特許第6492012号(P6492012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492012
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】新規キナゾリン誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/12 20060101AFI20190318BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190318BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190318BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20190318BHJP
   C07D 417/12 20060101ALI20190318BHJP
   C07D 413/12 20060101ALI20190318BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20190318BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20190318BHJP
   C07D 401/12 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C07D403/12CSP
   A61P35/00
   A61P43/00 111
   A61K31/517
   C07D417/12
   C07D413/12
   A61K31/5377
   A61P35/04
   C07D401/12
【請求項の数】5
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-551587(P2015-551587)
(86)(22)【出願日】2014年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2014082300
(87)【国際公開番号】WO2015083833
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2017年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-253222(P2013-253222)
(32)【優先日】2013年12月6日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人医薬基盤研究所保健医療分野における基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503286424
【氏名又は名称】カルナバイオサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】森山 英樹
(72)【発明者】
【氏名】澤 匡明
(72)【発明者】
【氏名】宇野 佑子
(72)【発明者】
【氏名】柏本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲司
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−532486(JP,A)
【文献】 特表2009−535393(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0084474(KR,A)
【文献】 国際公開第2009/084695(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/136492(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/044090(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/088712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 403/12
A61K 31/517
A61K 31/5377
C07D 401/12
C07D 413/12
C07D 417/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I):
【化1】
(式中、RおよびRは、水素原子、ハロゲン原子、または直鎖上若しくは分枝状のC1−C4アルキル基であって、該C1−C4アルキル基は、ハロゲン、C1−C4アルコキシ基、アミノ基、C1−C4アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルバモイル基、カルボキシ基、ホルミル基、アセチル基、メシル基、ベンゾイル基およびアシルアミノ基から選択される一つ以上の置換基で置換されていてもよく
Zは、ヒドロキシシクロヘキシル基であり、
Qは、二環式ヘテロアリール基であって、ハロゲン原子;ヒドロキシ基、メトキシ基若しくはピロリジニル基で置換されていてもよいC1−C4アルキル基;C3−C5シクロアルキル基;C1−C4アルコキシ基;アミノ基;C1−C4アルキルアミノ基;ジC1−C4アルキルアミノ基;ヒドロキシ基;カルバモイル基;カルボキシル基;モルホリニル基;ピロリジニル基;ホルミル基;アセチル基;メシル基;ベンゾイル基およびアシルアミノ基から選択されるひとつ以上の置換基で置換されていてもよい。
で示されるキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
二環式ヘテロアリール基が、テトラヒドロイソキノリル基、ベンゾチオフェニル基、ベンズイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、ベンゾトリアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリル基およびインダゾリル基よりなる群から選択される、請求項1に記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
二環式ヘテロアリール基が、ベンズイミダゾリル基またはインダゾリル基である、請求項1または2に記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
二環式ヘテロアリール基が、ベンズイミダゾリル基である、請求項1〜3のいずれかに記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
およびRが水素原子、ハロゲン原子、または直鎖上若しくは分枝状のC1−C4アルキル基である、請求項1〜4のいずれかに記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、特にWnt/β-カテニンシグナル経路阻害作用を有し、抗腫瘍効果を示す新規なキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩に関する。
【背景技術】
【0002】
Wntシグナルは、発生初期における体軸形成や器官形成、出生後の細胞の増殖や分化などを制御しており、Wntシグナルの活性化は、複数の細胞内シグナル経路を介して多彩な細胞応答を誘導することが分かっている(非特許文献1)。Wntシグナル経路の中で最もよく知られているのは、β-カテニン経路である。正常状態において細胞質内で蓄積しているβ-カテニンは、Wnt刺激によって核内に移行し、転写因子であるT細胞因子/リンパ球活性化因子(TCF/LEF:T cell factor/Lymphocyte enhancing factor)と結合し,AXINやc−MYC等の遺伝子の発現を誘導する。Wntシグナル経路に異常が生じると種々の疾患が引き起こされることが知られているが、特に、がんの発症と深い関係があり、Wntシグナル経路の構成タンパク質であるβ-カテニンやAPC(adenomatous polyposis coli)、AXINなどの遺伝子変異がヒトの癌症例で報告されている(非特許文献2)。これらのがん細胞では、核内でのβ-カテニンの異常な蓄積と、細胞増殖を促進するような種々の遺伝子発現が認められる。
