特許第6492798号(P6492798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492798
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】脱墨古紙パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 5/02 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   D21C5/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-47201(P2015-47201)
(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公開番号】特開2016-166437(P2016-166437A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】香川 仁志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 高弘
(72)【発明者】
【氏名】見門 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】東嶋 健太
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−169507(JP,A)
【文献】 特開2010−116633(JP,A)
【文献】 特開2007−231470(JP,A)
【文献】 特開昭54−023705(JP,A)
【文献】 特開平10−053988(JP,A)
【文献】 特開2003−073987(JP,A)
【文献】 特開2009−035843(JP,A)
【文献】 特開2011−202307(JP,A)
【文献】 紙パルプ製造技術シリーズ4 古紙パルプ,日本,紙パルプ技術協会,2005年 8月25日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷古紙を、離解工程、除塵工程、漂白工程、分散工程、フローテーション工程、洗浄・脱水工程を組み合わせてパルプ化する方法において、前記離解工程をpH10.0以上、12.5以下のアルカリ性領域での処理工程とし、前段のフローテーション工程をpH6.0以上、9.0以下の中性領域での処理工程とし、漂白工程をpH10.5以上、12.0以下のアルカリ性領域での処理工程とし、後段のフローテーション工程を硫酸でpH6.0以上、9.0以下の中性領域での処理工程とすることを特徴とする、脱墨古紙パルプの製造方法。
【請求項2】
前記前段のフローテーション工程を前記漂白工程より前の工程として配置し、前記後段のフローテーション工程を前記漂白工程より後の工程として配置することを特徴とする請求項1記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
【請求項3】
前記漂白工程後または前で前記後段のフローテーション工程より前の工程として分散工程を配置し、前記分散工程が軸タイプの分散機またはディスクタイプの分散機による工程であることを特徴とする請求項1または2に記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
【請求項4】
前記両フローテーション工程後に洗浄・脱水工程を配置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
【請求項5】
前記離解工程をインキ剥離性脱墨剤を添加して処理する工程とし、前記漂白工程および/または前記分散工程をインキ凝集性脱墨剤を添加して処理する工程とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
【請求項6】
