特許第6492662号(P6492662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6492662不織布、分離膜支持体、分離膜、流体分離素子および不織布の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492662
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】不織布、分離膜支持体、分離膜、流体分離素子および不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20190325BHJP
   D04H 3/011 20120101ALI20190325BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20190325BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20190325BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   D04H3/16
   D04H3/011
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/48
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-551450(P2014-551450)
(86)(22)【出願日】2014年9月24日
(86)【国際出願番号】JP2014075220
(87)【国際公開番号】WO2015046215
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-199848(P2013-199848)
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】羽根 亮一
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】矢掛 善和
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−071106(JP,A)
【文献】 特開2012−040546(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/125583(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの面の平滑度の差が10秒以上50秒以下であり、沸騰水中で5分間処理した後の沸騰水カール高さが0mm以上8.0mm以下であり、スパンボンド不織布であり、可動非晶量が35%以上70%以下であるポリエステル繊維からなることを特徴とする不織布。
【請求項2】
高融点重合体の周りに、該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合型繊維からなり、該高融点重合体と該低融点重合体との融点差が10℃以上140℃以下であり、該複合型繊維中に該高融点重合体が50質量%以上90質量%以下含まれてなる請求項1記載の不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載の不織布からなる分離膜支持体。
【請求項4】
請求項記載の分離膜支持体の表面上に、分離機能を有する膜を形成してなる分離膜。
【請求項5】
請求項記載の分離膜を構成要素として含む流体分離素子。
【請求項6】
請求項1または2に記載の不織布を製造する方法であって、可動非晶量が35%以上70%以下であるポリエステル繊維からなる不織布シートを、1対のフラットロールで熱圧着することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項7】
前記可動非晶量が40%以上70%以下である、請求項記載の不織布の製造方法。
【請求項8】
不織布シートがフラットロールで予備熱圧着された充填密度0.1以上0.3以下の不織布シートであり、該予備熱圧着に用いられるフラットロールの温度は不織布シートを構成する繊維の融点よりも低く、予備熱圧着におけるフラットロールの温度と不織布シートを構成する繊維の融点との差が30℃以上130℃以下である請求項または記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの面の非対称性を有しながら高温条件下において反りが小さく、寸法安定性に優れた不織布に関するものであって、特に、逆浸透膜等の分離膜支持体等の用途に好適に用いることができる不織布に関するものである。また、本発明は、その不織布を用いた分離膜支持体と、その分離膜支持体を用いた分離膜、その分離膜を用いた流体分離素子および不織布の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の水処理には、多くの場合において膜技術が適用されている。例えば、浄水場での水処理には、精密ろ過膜や限外ろ過膜が用いられており、また海水の淡水化には、逆浸透膜が用いられている。また、半導体製造用水、ボイラー用水、医療用水およびラボ用純水等の処理には、逆浸透膜やナノろ過膜が用いられている。さらに、下廃水の処理には、精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いた膜分離活性汚泥法も適用されている。
【0003】
これらの分離膜は、その形状から平膜と中空糸膜に大別される。これらの分離膜のうち、主に合成重合体から形成される平膜は、分離機能を有する膜単体では機械的強度に劣るため、一般に不織布や織布等の分離膜支持体と一体化して使用されることが多い。
【0004】
一般に、分離機能を有する膜と分離膜支持体は、不織布や織布等の分離膜支持体上に、分離機能を有する膜の原料となる高分子重合体の溶液を流延して固着させる方法により一体化される。また、逆浸透膜等の半透膜においては、不織布や織布等の分離膜支持体上に高分子重合体の溶液を流延し支持層を形成させた後に、その支持層上に半透膜を形成させる方法等により一体化される。
【0005】
したがって、分離膜支持体として使用される不織布には、高分子重合体の溶液を流延した際にそれが過浸透により裏抜けしたり、膜物質が剥離したり、さらには不織布の毛羽立ち等により膜の不均一化やピンホール等の欠点が生じたりすることがないような優れた製膜性が要求される。また、高い歩留まりで安定して分離膜を製造するために、分離膜製造工程中で支持体として使用される不織布には、高分子重合体の溶液を流延した際にそれが過浸透により裏抜けしたり、不織布にかかる熱や張力に対し、変形しにくくするための高い寸法安定性も要求される。
【0006】
また、分離膜の取り扱いを容易にするための流体分離素子の形態としては、平膜のプレートフレーム型、プリーツ型およびスパイラル型等の流体分離素子が挙げられる。例えば、プレートフレーム型の流体分離素子であれば、所定の大きさにカットした分離膜をフレームに取り付ける工程が必要であり、またスパイラル型の流体分離素子であれば、所定の大きさにカットした分離膜同士の外周部を貼り合わせて封筒状に加工し集水管の周りに巻き付ける工程が必要である。そのため、分離膜支持体として使用される不織布には、これらの工程で膜が折れ曲がったり、丸まったりすることがないような優れた加工性が要求される。
【0007】
さらに、高圧下で使用されることが多い逆浸透膜等の半透膜の場合は、特に、支持体として使用される不織布には高い機械的強度が要求される。
【0008】
従来、このような不織布からなる分離膜支持体として、太い繊維を使用した目開きおよび表面粗度の大きな表面層と、細い繊維を使用した目開きが小で緻密な構造を有する裏面層との二重構造を基本とした多層構造体の不織布からなる分離膜支持体が提案されている(特許文献1参照。)。
【0009】
また別に、合成樹脂細繊維からなる主体繊維とバインダー繊維とからなり、抄紙後加熱加圧処理して製造される不織布であって、抄紙流れ方向と幅方向の引張強度比が2:1〜1:1にある半透膜支持体が提案されている(特許文献2参照。)。また、不織布からなる分離膜支持体において、分離膜の製膜面側に配置される繊維が、分離膜の非製膜面側に配置される繊維よりも横配向である不織布からなる分離膜支持体が提案されている(特許文献3参照。)。
