特許第6492270号(P6492270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6492270射出成形用原料の製造方法、及び樹脂成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492270
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】射出成形用原料の製造方法、及び樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 9/04 20060101AFI20190325BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20190325BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20190325BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20190325BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   B29B9/04
   B29C47/92
   B29C47/14
   B29B7/48
   B29C45/00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-71751(P2016-71751)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-177702(P2017-177702A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年8月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】角 祐一郎
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−043036(JP,A)
【文献】 特開2008−284729(JP,A)
【文献】 特開2013−010931(JP,A)
【文献】 特開2003−127133(JP,A)
【文献】 特開平05−116140(JP,A)
【文献】 特開平08−225680(JP,A)
【文献】 特開昭47−025250(JP,A)
【文献】 特開2000−301587(JP,A)
【文献】 特開2002−256029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 9/00− 9/16
B29B 7/00− 7/94
B29B 11/00−11/16
B29B 17/00−17/02
B29C 45/00−45/84
B29C 47/00−47/96
C08J 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおして樹脂シートに成形する成形工程と、
ダイスから押出された樹脂シートの膜厚を評価する評価工程と、
その評価結果に基づいて、射出成形用原料として前記樹脂シートを選択する選択工程と、を有
前記評価結果は、樹脂シートの平均の膜厚に対する樹脂シートの膜厚の標準偏差に基づくものである、
射出成形用原料の製造方法。
【請求項2】
前記選択工程における選択は、前記樹脂シートの膜厚の評価結果が、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±20%以内である場合に行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
選択された前記樹脂シートを粉砕する工程又は選択された前記樹脂シートをゲル状にし、該ゲル状の樹脂を造粒する工程を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕する工程又は前記造粒する工程後の樹脂を、ペレット状の樹脂からなる射出成形用原料として得る工程をさらに有する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法により射出成形用原料を製造する工程と、
製造された射出成形用原料を射出成形する工程を有する、樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記射出成形する工程は、前記樹脂組成物の一部から形成された、前記樹脂シート以外の樹脂を、前記射出成形用原料とともに押出機に投入する工程を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記射出成形用原料を振動可能なホッパーを通じて押出機に投入する工程を含む、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
樹脂成形体の製造方法であって、
組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおして樹脂シートに成形する成形工程と、
ダイスから押出された樹脂シートの膜厚を評価する評価工程と、
その評価結果に基づいて、前記樹脂シートを成形体として得るか、射出成形用原料として使用するか、又は、廃棄するかを決定する工程と、を有し、
前記評価結果は、樹脂シートの平均の膜厚に対する樹脂シートの膜厚の標準偏差に基づくものである、
樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおして樹脂シートに成形する成形工程と、
ダイスから押出された樹脂シートの膜厚を評価する評価工程と、を有する樹脂シート成形体の製品の製造工程で、
樹脂シートの平均の膜厚に対する樹脂シートの膜厚の標準偏差に関する評価結果に基づいて、前記樹脂シート成形体を選択して次工程以降に移行させたときに製品として使用されなかった樹脂シート成形体、もしくは樹脂シート成形体の一部を、粉砕するか、又は、
製品として使用されなかった樹脂シート成形体、もしくは樹脂シート成形体の一部をゲル状にして該ゲル状の樹脂を造粒することによって、射出成形用原料に製造する方法。
【請求項10】
前記粉砕又は前記造粒後の樹脂を、ペレット状の樹脂からなる射出成形用原料に製造する請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用原料の製造方法、及び樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、射出成形用原料を得る方法として、樹脂組成物を押出機により混練して可塑化し、押出機出口に取り付けられた複数の小孔があいたダイス、いわゆるストランドダイからひも状に押し出して、冷却、固化した後、切断してペレット化することによりストランドペレットを得る方法、もしくは溶融状態で切断してペレット化してホットカットペレットを得る方法が使用されている。
【0003】
しかしながら、フィラーを高充填した樹脂組成物の場合には、混練で粘度が容易に下がらず流動性が悪いため、ストランドダイの小孔から押し出しても原料が切れてしまう等、押出しが難しくペレット化が難しい。そのため、加圧ニーダー等で少量ずつ混錬し、粉砕するという方法を取らざる得ないと考えられている。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、押出機の出口に上述したストランドダイを取り付けずに開放した状態で混練、押出しを行い、射出成形用原料を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−1663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ストランドダイを取り付けずに射出成形用原料を製造した場合に、原料の強度が十分でないことが懸念される。
【0007】
また、フィラーが高充填される射出成形用原料は、混練で良好な混練状態を示しても、必ずしも成形が容易であるとは限らなかった。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、シート状に押し出すダイスを利用しつつ、成形を容易に行いやすい射出成形用原料の製造方法及びこのような射出成形用原料を用いた樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、フラットダイのようなシート状に押し出すダイスをとおして成形された樹脂成形体の膜厚に基づいて、良好な射出成形用原料を選択できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 本発明は、組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおしてシート状に成形する成形工程と、ダイスから押出されたシート状の樹脂の膜厚を評価する評価工程と、その評価結果に基づいて、射出成形用原料として前記シート状の樹脂を選択する選択工程と、を有する、射出成形用原料の製造方法である。
【0011】
(2) また、本発明は、前記選択工程における選択は、前記シート状の樹脂の膜厚の評価結果が、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±20%以内である場合に行われる、(1)に記載の製造方法である。
【0012】
(3) また、本発明は、選択された前記シート状の樹脂を粉砕する工程又は選択された前記シート状の樹脂をゲル状にし、該ゲルの樹脂を造粒する工程を有する、(1)又は(2)に記載の製造方法である。
【0013】
(4) また、本発明は、前記粉砕する工程又は前記造粒する工程後の樹脂を、ペレット状の樹脂からなる射出成形用原料として得る工程をさらに有する、(3)に記載の製造方法である。
【0014】
(5) また、本発明は、(1)から(4)のいずれかに記載の方法により射出成形用原料を製造する工程と、製造された射出成形用原料を射出成形する工程を有する、樹脂成形体の製造方法である。
【0015】
(6) また、本発明は、前記射出成形する工程は、前記樹脂組成物の一部から形成された、前記シート状の樹脂以外の樹脂を、前記射出成形用原料とともに押出機に投入する工程を含む、(5)に記載の製造方法である。
【0016】
(7) また、本発明は、前記射出成形用原料を振動可能なホッパーを通じて押出機に投入する工程を含む、(5)又は(6)に記載の製造方法である。
【0017】
(8) また、本発明は、樹脂成形体の製造方法であって、組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおしてシート状に成形する成形工程と、ダイスから押出されたシート状の樹脂の膜厚を評価する評価工程と、その評価結果に基づいて、前記シート状の樹脂を成形体として得るか、射出成形用原料として使用するか、又は、廃棄するかを決定する工程と、を有する、樹脂成形体の製造方法である。
【0018】
