特許第6492979号(P6492979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492979
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】ガラス繊維集束体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 69/06 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   B65H69/06
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-111662(P2015-111662)
(22)【出願日】2015年6月1日
(65)【公開番号】特開2016-222431(P2016-222431A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162020
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】西堀 真治
(72)【発明者】
【氏名】石野 光洋
【審査官】 大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−083420(JP,A)
【文献】 特開2008−221511(JP,A)
【文献】 実開平02−064567(JP,U)
【文献】 特開平06−040668(JP,A)
【文献】 特開2008−143087(JP,A)
【文献】 特開2008−094540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 69/02−69/06
B29B 9/14
B29C 70/16
D02G 3/38
D02G 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々複数のガラス繊維を集束してなる第一の集束体および第二の集束体を重ね合わせた糸継ぎ部を有し、前記糸継ぎ部において、前記第一の集束体と第二の集束体が連結されてなるガラス繊維集束体であって、
前記糸継ぎ部は、
前記第一の集束体と前記第二の集束体とが接合している、エアースプライスにより形成された複数の接合部を有し、
前記糸継ぎ部の少なくとも一部が、
ヤーンにより被覆されている、
ことを特徴とするガラス繊維集束体。
【請求項2】
前記糸継ぎ部における前記ヤーンによる被覆範囲の長さが、
前記糸継ぎ部の長さに対する60%以下の長さである、
ことを特徴とする請求項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項3】
前記糸継ぎ部は、
前記第一の集束体の後端部側の端部と前記第二の集束体の先端部側の端部を連結して形成され、
前記第二の集束体の先端部を、
前記ヤーンによって被覆する、
ことを特徴とする請求項または請求項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項4】
前記糸継ぎ部における前記ヤーンによる被覆範囲に、
前記第二の集束体の先端部を包含する、
ことを特徴とする請求項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項5】
前記ヤーンが、軟化点が150℃以上の有機材料から成る、
ことを特徴とする、請求項から請求項のいずれか一項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項6】
前記接合部は、
2箇所以上6箇所以下形成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項7】
前記糸継ぎ部の250℃雰囲気における引張強度が、
200N以上である、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項8】
前記第一の集束体および前記第二の集束体の番手が、
400〜4000である、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項9】
前記第一の集束体および第二の集束体が、複数本のモノフィラメントを集束して成るストランドである、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項10】
前記第一の集束体および第二の集束体が、複数本のストランドを撚り合わせて成る、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項11】
前記第一の集束体および第二の集束体が、各々巻回体であり、
前記糸継ぎ部は、前記第一の集束体および第二の集束体各々の巻回体から引き出された部位を互いに重ねあわせて形成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のガラス繊維集束体。
【請求項12】
各々複数のガラス繊維を集束してなる第一の集束体および第二の集束体を糸継ぎして製造されるガラス繊維集束体の製造方法であって、
前記第一の集束体と前記第二の集束体を、
エアースプライスによって複数の接合部を形成して糸継ぎし、
前記糸継ぎした部位の少なくとも一部をヤーンにより被覆する、
ことを特徴とするガラス繊維集束体の製造方法。
【請求項13】
前記エアースプライスにおけるエアーの吐出圧力が、
0.45〜0.80MPaである、
ことを特徴とする請求項12に記載のガラス繊維集束体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維のモノフィラメントを複数本束ねて構成されるストランドを接合して、ガラス繊維集束体を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維のモノフィラメントを複数本束ねて構成されるガラス繊維集束体たるガラス繊維ストランド(以下、単にストランドとも呼ぶ)に関し、2本のストランドの端部同士を接合する一般的な方法として、エアースプライスによる方法が知られている。エアースプライスによるストランドの接合方法は、2本のストランドの端部同士を重ね合わせて、重ね合わせた部分に高圧エアーを吹き付けることで、モノフィラメント同士を局部的に絡み合わせて接合するものである。
