(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、少なくとも含フッ素基と親油性基を含有するフッ素系添加剤とを含み、カールフィッシャー法による水分量が5000ppm以下であるフッ素系樹脂の非水系分散体と、ポリイミド前駆体溶液と、を少なくとも含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
前記フッ素系樹脂のマイクロパウダーが、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化エチレン−プロピレン共重合体、パーフルオロアルコキシ重合体、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる1種以上のフッ素系樹脂のマイクロパウダーであることを特徴とする請求項1に記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
前記フッ素系樹脂のマイクロパウダーの非水系分散体において、分散された状態のフッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
前記非水系分散体に用いる溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2−ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソペンチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、ジオキサン、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルモノグリシジルエーテル、エチルモノグリシジルエーテル、ブチルモノグリシジルエーテル、フェニルモノグリシジルエーテル、メチルジグリシジルエーテル、エチルジグリシジルエーテル、ブチルジグリシジルエーテル、フェニルジグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ミネラルスピリット、2−ヒドロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ビニルピリジン、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ジメチルイミダゾリン、テトラヒドロフラン、ピリジン、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、フェノール、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、各種シリコーンオイル、からなる群から選ばれる1種類の溶媒、またはこれらの溶媒を2種以上含んでいることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
フッ素系樹脂の非水系分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂の非水系分散体とポリイミド前駆体溶液を少なくとも混合してフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、該ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂が分散されたポリイミドを得る工程とを含むことを特徴とするポリイミドの製造方法。
フッ素系樹脂の非水系分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂の非水系分散体とポリイミド前駆体溶液を少なくとも混合してフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、該ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化してフッ素系樹脂が分散されたポリイミドフィルムを得る工程とを含む、ことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、少なくとも含フッ素基と親油性基を含有するフッ素系添加剤とを含み、カールフィッシャー法による水分量が5000ppm以下であるフッ素系樹脂の非水系分散体と、ポリイミド前駆体溶液と、を少なくとも含むことを特徴とするものである。
【0023】
〔フッ素系樹脂の非水系分散体〕
本発明に用いるフッ素系樹脂の非水系分散体としては、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、少なくとも含フッ素基と親油性基を含有するフッ素系添加剤とを含み、カールフィッシャー法による水分量が5000ppm以下となる非水系分散体となるものであれば、特に限定されないが、例えば、少なくとも、一次粒子径が1μm以下のフッ素系樹脂のマイクロパウダーと、少なくとも含フッ素基と親油性基を含有するフッ素系添加剤、溶媒などを用いることにより調製等することができる。
本発明に用いることができるフッ素系樹脂のマイクロパウダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレン−プロピレン共重合体(FEP)、パーフルオロアルコキシ重合体(PFA)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、テトラフルオロエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(TFE/CTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)からなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ素系樹脂のマイクロパウダーが挙げられ、これらは一次粒子径が1μm以下となるものが好ましい。