【0003】
また、Wnt/β-カテニンシグナル経路は、初期発生や臓器形成以外にも、幹細胞の未分化能の維持と分化に関与することも明らかになっている(非特許文献3、4)。がん細胞のうち、幹細胞と同じような性質をもった細胞(がん幹細胞)の存在が報告されており、がん幹細胞は、がん組織中で自己複製により自分と同じ細胞を維持しながら、分化によって周辺の大多数のがん細胞を生み出すもとになっていると考えられている。Wnt/β-カテニンシグナル経路は、正常な幹細胞だけでなく、がん幹細胞においても、その幹細胞性の維持に関与している。がん幹細胞は一般的な抗がん剤による治療に抵抗性であるため、抗がん剤治療で生き残ったごく少数のがん幹細胞が、がんの再発、転移を引きおこすと考えられている(非特許文献5、6)。がん幹細胞は、発がん、がん転移及びがん再発の原因であると考えられているため、がん幹細胞は、腫瘍開始細胞、がん幹様細胞、幹様がん細胞、高度腫瘍形成性細胞又は超悪性細胞とも呼ばれる。
したがって、Wnt/β-カテニンシグナル経路を阻害する化合物は、Wntシグナルが関与している疾患、特にがんの治療に有用であり、また、がん幹細胞を標的とした腫瘍の転移及び再発予防にも有用である。
【0004】
これまでに、種々のキナゾリン誘導体が知られており、出願人による特許文献1の他、特許文献2および特許文献3などが報告されている。しかし、本発明のキナゾリン誘導体については記載されておらず、また、Wnt/β-カテニンシグナル経路を阻害することも報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009/84695号公報
【特許文献2】WO2012/044090号公報
【特許文献3】KR20130084474号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Logan,C.Y. and Nusse,R., Annu.Rev.Cell.Dev.Biol.,2004,20,781−810
【非特許文献2】Clevers,H. and Nusse,R.,Cell,2012,149,1192−1205
【非特許文献3】Reya,T., and Clevers,H.,Nature,2005,434,843−850
【非特許文献4】Holland,J.D.,Klaus,A.,Garratt,A.N.,Birchmeier,W.,Curr.Opin.Cell.Biol.,2013,25,254−264
【非特許文献5】Dean,M.,Fojo,T.,Bates,S..Nat.Rev.Cancer,2005,5,275−284
【非特許文献6】Li,F.,Tiede,B.,Massague,J.,Kang,Y.,Cell Res.,2007,17,3−14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、医薬、特にWnt/β-カテニンシグナル経路阻害作用を有し、抗腫瘍効果を示す新規なキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩によって達成される。
(1)下式(I):
【化1】
(式中、RおよびRは、水素原子、ハロゲン原子または置換基を有してもよい低級アルキル基を表し、Zは、置換基を有するシクロアルキル基または置換基を有するシクロアルケニル基を表し、Qは、置換基を有してもよい二環式ヘテロアリール基を表す。)
で示されるキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
(2)Zが置換基を有するシクロアルキル基である、上記(1)に記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
(3)Zがヒドロキシシクロヘキシル基である、上記(1)または(2)に記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
(4)下式(Ia):
【化2】
(式中、R1aおよびR2aは水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは、置換基を有するシクロアルキル基または置換基を有するシクロアルケニル基を表し、Qは、置換基を有してもよい二環式ヘテロアリール基を表す。)
で示されるキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
(5)Zがヒドロキシシクロヘキシル基である、上記(4)に記載のキナゾリン誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために種々検討を重ねた結果、前記(1)〜(3)で示される新規なキナゾリン誘導体およびその薬学的に許容される塩が、優れたWnt/β-カテニンシグナル経路阻害作用を有し、抗腫瘍効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。本発明により提供される化合物は、Wnt/β-カテニンシグナル経路を介した異常な細胞応答に関連していることが知られている疾患、特にがんの治療に有用であり、また、がん幹細胞を標的とした腫瘍の転移及び再発予防にも有用である。また、Wnt/β-カテニンシグナル経路阻害剤として、実験用、研究用の試薬に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の化合物が、大腸がん細胞であるHCT116のAXIN2遺伝子の発現を濃度依存的に抑制していることを示す(試験例2)。
図2】実施例1の化合物が、大腸がん細胞であるHCT116のc−MYC遺伝子の発現を濃度依存的に抑制していることを示す(試験例2)。
図3】実施例1の化合物が、大腸がん細胞であるHCT116のAXIN2及びc−MYCのタンパク質発現を濃度依存的に抑制していることを示す(試験例3)。
図4】実施例1の化合物が、ヒト由来がん細胞株のヌードマウス皮下移植モデルにおいて、用量依存的に腫瘍増殖を抑制していることを示す(試験例4)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の新規なキナゾリン誘導体は、下式(I)
【化3】
(式中、RおよびRは、水素原子、ハロゲン原子または置換基を有してもよい低級アルキル基を表し、Zは、置換基を有するシクロアルキル基または置換基を有するシクロアルケニル基を表し、Qは、置換基を有してもよい二環式ヘテロアリール基を表す。)
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0012】
前記式(I)において、
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが挙げられる。
置換基を有してもよい低級アルキル基の低級アルキル基部分としては、炭素数1から4の直鎖状、分枝状のアルキル基のいずれでもよく、例えば、メチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基等を挙げることができる。
置換基を有するシクロアルキル基のシクロアルキル基部分としては、炭素数3から7の環状のアルキル基のいずれでもよく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0013】
置換基を有するシクロアルケニル基のシクロアルケニル基部分としては例えば、炭素原子数5から7の環状のアルケニル基のいずれでもよく、例えば、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
