,又は,欠き部の何れかによって成る相対移動阻止要素が、当該外縁板部の輪郭に沿った配列で形成されていることとする。
【0010】
好ましくは、前記相対移動阻止要素は、前記外縁板部の主面に略平行方向に樹脂充填経路を形成させる第1の要素と、前記外縁板部の主面に略垂直方向に樹脂充填経路を形成させる第2の要素とから構成され、
前記第1の要素は、前記第2の要素を複数配列させている並びのうち、当該第2の要素が途切れている領域に配置されていることとする。
【0011】
好ましくは、前記第2の樹脂材料は、ポリアミド製樹脂から成ることとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る内燃機関用点火コイルによると、隣接する樹脂構造間の相対移動を阻止させる要素が設けられるので、樹脂構造上及び回路機能上の保護が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る内燃機関用点火コイルの内部構成を示す図。
【
図2】実施の形態に係る内燃機関用点火コイルの外観を示す図。
【
図3】実施の形態に係る内燃機関用点火コイルの外縁板部を詳説する図。
【
図4】実施の形態に係る内燃機関用点火コイル(他の実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本実施の形態に係る内燃機関用点火コイルの内部構成が示されている。尚、同図では、内燃機関用点火コイル(以下、点火コイルと呼ぶ)の斜視図を(a)に示し、同点火コイルの正面図を(b)に示し、同点火コイルの側面図を(c)に示している。これらについては、以後の説明に応じて適宜参照されたい。
【0015】
図示の如く、点火コイルの内部構造は、コイルアセンブリと高圧側構造体130とから構成される。このうち、高圧側構造体130は、PBT(Polybutylene Terephthalate)又はPPS(Poly Phenylene Sulfide)といった第1の樹脂材料が用いられ、これによって構造体が形成されている。但し、ここに挙げた樹脂は、代表例に過ぎず、これに限られることはない。
【0016】
高圧側構造体131は、コイル搭載部と高圧端子収容部とが一体的に形成されている。このうち、コイル搭載部は、プラグ方向に凹んだ皿状体132と、其の外縁を所定板巾にて周回するよう設けられた外縁板部133と、を主たる構成としている。このうち、皿状体132の凹部には、其の表面にコイルアセンブリが搭載されている。高圧端子収容部は、其の内部が筒状体とされ、当該筒状体の内端に高圧端子(図示なし)が設けられている。この高圧端子は、筒状体へ挿入された導体物(スプリング等)を介して、内燃機関の点火プラグへ電気的に接続される。
【0017】
コイルアセンブリは、二次コイル120と一次コイル(図示なし)とが組合わされ、これらのコイルが内部のI字鉄芯(図示なし)に対し同軸的に配置される。そして、これらの部品群の外周には、外周鉄芯102及び103がこれを囲うように配置される。このように、双方コイルの周囲には、コイルアセンブリ自身の内外を囲むような閉字路が形成されることとなる。
【0018】
また、本実施の形態では、コイルアセンブリにイグナイタ150が設けられ、このイグナイタ150を把持するホルダーには、複数の端子が配列されている。これら複数の端子は、其の一つはバッテリー電源に接続され、別の一つは駆動信号が入力され、更に別の一つはGND電位に一致するよう配線される。更に、これらの端子は、イグナイタ150の端子,一次コイルの通電端子等へ適宜に接続される。一方、二次コイルは、一端が高圧端子へ電気的に接続されて、他端がGND側へ電気的に接続されている。
【0019】
かかる構成とされたコイルアセンブリは、点火信号を受けると一次電流の上昇が始まり、同点火信号の遮断に応じて、負の高電圧を発生させる。従って、当該負の高電圧は、高圧端子に印加され、点火プラグのプラグギャップを放電させる。
【0020】