前記脱墨古紙パルプが、ISO白色度が65〜85%で、0.004〜5.0mmのダート個数が35000個/m以下の脱墨古紙パルプであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷古紙からなる古紙パルプの白色度を向上させ、更にチリを低減させる方法に関し、さらに詳しくは新聞古紙を主体とする印刷古紙を脱墨再生する際に白色度を効率よく向上させると共に、ダートを効率よく低減させ、高品質の脱墨古紙パルプを提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷古紙を脱墨し再生させるには、離解・除塵・漂白・分散・脱墨・洗浄の工程の組み合わせからなる方法で製造を行ってきた。特に脱墨パルプの白色度65%ISO以上の高白色度の脱墨パルプを得るための方法としては、漂白工程で過酸化水素を過剰に加えるか、過酸化水素漂白の前後の何れかに二酸化チオ尿素漂白工程を設ける方法等が行われている。また、漂白の効率を向上させるために製品パルプの灰分を下げる対策として灰分除去装置を洗浄設備として最終工程に組み入れる方法(特許文献1)、灰分除去装置の前後で役割の違う脱墨剤を使用し、漂白性を向上させる方法(特許文献2)、温度の違う二段の漂白工程で漂白を行う方法(特許文献3)等が提案されている。しかし、いずれも中性領域でのフローテーション処理と組み合わせて、高白色度でかつダートの少ないパルプが得られる脱墨システムの構築については未検討であった。
【0003】
印刷古紙からインキを分離除去し、脱墨パルプを漂白するために、苛性ソーダ、珪酸ソーダ、炭酸ソーダ等のアルカリ剤、過酸化水素、次亜塩素酸塩、二酸化チオ尿素、ハイドロサルファイト等の漂白剤、EDTAやDTPA等の金属キレート剤と共に、脱墨剤が使用されてきた。
【0004】
脱墨剤には、パルプ繊維からインキを剥離し、微細分散させる効果の強いものや、インキを凝集させフローテーション工程でのインキ捕集能を高める効果の強いもの等がある。
例えば、前者の脱墨剤としては、高級アルコール硫酸塩、ポリオキシアルキレン高級アルコール硫酸塩、脂肪酸あるいは、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール及びアルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物、多価アルコールエステルアルキレンオキサイド付加物等が使用されている。
【0005】
一般的に、効果的な脱墨剤とされているものとして、高級脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物又はそのエーテル化合物又はエステル化合物等が知られている(特許文献4,5,6)。しかし、これらの脱墨剤の捕集効果を最大限に発揮させて高白色度でかつダートの少ないパルプが得られるシステムの構築については未検討であった。
【0006】
酸性〜中性領域での脱墨方法として、非イオン性界面活性剤をインキ剥離のために用い、フローテーション工程にカチオン性化合物を存在させる方法(特許文献7)、フローテーション工程に少なくともカチオン、アミン、アミンの酸塩、両性化合物の1種類を存在させる方法(特許文献8)があるが、カチオン性化合物の添加、及びカチオン、アミン、アミンの酸塩、両性化合物の1種類を存在させる必要はない。
【0007】
また、フローテーション処理中に、工程内pHを2変化させる方法(特許文献9)があるが、フローテーション処理中にpHを変化させる事は、現状のフローテーション技術では設備上難しい技術を必要とする。
【0008】
一方、脱墨パルプのダートを低減させるためには、スクリーン、クリーナー等の除塵機を高性能化するか、分散工程でニーディングを強化する事が必要であった。しかし、近年、印刷古紙の中に、灰分が多く、表面処理剤に起因して極端に脱墨性の劣る中性新聞紙の混入割合が著しく増加しており、これまで一般的に行われていた脱墨パルプ製造方法ではインクを主体とするダートを十分に除去する事が困難となってきた。
【0009】
また、ダートを極力低減させ、BKPと同等もしくはそれに準ずる品質を有するDIPが望まれていたが、これまで、新聞古紙や雑誌古紙をはじめとする印刷古紙からこれに該当する品質の古紙パルプを製造することは極めて困難であった。
【0010】
