【実施例】
【0036】
以下に実施例および試験例などを挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
化合物の同定は水素核磁気共鳴スペクトル(
1H−NMR)およびマススペクトル(MS)により行った。
1H−NMRは、特に指示のないかぎりは400MHzで測定されたものであり、また化合物および測定条件によっては交換性水素が明瞭に観測されない場合がある。なお、br.は幅広いシグナル(ブロード)を意味する。
HPLC分取クロマトグラフィーは、市販のODSカラムを用い、特に記載のない限りは水/メタノール(ギ酸を含む)を溶出液としてグラジェントモードにて分取した。
【0037】
参考例1
2−クロロキナゾリン−8−オールの製造
【化11】
2−クロロ−8−メトキシキナゾリン(8.85g,45.0mmol)のDCM溶液(91mL)に氷冷下、三臭化ホウ素(1M/DCM、100mL)を滴下したのち、混合物を室温で16時間攪拌した。反応混合物を−5℃に冷却して析出した固体を濾取し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄して、2−クロロキナゾリン−8−オールの粗生成物を5.84g得た。
1H−NMR(DMSO-d
6) δ(ppm): 10.58 (s, 1H), 9.53 (s, 1H), 7.6-7.65 (m, 2H), 7.36-7.42 (m, 1H);
LC−MS(m/z) 181.0 [M+H]
+.
【0038】
参考例2
trans−4−tert−ブチルジメチルシリルオキシシクロヘキシル メタンスルホネートの製造
【化12】
(第1工程)
trans−シクロヘキサン−1,4−ジオール(5.00g,43.0mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン(0.27g,2.21mmol)のDMF溶液(45mL)に、氷冷下でトリエチルアミン(6mL,43.0mmol)及びtert−ブチルジメチルシリルクロリド(6.49g,43.0mmol)を加え、混合物を室温で25分間攪拌した。反応溶液を酢酸エチルで希釈したのち、水で2回洗浄して得られた有機層を、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去して得られた残渣を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)で精製して、trans−4−tert−ブチルジメチルシリルオキシシクロヘキサノール(5.32g)を得た。
1H−NMR(DMSO-d6) δ(ppm): 4.45 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 3.54-3.66 (m, 1H), 3.36-3.46 (m, 1H), 1.7-1.8 (m, 4H), 1.12-1.3 (m, 4H), 0.84 (s, 9H), 0.02 (s, 6H).
【0039】
(第2工程)
trans−4−tert−ブチルジメチルシリルオキシシクロヘキサノール(5.32g,23.1mmol)及びトリエチルアミン(3.85mL,27.7mmol)のDCM溶液 (77mL)に、氷冷下で、塩化メタンスルホニル(1.97mL,25.4mmol)を滴下したのち、室温で16時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止したのち、反応混合物をクロロホルムで2回抽出した。得られた有機層を合わせ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)で精製して、標記化合物(6.71g)を得た。
1H−NMR(DMSO-d
6) δ(ppm): 4.6-4.7 (m, 1H), 3.7-3.8 (m, 1H), 3.16 (s, 3H), 1.92-2.0 (m, 2H), 1.7-1.8 (m, 2H), 1.5-1.65 (m, 2H), 1.32-1.45 (m, 2H), 0.86 (s, 9H), 0.04 (s, 6H).
【0040】
実施例1
cis−4−({2−[(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)アミノ]キナゾリン−8−イル}オキシ)シクロヘキサノールの製造
【化13】
【0041】
(第1工程)
参考例1の化合物(0.97g,5.26mmol)及び1H−ベンズイミダゾール−6−アミン(0.70g,5.26mmol)の2−プロパノール溶液(15mL)を、100−110℃で16時間攪拌した。室温まで冷却後、析出した固体を濾取し、2−プロパノールで洗浄後、乾燥させて、2−[(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)アミノ]キナゾリン−8−オール(1.07g)を得た。
1H−NMR(DMSO-d
6) δ(ppm): 10.31 (s, 1H), 9.6-9.75 (br, 1H), 9.50 (s, 1H), 9.31 (s, 1H), 8.98 (d, J = 1.1 Hz, 1H), 7.96 (dd, J = 9.0, 1.7 Hz, 1H), 7.76 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.42 (dd, J = 7.5, 1.1 Hz, 1H), 7.2-7.35 (m, 2H);
LC−MS(m/z) 278.2 [M+H]
+.
