特許第6491932号(P6491932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6491932-合成繊維 図000006
  • 特許6491932-合成繊維 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491932
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
   D01F8/14 B
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-77261(P2015-77261)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-196714(P2016-196714A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2017年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕之
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−268435(JP,A)
【文献】 特開2001−181932(JP,A)
【文献】 特開2003−221736(JP,A)
【文献】 特開平08−144151(JP,A)
【文献】 特開2016−172945(JP,A)
【文献】 特開2003−027336(JP,A)
【文献】 特開2016−196715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 − 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂AのセグメントからなるA層と、樹脂BのセグメントからなるB層とからなる合成繊維であって、繊維横断面は、A層からなる複数の島部と、島部を取り囲むB層からなる海部とからなる海島構造であり、繊維横断面において、繊維中心部にある丸断面の島部と、当該丸断面の島部よりも外周近くにある四角形の断面の複数の島部とを有し、海部は島部を補完する形状であり、島部が繊維表面に80%以下で露出しており、樹脂Aは平均粒子径が1μm以下の白色系無機微粒子を2質量%以上、蛍光増白剤を0.01質量%以上、0.05質量%未満含むポリエチレンテレフタレートからなり、樹脂Bは樹脂Aより溶解速度が速い5−スルホイソフタル酸とポリエチレングリコールを共重合させたアルカリ易溶解ポリエチレンテレフタレートからなり、樹脂Aのセグメント径は8μm以下である合成繊維。
【請求項2】
繊維横断面において、A層とB層との面積比率は50:50〜85:15である請求項1記載の合成繊維。
【請求項3】
白色系無機微粒子が、酸化チタンである請求項1または2記載の合成繊維。
【請求項4】
アルカリ処理により樹脂Bを溶解した後の接触冷感性が0.13W/cm以上である請求項1〜3いずれか1項記載の合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れる合成繊維に関する。さらに詳しくは衣料用、寝装具用、インテリア用に好適な合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水着・インナーなどの衣料品、遮光カーテン、ボイルカーテン、枕カバー及び布団カバー等の寝装品・インテリア用品の分野では、接触した時の冷たさを感じる接触冷感性に優れるとともに、透け防止性や透撮防止性に優れた布帛が求められている。
従来より接触冷感性、透け防止性や透撮防止性を有する布帛は、それぞれ数多く提案されている。例えば、繊維へ特定の添加剤を練り込む、繊維の断面形状を工夫する、繊維の繊度を工夫する、繊維の加工方法を工夫する、織編物の組織・加工を工夫する等により、布帛に接触冷感性を持たせることにより、夏場での寝心地の良さを付与できることや、カーテンなどへの防透け性の優れた布帛を付与できること等がある。
具体的には、特許文献1には、リバーシブル構造の編地からなる涼感に優れた衣料であって、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する接触冷感に優れた繊維からなるループと疎水性繊維からなるループとを有し、接触冷感に優れた繊維からなるループは肌側にのみ配置され、疎水性繊維からなるループは外側に配置された涼感に優れた衣料について記載されている。
特許文献2には、芯成分を形成する合成重合体に艶消剤を1.0〜5.0質量%含有し、鞘成分を形成する合成重合体に蛍光増白剤を0.01〜1.0質量%含有し、芯成分部の横断面が回転対称形である芯鞘複合糸で構成された透け防止性に優れた白色布帛について記載されている。
