【0025】
本発明の合成繊維の好適な繊維横断面図の具体例として、
図1の(a)〜(e)が例示できる。図中の斜線部はA層、白抜き部はB層を示す。
図1(a)の繊維横断面は、A層からなる複数の島部と、島部を取り囲むB層からなる海部とからなる海島構造である。
図1(a)の島部は、丸断面であるが、三角や四角等の多角形等の異型でもよい。島部の個数は、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、さらに好ましくは、8以上である。尚、白色系微粒子等を高濃度に含有させ易い点、繊維物性を保持し易い点から、上限は、100程度が好ましい。
図1(b)及び(d)の繊維横断面は、A層が三角断面の島部、B層がA層を補完する放射状の海部の海島構造である。この図では、島部の断面形状は三角形であるが、四角形等の多角形等の異型であってもよい。
図1(b)の海部は、繊維中心部から放射状に伸びた形状であり、繊維表面に露出している。
図1(d)の海部は繊維中心部から放射状に伸びた形状であり、海部が島部を覆い、島部は繊維表面に露出していないものである。尚、島部が繊維表面に露出する場合、合成繊維を製造する際にゴデッドロールなどの金属の摩耗を防止する点から、露出率は80%以下が好ましい。このような繊維横断面形状の場合、島部の個数は、3以上が好ましく、上限としては、30程度が好ましい。
図1(c)及び(e)の繊維横断面は、島部は、繊維中心部の丸断面と、外周に近い四角形の断面を有する形状であり、海部は、島部を補完する形状であり、中空形状でかつ放射状に伸びた形状の海島構造である。
図1(c)及び(e)の島部の形状は、丸、四角形でなく、三角形、五角形等の多角形や、その他異型断面でもよい。
図1(c)は島部が繊維表面に露出しており、
図1(d)は島部が露出していない形状である。尚、島部が繊維表面に露出する場合、合成繊維を製造する際にゴデッドロールなどの金属の摩耗を防止する点から、露出率は80%以下が好ましい。この形状の場合、島部の個数は、3以上が好ましく、上限としては、30程度が好ましい。
これらの中で、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性の点からは、島部の断面が異型である
図1(b)、(c)、(d)、(e)が好ましい。これらの形状においては、島部の個数が8以上で、島部の扁平率が高くなるほど性能が良好となる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の処理方法、測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0034】
A.平均粒子径
透過電子顕微鏡(日本電子社製 透過電子顕微鏡 JEM−1230)を用いて写真撮影し、自動画像処理装置(LUZEX AP(ニレコ(株)製)にて体積基準の水平方向等分径を測定し、比重を計算して、重量平均の平均粒子径を求めた。
B.紡糸操業性
紡糸の工程通過性が良好であれば○、工程通過性が若干悪いものを△、製糸不可であれば×とした。
C.筒編地の作製及び溶解処理
合成繊維を2本双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作製した。この筒編地を、2質量%NaOH水溶液を温度98℃、浴比1:50の下で15分間処理し、脱水、風乾し、B層を溶解した。
D.接触冷感性評価
溶解処理後の筒編地が、目付50g/m
2になるよう合成繊維を任意の本数を双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作製し、上記溶解処理した布帛をサンプルとした。このサンプルを1重にし、カトーテック(株)製のサーモラボII型測定器を用い、室温23℃、湿度55%RHの部屋で、BT−Boxを33℃に調節し、十分調湿したサンプルの上にBT−Box(圧力10g/cm
2)を乗せ、10℃の温度差での単位面積当たりの熱流速を測定し、Q−MAXを算出した。
Q−MAXは、値が高い程、接触冷感性に優れていることを示す。比較例1から得られたサンプルを基準とし、測定対象サンプルと基準サンプルとのQ−MAXの差(基準値との差)を算出した。この基準値との差が高い程、接触冷感性に優れている。
E.透過率
溶解処理後の筒編地が、目付50g/m
2となるよう合成繊維を任意の本数の双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作製し、上記溶解処理により得られた布帛(目付50g/m
2)を準備した。この布帛を島津自記分光光度計(UV−3101PC/MPC−3100)を用いて、波長領域400〜1200nmの透過率を測定した。
【0035】
〔実施例1〕
樹脂Aとして、平均粒子径0.3μmの酸化チタンとオキサゾール系蛍光増白剤を400ppm含有した30質量%マスターバッチとホモのポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.670dl/g)を酸化チタン濃度として6質量%となるよう調整し、チップブレンドしたものを準備した。また樹脂Bとして、樹脂AよりNaOH水溶液による溶解速度が速い5−スルホイソフタル酸とポリエチレングリコールを共重合させたポリエチレンテレフタレート(アルカリ易溶PET)を準備した(2質量%NaOH水溶液で樹脂Aより30倍程度溶解速度が速い)。これらの樹脂を用いて、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有する海島型の紡糸口金から島部に樹脂A、海部に樹脂Bを押し出し、樹脂Aと樹脂Bの比率を、樹脂A:樹脂B=75:25(面積比)となるように吐出した。引き続き糸条を冷却、給油し、PTR(速度:1080m/min)により糸条に前テンションをかけ、GR1(速度1100m/min、88℃)、GR2(速度3600m/min、135℃)で延伸、熱処理し、延伸糸として巻き取り、繊度167dtex/25fの
