特許第6492387号(P6492387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6492387
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】GM計算システム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 39/12 20060101AFI20190325BHJP
   B63B 39/14 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   B63B39/12
   B63B39/14
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-158228(P2018-158228)
(22)【出願日】2018年8月27日
【審査請求日】2018年8月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505240352
【氏名又は名称】株式会社救命
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209129
【弁理士】
【氏名又は名称】山城 正機
(72)【発明者】
【氏名】下澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】堀川 恭伯
(72)【発明者】
【氏名】津金 正典
【審査官】 福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−328094(JP,A)
【文献】 特開平11−115884(JP,A)
【文献】 特開2018−103951(JP,A)
【文献】 特開2001−030984(JP,A)
【文献】 特開2002−145170(JP,A)
【文献】 特開2006−168693(JP,A)
【文献】 特開平10−029592(JP,A)
【文献】 特開2007−333530(JP,A)
【文献】 特開平10−059279(JP,A)
【文献】 鍋倉 武遠,高精度水晶吃水計の開発 ほぼ真値の出力,TECNO MARINE 日本造船学会誌,日本,日本造船学会,2000年 7月,第853号,第451頁左欄第33行-第453頁右欄第16行,図1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 39/12 − 39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体のGM値を算出するGM計算システムであって、
船体に設けられた吃水計を使用して船体状態量を時系列に検知する船体状態量検知手段と、
前記船体状態量検知手段によって時系列に検知された船体状態量に基づいて、船体の横揺れ周期を連続的に検知する横揺れ周期検知手段と、
前記横揺れ周期検知手段によって検知された所定期間における横揺れ周期に基づいて、当該所定期間における船体の代表横揺れ周期を同定する代表横揺れ周期同定手段と、
前記代表横揺れ周期同定手段によって同定された代表横揺れ周期に基づいて船体のGM値を算出するGM算出手段とを備え、
前記吃水計が船体の左右舷に設けられており、
前記横揺れ周期検知手段は、左右舷に設けられた前記吃水計によって検知された船体状態量の時系列データを表す波形から、当該船体状態量が極大値及び極小値を取るピークを検出し、ピーク間の時間から船体の横揺れ周期を検知する、GM計算システム。
【請求項2】
前記吃水計として水晶式吃水計を用いる、請求項1に記載のGM計算システム。
【請求項3】
前記水晶式吃水計において、水晶振動子の発信周波数を船体状態量として時系列に検知する、請求項2に記載のGM計算システム。
【請求項4】
船体のGM値を算出するGM計算システムに、
船体に設けられた吃水計を使用して船体状態量を時系列に検知するステップと、
前記時系列に検知された船体状態量に基づいて、船体の横揺れ周期を連続的に検知するステップと、
前記検知された所定期間における横揺れ周期に基づいて、当該所定期間における船体の代表横揺れ周期を同定するステップと、
前記同定された代表横揺れ周期に基づいて船体のGM値を算出するステップと、を実行させるものであり、
前記吃水計が船体の左右舷に設けられており、
前記横揺れ周期を連続的に検知するステップは、左右舷に設けられた前記吃水計によって検知された船体状態量の時系列データを表す波形から、当該船体状態量が極大値及び極小値を取るピークを検出し、ピーク間の時間から船体の横揺れ周期を検知する、ためのプログラム。
