(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的な合わせガラスは、ポリビニルブチラール樹脂等の熱可塑性樹脂(以下、樹脂中間膜と記載することもある)を介して2枚のガラス板が一体となったものであり、建築用の窓材や車両用の窓材として広く用いられている。このような単純な構成の合わせガラスの他に、ガラス板、樹脂中間膜、樹脂フィルム、樹脂中間膜、ガラス板、という順に積層し一体化させた合わせガラス(フィルム積層合わせガラスという)も知られている。上記のようなフィルム積層合わせガラスは、例えば防犯ガラスや、狭持する樹脂フィルムに遮熱性等の機能を付与して車両用ガラス等として用いられている。
【0003】
フィルム積層合わせガラスを製造する際は、各部材を積層した後に各層間を脱気し、オートクレーブ等を用いて加圧・加熱処理(例えば、0.9〜1.5MPa、90〜150℃程度)を行うことによって、ガラス板と樹脂フィルムを樹脂中間膜により熱融着する。この時、各部材を積層した後、最後に熱融着するまでの間、装置や工程によってはガラス板を冶具に立てかけたり、移動させたりすることがあり、樹脂フィルムが所望の位置からズレてしまうという問題があった。また、前述したように車両用ガラスとして用いる際、車両用ガラスが曲面形状のガラス板を用いることが多い。そのため、ガラス板の周縁部と重なる樹脂フィルムの一部に、曲面形状に追従できずに余剰となったフィルムのダブつきが生じ、脱気後や加圧・加熱処理後にシワとなってしまうという問題もあった。シワが生じると透過像が歪んだり、外観上の欠陥となってしまい、開口部に用いる部材としては不適となる。
【0004】
上記のような問題を解決するために、樹脂フィルムを予め樹脂中間膜に固定する方法(以下、ラミネートと記載することもある)が考えられている。例えば特許文献1には、予め2枚の樹脂中間膜間に熱線反射フィルムを挟んでフィルム端部のみをラミネートし、その後にガラス間に挟んで熱圧着法により圧着する方法が開示されている。当該文献では、樹脂中間膜と熱線反射フィルムを締付手段で固定した後、真空脱気しながら80〜130℃で加熱することによって、予め熱線反射フィルムと樹脂中間膜とを固定している。上記の特許文献1のように曲面形状のガラス板の場合は、樹脂フィルムと樹脂中間膜の端部をラミネートすることによって、樹脂フィルムがズレたりダブつくのを抑制し、シワの発生を防ぐことが可能である。
【0005】
また、前述したラミネートを行う他にも、例えば特許文献2のように熱収縮性の樹脂フィルムを狭持し、加圧・加熱処理を行う際に該樹脂フィルムを収縮させる方法も広く用いられている。曲面形状のガラス板は周縁部の変形が大きくなる傾向にあるため、樹脂フィルムが熱収縮することによって樹脂フィルムの余剰面積が少なくなってダブつきが緩和され、シワの発生を抑制可能となる。
【0006】
近年では、複雑な曲面形状を持つ車両用ガラスが増えつつあり、従来よりも製造過程でシワが発生し易くなる傾向にある。従って、熱収縮性の樹脂フィルムを用いる方法と、前述した樹脂フィルムをラミネートする方法とを適宜組み合わせることでシワの発生を抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、樹脂フィルムを狭持させた合わせガラスは、オートクレーブ等による加圧・加熱処理の前に、樹脂フィルムと樹脂中間膜とをラミネートする工程を含むと、樹脂フィルムに生じるズレやシワを抑制することが出来る。
【0009】
しかし、一方で本発明者らが検討した結果、曲面形状のガラス板間に熱収縮性の樹脂フィルムを挟持して、従来のように熱を用いてラミネートを行うと、その後の加圧・加熱処理時の熱収縮量が本来の熱収縮量よりも低下し、結果的にシワ抑制の効果が損なわれることが新たにわかった。
【0010】
