(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態の熱ダイオードについて図面に基づいて説明する。
図1に示すように、熱ダイオード1は、NTC膜10と、PTC膜20と、を備えている。NTC膜10およびPTC膜20は、互いに熱圧着されて一体となっている。本明細書では、熱ダイオード1のうち、NTC膜10側の表面をN側表面1aといい、PTC膜20側の表面をP側表面1bという。
【0019】
NTC膜10およびPTC膜20はそれぞれ、第1面および第2面を有する膜状に形成されている。NTC膜10はNTC特性を有しており、PTC膜20はPTC特性を有している。ここでPTC特性とは、温度上昇により物性値(本明細書では熱抵抗または電気抵抗)が正の係数を持って変化する特性である。NTC特性とはその逆で、温度上昇により物性値(同上)が負の係数を持って変化する特性である。
【0020】
NTC膜10およびPTC膜20は、有機材料および無機材料を複合させたコンポジット膜である。熱ダイオード1は、NTC膜10およびPTC膜20を重ね合わせて形成されているため、薄膜状となっている。本実施形態では、NTC膜10およびPTC膜20の内部に存在する熱伝導経路の状態を、熱流の方向によって変化させることで、熱ダイオード特性を実現している。以下、より詳しく説明する。
【0021】
(NTC膜)
NTC膜10には、N側基材11と、複数のN側熱伝導粒子12と、複数の熱収縮粒子13と、が含まれている。N側基材11には、第1材料11a(N側第1材料)と、第2材料11b(N側第2材料)と、が含まれている。N側熱伝導粒子12および熱収縮粒子13は、N側基材11内に混練されている。
【0022】
NTC膜10の厚さ方向に沿う断面において、NTC膜10には、交互に配置された複数の結晶性層および複数の非結晶性層が形成されている。結晶性層は主として第1材料11aにより構成され、非結晶性層は主として第2材料11bにより構成されている。結晶性層および非結晶性層はNTC膜10の厚さ方向に延びている。N側熱伝導粒子12および熱収縮粒子13は、主としてNTC膜10の非結晶層(第2材料11b)内に存在している。N側熱伝導粒子12は、NTC膜10の第1面から第2面にかけて、厚さ方向に一直線の列をなすように配されている。なお、この列は一直線状でなくてもよく、途中で枝分かれしていてもよい。
【0023】
(PTC膜)
PTC膜20には、P側基材21と、P側熱伝導粒子22と、が含まれている。P側基材21には、第1材料21a(P側第1材料)と、第2材料21b(P側第2材料)と、が含まれている。P側熱伝導粒子22は、P側基材21内に混練されている。
【0024】
PTC膜20の厚さ方向に沿う断面において、PTC膜20には、交互に配置された複数の結晶性層および複数の非結晶性層が形成されている。結晶性層は主として第1材料21aにより構成され、非結晶性層は主として第2材料21bにより構成されている。結晶性層および非結晶性層はPTC膜20の厚さ方向に延びている。P側熱伝導粒子22は、主としてPTC膜20の非結晶層(第2材料21b)内に存在している。P側熱伝導粒子22は、PTC膜20の厚さ方向に一直線の列をなすように配されている。なお、この列は一直線状でなくてもよく、途中で枝分かれしていてもよい。
【0025】
(熱伝導粒子)
熱伝導粒子12、22は、基材11、21よりも熱伝導率の高い材質により形成されている。熱伝導粒子12、22の構成としては、
図2に示すようなものが挙げられる。
図2の例では、熱伝導粒子12、22は、導電性の磁性体粒子Mと、磁性体粒子Mを覆う被覆Cとを有する。
【0026】
磁性体粒子Mは、例えばニッケル(Ni),コバルト(Co),鉄(Fe)のうち1または2以上を含む磁性材料から構成されている。磁性材料は金属であることが好ましい。特に、NiまたはNi合金は、導電性および耐食性に優れた磁性材料であるため、磁性体粒子Mの材質として好適である。
【0027】