さらに特許文献3では、赤外線吸収能または赤外線反射能を有する部分を表面積に対して40〜80%偏在させてなる赤外線による透視を防ぐ肌面当接用繊維材料について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5009798号公報
【特許文献2】特開平8−60485号公報
【特許文献3】特許第4080106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の布帛では、接触冷感性には優れているものの、透け防止性や透撮防止性が得られない。また熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有したものはコスト高となる。
また特許文献2記載の芯鞘複合糸を用いた布帛では、透け防止性が良好となるものの十分ではなく、また接触冷感性を得られるものではない。
そして、特許文献3記載の繊維材料は、一定の透撮防止性能を有するものの、赤外線遮断剤を固着させたものであるため、長期使用等により、赤外線遮断剤が脱落して透撮防止性能が劣化する問題がある。
したがって、本発明は、上記の課題を解決し、後加工で剤を固着させずとも、汎用性のある樹脂を用いて、接触冷感性、透け防止性、透撮防止性ともに優れた合成繊維を得ることを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、樹脂AのセグメントからなるA層と、樹脂BのセグメントからなるB層とからなる合成繊維であって、繊維横断面は、A層からなる複数の島部と、島部を取り囲むB層からなる海部とからなる海島構造であり、繊維横断面において、繊維中心部にある丸断面の島部と、当該丸断面の島部よりも外周近くにある四角形の断面の複数の島部とを有し、海部は島部を補完する形状であり、島部が繊維表面に80%以下で露出しており、樹脂Aは平均粒子径が1μm以下の白色系無機微粒子を2質量%以上、蛍光増白剤を0.01質量%以上、0.05質量%未満含むポリエチレンテレフタレートからなり、樹脂Bは樹脂Aより溶解速度が速い5−スルホイソフタル酸とポリエチレングリコールを共重合させたアルカリ易溶解ポリエチレンテレフタレートからなり、樹脂Aのセグメント径は8μm以下である合成繊維をその要旨とする。
上記合成繊維は、繊維横断面において、A層とB層との面積比率は、50:50〜85:15であることが好ましく、白色系無機微粒子が、酸化チタンであることが好ましい。 また上記合成繊維は、アルカリ処理により樹脂Bを溶解した後の接触冷感性が0.13W/cm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の合成繊維によれば、後加工で剤を固着させずとも、汎用性のある樹脂を用いて、透け防止性、接触冷感性、透撮防止性ともに優れた布帛を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は本発明または参考例の合成繊維の横断面形状の例を示す。
図2図2は本発明の扁平率を説明する参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
まず、本発明は、繊維横断面において、樹脂Aのセグメントからなる層(A層)と樹脂Aより溶解速度の速い樹脂Bのセグメントからなる層(B層)から構成される合成繊維である。
【0010】
本発明において、樹脂Aはポリエチレンテレフタレートから構成される。ポリエチレンテレフタレートとしては、未変性のポリエチレンテレフタレートでもよいし、5−スルホイソフタル酸、イソフタル酸、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA等の第三成分を変性した共重合ポリエチレンテレタレートでもよい。
【0011】
本発明において、樹脂Aは、接触冷感性、透け防止性、透撮防止性を得る点から、白色系微粒子を2質量%以上含む。樹脂Aにおける白色系微粒子の含有量は、5質量%以上が好ましい。紡糸操業性や後工程通過性の点からは、15質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。
【0012】
本発明において、樹脂Aに含まれる白色系無機微粒子の平均粒子径は、接触冷感性、透け防止性の点から、1μm以下であり、好ましくは、0.6μm以下である。微粒子同士の凝集がしにくい点からは、0.2μm以上であることが好ましい。
【0013】
上記の白色系無機微粒子として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。汎用性の点から酸化チタンが好ましい。また、酸化チタンのなかでも、アナタース型の方が、ルチル型に比べ硬度が低いので、機械部品摩耗が抑制し易く、後工程通過性が良好となり易い点から、アナタース型の方が好ましい。
【0014】
樹脂Aは、白度を保って、透け防止性を得やすくするために、蛍光増白剤を含むものとすることが好ましい。
【0015】
