(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る神経刺激システム(以下、「システム」とも略称する。)の一実施形態を、
図1から
図19を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態の神経刺激システム1は、弾性を有する材料で形成された固定部10と、固定部10に設けられた一対の電極部20と、電気的刺激を発生するパルスジェネレータ(刺激発生装置)200と一対の電極部20とを電気的に接続するリード部30と、筒状に形成されてリード部30が進退可能に挿通された操作シース55及び抜去シース70とを備えている。
なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率を調整している。
また、リード部30に対する固定部10側を先端側、固定部10に対するリード部30側を基端側とそれぞれ称する。
【0015】
固定部10は、線状に形成されて互いの先端部が接続されるとともに互いの基端部が接続された複数の付勢部11を有している。各付勢部11は、不図示のワイヤと、このワイヤの周囲を被覆する絶縁性の被膜12を備えている。各ワイヤは、生体適合性を有する材料からなる形状記憶合金や超弾性ワイヤ等で形成されている。ワイヤを形成する材料には、ワイヤに外力を加えて変形させた後に外力を除去すると、ワイヤが元の形状に戻るための復元力を発揮するものが用いられる。ワイヤの外径は例えば0.2〜0.5mm程度に設定され、ワイヤの長手方向に直交する断面形状は円形、楕円形、四角形等のものが用いられる。
ワイヤの周囲に被膜12を付けることで、ワイヤの外周面の滑らかさを向上させ、ワイヤに血栓低減効果や絶縁性を付与することができる。被膜12には、例えばポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂、フッ素樹脂等を用いることができる。被膜12の厚さは、例えば50〜500μm(マイクロメートル)である。なお、ワイヤに被膜12を設けなくてもよい。
【0016】
各付勢部11は、リード部30の軸線C周りに互いに離間するとともに、軸線C周りに等角度ごとに(付勢部11の数が例えば4本であれば90°ごとに)配置されている。各付勢部11の軸線C方向の中間部は、軸線Cから離間する方向に向かって凸となるように湾曲し、複数の付勢部11で構成される固定部10は、全体として略球状となる。
固定部10の重力以外の外力を加えない自然状態での外径は、上大静脈の内径よりも大きなφ20〜40mm程度である。
【0017】
このように構成された固定部10は、
図2に示すように、上大静脈P1等の血管内に挿入されると、上大静脈P1の血管壁P2により付勢部11が仮想線L
1で示すように弾性的に変形することで軸線Cに近づくように弾性的に圧縮(変形)される。この血管壁P2の圧縮力に対する反力として、固定部10は血管壁P2に対して弾性変形により生じる弾性力、すなわち上大静脈P1の内面を径方向外側に付勢する押圧力を発生させる。このため、固定部10は上大静脈P1の内面を付勢する。
この押圧力によって生じる血管壁P2と固定部10の付勢部11との間の摩擦力により、固定部10は上大静脈P1内の所望の位置で固定される。なお、固定部10は、仮想線L
1で示すように軸線Cに近づくように圧縮されると軸線C方向に伸びる。
各付勢部11を軸線C周りに等角度ごとに配置すると、固定部10の良好な操作性が得られる。しかしながら、例えば特定の生体構造によりフィットさせる等の理由で、各付勢部11を軸線C周りに等角度ごとに配置しなくてもよい。
【0018】
複数の付勢部11のうちの1つには、前述の一対の電極部20が設けられている。なお、前述の一対の電極部20が互いに異なる付勢部11に設けられていてもよい。
各電極部20は、ワイヤと被膜12との間に配置される。電極部20は、白金や白金イリジウム合金等で形成される。
電極部20とワイヤとの間には図示しない絶縁性の仕切り被膜が存在し、ワイヤと電極部20とが電気的に絶縁されている。電極部20は、例えば仕切り被膜上に環状に形成され、電極部20を覆う被膜12の一部を除去して露出させることで形成される。すなわち、後述するように血管内に固定部10を留置したときに、電極部20は血管内で露出している。
この際、付勢部11における軸線Cとは反対側に電極部20が露出するように形成する等、電極部20を設ける位置に方向性を持たせることも可能である。電極部20の露出面積は、例えば1〜5mm
2程度である。一対の電極部20は、付勢部11の長手方向に沿って例えば3〜20mm程度の間隔を空けて配置される。
【0019】
各電極部20には、
図3に示す電気配線14の先端部が電気的に接続されている。電気配線14としては、耐屈曲性を有するニッケルコバルトクロム合金(35NLT25%Ag材、35NLT28%Ag材、又は35NLT41%Ag材)からなる撚り線を、電気的絶縁材(例えば厚さ20μmのETFE(四フッ化エチレン−エチレン共重合体樹脂)やPTFE(四フッ化エチレン樹脂)等)で被覆したものを好適に用いることができる。
電気配線14は、後述するようにリード部30の管路31内を通り基端側に延びている。
【0020】
リード部30は、生体適合性を有する材料(例えば、ポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂)等で形成され、
図3に示すように、管路31及び収容部32が形成されている。管路31はリード部30を軸線C方向に貫通している。管路31内には、導体を有する電気配線14が挿通されている。
また、管路31内にはテンションメンバとして例えばステンレスワイヤが挿通されていてもよい。このように構成することによりリード部30の引張強度を高めることができる。