【0042】
(第2工程)
2−[(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)アミノ]キナゾリン−8−オール(1.50g,5.41mmol)及び参考例2の化合物(2.50g, 8.12mmol)のDMSO懸濁液(40mL)に炭酸セシウム(5.45g,16.78mmol)を加えたのち、130℃で1時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチル(50mL)およびTHF(50mL)で希釈し、続いて氷水(25mL)を加えた。有機層を分離し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル)で精製して、N−(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)−8−({cis−4−[(tert−ブチルジメチルシリル)オキシ)クロヘキシル]オキシ}キナゾリン−2−アミン(1.16g)を得た。
1H−NMR(DMSO-d
6) δ(ppm): 11.99-12.32 (m, 1H), 9.72-9.90 (m, 1H), 9.16-9.31 (m, 1H), 8.28-8.37 (m, 1H), 7.99-8.18 (m, 2H), 7.38-7.63 (m, 2H), 7.30-7.38 (m, 1H), 7.16-7.30 (m, 1H), 4.76 (br, 1H), 3.84 (br, 1H), 1.92-2.07 (m, 2H), 1.67-1.91 (m, 4H), 1.56-1.67 (m, 2H), 0.87 (s, 9H), 0.06 (s, 6H);
LC−MS(m/z) 490.2 [M+H]
+.
【0043】
(第3工程)
N−(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)−8−({cis−4−[(tert−ブチルジメチルシリ)ル]オキシ}シクロヘキシル)オキシ)キナゾリン−2−アミン(4.0g,8.18mmol)の1,4−ジオキサン溶液(20mL)に、0℃で4N−HCl/1,4−ジオキサン(20mL)を加えた後、室温で1時間攪拌した。溶媒を減圧下留去して得られた残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(25mL)を加えた。析出した固体を濾取し、酢酸エチル(20mL)で洗浄後、乾燥して、標記化合物(2.0g)を得た。
1H−NMR(DMSO-d
6) δ(ppm): 12.29-12.54 (m, 1H), 9.73-10.0 (m, 1H), 9.15-9.3 (m, 1H), 8.65-9.11 (m, 1H), 7.98-8.27 (m, 1H), 7.52-7.69 (m, 2H), 7.4-7.52 (m, 1H), 7.36 (dd, J = 7.9, 1.2 Hz, 1H), 7.26 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 5.51-5.9 (m, 1H), 4.88 (s, 1H), 3.45-3.85 (m, 1H), 1.82-2.13 (m, 4H), 1.49-1.85 (m, 4H);
LC−MS(m/z) 376.2 [M+H]
+.
【0044】
実施例2〜46
以下の実施例化合物[表1]は、それぞれ対応する原料(市販品、または市販化合物から公知の方法もしくはそれに準じた方法により誘導体化した化合物)を用い、上述の実施例記載の方法に従い、必要に応じて、有機合成化学で通常用いられる方法を適宜組み合わせて製造した。
【0045】
また、各々の化合物の物理化学データを[表2]に示した。
【表1】
【表2】
実施例47
cis−4−({2−[(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−6−イル)アミノ]キナゾリン−8−イル}オキシ)シクロヘキサノール塩酸塩の製造
【化14】
実施例1の化合物(19.3g,51.4mmol)に0.2M塩酸−エタノール(273mL,51.4mmol)を加えて、35〜50℃で24時間撹拌した。室温まで冷却後、析出物を濾取し、少量のエタノールで洗浄し、乾燥して、標記化合物(18.0g)を得た。
1H−NMR(DMSO-d
6) δ(ppm): 10.34 (s, 1H), 9.48 (s, 1H), 9.33 (s, 1H), 8.91 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 8.13 (dd, J = 9.1, 1.9 Hz, 1H), 7.82 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.50 (dd, J = 8.0, 1.2Hz, 1H), 7.42 (dd, J = 8.0, 0.9 Hz, 1H), 7.34 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 4.78 - 4.95 (m, 1H), 3.69 - 3.85 (m, 1H), 1.96 - 2.11 (m, 2H), 1.81 - 1.96 (m, 2H), 1.60 - 1.83 (m, 4H); LC-MS (m/z) 376.0 [M+H]
+;融点 241.6℃ (onset).