置換基を有してもよい二環式ヘテロアリール基の二環式ヘテロアリール基部分としては、例えば、4から6員の環が縮合した二環性で、窒素原子、硫黄原子および酸素原子から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含む芳香族へテロ環基のいずれでもよく、例えば、テトラヒドロイソキノリル基、ベンゾチオフェニル基、ベンズイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、ベンゾトリアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリル基、インダゾリル基などが挙げられる。
【0014】
置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、置換基を有するシクロアルケニル基、置換基を有してもよい二環式ヘテロアリール基の置換基は、特に記載のない限り、1または2個以上の任意の種類の置換基を、化学的に可能な任意の位置に有してもよく、当該置換基が2個以上の場合、それぞれの置換基は同一であっても異なっていてもよく、例えば、ハロゲン原子、置換もしくは非置換アルキル基、シクロアルキル基、置換もしくは非置換アルコキシ基、置換もしくは非置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換アルキルアミノ基、置換もしくは非置換カルバモイル基、カルボキシル基、モルホリニル基、ホルミル基、アセチル基、メシル基、ベンゾイル基、置換もしくは非置換アシルアミノ基などが挙げられる。
【0015】
より具体的には、「置換基を有してもよい低級アルキル基」の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルバモイル基、カルボキシル基、ホルミル基、アセチル基、メシル基、ベンゾイル基、またはアシルアミノ基等が例示される。
「置換基を有するシクロアルキル基」または「置換基を有するシクロアルケニル基」の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、アミノ基、スルホニル基で置換されていてもよい炭素数1から4のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルバモイル基、カルボキシル基、ホルミル基、アセチル基、メシル基、ベンゾイル基、またはアシルアミノ基等が例示される。特に、ヒドロキシ基およびアミノ基が好ましい。
「置換基を有してもよい二環式ヘテロアリール基」の置換基としてはハロゲン原子、ヒドロキシ基、メトキシ基若しくはピロリジニル基で置換されていてもよい炭素数1から4のアルキル基、炭素数3〜5のシクロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、ヒドロキシ基、カルバモイル基、カルボキシル基、モルホリニル基、ピロリジニル基、ホルミル基、アセチル基、メシル基、ベンゾイル基、またはアシルアミノ基等が例示される。
【0016】
本発明はまた、新規キナゾリン誘導体(Ia):
【化4】
(式中、R1aおよびR2aは水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは、置換基を有するシクロアルキル基または置換基を有するシクロアルケニル基を表し、Qは、置換基を有してもよい二環式ヘテロアリール基を表す。)
またはその薬学的に許容される塩を提供する。
上記式(Ia)において、ハロゲン原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、およびシクロアルケニル基は、上記式(I)の場合と同様である。
の二環式ヘテロアリール基は4から6員の環が縮合した二環性で、窒素原子の他、硫黄原子および酸素原子から選ばれるヘテロ原子を含んでもよい芳香族含窒素へテロ環基のいずれでもよく、例えば、ベンズイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリル基、インダゾリル基などが挙げられる。
また、Qにおける「置換基を有してもよい二環式ヘテロアリール基」の置換基は、ハロゲン原子、(ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、ジメチルアミノ基若しくはピロリジニル基で置換されていてもよい)炭素数1から4のアルキル基、炭素数3〜5のシクロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、モルホリニル基等が例示される。
としては、低級アルキル基で置換されていてもよいインダゾリル基またはベンズイミダゾリル基が好ましく、さらに当該低級アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。
また、「置換基を有するシクロアルキル基」および「置換基を有するシクロアルケニル基」の置換基はヒドロキシ基およびアミノ基から選択される。
以下の本発明の化合物(I)に関する説明は、本発明の化合物(Ia)にも適用される。
【0017】
本発明の化合物(I)は、例えば、置換基の種類によって、異性体が存在する場合がある。本明細書において、それらの異性体の一形態のみの化学構造で記載することがあるが、本発明には、構造上生じ得るすべての異性体(幾何異性体、光学異性体、互変異性体など)も含有し、異性体単体、またはそれらの混合物も含有する。
【0018】
また、本発明の化合物(I)の薬学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、炭酸、リン酸等との無機酸塩、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との有機酸塩等が挙げられる。また、ナトリウム、カリウム等とのアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等とのアルカリ土類金属塩、低級アルキルアミン、低級アルコールアミン等との有機アミン塩、リジン、アルギニン、オルニチン等との塩基性アミノ酸塩の他、アンモニウム塩等も本発明に包含される。
本発明化合物およびその薬学的に許容しうる塩には、その分子内塩、その水和物等の溶媒和物のいずれもが含まれる。
【0019】
本発明の化合物(I)およびその薬学的に許容される塩は、例えば以下の方法によって製造することができる。なお、以下に示した製造法において、定義した基が実施方法の条件下で変化するか、または当該方法を実施するのに不向きな場合、有機合成化学で通常用いられる方法、例えば、官能基の保護、脱保護[T.W.Greene,Protective Groups in Organic Synthesis 3rd Edition, John Wiley&Sons,Inc.,1999]等の手段を付すことにより容易に製造することができる。また、必要に応じて置換基導入等の反応工程の順序を変えることもできる。
【0020】
以下の説明で使用される略語、記号の意味は次の通りである。
DCM : ジクロロメタン
THF : テトラヒドロフラン
DMF : ジメチルホルムアミド
DMSO : ジメチルスルホキシド
CDCl : 重クロロホルム
【0021】
[本発明の化合物(I)の製法]
式(I)で表される本発明の化合物は、例えばスキーム1によって製造することができる。
[スキーム1]
【化5】

【0022】
化合物(I)は、化合物(II)の水酸基とZ基導入剤(ZX)との求核置換反応により製造することができる。
Xが適当な脱離基、例えば、メシル化若しくはトシル化された水酸基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などの場合、化合物(I)は、化合物(II)と1〜5モル当量、好ましくは1〜1.5モル当量のZ基導入剤、および1〜5モル当量、好ましくは1〜3.5モル当量の炭酸セシウムのような塩基存在下、溶媒中加熱反応させることによって得ることができる。溶媒は反応に不活性なものであればいずれでも良く、特に限定されるものではないが、好ましくはDMSO、もしくはDMFを用いることができる。反応は80〜180℃において、1〜24時間加熱することで実施することができるが、好ましくは100〜150℃において1〜4時間反応させることにより実施することができる。
