(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記既設コンクリート床版は、前記既設主桁に近づくにつれて厚さが厚くなるハンチ部を有しており、前記既設コンクリート床版の部位のうち、前記既設主桁の上フランジの上方に位置して該上フランジに近接する部位および前記ハンチ部からなる増厚部に前記削孔部を設けることを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート床版の撤去方法。
【背景技術】
【0002】
橋梁の床版は、橋梁を通行する車両等の荷重を直接的に支持する部材であり、橋梁の高齢化に伴う経年劣化等によりその損傷が問題となっており、既設コンクリート床版を新設の床版に取り替える事例が増加している。
【0003】
一方、既設コンクリート床版を取り替える際には橋面を一時交通規制する必要があり交通に影響を与えるため、交通規制期間の抑制が重要な課題となっている。また、既設コンクリート床版を取り替える施工時における騒音の抑制など周辺環境への配慮も重要である。
【0004】
このため、橋梁の床版を取り替えるための要素技術として、橋面上での撤去作業を軽減することで交通規制期間を抑制でき、かつ撤去作業時の騒音を抑制できる既設コンクリート床版の撤去技術の開発が重要な課題となっている。
【0005】
図8は、既設のコンクリート床版を撤去するための従来の一般的な撤去方法を、橋梁100の既設コンクリート床版102の撤去に用いた際の状況を模式的に示す橋軸方向から見た鉛直断面図である。
【0006】
この従来の一般的な撤去方法においては、次の1〜3の手順のようにして橋梁100の既設コンクリート床版102の撤去を行う。
【0007】
1)既設コンクリート床版102の部位のうち、橋軸直角方向に隣り合う既設主桁104の間に位置し、かつ、既設主桁104の上フランジ104Aの上方に位置しない部位102Aをクレーン等の吊り上げ手段200で支持できる状態にした後、既設主桁104の上フランジ104Aの橋軸直角方向の両方の外側をコンクリートカッターで、橋軸方向に切断する(得られる切断面を
図8において鉛直切断面120として図示している。鉛直切断面120は橋軸方向に延びる鉛直面である。)とともに、クレーン等の吊り上げ手段200で吊り上げやすい大きさとなるように、コンクリートカッターで、既設コンクリート床版102を橋軸直角方向にも切断する(得られる切断面は橋軸直角方向に延びる鉛直面(図示せず)である。)。なお、本願において、「橋軸直角方向」とは、水平方向であって、かつ、橋軸方向と直交する方向のことを意味する。
【0008】
2)既設コンクリート床版102の部位のうち、橋軸直角方向に隣り合う既設主桁104の間に位置し、かつ、既設主桁104の上フランジ104Aの上方に位置しない部位102Aをクレーン等の吊り上げ手段200で吊り上げて撤去する。この段階で撤去する既設コンクリート床版102は、既設主桁104の上フランジ104Aの上方に位置しない部位102Aである。
【0009】
3)既設主桁104の上フランジ104Aの上面にはスラブアンカーやスタッドジベル等のずれ止めが溶植されているため、既設主桁104の上フランジ104Aの上方に位置する既設コンクリート床版102の部位102Bは、コンクリートブレーカー等を用いて手はつりで撤去する。
【0010】
この従来の一般的な撤去方法においては、既設主桁104の上フランジ104Aの橋軸直角方向の両方の外側をコンクリートカッターで橋軸方向に切断する必要があるため、コンクリートカッターを用いての橋面上での作業時間が長くなる。また、既設主桁104の上フランジ104Aの上方に位置する既設コンクリート床版102の部位102Bを手はつりで撤去する作業は、クレーン等を用いての撤去作業と比べて橋面上での作業時間を長く要する。
【0011】
このため、橋梁の床版を取り替える際に、従来の一般的な撤去方法を用いて既設コンクリート床版を撤去する場合、橋面上での作業に長時間を要し、交通規制の時間が長くなる。
【0012】
これに対して、特許文献1に記載の既設コンクリート床版の撤去方法は、取り替えられる位置の既設コンクリート床版における鋼桁ウェブを橋軸方向に沿って上下方向に切断して、既設コンクリート床版を鋼桁の上側ウェブごと撤去する。このため、既設コンクリート床版についての従来の一般的な撤去方法と比べて、橋面上での作業時間を大幅に短くすることが可能となっている。
【0013】
しかしながら、鋼桁ウェブを橋軸方向に沿って上下方向に切断すると既設主桁の断面性能が著しく低下することから、切断前に主桁を補強する必要がある。また、新設床版の架設時において、新設床版が鋼桁上フランジおよび鋼桁ウェブ上部と一体となっていることから、既設コンクリート床版撤去後に残った、上下方向に切断された既設の鋼桁ウェブとの接合精度の確保および位置調整が課題となる。
【0014】
また、特許文献2には、無端ダイヤモンドワイヤーソーでコンクリート床版の底面(ハンチ部)を水平方向に切断する橋梁コンクリート床版切断技術が開示されている。
【0015】