【0010】
これらの文献には、分離膜製造時の製膜性、製膜後の凝固や洗浄槽通過時の加工性、および流体分離素子製造時の加工性については提案や記載があり、また、分離膜支持体上で分離膜等が凝固し収縮する際の支持体の変形を抑制することについても言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平4−21526号公報
【特許文献2】特開2002−95937号公報
【特許文献3】特開2011−161344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の従来技術では、分離膜や流体分離素子を製造する際に、その製造工程中で分離膜支持体である不織布が受ける熱に対して、高い歩留まりで安定して製造するための具体的な提案や記載はなかった。
【0013】
そこで本発明の目的は、逆浸透膜等の分離膜支持体として用いた際に、製膜時および流体分離素子製造時に受ける熱に対しても高い歩留まりで安定した加工性を有することに加え、優れた機械的強度を有する不織布を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、上記の不織布を用いた分離膜支持体、それを用いた分離膜および流体分離素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであり、本発明の不織布は、2つの面の平滑度の差が10秒以上50秒以下であり、沸騰水中で5分間処理した後の沸騰水カール高さが0mm以上8.0mm以下であることを特徴とする不織布である。
【0016】
本発明の不織布の好ましい態様によれば、前記の不織布は、高融点重合体の周りに、該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合型繊維からなり、該高融点重合体と該低融点重合体との融点差が10℃以上140℃以下であり、該複合型繊維中に該高融点重合体が50質量%以上90質量%以下含まれてなる不織布である。
【0017】
本発明の不織布の好ましい態様によれば前記の不織布は、スパンボンド不織布である。
【0018】
本発明の分離膜支持体は、前記の不織布からなる分離膜支持体である。
【0019】
本発明の分離膜は、前記の分離膜支持体の表面上に、分離機能を有する膜を形成してなる分離膜である。
【0020】
本発明の流体分離素子は、前記の分離膜を構成要素として含む流体分離素子である。
【0021】
本発明の不織布の製造方法は、前記の不織布の製造方法であって、可動非晶量が10%以上70%以下であるポリエステル繊維からなる不織布シートを、1対のフラットロールで熱圧着する不織布の製造方法である。
【0022】
本発明の不織布の製造方法の好ましい態様によれば、前記の可動非晶量が40%以上70%以下である不織布の製造方法である。
【0023】
本発明の不織布の製造方法の好ましい態様によれば、前記の不織布シートがフラットロール間で予備熱圧着された充填密度0.1以上0.3以下の不織布シートであり、該予備熱圧着におけるフラットロールの温度と不織布シートを構成する繊維の融点との差が30℃以上130℃以下である不織布の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、逆浸透膜等の分離膜支持体として使用した際の、流延した高分子重合体溶液が過浸透により裏抜けしたり、膜物質が剥離したり、ピンホール等の欠点が生じたり、膜が折れ曲がったり丸まったりすることがない優れた製膜性と、流体分離素子製造時に膜が折れ曲がったり、丸まったりすることがないような優れた加工性を有することに加え、分離膜や流体分離素子として使用したときにかかる圧力等で変形したり、破断したりすることのない優れた機械的強度を有する不織布が得られる。
【0025】
このように、本発明の不織布は、逆浸透膜等の分離膜支持体として好適に用いられる
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の不織布は、2つの面の平滑度の差が10秒以上50秒以下であり、沸騰水中で5分間処理した後の沸騰水カール高さが0mm以上8.0mm以下の不織布である。
【0027】
本発明の不織布を構成する繊維のポリマーとしては、例えば、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、あるいはこれらの混合物や共重合体等を挙げることができる。中でも、より機械的強度、耐熱性、耐水性および耐薬品性等の耐久性に優れた分離膜支持体を得ることができることから、ポリエステル系重合体が好ましく用いられる。
【0028】
ポリエステル系重合体は、酸成分とアルコール成分からなるポリエステルである。酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸およびフタル酸等の芳香族カルボン酸、アジピン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、およびシクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を用いることができる。また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびポリエチレングリコール等を用いることができる。
【0029】
ポリエステル系重合体の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネート等、またこれらの共重合体を挙げることができ、中でも、ポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0030】
また、生分解性ポリマー(樹脂)も、用済み後の廃棄が容易であり環境負荷が小さいことから、不織布を構成する繊維のポリマーとして用いることができる。生分解性樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸およびポリヒドロキシブチレート等が挙げられる。生分解性のなかでポリ乳酸は、石油資源を枯渇させない植物由来の樹脂であり、力学特性や耐熱性も比較的高く、製造コストの低い生分解性樹脂であり好ましく用いられる。特に好ましく用いられるポリ乳酸としては、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、あるいはこれらのブレンド体が挙げられる。
【0031】
また、本発明の不織布を構成する繊維は、単一成分からなる繊維でも、複数成分からなる複合型繊維でも、複数種の繊維を混合したいわゆる混繊型の繊維でもよいが、本発明の不織布においては、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合型繊維が、特に好ましく用いられる。
【0032】
このような複合型繊維を用いることにより、不織布製造時の熱圧着により不織布における繊維同士が強固に接着するため、不織布の2つの面の平滑度の差を大きくした際にも、沸騰水カール高さを8.0mm以下とすることができ、不織布使用時に熱がかかった場合でも不織布が折れ曲がったり丸まったりする変形を抑制することができる。また、不織布を分離膜支持体として使用した際、毛羽立ちによる高分子溶液流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。また、高融点重合体のみからなる繊維と低融点重合体のみからなる繊維を混合した混繊型に比べ、接着点の数も多くなるため、機械的強度の向上につながる。
【0033】
上記の複合型繊維を構成する高融点重合体と低融点重合体との融点差は、10℃以上140℃以下であることが好ましい。融点差を好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上とすることにより、中心部に配した高融点重合体の強度を損なうことなく、機械的強度の向上に資する熱接着性を得ることができる。また、不織布使用時にかかる熱に対する変形を抑制することができる。一方、融点差を好ましくは140℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下とすることにより、熱ロールを用いた熱圧着時に該ロールに低融点重合体成分が融着して生産性が低下することを抑制することができる。
【0034】
