【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最適なベースバンドシンボルサンプリングの瞬間を発見するタスクは、典型的には以下の下位部分を含む:
1)タイミングのオフセットを検出すること、
2)タイミングを調節する方法を決定すること、
及び、
3)タイミングのオフセットを実際に補償すること。
【0009】
ディジタルラジオ受信機では、下位タスク1)のために、例えば、ガードナー(Gardner)、アーリー−レート(early-late)ゲート、ミュラー・アンド・ミュラー(Muller & Muller)、相関アルゴリズムなどに基づく、異なる回路が提案された。下位タスク2)では、典型的には、PIDコントローラ又は同様の方式に基づくループフィルタが使用される。下位タスク2)では、ADCクロックを制御するディジタル領域(補間フィルタ)又はフィードバックにおける提案された。多くの提案された解決方法が、特定の変調方式/無線標準に合わせて調整され、異なる変調方式で動作する柔軟性を欠く。
【0010】
最適なベースバンドシンボルサンプリングの瞬間を決定するための技術は、本技術分野においてよく研究されている。しかしながら、従来の解決方法は、特定の変調方式又は無線標準に合わせて調整され、異なる変調方式で動作する柔軟性を欠く。さらに、それらは、典型的には、無線データパケットのプリアンブル区間におけるタイミング捕捉にのみ使用され、一方、タイミング追跡のためには、データペイロードが未知であるので別の回路が必要である。さらに、それらは、相関器、補間器、及びデシメーションフィルタのような高い複雑度のモジュールなどを含む。このことは、回路の複雑さに加えて計算複雑性も増加させ、より大きな電力消費量及びより大きなシリコン面積をもたらす。
【0011】
伝統的に、送信機(TX)及び受信機(RX)システムの間のタイミング捕捉には、相関に基づいたアプローチがしばしば使用される。しかしながら、相関に基づいたアプローチは、電力消費量のコストの増大(フレーム全体にわたって連続的にアクティブである必要がある)を理由として、典型的には、フレームの受信中にタイミング追跡を行うためではなく初期タイミング捕捉のためにのみ使用される。さらに、これらのアプローチは相関パターンの発生に依存するが、相関パターンが発生するのは、典型的には、ペイロード部分(PSDUと略記する)ではなくフレームのプリアンブルにおいてである。従って、それらは、PSDUの受信中のタイミング訂正(タイミング追跡)を除いて、プリアンブルの受信中の複数のシンボルにわたる予め定義されたパターン(ここで、期待されるシンボルのシーケンスは既知である)に対してのみ機能し、到来するシンボルシーケンスが受信機側に知られていない場合、別のアプローチが使用されなければならない。その上、それらは、より高いレートでオーバーサンプリングされたデータ(例えば1シンボル当たり8サンプル)上で典型的には動作している。
【0012】
従来、ガードナーアルゴリズムは、PSKタイプのシステムにおける捕捉後のタイミング追跡のために使用される。それは、1シンボル当たり2つのサンプルのみを必要とするので、処理レート又はクロック速度はより低くなりうる。さらに、タイミングがパケット中にドリフトするであろうという事実を考慮すると、タイミング追跡もまた重要かつ必要であるということに注意する。タイミング追跡なしでは、ドリフトにより最適サンプリング点から離れてしまう。
【0013】
既に言及したように、ベースバンドシンボルタイミング同期のための現在の解決方法に関していくつかの実質的課題を識別することができる。異なるシンボルタイミング同期の要件を有する異なる変調方式に基づく多数の無線標準(例えばパーソナルエリアネットワーク(PAN)のための無線標準)を単一のアーキテクチャでサポートするという課題対処する必要がある。現在のアプローチは限られた柔軟性(例えば単一標準のサポート)を提供するので、異なる無線標準をサポートするために多数のタイミング同期回路が必要とされる。もう1つの課題は、適用されるタイミング同期アルゴリズムの高い複雑さに関する。さらに、初期タイミング同期及びタイミング追跡を行うために異なる回路が必要とされ、このことは、より高い複雑さ、より大きな電力及び面積の消費量にさらに寄与する。
