(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492336
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】鋳造物に残存する鋳型の除去方法
(51)【国際特許分類】
B22D 29/00 20060101AFI20190325BHJP
B22C 1/22 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
B22D29/00 A
B22D29/00 G
B22C1/22 B
B22C1/22 C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-152614(P2016-152614)
(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-20343(P2018-20343A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2018年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】312005186
【氏名又は名称】リグナイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085604
【弁理士】
【氏名又は名称】森 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇
【審査官】
荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−037798(JP,A)
【文献】
特開2015−139793(JP,A)
【文献】
特開2013−040054(JP,A)
【文献】
安部郁夫,活性炭の製造方法,炭素,2006年,No.225,pp.373-381
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 29/00
B22C 1/00− 1/22
C01B 32/30−32/39
B01J 20/20−20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バインダーで鋳物砂を結合させることによって形成される鋳型を用いて鋳造することにより得られる鋳造物を鋳型から脱型する際に、鋳造物に付着して残る鋳型を除去する方法であって、鋳型が残存して付着する鋳造物を密閉空間に配置し、密閉空間に水蒸気を通して密閉空間内を水蒸気で充満させると共に水蒸気雰囲気にした状態で、密閉空間内の鋳造物に付着する鋳型をこの水蒸気で加熱処理することによって鋳型の有機バインダーを炭化させた後、鋳造物に付着する鋳型を除去することを特徴とする鋳造物に残存する鋳型の除去方法。
【請求項2】
鋳型が残存して付着する鋳造物を水蒸気で加熱処理することによって鋳型の有機バインダーを炭化させた後に、さらに水蒸気による加熱処理を継続して有機バインダーの炭化物を賦活することを特徴とする請求項1に記載の鋳造物に残存する鋳型の除去方法。
【請求項3】
鋳型が残存して付着する鋳造物を水蒸気で加熱処理した後、鋳造物に付着する鋳型に外力を加えて鋳型を崩壊させることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳造物に残存する鋳型の除去方法。
【請求項4】
上記水蒸気は過熱水蒸気であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳造物に残存する鋳型の除去方法。
【請求項5】
鋳型の上記有機バインダーは熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鋳造物に残存する鋳型の除去方法。
【請求項6】
上記鋳型は中子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鋳造物に残存する鋳型の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型を用いて鋳造した鋳造物から、鋳造物に残存して付着する鋳型を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、鋳型に金属の溶湯を流し込み、溶湯金属を冷やして凝固させることによって、行なわれている。ここで、鋳型はけい砂などの鋳物砂をバインダーで結合させて所定形状に成形することによって製造されている。そして鋳型に金属の溶湯を流し込んで鋳造を行なうと、鋳型には溶湯の高温が作用するので、この高温の作用でバインダーが熱分解され、バインダーによる結合力が低下する。このため、鋳造を行なった後に鋳型に衝撃を加えるなどすると、バインダーで結合されていた鋳物砂がバラバラになるように鋳型は崩壊し、鋳型からの鋳造物の取り出しを行なうことができるものである。