従って、本発明は、製造過程で生じる樹脂フィルムのズレを防ぐことが可能であり、熱収縮性の樹脂フィルムを用いた時に、熱収縮性能を損なうことなくシワの発生を抑制可能なフィルム積層合わせガラスの製造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に対して本発明者らが鋭意検討したところ、フィルム積層合わせガラスの製造方法において、固定すべき樹脂フィルムとポリビニルブチラール樹脂を含有する樹脂中間膜との対向面の少なくとも一方に、エタノール等のアルコール系溶剤を塗布し対向面を密着させると、従来のように熱を用いてラミネートを行うような意図的な加熱工程を経ることなく、密着させるだけで接着し該樹脂フィルムを該樹脂中間膜に固定することが可能となることがわかった。
【0012】
さらに、上記の知見に基づいて、上記の方法で固定した熱収縮性の樹脂フィルムと樹脂中間膜を用いて、曲面形状の2枚のガラス間に各構成を積層し、オートクレーブで加圧・加熱処理を行ったところ、シワ等が見られない良好なフィルム積層合わせガラスが得られた。当該方法であれば、樹脂フィルムと樹脂中間膜とを固定する際に熱を加えていないため、樹脂フィルムが本来持つ熱収縮性を損なうことがない。
【0013】
すなわち本発明は、2枚のガラス板の間に、熱可塑性の樹脂中間膜を介して樹脂フィルムを挟持したフィルム積層合わせガラスの製造方法において、固定すべき前記樹脂フィルムと前記樹脂中間膜との対向面の少なくとも一方に溶剤を塗布し、塗布した溶剤によって樹脂中間膜表面に接着物質層を形成する工程1、該接着物質層によって該樹脂フィルムと該樹脂中間膜とを接着して固定する工程2、ガラス板、樹脂中間膜、樹脂フィルム、樹脂中間膜、及びガラス板の順になるように積層し積層体を形成する工程3、及び該積層体を加圧・加熱して該積層体を一体にする工程4、を含むことを特徴とするフィルム積層合わせガラスの製造方法である。該溶剤は、該樹脂中間膜を溶解可能な有機溶剤及び水からなる群から選ばれる少なくとも1つを用いる。
【0014】
本発明は、溶剤によって樹脂中間膜表面に形成された接着物質層が接着性を有することによって、固定すべき樹脂フィルムと熱可塑性の樹脂中間膜とを意図的に加熱を行うことなく固定するものである。この「固定」とは、後の加圧・加熱処理を行う工程4の前に、樹脂フィルムが樹脂中間膜から簡単に剥がれたり、樹脂フィルムと樹脂中間膜がズレたりしなければよく、強固に接着している必要はない。また、接着を促進させる為に、温風等を用いて塗布した溶剤を乾燥させてもよい。
【0015】
また、本発明で用いる溶剤は、溶剤自体が接着剤として機能するのではなく、溶剤を用いて樹脂中間膜の表面に何らかの変化を生じさせることによって、樹脂中間膜の表面に接着性を生じさせることを特徴としている。この「表面に接着性を生じさせる」とは、樹脂中間膜表面の一部が接着性を帯びるものでも、樹脂中間膜上に接着性を有する層が新たに形成されるものでもよい。
【0016】
使用する溶剤が有機溶剤の場合は、樹脂中間膜材料の溶解性が高いものを用いる。アルコール系溶剤をポリビニルブチラール樹脂(以下、PVB樹脂と記載することもある)を含有する樹脂中間膜表面に塗布したところ、塗布された箇所の樹脂中間膜の表面が溶けたようになり粘性を帯びたことから、塗布した溶剤が樹脂中間膜の表面を溶解したと考えられる。従って、使用する有機溶剤としては樹脂中間膜材料を溶解可能なものを用いる。
【0017】
また、水はPVB樹脂膜材料を直接溶解するものではないが、PVB樹脂を含む樹脂中間膜表面に塗布し樹脂フィルムを密着させると、前述した有機溶剤と同様に樹脂フィルムと樹脂中間膜とを接着して固定できることがわかった。さらに、密着させた後に乾燥させるとより接着力が強くなった。ここで、一般的なPVB樹脂は、原料に含まれるOH基とアルデヒドが反応することによって得るものであるが、必ず未反応のOH基等を含有しており、反応した割合を「ブチラール化度」としている。また、通常ブチラール化度は70mol%前後である。前述した水によって固定が可能なメカニズムは不明であるが、例えばPVB樹脂に含まれる水溶性の成分が一部溶出し、この溶出成分に由来する溶出生成物により結果的にPVB樹脂と樹脂フィルムとの接着を可能にしたと考えられる。
【0018】
また、本発明は、樹脂フィルムと
熱可塑性樹脂フィルム(以下、「樹脂中間膜」と記載することもある)とが一体化したラミネートフィルムの製造方法において、該樹脂フィルムと該
熱可塑性樹脂フィルムとの対向面の少なくとも一方に溶剤を塗布し、塗布した溶剤によって
熱可塑性樹脂フィルム表面に接着物質層を形成する工程1、該接着物質層によって該樹脂フィルムと該