従来のダートを低減させる技術には、マイカプロセッサーをはじめとする一軸のローター集面に送り刃と戻り刃が配置され、かつステーターの刃と各刃間に十分な間隙を有したミキサーを用いるもの(特許文献10)が提案されている。また、パルプ濃度20〜35%にして酸化型漂白剤を添加した後、機械的に攪拌して酸化漂白するとともに、漂白した後の繊維懸濁液をパルプ濃度10〜30%にして、還元漂白剤を添加した後、機械的に攪拌して還元漂白しているもの(特許文献11)、三段以上のディスパーザーを使用し、同時に一段以上は高温のディスクタイプのディスパーザーで処理するもの(特許文献12)がある。しかし、いずれの場合も、繊維からインキを強制的に剥離しても剥離したインキが微細化してしまい、その後のフローテーションを強化しなければ、十分なダートの減少効果は望めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−138380号公報
【特許文献2】特開2004−68175号公報
【特許文献3】特許第4752543号公報
【特許文献4】特開昭58−109696号公報
【特許文献5】特開昭62−276093号公報
【特許文献6】特開平5−25790号公報
【特許文献7】特許第3081152号公報
【特許文献8】特許第3262517号公報
【特許文献9】特許第3203307号公報
【特許文献10】特開平4−050391号公報
【特許文献11】特開2005−281914号公報
【特許文献12】特許第4952255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記のような問題を解消し、特に脱墨性の悪い一部の中性新聞紙を含む印刷古紙から製造される脱墨パルプの白色度を向上させると共に、ダートを大幅に低減させて、高品質の脱墨古紙パルプを製造することができる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、離解工程、漂白工程をアルカリ性領域で行うことでパルプからインキ剥離を促進させ、通常のアルカリ性領域でのフローテーション工程で取り除くことが非常に困難であったパルプから剥離された微細化した遊離インキを中性領域でのフローテーションを前段、後段の2回行うことで除去ができることを見出し、以下の発明を成すに至った。
【0014】
(1)印刷古紙を、離解工程、除塵工程、漂白工程、分散工程、フローテーション工程、洗浄・脱水工程を組み合わせてパルプ化する方法において、前記離解工程をpH10.0以上、12.5以下のアルカリ性領域での処理工程とし、前段のフローテーション工程をpH6.0以上、9.0以下の中性領域での処理工程とし、漂白工程をpH10.0以上、12.0以下のアルカリ性領域での処理工程とし、後段のフローテーション工程をpH6.0以上、9.0以下の中性領域での処理工程とすることを特徴とする、高白色度でダートの少ない高品質の脱墨古紙パルプの製造方法。
【0015】
(2)前記前段のフローテーション工程を離解工程後で前記漂白工程より前の工程として配置し、前記後段のフローテーション工程を前記漂白工程より後の工程として配置することを特徴とする、(1)に記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
(3)前記漂白工程後で前記後段のフローテーション工程前の工程として分散工程を配置することを特徴とする、(1)または(2)に記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
(4)前記両フローテーション工程後に洗浄・脱水工程を配置することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
(5)前記離解工程をインキ剥離性脱墨剤を添加して処理する工程とし、前記漂白工程、前記フローテーション工程および前記分散工程から選ばれる少なくとも1工程をインキ凝集性脱墨剤を添加して処理する工程とすることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
(6)前記脱墨古紙パルプが、ISO白色度が65〜85%でかつ、0.004〜5.0mmのダート個数が35000個/m以下の脱墨古紙パルプであることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の脱墨古紙パルプの製造方法。