(9) また、本発明は、組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおしてシート状に成形する成形工程と、ダイスから押出されたシート状の樹脂の膜厚を評価する評価工程と、を有するシート状樹脂成形体の製品の製造工程で、評価結果に基づいて、前記シート状樹脂成形体を選択して次工程以降に移行させたときに製品として使用されなかったシート状樹脂成形体、もしくはシート状樹脂成形体の一部を、粉砕するか、又は、製品として使用されなかったシート状樹脂成形体、もしくはシート状樹脂成形体の一部をゲル状にして該ゲル状の樹脂を造粒することによって、射出成形用原料に製造する方法である。
【0019】
(10) また、本発明は、前記粉砕又は前記造粒後の樹脂を、ペレット状の樹脂からなる射出成形用原料に製造する(9)に記載の方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シート状に押し出すダイスを利用して、成形を容易に行いやすい射出成形用原料の製造方法及びこのような射出成形用原料を用いた樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
<射出成形用原料の製造方法>
本発明に係る射出成形用原料の製造方法は、組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおしてシート状に成形する成形工程と、ダイスから押出されたシート状の樹脂の膜厚を評価する評価工程と、その評価結果に基づいて、射出成形用原料として前記シート状の樹脂を選択する選択工程とを有する。射出成形用原料とは、射出成形により樹脂成形体を製造する際に用いられる原料を意味する。
【0023】
本発明に係る射出成形用原料の製造方法によれば、押出機によりダイスを通してシート状に成形された樹脂成形体の膜厚に基づいて評価を行うことにより、射出成形を容易に行いやすい射出成形用原料を得ることができる。この場合一度成形した樹脂成形体を、射出成形用原料として再度使用することになるが、上述したように、従来の射出成形用原料を得る方法でも、樹脂組成物を一旦押出機で混練し、ストランドダイからひも状に押し出して、ペレット化して使用するので、樹脂組成物に対する熱的、機械的条件に変わりはない。本発明において得られるシート状の樹脂は、後述する実施例の結果からも明らかなように、射出成形用原料に適している。
【0024】
[成形工程]
本発明に係る射出成形用原料の製造方法においては、組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおしてシート状に成形する。
【0025】
一般に組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」と略称する。)は、成形工程で必要な混練の工程で、粘度上昇が著しく大きい。よって、樹脂組成物の混練は、十分に強い力で行うことが好ましく、具体的には、多軸押出機、例えば二軸押出機を用いることが好ましく、ロータセグメントを組み合わせたものがより好ましい。使用する押出機がロータセグメントを付けた多軸押出機であれば、スクリューによる強い剪断力の作用で、樹脂組成物を混練できるため特に好ましい。なお、単軸押出機により混練を行っても構わないが、単軸押出機による混練を行う場合、押出機に投入前にあらかじめ混練された状態の樹脂組成物を用いる必要がある。
【0026】
樹脂組成物の混練状態の調整は、樹脂組成物の成分や、熱可塑性樹脂の種類によって、溶融温度、スクリューの回転速度、樹脂組成物の押出機内での滞留時間等を適宜調整すればよい。
【0027】
ダイスには、押し出される溶融樹脂をシート状に賦形する金型、例えば、フラットダイ(Tダイ)やサーキュラーダイ(後述する評価工程では、膜厚を測定できるシート状になった時点で評価を行えばよい)が用いられる。また、ダイス手前には、スクリーンを設置し樹脂組成物中に混入した異物等を除去してもよい。
【0028】
樹脂組成物に含まれる無機粒子の量は、その特性を明確に発揮させるために、組成物全体の質量に対して50質量%以上必要であるが、無機粒子の量が70質量%以上になると、混練がややしにくくなる。無機粒子の量の上限は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。無機粒子の量が過大であると、混練性が悪化し、後述の選択工程で選択される樹脂組成物の量が減る傾向がある。
【0029】
樹脂組成物中の無機粒子の含有量は、化学製品の減量及び残分試験方法(JIS0067-1192)で残分測定する。但し、炭酸カルシウムの場合には炭酸ガスの発生を考慮する。
【0030】
樹脂組成物に含まれる無機粒子の種類は、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、酸化亜鉛、ドロマイト、ガラス繊維、中空ガラスミクロビーズ、ベントナイト、珪素土等が挙げられる。これらのうち、炭酸カルシウムを用いることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、樹脂組成物中の無機粒子の分散性を高めるために、無機粒子の表面をあらかじめ常法に従い改質しておいてもよい。
【0031】
