【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成25年度科学技術試験研究委託事業「DecNefを応用した精神疾患の診断・治療システムの開発と臨床応用拠点の構築」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、脳活動を非侵襲的に計測することで、これを精神・神経疾患の診断、さらには、治療に応用しようとする研究が進んでいる。
【0003】
たとえば、NIRS(Near-infraRed Spectroscopy)技術を用いて、生体光計測により計測されたヘモグロビン信号から特徴量に応じて、統合失調症、うつ病などの精神疾患について分類を行う疾患判定システムなどの報告がある(特許文献1)。
【0004】
(リアルタイムニューロフィードバック)
一方で、神経・精神疾患の場合の治療法の可能性として、以下のようなリアルタイムニューロフィードバック法が検討されている。
【0005】
核磁気共鳴画像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)を利用して、ヒトの脳の活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法である機能的磁気共鳴画像法(fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging)を始めとする脳機能画像法は、感覚刺激や認知課題遂行による脳活動と安静時や対照課題遂行による脳活動の違いを検出して、関心のある脳機能の構成要素に対応する脳賦活領域を特定すること、すなわち脳の機能局在を明らかにすることにもちいられてきた。
【0006】
近年、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などの脳機能画像法を用いたリアルタイムニューロフィードバック技術についての報告がある(非特許文献1)。リアルタイムニューロフィードバック技術は、神経疾患、精神疾患の治療方法として注目され始めている。
【0007】
ニューロフィードバックとは、バイオフィードバックの一種であり、被験者が自身の脳活動に関するフィードバックを受けることで、脳活動を操作する方法を学ぶというものである。
【0008】
たとえば、前部帯状回の活動をfMRIで計測し、それをリアルタイムで炎の大きさとして、患者にフィードバックして、炎を小さくするように努力させると、中枢性の慢性疼痛が実時間でも、また、長期的にも改善したとの報告がある(非特許文献2を参照)。
(安静時fMRI)
また、最近の研究では、安静時の脳も活発に活動していることがわかってきた。つまり、アクティブな活動中には鎮静化しており、休息時には活発に興奮する神経細胞群が脳内に存在する。解剖学的には左右の大脳が合わさった内側面が主な部位で、前頭葉内側面、後部帯状回、楔前部、頭頂連合野の後半部、中側頭回などである。この安静時の脳活動のベースラインを示す領域はデフォルトモードネットワーク(Default Mode Network;DMN)と名付けられ、ひとつのネットワークとして同期しながら活動する(非特許文献3を参照)。
【0009】
たとえば、健常者と精神疾患の患者で脳活動が異なるという例として、デフォルトモードネットワークにおける脳活動が挙げられる。デフォルトモードネットワークとは、安静状態において、目標指向的な課題を実行中よりも活発な脳活動がみられる部位のことを指す。統合失調症、アルツハイマー病などの疾患の患者は、健常者と比較したときに、このデフォルトモードネットワークに異常がみられることが報告されている。たとえば、統合失調症の患者は、安静状態において、デフォルトモードネットワークに属する後帯状皮質と、頭頂外側部、前頭前野内側部、小脳皮質の活動の相関が下がっているなどの報告がある。
【0010】
ただし、このようなデフォルトモードネットワークが、認知機能とどのようにかかわっているのかや、このような脳領域間の機能的結合の相関と上述したニューロフィードバックとの関連などは、必ずしも明らかとはなっていない状況である。
【0011】
一方で、複数の脳領域間において課題などの違いによる活動の相関関係の変化をみることにより、それら脳領域間の機能的結合(functional connectivity)が評価されている。とくに、安静時のfMRI による機能的結合の評価は安静時機能結合的MRI(rs-fcMRI : resting-state functional connectivity MRI)とも呼ばれ、様々な神経・精神疾患を対象とした臨床研究も行われるようになりつつある。ただし、従来のrs-fcMRI法は、上述したようなデフォルトモードネットワークといったような大域的神経ネットワークの活動をみるものであって、より詳細な機能的結合について、十分な検討がされているとはいえない状況である。
(DecNef法:Decoded NeuroFeedback法)
一方で、近年、デコーディッドニューロフィードバック法(DecNef法)と呼ばれる新しいタイプのニューラルフィードバック法について報告がある(非特許文献4)。
【0012】
人の感覚・知覚システムは、周囲を取り巻く環境に応じて常に変化する。こうした変化の大半は、発達早期の決まった段階、すなわち「臨界期」と呼ばれる時期に起こる。しかし、成人においても、周辺環境の重要な変化に適応できる程度には感覚・知覚システムの可塑性が保たれる。たとえば、成人が特定の知覚刺激を使った訓練を受けたり、特定の知覚刺激に曝露されることによって、その訓練課題の成績あるいは知覚刺激への感度が向上し、さらに、その訓練結果が数ヶ月から数年間維持されることが報告されている(たとえば、非特許文献5を参照)。こうした変化は知覚学習と呼ばれ、すべての感覚器、すなわち視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のそれぞれにおいて起こることが確認されている。
【0013】
DecNef法では、学習対象となる刺激を直接被験者に与えることなく、脳の活動を検出し、かつ、脳活動をデコードして、所望の脳活動との近似度のみを被験者にフィードバックすることで、「知覚学習」が可能である。
(核磁気共鳴画像法)
このような核磁気共鳴画像法について、簡単に説明すると、以下のとおりである。
【0014】
すなわち、従来から、生体の脳や全身の断面を画像する方法として、生体中の原子、特に、水素原子の原子核に対する核磁気共鳴現象を利用した核磁気共鳴映像法が、人間の臨床画像診断等に使用されている。
【0015】
核磁気共鳴映像法は、それを人体に適用する場合、同様の人体内断層画像法である「X線CT」に比較して、たとえば、以下のような特徴がある。
【0016】
(1)水素原子の分布と、その信号緩和時間(原子の結合の強さを反映)に対応した濃度の画像が得られる。このため、組織の性質の差異に応じた濃淡を呈し、組織の違いを観察しやすい。
【0017】
(2)磁場は、骨による吸収がない。このため、骨に囲まれた部位(頭蓋内、脊髄など)を観察しやすい。
【0018】