収容部32は、先端部が塞がれていて、公知のスタイレットDが挿通可能である。スタイレットDとの摺動性を向上させるために、収容部32の内面に、例えばETFE樹脂やPTFE樹脂等の膜を形成してもよい。
収容部32にスタイレットDを挿通させることで、リード部30の剛性を高めることができる。
【0021】
図4に示すように、リード部30は、固定部10に取付けられた先端部33と、先端部33よりも基端側に設けられた軟性領域34と、軟性領域34よりも基端側に設けられた硬性領域35とを有している。
先端部33、硬性領域35と軟性領域34とでは硬さが異なり、軟性領域34よりも先端部33、硬性領域35の方が硬い。言い換えれば、軟性領域34は充分に柔らかい第1の屈曲性を有し、先端部33及び硬性領域35はプッシュビリティを有する硬度であって第1の屈曲性よりも硬い第2の屈曲性を有している。
先端部33、硬性領域35は、上大静脈P1等の血管に対して固定部10を、前述の摩擦力に抗して移動させる大きさの弾性力を伝達させる硬さである。なお、ここで言う血管に対する固定部10の移動とは、血管の長手方向に沿う移動と、血管の長手方向周りの移動(回転)の両方を意味する。
一方で、軟性領域34は充分に柔らかく、自身が変形しても血管に対して固定部10を移動させない大きさの弾性力しか伝達しない領域である。
【0022】
具体的には、JIS K7215に従い、タイプDデュロメータを用いて測定したショア硬さ(以下、「ショア硬さ(D)」と略して示す)は、先端部33及び硬性領域35では押込み操作(プッシュビリティ)及び回転操作に対する十分な硬さを有する50以上であり、55以上70以下であることがより好ましい。
軟性領域34のショア硬さ(D)は、20以上40以下であり、十分に軟らかいものである。軟性領域34のショア硬さ(D)は30以下であることがより好ましい。
先端部33及び硬性領域35と軟性領域34とは、例えばポリウレタン樹脂の種類を変えることで硬さを異ならせている。
先端部33と軟性領域34、軟性領域34と硬性領域35のそれぞれの接合は、公知の接着剤による接着や、熱溶着、超音波溶着等を適宜選択して用いることができる。
リード部30の寸法は、例えば外径は0.8〜2mm程度であり、長さは500〜1000mm程度である。
【0023】
図1及び3に示すように、先端部33には、外周面から径方向外側に突出したリード側突部38が形成されている。リード側突部38は、
図3に示す軸線C方向に見たときに、円弧状に形成されている。この例では、軸線C周りに4つのリード側突部38が等角度ごとに、互いに離間するように配置されている。リード側突部38は、先端部33と同一の材料で、先端部33と一体に形成されている。なお、先端部33及びリード側突部38を、チタンやステンレス鋼等の生体適合性を有する金属材料で形成してもよい。
【0024】
図1に示すように、4つのリード側突部38、及び、複数の付勢部11の基端部11aで、係合部39を構成する。すなわち、本実施形態では、係合部39は、リード部30の先端部33及び固定部10の両方に設けられている。
【0025】
軟性領域34の長さ(軸線C方向の長さ)は、体動等による外力を吸収するのに十分な長さである。例えば神経刺激システム1を内頚静脈から埋植した場合は50〜200mm程度、鎖骨下静脈から埋植した場合は50〜250mm程度というように、挿入位置によって適した長さは変化する。
なお、軟性領域34は100〜150mm程度の長さにおいて、十分に外力を吸収できることを確認している。
【0026】
図4及び5に示すように、本実施形態では軟性領域34の外周面に抜去目盛り(抜去指標部)41及び抜去補助目盛り(抜去補助指標部)42、43が設けられている。軟性領域34に目盛り41、42、43を形成する方法は特に限定されず、公知のインクで印刷する方法や、軟性領域34をレーザー光で焼く方法等を適宜選択して用いることができる。互いに色の異なる管状の部材を溶着等により接合し、両部材が接続された色が変わる部分を目盛りとしてもよい。
また、軟性領域34の外周面に部品を溶着すること等により外周面に凸形状を設け、この凸形状を目盛りとしてもよい。軟性領域34の外周面の一部を収縮させることで凹形状を形成し、この凹形状を目盛りとしてもよい。
【0027】
リード部30の先端から抜去目盛り41までの長さL
3は後述する。軟性領域34において、抜去目盛り41よりも基端側に抜去補助目盛り42が設けられ、抜去補助目盛り42よりも基端側に抜去補助目盛り43が設けられている。
目盛り41、42、43の軸線C方向の長さは互いに異なる。具体的には、抜去目盛り41よりも抜去補助目盛り42の方が短く、抜去補助目盛り42よりも抜去補助目盛り43の方が短い。すなわち、目盛り41、42、43は基端側のものほど軸線C方向の長さが短くなっている。
抜去目盛り41と抜去補助目盛り42との距離、抜去補助目盛り42と抜去補助目盛り43との距離は、例えば5mmである。
【0028】
図4及び6に示すように、硬性領域35の外周面には、たるみ目盛りセット45と、係合目盛り(係合指標部)46とが設けられている。
本実施形態では、たるみ目盛りセット45は、主目盛り(たるみ指標部)45aと、主目盛り45aを軸線C方向に挟むように形成された複数の補助目盛り(たるみ補助指標部)45bとで構成されている。この例では、主目盛り45a及び複数の補助目盛り45bを軸線C方向に挟むように、一対の第二補助目盛り(たるみ補助指標部)45cが設けられている。
【0029】
リード部30の先端から主目盛り45aの軸線C方向の中心までの長さL
4は、例えば300mmである。軸線C方向の長さを主目盛り45aよりも補助目盛り45bの方を短くすることで、主目盛り45aと補助目盛り45bとを容易に見分けることができる。第二補助目盛り45cの軸線C方向の長さは、主目盛り45aの軸線C方向の長さにほぼ等しい。
