(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、実施形態としてのエンジン制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
[1.エンジン]
本実施形態のエンジン制御装置1は、
図1に示すデュアルループEGRシステムを具備したエンジン10の電子制御装置である。
図1中には、エンジン10に設けられる複数のシリンダのうちの一つを例示する。このエンジン10は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、車両の走行状態に応じて拡散燃焼運転と予混合燃焼運転とを切り替えて実施する。拡散燃焼運転とは、エンジン10の筒内で拡散燃焼(拡散圧縮自着火燃焼)を実現する運転モードである。一方、予混合燃焼運転とは、エンジン10の筒内で予混合燃焼(予混合圧縮自着火燃焼)を実現する運転モードである。本実施形態のエンジン10では、これらの二種類の燃焼状態が車両の走行状態に応じて使い分けられる。
【0018】
シリンダの頂面には、吸気ポート,排気ポートが設けられ、それぞれのポート開口には吸気弁,排気弁が設けられる。また、筒内の上部には、筒内噴射弁11がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。筒内噴射弁11は、各々の筒内に燃料を噴射する直噴インジェクターであり、高圧の燃料が内部に蓄えられたコモンレール(蓄圧室)に接続される。
【0019】
筒内噴射弁11から供給される燃料噴射量や噴射タイミングは、エンジン制御装置1で制御される。例えば、エンジン制御装置1から筒内噴射弁11に制御パルス信号が伝達されると、筒内噴射弁11の噴孔がその制御パルス信号の大きさに対応する期間だけ開放される。これにより、燃料噴射量は制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じた量となり、燃料噴射時期(噴射タイミング)は制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。例えば、拡散燃焼運転では圧縮上死点(TDC)の前後でメイン噴射が実施され、予混合運転では圧縮上死点よりも前の圧縮行程中期にメイン噴射が実施される。
【0020】
エンジン10の吸気通路12及び排気通路13には、排気圧を利用して吸気通路12上の空気を筒内へと強制的に送り込むことで過給するターボチャージャー14(過給機)が介装される。ターボチャージャー14は、タービン,コンプレッサの互いの回転軸が軸受を介して連結された構造を持つ。タービンは排気通路13上に配置され、コンプレッサは吸気通路12上に配置される。
【0021】
吸気通路12には、上流側から順にエアクリーナー16,低圧スロットル弁17,ターボチャージャー14,インタークーラー18,高圧スロットル弁19が設けられる。一方、排気通路13では、ターボチャージャー14よりも下流側に排気浄化装置15が介装される。この排気浄化装置15には、DOC(ディーゼル酸化触媒)15AやDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)15B等が内蔵される。
【0022】
また、このエンジン10には、排気の一部を吸気側に再循環させるためのEGR通路として、高圧EGR通路20と低圧EGR通路23とが設けられる。高圧EGR通路20は、吸気通路12及び排気通路13においてターボチャージャー14よりもシリンダに近い部分同士を連通するEGR通路であり、吸気通路12におけるターボチャージャー14(コンプレッサ)よりも下流側と、排気通路13におけるターボチャージャー14(タービン)よりも上流側とを接続する。本実施形態の高圧EGR通路20は、吸気通路12との接続箇所(出口箇所)が高圧スロットル弁19よりも下流側に設定される。また、高圧EGR通路20には、高圧EGRクーラー21及び高圧EGR弁22(EGR弁の一つ)が介装される。
【0023】
低圧EGR通路23は、吸気通路12及び排気通路13においてターボチャージャー14よりもシリンダから遠い部分同士を連通するEGR通路であり、吸気通路12におけるターボチャージャー14(コンプレッサ)よりも上流側と、排気通路13におけるターボチャージャー14(タービン)よりも下流側とを接続する。本実施形態の低圧EGR通路23は、排気通路13との接続箇所(入口箇所)が排気浄化装置15よりも下流側に設定されるとともに、吸気通路12との接続箇所(出口箇所)が低圧スロットル弁17よりも下流側に配置される。また、低圧EGR通路23には、低圧EGRフィルタ24,低圧EGRクーラー25,低圧EGR弁26(EGR弁の一つ)が介装される。高圧EGR弁22及び低圧EGR弁26の弁開度は可変であり、エンジン制御装置1において、エンジン10の運転状態に応じて制御される。
【0024】
エンジン10のクランクシャフトの近傍には、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ31が設けられる。また、吸気通路12の高圧スロットル弁19よりも下流側には、筒内に導入される吸気の圧力(過給時における過給圧P)を検出する圧力センサ32と、吸気中の酸素濃度(吸気酸素濃度D)を検出する酸素濃度センサ33とが設けられる。
【0025】
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度APS)を検出するアクセル開度センサ34と、シフトレバーの操作位置SPを検出するシフトポジションセンサ35と、車速Vを検出する車速センサ36とが設けられる。アクセル開度APSやその時間変化率ΔAPSは、例えば運転手がエンジン10に要求する出力(トルク)の大きさに対応するパラメータとされる。また、シフトレバーの操作位置SPは、車両に搭載される変速機の変速段(例えば1速,2速,…,6速等)に対応する。上記の各種センサ31〜36で検出された各種情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0026】