【0046】
試験例1 Wnt/β-カテニンシグナルの阻害活性評価
本発明の化合物のWnt/β-カテニンシグナル経路阻害活性の評価は、Wnt3aリガンドによって活性化されるWnt/β-カテニンシグナル経路に対する本発明の化合物の阻害活性を、市販のTCF−ルシフェラーゼレポータージーンアッセイシステムを用いて評価した。
(使用する細胞の培養)
HEK293細胞(ATCC社No.CRL−1573)は、T75フラスコ中、10%FBS(AusGene社)および1%ペニシリンストレプトマイシン(ナカライ社)を添加したDMEM培地(ナカライ社No.08459−35)を用いて5%CO
2インキュベーター内で培養した。
【0047】
(レポータージーンのトランスフェクションおよび被験化合物の添加)
培養したHEK293細胞を細胞密度2×10
5cells/mLになるように、10%FBSのみを添加したDMEM培地で希釈して、96ウェルプレート(PerkinElmer社 ViewPlate No.6005181)の各ウェルに100μLずつ播種後、5%CO
2インキュベーター内で一晩培養した。OptiMEM培地(Invitrogen No.11058)に、pGL4.49[luc2P/TCF−LEF−RE/Hygro]プラスミドDNA(Promega)およびFugeneHD(Promega No.E2691)を各々1μg/mLおよび3μL/mLになるように添加して、試薬添付プロトコール通りにトランスフェクション溶液を作成した。一晩培養したHEK293細胞の各ウェルに、トランスフェクション溶液を100μLずつ静かに添加し5%CO
2インキュベーター内で一晩培養してトランスフェクションを行った。
DMEM培地に、0.5% Charcoal/dextran treated Fetal Bovine Serum(Thermo Scientific No.SH30068.02)及びLiCl(SIGMA ALDRICH No.L9650)を加え、LiCl含有培地(LiClの最終濃度10mM)を作成した。一晩培養してレポータージーンをトランスフェクションしたHEK293細胞の各ウェルの培地をデカンテーションで除き、各ウェルにLiCl含有培地(90μL)を静かに添加し、5%CO
2インキュベーター内で一晩培養した。
【0048】
試験濃度の10倍になるように、被験化合物のDMSOストック溶液をLiCl含有培地で100倍希釈して被験化合物溶液を作成した。また、Recombinant Mouse Wnt−3a (R&D Systems #1324−WN)を40μg/mLとなるように0.1%BSA−PBS溶液に溶解し、さらにLiCl含有培地で100ng/mLに希釈して、Wnt−3a溶液を作成した。LiCl含有培地で一晩培養した上記HEK293細胞の各ウェルに、被験化合物溶液を10μLずつ添加して、5%CO
2インキュベーター内で2時間培養したのち(被験化合物の最終濃度3〜0.03μM)、各ウェルにWnt3a溶液を10μLずつ添加して、さらに5時間培養した。
【0049】
(ルシフェラーゼ活性の測定)
ONE-Glo
TM Luciferase Assay System(Promega No.E6110)を用い、マイクロプレートリーダー(SynergyH1、BioTek社)で各ウェルのルシフェラーゼ活性を測定した。化合物非添加かつWnt3a刺激群の発光強度を100%、化合物非添加かつWnt3a無刺激群の発光強度を0%として、各化合物濃度における発光強度からIC
50値を求めた。
【0050】
(評価結果)
本発明化合物は、TCF−ルシフェラーゼレポータージーンアッセイにおいて、強い阻害活性を示した。本発明の代表化合物のTCF−ルシフェラーゼレポータージーンアッセイにおける阻害活性を表3に示す。TCF−ルシフェラーゼレポータージーンアッセイでの阻害作用は、IC
50値が、0.3μM未満を***印、0.3μM以上1μM未満を**印、1μM以上3μM未満を*印で示した。
【表3】
この結果は、本発明の化合物(I)が、強いWnt/β-カテニンシグナル経路阻害活性を有することを示している。
【0051】
試験例2 Wnt/β-カテニンシグナル下流遺伝子の発現量変化の検討
本発明の化合物のWnt/β-カテニンシグナル活性に及ぼす作用を、リアルタイムPCR法を用い、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的遺伝子の発現量変化を指標に検討した。
(使用する細胞の培養)
RPMI−1640培地(ナカライ社)に、10%FBS(AusGene社)および1%ペニシリンストレプトマイシン(ナカライ社)を添加して、細胞培養培地を調整した(以降、培地1)。HCT116細胞(ATCC社No.CCL−247)を、T75フラスコ中、培地1を用いて5%CO
2インキュベーター内で培養した。
【0052】
(被験化合物の添加)
