特許第6492435号(P6492435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6492435-温度調整装置 図000002
  • 特許6492435-温度調整装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492435
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】温度調整装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 5/00 20060101AFI20190325BHJP
   F24F 1/0093 20190101ALI20190325BHJP
   F24F 11/86 20180101ALI20190325BHJP
【FI】
   F24F5/00 101Z
   F24F1/00 346
   F24F11/86
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-146768(P2014-146768)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-23831(P2016-23831A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年5月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張中 久士
(72)【発明者】
【氏名】高林 伸行
(72)【発明者】
【氏名】田中 和男
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3122494(JP,U)
【文献】 特開2012−127624(JP,A)
【文献】 特開2000−146340(JP,A)
【文献】 特開2002−366233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 5/00
F24F 1/0093
F24F 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温室の室温を調整する温度調整装置であって、
容量可変型圧縮機と凝縮器と膨張弁と蒸発器とを含む冷却回路と、
前記蒸発器と加熱手段とを含むとともに、前記恒温室の室温を調整する媒体が流れる温度調整回路とを備え、
前記冷却回路の冷却能力は連続的に変化するように制御され、
前記加熱手段の加熱能力は2段階に制御され、
前記温度調整回路を流れる前記媒体により室温調整され、
前記冷却回路の最大冷却能力は、前記加熱手段の最大加熱能力より大きく、
加熱能力が冷却能力よりも大きい状態から、冷却能力が加熱能力よりも大きくなる状態となる移行時において、前記加熱手段の加熱能力を用いつつ、前記冷却回路の冷却能力により室温調整することを特徴とする温度調整装置。
【請求項2】
前記加熱手段の加熱能力を用いる場合に、前記冷却回路の冷却能力により室温調整することを特徴とする請求項1に記載の温度調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、恒温室の室温を調整する温度調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電子顕微鏡室などの恒温室の室温を一定に調整する空調システムがある。その他、恒温室の室温を調整するときに、一般的な空調機により室温を調整することが考えられる。この場合、空調機の冷暖が切りかわるときに熱交換器を流れる冷媒の温度が変化するので、恒温室の室温を一定に調整することができない。したがって、それを防ぐために、恒温室を冷却する必要があるときにヒートポンプによる空調を行い、恒温室を加熱する必要があるときにヒータによる空調を行われる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−193939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このとき、ヒータの加熱制御にサイリスタを使用することによって恒温室の室温を一定に調整することが可能であるが、サイリスタが高価であるため、イニシャルコストが高くなる問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