特許第6492777号(P6492777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6492777-電気加温法を用いた土壌浄化装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492777
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】電気加温法を用いた土壌浄化装置
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/06 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   B09C1/06ZAB
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-42082(P2015-42082)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-159260(P2016-159260A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長曽 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】三重野 俊彦
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0013508(US,A1)
【文献】 特開2010−154681(JP,A)
【文献】 特開2007−110800(JP,A)
【文献】 特開2000−084535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
B09C1/00−1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気加温法を用いた土壌浄化装置であって、
a) 土壌中に挿入された電極に接続される多相交流電源の各相に設けられ、該相の出力電圧を外部から指定された位相位置においてオン及びオフするスイッチング素子と、
b) 外部からの指令に基づき、前記各相のスイッチング素子にそれぞれ独立に前記位相位置を指定する実効電流制御装置と
c) 前記各電極に流れる電流を計測する電流計測装置と、
d) 前記電流の値に基づき、前記実効電流制御装置に指令を与える装置であって、前記電流の値に基づき、前記各電極に流れる電流が等しくなるように前記指令を生成する均等電流制御部を含む自動電流制御装置と
を有することを特徴とする土壌浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌浄化装置に係り、特に電気加温法を用いた土壌浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染された土壌を浄化する方法は、対象土壌を動かす方法と動かさない方法(原位置浄化法)の2種類に大別される。土壌を動かす方法では、対象地域から汚染土壌を掘削、搬出し、該土壌を処理施設で適切に処理した後、対象の地域に再搬入することにより浄化を行う。原位置浄化法では、対象地域の土壌に薬剤を注入することにより汚染物質を分解したり、土壌を加温することにより該土壌から汚染物質を脱離させ、回収することにより浄化を行う。原位置浄化法は、掘削搬出を行う場合と比較してコストが低く、汚染土壌の上に建築物等が存在する場合でも浄化が可能というメリットがある。また、原位置浄化法の中でも加温法は、薬剤注入では浄化が困難な難透水性土壌においても浄化が可能であり、様々な土壌に対して適用可能である。
【0003】
加温法では主に電気加温法が用いられる。電気加温法を用いた土壌浄化では、図6に示すように、複数の電極151〜153を地中に挿入し、交流電源110により電極間に電圧を印加してそれらの間の土壌に電流を流すことで、土壌の電気抵抗によりジュール熱を発生させて加温する。土壌の温度が上昇すると、土壌粒子の間隙中に吸着しているテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエタンをはじめとするVOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compounds)が脱離し、地下水の中に溶出する。この地下水を地上に汲み上げ、除去することにより土壌の汚染を浄化することができる(たとえば特許文献1)。汲み上げられた汚染地下水は、地上の汚染水処理施設で適切に処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-231050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2本の電極間に流れる電流の量は、電極間の距離と、両電極間の土壌の電気抵抗率に依存する。土壌の電気抵抗率(土壌抵抗率)は、土壌の構成成分や水分の含有量等により異なり、例えば、粘性土の土壌抵抗率はおよそ10〜50Ωmであるのに対し、砂質土は数百Ωmである。