上記フッ素系樹脂のマイクロパウダーの中でも、特に、低比誘電率、低誘電正接の材料として、樹脂材料の中で最も優れた特性を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE、比誘電率2.1)の使用が望ましい。
このようなフッ素系樹脂のマイクロパウダーは、乳化重合法により得られるものであり、例えば、ふっ素樹脂ハンドブック(黒川孝臣編、日刊工業新聞社)に記載されている方法など、一般的に用いられる方法により得ることができる。そして、前記乳化重合により得られたフッ素系樹脂のマイクロパウダーは、凝集・乾燥して、一次粒子径が凝集した二次粒子として微粉末として回収されるものであるが、一般的に用いられている各種微粉末の製造方法を用いることができる。
【0024】
フッ素系樹脂のマイクロパウダーの一次粒子径としては、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法、画像イメージング法などによって測定される体積基準の平均粒子径(50%体積径、メジアン径)が1μm以下であることが油性溶剤中で安定に分散する上で好ましく、望ましくは、0.5μm以下、さらに望ましくは、0.3μm以下とすることにより、さらに均一な分散体となる。
このフッ素系樹脂のマイクロパウダーの一次粒子径が1μmを超えるものであると、油性溶剤中で沈降しやすくなり、安定して分散することが難しくなるため、好ましくない。また、上記平均粒子径の下限値は、低ければ低い程良好であるが、製造性、コスト面等から、0.05μm以上が好ましい。
なお、本発明におけるフッ素系樹脂の一次粒子径は、マイクロパウダーの製造段階においてレーザー回折・散乱法や動的光散乱法などによって得られた値を指し示すものであるが、乾燥して粉体状態にしたマイクロパウダーの場合には、一次粒子同士の凝集力が強く、容易に一次粒子径をレーザー回折・散乱法や動的光散乱法などによって測定することが難しいため、画像イメージング法によって得られた値を指し示すものであってもよい。測定装置としては、例えば、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)による動的光散乱法や、マイクロトラック(日機装株式会社製)によるレーザー回折・散乱法や、マックビュー(株式会社マウンテック社製)による画像イメージング法などを挙げることができる。
【0025】
本発明においては、非水系分散体全量に対して、フッ素系樹脂のマイクロパウダーが5〜70質量%含有されるものであることが好ましく、より好ましくは、10〜50質量%含有されることが望ましい。
この含有量が5質量%未満の場合には、溶媒の量が多く、極端に粘度が低下するためにフッ素系樹脂のマイクロパウダー微粒子が沈降しやすくなるだけでなく、ポリイミド前駆体溶液と混合した際に溶媒の量が多いことによる不具合、例えば、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の粘度が極端に低くなることや、溶媒の除去に時間を要することになるなど好ましくない状況を生じることがある。一方、70質量%を超えて大きい場合には、フッ素系樹脂のマイクロパウダー同士が凝集しやすくなり、微粒子の状態を安定的に、流動性を有する状態で維持することが極端に難しくなるため、好ましくない。
【0026】
本発明の非水系分散体に用いることができるフッ素系添加剤は、少なくとも含フッ素基と親油性基を有するものであれば、特に限定されるものではなく、この他に親水性基が含有されているものであってもよい。
少なくとも含フッ素基と親油性基を有するフッ素系添加剤を用いることにより、分散媒となる油性溶剤の表面張力を低下させ、フッ素系樹脂のマイクロパウダー表面に対する濡れ性を向上させてフッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、含フッ素基がフッ素系樹脂のマイクロパウダー表面に吸着し、親油性基が溶媒となる油性溶剤中に伸長し、この親油性基の立体障害によりフッ素系樹脂のマイクロパウダーの凝集を防止して分散安定性を更に向上させるものとなる。
含フッ素基としては、例えば、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基などが挙げられ、親油性基としては、例えば、アルキル基、フェニル基、シロキサン基などの1種又は2種以上が挙げられ、親水性基としては、例えば、エチレンオキサイドや、アミド基、ケトン基、カルボキシル基、スルホン基などの1種又は2種以上が挙げられる。
具体的に用いることできるフッ素系添加剤としては、パーフルオロアルキル基含有のサーフロンS−611などのサーフロンシリーズ(AGCセイミケミカル社製)、メガファックF−555、メガファックF−558、メガファックF−563などのメガファックシリーズ(DIC社製)、ユニダインDS−403Nなどのユニダインシリーズ(ダイキン工業社製)などを用いることができる。
これらのフッ素系添加剤は、用いるフッ素系樹脂のマイクロパウダーと溶媒の種類によって、適宜最適なものが選択されるものであるが、1種類、または2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0027】
前記フッ素系添加剤の含有量は、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの質量に対して、0.1〜50質量%含有されるものであるが、望ましくは、5〜35質量%、さらに望ましくは、15〜25質量%含有されることが好ましい。
この含有量がフッ素系樹脂のマイクロパウダーの質量に対して、0.1質量%未満では、フッ素系樹脂のマイクロパウダー表面を充分に油性溶剤などの溶媒に濡らすことができず、一方、50質量%超過では分散体の泡立ちが強くなって分散の効率が低下し、分散体自体の取扱いやその後に樹脂材料などと混ぜ合わせる際にも不具合を生じることなどがあり、好ましくない。
【0028】
本発明におけるフッ素系樹脂のマイクロパウダーの非水系分散体においては、本発明の効果を損なわない範囲で、上記のようなフッ素系添加剤と組み合わせて、他の界面活性剤を用いることも可能である。