高融点重合体の融点は、本発明の不織布を分離膜支持体として使用した際に、分離膜支持体上に分離膜を形成するときの製膜性が良好であり、耐久性に優れる分離膜を得ることができるという観点から、160℃以上320℃以下であることが好ましい。高融点重合体の融点を好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上とすることにより、分離膜または流体分離素子製造時に熱が加わる工程を通過しても寸法安定性に優れる。一方、高融点重合体の融点を好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下とすることにより、不織布製造時に溶融するための熱エネルギーを多大に消費し生産性が低下することを抑制することができる。
【0035】
また、低融点重合体の融点は、120℃以上250℃以下が好ましく、より好ましくは140℃以上240℃以下であり、さらに好ましくは230℃以上240℃以下である。
【0036】
高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合型繊維中に含まれる該高融点重合体は、50質量%以上90質量%以下含まれてなることが好ましい。複合型繊維中に含まれる高融点重合体を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上とすることにより、不織布使用時にかかる熱に対する変形を抑制することができる。一方、複合型繊維中に含まれる高融点重合体を90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下とすることにより、不織布の機械的強度の向上に資する熱接着性を得ることができ、また不織布の2つの面の平滑度の差を大きくした際にも、沸騰水カール高さを8.0mm以下とすることができ、不織布使用時に熱がかかった場合でも不織布が折れ曲がったり丸まったりする変形を抑制することができる。
【0037】
また、高融点重合体および低融点重合体の組み合わせ(高融点重合体/低融点重合体)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリ乳酸、およびポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエチレンテレフタレート等の組み合わせを挙げることができる。また、ここに共重合ポリエチレンテレフタレートの共重合成分としては、イソフタル酸等が好ましく用いられ、中でも特に、ポリエチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートの組み合わせが好ましく用いられる。
【0038】
不織布を構成する繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤、艶消し剤、滑剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤および難燃剤等の添加剤を添加することができる。中でも、酸化チタン等の金属酸化物は、繊維の表面摩擦を低減し繊維同士の融着を防ぐことにより紡糸性を向上し、また不織布の熱ロールによる熱圧着成形の際、熱伝導性を増すことにより不織布の接着性を向上させる効果がある。また、エチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドは、熱ロールとウエブ間の離型性を増すことにより、接着安定性を向上させる効果がある。
【0039】
複合型繊維の複合形態としては、効率的に繊維同士の熱接着点を得られる点から、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型および海島型等の複合形態を挙げることができる。
【0040】
また、不織布を構成する繊維の横断面形状としては、円形断面、扁平断面、多角形断面、多葉断面および中空断面等を挙げることができる。
【0041】
なかでも、複合形態としては、同心芯鞘型を、繊維の横断面形状としては円形断面や扁平断面とすることが好ましく、このような複合形態とすることにより、熱圧着により繊維同士を強固に接着させることができ、さらには不織布の厚さを低減し、分離膜支持体として使用した場合に流体分離素子ユニットあたりの分離膜面積を増大させることができる。
【0042】
不織布を構成する繊維の平均単繊維直径は、3μm以上30μm以下であることが好ましい。繊維の平均単繊維直径を好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは7μm以上とすることにより、不織布製造時に紡糸性が低下することが少なく、また不織布を分離膜支持体として使用した際に支持体内部の空隙を維持できるため製膜時に流延させた高分子重合体溶液が分離膜支持体内部に速やかに浸透し、優れた製膜性を得ることができる。一方、繊維の平均単繊維直径を好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下とすることにより、少なくとも片面の平滑度が10秒以上であり、均一性に優れた不織布を得ることができる。また熱接着により不織布を強固に一体化でき、不織布の2つの面の平滑度の差を大きくした際にも、沸騰水カール高さを8.0mm以下とすることができ、不織布使用時に熱がかかった場合でも不織布が折れ曲がったり丸まったりする変形を抑制することができる。
【0043】
本発明の不織布としては、スパンボンド法によって製造したスパンボンド不織布であることが好ましい。熱可塑性フィラメントから構成された長繊維不織布であるスパンボンド不織布は、分離膜支持体として使用した際、短繊維不織布を用いたときに起こりやすい、毛羽立ちによって生じる高分子重合体溶液流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。また、スパンボンド不織布は、機械的強度により優れていて、分離膜支持体として使用した際に耐久性に優れる分離膜を得ることもできるという観点からも好ましく用いられる。
【0044】
また、本発明の不織布を複数層からなる積層不織布とすることができる。積層不織布とすることにより、より均一性に優れた不織布を得ることができ、さらに不織布の厚さ方向の密度分布や、不織布の2つの面の平滑度の調整も容易にできる。
【0045】
不織布の積層体の態様としては、例えば、2層のスパンボンド不織布の積層体や、2層のスパンボンド不織布の層間にメルトブロー不織布を配した3層構造の積層体等を挙げることができる。中でも、機械的強度に優れる点から、少なくとも1層はスパンボンド不織布であることが好ましく、スパンボンド不織布のみからなることがより好ましい態様である。
【0046】
本発明の不織布の目付は、20g/m以上150g/m以下であることが好ましい。目付を好ましくは20g/m以上、より好ましくは30g/m以上、さらに好ましくは40g/m以上とすることにより、不織布を分離膜支持体として使用した際に、高分子溶液流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができ、寸法安定性にも優れ、高い膜剥離強度および機械的強度を有し耐久性に優れた分離膜を得ることができる。一方、目付を好ましくは150g/m以下、より好ましくは120g/m以下、さらに好ましくは90g/m以下とすることにより、不織布を分離膜支持体として使用した際に、分離膜の厚さを低減し、流体分離素子ユニットあたりの分離膜面積を増大させることができる。
【0047】
本発明の不織布の厚さは、0.03mm以上0.20mm以下であることが好ましい。不織布の厚さを好ましくは0.03mm以上、より好ましくは0.04mm以上、さらに好ましくは0.05mm以上とすることにより、不織布を分離膜支持体として使用した際に、高分子溶液流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができ、また高い寸法安定性を有するため分離膜製造工程中の寸法変化が小さく、製膜後のカールや折れ曲がりを抑制し流体分離素子製造時の優れた加工性を得ることができ、高い機械的強度を有し耐久性に優れた分離膜を得ることができる。一方、不織布の厚さを好ましくは0.20mm以下、より好ましくは0.16mm以下、さらに好ましくは0.12mm以下とすることにより、不織布を分離膜支持体として使用した際に、分離膜の厚さを低減し、流体分離素子ユニットあたりの分離膜面積を増大させることができる。