上記の蛍光増白剤としては、例えば、イミダゾロン系、チアゾール系、トリアゾール系、オキサゾール系、イミダゾール系、スルペン系等の有機系の蛍光増白剤が好適に挙げられる。
【0016】
上記の蛍光増白剤の含有量は、白度を保つためには、0.01質量%以上、0.05質量%未満が好ましい。すなわち、0.05質量%を超えると、自己消光をきたし、増白効果が薄れてしまう傾向がある。
【0017】
尚、樹脂Aは、本発明の効果を損なわない範囲であれば一般的に使用される添加剤、滑剤、艶消し剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、制電剤、耐光剤などが含まれていてもよい。
【0018】
本発明おいて、樹脂Bは、樹脂Aより溶解速度が速い易溶解ポリエステルからなる。
すなわち、樹脂Bは、樹脂Aと同一の特定の溶剤に浸漬した場合に、樹脂Aより溶解速度が速いものである。通常、樹脂Bの溶解速度は、樹脂Aより10倍以上速いことが好ましく、より好ましくは20倍以上であり、更に好ましくは30倍以上である。ここで、溶剤は、アルカリ溶液が好適に挙げられる。具体的には、1〜5質量%のNaOH水溶液などが好適に挙げられる。
【0019】
樹脂Bの易溶解ポリエステルとしては、例えば、ポリエステルの変性物、例えばスルホン酸の金属塩を有するフタル酸、アジピン酸やポリエチレングリコール等を共重合した変性ポリエステルが好適に挙げられる。これらは、溶剤をアルカリ水溶液等とした場合に、未変性ポリエチレンテレフタレートより、溶解速度が10倍以上速くなり、好適に用いることができる。
【0020】
本発明の合成繊維は、上記の樹脂Aのセグメントと、樹脂Aより溶解速度の速い樹脂Bのセグメントを組み合わせた合成繊維であり、樹脂Bからなるセグメントを溶解することによりマイクロファイバーを得ることができる。このように、本発明の合成繊維をマイクロファイバーとすることにより、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性を得ることができる。
【0021】
A層とB層とを組合せて合成繊維とする方法としては、例えば、樹脂Aと樹脂Bを同一口金から押出して複合紡糸することにより、合成繊維とすることが挙げられる。
【0022】
A層とB層を組み合わせた合成繊維の繊維横断面形状について、以下に説明する。
【0023】
本発明の合成繊維の繊維横断面において、A層とB層との比率(面積比)は、50:50〜85:15が好ましく、より好ましくは65:35〜80:20である。すなわち、A層の比率が大きすぎる場合、樹脂Bが溶出不足となり、マイクロファイバー化しないため、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性が十分に得られない傾向がある。A層の比率が少なすぎる場合、後に溶解する樹脂である樹脂Bが大きくなりコスト高となるため好ましくない。
【0024】
本発明の合成繊維は、繊維横断面において、A層からなる複数の島部と、島部を補完する形状で取り囲むB層からなる海部とから構成される海島構造であることが好ましい。このような構造の場合、各海部、各島部が、セグメントに相当する。
島部の形状としては、外形が丸断面、三角形や四角形などの多角形等の異型断面等が挙げられるが、中でも異型断面とすることが好ましい。異型断面とすることにより、海部を溶解した後の繊維は、肌着に用いた際など、単位当たりの肌との接触面積が増え、冷たさを感じ易くなる。
島部の個数としては、多いものの方が、透け防止性や透撮防止性に優れる傾向がある。また、異型断面の場合、断面が、扁平に近付くほど、透け防止性や透撮防止性に優れる傾向がある。これは、島の個数が多くなったり、断面が扁平に近づくことにより、光の乱反射や遮蔽が起こり、光の透過を遮蔽でき、透け防止性や透撮防止性を向上できるためであると思われる。
尚、島部の個数としては、通常、6以上が好ましく、より好ましくは15以上である。
【0025】
本発明の合成繊維の好適な繊維横断面図の具体例として、図1の(a)〜(e)が例示できる。図中の斜線部はA層、白抜き部はB層を示す。
図1(a)の繊維横断面は、A層からなる複数の島部と、島部を取り囲むB層からなる海部とからなる海島構造である。図1(a)の島部は、丸断面であるが、三角や四角等の多角形等の異型でもよい。島部の個数は、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、さらに好ましくは、8以上である。尚、白色系微粒子等を高濃度に含有させ易い点、繊維物性を保持し易い点から、上限は、100程度が好ましい。
