特許第6492989号(P6492989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6492989タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492989
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20190325BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20190325BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20190325BHJP
   C08C 19/22 20060101ALI20190325BHJP
   C08C 19/20 20060101ALI20190325BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L15/00
   C08K3/04
   C08C19/22
   C08C19/20
   B60C1/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-115432(P2015-115432)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2017-2140(P2017-2140A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】鹿久保 隆志
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−034584(JP,A)
【文献】 特開2001−206982(JP,A)
【文献】 特開2010−106250(JP,A)
【文献】 特開2008−111022(JP,A)
【文献】 特表2015−508844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08C 19/00−19/44
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の変性ゴムを1〜30質量部含むジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを10〜80質量部配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
変性ゴム:分子内にスルホン酸基と、アミノ基およびヒドラジノ基から選択された少なくとも1つの基と、を有する変性用化合物によって、エポキシ化天然ゴムのエポキシ基を変性したゴムであり、前記変性用化合物は、前記スルホン酸基、および、アミノ基およびヒドラジノ基から選択された少なくとも1つの基が、ベンゼン環またはナフタレン環にそれぞれ結合した構造を有する
【請求項2】
請求項に記載のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、カーボンブラック等の補強性充填剤を高分散化させ、優れた耐摩耗性および破断特性を付与し得るタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境を保護する観点から、空気入りタイヤにも環境への配慮が求められ、例えば天然ゴムのような石油外資源由来の原料を用いることが検討されている(例えば特許文献1参照)。
しかし天然ゴムは、カーボンブラック等の補強性充填剤との相互作用が弱く、これを高分散化し難いという問題点があり、所望の耐摩耗性や破断特性が得られないという課題を有していた。
【0003】
なお、天然ゴムを変性してその特性を改善しようとする試みは幾つか提案されているが(例えば特許文献2〜3参照)、従来技術では、下記で説明する変性用化合物を用いてエポキシ化天然ゴムを変性し、カーボンブラック等の補強性充填剤の分散性を高めて耐摩耗性や破断特性を向上させるという技術思想は何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−308575号公報
【特許文献2】特開2012−255106号公報
【特許文献3】特開2011−225895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、カーボンブラック等の補強性充填剤を高分散化させ、優れた耐摩耗性および破断特性を付与し得るタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の変性用化合物を用いてエポキシ化天然ゴムのエポキシ基を変性した変性ゴムを用いるとともに、ジエン系ゴムに対し該変性ゴムおよびカーボンブラックを特定量配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0007】
1.下記の変性ゴムを1〜30質量部含むジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを10〜80質量部配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
変性ゴム:分子内にスルホン酸基と、アミノ基およびヒドラジノ基から選択された少なくとも1つの基と、を有する変性用化合物によって、エポキシ化天然ゴムのエポキシ基を変性したゴム。
2.前記変性用化合物は、スルホン酸基、および、アミノ基およびヒドラジノ基から選択された少なくとも1つの基が、ベンゼン環またはナフタレン環にそれぞれ結合した構造を有することを特徴とする前記1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
3.前記1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の変性用化合物を用いてエポキシ化天然ゴムのエポキシ基を変性した変性ゴムを用いるとともに、ジエン系ゴムに対し該変性ゴムおよびカーボンブラックを特定量配合したので、カーボンブラック等の補強性充填剤を高分散化させ、優れた耐摩耗性および破断特性を付与し得るタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で用いた変性ゴム1および2のFT−IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、その全体を100質量部としたときに、下記で説明する変性ゴムを1〜30質量部含む必要がある。変性ゴムが1質量部未満であると、配合量が少なすぎて本発明の効果を奏することができない。逆に30質量部を超えると耐摩耗性が悪化する。
変性ゴムのさらに好ましい配合量は、ジエン系ゴムの全体を100質量部としたときに、3〜20質量部である。
【0012】
本発明で使用される変性ゴムは、分子内にスルホン酸基と、アミノ基およびヒドラジノ基から選択された少なくとも1つの基と、を有する変性用化合物によって、エポキシ化天然ゴムのエポキシ基を変性したゴムである。
エポキシ化天然ゴム(ENR)は公知であり、市販されているものを適宜使用することができる。エポキシ化天然ゴムのエポキシ化率は、例えば20〜50mol%が好ましい。
本発明で使用される変性用化合物は、分子内にスルホン酸基と、アミノ基およびヒドラジノ基から選択された少なくとも1つの基と、を有する。変性用化合物としては、例えば、ヒドラジノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、1−ナフチルアミン−6−スルホン酸、1−ナフチルアミン−4−スルホン酸、アミノメタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸(タウリン)等が挙げられるが、中でも変性用化合物は、スルホン酸基、および、アミノ基およびヒドラジノ基から選択された少なくとも1つの基が、ベンゼン環またはナフタレン環にそれぞれ個別に結合した構造を有することが好ましい。このような変性用化合物は、ベンゼン環またはナフタレン環の存在によって、カーボンブラックとの親和性をさらに高めることができる。
