特許第6492035号(P6492035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492035
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】粒子状物質検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/06 20060101AFI20190318BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20190318BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20190318BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   G01N15/06 D
   G01N27/04 Z
   F01N3/023 K
   F01N3/00 F
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-140655(P2016-140655)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2017-173289(P2017-173289A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-57410(P2016-57410)
(32)【優先日】2016年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 真宏
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−175321(JP,A)
【文献】 特表2006−506640(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/052734(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/06
G01N 27/04
F01N 3/00
F01N 3/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスに含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出装置であって、
被測定ガスに晒される絶縁性基体(11)の表面に互いに離間する一対の電極(21、22)を配置した検出部(2)と、該検出部を加熱するヒータ電極(31)を設けたヒータ部(3)とを有して、上記検出部に捕集される粒子状物質の量に応じた信号を出力するセンサ部(1)と、
該センサ部からのセンサ出力(V)に基づいて、捕集された粒子状物質の粒子数(N)を検出するセンサ制御部(4)と、を備えており、
該センサ制御部は、
上記検出部の上記一対の電極間へ電圧を印加して、粒子状物質を静電捕集させる捕集制御部(41)と、
上記ヒータ部の上記ヒータ電極へ電力を供給して、粒子状物質中のSOFが揮発可能でありSootは燃焼しない第1温度(T1)に加熱保持し、又はSootが燃焼可能な第2温度(T2)に加熱保持する加熱制御部(42)と、
上記第1温度における上記センサ出力である第1出力値(V1)と、上記第1温度から上記第2温度まで加熱する際の最大の上記センサ出力である第2出力値(V2)を取得し、上記第1出力値に対する上記第2出力値の比率である出力変化率(V2/V1)を算出する出力変化率算出部(431)と、
算出した上記出力変化率から推定される粒子状物質の平均粒径(D)と、上記センサ出力から推定される粒子状物質の質量(M)を用いて、上記粒子数を算出する粒子数算出部(43)と、を有し、
上記粒子数算出部は、算出した上記出力変化率を、上記第2出力値における上記センサ部の温度(T)に基づいて補正する、温度補正手段(S9)を有する、粒子状物質検出装置。
【請求項2】
被測定ガスに含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出装置であって、
被測定ガスに晒される絶縁性基体(11)の表面に互いに離間する一対の電極(21、22)を配置した検出部(2)と、該検出部を加熱するヒータ電極(31)を設けたヒータ部(3)とを有して、上記検出部に捕集される粒子状物質の量に応じた信号を出力するセンサ部(1)と、
該センサ部からのセンサ出力(V)に基づいて、捕集された粒子状物質の粒子数(N)を検出するセンサ制御部(4)と、を備えており、
該センサ制御部は、
上記検出部の上記一対の電極間へ電圧を印加して、粒子状物質を静電捕集させる捕集制御部(41)と、
上記ヒータ部の上記ヒータ電極へ電力を供給して、粒子状物質中のSOFが揮発可能でありSootは燃焼しない第1温度(T1)に加熱保持し、又はSootが燃焼可能な第2温度(T2)に加熱保持する加熱制御部(42)と、
上記第1温度における上記センサ出力である第1出力値(V1)と、上記第1温度から上記第2温度まで加熱する際の最大の上記センサ出力である第2出力値(V2)を取得し、上記第1出力値に対する上記第2出力値の比率である出力変化率(V2/V1)を算出する出力変化率算出部(431)と、
算出した上記出力変化率から推定される粒子状物質の平均粒径(D)と、上記センサ出力から推定される粒子状物質の質量(M)を用いて、上記粒子数を算出する粒子数算出部(43)と、を有し、
上記加熱制御部は、上記第1温度から上記第2温度まで加熱する際の昇温速度(α)を制御する昇温制御手段(S51)を有する、粒子状物質検出装置。
【請求項3】
上記加熱制御部は、少なくとも上記第2出力値に対応する上記センサ部の温度(T)を超えるまで、上記昇温速度を一定に制御する、請求項2に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項4】
上記センサ制御部は、上記センサ出力が、粒子状物質の検出基準となる基準出力(V0)に到達したか否かを判断して、上記加熱制御部を作動させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項5】