[2.エンジン制御装置]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)が設けられる。エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダに供給される吸入空気量や燃料噴射量,燃料噴射時期,EGR量等を制御するものである。エンジン制御装置1は、車載ネットワーク網を介して、他の電子制御装置(例えば、変速機ECU,エアコンECU,ブレーキECU,車体制御ECU,ボディECU等)や各種センサ31〜36に接続される。
【0027】
このエンジン制御装置1は、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサ(マイクロプロセッサ)やROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリ等を集積した電子デバイスである。プロセッサは、制御ユニット(制御回路)や演算ユニット(演算回路),キャッシュメモリ(レジスタ群)等を内蔵する演算処理装置である。また、ROM,RAM及び不揮発メモリは、プログラムや作業中のデータが格納されるメモリ装置である。エンジン制御装置1での制御内容は、例えばアプリケーションプログラムとしてROM,RAM,不揮発メモリ,リムーバブルメディア内に記録される。また、プログラムの実行時には、プログラムの内容がRAM内のメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
【0028】
本実施形態のエンジン制御装置1は、車両の走行状態に応じて、予混合燃焼運転と拡散燃焼運転とを切り替えるとともに、EGRシステムの作動状態を変更する制御を実施する。車両の走行状態は、例えば各種センサ31〜36で検出された各種情報に基づいて判断される。また、筒内での燃焼状態(予混合燃焼,拡散燃焼)は、燃料噴射量及び燃料噴射タイミングを制御しつつ、吸入空気量やEGR量を調節することで、切り替えられるものとする。
【0029】
EGR量や高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の各々の開度は、エンジン10の運転状態に応じて設定される。一方、EGRガスが吸気系に導入されている状態でエンジン負荷が急変すると、負荷変動に対してシリンダ内の燃焼状態を追従させにくくなってしまう。特に、変速操作がなされた場合には、EGRガスや吸入新気の輸送遅れによりシリンダ内の吸気酸素濃度Dが不足しうる。そこで、本実施形態では、変速操作がなされるだろう運転状態を先取りして、EGRガスの導入を制限する制御を実施する。このような制御のことをEGR弁の「閉じ制御(EGR弁閉じ制御)」と呼ぶ。また、EGRガスの導入が制限されないEGR弁の制御のことを「通常のEGR制御」と呼ぶ。通常のEGR制御は拡散燃焼運転とともに実施され、閉じ制御は予混合燃焼運転とともに実施される。エンジン制御装置1には、これらの制御を実施するための要素として、マップ記憶部2,通常制御部3,閉じ制御部4が設けられる。
【0030】
[2−1.マップ記憶部]
マップ記憶部2は、車両の走行状態と制御内容との関係が規定された制御マップを記憶するものである。車両の走行状態は、少なくともエンジン負荷Ec,エンジン回転数Neの何れか一方に基づいて把握され、好ましくはエンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neの双方に基づいて把握される。ここでいうエンジン負荷Ecとは、エンジン10に対する出力要求に相当するパラメータであり、例えばアクセル開度センサ34で検出されたアクセル開度APSやその時間変化率ΔAPS,エンジン10を駆動源とする補機類の作動状態,要求トルク,車速V,吸入空気量,吸気圧等に基づいて算出される。なお、車両の走行状態を把握する際には、外気温,外気圧,エンジン冷却水温等も考慮することが好ましい。
【0031】
本実施形態では、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neによって定められる運転点と制御内容との対応関係が設定された制御マップが使用される。例えば、運転点が所定の領域M内にあるときに、予混合燃焼運転が実施される。また、運転点が領域Mの外側の領域(領域C)にある場合には、拡散燃焼運転が実施される(予混合燃焼運転が実施されない)。EGRガスの導入は、少なくとも予混合燃焼運転が実施されるときに実施される。本実施形態では、予混合燃焼運転とともに実施されるEGR制御について説明するが、これを拡散燃焼運転とともに実施することも可能である。
【0032】
上記の領域Mは、例えばエンジン回転数Neが低回転状態,中回転状態であり、かつ、エンジン負荷Ecが低負荷状態,中負荷状態であるような運転領域内に設定される。ただし、エンジン10のアイドリング状態に相当する運転領域(例えば、アイドリング回転以下の運転領域やアイドリング負荷以下での運転領域)は、領域Mから除外される。なお、運転点のマップ上における領域Mの具体的な形状は、任意に設定可能である。
【0033】
[2−2.通常制御部]
通常制御部3は、エンジン10の運転状態に応じた通常のEGR制御を実施するものである。通常のEGR制御では、エンジン10の定常状態での運転状態を想定して最適化されたEGRシステムの制御が実施される。エンジン10の運転点が領域M内に位置しているとき、通常制御部3は、運転手がエンジン10に要求するトルクTQ(要求トルク)に基づいてEGR量を設定し、低圧スロットル弁17,高圧スロットル弁19,高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の各々の開度を制御する。トルクTQは、例えばアクセル開度APSとエンジン回転数Neとに基づいて算出される。一方、エンジン10の運転点が領域C内に位置しているときには、EGR量をゼロとし、高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の各々を閉弁する。
【0034】