【0023】
また、化合物(I)は、化合物(II)の水酸基と、水酸基を有するZ基導入剤(X=OH)を、光延反応により反応させても製造することができる。すなわち、化合物(II)と1〜5モル当量、好ましくは1〜2モル当量のアルコール基を有するZ基導入剤、および1〜10モル当量、好ましくは1〜5モル当量の光延試薬、例えば、シアノメチレントリブチルホスホラン存在下、溶媒中加熱反応させることによって得ることができる。
溶媒は反応に不活性なものであればいずれでもよく、特に限定されるものではないが、好ましくは1,4−ジオキサン、もしくはTHFを用いることができる。反応は50〜150℃において、1〜24時間加熱することで実施することができるが、例えば100℃において3〜16時間反応させることにより実施することができる。
Z基導入剤は市販品として、または公知の方法もしくはそれに準じた方法により得ることができる。
【0024】
上述のカップリング反応を実施するにあたり、必要に応じて化合物(II)のQやZ基導入剤に存在する官能基を有機合成化学で通常用いられる方法を適宜組み合わせて保護、脱保護することでも化合物(I)を製造することができる。例えば、水酸基やアミノ基の官能基の保護、脱保護[T.W.Greene,Protective Groups in Organic Synthesis 3rd Edition, John Wiley&Sons,Inc.,1999]を用いることができる。
【0025】
スキーム1の原料として用いられる化合物(II)は、例えばスキーム2に表す方法によって製造することができる。
[スキーム2]
【化6】

【0026】
化合物(II)は、化合物(III)と1〜5モル当量、好ましくは1〜1.5モル当量のアミン(Q−NH)を溶媒中、必要に応じて塩酸のような酸触媒存在下、加熱反応させることによって得ることができる。溶媒は反応に不活性なものであればいずれでもよく、特に限定されるものではないが、例えば、低級アルコール、好ましくはエタノール、2−プロパノール、もしくは1−ブタノールを用いることができる。反応は80〜150℃において、3〜24時間加熱することで実施することができるが、例えば100〜110℃において6〜16時間反応させることにより得ることができる。
スキーム1の原料の一つであるアミン(Q−NH)は市販品(例えば、SIGMA−ALDRICH社製品)として、または公知の方法もしくはそれに準じた方法により得ることができる。
【0027】
スキーム2の原料として用いられる化合物(III)のうち、R及びRが水素原子である化合物(III-a)、Rが水素原子、Rが臭素原子である化合物(III-b)は、例えばスキーム3に表す方法によって製造することができる。
[スキーム3]
【化7】
【0028】
化合物(III-a)は、2−アミノ−3−メトキシ安息香酸(IV)を出発原料として製造することができる。すなわち、2−アミノ−3−メトキシ安息香酸(IV)と尿素を加熱反応させた化合物(V)を、N,N−ジメチルアニリン存在下、塩化ホスホリルで処理して化合物(VI)を得ることができる。得られた化合物(VI)を、水素雰囲気下、塩基性条件下でパラジウム−炭素と反応させることにより4位のクロロ基を選択的に除去し、得られた化合物(VII)を、三臭化ホウ素で処理することによって、化合物(III-a)を製造することができる。
化合物(III-b)は、化合物(III-a)を溶媒中、ジイソプロピルアミン存在下、N-ブロモコハク酸イミド(NBS)を反応させることにより得ることができる。
【0029】
スキーム2の原料として用いられる化合物(III)のうち、Rが臭素原子、Rが水素原子である化合物(III-c)は、例えばスキーム4に表す方法によって製造することができる。
[スキーム4]
【化8】
化合物(III-c)は、2−アミノ−3−メトキシ安息香酸(IV)を臭素でブロモ化し、得られた化合物(VIII)のカルボン酸を、ボラン還元してアルコールに変換した後、再度アルデヒドに酸化した化合物(X)を、尿素と加熱反応させて化合物(XI)を得、次いで塩化ホスホリルで処理して化合物(XII)に変換、その後、三臭化ホウ素で処理することによって製造することができる。
【0030】
スキーム2の原料として用いられる化合物(III)のうち、Rがフッ素原子、Rが水素原子である化合物(III-d)は、例えばスキーム5に表す方法によって製造することができる。
[スキーム5]
【化9】

化合物(III-d)は、3−フルオロ−5−メトキシ安息香酸(XIII)をニトロ化後、パラジウム−炭素で還元して得た化合物(XV)を、スキーム3と同様に処理することにより製造できる。
【0031】
スキーム2の原料として用いられる化合物(III)のうち、Rが水素原子、Rがメチル基である化合物(III-e)は、例えばスキーム6に表す方法によって製造することができる。
[スキーム6]
【化10】
【0032】
化合物(III-e)は、3−アミノ−4−メチル安息香酸(XIX)をアセチル化し、続いてニトロ化して得た化合物(XX)を、水酸化カリウムで処理し得られたフェノール体をメチル化し、さらにパラジウム−炭素で還元して合成した化合物(XXII)を、スキーム3と同様に処理することにより製造できる。
なお、上記の方法を適宜組み合わせ、有機合成化学で通常用いられる方法(例えば、アミノ基のアルキル化反応、アルキルチオ基をスルホキシド基もしくはスルホン基へ酸化する反応、アルコキシ基をヒドロキシル基、もしくはその逆へ変換する反応)を実施することにより、所望の位置に所望の官能基を有する本発明の化合物(I)を得ることができる。
【0033】
[本発明の化合物(I)の用途]
本発明の化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、経口投与、非経口投与または局所的投与に適した従来の薬学製剤(医薬組成物)の形態に調製することができる。
経口投与のための製剤は、錠剤、顆粒、粉末、カプセルなどの固形剤、およびシロップなどの液体製剤を含む。これらの製剤は従来の方法によって調製することができる。固形剤は、ラクトース、コーンスターチなどのデンプン、微結晶性セルロースなどの結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルシウムカルボキシメチルセルロース、タルク、ステアリン酸マグネシウムなどのような従来の薬学的担体を用いることによって調製することができる。カプセルは、このように調製した顆粒または粉末をカプセルに包むことによって調製することができる。シロップは、ショ糖、カルボキシメチルセルロースなどを含む水溶液中で、本発明の化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を溶解または懸濁することによって調製することができる。
【0034】
非経口投与のための製剤は、点滴注入などの注入物を含む。注入製剤もまた従来の方法によって調製することができ、等張化剤(例えば、マンニトール、塩化ナトリウム、グルコース、ソルビトール、グリセロール、キシリトール、フルクトース、マルトース、マンノース)、安定化剤(例えば、亜硫酸ナトリウム、アルブミン)、防腐剤(例えば、ベンジルアルコール、p−オキシ安息香酸メチル)中に適宜組み入れることができる。
【0035】
本発明の化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の用量は、疾患の重症度、患者の年齢および体重、投薬形態などに従って変化させることができるが、通常は成人において1日あたり1mg〜1,000mgの範囲であり、それは経口経路または非経口経路によって、1回、または2回もしくは3回に分割して投与することができる。
