特許第6493052号(P6493052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493052
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】同時型蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   G01N23/223
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-142721(P2015-142721)
(22)【出願日】2015年7月17日
(65)【公開番号】特開2017-26371(P2017-26371A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 桂次郎
(72)【発明者】
【氏名】大和 亮介
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−311808(JP,A)
【文献】 特開2003−057397(JP,A)
【文献】 特開2000−193613(JP,A)
【文献】 特開平08−262196(JP,A)
【文献】 特開平06−331575(JP,A)
【文献】 米国特許第06353227(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276、
G21K 1/00− 3/00、 5/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1透過部が面全体に分布するように設けられた平面状の第1遮光部材と、前記第1遮光部材に平行に配置された、複数の第2透過部が面全体に分布するように設けられた平面状の第2遮光部材と、前記第1遮光部材及び前記第2遮光部材の面に平行な方向に両者の相対的な位置を変化させる駆動手段とを有する可変アテネータと
前記可変アテネータを用いて試料から発せられる蛍光X線を減衰させて検出するX線検出器と、
前記X線検出器の出力パルスを計数する計数回路のデッドタイムを測定するデッドタイム測定部と、
前記デッドタイム測定部により測定されたデッドタイムに基づいて前記駆動手段を制御する自動制御部と
を有することを特徴とする同時型蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記可変アテネータの前記第1遮光部材及び前記第2遮光部材が、それぞれ平面上に一定間隔で平行に並べられた複数本の棒状部材で構成されることを特徴とする請求項1に記載の同時型蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記可変アテネータの前記第1遮光部材及び前記第2遮光部材が、それぞれ格子状部材で構成されることを特徴とする請求項1に記載の同時型蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記可変アテネータの前記第1遮光部材及び前記第2遮光部材が、それぞれ平面上に一定間隔で平行に並べられた複数本の棒状部材で構成され、
前記第1遮光部材と前記第2遮光部材が交差するように配置され、前記第1遮光部材及び前記第2遮光部材の面に対して平行な方向に伸縮可能なパンタグラフ構造であることを特徴とする請求項1に記載の同時型蛍光X線分析装置。
【請求項5】
非円形断面形状を有する棒状の遮光部材が平面上に複数並べて配置されて成る遮光部と、前記複数の遮光部材をそれぞれ、前記各遮光部材の中心軸回りに回動させる回動手段とを有する可変アテネータと、
前記可変アテネータを用いて試料から発せられる蛍光X線を減衰させて検出するX線検出器と、
前記X線検出器の出力パルスを計数する計数回路のデッドタイムを測定するデッドタイム測定部と、
前記デッドタイム測定部により測定されたデッドタイムに基づいて前記回動手段を制御する自動制御部と
を有することを特徴とする同時型蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源から放射される光の強度を減衰させるための可変アテネータに関する。本発明は、例えば同時型蛍光X線分析装置などの各種分析装置に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
同時型蛍光X線分析装置は、測定試料から発せられる蛍光X線を複数のX線検出器で検出することで測定試料に含まれる元素を定量的、定性的に分析する。同時型蛍光X線分析装置では、試料に含まれる微量な元素を高感度、高精度に分析できるよう、通常、波長分散型の蛍光X線分析装置が用いられる(例えば特許文献1)。
【0003】
