特許第6493209号(P6493209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493209
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】核酸増幅法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20190325BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20190325BHJP
   C07K 14/195 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C12Q1/686 ZZNA
   !C12N15/54
   !C07K14/195
【請求項の数】5
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-530854(P2015-530854)
(86)(22)【出願日】2014年8月1日
(86)【国際出願番号】JP2014070323
(87)【国際公開番号】WO2015019952
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2017年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-162989(P2013-162989)
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-61740(P2014-61740)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲大
(72)【発明者】
【氏名】松本 弘嵩
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/004654(WO,A1)
【文献】 特開2004−283165(JP,A)
【文献】 特開2006−166711(JP,A)
【文献】 特開平06−277062(JP,A)
【文献】 特表2005−526510(JP,A)
【文献】 特表2006−507012(JP,A)
【文献】 特開2002−253265(JP,A)
【文献】 特開2003−284576(JP,A)
【文献】 石野園子、他1名,耐熱性クランプ分子〜環状構造の安定性と機能の関係〜,生化学、2009年、81巻、12号、1056−1063頁
【文献】 真木寿治,改訂 PCR Tips−可能性を広げるコツとヒント−,株式会社秀潤社,1999年,第2版第1刷,102−108頁
【文献】 Nature Structural Biology,2002年,Vol.9, No.12,pp.922-927
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68−1/6897
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製工程を経ていない、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、及びウイルスからなる群から選択される生体試料を核酸増幅反応液に添加し、生体試料中の標的核酸を増幅する方法であって、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるファミリーBに属するDNAポリメラーゼと、配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列において、下記(a)および(b)で示される群の位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも一つの改変を有し、かつ、増幅増強活性を示すポリペプチドからなるProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を反応液中に含んでいることを特徴とする核酸増幅法。
(a)82、84および109番目のアミノ酸残基群
(b)139、143および147番目のアミノ酸残基群
【請求項2】
生体試料が、血液、唾液、白血球、植物ライセート、糞便、爪、髪、及び口腔粘膜からなる群から選択されるいずれかである請求項1に記載の核酸増幅法。
【請求項3】
PCNAが単独でDNAにロードする変異体である、請求項1または2に記載の核酸増幅法。
【請求項4】
PCNAが、配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列において、以下の(b1)から(b4)のいずれかの変異体である、請求項1〜3のいずれかに記載の核酸増幅方法。
(b1)143番目に相当するアミノ酸を塩基性アミノ酸に改変したもの
(b2)82番目と143番目に相当するアミノ酸を共に中性アミノ酸に改変したもの
(b3)147番目に相当するアミノ酸を中性アミノ酸に改変したもの
(b4)109番目と143番目に相当するアミノ酸を共に中性アミノ酸に改変したもの
【請求項5】
PCNA変異体が、配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列において、以下の(b1)または(b2)のいずれかのアミノ酸に置換された変異体である請求項1〜4のいずれかに記載の核酸増幅方法。
(b1)143番目のアミノ酸がアラニンまたはアルギニンに置換された変異体
(b2)147番目のアミノ酸がアラニンまたはアルギニンに置換された変異体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCRによる核酸増幅法に関する。本発明は、研究のみならず臨床診断や環境検査等にも利用できる。
【背景技術】
【0002】
PCR(polymerase chain reaction)とは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅する方法である。
数コピーといった微量サンプルからでも標的核酸を何十万倍に増幅することができ、研究分野のみならず、遺伝子診断、臨床診断といった法医学分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等においても、広く用いられるようになってきている。
【0003】
一方、PCRは、色素やタンパク質、糖類などの夾雑物の影響を受けやすく、夾雑物が反応を阻害することが知られている(非特許文献1)。通常、生体試料中の遺伝子を増幅する場合は、DNAの精製が必要とされている。しかし、DNAの精製は、精製の操作は煩雑で、かつ、時間を要し、操作中にコンタミネーションを生じる危険性がある。また、試料中の目的核酸含量が少ない場合には、回収することができない場合もあった。これらのことから、生体試料中の目的核酸を簡便かつ効率的に増幅する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/004654
【特許文献2】英国特許第6333158号
【特許文献3】米国特許第6946273号
【特許文献4】特許第3891330号
【特許文献5】特許第4395377号
【特許文献6】特表2006−507012
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Clinical Microbiology, Vol.39, No.2, p485−493(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は標的核酸の効率的な増幅法を提供することを目的とする。より詳細には、生体試料中の目的核酸を、精製工程を経ることなく直接増幅することを可能にする核酸増幅法を提供する。
さらに本発明の他の目的は、上記の目的に適した試薬キットを提供することにある。要約すれば本発明の目的は、動植物組織、体液および排泄物中に存在する遺伝子の増幅に適したPCR改良法およびPCR反応試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の核酸増幅方法は、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとPCNAを用い、生体試料中のDNAを、精製工程を経ることなく増幅することを特徴とする前記核酸増幅方法である。
【0008】
すなわち、本発明者は生体由来試料そのものと遺伝子増幅反応液を混合し反応させる核酸増幅法において、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとPCNAを用いることで、生体由来の夾雑物が多量に存在しても、さらには血液や爪のような生体試料をPCR反応液に直接添加しても、PCRが可能になることを見いだし、本発明を成すに至ったのである。
【0009】
ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは比較的、PCRの阻害に強いことは知られていたが、過剰な阻害物質が混在する反応条件では増幅が見られないことがあった。
一方、DNA複製に関与する因子の一つである増殖核抗原(Proliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA))と呼ばれる一群の物質が存在する。PCNAをファミリーBに属するDNAポリメラーゼに添加すると核酸増幅の時間が短縮できること(特許文献1)や、プライマーエクステンション試験で伸長性が向上し、核酸増幅でも比較的長めのターゲットを増幅できること(特許文献2)が知られている。しかし、阻害物質が多く含まれた条件でPCNAがそのような効果を示した例は知られていない。
このように、PCNAが、阻害物質が多く含まれた条件で作用することは知られておらず、また、PCNAの添加がポリメラーゼの阻害物質への耐性(クルード耐性)を上げることは知られていなかった。そして、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとPCNAを用い、生体試料中のDNAを精製工程を経ることなく増幅した例も知られていない。
【0010】
代表的な本願発明は以下の通りである。
[項1]
精製工程を経ていない生体試料を核酸増幅反応液に添加し、生体試料中の標的核酸を増幅する方法であって、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を反応液中に含んでいることを特徴とする核酸増幅法。
[項2]
生体試料が、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、ウイルスのいずれかである、項1に記載の核酸増幅法。
[項3]
ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼである、項1または項2に記載の核酸増幅法。
[項4]
ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるDNAポリメラーゼである、項1〜3のいずれかに記載の核酸増幅法。
[項5]
PCNAが単独でDNAにロードする変異体である、項1〜4のいずれかに記載の核酸増幅法。
[項6]
PCNAが、配列21または22における(a)82、84、109番目に相当するアミノ酸からなるN末端領域、および(b)139、143、147番目に相当するアミノ酸からなるC末端領域のうち、少なくともひとつの改変を有する変異体である、項1〜5のいずれかに記載の核酸増幅法。
[項7]
PCNAが、配列21または22における143番目に相当するアミノ酸を塩基性アミノ酸に改変したもの、または、82番目と143番目に相当するアミノ酸を共に中性アミノ酸に改変したもの、147番目に相当するアミノ酸を中性アミノ酸に改変したもの、109番目と143番目に相当するアミノ酸を共に中性アミノ酸に改変したもののいずれかの変異体である、項1〜6のいずれかに記載の核酸増幅法。
[項8]
ファミリーBに属するDNAポリメラーゼがさらに減少した塩基類似体検出活性を有する変異体である、項1〜7のいずれかに記載の核酸増幅法。
[項9]
減少した塩基類似体検出活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体が、以下の(a)から(c)のいずれかで示されるものであることを特徴とする、項8に記載の核酸増幅法。
(a)配列番号1または配列番号2(Pfuの野生型配列に相当)で示されるアミノ酸配列の7、36、37、90〜97および112〜119番目に相当するアミノ酸のうち、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有するアミノ酸配列である。