熱可塑性樹脂フィルムとを接着して固定する工程2を有することを特徴とするラミネートフィルムの製造方法である。該溶剤は、該
熱可塑性樹脂フィルムを溶解可能な有機溶剤及び水からなる群から選ばれる少なくとも1つを用いる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、フィルム積層合わせガラスの製造方法において、固定すべき樹脂フィルムと熱可塑性の樹脂中間膜とを意図的な加熱工程を経ることなく、製造過程で生じる樹脂フィルムのズレを防ぐことが可能となった。また、本発明により、熱収縮性の樹脂フィルムを用いた時に、熱収縮性能を損なうことなくシワの発生を抑制可能なフィルム積層合わせガラスの製造方法を得られた。また、本発明により、ラミネートフィルムの製造方法において、意図的な加熱工程を経ることなく、樹脂フィルムと樹脂中間膜とを一体化できた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、2枚のガラス板の間に、熱可塑性の樹脂中間膜を介して樹脂フィルムを挟持したフィルム積層合わせガラスの製造方法において、固定すべき前記樹脂フィルムと前記樹脂中間膜との対向面の少なくとも一方に溶剤を塗布し、塗布した溶剤によって樹脂中間膜表面に接着物質層を形成する工程1、該接着物質層によって該樹脂フィルムと該樹脂中間膜とを接着して固定する工程2、ガラス板、樹脂中間膜、樹脂フィルム、樹脂中間膜、及びガラス板の順になるように積層し積層体を形成する工程3、及び該積層体を加圧・加熱して該積層体を一体にする工程4、を含むことを特徴とするフィルム積層合わせガラスの製造方法である。
【0022】
1:フィルム積層合わせガラスの各構成
以下に、本発明のフィルム積層合わせガラスの各構成について説明する。
図1には、加圧・加熱処理前のガラス板、樹脂中間膜、樹脂フィルム、樹脂中間膜、及びガラス板からなる積層体の簡易図を示した。尚、本発明のフィルム積層合わせガラスは、溶剤の沸点によっては加圧・加熱工程前に揮発したり、溶剤が樹脂中間膜の内部に取り込まれたりして、接着物質層と樹脂中間膜との界面が不明瞭になることもあるが、
図1には便宜上接着物質層を記載した。
【0023】
(ガラス板1)
使用するガラス板1は透明であればよく、例えばソーダライムガラス等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、厚みについても適宜選択されればよいが、建築用ガラスの場合は、一般的な建築用板ガラス(例えばJIS R3202に記載の板ガラス)として用いられる、厚み2mm以上、25mm以下のものが好適に用いられる。また、車両用ガラスの場合は軽量化を目的として2〜3mm程度のものが好適に用いられる。
【0024】
車両用ガラスに使用する曲面形状のガラス板1の場合は、三次元的に予め曲げられたガラスを用いる。この時、ガラス板1はガラスの中央部と端部、縦方向と横方向等複雑に曲がっているので、曲率半径は場所によって大きく異なる。一般的にはガラスの中央部よりも端部の方が曲がりが大きく、曲率半径は端部の方が小さくなる。例えば、車両用のウィンドシールドの中には、曲率半径の最小値が300mm、最大値が20000mmとなるような曲がりを有する複雑な曲面形状を有するものもある。
【0025】
また、前記ガラス板が、JASO M501に規定された深曲げ又は浅曲げの曲面を有するガラスであるのが好ましい。上記規格では、300mm以下の曲率半径を含む曲面、又は弧の高さが100mm以上の曲面を深曲げ、300mmを超える曲率半径を含み、且つ弧の高さが100mm未満の曲面を浅曲げと定義している。本発明はどちらのガラス板1にも利用可能であるが、シワが発生し易いのは深曲げであり、特に深曲げガラスにおいて効果的に用いることが可能である。
【0026】
(樹脂中間膜2)
