特許第6493428号(P6493428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493428
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】高透磁率磁性シート
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20190325BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20190325BHJP
   H05K 9/00 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   H01F1/147 191
   H01F1/22
   !H05K9/00 H
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-32393(P2017-32393)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2018-22869(P2018-22869A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2018年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-145593(P2016-145593)
(32)【優先日】2016年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松川 篤人
(72)【発明者】
【氏名】本荘 良浩
(72)【発明者】
【氏名】松橋 光浩
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−108775(JP,A)
【文献】 特開2010−196123(JP,A)
【文献】 特開2009−266960(JP,A)
【文献】 特開2007−287840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12−1/37
H05K 9/00
C22C 38/00
B22F 1/00−3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が重量%で9.3≦Si≦9.7、5.73≦Al≦6.05、残りFeからなり、アスペクト比が20以上50以下、50%粒子径D50が50μm以上100μm以下、保磁力Hcが59A/m以下のFe−Si−Al合金扁平粉を、36体積%以上充填した磁性シートであって、1MHzで測定した透磁率μ´の温度特性が、0℃以上40℃以下に極大値を示すことを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
9.40≦Si≦9.65である請求項1に記載の磁性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タブレット端末画面上での入力方式の一つである電磁誘導方式デジタイザを搭載したペンタブレット向け磁性シートとして好適な高透磁率磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレットPC等の携帯端末における入力方式として、画面上に指等でタッチして入力を行うタッチパネルがその直感的な操作性の良さから普及しているが、ペンにより文字入力や描画等が可能な入力方式も携帯端末に搭載されてきており、代表的なものとして電磁誘導方式デジタイザ(ペンタブレット)がある。これは電子ペンのコイルとデジタイザ本体のアンテナコイルとがトランスの一次と二次のように磁気的に結合していることが特徴だが、この結合に他からの磁気ノイズ(ノイズ源としてバックライト用インバータ回路や電源回路のDC−DCコンバータなど)が入ると誤作動や不具合が生じてしまい、ペン入力における感度が低下する。
この対策として、アンテナコイルとノイズ源との間に磁性シートを配置すると磁気的シールド効果が十分に得られることに加えて、電子ペンと磁束をやりとりする経路の役目も備わる利点がある。
【0003】
上記ペンタブレット端末におけるペン入力感度を向上させるには、磁性シートとして透磁率μ´と厚さtの積(μ´×t)を大きくすることが必要となる。その一方で端末の薄型軽量化の要求により磁性シート等の部材厚さもできるだけ小さいことが必要となるため、磁性シートとして透磁率μ´を高くすることが要求される。
【0004】
磁性シートの透磁率μ´を高めるための従来技術としては、熱プレスなどの後工程を追加し、磁性材料の充填率を大きくすることが知られているが、コストアップは避けられない。
【0005】
扁平状軟磁性材料の透磁率を上げる従来技術としては、特許文献1にはアスペクト比が20以上、50%粒子径D50が50μm以上であり、扁平粉のD50(μm)、保磁力Hc(A/m)、かさ密度BD(Mg/m)が、D50/(Hc×BD)≧1.5の関係を満たすものが開示されている。
また、特許文献2には、実質的に軟磁性合金粉末と結合剤からなる複合磁性体であって、前記軟磁性粉末は少なくとも表面が酸化され、扁平状の形状を有し、Tcを管理することで、表面酸化による組成ずれをあらかじめ補う技術が開示されている。
さらに、特許文献3には、Fe−Al−Si合金を用いた圧粉コアにおいて、コア損失の温度係数を負にするために、磁歪定数が正の組成を用いる技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2009−266960
【特許文献2】特開平10−79302
【特許文献3】特開平11−260618
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に従うと、透磁率μ´が200のものは得られるものの、ペンタブレット用磁性シートに要求される220以上の値を得るには十分ではない。
また、特許文献2に記載の、扁平粉のTcによる組成管理では、Fe組成の割合は推定できても、SiとAlそれぞれの組成を推定することが困難である。
さらに、特許文献3に記載のFe−Al−Si合金の組成範囲は、圧粉コアの温度特性改善を目的としているため、扁平粉を用いる磁性シートとしては広すぎる問題がある。
【0008】