【0003】
鋳型において上記のバインダーには有機バインダーと無機バインダーがあり、そして有機バインダーとしては、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、澱粉や砂糖などの糖類が主として使用されている。ここで、糖類は熱分解温度が低いので、比較的低温の金属の鋳造に使用する鋳型のバインダーとして用いられている。また糖類はこのように熱分解温度が低いので溶湯を流し込む際の高温の作用で容易に熱分解し、鋳型は容易に崩壊して鋳物砂はバラバラになる。このため、鋳造物からの鋳物砂の除去は容易である。
【0004】
一方、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂は例えばシェルモールド法などにおいて、鋳型のバインダーとして汎用されている。そして熱硬化性樹脂は糖類よりも耐熱性が高いので、比較的高温の金属を鋳造する際にも鋳型の強度を保持することができる。しかし熱硬化性樹脂は熱分解温度が高いので、溶湯を流し込む際に溶湯金属の高温が作用しても容易に熱分解しないことがある。このため、鋳造を行なった後に鋳型を壊しても、鋳型の大部分または一部がバインダーの結合力で崩壊しないまま鋳造物に付着して残ることがある。特に鋳型が中子である場合、中子は鋳造物の内部に存在するので、中子に直接力を加えることは困難なことが多く、中子の鋳物砂を鋳造物から除去することは難しい。
【0005】
そこで、鋳造物から鋳型を除去する方法が、従来より、例えば特許文献1や特許文献2のように種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−64082号公報
【特許文献2】特開2012−139718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋳造物から鋳型を除去する方法としては、上記の特許文献1や特許文献2にみられるように、鋳造物に衝撃や振動を加えて鋳型を崩壊させる方法が主たるものである。しかし、鋳型のバインダーの熱分解が不十分であって、鋳型が崩壊しないまま鋳造物に残っている状態では、多少の衝撃や振動を加えても、鋳造物に残存して付着する鋳型の鋳物砂をバラバラに崩壊させることは困難である。特に熱硬化性樹脂のように結合強度の高いバインダーを用いて製造した鋳型で鋳造を行なった場合には、大きな衝撃や振動を鋳造物に加えても、鋳型に残存する鋳型を崩壊させて除去することは難しいものであった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、鋳造物に残存して付着する鋳型を容易に崩壊させて除去することができる鋳型の除去方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鋳造物に残存する鋳型の除去方法は、有機バインダーで鋳物砂を結合させることによって形成される鋳型を用いて鋳造することにより得られる鋳造物を鋳型から脱型する際に、鋳造物に付着して残る鋳型を除去する方法であって、鋳型が残存して付着する鋳造物を密閉空間に配置し、密閉空間に水蒸気を通して
密閉空間内を水蒸気で充満させると共に水蒸気雰囲気にした状態で、密閉空間内の鋳造物に付着する鋳型をこの水蒸気で加熱処理することによって鋳型の有機バインダーを炭化させた後、鋳造物に付着する鋳型を除去することを特徴とするものである。
【0010】
鋳型が残存して付着する鋳造物を密閉空間に配置し、密閉空間に水蒸気を通して密閉空間内を水蒸気で充満させるとともに水蒸気雰囲気にした状態で、鋳型が残存して付着した鋳造物を密閉空間内で
この水蒸気により加熱処理すると、水蒸気は鋳造物に付着した鋳型の鋳物砂の粒子間に浸透し、鋳物砂を結合している有機バインダーを水蒸気の高い潜熱と顕熱で効率高く加熱することができ、しかも密閉空間に水蒸気を通して加熱処理するために、密閉空間内は水蒸気が充満して空気(酸素)が存在しない雰囲気になり、水蒸気による加熱で有機バインダーを炭化させることができる。そしてこのように有機バインダーが炭化されると、熱分解ガスの揮散により残渣物が収縮し、炭化物に亀裂が生成されると共に炭化物は多孔質構造になって、強度が低下するものであり、この結果、鋳造物に付着する鋳型の有機バインダーは非常に脆い状態になって、鋳型は容易に崩壊して鋳物砂がバラバラになり、鋳造物から鋳型を容易に除去することができるものである。