また、本発明の化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、Wnt/β-カテニンシグナル経路阻害剤として、実験用、研究用の試薬として用いることもできる。
また、本発明の化合物(I)を放射性標識した化合物は、PET用分子プローブとしても用いることもできる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例および試験例などを挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
化合物の同定は水素核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)およびマススペクトル(MS)により行った。1H−NMRは、特に指示のないかぎりは400MHzで測定されたものであり、また化合物および測定条件によっては交換性水素が明瞭に観測されない場合がある。なお、br.は幅広いシグナル(ブロード)を意味する。
HPLC分取クロマトグラフィーは、市販のODSカラムを用い、特に記載のない限りは水/メタノール(ギ酸を含む)を溶出液としてグラジェントモードにて分取した。
【0037】
参考例1
2−クロロキナゾリン−8−オールの製造
【化11】
2−クロロ−8−メトキシキナゾリン(8.85g,45.0mmol)のDCM溶液(91mL)に氷冷下、三臭化ホウ素(1M/DCM、100mL)を滴下したのち、混合物を室温で16時間攪拌した。反応混合物を−5℃に冷却して析出した固体を濾取し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄して、2−クロロキナゾリン−8−オールの粗生成物を5.84g得た。
H−NMR(DMSO-d6) δ(ppm): 10.58 (s, 1H), 9.53 (s, 1H), 7.6-7.65 (m, 2H), 7.36-7.42 (m, 1H);
LC−MS(m/z) 181.0 [M+H]+.
【0038】
参考例2
trans−4−tert−ブチルジメチルシリルオキシシクロヘキシル メタンスルホネートの製造
【化12】
(第1工程)
trans−シクロヘキサン−1,4−ジオール(5.00g,43.0mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン(0.27g,2.21mmol)のDMF溶液(45mL)に、氷冷下でトリエチルアミン(6mL,43.0mmol)及びtert−ブチルジメチルシリルクロリド(6.49g,43.0mmol)を加え、混合物を室温で25分間攪拌した。反応溶液を酢酸エチルで希釈したのち、水で2回洗浄して得られた有機層を、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去して得られた残渣を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)で精製して、trans−4−tert−ブチルジメチルシリルオキシシクロヘキサノール(5.32g)を得た。
H−NMR(DMSO-d6) δ(ppm): 4.45 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 3.54-3.66 (m, 1H), 3.36-3.46 (m, 1H), 1.7-1.8 (m, 4H), 1.12-1.3 (m, 4H), 0.84 (s, 9H), 0.02 (s, 6H).
【0039】
(第2工程)
trans−4−tert−ブチルジメチルシリルオキシシクロヘキサノール(5.32g,23.1mmol)及びトリエチルアミン(3.85mL,27.7mmol)のDCM溶液 (77mL)に、氷冷下で、塩化メタンスルホニル(1.97mL,25.4mmol)を滴下したのち、室温で16時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止したのち、反応混合物をクロロホルムで2回抽出した。得られた有機層を合わせ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)で精製して、標記化合物(6.71g)を得た。
H−NMR(DMSO-d6) δ(ppm): 4.6-4.7 (m, 1H), 3.7-3.8 (m, 1H), 3.16 (s, 3H), 1.92-2.0 (m, 2H), 1.7-1.8 (m, 2H), 1.5-1.65 (m, 2H), 1.32-1.45 (m, 2H), 0.86 (s, 9H), 0.04 (s, 6H).
【0040】
実施例1
cis−4−({2−[(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)アミノ]キナゾリン−8−イル}オキシ)シクロヘキサノールの製造
【化13】
【0041】
(第1工程)
参考例1の化合物(0.97g,5.26mmol)及び1H−ベンズイミダゾール−6−アミン(0.70g,5.26mmol)の2−プロパノール溶液(15mL)を、100−110℃で16時間攪拌した。室温まで冷却後、析出した固体を濾取し、2−プロパノールで洗浄後、乾燥させて、2−[(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)アミノ]キナゾリン−8−オール(1.07g)を得た。
H−NMR(DMSO-d6) δ(ppm): 10.31 (s, 1H), 9.6-9.75 (br, 1H), 9.50 (s, 1H), 9.31 (s, 1H), 8.98 (d, J = 1.1 Hz, 1H), 7.96 (dd, J = 9.0, 1.7 Hz, 1H), 7.76 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.42 (dd, J = 7.5, 1.1 Hz, 1H), 7.2-7.35 (m, 2H);
LC−MS(m/z) 278.2 [M+H]+.
【0042】
(第2工程)
2−[(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)アミノ]キナゾリン−8−オール(1.50g,5.41mmol)及び参考例2の化合物(2.50g, 8.12mmol)のDMSO懸濁液(40mL)に炭酸セシウム(5.45g,16.78mmol)を加えたのち、130℃で1時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチル(50mL)およびTHF(50mL)で希釈し、続いて氷水(25mL)を加えた。有機層を分離し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)で精製して、N−(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)−8−({cis−4−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ)クロヘキシル]オキシ}キナゾリン−2−アミン(1.16g)を得た。
H−NMR(DMSO-d6) δ(ppm): 11.99-12.32 (m, 1H), 9.72-9.90 (m, 1H), 9.16-9.31 (m, 1H), 8.28-8.37 (m, 1H), 7.99-8.18 (m, 2H), 7.38-7.63 (m, 2H), 7.30-7.38 (m, 1H), 7.16-7.30 (m, 1H), 4.76 (br, 1H), 3.84 (br, 1H), 1.92-2.07 (m, 2H), 1.67-1.91 (m, 4H), 1.56-1.67 (m, 2H), 0.87 (s, 9H), 0.06 (s, 6H);
LC−MS(m/z) 490.2 [M+H]+.