しかしながら、コンクリート床版のハンチ部を水平方向に切断する作業は、切断面が長尺な水平面をなすことから、極めて労力を要するとともに長時間にわたって騒音を発生する作業である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであって、既設主桁を切断することなく橋面上での撤去作業を軽減することができ、かつ、撤去作業時の騒音を抑制できる既設コンクリート床版の撤去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、以下の既設コンクリート床版の撤去方法により、前記課題を解決したものである。
【0019】
即ち、本発明に係る既設コンクリート床版の撤去方法の第1の態様は、既設コンクリート床版の部位のうち、既設主桁の上フランジに近接する部位を、略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向に削孔して削孔部を設ける削孔工程と、前記削孔工程で設けられた前記削孔部の内面に略上下方向に力を加えて前記既設コンクリート床版と前記既設主桁との縁切りをする縁切り工程と、前記縁切り工程で前記既設主桁との縁切りをされた前記既設コンクリート床版を上方に吊り上げる吊り上げ工程と、を有することを特徴とする既設コンクリート床版の撤去方法である。
【0020】
本発明に係る既設コンクリート床版の撤去方法の第2の態様は、既設コンクリート床版の部位のうち、既設主桁の上フランジに近接する部位に、略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向に切れ目を設ける切削工程と、前記切削工程で設けられた前記切れ目の少なくとも一部を含むように、前記既設コンクリート床版の部位のうち、前記既設主桁の上フランジに近接する部位を、略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向に削孔して削孔部を設ける削孔工程と、前記削孔工程で設けられた前記削孔部の内面に略上下方向に力を加えて前記既設コンクリート床版と前記既設主桁との縁切りをする縁切り工程と、前記縁切り工程で前記既設主桁との縁切りをされた前記既設コンクリート床版を上方に吊り上げる吊り上げ工程と、を有することを特徴とする既設コンクリート床版の撤去方法である。
【0021】
本発明に係る既設コンクリート床版の撤去方法の第3の態様は、既設コンクリート床版の部位のうち、既設主桁の上フランジに近接する部位を、略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向に削孔して削孔部を設ける削孔工程と、前記削孔工程で設けられた前記削孔部の少なくとも一部を含むように、前記既設コンクリート床版の部位のうち、前記既設主桁の上フランジに近接する部位に、略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向に切れ目を設ける切削工程と、前記削孔工程で設けられた前記削孔部の内面に略上下方向に力を加えて前記既設コンクリート床版と前記既設主桁との縁切りをする縁切り工程と、前記縁切り工程で前記既設主桁との縁切りをされた前記既設コンクリート床版を上方に吊り上げる吊り上げ工程と、を有することを特徴とする既設コンクリート床版の撤去方法である。
【0022】
本願において、縁切りとは、既設コンクリート床版の部位のうちの既設主桁の上フランジとの近傍の部位、または既設コンクリート床版と既設主桁の上フランジとの境界に、略水平方向に貫通する亀裂が生じて、既設コンクリート床版と既設主桁との一体性が失われることを意味する。ここで、前記亀裂は、既設コンクリート床版と既設主桁の上フランジとの境界に発生する剥離も含む概念である。
【0023】
前記既設コンクリート床版が、前記既設主桁に近づくにつれて厚さが厚くなるハンチ部を有している場合、前記既設コンクリート床版の部位のうち、前記既設主桁の上フランジの上方に位置して該上フランジに近接する部位および前記ハンチ部からなる増厚部に前記削孔部を設けることになる。
【0024】
本願において、既設コンクリート床版の増厚部とは、ハンチ部を有する既設コンクリート床版の部位のうち、既設主桁の上フランジの上方に位置して該上フランジに近接する部位およびハンチ部からなる部位のことであり、既設コンクリート床版の増厚部は、既設コンクリート床版の一般部よりも下方に突出するように設けられた部位である。既設コンクリート床版の一般部とは、ハンチ部を有する既設コンクリート床版の部位のうち、橋軸直角方向に隣り合う既設主桁の間に位置して版厚が略一定となっている部位ならびに該部位を床版面と平行な方向であって、かつ、橋軸方向と直交する方向に移動させた部位に相当する増厚部の上方の部位のことである。なお、本願において、ハンチ部とは、既設コンクリート床版の部位のうち、既設主桁に近づくにつれて厚さが厚くなる部位のことであり、橋軸方向から見て断面が三角形状になっている部位のことである。
【0025】
前記削孔工程で設ける前記削孔部を、前記既設主桁の上フランジに溶植されたずれ止めを切断するように設けることが好ましい。
【0026】