、恒温室の室温を一定に保つことができる安価な温度調整装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明にかかる温度調整装置は、恒温室の室温を調整する温度調整装置であって、容量可変型圧縮機と凝縮器と膨張弁と蒸発器とを含む冷却回路と、前記蒸発器と加熱手段とを含むとともに、前記恒温室の室温を調整する媒体が流れる温度調整回路とを備え、前記冷却回路の冷却能力は連続的に変化するように制御され、前記加熱手段の加熱能力は2段階に制御され、前記温度調整回路を流れる前記媒体により室温調整され、前記冷却回路の最大冷却能力は、前記加熱手段の最大加熱能力より大きく、加熱能力が冷却能力よりも大きい状態から、冷却能力が加熱能力よりも大きくなる状態となる移行時において、前記加熱手段の加熱能力を用いつつ、前記冷却回路の冷却能力により室温調整することを特徴とする。
【0007】
この温度調整装置では、恒温室の室温を一定に保つことができるとともに、温度調整装置のイニシャルコストを低減できる。この温度調整装置では、冷却回路および加熱手段を使用して、恒温室を冷却できる。この温度調整装置では、加熱能力と冷却能力とを切りかえるときに、恒温室の室温がハンチングするのを防止できる。
【0008】
第2の発明にかかる温度調整装置は、第1の発明にかかる温度調整装置において、前記加熱手段の加熱能力を用いる場合に、前記冷却回路の冷却能力により室温調整することを特徴とする。
【0009】
この温度調整装置では、加熱能力を2段階に制御可能な加熱手段を使用して、加熱能力を連続的に調整できる。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0015】
第1の発明では、恒温室の室温を一定に保つことができるとともに、温度調整装置のイニシャルコストを低減できる。冷却回路および加熱手段を使用して、恒温室を冷却できる。加熱能力と冷却能力とを切りかえるときに、恒温室の室温がハンチングするのを防止できる。
【0016】
第2の発明では、加熱能力を2段階に制御可能な加熱手段を使用して、加熱能力を連続的に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態にかかる温度調整装置の構成図である。
図2図1の温度調整装置における温度制御方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明にかかる浸漬型液冷却装置の実施の形態について説明する。
【0021】
本実施形態の温度調整装置1は、図1に示すように、冷却回路1aと、温度調整回路1bとを有している。冷却回路1aは、圧縮機2、凝縮器3、膨張弁4および蒸発器5が接続されたものであって、冷媒が流れるものである。温度調整装置1は、凝縮器3に対して空気流を供給する送風ファン6を有している。冷媒回路1aにおいて、圧縮機2の吐出口に凝縮器3が接続され、その凝縮器3に膨張弁4が接続される。そして、膨張弁4に蒸発器5の一端が接続され、その蒸発器5の他端に圧縮機2の吸入口が接続される。この冷媒回路1aでは、圧縮機2から吐出された冷媒が凝縮器3、膨張弁4、蒸発器5へと順に流れ、圧縮機2に戻るサイクルが形成される。
【0022】
温度調整回路1bは、恒温室9の周囲に配置された温度調整部7、ヒータ8、蒸発器5が接続されたものであって、媒体として水が流れるものである。温度調整回路1bにおいて、蒸発器5は、温度調整部7の一端に接続され、温度調整部7の他端にヒータ8が接続されるとともに、ヒータ8と蒸発器5とが接続される。この水回路1bでは、ヒータ8から流出された水が蒸発器5、温度調整部7へと順に流れ、温度調整部7からヒータ8に戻るサイクルが形成される。
【0023】
温度調整装置1において、恒温室9において冷却負荷がある場合、蒸発器5において、冷却回路1aを流れる冷媒によって温度調整回路1bを流れる媒体が冷却される。その冷却された媒体は、恒温室9の周囲に配置された温度調整部7に供給され、温度調整回路1bの温度調整部7を流れる媒体によって、恒温室9が冷却される。このとき、本実施形態では、ヒータ8は、2段階の加熱能力に制御可能であって、0kWの加熱能力または3kWの加熱能力(−3kWの冷却能力)のいずれかに制御可能である。温度調整装置1において、恒温室9において冷却負荷がある場合、後述するように、ヒータ8によって、温度調整回路1bを流れる媒体が加熱される場合と加熱されない場合がある。
【0024】