また、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の量は、他の成分の量(例えば、無機粒子の量)等に応じて適宜設定することができるが、50質量%未満である必要があり、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下になると樹脂成形体の強度に注意が必要となる。熱可塑性樹脂の量の下限は、20質量%以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂の量が無機粒子に対して過小であると、混練性が悪化し、後述の選択工程で選択される樹脂組成物の量が減る傾向がある。
【0032】
樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は特に限定されず、通常の射出成形用原料に使用できるものを用いることができる。そのような熱可塑性樹脂を構成するポリマーとしては、成形体の用途に応じて適宜選択されればよいが、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、再生樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合したものであってもよい。
【0033】
なお、上述した樹脂組成物においては、上述した無機粒子、ポリオレフィンを含む熱可塑性樹脂以外にも、補助剤として、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤等を配合してもよい。
【0034】
[評価工程]
本発明に係る射出成形用原料の製造方法は、上記の成形工程において、ダイスから押出されたシート状の樹脂の膜厚を評価する評価工程を有する。無機粒子を50質量%以上含む樹脂組成物は、成形工程における混練の状況を示したログデータが順調でも、必ずしも、その後の射出成形が容易であるとは限らない。その主な理由としては、押出機内で剪断力が作用している間は樹脂組成物の流動状態が良好でも、その作用がない状態に変われば、良好な混練状態が失われる場合があると推測される。これに対し、本発明は、ダイスから流れ出るシート状の樹脂の膜厚の均一性を評価することで、混練状態が良好なものを選択することができる。
【0035】
シート状の樹脂の膜厚の評価は、シート状の樹脂の膜厚の均一性を評価するものであれば、特に限定されず、例えば、シート状の樹脂の平均の膜厚に関する数値を評価の基準として、その評価結果を後述の選択工程に用いることができる。より具体的には、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差(変動係数)を算出し、その算出した数値を評価結果として後述の選択工程に用いることができる。樹脂の膜厚は、膜厚測定器により測定する。膜厚測定器としては、オンライン式、オフライン式があり、それぞれに接触式、非接触式とがあるが、無機粒子を含むシート状の樹脂についてはレーザー式非接触式膜厚測定器等が適している。ただし、シート状の樹脂の膜厚の評価は、それに限定されず、例えば、シート状の樹脂の外観について、一定の基準を設け、それを目視で確認することで、シート状の樹脂の膜厚の均一性を評価してもよく、あるいは、この外観の評価と平均の膜厚に関する数値の評価の両方の結果を用いて、後述の選択工程に用いることができる。
【0036】
シート状の樹脂の膜厚の設定は、目的や、選択される樹脂組成物の成分や性状(メルトマスフローレイトや分子量分布等)によって適宜選択されればよいが、ダイスのリップ幅の設定により調整することができ、200μm〜1,000μmが好ましく、300μm〜700μmがより好ましい。
【0037】
[選択工程]
本発明に係る射出成形用原料の製造方法は、上述の評価工程における評価結果に基づいて、射出成形用原料としてシート状の樹脂を選択する選択工程を有する。
【0038】
選択工程における選択は、上述の評価工程において評価された結果について、一定の基準を設け、その基準を満たすものを選択することで行うことができる。一定の基準は、例えば、シート状の樹脂の膜厚の外観について目視で確認できる基準であってもよく、シート状の樹脂の平均の膜厚に関する数値の基準であってもよく、あるいは、これらの両方であってもよい。より正確に成形性の高い射出成形用原料を得られることから、選択工程における選択は、シート状の樹脂の膜厚の評価結果が、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±20%以内である場合に行われることが好ましく、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±15%以内である場合に行われることがより好ましく、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±10%以内である場合に行われることがさらに好ましく、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±5%以内である場合に行われることがより一層好ましい。このように、一定の基準を満たしたシート状の樹脂は、混練状態が良好であることから射出成形を容易に行うことができる。
【0039】
[粉砕工程・造粒工程]