樹脂中間膜2は、常温ではフィルム形状をとる熱可塑性の樹脂を用いる。一般的に利用されているポリビニルブチラール樹脂又はEVA樹脂を含むホットメルトタイプの接着剤を用いるのが好ましい。樹脂中間膜2には、その一部が着色したもの、遮音機能を有する層をサンドイッチしたもの、厚さに傾斜があるもの、表面にエンボス加工が処理されたものなどが使用できる。また、該樹脂中間膜2に紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、着色剤、接着調整剤を適宜添加配合したものでも良く、特に近赤外線を吸収する微粒子を分散させたものは、高性能な遮熱機能を付与することが可能なため好ましく利用できる。
【0027】
(樹脂フィルム3)
樹脂フィルム3は、加圧・加熱時(例えば、0.9〜1.5MPa、90〜150℃程度)の耐久性を有するものであれば特に限定するものではない。また、本明細書のおける「フィルム」とは、1枚に成型された樹脂フィルムのみならず、樹脂製の薄膜を積層して一体化した樹脂積層フィルムも含むものとする。
【0028】
樹脂フィルム3の厚みは、透視像を損なわなければ特に限定されるものではないが、生産性の観点から、例えば30〜200μmの範囲内とするのが好ましい。厚みが上記範囲から外れると製造工程において脱気不良が生じたり、得られる合わせガラスの透視像が歪み易くなることがある。また、好ましくは50〜150μmとしてもよい。
【0029】
また、熱収縮性の樹脂フィルム3を用いる場合は、加圧・加熱処理時の温度(約90〜150℃)で所望の量の熱収縮を生じるものであればよい。例えば、90〜150℃で熱収縮率が0.5〜5%の範囲内となるものとしてもよい。
【0030】
尚、上記の熱収縮率は、JIS C 2151(2006)に準じ、次のようにして測定した値を用いた。
【0031】
まず長さ150mm×幅40mmの短冊状の熱収縮性の樹脂フィルムを切り出し、それぞれの幅方向の中央付近に、約100mmの距離をおいて、ダイヤモンドペンを用いて、標線を標した。標線を標した後、上記の短冊状の樹脂フィルムを、150mm×20mmに2等分した。
【0032】
次に、2等分した片方の試験片を、熱風循環式恒温槽内に垂直に吊り下げ、昇温速度約5℃/分で測定温度の90〜150℃の温度範囲内となるように昇温し、測定温度で約20分間保持した。その後、熱風循環式恒温槽を大気開放し約20℃/分で自然冷却し、さらに、室温で30分間保持した。この時温度の測定には熱電対温度計を用い、熱風循環式恒温槽内の温度分布は±1℃以内とした。
【0033】
2等分した試験片の、室温で保持していた試験片と、測定温度に加熱した試験片とを、それぞれについて標線間の距離L1、L2を走査型レーザー顕微鏡(レーザーテック社製、1LM21D)を用いて測定した。熱収縮率(%)は、(L1−L2)×100/L1で計算して求めた。また、樹脂フィルムの流れ方向、幅方向それぞれに対し3枚ずつ切り出し、3枚について測定した熱収縮率の平均値を熱収縮率として用いた。
【0034】
上記の熱収縮性の樹脂フィルム3としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルスルフォン、ナイロン、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、ポリイミド、及びシクロオレフィンポリマー等が挙げられる。特に2軸延伸法で形成される結晶性のポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)は、耐熱性にも優れていて広範囲の温度環境に使用することができ、透明性も高いため好適である。
【0035】
また、上記の熱収縮性の樹脂フィルム3は、表面に遮熱機能を有する遮熱層(図示しない)を形成してもよい。なお、本明細書における「遮熱機能」とは、紫外〜近赤外領域の波長の光を反射、吸収等により遮蔽可能な性質を指すものとする。
【0036】
上記の遮熱層としては、加圧・加熱処理時に著しく劣化せず、遮熱機能を有しているものであれば特に限定されないが、例えば屈折率の異なる2種類以上の誘電体薄膜を積層してなる多層膜、偏光性を有する液晶層の積層膜、及び金属膜や金属膜の積層膜等が挙げられる。
【0037】