【0003】
エアースプライスでストランドを接合する場合には、接合部における引張強度の不足が懸念されるため、エアースプライスによる接合部に接着剤を塗布することによって、ストランドの引張強度を向上する技術が開発されており、その技術が特許文献1に示されている。
【0004】
さらに、ガラス繊維ストランドを巻回して構成されるガラス繊維集束体たるガラス繊維ロービング(以下、単にロービングとも呼ぶ)について、その尾部と頭部をエアースプライスにより接合するとともに、その接合部に接着剤を塗布することによって、複数のロービングを連結する技術が、特許文献2に示されている。
【0005】
しかしながら、ストランドおよびロービングの接合に際し、エアースプライスによる接合と接着剤の塗布を併用した場合には、接着剤の塗布や乾燥の為の大がかりな設備が必要になるとともに、接着剤の塗布や乾燥には余分な時間が掛かるという問題があった。
このため、ストランドおよびロービングの接合に際し、接着剤を塗布することなく、ストランドおよびロービングの接合部における引張強度が向上できる技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2013−500914号公報
【特許文献2】実開平2−64567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、斯かる現状の課題を鑑みてなされたものであり、糸継ぎ部において、接着剤を用いることなく連結される構成でありながら、従来に比して優れた引張強度を有するガラス繊維集束体を提供するとともに、接着剤を用いることなくストランドを連結しながら、引張強度の向上を実現するガラス繊維集束体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、本発明に係るガラス繊維集束体は、各々複数のガラス繊維を集束してなる第一の集束体および第二の集束体を重ね合わせた糸継ぎ部を有し、前記糸継ぎ部において、前記第一の集束体と第二の集束体が連結されてなるガラス繊維集束体であって、前記糸継ぎ部は、前記第一の集束体と前記第二の集束体とが接合している複数の接合部を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記糸継ぎ部の少なくとも一部が、ヤーンにより被覆されていることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、糸継ぎ部における引張強度を向上することができる。
【0011】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記糸継ぎ部における前記ヤーンによる被覆範囲の長さが、前記糸継ぎ部の長さに対する60%以下の長さであることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、例えば、糸継ぎ部全体をヤーンにより被覆した場合に比べて、糸継ぎ部において高い引張強度を得ることができる。
【0012】
また、本発明に係るガラス繊維集束体において、前記糸継ぎ部は、前記第一の集束体の後端部側の端部と前記第二の集束体の先端部側の端部を連結して形成され、前記第二の集束体の先端部を、前記ヤーンによって被覆することを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、ガラス繊維集束体の供給時において、第二の集束体の先端部が装置等に引っ掛ることを防止できる。
【0013】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記糸継ぎ部における前記ヤーンによる被覆範囲に、前記第二の集束体の先端部を包含することを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、糸継ぎ部における引張強度を向上しつつ、ガラス繊維集束体の供給時において、第二の集束体の先端部が装置等に引っ掛ることを防止できる。
【0014】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記ヤーンが、軟化点が150℃以上の有機材料から成ることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、糸継ぎ部における引張強度を、より向上することができる。
【0015】
また、本発明に係るガラス繊維集束体において、前記接合部は、エアースプライスにより形成され、かつ、2箇所以上6箇所以下形成されることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、接合部を容易に形成しながら、糸継ぎ部における引張強度の向上を図ることができる。
【0016】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記糸継ぎ部の250℃雰囲気における引張強度が、200N以上であることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、ガラス繊維集束体の供給時において、糸継ぎ部からガラス繊維集束体が切れることを防止できる。
【0017】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記第一の集束体および前記第二の集束体の番手が、400〜4000であることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、幅広い要求仕様に対応し、糸継ぎ部における引張強度に優れたガラス繊維集束体を供給することができる。
【0018】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記第一の集束体および第二の集束体が、複数本のモノフィラメントを集束して成るストランドであることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、接着剤を用いなくとも、複数のストランドを連結する糸継ぎ部における引張強度を向上することができる。