上記粒子数算出部は、上記第1出力値を用いて、粒子状物質の上記質量を算出する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項6】
上記粒子数算出部は、上記基準出力に到達した時点における上記センサ出力である第3出力値(V3)を用いて、粒子状物質の上記質量を算出する、請求項4に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項7】
上記加熱制御部は、上記基準出力に到達後に加熱を開始し、予め定めた上記第1温度に収束するように、昇温速度を制御する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項8】
上記粒子数算出部は、上記出力変化率が大きくなるほど、上記平均粒径が小さくなるように、上記平均粒径を推定する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項9】
上記粒子数算出部は、粒子状物質の上記質量と、粒子状物質の上記平均粒径と、粒子状物質の比重とから、上記粒子数を算出する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項10】
上記粒子状物質の比重は、1g/cm3である、請求項9に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項11】
上記第1温度は、200℃以上、400℃以下の温度である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項12】
上記第2温度は、600℃以上、1000℃以下の温度である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される粒子状物質の粒子数を検出するための粒子状物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排ガス中に含まれる粒子状物質(すなわち、Particulate Matter;以下、適宜PMと称する)の排出規制に対応するために、粒子状物質検出装置の検出精度を高めることが重要となっている。粒子状物質検出装置は、例えば、電気抵抗式のセンサ素子を備え、絶縁性基体の表面に設けた検出電極部に電圧を印加して静電場を形成し、粒子状物質が捕集されることによる検出電極部の抵抗値変化を検出する。
【0003】
粒子状物質検出装置は、センサ素子の出力から、粒子状物質の排出量を推定することができる。また、排出される粒子状物質を粒子数で規制することが検討されている。例えば、特許文献1には、複数の電気抵抗式のPM検出部を配置し、各PM検出部への印加電圧を調整して異なる粒子径分布となるように設定したセンサ制御装置が開示されている。この装置は、各PM検出部のセンサ出力からPM質量を検出し、PM質量とPM検出部ごとに設定した平均粒子質量から粒子数を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−52811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、排ガスと共に排出される粒子状物質は、導電性のSoot(すなわち、煤)を主成分とする混合物であり、エンジン運転条件により粒子形状や化学組成が大きく変化する。例えば、粒子状物質には、未燃の燃料やエンジンオイルに由来するSOF(すなわち、Soluble Organic Fraction;可溶性有機成分)が含まれ、エンジン燃焼状態によりSOF量が変化する。そのため、排出される粒子状物質の導電率が、SOF量によって変動し、また、センサ素子の周囲の排ガス温度によっても粒子状物質の導電率が変化するために、センサ出力にばらつきが生じる。このようなセンサ出力のばらつきは、特許文献1の装置のように、センサ素子に複数のPM検出部を形成した場合にも発生し、検出精度を低下させる懸念がある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、粒子状物質に含まれるSOF量や周囲の温度によるセンサ出力のばらつきを低減し、粒子状物質の粒子数の検出精度を向上させた粒子状物質検出装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、被測定ガスに含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出装置であって、
被測定ガスに晒される絶縁性基体(11)の表面に互いに離間する一対の電極(21、22)を配置した検出部(2)と、該検出部を加熱するヒータ電極(31)を設けたヒータ部(3)とを有して、上記検出部に捕集される粒子状物質の量に応じた信号を出力するセンサ部(1)と、該センサ部からのセンサ出力(V)に基づいて、捕集された粒子状物質の粒子数(N)を検出するセンサ制御部(4)と、を備えており、
該センサ制御部は、
上記検出部の上記一対の電極間へ電圧を印加して、粒子状物質を静電捕集させる捕集制御部(41)と、
上記ヒータ部の上記ヒータ電極へ電力を供給して、粒子状物質中のSOFが揮発可能でありSootは燃焼しない第1温度(T1)に加熱保持し、又はSootが燃焼可能な第2温度(T2)に加熱保持する加熱制御部(42)と、
上記第1温度における上記センサ出力である第1出力値(V1)と、上記第1温度から上記第2温度まで加熱する際の最大の上記センサ出力である第2出力値(V2)を取得し、上記第1出力値に対する上記第2出力値の比率である出力変化率(V2/V1)を算出する出力変化率算出部(431)と、
算出した上記出力変化率から推定される粒子状物質の平均粒径(D)と、上記センサ出力から推定される粒子状物質の質量(M)を用いて、上記粒子数を算出する粒子数算出部(43)と、を有し、
上記粒子数算出部は、算出した上記出力変化率を、上記第2出力値における上記センサ部の温度(T)に基づいて補正する、温度補正手段(S9)を有する、粒子状物質検出装置にある。
【0008】
本発明の他の態様は、被測定ガスに含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出装置であって、上記センサ部からのセンサ出力(V)に基づいて、捕集された粒子状物質の粒子数(N)を検出するセンサ制御部(4)と、を備えており、