【0043】
(第3工程)
N−(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)−8−({cis−4−[(tert−ブチルジメチルシリ)ル]オキシ}シクロヘキシル)オキシ)キナゾリン−2−アミン(4.0g,8.18mmol)の1,4−ジオキサン溶液(20mL)に、0℃で4N−HCl/1,4−ジオキサン(20mL)を加えた後、室温で1時間攪拌した。溶媒を減圧下留去して得られた残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(25mL)を加えた。析出した固体を濾取し、酢酸エチル(20mL)で洗浄後、乾燥して、標記化合物(2.0g)を得た。
H−NMR(DMSO-d6) δ(ppm): 12.29-12.54 (m, 1H), 9.73-10.0 (m, 1H), 9.15-9.3 (m, 1H), 8.65-9.11 (m, 1H), 7.98-8.27 (m, 1H), 7.52-7.69 (m, 2H), 7.4-7.52 (m, 1H), 7.36 (dd, J = 7.9, 1.2 Hz, 1H), 7.26 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 5.51-5.9 (m, 1H), 4.88 (s, 1H), 3.45-3.85 (m, 1H), 1.82-2.13 (m, 4H), 1.49-1.85 (m, 4H);
LC−MS(m/z) 376.2 [M+H]+.
【0044】
実施例2〜46
以下の実施例化合物[表1]は、それぞれ対応する原料(市販品、または市販化合物から公知の方法もしくはそれに準じた方法により誘導体化した化合物)を用い、上述の実施例記載の方法に従い、必要に応じて、有機合成化学で通常用いられる方法を適宜組み合わせて製造した。
【0045】
また、各々の化合物の物理化学データを[表2]に示した。
【表1】








【表2】









実施例47
cis−4−({2−[(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)アミノ]キナゾリン−8−イル}オキシ)シクロヘキサノール塩酸塩の製造
【化14】

実施例1の化合物(19.3g,51.4mmol)に0.2M塩酸−エタノール(273mL,51.4mmol)を加えて、35〜50℃で24時間撹拌した。室温まで冷却後、析出物を濾取し、少量のエタノールで洗浄し、乾燥して、標記化合物(18.0g)を得た。
H−NMR(DMSO-d6) δ(ppm): 10.34 (s, 1H), 9.48 (s, 1H), 9.33 (s, 1H), 8.91 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 8.13 (dd, J = 9.1, 1.9 Hz, 1H), 7.82 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.50 (dd, J = 8.0, 1.2Hz, 1H), 7.42 (dd, J = 8.0, 0.9 Hz, 1H), 7.34 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 4.78 - 4.95 (m, 1H), 3.69 - 3.85 (m, 1H), 1.96 - 2.11 (m, 2H), 1.81 - 1.96 (m, 2H), 1.60 - 1.83 (m, 4H); LC-MS (m/z) 376.0 [M+H]+;融点 241.6℃ (onset).
【0046】
試験例1 Wnt/β-カテニンシグナルの阻害活性評価
本発明の化合物のWnt/β-カテニンシグナル経路阻害活性の評価は、Wnt3aリガンドによって活性化されるWnt/β-カテニンシグナル経路に対する本発明の化合物の阻害活性を、市販のTCF−ルシフェラーゼレポータージーンアッセイシステムを用いて評価した。
(使用する細胞の培養)
HEK293細胞(ATCC社No.CRL−1573)は、T75フラスコ中、10%FBS(AusGene社)および1%ペニシリンストレプトマイシン(ナカライ社)を添加したDMEM培地(ナカライ社No.08459−35)を用いて5%COインキュベーター内で培養した。
【0047】
(レポータージーンのトランスフェクションおよび被験化合物の添加)
培養したHEK293細胞を細胞密度2×105cells/mLになるように、10%FBSのみを添加したDMEM培地で希釈して、96ウェルプレート(PerkinElmer社 ViewPlate No.6005181)の各ウェルに100μLずつ播種後、5%COインキュベーター内で一晩培養した。OptiMEM培地(Invitrogen No.11058)に、pGL4.49[luc2P/TCF−LEF−RE/Hygro]プラスミドDNA(Promega)およびFugeneHD(Promega No.E2691)を各々1μg/mLおよび3μL/mLになるように添加して、試薬添付プロトコール通りにトランスフェクション溶液を作成した。一晩培養したHEK293細胞の各ウェルに、トランスフェクション溶液を100μLずつ静かに添加し5%COインキュベーター内で一晩培養してトランスフェクションを行った。
DMEM培地に、0.5% Charcoal/dextran treated Fetal Bovine Serum(Thermo Scientific No.SH30068.02)及びLiCl(SIGMA ALDRICH No.L9650)を加え、LiCl含有培地(LiClの最終濃度10mM)を作成した。一晩培養してレポータージーンをトランスフェクションしたHEK293細胞の各ウェルの培地をデカンテーションで除き、各ウェルにLiCl含有培地(90μL)を静かに添加し、5%COインキュベーター内で一晩培養した。
【0048】
