(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に備えられた燃料極層と、前記固体電解質層の他方の面に備えられた空気極層と、を備える固体酸化物形燃料電池の製造方法であって:
少なくとも電子伝導性粉末と第1イオン伝導性粉末とを含む燃料極用グリーンシートを用意すること;
前記燃料極用グリーンシートの表面に、少なくとも第2イオン伝導性粉末を含む固体電解質用グリーンシートを積層した積層体を用意すること;および
前記積層体を焼成して、少なくとも固体電解質層と前記固体電解質層の一方の面に備えられた燃料極層とを備えるハーフセルを作製すること;
前記ハーフセルの前記固体電解質層側の表面に空気極を形成して固体酸化物形燃料電池とすること;
を包含し、
前記燃料極層の水銀圧入法によって測定される気孔率(%)をp、前記燃料極用グリーンシートを単独で25℃から1300℃まで焼成したときの収縮率(%)をsa、前記固体電解質用グリーンシートを単独で25℃から1300℃まで焼成したときの収縮率(%)をseとしたとき、次式:P=p/|se−sa|;で表されるパラメータPが7.5≦P≦50を満たすよう、前記電子伝導性粉末および前記第1イオン伝導性粉末の平均粒子径と前記焼成の温度とを調整する、製造方法。
少なくとも固体電解質層用グリーンシートと、前記固体電解質層用グリーンシートの一方の面に備えられた燃料極層用グリーンシートとを備える固体酸化物形燃料電池のハーフセルグリーンシートであって、
前記燃料極用グリーンシートは、少なくとも電子伝導性粉末と第1イオン伝導性粉末とを含み、
前記固体電解質層用グリーンシートは少なくとも第2イオン伝導性粉末を含み、
当該ハーフセルグリーンシートを焼成して得られるハーフセルの水銀圧入法によって測定される気孔率(%)をp、
前記燃料極用グリーンシートを単独で1300℃まで焼成したときの収縮率(%)をsa、
前記固体電解質用グリーンシートを単独で1300℃まで焼成したときの収縮率(%)をse、としたとき、
次式:P=p/|se−sa|;で表されるパラメータPが7.5≦P≦50を満たすよう、前記電子伝導性粉末および前記第1イオン伝導性粉末の平均粒子径が調整されている、ハーフセルグリーンシート。
前記燃料極用グリーンシートは、1300℃〜1450℃の温度範囲で焼成したときの前記気孔率pが20%以下となるよう形成されている、請求項4に記載のハーフセルグリーンシート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、SOFCの構成に関する一般的事項や運転方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0019】
図1Aは、ここに開示される技術により提供されるSOFC1である。このSOFC1は、本質的な構成として、固体電解質層30と、固体電解質層30の一方の面(図では下側)に備えられた燃料極層20と、固体電解質層30の他方の面(図では上側)に備えられた空気極層40と、を備えている。燃料極層20は、燃料ガスの流通が可能なように多孔質構造を有している。また、固体電解質層30は、この燃料ガスの通過が不可能なように、緻密な構造を有している。この
図1Aに例示されたSOFC1は、固体電解質層30と空気極層40との間に、両者の反応を防止する反応防止層35が備えられている。そして燃料極層20〜空気極層40は、燃料極支持体10により支持されている。この燃料極支持体10も、典型的には、燃料ガスの流通が可能なように多孔質構造を有している。
【0020】
また、
図1Bは、ここに開示される技術により提供されるSOFCのハーフセルグリーンシート1Gである。このハーフセルグリーンシート1Gは、本質的な構成として固体電解質用グリーンシート30Gと、この固体電解質用グリーンシート30Gの一方の面(図では下側)に備えられた燃料極用グリーンシート20Gと、を備えている。固体電解質用グリーンシート30Gは、焼成することで固体電解質層30となる。また、燃料極用グリーンシート20Gは、焼成することで燃料極層20となる。そして、ハーフセルグリーンシート1Gは、焼成することでSOFCのハーフセルとなる。
【0021】
この
図1Bに例示されたハーフセルグリーンシート1Gは、固体電解質用グリーンシート30Gの他方の面(図では上側)に、付加的に反応防止層用グリーンシート35Gが備えられている。また、固体電解質用グリーンシート30G,燃料極用グリーンシート20Gおよび反応防止層用グリーンシート35Gは、付加的な燃料極支持体用グリーンシート10Gにより支持されている。反応防止層用グリーンシート35Gは、焼成により反応防止層35となる。また燃料極支持体用グリーンシート10Gは、焼成により燃料極支持体10となる。
【0022】
このSOFC1の製造方法は特に限定されないものの、好適には、ここに開示されるSOFCの製造方法により好適に製造することができる。以下、ここに開示される技術が提供するSOFCの製造方法について説明する。すなわち、この製造方法は、本質的に、以下の工程を包含することを特徴としている。
【0023】
(1)少なくとも電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末とを含む燃料極用グリーンシート20Gを用意すること。
(2)燃料極用グリーンシート20Gの表面に、少なくともイオン伝導性粉末を含む固体電解質用グリーンシート30Gを積層した積層体(ハーフセルグリーンシート1G)を用意すること。
(3)積層体(ハーフセルグリーンシート1G)を焼成して、少なくとも固体電解質層30とこの固体電解質層30の一方の面に備えられた燃料極層20とを備えるハーフセルを作製すること。
(4)ハーフセルの固体電解質層30側の表面に空気極40を形成してSOFC1とすること。
【0024】
なお、上記の工程(1)の前に、燃料極支持体用グリーンシート10Gを用意する工程(1)’を設けるようにしてもよい。このとき、工程(1)の燃料極用グリーンシート20Gは、燃料極支持体用グリーンシート10Gの上に積層した状態で用意することができる。
また、上記の工程(2)と工程(3)との間に、反応防止層用グリーンシート35Gを用意する工程(2)’を設けるようにしてもよい。このとき、反応防止層用グリーンシート35Gは、固体電解質用グリーンシート30Gの燃料極用グリーンシート20Gが積層されていない側の表面に、積層した状態で形成することができる。そして、上記工程4の空気極40は、反応防止層用グリーンシート35Gが焼成されてなる反応防止層35の表面(すなわち固体電解質層30側の表面)に形成することができる。
以下、順に各工程について説明する。
【0025】
1’.燃料極支持体用グリーンシートの用意
工程1’では、先ず、燃料極支持体用グリーンシート10Gを形成するための原料を準備する。この原料は、後述の燃料極支持体用グリーンシート10Gの原料と概ね共通しており、少なくとも電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末とを含んでいる。そして典型的には、これらの電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末とが、ほぼ均一な混合状態でバインダにより結合されて燃料極支持体用グリーンシート10Gを構成している。
【0026】