【請求項5】
船体に設けられた吃水計であって、
前記吃水計を使用して船体状態量を時系列に検知する船体状態量検知手段と、
前記船体状態量検知手段によって時系列に検知された船体状態量に基づいて、船体の横揺れ周期を連続的に検知する横揺れ周期検知手段と、
前記横揺れ周期検知手段によって検知された所定期間における横揺れ周期に基づいて、当該所定期間における船体の代表横揺れ周期を同定する代表横揺れ周期同定手段と、
前記代表横揺れ周期同定手段によって同定された代表横揺れ周期に基づいて船体のGM値を算出するGM算出手段とを備え、
前記吃水計が船体の左右舷に設けられており、
前記横揺れ周期検知手段は、左右舷に設けられた前記吃水計によって検知された船体状態量の時系列データを表す波形から、当該船体状態量が極大値及び極小値を取るピークを検出し、ピーク間の時間から船体の横揺れ周期を検知する、GM計算システムに使用される吃水計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GM計算システム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
海運分野(船舶運航)において、不規則に変動する波浪上を航行する船舶では、安全対策上の観点から、船体の加速度や変位等の船体の運動に係るデータである船体運動データ、及び、船体の喫水やGM等の船体の状態に係るデータである船体状態データを精度よく把握することが重要事項となる。
【0003】
特に船体のGMをリアルタイムかつ正確に把握することは、船体を転覆から守る観点において最重要の課題である。船体のGMとは、船体が横に傾斜したとき、浮力の中心を作用店とする浮力の方向と船の横断面において重心を通る垂直方向の線が交わる点であるメタセンタMと、船体の重心Gとの距離として定義され、船体の傾き等によって時々刻々と変位する値である。万が一、GMを誤って推定してしまうと、安全に航行できないばかりか、最悪の場合、転覆させてしまう危険も伴う。
【0004】
一方、GMに影響を与えるのは横からの波だけではなく、様々な方向から来る波の合成波を考慮する必要がある。そのため、従来においては、GMを正確に把握または予測するためには、船体に対して波浪が入射する方向を把握し、入射角度を人の手で入力する必要があった。しかしながら、船体が大きな波浪にあおられて転覆するかどうかという状況下において、波浪が入射する角度を人の手によって入力するというのは現実的ではない。
【0005】
そこで、近年においては、近似式やモデルを用いてGMを推定することが行われている。(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】再公表特許第2015−178410号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された発明によると、GPSコンパスやジャイロセンサで計測された横揺れ角の時系列データを元に、2階の線形確率力学モデルや一般状態空間モデルを用いてGMを計算している。このような技術によると、GPSコンパスやジャイロセンサという別途のセンサが必要になり、かつ、正確な横揺れ角を検知することが困難である。しかも、複数のモデル使用した推定方法であり、データ処理が複雑になるとともに、GMを精度よく推定することができない。そのため、実際のGMの値を見誤り、最悪の場合、安全性に支障をきたすことも有り得る。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、別途のセンサを設置する必要なく、既設のセンサの計測データを利用して、複雑なデータ処理を必要とせずにGMを精度よくリアルタイムに計算するためのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
【0010】
第1の特徴に係る発明は、船体に設けられた喫水計を使用して船体状態量を時系列に検知する船体状態量検知手段と、前記船体状態量検知手段によって時系列に検知された船体状態量に基づいて、船体の横揺れ周期を連続的に検知する横揺れ周期検知手段と、前記横揺れ周期検知手段によって検知された所定期間における横揺れ周期に基づいて、当該所定期間における船体の代表横揺れ周期を同定する代表横揺れ周期同定手段と、前記代表横揺れ周期同定手段によって同定された代表横揺れ周期に基づいて船体のGM値を算出するGM算出手段と、を備えるGM計算システムを提供する。
【0011】
第1の特徴に係る発明によれば、船体に設けられている喫水計を利用してGM値を算出できるため、別途のセンサを追設する必要がなく、しかも、複雑なデータ処理をせずともリアルタイムに高精度のGM値を算出することが可能なシステムを提供できる。