【0011】
また本発明は、鋳型が残存して付着する鋳造物を水蒸気で加熱処理することによって鋳型の有機バインダーを炭化させた後に、さらに水蒸気による加熱処理を継続して有機バインダーの炭化物を賦活することを特徴とするものである。
【0012】
有機バインダーの炭化物を賦活することによって、炭化物に形成されている多孔質の微細構造がさらに発達して、有機バインダーの炭化物の強度はより低くなって一層脆くなり、鋳造物に付着している鋳型はより崩壊し易くなって、鋳造物からの鋳型の除去がより容易になるものである。
【0013】
また本発明は、鋳型が残存して付着する鋳造物を水蒸気で加熱処理した後、鋳造物に付着する鋳型に外力を加えて鋳型を崩壊させることを特徴とするものである。
【0014】
上記のように水蒸気で有機バインダーを加熱処理したあとも、鋳造物に付着する鋳型は外形を保っていることが多いが、鋳造物が付着する鋳型の有機バインダーは非常に脆い状態になっているので、この鋳型に少しの力を加えるだけで容易に崩れ、鋳物砂をバラバラに崩壊させた状態にして鋳造物から容易に除去することができるものである。
【0015】
また本発明において、上記水蒸気は過熱水蒸気であることを特徴とするものである。
【0016】
過熱水蒸気は高温の乾き蒸気であり、鋳造物に付着する鋳型の有機バインダーをより効率高く加熱することができ、短時間で有機バインダーを炭化することができると共にさらに賦活することができるものである。
【0017】
また本発明において、鋳型の上記有機バインダーは熱硬化性樹脂であることを特徴とするものである。
【0018】
熱硬化性樹脂は耐熱性が高く溶湯の熱で熱分解しないことがあるが、水蒸気による加熱処理で熱硬化性樹脂は容易に炭化することができると共にさらに賦活することができ、容易に脆い炭化物にすることができるものであり、有機バインダーが熱硬化性樹脂であっても、鋳造物に付着する鋳型を容易に除去することができるものである。
【0019】
また本発明において、上記鋳型は中子であることを特徴とするものである。
【0020】
中子は鋳造後に鋳造物の内部にその殆どが残されることが多いが、水蒸気は鋳造物の開口部から内部に進入して中子に作用するものであり、中子の鋳物砂を結合している有機バインダーを容易に炭化させ、さらに賦活させることができるものであって、鋳造物の内部に残る中子であっても鋳造物から容易に除去することができるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鋳型が残存して付着した鋳造物を密閉空間内で水蒸気により加熱処理するようにしているので、水蒸気は鋳造物に付着した鋳型の鋳物砂の粒子間に浸透し、鋳物砂を結合している有機バインダーを水蒸気の高い潜熱と顕熱で効率高く加熱することができ、しかも密閉空間内は水蒸気が充満して空気(酸素)が存在しない雰囲気になるため、水蒸気による加熱で有機バインダーを炭化せることができるものであり、有機バインダーは多孔質構造の炭化物になって強度が低下し、非常に脆い状態になるものであって、鋳造物に残存する鋳型を容易に崩壊させて、鋳型の鋳物砂をバラバラにした状態で鋳造物から容易に除去することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明において使用する装置の一例を示す概略正面図である。
【
図2】本発明において使用する装置の他の一例を示す概略正面図である。
【
図3】実施例において使用する鋳型を示すものであり、(a)は正面断面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
本発明は、炭素を分子骨格に有する有機バインダーをバインダー(粘結剤)とする鋳型を用いて鋳造した鋳造物であれば、特に制限されることなく適用されるものである。この有機バインダーについても熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、糖類など、鋳型の製造に使用されるものであればよく、特に制限されるものではない。水蒸気による加熱は、炭素化収率が高い有機バインダーを使用したものに対しても効果的に作用するので、例えば熱硬化性樹脂のなかでもフェノール樹脂やフラン樹脂のように炭素化収率が高いものであっても、炭化や賦活により鋳型の崩壊が容易になるのものである。