図1にて説明したコイルアセンブリ及び高圧側構造体130の組立て体は、金型のキャビティ―へ装着させる前段階にアセンブルされた中間アセンブリと呼ばれるものである。この中間アセンブリは、金型のキャビティ―内へセットされた後、第2の樹脂材料がオーバーモールドされることで点火コイルのコイル側構造体140が形成されることとなる。このように、本実施の形態では、金型キャビティ―にコイルアセンブリ部品を直接装着させる煩雑さを回避させる為、事前に中間アセンブリを製作した上でこれを金型キャビティ―へ装着させる手順を踏む。
【0021】
図2に示す如く、コイル側構造体140は、コイルアセンブリの一部周囲を直接的に覆う被覆部141、高圧側構造体の一部を覆う形態とされた外層部142(詳しくは、高圧構造体の皿状体を外部から覆う部位)、ホルダー端子を内部に収容させた殻状部143、その他、金属ブッシュが埋設されたフランジ部144、等が一体的に形成される。また、第2の樹脂材料から成る構造体(コイル側構造体)は、高圧側構造体の一部を包囲するものであるところ、高圧構造体の一部を露出させた状態とさせる。
【0022】
図3(a)に示す如く、高圧側構造体130とコイル側構造体140とが隣接する領域では、双方相対運動する原因とされる境界が形成されることとなる。特に、本実施の形態に係る点火コイル100では、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料とが異なる材料とされる。ここでの「異なる」とは、双方の物性の差異又は双方の組成の差異といった物理的・化学的差異が認められ、境界における樹脂間の剥離を生じさせ得る原因が認められればこれに含まれる。例えば、双方の樹脂を比較した場合、熱膨張率が異なればこれをもって境界での剥離の原因とされ(物性の差異)、組成の差異によって双方の結合力の低下が認められればこれをもって境界での剥離の原因とされる(組成の差異)。
【0023】
具体的には、コイル側構造体140に用いられる第2の樹脂材料として、ポリアミド製樹脂(PA6等)を採用することが考えられる。かかるポリアミド樹脂(Polyamide resin)は、PBT及びPPS等と比較して鉄芯周囲でのクラック発生が少なく、当該鉄芯周りの緩衝材を省略できる点で有利とされる。その一方、本実施の形態では、高圧側構造体130がPBT等によって組成されるので、この組成の違いにより、樹脂境界で剥離の危険が高まることとなる。
【0024】
そこで、本実施の形態に係る点火コイルでは、
図3(a)に示す如く、筒状体131から皿状体132を介して外縁板部133に亘り、コイル搭載部の両面にコイル側構造体140の樹脂構造を被覆接触させることにより、剥離に関する不具合を効果的に予防させている。特に、コイル搭載部の外縁板部133は、皿状体132の外形よりも外側を囲う形状とされるところ、其の表面積が十分に大きなものとなる。このため、外縁板部133は、其の形状に由来する表面付着力(相対移動を阻止させる要素の一つ)が十分なものとなり、樹脂構造間の剥離・相対移動が抑制される。
【0025】
また、上述の如く、本実施の形態は、筒状体131の軸方向に対し、外縁板部133が略垂直となるよう配置される。このため、かかる点火コイル100では、軸方向への振動に伴う剥離が生じ難い構造とされている。
【0026】
また、
図3(b)に示す如く、外縁板部133には、凹部136(136a,136b,136c)が設けられている。この凹部136の各々は、其の内部へ第2の樹脂構造が充填されることで、軸方向周りの相対移動の歯止め機能(相対移動を阻止させる要素の一つ)を果たし、当該相対移動及びこれに伴う樹脂構造間の剥離を防止させる。特に、このような凹部は、当該外縁板部133の輪郭に沿った配列で形成されることで、その機能が最大限に発揮される。
【0027】
尚、本実施の形態では、相対移動を阻止させる要素の一つとして(以下、相対移動阻止要素と呼ぶ)、外縁板部133へ凹部136を形成させることを紹介した。但し、これは一つの実施形態に過ぎず、この凹部を凸部へ置換えても良い。また、凹部としているのは、貫通穴をも含み、当然の如く貫通されていない形態をも含まれる。