図1(b)及び(d)の繊維横断面は、A層が三角断面の島部、B層がA層を補完する放射状の海部の海島構造である。この図では、島部の断面形状は三角形であるが、四角形等の多角形等の異型であってもよい。図1(b)の海部は、繊維中心部から放射状に伸びた形状であり、繊維表面に露出している。図1(d)の海部は繊維中心部から放射状に伸びた形状であり、海部が島部を覆い、島部は繊維表面に露出していないものである。尚、島部が繊維表面に露出する場合、合成繊維を製造する際にゴデッドロールなどの金属の摩耗を防止する点から、露出率は80%以下が好ましい。このような繊維横断面形状の場合、島部の個数は、3以上が好ましく、上限としては、30程度が好ましい。
図1(c)及び(e)の繊維横断面は、島部は、繊維中心部の丸断面と、外周に近い四角形の断面を有する形状であり、海部は、島部を補完する形状であり、中空形状でかつ放射状に伸びた形状の海島構造である。図1(c)及び(e)の島部の形状は、丸、四角形でなく、三角形、五角形等の多角形や、その他異型断面でもよい。
図1(c)は島部が繊維表面に露出しており、図1(d)は島部が露出していない形状である。尚、島部が繊維表面に露出する場合、合成繊維を製造する際にゴデッドロールなどの金属の摩耗を防止する点から、露出率は80%以下が好ましい。この形状の場合、島部の個数は、3以上が好ましく、上限としては、30程度が好ましい。
これらの中で、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性の点からは、島部の断面が異型である図1(b)、(c)、(d)、(e)が好ましい。これらの形状においては、島部の個数が8以上で、島部の扁平率が高くなるほど性能が良好となる。
【0026】
本発明における扁平率(%)は、図2を参照して、セグメントの横断面の長辺成分の長さをa、短辺成分の長さをbとし、[(a−b)/a]×100として、求めることができる。また、本発明において、合成繊維におけるA層の扁平率は、[(各セグメントの扁平率の和)/セグメント数]として算出する。
A層の扁平率は、接触冷感性、透け防止性、透撮防止性の点から、20〜80%であり、より好ましくは、50〜80%である。
【0027】
尚、合成繊維のA層の繊維表面への露出率は、80%以下が好ましく、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは露出しないことである。A層の表面への露出が大き過ぎる場合には、接触冷感性、透け防止性、透撮防止性、紡糸操業性、後工程通過性のバランスが損なわれる傾向がある。
【0028】
本発明の合成繊維におけるA層のセグメント径は、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性の点から、8μm以下である。好ましくは、1〜8μmであり、より好ましくは、4〜8μmである。この範囲であると、B層を溶解した後に、糸の品位を保ちつつ、透け防止性及び透撮防止性に優れたものとなる。尚、本発明において、A層のセグメント径は、A層の各セグメントの平均セグメント径である。各セグメント径は、各セグメントの断面積を算出し、その断面積に相当する真円の直径とする。
【0029】
本発明の合成繊維は、後述するB層を溶解した後の、接触冷感性(Q−MAX)は0.13W/cm以上であることが好ましい。この範囲であると、接触冷感性に優れたものとなる。
【0030】
本発明の合成繊維は、B層を溶解して、マイクロファイバー化することにより、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性を得ることができる。
透け防止性及び透撮防止性の点からは、後述する透過率が、400〜1200nmで平均30%以下であることが好ましい。400〜800nmの可視光領域では、透過率が30%を超える条件では、衣服を着用した時、可視光が通り易く、生地が透けてしまう傾向がある。また、水に濡れた場合でも容易に透けてしまう傾向がある。透過率が30%以下であれば、肉眼では、透けを判別しにくくなり、プライバシーを守ることが容易にできる。さらに、800〜1200nmの近赤外領域では、後述する透過率が30%を超える条件では、赤外線カメラにより容易に透撮されてしまい、プライバシーを守ることができないおそれがある。
【0031】
本発明の合成繊維を溶融紡糸する方法については特に制限は無く、公知の複合紡糸方法を使用できる。繊維の形態としてはフィラメントやステープルなどいずれの形態でもよく、用途に応じて製造できる。
【0032】
本発明において、上記より得られた合成繊維をそのまま布帛に用いても良いが、仮撚り加工、押し込み加工、ニットデニット加工など繊維が嵩高となるような加工を施してもよい。またこのような加工を施すことにより、より透け防止性、透撮防止性、接触冷感性が優れたものが得られ、また製編織した場合、編み目や織り目を、密とすることができるため、より一層性能が向上する。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の処理方法、測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0034】
A.平均粒子径