(7)前記前記(1)〜(6)のいずれかに記載の脱墨古紙パルプの製造方法で製造される脱墨古紙パルプを10質量%〜100質量%配合してなる紙。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、原料古紙の品質によらず、白色度が向上すると共に、チリが低減し、高品質の脱墨古紙パルプが得られるので、クラフトパルプ、メカニカルパルプ等より安価な脱墨古紙パルプを紙製品に高配合する事が可能となり、古紙の利用範囲が広がる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法において、原料となる印刷古紙の例としては、新聞紙、微塗工紙、高灰分の塗工紙、非塗工紙等、灰分を7%〜35%含む古紙等があげられる。本発明の方法は、多量の表面処理剤により脱墨性が悪い一部の中性新聞紙を含む印刷古紙の処理に特に効果的である。
【0018】
本発明の方法における離解工程については、pH9.1以上12.5以下のアルカリ性領域で行えば、その他は特に制限無い。好ましい離解処理としては、原料印刷古紙を固形分濃度12〜18%になるように稀釈水に入れ、更に薬品(水酸化ナトリウム)を対パルプ0.1〜3.0質量%、好ましくは0.2〜2.5質量%添加して行う処理が挙げられる。脱墨剤を添加する場合には、パルプ繊維への浸透性が強く、インキの剥離性の強いものが好ましく、脱墨剤を対パルプ0.01〜0.5質量%、好ましくは0.03〜0.3質量%加える。離解時間は、10〜30分、好ましくは10〜25分、更に好ましくは10〜18分であり、離解温度は10〜50℃、好ましくは30〜50℃で離解することが好ましい。
【0019】
インキの剥離性の強い脱墨剤としては、高級アルコール系脱墨剤等があり、例えば、次のものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。花王(株)製のDI−7020、DI−7030、DI−767、DI−7282、日新化学研究所(株)製のDIA−Z−100、DIA−Z−5000、東邦化学(株)製のネオスコアFW−780、ネオスコアFW−790、ネオスコアFW−795、FT−467、FT−470、FT−487、FT−511、FT−513、FT−514、FT−515、B−B剤、第一工業製薬(株)製のダイホープ940、ダイホープ960、日華(株)製リポブライトDP−810等。
【0020】
本発明の方法における除塵工程としては特に制限は無い。スクリーン・クリーナーで原料中の異物を取り除くことが可能であればよいが、スリットスクリーン(1段目0.15mmスリット以下、2段目0.15mmスリット以下)を使用することが好ましい。クリーナーは重量異物を効率良く取り除くことが可能であればいずれでもよい。
【0021】
本発明の方法では、アルカリ性領域で行う漂白工程の前段で、繊維より剥離された微細化した遊離インキを効率よく除去するため、中性領域でのフローテーションを行う。フローテーション工程でのフローテーターの形式に制限はないが、処理濃度は0.7〜1.5質量%、フローテーター処理温度は10〜55℃、好ましくは30〜50℃で行うことが好ましい。フローテーション工程の処理pHは6.0〜9.0が適しており、7.0〜8.5がより好ましい。pHが6.0より低いと配管、設備の腐食が問題となり、設備費が高価になる。また、pHが9.0を超えると遊離インキの除去効果が著しく悪化し、脱墨パルプの白色度が低下すると共に、ダート個数が上昇する。フローテーション工程は、必要に応じてその直前で凝集性脱墨剤を添加する工程とすることができる。
【0022】
また、前段フローテーション工程後は、通常、洗浄・脱水を行う。洗浄・脱水工程で使用する洗浄装置としてはエキストラクター、フォールウオッシャー(栄工機製)、ダブルニップシックナー(石川島産業機械製)等があるが、洗浄装置は、原料中の灰分を優先的に除去し、繊維分のロスを最小限に止める洗浄機であることが好ましい。中でもワイヤー洗浄機が好ましく、目穴は、20〜200メッシュ程度までが考えられるが、好ましくは40〜100メッシュが良く、更に好ましくは、50〜80メッシュが適している。
【0023】