これに対し、温度調整装置1において、恒温室9において加熱負荷がある場合、蒸発器5において、冷却回路1aを流れる冷媒によって温度調整回路1bを流れる媒体が冷却されるとともに、ヒータ8によって、温度調整回路1bを流れる媒体が加熱される。その加熱された媒体は、恒温室9の周囲に配置された温度調整部7に供給され、温度調整回路1bの温度調整部7を流れる媒体によって、恒温室9が加熱される。
【0025】
図2(a)は、冷却回路1aの冷却能力の変化を示し、図2(b)は、ヒータ8の冷却能力(加熱能力)の変化を示し、図2(c)は、温度調整装置1の冷却能力の変化を示している。図2では、加熱能力の変化を、負の値とすることによって、冷却能力の変化として示している。したがって、図2(c)における温度調整装置1の冷却能力は、図2(a)における冷却回路1aの冷却能力と、図2(b)におけるヒータ8の冷却能力とを足し合わせたものである。図2(c)に示すように、温度調整装置1は、4.3kWの冷却能力から、−3kWの冷却能力(3kWの加熱能力)までの範囲で、冷却能力を能力指令値と比例するように変更することによって、恒温室9の室温を調整可能である。図2において、横軸は、温度調整装置1の能力指令値であって、立軸は、温度調整装置1の冷却能力である。温度調整装置1の能力指令値100%は、冷却能力が4.3kWである状態を示し、能力指令値0%は、冷却能力が0kWである状態を示し、能力指令値−70%は、冷却能力が−3kWである状態(加熱能力が3kWである状態)を示す。
【0026】
温度調整装置1における冷却能力を変化させる制御(1)、(2)について、説明する。
(1)温度調整装置1における冷却能力を減少させる制御
(2)温度調整装置1における冷却能力を増加させる制御
【0027】
(1)温度調整装置1における冷却能力を減少させる制御について、説明する。
【0028】
能力指令値が100%であり冷却能力が4.3kWである状態(図2のa1、b1、c1)から、能力指令値が0%であり冷却能力が0kWである状態(図2のa2、b2、c2)に変化する場合について説明する。このとき、温度調整装置1では、冷却回路1aの冷却能力だけが使用され、ヒータ8による加熱は行われない。したがって、ヒータ8の加熱が行われない状態において、冷却負荷に基づいて、冷却回路1aの圧縮機2の周波数などが制御される。このときの温度調整装置1における冷却能力は、冷却回路1aの冷却能力であって、恒温室9を冷却することになる。
【0029】
能力指令値が0%であり冷却能力が0kWである状態(図2のa2、b2、c2)から、能力指令値が−70%であり冷却能力が−3kWである状態(図2のa3、b3、c3)に変化する場合について説明する。能力指令値が0%の状態(図2のa2、b2、c2)では、冷却回路1aの冷却能力が0kWであり、ヒータ8の冷却能力が0kWであるが、能力指令値が0%より小さくなったとき、ヒータ8による加熱が開始されるとともに、冷却回路1aによる冷却が開始される。したがって、能力指令値が0%から−70%の範囲では、ヒータ8による加熱が行われる状態において、冷却負荷に基づいて、冷却回路1aの圧縮機2の周波数などが制御される。このときの温度調整装置1における冷却能力は、ヒータ8の加熱能力と冷却回路1aの冷却能力との差であるが、ヒータ8の加熱能力が冷却回路1aの冷却能力より大きいので、温度調整装置1全体としては、恒温室9を加熱することになる。
【0030】
(2)温度調整装置1における冷却能力を増加させる制御について、説明する。
【0031】
能力指令値が−70%であり冷却能力が−3kWである状態(図2のa3、b3、c3)から、能力指令値が0%であり冷却能力が0kWである状態(図2のa4、b4、c4)に変化する場合について説明する。温度調整装置1における冷却能力を減少させる制御と同様に、ヒータ8による加熱が行われる状態において、冷却負荷に基づいて、冷却回路1aの圧縮機2の周波数などが制御される。このときの温度調整装置1における冷却能力は、ヒータ8の加熱能力と冷却回路1aの冷却能力との差であるが、ヒータ8の加熱能力が冷却回路1aの冷却能力より大きいので、温度調整装置1全体としては、恒温室9を加熱することになる。
【0032】