例えば、ノニオン系、アニオン系、カチオン系などの界面活性剤やノニオン系、アニオン系、カチオン系などの高分子界面活性剤などを挙げることができるが、これらに限定されることなく、使用することができる。
【0029】
本発明の上記非水系分散体に用いられる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2−ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソペンチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、ジオキサン、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルモノグリシジルエーテル、エチルモノグリシジルエーテル、ブチルモノグリシジルエーテル、フェニルモノグリシジルエーテル、メチルジグリシジルエーテル、エチルジグリシジルエーテル、ブチルジグリシジルエーテル、フェニルジグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ミネラルスピリット、2−ヒドロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ビニルピリジン、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ジメチルイミダゾリン、テトラヒドロフラン、ピリジン、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、フェノール、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、各種シリコーンオイル、からなる群から選ばれる1種類の溶媒、またはこれらの溶媒を2種以上含んでいるものが挙げられる。
これらの溶媒の中で、好ましくは、用いるポリイミドの用途等により変動するものであるが、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、キシレン、アセトンが挙げられる。
【0030】
本発明においては、上記溶媒を用いるものであるが、他の溶媒と組み合わせて用いることや他の溶媒を用いることもできるものであり、用いるポリイミドの用途(回路基板、カバーレイフィルムなど)により好適なものが選択される。
なお、用いる溶媒の極性によっては水との相溶性が高いものが考えられるが、水分量が多いとフッ素系樹脂のマイクロパウダーの溶媒中への分散性を阻害し、粘度上昇や粒子同士の凝集を引き起こすことがある。
本発明においては、用いる溶媒は、カールフィッシャー法による水分量が、5000ppm以下〔0≦水分量≦5000ppm〕となるものが好ましい。本発明(後述する実施例を含む)において、カールフィッシャー法による水分量の測定は、JIS K 0068:2001に準拠するものであり、例えば、MCU−610(京都電子工業社製)により測定することができる。この溶媒中の水分量を5000ppm以下にすることで、更に、微粒子径で低粘度、保存安定性に優れたフッ素系樹脂のマイクロパウダーの非水系分散体とすることができ、更に好ましくは、3000ppm以下、より好ましくは、2500ppm以下、特に2000ppm以下とすることが望ましい。なお、上記水分量以下の調整としては、一般的に用いられている油性溶剤などの溶媒の脱水方法を用いることが可能であるが、例えば、モレキュラーシーブスなどを用いることができる。
本発明の上記非水系分散体に用いる溶媒の含有量は、上記フッ素系樹脂のマイクロパウダー、フッ素系添加剤の残部となるものである。
【0031】
本発明の上記溶媒には、さらに、シリコーン系消泡剤を含有させることができる。特に、フッ素系樹脂のマイクロパウダーを70質量%であったり、フッ素系添加剤をフッ素系樹脂のマイクロパウダーの質量に対して50質量%と、高濃度で使用する場合には、分散体の泡立ちが分散体の製造工程、安定性、樹脂材料などとの混合の際に問題を引き起こすことにつながる場合がある。
用いることができる消泡剤としては、シリコーン系のエマルジョン型、自己乳化型、オイル型、オイルコンパウンド型、溶液型、粉末型、固形型などがあるが、用いる油性溶剤との組合せで、適宜最適なものが選択されることになる。特に、油性溶剤とPTFEとの界面よりも、油性溶剤と空気との界面に存在させるために、例えば、親水性や水溶性のシリコーン系消泡剤を用いることが好ましいが、これらに限定されることなく、用いることができるものである。消泡剤の含有量は、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの含有量(濃度)等により変動するものであるが、非水系分散体全量に対して、好ましくは、有効成分として1質量%以下である。
【0032】
本発明の上記非水系分散体は、分散状態においてフッ素系樹脂のマイクロパウダーのレーザー回折・散乱法または動的光散乱法による平均粒子径が、1μm以下となるものである。
一次粒子径が1μm以下のフッ素系樹脂のマイクロパウダーを用いた場合であっても、通常、一次粒子が凝集し、二次粒子として粒子径が1μm以上のマイクロパウダーとなっている。このフッ素系樹脂のマイクロパウダーの二次粒子を1μm以下の粒子径となるように分散することにより、例えば、超音波分散機、3本ロール、湿式ボールミル、ビーズミル、湿式ジェットミル、高圧ホモジナイザーなどの分散機を用いて分散することにより、低粘度で長期保存した場合でも安定な分散体を得ることができるものである。
【0033】
