特許第6492057号(P6492057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6492057-高い強度を有する銅―ニッケル―錫合金 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492057
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】高い強度を有する銅―ニッケル―錫合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20190318BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20190318BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20190318BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   C22C9/06
   C22C9/02
   C22F1/08 G
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630B
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 641B
   !C22F1/00 660Z
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 692Z
【請求項の数】33
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-510761(P2016-510761)
(86)(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公表番号】特表2016-518527(P2016-518527A)
(43)【公表日】2016年6月23日
(86)【国際出願番号】US2014035179
(87)【国際公開番号】WO2014176357
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2017年3月16日
(31)【優先権主張番号】61/815,158
(32)【優先日】2013年4月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508348680
【氏名又は名称】マテリオン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】クリブ, ダブリュー. レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】フィンクベイナー, チャド エー.
(72)【発明者】
【氏名】グレンシング, フリッツ シー.
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−506804(JP,A)
【文献】 特開2009−242895(JP,A)
【文献】 米国特許第04260432(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0122722(US,A1)
【文献】 特開昭54−057422(JP,A)
【文献】 特開昭56−005942(JP,A)
【文献】 特開平03−173730(JP,A)
【文献】 米国特許第04406712(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/06
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピノーダル合金であって
5質量%〜20質量%のニッケル
5質量%〜10質量%の錫
不純物、
微量添加物、および
残部銅
からなり
ここで、該微量添加物は、ホウ素、ジルコニウム、鉄、ニオブ、マンガンおよびマグネシウムからなる群の少なくとも1つから選択され、そしてここで、該微量添加物の各々は、該スピノーダル合金中に0.3質量%を超えない含有量で存在し、
ここで、該合金は、少なくとも517MPa(75ksi)の0.2%オフセット耐力および少なくとも16J(12フィートポンド)の衝撃靭性有する、スピノーダル合金。
【請求項2】
前記合金が、14質量%〜16質量%のニッケル7質量%〜9質量%の錫、および残部銅含む、請求項1に記載のスピノーダル銅―ニッケル―錫合金。
【請求項3】
前記合金が、15質量%のニッケルおよび8質量%の錫含む、請求項2に記載のスピノーダル銅―ニッケル―錫合金。
【請求項4】