能力指令値が0%であり冷却能力が0kWである状態(図2のa4、b4、c4)から、能力指令値が100%であり冷却能力が4.3kWである状態(図2のa1、b1、c1)に変化する場合について説明する。能力指令値が0%の状態(図2のa4、b4、c4)では、冷却回路1aの冷却能力が3kWであり、ヒータ8の冷却能力が−3kWであるが、能力指令値が0%より大きくなったとき、ヒータ8による加熱が継続されるとともに、冷却回路1aによる冷却が継続される。その後、能力指令値が30%であり冷却能力が1.3kWである状態(図2のa5、b5、c5)まで、ヒータ8による加熱が継続される。したがって、能力指令値が0%から30%の範囲では、ヒータ8による加熱が行われる状態において、冷却負荷に基づいて、冷却回路1aの圧縮機2の周波数などが制御される。このときの温度調整装置1における冷却能力は、ヒータ8の加熱能力と冷却回路1aの冷却能力との差であるが、冷却回路1aの冷却能力がヒータ8の加熱能力より大きいので、温度調整装置1全体としては、恒温室9を冷却することになる。
【0033】
能力指令値が30%である状態(図2のa5、b5、c5)では、冷却回路1aの冷却能力が4.3kWであり、ヒータ8の冷却能力が−3kWであるが、能力指令値が30%より大きくなったとき、ヒータ8による加熱が停止されるとともに、冷却回路1aによる冷却が継続される。したがって、能力指令値が30%から100%の範囲では、ヒータ8による加熱が行われない状態において、冷却負荷に基づいて、冷却回路1aの圧縮機2の周波数などが制御される。このときの温度調整装置1における冷却能力は、冷却回路1aの冷却能力であって、恒温室9を冷却することになる。
【0034】
<本実施形態の温度調整装置の特徴>
本実施形態の温度調整装置1には、以下の特徴がある。
【0035】
本実施形態の温度調整装置1では、冷却回路1aの蒸発器5とヒータ8とを含むとともに、恒温室9の室温を調整する媒体が流れる温度調整回路1bとを備え、冷却回路1aの冷却能力は連続的に変化するように制御可能であって、ヒータ8の加熱能力は2段階に制御可能であって、温度調整回路1bを流れる媒体により恒温室9の室温が調整されるので、恒温室9の室温を一定に保つことができるとともに、サイリスタを用いてヒータの加熱能力を調整可能としている温度調整装置と比較して、温度調整装置1のイニシャルコストを低減できる。
【0036】
本実施形態の温度調整装置1では、ヒータ8の加熱能力を用いる場合に、冷却回路1aの冷却能力により恒温室9の室温が調整されるので、加熱能力を2段階に制御可能なヒータ8を使用して、温度調整装置1の加熱能力を連続的に調整できる。
【0037】
本実施形態の温度調整装置1では、冷却回路1aの最大冷却能力がヒータ8の最大加熱能力より大きいので、冷却回路1aおよびヒータ8を使用して、恒温室9を冷却できる。
【0038】
本実施形態の温度調整装置1では、冷却能力を増加させる制御において、能力指令値が0%の状態(図2のa4、b4、c4)から、能力指令値が0%より大きくなったとき、ヒータ8による加熱が継続されるとともに、冷却回路1aによる冷却が継続されるので、加熱能力と冷却能力とを切りかえるときに、恒温室9の室温がハンチングするのを防止できる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0040】
上述の実施形態では、冷却回路の最大冷却能力がヒータの最大加熱能力より大きい場合について説明したが、冷却回路の最大冷却能力がヒータの最大加熱能力と同一であってよいし、冷却回路の最大冷却能力がヒータの最大加熱能力より小さくてよい。
【0041】
上述の実施形態では、冷却能力を増加させる制御において、能力指令値が0%の状態(図2のa4、b4、c4)から、能力指令値が0%より大きくなったとき、ヒータ8による加熱が継続されるとともに、冷却回路1aによる冷却が継続される場合について説明したが、冷却能力を増加させる制御において、能力指令値が0%の状態(図2のa4、b4、c4)から、能力指令値が0%より大きくなったとき、ヒータ8による加熱が継続されなくてよい。
【0042】
上述の実施形態では、温度調整回路1bを流れる媒体が水である場合について説明したが、温度調整回路1bを流れる媒体は、その他の媒体であってよい。また、ヒータの位置は蒸発器5の下流側でもよい。本実施形態では、加熱手段としてヒータを採用したが、出力が2段階となる加熱手段であればこれに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明を利用すれば、恒温室の室温を一定に保つことができる安価な温度調整装置を提供できる。
【符号の説明】
【0044】
1 温度調整装置
1a 冷却回路
1b 温度調整回路
2 圧縮機
3 凝縮器
4 膨張弁
5 蒸発器


図1
図2