(b)(a)で示されるアミノ酸配列においてさらに少なくとも1つのアミノ酸が改変されており、そのアミノ酸配列が(a)で示されるアミノ酸配列と80%以上同一であり、かつ、減少した塩基類似体検出活性を有するDNAポリメラーゼをコードするアミノ酸配列である。
(c)(a)で示されるアミノ酸配列においてさらに少なくとも1つのアミノ酸が改変されており、そのアミノ酸配列が(a)で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であり、かつ、減少した塩基類似体検出活性を有するDNAポリメラーゼをコードするアミノ酸配列である。
[項10]
減少した塩基類似体検出活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体が、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列の7、36、93番目に相当するアミノ酸のうち、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有する変異体である、項8または9に記載の核酸増幅法。
[項11]
ファミリーBに属するDNAポリメラーゼがさらに3’−5’エキソヌクレアーゼ活性領域を構成するアミノ酸のいずれかに、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有する変異体である、項1〜10のいずれかに記載の核酸増幅法。
[項12]
ファミリーBに属するDNAポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性領域への改変が配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列のD141、I142、E143、H147、N210及びY311に相当するアミノ酸のいずれかに、少なくとも1つのアミノ酸の改変である、項11に記載の核酸増幅法。
[項13]
項1〜12のいずれかに記載の、核酸増幅反応を行うための試薬。
[項14]
項1〜12のいずれかに記載の、核酸増幅反応を行うための試薬を含むキット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、DNA精製の際のロスやキャリーオーバーの危険性をなくし、さらに時間・コストを削減することができる。また、ファミリーBに属するポリメラーゼを使用することで正確に遺伝子を増幅することができる。この手法は研究分野だけでなく、遺伝子診断などの臨床分野もしくは法医学分野、あるいは食品や環境中の微生物検査等においても広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】PCNA変異体の評価
図2】PCNA添加による血液からの増幅
図3】PCNA添加による血液からの増幅
図4】PCNA添加による植物ライセートからの増幅
図5】PCNA添加による植物ライセートからの増幅
図6】PCNA添加による糞便からの増幅
図7】PCNA添加による血液からの増幅
図8】PCNA添加による血液からの増幅
図9】PCNA添加による植物ライセートからの増幅
図10】PCNA添加による爪、髪、口腔粘膜からの増幅
図11】PCNAの多量体形成に関するアミノ酸領域を示す図
図12】本発明の核酸増幅法に用いるDNAポリメラーゼを用いた糞便存在下からの増幅評価
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説する。
本明細書においては、塩基配列、アミノ酸配列およびその個々の構成因子については、アルファベット表記による簡略化した記号を用いる場合があるが、いずれも分子生物学・遺伝子工学分野における慣行に従う。また、本明細書においては、アミノ酸配列の変異を簡潔に示すため、例えば「D143A」などの表記を用いる。「D143A」は、第143番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したことを示しており、すなわち、置換前のアミノ酸残基の種類、その場所、置換後のアミノ酸残基の種類を示している。また、配列番号は、特に断らない限り、配列表に記載された配列番号に対応する。また、多重変異体の場合は、上記の表記を「/」でつなげて表す。たとえば「D143A/D147A」は、第143番目のアスパラギン酸をアラニンに置換し、かつ、第147番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したことを示す。
また、本明細書において「変異型PCNA」という場合の「変異型」とは、従来知られたPCNAとは異なるアミノ酸配列を備えることを意味するものであり、人為的変異によるか自然界における変異によるかを区別するものではない。
【0014】
(1)[本発明の特徴]
本発明における核酸増幅法は、精製工程を経ていない生体試料を核酸増幅反応液に添加し、生体試料中の標的核酸を増幅する方法であって、ファミリーBに属するポリメラーゼとProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を反応液中に含んでいることを特徴とする。
【0015】
(2)[精製工程を経ないこと]
本発明における核酸増幅法においては、精製工程を経ていない生体試料内の核酸を精製することなく増幅する。精製とは、生体試料の組織、細胞壁などの夾雑物質と生体試料中のDNAを分離する方法であり、フェノールあるいはフェノール・クロロホルム等を用いて、DNAを分離する方法や、イオン交換樹脂、ガラスフィルターあるいはタンパク凝集作用を有する試薬によってDNAを分離する方法がある。
【0016】
本発明における核酸増幅法は、生体試料をこれらの精製法をとることなく、核酸増幅反応液に添加し増幅する方法である。
本発明において「精製工程を経ていない生体試料」とは、生体試料そのもの、あるいは液体の生体試料を水などの溶媒を用いて希釈したもの、固体の生体試料を水などの溶媒に添加し熱をかけて破砕させたものなどが挙げられる。
臓器や細胞など、増幅対象となる核酸が試料の組織内に存在する場合、前記核酸を抽出するために組織を破壊する行為(物理的な処理による破壊、界面活性剤などを使用した破壊など)は、本発明で言う精製に該当しない。また、前記方法で得られた試料、または、生体試料を、緩衝液などにより希釈する行為も本発明で言う精製に該当しない。
【0017】
(3)[生体試料]
本発明の核酸増幅法に適用する生体試料は、生体から採取された試料であれば特に限定されない。例えば、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、ウイルス等をいう。体液には血液や唾液が含まれ、細胞には血液から分離した白血球が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
(4)[ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ]
本発明の核酸増幅法に用いるDNAポリメラーゼは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼである。前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、好ましくは古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼである。
【0019】
(5)[古細菌由来のDNAポリメラーゼ]
ファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼとしては、パイロコッカス(Pyrococcus)属およびサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるDNAポリメラーゼが挙げられる。
パイロコッカス属由来のDNAポリメラーゼとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB−D、Pyrococcus Woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたDNAポリメラーゼを含むが、これらに限定されない。
サーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼとしては、Thermococcus kodakaraensis、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF−3、Thermococcus sp.9degrees North−7(Thermococcus sp.9°N−7)、Thermococcus sp.KS−1、Thermococcus celer、又はThermococcus siculiから単離されたDNAポリメラーゼを含むが、これらに限定されない。
これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、Pfu(Staragene社)、KOD(Toyobo社)、Pfx(Life Technologies社)、Vent(New England Biolabs社)、Deep Vent(New England Biolabs社)、Tgo(Roche社)、Pwo(Roche社)などがある。
【0020】
なかでもPCR効率の観点から、伸長性や熱安定性の優れたKOD DNAポリメラーゼが好ましい。
【0021】
また、前記DNAポリメラーゼに、後述の、3‘−5’エキソヌクレアーゼ領域の改変、および/または、減少した塩基類似体検出活性を有するような改変を施した変異体を用いても良い。
【0022】
(6)PCNA
本発明の核酸増幅法に用いるPCNA(本明細書では、Proliferating Cell Nuclear Antigenとも言う。)は、PCR増強因子の一種である。前記PCNAとしては、PCRの熱サイクルに耐えられる耐熱性のものが望ましく、好ましくはPCR後も活性が残るものが望まれる。さらに好ましくは80℃で30分の熱処理を行っても可溶性であり、活性が50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上残っているものが望まれる。
【0023】
本発明の核酸増幅法に用いるPCNAとしては、さらに好ましくはパイロコッカス(Pyrococcus)属およびサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されたPCNAが挙げられる。パイロコッカス属由来のPCNAとしては、Pyrococcus furiosus(配列番号22)、Pyrococcus sp.GB−D、Pyrococcus Woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたPCNAを含むが、これらに限定されない。サーモコッカス属に由来するPCNAとしては、Thermococcus kodakaraensis(配列番号21)、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF−3、Thermococcus sp.9degrees North−7(Thermococcus sp.9°N−7)、Thermococcus sp.KS−1、Thermococcus celer、又はThermococcus siculiから単離されたPCNAを含むが、これらに限定されない。
【0024】
また、本発明の核酸増幅法に用いるPCNAは発現量を増やすため、配列番号21または配列番号22の73番目に相当するメチオニンを改変したものでもよい。より好ましくはM73Lに改変したものがあげられるが、これに限定されない。
【0025】
さらに、本発明の核酸増幅法に用いるPCNAは単独でDNAにロードする変異体であってもよい。PCNAは通常、多量体を形成し輪のような構造をとる。DNAにロードするとは、PCNA多量体の輪の構造内部にDNAを通すことを示し、通常はRFCと呼ばれる因子と共同して初めてPCNAはDNAにロードすることができる。単独でDNAにロードする変異体とは、PCNAの多量体形成に関わる部位を改変し、多量体形成を不安定化することで、RFCなしでもDNAをPCNA多量体内部に通しやすくした変異体を示す。
【0026】
PCNAが多量体形成に関する部位は、サーモコッカス・コダカラエンシスに由来するPCNA(配列番号21)、パイロコッカス・フリオサスのPCNA(配列番号22)においては、82、84、109番目のアミノ酸からなるN末端領域と139、143、147番目のアミノ酸からなるC末端領域があげられる。N末端領域はプラスに帯電し、C末端領域はマイナスに帯電し、相互作用することで多量体形成を行う。