電子伝導性粉末としては、SOFCの運転環境において電子伝導性を示し得る材料の粉末を用いることができる。このような粉末としては、従来から燃料極層の形成に用いられている物質を特に限定することなく用いることができる。具体的には、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ランタン(La)、金(Au)等の金属材料、およびその金属酸化物を用いることができる。これらはいずれか1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。なかでも、SOFCの燃料極での反応において電気触媒的作用(触媒活性)を示し得ることから、Co,Ni,Zr,Ru,酸化コバルト(CoO、Co
2O
3、Co
3O
4)、酸化ニッケル(NiO、Ni
2O
3、Ni
3O
4)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化ルテニウム(RuO
2)等を好ましく用いることができる。特に、Niは他の金属に比べて比較的安価であり、且つ高い反応活性を示す(高い触媒能を有する)ことから特に好適な金属種であり得る。したがって、ここで開示される製造方法では、電子伝導性粉末として含ニッケル材料(例えばニッケルまたは酸化ニッケル)を特に好ましく用いることができる。
【0027】
イオン伝導性粉末としては、例えば、後述する固体電解質層30の形成材料(典型的には酸化物イオン伝導体(酸素イオン伝導体ともいう))の粉末を好適に用いることができる。このような酸化物イオン伝導体としては、具体的には、例えば、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、ガドリニウム(Gd)、サマリウム(Sm)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、セリウム(Ce)等のうちから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物が挙げられる。そしてこれらの酸化物は、結晶構造を安定化させる目的の安定化材がドープされたものであることが好ましい。このような安定化酸化物としては、例えば、イットリア(Y
2O
3)、カルシア(CaO)、スカンジア(Sc
2O
3)、マグネシア(MgO)、イッテルビア(Yb
2O
3)、エルビア(Er
2O
3)等の安定化材をドープしたジルコニア(ZrO
2)や、例えば、ガドリニア(Gd
2O
3)、ランタニア(La
2O
3)、サマリア(Sm
2O
3)、イットリア(Y
2O
3)等の安定化材をドープしたセリウム酸化物(セリア:CeO
2)が、特に好適な例として挙げられる。なかでも、例えば、イットリアをドープしたイットリア安定化ジルコニア(Yttria stabilized zirconia:YSZ)や、スカンジアをドープしたスカンジア安定化ジルコニア(Scandia stabilized zirconia:ScSZ)、カルシアをドープしたカルシア安定化ジルコニア(Calcia stabilized zirconia:CSZ)、スカンジアをドープしたスカンジアドープセリア(Scandia doped ceria:SDC)、ガドリニアをドープしたガドリニアドープセリア(Gadrinia doped ceria:GDC)等を好ましく用いることができる。
【0028】
安定化材の導入量は特に制限されないが、例えば、安定化材と酸化物との組み合わせに応じて0.1mol%〜30mol%程度の範囲で適宜調整することができる。例えば、8mol%程度のイットリアで安定化したジルコニア(8YSZ)や、10mol%程度のガドリニアで安定化したセリア(10GDC)、20mol%程度のサマリアで安定化したセリア(20SDC)等が好適例として挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。上記の電子伝導性粉末とこのイオン伝導性粉末は、混合粉末の状態で使用してもよいし、サーメットとして使用してもよい。
【0029】
電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末との配合比率は、特に限定されないが、およそ90:10〜40:60(より好ましくは、およそ80:20〜45:55)の範囲にあることが好適である。また、電子伝導性粉末およびイオン伝導性粉末の形態は特に限定されないが、例えば平均粒子径が0.01μm以上5μm以下(典型的には0.1μm以上3μm以下)程度の粉末状(粒子状)のものを好ましく用いることができる。また、上述のようなサーメットを調製・使用する場合には、実質的に同等な平均粒子径を有する材料同士を混合して用いることが好ましい。例えば、平均粒子径が約0.1μm以上5μm以下のニッケル系材料と、平均粒子径が約0.1μm以上5μm以下の安定化ジルコニアと、を上記比率で混合して用いることが好ましい例として挙げられる。これによって、より均質な燃料極支持体用グリーンシート10Gを実現し得る。
なお、本明細書において「平均粒子径」とは、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づき測定される体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D
50粒径)をいう。かかる粒径の調整は、従来公知の粉砕処理や篩いがけ、分級等によって行うことができる。
【0030】
燃料極支持体用グリーンシート10Gは、典型的には、以上の燃料極支持体の構成材料を分散媒中に分散して調製したスラリー状の燃料極支持体形成用組成物により好適に形成することができる。組成物は、粉末状の構成材料を単独で分散媒に分散させて調製してもよいし、あるいは他の添加剤を添加してもよい。すなわち、燃料極支持体用グリーンシート10Gは、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、実質的に燃料極支持体を構成する成分以外の成分を含んでいても良い。このような添加剤としては、例えば気孔形成材(造孔材)や焼結助剤、可塑剤、酸化防止剤、増粘剤、分散剤等が挙げられる。気孔形成材としては、焼成温度よりも低い温度で燃え抜けて所望の大きさの気孔を形成する材料を使用することができる。例えば粒状のカーボン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、澱粉等を好適に用いることができる。可塑剤としては、例えばプロピレングリコール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル等のグリコールエーテル類;フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸エステル類;等を好適に用いることができる。分散剤としては、例えばカルボン酸系の高分子界面活性剤を好適に用いることができる。各種添加剤を使用する場合、原料混合物全体に占める添加剤の割合は、特に制限されない。とりわけ気孔形成材の割合は、焼成後の燃料極支持体10が所望の多孔質構造を実現し得るよう適宜調整することができる。かかる添加剤の割合は、おおよその目安として、例えば0.1質量%〜20質量%とすることができ、通常は約0.5質量%〜10質量%とすることができる。
【0031】
分散媒としては、燃料極支持体の構成材料を良好に分散させ得るものであればよく、従来のこの種のスラリー状組成物に用いられている各種の分散媒を特に制限なく使用することができる。典型的には、分散媒として、バインダと有機溶媒との混合物を好ましく用いることができる。この分散媒は、例えば、ビヒクルと、粘度調整のための有機溶媒との混合物として考慮することもできる。
【0032】
