特許第6492277号(P6492277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492277
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】傾斜調整装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 7/08 20060101AFI20190325BHJP
   G11B 7/09 20060101ALI20190325BHJP
   G11B 7/22 20060101ALI20190325BHJP
   G11B 7/12 20120101ALI20190325BHJP
【FI】
   G11B7/08 A
   G11B7/08 Z
   G11B7/09 D
   G11B7/22
   G11B7/12
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-220490(P2014-220490)
(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公開番号】特開2016-91568(P2016-91568A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】玉村 明人
(72)【発明者】
【氏名】杉森 孝司
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−068931(JP,A)
【文献】 特開平04−242206(JP,A)
【文献】 特開平05−183219(JP,A)
【文献】 特開2001−357538(JP,A)
【文献】 実開昭58−109835(JP,U)
【文献】 特開2007−156204(JP,A)
【文献】 特開平09−061684(JP,A)
【文献】 実開平05−004113(JP,U)
【文献】 特開2011−164479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 7/08
G11B 7/09
G11B 7/12
G11B 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を載置する載置部材と、
前記載置部材を保持する基台と、
を有する傾斜調整装置であって、
前記載置部材は、前記基台と接する保持部を有し、
前記載置部材は、第1締結部材と第2締結部材と第3締結部材により前記保持部を介して前記基台に保持され、
前記保持部を境界として、前記第1締結部材の前記載置部材に対する位置と、前記第2締結部材と前記第3締結部材の前記載置部材に対する位置とは、互いに反対側であり、
前記基台は凹部を備え、
前記載置部材は、前記凹部と嵌り合う凸部を備え、
前記凹部と前記凸部とは線又は点接触で互いに当接され、
前記載置部材と前記基台の対向面は、隙間を空けて対向し、
前記第2締結部材は、前記隙間を通って前記載置部材および前記基台に挿通され、前記載置部材および前記基台のうち一方と螺合されている、
傾斜調整装置。
【請求項2】
前記第1締結部材により前記載置部材に加わる第1の力は、前記載置部材を前記基台に近づける方向の力であり、
前記第2締結部材により前記載置部材に加わる第2の力は、前記第1の力による前記載置部材の変位に抵抗する方向の力であり、
前記第3締結部材により前記載置部材に加わる第3の力は、前記第2の力による前記載置部材の変位に抵抗する方向の力である、
請求項1記載の傾斜調整装置。
【請求項3】
前記第1の力は、前記載置部材を前記基台に押し付ける方向の力であり、
前記第2の力は、前記載置部材を前記基台に引き付ける方向の力であり、
前記第3の力は、前記載置部材を前記基台から遠ざける方向の力である、
請求項2記載の傾斜調整装置。
【請求項4】
前記第1締結部材は、弾性部材を有し、
前記第1の力は、前記弾性部材の弾性力に基づく、
請求項2又は3記載の傾斜調整装置。
【請求項5】
前記第1締結部材によって、前記載置部材は前記基台に押し付けられ、
前記第2締結部材によって、前記載置部材は前記基台に引きつけられ、
前記第3締結部材によって、前記載置部材は前記基台から遠ざけられる、