透過電子顕微鏡(日本電子社製 透過電子顕微鏡 JEM−1230)を用いて写真撮影し、自動画像処理装置(LUZEX AP(ニレコ(株)製)にて体積基準の水平方向等分径を測定し、比重を計算して、重量平均の平均粒子径を求めた。
B.紡糸操業性
紡糸の工程通過性が良好であれば○、工程通過性が若干悪いものを△、製糸不可であれば×とした。
C.筒編地の作製及び溶解処理
合成繊維を2本双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作製した。この筒編地を、2質量%NaOH水溶液を温度98℃、浴比1:50の下で15分間処理し、脱水、風乾し、B層を溶解した。
D.接触冷感性評価
溶解処理後の筒編地が、目付50g/mになるよう合成繊維を任意の本数を双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作製し、上記溶解処理した布帛をサンプルとした。このサンプルを1重にし、カトーテック(株)製のサーモラボII型測定器を用い、室温23℃、湿度55%RHの部屋で、BT−Boxを33℃に調節し、十分調湿したサンプルの上にBT−Box(圧力10g/cm)を乗せ、10℃の温度差での単位面積当たりの熱流速を測定し、Q−MAXを算出した。
Q−MAXは、値が高い程、接触冷感性に優れていることを示す。比較例1から得られたサンプルを基準とし、測定対象サンプルと基準サンプルとのQ−MAXの差(基準値との差)を算出した。この基準値との差が高い程、接触冷感性に優れている。
E.透過率
溶解処理後の筒編地が、目付50g/mとなるよう合成繊維を任意の本数の双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作製し、上記溶解処理により得られた布帛(目付50g/m)を準備した。この布帛を島津自記分光光度計(UV−3101PC/MPC−3100)を用いて、波長領域400〜1200nmの透過率を測定した。
【0035】
〔実施例1〕
樹脂Aとして、平均粒子径0.3μmの酸化チタンとオキサゾール系蛍光増白剤を400ppm含有した30質量%マスターバッチとホモのポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.670dl/g)を酸化チタン濃度として6質量%となるよう調整し、チップブレンドしたものを準備した。また樹脂Bとして、樹脂AよりNaOH水溶液による溶解速度が速い5−スルホイソフタル酸とポリエチレングリコールを共重合させたポリエチレンテレフタレート(アルカリ易溶PET)を準備した(2質量%NaOH水溶液で樹脂Aより30倍程度溶解速度が速い)。これらの樹脂を用いて、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有する海島型の紡糸口金から島部に樹脂A、海部に樹脂Bを押し出し、樹脂Aと樹脂Bの比率を、樹脂A:樹脂B=75:25(面積比)となるように吐出した。引き続き糸条を冷却、給油し、PTR(速度:1080m/min)により糸条に前テンションをかけ、GR1(速度1100m/min、88℃)、GR2(速度3600m/min、135℃)で延伸、熱処理し、延伸糸として巻き取り、繊度167dtex/25fの図1(c)のような、1個が丸断面、8個が四角断面のセグメントからなるA層とB層を複合した、A層のセグメント径が7.2μmの合成繊維(原糸)を得た。
得られた合成繊維を、上記の方法で、筒編地を作製及び溶解処理し、白生地を得た。
【0036】
〔実施例2〕
原糸の繊度が84dtex/25f、A層のセグメント径が5.1μmとなるように変更した以外は、実施例1と同様に合成繊維を得た。
【0037】
参考例3〕
原糸の繊度が84dtex/24f、繊維横断面の島部の形状が丸断面9個(図1(a))、A層のセグメント径が5.2μmとなるように変更した以外は、実施例1と同様に合成繊維を得た。
【0038】
参考例4〕
原糸の繊度が84dtex/25f、繊維横断面の島部の形状を三角断面8個、A層のセグメント径が5.4μmとなるように変更した以外は、実施例1と同様に合成繊維を得た。
【0039】
〔実施例5〕
原糸の繊度が56dtex/25f、繊維横断面の島部の形状が丸断面1個、四角断面16個)、A層のセグメント径が3μmとなるように変更した以外は、実施例2と同様に合成繊維を得た。
【0040】
〔実施例6〕
原糸の繊度が33dtex/24f、繊維横断面の島形状が丸断面の61個、A層のセグメント径が1.3μmとなるように変更した以外は、実施例3と同様に合成繊維を得た。
【0041】
〔比較例1〕
酸化チタン1.3質量%含むポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.670dl/g)を、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有す紡糸口金から吐出した。引き続き糸条を冷却、油剤を付与し、GR1速度1000m/min、90℃で熱処理し、GR2速度3800m/min、135℃で熱処理し、延伸糸を巻き取り、繊度84dtex/48fの合成繊維を得た。