さらに、本発明において、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの非水系分散体は、カールフィッシャー法による水分量が、5000ppm以下〔0≦水分量≦5000ppm〕であることが好ましい。油性溶剤に含まれる水分量のほかに、フッ素系樹脂のマイクロパウダーやフッ素系添加剤などの材料自体に含まれる水分や、フッ素系樹脂のマイクロパウダーを溶媒中に分散する製造工程においても水分の混入が考えられるが、最終的にフッ素系樹脂の非水系分散体の水分量を5000ppm以下にすることで、より保存安定性に優れた、フッ素系樹脂の非水系分散体を得ることができる。更に好ましくは、3000ppm以下、より好ましくは、2500ppm以下、特に2000ppm以下とすることが望ましい。なお、上記水分量以下の調整としては、一般的に用いられている油性溶剤の脱水方法を用いることが可能であるが、例えば、モレキュラーシーブスなどを用いることができる。また、フッ素系樹脂の非水系分散体は、加熱や減圧などによる脱水を行うことで充分に水分量を下げた状態で使用することができる。さらに、フッ素系樹脂の非水系分散体を作製した後に、モレキュラーシーブスや膜分離法などを用いて水分除去することも可能であるが、上記した方法以外であっても、フッ素系樹脂の非水系分散体の水分量を下げることができるものであれば、特に限定されることなく用いることができる。
フッ素系樹脂のマイクロパウダーの非水系分散体においては、用いるフッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径、または、分散状態における平均粒子径が小さくなるほどに水分の影響を受けやすくなる。特に、1μm以下となる場合には非水系分散体の保存安定性が著しく悪くなるだけでなく、ポリイミド前駆体溶液との混合、添加時において、フッ素系樹脂マイクロパウダーが凝集、沈降するなどしやすくなり、フッ素系樹脂マイクロパウダーを均一に分散させた状態を維持することが困難になり、保存時の粘度上昇が大きくなるなどの不具合を生じる。さらには、溶媒が除去される段階におけるフッ素系樹脂のマイクロパウダーの凝集が進みやすくなり、最終的に得られるポリイミドやポリイミドフィルムの物理特性、電気特性などに悪影響を及ぼすことにもなる。
【0034】
本発明に用いる上記分散状態における平均粒子径が1μm以下のフッ素系樹脂のマイクロパウダーの含有量は、該分散体に含まれるフッ素系樹脂のマイクロパウダー、溶媒の各量により、また、ポリイミド前駆体溶液の各成分種等により変動するものであり、フッ素系樹脂の非水系分散体やポリイミド前駆体溶液中の溶媒は最終的にフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物調製後、ポリイミドフィルムなどを含むポリイミドの製造の際等で除去されるものであるため、ポリイミドフィルムなどを含むポリイミド中に、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの含有量が、最終的に、好ましくは、1〜70質量%、より好ましくは、5〜50質量%とするように調整して分散体を用いることが望ましい。
このフッ素系樹脂のマイクロパウダーの含有量が1質量%以上とすることにより、ポリイミドフィルムなどを含むポリイミドの電気特性である比誘電率や誘電正接を下げることができ、一方、70質量%以下とすることにより、ポリイミドフィルムなどを含むポリイミドの各種特性や安定性を損なうことなく、本発明の効果を発揮せしめることができる。
また、上記フッ素系樹脂の非水系分散体は、分散状態における平均粒子径が1μm以下のフッ素系樹脂のマイクロパウダーを含むものとなるので、微粒子径で低粘度、保存安定性に優れており、長期保存後でも再分散性に優れるものとなる。また、フッ素系添加剤が多く含有されていても消泡性に優れ、ポリイミド前駆体溶液に添加した際にも均一に混合させることができるものとなる。
【0035】
〔ポリイミド前駆体溶液〕
本発明に用いるポリイミド前駆体溶液は、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物を溶媒の存在下で反応させることなどにより得られる。なお、本発明において、「ポリイミド前駆体溶液」は、使用する溶媒を含有する概念である場合もある。
このポリイミド前駆体溶液の調製は、公知の方法や所定の条件などを好適に採用することができる。
用いることができるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは、単独でも2種以上混合しても用いることができる。
好ましくは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)の使用が望ましい。
【0036】
用いることができるジアミン化合物としては、例えば、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ジアミノトルエン、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−6−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられ、これらは、単独でも2種以上混合しても用いることができる。
好ましくは、p−フェニレンジアミン(PPD)、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン(MBAA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を用いることが望ましい。
【0037】
本発明において、上記テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物の組合せとしては、好ましくは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、s−BPDAとp−フェニレンジアミン(PPD)等の組合せが挙げられる。
【0038】