【0006】
土壌に3本以上の電極を挿入した場合、各電極の周囲の土壌の種類が異なることにより、それら電極間の距離を等しくし、且つ、それら電極に同一の電圧を印加したとしても、電極間を流れる電流量が異なる。このため、或る2本の電極間の電流量が、電極に流すことのできる最大電流値(定格電流値)に達すると、他の電極との間の電流量が定格電流値に達していなくても、それ以上の電流を流すことができない。これにより、対象土壌の加温がアンバランスとなり、十分な土壌浄化ができないばかりか、電源設備の利用効率も悪くなる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、対象土壌に挿入した電極間の電流をできるだけ均等にすることができるようにし、電源設備の利用効率を改善した土壌浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る、電気加温法を用いた土壌浄化装置は、
a) 土壌中に挿入された電極に接続される多相交流電源の各相に設けられ、該相の出力電圧を外部から指定された位相位置においてオン及びオフするスイッチング素子と、
b) 外部からの指令に基づき、前記各相のスイッチング素子にそれぞれ独立に前記位相位置を指定する実効電流制御装置と
c) 前記各電極に流れる電流を計測する電流計測装置と、
d) 前記電流の値に基づき、前記実効電流制御装置に指令を与える装置であって、前記電流の値に基づき、前記各電極に流れる電流が等しくなるように前記指令を生成する均等電流制御部を含む自動電流制御装置と
を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、多相交流電源とは、3相以上の交流電源のことを言う。従って、本発明の土壌浄化装置は、3本以上の電極が土壌中に挿入されている場合を適用対象とする。スイッチング素子としては、例えば、トライアック、サイリスタ、パワーMOSFET(酸化金属膜電界効果トランジスタ:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチング素子を用いることができる。
【0010】
本発明に係る土壌浄化装置では、土壌中に挿入された電極に多相交流電源の各相が接続される。この多相交流電源の各相にはスイッチング素子が設けられており、このスイッチング素子はその相の出力電圧を、外部から指定された位相位置でオン及びオフする(例えば、出力電圧がマイナスからプラスにゼロクロスする位置を0°として、0°でオフとし、90°でオンとする等)。これにより、土壌中に挿入された3本以上の電極中の2本の電極間に流れる電流は、両電極に接続される相と、それらの相のスイッチング素子によるオン及びオフの位相位置に依存するタイミングにより、流れ又は遮断され、量が変動する。従って、実効電流制御装置により各相のスイッチング素子(すなわち、各電極のスイッチング素子)のオン/オフの位相位置を適宜決定し、各スイッチング素子に指定することにより、2本の電極間の実効電流量を適宜調整することができ、最終的に、土壌中に挿入された3本以上の電極間の電流を調整することができる。
【0011】
実効電流制御装置に与える指令は、操作者が与えることができる。この場合、操作者は、電極間に流れる電流を実測しつつ、それらの電流が均等になるように指令することもできるし、必要な電極間にのみ大電流を流し、必要でない電極間に小電流を流すという指令を行うこともできる。
【0012】
或いは、土壌に挿入された電極間に流れる電流を測定した結果に基づき自動的に前記実効電流制御装置に与える指令を生成してもよい。この場合も、電極間の実効電流が均等になるようにしてもよいし、所望の電極間にのみ大電流を流すようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電気加温法を用いた土壌浄化装置によれば、電極間の土壌抵抗が設置環境により異なる場合でも、各電極に均等に電流を流すことができるため、各電極について定格値に近い状態で運用することが可能となる。従って、設備の電源容量を従来よりも効率良く使用することができる。また、特定の電極間にその他の電極間よりも大きい電流を流すという使い方もできる。これは、電流量と温度上昇との関係が一定ではない土壌を対象とする場合や、除染のために必要な加熱温度が土壌によって或いは除染対象物質によって異なる場合に効果的となる。これらの調整は電極を埋設した後に実施できるため、事前の調査を基にした計画では想定していなかった事態が発生した場合でも、電極の位置を変更することなく電流分布の調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の土壌浄化装置の一実施例の概略構成図。