請求項1乃至4のいずれかに記載の傾斜調整装置。
【請求項6】
前記第1締結部材は、前記載置部材に挿入され前記基台に螺入される第1ネジであり、
前記第2締結部材は、前記基台に挿入されて前記載置部材に螺入される第2ネジであり、
前記第3締結部材は、前記基台に螺入されて前記載置部材の表面に接する第3ネジである、
請求項1乃至のいずれかに記載の傾斜調整装置。
【請求項7】
前記保持部には、接着剤が塗布されている、
請求項1乃至6のいずれかに記載の傾斜調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の傾きを調整して固定する傾斜調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光源から出射されるレーザー光を所定の方向に精度良く導光する光学装置は、光学物品の姿勢(傾斜)を精度よく調整し、かつ、調整状態を維持できるように、傾斜調整機構を備える。
【0003】
たとえば、光学装置の一例である光ピックアップ装置において、光源から出射されたレーザー光を反射する鏡の姿勢を調整する傾斜調整装置を備えるものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の光ピックアップ装置は、光源から出射されたレーザー光を導光する光学部品を載置する台座と、台座を固定する基台を備えている。台座の底面には球面形状部分が形成されている。この球面形状部分を台座と接触させて保持させることで、基台に対して台座を揺動できるようになっている。したがて、台座を揺動して姿勢(傾斜)を調整し固定すれば、光学部品の姿勢(傾斜)を所定の状態にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−357538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、基台に対して台座を揺動させる調整は、任意の角度にすることが容易であるが、調整された状態から変位しないように強固な固定方法を必要とする。従来の構成における固定方法として、板バネのような弾性部材とネジのような締結部材を組み合わせるものが知られている。また、より強固に固定するために、台座と基台の間に接着剤を塗布した上で、接着剤が乾く前に弾性部材と締結部材を用いて傾斜状態を調整するものも知られている。いずれも、光学装置の設置環境の変化によって、調整された台座の傾斜状態が崩れることがある。調整された状態が崩れると光学装置に求められる精度を維持できなくなる。
【0006】
締結部材と弾性部材による固定は、台座と基台を機械的に固定するものである。この場合、基台に対する所定の姿勢(傾斜状態)で台座を固定するには、弾性部材により加わる力に応じて変位しようとする台座に対して、この変位を調整する方向に締結部材による力が加わるようにする。弾性部材による力と締結部材による力を均衡させれば、基台に対する台座の傾斜を調整して固定することができる。
【0007】
この場合、弾性部材により台座に加えられる力を強めることも、これに抵抗する方向の力(締結部材による力)を強めることも容易にできるので、これら2つの力を互いに均衡させれば、固定力は強固になる。
【0008】
しかし、設置環境に変化が生じた場合、特に設置環境の温度が変化した場合、金属膨張が生じ、締結部材と弾性部材の力の均衡が崩れることがある。このような環境変化によって弾性部材による力が弱まると、締結部材による力が相対的に強くなりすぎて、調整状態が崩れる。この場合、締結部材からの力によって台座が変位しようとすることを阻止する力は、弱まった弾性部材による力と、接着剤による力である。締結部材や弾性部材による力に比べると、接着剤による力は固定力として弱い。したがって、環境変化によって、台座を所定の位置で固定する力を維持できなくなり、台座と基台の調整状態が崩れやすくなる。したがって、周囲環境の変化(主に温度変化)が起きても、基台に対する台座の調整状態の変位を阻止し、調整された固定状態を保持できる構成が求められる。
【0009】