【0042】
〔比較例2〕
樹脂Aとして、平均粒子径0.3μmの酸化チタンと、蛍光増白剤を400ppm含有した30質量%マスターバッチとホモのポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.670dl/g)を酸化チタン濃度として6質量%となるよう調整しチップブレンドしたものを準備した。この樹脂を用いて、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔より吐出した。引き続き糸条を冷却、給油し、PTR(速度:1080m/min)により糸条に前テンションをかけ、GR1(速度1100m/min、88℃)、GR2(速度3600m/min、135℃)で延伸、熱処理し、延伸糸として巻き取り、繊度84dtex/48fの合成繊維を得た。
【0043】
〔比較例3〕
原糸の繊度が167dtex/28f、繊維横断面の島部の形状が三角断面4個、A層のセグメント径が10.2μmとなるように変更した以外は、実施例4と同様に合成繊維を得た。
【0044】
〔実施例7〕
原糸の繊度が33dtex/48f、樹脂A:樹脂Bの比率が50:50(面積比)、A層のセグメント径が0.7μmとなるように変更した以外は、実施例6と同様に合成繊維を得た。尚、表中のセグメント径は、溶解後のA層のセグメント径を示す。
【0045】
実施例1〜7から得られた合成繊維の筒編地を作製し、溶解処理を行った。また接触冷感性及び透過率の評価を行った。原料、合成繊維の物性、評価結果を表1に示す。尚、表中のセグメント径は、溶解後のA層のセグメント径を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1〜7から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、いずれも、Q−MAX値、基準サンプルとのQ−MAXの差は大きく、透過率は低いものであり、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れたものであった。また実施例1〜6から得られた合成繊維は、紡糸操業性も良好であり、後工程通過性も良いものであった。また溶解処理後の筒編地は、手触りの良いものとなった。
また、実施例2、4の島部を異型断面としたものは、島部が丸断面の実施例3のものより、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れていた。
また、実施例2の島部(A層)の扁平率は、25%(長軸a=5.6μm、短軸b=4.2μm)、実施例4の島部(A層)の扁平率は、70%(長軸a=5.2μm、短軸b=1.6μm)であり、実施例2及び4の近赤外領域(800〜1000nm)の平均透過率は、それぞれ23.4%、22.5%、実施例2及び4の平均透過率(400〜1200nm)は、それぞれ22.8%、21.6%である。A層の扁平率が高い程、透け防止性及び透撮防止性が高かった。
酸化チタンの含有量が1.3質量%、A層のセグメント径が12.7μmである比較例1から得られた合成繊維は、接触冷感性、透け防止性、透撮防止性ともに劣ったものとなった。またA層のセグメント径が12.7μmの比較例2から得られた合成繊維は、酸化チタンや蛍光増白剤は実施例2と同量含まれるが、実施例2より、接触冷感性、透け防止性、透撮防止性とも、劣ったものであった。またA層のセグメント径が8μmを超える比較例3から得られた合成繊維は、透け防止性及び透撮防止性に劣るものであった。
尚、実施例7から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性には優れるものの、紡糸操業性は劣り、溶解処理後の繊維の糸品位は劣ったものであった。
【0048】
〔実施例8〜11〕
樹脂Aと樹脂Bの比率を表2の通り変更し、A層のセグメント径を3.7〜5.6μmとなるように変更した以外は実施例2と同様に合成繊維を得た。
【0049】
実施例8〜11から得られた合成繊維の筒編地を作製し、溶解処理を行った。また接触冷感性及び透過率の評価を行った。これらの原料、合成繊維の物性、評価結果を、実施例2のものと併せて表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例2、8〜11から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、いずれも、Q−MAX値、基準サンプルとのQ−MAXの差は大きく、透過率は低いものであり、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れたものであった。また実施例2、8〜11から得られた合成繊維は、紡糸操業性も良好であり、後工程通過性も良いものであった。また得られた溶解処理した後の筒編地は、手触りの良いものとなった。実施例2、9、10から得られた溶解処理後の筒編地は、特に、風合いも優れたものとなった。実施例11から得られた溶解処理後の筒編地は、減量斑が生じ、マイクロファイバー化されない部分が発生し、実施例2、9、10のものと比べて、風合いの劣るものとなった。