有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、環状エーテル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤または他の有機溶剤が挙げられる。なかでも、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、オクタノール、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、α−テルピネオール(TE)、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、イソボルニルアセテート、ブチルカルビトール、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等を好適に用いることができる。特に好ましくは、αーテルピネオール、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、イソボルニルアセテート、ブチルカルビトール(BC)、ブチルセロソルブが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、エチレングリコール、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール、α−テルピネオール等の高沸点有機溶剤を含むことが好ましい。かかる溶媒成分は、後述の乾燥処理または200℃以下程度の加熱処理によって除去することができる。
【0033】
また、ビヒクルは、有機バインダとして種々の樹脂成分を含むことができる。かかる樹脂成分は脱バインダ処理(典型的には、200℃以上600℃以下の加熱処理)によって除去することができ、スラリーを調製するのに良好な粘性および塗膜形成能(例えば、印刷性や、基板に対する付着性等を含む。)を付与し得る各種の化合物を特に制限なく用いることができる。例えば、従来のこの種の組成物に用いられている、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ロジン樹脂等を主体とするものが挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が含まれているのが好ましい。なお、かかる分散媒には、分散剤や可塑剤等のこの種の分散媒に一般的に使用され得る任意の添加剤が含まれていても良い。
【0034】
組成物に占める分散媒の割合は、グリーンシート10Gの成形方法等に応じて適宜調整することができる。なお、上記の燃料極支持体形成用組成物を調製するに際し、粉末状の燃料極支持体の構成材料と分散媒等との混合には、例えば、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダ、三本ロールミル等の従来公知の種々の攪拌・混合装置を適宜用いることができる。成形方法としては、乾式法または湿式法のいずれを採用しても良い。湿式法としては、一般的なスラリー状組成物の供給技術、例えば印刷法(凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷等)、シート成形法(ドクターブレード法等)、ディッピング法、スプレー法等を採用することができる。また、乾式法としては、ロール成形法やプレス成形法等を採用することができる。
【0035】
湿式法の場合、組成物全体に占める分散媒の割合は、5質量%以上60質量%以下程度とすることができ、好ましくは7質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。また、ビヒクルに含まれる有機バインダは、例えば、組成物全体の1質量%以上15質量%以下程度、好ましくは1質量%以上10質量%以下程度、より好ましくは1質量%以上7質量%以下程度とすることが例示される。このような構成とすることで、例えば、粉末状の燃料極支持体の構成材料を均一な厚さの層状体(例えば、塗膜)として形成(塗布)し易く、取扱いが容易であり、さらにかかる成形体から有機溶媒を除去するのに長時間を要することがないために好適である。
【0036】
また、乾式法の場合、組成物全体に占める分散媒(溶媒であり得る。)の割合は、0.1質量%以上20質量%以下程度とすることができ、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下程度である。また組成物全体に占めるバインダの割合は、例えばおよそ1質量%以上20質量%以下程度とすることができ、通常はおよそ2質量%以上10質量%以下程度とすることが好ましい。各種添加剤を使用する場合、組成物全体に占める添加剤の割合は、例えば0.1質量%以上20質量%以下とすることができ、通常はおよそ0.5質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。乾式法の場合は、スラリー状の組成物を調製することなく、造粒粉タイプの組成物を用意することができる。乾式法によると、有機溶媒の除去に要する時間を大幅に短縮するか省くことができるために好ましい。
【0037】
燃料極支持体用グリーンシート10Gは、後述の燃料極用グリーンシート20Gと固体電解質用グリーンシート30Gとの積層体を十分に支持できる任意の厚みに形成することができる。この燃料極支持体用グリーンシート10Gの平均厚みは、例えば100μm以上、典型的には200μm以上、例えば500μm以上とすることができる。また平均厚みの上限は特に制限されず、例えば、2000μm以下、典型的には1800μm以下、例えば1500μm以下とすることができる。これにより、燃料極支持体用グリーンシート10Gを用意することができる。
【0038】
1.燃料極用グリーンシートの用意
工程1では、少なくとも電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末とを含む燃料極用グリーンシート20Gを用意する。上述のとおり、燃料極層20を構成する燃料極構成材料は、上記燃料極支持体の構成材料と共通しており、少なくとも電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末とを含んでいる。また、燃料極用グリーンシート20Gを形成する手法も、上述の燃料極支持体用グリーンシート10Gの形成方法と共通している。例えば、燃料極構成材料を分散媒に分散させたスラリー状の燃料極形成用組成物あるいは造粒粉状の燃料極形成用組成物を調製し、これを成形することで、燃料極用グリーンシート20Gを用意することができる。
【0039】
なお、燃料極支持体10を備えるSOFC1の製造に際しては、上記の燃料極支持体用グリーンシート10Gの上に燃料極用グリーンシート20Gを形成する。燃料極支持体10を備えないSOFC1の製造に際しては、適切なキャリアシート等の上に燃料極用グリーンシート20Gを形成すればよい。したがって、これらの材料およびグリーンシートの成形方法に関する詳細な説明は省略する。
【0040】
このように、燃料極用グリーンシート20Gに固体電解質層30の構成材料(酸化物イオン伝導体)を含ませることで、固体電解質用グリーンシート30Gとの間の整合性(馴染み)はもちろんのこと、焼成の際の燃料極層20と固体電解質層30との整合性(例えば熱膨張係数の調和)を高めることができるために好ましい。またSOFC1の運転時の燃料極層20と固体電解質層30との間の接合性(密着性)も向上させることができる。したがって、グリーンシートの段階から、その後得られるSOFCの運転においても、界面剥離等の不具合を抑制することができる。延いては、耐久性や信頼性に優れたSOFCを実現することができる。
【0041】
ここで、燃料極用グリーンシート20Gは、下記で規定されるパラメータPを指標とし、このPが適切な値となるよう、形成条件および焼成条件を決定することができる。
P=p/|s
e−s
a|
ここで、式中、pは燃料極層20の気孔率である。s