本発明は、物品の配置、特に傾斜を容易に調整でき、かつ、設置場所の周囲環境の変化や、経年変化が生じても、傾斜状態を維持することができる傾斜調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、物品を載置する載置部材と、前記載置部材を保持する基台と、を有する傾斜調整装置であって、前記載置部材は、前記基台と接する保持部を有し、前記載置部材は、第1締結部材と第2締結部材と第3締結部材により前記保持部を介して前記基台に保持され、前記保持部を境界として、前記第1締結部材の前記載置部材に対する位置と、前記第2締結部材と前記第3締結部材の前記載置部材に対する位置とは、互いに反対側であり、前記基台は凹部を備え、前記載置部材は、前記凹部と嵌り合う凸部を備え、前記凹部と前記凸部とは線又は点接触で互いに当接され、前記載置部材と前記基台の対向面は、隙間を空けて対向し、前記第2締結部材は、前記隙間を通って前記載置部材および前記基台に挿通され、前記載置部材および前記基台のうち一方と螺合されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、傾斜を容易に調整でき、かつ、設置場所の周囲環境の変化や、経年変化が生じても、傾斜状態を維持することができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る傾斜調整装置の例を示す縦断面図である。
図2】上記傾斜調整装置における傾斜調整方法の例を示す縦断面図である。
図3】上記傾斜調整装置を備える光学装置の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
●傾斜調整装置の構成●
以下、本発明に係る傾斜調整装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る傾斜調整装置の実施形態であるチルト調整装置1の構成を示す縦断面図である。図1に示されるように、チルト調整装置1は、物品ホルダー11と、基台12と、第1締結部材である固定ネジ13と、第2締結部材である調整ネジ14と、第3締結部材であるロックネジ15と、を有してなる。
【0014】
●載置部材
載置部材である物品ホルダー11は、物品である光学物品2を載置する部材である。光学物品2は、物品ホルダー11の上面側に所定の方法によって固定されている。物品ホルダー11の底面側には、半円柱状部111が形成されている。光学物品2は、例えば、レーザー光を2つの異なる方向に分光する分光ミラーである。分光ミラーは、レーザー光に対する傾きを調整することで、レーザー光の方向を調整するものである。
【0015】
●基台
物品ホルダー11を保持する基台12の上面側には、凹部121が形成されている。凹部121は、傾斜状の部位であって、物品ホルダー11の半円柱状部111が嵌り、保持されるようになっている。凹部121と半円柱状部111は、点または線で接触し、互いにすべり合う状態にて保持される。この接触点(接触線)が保持部17である。
【0016】
物品ホルダー11は、基台12に対して揺動できる状態で保持される。物品ホルダー11の動きは、半円柱状部111の円中心を回転の中心とする回転運動である。したがって、物品ホルダー11は、保持部17を介して基台12に対する傾斜状態を調整することができる。
【0017】
●第1締結部材
固定ネジ13は、基台12に対する物品ホルダー11の傾斜状態を調整する傾斜調整手段の1つであり、かつ、調整された傾斜状態を保持する傾斜固定手段の1つである。固定ネジ13は、物品ホルダー11に形成されている第1孔112に上方から挿入されていて、基台12に形成されている第1ネジ孔122に物品ホルダー11側から螺入される。固定ネジ13によって物品ホルダー11と基台12は締結される。固定ネジ13の軸には、弾性部材であるコイルスプリング18が挿入されている。コイルスプリング18は、固定ネジ13のネジ頭と物品ホルダー11の上面との間に挟まれている。
【0018】
コイルスプリング18は、固定ネジ13のネジ頭と物品ホルダー11の上面との間に挟まれるので、固定ネジ13を締め込むと、圧縮されて弾性力を生じる。このコイルスプリング18による弾性力を「第1の力」とする。
【0019】
●第2締結部材