培養したHCT116細胞を細胞密度1.1×10
5cells/mLになるように、培地1で希釈して、T75フラスコに13.5mL播種後、5%CO
2インキュベーター内で一晩培養した。翌日、この細胞溶液に、被験化合物の10及び3mM DMSOストック溶液を培地1で100倍希釈した被験化合物溶液を1.5mL添加した(被験化合物の最終濃度:10および3μM)。その後、5%CO
2インキュベーター内で24時間培養した。
(total RNAの抽出および逆転写反応液の調整)
培養上清を遠心操作して、浮遊している細胞をペレットとして回収した。このペレットおよびT75フラスコ内に付着した細胞を合わせ、RNeasy Plus Mini Kit(Qiagen No.74134)およびQIA shredder(Qiagen No.79654)を用い、キット添付のプロトコールに従い、total RNAを回収した。微量分光光度計(Nano Drop Thermo Fisher Scientific社 No.ND−1000)によりtotal RNA濃度を測定し、1μgのtotal RNAをReverTra Ace(R) qPCR RT Master Mix(TOYOBO社 No.FSQ−201)を用いて、試薬添付プロトコールに従って逆転写反応を行い、逆転写反応液を調整した。
(定量的RT−PCR法によるWntシグナル下流遺伝子の定量)
【0053】
1μLの逆転写反応液に、10μLのTaqMan(R) Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems No.4304437)及び1μLの遺伝子ごとのTaqMan(R) Gene Expression Assays(Applied Biosystems)(下記表4参照)、滅菌水(8μL)を加えて20μLとし、リアルタイムサーマルサイクラー(PRISM 7300 Sequence Detection system、Applied Biosystems社)を用いて、リアルタイムPCRを行った。PCR反応は96ウェルプレートを用い、50℃で2分間、さらに95℃で10分間インキュベーションしたのち、95℃で15秒間および60℃で1分間の加温を1サイクルとして、40サイクル繰り返した。結果は、内在性コントロール遺伝子(β−Actin)に対する標的遺伝子の発現の比として、DMSO群を基準として比較Ct法で算出した。
【0054】
【表4】
図1および
図2に示す通り、実施例1の化合物は、HCT116細胞において、Wnt/β-カテニンシグナルの標的遺伝子であるAXIN2及びc−MYCの発現を濃度依存的に抑制した。以上のことから、本発明化合物によるWnt/β-カテニンシグナル経路の活性抑制が標的遺伝子の発現レベルで確認できた。
【0055】
試験例3 Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的タンパク質の発現量変化の検討
本発明の化合物のWnt/β-カテニンシグナル活性に及ぼす作用を、ウェスタンブロッティング法を用い、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的タンパク質の発現量変化を指標に検討した。
(被験化合物の添加)
試験例2と同様な方法で培養したHCT116細胞を細胞密度5×10
5cells/mLになるように、培地1で希釈して、T25フラスコに5mL播種後、5%CO
2インキュベーター内で一晩培養した。翌日、被験化合物の10および3mM DMSOストック溶液を培地1で100倍希釈した被験化合物溶液を、最終溶液量の1/10量になるようにフラスコに添加した(被験化合物の最終濃度:10および3μM)。その後、5%CO
2インキュベーター内で24時間培養した。
【0056】
(タンパク質の抽出)
培養上清を遠心操作して、浮遊している細胞をペレットとして細胞を回収した。フラスコに接着している細胞は、氷冷したPBS中でラバーポリスマンを用いて丁寧に剥がし取り、遠心操作してペレットとして回収した。これらのペレットを合わせ、氷冷したPBSで2回洗浄後、Lysisバッファー[Whole cell lysis buffer(アクティブ・モティフ社 Universal Magnetic Co−IP Kit #54002)に、5%Phosphatase inhibitors(同上)、1%Deacetylase Inhibitor(同上)および1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を添加したもの]を50μL添加し、軽く攪拌したのち30分間氷上に静置した。遠心操作(15,000rpm、10分間)により上清を回収し、タンパク質量を定量した。この上清から50μgのタンパク質量に相当する量を測りとり、SDS−サンプルバッファーと混合後、95℃で5分間反応させてタンパク質を変性させて、サンプル溶液とした。4−20%のグラジエントアクリルアミドゲル(コスモバイオ社、No.414879)の各ウェルにサンプル溶液をアプライし、電気泳動を行った。その後、iBlotゲルトランスファーシステム(ライフテクノロジーズ社)を用いてPVDF膜にゲル中のタンパク質を転写した。