【0019】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記第一の集束体および第二の集束体が、複数本のストランドを撚り合わせて成ることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、接着剤を用いなくとも、複数のストランドを連結する糸継ぎ部における引張強度を向上することができる。
【0020】
また、本発明に係るガラス繊維集束体は、前記第一の集束体および第二の集束体が、各々巻回体であり、前記糸継ぎ部は、前記第一の集束体および第二の集束体各々の巻回体から引き出された部位を互いに重ねあわせて形成されることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体は、このような構成を有することにより、接着剤を用いなくとも、複数のロービングを連結する糸継ぎ部における引張強度を向上することができる。
【0021】
また、本発明に係るガラス繊維集束体の製造方法は、各々複数のガラス繊維を集束してなる第一の集束体および第二の集束体を糸継ぎして製造されるガラス繊維集束体の製造方法であって、前記第一の集束体と前記第二の集束体を、複数の接合部を形成して糸継ぎすることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体の製造方法は、このような構成を有することにより、接着剤を用いなくとも、糸継ぎ部における引張強度を向上することができる。
【0022】
また、本発明に係るガラス繊維集束体の製造方法は、前記接合部を、エアースプライスによって形成することを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体の製造方法は、このような構成を有することにより、接合部を容易に形成し、糸継ぎ部における引張強度を容易に向上することができる。
【0023】
また、本発明に係るガラス繊維集束体の製造方法は、前記エアースプライスにおけるエアーの吐出圧力が、0.45〜0.80MPaであることを特徴とする。
本発明に係るガラス繊維集束体の製造方法は、このような構成を有することにより、糸継ぎ部における引張強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0025】
本発明に係るガラス繊維集束体によれば、糸継ぎ部において、接着剤を用いずに連結する構成でありながら、糸継ぎ部における引張強度を向上することができる。
【0026】
また、本発明に係るガラス繊維集束体の製造方法によれば、糸継ぎ部において、接着剤を用いずにストランドを連結しながら、糸継ぎ部における引張強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランドを示す模式図。
図2】本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランドにおける糸継ぎ部およびラップ部の形成状況を示す模式図、(a)第二のストランドの先端部をラップ部によって包含させた態様を示す図、(b)糸継ぎ部の全範囲をラップ部によって包含させた態様を示す図。
図3】本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランドの製造方法を示すフロー図。
図4】本発明の一実施形態に係るガラス繊維ロービングを示す模式図。
図5】本発明の一実施形態に係るガラス繊維ロービングにおける糸継ぎ部およびラップ部の形成状況を示す模式図。
図6】本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランドの引張強度の測定結果を示す図。
図7】従来のガラス繊維ストランドを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0029】
まず始めに、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランドについて、図1および図2を用いて説明をする。
図1に示す如く、本発明の一実施形態に係るガラス繊維集束体であるガラス繊維ストランド1は、第一のストランド2と第二のストランド3を、糸継ぎ部4において連結して構成されるものである。
第一のストランド2と第二のストランド3は、いずれもガラス繊維のモノフィラメントを複数本集束して構成されるものである。ガラス繊維ストランド1は、任意の用途に適用可能であるが、例えば、LFTP(熱可塑性長繊維強化樹脂)の素材として用いることができる。このような用途の場合、第一のストランド2と第二のストランド3の製造時に用いる集束剤は、好ましくは重量平均分子量が5万以上、より好ましくは8万以上、さらに好ましくは10万以上のポリプロピレンを含むものである。このような構成によれば、LFTPの製造時に、素材であるガラス繊維ストランド1と溶融樹脂とを容易に親和させることができる。
【0030】
ガラス繊維ストランド1は、成型部品等の製造に用いられる素材であり、長さ方向に引っ張られながら、連続的に製造装置等に供給されるものである。
本説明では、ガラス繊維ストランド1を構成する各ストランド2・3のうち、第一のストランド2を、第二のストランド3よりも先に製造装置等に供給されるものとして規定しており、第二のストランド3を、第一のストランド2に続いて製造装置等に供給されるものとして規定している。
【0031】
そして、第一のストランド2では、製造装置等に対する供給方向Xを基準として、先端部2aと後端部2bを規定しており、第二のストランド3では、製造装置等に対する供給方向Xを基準として、先端部3aと後端部3bを規定している。
【0032】
糸継ぎ部4は、第一のストランド2の後端部2b側の端と第二のストランド3の先端部3a側の端を、繊維方向が互いに略平行となる状態で所定の長さで重ね合わせて形成される部位であり、糸継ぎ部4の長さを、糸継ぎ長さAとして規定している。
【0033】
そして、ガラス繊維ストランド1は、糸継ぎ部4において、複数の接合部5・5・5を形成することによって、第一のストランド2と第二のストランド3を連結して製造される。
【0034】