【0048】
本発明の不織布は、2つの面の、JIS P8119(1998年版)により測定される平滑度の差が10秒以上50秒以下であることが重要である。不織布を分離膜支持体(以下、支持体という場合がある。)として使用する際は、平滑度の数値が大きい、すなわち、より平滑な面を製膜面(表面)とすることが好ましい。分離膜製造時は、支持体表面へ高分子溶液を流延し、支持体裏面から水を主成分とする凝固液を浸透させることで高分子溶液を凝固させ、支持体と一体化させる製膜法が広く適用されている。このとき、2つの面の平滑度の差を10秒以上にすることにより、支持体裏面から凝固液を速やかに浸透させ、支持体表面に流延した高分子溶液が支持体の裏面へ達する前に凝固させることができる。一方、2つの面の平滑度の差を50秒以下とすることにより、支持体裏面から浸透した凝固液が支持体表面に達する前に、高分子溶液が支持体表面から内部へ十分に浸透し、形成した分離膜の膜剥離強度を向上させることができる。不織布の2つの面の平滑度の差は15秒以上であることが好ましく、より好ましくは20秒以上である。また、40秒以下であることが好ましく、より好ましくは30秒以下である。
【0049】
また、本発明の不織布の平滑度は、5秒以上80秒以下であることが好ましく、より好ましくは10秒以上であり、さらに好ましくは15秒以上である。また、より好ましくは70秒以下であり、さらに好ましくは60秒以下である。不織布の平滑度を好ましくは5秒以上とすることにより、不織布を分離膜支持体として使用した際、支持体上に流延した高分子溶液や、凝固液が支持体内部へ過度に浸透することを抑制し優れた製膜性を得ることができる。一方、不織布の平滑度を好ましくは80秒以下とすることにより、不織布を分離膜支持体として使用した際、支持体表面または支持体裏面が過度に平滑化することで生じる高分子溶液や凝固液の支持体内部への浸透不足を抑制することができる。
【0050】
さらに本発明の不織布は、沸騰水中で5分間処理した後の沸騰水カール高さが0mm以上8.0mm以下であることが重要である。不織布を分離膜支持体として使用した際、分離膜製造時には工程中で温水洗浄や乾燥等、また流体分離素子製造工程においても乾燥等により熱を受けることが多い。そのため、不織布の沸騰水カール高さを8.0mm以下、好ましくは6.0mm以下、より好ましくは4.0mm以下とすることにより、それらの熱を受けたときに膜が折れ曲がったり丸まったりすることがなく、寸法安定性に優れ良好な製膜性や加工性を得ることができる。
【0051】
本発明でいう沸騰水カール高さとは、不織布の任意の部分から縦25cm×横25cmのサンプルを3個採取し、沸騰水中に5分間浸漬してから取り出し、平らな台上で不織布の平滑度が大きい面を上にして自然乾燥した後、3個のサンプルそれぞれについて両側辺の中央部の高さ(台との距離)を0.5mm単位で測定し、それらを平均して求めたものである。
【0052】
次に、特に本発明の分離膜支持体として好適に用いられる不織布の製造方法について例示説明する。
【0053】
本発明において、不織布を構成する繊維として芯鞘型等の複合型繊維を用いる場合、複合型繊維の製造には通常の複合方法を採用することができる。
【0054】
不織布を製造する方法として、スパンボンド法の場合は、溶融した熱可塑性重合体をノズルから押し出し、これを高速吸引ガスにより吸引延伸して紡糸した後、移動コンベア上に繊維を捕集して繊維ウエブとし、さらに連続的に熱圧着等を施すことにより一体化して、長繊維不織布を製造することができる。このとき、熱圧着時に繊維が過度に収縮することによるシワ等が発生せず良好な加工性を得ることができ、また不織布の機械的強度に資する繊維の強度も向上するという観点から、繊維ウエブを構成する繊維をより高度に配向結晶化させるため、紡糸速度は3000m/分以上とすることが好ましく、紡糸速度はより好ましくは3500m/分以上であり、さらに好ましくは4000m/分以上である。
【0055】
また、繊維の過度の配向結晶化を抑制することにより、不織布の機械的強度の向上に資する熱接着性を得ることができ、また不織布の2つの面の平滑度の差を大きくした際にも、不織布使用時に熱がかかった場合でも不織布が折れ曲がったり丸まったりする変形を抑制することができることから、紡糸速度は5500m/分以下が好ましく、より好ましくは5000m/分以下であり、さらに好ましくは4500m/分以下である。
【0056】
また、不織布を製造する方法としてスパンボンド法を採用する場合、高速吸引ガスにより吸引延伸する前の繊維の温度を、40℃以上80℃以下とすることが好ましく、50℃以上70℃以下とすることがより好ましい。高速吸引ガスにより吸引延伸する前の繊維の温度を40℃以上とすることにより、紡糸時の糸切れを抑制することができる。また高速吸引ガスにより吸引延伸する前の繊維の温度を80℃以下とすることにより、後述の熱圧着する前のシートを構成するポリエステル繊維の可動非晶量を十分に高くすることができる。
【0057】
不織布を製造する方法として、メルトブロー法を用いる場合は、溶融した熱可塑性重合体に加熱高速ガス流体を吹き当てることにより、該熱可塑性重合体を引き伸ばして極細繊維化し、捕集して長繊維不織布を製造することができる。
【0058】
また、短繊維不織布であれば、長繊維をカットして短繊維とし、乾式法や湿式法により不織布とする方法が好ましく用いられる。
【0059】
また、前述した不織布の積層体(積層不織布)の製造方法としては、例えば、2層の不織布からなる積層体の製造方法の場合は、1対のロールで得た仮接着状態の不織布を2層重ね合わせた後、熱圧着により一体化する方法を好ましく用いることができる。また、2層のスパンボンド不織布の層間にメルトブロー不織布を配した3層構造の積層体の製造方法としては、1対のロールで得た仮接着状態のスパンボンド不織布2層の間に、別ラインで製造したメルトブロー不織布を挟むように重ね合わせた後、熱圧着により一体化する方法や、一連の捕集コンベア上部に配されたスパンボンド用ノズル、メルトブロー用ノズル、スパンボンド用ノズルからそれぞれ押し出され、繊維化されたウエブを順に捕集、積層し、熱圧着する方法を好ましく用いることができる。
【0060】
乾式短繊維不織布や抄紙不織布の場合は、一旦巻き取った不織布を複数層重ね合わせた後、熱圧着により一体化する方法を好ましく用いることができる。
【0061】
ここで、不織布を一体化するための熱圧着の方法としては、不織布の少なくとも片面の平滑度を10秒以上とするため、上下1対のフラットロールにより不織布全面を均一に熱圧着し一体化する方法を好ましく用いることができる。このフラットロールとは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、金属製ロールと金属製ロールを対にしたり、金属製ロールと弾性ロールを対にしたりして用いることができる。特に、上下1対のフラットロールに温度差を設けることにより、2つの面の平滑度の差が10秒以上50秒以下である不織布を得ることができ、かつ不織布の表面の繊維の融着を抑え、形態を保持することにより、不織布を分離膜支持体として使用した際に分離膜製造工程中の寸法変化が小さくすることができることから、不織布を、金属製ロールと、金属製ロールよりも表面温度が低い弾性ロールとにより熱圧着する方式がより好ましく用いられる。
【0062】
ここで弾性ロールとは、金属製ロールと比較して弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールとしては、ペーパー、コットンおよびアラミドペーパー等のいわゆるペーパーロールや、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム等や、これらの混合物からなる樹脂製ロール等が挙げられる。
【0063】
弾性ロールの硬度(Shore D)は、70以上91以下であることが好ましい。弾性ロールの硬度(Shore D)を好ましくは70以上、より好ましくは73以上、さらに好ましくは76以上とすることにより、不織布の弾性ロールと接触した面の平滑度を10秒以上とすることができる。一方、弾性ロールの硬度(Shore D)を好ましくは91以下、より好ましくは86以下、さらに好ましくは81以下とすることにより、不織布の弾性ロールと接触した面の平滑度が過度に向上することを抑制し、2つの面の平滑度の差が10秒以上50秒以下である不織布を得ることができる。