ASTM E23のVノッチに従って、室温で測定したとき、少なくとも41J(30フィートポンド)〜136J(100フィートポンド)の衝撃靭性を有する、請求項1に記載のスピノーダル合金。
【請求項5】
655MPa(95ksi)〜827MPa(120ksi)の0.2%オフセット耐力を有する、請求項1に記載のスピノーダル合金。
【請求項6】
少なくとも15%の最小伸びを有する、請求項1に記載のスピノーダル合金。
【請求項7】
少なくとも758MPa(110ksi)の0.2%オフセット耐力、および少なくとも827MPa(120ksi)の引張強さ有する、請求項1に記載のスピノーダル合金。
【請求項8】
少なくとも655MPa(95ksi)の0.2%オフセット耐力少なくとも41J(30フィートポンド)の衝撃靭性、および少なくとも723MPa(105ksi)の引張強さ有する、請求項2に記載のスピノーダル合金。
【請求項9】
スピノーダル銅―ニッケル―錫合金の製造方法であって、
質量%〜20質量%のニッケル5質量%〜10質量%の錫、不純物、微量添加物、および残部銅からなる銅―ニッケル―錫合金を鋳造する工程であって、ここで、該微量添加物は、ホウ素、ジルコニウム、鉄、ニオブ、マンガンおよびマグネシウムからなる群の少なくとも1つから選択され、そしてここで、該微量添加物の各々は、該合金中に0.3質量%を超えない含有量で存在する、工程
該合金を均質化する工程
該均質化された合金を熱間加工する工程
該熱間加工された合金を溶体化焼鈍する工程
該溶体化焼鈍された合金を冷間加工する工程、および
該冷間加工後の合金をスピノーダル硬化させてスピノーダル合金を製造する工
を含み、
ここで、該スピノーダル合金が少なくとも517106kPa(75,000psi)の0.2%オフセット耐力を有する、方法。
【請求項10】
前記銅−ニッケル−錫合金が、5質量%〜20質量%のニッケル5質量%〜10質量%の錫、および残部銅含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記銅―ニッケル―錫合金が、14質量%〜16質量%のニッケル7質量%〜9質量%の錫、および残部銅含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記合金が、15質量%のニッケルおよび8質量%の錫含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記均質化は、760℃(1400°F)またはそれより高い温度で生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項14】
前記均質化は、802℃(1475°F)〜899℃(1650°F)の温度で生じる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記均質化は、4時間〜48時間かけて生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項16】
前記熱間加工は、704℃(1300°F)〜899℃(1650°F)の温度で生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項17】
前記熱間加工の再加熱は、少なくとも6時間かけて生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項18】
前記溶体化焼鈍は、802℃(1475°F)〜899℃(1650°F)の温度で生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項19】
前記溶体化焼鈍は、0.5時間〜6時間かけて生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項20】
前記溶体化焼鈍の後に焼入れすることをさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項21】
前記焼入れは、前記溶体化焼鈍の終了後2分以内に生じる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記冷間加工は、室温で生じる、請求項9または10の方法。
【請求項23】
前記冷間加工は、前記合金の絞りを15%〜80%にする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項24】
前記冷間加工または溶体化焼鈍の工程が、繰り返される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項25】
前記スピノーダル硬化は、204℃(400°F)〜538℃(1000°F)の温度で生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項26】