図2に示すように、磁性体粒子Mの粒子本体の外表面には、複数の突起が形成されていてもよい。突起は先細り形状、すなわち外表面から離れるほど幅が小さく狭くなる形状(例えば多角錐状、円錐状などの錐状)であることが好ましい。磁性体粒子Mが突起を有する場合、N側熱伝導粒子12同士またはP側熱伝導粒子22同士が互いに接触する際の接触点が多くなる。これにより、NTC膜10またはPTC膜20内の熱伝導経路の熱伝導性および導電性が高められる。なお、鋭利な先細り形状の複数の突起を有する粒子を「スパイク状粒子」という。磁性体粒子Mはスパイク状粒子であることがより好ましい。
【0028】
磁性体粒子Mは、例えば、1個の球形の粒子本体の表面に、鋭利な複数の突起(通常は10個〜500個)が形成されている。各突起の高さは、粒子本体の粒径に対して概ね1/3〜1/500である。熱伝導粒子12,22は、例えば、カルボニル金属粉(純度99.99%のニッケルカルボニル)を原料として、Ni(CO)
4→Ni+4COという反応に従って得られる(特開平5−47503号公報を参照)。
【0029】
磁性体粒子Mの平均粒径は、例えば0.2〜10μm(好ましくは1〜3μm)である。磁性体粒子Mの粒径が0.2μmより小さい場合、熱ダイオード1の製造工程において磁場をかけても、熱伝導粒子12,22に作用する磁力が小さいことで熱伝導粒子12,22が移動しにくくなる。また、磁性体粒子Mの粒径が10μmより大きい場合、製造工程において磁場をかけても、例えば液状の基材11、21内での流動抵抗が高くなることで、熱伝導粒子12,22が移動しにくくなる。これに対して、磁性体粒子Mの平均粒径が上記範囲であれば、熱伝導粒子12,22は磁場中で移動しやすくなり、膜の厚さ方向に列をなす配置をとりやすくなる。
【0030】
磁性体粒子Mの平均粒径は、例えばレーザー回折散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定することができる。平均粒径としては、例えば50%累積粒子径(質量基準または体積基準)、最頻粒子径などを採用できる。平均粒径は、粒子を観察した画像に基づく十分な数(例えば100以上)の粒子についての測定値の平均値を採用してもよい。粒子の画像は、例えば光学顕微鏡、電子顕微鏡などを用いて得られた観察画像である。非球形の粒子の粒径としては、例えば観察画像における最長径と最短径の平均値を採用してもよい。
【0031】
被覆Cは、磁性体粒子Mの外表面を覆っている。被覆Cは、例えば炭素材によって形成される。炭素材としては、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラックなどが挙げられる。特に、導電性および耐久性に優れた材料であるグラフェンが被覆Cの材質として好適である。被覆Cの厚さは、例えば1〜100nm(好ましくは10〜20nm)である。
【0032】
被覆Cは、磁性体粒子Mを保護する機能を有する。例えばNTC膜10またはPTC膜20が電池などに適用された場合に、被覆Cによって電解液から磁性体粒子Mを保護することができる。また、被覆Cには、熱伝導粒子12,22同士の接触面積を大きくし、NTC膜10またはPTC膜20の熱抵抗および電気抵抗を小さくする機能も有する。
【0033】
熱伝導粒子12,22の平均粒径は、例えば0.2〜10μm(好ましくは1〜3μm)である。熱伝導粒子12,22の平均粒径および最大粒径は、NTC膜10またはPTC膜20の厚さより小さい。熱伝導粒子12,22に、NTC膜10またはPTC膜20の厚さ方向に圧縮歪みが加えられていてもよい。
N側熱伝導粒子12およびP側熱伝導粒子22の材質、構造などは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
(熱収縮粒子)
熱収縮粒子13は、負の熱膨張係数を有する材質により形成され、温度の上昇に伴って収縮する。熱収縮粒子13の材質としては、セラミックスが挙げられる。より具体的には、熱収縮粒子13として、Mn
3XN(X:Zn、Cu、Ge、Ga、Snなど)により表されるマンガン窒化物を用いることができる。なお、XはZn(亜鉛)、Cu(銅)、Ge(ゲルマニウム)、Ga(ガリウム)、Sn(スズ)などのうちの1つであってもよいし、これらのうち2つ以上であってもよい。例えば、Mn
3Zn
XCu
YNにより表されるマンガン窒化物を熱収縮粒子13として用いてもよい。
熱収縮粒子13は、N側熱伝導粒子12とともに、N側基材11の第2材料11b内に主として配されている。