該センサ制御部は、
上記検出部の上記一対の電極間へ電圧を印加して、粒子状物質を静電捕集させる捕集制御部(41)と、
上記ヒータ部の上記ヒータ電極へ電力を供給して、粒子状物質中のSOFが揮発可能でありSootは燃焼しない第1温度(T1)に加熱保持し、又はSootが燃焼可能な第2温度(T2)に加熱保持する加熱制御部(42)と、
上記第1温度における上記センサ出力である第1出力値(V1)と、上記第1温度から上記第2温度まで加熱する際の最大の上記センサ出力である第2出力値(V2)を取得し、上記第1出力値に対する上記第2出力値の比率である出力変化率(V2/V1)を算出する出力変化率算出部(431)と、
算出した上記出力変化率から推定される粒子状物質の平均粒径(D)と、上記センサ出力から推定される粒子状物質の質量(M)を用いて、上記粒子数を算出する粒子数算出部(43)と、を有し、
上記加熱制御部は、上記第1温度から上記第2温度まで加熱する際の昇温速度(α)を制御する昇温制御手段(S51)を有する、粒子状物質検出装置にある。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【発明の効果】
【0009】
上記粒子状物質検出装置において、センサ制御部は、捕集制御部を作動させて粒子状物質の静電捕集を開始する。一方、加熱制御部を作動させて第1温度まで加熱し、SOFを揮発させた粒子状物質に対応する第1出力値と、さらに第2温度まで加熱して、Sootが燃焼する直前の粒子状物質に対応する第2出力値とを取得する。第1出力値と第2出力値との比率である出力変化率は、捕集される粒子状物質の平均粒径と相関があるので、出力変化率から平均粒径を推定することができる。
【0010】
ここで、出力変化率算出部にて算出される出力変化率は温度依存性を有するので、上記一態様のように、粒子数算出部に温度補正手段を設け、センサ部の温度を用いて補正を行うことで、平均粒径を精度よく推定することができる。あるいは、上記他の態様のように、上記加熱制御部に昇温制御手段を設け、第1温度から第2温度への昇温速度を制御することで、温度の影響を小さくすることもできる。この場合も、出力変化率のばらつきを抑制して、平均粒径を精度よく推定できる。この平均粒径と、センサ出力から推定される粒子状物質の質量を用いて、粒子数を算出することができる。
【0011】
したがって、上記態様によれば、粒子状物質に含まれるSOFの影響を排除し、さらに周囲の温度による出力のばらつきを補正して、捕集した粒子状物質の粒子数の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1における、粒子状物質検出装置を構成する粒子状物質検出センサの一例を示す要部拡大図。
図2】実施形態1における、粒子状物質検出センサのセンサ素子の構成例を示す全体斜視図。
図3】実施形態1における、粒子状物質検出装置を備える内燃機関の排ガス浄化装置の全体構成を示す概略構成図。
図4】実施形態1における、粒子状物質検出センサの他の例を示す要部拡大図。
図5】実施形態1における、粒子状物質検出センサのセンサ素子の他の構成例を示す全体斜視図。
図6】実施形態1における、粒子状物質検出装置のセンサ制御部で実行される粒子状物質検出処理のフローチャート図。
図7】実施形態1における、粒子状物質の捕集開始からの経過時間に対するセンサ素子の温度の変化を示す図。
図8】実施形態1における、センサ素子を加熱する際の第1温度の好適範囲を示す図で、粒子状物質中のSOF割合が異なる場合の第1温度と出力変化率の関係を比較して示す図。
図9】実施形態1における、第2出力値でのセンサ素子の温度と出力変化率の関係を示す図。
図10】実施形態1における、温度補正を行う前の出力変化率と平均粒径の関係を示す図。
図11】実施形態1における、温度補正後の出力変化率と平均粒径の関係を示す図。
図12】実施形態2における、粒子状物質検出装置のセンサ制御部で実行される粒子状物質検出処理のフローチャート図。
図13】実施形態3における、粒子状物質検出装置のセンサ制御部で実行される粒子状物質検出処理のフローチャート図。
図14】実施形態3における、第1温度から第2温度への昇温速度と出力変化率の関係を示す図。
図15】実施形態3における、昇温制御後の出力変化率と平均粒径の関係を示す図。
図16】実施形態3における、昇温制御無の場合の実測粒子数と推定粒子数の関係を示す図。
図17】実施形態3における、昇温制御有の場合の実測粒子数と推定粒子数の関係を示す図。
図18】実施形態4における、粒子状物質検出装置のセンサ制御部で実行される粒子状物質検出処理のフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
次に、粒子状物質検出装置及び粒子状物質検出方法の実施形態について、図面を参照して説明する。図1図3に示すように、粒子状物質検出装置は、被測定ガスGに含まれる粒子状物質を検出するセンサ部としての粒子状物質検出センサ1と、粒子状物質検出センサ1からの検出信号に基づいて、粒子状物質の粒子数を検出するセンサ制御部としての電子制御ユニット(以下、ECUと称する)4とを備えている。ECU4は、粒子状物質検出センサ1に制御信号を出力して、粒子状物質の捕集と検出を制御する。
【0014】
図1に示すように、粒子状物質検出センサ1は、電気抵抗型のセンサ素子10と、その外周囲を覆う保護カバー12からなる。センサ素子10は、保護カバー12の軸方向を長手方向X(すなわち、図1の上下方向)として、その先端側(すなわち、図1における下端側)の表面に、被測定ガスGに晒される検出部2を備える。検出部2は、センサ素子10に内蔵されるヒータ部3によって加熱可能となっている。保護カバー12は、ステンレス鋼等の金属材料からなる筒状体形状で、側面及び先端面に、複数の被測定ガス流通孔13、14を有している。例えば、図示するように、検出部2に対向する側面の被測定ガス流通孔13から、保護カバー12内に被測定ガスが導入され、検出部2の表面に沿って、先端面の被測定ガス流通孔14へ向かう被測定ガスGの流れが形成される。
【0015】