前記縁切り工程によって縁切りをされて生じた隙間から、前記既設主桁の上フランジに溶植されたずれ止めを切断する切断工程を、前記縁切り工程と前記吊り上げ工程との間にさらに有するようにしてもよい。
【0027】
なお、本願においては、縁切り工程によって縁切りをされて生じた隙間のことを縁切り部と称することがある。
【0028】
前記削孔工程で設けられた前記削孔部に、略上下方向に拡径可能な拡径手段を挿入して、該拡径手段を略上下方向に拡径させることにより、前記縁切り工程において前記削孔部の内面に略上下方向に力を加えるようにしてもよい。
【0029】
前記拡径手段は、油圧式せり矢または打撃式せり矢であることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、既設コンクリート床版の撤去に際して、既設主桁を切断することなく橋面上での作業を軽減することができ、かつ、撤去作業時の騒音を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明の実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法を橋梁10の既設コンクリート床版12の撤去に適用する場合について説明する。
【0033】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法を実施中の状況を模式的に示す橋軸方向から見た鉛直断面図である。
【0034】
図2は、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法における削孔工程で略橋軸直角方向に削孔部を設けた後の状況を模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図(
図1のII−II線断面図)であり、
図3は、同じく前記状況を模式的に示す橋軸方向から見た鉛直断面図である。
【0035】
図4は、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法における縁切り工程で削孔部の内面に略上下方向に力を加えている状況を模式的に示す橋軸直角方向から見た鉛直断面図(
図1のII−II線断面図)であり、
図5は、同じく前記状況を模式的に示す橋軸方向から見た鉛直断面図である。
【0036】
本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法の各工程(削孔工程、床版分割工程、縁切り工程、および吊り上げ工程)を順に説明した後に、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法の効果について説明する。
【0037】
本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法を適用して撤去する橋梁10の既設コンクリート床版12は、
図3に示すように、増厚部12Aと一般部12Bとを有してなる。既設コンクリート床版12の増厚部12Aは、既設コンクリート床版12の部位のうち、既設主桁14の上フランジ14Aの上方に位置して上フランジ14Aに近接する部位および既設主桁14に近づくにつれて厚さが厚くなるハンチ部12Cからなる部位のことであり、既設コンクリート床版12の増厚部12Aは、既設コンクリート床版12の一般部12Bよりも下方に突出するように設けられた部位である。既設コンクリート床版12の一般部12Bは、既設コンクリート床版12の部位のうち、橋軸直角方向に隣り合う既設主桁14の間に位置して版厚が略一定となっている部位ならびに該部位を床版面と平行に、かつ、橋軸方向と直交する方向に移動させた部位に相当する増厚部12Aの上方の部位のことである。
【0038】
(1−1)削孔工程
削孔工程では、既設コンクリート床版12の部位のうち、既設主桁14の上フランジ14Aに近接する部位である増厚部12Aの下端部付近を略橋軸直角方向(略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向)に削孔して、削孔部20を設ける。削孔部20は、略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向に延びる孔である。既設コンクリート床版12の部位のうち、既設主桁14の上フランジ14Aに近接する部位(削孔部20を設ける部位)は、
図3に示すように、既設コンクリート床版12の増厚部12Aに含まれる部位である。
【0039】
設ける削孔部20の大きさ(内径の大きさ)は、用いる拡径手段40(
図5参照)の大きさに合わせて決めればよく、また、設ける削孔部20のピッチは、用いる拡径手段40の出力可能な力の大きさ等を勘案して決めればよい。
【0040】
削孔部20は、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りを行いやすくする点で、増厚部12Aを略橋軸直角方向に貫通する貫通孔とすることが好ましいが、拡径手段40を十分に挿入でき、かつ、拡径手段40を略上下方向に拡径させることにより、削孔部20の内面に略上下方向に十分に力を加えることができて、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りを安全に行えるのであれば、必ずしも貫通孔としなくてもよい。
