【実施例】
【0011】
(実施例1)
実施例に係るレーザ点火プラグにつき、
図1、
図2を用いて説明する。
本例のレーザ点火プラグ1は、
図1に示すように、レーザ光発生器10、ハウジング20、光学窓30、光学窓固定部材40を備える。
レーザ光発生器10は、
図2に示すように、レーザ光Qを発生させるように構成されている。
ハウジング20は、レーザ光発生器10を収納している。
光学窓30は、ハウジング20のプラグ軸方向Yの先端側Y1に設けられるとともに、レーザ光発生器10から発生したレーザ光Qが入射する入射面31と、入射面31から入射したレーザ光Qが出射する出射面32とを有している。
光学窓固定部材40は、ハウジング20のプラグ軸方向Yの先端22と光学窓30との間に介在してプラグ周方向R全域において両者に接合された金属製の環状部材からなる。
そして、出射面32は光学窓固定部材40よりもプラグ軸方向Yの先端側Y1に突出している。
【0012】
以下、本例のレーザ点火プラグ1について、詳述する。
図1に示すように、ハウジング20は、プラグ軸方向Yに延びる筒状を成しており、ハウジング20の外周面には内燃機関(図示せず)に螺合するための取付ネジ部21が形成されている。レーザ点火プラグ1は、取付ネジ部21を内燃機関に螺合させて、出射面32が内燃機関の燃焼室(図示せず)に露出するように、内燃機関に取り付けられる。ハウジング20はSUS製である。
【0013】
ハウジング20の内側に収納されたレーザ光発生器10は、レーザ点火プラグ1の外部に設けられた励起光源(図示せず)に光ファイバを介して接続されている。レーザ光発生器10は、励起光源から供給された励起光を共振させて増幅して、エネルギ密度の高いパルス光としてのレーザ光Qを発生させる。レーザ光発生器10の構成は特に限定されず、公知の構成を採用できる。
【0014】
レーザ光発生器10から発生されたレーザ光Qは、図示しない拡散レンズによって所定幅に拡散された後、
図2示すように、集光レンズ50を透過する。集光レンズ50における入射面51と出射面52とは互いに異なる曲率を有する。集光レンズ50の入射面51には、レーザ光発生器10から出射されたレーザ光Qの反射を抑制するための反射防止層が形成されている。集光レンズ50は、拡散レンズと所定の距離を保つようにハウジング20内に設けられたレンズホルダ53に保持されている。これにより、レーザ光Qは集光レンズ50によって集光されて、光学窓30を透過して燃焼室内の集光点FPに集光される。
【0015】
光学窓30は、燃焼室内に面しており、燃焼室内の熱、圧力、燃焼生成物等からハウジング20の内部を保護している。光学窓30の形成材料としては、サファイヤガラス、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス等の公知の光学素子材料を採用することができ、本例では、サファイヤガラスを採用している。
図2に示すように、光学窓30の入射面31及び出射面32は、互いに平行な平面となっている。入射面31には、集光レンズ50から出射されたレーザ光Qの反射を抑制するための反射防止層が形成されている。
【0016】
光学窓30の側面33は、入射面31に隣接する第1側面331と、第1側面311のプラグ軸方向Yの先端側Y1に位置して、出射面32に隣接する第2側面332とからなる。第1側面331は、プラグ軸方向Yの先端側Y1に向かうにつれて拡径するようにテーパしたテーパ面となっている。一方、第2側面332はプラグ軸方向Yの先端側Y1に向かうにつれて縮径するようにテーパしたテーパ面となっている。したがって、光学窓30の外径は、第1側面331と第2側面332との境界部333において最大となっている。
【0017】
光学窓30は、
図2に示すように、光学窓固定部材40によってハウジング20の先端22に固定されている。光学窓固定部材40は金属製であって、本例では鉄にニッケル及びコバルトを配合した合金であるコバール製である。光学窓固定部材40は環状部材であって、環状をなす基部41と、基部41の外縁からプラグ軸方向Yの先端側Y1に延出するとともに先端側Y1に向かうにつれて内側(すなわちプラグ軸心1a側)に屈曲している規制部材保持部42とからなる。基部41の内周面43は光学窓30の第1側面331に沿ってテーパしている。