本発明において、上記ポリイミド前駆体溶液の調製に用いる溶媒としては、ポリイミド前駆体を溶解し得るものであって、常圧での沸点が300℃以下の有機極性溶媒が好ましく、しかも、フッ素系樹脂の非水系分散体に用いることができる溶媒が好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2−ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソペンチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、ジオキサン、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルモノグリシジルエーテル、エチルモノグリシジルエーテル、ブチルモノグリシジルエーテル、フェニルモノグリシジルエーテル、メチルジグリシジルエーテル、エチルジグリシジルエーテル、ブチルジグリシジルエーテル、フェニルジグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ミネラルスピリット、2−ヒドロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ビニルピリジン、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ジメチルイミダゾリン、テトラヒドロフラン、ピリジン、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、フェノール、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、などが挙げられ、これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
好ましくは、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、キシレン、アセトンを用いることが望ましい。
【0039】
本発明に用いるポリイミド前駆体溶液は、溶媒に所定の組成比のテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物を加え、撹拌することにより調製することができる。溶媒中におけるテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体、及びジアミン化合物の合計の濃度は、種々の条件に応じて設定されるが、通常、反応溶液全量において5〜30重量%が好ましい。これらを撹拌する際の反応条件は、特に限定されないが、反応温度は80℃以下、特に5〜50℃に設定することが好ましい。反応温度が低すぎると反応が進行しない、あるいは反応が進行するまでに時間がかかりすぎ、高すぎるとイミド化が進行してしまうなどの問題が生じてくる。また、反応時間は1〜100時間であることが好ましい。
【0040】
〔フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の調製〕
本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、上記フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、少なくとも含フッ素基と親油性基を含有するフッ素系添加剤とを含み、カールフィッシャー法による水分量が5000ppm以下であるフッ素系樹脂の非水系分散体と、ポリイミド前駆体溶液と、を少なくとも含むことを特徴とするものである。
本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物では、前記フッ素系樹脂を含有する非水系分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体とジアミン化合物を溶解し、重合させたポリイミド前駆体溶液を混合した組成物をいうものであるが、前記フッ素系樹脂を含有する非水系分散体中に、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体とジアミン化合物を添加、溶解してから重合させて、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物とすることもできる。また、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体とジアミン化合物を溶解し、重合させたポリイミド前駆体溶液中に、前記フッ素系樹脂を含有する非水系分散体を添加、混合してフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物とすることもできるものであり、前記フッ素系樹脂の非水系分散体中のフッ素系樹脂が凝集や沈降することなく均一に混合することができるものであれば、その添加、混合の順番は限定されるものではない。
この調製における重合反応の際のモノマー濃度、すなわち、溶媒中のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体、及びジアミン化合物の合計の濃度は、種々の条件に応じて設定されるものであるが、通常、反応させる溶液全量において5〜30質量%程度が好ましい。
この濃度が5質量%未満であると、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体、及びジアミン化合物の反応性が悪く、反応が進行するまでに時間を要したり、または製膜時に除去する溶媒量が増えるなど経済的でなくなり、一方、濃度が30質量%超過であると、重合時の粘度が高くなりすぎたり、あるいは析出などの問題が生じてくる。また、反応温度は80℃以下、特に、5〜50℃に設定することが好ましい。反応温度を上記温度5℃より低すぎると、反応が進行しない、あるいは反応が進行するまでに時間がかかりすぎ、一方、反応温度が80℃を超えて高すぎる、とイミド化が進行してしまうなどの問題が生じてくる。反応時間は、好ましくは、1〜100時間程度である。
【0041】
〔前記フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物より得られるポリイミド、ポリイミドフィルムの調製、その製造方法〕