調整ネジ14は、基台12に対する物品ホルダー11の傾斜状態を調整する傾斜調整手段の1つであり、かつ、調整された傾斜状態を保持する傾斜固定手段の1つである。調整ネジ14は、基台12に形成されている第2孔123に下方から挿入されていて、物品ホルダー11に形成されている第2ネジ孔113に基台12側から螺入される。調整ネジ14によって物品ホルダー11と基台12は、保持部17を挟んで固定ネジ13とは異なる側が締結される。
【0020】
調整ネジ14を締め込むと、物品ホルダー11は基台12側に引きつけられる。この調整ネジ14による力を「第2の力」とする。第2の力は、物品ホルダー11を下方に引きつける力であるから、第1の力と同じ方向に作用する力である。しかし、第2の力は、保持部17を挟んで、第1の力が加えられる位置とは反対側に加えられる。したがって、保持部17を支点とする第1の力による物品ホルダー11の傾き方向と、第2の力による物品ホルダー11の傾き方向は、互いに逆向きになる。
【0021】
●第3締結部材
ロックネジ15は、基台12に対する物品ホルダー11の調整された傾斜状態を保持する傾斜固定手段の1つである。ロックネジ15は、基台12に形成されている第3ネジ孔124に、基台12の下面側から上(物品ホルダー11)に向かって螺入されている。ロックネジ15を締め込むと、ロックネジ15のネジ先が基台12から突出して物品ホルダー11の底面(表面)に接触する。さらにロックネジ15を締め込むと(締結方向に回転させると)、ネジ先が物品ホルダー11の底面を上方に向かって押し上げる。このようにロックネジ15によって物品ホルダー11に加えられる力を「第3の力」とする。
【0022】
第3の力は、第2の力による物品ホルダー11の変位を阻止する方向に作用する。言い換えると、第3の力は、第2の力に抵抗する方向の力であって、物品ホルダー11を基台12から遠ざける方向の力である。
【0023】
以上のとおり、チルト調整装置1における物品ホルダー11と基台12の固定構造は、3つの締結部材を用いて構成される。これら3つの締結部材のそれぞれの締結状態を調整することで、物品ホルダー11の基台12に対する傾きを調整することができ、かつ、傾き状態を固定することができる。すなわち、チルト調整装置1は、「第1の力」によって物品ホルダー11を基台12に固定し、「第2の力」によって、物品ホルダー11の基台12に対する傾斜状態を調整し固定する。その上で、さらに「第3の力」によって、物品ホルダー11の基台12に対する傾斜状態を固定し、維持する。
【0024】
●傾斜調整装置の固定構造
固定ネジ13と調整ネジ14とロックネジ15の関係についてより詳細に説明する。以下の説明において、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を用いることとする。これら各軸については、後述する。図1に示されるように、Y軸方向に固定ネジ13と、光学物品2と、調整ネジ14と、ロックネジ15が、この順番に配置されている。
【0025】
固定ネジ13と、調整ネジ14及びロックネジ15は、物品ホルダー11が基台12に接触して保持される保持部17を境界として、互いに反対側に配置されている。すなわち、半円柱状部111または保持部17をY軸方向におけるチルト調整装置1の中央としたときに、物品ホルダー11の一方の側には固定ネジ13があり、他方の側には調整ネジ14とロックネジ15がある。
【0026】
すでに説明した通り、固定ネジ13を基台12に締め込むことで物品ホルダー11に加えられる第1の力は、物品ホルダー11を基台12に押し付ける方向の力である。この第1の力に応じて、物品ホルダー11は、半円柱状部111を中心として回転し、固定ネジ13が挿入されている側が基台12に近づくように変位する。
【0027】
また、調整ネジ14を物品ホルダー11に締め込むことで物品ホルダー11に加えられる第2の力は、物品ホルダー11を下方に引きつける力であるから、第1の力と同じ方向に作用する力であって、第1の力と異なる位置に加えられる力である。
【0028】
第2の力が加わる位置は、第1の力が加わる位置とは半円柱状部111を挟んだ反対側に当たる。したがって、物品ホルダー11は、第2の力によって、第1の力による回転とは逆方向に回転する。この回転により、物品ホルダー11の調整ネジ14が挿入されている側は、基台12に近づけられるので、物品ホルダー11に対する基台12の傾きを調整できる。
【0029】