【0013】
本発明で使用される変性ゴムは、エポキシ化天然ゴムと変性用化合物とを、例えば110〜150℃の加熱下で混合することにより、エポキシ化天然ゴムのエポキシ基が酸(スルホン酸基)により開環し、そこに変性用化合物が付加して得ることができる。変性ゴムに付加されたアミノ基およびヒドラジノ基から選択された少なくとも1つの基が、カーボンブラックと相互作用し、カーボンブラックの高分散化を達成することができる。なお該作用は、他の補強性充填剤、例えばシリカにも生じる。
なお、エポキシ化天然ゴムのエポキシ基は、変性用化合物によって好ましくは1〜30mol%の割合で、さらに好ましくは1〜10mol%の割合で変性されているのがよい。なお変性の度合いはエポキシ化天然ゴムと変性用化合物の仕込み比によって調整することができる。
【0014】
また本発明では変性ゴム以外にも、タイヤ用ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
なお本発明で使用されるジエン系ゴムは、その全体の50質量%以上が、NRおよび変性ゴムから構成されることが好ましい。
【0015】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、とくに制限されないが、本発明の効果向上の観点から、窒素吸着比表面積(NSA)が30〜160m/gであるのが好ましい。なお、窒素吸着比表面積(NSA)はJIS K6217−2に準拠して求めた値である。
【0016】
(タイヤ用ゴム組成物の配合割合)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、前記変性ゴムを1〜30質量部含むジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを10〜80質量部配合してなることを特徴とする。
カーボンブラックの配合量が10質量部未満であると、補強性が悪化する。
逆にカーボンブラックの配合量が80質量部を超えると、発熱性が悪化する。
さらに好ましいカーボンブラックの配合量は、20〜70質量部である。
【0017】
(その他成分)
本発明におけるタイヤ用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛、クレー、タルク、炭酸カルシウムのような各種充填剤;老化防止剤;可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0018】
また本発明のタイヤ用ゴム組成物はタイヤ用途に用いるのが好ましく、この場合、従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0020】
(変性ゴム1の製造)
エポキシ化天然ゴムとして、クンプーランガスリー社製のENR50(エポキシ化率50mol%)を用い、変性用化合物としてp−ヒドラジノベンゼンスルホン酸をENR50に対して2.5質量%加え、加熱温度120℃、混合時間10分の条件で両者を混合し、変性ゴム1を得た。
【0021】
(変性ゴム2の製造)
上記の変性ゴム1の製造において、p−ヒドラジノベンゼンスルホン酸の添加量を5質量%に変更し、変性ゴム2を得た。
【0022】
(変性ゴム3の製造)
上記の変性ゴム1の製造において、p−ヒドラジノベンゼンスルホン酸を1−ナフチルアミン−6−スルホン酸に変更し、変性ゴム3を得た。
【0023】
(変性ゴム4の製造)
上記の変性ゴム3の製造において、1−ナフチルアミン−6−スルホン酸の添加量を5質量%に変更し、変性ゴム4を得た。なお、エポキシ化天然ゴムのエポキシ基は、変性用化合物によって約5mol%の割合で変性されている。
【0024】
上記の変性ゴム1および2について、FT−IR分析を行った。図1は、得られたFT−IRスペクトルである。なお図1では、未変性のエポキシ化天然ゴムのFT−IR分析の結果も併せて示した。
図1から、スルホニル基の吸収の波数である1080cm−1およびエポキシ基の吸収の波数である910cm−1を参照すると、未変性のエポキシ化天然ゴム(スペクトルa)に比べ、変性ゴム1(スペクトル1)および変性ゴム2(スペクトル2)は、エポキシ基が減少し、スルホニル基が増加している。したがって、エポキシ化天然ゴムのエポキシ基が変性用化合物によって変性されていることが確認された。
【0025】
実施例1〜8および比較例1〜4
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した(NP混合)。
NP混合における混合温度は150℃である。
続いて、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し(FN混合)、タイヤ用ゴム組成物を得た。
なお、FN混合における混合温度は100℃である。
次に得られたタイヤ用ゴム組成物を所定の金型中で170℃、10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0026】
BL引張A値:ダンベル3号を500mm/minにて引張ることにより室温で測定した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど硬くて伸びる性質が優れ、破断強度に優れることを示す。
高温A値:前記のBL引張A値の測定において、測定温度を100℃に変更した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど破断強度に優れることを示す。
耐摩耗性:JIS K6264に基づき、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所(株)製)を使用して、荷重49N、スリップ率25%、時間4分、室温において測定した。結果は、比較例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど、耐摩耗性が良好であることを意味する。
結果を表1に示す。
【0027】
比較例4
比較例2において、変性用化合物としてp−ヒドラジノベンゼンスルホン酸をENR50に対して2.5質量%の割合で、FN混合時に添加したこと以外は比較例2を繰り返した。この比較例4では、FN混合が低温のため変性用化合物がENRのエポキシ基と反応しないものと推測される。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
*1:NR(STR20)
*2:未変性ENR(クンプーランガスリー社製ENR50(エポキシ化率50mol%))
*3:変性ゴム1(上記で製造した変性ゴム1)
*4:変性ゴム2(上記で製造した変性ゴム2)
*5:変性ゴム3(上記で製造した変性ゴム3)
*6:変性ゴム4(上記で製造した変性ゴム4)
*7:カーボンブラック(東海カーボン(株)製シーストN、窒素吸着比表面積(NSA)=74m/g)
*8:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*9:ステアリン酸(日油(株)製ステアリン酸)
*10:老化防止剤(フレキシス製サントフレックス6PPD)
*11:硫黄(アクゾノーベル(株)製クリステックスHS OT 20)
*12:加硫促進剤(三新化学工業(株)製サンセラーNS)
【0030】
前記の表1の結果から明らかなように、実施例1〜8で得られたタイヤ用ゴム組成物は、特定の変性用化合物を用いてエポキシ化天然ゴムのエポキシ基を変性した変性ゴムを用いるとともに、ジエン系ゴムに対し該変性ゴムおよびカーボンブラックを特定量配合したので、比較例1のタイヤ用ゴム組成物に比べて、カーボンブラック等の補強性充填剤を高分散化させ、優れた耐摩耗性および破断特性を付与することができた。
比較例2および3は、未変性ENRを配合した例であるので、耐摩耗性が改善されなかった。
比較例4は、変性用化合物がENRのエポキシ基と反応していないため、耐摩耗性が改善されなかった。
図1