図2】該実施例における電極配置を示す図。
図3】前記実施例における電圧調整前の各相の土壌抵抗と電極電圧、電流、電力の関係を示す図。
図4】本発明の1相分の三相交流電源電圧、ゲート信号及び電極の電圧波形であり、(a)は電圧調整前の電圧波形のグラフ、(b)は電圧調整後の電圧波形のグラフ。
図5】前記実施例における電圧調整後の各相の土壌抵抗と電極電圧、電流、電力の関係を示す図。
図6】従来の電気加温法による土壌浄化装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の土壌浄化装置の一実施例について図1図5を参照しつつ説明する。
図1は本実施例の土壌浄化装置の概略構成図である。本実施例の土壌浄化装置は、三相交流電源10と、該三相交流電源10の各相φ1〜φ3に接続された位相検出装置20と、前記三相交流電源10の各相φ1〜φ3に接続された第1〜第3トライアック31〜33と、該第1〜第3トライアック31〜33に接続され土壌に挿入するための第1〜第3電極51〜53と、前記第1〜第3トライアック31〜33の各ゲートに接続された電流制御装置60と、前記第1〜第3トライアック31〜33と前記第1〜第3電極51〜53の間に挿入されφ1〜φ3の各相における電流を計測する電流計測装置40から構成される。
【0016】
本実施例では第1〜第3電極51〜53は、図2に示すように、正三角形状に配置されている。電流計測装置40は電流を求めることができるものであればよく、例えば電流計を使用できるが、その他にも電圧計や電力計などを代わりに使用し、その計測値から電流を算出する構成でもよい。
【0017】
電流制御装置60は操作者が指定した位相位置で第1〜第3トライアック31〜33を動作させるために、ゲート信号の発生タイミングを算出するタイミング制御部62と、該タイミング制御部62が算出したタイミングで第1〜第3トライアック31〜33へゲート信号を送るゲート信号生成部61からなる。また、ゲート信号生成部61では前記三相交流電源10の各相に対応した3つのゲート信号を第1〜第3トライアック31〜33のゲートへ出力することで、第1〜第3トライアック31〜33をそれぞれ独立して動作させることができる。さらに、電流制御装置60は、操作者が位相位置を設定するための入力部63と、計測した電流や電圧等を表示するための表示部64を有する。
【0018】
三相交流電源10の電源をオンにして第1〜第3電極51〜53に電圧を印加すると、汚染土壌に電流が流れ、土壌及び土壌に含まれる水分がジュール熱により加熱される。ただし、図1に示すように各電極の周囲の地質が異なる場合には、土壌抵抗も違ってくる。図1の場合では第3電極53の周囲に粘性土が多く存在するため土壌抵抗が小さいが、第2電極52では砂質土の割合が多くなるため第3電極53の周囲と比較して土壌抵抗が大きい。さらに第1電極51では周囲のほとんどが砂質土であるため土壌抵抗がさらに大きい。
【0019】
詳しく述べると、3本の第1〜第3電極51〜53のそれぞれに三相交流電源10の3つの相φ1〜φ3を接続し、図3の上部に示すような互いに120°位相のずれた電圧を印加すると、いずれの2本の電極間にも同じ値の電圧が印加される。しかし、各電極の周囲の土壌の抵抗が前記のように異なる場合、各電極に流れる電流の値I1〜I3はI1<I2<I3となる。なお、これらの電流値は、電流計測装置40で相毎に計測され、タイミング制御部62へ送られ、表示部64に表示される。
【0020】
計測された電流値I1〜I3を基に、第1〜第3電極51〜53に流れる電流を等しい値にするための手順を図5を参照しながら説明する。まず初期設定として、タイミング制御部62のゲート信号の出力タイミングを、電圧波形の位相が0°の位置(電圧がマイナスからプラスにゼロクロスする位置)とする。なお、各相φ1〜φ3の電圧波形には互いに120°の位相差があるため、各相φ1〜φ3におけるゲート信号の出力タイミングもその位相差分だけずれている。この初期設定では図4(a)に示すように、三相交流電源10の電圧波形がそのまま第1〜第3電極51〜53に印加される。図4(a)では1相分の波形のみ示しているが、各相で同様な波形となる。
【0021】
前記のように、本実施例では第1電極51の電流値が一番小さいため、この第1電極51に流れる電流値I1を基準とし、この相φ1のゲート信号の発生タイミングを初期設定のままとする。
【0022】