(3)X線のように人体に害になるということがないので、広範囲に活用できる。
【0019】
このような核磁気共鳴影像法は、人体の各細胞に最も多く含まれ、かつ最も大きな磁性を有している水素原子核(陽子)の磁気性を利用する。水素原子核の磁性を担うスピン角運動量の磁場内での運動は、古典的には、コマの歳差運動にたとえられる。
【0020】
以下、本発明の背景の説明のために、この直感的な古典的モデルで、簡単に核磁気共鳴の原理をまとめておく。
【0021】
上述したような水素原子核のスピン角運動量の方向(コマの自転軸の方向)は、磁場のない環境では、ランダムな方向を向いているものの、静磁場を印加すると、磁力線の方向を向く。
【0022】
この状態で、さらに振動磁界を重畳すると、この振動磁界の周波数が、静磁界の強さで決まる共鳴周波数f0=γB0/2π(γ:物質に固有の係数)であると、共鳴により原子核側にエネルギーが移動し、磁化ベクトルの方向が変わる(歳差運動が大きくなる)。この状態で、振動磁界を切ると、歳差運動は、傾き角度を戻しながら、静磁界における方向に復帰していく。この過程を外部からアンテナコイルにより検知することで、NMR信号を得ることができる。
【0023】
このような共鳴周波数f0は、静磁界の強度がB0(T)であるとき、水素原子では、42.6×B0(MHz)となる。
【0024】
さらに、核磁気共鳴映像法では、血流量の変化に応じて、検出される信号に変化が現れることを用いて、外部刺激等に対する脳の活動部位を視覚化することも可能である。このような核磁気共鳴映像法を、特に、fMRI(functional MRI)と呼ぶ。
【0025】
fMRIでは、装置としては通常のMRI装置に、さらに、fMRI計測に必要なハードおよびソフトを装備したものが使用される。
【0026】
ここで、血流量の変化がNMR信号強度に変化をもたらすのは、血液中の酸素化および脱酸素化ヘモグロビンは磁気的な性質が異なることを利用している。酸素化ヘモグロビンは反磁性体の性質があり、周りに存在する水の水素原子の緩和時間に影響を与えないのに対し、脱酸素化ヘモグロビンは常磁性体であり、周囲の磁場を変化させる。したがって、脳が刺激を受け、局部血流が増大し、酸素化ヘモグロビンが増加すると、その変化分をMRI信号として検出する事ができる。被験者への刺激は、たとえば、視覚による刺激や聴覚による刺激、あるいは所定の課題(タスク)の実行等が用いられる(たとえば、特許文献2)。
【0027】
ここで、脳機能研究においては、微小静脈や毛細血管における赤血球中の脱酸素化ヘモグロビンの濃度が減少する現象(BOLD効果)に対応した水素原子の核磁気共鳴信号(MRI信号)の上昇を測定することによって脳の活動の測定が行われている。
【0028】
特に、人の運動機能に関する研究では、被験者に何らかの運動を行わせつつ、上記MRI装置によって脳の活動を測定することが行われている。
【0029】
ところで、ヒトの場合、非侵襲的な脳活動の計測が必要であり、この場合、fMRIデータから、より詳細な情報を抽出できるデコーディング技術が発達してきている(たとえば、非特許文献6)。特に、fMRIが脳におけるボクセル単位(volumetric pixel : voxel)で脳活動を解析することで、脳活動の空間的パターンから、刺激入力や認識状態を推定することが可能となっている。そこで、知覚学習に対するタスクについて、このようなデコーディング技術を応用したものが、上述したDecNef法である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態のMRIシステムの構成について、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
[実施の形態1]
図1は、MRI装置10の全体構成を示す模式図である。
【0046】
図1に示すように、MRI装置10は、被検者2の関心領域に制御された磁場を付与してRF波を照射する磁場印加機構11と、この被検者2からの応答波(NMR信号)を受信してアナログ信号を出力する受信コイル20と、この被検者2に付与される磁場を制御するとともにRF波の送受信を制御する駆動部21と、この駆動部21の制御シーケンスを設定するとともに各種データ信号を処理して画像を生成するデータ処理部32とを備える。
【0047】
なお、ここで、被検者2が載置される円筒形状のボアの中心軸をZ軸にとりZ軸と直交する水平方向にX軸及び鉛直方向にY軸を定義する。
【0048】
MRI装置10は、このような構成であるので、磁場印加機構11により印加される静磁場により、被検者2を構成する原子核の核スピンは、磁場方向(Z軸)に配向するとともに、この原子核に固有のラーモア周波数でこの磁場方向を軸とする歳差運動を行う。
【0049】
そして、このラーモア周波数と同じRFパルスを照射すると、原子は共鳴しエネルギーを吸収して励起され、核磁気共鳴現象(NMR現象;Nuclear Magnetic Resonance)が生じる。この共鳴の後に、RFパルス照射を停止すると、原子はエネルギーを放出して元の定常状態に戻る緩和過程で、ラーモア周波数と同じ周波数の電磁波(NMR信号)を出力する。
【0050】
この出力されたNMR信号を被検者2からの応答波として受信コイル20で受信し、データ処理部32において、被検者2の関心領域が画像化される。
【0051】
磁場印加機構11は、静磁場発生コイル12と、傾斜磁場発生コイル14と、RF照射部16と、被検者2をボア中に載置する寝台18とを備える。
【0052】
被験者2は、寝台18に、たとえば、仰臥する。被験者2は、特に限定されないが、たとえば、プリズムメガネ4により、Z軸に対して垂直に設置されたディスプレイ6に表示される画面を見ることができる。このディスプレイ6の画像により、被験者2に視覚刺激が与えられる。なお、被験者2への視覚刺激は、被験者2の目前にプロジェクタにより画像が投影される構成であってもよい。
【0053】
このような視覚刺激は、上述したニューロフィードバックでは、フィードバック情報の提示に相当する。
【0054】
駆動部21は、静磁場電源22と、傾斜磁場電源24と、信号送信部26と、信号受信部28と、寝台18をZ軸方向の任意位置に移動させる寝台駆動部30とを備える。
【0055】
データ処理部32は、操作者(図示略)から各種操作や情報入力を受け付ける入力部40と、被検者2の関心領域に関する各種画像及び各種情報を画面表示する表示部38と、各種処理を実行させるプログラム・制御パラメータ・画像データ(構造画像等)及びその他の電子データを記憶する記憶部36と、駆動部21を駆動させる制御シーケンスを発生させるなどの各機能部の動作を制御する制御部42と、駆動部21との間で各種信号の送受信を実行するインタフェース部44と、関心領域に由来する一群のNMR信号からなるデータを収集するデータ収集部46と、このNMR信号のデータに基づいて画像を形成する画像処理部48と、ネットワークとの間で通信を実行するためのネットワークインタフェース部50を備える。
【0056】