【0018】
そして、内周面43と第1側面331とがろう付けにより接合されている。当該ろう付けに使用するろう材は融点の高いものが好ましく、例えば、融点が99℃であるAu−Cu合金や融点が780℃であるAg−Cu合金からなるろう材を使用することができる。本例ではAu−Cu合金からなるろう材を使用している。なお、ろう付け前に、第1側面331に、Mo−Mn合金又はAg−Cu−Ti合金を焼き付けした後、Niメッキを施している。これにより、ろう付けによって第1側面331と内周面43とが良好に接合される。
【0019】
光学窓30の入射面31は、光学窓固定部材40のプラグ軸方向Yの基端側Y2の端部(基端部44)よりも基端側Y2に突出している。入射面31の突出量d1は、本例では0.1mmである。また、出射面32は、光学窓固定部材40のプラグ軸方向Yの先端側Y2の端部(先端部42a)よりも先端側Y1に突出している。出射面32の突出量d2は、本例では0.1mmである。このように、入射面31及び出射面32が上述の如く突出していることにより、光学窓30のプラグ軸方向Yの長さ(すなわち、厚さ)は、光学窓固定部材40のプラグ軸方向Yの長さ(厚さ)よりも大きくなっている。なお、突出量d1及びd2は、いずれもこれらの値に限定されず、後述の入射面31及び出射面32における表面処理の作業性などを考慮して適宜変更できる。
【0020】
レンズホルダ53のプラグ軸方向Yの先端側Y1と光学窓固定部材40との間には、スペーサ54が介在している。これにより、集光レンズ50の出射面52と光学窓30の入射面31との間に空間部55が形成されている。スペーサ54のプラグ軸方向Yの長さ(すなわち、厚さ)は適宜設定することができる。
【0021】
光学窓固定部材40の基部41の外縁と、ハウジング20の先端22とがプラグ周方向Rの全域において溶接されて溶接部45が形成されている。これにより、光学窓固定部材40を介して光学窓30がハウジング20のプラグ軸方向Yの先端側Y1に固定されることとなる。
【0022】
光学窓固定部材40には規制部材60を保持する規制部材保持部42が形成されている。規制部材60は金属製であって環状をなしている。規制部材60の内周面61は、テーパ面である第2外周面332に沿うようにテーパしている。内周面61と第2外周面332とが当接した状態で規制部材保持部42に保持されている。これにより、規制部材60は、光学窓30の外周面33に当接して光学窓30がプラグ軸方向Yの先端側Y1に移動することを規制している。
【0023】
次に、レーザ点火プラグ1の製造方法について、
図3及び
図4(a)〜
図4(e)を用いて説明する。
本例のレーザ点火プラグ1の製造方法は、
図3に示すように、ろう付け工程S2、入射面処理工程S3、溶接工程S5を含む。
ろう付け工程S2では、
図4(a)、
図4(b)に示すように入射面31が光学窓固定部材40よりもプラグ軸方向Yの基端側Y2に突出するように、光学窓30の外周面331と光学窓固定部材40の内周面43とがプラグ周方向全域においてろう付けにより接合される。
入射面処理工程S3では、入射面31に表面処理が施される。
溶接工程S5では、
図4(e)に示すように光学窓固定部材40とハウジング20のプラグ軸方向Yの先端22とがプラグ周方向全域において溶接される。
【0024】
以下、本例のレーザ点火プラグ1の製造方法について、詳述する。
本例のレーザ点火プラグ1の製造方法では、まず、
図4(a)に示すように、光学窓30が用意される。そして、光学窓30の第1側面331にMo−Mn合金又はAg−Cu−Ti合金が焼き付けされた後、Ni層がめっきにより形成される(前処理工程S1)。
【0025】
次に、光学窓固定部材40が用意される。この時点では、光学窓固定部材40における規制部材保持部42は、基部41からプラグ軸方向Yの先端側Y1に平行に延出しており、内側(プラグ軸心1a側)に屈曲していない。そして、前処理工程後の光学窓30が、
図4(a)において矢印T1で示すように入射面31側から光学窓固定部材40の内側に嵌め込まれる。これにより、
図4(b)に示すように、光学窓固定部材40の内周面43と第1側面331とが全周方向において当接されるとともに、入射面31が記光学窓固定部材40よりもプラグ軸方向Yの基端側Y2に突出する。
