(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の方法では、予め2つの材料(非晶質の第一無機固体電解質粉末、及び結晶質の第二無機固体電解質粉末)を用意する必要があり工程が複雑である。また固体電解質に結晶相と非晶質相とを混在させる技術としてメカノケミカル法があるが、現状では高コストで収率も十分ではない。
【0007】
またLAGP(Li
1+xAl
xGe
2-x(PO
4)
3(0≦x≦1))を母材とする固体電解質は、電極材料に与える影響を防ぐために600℃以下の低温で焼成することが好ましいとされるが、低温焼成による場合、粒子内の結晶化や焼結不足から固体電解質の緻密性が損なわれて高いイオン伝導度の確保が難しいという課題がある。
【0008】
本発明は、低温焼成によって高いイオン伝導度を有する固体電解質を製造することが可能な、固体電解質の製造方法、及びこれを用いた全固体電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一つは、固体電解質の製造方法であって、LAGP(Li
1+xAl
xGe
2-x(PO
4)
3(0≦x≦1))を含む粉体を熱処理することにより、結晶化度が50〜80%の範囲となるように部分結晶化を行い、前記熱処理を行った後の前記粉体を580〜600℃で焼成することにより固体電解質を得ることとする。
【0010】
本発明の他の一つは、上記固体電解質の製造方法であって、前記熱処理により結晶化度が50%の前記粉体を作製し、作製した前記粉体を580℃以上で焼成することにより固体電解質を得ることとする。
【0011】
本発明の他の一つは、上記固体電解質の製造方法であって、前記熱処理は540℃で行うこととする。
【0012】
本発明の他の一つは、上記固体電解質の製造方法であって、前記熱処理により結晶化度が60%の前記粉体を作製し、作製した前記粉体を580℃以上で焼成することにより固体電解質を得ることとする。
【0013】
本発明の他の一つは、上記固体電解質の製造方法であって、前記熱処理は560℃で行うこととする。
【0014】
本発明の他の一つは、上記固体電解質の製造方法であって、前記熱処理により結晶化度が80%の前記粉体を作製し、作製した前記粉体を580℃以上で焼成することにより固体電解質を得ることとする。
【0015】
本発明の他の一つは、上記固体電解質の製造方法であって、前記熱処理は600℃で行うこととする。
【0016】
本発明の他の一つは、固体電解質の製造方法であって、LAGP(Li
1+xAl
xGe
2-x(PO
4)
3(0≦x≦1))を含む粉体を熱処理することにより、結晶化度が70%の範囲となるように部分結晶化を行い、前記熱処理を行った後の前記粉体を570〜600℃で焼成することにより固体電解質を得ることとする。
【0017】
本発明の他の一つは、上記固体電解質の製造方法であって、前記熱処理は580℃で行うこととする。
【0019】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低温焼成によって高いイオン伝導度を有する固体電解質を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。
【0023】
図1、
図2A、及び
図2Bは、いずれも本発明を適用可能な全固体電池1の層構造の例である。このうち
図1は、単相セル構造の全固体電池1の層構造の一例であり、
図2Aは、直列接続型の多層セル構造の全固体電池1の層構造の一例であり、
図2Bは、並列接続型の多層セル構造の全固体電池1の層構造の一例である。
【0024】
図1に示した全固体電池1は、集電体層12、正極層13、固体電解質層14、負極層15、及び集電体層16が、同図に示す3次元座標系の−z軸方向に向かってこの順に積層された構造を有する。このうち、集電体層12、正極層13、固体電解質層14、負極層15、及び集電体層16は、全固体電池1の電池要素5を構成する。
【0025】
図2Aに示した全固体電池1は、
図1に示した電池要素5を2つ直列に接続した構造(多層構造)を、
図2Bに示した全固体電池1は、
図1に示した電池要素5を2つ並列に接続した構造(多層構造)を有する。尚、
図2Aにおける集電体層16aと集電体層12bは共通の構成としてもよい。また
図2Bにおける集電体層16aと集電体層12bは共通の構成としてもよい。
【0026】
以下では、
図1に示した全固体電池1を例として説明するが、
図2A及び
図2Bに示した全固体電池1の各層の構成や製造方法は、
図1に示した全固体電池1と基本的に同じである。
【0027】
<全固体電池の作製方法>
全固体電池1の層構造の作製に際しては、まず電池要素5の母材となるLAGP(Li
1+xAl
xGe
2-x(PO
4)
3(0≦x≦1))粉体を作製する。
【0028】
図3にLAGPの作製方法を示している。同図に示すように、まず母材の原料であるLi
2CO
3、Al
2O
3、GeO
2、NH
4H
2PO
4の粉体を所定の組成比(本実施例では、9.5:4.3:27:59.2とした。)になるように秤量し、磁性乳鉢やボールミル等を用いて混合する(S1)。