【0064】
また、2本以上のフラットロールの構成としては、金属/弾性ロールの組み合わせを製造工程中で連続して、または非連続で2組以上用いる2本ロール×2組方式、2本ロール×3組方式や、弾性/金属/弾性、弾性/金属/金属、および金属/弾性/金属等の3本ロール方式等の組み合わせも好ましく用いることができる。
【0065】
2本ロール×2組方式の組み合わせの場合、不織布に対して2度熱と圧力を加えることができるため、不織布の特性のコントロールが容易になり、製造する際の速度を上げることも可能となる。また、1組目と2組目の弾性ロール接触面の反転が容易なため不織布の2つの面の表面特性のコントロールもしやすくなる。
【0066】
一方、3本ロール方式の組み合わせの場合、例えば、弾性1/金属/弾性2の弾性1/金属ロール間で熱圧着した不織布を折り返して、金属/弾性2ロール間でさらに熱圧着することにより、上記2本ロール×2組方式と同じように不織布に対して2度熱と圧力を加えることができる上、連続した2本ロール×2組方式に比べ設備費の抑制や省スペース化が可能となる。
【0067】
これらの弾性ロールを2本以上使用する製造方法においては、不織布と1段目に接触する弾性ロールと2段目に接触する弾性ロールの硬度(Shore D)を変更させても構わない。
【0068】
熱圧着に用いる金属ロールの表面温度は不織布を構成する繊維の少なくとも表面を構成する高分子重合体の融点よりも低いことが好ましく、金属ロールの表面温度と不織布を構成する繊維の少なくとも表面を構成する高分子重合体の融点との差は20℃以上80℃以下であることがより好ましい。金属ロールの表面温度と不織布を構成する繊維の少なくとも表面を構成する高分子重合体の融点との差が20℃以上であれば、不織布表面繊維の過度の融着を抑制することができ、不織布を分離膜支持体として使用した際に高分子重合体溶液が浸透しやすくなり、膜剥離強度に優れた分離膜支持体を得ることができる。
【0069】
一方、金属ロールの表面温度と不織布を構成する繊維の少なくとも表面を構成する高分子重合体の融点との差を好ましくは80℃以下、より好ましくは40℃以下とすることにより、不織布を構成する繊維同士を強固に接着させ、不織布の沸騰水カール高さを8.0mm以下とすることができる。また、不織布の金属ロールと接触した面の平滑度を20秒以上とすることができ、また高密度化することにより機械的強度に優れた不織布を得ることができる。
【0070】
さらに、上記のとおり、不織布を加熱した金属製ロールと、金属製ロールよりも表面温度が低い弾性ロールにより熱圧着する方式がより好ましい。金属ロールの表面温度と弾性ロールの表面温度との差を10℃以上120℃以下とすることはより好ましい態様である。金属ロールの表面温度と弾性ロールの表面温度との差を20℃以上100℃以下とすることがより好ましく、30℃以上80℃以下とすることがさらに好ましい態様である。
【0071】
金属ロールの加熱方式としては、誘導発熱方式や熱媒循環方式等を好ましく用いることができるが、均一性に優れた分離膜支持体が得られることから、不織布幅方向の温度差は中心値に対して±3℃以内であることが好ましく、より好ましくは±2℃以内である。
【0072】
弾性ロールの加熱方式としては、加圧時に加熱した金属ロールと接触することにより加熱される接触加熱方式や、より厳密に弾性ロールの表面温度をコントロールできる、赤外線ヒーター等を使用した非接触加熱方式等を好ましく用いることができる。
【0073】
弾性ロールの不織布幅方向の温度差は、中心値に対して±10℃以内であることが好ましく、より好ましくは±5℃以内である。弾性ロールの不織布幅方向の温度差をさらに厳密にコントロールするには、赤外線ヒーター等を幅方向に分割して設置し、それぞれの出力を調整することができる。
【0074】
また、フラットロールの線圧は、196N/cm以上4900N/cm以下であることが好ましい。フラットロールの線圧を好ましくは196N/cm以上、より好ましくは490N/cm以上、さらに好ましくは980N/cm以上とすることにより、不織布を構成する繊維同士を強固に接着させ、不織布の沸騰水カール高さを8.0mm以下とすることができる。また、高密度化することにより機械的強度に優れた不織布を得ることができる。一方、フラットロールの線圧を好ましくは4900N/cm以下とすることにより、不織布表面繊維の過度の融着を抑制することができ、不織布を分離膜支持体として使用した際に、高分子重合体溶液の不織布内部への浸透を妨げずに、製膜性に優れた分離膜支持体を得ることができる。
【0075】
本発明の不織布の製造方法は、仮接着状態の不織布が2〜5層積層された仮接着状態の積層不織布層を積層熱圧着により一体化することが好ましい態様である。積層数が2層以上であれば、単層時に比べて地合いが向上し、十分な均一性が得られる。また、積層数が5層以下であれば、積層時にシワが入ることを抑制し、そして層間の剥離を抑制することができる。
【0076】
また、スパンボンド不織布の熱圧着方法としては、1対のフラットロールのみで不織布を熱圧着するのではなく、より精密に不織布の特性をコントロールするために、2段階接着方式を採用することもできる。すなわち、繊維ウエブをを1対のフラットロール間で予備熱圧着して、または1本のフラットロールと繊維ウエブの捕集に用いられる捕集コンベア間で予備熱圧着して、仮接着状態の不織布(以下、不織布シートという場合がある。)を得た後に、連続工程であるいは仮接着状態の不織布を巻き取った後に、さらにそれをもう1度フラットロール間で熱圧着するような2段階接着方式も好ましく用いることができる。
【0077】
この2段階接着方式での1段階目の予備熱圧着においては、2段階目の熱圧着時に不織布をより高密度化できることから、その仮接着状態の不織布(不織布シート)の充填密度を0.1以上0.3以下とすることが好ましい。その際の予備熱圧着に用いられるフラットロールの温度は不織布シートを構成する繊維の融点よりも低いことが好ましく、予備熱圧着に用いられるフラットロールの温度と不織布シートを構成する繊維の融点との差を30℃以上130℃以下にすることが好ましく、60℃以上120℃以下にすることがより好ましく、100℃以上110℃以下にすることがさらに好ましい態様である。
【0078】
予備熱圧着に用いられるフラットロールの温度と不織布シートを構成する繊維の融点との差を30℃以上にすることにより、熱圧着する前の不織布シートを構成するポリエステル繊維の可動非晶量を十分に高くすることができる。一方、予備熱圧着に用いられるフラットロールの温度と不織布シートを構成する繊維の融点との差を130℃以下とすることにより、仮接着状態の不織布シートの毛羽立ち等を抑制し、安定して巻取ることができる。また、1段階目の予備熱圧着に用いられるフラットロールの線圧は49N/cm以上686N/cm以下であることが好ましい。
【0079】
本発明の不織布を製造する方法として、可動非晶量が10%以上70%以下であるポリエステル繊維からなる不織布シートを、1対のフラットロールで熱圧着することも好ましい態様である。1対のフラットロールで熱圧着する前の不織布シートを構成するポリエステル繊維の可動非晶量を好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは40%以上とすることにより、熱圧着時に不織布を構成する繊維同士を強固に接着させ、不織布の沸騰水カール高さを8.0mm以下とすることができ、また高密度化することにより機械的強度に優れた不織布を得ることができる。一方、1対のフラットロールで熱圧着する前の不織布シートを構成するポリエステル繊維の可動非晶量を好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下とすることにより、熱圧着時に繊維が収縮することによるシワ等の発生や、繊維強度が過度に低下し不織布の強度が低下することを抑制することができる。
【0080】
本発明の分離膜とは、上記の不織布からなる分離膜支持体の上に、分離機能を有する膜を形成してなる分離膜である。そのような分離膜の例として、浄水場での水処理や工業プロセス用水の製造等に利用される精密ろ過膜、限外ろ過膜、半導体製造用水、ボイラー用水、医療用水およびラボ用純水等の処理や、海水淡水化処理に利用されるナノろ過膜、および逆浸透膜等の半透膜が挙げられる。