aは燃料極用グリーンシート20Gを単独で25℃から1300℃まで焼成したときの収縮率である。またs
eは固体電解質用グリーンシート30Gを単独で25℃から1300℃まで焼成したときの収縮率である。
【0042】
以上のパラメータP,換言すると気孔率と収縮率差との関係は、概ね互いに相反する傾向が見られる。例えば、気孔率が増大すると、概ね収縮率差は減少する傾向にある。しかしながら、パラメータPは燃料極20に係る様々な要因により複雑な影響を受け得る。本発明者らの検討によると、パラメータPは、燃料極20を構成する電子伝導性粉末およびイオン伝導性粉末の平均粒子径やその混合比率、これに加え焼成温度を制御することで、安定的かつ効果的に調整し得ることが判明した。そこで、ここに開示される技術においては、パラメータPが7.5以上50以下となるよう、電子伝導性粉末およびイオン伝導性粉末の平均粒子径と焼成の温度とを調整するようにしている。
【0043】
燃料極層20の気孔率pは、製造されるSOFC1の諸特性に大きな影響を与え得る。例えば、燃料極層20の気孔率が小さく緻密であることで、燃料極層20を構成する電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末との界面が増大され、燃料極層20の電子伝導性は向上される。また、燃料極層20が緻密となることで、燃料極層20自体の強度は高められる。しかしながらその一方で、燃料極層20の気孔率が小さくなると、燃料極層20に供給される燃料ガス(酸素)が固体電解質層30へ供給され難くなる。また、燃料極層20内における燃料極構成材料/固体電解質材料/気相(燃料ガス)の三層界面、および、電子伝導性粉末/イオン伝導性粉末/気相(燃料ガス)の三層界面が減少され得る。換言すると、交換電流密度等として表されるSOFCの発電性能も低下され得る。したがって、燃料極層20の気孔率を適切に制御することで、SOFCの発電性能を高めることができる。かかる気孔率は、大略的には、電子伝導性粉末およびイオン伝導性粉末の平均粒子径を小さくすることで、低減させることができる。
【0044】
気孔率pは、多孔質構造の燃料極層20における気孔の体積割合(%)を意味し、JIS R1655:2003に基づき測定することができる。具体的には、例えば、燃料極層20と同等の多孔質構造の試験片を用意し、この試験片の見かけの体積(Va(cm
3))を計測する。そしてかかる試験片について、一般的な水銀圧入法による細孔分布測定を行い、全細孔容積(Vb(cm
3))を測定する。このとき、気孔率pは、次式:p(%)=Vb/Va×100;により算出される。この気孔率pは、概ね20%以下であるとパラメータPを上記好適範囲に調整しやすくなるために好ましい。pは、15%以下であることがより好ましく、13%以下であることが特に好ましい。
【0045】
一方で、|s
e−s
a|は、燃料極用グリーンシート20Gと固体電解質用グリーンシート30Gとの焼成時の収縮率の差(以下、単に「収縮率差」という。)を表している。この収縮率差が大きい程、焼成後のSOFC1において燃料極層20と固体電解質層30との間に圧縮応力が発生し、燃料極層20と固体電解質層30との界面が剥離する可能性が高められる。特に、SOFC1の長期の使用に際して、燃料極層20と固体電解質層30との間の界面剥離の問題が顕著となり得、SOFC1の耐久性に影響を与え得る。したがって、燃料極層20の収縮率差を適切に制御することで、SOFCの耐久性を高めることができる。かかる収縮率差は、固体電解質用グリーンシートの収縮率s
eにもよるため一概には言えないものの、概ね、燃料極用グリーンシート20Gの収縮率s
aを小さくすることで収縮率差も小さくし得る傾向にある。また、燃料極用グリーンシート20Gの収縮率s
aは、大略的には、電子伝導性粉末およびイオン伝導性粉末の平均粒子径を小さくすることや、焼成温度を高くすることで、減少させ得る傾向にある。この収縮率差|s
e−s
a|は、2%以下であるとパラメータPを上記好適範囲に調整しやすくなるために好ましい。|s
e−s
a|は、1.7%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることが特に好ましい。
【0046】
なお、収縮率s
e,s
aは、それぞれ燃料極用グリーンシートと固体電解質用グリーンシートとが加熱された際の収縮の割合(%)を表している。この収縮率は、主として焼結によるグリーンシートの収縮割合を示す。また、グリーンシートがバインダを含む構成の場合は、焼結による収縮に加え、脱バインダによるグリーンシートの収縮割合も含む。このような収縮率は、熱機械分析(TMA)を用い、例えば圧縮荷重法により測定した値を採用することができる。具体的には、燃料極用グリーンシートと固体電解質用グリーンシートとからそれぞれ所定の寸法の試験片を切り出し、有機溶媒を除去して乾燥させた後、25℃から1300℃までの加熱を行う。そして乾燥状態にある試験片の長さに対する、加熱後の試験片の収縮長さの割合として算出することができる。具体的には、次式:収縮率={(乾燥状態にある試験片の長さ)−(1300℃までの加熱後の試験片の長さ)}÷(乾燥状態にある試験片の長さ)×100;により算出される。
なお、試験片の乾燥条件としては、例えば、120℃における試験片の重量減少率が0.01%の恒量となるように乾燥させることを凡その目安とすることができる。かかる乾燥には、例えば、120℃で約12時間加熱することが例示される。
【0047】
電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末の平均粒子径は厳密には限定されないが、例えば平均粒子径が0.01μm〜5μm(典型的には0.1μm〜2μm)程度の範囲のものから好ましく用いることができる。電子伝導性粉末およびイオン伝導性粉末の平均粒子径は、互いに独立して決定することができ、両者が同一または略同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
より均質な燃料極20を安定的に形成するとの観点から、これらの粉末の粒度分布は比較的狭く(シャープである)、粒径が揃っていることが好ましい。かかる粒度分布の分布幅を測る指標としては、レーザー回折法に基づく粒度分布における累積体積10%の粒径(D
10)と累積体積90%の粒径(D
90)との比(D
10/D
90)を採用することができる。粉末を構成する粒径がほぼ等しい場合は、D
10/D
90は1に近づき、逆に粒度分布が広くなる程、D
10/D
90は0に近づくことになる。ここでは、D
10/D
90が約0.2以上(好ましくは0.3以上、例えば0.5以上)と比較的粒径の揃った電子伝導性粉末およびイオン伝導性粉末を好適に使用することができる。
【0049】
また、電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末との平均粒子径は別個に調整することができる。例えば、具体的には、電子伝導性粉末は、平均粒子径が0.01μm以上1μm以下程度であるのが好ましく、0.1μm以上0.5μm以下程度であるのがより好ましい。また、イオン伝導性粉末は、平均粒子径が0.01μm〜0.8μm程度であるのが好ましく、0.1μm〜0.4μm程度であるのがより好ましい。
電子伝導性粉末とイオン伝導性粉末との混合比率は、例えば質量比で、90:10〜40:60程度、好ましくは、80:20〜50:50程度とすることができる。
【0050】