尚、本実施形態では、糸継ぎ部4において、接合部5を3箇所備える態様のガラス繊維ストランド1を例示しているが、ガラス繊維ストランド1における接合部5の箇所数は2箇所以上であればよく、3箇所以上とすることが好ましい。また、ガラス繊維ストランド1における接合部5の箇所数は、多くし過ぎると材料ロスが多くなるため、6箇所以下とすることが好ましい。
【0035】
接合部5は、エアースプライスにより形成される部位であり、糸継ぎ部4における局部に高圧エアーを吹き付けることによって、その局部において、第一のストランド2と第二のストランド3の各モノフィラメントを絡み合わせて形成される。
尚、糸継ぎ部4における複数の接合部5・5・5は、同時に形成することが好ましい。複数の接合部を同時に形成することによって、糸継ぎ部4の引張強度をさらに向上できる。尚、複数の接合部5・5・5は、一つずつ複数回(本実施形態では3回)に分けて形成してもよい。
【0036】
図7には、従来のガラス繊維集束体であるガラス繊維ストランド21を示している。
従来のガラス繊維ストランド21は、糸継ぎ部24において、一つの接合部25を形成することによって、第一のストランド22と第二のストランド23を連結して製造される。
【0037】
ガラス繊維ストランド1は、糸継ぎ部4において、複数(本実施形態では3箇所)の接合部5・5・5を形成して、第一のストランド2と第二のストランド3を連結する構成としており、従来のガラス繊維ストランド21に比して、糸継ぎ部4における引張強度の向上が図られている。
【0038】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1は、各々複数のガラス繊維を集束してなる第一のストランド2および第二のストランド3を重ね合わせた糸継ぎ部4を有し、糸継ぎ部4において、第一のストランド2と第二のストランド3が連結されてなるものであって、糸継ぎ部4は、第一のストランド2と第二のストランド3とが接合している複数(本実施形態では3箇所)の接合部5・5・5を有するものである。
このような構成により、接着剤を用いなくとも、糸継ぎ部4における引張強度を向上することができる。
【0039】
また、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1は、第一のストランド2および第二のストランド3が、複数本のモノフィラメントを集束して成るストランドである。
ガラス繊維ストランド1は、このような構成を有することにより、接着剤を用いなくとも、複数のストランド2・3を連結する糸継ぎ部4における引張強度を向上することができる。
【0040】
さらに、図1に示す如く、ガラス繊維ストランド1は、糸継ぎ部4の少なくとも一部において、ラップ部6が形成されていることが好ましい。
ラップ部6は、束ねた状態の第一および第二の各ストランド2・3に、ヤーン7を巻回し、ヤーン7による被覆を形成した部位である。尚、ガラス繊維ストランド1では、ラップ部6の長さをラップ長さBとして規定している。
【0041】
ガラス繊維ストランド1では、糸継ぎ部4の少なくとも一部にラップ部6を形成し、ヤーン7により被覆することによって、第一および第二の各ストランド2・3の変位を、ヤーン7で拘束することができるため、糸継ぎ部4における引張強度を向上することができる。
【0042】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1は、糸継ぎ部4の少なくとも一部が、ヤーン7により被覆されているラップ部6を備えるものである。
このような構成を有することにより、糸継ぎ部4における引張強度を向上することができる。
【0043】
ヤーン7は、耐熱性を有する有機材料から成ることが好ましい。例えば、ヤーン7の軟化点は、150℃以上であることが好ましく、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは235℃以上である。具体的には、ヤーン7は、ポリエステル系樹脂繊維や、ポリアミド系樹脂繊維等であって良い。このような構成によれば、糸継ぎ部4における引張強度を、より向上することができる。
尚、上記は一例であり、ラップ部6の形成に用いるヤーン7の材質は、ガラス繊維ストランド1の使用用途や使用するストランドの番手等に応じて適宜選択することができる。
【0044】
さらに、図2(a)に示す如く、ガラス繊維ストランド1は、ラップ部6によって、糸継ぎ部4を構成する第二のストランド3の先端部3aを、被覆する構成とすることが好ましい。
【0045】
ガラス繊維ストランド1は、上述の通りLFTPの素材として用いることができる。LFTPの製造工程としては、例えば、特開平08−047924に開示されるような工程が考えられる。具体的には、先ず、ガラス繊維ストランド1を引出し、溶融した熱可塑性樹脂で満たされた含浸槽に通過させて表面を被覆する。次いで、含浸槽の出口側に設けた小さな孔(ダイ)を通してガラス繊維ストランド1を引き出すことにより、過剰に付着した樹脂をしごき落とす。次いで、ガラス繊維ストランド1の表面を被覆する溶融樹脂を冷却して固化させる。その後、表面が被覆されたガラス繊維ストランド1を、カッター等を用いて所定の長さに切断することによって、ペレット状のLFTPを得られる。
【0046】
このような工程において、ガラス繊維ストランド1は、第一のストランド2から第二のストランド3の順に含浸槽やダイ等の製造設備へ導入される。この際、第二のストランド3の先端部3aがばらけた状態になっていると、先端部3aが製造設備等に引っ掛り、ガラス繊維ストランド1が糸継ぎ部4において切れたり、溶融樹脂が均一に付着し難くなったりするおそれがある。
そこで、第二のストランド3の先端部3aをラップ部6で被覆することによって、ガラス繊維ストランド1を供給方向Xに供給するときに、先端部3aが装置等に引っ掛ることが防止できる。
【0047】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1において、糸継ぎ部4は、第一のストランド2の後端部2b側の端部と第二のストランド3の先端部3a側の端部を連結して形成され、第二のストランド3の先端部3aを、ヤーン7によって被覆するものである。