【0012】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記喫水計が船体の左右舷に設けられており、当該左右舷の喫水計によって時系列に検知された船体左右の船体状態量から船体の横揺れ周期を検知する。
【0013】
第2の特徴に係る発明によれば、船体の左右舷に設置された喫水計を使用して船体の横揺れ周期を検知するため、船体に対する波浪の入射角を把握する必要がなく、船員が波浪の入射角を入力せずとも正確なGM値を算出することが可能なシステムを提供できる。
【0014】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記喫水計として水晶式喫水計を用いる。
【0015】
第3の特徴に係る発明によれば、船体状態量を検知する喫水計として水晶式喫水計を使用しているため、他の形式の喫水計とは異なり、デジタル計測が可能であり、A/D変換に伴う変換誤差が発生せず、より精度の高いGM値の算出が可能なシステムを提供できる。
【0016】
第4の特徴に係る発明は、第3の特徴に係る発明であって、前記水晶式喫水計において、水晶振動子の発信周波数を船体状態量として時系列に検知する。
【0017】
第4の特徴に係る発明によれば、検知する船体状態量として、水晶式喫水計における水晶振動子の発信周波数を採用しているため、発信周波数の変動を横揺れ周期として直接的かつ連続的に計測することができる。そのため、わざわざ具体的な別の物理量に変換する必要がなく、少ないデータ処理で高精度のGM計算システムを構築することが可能となるシステムを提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、別途のセンサを追設する必要なく、既設のセンサの計測データを利用して、複雑なデータ処理を必要とせずに、リアルタイムに精度よくGMを計算するためのシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本実施形態におけるGM計算システム1のハードウェア構成とソフトウェア機能を示すブロック図である。
図2図2は、船体に対する喫水計の配置例を示す図である。
図3図3は、本実施形態におけるGM計算方法を示すフローチャートである。
図4図4は、船体状態量データベース31の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0021】
[GM計算システム1の構成]
図1は、本実施形態におけるGM計算システム1のハードウェア構成とソフトウェア機能を説明するためのブロック図である。
【0022】
GM計算システム1は、データを制御する制御部10と、ユーザや他の機器と通信を行う通信部20と、データを記憶する記憶部30と、ユーザからの情報の入力を受け付ける入力部40と、制御部10で制御したデータや画像を出力する表示部50と、データを計測する計測部60とを備える。
【0023】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備える。
【0024】
通信部20は、他の機器と通信可能にするためのデバイス、例えば、IEEE802.11に準拠したWi−Fi(Wireless Fidelity)対応デバイスを備える。
【0025】
制御部10は、所定のプログラムを読み込み、必要に応じて通信部20及び/又は計測部60と協働することで、船体状態量検知モジュール11と、横揺れ周期検知モジュール12と、代表横揺れ周期同定モジュール13と、GM算出モジュール14とを実現する。
【0026】
記憶部30は、データやファイルを記憶する装置であって、ハードディスクや半導体メモリ、記録媒体、メモリカード等による、データのストレージ部を備える。記憶部30は、後に説明する船体状態量データベース31を記憶する。
【0027】
入力部40の種類は、特に限定されない。入力部40として、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等が挙げられる。
【0028】
表示部50の種類は、特に限定されない。表示部50として、例えば、モニタ、タッチパネル等が挙げられる。
【0029】
計測部60は、本実施形態において、水面から船体の底までの垂直距離として定義される喫水値を計測するために設けられる喫水計D1〜D2によって構成される。図2に示すように、喫水計は、船体船首部の中心付近に設置される喫水計D1、船体中心部付近の左右に一基ずつ設置される喫水計D2、D3、及び、船体船尾部付近に設置される喫水計D4の四基からなる。
【0030】