【0081】
分離膜の製造方法としては、上記の分離膜支持体の少なくとも片方の表面上に、高分子重合体溶液を流延して分離機能を有する膜を形成させ分離膜とする方法が好ましく用いられる。このとき、不織布の平滑度が大きい面を製膜面とすることが好ましい。また、分離膜が半透膜の場合は、分離機能を有する膜を支持層と半透膜層を含む複合膜とし、この複合膜を分離膜支持体の少なくとも片方の表面上に積層することも好ましい形態である。
【0082】
本発明の不織布からなる分離膜支持体に流延する高分子重合体溶液は、膜となった際に分離機能を有するものであり、例えば、ポリスルホンやポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンおよび酢酸セルロース等の溶液が好ましく用いられる。中でも特に、化学的、機械的および熱的な安定性の点で、ポリスルホンとポリアリールエーテルスルホンの溶液が好ましく用いられる。溶媒は、膜形成物質に応じて、適宜選定することができる。また、分離膜が分離膜支持体層と半透膜層を含む複合膜の場合の半透膜として、多官能酸ハロゲン化物と多官能アミンとの重縮合等によって得られる架橋ポリアミド膜等が好ましく用いられる。
【0083】
本発明の流体分離素子とは、例えば、海水淡水化装置に組み込む際に取り扱いを容易にするため、上記の分離膜を筐体に納めた流体分離素子である。その形態としては、平膜のプレートフレーム型、プリーツ型およびスパイラル型等の流体分離素子が挙げられる。中でも特に、分離膜が透過液流路材と供給液流路材と共に集水管の周りにスパイラル状に巻き付けられた、スパイラル型の流体分離素子が好ましく用いられる。そして、複数の流体分離素子を直列あるいは並列に接続して、分離膜ユニットとすることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例3は比較例4と読み替えるものとする。
[測定方法]
(1)融点(℃)
ポリマーの融点は、パーキンエルマ社製示差走査型熱量計DSC−2型を用い、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。また、示差走査型熱量計において、融解吸熱曲線が極値を示さない樹脂については、ホットプレート上で加熱し、顕微鏡観察により樹脂が完全に溶融した温度を融点とした。
【0085】
(2)固有粘度(IV)
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、次の方法で測定した。オルソクロロフェノール100mlに対し試料8gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを、下記式により求めた。
・η=η/η=(t×d)/(t×d
ここで、η:ポリマー溶液の粘度
η:オルソクロロフェノールの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:オルソクロロフェノールの落下時間(秒)
:オルソクロロフェノールの密度(g/cm
次いで、相対粘度ηから下記式により、固有粘度(IV)を算出した。
・IV=0.0242η+0.2634。
【0086】
(3)仮接着状態のシートの可動非晶量(%)
可動非晶量は、熱圧着一体化する前の仮接着状態のシートからランダムに試料2点を採取し、温度変調DSC(TA Instruments社製Q1000)を用いて、次の条件と式で測定と可動非晶量を算出し、平均値を算出した。また、完全非晶時の比熱変化量を0.4052J/g℃とした。
・測定雰囲気:窒素流(50ml/分)
・温度範囲 :0〜300℃
・昇温速度 :2℃/分
・試料量 :5mg
・可動非晶量[%]=(ガラス転移温度前後の比熱変化量[J/g℃])/完全非晶時の比熱変化量[J/g℃]×100。
【0087】
(4)平均単繊維直径(μm)
平均単繊維直径は、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の単繊維の直径を測定し、それらの平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して求めた。
【0088】
(5)不織布の目付(g/m
目付は、30cm×50cmの不織布を3個採取して、各試料の質量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算し、小数点以下第一位を四捨五入した。
【0089】
(6)不織布の厚さ(mm)
厚さは、JIS L1906(2000年版)の5.1に基づいて、直径10mmの加圧子を使用し、荷重10kPaで不織布の幅方向1mあたり等間隔に10点を0.01mm単位で厚さを測定し、その平均値の小数点以下第三位を四捨五入した。
【0090】
(7)不織布の充填密度(−)
上記(5)、(6)でそれぞれ求めた目付(g/m)、厚さ(mm)、およびポリマー密度から、下記式を用いて算出し、小数点以下第二位を四捨五入した。
【0091】
充填密度=目付(g/m)÷厚さ(mm)÷10÷ポリマー密度(g/cm
なお、本発明の実施例におけるポリエチレンテレフタレート樹脂、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂のポリマー密度は1.38g/cmとした。
【0092】
(8)不織布の平滑度(秒)
平滑度は、ベック平滑度試験機を用い、JIS P8119(1998年版)に基づいて、不織布の表面、裏面についてそれぞれ5点の測定を実施した。5点の平均値の小数点以下第一位を四捨五入した値を表面と裏面の平滑度とした。ここで分離膜支持体として用いる際の、製膜面を表面、非製膜面を裏面とした。
【0093】
(9)不織布の沸騰水カール高さ(mm)
沸騰水カール高さは、不織布の任意の部分から縦(不織布長さ方向)25cm×横(不織布幅方向)25cmのサンプルを3個採取し、沸騰水中に5分間浸漬してから取り出し、平らな台上で不織布の平滑度が大きい面を上にして自然乾燥する。3個のサンプルそれぞれについて、両側辺の中央部の高さ(台との距離)を0.5mm単位で測定し、それらを平均し、小数点以下第二位を四捨五入して沸騰水カール高さを算出した。
【0094】
(10)不織布の引張強力(N/5cm)
引張強力は、JIS L1913(2010年版)の6.3.1に基づいて、5cm×30cmの不織布サンプルについて、つかみ間隔が20cmで、引張速度10cm/minの条件で、縦方向および横方向それぞれ5点について強力を測定し、破断したときの強力を読み取り、少数点以下第一位を四捨五入した値を縦方向と横方向の引張強力とした。
【0095】
(11)製膜時のキャスト液裏抜け性
キャスト液裏抜け性は、作製したポリスルホン膜の裏面を目視で観察し、キャスト液の裏抜け性について、次の5段階で評価し、4〜5点を合格とした。
5点:キャスト液の裏抜けが全く見られない。
4点:わずかにキャスト液の裏抜けが見られる(面積比率5%未満)。
3点:キャスト液の裏抜けが見られる(面積比率5〜50%)。
2点:大部分でキャスト液の裏抜けが見られる(面積比率51〜80%)。
1点:ほぼ全面でキャスト液の裏抜けが見られる。
【0096】
(12)製膜時の膜折れ曲がり性
膜折れ曲がり性は、製膜時の巻き出しから巻き取りまでの分離膜支持体および膜の状態を目視で観察し、膜折れ曲がり性について、次の5段階で評価し、3〜5点を合格とした。
5点:膜折れ曲がりは全く見られない。
【0097】
4点:全長の10%未満で膜折れ曲がりが見られるが、巻き取りまでに元に戻り、折れ曲がっていない状態で巻き取られる。
【0098】
3点:全長の10〜50%で膜折れ曲がりが見られるが、巻き取りまでに元に戻り、折れ曲がっていない状態で巻き取られる。
【0099】
2点:全長の50%未満で膜折れ曲がりが見られ、折れ曲がった箇所は折れ曲がった状態で巻き取られる。
1点:全長の50%以上に渡って膜が折れ曲がり、折れ曲がった状態で巻き取られる。
【0100】
(13)分離膜落ち込み量(μm)
[流体分離素子]
ポリプロピレン製のネットからなる供給液流路材、海水淡水化用逆浸透膜、耐圧シート、および下記の透過液流路材を用い、有効膜面積40mのスパイラル型の流体分離素子(エレメント)を作製した。
【0101】
[透過液流路材]
溝幅が200μmで、溝深さが150μmで、溝密度が40本/インチで、そして厚さが200μmのポリエステル製シングルトリコット(ダブルデンビー編)を用いた。