【0014】
異なる変調方式のための初期タイミング同期のための異なる要件を実証するために、ここで、後者についてのある基本的な情報の簡潔な要約を提示する。
【0015】
周波数偏移変調(frequency-shift keying:FSK)は、離散的な周波数の変化によって情報が伝送される周波数変調方式である。変調された信号は、シンボルスイッチング時間において不連続である。従って、それは不連続位相FSKとも呼ばれる。鋭い位相遷移は、信号のスペクトルにおいて主ローブに比較して比較的顕著なサイドローブレベルをもたらし、このことは、信号がより広い周波数帯で送信されるべきであり、さもなければ、それは隣接チャネルにおける干渉レベルを増大させるということを意味する。
【0016】
この課題を解決するために、連続位相周波数偏移変調(CPFSK)が導入される。
位相の連続性は高いスペクトル効率をもたらし、一定のエンベロープは優れた電力効率をもたらす。CPFSKは連続位相変調(CPM)の大きな族に属する。CPM変調された信号は、次式で表すことができる。
【0017】
【数1】
【0018】
ここで、Ф
0は搬送波の位相定数であり、φ(t;I)は次式で与えられる。
【0019】
【数2】
【0020】
ここで、{I
k}は、アルファベット±1,±3,…,±(M−1)から選ばれたM−ary情報シンボルのシーケンスであり、{h
k}は変調指数のシーケンスであり、q(t)は正規化された波形の形状である。すべてのkに対してh
k=hである場合、変調指数はすべてのシンボルに対して固定され、次式で与えられる。
【0021】
【数3】
【0022】
式(3)において、f
dはピーク周波数偏移であり、Tは秒で表されたシンボル持続時間である。波形q(t)は、一般性を失うことなく、あるパルス波形g(t)の積分として表されてもよい。すなわち、次式で表される。
【0023】
【数4】
【0024】
t>Tに対してg(t)=0である場合,CPM信号は完全応答と呼ばれ、さもなければ、変調された信号は部分応答CPMと呼ばれる。
【0025】
CPMにおいて、各シンボルは、シンボル継続時間にわたって開始値から最終値まで搬送波の位相を次第に変化させすることで変調される。位相記憶として知られる、以前に送信されたすべてのシンボルの累積合計位相によって各シンボルの初期位相が決定されるという事実の下では、変調及び復調はより複雑になる。従って、以前のシンボルを考慮に入れることなしには、受信機は孤立したいかなるシンボルに関する決定を行うことはできない。
【0026】
最小偏移変調(Minimum Shift Keying:MSK)の変調は、ビットレートの2分の1の周波数分離、又は変調指数h=1/2とも呼ばれるものを有するCPFSK変調の特別なサブクラスである。オフセット直交位相偏移変調(Offset Quadrature Phase-shift Keying:OQPSK)はQPSKの変形である。これはスタッガードQPSK(Staggered QPSK:SQPSK)と呼ばれることがある。QPSKでは、2つのビットがあるシンボルから他のシンボルにジャンプするように同時に変化することがあり、従って、それは、信号の位相が一度に最大で180°にわたってジャンプすることを可能にする。(送信機において典型的であるように)信号が低域通過フィルタリングされている場合、これらの位相シフトは大きな振幅の変動をもたらす。1つのビット周期、又はシンボル期間の半分によって奇数及び偶数のビットのタイミングを相殺することによって、同相及び直交位相の成分が同じ瞬間に変化しないことが保証される。これは、信号配置位相図における1回の位相シフトが90°より大きくならないことを意味する。これは、非オフセットQPSKのものよりもずっと小さな振幅変動をもたらす。OQPSKに対して半波正弦波パルスの整形を行うことによって、これはMSKの等価物になる。
【0027】