【0026】
その後、基部41の内周面43におけるプラグ軸方向Yの先端側Y1に形成された溝部431にAu−Cu合金からなるワイヤー状のろう材70が配設される。そして、ろう材70が加熱溶融されて内周面43と第1側面331との間に浸入する。その後、ろう材70が固化されて、内周面43と第1側面331とが接合される。これにより、入射面31が光学窓固定部材40よりもプラグ軸方向Yの基端側Y2に突出した状態で、光学窓30が光学窓固定部材40に固定される(ろう付け工程S2)。なお、本例では、
図4(b)に示すように、ろう材70の侵入方向と重力方向とが略一致するように、プラグ軸方向Yの先端側Y1が上側となるとともに基端側Y2が下側となる状態で作業している。
【0027】
本例では、前処理工程において、第1側面331に上述の表面処理が施されているため、第1側面331におけるろう材70の濡れ性が向上している。そのため、内周面43と第1側面331との間へのろう材70の浸入が促進されている。これにより、内周面43と第1側面331との接合面積が十分に確保されて、両者の接合強度が確保されている。
【0028】
なお、本例では、基部41の内周面43におけるプラグ軸方向Yの先端側Y1に形成された溝部431にろう材70が配設されて、ろう材が先端側Y1から基端側Y2に向けて内周面43と第1側面331との間に浸入するようにした。これに替えて、内周面43におけるプラグ軸方向Yの基端側Y2に溝部431が形成されるとともに、ろう材が基端側Y2から先端側Y1に向けて内周面43と第1側面331との間に浸入するようにしてもよい。なお、この場合は、ろう材の侵入方向と重力方向とが略一致するように、
図4(b)に示す状態から上下方向に反転させて作業するものとする。
【0029】
その後、光学窓固定部材40の入射面31及び出射面32に表面処理が施される(入射面処理工程S3)。具体的には、まず入射面31及び出射面32が研磨される。これにより、上述のろう付け工程において、溶融したろう材の一部等の入射面31及び出射面32に付着した異物が除去される。その後、入射面31に反射防止層が形成される。本例では、反射防止層は、SiO
2からなる膜とTa
2O
5からなる膜とが交互に繰り返し積層されて形成された多層膜からなる。反射防止層により、集光レンズ50から出射されたレーザ光Qが入射面21により反射されることが抑制される。
【0030】
次に、
図4(c)に示すように、規制部材60が用意される。そして、規制部材60が、矢印T2で示すように、規制部材60の内周面61が光学窓固定部材40の第2側面332に当接するように光学窓固定部材40の内側に嵌め込まれる。その後、基部41から先端側Y1に延出している規制部材保持部42が、規制部材60の外周面62及び先端側Y1の面63に沿ってプラグ軸心1a側に屈曲される。これにより、規制部材保持部42により、規制部材60の内周面61が第2側面332に当接した状態で規制部材60が保持される(規制部材保持工程S4)。
【0031】
その後、
図4(e)に示すように、光学窓固定部材40の基部41の外縁と、ハウジング20の先端22とがプラグ周方向Rの全域において溶接されて溶接部45が形成される(溶接工程S5)。これにより、光学窓固定部材40を介して光学窓30がハウジング20のプラグ軸方向Yの先端側Y1に固定されることとなる。溶接部45における溶接方法は特に限定されないが、本例では、YAGレーザ光によりレーザ溶接を採用している。
【0032】
以上のように、前処理工程S1、ろう付け工程S2、入射面処理工程S3、規制部材保持工程S4及び溶接工程S5を経て、ハウジング20の先端22側に光学窓30が設けられて、レーザ点火プラグ1が製造されることとなる。
【0033】
次に、本例のレーザ点火プラグ1における作用効果について、詳述する。
レーザ点火プラグ1によれば、光学窓30の出射面32は光学窓固定部材40よりもプラグ軸方向Yの先端側Y1に突出している。これにより、使用に伴って出射面32に付着した燃焼生成物などを拭き取るなどして容易に除去することができるため、着火性を維持するためのメンテナンスが容易となる。
【0034】