なお、図示は省略するが、熱収縮粒子13にも熱伝導粒子12,22と同様の被覆Cを設けてもよい。この場合、被覆Cによって熱収縮粒子13を保護することができる。
【0035】
(第1材料)
第1材料11a、21aは結晶性の樹脂材料である。第1材料11a、21aは、絶縁性材料である。第1材料11a、21aは、第2材料11b、21bに比べて熱膨張係数が高いことが好ましい。第1材料11a、21aは、液状硬化性の材料(例えば熱可塑性の材料)であることが好ましい。
第1材料11a、21aとしては、ポリエチレンを好適に用いることができる。ポリエチレンの脆化温度は−80〜−20℃で、ガラス転移点は−20〜−120℃である。
【0036】
なお、第1材料11a、21aとして、例えばポリオレフィン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等を用いてもよい。第1材料11a、21aは、これらのうち1つを単独で用いてもよいし、2つ以上を混合して用いてもよい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(融点120〜140℃)、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(融点95〜130℃)、エチレンプロピレンジエン共重合体(EPDM)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリエチレン類;アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等のポリプロピレン類(融点100〜140℃);ポリブテン等を挙げることができる。ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン610等を挙げることができる。
【0037】
(第2材料)
第2材料11b、21bは、非結晶性の樹脂材料である。第2材料11b、21bは、絶縁性材料である。
第2材料11b、21bとしては、例えばパラフィン類を好適に用いることができる。なお、第2材料11b、21bとしてポリスチレン樹脂、または非結晶性ポリエチレン等を用いてもよい。第2材料11b、21bは、これらのうち1つを単独で用いてもよいし、2つ以上を混合して用いてもよい。
第2材料11b、21bは、液状硬化性の材料(例えば熱可塑性の材料)であることが好ましい。第2材料11b、21bは、第1材料11a、21aに比べて分子量が低いことが好ましい。
【0038】
第2材料11b、21bの融点は、第1材料11a、21aの融点より低い。第2材料11b、21bの融点は、例えば54〜58℃とされる。第2材料11b、21bの融点が54℃以上であると、第2材料11b、21bの過度の流動化を抑えることができる。そのため、第2材料11b、21bがNTC膜10またはPTC膜20の表面付近に流出することによって、熱伝導粒子12、22の列形成が阻害されるのを防ぐことができる。第2材料11b、21bの融点が58℃以下であると、第2材料11b、21bに適度な流動性を与え、第2材料11b、21b(非結晶性相)における熱伝導粒子12,22の列形成を促すことができる。
【0039】
(製造方法)
次に、上記のような熱ダイオード1の製造方法の一例について説明する。
【0040】
まず、磁性体粒子Mの表面に、例えばCVD等の気相蒸着法、アルコール液相法、液相放電法等の液相成長法などにより被覆Cを形成する。これにより、
図2に示すような熱伝導粒子12,22が得られる。
【0041】
次に、N側基材11と熱伝導粒子12と熱収縮粒子13とを混練して、
図3(a)に示すようなN側混練物10Aを得る(N側混練工程)。N側混練工程における混練の方法は、例えば各材料を加熱・混合して、N側基材11が未硬化のままシート状に成形する。なお、N側基材11が第1材料11aおよび第2材料11bを含む場合には、これらの材料11a、11bを熱伝導粒子12および熱収縮粒子13と混練する。N側基材11が3以上の材料により構成される場合も同様である。
【0042】