オリジナルのMSK又はFSKとは異なり、GMSK又はGFSKの送信機では、ディジタルデータストリームは、周波数変調器に送られる前にガウスフィルタで整形される。その利点は削減された側波帯電力にあり、それは次いで隣接した周波数チャネルにおける干渉を削減する。しかしながら、その欠点は、ガウスフィルタがシステムにおける変調記憶を増加させて、シンボル間干渉を生じさせるということにある。ガウスフィルタは、帯域幅シンボル時間積BT
bによって特定される。より小さな値のBT
bでは、スペクトルのサイドローブはさらに縮小されるが、シンボル間干渉(ISI)は増大する。
【0028】
最適なGFSK復調器は、トレリスに基づいたビタビ復号器である。これは、変調指数hについてある公称値を常に仮定する。しかしながら、Bluetooth(登録商標)の低エネルギーシステム(Bluetooth Low Energy system)の変調指数の変動が許容されるのは0.45〜0.55の範囲内であり、このことは、おそらくは多数の状態を有する、シーケンス検出のための変動するトレリス構造をもたらす。従って、小電力の設計では、GFSK信号を復調するために、典型的には、非コヒーレントの準最適な受信機が使用される。(2)で示されるように、1つのシンボル期間では、GFSK信号の位相トレリスは区分的に単調である。単調な変化の方向はバイナリシンボル値によって決定される。従って、差動復調器を使用可能である。差動復調器は、φ(nT)を得るためにシンボルレートでφ(t)をサンプリングし、次に、次式により、隣接するサンプルの差をとることを含む。
【0029】
【数5】
【0030】
Δφ(nT)の符号に基づいて決定することができる。同じ差動検出器をMSK及びCPFSKに同様に適用することができる。
【0031】
差動符号化されたBPSKにおいて、バイナリ値「1」は、電流位相に180°を加算することで送信されてもよく、バイナリ値「0」は、電流位相に0°を加算することで送信されてもよい。DPSKの別の変形は、対称差動位相偏移変調(SDPSK)であり、ここでは、「1」で+90°に符号化され、「0」で−90°に符号化される。明らかに、差動復調器はDPSK/SDPSKシステムに良好に適用され、復調器は絶対位相自体ではなく受信信号の位相の変化を決定する。
【0032】
特許文献1において、差動位相偏移変調(DPSK)で変調された信号のための復調回路が開示されている。位相差データ発生器は、予め決められたサンプリング時間毎に受信された信号入力の位相を表す位相データを、1つのシンボル時間にわたって先行する以前の位相データと比較し、位相データの移相量を表す位相差データを生成する。シンボル選択ユニットは、サンプリング時間毎に生成された位相差データを評価し、1つのシンボルを選択する。言いかえれば、シンボル位相に基づいたアプローチが採用される。提案された解決方法は高い計算複雑性を含み、周波数オフセットに対して脆弱である。
【0033】
非特許文献1は、TDMAディジタル移動無線システムのための非コヒーレント復調器における同期方式を提示する。提案された同期方式は、ガードナーのタイミング誤差検出器を使用する非線形シンボルタイミング回復と組み合わされ、周波数オフセット補償も取り扱う。差動検出器は、タイミング誤差検出を実行する前に入力IQデータを復調するために、固定の遅延を有して使用される。しかしながら、このアプローチは、特定のベースバンド変調方式及び/又はシンボルレート、すなわちDQPSKに限定される。さらに、差動検出器の出力と、従って後段のタイミング誤差検出器の出力とは、入力信号の振幅によって影響される。別の制限は、搬送波周波数のオフセットの補償が信号に対して行われるのはタイミング誤差の推定後であるということにある。従って、例えばBluetooth Low Energy規格で定義されたような、大きな周波数オフセットがある場合、説明されたタイミング誤差推定量は機能することができない。さらに、提案された解決方法は、ADCのサンプリングプロセスをアナログ領域において直接的に修正する。このことは、ADCの設計に複雑さを追加し、位相歪みと、タイミング補償のより遅いタイミングループ整定時間とをもたらす。
【0034】
従って、これらの欠点が回避されるか克服されているタイミング同期回路が必要とされる。
【0035】