本例では、上記ろう付け工程S2において、入射面31が光学窓固定部材40よりもプラグ軸方向Yの基端側Y2に突出するように、光学窓30の外周面33と光学窓固定部材40の内周面43とをプラグ周方向R全域においてろう付けにより接合する。その結果、入射面31は、光学窓固定部材40よりもプラグ軸方向Yの基端側Y2に突出している。これにより、入射面処理工程S3において、入射面31の表面処理を行うことが容易となり、作業性が向上する。具体的には、入射面処理工程S3において、入射面31の全域を均一に研磨することが容易となる。また、入射面31の全域に反射防止層を均一に形成することが容易となる。
【0035】
本例では、光学窓30の外周面33に当接して光学窓30がプラグ軸方向Yの先端側Y1に移動することを規制する規制部材60を備え、光学窓保持部材40には、規制部材60を保持する規制部材保持部42が形成されている。これにより、万が一、第1側面331が内周面43から剥離しても、規制部材60を介して規制部材保持部42によって、光学窓30が燃焼室内に脱落することが防止される。
【0036】
また、本例では、外周面33の少なくとも一部にはプラグ軸方向Yの先端側Y1に向かうにつれて縮径するようにテーパしたテーパ面332が形成されており、規制部材60は環状をなすとともに内周面61がテーパ面332に沿うようにテーパしており、規制部材保持部42は内周面61がテーパ面332に当接した状態で規制部材60を保持している。これにより、規制部材60と光学窓30との接触は面接触となることから、規制部材60と光学窓30との当接部において応力集中が抑制されて、光学窓30の破損が防止される。
【0037】
また、本例では、光学窓30の第1側面331がテーパしており、これに伴って光学窓保持部材40の内周面43もテーパしている。これにより、光学窓固定部材40の基部41の厚さ(プラグ軸方向Yの長さ)を大きくすることなく、第1側面331と内周面43との間の接合面積が大きくできるため、両者の接合強度を十分に確保することができる。
【0038】
また、本例では、光学窓保持部材40は金属製であるために伝熱性に優れる。光学窓保持部材40は燃焼室に露出しているため、混合気の燃焼に伴って高温になりやすいが、光学窓保持部材40の熱がハウジング20に伝播されやすいことから、規制部材保持部42が過度に高温となることが防止される。これにより、プラグ軸心1a側に屈曲されていた規制部材保持部42が、高温によって剛性が低下して外側(プラグ軸心1aから離れる側)に広がることを抑制することができる。その結果、規制部材60及び光学窓30が燃焼室内に脱落することが防止される。
【0039】
本例では、光学窓固定部材40は、プラグ周方向R全域においてハウジング20の先端22及び光学窓30の両者に接合されている。これにより、光学窓30とハウジング20との間がシールされるため、燃焼室に供給された混合気がハウジング20内へ流入することが防止される。
【0040】
また、本例では、上述の溶接工程において、溶接部45を介してハウジング20と光学窓固定部材40とが接合されている。そのため、仮に、ハウジング20の一部及び光学窓固定部材40の一部の少なくとも一方を他方にかしめることにより両者を互いに接合をする場合に比べて、ハウジング20と光学窓固定部材40との再接合が容易となる。すなわち、一旦ハウジング20と光学窓固定部材40とを接合した後、万が一、溶接部45の形成が不十分であることが判明した場合に、容易に溶接部45を再形成することができる。そのため、信頼性の高いレーザ点火プラグ1を提供することができる。
【0041】
本例では、スペーサ54が設けられることにより、光学窓30と集光レンズ50との間に空間部55が形成されている。これにより、燃料室内の熱が集光レンズ50に伝わることを低減することができるため、集光レンズ50が過度に加熱されることを防止できる。その結果、集光レンズ50の変形や集光レンズ50に形成された反射防止層の劣化や剥離が防止されて、長期的に着火性を維持することができる。なお、スペーサ54を設けることに替えて、スペーサ54を光学窓保持部材40又はレンズ保持部53と一体的に形成してもよい。
【0042】
以上のごとく、本例によれば、メンテナンス性に優れたレーザ点火プラグ1を提供することができる。