また、P側基材21と熱伝導粒子22とを混練してP側混練物を得る(P側混練工程)。P側混練工程における混練の方法は、例えば各材料を混合して、未硬化のままシート状に成形する。なお、P側基材21が第1材料21aおよび第2材料21bを含む場合には、これらの材料21a、21bを熱伝導粒子22と混練する。P側基材21が3以上の材料により構成される場合も同様である。
【0043】
N側混練工程の時点では、
図3(a)に示すように、熱伝導粒子12および熱収縮粒子13はN側基材11内に均一に分散されている。また、N側基材11は、第1材料11aおよび第2材料11bが混ざり合った状態となっている。
P側混練工程の時点では、熱伝導粒子22はP側基材21内に均一に分散されている。図示は省略するが、P側基材21は、
図3(a)におけるN側基材11と同様に、第1材料21aおよび第2材料21bが混ざり合った状態となっている。
【0044】
次に、N側混練物のシートをその厚さ方向に圧縮して薄膜状にすることで、NTC膜10が得られる(NTC成膜工程)。
また、P側混練物のシートをその厚さ方向に圧縮して薄膜状にすることで、PTC膜20が得られる(PTC成膜工程)。
【0045】
次に、NTC膜10およびPTC膜20を加熱し、N側基材11およびP側基材21を溶融させる。加熱により流動化したN側基材11またはP側基材21中では、熱伝導粒子12,22および熱収縮粒子13が移動可能となる。
ここで、第1材料11a、21aの融点は第2材料11b、21bの融点より高い。このため、徐冷によってN側基材11およびP側基材21が硬化する過程において、第1材料11a、21aは第2材料11b、21bより先に流動性が低下し、集合して結晶性相を形成する(
図3(b)参照)。このとき、第2材料11b、21bでは分子鎖の動きが束縛されず、第2材料11b、21bに熱伝導粒子12,22および熱収縮粒子13が移入しやすい。その一方で、第1材料11a、21aでは分子鎖間に働く引力が強く、第1材料11a、21aには熱伝導粒子12,22および熱収縮粒子13が移入しにくい。このため、熱伝導粒子12、22および熱収縮粒子13は、主として第2材料11b、21b内に安定して存在することになる。
【0046】
次に、NTC膜10をN側基材11の融点以上に加熱した状態で、NTC膜10に磁界をかける。また、PTC膜20をP側基材21の融点以上に加熱した状態で、PTC膜20に磁界をかける(磁気整列工程)。ここで、N側基材11またはP側基材21が、複数種類の材料によって構成されている場合には、最も融点の高い材料における融点を、「N側基材11およびP側基材21の融点」と定義する。
【0047】
磁界をかける際は、例えば
図3(b)に示すように、N側混練物10A(またはP側混練物)のシートの一方の面に磁石のS極側を近づけ、他方の面に磁石のN極側を近づける。熱伝導粒子12、22は磁性を有しているため、磁場によって、少なくとも一部の熱伝導粒子12,22は、シートの厚さ方向に列をなすように配置される。特に、低融点で流動性の高い第2材料11b、21b内に存在する熱伝導粒子12、22は、容易に厚さ方向に整列される。これにより、N側混練物10Aについては
図3(c)に示すように、熱伝導粒子12が第2材料11b内において厚さ方向に整列した状態となる。図示は省略するが、P側混練物も同様である。
【0048】
次に、NTC膜10またはPTC膜20を徐冷して硬化させる。
なお、NTC膜10については、徐冷の際に熱収縮粒子13が膨張することで、その周囲の熱伝導粒子12同士の間隔が広がる(
図3(d)参照)。
【0049】
次に、得られたNTC膜10およびPTC膜20を互いに重ね合わせて熱圧着することで、熱ダイオード1が得られる(熱圧着工程)。熱圧着は、N側基材11およびP側基材21の融点より高い温度で行う。例えばN側基材11およびP側基材21の第1材料11a、21aがいずれもポリエチレンである場合には、ポリエチレンの融点以上(例えば220℃、4Mpa)で熱圧着を行う。
以上の製造方法により、本実施形態の熱ダイオード1を製造することができる。
【0050】
なお、上記製造方法における各工程の順序は適宜変更してもよい。例えば、熱圧着工程の後に磁気整列工程を行ってもよい。この場合、熱圧着して熱ダイオード1の状態となった後、N側表面1aおよびP側表面1bの一方にS極を近づけ、他方にN極を近づけることで、NTC膜10およびPTC膜20内の熱伝導粒子12、22を同時に整列させることができる。