【0027】
上記および下記において、配列番号21または配列番号22を例にして説明したことは、本明細書で具体的に配列を提示したPCNA以外のPCNAにも適用される。例えば、図11で示したように配列番号21および22に示されるPCNA以外のPCNAにおいては、配列番号21の82、84、109、139、143、147番目のアミノ酸からなる多量体形成に関する領域と対応する領域のことを示す。
【0028】
単独でDNAにロードするPCNA変異体は、より好ましくは、PCNAの多量体形成に関わる、
(a)82、84、109番目に相当するアミノ酸からなるN末端領域、または
(b)139、143、147番目に相当するアミノ酸からなるC末端領域に少なくともひとつの改変を有し、RFCがなくともDNAにロードし、DNAポリメラーゼの伸長反応を促進する変異体があげられる。
【0029】
たとえば、配列番号21の143番目に相当するアミノ酸を塩基性アミノ酸に改変したもの、82番目と143番目を共に中性アミノ酸に改変したもの、147番目を中性アミノ酸に改変したもの、または、109番目と143番目を共に中性アミノ酸に改変したものなどが挙げられる。
本発明の中性アミノ酸としては、天然のものであれば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。好ましくは、置換部位の周辺部位の立体構造に与える影響がもっとも小さいアラニンである。塩基性アミノ酸としては、天然のものであれば、アルギニン、ヒスチジン、リシンが挙げられる。好ましくはアルギニンである。
【0030】
より好ましくは、WO2007/004654に記載のPCNA変異体が例示されるほか、第147番目のアミノ酸残基をアラニンに換えた配列(D147A)、第82番目、および第143番目のアミノ酸残基をアラニンに変えた配列(R82A/D143A、もしくはR82A/E143A)、第109番目、および第143番目のアミノ酸残基をアラニンに変えた配列(R109A/D143A、もしくはR109A/E143A)、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
PCNA変異体が単独でDNAにロードできるかどうかは、PCRによって評価できる。例えば、鋳型となるDNA、緩衝材、マグネシウム、dNTPs、プライマー、およびファミリーBに属するDNAポリメラーゼを含む通常のPCR反応液に、PCNA変異体を添加し、PCNA添加なしのもの、また野生型PCNA添加のものと増幅量を比較することで、単独でDNAにロードできるかを確認することができる。野生型のPCNAをはじめ、単独でDNAにロードできないPCNAは添加しても、PCRの増幅量は変化せず、むしろ増幅量を減らす傾向がある。一方、単独でDNAにロードできる変異体は、PCNA添加なしのもの、また野生型PCNA添加のものと比べて優れた増幅量を得ることができる。
【0032】
本発明において「PCNA変異体が単独でDNAにロードできるかどうか」の評価(増幅増強活性の評価)は、以下の方法に従う。
KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付の10×PCR Bufferを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、dTTPの代わりにdUTPを含んだ0.2mM dNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)、約1.3kbを増幅する15pmolの配列番号13及び14に記載のプライマー、10ngのヒトゲノムDNA(Roche製)、1U KOD DNAポリメラーゼ V93K変異体を含む50μlの反応液中に、評価するPCNAを250ng添加し、94℃、30秒の前反応の後、98℃、10秒→65℃、30秒→68℃、1分30秒を35サイクル繰り返すスケジュールでPCRを行う。反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下約1.3kbの増幅DNA断片を野生型PCNAを添加したもの、またはPCNAを添加していないものと比較することで単独でDNAにロードできるPCNAかどうかを評価することができる。単独でDNAにロードできるPCNAは添加によって増幅量が増加する。
【0033】
(7)核酸増幅法
本発明の核酸増幅法は、精製工程を経ていない生体試料を核酸増幅反応液に添加し、生体試料中の標的核酸を増幅する方法であって、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを増幅に用い、PCNAを反応液中に含んでいることを除いて、特に限定されない。
【0034】
DNAポリメラーゼで増幅可能な方法としては、典型的にはPCRが挙げられるが、本発明はPCRのみならず、DNAを鋳型とし、1種のプライマー、dNTP(デオキシリボヌクレオチド3リン酸)を反応させることによりプライマーを伸長して、DNAプライマー伸長物を合成する方法にも使用される。具体的には、プライマーエクステンション法、シークエンス法、従来の温度サイクルを行わない方法およびサイクルシーケンス法を含む。
【0035】
本発明の方法において、PCRの場合の代表的な条件を以下に示すが、これに限定されるものではない。
精製していない生体試料から得た増幅対象DNAに、
(a)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ
(b)一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である一対のプライマー
(c)DNA合成基質(デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP))
(d)マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及び/又はカリウムイオンを含むバッファー溶液、および、
(e)PCNA
を、混合し、
サーマルサイクラー等を用いて反応液の温度を上下させることにより、(1)DNA変性、(2)プライマーのアニーリング、(3)プライマーの伸長の熱サイクルを繰り返し、特定のDNA断片を増幅させる。
上記PCR方法においては、必要に応じて、さらに、PCR増強因子(後述)、BSA、非イオン界面活性剤などを用いてもよい。
また、DNAポリメラーゼに、後述の、減少した塩基類似体検出活性を有するような改変を施した変異体を用いる場合は、dUTPなどの塩基類似体をDNA合成基質として用いることが可能である。
【0036】
上記PCR方法においては、必要に応じて、さらに、耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性及び/又は3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を抑制する活性を有する抗体を用いても良い。前記抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体などが挙げられる。本反応組成は、PCRの感度上昇、非特異増幅の軽減に特に有効である。
【0037】
(8)核酸増幅法を実行するための試薬、キット
本発明の核酸増幅法を実行するための試薬、キットは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、および、PCNAを反応液中に含み、それ以外の構成は特に限定されない。適用する核酸増幅法も特に限定されない。
【0038】
核酸増幅法としてPCRを行う場合、本発明の試薬、キットとして、以下の(a)〜(e)を含む構成が例示できるが、これに限定されない。
(a)減少した塩基類似体検出活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体
(b)一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である一対のプライマー
(c)DNA合成基質(デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP))
(d)マグネシウムイオン、アンモニウムイオン及び/又はカリウムイオンを含むバッファー溶液、および、
(e)PCNA
【0039】
前記試薬、キットは、必要に応じて、さらに、その他の試薬類、たとえばBSA、非イオン界面活性剤などを用いてもよい。
【0040】
以下、本発明で用いるDNAポリメラーゼについて、説明を追加する。
【0041】
(9)[DNAポリメラーゼの改変(I)3‘−5’エキソヌクレアーゼ領域の改変]
本発明の核酸増幅法に用いる改変されたDNAポリメラーゼは、さらに3’−5’エキソヌクレアーゼ活性領域のアミノ酸配列のいずれかに少なくとも1つのアミノ酸の改変を含んでいてもよい。
3‘−5’エキソアーゼ活性とは、取り込まれたヌクレオチドをDNA重合体の3’末端から除去する能力を指し、上記の3‘−5’エキソヌクレアーゼ領域とは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼで高度に保存されている部位であり、サーモコッカス・コダカラエンシスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号1)、パイロコッカス・フリオサスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号2)、サーモコッカス・ゴルゴナリウスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号3)、サーモコッカス・リトラリスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号4)、パイロコッカス・エスピーGB−Dに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号5)、サーモコッカス・エスピーJDF−3に由来するDNAポリメラーゼ(配列番号6)、サーモコッカス・エスピー9°N−7に由来するDNAポリメラーゼ(配列番号7)、サーモコッカス・エスピーKS−1に由来するDNAポリメラーゼ(配列番号8)、サーモコッカス・セラーに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号9)、又はサーモコッカス・シクリに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号10)においては、137〜147、206〜222、および308〜318番目のアミノ酸である。本発明は具体的に配列を提示したDNAポリメラーゼ以外のDNAポリメラーゼにも適用される。また、配列番号1〜10に示されるDNAポリメラーゼ以外のファミリーBに属する古細菌由来DNAポリメラーゼにおいては、配列番号1の137〜147、206〜222、および308〜318番目のアミノ酸からなる3‘−5’エキソヌクレアーゼ領域と対応する領域のことを示す。
【0042】
なお、「配列番号1に示される137〜147、206〜222、および308〜318番目に相当するアミノ酸」とは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列を有するDNAポリメラーゼにおいて、配列番号1の137〜147、206〜222、および308〜318番目に対応するアミノ酸配列を含む表現である。
【0043】
上記の3‘−5’エキソヌクレアーゼ領域への改変とは、置換、欠失、または付加からなり得る。配列番号1における137〜147、206〜222、および308〜318番目に対応するアミノ酸への改変を示す。
【0044】
前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性領域を改変したDNAポリメラーゼとしては、配列番号1または配列番号2における141、142、143、210、311番目に対応するアミノ酸の少なくとも一つを改変したものが好ましい。これらの改変型DNAポリメラーゼは、3‘−5’エキソヌクレアーゼ活性が欠損している。
より好ましくは、アミノ酸の改変がD141A/E143A、I142R、N210D、またはY311Fから選択されるいずれか一つである、3‘−5’エキソヌクレアーゼ活性を欠損させたDNAポリメラーゼである。
なお、3‘−5’エキソヌクレアーゼ活性を欠損させた(エキソ(−))DNAポリメラーゼとは、活性の完全な欠如を含み、例えば、親酵素と比較して0.03%、0.05%、0.1%、1%、5%、10%、20%、または最大でも50%以下のエキソヌクレアーゼ活性を有する改変されたDNAポリメラーゼを指す。