本発明のポリイミド、ポリイミドフィルムは、上記で調製したフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂が均一に微粒子分散されたポリイミド、ポリイミドフィルムを得ることができる。
また、本発明のポリイミド、ポリイミドフィルムの各製造方法は、フッ素系樹脂の非水系分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂の非水系分散体とポリイミド前駆体溶液を少なくとも混合してフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、該ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂が均一に微粒子分散されたポリイミド、またはポリイミドフィルムを得る工程とを含むことを特徴とするものである。なお、イミド化の方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0042】
例えば、フッ素系樹脂が分散されたポリイミド、ポリイミドフィルムを作製する場合、ポリイミド用基材、ポリイミドフィルム用基材の表面に上記で得られたフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を塗布して膜状物(塗膜)を形成させ、該膜状物を加熱処理して、溶媒を除去、イミド化反応を行うことにより得ることができる。
用いることができる基材としては、例えば、液体や気体を実質的に透過させない程度の緻密構造を有していれば、形状や材質で特に限定されるものではなく、通常のフィルムを製造する際に用いられるそれ自体公知のベルト、金型、ロール、ドラムなどのフィルム形成用基材、その表面にポリイミド膜を絶縁保護膜として形成する回路基板などの電子部品や電線、表面に皮膜が形成される摺動部品や製品、ポリイミド膜を形成して多層化フィルムや銅張積層基板を形成する際の一方のフィルムや銅箔などを好適に挙げることができる。
【0043】
また、これらの基材に、ポリイミド前駆体溶液組成物を塗布する方法としては、例えばスプレー法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法などのそれ自体公知の方法を適宜採用することができる。
この基材に塗布されて形成されたポリイミド前駆体溶液組成物からなる膜状物、フィルム等は、例えば、減圧下又は常圧下で室温以下など比較的低温で加熱する方法で脱泡しても構わない。
【0044】
基材上に形成されたポリイミド前駆体溶液組成物からなる膜状物などは、加熱処理することによって、溶媒を除去し、かつイミド化されてポリイミド、ポリイミドフィルムが形成される。加熱処理は、いきなり高温で加熱処理するよりも最初に140℃以下の比較的低温で溶媒を除去し、次いで最高加熱処理温度まで温度を上げてイミド化する加熱処理が好適である。最高加熱処理温度は200〜600℃の温度範囲が採用できるが、好ましくは300〜500℃、より好ましくは250〜450℃の温度範囲で加熱処理することができる。また、加熱処理の代わりに、あるいは加熱処理と併用してアミン系化合物などの触媒を用いてイミド化反応を進めることもできる。さらにまた、イミド化の過程において発生した水を速やかに除去するための脱水剤としてカルボン酸無水物などを用いることもできるものである。
ポリイミド、ポリイミドフィルムは用途に応じて、その厚さが適宜調整され、例えば、厚みが0.1〜200μm、好ましくは3〜150μm、より好ましくは5〜130μmのポリイミド膜、フィルムが好適に用いられる。加熱温度が250℃よりも低い場合イミド化が十分に進行せず、450℃を超えると熱分解などにより機械特性の低下などの問題が生じてくる。また、膜厚が200μmを超えると溶媒を十分に揮発させることができずに機械特性の低下、あるいは熱処理中に発泡を生じるなどの問題が起こる場合がある。
【0045】
フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミド膜、ポリイミドフィルム中のフッ素系樹脂のマイクロパウダー濃度は、特に限定されるものではないが、ポリイミドの質量に対して好ましくは、1〜70質量%、より好ましくは、5〜50質量%、更に好ましくは、10〜35質量%程度が好適である。フッ素系樹脂のマイクロパウダー濃度が小さすぎるとフッ素系樹脂のマイクロパウダーの添加効果がなく、また、フッ素系樹脂のマイクロパウダー濃度が大きすぎるとポリイミドの機械特性などが低下することになる。
【0046】
〔回路基板〕
本発明の回路基板は、上記フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミドフィルムを用いたことを特徴とするものである。
本発明の回路基板は、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)では、上記フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から得られる絶縁性のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムと金属箔をエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂などの接着剤組成物で貼り合わせて金属箔積層板(CCL)を作製し、その金属箔に回路を施すことで製造することができる。
前記絶縁性のフッ素系樹脂含有フィルムとなる本発明のポリイミドフィルムの厚さは、十分な電気絶縁性と金属箔積層板の厚さ、および柔軟性などを勘案して、好適な範囲で選択可能であり、好ましくは、5〜50μm、より好ましくは、7〜45μmが望ましい。
前記接着剤組成物の厚さは、ポリイミドフィルムとの界面密着性、積層板の柔軟性、接着強度などの点から、好ましくは、1〜50μm、より好ましくは、3〜30μmが望ましい。