【0041】
削孔部20は、コンクリートのコア抜き用の工具を用いて設けることができ、この場合、削孔部20は円柱状の孔となる。
図2〜
図5に示すように、本実施形態では削孔部20を円柱状の貫通孔としているが、削孔部20の形状は円柱状に限定されるわけではなく、例えば多角柱状の孔にしてもよい。
【0042】
なお、後述する縁切り工程において、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りをスムーズに行うことを可能とするとともに、後述する吊り上げ工程において、既設コンクリート床版12をスムーズに吊り上げることを可能とする観点から、上フランジ14Aの上面に溶植されたずれ止め24の位置を事前に確認しておき、ずれ止め24を切断するように削孔部20を設けることが好ましい。
【0043】
(1−2)床版分割工程
撤去する既設コンクリート床版12を、橋軸方向の幅が所定の幅(吊り上げ手段50で吊り上げやすい幅)となるように、必要に応じて、コンクリートカッター等で既設コンクリート床版12を橋軸直角方向に切断して鉛直切断面30(
図4参照)を設けて、橋軸方向に分割する。
【0044】
また、撤去する既設コンクリート床版12の重量が大きくなりすぎ、吊り上げ手段50で安全に吊り上げることができない場合は、地覆16および高欄18は、例えばワイヤーソーイング工法等を用いて切除して、吊り上げ手段50で吊り上げる既設コンクリート床版12の重量を、安全に吊り上げることができる重量にまで軽減する。
【0045】
なお、床版分割工程は吊り上げ手段50の能力や撤去現場の状況等に応じて行う工程であり、通常は床版分割工程を行うが、既設コンクリート床版12の分割を行わなくても、撤去する既設コンクリート床版12を吊り上げ手段50で安全に吊り上げて撤去することができるのであれば、床版分割工程は行わなくてもよい。
【0046】
(1−3)縁切り工程
縁切り工程では、まず、削孔部20に拡径手段40を挿入する。拡径手段40を挿入する際には、拡径手段40の拡径方向が略上下方向となるようにする。拡径手段40は、
図5において、二点鎖線で記載している。
【0047】
削孔部20の所定の位置に拡径手段40を挿入した後、拡径手段40を略上下方向に拡径させて、削孔部20の内面に略上下方向の力42を加えて、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りを行う。略上下方向の力42は、
図4および
図5において、削孔部20の内面を始点とする矢印で模式的に表現している。
【0048】
ただし、安全上の観点から、拡径手段40を略上下方向に拡径させて前記縁切りを行う前に、既設コンクリート床版12をクレーン等の吊り上げ手段50で支持できる状態にしておくことが望ましい。
【0049】
用いる拡径手段40は、削孔部20に挿入可能な大きさであり、かつ、削孔部20の内面に略上下方向に十分に力を加えることができて、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りを安全に行えるものであれば使用可能である。
【0050】
具体的には、例えば、油圧式せり矢または打撃式せり矢を用いることができる。油圧式せり矢を用いた場合、縁切り工程において騒音が発生することはほとんどないので、都市部の橋梁に対して本実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法を適用する場合、油圧式せり矢を用いることが好ましい。なお、打撃式せり矢を用いた場合でも、従来技術(例えば特許文献2に記載の技術)と比べて、騒音の発生量は少なくなる。
【0051】
削孔部20は既設コンクリート床版12の増厚部12Aに設けられており、既設主桁14に設けられているわけではない。このため、削孔部20に挿入した拡径手段40を上下方向に拡径させて、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りをする際に生じる隙間(縁切り部22)は、既設コンクリート床版12の増厚部12Aに生じるか、あるいは既設コンクリート床版12の増厚部12Aと既設主桁14の上フランジ14Aとの境界に生じるので、どちらの場合であっても既設主桁14に損傷を与えることはほとんど考えられない。
【0052】
なお、既設主桁14の上フランジ14Aの上面にはスラブアンカーやスタッドジベル等のずれ止め24が溶植されているため、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りを行っても、吊り上げ手段50で吊り上げるだけでは、既設コンクリート床版12を安全に吊り上げることができない場合も想定される。
【0053】
これを避けるため、既設コンクリート床版12を吊り上げる前に(吊り上げ工程の前に)、縁切り工程で縁切りされて生じた隙間(縁切り部22)からずれ止め24を切断する切断工程を、必要に応じて設けることが好ましい。縁切り部22からずれ止め24を切断する際には、例えば、ガス切断等の切断手段を用いることができる。