【0025】
鋳型を形成する鋳物砂についても特に制限されることはなく、けい砂、山砂、アルミナ砂、オリビン砂、クロマイト砂、ジルコン砂、ムライト砂、再生砂、その他、人工砂など、鋳型に一般的に使用されるものを例示することができる。
【0026】
また鋳物砂と有機バインダーを用いて製造される鋳型は、どのような方法で製造したものであっても制限なく使用することができる。例えば鋳物砂と有機バインダーを湿態状態で混錬し、これを成形型に充填して加熱することによって得られる鋳型を使用することができる。あるいは鋳物砂と有機バインダーを混錬して、鋳物砂の表面を固体の有機バインダーで被覆したいわゆるレジンコーテッドサンドを調製し、このレジンコーテッドサンドを高温の成形型内に充填し、成形型の温度で加熱することによって得られる鋳型や、あるいはレジンコーテッドサンドを成形型内に充填し、成形型に水蒸気を通気して、成形型内のレジンコーテッドサンドを水蒸気で加熱することによって得られる鋳型を使用することもできる。
【0027】
そして溶融した金属である溶湯を鋳型に注湯し、溶湯を冷却して凝固させることによって、鋳造を行なうことができる。このように溶湯を鋳型に注湯する際に、溶湯の高温が鋳型に作用するので、鋳型の有機バインダーはこの高温で熱分解され、鋳物砂を結合する有機バインダーの強度は低下する。このため、衝撃を加えたり振動を与えたりすると、鋳物砂がバラバラになるように鋳型が崩壊し、鋳造物を鋳型から取り出すことができるものである。
【0028】
このとき、溶湯の温度や有機バインダーの耐熱性などによって、鋳造を行なう際の有機バインダーの熱分解が十分でないと、鋳型の全体が崩壊せず、鋳型の一部あるいは大部分が鋳造物に残ることがある。鋳造物に残る鋳型は、鋳物砂が有機バインダーで結合された状態にあると共に有機バインダーで鋳造物に付着しているものであり、このように鋳造物に残存して付着した鋳型は、鋳造物に衝撃を加えたり振動を与えたりしても容易に除去することは難しい。
【0029】
そこで本発明は、このように鋳型の一部あるいは大部分が残って鋳物砂が付着した鋳造物を水蒸気で加熱処理するようにしたものである。加熱処理に用いる装置としては、密閉空間を備え、密閉空間に水蒸気を供給して通気することがでえきるものであればよく、例えば
図1のような水蒸気加熱処理器Aを使用することができる。
【0030】
図1の水蒸気加熱処理器Aは、熱処理容器1と蒸気発生装置10を備えて形成されるものであり、熱処理容器1には水蒸気が容器1内に吹き込まれる導入口3が下部に、容器1内の水蒸気が排出される排気口4が上部に設けてある。熱処理容器1の前面の開口部5を扉6で閉じることによって、熱処理容器1内は導入口3と排気口4以外は密閉される構造になっており、熱処理容器1内に密閉空間が形成されるようになっている。そして導入口3に蒸気生成装置10がバルブ12を介して接続してある。蒸気生成装置10はボイラーを備えて形成されるものであり、水をボイラー内で加熱して水蒸気(飽和水蒸気)を生成して送り出すことができるものである。このボイラーに過熱器を接続することによって、ボイラーで生成された水蒸気を過熱器でさらに加熱して過熱水蒸気として蒸気生成装置10から送り出すこともできるようになっている。
【0031】
そして扉6を開いて熱処理容器1内に鋳型が残存して付着する鋳型を入れて配置し、扉6を閉じた後、バルブ12を開いて蒸気生成装置10で生成された水蒸気を導入口3から熱処理器1内に吹き込む。熱処理容器1内の水蒸気は排気口4から排出されるので、熱処理容器1内に水蒸気が通気される。このように熱処理容器1内に水蒸気が通気されると、熱処理容器1内は水蒸気で充満され、熱処理容器1内の空気は排気口4から排気されることになり、熱処理容器1内の密閉空間内の気体は空気から水蒸気に置換される。
【0032】
このように鋳造物を配置した熱処理容器1内に水蒸気を通気すると、鋳造物に残存して付着した鋳型に水蒸気が作用し、鋳型の有機バインダーを水蒸気の凝縮潜熱で加熱することができる。ここで、水蒸気は高い潜熱と顕熱を有するので、有機バインダーを瞬時に加熱して短時間で高温に昇温させることができるものである。また鋳造物の露出した表面に付着した鋳型に水蒸気が作用するのは勿論、水蒸気は鋳造物の開口部から鋳造物の内部へと進入するので、鋳造物の内部に付着した鋳型にも水蒸気が作用する。そして水蒸気は鋳型の鋳物砂の粒子間を通過して浸透するので、残存する鋳型を均一に加熱することができるものであり、鋳物砂を結合し且つ鋳物砂を鋳造物に付着させている有機バインダーを水蒸気で加熱することができるものである。