通常制御部3は、トルクTQが大きいほどEGR量を少なく設定する。また、通常のEGR制御で制御対象となるEGR弁の種類は、トルクTQに応じて変更される。例えば、EGR量が少なければ、低圧EGR弁26のみが開放されるとともに、高圧EGR弁22が全閉状態に維持される。また、EGR量が多ければ低圧EGR弁26だけでなく高圧EGR弁22も併用され、EGR量が所定EGR量以上であれば、両方のEGR弁22,26が全開状態に制御される。
【0035】
図2は、トルクTQとEGR量と高圧EGR弁22及び低圧EGR弁26の開放状態との関係を例示する表である。領域M内では、トルクTQの大きさに応じてEGRシステムが三つの状態に制御される。トルクTQが第一基準トルクTQ
1未満である場合、通常制御部3は比較的多量のEGR量を設定し、高圧EGR弁22,低圧EGR弁26をともに全開状態とする。また、トルクTQが第一基準トルクTQ
1以上、第二基準トルクTQ
2未満である場合には、やや少ないEGR量を設定し、低圧EGR弁26を全開状態としつつ、EGR量に応じて高圧EGR弁22の開度を制御する。トルクTQが第二基準トルクTQ
2以上である場合には、より少ないEGR量を設定し、高圧EGR弁22を全閉状態としつつ、EGR量に応じて低圧EGR弁26の開度を制御する。
【0036】
[2−3.閉じ制御部]
閉じ制御部4(制御部)は、運転手による変速操作が予想される運転状態でEGR弁22,26の閉じ制御を実施するものである。閉じ制御では、通常のEGR制御よりもEGR弁22,26の開度が絞られ、EGR量が削減されるとともに、低圧スロットル弁17,高圧スロットル弁19の開度が開かれる。好ましくは、EGR量がほぼゼロとなるように、EGR弁22,26及びスロットル弁17,19の開度が制御される。
【0037】
吸気通路12とEGR通路20,23との圧力差,温度差等の影響により、EGR弁22,26の開度を全閉としなくてもEGR量をゼロにすることが可能である。したがって、EGR弁22,26の開度は必ずしもゼロでなくてもよい。一方、低圧スロットル弁17,高圧スロットル弁19の開度は、ほぼ全開の状態に固定される。これにより、吸気通路側の空気の流れやすさが増大し、EGRガスが流れにくくなる。
【0038】
閉じ制御が開始されると、通常のEGR制御で設定されたEGR量やEGR弁22,26及びスロットル弁17,19の開度の代わりに、閉じ制御で設定されたEGR量やEGR弁22,26及びスロットル弁17,19の開度が使用される。
閉じ制御部4では、変速操作に関係する運転状態を精度よく把握するために、五種類の条件が判定され、各々の判定結果に応じて閉じ制御の開始,継続,終了が選択される。
図3に示すように、五種類の条件は、各々の判定タイミングが変速操作の進行に沿って異なるタイミングとなるように、順を追って判定される。最初に判定されるのが急加速条件であり、その後、減速条件,アクセルオフ条件,加速条件,中加速条件の順に判定される。
【0039】
減速条件は、急加速条件が成立するまでは判定されず、急加速条件が成立してから所定時間T
1が経過するまでの間でのみ判定される。同様に、アクセルオフ条件は、減速条件の成立後の所定時間T
2(第一所定時間)内でのみ判定され、加速条件及び中加速条件は、アクセルオフ条件の成立後の所定時間T
3(第二所定時間)内でのみ判定される。なお、加速条件及び中加速条件は、運転手による加速操作の大小を区別するための閾値のみが異なる条件である。したがって、加速条件が成立した場合には、中加速条件の判定を省略してもよい。
【0040】
閉じ制御が開始されるタイミングは、急加速条件と減速条件とが成立したときであり、これを
図3中に時刻Xで示す。また、閉じ制御が終了するのは、以下に列挙する何れかの時点(時刻Y
1〜Y
4)である。
・時刻Y
1:アクセルオフ条件が不成立のまま、
減速条件の成立から所定時間T
2が経過した時点
・時刻Y
2:加速判定,中加速判定がともに不成立のまま、
アクセルオフ条件の成立から所定時間T
3が経過した時点
・時刻Y
3:加速判定の成立から所定時間T
4(第三所定時間)が経過した時点
・時刻Y
4:中加速判定の成立から所定時間T
5が経過した時点
【0041】
上記の所定時間T
1のことを、急加速判定の判定有効期間とも呼ぶ。同様に、所定時間T
2,T
3をそれぞれ、減速判定の判定有効期間,アクセルオフ判定の判定有効期間とも呼ぶ。所定時間T
4,T
5はそれぞれ、加速判定,中加速判定の判定有効期間であり、これらの時間が経過した時点で閉じ制御が終了する。
これらの所定時間T
1〜T
4の大小関係に関して、本実施形態では少なくともT
2<T
4<T
3とされる。所定時間T
1は、少なくとも所定時間T
2よりは長く設定され、例えばT
2<T
1<T
4となるように設定される。また、所定時間T
5は、例えば所定時間T
4以下の範囲内で設定される。
【0042】
閉じ制御部4には、上記のような条件判定を実施するための要素として、急加速判定部5,減速判定部6,アクセルオフ判定部7,加速判定部8,中加速判定部9が設けられる。これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよい。あるいは、これらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。なお、ソフトウェアは、エンジン制御装置1内のROMや補助記憶装置に記録,保存してもよいし、エンジン制御装置1が読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。
【0043】
(A)急加速判定部
急加速判定部5は、変速操作に先立つ加速操作の有無を判断するために、急加速条件を判定するものである。以下に急加速条件を例示する。
条件1.アクセル開度の時間変化率ΔAPSが正の所定値A
0(第二所定値)以上である
条件2.車速Vが所定車速V
0以上である
条件3.アクセル開度APSが所定開度B
0以上である
【0044】
急加速判定部5は、少なくとも条件1が成立した場合に、急加速条件が成立したものと判定する。条件2,3は、判定精度を向上させるための付加条件である。条件2は車両が走行中であることを確認するための条件であり、所定車速V