また、樹脂フィルム3として、前述した樹脂積層フィルムを用いてもよい。この時、遮熱機能を有する薄いフィルムを積層すれば、樹脂フィルム3に遮熱機能を付与することが可能となる。この場合は、屈折率の異なるポリマー薄膜を交互に多数積層した樹脂積層フィルムを用いるのが好適である。該ポリマー薄膜には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデンとポリメチルメタクリレートの混合物、エチレンと不飽和モノカルボン酸とのコポリマー、及びスチレンとメチルメタクリレートのコポリマー等から好適に用いることができる。上記多層フィルムは機械的強度、熱収縮特性、耐薬品性、透明性等の改善を目的として、必要に応じて延伸加工することもできるため、熱収縮性と遮熱機能を有する樹脂フィルムとして好適に用いることができる。
【0038】
(溶剤)
使用する溶剤は、前述したように樹脂中間膜2の材料を溶解可能な有機溶剤又は水を用いて、樹脂中間膜2の種類に併せて適宜選択すればよい。上記の溶剤は単独で用いても、複数を混合して用いてもよい。また、前述したように、本発明で用いる溶剤は、溶剤自体が接着剤として機能するのではなく、溶剤を用いて樹脂中間膜2の表面に何らかの変化を生じさせることによって、樹脂中間膜2の表面に接着性を生じさせることを特徴としている。なお、塗布した溶剤によって樹脂中間膜2表面に形成された接着物質層4は、樹脂フィルム3と樹脂中間膜2とを接着した後、溶剤が揮発したり、樹脂中間膜2内部に取り込まれたりして、界面が不明瞭になることがある。
【0039】
前記樹脂中間膜3がポリビニルブチラール樹脂を含む場合、前記溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、プロピレンクロライド、エチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、酢酸、テルピネオール、ブチルカルビトール、及び水からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。また、モノアルコール類は溶剤の取り扱いが容易である為好適であり、特にエタノール、プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等を用いるのが好ましい。また、前述したように、水はPVB樹脂膜材料を直接溶解するものではないが、PVB樹脂表面に塗布すると、接着物質層4が形成され樹脂フィルム3とPVB樹脂とを固定できるため、溶剤として用いる事が可能である。
【0040】
前記樹脂中間膜がEVA樹脂を含む場合、前記溶剤は、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0041】
また、前記溶剤は、沸点が70℃以上であることが好ましい。用いる溶剤の沸点が70℃未満では、揮発が早すぎて均一な塗布ができず十分な密着性が得られないことがある。また、上限については特に限定するものではないが、最終的に得られるフィルム積層合わせガラスから上記溶剤が除去されているのが好ましいことから、加圧・加熱時の最高温度+30℃以下としてもよい。
【0042】
(フィルム積層合わせガラス)
フィルム積層合わせガラスは、
図1の積層体10を加圧・加熱処理することによって得られる。該フィルム積層合わせガラスは、ガラス板1と樹脂フィルム3とが、樹脂中間膜2を介して一体化されたものであり、前述したように、加圧・加熱処理後には溶剤を塗布して形成した接着物質層4が不明確になっていることがある。
【0043】
また、特に車両用合わせガラスのフロントガラスまたは前方のサイドガラスとして使用する場合は、前記ガラス板が曲面形状を有し、前記樹脂フィルム3が熱収縮性を有するのが好ましい。また、この場合は運転者の視認性の確保という観点からJIS R3212に準拠する方法で測定される可視光線透過率が70%以上となるようにするのが望ましい。
【0044】
2:フィルム積層合わせガラスの製造方法
以下に、本発明のフィルム積層合わせガラスの製造方法を説明する。
【0045】
(工程1)
まず、固定すべき樹脂フィルム3と樹脂中間膜2との対向面の少なくとも一方に溶剤を塗布する。また、樹脂中間膜材料が溶け易い有機溶剤を用いる場合、溶剤塗布後に速やかに樹脂中間膜2の表面が粘性を帯び、溶剤を塗り広げ難いことがあるため、樹脂フィルム3側に溶剤を塗布してもよい。また、樹脂中間膜2の表面に形成された接着物質層4は接着剤として作用するため、該接着物質層4を介して樹脂中間膜2と樹脂フィルム3とを密着させるだけでも樹脂フィルム3と樹脂中間膜2とを固定し、ラミネートフィルム11を形成することが可能である。