波長分散型の同時型蛍光X線分析装置は図8に示すように、励起X線源61、試料Sの周囲に複数配置されたX線分光器62、X線分光器62毎に設けられた波長分散型用のX線検出器63b及びカウンタ64、全てのカウンタからの出力を受信するデータ処理装置65から構成される。励起X線源61からのX線が試料に照射されると、そのX線のエネルギーが試料Sに吸収され、試料Sから蛍光X線が放射される。蛍光X線は複数のX線分光器62により分光され、分光されたX線がそれぞれ対応する波長分散型用X線検出器63bにより検出される。波長分散型用X線検出器63bからの出力パルスは各カウンタにより計数され、データ処理装置65に送られる。ここで、各X線分光器62、波長分散型用X線検出器63b及びカウンタ64を一つのユニットとし、このユニットを複数設けることで、複数の波長帯のデータを同時に測定し、試料中の元素の定量分析・定性分析を行う。
【0004】
波長分散型の分析装置では、設置するユニットの数が多ければ多いほど多数の元素を同時に検出することができるが、設置できるユニットの数には制限があるため、試料に含まれる全ての元素を特定することは難しい。そこで、一部のユニットをX線分光器のかわりにエネルギー分散型の検出器とすることが考えられる。エネルギー分散型の検出器は波長分散型の検出器に比べると分析の感度及び精度が劣るものの、試料から発せられる蛍光X線を直接X線検出器で検出し、信号処理により分光することで試料に含まれるほぼ全ての元素の種類を特定することができる。
【0005】
波長分散型とエネルギー分散型の検出器を併用する場合、エネルギー分散型の検出器の方が、波長分散型の検出器に比べて、計数時間が長く、計数率が低くなる。カウンタでは計数が既定値に達する毎に計数をリセットする必要があり、リセット処理中は出力パルスを計数できず、数え落としが発生する。従って、出力パルスが増えると、カウンタにおける数え落としが増加するため測定精度が低下する。これを防ぐために、アテネータを用いてX線検出器に入射する蛍光X線強度を調整する必要がある。このようなアテネータとして、特許文献2のような孔型のコリメータを用い、コリメータの孔の大きさを変えることにより蛍光X線強度を調整することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07-005128号公報
【特許文献2】特開2002-214167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コリメータをアテネータとして用いる場合、蛍光X線の強度を十分に落とすためにはコリメータの孔の径を小さくする必要がある。しかし、コリメータの孔の径が小さくなると、試料の狭い範囲の蛍光X線しか検出できない。この場合、試料内の元素分布に偏りがあると、試料の測定部位によって測定結果が変わってしまう。
金属フィルタをアテネータとして用いることも可能である。この場合、光源からの光の強度を全体的に減衰させることができるが、金属フィルタは蛍光X線の波長によって減衰率が異なるため、正確なデータを取得することできない。
これらの問題は同時型蛍光X線分析装置に限らず、広い範囲からの光の強度を減衰させる必要がある光学系において起こる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、広い範囲から光を発する光源からの光の強度を全体的に減衰させ、且つ光の波長特性を変化させない可変アテネータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る可変アテネータは、
a) 複数の第1透過部が面全体に分布するように設けられた平面状の第1遮光部材と、
b) 前記第1遮光部材に平行に配置された、複数の第2透過部が面全体に分布するように設けられた平面状の第2遮光部材と、
c) 前記第1遮光部材及び前記第2遮光部材の面に平行な方向に両者の相対的な位置を変化させる駆動手段と
を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る可変アテネータにおいて、第1遮光部材に光が入射すると、該光の一部は第1遮光部材により遮断され、残りは第1透過部を通過する。第1透過部を通過した光は第2遮光部材に入射し、さらにその一部が第2遮光部材により遮断され、残りが第2透過部を通過し、可変アテネータから出射される。
第1遮光部材と第2遮光部材は共に平面状であり、駆動手段によってそれらの面に平行な方向に両者の相対的な位置が変化する。この相対位置の変化を調整することにより第1透過部及び第2透過部が重なった領域の広さを変え、本可変アテネータを通過する光の量を変化させることができる。
これらの第1及び第2透過部は第1及び第2遮光部材のそれぞれの面全体に分布するように設けられているため、第1透過部と第2透過部の両方を光が通過可能な部分、つまり入射した光が可変アテネータを通過する部分も可変アテネータの面全体に分布している。このため可変アテネータに入射した光は全体的に遮断及び通過され、可変アテネータから出射される。従って、可変アテネータから出射される光は全体的に減衰されたものとなる。
【0011】
本発明に係る可変アテネータの例では、第1遮光部材及び第2遮光部材は、それぞれ、平面上に一定間隔で平行に並べられた複数本の棒状部材で構成することができる。
この場合、第1遮光部材と第2遮光部材の相対的な位置の変化は、両遮光部材を該平面内で相対的に平行に移動させること、又は、両遮光部材を該平面内で相対的に回転させることにより行う。平行移動と回転を併用してもよい。