前記金属箔としては、導電性を有する金属箔を有するものが挙げられ、例えば、金、銀、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、これらの合金などが例示される。導電性、取扱いの容易性、価格等の観点から、銅箔やステンレス箔が好適に用いられる。銅箔としては、圧延法や電解法によって製造されるいずれのものでも使用することができる。
金属箔の厚さは、電気伝導性、絶縁性フィルムとの界面密着性、積層板の柔軟性、耐折り曲げ性の向上や、回路加工においてファインパターンを形成しやすいという点、配線間の導通性の点などを勘案して好適な範囲が設定でき、例えば、1〜35μmの範囲内が好ましく、より好ましくは5〜25μmの範囲内、特に好ましくは8〜20μmの範囲内である。
また、使用する金属箔は、マット面の表面粗さRz(十点平均粗さ)が0.1〜4μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜2.5μmの範囲内がより好ましく、特に、0.2〜2.0μmの範囲内であることが好ましい。
【0047】
このように構成される本発明の回路基板は、絶縁性フィルムとして、上記本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミドフィルムを用いることにより、比誘電率と誘電正接が低く、耐熱性、電気絶縁性や機械特性に優れる回路基板が得られるものとなる。
【0048】
〔カバーレイフィルム〕
次に、本発明のカバーレイフィルムは、上記フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物により得られた絶縁性のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムと、該ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に接着剤層が形成されたことを特徴とするものである。
用いる接着剤層としては、前記回路基板に用いたエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂などの接着剤組成物が使用される。
本発明のカバーレイフィルムは、フレキシブルプリント配線板(FPC)用などの表面保護フィルム等として用いるものであり、得られるポリイミドフィルム上に、接着剤層が形成されたものであり、接着剤層上に保護層となる紙やPETフィルムなどのセパレーター(剥離フィルム)が接合されたものである。なお、このセパレーター(剥離フィルム)は、作業性、保存安定性などを勘案して、必要に応じて、設けられるものである。
前記ポリイミドフィルムの厚さは、十分な電気絶縁性と保護性、および柔軟性などを勘案して、好適な範囲で選択可能であり、好ましくは、5〜200μm、より好ましくは、
7〜100μmが望ましい。前記接着剤組成物の厚さは、絶縁性フィルムとの界面密着性、接着強度などの点から、好ましくは、1〜50μm、より好ましくは、3〜30μmが望ましい。
【0049】
このように構成される本発明のカバーレイフィルムは、上記構成となる本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物より得られるポリイミドフィルム上に、コンマロールコーター、リバースロールコーターなどを用いて塗布により接着剤組成物からなる接着剤層を形成させ、乾燥して半硬化状態(組成物が乾燥した状態またはその一部で硬化反応が進行している状態)にし、次に、上述の保護層となるセパレーター(剥離フィルム)を積層することにより比誘電率と誘電正接が低く、耐熱性、寸法安定性、電気特性などにも優れた特性を有するカバーレイフィルムを製造することができる。
【0050】
本発明では、上述のポリイミド前駆体溶液組成物により得られる耐熱性、機械特性、摺動性、絶縁性、低誘電率化、低誘電正接化などの電気特性、加工性に優れるポリイミドやポリイミドフィルムを用いた上記回路基板、カバーレイフィルム以外にも、これらのポリイミドやポリイミドフィルムを用いて、絶縁膜、配線基板用相関絶縁膜、表面保護層、摺動層、剥離層、繊維、フィルター材料、電線被覆材、ベアリング、塗料、断熱軸、トレー、シームレスベルトなどの各種ベルト、テープ、チューブなどの用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明について、更に実施例、比較例を参照して詳しく説明する。なお、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0052】
〔フッ素系樹脂の非水分散体の調製:分散体1〜5〕
下記表1に示す配合処方にて、溶媒中にフッ素系添加剤を充分に攪拌混合、溶解した後、フッ素系樹脂のマイクロパウダーとしてPTFEマイクロパウダーを添加して、さらに攪拌混合を行った。その後、得られたPTFE混合液を、横型のビーズミルを用いて、0.3mm径のジルコニアビーズにて分散し、各分散体1〜5を得た。
得られた分散体1〜5におけるPTFEの平均粒子径をFPAR−1000(大塚電子株式会社製)による動的光散乱法で測定した。また、各分散体1〜5のカールフィッシャー法による水分量を測定した。
下記表1に分散体1〜5の配合処方、得られた分散体におけるPTFEの平均粒子径、水分量を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
〔実施例1〜3及び比較例1〜3:フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の調製〕
<実施例1>
(1−a)ポリイミド前駆体溶液の調製
攪拌機と窒素ガス配管を有するガラス製容器に、N,N−ジメチルアセトアミドを400質量部、p−フェニレンジアミンを27質量部、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二水和物を73質量部、を添加、混合し、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。
(1−b)フッ素系樹脂の非水分散体は、上記表1の分散体1を用いた。