0の値は例えば10[km/h]程度に設定される。条件2の代わりに、エンジン回転数Neやエンジン10の出力の大きさが所定値以上であることを判定してもよい。
【0045】
また、急加速条件が成立すると、急加速判定部5は制御フラグF
1をF
1=0からF
1=1に設定し、急加速条件が成立した時点から所定時間T
1が経過するまでの間はこの制御フラグF
1を立てたままの状態に維持する。所定時間T
1は、その急加速の運転操作が変速操作に先立つ加速操作ではないと判断するための時間の上限値である。つまり、急加速条件が成立した時点から所定時間T
1が経過する前に、次に説明する減速条件が成立した場合には、その運転操作が変速操作に先立つ加速操作だったということが確定する。
【0046】
(B)減速判定部
減速判定部6は、変速操作に先立つ減速操作の有無を判断するために、減速条件を判定するものである。以下に減速条件を例示する。
条件4.急加速条件の成立後、所定時間T
1以内である(F
1=1である)
条件5.アクセル開度の時間変化率ΔAPSが負の所定値A
1以下である
条件6.車速Vが所定車速V
0以上である
【0047】
減速判定部6は、条件4〜6が成立した場合に、減速条件が成立したものと判定し、閉じ制御を開始する。つまり、通常のEGR制御よりもEGR弁22,26の開度が絞られるとともに、スロットル弁17,19の開度が開かれて、EGR量が削減される。条件5は、アクセルペダルが、ある程度勢いよく踏み戻されたことを確認するための条件である。また、条件6は条件2と同一の条件であり、急加速判定部5ですでに判定されている場合には省略可能である。
【0048】
減速判定部6は、減速条件が成立すると、制御フラグF
2をF
2=0からF
2=1に設定し、条件成立の時点から所定時間T
2が経過するまでの間はこの制御フラグF
2を立てたままの状態に維持し、閉じ制御を継続する。つまり、閉じ制御は少なくとも制御フラグF
2がF
2=1である限りは継続される。所定時間T
2は、その減速の運転操作が変速操作に先立つ操作ではないと判断するための時間の上限値である。つまり、減速条件が成立した時点から所定時間T
2が経過する前に、次に説明するアクセルオフ条件が成立した場合には、その運転操作が変速操作に先立つ減速操作だったということが確定する。
【0049】
(C)アクセルオフ判定部
アクセルオフ判定部7は、アクセルオフ条件を判定するものである。アクセルオフ条件は、以下に例示するように、変速操作に先立つアクセルオフ操作の有無を判定するための条件であり、条件中の所定開度B
1はゼロ(アクセル開放状態)に近い微小な値である。
条件7.減速条件の成立後、所定時間T
2以内である(F
2=1である)
条件8.アクセル開度APSが所定開度B
1以下である
【0050】
アクセルオフ判定部7は、アクセルオフ条件が成立すると、制御フラグF
3をF
3=0からF
3=1に設定し、条件成立の時点から所定時間T
3が経過するまでの間はこの制御フラグF
3を立てたままの状態に維持し、閉じ制御を継続する。つまり、閉じ制御は少なくとも制御フラグF
3がF
3=1である限りは継続される。所定時間T
3は、そのアクセルオフ操作が変速操作に先立つ操作ではないと判断するための時間の上限値である。つまり、アクセルオフ条件が成立した時点から所定時間T
3が経過する前に、次に説明する加速条件(又は中加速条件)が成立した場合には、その運転操作が変速操作に先立つアクセルオフ操作だったということが確定する。
【0051】
(D)加速判定部・中加速判定部
加速判定部8及び中加速判定部9は、ともに変速操作後の加速操作の有無を判断するものである。加速判定部8では、加速条件が判定され、中加速判定部9では、加速条件が不成立の場合に、中加速条件が判定される。加速条件を以下に例示する。
条件9.アクセルオフ条件の成立後、所定時間T
3以内である(F
3=1である)
条件10.アクセル開度の時間変化率ΔAPSが正の所定値A
3(第三所定値)以上である
条件11.車速Vが所定車速V
0以上である
条件12.アクセル開度APSが所定開度B
3以上である
【0052】
加速判定部8は、少なくとも条件10が成立した場合に、加速条件が成立したものと判定する。条件11,12は、判定精度を向上させるための付加条件である。条件11は条件2,条件6と同一の条件である。なお、加速判定がなされる時点で、条件2,条件6の判定時からある程度の時間が経過していると考えられるため、ここで改めて条件11を判定することで、判定結果の信頼性が向上する。
【0053】
加速判定部8は、加速条件成立すると、制御フラグF
4をF
4=0からF
4=1に設定し、条件成立の時点から所定時間T
4が経過するまでの間はこの制御フラグF
4を立てたままの状態に維持し、閉じ制御を継続する。一方、所定時間T
4が経過すると制御フラグF
4がF
4=0となり、閉じ制御が終了する。所定時間T
4は、アクセルペダルの踏み込みによってエンジン負荷Ecがある程度上昇するのに要する時間を考慮して設定される。また、閉じ制御の終了後は、通常のEGR制御が実施される。
【0054】
また、中加速判定部9で判定される中加速条件を以下に例示する。
条件13.アクセルオフ条件の成立後、所定時間T
3以内である(F
3=1である)
条件14.アクセル開度の時間変化率ΔAPSが
正の所定値A
4(<A
3)(第四所定値)以上である
条件15.車速Vが所定車速V
0以上である
条件16.アクセル開度APSが所定開度B
4(<B
3)以上である
【0055】
中加速判定部9は、加速判定が不成立である状態で、少なくとも条件14が成立する場合に、中加速条件が成立したものと判定する。条件15,16は、判定精度を向上させるための付加条件である。条件14は、加速条件における条件10をやや緩和したものであり、加速条件が成立するときよりもやや弱いアクセルペダルの踏み込み操作を検出するためのものである。条件16も同様であり、条件12をやや緩和したものである。
【0056】
中加速判定部9は、中加速条件が成立すると、制御フラグF
5をF
5=0からF
5=1に設定し、条件成立の時点から所定時間T
5が経過するまでの間はこの制御フラグF