図1(c)のような、1個が丸断面、8個が四角断面のセグメントからなるA層とB層を複合した、A層のセグメント径が7.2μmの合成繊維(原糸)を得た。
得られた合成繊維を、上記の方法で、筒編地を作製及び溶解処理し、白生地を得た。
【0036】
〔実施例2〕
原糸の繊度が84dtex/25f、A層のセグメント径が5.1μmとなるように変更した以外は、実施例1と同様に合成繊維を得た。
【0037】
〔
参考例3〕
原糸の繊度が84dtex/24f、繊維横断面の島部の形状が丸断面9個(
図1(a))、A層のセグメント径が5.2μmとなるように変更した以外は、実施例1と同様に合成繊維を得た。
【0038】
〔
参考例4〕
原糸の繊度が84dtex/25f、繊維横断面の島部の形状を三角断面8個、A層のセグメント径が5.4μmとなるように変更した以外は、実施例1と同様に合成繊維を得た。
【0039】
〔実施例5〕
原糸の繊度が56dtex/25f、繊維横断面の島部の形状が丸断面1個、四角断面16個)、A層のセグメント径が3μmとなるように変更した以外は、実施例2と同様に合成繊維を得た。
【0040】
〔実施例6〕
原糸の繊度が33dtex/24f、繊維横断面の島形状が丸断面の61個、A層のセグメント径が1.3μmとなるように変更した以外は、実施例3と同様に合成繊維を得た。
【0041】
〔比較例1〕
酸化チタン1.3質量%含むポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.670dl/g)を、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有す紡糸口金から吐出した。引き続き糸条を冷却、油剤を付与し、GR1速度1000m/min、90℃で熱処理し、GR2速度3800m/min、135℃で熱処理し、延伸糸を巻き取り、繊度84dtex/48fの合成繊維を得た。
【0042】
〔比較例2〕
樹脂Aとして、平均粒子径0.3μmの酸化チタンと、蛍光増白剤を400ppm含有した30質量%マスターバッチとホモのポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.670dl/g)を酸化チタン濃度として6質量%となるよう調整しチップブレンドしたものを準備した。この樹脂を用いて、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔より吐出した。引き続き糸条を冷却、給油し、PTR(速度:1080m/min)により糸条に前テンションをかけ、GR1(速度1100m/min、88℃)、GR2(速度3600m/min、135℃)で延伸、熱処理し、延伸糸として巻き取り、繊度84dtex/48fの合成繊維を得た。
【0043】
〔比較例3〕
原糸の繊度が167dtex/28f、繊維横断面の島部の形状が三角断面4個、A層のセグメント径が10.2μmとなるように変更した以外は、実施例4と同様に合成繊維を得た。
【0044】
〔実施例7〕
原糸の繊度が33dtex/48f、樹脂A:樹脂Bの比率が50:50(面積比)、A層のセグメント径が0.7μmとなるように変更した以外は、実施例6と同様に合成繊維を得た。尚、表中のセグメント径は、溶解後のA層のセグメント径を示す。
【0045】
実施例1〜7から得られた合成繊維の筒編地を作製し、溶解処理を行った。また接触冷感性及び透過率の評価を行った。原料、合成繊維の物性、評価結果を表1に示す。尚、表中のセグメント径は、溶解後のA層のセグメント径を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1〜7から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、いずれも、Q−MAX値、基準サンプルとのQ−MAXの差は大きく、透過率は低いものであり、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れたものであった。また実施例1〜6から得られた合成繊維は、紡糸操業性も良好であり、後工程通過性も良いものであった。また溶解処理後の筒編地は、手触りの良いものとなった。
また、実施例2、4の島部を異型断面としたものは、島部が丸断面の実施例3のものより、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れていた。
また、実施例2の島部(A層)の扁平率は、25%(長軸a=5.6μm、短軸b=4.2μm)、実施例4の島部(A層)の扁平率は、70%(長軸a=5.2μm、短軸b=1.6μm)であり、実施例2及び4の近赤外領域(800〜1000nm)の平均透過率は、それぞれ23.4%、22.5%、実施例2及び4の平均透過率(400〜1200nm)は、それぞれ22.8%、21.6%である。A層の扁平率が高い程、透け防止性及び透撮防止性が高かった。
酸化チタンの含有量が1.3質量%、A層のセグメント径が12.7μmである比較例1から得られた合成繊維は、接触冷感性、透け防止性、透撮防止性ともに劣ったものとなった。またA層のセグメント径が12.7μmの比較例2から得られた合成繊維は、酸化チタンや蛍光増白剤は実施例2と同量含まれるが、実施例2より、接触冷感性、透け防止性、透撮防止性とも、劣ったものであった。またA層のセグメント径が8μmを超える比較例3から得られた合成繊維は、透け防止性及び透撮防止性に劣るものであった。