また、データ処理部32は、専用コンピュータである場合の他、各機能部を動作させる機能を実行する汎用コンピュータであって、記憶部36にインストールされたプログラムに基づいて、指定された演算やデータ処理や制御シーケンスの発生をさせるものである場合も含まれる。以下では、データ処理部32は、汎用コンピュータであるものとして説明する。
【0057】
静磁場発生コイル12は、Z軸周りに巻回される螺旋コイルに静磁場電源22から供給される電流を流して誘導磁場を発生させ、ボアにZ軸方向の静磁場を発生させるものである。このボアに形成される静磁場の均一性の高い領域に被検者2の関心領域を設定することになる。ここで、静磁場コイル12は、より詳しくは、たとえば、4個の空芯コイルから構成され、その組み合わせで内部に均一な磁界を作り、被験者2の体内の所定の原子核、より特定的には水素原子核のスピンに配向性を与える。
【0058】
傾斜磁場発生コイル14は、Xコイル、Yコイル及びZコイル(図示省略)から構成され、円筒形状を示す静磁場発生コイル12の内周面に設けられる。
これらXコイル、Yコイル及びZコイルは、それぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向を順番に切り替えながら、ボア内の均一磁場に対し傾斜磁場を重畳させ、静磁場に強度勾配を付与する。Zコイルは励起時に、磁界強度をZ方向に傾斜させて共鳴面を限定し、Yコイルは、Z方向の磁界印加の直後に短時間の傾斜を加えて検出信号にY座標に比例した位相変調を加え(位相エンコーディング)、Xコイルは、続いてデータ採取時に傾斜を加えて、検出信号にX座標に比例した周波数変調を与える(周波数エンコーディング)。
【0059】
この重畳される傾斜磁場の切り替えは、制御シーケンスに従って、Xコイル、Yコイル及びZコイルにそれぞれ異なるパルス信号が送信部24から出力されることにより実現される。これにより、NMR現象が発現する被検者2の位置を特定することができ、被検者2の画像を形成するのに必要な三次元座標上の位置情報が与えられる。
【0060】
ここで、上述のように、3組の直交する傾斜磁場を用いて、それぞれにスライス方向、位相エンコード方向、および周波数エンコード方向を割り当ててその組み合わせにより様々な角度から撮影を行える。たとえば、X線CT装置で撮像されるものと同じ方向のトランスバーススライスに加えて、それと直交するサジタルスライスやコロナルスライス、更には面と垂直な方向が3組の直交する傾斜磁場の軸と平行でないオブリークスライス等について撮像することができる。
【0061】
RF照射部16は、制御シーケンスに従って信号送信部33から送信される高周波信号に基づいて、被検者2の関心領域にRF(Radio Frequency)パルスを照射するものである。
なお、RF照射部16は、
図1において、磁場印加機構11に内蔵されているが、寝台18に設けられたり、あるいは、受信コイル20と一体化されていてもよい。
【0062】
受信コイル20は、被検者2からの応答波(NMR信号)を検出するものであって、このNMR信号を高感度で検出するために、被検者2に近接して配置されている。
ここで、受信コイル20には、NMR信号の電磁波がそのコイル素線を切ると電磁誘導に基づき微弱電流が生じる。この微弱電流は、信号受信部28において増幅され、さらにアナログ信号からデジタル信号に変換されデータ処理部32に送られる。
【0063】
すなわち、静磁界にZ軸傾斜磁界を加えた状態にある被験者2に、共鳴周波数の高周波電磁界を、RF照射部16を通じて印加すると、磁界の強さが共鳴条件になっている部分の所定の原子核、たとえば、水素原子核が、選択的に励起されて共鳴し始める。共鳴条件に合致した部分(たとえば、被験者2の所定の厚さの断層)にある所定の原子核が励起され、スピンがいっせいに回転する。励起パルスを止めると、受信コイル20には、今度は、回転しているスピンが放射する電磁波が信号を誘起し、しばらくの間、この信号が検出される。この信号によって、被験者2の体内の、所定の原子を含んだ組織を観察する。そして、信号の発信位置を知るために、XとYの傾斜磁界を加えて信号を検知する、という構成になっている。
【0064】
画像処理部48は、記憶部36に構築されているデータに基づき、励起信号を繰り返し与えつつ検出信号を測定し、1回目のフーリエ変換計算により、共鳴の周波数をX座標に還元し、2回目のフーリエ変換でY座標を復元して画像を得て、表示部38に対応する画像を表示する。
【0065】
たとえば、このようなMRIシステムにより、上述したBOLD信号をリアルタイムで撮像し、制御部42により、時系列に撮像される画像について、後に説明するような解析処理を行うことで、安静時機能結合的MRI(rs-fcMRI)の撮像を行うことが可能となる。また、データ処理部32が、後に説明するようなニューロフィードバックスコアの計算や、そのスコアの被験者への提示のための演算といった処理を実行する。
【0066】
図2は、データ処理部32のハードウェアブロック図である。
【0067】
データ処理部32のハードウェアとしては、上述のとおり、特に限定されないが、汎用コンピュータを使用することが可能である。
【0068】
図2において、データ処理部32のコンピュータ本体2010は、メモリドライブ2020、ディスクドライブ2030に加えて、CPU2040と、ディスクドライブ2030及びメモリドライブ2020に接続されたバス2050と、ブートアッププログラム等のプログラムを記憶するためのROM2060とに接続され、アプリケーションプログラムの命令を一時的に記憶するとともに一時記憶空間を提供するためのRAM2070と、アプリケーションプログラム、システムプログラム、およびデータを記憶するための不揮発性記憶装置2080と、通信インタフェース2090とを含む。通信インタフェース2090は、駆動部21等と信号の授受を行うためのインタフェース部44および図示しないネットワークを介して他のコンピュータと通信するためのネットワークインタフェース50に相当する。なお、不揮発性記憶装置2080としては、ハードディスク(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)などを使用することが可能である。不揮発性記憶装置2080が、記憶部36に相当する。
【0069】
CPU2040が、プログラムに基づいて実行する演算処理により、データ処理部32の各機能、たとえば、制御部42、データ収集部46、画像処理部48の各機能が実現される。
【0070】
データ処理部32に、上述した実施の形態の機能を実行させるプログラムは、CD−ROM2200、またはメモリ媒体2210に記憶されて、ディスクドライブ2030またはメモリドライブ2020に挿入され、さらに不揮発性記憶装置2080に転送されても良い。プログラムは実行の際にRAM2070にロードされる。
【0071】
データ処理部32は、さらに、入力装置としてのキーボード2100およびマウス2110と、出力装置としてのディスプレイ2120とを備える。キーボード2100およびマウス2110が入力部40に相当し、ディスプレイ2120が表示部38に相当する。
【0072】