また、第1遮光部材と第2遮光部材が交差するように配置したパンタグラフ構造としてもよい。
【0012】
別の例の可変アテネータでは、前記第1遮光部材及び前記第2遮光部材をそれぞれ格子状部材で構成することができる。この場合、第1遮光部材と第2遮光部材の相対的な位置の変化は、両者の相対的な平行移動が適切である。
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係る別の態様の可変アテネータは、
a) 非円形断面形状を有する棒状の遮光部材が平面上に複数並べて配置されて成る遮光部と、
b) 前記複数の遮光部材をそれぞれ、各遮光部材の中心軸回りに回動させる回動手段と
を有することを特徴とする。
【0014】
上記の構成の可変アテネータに光が入射すると、該光の一部は各遮光部材によって遮断され、残りは遮光部材の間を通過し、可変アテネータから出射される。
上記棒状の遮光部材の断面形状が非円形であり、回動手段によって各遮光部材をその中心軸を中心に回動することで、遮光部材が配置された平面における投影面積が変化し、可変アテネータを通過する光の量を変化させることができる。
また、棒状の遮光部材が複数並べて配置されているため、光が遮断される部分と透過する部分が交互に存在する。従って、可変アテネータから出射される光は全体的に減衰されたものとなる。
【0015】
本発明に係る可変アテネータは、同時型蛍光X線分析装置において、試料とX線検出器の間に設けることで、試料の広い範囲から発せられる蛍光X線を均一に減衰させる手段として好適に用いることができる。また、可変アテネータをX線分光器と試料の間に設けることも可能である。
【0016】
上記の同時型蛍光X線分析装置は、更に、
d) 前記X線検出器の出力パルスを計数する計数回路のデッドタイムを測定するデッドタイム測定部と、
e) 前記デッドタイム測定部により測定されたデッドタイムに基づいて前記駆動手段又は前記回動手段を制御する自動制御部と
を有することを特徴とする。
【0017】
同時型蛍光X線分析装置のX線検出器の出力パルスを計数する計数回路(従来技術におけるカウンタ)では、計数が規定値に達する毎に計数をリセットする必要がある。このリセット処理を行っている期間は、X線検出器からの出力パルスを計数することができなくなることから、デッドタイム(不感時間)と呼ばれる。X線検出器に入射する蛍光X線が増えて単位時間あたりの計数が多くなると、デッドタイムが増えて信号の数え落としが多くなり、測定精度が悪くなる。また、蛍光X線の量が少なくても計数が少なくなるため、測定精度が悪くなる。従って、高い精度で測定を行うためには、測定時間全体に対するデッドタイムの割合を最適な値にする必要がある。
本発明に係る同時型蛍光X線分析装置では、デッドタイム測定部により計数回路のデッドタイムが測定され、自動制御部がこのデッドタイムに基づいて可変アテネータを通過する光量の制御を行う。デッドタイムの測定値が最適値よりも大きい場合には、自動制御部が可変アテネータを制御することで、X線検出器に入射するX線を減少させ、デッドタイムを小さくする。逆に、デッドタイムの測定値が小さい場合には、可変アテネータを制御することでX線検出器に入射するX線を増加させ、デッドタイムを大きくする。また、このような制御を行った場合でも、本発明に係る可変アテネータであれば、試料の広い範囲から発せられる蛍光X線を均一に減衰させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る可変アテネータによれば、広い範囲から光を発する光源から可変アテネータに入射した光を全体的に減衰させることができる。また、金属フィルタのようにアテネータを透過した光の強度の波長特性が変化することもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一の実施形態に係る同時型蛍光X線分析装置の概略構成。
図2】可変アテネータの構成例1。
図3】可変アテネータの構成例2。
図4】可変アテネータの構成例3。
図5】可変アテネータの構成例4。
図6】本発明の第二の実施形態に係る同時型蛍光X線分析装置の概略構成。
図7】可変アテネータの構成例5。
図8】従来技術における同時型蛍光X線分析装置の概略構成。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1は本発明の第一の実施形態に係る同時型蛍光X線分析装置の概略構成図である。本実施形態の同時型蛍光X線分析装置10では、励起X線源11、試料Sの周囲に複数配置されたX線分光器12、エネルギー分散型用及び波長分散型用X線検出器13a及び13b、計数回路14、全ての計数回路14からの出力を受信するデータ処理装置15、X線検出器13aに入射する蛍光X線の強度を調整する可変アテネータ16、駆動部17、自動制御部18から構成される。
【0022】
X線検出器は試料Sの周囲に複数個配置されており、このうちのひとつは、エネルギー分散型の分析を行うユニットであり、試料Sとエネルギー分散型用X線検出器13aの間に可変アテネータ16が設けられている。その他は波長分散型の分析を行うユニットであり、試料Sと波長分散型用X線検出器13bの間にX線分光器12が設けられている。