【0029】
続いて、得られた混合物を、アルミナルツボ等を用いて300〜400℃の温度で3〜5h仮焼成する(S2)。
【0030】
続いて、仮焼成によって得られた粉体を1200〜1400℃の温度で1〜2hの時間をかけて溶解し(S3)、溶解した試料を急冷しその試料をガラス化する(S4)。
【0031】
続いて、ガラス化された試料を200μm以下の粒径となるように粗解砕し(S5)、粗解砕して得た粉体を大気中にて熱処理し(500〜850℃、2〜12h)、粉体の一部を結晶化(以下、部分結晶化とも称する。)する(S6)。
【0032】
そして焼成後の粉体中の粒子が5μm以下の粒径となるように、ボールミル等で解砕する(S7)。
【0033】
続いて、各層(集電体層12、正極層13、固体電解質層14、負極層15、及び集電体層16)に対応するシート(正極シート、負極シート、固体電解質シート、集電体シート)を作製する。
【0034】
図4に各層に対応するシートの作製方法を示している。まずS7で解砕して得た粉体に、上記各層のシートに対応する材料、エチルセルロース等のバインダ(粉体に対して20〜30[wt%])、及び溶媒としての無水アルコール(無水エタノール等)(粉体に対して30〜50[wt%])を加えてボールミルで混合(20h程度)し、ペーストを作製する(S21)。尚、この際に必要に応じて可塑剤や分散剤を使用してもよい。
【0035】
続いて、ペーストを脱泡処理し(S22)、ドクターブレード法により、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上にペーストを塗工する(S23)。
【0036】
続いて、以上により得られた各層のシートを、
図1に示した順序で積層し、積層したシート同士をプレス圧着することにより、所定の厚さの積層体を作製する(S24)。
【0037】
続いて、作製した積層体を適宜な大きさに裁断し(S25)、載断した積層体を600℃以下の温度で焼成し、
図1に示した層構造を得る(S26)。
【0038】
尚、
図4のS21において粉体に加える、上記各層のシートに対応する材料は、正極シート又は負極シートについては、正極活物質又は負極活物質であり、正極活物質としては、例えば、スピネル化合物(LiMn
2O
4等)、相乗化合物(LiCoO
2、LiNiO
2、オリビン化合物(LiFePO
4,LiCoPO
4等)、Li
4Ti
5O
12、ポリアニオン化合物(Li
3V
2(PO
4)
3等)であり、負極活物質としては、例えば、金属(シリコン(Si)、錫(Sn)等)、黒鉛、ハード゛カーボン、TiO
2、Li
4Ti
5O
12 等である。また固体電解質シートについては、例えば、Li
1.5A
l0.5Ge
1.5(PO
4)
3、LiTi
2(PO
4)
3、Li
7La
3Zr
2O
12、Li
3PO
4、(LiLa)TiO
3、 LiZr
2(PO
4)
3等である。また集電体シートについては、例えば、電子伝導性材料としての炭素粉末、金属粉等である。
【0039】
=固体電解質の結晶化度とイオン伝導度=
本発明者らは、固体電解質層14を構成する固体電解質の結晶化度とイオン伝導度の関係について検証を行った。
【0040】
<試験1>
まず
図3のS6における熱処理(部分結晶化)の条件を変えて前述した方法(
図3、
図4)に従い結晶化度の異なる複数の固体電解質のサンプル(1)〜(11)を作製し、各サンプルについてイオン伝導度を調べた。尚、各サンプルの作製に際し、
図4のS26における焼成温度は600℃とした。結晶化度は、示差走査熱量分析装置(Differential Scanning Calorimeter)を用いて測定した。イオン伝導度の測定は、作製した各サンプル(固体電解質)の表面をコーティングすることにより電極を形成し、これに集電体(アルミニウム箔(Al箔)又は銅箔(Cu箔))を設けてインピーダンスを測定することにより行った。表1に各サンプルの測定結果を示す。
【0041】
表1
表1に示すように、結晶化度が50〜80%の範囲のサンプル(サンプル(5)〜(8))は、いずれも高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示した。これは結晶層がフィラーとなって、非晶質相が融解しても緻密に焼結することに因るものと考えられる。
図5Aに、結晶化度が50〜80%の範囲のサンプルについて撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)による層構造の断面写真を示す。
【0042】
一方、結晶化度が0〜40%の範囲のサンプル(サンプル(0)〜(4))は、いずれも結晶化度が50〜80%の範囲のサンプル(サンプル(5)〜(8))に比べて低いイオン伝導度を示した。これは非晶質相が融解して発泡したことに因るものと考えられる。
図5Bに、結晶化度が0〜40%の範囲のサンプルについて撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)による層構造の断面写真を示す。
【0043】