本発明の方法における漂白工程で使用する古紙再生の漂白薬品としては、過酸化水素、ハイドロサルファイド、二酸化チオ尿素、ハイポ等が使用される。本発明の方法では過酸化水素を使用する。また、本発明の方法ではアルカリ過酸化水素漂白を行うが、過酸化水素は対パルプ0.5〜5.0質量%添加する。これ以上添加量を増やしても白色度上昇はサチュレーションする傾向にある。苛性ソーダは、対パルプ1.5〜3.0質量%、珪酸ソーダは、対パルプ1.5〜3.5質量%添加し、漂白時間は10分間〜5時間、好ましくは1.5〜3時間で行う。漂白時間が短すぎると過酸化水素が十分に反応しきらないため好ましくない、また5時間より長くしても逆に過酸化水素の消費が進み、残過酸化水素がなくなった時点からパルプの黄色化が起きるため適切ではない。漂白パルプ濃度は15〜35質量%、好ましくは25〜30質量%であり、濃度が15質量%より低くなると過酸化水素の反応性が悪くなる。また、35質量%より高い濃度にするとディスパーザーでの薬品との混合に斑ができるため、好ましくない。また、漂白時のpHは、10.5〜12.0が好ましく、この範囲を外れると過酸化水素の漂白性が劣る。漂白温度は50〜120℃で行うことが効果的である。
【0024】
また、フローテーション前に脱墨剤をパルプに均一に混合できれば、漂白工程に脱墨剤を添加してもよい。脱墨剤としてはインキ凝集性の強い、脂肪酸あるいは、脂肪酸誘導体系の脱墨剤があり、例えば、脂肪酸の場合、花王(株)製のDI−254(オレイン酸)、DI−268、第一工業製薬(株)製のK−4004−D等がある。また、脂肪酸誘導体系の場合、花王(株)製のDI−1120、DI−1050、日新化学研究所(株)製のDIY−23543、第一工業製薬(株)製のペーパーエイドW等がある。しかし、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の方法で行う分散処理には低速・高濃度用軸タイプの分散機またはディスクタイプの分散機が適している。低速・高濃度用軸タイプの分散機としては、軸状のローターに取り付けられた回転刃と、ケーシングに取り付けられた固定刃を有する一軸型または二軸型のニーダータイプのディスパーザーが好ましい。分散処理は、回転数50〜300rpmの低速で、処理濃度20〜50質量%の高濃度、好ましくは、25〜40質量%で、温度は25℃〜100℃、好ましくは40〜90℃で行われる。軸タイプの分散機では、繊維間の摩擦作用が主体となって、インキ剥離・ダートの分散が起こる。処理濃度が20質量%未満では、機械的負荷がかかりにくく、インキ剥離・ダートの分散性が低下する上、温度上昇に必要なエネルギーが莫大となるため、適さない。また、処理濃度50質量%を越えて高濃度にすると機械的に搾水するのは困難である。
【0026】
一般的には、一軸型ニーダーとしては、ニーディング・ディスパージャーKD(商品名:アイ・エイチ・アイ フォイト ペーパーテクノロジー社製)、ディスパーザー(商品名:相川鉄工社製)、ディスパーザー(商品名:アセック社製)、ディスパーザー(商品名:三栄レギュレーター社製)、CCE型ニーディングマシン(商品名:新浜ポンプ製作所社製)、ニーダー(商品名:山本百馬製作所社製)などが使用される。また、二軸型ニーダーとしては、新浜ポンプ製作所社製、山本百馬製作所製のものなどが使用される。しかし、特定の機種に限定されものではない。なお、10〜25質量%の処理濃度で、1200〜1800rpmの高速で、空転動力負荷を差し引いた実動力負荷が5〜30kW/t程度で、弱い機械力を与えながら撹拌処理を行う、いわゆるマイカプロセッサーのような高速撹拌装置では高いダート減少効果や高い剥離効果が得られないため本発明の方法には適さない。
【0027】
また、ディスクタイプの分散機としては、ディスク型ディスパーザーまたはコニカル型ディスパーザーがある。構造的にはディスクリファイナーと似ているが、ディスクプレートの構造が異なっている。また、コニカル型ディスパーザーは回転刃がコニカル状になっている。回転数300rpm〜2500rpm、処理濃度20%以上で処理する。軸タイプの分散機と異なる点は、繊維と刃の衝突作用が主体となってインキ剥離・ダートの分散が起こる点である。一般的には、ディスク型ディスパーザーとして、ディスパージャーHTD(商品名:アイ・エイチ・アイ フォイト ペーパーテクノロジー社製)、KRIMAホットディスパージョン設備(商品名:Cellwood社製)などが使用され、また、コニカル型ディスパーザーとして、コニディスク(商品名:相川鉄工社製)、コニカルディスパージョンシステム/HIプリヒーター/OptiFinerディスパーザー(商品名:メッツォ SHI社製)などが使用される。しかし、特定の機種に限定されるものではない。
【0028】