本発明に係る射出成形用原料の製造方法は、選択工程において選択されたシート状の樹脂を粉砕する工程をさらに有してもよい。または、シート状の樹脂をゲル状にし、該ゲル状の樹脂を造粒する工程を有してもよい。該造粒工程は、例えば、選択工程において選択されたシート状の樹脂を粉砕、さらに混練する際の摩擦熱を利用することにより、ゲル状にした後、該ゲルの樹脂をホットカットして造粒する工程であってもよい。また、摩擦熱でなく、強制加熱を利用してもよい。粉砕や造粒には、通常の粉砕や造粒に使用される粉砕機や造粒機を用いることができる。粉砕する形状や造粒するは特に限定されず、射出成形装置に投入できる形態であればよい。このように、粉砕する工程、造粒する工程を経ることにより、製造された射出成形用原料を射出成形装置内に投入しやすくなる。特に、造粒工程を設けることによって、射出成形用原料としてホッパーに投入する際に、振動可能なホッパーを利用しなくても、投入を行いやすくなる。
【0040】
さらに、本発明に係る射出成形用原料の製造方法は、粉砕する工程又は造粒する工程後の樹脂をペレット状の樹脂からなる射出成形用原料として得る工程をさらに有してもよい。ペレット加工には、通常のペレット加工に用いられる装置を用いることができ、例えば加熱装置により溶融させ、所定のペレット状にすることができる。あるいは、造粒工程において得られた樹脂については、造粒工程においてペレット状になった樹脂をそのままペレット状の樹脂として利用してもよい。
【0041】
このように、本発明に係る射出成形用原料の製造方法によれば、射出成形用原料として、混練状態が良好な樹脂が選択されることから、射出成形を容易に行いやすい射出成形用原料を得ることができる。そのため、品質に優れた成形体を得ることが可能となる。
【0042】
<樹脂成形体の製造方法>
本発明は、射出成形用原料を製造する工程と、製造された射出成形用原料を射出成形する工程を有する、樹脂成形体の製造方法を包含する。
【0043】
射出成形用原料を製造する工程は、上述の射出成形用原料の製造方法と同様の方法を例示することができる。
【0044】
[射出成形工程]
本発明における射出成形工程は、製造された射出成形用原料を射出成形する工程である。射出成形工程においては、上述の射出成形用原料をホッパー内に投入した後、回転するスクリューによってヒータが取り巻く加熱筒の中を移動させながら溶融させる。このときの条件は、上述の射出成形用原料の製造方法における成形工程と同条件であってもよい。そして、射出成形の場合は、溶融(可塑化)が主体であって、加熱溶融された射出成形用原料を所望の成形体に応じた金型内に射出注入した後、冷却・固化させることによって樹脂成形体を得る。射出成形装置は、特に限定されるものでなはく、既存の射出成形装置を用いることが可能である。
【0045】
本発明における射出成形工程は、樹脂組成物の一部から形成された、シート状の樹脂以外の樹脂を、上述の射出成形用原料とともに押出機に投入する工程を含んでもよい。シート状の樹脂以外の樹脂とは、上述の射出成形用原料中の熱可塑性樹脂もしくは該樹脂と相溶する樹脂のほか、例えば、射出成形工程で得られた樹脂成形体の端部で、樹脂成形体の美観を損ねる等の点から除去される部分等である。
【0046】
本発明における射出成形工程は、射出成形用原料を振動可能なホッパーを通じて押出機に投入する工程を含むことが好ましい。上述の射出成形用原料の製造方法で得られたシート状の樹脂は、シート状であることから、樹脂の面同士がくっついてしまうため、押出機内にスムーズに投入されにくいが、振動可能なホッパーを用いることで、くっついたシート状の樹脂を振動により投入しながらバラバラにすることができるため、射出成形用原料を押出機内にスムーズに投入しやすくなる。特に、特に粉砕した射出成形用原料を用いる場合は、振動可能なホッパーを用いないと、粉砕した原料同士がくっついてバラバラになりにくいが、振動可能なホッパーを用いることで、射出成形用原料のそれぞれの粉砕した原料の塊がバラバラになりやすくなり、押出機における混練を行いやすくなるため、好ましい。ホッパーが有する振動機構は、特に限定されない。
【0047】
本発明の樹脂成形体の製造方法は、組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおしてシート状に成形する成形工程と、ダイスから押出されたシート状の樹脂の膜厚を評価する評価工程と、その評価結果に基づいて、シート状の樹脂を成形体として得るか、射出成形用原料として使用するか、又は、廃棄するかを決定する工程と、を有する方法であってもよい。なお、ここでいう「樹脂成形体」は、射出成形用原料として使用するか、又は廃棄するかで選ばれた樹脂ではなく、最終的に製品とすること(つまり、評価工程以降の次工程に供すること)を前提として選択されたシート状の樹脂のことを指す。
【0048】
成形工程、評価工程は、上述の射出成形用原料の製造方法における成形工程、評価工程と同様の方法を例示することができる。
【0049】
[決定工程]
本発明における決定工程は、上述の評価工程における評価結果に基づいて、シート状の樹脂を成形体として得るか、射出成形用原料として使用するか、又は、廃棄するかを決定する工程である。
【0050】
決定工程における決定は、上述の評価工程において評価された結果について、一定の基準を設け、その基準に基づいて、上記の決定を行ってよい。一定の基準は、例えば、シート状の樹脂の膜厚の外観について目視で確認できる基準であってもよく、シート状の樹脂の平均の膜厚に関する数値の基準であってもよく、あるいは、これらの両方であってもよい。例えば、評価工程におけるシート状の樹脂の膜厚の評価結果が、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±5%以内である場合に、シート状の樹脂を成形体として得ることを決定し、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±5%超20%以内である場合に、シート状の樹脂を射出成形用原料として使用することを決定し、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±20%超である場合にシート状の樹脂を廃棄することを決定してもよい。