【0046】
この時、溶剤は樹脂中間膜2や樹脂フィルム3の全面に塗布するものでも、一部に塗布するものでもよい。前述したように、工程1では完全に接着している必要はないため、一部に塗布した方が生産タクトや生産コストの面からは有利である。この場合、塗布する位置は樹脂中間膜2の中央でも良いが、周縁部に塗布することで、曲面形状のガラス板1を使用する場合は樹脂フィルム3のダブつきを抑制することが可能であるため好適である。
【0047】
また、樹脂フィルム3の片面に溶剤を塗布するものでも、両面に塗布するものでもよい。また、樹脂フィルム3の表面に接着性を向上させる目的で、シランカップリング材等の任意の層が形成されているものでもよく、その場合は形成された任意の層の表面に溶剤を塗布するのが好ましい。
【0048】
塗布方法としては、既存の塗布方法や塗布装置を用いればよく、特に限定するものではない。例えばディップコート、フローコート、ロールコート、スプレーコート、グラビアコート、バーコート、ダイコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、及び刷毛塗り等の方法が挙げられる。また、上記の他にも洗瓶等に溶剤を入れ、直接噴射を行ってもよい。
【0049】
(工程2)
工程2は、上記のように溶剤を塗布し、樹脂中間膜2と樹脂フィルム3とを密着させればよいが、上記の密着させる際に所定の圧力を加えてもよい。すなわち、前記工程2が、該樹脂フィルム3と該樹脂中間膜2とを圧力を加えて密着させる工程2a、を含むものであるのが好ましい。
【0050】
工程2aは、樹脂フィルム3と樹脂中間膜2を、接着物質層4を介して圧力を加え密着させるものである。圧力は、簡易に作業者の手によって押さえる程度でもよいが、プレス機等を用いて圧力が均一になるようにしてもよい。また、この時に樹脂フィルム3と樹脂中間膜2との間に空気が入らないように、ロール等を用いて圧力を加えながら脱気を行ってもよい。
【0051】
また、前述したように、樹脂中間膜2が片面にエンボス加工されている場合、エンボス加工面は凹凸があるため密着が不十分になることがあることから、エンボス加工されていない面に溶剤を塗布するのが好ましい。
【0052】
また、本発明は、樹脂フィルム3と樹脂中間膜2とを固定する際に、意図的な加熱処理を必要としない手法であるが、工程2aの後に、余剰の溶剤を除去することや、樹脂中間膜2と樹脂フィルム3の接着を促進することを目的として、乾燥工程2bを加えても良い。乾燥は、室温で所定時間放置する程度でもよいが、製造時間短縮の為に、温風等の穏やかな条件で加熱を行ってもよい。この時、熱収縮性の樹脂フィルム3を用いていると、温度によっては加圧・加熱処理時の熱収縮量が小さくなる可能性がある。従って、好ましくは50℃未満の温度とするのがよい。また、より好ましくは40℃以下としてもよい。下限値は特に限定しないが、例えば室温以上としてもよい。
【0053】
また、本発明で得られるラミネートフィルム11は、製造後冷暗所に保管しても剥がれ等が生じないものであり、保存可能なものであった。従って、本発明は、ロールトゥロール法を用いて、前述した工程1、2、2a、2bを行ってもよい。ロールトゥロール法は、原料フィルムを原料フィルムロールから巻き出しながら該原料フィルムに塗布や乾燥、圧着等の加工処理を行い、加工処理後に別のロールに巻き取るものであり、ラミネートフィルム等の製造に用いられている。ロールに巻き取られたラミネートフィルムは、通常はロールの状態で保管や搬送が行われ、使用の際にロールから巻き出される。本発明の場合、例えば樹脂フィルム3をロールから巻き出した後、該樹脂フィルム3の表面に溶剤を塗布し、塗布側にロールから巻き出した樹脂中間膜2を重ね合わせて密着用のローラー間を通し、得られたラミネートフィルムを別のロールに巻き取るのが好ましい。また、樹脂中間膜2を重ね合わせた後に、50℃未満の温風等で乾燥させてもよい。
【0054】
(工程3)