言い換えると、保持部17を境界とする物品ホルダー11の領域において、固定ネジ13と調整ネジ14は、互いに反対側の位置にある。第1の力が物品ホルダー11に加えられる位置と、第2の力が物品ホルダー11に加えられる位置は、保持部17を境界とする異なる側にある。
【0030】
したがって、固定ネジ13の締め込み具合に応じて物品ホルダー11が回転する方向と、調整ネジ14の締め込み具合に応じて物品ホルダー11が回転する方向は、相対的に反対方向になる。つまり、物品ホルダー11において生ずる第1の力に応じた変位と、第2の力に応じた変位は相反する変位である。第2の力は、第1の力によって物品ホルダー11が変位する方向に抵抗する方向の力である。
【0031】
第1の力は、コイルスプリング18の弾性力による力であるから、固定ネジ13を締め込むときにコイルスプリング18が圧縮しきらない程度にしておき、その後、調整ネジ14を締め込む。そうすると、調整ネジ14の締め込み度合いに応じた物品ホルダー11の回転変位量(傾き量)を調整することができる。
【0032】
さらにロックネジ15を締め込むと物品ホルダー11に第3の力が加わる。第3の力が加わる位置は、第1の力が加わる位置とは半円柱状部111を挟んだ反対側に当たる。言い換えると、保持部17を境界とする物品ホルダー11の領域において、固定ネジ13とロックネジ15は、互いに反対側の位置にある。また、同領域において、調整ネジ14とロックネジ15は、同じ側の位置にある。
【0033】
第3の力は、第2の力に相反する力が、第2の力が加えられている位置の近くに加えられる。これによって、調整ネジ14の締め込み状態は第3の力によって固定される。そうすると、固定ネジ13による固定力が環境変化に応じて変化したとしても、調整ネジ14とロックネジ15の側で、物品ホルダー11と基台12は強固に固定された状態が維持される。第2の力と第3の力が加わる位置は近接しているから、これらの力によって物品ホルダー11に曲げ応力が生じることはない。
【0034】
以上のとおり、チルト調整装置1は、傾斜を調整する対象物品を載置する物品ホルダー11の傾斜を、当該対象物品を挟んで互いに反対側において加えられる第1の力と第2の力によって調整する。その後、さらに第2の力の近傍に第3の力を加えることで調整状態を強固に固定することができる。以上の構造を備えるチルト調整装置1は、傾きの調整を容易に行うことができ、かつ、環境変化や経年変化による傾斜状態の変位を防止することができる。
【0035】
●傾斜調整装置における傾斜調整方法●
次に、チルト調整装置1における傾斜調整方法について図2を用いて説明する。図2(a)は、光学物品2を載置した物品ホルダー11を基台12に設置し、固定ネジ13を用いて物品ホルダー11と基台12を固定した状態を示している。基台12の凹部121の斜面(半円柱状部111と凹部121の接触面)には、予め接着剤16を塗布しておく。接着剤16は保持部17近辺に塗布されることが望ましい。この接着剤16が乾く前に、物品ホルダー11の傾斜を調整して固定する。
【0036】
図2(a)に示されるように、固定ネジ13を第1孔112に挿入し第1ネジ孔122に螺入して締め込むと、コイルスプリング18が固定ネジ13のネジ頭と物品ホルダー11の天面の間で圧縮されて弾性力を生じさせる。この弾性力(第1の力)は物品ホルダー11を基台12へ押し付ける方向に加わる。この第1の力によって、物品ホルダー11には回転応力が生じる。この回転応力によって物品ホルダー11は、半円柱状部111の半円柱の中心点を回転中心とする矢印Aの方向に回転しようとする。
【0037】
図2(b)は、固定ネジ13による回転応力が加わることで所定の方向に傾斜しようとする物品ホルダー11に対して、調整ネジ14を用いることで傾斜を調整する状態を示している。調整ネジ14を第2孔123に挿入し第2ネジ孔113に螺入して締め込むと物品ホルダー11には、基台12側に向かう方向に第2の力が加わる。第2の力は、固定ネジ13によって生ずる回転応力に対抗する方向の力になる。したがって、調整ネジ14の締め込み度合いを調整することで、物品ホルダー11には、半円柱状部111の半円柱の中心を回転中心とする矢印Bの方向への力が加わる。このように、矢印Aに回転しようとする力と矢印Bに回転しようとする力を調整することで、基台12に対する物品ホルダー11の傾斜状態を調整することができる。