尚、実施例7から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性には優れるものの、紡糸操業性は劣り、溶解処理後の繊維の糸品位は劣ったものであった。
【0048】
〔実施例8〜11〕
樹脂Aと樹脂Bの比率を表2の通り変更し、A層のセグメント径を3.7〜5.6μmとなるように変更した以外は実施例2と同様に合成繊維を得た。
【0049】
実施例8〜11から得られた合成繊維の筒編地を作製し、溶解処理を行った。また接触冷感性及び透過率の評価を行った。これらの原料、合成繊維の物性、評価結果を、実施例2のものと併せて表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例2、8〜11から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、いずれも、Q−MAX値、基準サンプルとのQ−MAXの差は大きく、透過率は低いものであり、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れたものであった。また実施例2、8〜11から得られた合成繊維は、紡糸操業性も良好であり、後工程通過性も良いものであった。また得られた溶解処理した後の筒編地は、手触りの良いものとなった。実施例2、9、10から得られた溶解処理後の筒編地は、特に、風合いも優れたものとなった。実施例11から得られた溶解処理後の筒編地は、減量斑が生じ、マイクロファイバー化されない部分が発生し、実施例2、9、10のものと比べて、風合いの劣るものとなった。
【0052】
〔実施例12〜14、比較例4〕
繊維横断面の樹脂A(A層)に含まれる酸化チタンの濃度(含有量)を表3の通り変更した以外は、実施例2と同様に合成繊維を得た。
【0053】
実施例12〜14、比較例4から得られた合成繊維の筒編地を作製し、溶解処理を行った。また接触冷感性及び透過率の評価を行った。これらの原料、合成繊維の物性、評価結果を、実施例2のものと併せて表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
実施例2、12、13、14から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、いずれも、Q−MAX値、基準サンプルとのQ−MAXの差は大きく、透過率は低いものであり、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れたものであった。
実施例2、12、13から得られた合成繊維は、紡糸操業性も良好であり、後工程通過性も良いものであった。また得られた溶解処理後の筒編地は手触りの良いものとなった。
酸化チタンの含有量が1質量%と少ない比較例4から得られた溶解処理後の筒編地は、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性の劣ったものとなった。
【0056】
〔実施例15、比較例5〕
繊維横断面の樹脂A(A層)に含まれる酸化チタンの平均粒子径(粒径)を表3の通り変更した以外は、実施例2と同様に合成繊維を得た。
【0057】
実施例15、比較例5から得られた合成繊維の筒編地を作製し、溶解処理を行った。また接触冷感性及び透過率の評価を行った。これらの原料、合成繊維の物性、評価結果を、実施例2のものと併せて表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
実施例2、15から得られた合成繊維を溶解処理した後の筒編地は、いずれも、Q−MAX値、基準サンプルとのQ−MAXの差は大きく、透過率は低いものであり、接触冷感性、透け防止性及び透撮防止性に優れたものであった。また実施例2、15から得られた合成繊維は、紡糸操業性も良好であり、後工程通過性も良いものであった。得られた溶解処理後の筒編地は、手触りの良いものとなった。
酸化チタンの平均粒子径が大きい比較例5から得られた合成繊維は、接触冷感性と透け防止性の劣ったものとなった。これは、繊維内の存在する粒子の個数が実施例2や15に比べ少ないため、光の透過が大きくなることや、酸化チタン同士での伝熱パスが少なくなることにより、基準サンプルとのQ−MAXの差が大きくならなかったことと推測される。また、紡糸操業性も不良であった。
【0060】
〔実施例16〕
経糸及び緯糸に実施例2から得られた合成繊維(アルカリ減量後の混率57%)と84dtex/12fポリエステルセミダル糸とを製織して平織物を作製した。この平織物をNaOH水溶液により減量し、マイクロファイバー布帛を得た(目付:131g/m
2)。また比較サンプルとして、実施例2の合成繊維を66dtex/24fのポリエステルセミダル糸に変更し、上記と同様に平織物を作製し、精練を行い、比較サンプル布帛を得た(135g/m
2)。布帛のQ−MAX値(温度差10℃にて測定)は、マイクロファイバー布帛が0.160W/cm
2、比較サンプル布帛が0.105W/cm
2であり、マイクロファイバー布帛と比較サンプル布帛とのQ−MAX値の差は、0.055W/cm
2であり、接触冷感性に優れたものであった。また平均透過率(測定波長400〜1200nm)は、マイクロファイバー布帛が32.2%、比較サンプル布帛が22.3%であり、本発明の合成繊維から得られたマイクロファイバー布帛は、透け防止性及び透撮防止性に優れた布帛であった。