複数の補助目盛り45b、45cは、主目盛り45aの先端側、基端側に、例えばそれぞれ10mmピッチで50mm程度の長さにわたり形成される。
【0030】
図4に示すように、係合目盛り46はたるみ目盛りセット45よりも基端側に設けられている。リード部30の先端から係合目盛り46までの長さL
5は後述する。
たるみ目盛りセット45及び係合目盛り46は、目盛り41、42、43と同様に形成することができる。
【0031】
硬性領域35の基端部にはパルスジェネレータ200と接続するためのコネクタ48が取付けられている。コネクタ48には、例えば公知のIS−1コネクタや、その他の防水型コネクタ等を用いることができる。リード部30の管路31には、
図3に示すように前述の電気配線14が挿通され、この電気配線14の基端部がコネクタ48に接続されている。
硬性領域35がコネクタ48を備えず、硬性領域35の基端部がパルスジェネレータ200と固定されていてもよい。
【0032】
図1及び7に示すように、操作シース55は、シース本体56と、シース本体56の基端部に固定されたハブ57とを有している。
シース本体56は、例えばポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂等の生体適合性を有する材料で形成される。
図1及び3に示すように、シース本体56の先端部の内周面には、係合部39のリード側突部38に係合可能な被係合部59が設けられている。被係合部59は、シース本体56の内周面から径方向内側に突出した4つのシース側突部60を有している。
シース側突部60は、
図3に示す軸線C方向に見たときに、台形状に形成されている。4つのシース側突部60は、軸線C周りに等角度ごとに、互いに離間するように配置されている。
【0033】
被係合部59は、シース本体56と一体に形成される、すなわちシース本体56を変形させて構成してもよい。予めシース本体56とは別の部品として構成した被係合部59を、シース本体56に取付けてもよい。
シース本体56及びシース側突部60のショア硬さ(D)は、リード部30の硬性領域35のショア硬さ(D)と等しい(ショア硬さ(D)が55以上70以下程度)。
シース本体56を形成する樹脂の内部に、ステンレスやタングステンを用いた金属ブレードを封入し、シース本体56の剛性や耐キンク性を向上させてもよい。また、シース本体56の表面に任意の被膜を施すことで、抗血栓性や摺動性を向上させてもよい。
【0034】
軸線C周りに隣合うリード側突部38の間にシース側突部60を配置したときに、リード側突部38に対してシース側突部60が軸線C周りに係合する。またこのときに、付勢部11の基端部11aにシース側突部60の先端面が当接することで、固定部10とシース側突部60とが軸線C方向に係合する。
【0035】
図7に示すように、ハブ57は、筒状に形成され、ハブ57の外周面の先端部には、外径が縮径されることで段部57aが形成されている。シース本体56の基端部に、ハブ57の段部57aが取付けられている。
ハブ57の内周面に形成された溝部57b内には、Oリング58が配置されている。ハブ57には、筒孔に径方向から連通するとともに基端側に開口した側孔57cが形成されている。
ハブ57は、ポリカーボネート、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)等の生体適合性を有する材料で形成される。
【0036】
Oリング58内にはリード部30が挿通可能である。Oリング58に対してリード部30は摺動しつつ軸線C方向に進退可能であり、Oリング58とリード部30との間は、水密に封止される。これにより、血液の逆流を防ぐ。
側孔57cには、チューブ63の一端部が接続されており、チューブ63の他端部には、ルアーロックコネクタ等の一般的なコネクタ64(
図1参照)が設けられている。コネクタ64に取付けられた図示しないシリンジポンプ等から、ヘパリン加生理食塩水等の薬液をチューブ63を介して操作シース55内に供給することができる。
なお、チューブ63は必須ではなく、市販の投薬用チューブ等が接続可能なコネクタ等を側孔57cに直接設けてもよい。
【0037】
操作シース55の全体としての寸法は、例えば外径は2.0〜2.9mm程度、内径は1.0〜2.5mm程度であり、長さは300〜400mm程度である。
操作シース55は後述するようにリード部30から除去できるように、ピールアウェイ可能な樹脂からなり、手で引き裂いて除去できるほうがより好ましい。ピールアウェイ可能な樹脂には、例えば樹脂の配向を管理し引き裂けるようにしたものや、シースの外周にカットラインとなる溝を設けたもの等を用いることができる。
なお、操作シース55を除去する際に、手で引き裂かずにハサミ等の術具を用いて除去してもよい。
【0038】
操作シース55に対してリード部30を基端側に移動させる(引き戻す、後退させる)ことで、固定部10及びリード部30の係合部39に操作シース55の被係合部59が係合する。このとき、
図7に示すように、操作シース55の基端部から係合目盛り46の一部が基端側に突出する。したがって、リード部30の先端から係合目盛り46までの長さL
5は、例えば300〜410mm程度である。
なお、係合部39に被係合部59が係合したときに、操作シース55の基端部から係合目盛り46の全部が基端側に突出するようにしてもよい。
【0039】
抜去シース70は、
図1に示すように、操作シース55よりも基端側に配置されている。
抜去シース70の構成は、操作シース55と概ね同様である。
図1及び8に示すように、抜去シース70は筒状のシース本体71と、シース本体71の基端部に固定されたハブ72とを備える。シース本体71、ハブ72は、それぞれ操作シース55のシース本体56、ハブ57と同様の材料で形成することができる。
【0040】
後述するように、神経刺激システム1の抜去時に固定部10が抜去シース70の内部に収納されるため、シース本体71の内径は、リード部30の内径と同等以上とされるのが好ましい。