なお、燃料極用グリーンシート20Gについても、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、例えば気孔形成材(造孔材)や可塑剤、酸化防止剤、増粘剤、分散剤等の各種添加剤等を必要に応じて含み得る。気孔形成材を含む構成においては、上記の気孔率の調整に気孔形成材を使用することができる。気孔形成材の割合は、おおよその目安として、例えば0.1質量%以上20質量%以下程度、例えば約0.5質量%以上10質量%以下(さらに好ましくは8質量%以下、例えば7質量%以下)程度の範囲で調整するのが好ましい。
燃料極形成用組成物全体に占める有機溶媒の割合は特に限定されないが、例えば約10質量%以上40質量%以下程度とすることができ、通常は20質量%以上35質量%以下程度とすることが好ましい。換言すれば、燃料極形成用組成物の固形分濃度(NV)は、例えば60質量%以上80質量%以下とすることが好ましく、例えば65質量%以上75質量%以下程度とすることができる。
また、燃料極形成用組成物の固形分全体に占める、電子伝導性粉末およびイオン伝導性粉末の割合は、約50質量%以上であり、通常は約70質量%以上95質量%以下、例えば約80質量%以上90質量%以下であることが好ましい。燃料極形成用組成物全体に占めるバインダの割合は、例えば約1質量%以上30質量%以下、約1質量%以上10質量%以下とすることができ、通常は約1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。各種添加剤を使用する場合、固体電解質層形成用スラリー全体に占める添加剤の割合は、例えば0.1質量%以上1質量%以下とすることができ、通常は約0.5質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。
【0051】
燃料極用グリーンシート20Gの平均厚みは特に制限されず、任意に設定することができる。燃料極支持体用グリーンシート10Gを備える構成では、通常約5μm以上50μm以下(典型的には7μm以上30μm以下、例えば10μm以上20μm以下)程度とすることができる。燃料極支持体用グリーンシート10Gを備えない構成では、焼成後のSOFCが所望の強度を実現し得るよう燃料極用グリーンシート20Gの厚みを適宜調整することができる。これにより燃料極用グリーンシート20Gを形成することができる。
【0052】
2.固体電解質用グリーンシートの用意
工程2では、(2)燃料極用グリーンシート20Gの表面に、少なくともイオン伝導性粉末を含む固体電解質用グリーンシート30Gを積層した積層体を用意する。このイオン伝導性粉末は、典型的には酸素イオン伝導性を有し、電子伝導性は示さない。固体電解質用グリーンシート30Gを形成する手法は、上述の燃料極支持体用グリーンシート10Gの形成方法と同様であってよい。なかでも固体電解質層30をより薄く均質に形成し得るとの観点から、上記の湿式法を採用することが好ましい。例えば、典型的には、固体電解質層構成材料を分散媒に分散させたスラリー状の固体電解質形成用組成物を調製し、これを印刷の手法を利用する等して所定の形状に成形することで、固体電解質用グリーンシート30Gを用意することができる。したがって、固体電解質層構成材料および固体電解質用グリーンシート30Gの成形方法に関する説明は省略する。
【0053】
上記イオン伝導性粉末の平均粒子径は、所望の固体電解質層の構成に応じて適宜決定することができる。例えば、平均粒子径が0.01μm〜5μm程度(例えば0.1μm〜2μm)程度の粉末を好ましく用いることができる。燃料極用グリーンシートおよび固体電解質層用グリーンシートに含まれる材料の平均粒子径を揃えた場合、両者の層間における接着性を高めることができ、より高い接合性や機械的強度を実現することができる。
【0054】
固体電解質形成用組成物全体に占める有機溶媒の割合は特に限定されないが、例えば約20質量%以上40質量%以下程度とすることができ、通常は約25質量%以上35質量%以下程度とすることが好ましい。換言すれば、固体電解質形成用組成物の固形分濃度(NV)は、例えば60質量%以上80質量%以下とすることが好ましく、例えば65質量%以上75質量%以下程度とすることができる。
また、固体電解質形成用組成物の固形分全体に占めるイオン伝導性粉末の割合は、約50質量%以上であり、通常は約70質量%以上98質量%以下、例えば約80質量%以上95質量%以下であることが好ましい。固体電解質形成用組成物全体に占めるバインダの割合は、例えば約1質量%以上30質量%以下、約1質量%以上10質量%以下とすることができ、通常は約1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。各種添加剤を使用する場合、固体電解質層形成用スラリー全体に占める添加剤の割合は、例えば0.1質量%以上1質量%以下とすることができ、通常は約0.5質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。
【0055】
なお、固体電解質用グリーンシート30Gの厚み(平均厚み)は厳密には制限されないものの、従来に比べて薄く形成することができる。典型的には15μm以下、例えば10μm以下、特に5μm以下となるよう形成することが好ましい。上記範囲とすることで、抵抗をより低く抑えることができ、優れた発電性能(高出力密度)を発揮し得るSOFCを実現することができる。また、固体電解質用グリーンシート30Gの厚みは、典型的には1μm以上、例えば2μm以上、好ましくは3μm以上となるよう形成することが好ましい。上記範囲とすることで、固体電解質用グリーンシート30Gの形成時に生じ得るピンホールや塗工スジの発生や、焼成の際に固体電解質層に貫通孔が形成される等の不都合の発生を抑制することができる。
これにより、少なくとも燃料極支持体用グリーンシート10Gと固体電解質用グリーンシート30Gとが積層された積層体を用意することができる。この積層体は、共焼成することでSOFCのハーフセルが得られるハーフセルグリーンシート1Gとして利用することができる。
【0056】
2’.反応抑止層の形成
工程(2)’では、反応防止層用グリーンシート35Gを用意する。例えば、SOFC1の固体電解質層30にジルコニア系の材料を含み、且つ後述する空気極層40にペロブスカイト構造の酸化物材料を含む場合には、焼成ないしは焼成後のSOFC運転の段階において固体電解質層30と空気極層40とが接触する部分(界面)で固相反応を生じ得る。かかる固相反応は、固体電解質層30および/または空気極層40間のイオン電導性が低下する原因となり得るために好ましくない。そのため、上記材料を用いてSOFCを製造する場合には、固体電解質層30と空気極層40との間に両者の反応を防止する反応防止層35を設けることができる。この場合、ここに開示されるハーフセルグリーンシート1Gについても、固体電解質用グリーンシート30Gの表面に、反応防止層35を形成するための反応抑止層用グリーンシート35Gを備えることができる。
【0057】
かかる反応抑止層用グリーンシート35Gは、例えば、セリウム酸化物とバインダと必要に応じて含まれる添加剤(例えば分散剤)とを溶媒に分散させて調整してなるスラリー状の組成物(反応抑止層形成用組成物)を、固体電解質層用グリーンシート20の表面に任意の手法で供給した後、溶媒を除去することで形成することができる。この手法についても、上述しているため詳細は省略する。
セリウム酸化物としては、例えば固体電解質層の形成材料として例示したセリウム酸化物を用いることができる。好適例として、ガドリニア(Gd
2O
3)をドープした酸化セリウム(CeO
2)が挙げられる。上記置換的な構成元素の量(異元素のドープ量)は、特に限定されないが、例えば当該置換元素の酸化物換算で1mol%〜20mol%(例えば5mol%〜15mol%)とすることができる。
【0058】