【0045】
前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性領域を改変したDNAポリメラーゼとして、別の好ましい形態は、配列番号1または配列番号2におけるH147E、またはH147Dから選択されるいずれか一つである。これらの改変型DNAポリメラーゼは、エキソヌクレアーゼ活性を維持したまま、PCR効率が向上している。
【0046】
なお、3‘−5’エキソヌクレアーゼ活性領域を改変したDNAポリメラーゼを生成する方法や、3‘−5’エキソヌクレアーゼ活性を解析する方法は公知であり、例えば、米国特許第6946273号(特許文献3)に開示されている。PCR効率を向上させたDNAポリメラーゼとは、PCR産物の量が親酵素と比較して増加している改変されたDNAポリメラーゼを示す。PCR産物の量が親酵素と比較して増加しているかどうかを解析するための方法は、特許第3891330号(特許文献4)等に記載されている。
【0047】
(10)[DNAポリメラーゼの改変(II)減少した塩基類似体検出活性を有するDNAポリメラーゼ変異体を作製する改変]
本発明の核酸増幅法に用いるファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、減少した塩基類似体検出活性を有する変異体でもよい。塩基類似体とはアデニンやシトシン、グアニン、チミン以外の塩基を示し、ウラシルやイノシンなどが挙げられる。通常、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、塩基類似体であるウラシルやイノシンを検出すると強く結合し、ポリメラーゼ機能を阻害する。塩基類似体検出活性とは、塩基類似体と強く結合し、ポリメラーゼ機能を阻害する活性を示す。減少した塩基類似体検出活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼ変異体とは、ウラシルやイノシンへの結合能力が低いことを特徴とするファミリーBに属するDNAポリメラーゼ変異体である。
【0048】
このようなファミリーBに属するDNAポリメラーゼの減少した塩基類似体検出活性を有する変異体としては、古細菌DNAポリメラーゼ変異体が例示できる。
具体的には、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成されるウラシルの結合に関するアミノ酸配列(ウラシル結合ポケット)に改変を加え、野生型のDNAポリメラーゼと比較して、ウラシルやイノシンへの結合能力が低いことを特徴とする古細菌DNAポリメラーゼ変異体である。ウラシルやイノシンへの結合能力が低い古細菌DNAポリメラーゼ変異体は、dUTPの存在下のPCRでもファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼの機能低下があまり見られず、dUTPによるDNAポリメラーゼの伸長反応への影響が低減されている。
【0049】
ウラシルの結合に関するアミノ酸配列はパイロコッカス属に由来するDNAポリメラーゼ及びサーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼにおいて高度に保存されている。サーモコッカス・コダカラエンシスに由来するDNAポリメラーゼ(配列番号1)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。パイロコッカス・フリオサス(配列番号2)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・ゴルゴナリウス(配列番号3)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・リトラリス(配列番号4)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。パイロコッカス・エスピーGB−D(配列番号5)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・エスピーJDF−3(配列番号6)のおいては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・エスピー9°N−7(配列番号7)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・エスピーKS−1(配列番号8)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・セラー(配列番号9)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。サーモコッカス・シクリ(配列番号10)においては、アミノ酸1〜40、およびアミノ酸78〜130によって形成される。
【0050】
本発明の核酸増幅法に用いるDNAポリメラーゼ変異体として、より好ましいのは、ウラシルと相互作用に直接関連していると想定されている7、36、37、90〜97、および112〜119番目のアミノ酸のうち少なくとも1つに改変を加えたファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体、すなわち、(a)配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列の7、36、37、90〜97および112〜119番目に相当するアミノ酸のうち、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有するアミノ酸配列で示されるファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体である。
【0051】
上記のファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体は、以下の(b)のアミノ酸配列で示されるものであってもよい。
(b)(a)で示されるアミノ酸配列においてさらに少なくとも1つのアミノ酸が改変されており、そのアミノ酸配列が(a)で示されるアミノ酸配列と80%以上同一(好ましくは85%以上同一であり、さらに好ましくは90%以上同一であり、さらに好ましくは95%以上同一であり、さらに好ましくは98%以上同一であり、さらに好ましくは99%以上同一である)であり、かつ、減少した塩基類似体検出活性を有するDNAポリメラーゼをコードするアミノ酸配列。
【0052】
アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。
本明細書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出する。
【0053】
上記のファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体は、以下の(c)のアミノ酸配列で示されるものであってもよい。
(c)(a)で示されるアミノ酸配列においてさらに少なくとも1つのアミノ酸が改変されており、そのアミノ酸配列が(a)で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であり、かつ、減少した塩基類似体検出活性を有するDNAポリメラーゼをコードするアミノ酸配列。
【0054】
ここで「数個」とは、「減少した塩基類似体検出活性」が維持される限り制限されないが、例えば、全アミノ酸の約20%未満に相当する数であり、好ましくは約15%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。より具体的には、変異されるアミノ酸残基の個数は、例えば、2〜160個、好ましくは2〜120個、より好ましくは2〜80個、更に好ましくは2〜40個であり、より更に好ましくは2〜5個である。
【0055】
なお、「配列番号1に示されるアミノ酸配列における7、36、37、90〜97、および112〜119番目に相当するアミノ酸」とは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列を有するDNAポリメラーゼにおいて、配列番号1の7、36、37、90〜97、および112〜119番目に対応するウラシルの結合に関するアミノ酸配列を含む表現である。
【0056】
本願明細書において、配列番号1に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列おける、配列番号1上のある位置(順番)と対応する位置とは、配列の一次構造を比較(アラインメント)したとき、配列番号1の当該位置と対応する位置とする。
配列の一次構造を比較する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。
本明細書では、DNA Databank of Japan(DDBJ)のClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php/lang=ja)においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、配列の一次構造を比較する。
【0057】
本発明の核酸増幅法に用いる減少した塩基類似体検出活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体は、より好ましくは、配列番号1または配列番号2におけるアミノ酸Y7、P36、またはV93に相当するアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸の改変を有する。
ここで、例えばY7とは、7番目のアミノ酸であるチロシン(Y)残基を意味しており、アルファベット1文字は通用されているアミノ酸の略号を表している。好ましい例において、Y7アミノ酸はチロシン(Y)が非極性アミノ酸に置換されており、具体的にはY7A、Y7G、Y7V、Y7L、Y7I、Y7P、Y7F、Y7M、Y7W、及びY7Cからなる群より選ばれるアミノ酸置換である。別の好ましい例において、P36アミノ酸はプロリン(P)が正電荷をもつ極性アミノ酸に置換されており、具体的にはP36H、P36K、またはP36Rのアミノ酸置換である。別の好ましい例において、V93アミノ酸はバリン(V)が正電荷をもち極性アミン酸に置換されており、具体的にはV93H、V93K、またはV93Rのアミノ酸置換である。
【0058】
より好ましくは、改変がY7A、P36H、P36K、P36R、V93Q、V93K、及びV93Rからなる群より選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸の改変である。さらに好ましくはP36K、P36RまたはP36Hである。さらに好ましくはP36Hである。
【0059】
本発明における減少した塩基類似体検出活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体は、配列番号1または配列番号2におけるアミノ酸Y7、P36、またはV93に相当するアミノ酸から選択される2つ以上のアミノ酸を改変したものでも良い。具体的には、Y7A/V93K、Y7A/P36H、Y7A/P36R、Y7A/V93R、Y7A/V93QまたはP36H/V93Kなどが挙げられ、好ましくは、Y7A/P36HまたはY7A/V93Kなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
なお、特許文献1または2には、ウラシルと相互作用に直接関連していると想定されている7、36、37、90〜97、および112〜119番目のアミノ酸のいずれかに改変を加えたファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体がいくつか例示されているが、その全ての改変体が本願の課題にかなう良好な特性を有しているわけではなく、中には活性を失っているものも見られる。
【0061】
(11)
上記(8)および(9)に例示したDNAポリメラーゼの改変をもとに、本発明の核酸増幅法に用いる改変されたDNAポリメラーゼとして、種々の変異体が考えられる。そのような変異体として、以下の(1)−(4)のいずれかの改変を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体が例示されるが、これに限定されるわけではない。
(1)(A)H147Eと、(B)Y7A/V93K、Y7A/V93R、Y7A/V93Q、Y7A/P36H、Y7A/P36R、P36H/V93K、P36K、P36R、P36H、V93RまたはV93Qのいずれか