【0052】
〔実施例12〜14、比較例4〕
繊維横断面の樹脂A(A層)に含まれる酸化チタンの濃度(含有量)を表3の通り変更した以外は、実施例2と同様に合成繊維を得た。
【0053】
実施例12〜14、比較例4から得られた合成繊維の筒編地を作製し、溶解処理を行った。また接触冷感性及び透過率の評価を行った。これらの原料、合成繊維の物性、評価結果を、実施例2のものと併せて表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
実施例2、12、13、14から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、いずれも、Q−MAX値、基準サンプルとのQ−MAXの差は大きく、透過率は低いものであり、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れたものであった。
実施例2、12、13から得られた合成繊維は、紡糸操業性も良好であり、後工程通過性も良いものであった。また得られた溶解処理後の筒編地は手触りの良いものとなった。
酸化チタンの含有量が1質量%と少ない比較例4から得られた溶解処理後の筒編地は、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性の劣ったものとなった。
【0056】
〔実施例15、比較例5〕
繊維横断面の樹脂A(A層)に含まれる酸化チタンの平均粒子径(粒径)を表3の通り変更した以外は、実施例2と同様に合成繊維を得た。
【0057】
実施例15、比較例5から得られた合成繊維の筒編地を作製し、溶解処理を行った。また接触冷感性及び透過率の評価を行った。これらの原料、合成繊維の物性、評価結果を、実施例2のものと併せて表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
実施例2、15から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、いずれも、Q−MAX値、基準サンプルとのQ−MAXの差は大きく、透過率は低いものであり、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れたものであった。また実施例2、15から得られた合成繊維は、紡糸操業性も良好であり、後工程通過性も良いものであった。得られた溶解処理後の筒編地は、手触りの良いものとなった。
酸化チタンの平均粒子径が大きい比較例5から得られた合成繊維は、接触冷感性と透け防止性の劣ったものとなった。これは、繊維内の存在する粒子の個数が実施例2や15に比べ少ないため、光の透過が大きくなることや、酸化チタン同士での伝熱パスが少なくなることにより、基準サンプルとのQ−MAXの差が大きくならなかったことと推測される。また、紡糸操業性も不良であった。
【0060】
〔実施例16〕
経糸及び緯糸に実施例2から得られた合成繊維(アルカリ減量後の混率57%)と84dtex/12fポリエステルセミダル糸とを製織して平織物を作製した。この平織物をNaOH水溶液により減量し、マイクロファイバー布帛を得た(目付:131g/m)。また比較サンプルとして、実施例2の合成繊維を66dtex/24fのポリエステルセミダル糸に変更し、上記と同様に平織物を作製し、精練を行い、比較サンプル布帛を得た(135g/m)。布帛のQ−MAX値(温度差10℃にて測定)は、マイクロファイバー布帛が0.160W/cm、比較サンプル布帛が0.105W/cmであり、マイクロファイバー布帛と比較サンプル布帛とのQ−MAX値の差は、0.055W/cmであり、接触冷感性に優れたものであった。また平均透過率(測定波長400〜1200nm)は、マイクロファイバー布帛が32.2%、比較サンプル布帛が22.3%であり、本発明の合成繊維から得られたマイクロファイバー布帛は、透け防止性及び透撮防止性に優れた布帛であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の合成繊維は、白色系や淡色系の布帛に用いた場合でも、透け防止性、透撮防止性、接触冷感性ともに優れているため、ブラインドカーテン、ボイルカーテン、レースカーテンなどのカーテン素材、インナー用途、アウター用途の各種用途に好適に展開できる。
【符号の説明】
【0062】
A 樹脂A(A層):ポリエチレンテレフタレート
B 樹脂B(B層):易溶解ポリエステル
図1
図2