【0033】
上記のように熱処理容器1内は空気(酸素)を排除した水蒸気雰囲気であり、このような非酸素雰囲気で、鋳造物に付着した鋳型の有機バインダーを水蒸気で加熱することによって、有機バインダーを炭化することができるものである。有機バインダーが炭化物になると多孔質構造になり、また炭化の際の熱分解ガスの揮散により残渣物が収縮して炭化物に亀裂が生成され、強度が著しく低下するので、有機バインダーの炭化物は非常に脆くなる。従って、熱処理容器1内で加熱処理を行なった後に、扉6を開いて鋳型が残存して付着する鋳造物を取り出し、鋳造物に衝撃や振動を加えてやると、鋳型は容易に崩壊してバラバラの鋳型砂になり、鋳造物から鋳型を除去することができるものである。
【0034】
ここで、熱処理容器1内の水蒸気雰囲気で鋳造物に付着した鋳型の有機バインダーを加熱処理するにあたって、上記のように有機バインダーを炭化した後に、さらに熱処理容器1に水蒸気を供給して通気を継続することによって、有機バインダーの炭化物はさらに水蒸気の作用を受け、炭化物を賦活することができる。すなわち、水蒸気は賦活ガスとして炭化物の炭素と反応し、炭化物に形成されている多孔質の微細構造をさらに発達させて、炭化物を賦活することができるものである。このように炭化物が賦活されると、多孔質構造が発達して有機バインダーの炭化物の強度はより低くなって一層脆くなり、鋳造物に付着している鋳型の崩壊はより容易になって、鋳造物からの鋳型の除去がより容易になるものである。
【0035】
有機バインダーを上記のように炭化させ、さらに賦活した後も、鋳造物に付着する鋳型は外形を保っていることが多い。この場合には鋳造物に衝撃や振動を加えても付着した鋳型が崩壊しないことがあるので、この鋳型を棒などの治具で突つくなどして鋳型に外力を直接作用させることで、鋳物砂はバラバラになり、鋳型を容易に崩壊させることができる。
【0036】
図2の水蒸気加熱処理器Aは、熱処理容器1に加熱手段8を設けたものである。加熱手段8としては、燃焼や電気抵抗などで自己発熱して熱処理容器1内の温度を上昇させることができるものであれば何でもよく、例えばガスバーナー、電気ヒーターなどを用いることができる。このものでは、加熱手段8で加熱して熱処理容器1内の雰囲気温度を水蒸気の温度よりも高い温度に設定することができるものであり、高温雰囲気で炭化及び賦活の処理を短時間で行なうことができるものである。この水蒸気加熱処理器Aは、非処理物を連続的に送って炭化処理を行なう炉で形成することもできる。
【0037】
上記の熱処理容器1内での水蒸気による加熱処理の条件は有機バインダーの種類等によって異なり、特に限定されるものではないが、一般に有機バインダーを炭化するためには加熱温度は150℃程度以上であることが好ましい。また水蒸気によって炭化物を賦活するためには加熱温度は200℃程度以上であることが好ましく、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは400℃以上である。有機バインダーの炭化と、炭化物の賦活は、熱処理容器1に水蒸気を継続して供給して通気する一連の工程で、連続的にあるいは同時的に行われるものであり、高い生産効率で炭化及び賦活を行なうことができるものである。さらに、有機バインダーを加熱処理するのに要する時間は、水蒸気の温度、有機バインダーの種類、鋳造物の大きさ、炭化や賦活の程度などによって異なるが、一般的に0.1〜40時間程度に設定するのが好ましく、なかでも賦活を十分に行うには0.5時間以上であることが好ましい。例えば、有機バインダーとしてフェノール樹脂やフラン樹脂のような熱硬化性樹脂を用いる場合、水蒸気の温度を300〜900℃、熱処理容器1に水蒸気を通気する時間を0.1〜30時間の範囲に設定するのが好ましく、なかでも賦活を十分に行うには0.5時間以上であることが好ましい。
【0038】
水蒸気としては飽和水蒸気を用いる他に、上記したように過熱水蒸気を用いることもできる。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全気体状態の水蒸気であり、100℃以上の乾き蒸気である。過熱水蒸気は900℃程度まで温度を上昇させることが可能であり、このため高温で有機バインダーを加熱処理することができ、加熱処理の時間をより短縮することが可能になり、また賦活を行なうためにも有利である。