次に、ガラス板1、樹脂中間膜2、樹脂フィルム3、樹脂中間膜2、及びガラス板1の順になるように積層し積層体10を形成する。この時、工程2で得たラミネートフィルム11を用いるのが好ましい。また、該工程3でフィルム積層合わせガラスの全部材を積層する際に、前記の工程1のように樹脂フィルム3と樹脂中間膜2の対向面の少なくとも一方に溶剤を塗布して、樹脂フィルム3と樹脂中間膜2との固定を行っても差し支えない。
【0055】
また、該工程3は積層体10の各層間の脱気を行う工程も含むものとする。脱気の工程は既存の方法を用いればよく、例えば、ゴム系の樹脂でできたチューブを積層体10の周縁に装着し排気ノズルから空気を排気して脱気する方法や、真空バッグの中に該積層体10を入れて、排気ノズルから空気を排気することにより脱気する方法、また、該積層体10を1対のロールで挟むようにして圧力を加え、各層間を脱気する方法等が挙げられる。
【0056】
また、前述したように車両用に用いるガラス板は三次元的に湾曲したものを用いる為、ロールを用いて脱気を行う場合、ロールの形状によっては圧力を均一に加えることが出来ない。その為、ガラス板1の形状に追従するように複数のロールを用いるのが好ましい。積層体10を挟んで上側のロールと下側のロールは積層体10を加圧可能な程度の距離を開けて配置し、該距離を一定に保ちながら各ロールを動かすことによって、ガラス板1の形状に追従させることが可能である。また、各ロールをそれぞれエアシリンダや油圧シリンダに接続し、個別に圧力を調整可能にする事によって、様々なガラス板1の形状に適応できるため好ましい。
【0057】
また、積層後にガラス板1の端部から樹脂フィルム3や樹脂中間膜2の端部がはみ出している場合は、脱気前に切断等を行って除去するのが好ましい。前述した周縁にチューブ等を装着して脱気する場合や、真空バッグを用いて脱気を行う場合は、余剰のフィルムによって脱気不良になることがある。また、上記の脱気を妨げない程度であれば脱気後の加圧・加熱処理前に除去するのでもよく、例えば5mm以下程度であれば余剰分がはみ出た状態で脱気を行ってもよい。
【0058】
(工程4)
次に、脱気後の上記積層体10を加圧・加熱して、該積層体10を一体化させ、フィルム積層合わせガラスを得る。加圧・加熱処理後は、前述した接着物質層4は溶剤が揮発するか、樹脂中間膜2内に取り込まれるかして、該接着物質層4は視認できない場合があり、また、該接着物質層4と樹脂中間膜2との境界面は不明瞭になっていることがある。
【0059】
加圧・加熱処理は、前述したようにオートクレーブを用いるのが一般的である。オートクレーブの圧力や温度等は適宜選択すればよいが、例えば最高温度が90〜150℃の範囲内となるまで温度を上昇させた後、20〜40分間該温度近傍を維持することにより上記の一体化が可能となる。この時、0.9〜1.5MPaの圧力範囲内となるように加圧を行う。加圧時間は特に限定するものではないが、例えば30〜100分の範囲内とするのが好ましい。加圧と加熱の順番はどちらが先でも、また同時に行うものでもよいが、ガラス板1の周縁部に発生するシワを抑制する為に熱収縮性の樹脂フィルム3を用いている場合、加熱時の熱収縮を妨げないように、加熱を先に行うか、加熱と加圧を同時に行うのが好ましい。また、加熱過程の途中から加圧を行ってもよい。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の実施例と比較例を示す。
ガラス板1は、曲率半径が最小400mm、最大1200mmとなる湾曲したソーダライムガラス(262mm×328mm、厚み2mm)を用いた。
【0061】
樹脂中間膜2は、厚さ0.38mmのPVB樹脂のフィルムを用い、片面のみにエンボス加工が施されているものを用いた。また、樹脂フィルム3は厚さ50μmのPETフィルム(130℃における熱収縮率は、縦(MD)方向0.7%、横(TD)方向0.2%)を用いた。また、実施例及び比較例の製造条件と結果を表1に示した。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1
(工程1)
まず、樹脂フィルム3の片面の全面に、ジアセトンアルコール(沸点168℃)を刷毛を用いて塗布した。
【0064】
(工程2)
次に、樹脂中間膜3のエンボス加工されていない面を、該樹脂フィルム3の塗布面に空気が入らないように重ねた。