【0054】
(1−4)吊り上げ工程
吊り上げ工程では、前記縁切り工程で既設主桁14との縁切りをされた既設コンクリート床版12を吊り上げ手段50で上方に吊り上げて、運搬用のトラック等に積み込む。
【0055】
既設主桁14との縁切りをされた既設コンクリート床版12を安全に吊り上げることができるのであれば、吊り上げ手段50は特には限定されず、例えばクレーン等を用いることができる。
【0056】
既設コンクリート床版12の上面に敷設された舗装80は、そのまま既設コンクリート床版12とともに吊り上げて撤去する。
【0057】
ただし、既設コンクリート床版12を撤去した後、既設主桁14の上フランジ14Aの上面に小さなコンクリート片が残る可能性があり、この場合は、既設主桁14の上フランジ14Aの上面に残ったコンクリート片を手作業等にて除去する。この手作業等による除去は、従来必要とされていたコンクリートブレーカー等による手はつり作業と比較して容易であり大幅に短い作業時間で完了することができる。
【0058】
既設コンクリート床版12を撤去した後に既設主桁14の上フランジ14Aの上面にコンクリート片が残る場合でも、そのコンクリート片の量を少なくする観点から、既設主桁14の上フランジ14Aの上面にできるだけ近い位置に削孔部20を設けることが好ましい。一方、既設主桁14の上フランジ14Aの上面にできるだけ近い位置に削孔部20を設けようとすると、既設主桁14の上フランジ14Aを削孔工程で傷つける可能性が大きくなるので、その点については十分に留意する必要がある。
【0059】
また、既設主桁14の上フランジ14Aの上面に残ったスタッドジベルやアンカー筋等のずれ止めはガス切断器等で切断して撤去する。
【0060】
(1−5)効果
本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法では、削孔工程で設けた削孔部20に拡径手段40を挿入して略上下方向に拡径させて、削孔部20の内面に略上下方向の力42を加えて、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りをするので、従来の一般的な撤去方法のように既設コンクリート床版12を橋軸方向に切断しなくても(橋軸方向に延びる鉛直切断面を設けなくても)既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁が切れている。このため、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法では、橋軸直角方向に一体となった状態のまま(既設コンクリート床版12を既設主桁14の上フランジ14Aの上方に位置する部位と位置しない部位とに切り離さない状態のまま)、既設コンクリート床版12を吊り上げ手段50で吊り上げて撤去することができる。また、舗装80も、既設コンクリート床版12の上面に敷設されたままの状態で、既設コンクリート床版12とともに撤去することができる。
【0061】
このため、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法では、既設コンクリート床版12を切断する箇所(鉛直切断面を形成する箇所)を少なくすることができ、かつ、既設主桁14の上方に位置する既設コンクリート床版12の部位を手はつりで撤去する作業も不要となるか、あるいは手作業等による作業が必要となっても従来と比べて大幅に短い作業時間で完了することができる。
【0062】
また、縁切り工程によって生じる隙間(縁切り部22)は、既設コンクリート床版12の増厚部12Aに生じるか、あるいは既設コンクリート床版12の増厚部12Aと既設主桁14の上フランジ14Aとの境界に生じるので、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りをする際に既設主桁14に損傷を与えることはほとんど考えられない。
【0063】
したがって、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法を用いることにより、既設コンクリート床版の撤去に際して、既設主桁を切断することなく橋面上での作業を軽減することができ、かつ、撤去作業時の騒音を抑制できる。
【0064】
既設コンクリート床版の撤去の際の橋面上での作業時間を短くすることができるので、橋梁の床版を取り替える際に本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法を用いることにより、交通規制の時間も短くすることができる。
【0065】
(2)第2実施形態
本発明の第2実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法について説明するが、第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法の説明で付した符号の対象と同様の対象には同一の符号を用い、説明は省略する。
【0066】