上述したようなデータ処理部32として機能するためのプログラムは、コンピュータ本体2010に、情報処理装置等の機能を実行させるオペレーティングシステム(OS)は、必ずしも含まなくても良い。プログラムは、制御された態様で適切な機能(モジュール)を呼び出し、所望の結果が得られるようにする命令の部分のみを含んでいれば良い。データ処理部32がどのように動作するかは周知であり、詳細な説明は省略する。
【0073】
また、上記プログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、あるいは分散処理を行ってもよい。
【0074】
図3は、本実施の形態の安静時機能結合的MRI(rs-fcMRI)法により撮像される脳の関心領域(ROI:Region of Interest)の一覧を示す図である。
【0075】
ここでは、以下に説明するように、タスクポジティブネットワーク、タスクネガティブネットワークおよび対照領域からの信号を使用することを念頭に、関心領域を選定している。
【0076】
これまで、2つの関心領域の「共活性化」の直接的な制御およびその内因性のネットワークに対する長期的な影響については、ほとんど知られていない。
【0077】
ネットワークの有意な変化を引き起こすために、本実施の形態では、以下の2つの代表的な内因性の脳の機能的ネットワーク間の相関を変更することを意図する:
1)タスク関連の非活動化を示す領域のタスクネガティブ(デフォルトモード)ネットワーク(TNNまたはDMN)、および、
2)タスクポジティブなネットワーク(TPN)(タスク関連の活性化を示す領域から成る)。
【0078】
TNNの中の領域は、しっかりと互いと相関している。しかし、TPNは、背側注意ネットワーク、前頭頭頂(fronto-parietal)ネットワークおよび帯状回弁蓋部(cingulo-opercular)ネットワークのようなサブネットワークから成る。
【0079】
したがって、TPNは単一の回路網ではなくネットワークの組と見なされるべきである。しかし、ここでは「TPN」という用語を簡潔さのために使用することにする。
【0080】
多くの研究が、TNNおよびTPNの組の活動がネガティブに相関していることを示してきている。
【0081】
ここで、ニューロフィードバックトレーニング中における2つの領域の信頼できる時間相関の計算のためには、最初に、十分な振幅のBOLD信号における時間的経過の一貫した時間変化を観察することが必要である。
【0082】
したがって、従来のニューロフィードバック研究に従って、十分に、左1次運動野(lM1)中のBOLD変調が観察されるように、指の動きを想像してくれるように被験者に依頼した。1次運動野M1が運動想像タスクの間に活性化されるので、この領域は、少なくとも運動想像タスクのためのTPNの組の一部と見なすことができる。
【0083】
より接近している領域間の結合は、離れた領域間のそれより一般に高く、強い結合が、ニューロフィードバックに利用可能な短時間間隔内の時間的相関の信頼できる値を計算するのに役立つと予想される。したがって、左の1次運動野lM1への最も近いTNN領域として左の頭頂外側部(lLP)中の領域が選択された。
【0084】
局部ネットワーク内または広域の内因性のネットワークの結合により、同じ内因性のネットワーク(TNN)あるいはネットワークの組(TPN)内の領域にわたって、2つの領域間の相関の増加が汎化することが期待される。
【0085】
そこで、ニューロフィードバックスコアの計算については、本実施の形態では、全TPNおよびTNNの間のそれではなく、2つの領域(lM1とlLP)間の時間的相関が、使用される。
【0086】
本実施の形態の結合-ニューロフィードバック法は、以下に説明するように、トレーニングの間に2つの領域の共活性化を増加させ、それ以上のトレーニングなしで、2か月間以上にわたって、安静下の全TPNおよびTNNの間の反相関の消失に結びついた。このことは、2つの領域間の結合の選択的な操作におり、共活性化がTPNとTNNにわたって汎化することを示している。
【0087】
図3を参照して、本実施の形態では、タスクポジティブネットワークとして、以下のブロードマン領野または、MNI座標(モントリオール神経学研究所標準脳座標)の領域を選択する。
【0088】
1)左一次運動野
2)右一次運動野
3)左補足運動野
4)右補足運動野
5)左頭頂間溝
6)右頭頂間溝
7)左前頭眼野
8)右前頭眼野
9)左側頭葉内側部
10)右側頭葉内側部
また、タスクネガティブ(デフォルトモード)ネットワークとしては、以下のMNI座標の領域を選択する。
【0089】
11)左頭頂葉
12)右頭頂葉
13)後帯状皮質
14)内側前頭前野
さらに、対照領域として、視覚および聴覚のネットワークである、以下の領域を選択する。
【0090】
15)左一次視覚野
16)右一次視覚野
17)左聴覚野
18)右聴覚野
ただし、採用する脳の領野は、このような領域に限定されるものではない。
【0091】
たとえば、対象とする神経・精神疾患に応じて、選択する領域を変更してもよい。
【0092】
図4は、
図3に示すような関心領域について、安静時の機能結合の相関を示す相関行列を抽出する手続きを示す概念図である。
【0093】
図4に示すように、リアルタイムで測定した安静時のfMRIのn個(n:自然数)の時刻分のfMRIデータから、各関心領域の平均的な「活動度」を算出し、脳領域間(関心領域間)の活動度の相関値を算出する。
【0094】
ここで、関心領域としては、上述したように18領域を考えているので、相関行列における独立な非対角成分は、対称性を考慮すると、
(18×18−18)/2=153(個)
ということになる。
【0095】
(ニューロフィードバックトレーニング)
以下では、ニューロフィードバックトレーニングのシーケンスについて説明する。
【0096】
以下に説明する例では、33人の被験者が、テスト群あるいは2つの対照群のうちの1つに無作為に割り当てられた。
【0097】
図5は、脳内の関心領域の位置を示す図である。
【0098】
ニューロフィードバックトレーニング群(n=12)の被験者は、2つの関心領域(ROI)間のfMRIのBOLD信号の時間的相関を増加させることを目標としたニューロフィードバックトレーニングを受けた。
【0099】
たとえば、BOLD信号は、エコープレナー撮像法(EPI:Echo Planar Imaging)シーケンスを使用して測定される。全脳は33のスライス(3.5のmm厚; ギャップはない)でカバーされた、ボクセルサイズは3mm×3mm×3.5mmであった、また、視野は、192mm×192mmであった、T1構造画像は、実験の1日目に1×1×1mmの分解能で得られた。T2構造画像は、1×1×3.5mmの分解能で、トレーニングの毎日、撮像された。
【0100】
ここで、
図5に示すように、2つの関心領域とは、左一次運動野lM1および左頭頂外側部lLPである。
【0101】