また、抜去シース70は、神経刺激システム1の留置時に少なくとも一部が体外に出た状態で保持されるため、シース本体71の長さは100mm以下とされるのが好ましく、固定部10を完全に収納させる観点からは、50〜100mm程度がより好ましい。シース本体71の剛性は、固定部10の収納時にシース本体71が軸線C方向に圧縮変形せず、固定部10を良好に収納できる程度(例えばショア硬さ(D)で55以上70以下程度)に設定される。
【0041】
シース本体71を形成する樹脂の内部に、ステンレスやタングステンを用いた金属ブレードを封入し、シース本体71の剛性や耐キンク性を向上させてもよい。また、シース本体71の表面に任意の被膜を施すことで、抗血栓性や摺動性を向上させてもよい。
シース本体71の寸法は、例えば外径は2.5〜2.9mm程度、内径は2.0〜2.5mm程度であり、長さは50〜100mm程度である。
【0042】
ハブ72は、筒状に形成され、ハブ72の外周面の先端部には、外径が縮径されることで段部72aが形成されている。シース本体71の基端部に、ハブ72の段部72aが取付けられている。
ハブ72の内周面の基端部は、内径が大きくなることで拡径部72bが形成されている。拡径部72bの先端部には、Oリング73が配置されている。拡径部72bの内周面におけるOリング73よりも基端側には、雌ネジ部72cが形成されている。ハブ72の外周面の基端部には、周方向に糸掛け溝72dが形成されている。
ハブ72には、筒孔に径方向から連通する側孔72eが形成されている。
【0043】
ハブ72には、平板状に形成されて糸掛け穴74aを有する羽部74が設けられている。
羽部74は、患者の皮膚に通した糸を糸掛け穴74aに通すことで、抜去シース70の体表面への固定に用いる。皮膚に通した糸は、必要に応じてハブ72の糸掛け溝72dに巻きつけてもよい。平板状の羽部74をテープ等で患者の皮膚に固定することで、電極部20による治療期間に抜去シース70が軸線C周りに回転することが防止される。
【0044】
ハブ72の雌ネジ部72cには、締め込みノブ76の外周面に形成された雄ネジ部76aが螺合している。この締め込みノブ76、及び前述のOリング73内には、リード部30が挿通可能である。
雌ネジ部72cに対して雄ネジ部76aを先端側に移動させて(締め込んで)いくと、Oリング73が軸線C方向に圧縮されることでOリング73の内径が小さくなる。締め込みノブ76を締め込む長さを調節することで、抜去シース70に対してリード部30を摺動しつつ進退可能な摺動可能状態にしたり、抜去シース70に対してリード部30が固定された固定状態にしたりすることができる。
【0045】
ハブ72の側孔72eには、チューブ77の一端部が接続されている。
図1に示すように、チューブ77の他端部には、前述のコネクタ64と同様のコネクタ78が設けられている。
コネクタ78に取付けられた図示しないシリンジポンプ等から、ヘパリン加生理食塩水等の薬液をチューブ77を介して抜去シース70内に供給することができる。
なお、チューブ77は必須ではなく、市販の投薬用チューブ等が接続可能なコネクタ等を側孔72eに直接設けてもよい。
【0046】
後述するように患者に形成した開口から血管内に固定部10を挿入し、リード部30を押込んで(先端側に移動させて)軟性領域34をたるませる。血管内に挿入された軟性領域34がたるんでいるときに抜去シース70の基端部にたるみ目盛りセット45の主目盛り45aの軸線C方向の中心が一致する。
なお、抜去シース70の基端部に一致させるのを主目盛り45aの軸線C方向の中心としたが、主目盛り45aの軸線C方向の先端や基端としてもよい。
【0047】
抜去シース70のシース本体71の内部には、
図8に示すように各付勢部11を弾性変形させた状態の固定部10が収納可能である。付勢部11は、シース本体71の内周面との間に摩擦力を生じながらシース本体71に対して基端側に移動する。固定部10は、ハブ72の先端面に付勢部11の基端部11aが接触するまで基端側に移動する。
ハブ72の先端面に付勢部11の基端部11aが接触したときに、抜去シース70の内部に固定部10が収納されたことになる。抜去シース70に対してリード部30を引き戻して固定部10を収納するが、このときに、
図5に示すように抜去シース70の基端部から抜去目盛り41の全体が基端側に突出する。ハブ72の先端部から基端部までの長さが例えば40mmであった場合、リード部30の先端から抜去目盛り41までの長さL
3は、45mm程度である。
なお、抜去シース70から抜去目盛り41が基端側に突出したときには、抜去シース70の基端部から抜去補助目盛り42、43も基端側に突出している。
【0048】
パルスジェネレータ200は、不図示の電気刺激供給部を有しており、定電流方式または定電圧方式による電気的刺激を発生させることができる。この例では、電気的刺激として、
図9に示すように、定電流方式であって位相が切り替わるバイフェージック波形群を、所定の間隔を有して発生させる。具体的な波形としては、例えば周波数10〜20Hz(ヘルツ)、パルス幅50〜400ms(ミリ秒)で、プラスの最大電流0.25〜15mA(アンペア)からマイナスの最大電流−0.25〜−15mAの間で電流が変化するものを挙げることができる。
パルスジェネレータ200は、このようなバイフェージック波形を1分間あたり任意の秒数の間印加する。例えば3〜10秒間、集中的に印加したい場合には60秒間等である。
【0049】
前述のようにパルスジェネレータ200は、コネクタ48を介してリード部30と接続される。コネクタ48は、パルスジェネレータ200に対して着脱可能であってもよいし、パルスジェネレータ200に固定されていてもよい。