前記スピノーダル硬化は、232℃(450°F)〜385℃(725°F)の温度で生じる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記スピノーダル硬化は、260℃(500°F)〜357℃(675°F)の温度で生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項28】
前記スピノーダル硬化は、10秒〜40,000秒の間で生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項29】
前記スピノーダル硬化は、5,000秒〜10,000秒の間で生じる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記スピノーダル硬化は、0.5時間〜8時間かけて生じる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項31】
スピノーダル銅―ニッケル―錫合金の製造方法であって、
質量%〜20質量%のニッケル5質量%〜10質量%の錫、不純物、微量添加物、および残部銅からなる銅―ニッケル―錫合金を溶体化焼鈍する工程であって、ここで、該微量添加物は、ホウ素、ジルコニウム、鉄、ニオブ、マンガンおよびマグネシウムからなる群の少なくとも1つから選択され、そしてここで、該微量添加物の各々は、該合金中に0.3質量%を超えない含有量で存在し、ここで、該溶体化焼鈍は、802℃(1475°F)〜899℃(1650°F)の温度で、0.5時間〜6時間かけて生じる、工程
該溶体化焼鈍された合金を冷間加工する工程であって、該冷間加工の結果、該合金の絞りを15%〜80%とする工程、および
冷間加工後に該合金をスピノーダル硬化させる工程であって、該スピノーダル硬化は、260℃(500°F)〜357℃(675°F)の温度で、0.5時間から8時間かけて生じる、工
を含む、製造方法。
【請求項32】
前記冷間加工または溶体化焼鈍の工程が、繰り返される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
少なくとも827MPa(120ksi)の引張強さおよび20%の最小伸び有する、請求項1に記載のスピノーダル合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2013年4月23日に出願された、米国仮特許出願第61/815,158号の利益を主張し、その全体が参考として本明細書において援用される。
【0002】
本開示は高い強度および良好な延性を伴う高い衝撃靭性を含む性質を併せ持つスピノーダル銅―ニッケル―錫合金に関する。同合金の製造方法および使用方法もここに開示される。
【背景技術】
【0003】
オイル・ガスの地下探索においては、掘削環境(腐食、温度)および操業条件(振動、衝撃荷重、ねじり荷重)に起因する非常に厳しい要求がある。銅―ベリリウム合金やアルミ青銅などの高強度(>75 ksi YS)銅合金および同様な析出硬化型合金は、同じ強度レベルの鋼、ニッケル、またはその他の合金に比べ衝撃特性がかなり低い。そこでさらなる材料が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示はスピノーダル銅―ニッケル―錫合金およびこれら合金の製造・使用方法に関する。これらの合金は、その性質の中でも、特に高いレベルの衝撃靭性および強度を有すると共に、良好な延性を備えている。これらの特性は、オイル・ガスの掘削/探索用途や他の産業用途に用いられるチューブ、パイプ、ロッド等の対象形状製品を製造する上で非常に重要である。
【0005】
本開示の非限定的な各種特徴を、より具体的に以下に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
次に示す図面の簡単な説明は、本明細書で開示される典型的実施形態の図解を目的とするもので、開示の限定を目的とするものではない。
【0007】
図1図1は本開示で使用される処理プロセスの図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、以下に示す望ましい実施形態およびそこに含まれる実施例の詳細な記述を参照することにより容易に理解されるであろう。以下の明細書とそれに続く請求範囲においては、次に示す意味を有するものとして定義された用語が多く用いられる。
【0009】
「a」、「an」、および「the」の単数形は、文中で明確な指定がない限り複数の指示対象を含む。
【0010】
明細書および請求範囲に用いられる用語「comprising(備える、含む)」は、「consisting of(から成る)」および「consisting essentially of(実質的に成る)」の実施形態を含む場合がある。