より詳しくは、ニューロフィードバックトレーニング用のROIの定義としては、lM1−ROIは、ブロードマン領野の4野に相当し、lLP−ROIは、脳ネットワークおよびrs-fcMRIに関する従来の研究にしたがって、半径7.5mmで中心が、モントリオール神経学研究所標準脳座標(x、y、z)=(-45、-67、36)の球体であった。
【0102】
毎トレーニング日の実験の初めに、この目的のために機能画像のいくつかのボリューム画像を撮影し、その後のトレーニング・ブロックのスコアの計算のためのROIとして、特定されたボクセルが使用された。
【0103】
図6は、トレーニングのシーケンスを示す図である。
【0104】
図6に示すように、被験者は、それぞれ4日間トレーニングを受けた。
【0105】
毎日、被験者は、後に説明するような1〜6つのブロックのトレーニングを経験した(5−40分; 平均では1日当たり5.0のブロック)、各ブロックは、10の試行から成る。
【0106】
図7は、試行のフローを示す図である。
【0107】
(ニューロフィードバックを実行するグループ)
ニューロフィードバックトレーニング群の被験者について、1つの試行は、安静状態期間(14s)、想像タスク期間(14s)およびフィードバック期間(8s)の3つの期間からなる(
図7(a))。
【0108】
BOLD信号間の時間的相関は、運動想像タスクの期間において、ターゲットとなるROI内で平均され、フィードバック周期にスクリーン上の数字のスコアとして提示された(
図7(a))。スコアは、1日目の最初のブロック中の相関から、その時点の相関の増分を示した。
【0109】
被験者は、運動想像タスクのパフォーマンスを反映するスコアを増加させることを目的として、運動想像タスク期間において、指で親指をランダムにできるだけ速く軽く打つことを想像するように指示された。
【0110】
(リアルタイムのfMRIおよびフィードバックスコアの計算)
フィードバックスコアの計算は、
図2に示したようなMRIシステムのデータ・ファイルにアクセスできるコンピューター上で実行された。
【0111】
機能画像(EPI画像)のボリューム画像について、たとえば、7ボリューム画像が各試行での運動想像期間に得られた。しかし、最初の所定数のボリューム画像は、血流変化の時間遅れを考慮に入れるために廃棄された。機能画像は、スライス獲得のシーケンスに対して修正するために一時的に再編成され、次に、6つのパラメーターの剛体変換を1試行中で実行して、最初のボリューム画像に空間的に整合された。
【0112】
BOLD信号の時間経過は、これらのボリューム画像中でlM1−ROIおよびlLP−ROIから抽出された。BOLD信号中のアーチファクト除去のために、ハイパス時間フィルタ(カットオフ周波数0.06Hz)が、その時間経過の信号に適用された。
【0113】
フィルタリングされた時間経過の信号を使用して、i番目の試行の運動想像タスク期間のフィードバックスコアが、以下の式により計算された。
【0114】
【数1】
ここで、Correlatuion
iは、時間経過の相関をROI内で平均したものを表す。
【0115】
Correlatuion
Initialは、トレーニング1日目の最初のブロック中の試行に関して平均された相関である。
【0116】
したがって、スコアは、最初のトレーニング・ブロック中の値と比較して、各試行で相関値の増加を表わす。ここで、スコアの値を、−100と+100との間に維持するために、分母に1が加えられている。
【0117】
なお、実際は、このスコアは、次の理由で、運動想像タスクのパフォーマンス自体には、全く関係がなかった。
【0118】
すなわち、学習の誘導のための代表的な2つの方法が、従来のニューロフィードバック研究の中で使用されてきた。
【0119】
1つは、ターゲット脳領域の活動の増加/減少のために、被験者にタスク戦略について明瞭な口頭の指示を与えることである。
【0120】
もう一つは、オペラント条件付けタイプの学習であって、戦略についての指示のない試行錯誤の探索の間に、報酬によって期待応答が強化されるものである(強化学習)。
【0121】
ここで、少なくとも、TPNおよびTNNの間の相関を増加させることに効率的であると知られていたタスク戦略がないので、後者の方法を我々の実験の中で使用することとした。
【0122】
もっとも、タスクの指示が全く与えられない場合、学習の間の認識の状態が被験者間で大いに異なることが予想されるので、被験者にわたってデータを分析することは困難になる。したがって、M1−ROIのBOLD信号の顕著な変化を引き起こすとともに、被験者の認識の状態に制限を置くために、被験者に運動想像タスクが課された。
【0123】
また、運動想像タスクが被験者に与えられる別の理由はニューロフィードバックの間に、相関係数の信頼できる評価をもたらすことである。
【0124】
3000を超える実験のメタ分析は、lM1とlLPとが運動想像タスクを含む既知のタスクの下で共活性化しないことを示した。一方、実験後の被験者からの報告によれば、ほとんどの被験者が運動想像タスクを達成することが示された。
【0125】
標準的な統計パラメーターマッピング(SPM)解析は、特に左補足運動野(SMA)および運動前野(PM)内の運動関連領域の活動を明らかにし、このような被験者の報告を支持した。一方で、被験者は、ROIについての知識、あるいはスコアが計算された方法に知識は持っていない。
【0126】
このような条件の下で、被験者は、毎日、それらの総得点に比例した追加的な金銭的報酬を受け取った。
【0127】
(対照群)
2つの対照群中の被験者は同様の手続きを使って、しかしニューロフィードバック情報(
図7(b)(c))なしで訓練された。
【0128】
偽フィードバックのグループ(n=12)の被験者は、スコアと報酬を受け取った。しかし、スコアの時系列はニューロフィードバックトレーニング群から無作為に選ばれた別の被験者から得られた。
【0129】
トレーニングが進むととともに、後に説明されるように、ニューロフィードバックトレーニング群のスコアは増加した。
【0130】
したがって、偽フィードバック対照群は、スコア/報酬における偽の増加(それは自分の脳の中の2つのROIの間の実際の相関を正確に反映しない)が、ROIの間の相関の増加を引き起こすのかを調べるために使用された。
【0131】
偽フィードバックのグループが結合の変化を示さない場合、もっぱら運動想像およびゆっくり増加するスコア/報酬の組合せのみによって、結合の変化を説明するような機構は、除外されることになる。
【0132】
すなわち、結合の変化が起こるためには、ニューロフィードバック信号は、正確に実時間のその被験者の2つのターゲットとなる領域間の結合を反映するものでなければならいことになる。
【0133】
軽く打つ動作(タッピング運動)を想像する対照群(n=9)は、フィードバック・スコアのない想像タスクを行なうように指示された。この対照群では、単なる指を軽く打つ想像の反復がROIの間の相関を増加させるのかを調べることになる。
【0134】
再び、
図6を参照して、すべての被験者については、トレーニングの前(事前安静時)、トレーニングの直後(事後安静時)およびトレーニングの2ヶ月以上後(2か月後の安静時)に、rs-fcMRIを測定し、内因性の機能的な結合に対するトレーニングの影響が調べられた。