パルスジェネレータ200とリード部30とが接続されると、電気刺激供給部が発生した電気的刺激は、電気配線14を介して、固定部10に設けられた一対の電極部20間に印加される。その際に、対となる電極部20の一方がプラス電極として作用し、他方がマイナス電極として作用する。
【0050】
次に、以上のように構成された神経刺激システム1の固定部10を上大静脈P1内に留置する治療(手技)について説明する。
図10は、本神経刺激システム1の留置方法を示すフローチャートである。なお、本神経刺激システム1は、患者の体内にシステム全体を植込む長期神経刺激システムとは異なり、例えば数日程度の短期神経刺激を行うことに適している。
【0051】
まず、術者は、パルスジェネレータ200にリード部30のコネクタ48を接続する。
係合工程(
図10のステップS1)において、患者の体外で、リード部30に対して操作シース55を先端側に移動させ、
図7に示すように操作シース55の基端部から係合目盛り46の一部を基端側に突出させる。これにより、固定部10及びリード部30の係合部39と、操作シース55の被係合部59とが係合する。
操作シース55及び抜去シース70は、内部にヘパリン加生理食塩水等を満たして、空気を抜いておく。心拍数を計測するための心電計を患者に取付ける。
【0052】
図11に示すように、患者Pの頚部近傍を小切開して開口P4を形成する。この開口P4に、公知のイントロデューサ(挿入具)205を取付ける。内頚静脈(血管)P5にイントロデューサ205の先端部を挿入する。このとき、イントロデューサ205の先端部が上大静脈P1に到達するようにイントロデューサ205を設置することが望ましい。こうすることで、後述する固定部10の挿入の際に血管内の弁等を回避できるため、操作性及び安全性が向上する。
以下、内頚静脈P5を用いた説明を行うが、本手技においては、内頚静脈P5ではなく外頚静脈を用いることもある。
【0053】
次に、固定部挿入工程(ステップS3)において、イントロデューサ205を通して血管内に固定部10を挿入する。このとき、固定部10をイントロデューサに挿入可能な外径まで弾性的に変形(縮径)させてから挿入する。挿入時には、X線透視下で神経刺激システム1の電極部20、ワイヤ、電気配線14の位置を確認する。
術者が操作シース55の基端側を把持して押込んだり軸線C周りに回転させたりすると、この作用させた力は比較的硬い操作シース55、被係合部59、係合部39、及びリード部30の先端部33を介して固定部10に伝達される。
操作シース55を押込むと、イントロデューサ205から先端側に固定部10が突出し、血管内に固定部10が導入される。血管内に固定部10を導入すると、
図2に示すように、血管壁P2に押されることで、それぞれの付勢部11が軸線C方向に弾性的に変形して固定部10全体として縮径されるとともに、軸線C方向に延びる。これにより固定部10の外径は、自然状態における外径よりも小さくなる。
【0054】
術者は、X線透視下で操作シース55を押し進め、
図11に示すように固定部10を上大静脈P1に概略設置する。
イントロデューサ205の先端部が上大静脈P1に位置するようにイントロデューサ205を設置していた場合は、イントロデューサ205から固定部10を突出させるだけで上大静脈P1に固定部10を導入できる。このときも、固定部10の外径が前述のように設定されているため、それぞれの付勢部11は上大静脈P1により軸線C側に押し付けられる。固定部10に設けられた一対の電極部20が上大静脈P1の血管壁P2に接触するように配置される。
図11に示すように、この上大静脈P1に隣接して、刺激対象となる迷走神経P6が並走している。
【0055】
次に、位置及び向き調節工程(ステップS5)において、一対の電極部20の間に電気的刺激を印加しつつ、患者Pの心拍数が低下するように上大静脈P1内における電極部20の位置及び向きを調節する。具体的には、術者はパルスジェネレータ200を操作し、電気的刺激を一対の電極部20の間に印加する。これはすなわち生体である患者Pに電気的刺激を印加することになる。
この状態で、術者は操作シース55の基端側を操作して操作シース55を押込んだり、リード部30を把持してリード部30を引き戻したりして上大静脈P1内における固定部10、すなわち電極部20の軸線C方向の位置を調節する。また、操作シース55を軸線C周りに回転させ、固定部10の周方向の向きを調節する。この位置及び向きの調節を行いながら心電計により患者Pの心拍数を計測する。電極部20が迷走神経P6に近づいて対向するように配置され、電極部20から迷走神経P6に印加される電気的刺激が大きくなったときに、患者Pの心拍数が最も低下する。
術者は、心拍数が最も低下するように、すなわち、電極部20が迷走神経P6側を向くように、固定部10、すなわち電極部20の位置及び向きを調節する。
【0056】
電極部20の位置及び向きが決まったら、神経刺激システム1の留置を行う。以下に述べる一連の留置操作の際には、電極部20の位置ずれが発生しないよう注意する。
初めに、術者はリード部30を把持した状態で操作シース55のみを引き戻して後退させ、係合部39と被係合部59との係合を解除する。このとき、リード部30を押込む操作を織り交ぜると、軟性領域34が少したるむため上大静脈P1内における電極部20の位置ずれを防ぐことができる。
【0057】
電極部20の位置がずれた場合には、固定部10及びリード部30の係合部39に操作シース55の被係合部59を係合させて、電極部20の位置及び向きの再調整を行う。
ここでは患者の体内、より詳しくは血管内で係合部39と被係合部59とを係合させるため、リード部30に設けられた係合目盛り46を目安に係合作業を行う。具体的には、操作シース55の基端部から係合目盛り46を基端側に突出させる。
この後で行う電極部20の位置及び向きを調節する操作は、前述の様である。
位置ずれがないことを確認したら、血管から操作シース55を引き抜き、ピールアウェイして操作シース55を除去する。