【0011】
数値は、同数の有効数字に四捨五入した際に同じ値となる数値と、示された数値との差異が、本願に示されたものと同種の従来の計測手法における実験誤差より小さな数値とを含むものと理解されるべきである。
【0012】
本書に開示される全ての範囲は、示された端点を含むものであり、独立して組み合わせ可能である(例えば、「2グラム〜10グラム」は、端点2グラムおよび10グラムと、さらにそれらの間の値を全てと含む)。
【0013】
本明細書で使用されるように、概略を表わす言語は、関連する基本機能に変化をもたらすことなく変動し得る定量的表現の全てを修飾するために用いられる。したがって、「about(約)」および「substantially(実質的に)」等の用語で修飾される値は、時として、指定された値に限定されない場合がある。修飾語の「about(約)」はまた、2つの端点の絶対値で画定される範囲を開示するものと考えられるべきである。例えば、「約2〜約4」と言う表現は、「2〜4」の範囲を開示する。
【0014】
「室温」という用語は、20℃〜25℃の範囲を指す。
【0015】
本開示のスピノーダル銅―ニッケル―錫合金は、鋼、ニッケル合金、チタン合金、および他の銅合金と同等以上の高い衝撃靭性と、良好な強度および延性とを有する。本書で利用されるように、高い衝撃強度は、一部、高いノッチ(切欠)破断抵抗と関連付けられる。その結果、本合金は、高いノッチ強度比を有する。
【0016】
本明細書で開示されるスピノーダル銅―ニッケル―錫(CuNiSn)合金は、約5重量%〜約20重量%のニッケルと、約5重量%〜約10重量%の錫と、残部銅とを含む。より好ましくは、銅―ニッケル―錫合金は、不純物および微量添加物を除き、約14重量%〜約16重量%のニッケル(約15重量%ニッケルの場合を含む)と、約7重量%〜約9重量%の錫(約8重量%錫の場合を含む)と、残部銅とを含む。本合金は、本書に記載されたプロセス工程の後で、少なくとも75,000psi(すなわち、75ksi)の0.2%オフセット耐力を有する。また本合金は、ASTM E23の室温Vノッチに従って測定したとき、少なくとも30フィートポンドの衝撃靭性を有する。
【0017】
本合金によって生み出される、高い強度および衝撃靭性ならびに良好な延性の稀な組み合わせは、溶体化焼鈍、冷間加工、およびスピノーダル硬化の各工程を少なくとも含む処理プロセスによって得られる。例えば、1つの非限定的な実施形態において、プロセスは、垂直連続鋳造、均質化、熱間加工、溶体化焼鈍、冷間加工、およびスピノーダル硬化処理の全体工程を含む。これらのプロセスの結果として製造される合金は、オイル・ガス産業で用いられるような直径が少なくとも10インチまでの流体移送チューブおよび/またはパイプ、ならびにロッド、棒、およびプレートを含む他の対象形状品に用いることができるものと考えられる。これらの合金は、粒界と粒内破壊とのバランスを活用したものである。
【0018】
この点において、本明細書で開示される銅―ニッケル―錫スピノーダル合金は、概して、不純物および微量添加物を除いて、約5重量%〜約20重量%のニッケルと、約5重量%〜約10重量%の錫と、残部銅とを含む。微量添加物にはホウ素、ジルコニウム、鉄、およびニオブ等があり、これら添加物は、溶体化処理の際に等軸晶の形成を促すとともに、母相中におけるNiとSnの拡散速度の違いを減じる。別の微量添加物として、本合金が溶融状態の際に、本合金を脱酸させるためのマグネシウム等がある。また、マンガンの添加は、合金中の不純物である硫黄の有無にかかわらず、到達する最終特性を大幅に改善することが見出されている。また他の元素が存在してもよい。前述の元素は、それぞれ約0.3重量%を超えない範囲で銅―ニッケル―錫合金中に存在する。
【0019】
端的には、上述した1つの実施形態において、スピノーダル銅―ニッケル―錫合金の調製方法では、本合金を鋳物または合金鋳塊に連続垂直鋳造する工程と、鋳込まれた合金を均質化する工程(すなわち、第1の熱処理)と、均質化された合金を熱間加工する工程と、熱間加工された合金を溶体化焼鈍する工程(すなわち、第2の熱処理)と、溶体化焼鈍された合金を冷間加工する工程と、冷間加工後の材料をスピノーダル硬化させて(すなわち、第3の熱処理)本合金を得る工程とを含む。なお、「合金」と言う用語は、材料そのものを示し、「鋳物」と言う用語は、本合金から作られた構造体または製品を示すことに留意されたい。本開示では「合金」および「鋳物」という用語を同じ意味で用いる場合がある。このプロセスも図1に説明されている。
【0020】