【0051】
(作用)
次に、以上のように構成された熱ダイオード1の作用について説明する。
【0052】
図4(a)は、温度変化に応じたPTC膜20の状態および熱伝導性を示す模式図である。
図4(a)中のグラフの横軸は温度を示し、縦軸は熱伝導率を示している。
図4(a)に示すように、温度が低い場合、PTC膜20に含まれる熱伝導粒子22同士が互いに接触し、PTC膜20の厚さ方向に連なって列をなしている。これにより、熱伝導粒子22を伝って熱が伝わりやすい状態となっている。以下、熱伝導粒子22が連なった列をP側熱伝導経路という。
【0053】
また
図4(a)に示すように、温度が高くなると、PTC膜20の全体が熱膨張する。これにより、PTC膜20に含まれる熱伝導粒子22が互いに離間し、P側熱伝導経路が崩れる。したがって、温度が高くなるとPTC膜20の熱伝導率は小さくなる。
このように、PTC膜20の熱伝導率は、低温の場合に大きくなり、高温の場合に小さくなる。換言すると、PTC膜20の熱抵抗は、低温の場合に小さくなり、高温の場合に大きくなる。
【0054】
図4(b)は、温度変化に応じたNTC膜10の状態および熱伝導性を示す模式図である。
図4(b)中のグラフの横軸は温度を示し、縦軸は熱伝導率を示している。
図4(b)に示すように、温度が高い場合、NTC膜10に含まれる熱伝導粒子12同士が互いに接触し、NTC膜10の厚さ方向に連なって列をなしている。これにより、熱伝導粒子12を伝って熱が伝わりやすい状態となっている。以下、熱伝導粒子12が連なった列をN側熱伝導経路という。
【0055】
また
図4(b)に示すように、温度が低くなると、熱収縮粒子13が膨張する。これにより、熱収縮粒子13の周囲に存在する熱伝導粒子12同士が互いに離間し、N側熱伝導経路が崩れる。したがって、温度が低くなるとNTC膜10の熱伝導率は小さくなる。
このように、NTC膜10の熱伝導率は、高温の場合に大きくなり、低温の場合に小さくなる。換言すると、NTC膜10の熱抵抗は、高温の場合に小さくなり、低温の場合に大きくなる。
【0056】
図4(a)に示すように、理想的にはある温度(境界温度T)を境として、PTC膜20内で熱伝導粒子22が連なった状態と離れた状態とが変化する。したがって、境界温度Tより低温の場合は熱伝導率が大きくなり(K
High)、境界温度Tより高温の場合には熱伝導率が小さくなる(K
Low)。
図4(b)に示すように、理想的には境界温度Tを境として、NTC膜10内で熱伝導粒子12が離れた状態と連なった状態とが変化する。したがって、境界温度Tより低温の場合は熱伝導率が小さくなり(K
Low)、境界温度Tより高温の場合は熱伝導率が大きくなる(K
High)。
【0057】
なお、
図4(a)、(b)では熱伝導率が段階的に変化しているが、実際には熱伝導粒子12、22の列のうち、連なっている部分の割合と離れている部分の割合とが温度に応じて徐々に変化する。したがって、PTC膜20は温度の上昇に伴って次第に熱伝導率が下がっていき、NTC膜10は温度の上昇に伴って次第に熱伝導率が上がっていく。
【0058】
上記の通り、PTC膜20およびNTC膜10は逆の熱的特性を有している。このようなPTC膜20およびNTC膜10を重ねることで、熱ダイオード1の特性を実現することができる。以下、
図5(a)、(b)を用いてより詳しく説明する。
【0059】
図5(a)は、熱ダイオード1におけるNTC膜10側の表面(N側表面1a)に熱源Hを接触させた場合の模式図である。
図5(b)は、熱ダイオード1におけるPTC膜20側の表面(P側表面1b)に熱源Hを接触させた場合の模式図である。
図5(a)、(b)中に記載の矢印は熱流の方向を示している。つまり、
図5(a)ではN側表面1aからP側表面1bに向けて熱が移動し、
図5(b)ではP側表面1bからN側表面1aに向けて熱が移動する。このように熱流の方向が逆であるため、熱ダイオード1内の温度勾配も、
図5(a)と
図5(b)とで逆になる。
【0060】
図6(a)は
図5(a)に対応する熱ダイオード1の熱伝導率を示し、
図6(b)は
図5(b)に対応する熱ダイオード1の熱伝導率を示している。