5を立てたままの状態に維持し、閉じ制御を継続する。ただし、中加速条件が成立するのは加速条件が成立するときよりも運転手の加速要求が小さい場合に限られる。そこで、中加速判定部9は、通常のEGR制御時よりもEGR量が少なく、かつ、閉じ制御時よりもEGR量が多くなるように、高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の開度を制御する。例えば、高圧EGR弁22については通常のEGR制御時よりも絞り(弱閉じ状態とし)、低圧EGR弁26については通常のEGR制御時と同じ開度に制御する。なお、スロットル弁17,19の開度については、閉じ制御時と同様に、ほぼ全開状態とする。このような制御のことを「弱閉じ制御」と呼ぶ。弱閉じ制御は、制御フラグF
5がF
5=1である間でのみ実施される。したがって、中加速条件が成立してから所定時間T
5が経過すると、弱閉じ制御は終了する。また、弱閉じ制御の終了後は、通常のEGR制御が実施される。
【0057】
[3.フローチャート]
図4〜
図7は、通常のEGR制御及び閉じ制御の手順を例示するフローチャートである。
図4のフローは、おもに通常制御部3及び急加速判定部5での制御内容に対応し、
図5のフローは、おもに減速判定部6での制御内容に対応する。また、
図6のフローは、おもにアクセルオフ判定部7での制御内容に対応し、
図7のフローは、おもに加速判定部8及び中加速判定部9での制御内容に対応する。
【0058】
[3−1.急加速判定フロー]
図4の急加速判定フローでは、急加速条件が判定される。
ステップA1では、エンジン制御装置1に各種情報が入力される。ここでは例えば、アクセル開度APS,車速V,エンジン回転数Ne等の情報が取得される。
ステップA2では、通常制御部3において、エンジン10の運転状態が把握される。ここでは、例えばアクセル開度APS,エンジン回転数Ne,車速V等に基づいて、エンジン負荷Ec及びトルクTQが算出される。また、マップ記憶部2が記憶している運転点の制御マップが用いられて、エンジン負荷Ecとエンジン回転数Neとに基づき、エンジン10の運転点が特定されるとともに、その運転点に対応する制御内容が決定する。
【0059】
ステップA3では、この制御マップに基づき、通常のEGR制御におけるEGR量と、制御対象となるEGR弁とが設定される。例えば、運転点が制御マップ内の領域Mの内側にある場合には、
図2に示すような関係に基づき、トルクTQの大きさに基づいてEGR量が設定されるとともに、高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の各開度が算出される。
ステップA4では、急加速判定部5において、車速Vが所定車速V
0以上であるか否か(条件2)が判定される。ここでV≧V
0が成立する場合には、ステップA5に進む。一方、V<V
0である場合にはステップA11に進み、通常のEGR制御が実施されて、この演算周期での制御が終了する。
【0060】
ステップA5では、制御フラグF
1がF
1=0であるか否かが判定される。この制御フラグF
1は、急加速判定の判定有効期間内であるか否かを判断するためのフラグであり、F
1=1が判定有効期間内であることを表す。ここでF
1=0であれば、まだ急加速条件が成立していないため、ステップA6に進む。一方、F
1=1であれば、すでに急加速条件が成立しているため、ステップA6〜A8をスキップしてステップA9に進む。
ステップA6では、急加速条件が成立するか否か(例えば、条件1,条件2)が判定される。ここで急加速条件が成立した場合にはステップA7に進み、制御フラグF
1がF
1=1に設定される。また、続くステップA8ではタイマーによる経時(カウント)が開始される。
【0061】
ステップA9では、タイマー値Tが所定時間T
1以下であるか否かが判定される。ここでT≦T
1である場合には、減速判定フローに進む。一方、ステップA9でT>T
1である場合には、急加速判定の判定有効期間T
1内に減速条件が成立しなかったことになり、制御がステップA12に進む。
ステップA12では、制御フラグF
1がF
1=0に設定されるとともに、タイマーによる経時が終了する。また、続くステップA13では通常のEGR制御が実施され、この演算周期での制御が終了する。
【0062】
[3−2.減速判定フロー]
図5の減速判定フローでは、減速条件が判定される。
ステップB1では、アクセル開度APSの時間変化率ΔAPSが算出される。この時間変化率ΔAPSは、アクセル開度APSの前回値と今回値との差(所定時間差で得られた値の差)として算出可能である。
ステップB2では、制御フラグF
2がF
2=0であるか否かが判定される。この制御フラグF
2は、減速判定の判定有効期間T
2内であるか否かを判断するためのフラグであり、F
2=1が判定有効期間T
2内であることを表す。ここでF
2=0であれば、まだ減速条件が成立していないため、ステップB3に進む。一方、F
2=1であれば、すでに減速条件が成立しているため、ステップB3〜B5をスキップしてステップB6に進む。
【0063】
ステップB3では、減速条件が成立するか否か(例えば、条件5)が判定される。ここで減速条件が成立した場合にはステップB4に進み、制御フラグF
2がF
2=1に設定される。また、続くステップB5ではタイマーによる経時(カウント)が開始される。なお、減速条件が一旦成立すると、急加速判定の判定有効期間T
1をカウントする必要がなくなるため、ここではステップA8で開始したタイマーをリセットすれば事足りる。
一方、ステップB3で減速条件が不成立の場合には、制御が
図4の急加速判定フローに進む。つまり、減速判定の判定有効期間T
2が経過するまでの間は、閉じ制御が継続された状態で、
図4及び
図5の制御が繰り返し実施される。
【0064】
ステップB6では、タイマー値Tが所定時間T
2以下であるか否かが判定される。ここでT≦T
2である場合にはステップB7に進み、閉じ制御が実施されて、アクセルオフ判定フローに進む。一方、ステップB6でT>T
2である場合には、減速判定の判定有効期間T
2内にアクセルオフ条件が成立しなかったことになり、制御がステップB8に進む。