本開示の実施形態の目的は、さまざまな変調方式とともに使用可能である、小さな複雑さのタイミング同期回路を提供することにある。本開示の別の目的は、捕捉及び追跡の両方に使用可能なタイミング同期回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上述の目的は本開示に係る解決方法によって達成される。
【0037】
第1の態様において、本開示はディジタル受信機構造のためのタイミング同期回路に関する。上記タイミング同期回路は、タイミング誤差検出モジュールと、タイミング誤差制御モジュールとを備える。上記タイミング誤差検出モジュールは、ディジタルデータストリームの到来するサンプル間の位相差を計算するように構成された位相差計算ユニットと、上記計算された位相差に基づいてタイミング誤差推定値を決定し、上記決定されたタイミング誤差推定値に基づいてタイミング誤差検出を示す信号を生成する。上記タイミング誤差制御モジュールは、上記タイミング誤差検出を示す信号を受信し、タイミング誤差検出を示す所定個数の受信された信号を評価し、しきい値と比較した後で、上記ディジタルデータストリームを取得するために行われるサンプリングの瞬間を調整するためのサンプリング調整コマンドを出力する。
【0038】
提案する解決方法は、ディジタルデータストリームのサンプル間の位相差で動作するという事実により、様々な標準で使用することを可能にする。位相差に基づいて、タイミング誤差推定値が導出され、これに基づいて、タイミング誤差が生じたか否かが決定される。次いで、対応する信号はタイミング誤差制御ブロックに出力される。次いで、後者は、サンプリングの瞬間のタイミングを変化させることが必要か否かを決定する。以下で詳述されるように、本開示のタイミング同期回路は、捕捉及び追跡の両方に使用することができるという、重要な追加の利益を提供する。
【0039】
好ましい実施形態において、上記位相差計算ユニットは構成可能な遅延を与えるように適合される。これは、回路を別の標準で使用するように構成する必要がある場合に有利な特徴である。
【0040】
好ましくは、上記到来するサンプルは同相/直交位相のペアとして供給される。
【0041】
有利な実施形態において、上記タイミング誤差推定器は、複数の上記タイミング誤差推定値を格納するための構成可能な長さを有するレジスタを備える。
【0042】
1つの実施形態では、上記タイミング同期回路は、上記格納されたタイミング誤差推定値の平均を演算し、平均されたタイミング誤差推定値を生成するように構成される。
【0043】
好ましくは、上記タイミング誤差検出を示す信号は、上記タイミング誤差推定値の極性の表示を含む。
【0044】
上記タイミング誤差推定器は、上記タイミング誤差推定値又は上記平均されたタイミング誤差推定値をしきい値レベルと比較するように構成される。
【0045】
他の実施形態では、上記タイミング誤差検出モジュールは、上記タイミング誤差推定値に対してダウンサンプリングを行うように構成される。
【0046】
好ましい実施形態において、上記到来するサンプルは、周波数偏移変調又は位相偏移変調の変調方式により変調されている。
【0047】
他の態様では、本開示は、先に説明したタイミング同期回路を備えるディジタル受信機構造に関する。
【0048】
1つの実施形態では、上記ディジタル受信機構造は、受信された入力ストリームをダウンサンプリングして上記データディジタルストリームを取得するように構成されたダウンサンプリングブロックを備える。
【0049】
ここまで、本開示及び先行技術に対して達成されたその利点を要約する目的で、本開示のある目的及び利点を説明した。もちろん、必ずしもすべてではないそのような目的あるいは利点が本開示の任意の特定の実施形態に従って達成されてもよいということが理解されるべきである。したがって、例えば、当業者は、ここに教示されたか示唆された可能性がある他の目的あるいは利点を必ずしも達成することなく、ここに教示されるような1つの利点あるいは一群の利点を達成するか最適化するような方法で、本開示を具体化するか実施してもよいということを認識するだろう。
【0050】
本開示の上述の態様及び他の態様は、以下に説明された実施形態から明らかになり、また、その実施形態を参照して解明される。