被測定ガスGは、例えば、図3に示す内燃機関Eから排出される燃焼排ガスであり、粒子状物質(すなわち、PM)は、導電性成分であるSoot(すなわち、煤)と有機成分であるSOF(すなわち、可溶性有機成分)を含む混合物である。粒子状物質の排出量や粒子の状態、例えば、粒子径や化学組成は、内燃機関Eの運転状態により変化する。内燃機関Eは、例えばディーゼルエンジンであり、排ガスが流通する排ガス通路E1には、粒子状物質捕集部となるディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFと称する)5が配置される。粒子状物質検出センサ1は、DPF5の下流に配置され、先端側半部が排ガス通路E1内に位置するように、排ガス通路E1壁に取付固定される。粒子状物質検出センサ1は、ECU4に接続されており、DPF5の下流における排ガス中のPM量に対応する検出信号をECU4に出力する。
【0016】
図2に示すように、センサ素子10は、直方体形状の絶縁性基体11と、該絶縁性基体11の長手方向Xの先端側(すなわち、図2における左右方向の右端側)表面に形成される検出部2と、絶縁性基体11の内部に埋設されるヒータ部3を有している。検出部2は、絶縁性基体11の一側面(すなわち、図2における上側面で、図1における左側面)に櫛歯状に印刷形成された、一対の電極21、22からなる。櫛歯状の電極21、22は、それぞれ、複数の線状電極からなり、極性の異なる線状電極が交互に平行配設されて複数の電極対を構成している。電極21、22は、それぞれ、絶縁性基体11の先端側から基端側(すなわち、図2における左端側)へ延びる線状のリード電極21a、22aに接続される。
【0017】
ヒータ部3は、絶縁性基体11の先端側に配置されるヒータ電極31と、ヒータ電極31に接続されて基端側へ延びるリード電極31a、31bとからなる。絶縁性基体11は、例えば、アルミナ等の絶縁性セラミックス材料からなる、複数の絶縁性シートの積層体にて構成される。このとき、絶縁性シートの表面に、ヒータ電極31及びリード電極31a、31bを印刷形成し、他の絶縁性シートを重ねて、所定の直方体形状の成形体とし、焼成する。これにより、ヒータ部3を内蔵するセンサ素子10を形成することができる。
【0018】
検出部2の電極21、22、リード電極21a、22a、ヒータ部3のヒータ電極31、リード電極31a、31bは、例えば、貴金属等の導電性材料からなり、スクリーン印刷等を用いて所定の電極形状に形成することができる。なお、ヒータ部3を、絶縁性基体11内に埋設せず、絶縁性基体11の表面、例えば、検出部2が形成される一側面と異なる側面にヒータ部3を印刷形成することもできる。ヒータ部3は、検出部2を加熱可能に構成されていればよく、例えば、絶縁性基体11とは別体に設けることもできる。
【0019】
図4、5に示すように、粒子状物質検出センサ1のセンサ素子10は、絶縁性基体11の先端面に、積層構造の一対の電極21、22からなる検出部2を有する構成であってもよい。センサ素子10は、例えば、絶縁性基体11となる複数の絶縁性シートの間に、電極21又は電極22となる電極膜を交互に配設した積層体を焼成して形成される。このとき、絶縁性基体11の先端面に、電極21、22となる電極膜の端縁部が交互に露出して、極性の異なる線状電極からなる複数の電極対を構成する。電極21又は電極22となる電極膜は、それぞれ図示しないリード電極に接続され、絶縁性基体11の基端側において互いに接続される。
【0020】
保護カバー12内において、積層構造の検出部2を有するセンサ素子10は、検出部2が位置する先端面が、保護カバー12の側面に開口する複数の被測定ガス流通孔13より、やや基端側に位置するように配置されている。保護カバー12の構成は、上記図1に示した例と同様であり、側面の複数の被測定ガス流通孔13から保護カバー12内に被測定ガスGが流入し、先端面の被測定ガス流通孔14へ向かうガス流れとなる。このとき、被測定ガスGの流れは、被測定ガス流通孔13から検出部2に直接向かわず、保護カバー12内に導入された、被測定ガスGの流れがセンサ素子10の先端面の近傍で合流して、先端面の被測定ガス流通孔14へ向かうガス流れとなる。
【0021】
積層構造のセンサ素子10においても、図示しないヒータ部3が備えられ、ヒータ電極31とそのリード電極31a、31bを絶縁性基体11内に埋設形成し、または、絶縁性基体11の表面に印刷形成することができる。なお、積層構造のセンサ素子10において、検出部2を先端面に形成せず、先端側の一側面に配置してもよい。その場合も、電極21、22となる絶縁膜が、絶縁性基体11となる絶縁性シート間に配置され、絶縁性シートの厚さが電極21、22間の距離となる構成は同様である。
【0022】
ECU4は、粒子状物質検出センサ1の検出部2及びヒータ部3の作動を制御すると共に、内燃機関Eの運転状態を制御する。図3において、粒子状物質検出センサ1の近傍の排ガス通路E1壁には、排ガス温度センサ51が取付固定されて、DPF5の下流の排ガス温度を検出可能であり、内燃機関Eの吸気通路E2にはエアフローメータ52が配設されて、吸気流量を検出するようになっている。また、内燃機関Eの回転数を検出する回転数センサ53、アクセルペダルの動作を検出するアクセルペダルセンサ54、その他の各種検出装置が設けられる。ECU4には、これら各種検出装置からの検出信号が入力される。
【0023】
ECU4は、マイコン4Aを備える公知の構成で、入出力インターフェイスI/Fを介して、各種検出装置に接続される。マイコン4Aは、演算処理を行うCPUと、プログラム、データ等を記憶するROM、RAMを備えており、周期的にプログラムを実行して、粒子状物質検出センサ1を含む内燃機関Eの各部を制御する。ここで、内燃機関Eの運転条件により、排ガス通路E1に排出される粒子状物質のSOF含有量は変化する。導電性の低いSOF含有量が増加すると、検出部2に捕集される粒子状物質の抵抗値が変化するため、同じ粒子径で同じ捕集量であったとしても、センサ出力が異なってしまう。そこで、本形態では、粒子状物質に含まれるSOFの影響を排除し、さらに、温度補正を行って、粒子状物質の粒子径を推定し、粒子数を算出する。
【0024】