[喫水計D1〜D4の構成]
本実施形態におけるGM計算システム1を構成する喫水計D1〜D4として、水晶式の喫水計を使用する。以下、水晶式の喫水計の作動原理について説明する。
【0031】
水晶式の喫水計においては、検出素子として水晶振動子が使用される。水晶振動子には、印加される圧力に比例して発信周波数が変化するという性質があるため、水晶式の喫水計においては、その周波数を直接的にカウンターで計測することにより、検出素子に印加されている圧力(水圧)を把握することができ、それにより、検出素子が設置されている位置の水深を検出して喫水値を計算する。
【0032】
水晶振動子を使用した喫水計では、水晶の発信周波数を直接的にカウンターで計測するため、デジタル計測が可能であり、半導体式の喫水計のように圧力をアナログ信号として計測してA/D変換を行う必要がある従来の喫水計とは異なり、変換誤差のない高精度な喫水の検出が可能となる。
【0033】
すなわち、仮に、半導体式等、他の形式の喫水計を使用した場合には、喫水計を設置した位置における圧力がアナログ計測される。そして、時系列で計測される圧力に対して、フーリエ解析などのデータ処理を行う場合、計測される圧力値をアナログ信号からデジタル信号へと変換(A/D変換)する必要が生じる。その際、アナログ信号をデジタル信号に変換することに伴う誤差が生じることになり、そのため、半導体式の喫水計の計測誤差は、本実施形態における水晶式の喫水計の計測誤差の10倍程度になってしまう。
【0034】
そして、本実施形態においては、水晶式喫水計を使用することにより、水晶振動子の発信周波数をカウンターでデジタル信号として計測することができる。そのため、計測したデータをデジタル変換する必要がなく、A/D変換に伴う変換誤差を無くすことができ、高い精度でGM値を計算することが可能となる。
【0035】
[GM計算システム1を用いたGM計算方法を示すフローチャート]
図3は、GM計算システム1を用いたGM計算方法を示すフローチャートである。また、図4は、船体状態量データベース31の一例を示す図である。図2図4を用いて、上述した各ハードウェアと、ソフトウェアモジュールが実行する処理について説明する。本実施形態においては、ステップS10からステップS50までの制御ロジックを繰り返し実行することによって、船体のGMの値を繰り返し算出する。
【0036】
〔ステップS10:船体状態量の検知〕
最初に、システムが始動すると、GM計算システム1の制御部10は、計測部60と協働して船体状態量検知モジュール11を実行し、船体状態量を時系列に検知する(ステップS10)。ステップS10における船体状態量の検知は、船体に設置された喫水計によって、所定の時間間隔で、所定の期間にわたって行われる。所定の時間間隔とは、例えば1秒間隔又は1/10秒間隔など、適宜設定することができる。
【0037】
本実施形態においては、左右舷に設置された喫水計D2、D3によって、水晶の発信周波数を時系列データとして検知している。
【0038】
〔ステップS20:船体の横揺れ周期の検知〕
次に、GM計算システム1の制御部10は、横揺れ周期検知モジュール12を実行し、左右舷の最大横揺れの時間間隔として定義される、船体の横揺れ周期を連続的に検知する(ステップS20)。
【0039】
本実施形態においては、左右舷に設置された喫水計D2、D3で検知された発信周波数の時系列データに基づいて、船体の横揺れ周期が検知される。検知される発信周波数は水晶振動子に印加される圧力に相当する状態量であるため、発信周波数の時間的な変動は、圧力の時間的な変動を表す。この変動は、すなわち、船体の揺れを表すため、喫水計D2、D3における発信周波数の時系列データを表す波形の周期は、船体の横揺れの周期に相当する。を本実施形態においては、発信周波数の時系列データを表す波形から、発信周波数が極大値及び極小値を取るピークを検出し、ピーク間の時間から横揺れ周期を検出する。
【0040】
なお、本実施形態においては、水晶式喫水計を使用して測定された水晶の発信周波数を使用して船体の横揺れ周期を検知しているが、これに限ったものではなく、横揺れ周期を検知できるものであれば、他の船体状態量を使用したものであっても構わない。例えば、左右舷の喫水値の時間変動から横揺れ周期を検知するものであってもよい。または、傾斜度あるいは横揺れ量の時間変動から横揺れ周期を検知するものであってもよい。
【0041】
また、本実施形態においては、船体状態量の時系列データを表す波形からピークを検出し、ピーク間の時間から横揺れ周期を検知したが、これに限ったものではなく、波形をスペクトル解析して周期を検知するものや、動揺の時系列を表す既存の統計モデルを使用して周期を検知するものであっても構わない。