反応抑止層形成用組成物の固形分濃度は特に限定されないが、典型的には60質量%以上80質量%以下(例えば65質量%以上75質量%以下)程度とすることができ、概ね固体電解質層形成用スラリーと同等とすることが好ましい。換言すれば、反応抑止層形成用スラリー全体に占める溶媒の割合は、例えば約20質量%以上40質量%以下とすることができ、通常は約25質量%以上35質量%以下とすることが好ましい。
また、反応抑止層形成用スラリー全体に占める上記セリウム酸化物の割合は、約50質量%以上であり、通常は約60質量%以上90質量%以下、例えば約60質量%以上70質量%以下であることが好ましい。反応抑止層形成用組成物全体に占めるバインダの割合は、例えば約1質量%以上30質量%以下、約1質量%以上10質量%以下とすることができ、通常は約1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。各種添加剤を使用する場合、反応抑止層形成用スラリー全体に占める添加剤の割合は、例えば0.1質量%以上1質量%以下とすることができ、通常は約0.5質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。
【0059】
反応抑止層形成用組成物の供給方法は特に限定されないが、固体電解質用グリーンシート30Gを形成する場合と同様とすることができる。例えば印刷法(例えばスクリーン印刷法)を好適に採用することができる。そして、供給された反応抑止層形成用組成物の溶媒を除去することで、反応抑止層用グリーンシート35Gを形成することができる。
反応抑止層用グリーンシート35Gの厚みは特に限定されないが、厚すぎる場合は焼成後に得られる固体電解質層のイオン伝導性を妨げ、発電性能が低下する虞がある。また、あまりに薄い場合は焼成ないしは焼成後に固体電解質層と空気極層とが接触し反応を生じ得る等、反応抑止層としての役割を果たさない虞がある。かかる観点から、反応抑止層用グリーンシート35Gの平均厚みは、0.5μm〜10μmであることが適当であり、通常1μm〜5μm程度であることが好ましい。
上述のようにして、例えば
図2に示すように、燃料極支持体用グリーンシート10G,燃料極用グリーンシート20G,固体電解質用グリーンシート30Gと反応抑止層用グリーンシート35Gとが順に積層されたハーフセルグリーンシート1Gを製造することができる。
【0060】
3.ハーフセルの作製
工程3では、上記の積層体(ハーフセルグリーンシート1G)を焼成して、ハーフセルを作製する。ハーフセルグリーンシート1Gは、燃料極用グリーンシート20Gおよび固体電解質用グリーンシート30Gに含まれるバインダ成分を消失させると共に、燃料極層20および固体電解質層30を構成する粉末材料が焼結されるように加熱する。また、ハーフセルグリーンシート1Gが燃料極支持体用グリーンシート10Gおよび反応防止層用グリーンシート35Gを備える場合は、燃料極支持体10および反応防止層35を構成する粉末材料も焼結されるように加熱する。これにより、少なくとも固体電解質層30とこの固体電解質層30の一方の面に備えられた燃料極層20とを備えるハーフセルを得ることができる。燃料極支持体10および反応防止層35を有する構成では、固体電解質層30の他方の面に反応防止層35が、燃料極層20の固体電解質層30とは反対側の表面には燃料極支持体10が備えられたハーフセルを得ることができる。
【0061】
このときの焼成温度は、使用する材料にもよるため厳密には制限されないが、例えば1200℃以上1500℃以下程度の温度範囲で実施することができる。なお、この焼成温度は、上述のように、燃料極層20の多孔質構造の形態に影響を与え得る。すなわち、パラメータPに影響を与え得る。したがって、この焼成温度は、上記パラメータPが所望の値となるよう適宜調整することができる。例えば、焼成温度は、概ね1300℃以上1450℃以下の範囲で調整することで、パラメータPを好適かつ安定的に制御できるために好ましい。焼成時間はハーフセルグリーンシート1Gの形態にもよるが、例えば約1時間以上5時間以下程度とすることができる。これにより、ハーフセルを得ることができる。
【0062】
燃料極層10は、ガス拡散性に優れた多孔質構造を有しており、気孔率は通常5体積%〜50体積%程度であり、10体積%〜30体積%であることが好ましい。また、燃料極層10の平均細孔径は、通常約10μm以下であり、0.1μm〜5μmであることが好ましい。そして上記パラメータPが7.5以上50以下の範囲にある場合、燃料ガスと燃料極層10との接触面積を十分に確保しつつ、高い機械的強度が得られ、発電性能と耐久性とを好適に両立し得る。パラメータPは、8以上であるのがより好ましく、8.5以上であるのがより好ましい。パラメータPの上限については、例えば35以下であるのが好ましく、24以下であるのが特に好ましい。
【0063】
なお、固体電解質層30および反応抑止層30は、薄膜状で緻密構造を有しており、気孔率は通常約20体積%以下であり、10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であるのがより好ましい。かかる範囲を満たす場合、より出力密度の高いSOFCを実現し得る。
【0064】
4.SOFCの作製
工程4では、上記で得たハーフセルの固体電解質層30側の表面に空気極層40を形成してSOFC1を作製する。空気極層40は、固体電解質層30や反応防止層35等に倣って、ハーフセルの固体電解質層30側(または反応抑止層30側)の表面に空気極層用グリーンシートを形成し、これを焼成することで形成することができる。
具体的には、空気極層用グリーンシートは、空気極構成材料(例えば電子−酸素イオン混合導電性材料)とバインダと必要に応じて含まれる添加剤とを溶媒に分散させてなるスラリー状の空気極形成用組成物を調製し、これを乾燥および焼成することで形成することができる。
【0065】
空気極層40を構成する材料としては、従来からSOFCの空気極層の形成に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく用いることができる。なかでも、酸化雰囲気において優れた耐久性と電子−酸素イオン混合導電性とを発揮し得るものが好ましい。このような電子−酸素イオン混合導電性を示す材料としては、典型的として、ランタンコバルタイト(LaCoO
3)系、ランタンマンガネート(LaMnO
3)系、ランタンフェライト(LaFeO
3)系、ランタンニッケラート(LaNiO
3)系のペロブスカイト型酸化物;サマリウムコバルタイト(SmCoO
3)系ペロブスカイト型酸化物;等が挙げられる。
【0066】
ここで、例えば上記ランタンコバルタイト系酸化物とは、LaおよびCoを構成金属元素とする酸化物の他、LaおよびCo以外に他の一種以上の金属元素(遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。また、ランタンマンガネート系酸化物、ランタンフェライト系酸化物、ランタンニッケラート系酸化物およびサマリウムコバルタイト系酸化物についても同様である。典型例として、SrをドープしたLaMnO
3系酸化物(例えば、La
0.8Sr
0.2MnO
3)、SrをドープしたLaCoO
3系酸化物(例えば、La
0.6Sr
0.4CoO
3)、SrおよびFeをドープしたLaCoO
3系酸化物(例えば、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3)等が好適な空気極構成材料として挙げられる。これらの電子−酸素イオン混合伝導体は、他のペロブスカイト型酸化物に比べて高い反応活性を示す(高い触媒能を有する)ことからも空気極構成材料として好適である。
【0067】