【0058】
次に、抜去シース挿入工程(ステップS7)において、イントロデューサ205をピールアウェイ等により除去する。
続いて、開口P4を通して血管内に抜去シース70の先端側を挿入する。具体的には、抜去シース70の締め込みノブ76を緩めて摺動可能状態にする。
図12に示すように、リード部30に対して抜去シース70を押込んで血管内に抜去シース70の先端側を挿入する。
なお、イントロデューサ205の除去と抜去シース70の挿入を同時に行うことがより好ましい。まず、イントロデューサ205の基端部に抜去シース70を挿入する。次に、イントロデューサ205のピールアウェイ等を行いながら抜去シース70をイントロデューサ205内で前進させる。このようにすることで、イントロデューサ205を完全に除去したときには抜去シース70の先端が開口P4を通して血管内に挿入された状態にできる。これにより、血管損傷のリスクや、手技中の出血量を低減することができる。
【0059】
次に、たるみ形成工程(ステップS9)において、抜去シース70に対してリード部30を先端側に移動させ、抜去シース70の基端部にたるみ目盛りセット45の主目盛り45aの中心を一致させる。
リード部30を押込んで血管内に送り込むことで、血管内に位置するリード部30に一定の余裕をもたせ、リード部30の軟性領域34をたるませる。リード部30の先端から主目盛り45aの軸線C方向の中心までの長さL
4を、例えば300mmとすることで、標準のたるみ量を作成する。
【0060】
図13に示すように血管内でリード部30の軟性領域34が蛇行するようにたるませてもよい。
図14に示すように血管内でのリード部30の軟性領域34のたるみが大きくなり、軟性領域34がループ状になるようにしてもよい。
軟性領域34をたるませる形状は、螺旋形状のように規則的な形状でもよいが、不規則な形状でもよい。外力を吸収するために、軟性領域34を例えば50mm以上たるませることが好ましい。
抜去シース70の締め込みノブ76を締め込み、固定状態にする。その後、糸かけやテーピング等により、頚部P8の皮膚にハブ72を固定する。
【0061】
なお、例えば患者Pの体格に応じて、抜去シース70の基端部に一致させるたるみ目盛りセット45の目盛りを変えてもよい。
例えば、患者Pが小柄な場合には、主目盛り45aの中心に代えて、主目盛り45aよりも先端側に設けられた補助目盛り45bや第二補助目盛り45cの中心を開口P4に一致させる。こうすることで、リード部30の血管内への挿入量が少なくなり、患者Pの体格に合わせて軟性領域34がたるむ。
このように、術者の判断により、主目盛り45a及び補助目盛り45b、45cに基づいてたるみ量を任意に調節できる。
【0062】
以上の工程で、上大静脈P1内に電極部20が設けられた固定部10が留置される。
この後、留置工程(ステップS11)において、一定の期間、一対の電極部20の間に電気的刺激を印加しつつ留置する迷走神経P6の神経刺激治療を行う。必要に応じ、抜去シース70のコネクタ78にシリンジポンプ等を接続し、例えばヘパリン加生理食塩水等の液体の投与を行うこともできる。
【0063】
本神経刺激システム1を用いて一定の期間、迷走神経P6に電気的刺激を印加し続けたら、パルスジェネレータ200を操作して電気的刺激を停止し、システム1の抜去に取り掛かる。本システム1の抜去のために、外科的な再手術は必要としない。
初めに、糸を切る等して頚部P8の皮膚とハブ72との固定を解除する。次に、抜去シース70の締め込みノブ76を緩めて摺動可能状態にする。
【0064】
次に、固定部収納工程(ステップS13)において、
図15に示すように抜去シース70に対してリード部30を基端側に引き戻し、抜去シース70の基端部から抜去目盛り41の全体を基端側に突出させる。なお、前述の糸を切る等して頚部P8の皮膚とハブ72との固定を解除する工程は、初め(たるみ形成工程S9)に行わず、この時点で行っても構わない。
具体的には、術者は抜去シース70のハブ72を把持して抜去シース70が血管から抜けないようにした状態で、リード部30を把持して引き戻す。
抜去シース70から抜去目盛り41が突出するよりも前に抜去シース70から抜去補助目盛り43、抜去補助目盛り42が基端側に順番に突出する。これにより術者は、もうすぐ抜去シース70から抜去目盛り41が突出してくることが分かる。抜去補助目盛り42、43により、抜去シース70の内部に固定部10が収納される目安を術者に伝えることができる。目盛り41、42、43は基端側に向かうほど長さが短いことで、固定部10の収納完了が近いことを術者に視覚的に伝えることができる。
【0065】
抜去シース70から抜去目盛り41の全体を基端側に突出したことで、術者は抜去シース70の内部を実際に確認することなく、抜去シース70の内部に固定部10が収納されたことが分かる。このとき、ハブ72の先端面に付勢部11の基端部11aが接触している。
【0066】
次に、引き抜き工程(ステップS15)において、抜去シース70及び固定部10を血管から引き抜く。このような手順とすることで、固定部10やリード部30を抜去する際に固定部10が開口P4の近傍の血管壁を押し広げたり、血管壁を傷つけたりすることがなく、固定部10を安全に抜去することができる。
神経刺激システム1を抜去した後で、頚部P8の皮膚に対し、縫合や圧迫等、一般的な止血処置を行い、一連の治療を終了する。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の神経刺激システム1によれば、迷走神経P6に直接接触することなく、迷走神経P6に血管壁を介して電気的刺激を印加することができるため、低侵襲で処置を行うことができる。