図6(a)に示すように、N側表面1aに熱源Hを接触させた場合、熱ダイオード1内の温度分布は、N側表面1aからP側表面1bに向かうに従って温度が小さくなるような勾配となる。
図6(a)ではこの温度分布を模式的に表しており、N側表面1aの温度をT
Highと表し、P側表面1bの温度をT
Lowと表している。
【0061】
ここで、例えば
図4(a)、(b)に示すような理想的な熱特性を有するPTC膜20およびNTC膜10を用いた熱ダイオード1において、PTC膜20とNTC膜10との境界面の温度が境界温度Tとなった場合を考える。このとき、NTC膜10の温度が境界温度Tより高く、PTC膜20の温度が境界温度Tより低くなる。したがって、NTC膜10およびPTC膜20の双方とも、熱伝導率が大きい(K
High)状態になる。
【0062】
一方、
図6(b)に示すように、P側表面1bに熱源Hを接触させた場合、熱ダイオード1内の温度分布は、P側表面1bからN側表面1bに向かうに従って温度が小さくなるような勾配となる。
図6(b)ではこの温度分布を模式的に表しており、P側表面1bの温度をT
Highと表し、N側表面1aの温度をT
Lowと表している。
この場合も、
図6(a)の場合と同様に考えると、NTC膜10およびPTC膜20の双方とも、熱伝導率が小さい(K
Low)状態になる。
【0063】
上記説明では、理解を容易にするために理想的な状態のNTC膜10およびPTC膜20を例として説明したが、実際の熱ダイオード1においても、N側表面1aおよびP側表面1bのどちらが高温側となるかによって、熱ダイオード1全体の熱伝導率が変化する。つまり、N側表面1aが高温側の場合には熱伝導率が大きくなり、P側表面1bが高温側の場合には熱伝導率が小さくなる。
このように、本実施形態の熱ダイオード1では、熱流の方向に応じて熱伝導率が異なる熱ダイオード特性を実現することができる。
【0064】
また、本実施形態の熱ダイオード1によれば、PTC膜20およびNTC膜10が、それぞれ樹脂を主体として形成されている。このため、セラミックスを主体とした場合と比較して、高温高圧の条件下で製造する必要がなく、より容易に熱ダイオード1を製造することができる。
また、原料としてレアメタルなどを用いる必要が無いため、比較的低コストで熱ダイオード1を製造することができる。
【0065】
また、PTC膜20およびNTC膜10を重ねることで熱ダイオード1が構成されている。このため、薄膜状で大きな表面積を持つ熱ダイオード1を実現することが可能となり、幅広い用途に熱ダイオード1を応用することが可能となる。例えば、ハイブリッド車では、排気ガス用の触媒を、温度を維持するためのヒーターとともに用いる場合がある。このような場合、ヒーターの熱を触媒へと伝えやすくしつつ、触媒からの放熱を抑制することが好ましい。そこで、P側表面1bが触媒を向き、N側表面1aがヒーターを向くように、本実施形態の熱ダイオード1を設けるとよい。この場合、触媒の熱がP側表面1bからN側表面1aに向かって伝わる際の熱伝導率は小さいため、触媒の放熱を効果的に抑制することができる。その一方で、ヒーターの熱がN側表面1aからP側表面1bに向かって伝わる際の熱伝導率は大きいため、熱を触媒に効率的に伝えることができる。
【0066】
また、熱伝導粒子12、22が磁性を有しているため、熱ダイオード1を製造する際に磁界をかけることで、これらの熱伝導粒子12、22を熱ダイオード1の厚さ方向に配列させることができる。そして、熱伝導粒子12,22が熱ダイオード1の厚さ方向に配列されることで、PTC膜20の厚さ方向におけるPTC特性、およびNTC膜10の厚さ方向におけるNTC特性が安定する。したがって、熱ダイオード1の熱特性が安定する。
【0067】
また、N側基材11が、第1材料11aと、第1材料11aよりも融点が低い第2材料11bとを含んでいる。そして、第1材料11aは結晶性の樹脂材料であり、第2材料11bは非結晶性の樹脂材料である。このため、結晶性の樹脂材料である第1材料11aによってNTC膜10の機械的強度を確保することができる。そして、NTC膜10を加熱して磁界をかけた際に、結晶性の樹脂材料である第1材料11aには粒子12、13が入り込みにくい一方で、非結晶性の樹脂材料である第2材料11bには粒子12、13が入り込みやすい。したがって、第2材料11b中に安定して熱伝導粒子12を膜厚方向に配列させることができる。この作用効果は、PTC膜20についても同様に得られる。