【0135】
被験者は、スクリーン上の注視点を見つめて、かつ測定の間に動かないように指示された。被験者は、また、ニューロフィードバックトレーニングの間に行ったことを、思い出したりリハーサルをしないように指示された。0.06Hzの高域フィルタがニューロフィードバックトレーニングでの信号に適用される一方、rs-fcMRIの主な周波数が0.05Hz未満だったので、rs-fcMRIは、フィードバック・スコアに依存しない結合インデックスを提供する。
【0136】
上述した3つの「安静時」の測定中の再調整パラメーターによって評価された頭部の動きは、大きな差が見られなかった。
(トレーニングの間のスコアおよびBOLD信号の変化)
図8は、フィードバック・スコアの変化を示す図である。
図8では、フィードバック・スコアの変化は、訓練の日数の関数として、トレーニングブロックおよび被験者にわたって平均化された相関の増加を表す。
【0137】
比較のために、このスコアは対照群には提示されなかったものの、2つの対照群に対する個々のBOLD信号からスコアが計算された。
【0138】
トレーニング期間に対して被験者について別々に平均されたスコアに、一方向の分散分析(ANOVA)を適用し、グループの有意な影響を見いだした(F(2,9)=13.8、P=0.0018)。
【0139】
事後のt検定は、ニューロフィードバックトレーニング群のスコアが、偽フィードバックのグループ(3つの比較のためのボンフェローニの補正の後、t(9)=3.64、P=0.0006;P<0.002)あるいはタッピング運動想像タスクのグループ(補正の後、t(9)=5.10、P=0.0054;P<0.02)より有意に高いことを示した。
【0140】
さらに、ニューロフィードバックトレーニング群に対しては、1標本t検定により、グループ中の被験者にわたって平均した第4日のスコアが、0以下(片側検定)であるという帰無仮説が棄却される(3つの比較のための補正の後、t(11)=2.54、P=0.013; P< 0.05)。しかし、このような帰無仮説の棄却は、偽フィードバックのグループ(t(11)=0.47、P=0.23(重要でない): n.s.)あるいは軽く打つ運動想像のグループ(t(8)=1.16、P=0.14、n.s.)に対しては該当しなかった。
【0141】
ここで、スコアが第1日の最初のブロックと比較した場合の相関の増加を表わすので、これらの結果は、最後の日と同様に、ニューロフィードバックトレーニング群だけが、複数の日にまたがる訓練効果をもたらしたことを示す。
【0142】
以後は、ニューロフィードバックトレーニング群に詳しい解析について述べる。
【0143】
図9は、ニューロフィードバックトレーニング群における、安静中および運動想像トレーニングの期間のBOLD信号の時間経過を示す図である。
図9では、ニューロフィードバックトレーニング群の代表的な被験者の各ROI(lM1またはlLP)内で平均した、安静中および運動想像トレーニングの期間のBOLD信号時間経過を示す。
【0144】
時間的経過は、第1日の最初のトレーニング・ブロックおよび第4日の最後のブロックの10の試行にわたって平均された。
【0145】
図9に示されるように、トレーニングの初めにおいては、2つの時間的経過は、ネガティブに相関していた(運動想像期間中で、r=−0.31)。すなわち、lLPの活動の時間的経過は、運動想像タスクの間に減少する一方、lM1の活動の時間的経過は増加した。
【0146】
lLPがTNN内にあるという知見から予想されるように、lLPの活動は安静時に増加し、想像タスク期間に減少した。
【0147】
ところで、この相関は、トレーニングの最終段階において着実に正方向に変化した(この被験者では、r=0.62 、すべての被験者をわたる場合は、r=0.53±0.35[平均±標準偏差])。
【0148】
すなわち、lM1の活動は、最終段階の運動想像期間に減少した。一方で、SPM解析は、SMAおよびPMの中の一貫した活動があることを示しており、それは、被験者が運動想像タスクを継続したことを示唆している。
(安静時の機能的な結合の変化)
次に、トレーニング期間中に観測された変化が、rs-fcMRIに影響するかどうか調べた。
【0149】
図3に示したように、大脳皮質中の18個のROIが定義されている。
【0150】
ここで、18個というのは、脳の機能的なネットワークの表現であり、またリアルタイムの機能的な結合フィードバックが機能的なネットワークを、直ちに、あるいは2か月の間、変化させることができるという原理を証明するために選ばれた。
【0151】
なお、後に説明するように、より多くのROIについても、本質的に、同じ結果が得られた。
【0152】
図3で説明したとおり、10個のROIがTPNから選ばれ、4個のROIがTNNから選ばれた。
【0153】
これらの14個のROIは、ニューロフィードバックによって共活性化が引き起こされたlM1−ROIおよびlLP−ROIを含んでいた。TPNとTNN以外の対照領域として、左右の視覚および聴覚野において、4つのROIが定義される。
【0154】
各ROI内で平均されたBOLD信号の時間経過間の時間的相関は、前処理の後に計算された。
【0155】
図10は、ニューロフィードバックトレーニング群中の代表的な被験者から計算された、フィッシャー(Fisher)のz変換された相関行列を示す図である。
【0156】
セルの濃淡(実際は、色分けされている)は、各組の領域のz変換された相関値の大きさを示す。
【0157】
トレーニングの前(事前安静時; 左下側の三角形領域)においては、負の値が、TPNおよびTNN(太い長方形)の間の多くの領域ペアで見つかり、逆相関であることを示した。
【0158】
しかしながら、これらの値は、トレーニング直後に増加した(事後安静時; 右上側の三角形領域)。
【0159】
図11は、トレーニング後のROI(lM1とlLP)の間のz変換された相関を示す図である。
図11は、ニューロフィードバックトレーニング群中の被験者にわたって平均されたトレーニング後のROIの間のz変換された相関を示し、3つの安静時活動測定を別々に示す。
【0160】
図11(a)に示すように、相関値は、1標本t検定(t(11)=-6.52、P=0.00004;P<0.0001、3つの比較のための補正の後)によれば、事前安静時の時期には、有意に0を下回っていた。しかし、事後安静時中(t(11)=-1.86、P=0.09、n.s.)、または、2か月後の安静時(t(11)=-1.10、P=0.29、n.s.)には、逆相関は、有意には観察されなかった。
【0161】
また、
図11(b)に示すように、同様の結果は、TPNおよびTNNの間の領域ペアおよび被験者にわたって平均された相関でも観察された。
【0162】
すなわち、有意な逆相関は、事前安静時(t(11)=-8.79、P=3 x 10-6;P<10-5、3つの比較のための補正の後)には特定されたものの、事後安静時(t(11)=-1.63、P=0.13、n.s.)や2か月後の安静時(t(11)=-1.35、P=0.23、n.s.)では、有意には観測されなかった。