(2)(A)N210Dと、(B)Y7A/V93K、Y7A/P36H、Y7A/P36R、P36K、P36R、P36H、V93Q、V93KまたはV93Rのいずれか
(3)(A)I142Rと、(B)Y7A/V93K、Y7A/V93R、Y7A/V93Q、Y7A/P36H、Y7A/P36R、P36R、P36H、V93K、V93RまたはV93Qのいずれか
(4)(A)D141A/E143Aと、(B)Y7A/V93K、Y7A/P36H、Y7A/P36R、P36R、P36HまたはV93Kのいずれか
【0062】
(12)[塩基類似体検出活性の評価方法]
本発明における塩基類似体検出活性はPCRによって評価できる。塩基類似体は典型的にはウラシルである。例えば、鋳型となるDNA、緩衝材、マグネシウム、dNTPs、プライマー、および評価対象のDNAポリメラーゼを含む通常のPCR反応液に、dUTP溶液を、終濃度0.5μM〜200μMで添加し、熱サイクルを行う。反応後にエチジウムブロマイド染色アガロース電気泳動でPCR産物の有無を確認し、許容できたdUTP濃度によって、ウラシルの検出活性を評価することが出来る。ウラシル検出活性の高いDNAポリメラーゼは少しのdUTPの添加で伸長反応が阻害され、PCR産物が確認できない。またウラシルの検出活性の低いDNAポリメラーゼは高濃度のdUTPを添加しても問題なくPCRによる遺伝子増幅が確認できる。
【0063】
減少した塩基類似体検出活性を有するファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体とは、酵素至適の反応Buffer中で、任意のプライマー、および鋳型となるDNAを用い、至適の熱サイクルを行った結果、変異がない野生型と比較し、高濃度のdUTPを添加しても伸長反応が阻害されず、PCR産物が確認できるDNAポリメラーゼのことをいう。ただし、野生型との比較が困難な場合は、dUTPを0.5μMの濃度で添加してもPCRの増幅ができるファミリーBに属するDNAポリメラーゼの変異体については、当該変異体が野生型と比較して減少した塩基類似体検出活性を有すると推定する。
【0064】
本発明における塩基類似体検出活性の評価は、以下の方法に従う。
KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付の10×PCR Buffer、またはPfu DNA Polymerase(Agilent社製)添付の10×PCR Bufferを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、0.2mM dNTPs(dATP、dTTP,dCTP、dGTP)、約1.3kbを増幅する15pmolの配列番号13及び14に記載のプライマー、10ngのヒトゲノムDNA(Roche製)、1Uの各酵素を含む50μlの反応液中に、dUTP(Roche製)を終濃度0.5、5、50、100、200μMになるよう添加する。94℃、30秒の前反応の後、98℃、10秒→65℃、30秒→68℃、1分30秒を30サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)にてPCRを行う。反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下約1.3kbの増幅DNA断片を確認することで塩基類似体検出活性が減少しているかどうかが評価できる。
【0065】
(13)アミノ酸改変の導入方法
本発明の核酸増幅法に用いるDNAポリメラーゼを、改変する方法は、既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い改変を行うことが出来、その態様は特に制限されない。
【0066】
アミノ酸の改変を導入する方法の一態様として、Inverse PCR法に基づく部位特異的変異導入法を用いることができる。例えば、KOD −Plus− Mutagenesis Kit(Toyobo社製)は、(1)目的とする遺伝子を挿入したプラスミドを変性させ、該プラスミドに変異プライマーをアニーリングさせ、続いてKOD DNAポリメラーゼを用いて伸長反応を行う、(2)(1)のサイクルを15回繰り返す、(3)制限酵素DpnIを用いて鋳型としたプラスミドのみを選択的に切断する、(4)新たに合成された遺伝子をリン酸化、Ligationを実施し環化させる、(5)環化した遺伝子を大腸菌に形質転換し、目的とする変異の導入されたプラスミドを保有する形質転換体を取得することのできるキットである。
【0067】
上記改変DNAポリメラーゼ遺伝子を必要に応じて発現ベクターに移し替え、宿主として例えば大腸菌を、該発現ベクターを用いて形質転換した後、アンピシリン等の薬剤を含む寒天培地に塗布し、コロニーを形成させる。コロニーを栄養培地、例えばLB培地や2×YT培地に接種し、37℃で12〜20時間培養した後、菌体を破砕して粗酵素液を抽出する。ベクターとしては、pBluescript由来のものが好ましい。菌体を破砕する方法としては公知のいかなる手法を用いても良いが、例えば超音波処理、フレンチプレスやガラスビーズ破砕のような物理的破砕法やリゾチームのような溶菌酵素を用いることができる。 この粗酵素液を80℃、30分間熱処理し、宿主由来のポリメラーゼを失活させ、DNAポリメラーゼ活性を測定する。
【0068】
上記方法により選抜された菌株から精製DNAポリメラーゼを取得する方法は、いかなる手法を用いても良いが、例えば下記のような方法がある。栄養培地に培養して得られた菌体を回収した後、酵素的または物理的破砕法により破砕抽出して粗酵素液を得る。得られた粗酵素抽出液から熱処理、例えば80℃、30分間処理し、その後硫安沈殿によりDNAポリメラーゼ画分を回収する。この粗酵素液をセファデックスG−25(アマシャムファルマシア・バイオテク製)を用いたゲル濾過等の方法により脱塩を行うことができる。この操作の後、ヘパリンセファロースカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品はSDS−PAGEによってほぼ単一バンドを示す程度に純化される。
【0069】
(14)[DNAポリメラーゼ活性測定法]
本発明の核酸増幅法に用いるDNAポリメラーゼは以下のように活性を測定する。酵素活性が強い場合には、保存緩衝液(50mM Tris−HCl(pH8.0),50mM KCl,1mM ジチオスレイトール,0.1% Tween20,0.1% Nonidet P40,50% グリセリン)でサンプルを希釈して測定を行う。(1)下記のA液25μl、B液5μl、C液5μl、滅菌水10μl、及び酵素溶液5μlをマイクロチューブに加えて75℃にて10分間反応する。(2)その後氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。(3)この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、0.1N 塩酸およびエタノールで十分洗浄する。(4)フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、鋳型DNAのヌクレオチドの取り込みを測定する。酵素活性の1単位はこの条件で30分当りの10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分(即ち、D液を添加したときに不溶化する画分)に取り込む酵素量とする。
A:40mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)16mM 塩化マグネシウム15mM ジチオスレイトール100μg/mL BSA(牛血清アルブミン)
B:1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D:20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E:1mg/mL 仔牛胸腺DNA
【実施例】
【0070】
(実施例1)
KOD−PCNA変異体の作製
サーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来の改変型耐熱性PCNA遺伝子を含有するプラスミドを作製した。
変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBluescriptにクローニングされたサーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来のPCNA(配列番号23)(pKODPCNA)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(Toyobo社製)を用いて、方法は取扱い説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、酵素調製に用いた。
【0071】
(実施例2)
Pfu−PCNA変異体の作製
パイロコッカス・フリオサス由来の改変型耐熱性PCNA遺伝子を含有するプラスミドを作製した。
変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBluescriptにクローニングされたパイロコッカス・フリオサス株由来のPCNA(配列番号24)(pPfuPCNA)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(Toyobo社製)を用いて、方法は取扱い説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリDH5αを形質転換し、酵素調製に用いた。
【0072】
実施例1および実施例2で作製したプラスミドを表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例3−1)
KOD DNAポリメラーゼ変異体の作製
後述の実施例におけるPCNAの評価に用いるために、KOD DNAポリメラーゼの種々の変異体を以下の方法で作製した。
サーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来の改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を含有するプラスミドを作製した。
変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBluescriptにクローニングされたサーモコッカス・コダカラエンシス KOD1株由来の改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子(配列番号11)(pKOD)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(Toyobo社製)を用いて、方法は取扱い説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリJM109を形質転換し、酵素調製に用いた。
(実施例3−2)
Pfu DNAポリメラーゼ変異体の作製
後述の実施例におけるPCNAの評価に用いるために、Pfu DNAポリメラーゼの種々の変異体を以下の方法で作製した。
パイロコッカス・フリオサス由来の改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子を含有するプラスミドを作製した。
変異導入に使用されるDNA鋳型は、pBluescriptにクローニングされたパイロコッカス・フリオサス由来の改変型耐熱性DNAポリメラーゼ遺伝子(配列番号12)(pPfu)を用いた。変異導入にはKOD −Plus− Mutagenesis Kit(Toyobo社製)を用いて、方法は取扱い説明書に準じて行った。なお、変異体の確認は塩基配列の解読で行った。得られたプラスミドによりエシェリシア・コリJM109を形質転換し、酵素調製に用いた。
実施例3−1、および3−2で作製したプラスミドは表2および表3に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
(実施例4)
改変型耐熱性PCNAの作製