試験濃度の10倍になるように、被験化合物のDMSOストック溶液をLiCl含有培地で100倍希釈して被験化合物溶液を作成した。また、Recombinant Mouse Wnt−3a (R&D Systems #1324−WN)を40μg/mLとなるように0.1%BSA−PBS溶液に溶解し、さらにLiCl含有培地で100ng/mLに希釈して、Wnt−3a溶液を作成した。LiCl含有培地で一晩培養した上記HEK293細胞の各ウェルに、被験化合物溶液を10μLずつ添加して、5%COインキュベーター内で2時間培養したのち(被験化合物の最終濃度3〜0.03μM)、各ウェルにWnt3a溶液を10μLずつ添加して、さらに5時間培養した。
【0049】
(ルシフェラーゼ活性の測定)
ONE-GloTM Luciferase Assay System(Promega No.E6110)を用い、マイクロプレートリーダー(SynergyH1、BioTek社)で各ウェルのルシフェラーゼ活性を測定した。化合物非添加かつWnt3a刺激群の発光強度を100%、化合物非添加かつWnt3a無刺激群の発光強度を0%として、各化合物濃度における発光強度からIC50値を求めた。
【0050】
(評価結果)
本発明化合物は、TCF−ルシフェラーゼレポータージーンアッセイにおいて、強い阻害活性を示した。本発明の代表化合物のTCF−ルシフェラーゼレポータージーンアッセイにおける阻害活性を表3に示す。TCF−ルシフェラーゼレポータージーンアッセイでの阻害作用は、IC50値が、0.3μM未満を***印、0.3μM以上1μM未満を**印、1μM以上3μM未満を*印で示した。
【表3】
この結果は、本発明の化合物(I)が、強いWnt/β-カテニンシグナル経路阻害活性を有することを示している。
【0051】
試験例2 Wnt/β-カテニンシグナル下流遺伝子の発現量変化の検討
本発明の化合物のWnt/β-カテニンシグナル活性に及ぼす作用を、リアルタイムPCR法を用い、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的遺伝子の発現量変化を指標に検討した。
(使用する細胞の培養)
RPMI−1640培地(ナカライ社)に、10%FBS(AusGene社)および1%ペニシリンストレプトマイシン(ナカライ社)を添加して、細胞培養培地を調整した(以降、培地1)。HCT116細胞(ATCC社No.CCL−247)を、T75フラスコ中、培地1を用いて5%COインキュベーター内で培養した。
【0052】
(被験化合物の添加)
培養したHCT116細胞を細胞密度1.1×10cells/mLになるように、培地1で希釈して、T75フラスコに13.5mL播種後、5%COインキュベーター内で一晩培養した。翌日、この細胞溶液に、被験化合物の10及び3mM DMSOストック溶液を培地1で100倍希釈した被験化合物溶液を1.5mL添加した(被験化合物の最終濃度:10および3μM)。その後、5%COインキュベーター内で24時間培養した。
(total RNAの抽出および逆転写反応液の調整)
培養上清を遠心操作して、浮遊している細胞をペレットとして回収した。このペレットおよびT75フラスコ内に付着した細胞を合わせ、RNeasy Plus Mini Kit(Qiagen No.74134)およびQIA shredder(Qiagen No.79654)を用い、キット添付のプロトコールに従い、total RNAを回収した。微量分光光度計(Nano Drop Thermo Fisher Scientific社 No.ND−1000)によりtotal RNA濃度を測定し、1μgのtotal RNAをReverTra Ace(R) qPCR RT Master Mix(TOYOBO社 No.FSQ−201)を用いて、試薬添付プロトコールに従って逆転写反応を行い、逆転写反応液を調整した。
(定量的RT−PCR法によるWntシグナル下流遺伝子の定量)
【0053】
1μLの逆転写反応液に、10μLのTaqMan(R) Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems No.4304437)及び1μLの遺伝子ごとのTaqMan(R) Gene Expression Assays(Applied Biosystems)(下記表4参照)、滅菌水(8μL)を加えて20μLとし、リアルタイムサーマルサイクラー(PRISM 7300 Sequence Detection system、Applied Biosystems社)を用いて、リアルタイムPCRを行った。PCR反応は96ウェルプレートを用い、50℃で2分間、さらに95℃で10分間インキュベーションしたのち、95℃で15秒間および60℃で1分間の加温を1サイクルとして、40サイクル繰り返した。結果は、内在性コントロール遺伝子(β−Actin)に対する標的遺伝子の発現の比として、DMSO群を基準として比較Ct法で算出した。
【0054】
【表4】

図1および図2に示す通り、実施例1の化合物は、HCT116細胞において、Wnt/β-カテニンシグナルの標的遺伝子であるAXIN2及びc−MYCの発現を濃度依存的に抑制した。以上のことから、本発明化合物によるWnt/β-カテニンシグナル経路の活性抑制が標的遺伝子の発現レベルで確認できた。
【0055】
試験例3 Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的タンパク質の発現量変化の検討
本発明の化合物のWnt/β-カテニンシグナル活性に及ぼす作用を、ウェスタンブロッティング法を用い、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的タンパク質の発現量変化を指標に検討した。
(被験化合物の添加)
試験例2と同様な方法で培養したHCT116細胞を細胞密度5×105cells/mLになるように、培地1で希釈して、T25フラスコに5mL播種後、5%COインキュベーター内で一晩培養した。翌日、被験化合物の10および3mM DMSOストック溶液を培地1で100倍希釈した被験化合物溶液を、最終溶液量の1/10量になるようにフラスコに添加した(被験化合物の最終濃度:10および3μM)。その後、5%COインキュベーター内で24時間培養した。
【0056】
(タンパク質の抽出)