分散機の組み合わせとして特に好ましいものは、低速・高濃度用軸タイプの分散機で2回、ディスクタイプの分散機で1回、この順に処理を行うことが効率的且つ効果的である。1回目若しくは2回目の分散処理である低速・高濃度用軸タイプの分散機による分散処理は、処理濃度20〜50質量%の高濃度、好ましくは、25〜40質量%、温度は25℃〜100℃、好ましくは40〜90℃で処理する。軸タイプの分散機では、繊維間の摩擦作用が主体となって、インキ剥離・ダートの分散が起こる。処理濃度が20%質量未満では、機械的負荷がかかりにくく、インキ剥離・ダートの分散性が低下する上、温度上昇に必要なエネルギーが莫大となるため、適さない。また、処理濃度50質量%を越えて高濃度にすると機械的に搾水するのは困難である。また、次の過酸化水素漂白工程での漂白効果を高めるため、温度は25℃以上に高める必要があるが、100℃を超えると過酸化水素の分解が生じるため好ましくない。
【0029】
ディスク型の分散機による分散処理時の温度は、90〜130℃である。90℃未満の処理では、十分なダート減少効果と過酸化水素や二酸化チオ尿素等の漂白薬品による漂白効果が得られず、一方、130℃を超えるとパルプの黄変が生じるため適さない。しかしながら、90〜130℃の範囲でディスパーザー処理を行った場合、パルプ繊維からのインキ剥離が促進され、パルプ繊維そのものの未剥離インキは大幅に低減するものの、繊維より剥離させたインキが微細化し遊離インキが増加するため、パルプシートにしたときにシートの表面に遊離インキがダートとして残留する。そのため、高温のディスパーザー処理後、インキ除去効率が格段に向上する中性領域でのフローテーション処理が最も好ましいインキ除去方法である。
【0030】
本発明の方法では、アルカリ性領域の漂白工程後に繊維より剥離された微細化した遊離インキを効率よく除去するため、中性領域での後段のフローテーション処理を行う。洗浄工程で除去する方法の場合には、洗浄濾液とともに白水内を微細化した遊離インキが循環し、パルプの完成白色度に影響を与える恐れがあるので好ましくない。漂白工程の前段で行うフローテーションと同様にフローテーション工程でのフローテーターの形式に制限はないが、処理濃度は0.7〜1.5質量%、フローテーター処理温度は10〜55℃、好ましくは30〜50℃で行うことが好ましい。フローテーション工程の処理pHは6〜9が適しており、7〜8.5がより好ましい。pHが6より低いと配管、設備の腐食が問題となり、設備費が高価になる。また、pHが9を超えると遊離インキの除去効果が著しく悪化するため、脱墨古紙パルプの白色度が低下し、ダート個数が上昇する。
【0031】
フローテーション工程の後の洗浄・脱水工程は、フローテーターで取り除けなかった微細なインキを脱水洗浄する工程であり、洗浄装置に特に制限は無いが、0.6〜1.5質量%のパルプスラリーを清水または抄紙機のクリア白水で希釈した後、15〜35質量%まで脱水洗浄することが好ましい。
【0032】
本発明の方法により得られたパルプは、0.004〜5.0mmのダート個数が5000〜35000個/mの範囲であることが好ましい。ダート個数35000個を超えると、BKPに比べて大きく見劣りする。また、ダート個数5000個/m未満とするには、莫大な薬品、エネルギーが必要となるため好ましくない。また、本発明は上記脱墨古紙パルプを10質量%〜100質量%配合した紙の発明を含む。10%未満の配合率では抄紙時に上記効果が消失してしまうため、好ましくない。本発明の方法で得られた脱墨古紙パルプは白色度さえ適度に合わせれば、ダートが少ないため紙に50質量%以上配合することが可能である。
【0033】
本発明の方法により、新聞古紙を主体とした印刷古紙より製造される脱墨古紙パルプのISO白色度が65%〜85%のものまで幅広く製造できる上、いずれもダートの低減された品質を達成することが可能となる。
【0034】
本発明の脱墨古紙パルプの製造方法によれば、印刷古紙を、離解工程、除塵工程、漂白工程、分散工程、フローテーション工程、洗浄・脱水工程を組み合わせてパルプ化する方法において、前記離解工程をpH9.1以上、12.5以下のアルカリ性領域で行い、漂白工程より前のフローテーション工程をpH6.0以上、9.0以下の中性領域、漂白工程をpH9.1以上、12.5以下のアルカリ性領域、漂白工程より後のフローテーション工程をpH6.0以上、9.0以下の中性領域でそれぞれ行うことにより、白色度が高く、かつ、印刷古紙由来のインキの除去性能に優れパルプ中に残留している未剥離インキ、及び、遊離インキの少ない脱墨古紙パルプを製造できる。