ステップB8では、制御フラグF
1,F
2がともにF
1=F
2=0にリセットされるとともに、タイマーによる経時が終了する。また、続くステップB9では、通常のEGR制御が実施されて、この演算周期での制御が終了する。
【0065】
[3−3.アクセルオフ判定フロー]
図6のアクセルオフ判定フローでは、アクセルオフ条件が判定される。
ステップC1では、再びアクセル開度APSの情報が取得される。
ステップC2では、制御フラグF
3がF
3=0であるか否かが判定される。この制御フラグF
3は、アクセルオフ判定の判定有効期間T
3内であるか否かを判断するためのフラグであり、F
3=1が判定有効期間T
3内であることを表す。ここでF
3=0であれば、まだアクセルオフ条件が成立していないため、ステップC3に進む。一方、F
3=1であれば、すでにアクセルオフ条件が成立しているため、ステップC3〜C5をスキップしてステップC6に進む。
【0066】
ステップC3では、アクセルオフ条件が成立するか否か(例えば、条件8)が判定される。ここでアクセルオフ条件が成立した場合にはステップC4に進み、制御フラグF
3がF
3=1に設定される。また、続くステップC5ではタイマーによる経時(カウント)が開始される。なお、アクセルオフ条件が一旦成立すると、減速判定の判定有効期間T
2をカウントする必要がなくなるため、ここではステップB5で開始したタイマーをリセットすれば事足りる。
一方、ステップC3でアクセルオフ条件が不成立の場合には、制御が
図5の減速判定フローに進む。つまり、アクセルオフ判定の判定有効期間T
3が経過するまでの間は、閉じ制御が継続された状態で、
図4〜
図6の制御が繰り返し実施される。
【0067】
ステップC6では、タイマー値Tが所定時間T
3以下であるか否かが判定される。ここでT≦T
3である場合にはステップC7に進み、閉じ制御が実施されて、加速判定フローに進む。一方、ステップC6でT>T
3である場合には、アクセルオフ判定の判定有効期間T
3内に加速判定条件(又は中加速条件)が成立しなかったことになり、制御がステップC8に進む。
ステップC8では、制御フラグF
1,F
2,F
3がともにF
1=F
2=F
3=0にリセットされるとともに、タイマーによる経時が終了する。また、続くステップC9では、通常のEGR制御が実施されて、この演算周期での制御が終了する。
【0068】
[3−4.加速判定フロー]
図7の加速判定フローでは、加速条件及び中加速条件が判定される。
ステップD1では、アクセル開度APSの情報が取得されるとともに、その時間変化率ΔAPSが算出される。
ステップD2では、制御フラグF
4がF
4=0であるか否かが判定される。この制御フラグF
4は、加速判定の判定有効期間T
4内であるか否かを判断するためのフラグであり、F
4=1が判定有効期間T
4内であることを表す。ここでF
4=0であれば、また加速条件が成立していないため、ステップD3に進む。一方、F
4=1であれば、すでに加速条件が成立しているため、ステップD3〜D6をスキップしてステップD7に進む。
【0069】
同様に、続くステップD3では、制御フラグF
5がF
5=0であるか否かが判定される。この制御フラグF
5は、中加速判定の判定有効期間T
5内であるか否かを判断するためのフラグであり、F
5=1が判定有効期間T
5内であることを表す。ここでF
5=0であれば、まだ加速判定も中加速条件も成立していないため、ステップD4に進む。一方、F
5=1であれば、中加速条件が成立しているため、ステップD14に進む。
ステップD4では、加速条件が成立するか否か(例えば、条件10)が判定される。ここで加速判定が成立した場合にはステップD5に進み、制御フラグF
4がF
4=1に設定される。また、続くステップD6ではタイマーによる経時(カウント)が開始される。
【0070】
ステップD7では、タイマー値Tが所定時間T
4以下であるか否かが判定される。ここでT≦T
4である場合にはステップD8に進み、閉じ制御が実施されて、この演算周期での制御が終了する。次回の演算周期では、加速判定フローが繰り返され、所定時間T
4が経過するまでの間は閉じ制御が継続される。一方、ステップD7でT>T
4になった場合にはステップD9に進む。
ステップD9では、全ての制御フラグF
1〜F
5が0に設定され、タイマーによる経時が終了する。また、続くステップD10では通常のEGR制御が実施され、この演算周期での制御が終了する。この場合、次回の演算周期では、
図4に示す急加速判定フローが実施される。
【0071】
ステップD4で加速判定が成立しない場合、ステップD11に進み、中加速条件が成立するか否か(例えば、条件14)が判定される。中加速判定は、加速判定と比較してやや弱いアクセルペダルの踏み込み操作であっても成立しうる。ここで中加速判定が成立した場合にはステップD12に進み、制御フラグF
5がF
5=1に設定される。一方、中加速条件が不成立の場合には、制御が
図6のアクセルオフ判定フローに進む。つまり、アクセルオフ判定の判定有効期間T
3が経過するまでの間は、
図6及び
図7の制御が繰り返し実施される。
【0072】
ステップD13では、タイマーによる経時(カウント)が開始される。また、ステップD14では、タイマー値Tが所定時間T
5以下であるか否かが判定される。ここでT≦T
5である場合にはステップD15に進み、弱閉じ制御が実施されて、この演算周期での制御が終了する。次回の演算周期では、加速判定フローが繰り返され、所定時間T
5が経過するまでの間は弱閉じ制御が継続される。一方、ステップD14でT>T
5になった場合にはステップD9に進む。
ステップD9では、全ての制御フラグF
1〜F
5が0に設定され、タイマーによる経時が終了する。また、続くステップD10では通常のEGR制御が実施され、この演算周期での制御が終了する。この場合、次回の演算周期では、
図4に示す急加速判定フローが実施される。
【0073】
[4.作用]
運転手がシフトアップ操作を行った場合におけるEGRシステムの作動状態について、
図8を用いて説明する。所定車速V
0以上の車速Vで走行している車両において、時刻t