リード部30には抜去目盛り41が設けられている。抜去目盛り41は、抜去シース70の内部に固定部10が収納されたときに、抜去シース70の基端部から抜去目盛り41の全体が基端側に突出する位置に設けられている。したがって、抜去シース70から抜去目盛り41の全体が突出したことを術者が視認することで、術者は抜去シース70の内部を直接見ることなく抜去シース70の内部に固定部10が収納されたことが容易に分かる。
抜去目盛り41を用いることで、抜去シース70の内部に固定部10が収納されたことが定量的に分かる。
抜去シース70から抜去目盛り41の全体が基端側に突出したときには、シース本体71の奥まで固定部10が確実に収納されている。このため、抜去シース70の内部に固定部10を確実に収納するために抜去シース70の軸線C方向の長さを長くする必要が無く、抜去シース70の軸線C方向の長さを短くすることができる。
【0068】
特許文献1の神経刺激システムでは、患者の体動や、患者の体外に引き出されたリード本体に外力が加わること等により、血管に対してリード本体が押し引きされることがある。この場合、リード本体とともに、リード本体に接続された電極も押し引きされ、血管に対する電極の位置及び向きがずれてしまう。そこで、血管内においてリード本体をたるませ、リード本体の基端側が押し引きされても、リード本体の先端側に設けられた電極の位置及び向きをずれなくすることが検討されている。
しかしながら、直接見ることのできない血管の内部において、リード本体にたるみ確実に形成することは困難である。
【0069】
これに対して、本実施形態の神経刺激システム1によれば、リード部30には主目盛り45aが設けられ、この主目盛り45aは、血管内に挿入された軟性領域34がたるんでいるときに抜去シース70の基端部に一致する位置に設けられている。このため、抜去シース70の基端部に主目盛り45aが一致していることを術者が視認することで、術者は軟性領域34の形状を直接見ることなく血管内で軟性領域34を確実にたるませることができる。
たるみ目盛りセット45は、主目盛り45a、補助目盛り45b、45cという複数の目盛り45a、45b、45cで構成されている。患者Pの体格に応じて抜去シース70の基端部に一致させる目盛り45a、45b、45cを選ぶことで、患者Pの体格に応じて軟性領域34をたるませることができる。
【0070】
特許文献1の神経刺激システムでは、リード本体が比較的柔らかく、血管内にリード本体を挿入しにくい場合がある。この場合、リード本体が挿通される操作シースを備え、留置時にリード本体と操作シースとが凹凸形状等により一時的に係合するようにしてリード本体及び操作シース全体として硬くし挿入しやすくする。リードアンカーが所定の位置に留置されたらリード本体と操作シースとの係合を解除し、リード本体の位置は保持したまま操作シースを引き戻し、ピールアウェイして除去する。
しかしながら、例えば血管内にリード本体及び操作シースが挿入されているとき等には、リード本体と操作シースとが係合しているか否かが分かりにくい。
【0071】
これに対して、本実施形態の神経刺激システム1によれば、リード部30には係合目盛り46が設けられている。係合目盛り46は、係合部39と被係合部59とが係合したときに操作シース55の基端部から基端側に突出する位置に設けられている。したがって、操作シース55から係合目盛り46が突出したことを術者が視認することで、術者は係合部39と被係合部59との係合状態を直接見ることなく係合部39と被係合部59とが係合していることが容易に分かる。
係合部39と被係合部59とが係合したことを確認することができるため、神経刺激システム1が扱いやすくなり、神経刺激システム1の操作性が向上する。
【0072】
リード部30における抜去目盛り41よりも基端側に、抜去補助目盛り42、43が設けられている。したがって、抜去シース70から抜去目盛り41が突出するよりも前に、術者はもうすぐ抜去シース70から抜去目盛り41が突出してくることを認識することができる。
たるみ目盛りセット45は主目盛り45a、補助目盛り45b等複数の目盛りで構成されている。このため、患者の体格等に応じて使用する目盛りを調節することができる。
【0073】
近年、心不全の治療法の分野において、電気的刺激等により自律神経系に介入する非薬物療法が開発されている。急性心筋梗塞後の不整脈の発生や心臓リモデリングの進展による心不全の発生にも自律神経系が関与していることが知られている。
本神経刺激システムを用いて、急性心筋梗塞に対する再灌流治療後に、一定期間、迷走神経P6を電気的に刺激することにより、再灌流治療後に発生する不整脈及び心臓リモデリングを低減することができる。
【0074】
本実施形態の神経刺激システム1によれば、神経組織に電気的刺激を印加するにあたり、患者に大きな外科的な侵襲を与えずに、目的とする神経刺激を実現することができる。システム1の設置は、カテーテル手技で多用されている一般的な経静脈アプローチにより実現でき、神経に間接的に電気的刺激を印加するため、神経組織に直接触れて損傷させることなどなくシステム1を設置できる。そして、短時間でシステム1の設置を完了し、治療後には速やかにかつ安全に抜去することができる。
【0075】
なお、本実施形態の固定部10は、以下に説明するようにその構成を様々に変形させることができる。
図16に示す固定部85は、先端部33から先端側に延びる棒状の支持部材86と、支持部材86から軸線Cに対する一方側(片側)に向かって凸となるように湾曲した付勢部11が設けられている。この変形例では、一対の電極部20は支持部材86に設けられている。支持部材86は、絶縁性及び弾性を有する樹脂等で形成する。
【0076】
図17に示す固定部90は、絶縁性及び弾性を有する樹脂等で形成された、いわゆるステント状(円筒状)の付勢部材91を有している。付勢部材91の側面には、多数の孔91aが形成されている。この付勢部材91を縮径させた状態で上大静脈P1内に配置することで、上大静脈P1に固定部90を位置決めする。