【0035】
印刷古紙上のインキは、現在、機械的な手法、薬品使用による手法でパルプより剥離されるが、この剥離されて、パルプスラリー中に点在する遊離インキの低減が困難であった。このように、残留している未剥離インキ、遊離インキの少ない脱墨古紙パルプを製造できる理由は定かではないが、次のように推測される。遊離インキはアルカリ性領域で自らの持つ電荷でインキ同士が反発し合っているため、通常のアルカリ性領域でのフローテーション工程では微細化した遊離インキを取り除くことが非常に困難であった。しかし、中性領域でのフローテーションを行うことで遊離インキの持っている電荷による反発を低減させることができ、微細化した遊離インキでもフローテーションで除去することができる。更に、アルカリ性領域の離解工程でパルプ繊維からインキを剥離した後、漂白工程の前段で1回目の中性領域でのフローテーションを行い、その後アルカリ性領域の漂白処理により、更にパルプから剥離された遊離インキを後段の2回目の中性領域でのフローテーションを行うといったpHを変化させた繰り返しの除去により、脱墨パルプに残留する未剥離インキ、遊離インキの両方のインキが少なくなり、良質な脱墨古紙パルプが得られる、と考えられる。
【0036】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、各実施例は本発明の技術的範囲をなんら限定するものではない。各実施例及び比較例において、百分率(%)は白色度以外すべて質量%を意味し、また、薬品添加率は、対絶乾パルプ当たりの質量%で示した。古紙パルプの品質は、以下に示したダート評価方法によるダート個数で評価した。特にことわりが無い限り原料濃度は灰分込みの固形分濃度である。各実施例では、完成パルプ60ADT/Dの脱墨パルプ製造設備を使用した。
実施例4は参考例である。

【0037】
<ダート評価方法>
脱墨古紙パルプを150メッシュワイヤー上に分取し、パルプ1g当たり約20リットルのフィルター通過清水を用いて、繊維から遊離しているインクを完全に洗浄後、坪量60g/mの手すき紙をJIS P 8222に示される試験用手すき紙の調製方法に準じて5枚作製した。手すき紙5枚中の中心10cm×10cm中に含まれる0.004〜5.0mmサイズのダート個数を王子計測機器社製ダートアナライザー(DIP−200)を用いて測定した。測定結果は、パルプ1mあたりの個数に換算し、ダート個数とした。
【0038】
<白色度測定方法>
完成パルプを離解後、パルプスラリーに硫酸バンドを対絶乾パルプ20.0%加え、Tappi試験法T205os−71(JIS P 8209)に従って、坪量60g/mのシートを作製した。その後、パルプの白色度は分光白色度測色計(スガ試験機製)で蛍光強度カットの白色度を測定した。
【0039】
実施例1
新聞紙及びチラシを主体とする古紙(灰分含有量14.0%)の原料をパルパーに仕込み原料濃度15%、水酸化ナトリウム添加率対パルプ0.60%、高級アルコール系脱墨剤(花王社製、DI−7020)添加率対パルプ0.10%、離解時間15分、離解温度35℃で離解した。離解後のパルプスラリー(パルプ濃度4.5%相当)のpHは11.6であった。離解後のパルプスラリーを除塵処理し、1.1%に濃度調整後、前段フローテーター(王子エンジニアリング(株)製)入口の原料pHを7.5とし、フローテーション処理をした。前段フローテーターの脱墨条件は、フローテーター処理濃度1.1%、フローテーター処理温度37℃で行った。
【0040】
前段フローテーターで脱墨処理後のパルプスラリーは、エキストラクター、ディスクシックナーで洗浄後、スクリュープレスで脱水し、加温ミキサーで75℃まで昇温後、軸タイプの分散機として相川鉄工社製ディスパーザーを用いて一段目の分散処理(パルプ濃度約28%、電力原単位約40kwh/パルプT)をし、その後漂白を行なった。漂白条件は過酸化水素添加率対パルプ3.5%、水酸化ナトリウム添加率対パルプ2.0%、珪酸ナトリウム添加率対パルプ水酸化ナトリウム換算0.6%、パルプ濃度約27.0%で、漂白時間150分で行った。漂白後のパルプのpHは11.1であった。次いで、温度、濃度を保持したまま、軸タイプの分散機として前記相川鉄工社製ディスパーザーを用いて二段目の分散処理(電力原単位約20kwh/パルプT)を行なった。