【0042】
〔ステップS30:船体の横揺れ周期の記憶〕
ステップS20で船体の横揺れ周期が検知されると、検知された横揺れ周期は船体状態量データベース31に記憶される(ステップS30)。横揺れ周期の検知は連続的に行われており、検知された横揺れ周期の値が、図4に示すように、検知された時刻ともに船体状態量データベース31に蓄積される。
【0043】
〔ステップS40:代表横揺れ周期の同定〕
続いて、制御部10は、記憶部30と協働して代表横揺れ周期同定モジュール13を実行し、船体状態量データベース31に記憶されている所定期間の横揺れ周期を抽出し、抽出した横揺れ周期を用いて、当該所定期間における横揺れ周期の代表周期を同定する(ステップS40)。
【0044】
ここで、所定期間とは、例えば、現在時刻から過去20分間といった期間を指し、その場合における所定期間の代表周期とは、その20分間における横揺れ周期の代表値を指す。前述の通り、ステップS30において、横揺れ周期が時刻とともに記憶にされる。そして、現在時刻から所定の時間(ここでは20分)遡った時刻の間に検知された横揺れ周期をすべて抽出し、抽出された横揺れ周期データをフーリエ解析することで、所定期間における横揺れ周期の代表周期を同定する。
【0045】
ステップS40における代表周期の同定は、所定時間おき、たとえば、2秒おきに実施される。
【0046】
〔ステップS50:GM値の算出〕
続いて、制御部10は、GM算出モジュール14を実行し、ステップS40で同定された、船体の横揺れ周期の代表周期を使用して、式(1)を用いてGM値を算出する。算出されたGM値は、表示部50にリアルタイムに表示される。
GM=(0.8B/Tγ’) ・・・・・式(1)
【0047】
ここで、式(1)におけるBは船体の船幅(m)であり、Tγ’は、ステップS40でフーリエ解析により同定された、横揺れ周期の代表周期(秒)である。
【0048】
ステップS50におけるGM値の算出は、例えば2秒おきなど、所定の時間間隔で実行され、算出が実行されるごとに、最新の値が表示部50に表示される。船員は、表示部50に逐一表示されるGM値を確認し、船体に関する各種の制御を実行することで、安全な航行を継続することができる。
【0049】
なお、GM値を算出するにあたって、より厳密に算出したい場合には、新造時の重心検査(傾斜試験)によって得られる環動半径を用いる式(2)を使用することができる。
GM=(2.01K/T) ・・・・・式(2)
【0050】
ここで、式(2)におけるKは、船体の環動半径(m)であり、Tは喫水値により変化する船体の固有周期(秒)である。
【0051】
船体の環動半径K(m)が入手できる場合には、式(2)を採用してGMの値を算出することが可能である。ただし、式(1)を使用した場合であっても、式(2)を採用した場合と同等の精度でGMの値を算出することが可能である。
【0052】
このようにして、船体に設けられた喫水計で検知される船体状態量の時系列データを用い、フーリエ解析によって同定された横揺れ周期の代表周期を使用してGM値を算出することにより、複雑なデータ処理を必要とせずにGM値を精度よくリアルタイムに計算することができる。また、船体状態量を検知するための喫水計は既に船体に設置されているため、GM値を算出するために新たなセンサ類を設置する必要がなく、低コストで高精度のGM計算システムを構築することが可能となる。
【0053】
また、船体の左右舷に設けられた喫水計で検知された船体状態量の時系列データを使用して、左右舷の最大横揺れの時間間隔である横揺れ周期を検知するため、特殊な測定機器や高性能な計算機器を必要とせず、既に備えられている機器を使用して、低コストで高精度のGM計算システムを構築することが可能となる。
【0054】
さらに、船体状態量を検知する喫水計として、水晶式喫水計を使用しているため、他の形式の喫水計とは異なり、船体状態量をデジタル信号として計測することができる。そのため、データ処理の際のA/D変換が不要となり、変換誤差がなく精度の高いGM計算システムを構築することが可能となる。
【0055】
そして、検知する船体状態量として、船体の左右に設けられた水晶式喫水計における水晶振動子の発信周波数を採用しているため、発信周波数の変動を横揺れ周期として直接的かつ連続的に計測することができる。そのため、わざわざ具体的な別の物理量に変換する必要がなく、少ないデータ処理で高精度のGM計算システムを構築することが可能となる。
【0056】
[船体の喫水値の計測]
本実施形態におけるGM計算システム1を構成する喫水計D1〜D4を使用して、船体の喫水値を計測する手法について説明する。
【0057】