空気極層用グリーンシートは、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、バインダや各種添加剤等を必要に応じて含み得る。これらは、例えば燃料極支持体用グリーンシート10Gの形成用材料として上述したもののうちの、一種または二種以上を適宜用いることができる。
空気極層40を作製する際の焼成温度は、例えば700℃〜1200℃(好ましくは800℃〜1100℃)とすることができ、焼成時間は約1時間〜5時間とすることができる。
【0068】
焼成後の空気極層40は、燃料極層20と同様にガス拡散性に優れた多孔質構造を有している。空気極層40の気孔率は通常約10体積%〜30体積%であり、15体積%〜25体積%であることが好ましい。また、空気極層40の平均細孔径は、通常約10μm以下であり、0.1μm〜5μmであることが好ましい。かかる範囲を満たす場合、ガスとの接触面積を十分に確保し得、高い発電性能を実現し得る。空気極層40の平均厚みは、発電性能の観点から、通常約50μm以下(典型的には、約5μm〜20μm)であるが、かかる厚みに限定されるものではない。
【0069】
以上のようにして製造されるSOFC1は、少なくとも燃料極層20と、固体電解質層30と、空気極層(空気極)40と、が積層された構造を有している。SOFC1の使用時には、燃料極層20を通じて燃料極層20側の固体電解質層30の表面に燃料ガス(典型的には水素(H
2))が供給される。また、空気極層40を通じて空気極層40側の固体電解質層30の表面に酸素(O
2)含有ガス(典型的には空気)が供給される。このとき、SOFC1の空気極層40側の電解質層30表面では、酸素が還元されて酸素イオン(O
2−)が発生する。そして、この酸素イオンが固体電解質層30を通過して燃料極層10側に到達し、燃料ガス(H
2)を酸化して電子を放出する。この電子は、外部回路を伝って燃料極層20から空気極層40へと移動し、再び酸素のイオン化に寄与する。これにより、燃料極から空気極への電子の流れが実現される。また、かかる電子の流れに負荷抵抗を接続することで、電流を外部に取り出すことができる。
【0070】
なお、
図1Aに示すSOFCは平型(Planar)であるが、他にも種々の構造、例えば従来公知の多角形型、円筒型(Tubular)あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型(Flat Tubular)等とすることができ、形状やサイズは特に限定されない。例えば平型は、電力密度が高く円筒型に比べて安価であるという特徴を有する。また、円筒型はガスの流量を一定に保ち易く、より安定的な発電が可能であるという特徴を有する。このため、用途等に応じて適宜好ましい形状およびサイズを選択することが好ましい。また、平型のSOFCとしては、ここで開示される燃料極支持型(ASC;Anode-Supported Cell)の他にも、例えば燃料極支持体の下に多孔質な金属シートを入れた、メタルサポートセル(MSC;Metal-Supported Cell)とすることもできる。
【0071】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0072】
(燃料極支持体用グリーンシートの作製)
平均粒子径が0.5μmの酸化ニッケル(NiO)粉末と、平均粒子径が0.5μmの8%イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末とを用意し、これらの粉末をNiO:YSZ=60:40となる質量比率で混合して混合粉末とした。この混合粉末48〜58質量%に対し、溶媒(キシレン)24質量%,バインダ(ポリビニルブチラール;PVB)8.5質量%,気孔形成材(炭素材料)5〜15質量%および可塑剤(フタル酸エステル)4.5質量%の割合で添加し、混合することで、スラリー状の支持体用組成物を調製した。次いで、この支持体用組成物をキャリアシート上にドクターブレード法により層状に塗布し、乾燥させることで、厚さ約0.5〜1.0mmの燃料極支持体用グリーンシートを形成した。
【0073】
(燃料極用グリーンシートの作製)
表1に示す通り、電子伝導性材料として、平均粒子径が0.2〜2.0μmの7通りの酸化ニッケル(NiO)粉末を用意した。イオン伝導性材料として、平均粒子径が0.1〜1.5μmの6通りの8%イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末を用意した。
そして、NiO粉末48質量%に対し、YSZ粉末32質量%、溶媒(α−テルピネオール;TE)18質量%,バインダ(エチルセルロース;EC)2質量%の割合で添加して混合することで、スラリー状の燃料極形成用組成物を調製した。なお、NiO粉末とYSZ粉末とは、下記表1に示した平均粒子径のものを組み合わせることで、9通りの燃料極形成用組成物を用意した。次いで、この燃料極形成用組成物を上記燃料極支持体用グリーンシート上にスクリーン印刷法により供給(印刷)し、乾燥させて、厚みが約10μmの燃料極用グリーンシートを形成した。
【0074】
(固体電解質用グリーンシートの作製)
次に、平均粒子径0.5μmの8YSZ粉末と、バインダ(EC)と、溶媒(TE)とを、65:4:31の質量比率で混練することにより、スラリー状の固体電解質形成用組成物を調製した。これを上記燃料極支持体用グリーンシートの上にスクリーン印刷法によって供給(印刷)し、厚み約10μmの固体電解質層用グリーンシートを形成した。
【0075】
(反応防止層用グリーンシートの作製)
平均粒子径0.5μmの10%ガドリニウムドープセリア(GDC)粉末と、バインダ(EC)と、溶媒(TE)とを、65:4:31の質量比率で混練することにより、スラリー状の反応防止層形成用組成物を調製した。これを上記固体電解質層用グリーンシートの上にスクリーン印刷法によって供給(印刷)し、厚み約5μmの反応防止層用グリーンシートを形成した。
【0076】
これにより、燃料極支持体用グリーンシート−燃料極用グリーンシート−固体電解質用グリーンシート−反応防止層用グリーンシートが一体的に積層形成されている、SOFCのハーフセルグリーンシートを得た。そしてこのハーフセルグリーンシートを、1350℃,1400℃又は1450℃のいずれかの温度で共焼成することで、燃料極支持体−燃料極層−固体電解質層−反応防止層が一体的に積層形成されたSOFCのハーフセル(27通り)を得た。
【0077】
(SOFCの作製)
また、空気極材料として、平均粒子径1μmのLSCF粉末(La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3の粉末)を用意した。LSCF粉末と、バインダ(EC)と、溶媒(TE)とを、80:3:17の質量比で混練することにより、スラリー状の空気極形成用組成物を得た。これを上記で用意したハーフセルの反応防止層の上にスクリーン印刷法によって円形に供給することで、空気極用グリーンシートを形成した。次いで、これを1100℃で焼成して空気極を形成し、評価用のSOFCを得た。
【0078】
[気孔率]
上記で用意した9通りの燃料極形成用組成物をキャリアシート上に厚みが1mmとなるようドクターブレード法で成形し、1350℃,1400℃又は1450℃のいずれかの温度でそれぞれ焼成して、27通りの気孔率測定用の燃料極サンプルを用意した。そしてこのサンプルについて、JIS R1655:2003に準じて水銀圧入法により気孔率を測定した。気孔率の測定には、マイクロメリティックス社製のAutoPore IV 9500を用いた。気孔率の測定結果は、表1の「気孔率」の欄に示した。
【0079】
[導電率]