【0102】
次に、作製した流体分離素子について、逆浸透圧が7MPaで、海水塩分濃度が3wt%で、運転温度が40℃の各条件で耐久性試験を実施し、1000時間運転後に流体分離素子を解体し、分離膜の透過液流路材への落ち込み量を測定した。落ち込み量は、1つの流体分離素子における任意の3点の分離膜断面について、走査型電子顕微鏡で500〜3000倍の写真を撮影し測定し(単位:μm)、それらの平均値の小数点以下第一位を四捨五入して求めた。分離膜支持体と透過液流路材の重ね合わせる方向は、透過液流路材の溝方向に対し、分離膜支持体の不織布幅方向(横方向)が直交するようにした。
【0103】
[実施例1]
(芯成分)
固有粘度(IV)が0.65、融点が260℃、酸化チタンの含有量が0.3質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂を、水分率10ppmに乾燥したものを芯成分として用いた。
【0104】
(鞘成分)
固有粘度(IV)が0.66、イソフタル酸共重合率が11モル%、融点が230℃、酸化チタンの含有量が0.2質量%の共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を、水分率10ppmに乾燥したものを鞘成分として用いた。
【0105】
(紡糸・繊維ウエブ捕集)
上記の芯成分および鞘成分を、それぞれ295℃と290℃の温度で溶融し、口金温度が300℃条件で、芯成分と鞘成分の質量比率を80/20として、同心芯鞘型(断面円形)に複合して細孔から紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4300m/分で紡糸して、移動するネットコンベアー上に繊維ウエブとして捕集した。
【0106】
(予備熱圧着)
捕集された繊維ウエブを、上下1対の金属製フラットロール間に通し、各フラットロール表面温度が130℃で、線圧が490N/cmで予備熱圧着し、繊維径が10μm、目付が72g/mで、厚さが0.29mmで、可動非晶量が36%の仮接着状態のスパンボンド不織布(a)を得た。
【0107】
(熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(a)を、上が硬度(Shore D)91の樹脂製の弾性ロールで、中が金属ロールで、下が硬度(Shore D)75の樹脂製の弾性ロールの1組の3本フラットロールの中−下間に通して熱圧着し、さらにその不織布を折り返して上−中間を通し熱圧着し、目付が72g/mで、厚さが0.08mmで、表面の平滑度が29秒で、裏面の平滑度が11秒で、沸騰水カール高さが4.6mmのスパンボンド不織布を製造した。このときの3本フラットロールの表面温度は、上が130℃、中が190℃、下が140℃とし、線圧は1862N/cmとした。
【0108】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られたスパンボンド不織布50cm幅×10m長を、12m/minの速度で巻き出し、その上にポリスルホン(ソルベイアドバンスドポリマーズ社製の“Udel”(登録商標)−P3500)の16質量%ジメチルホルムアミド溶液(キャスト液)を45μm厚みで、室温(20℃)でキャストし、ただちに純水中に室温(20℃)で10秒間浸漬した後、75℃の温度の純水中に120秒間浸漬し、続いて90℃の温度の純水中に120秒間浸漬し、100N/全幅の張力で巻き取り、ポリスルホン膜を作製した。このとき、キャスト液の裏抜けがわずかに見られ、また巻き出しから巻き取りの間に膜の折れ曲がりも無く、製膜性は良好であった。結果を表に示す。
【0109】
[実施例2]
目付と厚さを、表のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維径が10μmで、目付が36g/mで、厚さが0.15mmで、可動非晶量が38%の仮接着状態のスパンボンド不織布(b)を得た。
【0110】
(積層熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(b)を2枚重ね合わせ、その積層不織布を、上が硬度(Shore D)91の樹脂製の弾性ロールで、中が金属ロールで、下が硬度(Shore D)75の樹脂製の弾性ロールの1組の3本フラットロールの中−下間に通し熱圧着し、さらにその積層不織布を折り返して上−中間を通し熱圧着し、目付が72g/mで、厚さが0.08mmで、表面の平滑度が35秒で、裏面の平滑度が13秒で、沸騰水カール高さが3.5mmのスパンボンド不織布を製造した。このときの3本フラットロールの表面温度は、上が130℃、中が190℃、下が140℃とし、線圧は1862N/cmとした。
【0111】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られたスパンボンド不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このとき、キャスト液の裏抜けが全く見られず、また巻き出しから巻き取りの間に膜の折れ曲がりも無く、製膜性は良好であった。結果を表に示す。
【0112】
[実施例3]
各フラットロールの表面温度を140℃としたこと以外は、実施例2と同様にして、繊維径が10μmで、目付が36g/mで、厚さが0.13mmで、可動非晶量が32%の仮接着状態のスパンボンド不織布(c)を得た。
【0113】
(積層熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(c)を2枚重ね合わせ、実施例2と同様の条件で積層熱圧着を実施し、目付が72g/mで、厚さが0.09mmで、表面の平滑度が24秒で、裏面の平滑度が8秒で、沸騰水カール高さが6.2mmのスパンボンド不織布を製造した。
【0114】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られたスパンボンド不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このとき、キャスト液の裏抜けが全く見られず、また90℃の温度の純水中に浸漬している間に全長の30%程度で膜の折れ曲がりが見られたものの、巻き取りまでに元に戻り製膜性は概ね良好であった。結果を表に示す。
【0115】
[実施例4]
芯成分樹脂の溶融温度を290℃とし、鞘成分樹脂の溶融温度を270℃とし、そして紡糸速度を4500m/minとしたこと以外は、実施例2と同様にして、平均繊維径が10μmで、目付が36g/mで、厚さが0.15mmで、可動非晶量が35%の仮接着状態のスパンボンド不織布(d)を得た。
【0116】
(積層熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(d)を2枚重ね合わせ、実施例2と同様の条件で積層熱圧着を実施し、目付が72g/mで、厚さが0.09mmで、表面の平滑度が28秒で、裏面の平滑度が10秒で、沸騰水カール高さが4.9mmのスパンボンド不織布を製造した。
【0117】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られた不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このときキャスト液の裏抜けが全く見られず、また90℃の温度の純水中に浸漬している間に全長の5%程度で膜の折れ曲がりが見られたものの、巻き取りまでに元に戻り製膜性は概ね良好であった。結果を表に示す。
【0118】
[実施例5]
積層熱圧着時の3本フラットロールの表面温度を、上が120℃、中が180℃、下が130℃としたこと以外は、実施例2と同様にして、目付が72g/mで、厚さが0.10mmで、表面の平滑度が21秒で、裏面の平滑度が7秒で、沸騰水カール高さが7.7mmのスパンボンド不織布を製造した。
【0119】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られた不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このときキャスト液の裏抜けが全く見られず、また90℃の温度の純水中に浸漬している間に全長の40%程度で膜の折れ曲がりが見られたものの、巻き取りまでに元に戻り製膜性は概ね良好であった。結果を表に示す。