実施例1および2で得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mLのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)80mLを500mL坂口フラスコに分注した。この培地に予め100μg/mLのアンピシリンを含有する3mLのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリDH5α(プラスミド形質転換株)(試験管使用)を接種し、37℃にて16時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、50mLの破砕緩衝液(30mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、30mM NaCl、0.1mM EDTA)に懸濁後、ソニケーション処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を80℃にて15分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、Qセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、改変型耐熱性PCNAを得た。
【0078】
(実施例5)
改変型耐熱性DNAポリメラーゼの作製
実施例3−1および3−2で得られた菌体の培養は以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mLのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)80mLを500mL坂口フラスコに分注した。この培地に予め100μg/mLのアンピシリンを含有する3mLのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリJM109(プラスミド形質転換株)(試験管使用)を接種し、37℃にて16時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、50mLの破砕緩衝液(30mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、30mM NaCl、0.1mM EDTA)に懸濁後、ソニケーション処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を80℃にて15分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、改変型耐熱性DNAポリメラーゼを得た。
【0079】
上記精製工程のDNAポリメラーゼ活性測定は、前記の(13)に記載の[DNAポリメラーゼ活性測定法]に従い行った。また、酵素活性が高い場合はサンプルを希釈して測定を行った。
【0080】
(実施例6)
PCNAの評価
PCNAが単独でDNAにロードできるかを確認するため、実施例1で作製したKOD−PCNA変異体(M73L、M73L/E143R、M73L/R109A/E143A、M73L/D147A、M73L/R82A/E143A、M73L/E143F、M73L/E143A)を用いてdUTP存在下PCRでの増幅量の違いを、上記(6)で示した増幅増強活性の測定方法に従い、Human β−グロビンの1.3kbを増幅することで比較した。この際、DNAポリメラーゼには、実施例3−1で作製したKOD V93K変異体を用いた。なお、上述のとおり、M73L変異を野生型に相当するものとみなす。
PCRにはKOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、MgSOを用い、1×PCR Buffer、およびを0.2mM dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)、1.5mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号13及び14)、10ngのヒトゲノムDNA(Roche社製)、抗体と混合した1Uの酵素を含む50μlの反応液を94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→60℃、30秒→68℃、1分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いてPCRを行った。反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0081】
図1は、種々のPCNA変異体を250ng添加しPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いたPCNA変異体はM73L、M73L/E143R、M73L/R109A/E143A、M73L/D147A、M73L/R82A/E143A、M73L/E143F、M73L/E143Aの計7種である。
今回用いたKOD V93K変異体はdUTPの阻害を受けて増幅量が少ない。PCNA添加なしやM73L変異体ではほとんどバンドが確認されなかったが、他のKOD−PCNA変異体の添加でしっかりとしたバンドが確認された。PCNAは多量体を形成し核酸の合成反応を促進するが、通常、RFCの働きなしではDNAにロードできず反応が進まない。M73L/E143R、M73L/R109A/E143A、M73L/D147A、M73L/R82A/E143A、M73L/E143F、M73L/E143Aの改変は、多量体形成に関わる部位への改変であり、適度に多量体形成が弱まったため、PCNAがDNAにロードでき、PCR増幅量を向上させたことが考えられる。
【0082】
一方、実施例2で作製したPfu−PCNA変異体(M73L、M73L/D143R、M73L/R109A/D143A、M73L/D147A、M73L/R82A/D143A、M73L/D143A)を用いて上記と同様の実験を行った。その結果、Pfu−PCNA M73L変異体では、ほとんどバンドが確認できなかったが、他のPfu−PCNA変異体(M73L/D143R、M73L/R109A/D143A、M73L/D147A、M73L/R82A/D143A、M73L/D143A)の添加でしっかりとしたバンドが確認された。
【0083】
(実施例7)
PCNA添加による血液からの増幅
反応液に添加する血液量を変えて、様々なPCNA変異体の添加でクルード(血液)耐性を評価した。比較には、PCNAの添加なしとKOD−PCNA変異体(M73L/E143R、M73L、M73L/D147A、M73L/R82A/E143A)を用い、HBgの3.6kbの増幅量の違いを比較した。DNAポリメラーゼには、KOD −Plus−を用いた。
【0084】
PCRは、KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、dNTPs、MgSO、酵素液(KOD −Plus−)を用い、1×PCR Buffer、および1.0mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号17および18)、1UのKOD −Plus−を含む50μlの反応液中に、血液を反応液に対して8%になるように加え、PCNAなしと様々な濃度のPCNA変異体(0.5μg、1μg、2μg、4μg)を添加したものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→68℃、4分を30サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0085】
図2は、試料として血液を用い、反応液に占める血液の割合を8%になるよう反応液を調製して、種々のPCNA変異体を0.5μg、1μg、2μg、4μg添加しPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いたPCNA変異体はM73L/E143R、M73L、M73L/D147A、M73L/R82A/E143Aの計4種である。各写真の0.5、1、2、4は添加されたPCNAの量(μg)を示す。
結果、PCNA添加なし、M73Lの変異体では4μg添加しても血液から直接増幅が確認されないところ、M73L/E143R、M73L/D147A、M73L/R82A/E143Aの変異体は0.5μg添加すれば血液が8%含まれていてもしっかりしたバンドが確認された(図2)。多量体形成に関わる部位に変異を入れ単独でDNAにロードするPCNA変異体は、PCR反応系に添加すればクルード耐性が上がることが示される。
【0086】
(実施例8)
市販(古細菌由来)酵素とPCNA添加による血液からの増幅
KOD DNAポリメラーゼ以外のファミリーBに属する酵素にもPCNAの添加でクルード(血液)耐性が向上するかを評価した。
比較には、KOD −Plus−(Toyobo社製)、PrimeSTAR HS(タカラバイオ製)、MightyAmp(タカラバイオ製)、PrimeSTAR GXL(タカラバイオ製)のポリメラーゼを用い、血液、反応液に対して8%存在下でHBgの3.6kbの増幅量の違いを比較した。PCNAにはKOD−PCNA M73L/D147Aを用いた。
【0087】
PCRは、KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、dNTPs、MgSOを用い、1×PCR Buffer、および1.0mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号17および18)、1Uの各酵素を含む50μlの反応液中に、血液を反応液に対して16%になるように加え、PCNAなしとKOD−PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→68℃、4分を30サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0088】
図3は、試料として血液を用い、反応液に占める血液の割合を16%になるよう反応液を調製して、種々の酵素にKOD−PCNA M73L/D147Aを添加しPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いた酵素はKOD −Plus−、PrimeSTAR HS、MightyAmp、PrimeSTAR GXLの計4種である。各写真の1はKOD−Plus−、2はPrimeSTAR HS、3はMightyAmp、4はPrimeSTAR GXLの結果を示し、−はPCNAなし、+はPCNAを添加したこと示す。
結果、KOD−Plus−、PrimeSTAR GXLではPCNA添加なしで血液16%から直接増幅が確認されないところ、PCNA M73L/D147Aを添加することでしっかりとしたバンドが確認された。PrimeSTAR HS、MightyAmpではPCNA添加なしで血液16%から直接増幅がみられたが、PCNA M73L/D147Aを添加することで増幅量が大幅に向上することが確認された(図3)。PCNA変異体を添加すればクルード(血液)耐性が上がり、増幅できなかったものが増幅できた。また、増幅量が血液の阻害によって抑えられていたものが、PCNA変異体の添加によって改善され増幅量が増えたことが示された。PrimeSTAR HS、MightyAmp、PrimeSTAR GXLはファミリーBに属する古細菌由来のポリメラーゼで調製されている。PCNA変異体はKODポリメラーゼだけでなく、様々なファミリーBに属するポリメラーゼに効果があることが示された。
【0089】
(実施例9)
PCNA添加による植物ライセートからの増幅
KOD DNAポリメラーゼの変異体にPCNAの添加でクルード(植物)耐性が向上するかを評価した。
比較には、KOD H147E変異体、KOD Y7A/V93K変異体、KOD Y7A/P36H/N210D変異体、Taqポリメラーゼを用い、rbcL 1.3kbの増幅量の違いを比較した。PCNAにはKOD−PCNA M73L/D147Aを用いた。
【0090】
鋳型にはイネの葉3mm角をBufferA(100mM Tris−HCl(pH9.5)、1M KCl、10mM EDTA)100μlに添加し、95℃、10分の熱処理を行ったものをライセートとして用いた。
KOD変異体のPCRは、KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、dNTPs、MgSOを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号15および16)、KOD抗体と混合した1Uの各酵素を含む50μlの反応液中に、植物ライセートを反応液に対して2%、4%、8%、16%になるように加え、PCNAなしとKOD−PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→65℃ 30秒→68℃、1.5分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて行った。