【0028】
図3(b)は、コイル載置側から点火プラグ方向に向かって、外縁板部133の一部を観察した図が示されている。本実施の形態に係る外縁板部133の表面は、略円形状の主体部134と、其の円形形状から径方向へ突出した矩形部135と、の組合せによって成る形状とされる。このように、本実施の形態では、主体部134が円形形状であって当該形状の中心軸周りについての相対移動が懸念されるため、これを阻止する要素として、円形形状の縁から突出する部位を一体形状とさせている。特に、本実施の形態では、其の箇所(矩形部135)にイグナイタ150を搭載させ、載置スペースの有効活用もが図られている。尚、主体部134については、円形形状の輪郭部を歯型状に加工(欠き加工)することで、更なる相対移動阻止効果を得るような工夫を施しても良い。
【0029】
図4は、上述した実施の形態の変形例が示されており、
図4(a)では中間アセンブリが示され、
図4(b)では高圧側構造体が示されている。尚、同図の説明にあっては、既に説明されたものについて同一番号を付し、其の説明を省略することとする。以下、
図4に関する実施の形態を、「他の実施例」と呼び換えて説明を進める。
【0030】
図4(a)に示す如く、他の実施例に係る中間アセンブリでは、外縁板部133の外周面に欠き部が設けられ、この欠き部の空間にもオーバーモールドされた樹脂が固化される。従って、この欠き部は、相対移動阻止要素として機能するものとなり、これを第1の要素136pと呼ぶこととする。第1の要素136qは、外縁板部133の主面(筒状体の軸方向に垂直な板面)に略平行方向に樹脂充填経路Rt1を導引させるもので、金型キャビティ―にオーバーモールド用の溶融樹脂が充填開始されると、この第1の要素136qを介して中間アセンブリの外方から内方へ溶融樹脂の流れが生じる。
【0031】
図4(b)には、外縁板部133の構造を説明するため、此処への搭載部品を取去った状態が示されている。図示の如く、外縁板部133は、高圧端子を収容させた筒状体の軸心に対して略垂直とされ、更に、其の周面を包囲するように突状枠が形成されている。其の突状枠は、外周面に沿って円周状を呈しており、第1の要素136qもこれに応じて円周状に形成配列されている。
【0032】
また、外縁板部133には、突状枠の内径側に穴部136pが形成され、外縁板部133の主面において略垂直方向の連通経路が形成される。この穴部136pは、先の枠状体の内側に沿って複数配列されるもので、これも溶融樹脂の経路とされ最終的に固化された樹脂によって埋められる。従って、この穴部136pにあっても、相対移動阻止機能としての機能を発揮するものとされ、以下、これを第2の要素136pと呼ぶこととする。図示の如く、第2の要素136pは、断続的に配列される為、これを途切れさせるような領域が与えられる。かかる領域では、外縁板部133の内外に亘り、当該外縁板部133の構造が底面として残されている。
【0033】
このように、同図における実施例では、2種類の相対移動阻止要素が設けられ、第2の要素136pの並びのうちこれが途切れている領域へ第1の要素136qが配置される。このように、樹脂充填経路Rt1が水平方向の流れを形成する部位では、その領域から第2の要素136pを排除させた外縁板部133の底面構造が確保される。これにより、外縁板部133の樹脂充填経路近傍の底面構造は、溶融樹脂の境界摩擦に耐え得る十分な強度が確保され、溶融樹脂の流れに起因する変形から免れる。
【符号の説明】
【0034】
100 内燃機関用点火コイル, 102 第1の外周鉄芯, 103 第2の外周鉄芯, 120 二次コイル, 131 高圧側構造体, 132 載置部, 133 外縁板部, 136 凹部, 140 コイル側構造体, 141 被覆部, 142 外層部, 143 殻状体, 144 フランジ。