培養上清を遠心操作して、浮遊している細胞をペレットとして細胞を回収した。フラスコに接着している細胞は、氷冷したPBS中でラバーポリスマンを用いて丁寧に剥がし取り、遠心操作してペレットとして回収した。これらのペレットを合わせ、氷冷したPBSで2回洗浄後、Lysisバッファー[Whole cell lysis buffer(アクティブ・モティフ社 Universal Magnetic Co−IP Kit #54002)に、5%Phosphatase inhibitors(同上)、1%Deacetylase Inhibitor(同上)および1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を添加したもの]を50μL添加し、軽く攪拌したのち30分間氷上に静置した。遠心操作(15,000rpm、10分間)により上清を回収し、タンパク質量を定量した。この上清から50μgのタンパク質量に相当する量を測りとり、SDS−サンプルバッファーと混合後、95℃で5分間反応させてタンパク質を変性させて、サンプル溶液とした。4−20%のグラジエントアクリルアミドゲル(コスモバイオ社、No.414879)の各ウェルにサンプル溶液をアプライし、電気泳動を行った。その後、iBlotゲルトランスファーシステム(ライフテクノロジーズ社)を用いてPVDF膜にゲル中のタンパク質を転写した。
【0057】
(AXIN2、c−MYCおよびβ−Actinの検出)
転写したPVDF膜を2%ECL prime blocking Reagent(GEヘルスケア社)でブロッキング処理した後、一次抗体として抗AXIN2ウサギ抗体(Cell signaling社、No.2151)、抗c−MYCウサギ抗体(Cell signaling社、No.5605)もしくは抗β−Actinマウス抗体(abcam社、No.ab6276)を用い、4℃で1晩反応させた。未反応の一次抗体をTBSTバッファー(10mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.1% Tween20)で洗浄後、二次抗体としてHRPラベルした抗ウサギIgGヤギ抗体(SantaCruz社、No.sc2004)あるいは抗マウスIgGヤギ抗体(ZYMED社、No.62−6520)を用い、2%ECL prime blocking Reagentを添加したTBSTバッファー中で、室温で1時間反応させた。未反応の二次抗体をTBSTバッファーで洗浄後、Chemi−Lumi One Super(ナカライ社)を用いて添付のプロトコールどおりに反応させた後、CCDカメラ(GEヘルスケア社、 ImageQuant LAS 500)を用いて、それぞれのバンドを化学発光で検出した。検出されたバンドをデンシトメトリー(GEヘルスケア社、 ImageQuant TL v8.1.0.0)により数値化し、DMSO添加群のバンドの発光を100%として、各群におけるバンドの強度から阻害率を算出した。なお、それぞれのバンドは、β−Actinのバンド強度により補正を行なった。
【0058】
本試験で用いた一次抗体と二次抗体の組み合わせおよび希釈濃度は表5の通りである。
【表5】
【0059】
図3及び表6に示す通り、実施例1の化合物は、HCT116細胞において、Wnt/β-カテニンシグナルの標的タンパク質であるAXIN2およびc−MYCの発現を濃度依存的に抑制した。以上のことから、本発明化合物によるWnt/β-カテニンシグナル経路の活性抑制が標的タンパク質の発現レベルで確認できた。
【表6】
【0060】
試験例4 ヒト由来がん細胞株のヌードマウス皮下移植モデルにおける抗腫瘍効果
本発明化合物の抗腫瘍効果を、Wntシグナル伝達経路が恒常的に活性化されている、ヒト由来大腸がん細胞株HCT116のヌードマウス皮下移植モデルを用いて検討した。
(担癌モデルの作製)
試験例2と同様に培養したHCT116細胞を細胞密度7.5×10個/mLになるようにD−PBS(ナカライテスク社)で調整し、その細胞懸濁液を15mLチューブ中で氷冷した。この細胞懸濁液に、細胞懸濁液の1/4量のマトリゲル(BD社)を加え、移植用細胞調製液を作製した。この移植用細胞調製液0.1mLを、BALB/c Slc−nu/nuマウス(雌、8週齢、日本エスエルシー社)の背部皮下に注射した。がん細胞を移植してから7日目に担癌マウスの腫瘍体積(下記計算式参照)の平均値が近似するように群分けを行った。
【0061】
(被験物質の投与用試料溶液の調製)
被験物質の投与用試料溶液は、各投与用量に合わせて、8mg/mLと4mg/mLの2種類の溶液を調製した。被験物質(512mg)を、DMSO(6.4mL,ナカライテスク社)に溶解させ、次いでポリエチレングリコール#400(28.8mL,ナカライテスク社)を加えて被験物質の保存液を作成し、使用当日まで遮光保存した。使用当日に保存液5.5mLをチューブに移し、30%(2−Hydroxypropyl)-β-cyclodextrin(HP−β−CD)水溶液(シグマアルドリッチ社)を4.5mL加えて、8mg/mLの投与用試料溶液を作製した。この溶液を、DMSO、ポリエチレングリコール#400および30%HP−β−CD水溶液の混合液(1:4.5:4.5)で2倍希釈して、4mg/mLの投与用試料溶液を作製した。
【0062】
(被験物質の抗腫瘍効果試験)
がん細胞を移植した各マウス(各群9匹)に、それぞれの当日の体重から求めた投与量の被験物質を、1日2回(6時間間隔以上)、計14日間の強制経口投与を行なった。各マウスの腫瘍体積を以下の式を用いて算出し、相対腫瘍体積比を指標として抗腫瘍効果を評価した。
【数1】

図4に示すように、本発明化合物である実施例1の化合物は、用量依存的に有意な腫瘍増殖抑制を示し、最終投与日のTGI%は、40mg/kgにおいて42%、80mg/kgにおいて70%であった。このことから、本発明化合物がWntシグナル経路の活性を抑制し、Wntシグナルが恒常的に活性化されている癌の治療において有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により提供される化合物は、Wnt/β-カテニンシグナル経路を介した異常な細胞応答に関連していることが知られている疾患、特にがんの治療に有用であり、また、がん幹細胞を標的とした腫瘍の転移及び再発予防にも有用である。また、Wnt/β-カテニンシグナル経路阻害剤として、実験用、研究用の試薬に有用である。
図1
図2
図3
図4