第2電極52の電流値I2は第1電極51の電流値I1よりも大きいため、それを減少させてI1に近づくように、その相φ2の第2トライアック32がオンになる位相位置を遅らせる。その位相遅れをθ2とすると、タイミング制御部62は位相検出装置20の位相角データと位相遅れθ2を基に、ゲート信号の出力タイミングを算出し、ゲート信号生成部61からゲート信号を第2トライアック32に出力する。このゲート信号が入力されるまでの期間(図4(b)の0〜θ2までの期間)は、第2電極52へ印加される電圧は第2トライアック32によりカットされ、ゼロとなる。また、この期間は第2電極52への電流も流れないため、電圧調整後の電流I2'が初期設定の電流I2と比較して小さくなる。このとき電流I1、I3も小さくなるが、電流I2の減少量は電流I1とI3の減少量の合計値であるため、最も変動が大きい電流I2が主に調整される。各相の電流値は表示部64に表示されるため、電圧調整後の電流I2'とI1’を比較し、I2'>I1’であればゲート信号の位相遅れθ2をさらに遅らせ、I2'<I1’であれば上記θ2よりも進ませるように設定する。このように第2トライアック32がオンになる位相位置を変更することで、I2'=I1’とすることが可能である。
【0023】
第3電極53に流れる電流I3も同様の手順で調整することができる。このような調整をI2’、I3’について繰り返すことで、各電流をI1’=I2’=I3’とすることができる。これらの調整が完了すると、図5に示すように、土壌で消費される電力は電極間で均等になる。
【0024】
上述の調整では初期設定において最も低い値であった電流I1を基準として、電流I2及び電流I3を小さくしている。従って、この調整の後に三相交流電源10の供給電圧を上げることで、第1〜第3電極51〜53の電流定格値まで電流を上げて運転することが可能となる。また、加温による土壌抵抗率の変化等によりそれぞれの電極間の電流値に再び差が発生したとしても、上述と同様な方法で電流値を均等にすることができる。
【0025】
上記実施例では3本の第1〜第3電極51〜53の配置を正三角形(等間隔)としたが、電極間の距離が等しくない場合でも同様な方法で各電極間に流れる電流を調整することが可能である。
【0026】
以上のとおり、本実施例の土壌浄化装置では、電極の周囲の土壌抵抗率や、電極間の距離の違いにより各電極へ流れる電流が異なる場合でも、それぞれの電流値が等しくなるように調整することができる。従って、電源設備容量の定格に近い状態で運転を行うことが可能となり、高い効率で電源を使用することができる。また、従来の方法では電流が少ない土壌の温度上昇が遅くなるため、その部分の加温に時間がかかっていたが、本実施例では従来よりも均一な電流が流れるため土壌の温度分布もより均一となり、加温時間を短縮できるとともに必要な電力量を抑えることもできる。
【0027】
また、一部の土壌で比熱が大きいなどの理由により、電流値を均一とすると温度分布にムラがでる場合には、上述と同様な電流の調整方法で、温度が低い土壌付近の電極への電流値をその他の電極よりも大きくすることで、土壌の温度分布を均一にすることができる。
【0028】
さらに、本実施例では位相遅れθを入力部63から手動で指定したが、タイミング制御部62が自動で行うようにしてもよい。例えば、電源設備の効率を高くする場合には、タイミング制御部62が、電流計測装置40による電流I1〜I3の計測値の差分に基づき各相φ1〜φ3の位相遅れθ1〜θ3を算出し、第1〜第3トライアック31〜33を動作させることで、第1〜第3電極51〜53に流れる電流を均等にする。また、土壌の温度分布を均一にする場合には、タイミング制御部62が土壌の温度計測結果に基づき、電圧を上げる電極と電圧の増加量を計算し、その電圧増加量に応じた位相遅れθを算出することで自動的に温度制御を行うことができる。電気加温法による土壌浄化処理では、土壌の浄化に要する期間が数ヶ月に亘る場合もあり、この期間中に土壌浄化処理による加温や天候などの影響により、土壌の環境が変化することがある。このような場合でも、自動で電圧を調整可能な構成とすることで、上述の変化に応じて電流量が変更されるため、安定して加温を実施することができる。
【0029】
なお、上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜変形や修正を行えることは明らかである。例えば、上記実施例では三相交流電源を用いたが、これ以外の多相交流でもよい。また、電極の数が3本の場合を示したが、4本以上でもよい。
【符号の説明】
【0030】
10、110…三相交流電源
20…位相検出装置
31、32、33…トライアック
40…電流計測装置
51、52、53、151、152、153…電極
60…電流制御装置
61…ゲート信号生成部
62…タイミング制御部
63…入力部
64…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6