【0120】
[実施例6]
芯成分と鞘成分の質量比率を85/15としたこと以外は、実施例2と同様にして、繊維径が10μmで、目付が36g/mで、厚さが0.15mmで、可動非晶量が38%の仮接着状態のスパンボンド不織布(e)を得た。
【0121】
(積層熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(e)を2枚重ね合わせ、実施例2と同様の条件で積層熱圧着を実施し、目付が72g/mで、厚さが0.08mmで、表面の平滑度が30秒で、裏面の平滑度が12秒で、沸騰水カール高さが4.1mmのスパンボンド不織布を製造した。
【0122】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られた不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このときキャスト液の裏抜けが全く見られず、また90℃の温度の純水中に浸漬している間に全長の5%程度で膜の折れ曲がりが見られたものの、巻き取りまでに元に戻り製膜性は概ね良好であった。結果を表に示す。
【0123】
[実施例7]
口金温度を290℃、紡糸速度を4200m/minとしたこと以外は、実施例4と同様にして、繊維径が10μmで、目付が36g/mで、厚さが0.15mmで、可動非晶量が42%の仮接着状態のスパンボンド不織布(f)を得た。
【0124】
(積層熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(f)を2枚重ね合わせ、実施例2と同様の条件で積層熱圧着を実施し、目付が72g/mで、厚さが0.08mmで、表面の平滑度が37秒で、裏面の平滑度が14秒で、沸騰水カール高さが2.8mmのスパンボンド不織布を製造した。
【0125】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られたスパンボンド不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このとき、キャスト液の裏抜けが全く見られず、また巻き出しから巻き取りの間に膜の折れ曲がりも無く、製膜性は良好であった。結果を表に示す。
【0126】
[実施例8]
口金温度を290℃、紡糸速度を4100m/minとしたこと以外は、実施例4と同様にして、繊維径が10μmで、目付が36g/mで、厚さが0.15mmで、可動非晶量が46%の仮接着状態のスパンボンド不織布(g)を得た。
【0127】
(積層熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(g)を2枚重ね合わせ、実施例2と同様の条件で積層熱圧着を実施し、目付が72g/mで、厚さが0.08mmで、表面の平滑度が40秒で、裏面の平滑度が15秒で、沸騰水カール高さが2.1mmのスパンボンド不織布を製造した。
【0128】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られたスパンボンド不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このとき、キャスト液の裏抜けが全く見られず、また巻き出しから巻き取りの間に膜の折れ曲がりも無く、製膜性は良好であった。結果を表に示す。
【0129】
得られた不織布の特性は、表に示したとおりであり、実施例1〜8の不織布を分離膜支持体として用い分離膜を作製したところ、加工性は良好であり、さらに得られた分離膜を用いて流体分離素子を作製したところ、加工性は良好であった。また、作製した流体分離素子の耐久性評価を実施した結果、耐久性に優れたものであった。
【0130】
[比較例1]
各フラットロール表面温度を150℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維径10μm、目付が72g/mで、厚さが0.22mmで、可動非晶量が29%の仮接着状態のスパンボンド不織布(f)を得た。
【0131】
(熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(f)を、実施例1と同様の条件で熱圧着を実施し、目付が72g/m、厚さが0.10mm、表面の平滑度が17秒、裏面の平滑度が6秒、沸騰水カール高さが8.3mmのスパンボンド不織布を製造した。
【0132】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られた不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このときキャスト液の裏抜けがわずかに見られ、また90℃の温度の純水中に浸漬している間に全長の70%程度で膜の折れ曲がりが見られ、折れ曲がった状態で巻き取られ製膜性は不良であった。結果を表に示す。
【0133】
[比較例2]
固有粘度(IV)が0.65、融点が260℃、酸化チタンの含有量が0.3質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂を、水分率10ppmに乾燥し、295℃の温度で溶融し、口金温度300℃、断面円形にて細孔から紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4300m/分で紡糸して、移動するネットコンベアー上に繊維ウエブとして捕集した。
【0134】
(予備熱圧着)
捕集した繊維ウエブを、上下1対の金属製フラットロール間に通し、各フラットロール表面温度が170℃で、線圧が490N/cmで予備熱圧着し、繊維径が10μm、目付が36g/mで、厚さが0.16mm、可動非晶量が36%の仮接着状態のスパンボンド不織布(g)を得た。
【0135】
(積層熱圧着)
得られた仮接着状態のスパンボンド不織布(g)を2枚重ね合わせ、その積層不織布を、上が硬度(Shore D)91の樹脂製の弾性ロールで、中が金属ロールで、下が硬度(Shore D)75の樹脂製の弾性ロールの1組の3本フラットロールの中−下間に通し熱圧着し、さらにその積層不織布を折り返して上−中間を通し熱圧着し、目付が72g/mで、厚さが0.12mmで、表面の平滑度が12秒で、裏面の平滑度が3秒で、沸騰水カール高さが10.4mmのスパンボンド不織布を製造した。このときの3本フラットロールの表面温度は、上が130℃、中が200℃、下が140℃とし、線圧は1862N/cmとした。
【0136】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られた不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このときキャスト液の裏抜けがわずかに見られ、また90℃の温度の純水中に浸漬している間にほぼ全長で膜の折れ曲がりが見られ、折れ曲がった状態で巻き取られ製膜性は不良であった。結果を表に示す。
【0137】
[比較例3]
(積層熱圧着)
実施例2と同様にして得た仮接着状態のスパンボンド不織布(b)を2枚重ね合わせ、上下1対の金属製フラットロールの間に通し熱圧着し、目付が72g/mで、厚さが0.08mmで、表面の平滑度が42秒で、裏面の平滑度が40秒で、沸騰水カール高さが2.9mmのスパンボンド不織布を製造した。このときの金属製フラットロールの表面温度は、上下ともに180℃とし、線圧は686N/cmとした。
【0138】
(分離膜形成)
[ポリスルホン膜]
得られた不織布50cm幅×10m長を用い、実施例1と同様の条件でポリスルホン膜を作成した。このとき巻き出しから巻き取りの間に膜の折れ曲がりは無かったものの、大部分でキャスト液の裏抜けが見られ、製膜性は不良であった。結果を表に示す。
【0139】
得られた不織布の特性は、表に示したとおりであり、比較例1〜3の不織布を分離膜支持体として用い分離膜を作製したところ加工性は不良であり、さらに該分離膜を用いて流体分離素子を作製したところ、比較例1と2は作製時に膜の折れ曲がりや丸まりが見られ加工性は不良であり、比較例3は膜を重ねた際に裏抜けした樹脂の摩擦が大きく加工性は不良であった。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
表中の略号は以下の通りである。
PET:ポリエチレンテレフタレート
co−PET:共重合ポリエチレンテレフタレート