【0068】
また、本実施形態の熱ダイオード1の製造方法は、P側混練工程と、N側混練工程と、PTC成膜工程と、NTC成膜工程と、熱圧着工程と、を有する。このような製造方法により、薄膜状の熱ダイオード1を比較的簡易に製造することが可能となる。
また、熱圧着工程において、P側基材21およびN側基材11の融点より高い温度で熱圧着することで、PTC膜20およびNTC膜10をより確実に一体化させて、PTC膜20とNTC膜10との間での熱伝導を確実に行うことができる。
【実施例】
【0069】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0070】
(実施例1)
第1材料11a、21aとして結晶性ポリエチレンアズワン社製、結晶性HDPEシート:型番6−619−01、JIS K 6760に基づくビカット軟化温度:124℃)を用いた。第2材料11b、21bとして非結晶性ポリエチレン(住友化学社製、エクセレン(登録商標)、型番:VL−100、JIS K 6760に基づくビカット軟化温度:70℃)を用いた。熱伝導粒子12、22として、スパイク状のNi粒子の粉末(ニューメタルス・エンド・ケミカルス・コーポレーション社製、粒径1〜2μm)を用いた。熱収縮粒子13として、組成Mn−Sn−Zn−Nのマンガン窒化物(株式会社高純度化学研究所製、Smartec(登録商標)シリーズ、Smartec−H)の粉末を、乳鉢で粉砕後にふるいを用いて粒径20μm以下に分粒した。
【0071】
N側基材11およびP側基材21ともに、結晶性ポリエチレン(第1材料11a、21a)と非結晶性ポリエチレン(第2材料11b、21b)を同体積混練した。N側基材11をN側熱伝導粒子12および熱収縮粒子13の粉体とともに溶融混練し、P側基材21をP側熱伝導粒子22の粉体とともに溶融混練した。NTC膜10は、N側熱伝導粒子12(Ni)の体積密度を5Vol.%とし、熱収縮粒子13の体積密度を5Vol.%とした。PTC膜20は、P側熱伝導粒子22(Ni)の体積密度を5Vol.%とした。
【0072】
それぞれを溶融混練後にホットプレスを用いて薄膜化し、NTC膜10およびPTC膜20を得た。ホットプレスの際にスペーサーを用いることで、NTC膜10およびPTC膜20の厚さはそれぞれ150μmとした。NTC膜10およびPTC膜20を互いに重ねて、第1材料11a、21a(結晶性ポリエチレン)の溶融温度より高い温度(220℃)で熱圧着した後、第1材料11a、21a(結晶性ポリエチレン)の溶融温度より高い温度(220℃)で加熱しながら、膜内に一様に0.2Tの磁力(吸着力14.7N)を印加して磁気整列を行った。徐冷は、NTC膜10およびPTC膜20が室温となるまで、自然空冷により行った。これにより、厚さ約300μmの薄膜状の熱ダイオード1を得た。
【0073】
薄膜状の熱ダイオード1を切り分けることで2つのサンプルを得て、室温でヒーター上に設置した。このとき、一方のサンプルはNTC膜10側の表面(N側表面1a)をヒーターに接触させ、PTC膜20側の表面(P側表面1b)に熱電対を取り付けた。他方のサンプルはP側表面1bをヒーターに接触させ、N側表面1aに熱電対を取り付けた。これにより、2つのサンプルの内部における熱流方向は逆になる。
図7に、熱電対による各サンプルの温度測定結果を示す。
図7の横軸はヒーターの温度を示し、縦軸はサンプル表面の温度を示す。
図7中、「NTC→PTC」はN側表面1aを加熱したサンプルのデータであり、「PTC→NTC」はP側表面1bを加熱したサンプルのデータである。
【0074】
図7に示す通り、N側表面1aを加熱したサンプルの測定温度(NTC→PTC)は、P側表面1bを加熱したサンプルの測定温度(PTC→NTC)よりも高くなっている。この結果から、本実施例の熱ダイオード1は、N側表面1aを加熱した場合は熱を伝導しやすく、P側表面1bを加熱した場合は熱を伝導しにくいことがわかる。つまり、同一の熱ダイオード1において、熱流方向によって熱伝導率が異なっていることがわかる。
【0075】
図8は、