本発明の第2実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法は、削孔部20を設ける削孔工程の前に、既設コンクリート床版12の部位のうち、既設主桁14の上フランジ14Aに近接する部位である増厚部12Aの下端部付近に、略橋軸直角方向(略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向)に切れ目60を設ける切削工程を設けている。この切削工程において、切れ目60は、略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向に10cm程度の深さで設け、橋軸方向に延びるように設ける。既設コンクリート床版12の部位のうち、既設主桁14の上フランジ14Aに近接する部位(切れ目60を設ける部位)は、
図6に示すように、既設コンクリート床版12の増厚部12Aに含まれる部位である。
【0067】
切れ目60は、例えば
図6に示すように、切断機62のウォールソー64を用いて設けることができる。切断機62は既設主桁14に取り付けることができ、具体的には例えば、既設主桁14の垂直補剛材14Bに取り付けてもよい。
【0068】
本第2実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法においては、
図7(A)に示すように、既設コンクリート床版12の増厚部12Aに、ウォールソー64等により切れ目60を設けた後、
図7(B)に示すように、既設コンクリート床版12の増厚部12Aに、切れ目60の少なくとも一部を含むように削孔部20を設ける。そして、
図7(C)に示すように、拡径手段40を削孔部20に挿入して、拡径手段40を略上下方向に拡径させて、削孔部20の内面に略上下方向の力42を加えて、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りを行う。
図7(C)において、符号70は、前記のように縁切りを行うことによって生じた亀裂を示す。
【0069】
本第2実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法においては、増厚部12Aの下端部付近に、削孔部20だけでなく切れ目60を設けているので、削孔部20に挿入した拡径手段40を略上下方向に拡径させて、削孔部20の内面に略上下方向の力42を加えて、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りを行う際、縁切りがスムーズに進行しやすくなっている。切れ目60は、既設コンクリート床版12と既設主桁14との縁切りの先導となる。
【0070】
本第2実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法においては、削孔工程の前に切れ目60を設ける切削工程を追加して設けていること以外は、第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0071】
(3)第3実施形態
本発明の第3実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法について説明するが、第1および第2実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法の説明で付した符号の対象と同様の対象には同一の符号を用い、説明は省略する。
【0072】
本発明の第2実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法においては、削孔部20を設ける削孔工程の前に、切れ目60を設ける切削工程を行うが、本発明の第3実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法においては、削孔部20を設ける削孔工程の後に、切れ目60を設ける切削工程を行う。
【0073】
本第3実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法においては、まず、第1実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法と同様に、既設コンクリート床版12の部位のうち、既設主桁14の上フランジ14Aに近接する部位である増厚部12Aの下端部付近を略橋軸直角方向(略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向)に削孔して、削孔部20を設ける。そして、設けた削孔部20の少なくとも一部を含むように、既設コンクリート床版12の部位のうち、既設主桁14の上フランジ14Aに近接する部位に、略橋軸直角方向(略水平方向であって、かつ、橋軸方向と略直交する方向)に切れ目60を設ける。
【0074】
本第3実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法においては、切れ目60を設けた後の工程は、第2実施形態に係る既設コンクリート床版の撤去方法と同様であるので、重複する説明は省略する。