このような構成により、ガラス繊維ストランド1の供給時において、第二のストランド3の先端部3aが装置等に引っ掛ることを防止できる。
【0048】
さらに、図2(a)に示す如く、ガラス繊維ストランド1では、第二のストランド3の先端部3aを被覆するために、別途ヤーン7を巻回するのではなく、ラップ部6に第二のストランド3の先端部3aを包含させる構成としている。
【0049】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1は、糸継ぎ部4におけるヤーン7による被覆範囲(ラップ部6)に、第二のストランド3の先端部3aを包含するものであり、このような構成により、糸継ぎ部4における引張強度を向上しつつ、ガラス繊維ストランド1の供給時において、第二のストランド3の先端部3aが装置等に引っ掛ることを防止できる。
【0050】
尚、ガラス繊維ストランド1は、図2(b)に示すように、ラップ部6によって、糸継ぎ部4の全体を被覆する構成であってもよく、また、ラップ部6を複数箇所に設ける構成としてもよい。
【0051】
次に、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造方法について、図1図3を用いて説明をする。
図3に示す如く、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1(図1参照)の製造方法では、まず、第一のストランド2の後端部2b側の端と第二のストランド3の先端部3a側の端を、繊維方向が互いに略平行となる状態で所定の長さで重ね合わせて、糸継ぎ部4を形成する(STEP−1)。
【0052】
次に、図3に示す如く、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1(図1参照)の製造方法では、糸継ぎ部4に対してエアースプライスを行うことによって、複数の接合部5・5・5を形成する(STEP−2)。第一のストランド2と第二のストランド3は、複数の接合部5・5・5が形成されることによって糸継ぎされる。
【0053】
尚、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造方法では、接合部5を複数形成する構成としており、接合部5の箇所数は、2箇所〜6箇所としている。
また、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造方法では、エアースプライスによって接合部5を形成するときのエアーの吐出圧力を、0.45〜0.80MPaの範囲で設定している。
【0054】
次に、図3に示す如く、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1(図1参照)の製造方法では、(STEP−2)において形成した糸継ぎ部4の少なくとも一部にラップ部6を形成する(STEP−3)。
【0055】
本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造方法では、以上のような流で、糸継ぎ部4において複数の接合部5・5・5を形成し、第一のストランド2と第二のストランド3を連結して、ガラス繊維ストランド1を製造する。
【0056】
尚、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1(図1参照)の製造方法では、ラップ部6のラップ長さBを、糸継ぎ部4の糸継ぎ長さAに対する60%以下の長さとしている。
また、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造方法では、エアースプライスによって接合部5を形成するときのエアーの吐出圧力を、0.45〜0.80MPaの範囲で設定している。
【0057】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維集束体の製造方法は、各々複数のガラス繊維を集束してなる第一のストランド2および第二のストランド3を糸継ぎして製造されるガラス繊維ストランド1の製造方法であって、第一のストランド2と第二のストランド3を、複数の接合部5・5・5を形成して糸継ぎするものである。
このような構成により、接着剤を用いなくとも、糸継ぎ部4における引張強度を向上することができる。
【0058】
また、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造方法は、接合部5を、エアースプライスによって形成するものである。
このような構成により、接合部5を容易に形成し、糸継ぎ部4における引張強度を容易に向上することができる。
【0059】
次に、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ロービングについて、図4および図5を用いて説明をする。
図4に示す如く、本発明の一実施形態に係るガラス繊維集束体であるガラス繊維ロービング11は、第一のロービング12と第二のロービング13を連結して製造されるものであり、糸継ぎ部14を備えている。
【0060】
尚、本実施形態では、ガラス繊維ロービング11を構成する第一のロービング12と第二のロービング13が、ガラス繊維のモノフィラメントを複数束ねたストランドを巻回してコイル状に構成した、所謂DWR(Direct Wound Roving)である場合を例示して説明する。
【0061】
ガラス繊維ロービング11は、先述したガラス繊維ストランド1と同様に、成型部品等の製造に用いられる素材であり、長さ方向に引っ張られながら、連続的に製造装置等に供給されるものである。
本説明では、ガラス繊維ロービング11を構成する各ロービング12・13のうち、第一のロービング12を、第二のロービング13よりも先に製造装置等に供給されるものとして規定しており、第二のロービング13を、第一のロービング12に続いて製造装置等に供給されるものとして規定している。
【0062】
そして、第一のロービング12では、製造装置等に対する供給方向Xを基準として、先端部12aと後端部12bを規定しており、第二のストランド3では、製造装置等に対する供給方向Xを基準として、先端部13aと後端部13bを規定している。
【0063】