図7における2つのデータの差分をとったグラフである。つまり、
図8は2つのサンプルにおける、熱電対を取り付けた面の温度差を示している。
図8に示すように、温度差は、ヒーター温度が高くなるほど大きくなっている。実施例1では、ヒーター温度が60℃のときに、温度差が4.5℃となっていた。
【0076】
(実施例2)
実施例2では、NTC膜10は、熱収縮粒子13を15Vol.%とした。その他の条件は、実施例1と同様である。実施例1と同様に、得られた熱ダイオード1から2つのサンプルを切り出して、加熱面を異ならせて表面温度を測定した。
図9は、2つのサンプルにおける熱電対を取り付けた面の温度差を示している。
【0077】
実施例1(
図8)と同様に、実施例2でも温度が高いほど温度差が大きくなっている。また、温度差は実施例1の結果よりも大きい。例えば、ヒーター温度が60℃のときの温度差は6.5℃となっており、実施例1の温度差(4.5℃)よりも2℃大きい。これは、実施例2のほうが、NTC膜10に含まれる熱収縮粒子13の数が多いことに起因している。つまり、NTC膜10に含まれる熱収縮粒子13の数が増えるほど、NTC膜10のNTC特性が大きくなるためである。
以上より、NTC膜10に含まれる熱収縮粒子13の数を適宜変更することで、熱ダイオード1の熱特性を調整可能であることがわかった。
【0078】
(実施例3)
実施例3では、NTC膜10およびPTC膜20の電気特性について確認した。NTC膜10およびPTC膜20の材質、配合などは実施例1と同様であるため省略する。
本実施例では、熱伝導粒子12、22としてNi粒子を利用している。Ni粒子は、樹脂(N側基材11およびP側基材21)と比較して、熱抵抗だけでなく電気抵抗も小さい。したがって、NTC膜10およびPTC膜20は、熱特性および電気特性の両方について、それぞれNTC特性またはPTC特性を示す。
【0079】
図10は、本実施例におけるNTC膜10およびPTC膜20の電気特性を示すグラフである。
図10の横軸は温度であり、縦軸は電気抵抗率を示している。つまり
図10は、本実施例のNTC膜10およびPTC膜20の電気抵抗率の温度変化を示している。
図10に示すように、PTC膜20は高温になるにつれて電気抵抗率が高くなっている。例えば、80℃における電気抵抗率は、25℃における電気抵抗率と比較して5桁の変化が見られた。
【0080】
一方でNTC膜10は、温度上昇と共に電気抵抗率がゆるやかに減少している。このように、電気抵抗についても、NTC膜10はNTC特性を有しており、PTC膜はPTC特性を有している。したがって、本実施例のNTC膜10およびPTC膜20を用いて得られる熱ダイオード1は、電気の整流作用を有するダイオードとしても使用することができる。
【0081】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0082】
例えば前記実施形態では、N側基材11およびP側基材21がそれぞれ2種類の材料によって形成されていたが、基材11、21の構成は適宜変更可能である。例えば1種類の樹脂材料によってN側基材11およびP側基材21を構成してもよい。この場合でも、N側基材11およびP側基材21を加熱して流動可能な状態で磁界をかけることで、熱伝導粒子12、22を膜厚方向に整列させることができる。
【0083】
また、前記実施形態では熱伝導粒子12、22を膜厚方向に整列させたが、このような整列を行わなくても、熱による膨張・収縮によって熱伝導粒子12、22同士の間隔を変化させることで、NTC特性またはPTC特性をある程度実現することが可能である。したがって、前記実施形態の磁気整列工程は必須ではない。
【0084】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【解決手段】熱ダイオード1は、PTC特性をするPTC膜20と、PTC膜20に重ねられ、かつNTC特性を有するNTC膜10と、を備える。PTC膜20は、樹脂により形成されたP側基材21と、P側基材21内に配された複数のP側熱伝導粒子22と、を含む。NTC膜10は、樹脂により形成されたN側基材11と、N側基材11内に配された複数のN側熱伝導粒子12および複数の熱収縮粒子13と、を含む。