【0038】
図2(c)は、ロックネジ15を用いて、物品ホルダー11と基台12の傾斜状態を固定する状態を示している。ロックネジ15を第3ネジ孔124に螺入して締め込むと、ロックネジ15のネジ先が基台12から突出して物品ホルダー11の底面に押し付けられ物品ホルダー11には基台12から離れる方向の第3の力が加わる。
【0039】
第3の力の方向は、調整ネジ14により生ずる第2の力とは反対方向である。調整ネジ14により生じる第2の力は、物品ホルダー11を基台12側に向かわせる力である。この第2の力は、固定ネジ13の軸に挿入されているコイルスプリング18の弾性の反作用により生じている。このため、例えばコイルスプリング18の弾性が無くなると調整ネジ14にかかる第2の力が無くなる。そうすると、物品ホルダー11は、図2(c)における矢印Cの方向(反時計方向)への回転に対する抗力が無くなり、物品ホルダー11の位置を固定できなくなる。この点、ロックネジ15によって生ずる第3の力は、上記の矢印Cの方向(反時計方向)への回転に対する抗力を生じさせることができる。すなわち、第3の力の作用によって、調整ネジ14と物品ホルダー11を強固に固定することができる。
【0040】
以上のとおり、チルト調整装置1は、固定ネジ13による弾性力と調整ネジ14による締結力によって、物品ホルダー11の基台12に対する傾斜を調整した上で、ロックネジ15による押圧力を用いて、物品ホルダー11と基台12を固定する。この固定状態は、接着剤16が乾燥すればさらに強固になる。したがって、チルト調整装置1の周囲環境が変化して金属部品(コイルスプリング18など)に金属膨張が生じたり、接着剤16の固定力が経年劣化によって低下したりしても、物品ホルダー11と基台12の調整された状態は維持される。
【0041】
●光学装置の構造
次に、本発明に係る傾斜調整装置を搭載した光学装置の実施形態について説明する。図3は、本実施形態に係る光源装置100の例を示す図である。光源装置100は、例えば、レーザー式墨出し器に用いられる装置である。
【0042】
図3に示されるように、光源装置100は、光源101と、分光ミラーである光学物品2が保持されるチルト調整装置1と、シリンドリカルレンズ102と、を有してなる。
【0043】
チルト調整装置1を構成する基台12には、レーザー光源である光源101と、光源101から出射されたレーザー光を所定の方向にのみ拡張して出射するシリンドリカルレンズ102が設置されている。
【0044】
図3に示すように、光源101からレーザー光が出射される方向をX方向とする。また、X方向に直交する方向であって、分光ミラーである光学物品2によって反射されるレーザー光が導光される方向をY方向とする。X方向とY方向に直交する方向であって、基台12から物品ホルダー11に向かう方向をZ方向とする。
【0045】
光源101から出射されたレーザー光は、分光ミラーである光学物品2において、X方向とY方向に分光される。光学物品2のX方向に当たる基台12の端部と、光学物品2のY方向に当たる基台12の端部には、それぞれシリンドリカルレンズ102が固定されていて、レーザー光を水平ライン状に変換して出射する。
【0046】
水平ライン状になったレーザー光のX方向の高さ位置とY方向の高さ位置は、一致させる必要がある。そこで、チルト調整装置1を用いて光学物品2である分光ミラーの傾き角度を調整する。分光ミラーの傾き角度によって、レーザー光の反射角度が決まる。すなわち、チルト調整装置1によって、レーザー光がシリンドリカルレンズ102に入る位置が調整され、X方向の高さ位置とY方向の高さ位置が一致するように調整される。
【0047】
本実施形態における角度調整軸は、X軸方向を中心とした1軸方向の角度調整を可能にするものである。しかし本発明に係る傾斜調整装置は、この実施形態に限られるものではない。例えば、半円柱状部111の形状を球状としてもよい。この場合、調整ネジ14、固定ネジ13、ロックネジ15をそれぞれの角度調整軸に対して配置すれば、X軸方向とY軸方向の2軸方向の角度調整を可能とする機能を持たせることもできる。
【符号の説明】
【0048】
1 チルト調整装置
2 光学物品
11 物品ホルダー
12 基台
13 固定ネジ
14 調整ネジ
15 ロックネジ
17 保持部
図1
図2
図3