ガラス繊維ロービング11の糸継ぎ部14は、図5に示すように、第一のロービング12から引き出された後端部12b側の端と第二のロービング13から引き出された先端部13a側の端を、繊維方向が互いに略平行となる状態で所定の長さで重ね合わせて形成される。
【0064】
そして、ガラス繊維ロービング11は、糸継ぎ部14において、複数の接合部15・15・15を形成することによって、第一のロービング12と第二のロービング13を連結して製造される。
【0065】
接合部15は、エアースプライスにより形成される部位であり、糸継ぎ部14の局所に高圧エアーを吹き付けることによって、その局所に接合部15が形成される。
尚、本説明では、ガラス繊維ロービング11の糸継ぎ部14の長さについても、ガラス繊維ストランド1の場合と同様に、糸継ぎ長さAと呼ぶ。
【0066】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ロービング11は、各々ガラス繊維からなる第一のロービング12および第二のロービング13を重ね合わせた糸継ぎ部14が形成され、糸継ぎ部14において、第一のロービング12と第二のロービング13が連結されてなるものであって、糸継ぎ部14は、第一のロービング12と第二のロービング13とが接合している複数(本実施形態では3箇所)の接合部15・15・15を有するものである。
このような構成により、接着剤を用いなくとも、糸継ぎ部14における引張強度を向上することができる。
【0067】
また、本発明の一実施形態に係るガラス繊維集束体であるガラス繊維ロービング11は、第一のロービング12および第二のロービング13が、各々巻回体であり、糸継ぎ部14は、第一のロービング12および第二のロービング13各々の巻回体から引き出された部位である後端部12bと先端部13aを互いに重ねあわせて形成されるものである。
ガラス繊維ロービング11は、このような構成を有することにより、接着剤を用いなくとも、複数のロービング12・13を連結する糸継ぎ部14における引張強度を向上することができる。
【0068】
さらに、図4に示す如く、ガラス繊維ロービング11は、糸継ぎ部14の少なくとも一部において、ヤーン17によるラップ部16が形成されることが好ましい。
ラップ部16は、束ねた第一および第二の各ロービング12・13をヤーン17によって被覆した部位である。
尚、本説明では、ラップ部16の長さを、ガラス繊維ストランド1におけるラップ部6の場合と同様にラップ長さBと呼ぶ。
【0069】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ロービング11は、糸継ぎ部14の少なくとも一部が、ヤーン17により被覆されているラップ部16を備えるものである。
このような構成により、ガラス繊維ロービング11の糸継ぎ部14における引張強度を向上することができる。
【0070】
さらに、ガラス繊維ロービング11では、ガラス繊維ストランド1(図2(a)参照)と同様に、ラップ部16によって、糸継ぎ部14を構成する第二のロービング13の先端部13aを、被覆する構成とすることが好ましい。
【0071】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ロービング11において、糸継ぎ部14は、第一のロービング12の後端部12b側の端部と第二のロービング13の先端部13a側の端部を連結して形成され、第二のロービング13の先端部13aを、ヤーン17によって被覆するものである。
このような構成により、ガラス繊維ロービング11の供給時において、第二のロービング13の先端部13aが装置等に引っ掛ることを防止できる。
【0072】
また、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ロービング11は、糸継ぎ部14におけるヤーン17による被覆範囲(ラップ部16)に、第二のロービング13の先端部13aを包含するものである。
このような構成により、糸継ぎ部14における引張強度を確実に向上しつつ、ガラス繊維ロービング11の供給時において、第二のロービング13の先端部13aが装置等に引っ掛ることを防止できる。
【0073】
尚、本実施形態で示したガラス繊維ストランド1およびガラス繊維ロービング11は、二つの部材(ストランドおよびロービング)を連結したものであるが、3つ以上のストランドおよびロービングを連結してもよい。そして、3つ以上のストランドおよびロービングを連結することによって、より長尺のガラス繊維ストランド1およびガラス繊維ロービング11を製造することができる。
【0074】
また、本実施形態では、第一のロービング12および第二のロービング13が、単ストランドを巻回したDWRである場合を例示して説明したが、第一のロービング12および第二のロービング13は、各々、複数本のストランドを撚り合わせ、さらに巻回したロービング(所謂合糸ロービング)であっても良い。
【0075】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ロービング11は、第一のロービング12および第二のロービング13が、複数本のストランドを撚り合わせて成るものである。
ガラス繊維ロービング11は、このような構成を有することにより、接着剤を用いなくとも、複数のストランド(上記合糸ロービング)を連結する糸継ぎ部14における引張強度を向上することができる。
【0076】
次に、ガラス繊維ストランドの糸継ぎ部における引張強度の確認結果について、図6を用いて説明をする。尚、本実験の対象はストランドであるが、糸継ぎ部における引張強度については、ロービングを対象とした実験でも同様の結果が得られると考えられるため、以下に示す実験結果は、ロービングを用いた場合の実験結果と読み替えることができる。
【0077】
図6には、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造方法によって、第一と第二のストランド2・3を連結してガラス繊維ストランド1を製造した場合における、糸継ぎ部4におけるガラス繊維ストランド1の引張強度を確認した結果を示している。
【0078】
尚、図6に示す確認実験では、番手が1200のストランドを使用している。ここでいうストランドの番手は、ストランド1000m辺りの重量(g/1000m)によって規定される値である。