【0041】
その後、後段のフローテーターに送る上記二段目の分散処理パルプスラリーを硫酸でpH7.5とし、王子エンジニアリング社製のフローテーターで脱墨処理を行なった。フローテーターの脱墨条件は、特殊脂肪酸誘導体(花王社製、DI−1120)添加率0.10%、フローテーター処理濃度1.1%、フローテーター処理温度40℃で行った。ディスクシックナーにて脱水洗浄後、製品パルプの白色度及びダート数を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
実施例2
前段フローテーター及び後段フローテーターに送るパルプスラリーを硫酸でpH6.5とし、フローテーターで脱墨処理を行なった以外は、実施例1と同様に処理し、製品パルプを製造した。製品パルプの白色度及びダート数の測定結果、各工程のpHを表1に示す。
【0043】
実施例3
前段フローテーター及び後段フローテーターに送るパルプスラリーを硫酸でpH8.5とし、フローテーターで脱墨処理を行なった以外は、実施例1と同様に処理し、製品パルプを製造した。製品パルプの白色度及びダート数の測定結果、各工程のpHを表1に示す。
【0044】
実施例4
離解工程で添加した水酸化ナトリウム添加率を対パルプ0.25%、漂白工程で加える水酸化ナトリウム添加率を対パルプ1.5%、珪酸ナトリウム添加率を対パルプ水酸化ナトリウム換算0.45%で行なった以外は、実施例1と同様に処理し、製品パルプを製造した。製品パルプの白色度及びダート数の測定結果、各工程のpHを表1に示す。
【0045】
実施例5
離解工程で添加した水酸化ナトリウム添加率を対パルプ1.0%、漂白工程で加える水酸化ナトリウム添加率を対パルプ2.5%、珪酸ナトリウム添加率を対パルプ水酸化ナトリウム換算0.75%で行なった以外は、実施例1と同様に処理し、製品パルプを製造した。製品パルプの白色度及びダート数の測定結果、各工程のpHを表1に示す。
【0046】
比較例1
前段フローテーター、及び、後段フローテーターに送るパルプスラリーを硫酸でpH9.5とし、フローテーターで脱墨処理を行なった以外は、実施例1と同様に処理し、製品パルプを製造した。製品パルプの白色度及びダート数の測定結果、各工程のpHを表1に示す。
【0047】
比較例2
離解工程で添加した水酸化ナトリウム添加率を対パルプ0.05%、漂白工程で加える水酸化ナトリウム添加率を対パルプ0.5%、珪酸ナトリウム添加率を対パルプ水酸化ナトリウム換算0.15%で行なった以外は、実施例1と同様に処理し、製品パルプを製造した。製品パルプの白色度及びダート数の測定結果、各工程のpHを表1に示す。
【0048】
比較例3
前段フローテーター、及び、後段フローテーターに送るパルプスラリーを硫酸でpH9.5とし、フローテーターで脱墨処理を行なった以外は、比較例2と同様に処理し、製品パルプを製造した。製品パルプの白色度及びダート数の測定結果、各工程のpHを表1に示す。
【0049】
比較例4
離解工程で添加した水酸化ナトリウム添加率を対パルプ2.0%、漂白工程で加える水酸化ナトリウム添加率を対パルプ3.0%、珪酸ナトリウム添加率を対パルプ水酸化ナトリウム換算0.9%で行なった以外は、実施例1と同様に処理し、製品パルプを製造した。製品パルプの白色度及びダート数の測定結果、各工程のpHを表1に示す。
【0050】
【表1】
実施例1〜5及び比較例1を比較すると明らかなように、離解工程、漂白工程のpHを変化させなくても、pHが9を超えるアルカリ性領域でフローテーションを行うと、脱墨性能が悪化し、白色度が低下するとともにダートも上昇傾向となり、品質が悪化する。また、実施例1〜5及び比較例2、4を比較すると明らかなように、フローテーション工程を中性領域のpHで行っても、離解工程、漂白工程のpHが高すぎたり、または低すぎたりすると、脱墨パルプの白色度が低下する。更に比較例3に示すように、全工程ともpHを9.5付近で処理した場合、白色度が低下すると共に、ダート数が上昇し、品質が顕著に悪化する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の方法によれば、原料古紙の品質によらず、高白色度で、かつ、チリが低減し、高品質の脱墨パルプが得られるので、クラフトパルプ、メカニカルパルプ等より安価な脱墨パルプを紙製品に高配合する事が可能となり古紙の利用範囲が広がる。