【0039】
本発明において、鋳型に使用されるバインダーは、加熱して炭化され得る有機バインダーであれば特に制限されることはない。ここで、有機バインダーが熱硬化性樹脂である場合、熱硬化性樹脂は耐熱性が高く溶湯の熱で熱分解し難いことがことがあるが、水蒸気による加熱処理で熱硬化性樹脂を容易に炭化させることができ、さらに賦活させることもでき、有機バインダーを脆い状態にすることができる。従って有機バインダーがこのような熱硬化性樹脂であっても、鋳物砂を鋳造物から容易に除去することができるものであり、有機バインダーが熱硬化性樹脂である場合においても本発明は有効である。また有機バインダーが熱硬化性樹脂のなかでもフェノール樹脂やフラン樹脂のように炭素化収率が高いものであっても、水蒸気による加熱処理で容易に炭素化することができるものであり、本発明の効果を高く得ることができるものである。
【0040】
また上記したように、水蒸気は鋳造物の露出した表面に付着した鋳型に作用するだけでなく、鋳造物の表に露出しない鋳造物の内部へも水蒸気は開口部から進入するので、鋳造物の内部において付着した鋳型にも水蒸気が作用し、鋳造物の内部のこの鋳型の有機バインダーを炭化させることができ、さらに賦活させることができるものである。ここで、鋳型が中子である場合、中子は鋳造物の内部に取り残されるので完全に除くことが難しいが、本発明では中子が鋳造物の内部に付着して残っていても、水蒸気による加熱処理で中子の有機バインダーを容易に炭化させることができると共に、さらに容易に賦活させることができ、有機バインダーを脆い状態にすることができるものである。従って水蒸気で加熱処理した後に、棒などの治具を鋳造物の内部に差し込んで残存する中子を突くなどして力を加えることによって、中子の鋳物砂をバラバラに崩した状態で鋳造物から除去することができるものであり、本発明の適用によって、鋳造物の内部に残存する中子の除去を容易に行なうことができるものである。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0042】
(レジンコーテッドサンドNo1〜No4)
135℃に加熱したフラッタリーけい砂30kgをワールミキサーに仕込み、表1に示す量でフェノール樹脂を加えて、30秒間混錬した後、必要に応じて450gの水に溶解乃至分散させたヘキサメチレンテトラミン78gを添加し、砂粒の塊が崩壊するまで混錬した。次いで、滑剤としてステアリン酸カルシウム30gを加えて30秒間混錬し、これをワールミキサーから払い出し、エアレーションして冷却することによって、けい砂に対して2.0質量%の被覆量で固形フェノール樹脂により表面が被覆されたレジンコーテッドサンドNo1〜No4を得た。
【0043】
上記のように調製したレジンコーテッドサンドNo1〜No4の表面のフェノール樹脂の融着点をJACT試験方法C−1「融着点試験法」に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0044】
また幅23mm×長さ70mm×厚さ23mmの試験片を成形できる成形金型を240±5℃に加熱し、この成形金型にレジンコーテッドサンドNo1〜No4をゲージ圧力0.1MPaの空気圧で吹き込んで充填し、60秒後に脱型することによって試験片を得た。この試験片の曲げ強さを、JACT試験法SM−1に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例1〜4)
レジンコーテッドサンドNo1〜No4を用いて上記のように調製した試験片について崩壊性試験Aを行なった。崩壊性試験Aは、鋳物鋳造の際に鋳型を主型(外型であり露出している)として使用する場合を想定したものであり、
図2に示す水蒸気加熱処理器Aを用い、内寸が幅400mm、奥行400mm、高さ400mmの熱処理容器1内に2本のガラス棒を平行に並べて置き、この上にガラス棒と直交するように試験片を載せてセットした。
【0047】
次に、熱処理容器1内に、ボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を野村技工(株)製過熱器「型式GE100」により450℃まで加熱して調製した過熱水蒸気を、表2に示す時間で吹き込み続けた。時間経過後に試験片を取り出して室温まで冷却し、曲げ強さを測定した。尚、電気ヒータからなる加熱手段8は作動させなかった。
【0048】
(実施例5〜8)