結晶化度が80〜100%の範囲のサンプル(サンプル(8)〜(10))は、いずれも結晶化度が50〜80%の範囲のサンプル(サンプル(5)〜(8))に比べて低いイオン伝導度を示した。これは結晶相同士が焼結せずに空隙が多く生じたことに因るものと考えられる。
図5Cに、結晶化度が80〜100%の範囲のサンプルについて撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)による層構造の断面写真を示す。
【0044】
<試験2>
続いて、試験1において高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示した、結晶化度が50〜80%の範囲のサンプル(サンプル(5)〜(8))について、
図4のS26における焼成温度の違いによるイオン伝導度の変化を検証した。
【0045】
表2は、結晶化度が50%のサンプル(5)について、
図4のS26における焼成温度を500〜600℃の範囲で変化させた場合におけるイオン伝導度の測定結果である。
【0046】
表2
表2に示すように、結晶化度が50%のサンプル(5)は、焼成温度を600℃とした場合に高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示した。また結晶化度が50%のサンプル(5)は、焼成温度を580℃程度まで下げた場合でも比較的高いイオン伝導度(≧9.00×10
-5(S/cm))を示した。
【0047】
表3は、結晶化度が60%のサンプル(6)について、
図4のS26における焼成温度を500〜600℃の範囲で変化させた場合におけるイオン伝導度の測定結果である。
【0048】
表3
表3に示すように、結晶化度が60%のサンプル(6)は、焼成温度を590℃以上とした場合に高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示した。また結晶化度が60%のサンプル(6)は、焼成温度を580℃程度まで下げた場合でも比較的高いイオン伝導度(≧9.00×10
-5(S/cm))を示した。
【0049】
表4は、結晶化度が70%のサンプル(7)について、
図4のS26における焼成温度を500〜600℃の範囲で変化させた場合におけるイオン伝導度の測定結果である。
【0050】
表4
表4に示すように、結晶化度が70%のサンプル(7)は、焼成温度を580℃以上とした場合に高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示した。また結晶化度が70%のサンプル(7)は、焼成温度を570℃程度まで下げた場合でも比較的高いイオン伝導度(≧9.00×10
-5(S/cm))を示した。
【0051】
表5は、結晶化度が80%のサンプル(8)について、
図4のS26における焼成温度を500〜600℃の範囲で変化させた場合のイオン伝導度の測定結果である。
【0052】
表5
表5に示すように、結晶化度が80%のサンプル(8)は、焼成温度を600℃とした場合に高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示した。また結晶化度が80%のサンプル(8)は、焼成温度を580℃程度まで下げた場合でも比較的高いイオン伝導度(≧9.00×10
-5(S/cm))を示した。
【0053】
<総括>
以上に説明したように、結晶化度を50〜80%の範囲とし、
図4のS26における焼成温度を600℃とすることで、高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示す固体電解質が確実に得られることがわかった。
【0054】
また結晶化度を50%とした場合には、
図4のS26における焼成温度を580℃程度まで下げた場合でも、比較的高いイオン伝導度(≧9.00×10
-5(S/cm))を示す固体電解質が得られることがわかった。
【0055】
また結晶化度を60%とした場合には、
図4のS26における焼成温度を590℃以上とすることで、高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示す固体電解質を得ることができ、また焼成温度を580℃程度まで下げた場合でも、比較的高いイオン伝導度(≧9.00×10
-5(S/cm))を示す固体電解質が得られることがわかった。
【0056】
また結晶化度を70%とした場合には、
図4のS26における焼成温度を580℃以上とすることで、高いイオン伝導度(≧1.00×10
-4(S/cm))を示す固体電解質を得ることができ、また焼成温度を570℃程度まで下げた場合でも、比較的高いイオン伝導度(≧9.00×10
-5(S/cm))を示す固体電解質が得られることがわかった。
【0057】
また結晶化度を80%とした場合には、
図4のS26における焼成温度を580℃程度まで下げた場合でも、比較的高いイオン伝導度(≧9.00×10
-5(S/cm))を示す固体電解質が得られることがわかった。
【0058】
尚、以上の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。