【0023】
駆動部17(請求項における駆動手段)はステッピングモータと該ステッピングモータの駆動力を可変アテネータ16に伝達する歯車などの駆動力伝達機構からなる。ステッピングモータは自動制御部18に接続され、自動制御部18から制御指令を受信し、該制御指令に従って動作する。
【0024】
計数回路14は従来技術におけるカウンタ44と同様にX線検出器13a及び13bから出力される出力パルスを計数し、計数結果をデータ処理装置15に送信する。また、エネルギー分散型のユニットの計数回路14内にはデッドタイム測定部14aが設けられており、該計数回路14におけるデッドタイムを測定し、自動制御部18へ出力する。
【0025】
自動制御部18は各種演算を行うCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)やメモリやハードディスクなどの大容量記憶装置等からなる。この大容量記憶装置にはX線検出器の種類に応じたデッドタイムの最適値が保存されており、デッドタイム測定部14aにおいて測定されたデッドタイムと比較される。この比較結果に基づいて可変アテネータ16から出射する光量を制御ための制御指令が駆動部17に出力される。
【0026】
可変アテネータ16は図2(a)に示すように格子状の第1遮光部材16a及び第2遮光部材16cを有しており、図2(b)のように2枚の遮光部材を重ね合わせて構成されている。これら遮光部材は、銅、ステンレスなどを用いてX線を遮断可能な厚み(数mm程度)にした格子状部材から構成することができ、該格子状部材の複数の開口部がそれぞれ第1透過部16b及び第2透過部16dとなる。2枚の遮光部材は同一形状であり、第1透過部16bと第2透過部16dが重なった部分が可変アテネータ16に入射した光が透過可能な領域(以下「透過領域」と呼ぶ)となり、2枚の遮光部材が完全に重なった状態で透過領域の面積が最大となる。第1遮光部材16aは、試料Sとエネルギー分散型用X線検出器13aの間に固定される。また、図2(c)に示すように、第2遮光部材16cは、第1遮光部材16a及び第2遮光部材16cの面と平行な方向にスライドすることで、透過領域の面積を調整する。
【0027】
次に本実施形態に係る同時型蛍光X線分析装置10の動作について説明する。まず、励起X線源11から放射されたX線が試料Sに吸収され、試料Sから蛍光X線が放射される。蛍光X線の一部はX線分光器12により分光され、波長分散型用X線検出器13bによりパルス信号に変換された後、計数回路14により該パルス信号の出力パルス数が計数される。
一方、可変アテネータ16に入射した蛍光X線の一部は、可変アテネータ16の第1又は第2遮光部材16a、16cにより遮断され、残りの蛍光X線は第1及び第2透過部16b、16dを透過し、エネルギー分散型用X線検出器13aに入射する。エネルギー分散型用X線検出器13aに入射した蛍光X線は、パルス信号に変換され計数回路14で計数される。
【0028】
デッドタイム測定部14aではデッドタイムの測定が行われ、測定結果が自動制御部18へ出力される。自動制御部18はこのデッドタイムを自動制御部18内の大容量記憶装置に保存されているエネルギー分散型用X線検出器13aのデッドタイムの最適値と比較する。この比較の結果、測定されたデッドタイムがエネルギー分散型用X線検出器13aの最適値よりも短い場合には蛍光X線の光量を上げるため、可変アテネータ16の透過領域の面積を増加させる制御指令を駆動部17に送信する。逆にデッドタイムがエネルギー分散型用X線検出器13aの最適値よりも長い場合には蛍光X線の強度を下げるために可変アテネータ16の透過領域の面積を減少させる制御指令を駆動部17に送信する。
【0029】
駆動部17は自動制御部18から送信される制御指令に基づいて、可変アテネータ16の第2遮光部材16cをスライドさせる。第2遮光部材16cは、駆動部17により第1遮光部材16a及び第2遮光部材16bの面に平行な方向にスライドさせられ、これにより可変アテネータ16の透過領域の面積が連続的に調整される。また、これらの透過領域は可変アテネータ16の面全体に分布しているため、試料Sから発せられた蛍光X線は、可変アテネータ16によって全体的に透過及び遮断される。
【0030】
その後、可変アテネータ16により光量が調整された蛍光X線を、再びエネルギー分散型用X線検出器13aで検出し、そのときのデッドタイムを測定し、可変アテネータ16の調整を行う行程を繰り返すことで、計数回路14のデッドタイムを最適な値に調整することができる。
【0031】
上記実施の形態は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜変形や修正を行えることは明らかである。例えば、上記の実施形態では格子状の可変アテネータを用いたが別の形状とすることもできる。例えば、図3に示すように棒状部材を平行に複数個並べて配置した第1遮光部材26a及び第2遮光部材26cを重ねた形状とすることもできる。この構成では図3のスライド方向に第2遮光部材26cをスライドさせることで透過領域の面積を調整することができる。図3(a)は第1遮光部材26aと第2遮光部材26bが、蛍光X線の入射方向から見て、完全に重なった状態であり、透過領域の面積が最大となる。図3(b)は蛍光X線の入射方向からみて、透過領域の一部が第2遮光部材26cにより塞がれた状態であり、図3(c)が透過領域が完全に塞がれた状態である。