次に、ゴム製のハンディローラーを用いて、室温雰囲気下で樹脂中間膜2の上から樹脂フィルム3と樹脂中間膜2とを密着させ、樹脂フィルム2と樹脂中間膜3とを接着した。
次に、上記と同様の方法で樹脂フィルム3のもう一方の面にも、樹脂中間膜2を接着し、樹脂中間膜2/樹脂フィルム3/樹脂中間膜2の3層のラミネートフィルム11を得た。
【0065】
(工程3)
次に、ガラス板1、ラミネートフィルム11、ガラス板1の順に積層した後、ガラス板1の端部からはみ出した余剰のフィルムをカッターで除去した。その後、ゴム製の真空バッグ内に入れ、排気ノズルから空気を排気することによって各層間を脱気し積層体10を得た。
【0066】
(工程4)
次に、得られた積層体10をオートクレーブ内に入れ、加圧・加熱処理を行ってフィルム積層合わせガラスを得た。この時の、温度を135℃、圧力を1MPaに設定し、処理時間を30分とした。
【0067】
実施例2
溶剤にn-ブタノール(沸点117℃)を用いた他は、全て実施例1と同様の方法でフィルム積層合わせガラスを作製した。
【0068】
実施例3
溶剤にエタノール(沸点79℃)を用い、工程1の塗布方法として、樹脂フィルムの表面に溶剤を洗瓶を用いて噴射して塗布した他は、全て実施例1と同様の方法で、フィルム積層合わせガラスを作製した。
【0069】
実施例4
溶剤に水(沸点100℃)を用いた他は、全て実施例3と同様の方法で、フィルム積層合わせガラスを作製した。
【0070】
実施例5
工程1の溶剤の塗布位置として、樹脂フィルム3端部の4辺の中央部のみに溶剤を塗布した他は、全て実施例1と同様にして、フィルム積層合わせガラスを作製した。
【0071】
比較例1
工程1及び工程2を経ずに(溶剤の塗布によるラミネートを行わずに)作製した他は、全て実施例1と同様にして、フィルム積層合わせガラスを作製した。作製したフィルム積層合わせガラスは、樹脂フィルム3に著しいシワが発生し、外観不良のため、実用には適さないものであった。
【0072】
(ラミネートフィルムの作製)
実施例1の工程1及び工程2で得られたラミネートフィルムを
図2に示した。
図2は、ラミネートフィルム11を正面から見た図(a)、ラミネートフィルム11に曲げを加えた図(b)、(b)にさらに曲げを加え持ち上げた図(c)である。
図2のように曲げを加えたり、持ち上げたりしても、層間で剥離が生じることはなく、良好な接着が見られた。以上より、本発明により特別な加熱工程を経ることなくラミネートフィルムを得る事が可能であることがわかった。
【0073】
また、実施例1、2では溶剤を塗布し密着させた段階で溶剤がほぼ乾燥していた。実施例3、4は洗瓶を用いて塗布を行ったため、塗布量が多くなり乾燥にかかる時間が長かった。また、実施例5では、塗布した部分だけ接着していた。
【0074】
(フィルム積層合わせガラスの作製)
実施例1及び比較例1について、工程3の脱気後に得られた積層体10を
図3の(a)に示した。湾曲したガラス板1に挟んで脱気を行ったところ、実施例1ではラミネートフィルム11にごく軽微なシワが発生した。一方で比較例1は樹脂フィルム3の外周に目視ではっきりとわかるシワが発生した。
【0075】
また、実施例5について、工程3の脱気後に得られた積層体10を
図3の(b)に示した。溶剤を塗布した箇所は下辺以外はシワが見られず、塗布しなかった部分には目視ではっきりとわかるシワが発生した。なお、実施例5で接着した位置は、通常シワの発生が頻発する箇所である。
【0076】
また、実施例1及び比較例1について、工程4の後に得られたフィルム積層合わせガラスを
図4に示した。実施例1では部分的にごく軽微な(2mm以下)シワが見られたが、外観上大きな問題はなく良好なものが得られた。一方で比較例1は、端部に1cmを超えるシワが見られ、またシワが発生した範囲も広範囲に及ぶものであった。すなわち、本発明はシワの抑制を可能とするものであることが示された。
【0077】
実施例2〜5についても、実施例1と同様に外観が良好なフィルム積層合わせガラスが得られた。以上より、本発明は樹脂フィルムの熱収縮性を損なうことなく、シワの発生を抑制することを可能とするものであることがわかった。