【0051】
シート状の樹脂を射出成形用原料として使用することが決定される場合は、射出成形用原料を用いて上述の「射出成形工程」を行う事で、樹脂成形体を製造することができる。シート状の樹脂についての評価があらかじめ定められた基準を満たさず、シート状の樹脂が廃棄されることが決定される場合は、上述の成形工程、評価工程及び選択工程を、シート状の樹脂を成形体として得ることを決定するか、あるいは、シート状の樹脂を射出成形用原料として使用することを決定するまで繰り返すことで、樹脂成形体を製造することができる。これにより、品質が良好なシート状の成形体、あるいは射出成形を容易に行うことができる樹脂成形体を製造することができる。
【0052】
このように、本発明に係る樹脂成形体の製造方法によれば、シート状の樹脂の膜厚を評価することによって、直ちに品質が良好なシート状の成形体、あるいは射出成形を容易に行うことができる樹脂成形体を製造することができる。
【0053】
得られる樹脂成形体の用途は、特に限定されず、従来の射出成形による樹脂成形体のあらゆる用途に用いることができる。
【0054】
なお、本実施形態に係る射出成形用原料を製造する方法は、組成物全体の質量に対して50質量%以上の無機粒子と、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を、押出機によりダイスをとおしてシート状に成形する成形工程と、ダイスから押出されたシート状の樹脂の膜厚を評価する評価工程と、を有するシート状樹脂成形体の製品の製造工程で、評価結果に基づいて、前記シート状樹脂成形体を選択して次工程以降に移行させたときに製品として使用されなかったシート状樹脂成形体、もしくはシート状樹脂成形体の一部を、粉砕するか、又は製品として使用されなかったシート状樹脂成形体、もしくはシート状樹脂成形体の一部をゲル状にして該ゲル状の樹脂を造粒することによって、射出成形用原料を製造してもよい。
【0055】
シート状樹脂成形体の製品の製造工程では、評価工程でシート状樹脂成形体として得られたものの、その後の次工程(例えば、延伸工程等)においてシート状樹脂成形体又はシート状樹脂成形体の一部は、製品として使用されなかったものも生じうる。製品として使用されなかったシート状樹脂成形体としては、例えば、延伸工程における不具合等により製品として不適とされた樹脂成形体が挙げられる。製品として使用されなかったシート状樹脂成形の一部としては、製造中で製品の本体とする樹脂成型体から切り取られたもの(例えば、延伸時に切り取られて発生する端部(耳)等の部分を含む)が挙げられる。本実施系形態に係る射出成形用原料の製造方法は、このような製品として利用されなかったシート状樹脂成形体又は製品として使用されなかったシート状樹脂成形の一部を、上述した粉砕や造粒に供して、射出成形用原料としてもよい。なお、粉砕や造粒は、上述の射出成形用原料の製造方法における粉砕工程・造粒工程と同様の方法により行ってもよい。
【実施例】
【0056】
[実施例]
無機粒子として炭酸カルシウム粉末(個数平均粒径5.15μm)60%及びポリプロピレン樹脂40%を主成分として含む材料を二軸押出成形機で混練し、100メッシュスクリーンを通した後、リップ幅1,000μmのTダイから押出して、シート状の樹脂(設定膜厚:300μm)を得た。このシート状の樹脂を製造ラインに設置された膜厚測定器(レーザー式センサーによる非接触式膜厚測定器)により測定し、樹脂の平均の膜厚に対する樹脂の膜厚の標準偏差が±10%以内であるシート状の樹脂を選択して回収し、これを粉砕機(モーター11KW)で粉砕した。この粉砕物(長辺の長さ2mm〜10mm)を射出成形用原料とし、80℃で2時間熱風乾燥した後、下記の表1に示す射出成形条件でスクリュー径φ16の小型電動射出成形機(型締圧18tf)で射出成形を行い、樹脂成形体を成形した。なお、射出成形用原料(粉砕物)は、鱗片形状で重なり合い、ホッパー内でブリッジを起しやすいため、スクリュー内へ直接投入した(ハングリーフィード形式)。
【0057】
【表1】
【0058】
射出成形作業は、手投入でも特に問題なく安定して射出成形作業を行うことができ、フローマークもなく、品質が良好な樹脂成形体を得ることができた。また、同じ条件で得られたシート状の樹脂を目視で観察して、一定の基準を満たすシート状の樹脂から射出成形を行った場合も、同様に品質が良好な樹脂成形体が得られた。
【0059】
上記で作成した樹脂成形体について、下記の条件で引張試験を行った結果を表2に示す。
(引張試験)
試験機種 ストログラフ VGF
ロードセル容量 20KN
チャック間距離 30.0mm
初期荷重 0.5%
弾性率測定方法 変位,割線法
温度及び湿度 23.0℃、50.0%
試験速度 5mm/min
【0060】
【表2】
【0061】
表2の結果からわかるように、本実施例に係る樹脂成形体は、製品として十分に利用できる弾性率、最大点強度、最大点伸び率、破壊点強度を示した。また、粉砕前のシート状の樹脂と射出成形後の樹脂成形体について引張試験を行ってもほぼ同程度の結果が得られることが確認された。本実施形態に係る射出成形原料が、Tダイで成形したシート状の樹脂を粉砕した粉砕物であっても、該射出成形原料から強度に優れた樹脂成形体を得ることができることがわかる。