【0077】
図18に示す固定部95では、支持ワイヤ96、97は自然状態では同一平面上に形成されている。支持ワイヤ96、97は、超弾性ワイヤを折り曲げることで形成することができる。支持ワイヤ96、97を畳んで縮径させた状態で血管内に導入し、上大静脈P1内で支持ワイヤ96、97を広げて血管壁P2を付勢することで、上大静脈P1に固定部95を位置決めする。
【0078】
図19に示す固定部100では、本実施形態の固定部10の各構成に加えて、各付勢部11の先端側に、先端側に向かって突出する針部101を設けるとともに、各付勢部11の基端側に、基端側に向かって突出する針部102を設けている。このように構成された固定部100では、血管壁P2を針部101、102で穿刺することで、上大静脈P1に固定部100を位置決めすることができる。
【0079】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、神経刺激システム1は一対の電極部20を備えるとしたが、神経刺激システムが3つ以上の電極部20を備えるとしてもよい。
【0080】
リード部30に複数の補助目盛り45b及び複数の第二補助目盛り45cが設けられているとした。しかし、補助目盛り45b及び第二補助目盛り45cは、主目盛り45aよりも先端側又は基端側に少なくとも1つ備えられればよい。
神経刺激システムは操作シース55を備えなくてもよい。この場合、リード部30は先端部33及び軟性領域34を備えず、比較的硬い硬性領域35で構成される。リード部30にたるみ目盛りセット45、係合目盛り46は設けられない。
係合部39はリード部30の先端部33及び固定部10の両方に設けられているとした。しかし、係合部はリード部30の先端部33及び固定部10の少なくとも一方に設けられていればよい。例えば、リード部30の先端部33にシース側突部60の先端面が当接する受け部を設けることで、係合部をリード部30の先端部33に設けることができる。
【0081】
前記実施形態では、抜去目盛り41よりも抜去補助目盛り42、43の方が軸線C方向の長さが短いとしたが、抜去目盛り41よりも抜去補助目盛り42、43の方が長くてもよい。また、目盛り41、42、43の軸線C方向の長さが互いに等しくても、目盛り41、42、43の色が互いに異なっている等すればよい。
リード部30に抜去補助目盛り42、43は設けられなくてもよい。この場合、固定部10の抜去に関してリード部30に設けられた目盛りは抜去目盛り41だけになる。この場合には、抜去シース70から抜去目盛り41の一部(基端部)が基端側に突出したときに抜去シース70の内部に固定部10が収納されたとして、抜去目盛り41を設ける位置を設定することができる。
【0082】
神経刺激システム1が上大静脈P1に留置されて迷走神経P6に電気的刺激を印加するとして説明した。しかし、神経刺激システムはこれに限定されるものではなく、神経刺激システムに用いた電極リード構造は、例えば心臓ペーシングリード等にも使用できる。
【0083】
さらに、本発明は、以下の技術思想を含むものである。
(付記項1)
弾性を有する材料で形成された固定部と、前記固定部に設けられた少なくとも一対の電極部と、電気的刺激を発生する刺激発生装置と前記少なくとも一対の電極部とを電気的に接続するリード部と、筒状に形成され前記リード部が進退可能に挿通された抜去シースと、を備え、前記リード部には、前記抜去シース内に前記固定部が収納されたときに前記抜去シースの基端部から基端側に突出する抜去指標部が設けられた神経刺激システムを血管内に留置するための神経刺激システムの留置方法であって、
患者に取付けた挿入具を通して前記血管内に前記固定部を挿入する工程と、
前記少なくとも一対の電極部の間に前記電気的刺激を印加しつつ、前記患者の心拍数が低下するように前記血管内における前記少なくとも一対の電極部の位置及び向きを調節する工程と、
前記血管内に前記抜去シースの先端側を挿入する工程と、
前記少なくとも一対の電極部の間に前記電気的刺激を印加しつつ留置する工程と、
前記抜去シースに対して前記リード部を基端側に引き戻し、前記抜去シースの基端部から前記抜去指標部を基端側に突出させる工程と、
前記抜去シース及び前記固定部を前記血管から引き抜く工程と、
を備える神経刺激システムの留置方法。
【0084】
(付記項2)
前記リード部には、自身が変形しても前記血管に対して前記固定部を移動させない大きさの弾性力しか伝達しない軟性領域と、前記軟性領域よりも基端側に、前記血管に対して前記固定部を移動させる大きさの弾性力を伝達させる硬性領域と、前記血管内に挿入された前記軟性領域がたるんでいるときに前記抜去シースの基端部に一致するたるみ指標部と、が設けられ、
前記抜去シースの先端側を挿入する工程の後で、前記抜去シースに対して前記リード部を先端側に移動させ、前記抜去シースの基端部に前記たるみ指標部を一致させる工程を備える付記項1に記載の神経刺激システムの留置方法。
【0085】
(付記項3)
前記固定部及び前記リード部の先端部の少なくとも一方には、係合部が設けられ、筒状に形成されて前記リード部が進退可能に挿通され、前記係合部と前記リード部の軸線方向及び前記軸線周りに係合可能な被係合部が先端部に設けられた操作シースを備え、前記リード部には、自身が変形しても前記血管に対して前記固定部を移動させない大きさの弾性力しか伝達しない軟性領域と、前記軟性領域よりも基端側に、前記血管に対して前記固定部を移動させる大きさの弾性力を伝達させる硬性領域と、前記係合部と前記被係合部とが係合したときに、前記操作シースの基端部から基端側に突出する係合指標部と、
が設けられ、
前記固定部を挿入する工程の前に、前記リード部に対して前記操作シースを先端側に移動させ、前記操作シースの基端部から前記係合指標部を基端側に突出させる付記項1又は2に記載の神経刺激システムの留置方法。