0にアクセルペダルが踏み込まれると、アクセル開度APSが増加して急加速条件が成立する。一方、急加速条件が成立しただけの状態では、その後に運転手が変速操作を行うとは限らない。したがって、この時点ではまだ通常のEGR制御が実施される。すなわち、通常制御部3がエンジン10の運転点の位置に基づいて制御対象となるEGR弁22,26を選択し、トルクTQに基づいてEGR弁22,26の開度を設定,制御する。
【0074】
時刻t
1にアクセルペダルが踏み戻されると、アクセル開度APSが減少し、その時間変化率ΔAPSが負の方向に増加する。ここで、急加速条件の成立時から所定時間T
1が経過するよりも前に、時間変化率ΔAPSが負の所定値A
1以下になると、減速条件が成立する。この時点で、今後シフトアップ操作が行われる可能性が高いと判断されて、通常のEGR制御の代わりに閉じ制御が開始される。この閉じ制御では、EGR弁22,26の開度が通常のEGR制御よりも絞られる。また、低圧スロットル弁17及び高圧スロットル弁19の開度は、ほぼ全開状態に固定される。例えば、
図8に示すように、高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の開度がともに所定の最小開度に制御され、低圧スロットル弁17及び高圧スロットル弁19の開度が所定の最大開度に制御される。
【0075】
時刻t
2にアクセル開度APSがゼロに近い所定開度B
1以下になると、アクセルオフ条件が成立する。ここで、アクセルオフ条件が成立したのが、減速条件の成立時から所定時間T
2が経過するよりも前である場合には、閉じ制御が継続される。これにより、高圧EGR通路20,低圧EGR通路23を通過するEGRガスの輸送遅れに応じて、シリンダ内に導入されるEGR量が徐々に減少し、シリンダにおける吸気酸素濃度Dが上昇する。一方、変速機のシフトアップ操作は、このアクセルオフの期間内で実施される。
【0076】
変速操作がなされた後の時刻t
3にアクセルペダルが再び踏み込まれると、アクセル開度APSが増加し、その時間変化率ΔAPSが正の方向に増加する。ここで、アクセルオフ条件の成立時から所定時間T
3が経過するよりも前に、時間変化率ΔAPSが正の所定値A
3以上になると、加速条件が成立する。この加速操作はシフトアップ操作後の加速操作であると判断され、その時点から所定時間T
4が経過するまでの間は、閉じ制御が継続される。
【0077】
図8に示すグラフにおいて、破線は通常のEGR制御での経時変化を示し、実線は閉じ制御での経時変化を示す。通常のEGR制御では、アクセルオフ操作に伴い、エンジン10に要求されるトルクTQの大きさが小さくなることから、比較的多めのEGR量が設定され、高圧EGR弁22の開度が大きく設定される。そのため、時刻t
2〜t
3のアクセルオフ期間におけるシリンダ内の吸気酸素濃度Dは、比較的低い状態となる。これにより、時刻t
3にアクセルペダルが踏み込まれても、エンジントルクの立ち上がりに時間がかかり、車両の過渡レスポンスが低下する。これに対して、閉じ制御では、時刻t
3における吸気酸素濃度Dが変速操作前である時刻t
0よりも上昇しているため、アクセルペダルの踏み込み量に応じた加速性が得られやすくなり、車両の過渡レスポンスが向上する。
【0078】
[5.効果]
(1)上記のエンジン制御装置1では、車両走行中におけるアクセル開度APSの時間変化率ΔAPSが負の所定値A
1以下である場合に、減速条件が成立したものと判断されて「閉じ制御」が開始され、高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の開度が絞られるとともに、低圧スロットル弁17,高圧スロットル弁19の開度が開放される。そのため、アクセルペダルの踏み戻し操作がなされた時点で、シリンダに導入されるEGR量を制限することができる。これにより、吸気の輸送遅れに伴う変速操作時のレスポンス低下を抑制することができ、加速性を向上させることができる。また、アクセル開度APSの時間変化率ΔAPSが負の所定値A
1を超える場合(すなわち、アクセルペダルの踏み戻し速度が遅い場合や、アクセルペダルが踏み増しされている場合)には、このようなEGR量の制限が課されないため、排ガス性能を向上させることができる。
【0079】
(2)上記のエンジン制御装置1では、急加速条件の成立後に減速条件が成立したことを以て、上記の閉じ制御が開始される。例えば、アクセル開度APSの時間変化率ΔAPSが正の所定値A
0(第二所定値)以上になってから、所定時間T
1以内に負の所定値以下になった場合に、減速条件が成立したものと判断される。このように、閉じ制御が開始される条件を段階的に判定することで、車両の変速操作が予想される状態であるか否かを精度よく判断することができ、変速操作後のレスポンスの低下を抑制することができる。また、変速操作時以外では、上記の閉じ制御が誤って開始されてしまうことを防止することができ、通常のEGR制御を実施して排気浄化性を高めることができる。
【0080】
(3)上記のエンジン制御装置1では、減速条件の成立後、アクセルオフ条件が成立した場合に、閉じ制御の実施時間が延長される。このように、減速後のアクセルオフ条件に基づく開度制御により、車両の変速操作が予想される状態であるか否かを精度よく判断することができ、例えば、通常の減速操作と変速操作前に実施される減速操作とを精度よく区別することができる。したがって、変速操作時のレスポンスの低下を抑制しつつ、変速操作時以外の排気浄化性を向上させることができる。
【0081】
(4)上記のエンジン制御装置1では、減速条件の成立から所定時間T
2が経過するまでの間にアクセルオフ条件が成立しない場合には閉じ制御が終了し、通常のEGR制御が開始される。このように、減速条件が成立してからアクセルオフ条件が成立するまでの時間に制限を設けることで、変速操作と変速以外の操作とを精度よく区別してEGRシステムを制御することができる。したがって、変速操作時のレスポンスの低下を抑制しつつ、変速操作時以外の排気浄化性を向上させることができる。
【0082】