【0079】
図6に示す引張強度は、雰囲気温度以外はJIS R3420に則った方法で測定した値である。
【0080】
糸切れ発生確率は、図6に示す各条件でスプライスしたストランド、および溶融樹脂(日本ポリプロ社製NOVATEC(登録商標)−PP−MA3)を含浸装置に供給し、20m/minで引っ張った際の、100本当たりの糸切れ発生回数に基いて求めた。糸切れ発生確率が5%未満である場合をAとし、糸切れ発生確率が5〜50%である場合をBとし、糸切れ発生確率が50%以上である場合をCとして示す。
【0081】
まず、実施例1と比較例1を比較する。
図6に示す実施例1に係るガラス繊維ストランド1(図1参照)は、MESDAN社製エアースプライサー(製品名:JOINTAIR(登録商標)、型式:116)を用いて、糸継ぎ部4において、1箇所ずつ3回に分けてエアースプライスを行って、合計3箇所の接合部5・5・5を形成して製造したものである。また、実施例1に係るガラス繊維ストランド1の製造時には、エアースプライスの際のエアーの吐出圧力を、0.5MPaに設定している。
【0082】
また、比較例1に係る従来のガラス繊維ストランド21(図7参照)は、第一および第二の各ストランド22・23を、実施例1と同じエアースプライサー(型式:116)を用いて、糸継ぎ長さAの糸継ぎ部24において、1か所の接合部25を形成したものであり、エアースプライス時のエアーの吐出圧力を、0.5MPaに設定している。
【0083】
即ち、実施例1に係るガラス繊維ストランド1と比較例1に係るガラス繊維ストランド21では、接合部の箇所数が異なっており、糸継ぎ部において、実施例1では複数(3個)の接合部5・5・5を備え、比較例1では単数(1個)の接合部25を備える構成となっている。
【0084】
図6に示すように、実施例1と比較例1に係る各ガラス繊維ストランドの引張強度を比較すると、比較例1に比して、実施例1の引張強度が大幅に向上していることが確認できた。実施例1は、比較例1に比して、23℃雰囲気では約3倍の引張強度となっており、250℃雰囲気では7倍以上の引張強度となっている。
【0085】
そして、実施例1と比較例1の比較によって、糸継ぎ部4において接合部5を複数設けることが、ガラス繊維ストランドの引張強度向上に有効であることが確認できた。
【0086】
尚、糸継ぎ部4において接合部5の箇所数を多くし過ぎると、糸継ぎ部4の長さが多大となって、材料ロスの増大を招くことが懸念される。このため、ガラス繊維ストランド1における接合部5の個数は、2箇所以上6箇所以下とすることが好ましい。
【0087】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1において、接合部5は、エアースプライスにより形成され、かつ、2箇所以上6箇所以下形成されるものである。
このような構成により、接合部5を容易に形成しながら、糸継ぎ部4における引張強度の向上を図ることができる。
【0088】
次に、実施例1と実施例2を比較する。
実施例2に係るガラス繊維ストランド1は、MESDAN社製エアースプライサー(製品名:JOINTAIR(登録商標)、型式:116)を用いて、糸継ぎ部4において、1箇所ずつ3回に分けてエアースプライスを行って、合計3箇所の接合部5・5・5を形成して製造したものである。また、実施例2に係るガラス繊維ストランド1の製造時には、エアースプライスの際のエアーの吐出圧力を、0.7MPaに設定している。
【0089】
即ち、実施例1と実施例2に係る各ガラス繊維ストランド1では、エアースプライスの際のエアーの吐出圧力が異なっており、実施例1では0.5MPaであって、実施例2では0.7MPaとしている。
【0090】
実施例1と実施例2を比較すると、実施例2では、実施例1に比して、23℃雰囲気では引張強度が約18%向上しており、250℃雰囲気では引張強度が約33%向上していることが確認できた。
【0091】
そして、実施例1と実施例2の比較によって、エアースプライスによって接合部5を形成する際のエアーの吐出圧力を高くすることが、ガラス繊維ストランド1の引張強度向上に有効であることが確認できた。
尚、ガラス繊維ストランド1の製造において、エアースプライスによって接合部5を形成する際のエアーの吐出圧力は、0.45〜0.8MPaとすることが好ましい。
【0092】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造方法では、エアースプライスにおけるエアーの吐出圧力が、0.45〜0.80MPaとしている。
このような構成により、糸継ぎ部4における引張強度を向上することができる。
【0093】
次に、実施例1と実施例3を比較する。
実施例3に係るガラス繊維ストランド1(図1参照)は、MESDAN社製エアースプライサー(製品名:JOINTAIR(登録商標)、型式:124)を用いて、糸継ぎ部4において、3箇所の接合部5・5・5を同時に形成したものであり、エアースプライスの際のエアーの吐出圧力を、0.5MPaに設定している。
【0094】
そして、実施例3に係るガラス繊維ストランド1では、糸継ぎ長さAに対する10%となるラップ長さBで、糸継ぎ部4にラップ部6を設ける構成としている。
尚、ラップ部6の形成には、MESDAN社製糸繋ぎ器(製品名:イルマンスプライサー)を用いており、ラップ部6の形成に用いたヤーン7は、ポリエステル製のものを使用している。
【0095】
即ち、実施例1と実施例3では、接合部5の個数(共に3個)やエアーの吐出圧力(共に0.5MPa)は共通しているが、実施例3にはラップ部6が備えられている点で異なっている。
【0096】
そして、実施例1と実施例3を比較すると、実施例3では、実施例1に係るガラス繊維ストランド1に比して、23℃雰囲気では引張強度が約3.5倍に向上しており、250℃雰囲気では引張強度が約18倍に向上している。
【0097】
そして、実施例1と実施例3の比較によって、糸継ぎ部4の少なくとも一部にラップ部6を形成することが、糸継ぎ部4におけるガラス繊維ストランド1の引張強度向上に非常に有効であることが確認できた。
【0098】