ECU4は、粒子状物質検出センサ1に制御信号を出力して、センサ素子10の検出部2に粒子状物質を堆積させ、センサ素子10からの信号に基づいて、捕集される粒子状物質を検出する。具体的には、図1に示すように、ECU4は、検出部2の一対の電極21、22間に所定の電圧を印加して静電場を形成し、被測定ガスG中の粒子状物質を静電捕集させる捕集制御部41と、ヒータ部3のヒータ電極31へ電力を供給して、所定の温度に加熱する加熱制御部42と、センサ素子10のセンサ出力Vと、粒子状物質の平均粒径Dに基づいて、捕集された粒子状物質の粒子数Nを算出する粒子数算出部43とを備える。
【0025】
粒子状物質検出センサ1は、検出部2において、一対の電極21、22間に粒子状物質を捕捉し、粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出する。一対の電極21、22間の距離は、例えば、5〜500μmの範囲で設定され、一般に、距離が小さくなるほど検出感度が高くなる。ヒータ部3は、検出部2を所望の温度に加熱して、例えば、捕集した粒子状物質に含まれるSOFを揮発させ、さらにはSootを燃焼除去することができる。例えば、SOFを揮発可能な第1温度T1は、200℃以上、400℃以下の範囲で選択され、Sootを燃焼除去可能な第2温度T2は、600℃以上、1000℃以下の範囲で選択される。
【0026】
このとき、粒子状物質検出センサ1のセンサ素子10の温度Tをモニタしながら、検出部2を所望の温度に制御し、段階的に粒子状物質の量を検出することで、運転状態によって変動するSOFの影響を排除し、導電性のSootを主とする粒子状物質の粒子数を精度よく検出することができる。センサ素子10の温度Tは、例えば、ヒータ部3のヒータ抵抗値変化とヒータ電極31の温度との相関を利用して推定することができる。一般に、ヒータ抵抗値が大きいほどヒータ部3の発熱量が大きくなり、ヒータ電極31の温度が高くなるので、例えば、リード電極31a、31b間に、図示しない測定回路を介設してヒータ抵抗を測定し、予め作成したマップ等を用いて、センサ素子10の温度Tを計測する。マップ等は、ECU4の記憶領域であるROMに記憶させておくことができる。なお、センサ素子10の温度Tは、任意の方法で検出又は推定することができ、粒子状物質検出センサ1に、検出部2近傍の温度を検出する温度センサ等を併設することもできる。
【0027】
さらに、粒子数算出部43は、ヒータ部3により検出部2を加熱し、第1温度T1におけるセンサ出力である第1出力値V1と、第2温度T2まで加熱する際の最大センサ出力である第2出力値V2を取得し、それらの比率である出力変化率V2/V1を算出する出力変化率算出部431を有する。出力変化率算出部431は、算出した上記出力変化率V2/V1を補正する温度補正手段を有する。この温度補正手段は、出力変化率V2/V1を、第2出力値V2におけるセンサ素子10の温度Tに基づいて補正することで、出力変化率V2/V1の温度による影響を排除し、粒子状物質の検出をより精度よく実施することができる。
【0028】
このような粒子状物質検出装置は、粒子状物質検出センサ1の上流に配置されるDPF5の故障診断に利用することができる。一般に、DPF5が正常であれば、排出される粒子状物質はDPF5にて捕集され、その下流にはほとんど排出されない。DPF5に何らかの異常が生じて粒子状物質の捕集性能が低下した場合には、下流側の粒子状物質検出センサ1において、排出される粒子状物質の粒子数Nを計測することで、異常の有無を判定することができる。その際に、粒子状物質に含まれるSOFの影響と、検出時の温度の影響による検出ばらつきを低減することで、粒子状物質検出センサ1の検出精度を高め、異常を速やかに検出可能となる。
【0029】
以下に、ECU4によって実行される粒子状物質検出処理の詳細を、フローチャートを用いて説明する。図6に示すように、粒子状物質検出処理を開始すると、まずステップS1において、粒子状物質検出センサ1の検出部2への粒子状物質の捕集を実施する。捕集の開始時には、後述する加熱処理により予め粒子状物質が燃焼除去され、検出部2に粒子状物質は堆積していないものとする。ステップS1は、ECU4の捕集制御部41としての処理であり、センサ素子10の一対の電極21、22間へ、予め設定された所定の電圧を印加して、保護カバー12内に導入される粒子状物質を検出部2に堆積させる。
【0030】
次いで、ステップS2において、センサ素子10からのセンサ出力Vを取り込み、所定の出力V0に到達したか否かを判断する。図7に示すように、基準出力である所定の出力V0は、例えば、DPF5の故障診断のための閾値となる粒子状物質の堆積量に対応させて、予め設定され、粒子状物質の検出基準となる基準出力値である。センサ出力Vが所定の出力V0未満の場合には、ステップS2が否定判定されて、ステップS1に戻り、静電捕集及びセンサ出力Vの取り込みを継続する。
【0031】
ステップS2において、センサ出力Vが所定の出力V0に到達すると、粒子状物質の粒子数を算出するタイミングに到達したとして、ステップS3に進み、以降の処理により、粒子状物質の粒子数を算出する。ステップS3、S5は、ECU4の加熱制御部42としての処理であり、ステップS4、S6〜S12は、ECU4の粒子数算出部42としての処理である。
【0032】
ステップS3では、センサ素子10のヒータ部3に電力を供給して、検出部2を加熱し、SOFを揮発可能でありSootは燃焼しない第1温度T1まで昇温させる。第1温度T1は、図8に示すように、粒子状物質に含有されるSOF割合によらず同等の出力変化率V2/V1が得られる温度、すなわち200℃以上、400℃以下の範囲で選択される(例えば、350℃)。このとき、加熱制御部42は、所定の出力V0に到達した時点以降に加熱を開始し、予め定めた第1温度T1に収束するように、昇温速度を制御する。例えば、第1温度T1の近傍までは、昇温速度を一定とし、その後、徐々に昇温速度を低減して第1温度T1に収束させるとよい。このSOF割合と出力変化率V2/V1の関係の詳細については後述する。
【0033】
図7に示すように、ヒータ部3の作動により検出部2の温度が上昇し、第1温度T1に収束するのに伴い、センサ出力Vも同様の曲線を描いて、第1温度T1における第1出力値V1に収束する。これは、温度上昇によりSOFが揮発するのに伴い、導電率が向上することによる。そこで、ステップS3では、第1温度T1に到達するのに要する所定の時間を予め設定し、この所定の時間が経過した後に、ステップS4に進む。所定の時間は、第1温度T1に到達してSOFが十分に揮発するまで加熱保持するのに必要な時間であり、任意に設定できる(例えば、60秒)。ステップS4では、第1温度T1における第1出力値V1を取り込む。