(5)上記のエンジン制御装置1では、アクセルオフ条件の成立後、加速条件が成立した場合に、閉じ制御の実施時間がさらに延長される。このように、アクセルオフ後の加速条件に基づく開度制御により、車両の変速操作がなされた状態であるか否かを精度よく判断することができ、例えば、通常の加速操作と変速操作後に実施される加速操作とを精度よく区別することができる。したがって、変速操作に伴うレスポンスの低下を抑制しつつ、変速操作時以外の排気浄化性を向上させることができる。
【0083】
(6)上記のエンジン制御装置1では、アクセルオフ条件の成立から所定時間T
3が経過するまでの間に加速条件が成立した場合に、閉じ制御が継続される。一方、所定時間T
3が経過するまでの間に加速条件が成立しない場合には閉じ制御が終了し、通常のEGR制御が開始される。このように、アクセルオフ条件が成立してから加速条件が成立するまでの時間に制限を設けることで、変速操作後の加速操作と変速操作以外の加速操作とを精度よく区別してEGRシステムを制御することができる。したがって、変速操作時のレスポンスの低下を抑制しつつ、変速操作時以外の排気浄化性を向上させることができる。
【0084】
(7)上記のエンジン制御装置1では、加速条件が成立してから所定時間T
4が経過するまでの間は、閉じ制御が継続される。これにより、加速中におけるシリンダ内の吸気酸素濃度Dが高いままの状態となり、レスポンスの低下を抑制することができる。また、エンジントルクが上昇しつつある状態で通常のEGR制御を開始すると、吸気管内の吸気の状態が不安定になる場合がある。これに対して本実施形態では、加速条件が成立してから所定時間T
4が経過するまでは、通常のEGR制御が実施されないため、吸気管内の安定性が向上し、早期に定常状態に近づけることができる。
【0085】
また、車両が加速するに連れてエンジン10に要求されるトルクTQが増加する。一方、通常のEGR制御で設定されるEGR量は、
図2に示すように、トルクTQが大きいほど減少する。つまり、加速条件が成立した後の閉じ制御の実施期間を確保すれば、その閉じ制御が終了した時点でのEGR量が減少する。したがって、通常のEGR制御と閉じ制御との切り替えに伴うEGR量の急変を抑制することができ、エンジン10の燃焼安定性を向上させることができる。
【0086】
(8)上記のエンジン制御装置1では、減速判定,アクセルオフ判定,加速判定の各々の判定有効期間T
2,T
3,T
4の大小関係がT
2<T
4<T
3とされる。
減速判定後の所定時間T
2を短く設定することで、例えばアクセルオフに至らない通常のアクセル踏み戻し操作とアクセルオフ操作とを峻別しやすくなり、誤判定を回避することができる。なお、減速条件の成立時に開始される閉じ制御では、エンジン出力の応答性が改善される代わりに排気性能が低下しうる。一方、減速判定後のアクセルオフ判定が許容される時間を短くすることで、排気性能が低下しうる時間を短縮することができ、排気浄化性を向上させることができる。
【0087】
また、アクセルオフ判定後の所定時間T
3を長く設定することで、例えばクラッチ操作やシフトレバー,セレクトレバー等の傾倒操作の間も閉じ制御を継続させることができ、その後の加速操作のために吸気酸素濃度Dを高めておくことができる。したがって、変速操作時のレスポンスの低下を抑制することができる。
【0088】
(9)上記のエンジン制御装置1では、
図7に示すように、加速条件が不成立であっても中加速条件が成立すれば、通常のEGR制御の代わりに弱閉じ制御が実施される。つまり、変速操作後における運転手の加速要求の大きさが二段階に判定される。弱閉じ制御では、通常のEGR制御時よりもEGR量が少なく、かつ、閉じ制御時よりはEGR量が多くなるように、EGR弁開度が制御される。これにより、加速条件の成立時と比較して、吸気酸素濃度Dを低下させることができ、排気浄化性を向上させることができる。
【0089】
なお、アクセルペダルの踏み込みが弱いほど、エンジン10に要求されるトルクTQが増加しにくい。一方、本実施形態では、加速条件が成立してから所定時間T
4が経過した後、あるいは、中加速条件が成立してから所定時間T
5が経過した後には、通常のEGR制御が開始される。このとき設定されるEGR量は、トルクTQが小さいほど増大する。そのため、アクセルペダルの踏み込みが弱い状態でEGR弁開度を閉じたままにしておくと、通常のEGR制御を開始する際にEGR量が急変する可能性が生じる。これに対して、アクセルオフ判定後の判定条件として二種類の条件を設定しておき、中加速条件の成立時にEGR量をわずかに増加させておくことで、このようなEGR量の急変を緩和することができる。
【0090】
[6.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0091】
上述の実施形態では、デュアルループEGRシステムを具備したディーゼルエンジンの制御について詳述したが、この制御はガソリンエンジンにも適用することができる。少なくとも、エンジンの吸気系と排気系とを接続するEGR通路を備え、EGR通路上のEGR弁の開度を制御することでEGR量を調節するEGRシステムを具備したエンジンであれば、上述の実施形態と同様の制御を実現することができ、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【0092】
上述の実施形態では、制御マップで運転点と制御内容との対応関係が定められるものを例示したが、この制御マップは省略可能である。例えば、上述の実施形態における「通常のEGR制御」では、公知の各種技術に基づいてEGR量やEGR弁22,26の開度を設定することができる。また、上述の実施形態における「閉じ制御」では、少なくともその「通常のEGR制御」よりもEGR量が少なくなるように、EGR弁22,26の開度を設定すればよい。
【0093】
上述の実施形態における条件1〜条件16には、車速V,アクセル開度APS及び時間に関する条件のみが列挙されているが、他の条件を追加することも考えられる。例えば、エンジン10に要求されるトルクTQやエンジン負荷Ec,エンジン回転数Ne,過給圧P,吸気酸素濃度D等の情報を併用してもよいし、シフトレバーの操作位置SPに応じて条件の内容を変更してもよい。