【0163】
これらの結果は、負の値から0に近い値あるいは正の値のいずれかに相関が変化したことを示す。
【0164】
ここで、t検定は、以下のような帰無仮説を棄却した。すなわち、その帰無仮説とは、トレーニング後(事後安静時あるいは2か月後の安静時)のTPNおよびTNNの間の相関は、事後安静時(片側のtテスト:t(11)=-2.23、P=0.02;P<0.05、2つの比較のための補正の後)および2か月後の安静時(片側t検定:t(11)=-2.34、P=0.02;P<0.05、2つの比較のためのボンフェローニの補正の後)におけるトレーニング前(事前安静時)の相関より高くはなかったというものである。
【0165】
以上の結果は、ニューロフィードバックトレーニングがrs-fcMRIの中のTPN−TNN相関を有意に増加させたことを示す。
【0166】
事後安静時におけるlM1とlLP(-0.10±0.17)との間の相関、およびTPNとTNN(-0.05±0.11)との間の相関は、時間的には近接しているものの、最後のトレーニング・ブロック(0.53±0.35および0.35±0.18)中の対応する相関よりはるかに小さかった。
【0167】
これは、ニューロフィードバックトレーニング、および安静時での相関が、機能的な結合の異なった独立したインデックスであることを明らかに示している。
【0168】
図12および
図13は、ネットワーク相関の解析のためのブートストラッピング法の結果を示す図である。
【0169】
以下では、安静時fMRIに関するブートストラッピング法の使用することで、トレーニングの影響、および安静時のネットワークの他の組合せに対するその影響を分析する。
【0170】
まず、事前安静時のz変換された相関値が、各領域ペアについて、事後安静時のz変換された相関値から減算される。
【0171】
図12および
図13のグレー諧調で表示されるセルの諧調の濃さは、グループごとに独立して被験者にわたって平均した、減算された値の大きさを示す。
【0172】
相関が有意に増加した組の領域を示すために、その値が、すべての領域ペアおよび被験者群にわたる平均値および標準偏差(平均値+SD: -0.02+0.09の=0.07)の合計より高い場合、
図12および
図13の中のセル(領域ペア)は、白色よりも濃い諧調で示される。
【0173】
相関行列がネットワークの組合せ(TPN−TPN、TPN−TNN、TNN−TNN、TPN−対照、TNN−対照および対照−対照の組わせ;
図12または
図13中では、黒または灰色の輪郭線で示される)のタイプにより、6つのエリアへ分割して考えたときに、相関行列中のネットワーク・ペアのいずれが、(ランダム過程によって生成された数と比較して)より、有意に多くの(白色ではない)グレー以上の諧調のセル(グレー諧調セルと呼ぶ)となるのかを調べた。
【0174】
周知のブートストラップ・サンプリング・アプローチは、各ネットワーク・ペア中のセル(領域ペア)の総数を考慮に入れて、それらがランダム過程によって生成された場合に、グレー諧調セルの数の可能性を評価するためのものである。
【0175】
図12に示すように、ブートストラップ・サンプリング・アプローチによる解析は、ニューロフィードバック・トレーニング群中のTPNおよびTNNのネットワーク・ペアだけが、かなりの数のグレー諧調セルを示すことを明らかにした(P=0.0003;P<0.01、6つのネットワーク・ペアおよび3つの実験群にわたるボンフェローニ法によって修正)。
【0176】
この知見は、ニューロフィードバックトレーニングが、TPNとTNNの間だけについての、しかも、ニューロフィードバック・トレーニング群に対してのみ内因的な活動の相関を有意に増加させたことを示唆する。
【0177】
さらに、
図13に示すように、
図12とよく類似したパターンは、2か月後の安静時中の相関から事前安静時の相関を減算した相関行列の中にも見いだされた。これは、トレーニング効果が、2か月の間、安定して維持されたことを示唆した。
【0178】
相関値の増加は、ニューロフィードバックに使用された領域ペア(lM1−lLP)に制限されたものではなく、TPNとTNNの間のニューロフィードバックの対象となった以外の領域ペアで見いだされている。
【0179】
追加的に、より広範囲なネットワーク解析において、大脳皮質中の広い領域をカバーするために、ROIの数を18から35まで増大させたところ、同様の結果が見出された。
【0180】
対照群に関して、ネットワーク・タイプの任意の組合せに対する相関の有意な増加は、事後安静時あるいは2か月後の安静時のいずれでも見いだされなかった。したがって、ネットワーク間の相関の有意な増加は、ニューロフィードバック・トレーニング群でのみ見つかったことになる。
【0181】
さらに、ネットワーク・タイプの任意の組合せの相関における有意な減少があったかどうかテストするために、同じブートストラップ・アプローチが使用された。
【0182】
いずれの組合せも、事前安静時(「平均−標準偏差」が、0.09-0.02=-0.11未満)から事後安静時あるいは2か月後の安静時までの間に、相関値が著しく減少した領域ペアは、存在しなかった。ROIの数が18から35に増加された時も、同様の結果が得られた。
【0183】
相関値に著しい増加は存在するものの減少が存在しないことは、即時または長期的な増加は、rs-fcMRIの毎日の変動によるものではなく、結合-ニューロフィードバックトレーニングの効果であったことを示している。
【0184】
以上の結果を総合すると、以下のようにまとめられる。
【0185】
繰り返された経験によって喚起された2つの領域の共活性化が、内因性のネットワーク内のそれらの結合の長期的な増加を引き起こすとの仮定の下に実験が実行された。
【0186】
直接この仮説について考察するために、結合-ニューロフィードバックトレーニングにより、2つの特定領域間の共活性化が呼び起こされた。この共活性化により、特定のネットワークおよびTPNおよびTNNの間の結合が変化を起こした。
【0187】
トレーニングは、安静下の2つのネットワーク間の逆相関の消失に結びつき、この変更は2か月以上の間、維持された。一方で、偽フィードバックのグループに、トレーニング中あるいはrs-fcMRI中において、スコアに有意な変化はなかった。
【0188】
これは、スコア/報酬における偽の増加は、それは被験者自身の脳の2つのROIの間の実際の相関を反映しておらず、運動の想像とは結合したとしても、ROI間の相関の増加あるいは内因性のネットワークの変化を引き起こすことができないことを示す。
【0189】
また、指を軽く打つ動作を想像したグループでは格別な変化が見られなかったので、指を軽く打つ動作の想像の反復によっては、ROIまたはネットワークの間の相関を変更することができないことも示された。
(ニューロフィードバックトレーニング中の機能的な結合の変化)
なお、ニューロフィードバックトレーニングは、2つの特定領域間の共活性化を引き起こすものの、これらの2つの領域は、さらに多くの他の領域との間の結合関係も有している。
【0190】