Taq DNAポリメラーゼはToyobo社製のものを用い、Anti−Taq High(Toyobo社製)と混合したものを用いた。反応は1×BlendTaqに添付のBuffer、2mM dNTPs、10pmolのプライマー(上記と同様)、抗体と混合した2.5Uの酵素を含む50μlの反応液中に、植物ライセートを反応液に対して2%、4%、8%、16%になるように加え、PCNAなしとKOD−PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、94℃、30秒→65℃、30秒→68℃、1、5分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)を用いて行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0091】
図4は、試料として植物ライセートを用い、反応液に占めるライセートの割合を2、4、8、16%になるよう反応液を調製して、種々の酵素にKOD−PCNA M73L/D147Aを添加しPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いた酵素はKOD H147E変異体、KOD Y7A/V93K変異体、KOD Y7A/P36H/N210D変異体、Taqポリメラーゼの計4種である。
各写真の1、2、8、16は添加された植物ライセートの割合(%)を示し、−はPCNAなし、+はPCNAを添加したこと示す。
結果、PCNA添加なしのKOD H147E、KOD Y7A/P36H/N210Dでは植物ライセートを8%以上添加すると阻害がかかり増幅が確認されないところ、PCNAの変異体を添加したものは植物ライセートが8%含まれていてもしっかりしたバンドが確認された(図4)。同様にKOD Y7A/V93Kでも、PCNAなしでは4%の植物ライセートで阻害がかかり増幅が確認されないところ、PCNAの変異体を添加したものは植物ライセートが4%含まれていてもしっかりしたバンドが確認された。PCNA変異体はKOD DNAポリメラーゼの変異体にも効果があることが示された。
一方、ファミリーBに属するポリメラーゼではないTaqポリメラーゼではPCNAの添加でクルード(植物)耐性の変化は見られなかった。TaqポリメラーゼにはPCNA変異体を添加してもクルード耐性は変わらないことが示される。
【0092】
(実施例10)
市販のファミリーBに属する酵素とPCNA添加による植物ライセートからの増幅
市販されている様々なファミリーBに属する酵素にもPCNAの添加でクルード(植物)耐性が向上するかを評価した。
比較には、KOD−Plus−、KOD Dash、PrimeSTAR GXLを用い、rbcL 1.3kbの増幅量の違いを比較した。PCNAにはKOD−PCNA M73L/D147Aを用いた。
【0093】
鋳型にはイネの葉3mm角をBufferA(100mM Tris−HCl(pH9.5)、1M KCl、10mM EDTA)100μlに添加し、95℃、10分の熱処理を行ったものをライセートとして用いた。
PCRは、それぞれ添付のBufferを用い、推奨の反応液中に15pmolのプライマー(配列番号15および16) と、植物ライセートを反応液に対して1%、2%、4%、6%になるように加え、PCNAなしとKOD−PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→65℃、30秒→68℃、1.5分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0094】
図5は、試料として植物ライセートを用い、反応液に占めるライセートの割合を1、2、4、6%になるよう反応液を調製して、種々の酵素にKOD−PCNA M73L/D147Aを添加しPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いた酵素はKOD −Plus−、KOD Dash、primeSTAR GXLの計3種である。
各写真の1、2、4、6は添加された植物ライセートの割合(%)を示し、−はPCNAなし、+はPCNAを添加したことを示す。
結果、PCNA添加なしのKOD−Plus−では植物ライセートを1%以上で、KOD Dash、PrimeSTAR GXLでは2%以上で阻害がかかり増幅が確認されないところ、PCNAの変異体を添加したものは植物ライセートが4%含まれていてもしっかりしたバンドが確認された(図5)。
【0095】
(実施例11)
PCNA添加による糞便からの増幅
PCNAの添加でクルード(糞便)耐性が向上するかを評価した。
酵素には、KOD−Plus−を用い、HBgの3.6kbの増幅量の違いを比較した。PCNAにはKOD−PCNA M73L/D147Aを用いた。
【0096】
阻害物質には10%糞便懸濁液を95℃で10分熱処理したものを用いた。
PCRは、KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、dNTPs、MgSO、酵素(KOD −PLUS−)を用い、1×PCR Buffer、および1.0mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号17および18)、5ngヒトゲノム、1Uの酵素を含む50μlの反応液中に、糞便を反応液に対して0.2%、0.4%、0.8%、1.6%になるように加え、PCNAなしとKOD PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→68℃、4分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0097】
図6は、ヒトゲノムからHBg3.6kを増幅する反応液に阻害物質である糞便を0%、0.2%、0.4%、0.8%、1.6%の割合になるよう添加し、KOD−PCNA M73L/D147AありなしでPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いた酵素はKOD −Plus−である。
各写真の0、0.2、0.4、0.8、1.6は添加された糞便の割合(%)を示し、−はPCNAなし、+はPCNAを添加したことを示す。
結果、PCNA添加なしのKOD−Plus−では糞便を0.2%以上添加すると阻害がかかり増幅が確認されないところ、PCNAの変異体を添加したものは糞便が0.4%含まれていてもバンドが確認された(図6)。PCNA変異体は糞便の阻害にも耐性能を向上させる効果があることが示された。
【0098】
(実施例12)
dUTPを含む反応液を用いたPCNA添加による血液からの増幅
dUTPを含むPCR反応系でもPCNAの添加でクルード(血液)耐性が向上するかを評価した。
酵素には、KOD Y7A/V93K変異体を用い、HBgの482bpの増幅量の違いを比較した。PCNAにはKOD−PCNA M73L/D147Aを用いた。
【0099】
PCRは、KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、MgSOを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号19および20)、2mM dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)、KOD抗体と混合した1Uの酵素を含む50μlの反応液中に、血液を反応液に対して0.002%、0.02%、0.2%、2%、5%、10%になるように加え、PCNAなしとKOD−PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→65℃、30秒→68℃、1分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0100】
図7は、試料として血液を用い、dUTPを含む反応液に血液を0.002%、0.02%、0.2%、2%、5%、10% の割合になるよう添加して、KOD−PCNA M73L/D147Aの添加ありなしでPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。各写真の−はPCNAなし、+はPCNAを添加したこと示す。
結果、PCNA添加なしのKOD Y7A/V93Kでは血液を10%添加すると阻害がかかり増幅が確認されないところ、PCNAの変異体を添加したものは血液が10%含まれていてもしっかりしたバンドが確認された(図7)。PCNA変異体はdUTP存在下のPCRでも効果があることが示された。
【0101】
(実施例13)
dUTPを含む反応液を用いたPCNA添加による血液からの増幅
図7と同様、dUTPを含むPCR反応系でもPCNAの添加でクルード(血液)耐性が向上するかを評価した。
酵素には、KOD Y7A/V93K変異体、KOD Y7A/P36H/N210Dを用い、HBgの1.3kbの増幅量の違いを比較した。PCNAにはPfu−PCNA M73L/D147Aを用いた。
【0102】
PCRは、KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、MgSOを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号13および14)、2mM dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)、KOD抗体と混合した1Uの各酵素を含む50μlの反応液中に、血液を反応液に対して0.02%、0.2%、0.5%、2%、5%、10%になるように加え、PCNAなしとPfu−PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→65℃、30秒→68℃、1.5分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0103】
図8は、試料として血液を用い、反応液に占める血液の割合を0.02%、0.2%、0.5%、2%、5%、10% になるよう反応液を調製して、KOD Y7A/V93K変異体および、KOD Y7A/P36H/N210DにPfu−PCNA M73L/D147Aを添加しPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。各写真の−はPCNAなし、+はPCNAを添加したことを示す。
結果、PCNA添加なしでは阻害がかかり血液から増幅が確認されないところ、PCNAの変異体を添加したものは血液が10%含まれていてもしっかりしたバンドが確認された(図8)。図7と同様、PCNA変異体はdUTP存在下のPCRでも効果があることが示された。
【0104】
(実施例14)
PCNA添加による植物ライセートからの増幅
dUTPを含むPCR反応系でもPCNAの添加でクルード(植物)耐性が向上するかを評価した。
比較には、KOD Y7A/P36H/N210D変異体、Taqポリメラーゼを用い、rbcL 1.3kbの増幅量の違いを比較した。PCNAにはKOD−PCNA M73L/D147Aを用いた。
【0105】
鋳型にはイネの葉3mm角をBufferA(100mM Tris−HCl(pH9.5)、1M KCl、10mM EDTA)100μlに添加し、95℃、10分の熱処理を行ったものをライセートとして用いた。
KOD Y7A/P36H/N210DのPCRは、KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、MgSOを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号15および16)、2mM dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP) 、KOD抗体と混合した1Uの酵素を含む50μlの反応液中に、植物ライセートを反応液に対して2%、4%、8%、16%になるように加え、PCNAなしとKOD−PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→65℃ 30秒→68℃、1.5分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いて行った。
Taq DNAポリメラーゼはToyobo社製のものを用い、Anti−Taq High(Toyobo社製)と混合したものを用いた。反応は1×BlendTaqに添付のBuffer、10pmolのプライマー(上記と同様)、2mM dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)、抗体と混合した2.5Uの酵素を含む50μlの反応液中に、植物ライセートを反応液に対して2%、4%、8%、16%になるように加え、PCNAなしとKOD−PCNA M73L/D147Aを250ng加えたものを比較した。反応は94℃、2分の前反応の後、94℃、30秒→65℃、30秒→68℃、1、5分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)を用いて行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0106】