【0034】
次いで、ステップS5に進んで、ヒータ部3により検出部2をさらに加熱し、第2温度T2まで上昇させる。第2温度T2は、Sootを燃焼除去可能な温度、すなわち600℃以上、1000℃以下の範囲で選択される(例えば、800℃)。第2温度T2が600℃未満では、Sootの燃焼が不十分となるおそれがあり、1000℃を超えると、センサ素子10の耐熱性に影響する。
【0035】
図7に示すように、検出部2の温度が第1温度T1から上昇し、第2温度T2に収束するのに伴い、センサ出力Vも当初は同様に上昇するが、ある時点をピークとしてそれ以降はセンサ出力Vが低下していく。これは、第2温度T2への加熱開始からセンサ出力Vが最大出力である第2出力値V2に達するまでの間は、Sootが燃焼しない温度となっているためであり、第2出力値V2に到達後は、Sootが燃焼する温度になるために、Sootが燃焼除去されるまで、センサ出力Vが下降する。ここで、第2温度T2への加熱開始から第2出力値V2までの期間において、センサ出力Vが第1出力値V1からさらに上昇するのは、第1温度T1よりも高温の第2温度T2に加熱されることで、捕集された粒子状物質の結晶構造が変化し、導電性を有するグラファイトの結晶性が向上することによると推測される。
【0036】
そこで、ステップS5では、第1温度T1から第2温度T2に到達後、所定の時間保持した後に、ステップS6に進む。所定の時間は、例えば、センサ出力Vが第2出力値V2に到達後、第2温度T2まで温度上昇して、粒子状物質が燃焼除去されるまで加熱保持するのに必要な時間であり、任意に設定できる。ステップS6では、第2温度T2に上昇するまでの最大出力である第2出力値V2を取り込み、ステップS7へ進んで、第2出力値V2でのセンサ素子10の温度Tを検出する。さらに、ステップS8において、第1出力値V1と第2出力値V2から、その出力変化率V2/V1を算出する。
【0037】
ここで、図8に示すように、同一平均粒径(例えば、55nm前後)でSOF割合が異なる粒子状物質について、第1温度T1を変化させたとき、200℃〜400℃の範囲では、SOF割合にかかわらず出力変化率V2/V1は同等となる。すなわち、200℃〜400℃の範囲で第1温度T1を選択した場合には、第1温度T1まで加熱する過程でSOFが十分に揮発し、SOFの影響を排除した第1出力値V1が得られる。なお、図8中の○の点は、エンジン回転数が1654rpm、トルクが24Nm、PM中のSOF割合が7.7質量%となる条件での結果を示している。また、□の点は、エンジン回転数が2117rpm、トルクが83Nm、SOF割合が1.3質量%となる条件での結果を示している。
【0038】
これに対し、第1温度T1が200℃未満では、SOF割合が大きい場合の出力変化率(すなわち、○の結果)は、SOF割合が小さい場合の出力変化率(すなわち、□の結果)よりも大きくなる。これは、第1温度T1が200℃未満では、SOFの揮発が不十分となるために第1出力値V1が変化し、その影響でSOF割合が大きいほど出力変化率V2/V1が大きくなると推定される。また、第1温度T1が400℃を超えると、Sootの燃焼が生じるおそれがある。
【0039】
このようにして得られた出力変化率V2/V1は、粒子状物質の平均粒径Dと相関があり、同じ平均粒径であれば、第1温度T1、第2温度T2を同一条件とした場合の出力変化率V2/V1は同じになる。これは、粒子径が小さい粒子状物質ほど、導電性の低いアモルファス状態であり、第2温度T2へ加熱される過程で結晶構造がグラファイトに変化して、導電性が向上するためである。すなわち、平均粒径Dが小さいほど、加熱前のセンサ出力Vは小さくなる傾向にあり、一方、加熱後のセンサ出力Vは、粒子径によらずほぼ同じ値となるので、導電率の変化量である出力変化率V2/V1は、大きくなる。
【0040】
したがって、出力変化率V2/V1から粒子状物質の平均粒径Dを推定して、粒子数Nの算出に用いることができる。ただし、実際には、同じ運転条件、測定条件であっても、図9に示すように、第2出力値V2でのセンサ素子10の温度Tと、出力変化率V2/V1にばらつきが生じることが判明した。なお、図9は、エンジンベンチを用いた運転試験において、いくつかの同一運転条件(すなわち、同一平均粒径)で繰り返し出力変化率V2/V1を測定した結果を示したものである。運転条件は、エンジン回転数が2117rpm、トルクが83Nm、測定条件は、第1温度T1が350℃、第2温度T2が800℃とした。
【0041】
図9では、第2出力値V2でのセンサ素子10の温度Tが、450℃〜500℃の範囲でばらつき、これに伴い温度Tが高いほど出力変化率V2/V1が高くなっている。これは、内燃機関Eの運転条件が同じであっても、センサ素子10の周辺の温度や粒子状物質の堆積状態のわずかな違いが生じて、Sootの燃焼開始に影響し、また、Sootの導電性が温度の影響を受け、燃焼開始温度によって第2出力値V2が変化してしまうことによると推定される。その結果、図において、第1温度T1から第2温度T2に昇温する間に、Sootが燃焼を開始する時点でのセンサ素子10の温度Tが必ずしも一定とはならず、最大出力となる第2出力値V2、ひいては出力変化率V2/V1にばらつきが生じる原因となっている。
【0042】
そこで図9に示される関係を用いて、まずステップS9において、センサ素子10の温度Tに基づいて、出力変化率V2/V1を補正する。ステップS9は、出力変化率算出部431の温度補正手段としての処理である。具体的には、図9のように、第2出力値V2でのセンサ素子10の温度Tと出力変化率V2/V1とは、ほぼ正の相関を有するので、この関係を運転条件や測定条件ごとに予め調べてマイコン4AのROMに記憶しておくことができる。その後、ステップS10において、補正した出力変化率V2/V1を用いて、粒子状物質の平均粒径Dを推定することで、粒子状物質の検出におけるセンサ素子10の周辺の温度の影響を排除することができる。
【0043】