またレジンコーテッドサンドNo1〜No4を用いて上記のように調製した試験片について崩壊性試験Bを行なった。崩壊性試験Bは、鋳物鋳造の際に鋳型を中子(鋳物金属に囲まれている)として使用する場合を想定したものであり、試験片をその両端面を除いて二重のアルミニウム箔で包み込み、これを崩壊性試験Aの場合と同様に、ガラス棒の上にセットした状態で熱処理容器1内にセットした。そして崩壊性試験Aの場合と同様に、過熱水蒸気を表3に示す時間で吹き込んだ後、試験片の曲げ強さを測定した。
【0049】
(比較例1〜4、比較例5〜8)
崩壊性試験A,Bを行なうにあたって、熱処理容器1に過熱水蒸気を吹き込まず、熱処理容器1内に試験片をセットした後、電気ヒータからなる加熱手段8を作動させて容器1内の温度が450℃になるまで加熱する処理を、表2あるいは表3に示す時間で行なった。時間経過後に試験片を取り出して室温まで冷却し、曲げ強さを測定した。
【0050】
鋳型を主型として使用する場合を想定した崩壊性試験Aの結果を表2に、鋳型を中子として使用する場合を想定した崩壊性試験Bの結果を表3に、それぞれ示す。表2及び表3には、過熱水蒸気あるいは電気ヒータによる加熱時間の欄に試験片の曲げ強さを示す他、この曲げ強度を表1に示す加熱前の曲げ強度で割って算出した強度保持率を示す。この強度保持率が小さいほど、強度劣化が大きく崩壊が進んでいると評価することができる。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表2及び表3にみられるように、崩壊性試験A,Bのいずれにおいても、水蒸気で加熱する実施例1〜4及び実施例5〜8は、電気ヒータで加熱する比較例1〜4及び比較例5〜8よりも、加熱による曲げ強度の低下が大きく、曲げ強度の保持率が低いものであり、実施例1〜8は比較例1〜8よりも脆くなって崩壊が進んでいることが確認される。
【0054】
そして曲げ強度が2.0MPa程度以下であれば、指で押す程度の外力で容易に崩壊する脆さになっているので、実施例1では40分、実施例2では40分、実施例3では40分、実施例4では60分の水蒸気による加熱で容易に崩壊する。また実施例5では40分、実施例6では60分、実施例7では40分、実施例8では60分の水蒸気による加熱で容易に崩壊する。従って、鋳型が残存する鋳造物をこれらの時間、水蒸気で処理することによって、鋳型を容易に崩壊させて鋳造物から除去できることが確認される。
【0055】
(実施例9)
レジンコーテッドサンドNo2を用い、
図3に示す主型15と中子16からなる鋳型を作製した。主型15の外形は直径10cm×高さ10cmの円柱形であり、内径6cm×深さ7cmの凹部17が形成してあって、そ中央に直径2cm×深さ1cmの穴18が設けてある。中子16は直径2cm×高さ8cmの円柱形である。主型15と中子16はそれぞれ、240±5℃に加熱した成形金型にレジンコーテッドサンドNo2をゲージ圧力0.1MPaの空気圧で吹き込んで充填し、60秒後に脱型することによって成形したものである。
【0056】
そして、主型15に中子16を
図3のようにセットした後、800℃の溶融アルミニウム合金を主型15の凹部17内に注湯し、自然放冷して主型15内の鋳造物19が室温に低下するまで放置することによって、鋳造を行なった。主型15や中子16には溶融アルミニウム合金の高温が作用し、主型15や中子16のうち鋳造物19に接する部分は炭化されて黒くなるが、他の部分は元の色のままであった。このように鋳造した後、主型15や中子16を木槌で叩いて衝撃を与えたところ、主型15は20〜30%が崩壊せずに鋳造物の表面に付着して残った。また中子16は60〜70%が崩壊せずに鋳造物17の内部に付着して残った。
【0057】
次に、
図2に示す水蒸気加熱処理器A(加熱手段8は作動させず)を用い、熱処理容器1内に上記の主型15や中子16が付着して残存する鋳造物19をセットし、熱処理容器1内に、ボイラーで発生させたゲージ圧0.3MPa、温度143℃の飽和水蒸気を野村技工(株)製過熱器「型式GE100」により450℃まで加熱して調製した過熱水蒸気を60分間吹き込んだ。
【0058】
この後、熱処理容器1から取り出して室温まで冷却し、主型15を木槌で叩いたところ、主型15は崩壊してバラバラの砂粒になり、鋳造物19の表面から脱落した。また中子16を木槌で叩いて衝撃を与えた後、金属棒を差し込んでかき混ぜることによって、中子16は崩壊してバラバラの砂粒になり、鋳造物19の内部から取り出すことができた。
【符号の説明】
【0059】
1 熱処理容器
2 導入口
3 排気口
10 蒸気生成装置
15 鋳型
16 鋳型
19 鋳造物