図9は、試料として植物ライセートを用い、反応液に占めるライセートの割合を2、4、8、16%になるよう反応液を調製して、種々の酵素にKOD−PCNA M73L/D147Aを添加しPCR反応を行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いた酵素はKOD Y7A/P36H/N210D変異体、Taqポリメラーゼの計2種である。
各写真の1、2、8、16は添加された植物ライセートの割合(%)を示し、−はPCNAなし、+はPCNAを添加したことを示す。
結果、PCNA添加なしのKOD Y7A/P36H/N210Dでは植物ライセートを4%以上添加すると阻害がかかり増幅が確認されないところ、PCNAの変異体を添加したものは植物ライセートが8%含まれていてもしっかりしたバンドが確認された(図9)。PCNA変異体はdUTPを含む反応液でも効果があることが示された。
一方、ファミリーBに属するポリメラーゼではないTaqポリメラーゼではPCNAの添加でクルード(植物)耐性の変化は見られなかった。TaqポリメラーゼにはPCNA変異体を添加してもクルード耐性は変わらないことが示される。
【0107】
(実施例15)
体組織(爪、髪、口腔粘膜)からのPCR
爪や髪、口腔粘膜を鋳型に、PCRができるかを検討した。爪は爪きりで切断した一片を、髪は1本を、50mM NaOH180μlに添加し、95℃10分の熱処理で破砕を行い、その後、1M Tris−HCl(pH8.0)20μlを加え中和した上清を鋳型として用いた。口腔粘膜は綿棒で採取した粘膜を200μlの水に懸濁したものを鋳型として用いた。
酵素には1Uあたり0.8μgのKOD抗体と混合したKOD(野生型)とKOD Y7A/V93K変異体とKOD Y7A/P36H/N210D変異体を用い、HBgの482bpのPCRを行い増幅の違いを比較した。
上記と同様、PCRは、KOD −Plus− Ver.2(Toyobo社製)添付のBuffer、MgSOを用い、1×PCR Buffer、および1.5mM MgSO、15pmolのプライマー(配列番号19および20)、抗体と混合した1Uの各酵素を含む50μlの反応液中に、通常のdNTPs(dATP、dTTP,dCTP、dGTP)を0.2mM添加したものと、dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP)を0.2mMになるよう添加したものをそれぞれ用い、鋳型には上記サンプル1μlを用いた。また、各反応液にPCR増強因子であるKOD−PCNA M73L/E143R変異体を250ng添加したものも実施した。94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→65℃、10秒→68℃、1分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社)を用いてPCRを行った。
反応終了後、5μlの反応液についてアガロース電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下増幅DNA断片の増幅量を確認した。
【0108】
図10は、試料として爪、髪、口腔粘液を用い、種々のDNAポリメラーゼによるPCR反応を、KOD由来のPCNA変異体(M73L/E143R)の存在下で行い、得られた産物を電気泳動した結果を示す。用いたDNAポリメラーゼは、KOD(野生型)、KODの変異体2種(Y7A/V93K、Y7A/P36H/N210D)の計3種である。各写真の左側がdTTPを用いた場合、右側がdUTPを用いた場合である。1レーンは爪を試料とした場合、2レーンは髪、3レーンは口腔粘膜である。それそれの「+」レーンは、KOD由来のPCNA変異体(M73L/E143R)の存在下であり、「−」はPCNAなしであることを示す。
結果、野生型のKOD DNAポリメラーゼはdUTP存在下で増幅が確認されないところ、減少した塩基類似体検出活性を持つKOD Y7A/V93KやKOD Y7A/P36H/N210D変異体ではdUTP存在下でもバンドが確認された(図10)。そこにPCNAを添加した結果、添加していないものと比べ増幅量が向上していることが確認された。
【0109】
KODの他の変異体(P36H、P36K、P36R、V93K、V93R、Y7A/P36H、Y7A/P36R、Y7A/V93R、P36H/H147E、P36K/H147E、P36R/H147E、V93K/H147E、V93R/H147E、Y7A/P36H/H147E、Y7A/P36R/H147E、Y7A/V93K/H147E、Y7A/V93R/H147E、P36H/N210D、P36K/N210D、P36R/N210D、V93K/N210D、V93R/N210D、Y7A/P36R/N210D、Y7A/V93K/N210D、Y7A/V93R/N210D、P36H/I142R、P36R/I142R、V93K/I142R、V93R/I142R、Y7A/P36H/I142R、Y7A/P36R/I142R、P36H/D141A/E143A、P36R/D141A/E143A、V93K/D141A/E143A、V93R/D141A/E143A、Y7A/P36H/D141A/E143A、Y7A/P36R/D141A/E143A)でも同様の反応条件で、体組織(爪、髪、口腔粘膜)からの増幅を確認し、dUTP存在下でもしっかりとしたバンドが確認できた。またこれらに、KOD−PCNA変異体(M73L/D147A、M73L/R109A/E143A、M73L/E143R)、Pfu−PCNA変異体(M73L/D143R)を添加すると、上記と同様、増幅量の向上が確認できた。
【0110】
実施例16
糞便からの増幅
dUTP、糞便存在下で遺伝子増幅ができるかを評価した。
酵素には、KOD Y7A/P36H/N210D変異体、Taqポリメラーゼを用い、サルモネラのinvA遺伝子約700bpの増幅の違いをSYBR GREEN Iを用いたリアルタイムPCR、および融解曲線で比較した。KOD Y7A/P36H/N210D変異体にはPCR増強因子としてKOD−PCNA M73L/D147Aを添加したものも実施した。
【0111】
阻害物質には10%糞便懸濁液を95℃で10分熱処理したものを用いた。
KOD Y7A/P36H/N210DのPCRは、KOD Dash(Toyobo社製)添付のBufferを用い、1×PCR Buffer、50コピーのサルモネラゲノム、4pmolのプライマー(配列番号25および26)、2mM dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP,dCTP、dGTP) 、1/30000 SYBR GREEN I、KOD抗体と混合した0.4Uの酵素を含む20μlの反応液中に、糞便を反応液に対して0、0.1、0.25、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5%になるように加え、95℃、30秒の前反応の後、98℃、10秒→60℃ 10秒→68℃、30秒を50サイクル繰り返すスケジュールでLightCycler2.0(Roche社)を用いて行った。KOD−PCNA M73L/D147Aは上記反応系に100ng加え、PCNAなしのものと比較した。
Taq DNAポリメラーゼはToyobo社製のものを用い、Anti−Taq High(Toyobo社製)と混合したものを用いた。反応は1×Taqに添付のBuffer(Mg別添タイプ)、50コピーのサルモネラゲノム、4pmolのプライマー(上記と同様)、2mM dTTPをdUTPに置換したdNTPs(dATP、dUTP、dCTP、dGTP)、4mM MgSO、1/30000 SYBR GREEN I、抗体と混合した1Uの酵素を含む20μlの反応液中に、糞便を反応液に対して0、0.1、0.25、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5%になるように加え、95℃、30秒の前反応の後、98℃、10秒→60℃ 10秒→68℃、30秒を50サイクル繰り返すスケジュールでLightCycler2.0(Roche社)を用いて行った。
それぞれ、反応終了後、融解曲線解析にて、80℃後半に出現する目的ピークを確認した。
【0112】
実施例16のCq値を表4に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
表4はdUTP、糞便存在下で行ったリアルタイムPCRのCq値(LightCycler2.0のデフォルト設定)を示す。N.D.は増幅が見られず、Cq値が求められなかったことを示す。
結果、Taqポリメラーゼでは0.5%の糞便を添加すると増幅が見られなくなるところ、KOD Y7A/P36H/N210Dでは2.5%の糞便を添加しても増幅が確認された。また、PCNAありなしを比較すると、PCNAを添加したものの方が、Cq値が小さく、優れたPCR効率を示していることがわかった。
【0115】
図12は、dUTP、糞便存在下でPCRを用い、得られた増幅産物の融解曲線解析の結果を示す。用いたポリメラーゼはKOD Y7A/P36H/N210D変異体、KOD Y7A/P36H/N210D変異体にKOD−PCNA M73L/D147Aを添加したもの、Taqポリメラーゼの計3種である。
1はKOD Y7A/P36H/N210Dの結果を、2はKOD Y7A/P36H/N210DにKOD−PCNA M73L/D147Aを添加したものの結果を、3はTaqポリメラーゼの結果を示す。
結果、KOD Y7A/P36H/N210DではdUTP、糞便存在下からでも増幅が確認され、糞便の添加でピークは低くなるものの、2.5%を添加しても、目的ピークを確認することができた。PCNAを添加したものでも同様に、2.5%の添加でも目的ピークを確認することができた。しかし、Taqポリメラーゼでは0.25%の添加で目的ピークが消失しており、糞便の影響で阻害を受けたことが示唆された(図12)。
【0116】
KODの他の変異体(Y7A/V93K、P36H、P36K、P36R、V93K、V93R、Y7A/P36H、Y7A/P36R、Y7A/V93R、P36H/H147E、P36K/H147E、P36R/H147E、V93K/H147E、V93R/H147E、Y7A/P36H/H147E、Y7A/P36R/H147E、Y7A/V93K/H147E、Y7A/V93R/H147E、P36H/N210D、P36K/N210D、P36R/N210D、V93K/N210D、V93R/N210D、Y7A/P36R/N210D、Y7A/V93K/N210D、Y7A/V93R/N210D、P36H/I142R、P36R/I142R、V93K/I142R、V93R/I142R、Y7A/P36H/I142R、Y7A/P36R/I142R、P36H/D141A/E143A、P36R/D141A/E143A、V93K/D141A/E143A、V93R/D141A/E143A、Y7A/P36H/D141A/E143A、Y7A/P36R/D141A/E143A)でも同様に2.5%糞便が含まれる反応系で増幅を確認し、dUTP存在下でもしっかりとしたバンドが確認できた。
【0117】
またPCNAも、KOD−PCNA M73L/E143R、M73L/R82A/E143A、M73L/R109A/E143A、Pfu−PCNA M73L/D143R、M73L/D147A、M73L/R82A/D143A、M73L/R109A/D143Aの変異体で、同様の反応を行い、PCNA添加なしに比べPCR効率の向上が確認できた。
【0118】
Pfu DNAポリメラーゼ変異体でも同様に2.5%糞便が含まれる反応系で増幅を確認し、P36H、V93R、Y7A/P36H、Y7A/V93Kの変異体で、dUTP存在下でもしっかりとしたバンドが確認できた。
【0119】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によって、DNA精製の際のロスやキャリーオーバーの危険性をなくし、さらに時間・コストを削減することができる。また、ファミリーBに属するポリメラーゼを使用することで正確に遺伝子を増幅することができる。この手法は研究分野だけでなく、遺伝子診断などの臨床分野もしくは法医学分野、あるいは食品や環境中の微生物検査等においても広く利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]