まず、銅―ニッケル―錫合金のプロセスは、連続垂直鋳造等により本合金を微細かつ概ね均一な結晶粒組織を有する鋳物に鋳造することから始まる。所望の用途に応じ、鋳物をビレット、ブルーム、スラブ、またはブランクとすることができ、いくつかの実施形態では円柱または他の形状を有する。連続鋳造プロセスおよび装置は、当業者に公知である。例えば、参照により本書に組み込まれる米国特許第6,716,292号を参照されたい。
【0021】
次いで、鋳造に第1の熱処理、すなわち、均質化工程を施す。この熱処理は、固相線温度の70パーセントを越える温度で、合金の母相を単相(またはほぼ単相)に変態させるに十分な時間をかけて行われる。換言すれば、本合金は、均質化された合金に熱処理される。所望される最終的な機械的性質に応じ、熱処理される鋳物の処理温度や処理時間を変えてもよい。実施形態では、この熱処理を約1400°Fまたはそれより高い温度、すなわち、約1475°F〜約1650°Fの範囲を含む温度で行う。この均質化は、約4時間〜約48時間の時間をかけて生じる場合がある。
【0022】
次いで、均質化された合金または鋳物に熱間加工を施す。ここで鋳物は、相当程度に均一な機械的変形を受け、鋳物の面積が減じられる。本合金が変形中に再結晶できるように、熱間加工を固溶線温度と固相線温度との間の温度で行うことができる。これにより合金のミクロ組織が変化し、材料の強度、延性、および靭性を向上させ得る微細粒子が形成される。この熱間加工により本合金に異方的な性質が生じる場合がある。熱間加工は、熱間鍛造、熱間押出、熱間圧延、または熱間穿孔(すなわち、ロータリー穿孔)、または熱間加工プロセスにより実施されることができる。圧下率は最小で約5:1、好ましくは少なくとも10:1とすべきである。この熱間加工の間に、鋳物を約1300°F〜約1650°Fの温度に再加熱する場合がある。この再加熱は、鋳物の厚さ1インチあたり約1時間、ただし、いずれの場合も少なくとも6時間行うこととする。
【0023】
次いで、第2の熱処理プロセスが熱間加工された鋳物に対して行われる。この第2の熱処理は、溶体化焼鈍処理として作用する。溶体化焼鈍は、約1470°F〜約1650°Fの温度で、0.5時間〜約6時間かけて行われる。
【0024】
一般的には、この溶体化焼鈍処理の直後に本合金を冷水焼入れする。焼入れの際の水温は、180°Fまたはそれより低い温度とする。焼入れは、溶体化焼鈍処理によって得られた組織をできるだけ保持するための手段を提供する。鋳物を熱処理炉から取り出し、焼入れを開始するまでの時間間隔を最小化することが重要である。例えば、本合金を溶体化処理炉から取り出し、焼入れを行うまでの間の時間の遅れが2分を超えると悪影響を及ぼす。本合金は、少なくとも30分間、焼入れ状態に保持されるべきである。焼入れの代わりに、空気または調整雰囲気中での冷却も採用することができる。
【0025】
一般的に、ある合金を各種温度で同一時間だけ時効して特性を比較すると、温度の低い方で延性が向上し、強度または硬さが低下する。同一温度で各種時間だけ時効した合金についても同じ熱力学的原理が当てはまる。
【0026】
次いで、溶体化焼鈍された材料は、冷間加工される、あるいは換言すれば、冷間加工または鍛錬用プロセスが、溶体化焼鈍された材料に施される。本合金は、通常「軟質」で、熱処理後の機械加工または成形が容易である。冷間加工は、塑性変形により金属の形状またはサイズを変更するプロセスで、金属または合金の圧延、引抜き、ピルガー加工、プレス加工、へら絞り、押出加工、または圧造等を含むことができる。一般に、冷間加工は本合金の再結晶より低い温度、通常は、室温で行われる。冷間加工を施すと、加工後の合金の硬さと引張強さは増大するものの、一般にその合金の延性と衝撃特性は低下する。また冷間加工は合金の表面仕上げを改善する。本プロセスは塑性変形の百分率で分類される。2次デンドライト間隔を機械的に小さくすることで、ミクロ偏析が低減される。また冷間加工は、本合金の降伏強度(耐力)を増大させる。通常、冷間加工は、室温で行われる。冷間加工終了までに15%〜80%の減面率を生じさせるべきである。冷間加工の終了後、所望のサイズまたは他のパラメータを生み出すまで、溶体化焼鈍を繰り返すことによって、冷間加工を同一のパラメータで繰り返すことができる。冷間加工はスピノーダル硬化の直前に行う必要がある。
【0027】
次いで、冷間加工された合金または鋳物に第3の熱処理を次いで施す。この熱処理は、鋳物をスピノーダル硬化させるように作用する。一般的に、スピノーダル硬化は、スピノーダル領域内の温度で発生し、各実施形態では、約450°F〜約725°F、約500°F〜約675°Fの温度を含む、約400°F〜約1000°Fで発生する。この温度で短範囲拡散が起こり、結晶構造が同一で化学的に異質なゾーンが母相全体に形成される。スピノーダル硬化した合金の組織は、目には見えない程非常に微細で、粒界に至るまで粒内全体を連続的に覆う。スピノーダル分解により強化された合金は、特徴的な変調ミクロ組織を呈する。この微視的構造は、光学顕微鏡の分解能範囲を超えるものである。熟練者による電子顕微鏡法によってのみ分解されるものである。代わりに、電子線回折パターンの基本ブラッグ反射周囲に現れるサテライト反射を観察することにより、銅―ニッケル―錫およびその他合金系に生じるスピノーダル分解が確認されている。鋳物の熱処理温度および熱処理時間は、所望の最終特性を得るために変えることができる。実施形態では、第3の熱処理は、約10秒〜約40,000秒(約11時間)かけて行われ、この時間条件は、約5,000秒(約1.4時間)〜約10,000秒(約2.8時間)および約0.5時間〜約8時間を含む。