GM値の算出にあたっては、喫水計D2、D3で検知した発信周波数を使用したが、喫水値を計測するにあたっては、発信周波数を圧力(水圧)に変換し、そこから検出素子が設置されている位置の水深を算出し、当該水深と、検出素子の設置位置から船底までの距離とを用いて、船体の喫水値を導出する。
【0058】
図2に示す通り、船首部の喫水計D1は船首線からずらした位置に設置されているため、喫水計D1により計測された計測値を船首線位置に変換することで船首喫水値とする。
【0059】
また、船体中心部付近の左右二か所の喫水計D2、D3は、ともに、船体中央線からずらした位置に設置されているため、喫水計D2、D3により計測された計測値を船体中央線に換算することで、船体中央部の左右喫水値とする。
【0060】
そして、船尾部の喫水計D4は船尾線からずらした位置に設置されているため、喫水計D4により計測された計測値を船尾線位置に変換することで船尾喫水値とする。
【0061】
このようにして得られた喫水値に対し、各喫水計D1〜D4に取り付けられた温度計により計測された水温を用いた温度補正、及び、自動演算機能による船体傾斜補正(トリム:前後傾斜、ヒール:横傾斜)を行うことで、補正された喫水値を得ることができる。
【0062】
なお、港湾における海水の比重は、一般海水域、汽水域、淡水域によって異なるため、港湾の海水比重補正は計測値を手動で入力することにより行う。運航状態においては標準海水比重を採用する。
【0063】
以上のようにして船体の喫水値の計測を実施する。
【0064】
[船体船首部の波浪との出会い周期の同定]
本実施形態におけるGM計算システム1を構成する喫水計D1又はD4を使用して、船体船首部の出会い周期を同定する手法について説明する。
【0065】
まず、喫水計D1又はD4を使用して、船首部又は船尾部の縦揺れ周期を計測する。すなわち、GM値を算出した際と同様に、喫水計に備えられた水晶振動子の発信周波数の変動から、船体の揺れを検知することができ、発信周波数の変動の周期から、揺れの周期を検知することができる。
【0066】
そして、船首部又は船尾部に設けられた喫水計D1又はD4における発信周波数の変動から、船首部又は船尾部の最大縦揺れの時間間隔を連続的に検知し、その検知された連続縦揺れ周期データについてフーリエ解析し、その縦揺れ周期の代表周期を同定する。
【0067】
[船体の前後方向のたわみの算出]
本実施形態におけるGM計算システム1を構成する喫水計D1〜D4を使用して、船体の前後方向のたわみを算出する手法について説明する。
【0068】
船体の前後方向のたわみは、船首喫水値と船尾喫水値の平均値と船体中央喫水との差として定義され、船体が前後方向にホギング状態(凸状態)にあるかサギング状態(凹状態)にあるかを端的に示す値である。この値を算出するには、各測定値において、例えば150秒など、所定の期間における喫水値の時間平均を取る。
【0069】
そして、船首喫水値と船尾喫水値の算術平均から、船体中央喫水値の算術平均を減算することにより、たわみの値を算出する。この値は船体強度に深く関係する船体曲げモーメント量や積載貨物重量の大小を左右する重要な指標であり、正確に把握することにより、重大な事故を防止することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述したこれらの実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0071】
1 GM計算システム
10 制御部
11 船体状態量検知モジュール
12 横揺れ周期検知モジュール
13 代表横揺れ周期同定モジュール
14 GM算出モジュール
20 通信部
30 記憶部
31 船体状態量データベース
40 入力部
50 表示部
60 計測部

【要約】
【課題】別途のセンサを追設する必要なく、既設のセンサの計測データを利用して、複雑なデータ処理を必要とせずに、リアルタイムに精度よくGMを計算するためのシステムを提供する。
【解決手段】GM計算システム1において、船体に設けられた喫水計を使用して船体状態量を時系列に検知する船体状態量検知手段と、船体状態量検知手段によって時系列に検知された船体状態量に基づいて、船体の横揺れ周期を連続的に検知する横揺れ周期検知手段と、横揺れ周期検知手段によって検知された所定期間における横揺れ周期に基づいて、当該所定期間における船体の代表横揺れ周期を同定する代表横揺れ周期同定手段と、代表横揺れ周期同定手段によって同定された代表横揺れ周期に基づいて船体のGM値を算出するGM算出手段と、を備える。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4