(1−c)フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
1−aで作成したポリイミド前駆体溶液に分散体1(PTFE含有量:30質量%)を18質量部添加し、10分間攪拌、混合し、樹脂成分に対してPTFEが30質量%含有されるフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
(1−d)フッ素系樹脂を含有するポリイミド膜の製造方法
1−cで得られたフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を、基材となるガラス板上にバーコーターによって塗布し、減圧下25℃で50分、脱泡及び予備乾燥した後、常圧、窒素雰囲気下で、120℃で45分、150℃で30分、200℃で15分、250℃で10分、400℃で10分加熱処理をして、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。
【0055】
<実施例2>
実施例1と同様の方法により、分散体2を用いて下記表2に示す配合でフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物(2−b)を得た。また、実施例1と同様の方法により、ポリイミド膜(2−d)を形成した。
【0056】
<実施例3>
実施例1と同様の方法により、分散体3を用いて下記表2に示す配合でフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物(3−b)を得た。また、実施例1と同様の方法により、ポリイミド膜(3−d)を形成した。
【0057】
<比較例1>
実施例1と同様の方法により、分散体4を用いて下記表2に示す配合でフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物(4−b)を得た。また、実施例1と同様の方法により、ポリイミド膜(4−d)を形成した。
【0058】
<比較例2>
実施例1と同様の方法により、分散体5を用いて下記表2に示す配合でフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物(5−b)を得た。また、実施例1と同様の方法により、ポリイミド膜(5−d)を形成した。
【0059】
<比較例3>
実施例1で得られたポリイミド前駆体(分散体使用せず:PTFEなし)を用い、実施例1と同様の方法により、ポリイミド膜(6−d)を形成した。
【0060】
【表2】
【0061】
〔評価〕
実施例1〜3、比較例1〜2において得られたフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物(1〜5−c)と、実施例1〜3、比較例1〜3において得られたポリイミド膜の評価を下記各方法により行った。
【0062】
(フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中のフッ素樹脂粒子の平均粒子径)
フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物をN,N−ジメチルアセトアミドを用いて希釈し、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)による動的光散乱法でPTFEの平均粒子径を測定し、凝集状態を評価した。
【0063】
(フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の粘度変化、沈降・再分散状態)
フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を25℃下で30日静置し、液の粘度変化が±10%の範囲のものを○、±10%の範囲を超えるものを×とした。また、粒子の沈降状態を目視で確認し、下部に沈降層が見られないものを○、見られるものを×とし、沈降物が攪拌した際に容易に再分散した場合には、再分散性を○、再分散がしづらいものを×とした。
【0064】
(ポリイミド膜の状態)
ポリイミド膜の状態を目視にて観察し、PTFEの凝集物などの異物が確認された場合を×、平滑な表面が形成されている場合には○とした。
【0065】
(ポリイミド膜の比誘電率と誘電正接)
実施例1〜3、比較例1〜3において得られたポリイミド膜をガラス板から剥がし、JIS C6481−1996の試験規格に準じて、インピーダンス分析器(Impedence Analyzer)を用いて、25℃、1kHzの周波数で、比誘電率と誘電正接を測定した。
【0066】
【表3】
【0067】
上記表2及び表3の結果を見ると、本発明の範囲内である実施例1〜3のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、フッ素系樹脂の粒子径や粘度の変化が少なく、非常に安定となる結果であった。また、フッ素系樹脂を含まない比較例3と比較して、ポリイミド膜の比誘電率と誘電正接が下がっていることを確認した。また、これら実施例1〜3で得られたポリイミド膜の機械特性などは、比較例3のポリイミド膜とほぼ同等の性能を示していた。さらに、ポリイミドとPTFEの両方の性能が融合されており、摺動性、絶縁性、剥離性などのPTFE特有の性能が上昇していた。
一方で、水分量が本発明の範囲外となる分散体4を用いた比較例1においては、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の安定性が低く、ポリイミド膜の状態も悪く、電気特性においても効果が見られなかった。また、粒子径の大きいフッ素系樹脂を用いた分散体5の比較例2においては、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物も安定性が低く、また、ポリイミド膜の状態も悪いものであった。なお、比較例2のポリイミド膜は状態が比較例1よりも悪く、電気特性を測定することができなかった。