【0028】
いくつかの特定の実施形態において、溶体化焼鈍は、約1475°F〜約1650°Fの温度で約0.5時間〜約6時間かけて行われ、熱間加工された材料を冷間加工した結果、絞りは約15%〜80%となり、スピノーダル硬化は、約500°F〜約675°Fの温度で約0.5時間〜約8時間かけて生じる。
【0029】
上述のプロセスを利用することで、高い衝撃強度と高い延性の稀に見る組み合わせが得られる。本合金は、75,000psi(すなわち、75ksi)より高い0.2%オフセット耐力を有する。いくつかの特定の実施形態において、0.2%耐力は約95ksi〜約120ksiとなる。200ksiを超える0.2%オフセット耐力を得ることも可能である。本合金は、高い延性、すなわち、室温で測定した絞りで65%または75%を有する場合もある。本合金は20%の最小伸びを有することができる。また本合金は、ASTM E23の室温V―ノッチによる測定で、少なくとも12フィートポンド(ft―lbs)、または30ft―lbs〜約100ft―lbsの範囲の衝撃靭性を有する。
【0030】
いくつかの特定の実施形態において、本合金は、少なくとも110ksiの0.2%オフセット耐力と、少なくとも12フィートポンドの衝撃靭性と、少なくとも120ksiの引張強さとを有する。
【0031】
他の特定の実施形態において、本合金は、少なくとも95ksiの0.2%オフセット耐力と、少なくとも30フィートポンドの衝撃靭性と、少なくとも105ksiの引張強さとを有する。
【0032】
理論的制約にとらわれずに、本銅―ニッケル―錫合金の降伏強度は、いくつかの機構に起因するものと考えられる。まず、錫とニッケルを合わせると、固定量として約25ksiの強度に寄与する。銅もまた約10ksiの強度を加える。冷間加工は0〜約80ksiの強度を加える。スピノーダル硬化は、0〜約90ksiの強度を加えることができる。所与の目標強度に対し、強化の約20%は、スピノーダル変態(すなわち、熱)により生み出され、約80%は、冷間加工により生み出されるべきであることを表す。この比率を逆にすることは有効ではなく、実際のところ悪影響を及ぼす。しかしながら、冷間加工の量とスピノーダル硬化をバランスさせることで、指定の目標強度レベルを達成することができる。
【0033】
Cu―15Ni―8Sn合金鍛錬製品の溶体化焼鈍後に約95ksiの降伏強度を達成するため、程度の異なる冷間加工と熱処理によって達成できる特性の組み合わせ例。公称径は1インチである。
【表1】
【0034】
本書に開示されるスピノーダル銅―ニッケル―錫合金は、数ある用途の中でも、特に、オイル・ガス探鉱業界において、チューブ、パイプ、ロッド、棒、およびプレートを形成するのに有用である。垂直連続鋳造、均質化、冷間加工前後の各種特定熱処理を含む処理のおかげで、95,000psiを超える強度と、約100フィートポンドの衝撃靭性を伴う0.2%オフセット耐力との稀に見る組み合わせが可能となった。これらの特性は、オイル・ガス掘削市場で極めて重要である。さらに、いくつかのプロセス工程について上述したが、強度、延性および靭性の最適な組み合わせを達成するためには、少なくとも3つのプロセス工程、すなわち、溶体化焼鈍、冷間加工およびスピノーダル硬化が重要である。これらの工程は、図1の下方に示された3つのプロセス工程に表されている。
【0035】
例示的実施形態を参照しつつ本開示を記述した。これまでの詳細な記述を読んで理解すれば、他者が改良や変更を思いつくのは当然のことである。このような改良や変更の全ては、添付の請求項およびその均等物の範囲に入る限り、本開示に含まれると解釈されることを意図する。
本発明の好ましい実施形態においては、例えば、以下が提供される。
(項1)
スピノーダル合金であって、
銅と、
約5重量%〜約20重量%のニッケルと、
約5重量%〜約10重量%の錫と、
を含み、該合金は、少なくとも75ksiの0.2%オフセット耐力を有する、スピノーダル合金。
(項2)
前記合金が、約14重量%〜約16重量%のニッケルと、約7重量%〜約9重量%の錫と、残部銅とを含む、上記項1に記載のスピノーダル銅―ニッケル―錫合金。
(項3)