気孔率測定に使用したのと同じ燃料極サンプルについて、700℃の雰囲気における導電率を、JIS R1650−2:2002に準じて交流4端子法により測定した。導電率の測定結果は、表1の「導電率」の欄に示した。
【0080】
[交換電流密度]
8YSZからなる厚み1mmのペレットを用意した。このペレットの一方の表面に、上記で用意した9通りの燃料極形成用組成物を厚み約20μmとなるようにスクリーン印刷し、1350℃,1400℃又は1450℃のいずれかの温度でそれぞれ焼成することで27通りの燃料極を形成した。次いで、ペレットの他方の表面に、Ptペーストを厚み約20μmとなるようにスクリーン印刷し、1000℃で焼成することで、Pt電極を形成した。このように用意したハーフセルサンプルを700℃の環境下におき、ハーフセルサンプルの燃料極側には50ml/minの流量で水素ガスを流し、Pt電極側には100ml/minの流量で空気を流した時の、交換電流密度を測定した。具体的には、燃料極を作用極、Pt電極を参照極として、作用極の電圧を掃引範囲−200mV〜200mV、掃引速度1mV/sの条件で掃引しながら電流値測定を行った。その結果を、x軸を電圧,y軸を電流密度としてプロットし、50mV〜200mVの範囲の接線とy軸との交点を、交換電流密度とした。得られた交換電流密度は、表1の「交換電流密度」の欄に示した。
【0081】
[三相界面数]
上記で用意した評価用のSOFCの燃料極の断面を切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)にて観察することで、所定面積当たりの三相界面の数を測定した。具体的には、燃料極断面のFE−SEM像(5000倍)をピクセルデータとして取得し、画像を三値化することで、画像領域をYSZ部分,Ni部分,空孔(pore)部分とに区分けした。そしてYSZ部分,Ni部分および空孔(pore)部分が接する点を三相界面とし、その数を測定した。
図2に、燃料極の断面SEM像を3値化した図を例示した。
図2中の丸で囲んだ部位が、ここで計測する三相界面の一例である。このSEM画像の解析には、画像解析ソフト(日本ローパー社製、Image-Pro Plus)を用いた。得られた三相界面の数を、表1の「三相界面数」の欄に示した。
【0082】
[発電性能]
上記で用意した評価用のSOFCを下記の条件で運転し、出力密度を測定した。測定された出力密度のうち、最大出力密度を発電性能として、表1の「発電性能」の欄に示した。
燃料極供給ガス:水素ガス(50ml/min)
空気極供給ガス:空気(100ml/min)
運転温度:700℃
【0083】
[相対強度]
上記で用意したハーフセルと、燃料極層の無いハーフセルとを用意した。燃料極層の無いハーフセルは、上記のハーフセルの作製において、燃料極支持体用グリーンシート上に燃料極形成用組成物を供給せずに、固体電解質用グリーンシートおよび反応防止層用グリーンシートを形成し、焼成して得られたものである。
これらハーフセルと燃料極層無しハーフセルとについて、3点曲げ強度をJIS R1601:2008に準じて測定した。そして、次式:相対強度=(ハーフセルの三点曲げ強度)÷(燃料極層無しハーフセルの三点曲げ強度);に基づき、三点曲げ強度を算出した。その結果を、表1の「相対強度」の欄に示した。
なお、表1の相対強度の横に記された記号は、相対強度が1.2以上の場合を○,1.2未満の場合を×として示した。
【0084】
[収縮率差]
上記で用意した9通りの燃料極形成用組成物と固体電解質用組成物とをそれぞれ乾燥させ、3mm×3mm×20mmのサイズに成形することで、収縮率測定用の燃料極試験片と固体電解質試験片とを作製した。そして、熱機械分析装置(株式会社リガク製、TMA8310)を用い、室温から1300℃の温度範囲において、これら試験片の収縮率を測定した。そして、次式:収縮率差=|(燃料極試験片の収縮率)−(固体電解質試験片の収縮率))|;として、収縮率差を算出した。なお、試験片の乾燥は、120℃にて恒量となるまで加熱するものとした。得られた収縮率差を、表1の「収縮率差」の欄に示した。
[パラメータP]
上記で測定した気孔率と収縮率差とから、次式:P=(気孔率)÷(収縮率差);に基づきパラメータPを算出した。その結果を、表1の「P」の欄に示した。
【0086】
(評価)
表1に示されるように、燃料極材料として平均粒子径の小さな材料を用いると、平均粒子径の大きな材料を用いた場合と比較して、導電率,交換電流密度,三相界面数および発電性能というSOFCの主要な特性が、概ね向上される傾向にあることがわかった。
そこで上記結果をより詳細に検討すると、同じ燃料極用グリーンシートであっても、焼成温度が異なることで、得られる燃料極の気孔率が異なってくることがわかった。すなわち、より高温で焼成することで緻密化が進行し、気孔率は低くなることがわかった。また、緻密化が進行するほど導電率は高くなり、交換電流密度および三相界面数は減少する傾向があることがわかった。
【0087】
しかしながら、導電率および三相界面数と交換電流密度との間には背反があることから、SOFCの発電性能については、使用した燃料極材料の平均粒子径や焼成温度との相関が見られない場合があった。すなわち、使用する燃料極材料のイオン導電性材料および電子伝導性材料の平均粒子径の組み合わせや、焼成温度等が複雑に関係し、これらから単純に発電性能を予測することは困難であることがわかった。また、燃料極と固体電解質との収縮率差が小さければ小さい程、発電性能やセル強度を良好にし得ることが予想される。しかしながら、表1の結果からは、この点についても明瞭な関係性が見いだせなかった。
【0088】
例えば、
図3に、収縮率差と相対強度との関係を示した。燃料極と固体電解質との収縮率差が小さいほど、SOFC全体の強度が高くなることが予想されるが、例えば収縮率差が2%以下の範囲においては両者に相関は見られないと言える。
また例えば
図4に、交換電流密度と発電性能との関係を示した。交換電流密度が高い程、外部負荷で取り出し可能な電気エネルギー量が多くなり、SOFCの発電性能が高くなることが予想される。しかしながら例えば交換電流密度が100μA/cm
2以下の範囲や300μA/cm
2以上の範囲において両者に良い相関は見られないと言える。
【0089】
そこで、
図5に、パラメータPと相対強度との関係を示した。また、
図6に、パラメータPと発電性能との関係を示した。この
図6からは、例えば、パラメータPが7.3を超えると、確実に0.4W/cm
2以上の良好な発電性能が得られることが確認できた。また
図5からは、例えば、パラメータPが7.3を超えると、確実に相対強度が1.2以上と良好な値を示すことが確認できた。パラメータPは例えば8以上であるとより好ましいことがわかった。
また、
図5および
図6より、パラメータPが25程度まで発電性能および相対強度が極めて高い値をとり得ることがわかる。このような発電性能と相対強度との両立は、
図5および
図6では、パラメータPが概ね35程度まで確認できるものの、発明者の検討によると、このパラメータPに上限は特に見られず、概ね50程度の範囲まで両立可能なことが確認できている。
【0090】
以上の結果から、ここに開示されるSOFCは、SOFCの発電性能や耐久性がより精密に評価された高品質なものであり得る。また、ここに開示されるSOFCの製造方法によると、同一の燃料極材料を用いた場合であっても、発電性能や耐久性が優れたSOFCを製造することが可能とされる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記に例示した実施形態における電子伝導性材料、イオン導電性材料、固体電解質構成材料および空気極構成材料等は一例に過ぎず、上記以外の材料を使用できることは言うまでもない。