そして、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1の製造に際しては、番手が400〜4000のストランドを用いることができる。本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1は、エアースプライサーと糸繋ぎ器を用いて製造するため、幅広い番手のストランドを用いて製造することができ、幅広い要求仕様に対応することができる。
【0099】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1は、第一のストランド2および第二のストランド3の番手が、400〜4000である。
このような構成により、幅広い要求仕様に対応し、糸継ぎ部4における引張強度に優れたガラス繊維ストランド1を供給することができる。
【0100】
次に、実施例4〜実施例7および比較例2を比較する。
実施例5〜実施例7に係るガラス繊維ストランド1は、MESDAN社製エアースプライサー(製品名:JOINTAIR(登録商標)、型式:124)を用いて、糸継ぎ部4において、3箇所の接合部5を一度に形成したものであり、エアーの吐出圧力を、0.7MPaに設定している。
また、実施例4〜実施例7に係るガラス繊維ストランド1では、糸継ぎ長さAに対するラップ部6のラップ長さBの割合を、それぞれ異ならせている。
【0101】
実施例4では、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合が10%であり、この場合は、比較例2に示すストランド単体(糸継ぎ部4がない場合)の引張強度に比べて、23℃雰囲気では約72%の強度が確保され、250℃雰囲気では約57%の強度が確保されており、実施例3に比して、糸継ぎ部4における強度が向上している。
【0102】
また、例えば、比較例1と実施例3を比較することによって、接合部5を複数(3箇所)にし、さらに、ラップ部6を設けることによって、糸継ぎ部4を備えたガラス繊維ストランド1の引張強度が大幅に向上できることが確認できた。
【0103】
さらに、実施例4〜実施例7を比較することによって、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合を大きくし過ぎると、引張強度の低下を招くことが確認できた。
【0104】
実施例4では、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合が10%であり、実施例5では、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合が30%であるが、実施例4に比して実施例5の方が、引張強度が低下している。
また、実施例6では、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合が60%であり、実施例7では、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合が120%であるが、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合を大きくする程、引張強度が低下することが確認できた。
【0105】
推測に過ぎないが、接合部5におけるガラス繊維ストランド1の引張強度は、モノフィラメント同士の接触面積の大小によって決定されると考えられ、糸継ぎ部4をラップ部6で絞りすぎると、モノフィラメント同士の接触面積が減少し、接合部5におけるガラス繊維ストランド1の引張強度が低下するものと考えられる。
【0106】
従って、実施例4〜実施例7の比較によって、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合には最適な割合が存在していることが判明した。図6に示す測定結果によれば、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合は、60%以下とすることが好ましく、30%以下とすることがより好ましく、10%程度とすることが最も好ましいことが判った。
【0107】
即ち、本発明の一実施形態に係るガラス繊維ストランド1は、糸継ぎ部4におけるヤーン7による被覆範囲(ラップ部6)のラップ長さBが、糸継ぎ部4の糸継ぎ長さAに対する60%以下の長さとしている。
このような構成により、糸継ぎ部4における引張強度を確実に向上することができる。
【0108】
そして、実施例3〜実施例5に示すように、ガラス繊維ストランド1においてラップ部6を設け、糸継ぎ長さAに対するラップ長さBの割合30%以下とした場合には、250℃雰囲気における引張強度が、200N以上となっており、ガラス繊維ストランド1を用いた加工に耐え得るだけの十分な引張強度が向上されている。
【0109】
即ち、実施例3〜実施例5に示すガラス繊維ストランド1は、糸継ぎ部4の250℃雰囲気における引張強度が、200N以上である。
このような構成により、ガラス繊維ストランド1の供給時において、糸継ぎ部4からガラス繊維ストランド1が切れることを防止できる。
【0110】
尚、図6に示す実験では、2種類のMESDAN社製エアースプライサー(型式116と型式124)のいずれかを用いて、複数(3個)の接合部5・5・5を形成したが、3箇所の接合部5を一度に形成した場合(即ち、型式124を用いた場合)の方が、1箇所ずつ3回に分けて接合部5を形成した場合(即ち、型式116を用いた場合)に比して、糸継ぎ部4におけるガラス繊維ストランド1の引張強度が高くなる傾向が確認できた。
【0111】
即ち、ガラス繊維ストランド1の製造に際し、複数の接合部5を形成する場合において、1個ずつ複数回に分けて形成するよりも、複数の接合部5を一度に形成するほうが好ましいことが確認できた。
【符号の説明】
【0112】
1 ガラス繊維ストランド
2 第一のストランド
3 第二のストランド
3a 先端部
4 糸継ぎ部
5 接合部
6 ラップ部
7 ヤーン
11 ガラス繊維ロービング
12 第一のロービング
13 第二のロービング
13a 先端部
14 糸継ぎ部
15 接合部
16 ラップ部
17 ヤーン
A 糸継ぎ長さ
B ラップ長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7