ステップS10では、補正した出力変化率V2/V1と、図10中に実線に示される関係を用いて、粒子状物質の平均粒径Dを推定する。図10において、縦軸は、平均粒径D(すなわち、メジアン径)の逆数を示しており、EEPS(Engine Exhaust Particle Sizer) Spectorometerに基づく実験結果を実線で、その±10%の範囲を点線で示している。図示するように、出力変化率V2/V1と平均粒径Dの逆数とは、ほぼ正の相関を有するので、この関係を運転条件や測定条件ごとに予め調べてECU4の記憶領域であるROMに記憶しておくことができる。この処理により得られる平均粒径Dは、ステップS1による静電捕集の開始から、ステップS2の判定タイミングの到達までの捕集期間にDPF5の下流に排出された粒子状物質の平均粒径である。
【0044】
図10図11中の点は、それぞれステップS9による補正前の出力変化率V2/V1と、ステップS9による補正後の出力変化率V2/V1に対して、実際の平均粒径Dとの関係を示したものである。図10中の複数の点については、実際の平均粒径Dと出力変化率V2/V1との関係が、実線±10%の範囲を外れているものが見られるのに対し、図11中の複数の点については、ほぼ全てが実線±10%の範囲にあり、補正により平均粒径の推定精度が向上していることがわかる。
【0045】
次いで、ステップS11へ進んで、第1出力値V1に基づいて、捕集期間にセンサ素子10の検出部2に捕集された粒子状物質の質量Mを推定する。第1出力値V1は、Soot主体の粒子状物質に基づくセンサ出力Vであり、粒子状物質の質量Mと正の相関を有する。この関係を予め調べてECU4の記憶領域であるROMに記憶しておくことで、質量Mを推定することができる。
【0046】
さらに、ステップS12へ進んで、推定された粒子状物質の質量Mと、平均粒径Dとを用いて、下記式1、式2により、粒子状物質の粒子数Nを算出する。
式1:粒子数N=質量M/PM平均体積×PM比重
式2:PM平均体積=4π(D/2)3/3
ここで、粒子状物質の比重(すなわち、PM比重)は、予め定めた値(すなわち、1g/cm3)であり、粒子状物質の平均体積(すなわち、PM平均体積)は、推定した粒子状物質の平均粒径Dから、粒子状物質を球状とみなして上記式2により算出される。
【0047】
(実施形態2)
上記実施形態1では、粒子状物質の質量Mを第1出力値V1に基づいて推定した場合について説明したが、第1出力値V1以外の値を用いることもできる。
図12に示すように、本形態において、センサ制御部であるECU4により実行される粒子状物質検出処理は、図6に示される実施形態1の手順の一部を変更したものである。具体的には、図6のステップS11に代わるステップS111を設けた点が異なっており、ステップS1〜S10までは図6と同じ処理であるので、説明を省略する。図12のステップS111では、第1温度T1における第1出力値V1に代えて、ステップS2が肯定判定された時点におけるセンサ出力Vを用いて、粒子状物質の質量Mを推定する。
【0048】
図12のステップS2では、センサ出力Vが予め設定した所定の出力V0に到達したか否かを判定しており、肯定判定された時点におけるセンサ出力Vである第3出力値V3は、捕集期間にセンサ素子10の検出部2に捕集された粒子状物質の質量Mと、ほぼ正の相関を有する。そこで、この関係を予め調べてECU4の記憶領域であるROMに記憶しておき、質量Mを推定するようにしてもよい。なお、第3出力値V3は、SOFが除去される前の粒子状物質に基づく出力であるが、質量の推定におけるSOFの影響は小さい。あるいは、質量の推定の際に運転条件を考慮するようにしてもよい。
【0049】
次いで、ステップS12において、ステップS111で算出した粒子状物質の質量Mと、平均粒径Dとを用いて、上記実施形態1と同様にして、粒子状物質の粒子数Nを算出することができる。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0050】
(実施形態3)
上記実施形態1、2では、出力変化率V2/V1を算出した後に、温度補正を行う場合について説明したが、昇温制御を行うことにより、温度補正を不要とすることもできる。すなわち、本形態では、加熱制御部42は、第1温度T1から第2温度T2まで加熱する際の昇温速度を制御する昇温制御手段を有する。加熱制御部42は、少なくとも第2出力値V2に対応するセンサ素子10の温度Tを超えるまでは、昇温速度を一定に制御する。この昇温制御手段により、Sootの燃焼が開始されるセンサ素子10の温度Tを安定させて、出力変化率V2/V1のばらつきを抑制することができる。
【0051】
図13に示すように、本形態において、センサ制御部であるECU4により実行される粒子状物質検出処理は、図6に示される実施形態1の手順の一部を変更したものである。具体的には、図6のステップS5に代わるステップS51を設けた点、及びステップS7の温度取り込みとステップS9の温度補正を実施しない点が異なっている。ステップS1〜S4までは図6と同じ処理であるので、説明を省略する。
【0052】
図13のステップS51では、加熱制御部42を用いて昇温制御しながら、センサ素子10を加熱する。ステップS51は、昇温制御手段としての処理であり、具体的には、予め一定の昇温速度αを定めて、図7に示すように、第1温度T1から第2温度T2の近傍までは、一定の昇温速度αに制御する。その後、徐々に昇温速度を低下させて、第2温度T2に収束させる。上述したように、第1温度T1に保持した状態からさらに加熱すると、粒子状物質の結晶性が向上してセンサ出力が上昇し、粒子状物質の燃焼開始温度に達すると、第2出力値V2をピークにセンサ出力が下降する。
【0053】
このとき、粒子状物質が同じ平均粒径であれば、第2出力値V2に対応する温度Tも同じになり、出力変化率V2/V1は同じになるはずであるが、実際には、図9に示したように、温度Tにばらつきが生じる。これについて、図14に示すように、第1温度T1から第2温度T2へ加熱する際に、昇温速度に応じて出力変化率V2/V1が変化することが判明した。なお、図14は、図9と同様の条件で、エンジンベンチを用いた運転試験を行って出力変化率V2/V1を測定した結果であり、第1温度T1から第2温度T2へ向けて昇温を開始したときの昇温速度(例えば、15℃/秒〜23℃/秒)との関係を示した。
【0054】