前記合金が、約15重量%のニッケルと、約8重量%の錫とを含む、上記項2に記載のスピノーダル銅―ニッケル―錫合金。
(項4)
ASTM E23のVノッチに従って、室温で測定したとき、少なくとも30フィートポンド〜約100フィートポンドの衝撃靭性を有する、上記項1に記載のスピノーダル合金。
(項5)
約95ksi〜約120ksiの0.2%オフセット耐力を有する、上記項1に記載のスピノーダル合金。
(項6)
少なくとも約15%の最小伸びを有する、上記項1に記載のスピノーダル合金。
(項7)
少なくとも110ksiの0.2%オフセット耐力と、少なくとも12フィートポンドの衝撃靭性と、少なくとも120ksiの引張強さとを有する、上記項1に記載のスピノーダル合金。
(項8)
少なくとも95ksiの0.2%オフセット耐力と、少なくとも30フィートポンドの衝撃靭性と、少なくとも105ksiの引張強さとを有する、上記項2に記載のスピノーダル合金。
(項9)
1.02未満の透磁率を有する、上記項1に記載のスピノーダル合金。
(項10)
スピノーダル銅―ニッケル―錫合金の製造方法であって、
約5重量%〜約20重量%のニッケルと、約5重量%〜約10重量%の錫と、残部銅とを含む、銅―ニッケル―錫合金を鋳造する工程と、
該合金を均質化する工程と、
該均質化された合金を熱間加工する工程と、
該熱間された合金を溶体化焼鈍する工程と、
該溶体化焼鈍された合金を冷間加工する工程と、
該冷間加工後の合金をスピノーダル硬化させてスピノーダル合金を製造する工程と、
を含み、前記スピノーダル合金が少なくとも75,000psiの0.2%オフセット耐力を有する、方法。
(項11)
前記銅―ニッケル―錫合金が、約14重量%〜約16重量%のニッケルと、約7重量%〜約9重量%の錫と、残部銅とを含む、上記項10に記載の方法。
(項12)
前記合金が、約15重量%のニッケルと、約8重量%の錫とを含む、上記項11に記載の方法。
(項13)
前記均質化は、約1400°Fまたはそれより高い温度で生じる、上記項10に記載の方法。
(項14)
前記均質化は、約1475°F〜約1650°Fの温度で生じる、上記項11に記載の方法。
(項15)
前記均質化は、約4時間〜約48時間かけて生じる、上記項10に記載の方法。
(項16)
前記熱間加工は、約1300°F〜約1650°Fの温度で生じる、上記項10に記載の方法。
(項17)
前記熱間加工の再加熱は、少なくとも6時間かけて生じる、上記項10に記載の方法。
(項18)
前記溶体化焼鈍は、約1475°F〜約1650°Fの温度で生じる、上記項10に記載の方法。
(項19)
前記溶体化焼鈍は、約0.5時間〜約6時間かけて生じる、上記項10に記載の方法。
(項20)
前記溶体化焼鈍の後に焼入れすることをさらに含む、上記項10に記載の方法。
(項21)
前記焼入れは、前記溶体化焼鈍の終了後2分以内に生じる、上記項20に記載の方法。
(項22)
前記冷間加工は、室温で生じる、上記項10の方法。
(項23)
前記冷間加工は、前記合金の絞りを約15%〜約80%にする、上記項10に記載の方法。
(項24)
前記冷間加工または溶体化焼鈍の工程が、所望のサイズやその他パラメータが得られるまで繰り返される、上記項10に記載の方法。
(項25)
前記スピノーダル硬化は、約400°F〜約1000°Fの温度で生じる、上記項10に記載の方法。
(項26)
前記スピノーダル硬化は、約450°F〜約725°Fの温度で生じる、上記項25に記載の方法。
(項27)
前記スピノーダル硬化は、約500°F〜約675°Fの温度で生じる、上記項10に記載の方法。
(項28)
前記スピノーダル硬化は、約10秒〜約40,000秒の間で生じる、上記項10に記載の方法。
(項29)
前記スピノーダル硬化は、約5,000秒〜約10,000秒の間で生じる、上記項28に記載の方法。
(項30)
前記スピノーダル硬化は、約0.5時間〜約8時間かけて生じる、上記項10に記載の方法。
(項31)
スピノーダル銅―ニッケル―錫合金の製造方法であって、
銅―ニッケル―錫合金を溶体化焼鈍する工程であって、該溶体化焼鈍は、約1475°F〜約1650°Fの温度で、約0.5時間〜約6時間かけて生じる、工程と、
該溶体化焼鈍された合金を冷間加工する工程であって、該冷間加工の結果、該合金の絞りを約15%〜約80%とする工程と、
冷間加工後に該合金をスピノーダル硬化させる工程であって、該スピノーダル硬化は、約500°F〜約675°Fの温度で、約0.5時間から約8時間かけて生じる、工程と
を含む、製造方法。
(項32)
前記冷間加工または溶体化焼鈍の工程が、所望のサイズその他パラメータが得られるまで繰り返される、上記項31に記載の方法。
(項33)
上記項10に記載のプロセスで製造される、スピノーダル銅―ニッケル―錫合金。
(項34)
上記項31に記載のプロセスで製造される、スピノーダル銅―ニッケル―錫合金。
図1