【0032】
また、図4に示すように第2遮光部材36cを回転させて透過領域の面積を調整することもできる。この場合も、棒状部材を平行に複数個並べて配置した第1遮光部材36a及び第2遮光部材36cを重ねた形状とし、図4(a)に示すように、第1遮光部材36aと第1透過部36bの境界上に第2遮光部材36cの回転中心を設けることで、図4(a)の位置にある第2遮光部材36cが半回転したときに、図4(c)に示すように開口部分が全てふさがれる構造とすることができる。図4(b)に示すように、全開と全閉の間で第2遮光部材36cの回転角度を調整することで、透過領域の面積を調整することも可能である。
【0033】
可変アテネータをパンタグラフ構造とすることもできる。図5に示すように第1遮光部材46a及び第2遮光部材46cを平面状に一定間隔で平行に並べられた複数本の棒状部材で構成し、第1遮光部材46aと第2遮光部材46cが交差するように配置し、それぞれの棒状部材の交点を軸着し、回転可能にすることにより、図5(a)に示す伸縮方向に可変アテネータ46を伸縮させることできる。この伸縮により可変アテネータ46の透過領域の面積を調整することができる。図5(b)は可変アテネータ46を伸張させて透過領域の面積を減少させた状態である。
【0034】
次に本発明に係る第2の実施形態による同時型蛍光X線分析装置について説明する。図6はその概略構成図である。第1の実施形態の構成において、駆動部を回動部に変更し、可変アテネータの構造を図7に示す構造としている。その他の構成については図1と同様であるため、以下に回動部57及び可変アテネータ56の構成と動作について説明する。
【0035】
回動部は57(請求項における回動手段)はステッピングモータと該ステッピングモータの駆動力を可変アテネータ56に伝達する歯車などの駆動力伝達機構からなる。ステッピングモータは自動制御部58に接続され、自動制御部からの制御指令を受信し、該制御指令に従って動作する。
【0036】
可変アテネータ56は図7に示すように、遮光部材56aを平面上に複数並べて配置されたブラインドと同様な構造である。これらの遮光部材は第1の実施形態と同様に銅、ステンレス等を材料として構成することができる。
【0037】
次に回動部57及び可変アテネータ56の動作について説明する。回動部57は自動制御部58からの制御指令に従って、それぞれの遮光部材56aを各遮光部材56aの中心軸周りに回動させることで、遮光部材56aが配置された平面における投影面積が変化し、可変アテネータ56を通過する光の量を変化させることができる。従って、本実施形態においても、可変アテネータ56により蛍光X線の光量を調節し、計数回路54のデッドタイムを最適な値にすることができる。
【0038】
図2から図4及び図7では、可変アテネータの外形を円形としているが、四角形やその他の多角形としてもよい。また、図5についても円形や多角形としてもよい。
【0039】
また、上記2つの実施形態では、エネルギー分散型のユニットを1つ設け、該ユニットのX線検出器と試料の間に可変アテネータを設けたが、複数のエネルギー分散型のユニットを設けて各X線検出器と試料の間に可変アテネータを設けてもよい。この場合、X線検出器の種類によって、デッドタイムの最適値が異なるため、自動制御部による制御は可変アテネータ毎に独立して行うことが望ましい。
【0040】
自動制御部を設けず手動でステッピングモータの設定を行ってもよい。この場合、ステッピングモータに回転量を設定するための入力装置を接続し、ユーザが操作できる構成とすることが望ましい。
【0041】
また、上記実施形態では、駆動部をステッピングモータを含む構成としたが他の種類のモータや油圧駆動装置といった他の駆動源を用いてもよい。また、駆動部を駆動力伝達機構のみで構成し、蝶ネジやつまみネジ等により手動で動作させる構成としてもよい。
【0042】
このような可変アテネータは同時型蛍光X線分析装置以外にも、光源から放射される光の強度を調整する光アテネータとして広く利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
10、50、60…同時型蛍光X線分析装置
11、51、61…励起X線源
12、52、62…X線分光器
13a、53a…エネルギー分散型用X線検出器
13b、53b、63b…波長分散型用X線検出器
14、54…計数回路
14a、54a…デッドタイム測定部
15、55、65…データ処理装置
16、26、36、46…可変アテネータ
16a、26a、36a、46a…第1遮光部材
16b、26b、36b、46b…第1透過部
16c、26c、36c、46c…第2遮光部材
16d、26d、36d、46d…第2透過部
17…駆動部
18、58…自動制御部
56…可変アテネータ
56a…遮光部材
57…回動手段
64…カウンタ
S…試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8