図14では、昇温速度が速くなるほど、出力変化率V2/V1が大きくなる傾向が見られた。そこで、図14に基づいて、昇温速度ごとに平均粒径Dとの関係を求めておくことで、粒子状物質の平均粒径Dを推定することができる。例えば、図14中に点線で示すように、第1温度T1から第2温度T2へ向けて、昇温速度が18℃/秒となるように制御したときの、出力変化率V2/V1と平均粒径D(すなわち、メジアン径)の逆数との関係は、図15のようになる。すなわち、昇温速度の制御を行った場合には、実際の平均粒径Dとの関係が全て実線±10%の範囲となっている。これに対して、昇温速度の制御を行わない場合には、図10に示したのと同様のばらつきが生じた。このように、昇温速度の制御によって、Sootの燃焼開始温度のばらつきが抑制されて、図7における温度Tが安定することが確認された。
【0055】
図15に示される関係は、予め昇温速度ごとに調べて、ECU4の記憶領域であるROMに記憶しておくことができる。そして、ステップS51において、Sootの燃焼開始温度を十分超えるまで、一定の昇温速度αにて昇温し、その後、第2温度T2に昇温して所定の時間保持する。次いで、ステップS6に進んで、第2温度T2に上昇するまでの最大出力である第2出力値V2を取り込む。次いで、ステップS8において、第1出力値V1と第2出力値V2から、その出力変化率V2/V1を算出する。
【0056】
本形態では、図6に示されるステップS7、すなわち、第2出力値V2でのセンサ素子10の温度Tの検出と、この温度Tに基づくステップS9の温度補正7を省略している。つまり、ステップ51において、予め定めた一定の昇温速度αとなるように制御することで、予め知られる昇温特性に基づいて、安定した昇温が可能となり、Sootの燃焼開始温度のばらつきを抑制して、第2出力値V2となる温度Tがほぼ一定となる。そのため、ステップ8で得られた出力変化率V2/V1は、温度補正を行った場合と実質的に同等の結果となる。これにより、ステップ10において、ステップ8で得られた出力変化率V2/V1と昇温速度αに応じたマップから平均粒径Dを推定することができる。
【0057】
その後、ステップS11で第1出力値V1から粒子状物質の質量Mを算出し、次いで、ステップS12において、ステップS10、S11で算出した平均粒径Dと粒子状物質の質量Mとを用いて、上記実施形態1と同様にして、粒子状物質の粒子数Nを算出することができる。
【0058】
図16図17は、ステップ51による昇温速度の制御を行わない場合と、昇温速度の制御を行った場合において、それぞれ、ステップS12の算出値である推測粒子数Nと、実測粒子数との関係を示したものである。図16中に点線で示すように、昇温速度の制御無とした場合には、推測粒子数Nと実測粒子数との関係が、実線±10%の範囲から外れたものが見られる。これに対して、図17中に点線で示すように、昇温速度の制御有とした場合には、推測粒子数Nと実測粒子数との関係が、全て実線±10%の範囲にあることが確認された。
【0059】
(実施形態4)
上記実施形態3について、上記実施形態2と同様に、粒子状物質の質量Mを第1出力値V1以外の値に基づいて推定することもできる。
図18に示す実施形態4において、センサ制御部であるECU4により実行される粒子状物質検出処理は、図13に示される上記実施形態3の手順の一部を変更したものである。具体的には、図13のステップS11に代わるステップS111を設けた点が異なっており、ステップS1〜S6、S8、S10までは、図13と同じ処理であるので、説明を省略する。
【0060】
図18のステップS111では、第1温度T1における第1出力値V1に代えて、ステップS2が肯定判定された時点におけるセンサ出力Vを用いて、粒子状物質の質量Mを推定する。図18のステップS2では、センサ出力Vが予め設定した所定の出力V0に到達したか否かを判定しており、肯定判定された時点におけるセンサ出力Vである第3出力値V3を用いる。上述したように、第3出力値V3は、捕集期間にセンサ素子10の検出部2に捕集された粒子状物質の質量Mと、ほぼ正の相関を有し、この関係を予め調べてECU4の記憶領域であるROMに記憶しておくことができる。
【0061】
次いで、ステップS12において、ステップS111で算出した粒子状物質の質量Mと、平均粒径Dとを用い、上記実施形態3と同様にして、粒子状物質の粒子数Nを算出することができる。
【0062】
以上の各実施形態に示したように、粒子状物質検出センサ1の検出部2に電圧を印加して粒子状物質を捕集すると共に、ヒータ部3を用いて第1温度T1、第2温度T2に加熱制御し、その際のセンサ出力Vをモニタすることで、粒子状物質の粒子数を精度よく検出することができる。また、このような粒子状物質検出装置を、内燃機関の排気浄化装置等に利用して、上流に配置したDPF5の故障診断を実施することができる。
【0063】
粒子状物質検出センサ1とECU4を備える本発明の粒子状物質検出装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を超えない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態1においては、粒子状物質検出センサ1のセンサ素子10を覆う保護カバー12を一重筒構造としたが、内筒と外筒からなる二重筒構造とすることもできる。保護カバー12に設ける被測定ガス流通孔13、14の配置や数も任意に設定することができる。その他、粒子状物質検出センサ1を構成するセンサ素子10や保護カバー12の各部形状や材質等は、適宜変更することができる。
【0064】
また、上記実施形態1においては、内燃機関Eをディーゼルエンジンとし、粒子状物質捕集部となるDPF5を配置したが、内燃機関Eをガソリンエンジンとして、ガソリンパティキュレートフィルタを配置することもできる。また、内燃機関Eの燃焼排ガスに限らず、粒子状物質が含まれる被測定ガスであれば、いずれにも適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 粒子状物質検出センサ(すなわち、センサ部)
10 センサ素子
2 検出部
21、22 電極
3 ヒータ部
31 ヒータ電極
4 電子制御ユニット(すなわち、センサ制御部)
41 捕集制御部
42 加熱制御部
43 粒子数算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18