【0057】
(AXIN2、c−MYCおよびβ−Actinの検出)
転写したPVDF膜を2%ECL prime blocking Reagent(GEヘルスケア社)でブロッキング処理した後、一次抗体として抗AXIN2ウサギ抗体(Cell signaling社、No.2151)、抗c−MYCウサギ抗体(Cell signaling社、No.5605)もしくは抗β−Actinマウス抗体(abcam社、No.ab6276)を用い、4℃で1晩反応させた。未反応の一次抗体をTBSTバッファー(10mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.1% Tween20)で洗浄後、二次抗体としてHRPラベルした抗ウサギIgGヤギ抗体(SantaCruz社、No.sc2004)あるいは抗マウスIgGヤギ抗体(ZYMED社、No.62−6520)を用い、2%ECL prime blocking Reagentを添加したTBSTバッファー中で、室温で1時間反応させた。未反応の二次抗体をTBSTバッファーで洗浄後、Chemi−Lumi One Super(ナカライ社)を用いて添付のプロトコールどおりに反応させた後、CCDカメラ(GEヘルスケア社、 ImageQuant LAS 500)を用いて、それぞれのバンドを化学発光で検出した。検出されたバンドをデンシトメトリー(GEヘルスケア社、 ImageQuant TL v8.1.0.0)により数値化し、DMSO添加群のバンドの発光を100%として、各群におけるバンドの強度から阻害率を算出した。なお、それぞれのバンドは、β−Actinのバンド強度により補正を行なった。
【0058】
本試験で用いた一次抗体と二次抗体の組み合わせおよび希釈濃度は表5の通りである。
【表5】
【0059】
図3及び表6に示す通り、実施例1の化合物は、HCT116細胞において、Wnt/β-カテニンシグナルの標的タンパク質であるAXIN2およびc−MYCの発現を濃度依存的に抑制した。以上のことから、本発明化合物によるWnt/β-カテニンシグナル経路の活性抑制が標的タンパク質の発現レベルで確認できた。
【表6】
【0060】
試験例4 ヒト由来がん細胞株のヌードマウス皮下移植モデルにおける抗腫瘍効果
本発明化合物の抗腫瘍効果を、Wntシグナル伝達経路が恒常的に活性化されている、ヒト由来大腸がん細胞株HCT116のヌードマウス皮下移植モデルを用いて検討した。
(担癌モデルの作製)
試験例2と同様に培養したHCT116細胞を細胞密度7.5×10
7個/mLになるようにD−PBS(ナカライテスク社)で調整し、その細胞懸濁液を15mLチューブ中で氷冷した。この細胞懸濁液に、細胞懸濁液の1/4量のマトリゲル(BD社)を加え、移植用細胞調製液を作製した。この移植用細胞調製液0.1mLを、BALB/c Slc−nu/nuマウス(雌、8週齢、日本エスエルシー社)の背部皮下に注射した。がん細胞を移植してから7日目に担癌マウスの腫瘍体積(下記計算式参照)の平均値が近似するように群分けを行った。
【0061】
(被験物質の投与用試料溶液の調製)
被験物質の投与用試料溶液は、各投与用量に合わせて、8mg/mLと4mg/mLの2種類の溶液を調製した。被験物質(512mg)を、DMSO(6.4mL,ナカライテスク社)に溶解させ、次いでポリエチレングリコール#400(28.8mL,ナカライテスク社)を加えて被験物質の保存液を作成し、使用当日まで遮光保存した。使用当日に保存液5.5mLをチューブに移し、30%(2−Hydroxypropyl)-β-cyclodextrin(HP−β−CD)水溶液(シグマアルドリッチ社)を4.5mL加えて、8mg/mLの投与用試料溶液を作製した。この溶液を、DMSO、ポリエチレングリコール#400および30%HP−β−CD水溶液の混合液(1:4.5:4.5)で2倍希釈して、4mg/mLの投与用試料溶液を作製した。
【0062】
(被験物質の抗腫瘍効果試験)
がん細胞を移植した各マウス(各群9匹)に、それぞれの当日の体重から求めた投与量の被験物質を、1日2回(6時間間隔以上)、計14日間の強制経口投与を行なった。各マウスの腫瘍体積を以下の式を用いて算出し、相対腫瘍体積比を指標として抗腫瘍効果を評価した。
【数1】
図4に示すように、本発明化合物である実施例1の化合物は、用量依存的に有意な腫瘍増殖抑制を示し、最終投与日のTGI%は、40mg/kgにおいて42%、80mg/kgにおいて70%であった。このことから、本発明化合物がWntシグナル経路の活性を抑制し、Wntシグナルが恒常的に活性化されている癌の治療において有用であることが確認された。