したがって、多くの領域が同時に活性化された可能性もある。また、様々な領域中の相関は、トレーニング中に同時に増加した可能性もある。
【0191】
この可能性を検討するために、ニューロフィードバック時のスコアの算出に使用した領域lM1とlLP以外の領域で、トレーニング中の相関活動の変化を調べた。
【0192】
図6の手続きに従って、第1日から第4日までの運動想像期間において、他の領域についても相関のパターンの変化が調べられた。
【0193】
ブートストラップ・サンプリング法は、TPNとTNNのネットワーク・ペアだけが、相当数のグレー諧調セル(P=0.005;P<0.05、6つのネットワーク・ペアをわたってボンフェローニ法によって修正)を含むことを明らかにし、相関の著しい増加が、ニューロフィードバックトレーニング中に、相関が操作されたネットワーク・ペアに制限されたことを示した。
【0194】
さらに、最も顕著な増加が、運動野(M1とSMA)とTNNの間の領域ペアで見つかった。機能的な結合において大きな増加は、対照群(示されない図)のいずれにおいても、どのネットワークの組合せに対しても見いだされなかった。
【0195】
したがって、トレーニング中における結合についての実験上の操作の影響は、ニューロフィードバックトレーニング群でのみ見いだされ、この影響は、TPNとTNNの間の相関に限定され、運動野とTNNの間の相関に制限された。
(脳の状態および領野にわたる結合増加の汎化)
rs-fcMRIの解析は、結合−ニューロフィードバックトレーニングの効果において2種類の汎化を明らかにした。
【0196】
第1に、スコアを使用して、トレーニングは運動想像タスクの間に行なわれたが、その効果は、安静時中の相関に汎化された。これは、トレーニングが、共通の構造/解剖学上の結合を変更し、独立したインデックスによって検査されるタスク関連の活性化および安静時活性化の両方のパターンに影響したことを示す。
【0197】
第2に、トレーニング中の特定領域間の増加した相関は、安静中の内因性のネットワーク内の他の領域へ、空間的に汎化された。
【0198】
ここで、2つの領域間の結合が、ニューロフィードバックトレーニングの間に、「ヘッブ則のように」強くなるだろうと仮定した。ただし、ヘッブ則は、2つのニューロン間の直接の結合がどのように強くなるかを説明する。しかしながら、rs-fcMRIは個々のニューロン間の結合を調べる目的で使用できるものではない。
【0199】
rs-fcMRIの中で観測される結合は、(本来のヘッブ則のように)直接の単シナプスの結合に制約されるものでなく、多重シナプス結合およびそれらの間に介入する多数の脳領域を含むものである。したがって、上記のような仮説に基づいて得られた実験結果は、ニューロンに対するヘッブ則を、はるかにより一般的な、2つの脳領域間の機能的な結合の「ヘッブ則に類似の規則」まで拡張したことになる。
【0200】
本実施の形態で説明したように、4日間だけの間の結合-ニューロフィードバックトレーニングが、TPNとTNNの間の持続性の逆相関を変更できることを実証した。
【0201】
以上の説明のとおり、本実施の形態の結合ニューロフィードバックトレーニング法を用いれば、リアルタイムfMRIにより計測される脳領野間の結合の相関をフィードバック情報に利用して、脳領野間の結合の相関を訓練により変化させることが可能である。
【0202】
なお、以上の説明では、脳機能画像法により脳活動を時系列に計測するための脳活動検出装置としては、リアルタイムfMRIを用いるものとして説明した。ただし、脳活動検出装置として、上述したfMRI、脳磁計、近赤外光計測装置(NIRS)、脳波計、またはこれらの組み合わせを使用することができる。たとえば、これらの組合せを用いる場合、fMRIとNIRSとは、脳内の血流変化に関連する信号を検出するものであり、高空間分解能である。一方で、脳磁計や脳波計は、脳活動に伴う電磁場の変化を検出するための高時間分解能であるという特徴をもつ。したがって、たとえば、fMRIと脳磁計とを組み合わせれば、空間的にも時間的にも高分解能で脳活動を計測することができる。あるいは、NIRSと脳波計とを組み合わせても、同様に空間的にも時間的にも高分解能で脳活動を計測するシステムを小型で携帯可能な大きさで構成することも可能である。
【0203】
以上のような構成により、脳機能画像法により計測される脳領野間の結合の相関をフィードバック情報に利用して、脳領野間の結合の相関を変化させる脳活動訓練装置を実現することが可能となる。
【0204】
また、以上の説明では、TPNとTNNにそれぞれ存在する特定の2つの領野間の相関の大きさを結合−ニューロフィードバック法により変更することについて説明した。したがって、この場合、スコア(報酬値)は、相関値が増加するほど大きくなるように算出された。すなわち、この場合は、相関関係の目標状態とは、上記特定の2つの領野間の相関値がより大きな状態ということになる。しかしながら、本発明は、以上説明したような例には必ずしも限定されない。
【0205】
たとえば、上述したとおり、内因性のネットワーク中の乱れは、多くの神経学的・精神医学の疾病に対して報告されてきている。これらの病理学上の脳活動ネットワークの結合の乱れは、個々の患者の中の認知機能障害の重症度と関係があったという報告がある。たとえば、強迫神経症に対する脳深部刺激は、不安症に対する従来の実時間fMRIニューロフィードバックと同様に、機能的なネットワーク中の結合を制御することが見いだされ、結合の変化は、診断上の改善と関連していたことが報告されている。したがって、本実施の形態の結合ニューロフィードバック法は、精神および神経疾患によって乱された内因性のネットワークの相関関係の構成を制御するために使用できる可能性がある。
【0206】
すなわち、神経学的・精神医学の疾病状態にある被検者に対して、複数の健常者における領野間の相関の状態から算出される相関状態(たとえば、複数の健常者における平均の状態)を目標状態として、結合−ニューロフィードバックトレーニングを行うことにより、精神および神経疾患によって乱された内因性のネットワークの相関関係の構成を、健常者の状態に近づけることが可能である。
【0207】
また、脳活動訓練装置により変更する対象となる領野間の結合状態の変化が、被験者にとっての健康増進に役立つかを客観的に事前に評価しておき、これを利用して、このような健康増進のための脳活動訓練装置を実現することができる。このような客観的な事前の評価としては、たとえば、健康な状態であると診断された複数の被験者における領野間の相関の状態から算出される相関状態(たとえば、複数の被験者における平均の状態)を目標状態とすることが考えられる。また、実際には、疾患に至っていない状態(「未病」)であっても、脳活動訓練装置の目標とする脳活動の結合状態の特定のパターンが、被験者がより健康な状態となるために役立つかを客観的に事前に評価しておき、これを利用して、健康状態に近づけるための脳活動訓練装置を実現することができる。
【0208】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。