そこで、本発明は扁平状軟磁性材料の透磁率を上げる技術として、磁性シートのμ´の温度特性に着目し、ペンタブレット用磁性シートとして透磁率μ´が十分高い磁性シートを安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁性シートは、
組成が重量%で9.3≦Si≦9.7、5.7≦Al≦6.1、残りFeからなりアスペクト比が20以上50以下、50%粒子径D50が50μm以上100μm以下、保磁力Hcが60A/m以下のFe−Si−Al合金扁平粉を、36体積%以上充填した磁性シートであって、1MHzで測定した透磁率μ´の温度特性が、0℃以上40℃以下に極大値を示すことを特徴とする磁性シートとする(以後、μ´は1MHzで測定した値とする)。
【0010】
上記条件を満足することによって、熱プレスなどの後工程なしに、透磁率が十分に高いペンタブレット用磁性シートを作製することができる。
【0011】
本発明の磁性シートは9.40≦Si≦9.65であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱プレスなどの後処理なしに高透磁率磁性シートが得られるためペンタブレットに用いられる高透磁率磁性シートを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】扁平粉のHcと磁性シートのμ´(23℃)の関係を示すグラフである。
図2】磁性シートの充填率とμ´(23℃)の関係を示すグラフである。
図3】扁平粉を用いた磁性シートと原料粉を用いた圧粉コアのμ´の温度特性を示すグラフである。
図4】実施例1〜4,比較例1,2の原料組成と特許請求範囲、及び結晶磁気異方性定数K=0、飽和磁歪定数λ=0のラインを示すグラフである。
図5】Fe−Si−Al合金のSi組成と磁性シートのμ´(23℃)の関係を示すグラフである。
図6】実施例1〜4及び比較例1,2のμ´の温度特性を示すグラフである。
図7】Si組成とμ´のピーク温度の関係を示すグラフである。
図8】実施例2〜8及び比較例3〜7のアスペクト比とμ´(23℃)の関係を示すグラフである。
図9】実施例3、7、8及び比較例4のμ´の温度特性を示すグラフである。
図10】実施例1、2、9、10、比較例8、9の原料組成と特許請求範囲、及び結晶磁気異方性定数K=0、飽和磁歪定数λ=0のラインを示すグラフである。
図11】Fe−Si−Al合金のAl組成と磁性シートのμ´(23℃)の関係を示すグラフである。
図12】扁平粉のD50と扁平粉のHc及び磁性シートのμ´の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<扁平状軟磁性材料>
本実施形態の扁平状軟磁性材料(以下、場合により「扁平粉」という)は、組成が重量%で9.3≦Si≦9.7、5.7≦Al≦6.1、残りFeからなり、アスペクト比が20以上50以下,50%粒子径D50が50μm以上100μm以下、保磁力Hcが60A/m以下である。
【0015】
センダストの中心組成はSi=9.6wt%、Al=5.4wt%、残りFeからなり、この組成付近で常温での結晶磁気異方性定数K=0,飽和磁歪定数λ=0が同時に達成され、高透磁率が得られるとされている。
【0016】
ところが、Fe−Si−Al合金を扁平化すると、比表面積の増大により表面酸化され、扁平化で生じた歪を除去するために熱処理すると、熱力学的に安定なSi,Alの酸化物が優先的に生じ、組成の偏析が起こる。その結果、扁平粉の合金組成が変化すると考えられている。
【0017】
本発明者らは、詳細な実験の結果、原料組成を9.3≦Si≦9.7、5.7≦Al≦6.1、残りFeとすることを見出した。さらに、原料組成を9.40≦Si≦9.65、5.7≦Al≦6.1、残りFeとすることで、偏平粉の合金組成が最適化されることを見出した。特に、9.40≦Si≦9.65を満たす場合には、1MHzで測定した透磁率μ´の温度特性が良好になることを見出した。
【0018】
扁平粉の形状および特性は、アスペクト比が20以上50以下,50%粒子径D50が50μm以上100μm以下,保磁力Hcが60A/m以下になるようにする。
【0019】
アスペクト比が小さいと、反磁界が大きくなるため磁性シートの透磁率μ´は小さくなる。また、アスペクト比が大きいと、反磁界は小さくなるが、扁平粉のかさ密度が小さくなるため、これを磁性シートにしたときの充填率を大きくするのが困難となる。本発明者らはこのバランスから磁性シートの透磁率が最大になるアスペクト比は20〜50と考えている。
【0020】
扁平粉のD50が大きいほど保磁力Hcが小さくなるため、磁性シートのμ´は大きくなる。ただし、扁平粉のD50が100μmを超えると、厚さが50μm程度の磁性シートでは表面粗さが無視できなくなり、見かけ上の厚さが増すため充填率が低下し、磁性シートの透磁率は小さくなる。本発明者らは、扁平粉のD50は50μm以上100μm以下が最適と考えている。
【0021】
図1に扁平粉の保磁力Hcと磁性シートのμ´の関係を示す。保磁力Hcは小さいほど好ましいが、μ´が220程度の磁性シートでは60A/m以下であれば十分である。
【0022】
図2に磁性シートの充填率とμ´の関係を示す。充填率が大きいほど、磁性シートのμ´は高くなるため、充填率は大きいほど好ましい。充填率を大きくする方法としては、ロールプレスや熱プレスが知られているが、ロールプレスでは、扁平粉に応力が加わるためHcが増大する問題があり、熱プレスでは、Hcの増大なしに充填率を大きくできるものの、プレスの際にシートを裁断する必要があり、ロール製品とすることができない問題がある。また、いずれの方法でもコストアップする問題がある。
本発明によれば、プレスなしで得られる36体積%程度でも220程度のμ´を得ることができる。
【0023】
本発明者らが最も注目したのは、磁性シートのμ´の温度特性である。常温のμ´を高くするためには、μ´のピーク温度を0℃以上40℃以下にすればよいことが分かった。原料粉の温度特性は緩やかであるが、これを扁平化すると温度特性は大きくなる。
【0024】
一例として、図3に原料粉を用いた圧粉コアと扁平粉を用いた磁性シートのμ´の温度特性を示す。圧粉コアでは、μ´の温度変化は極めて小さいが、磁性シートでは大きくなる。
飽和磁歪定数λs≒0のとき、常温のμ´が大きくなると考えられるが、Si組成や扁平粉の物性を制御することでこれが可能になる。
【0025】
以下に本実施形態の扁平状軟磁性材料の作製方法の一例を記載する。
【0026】
上記扁平状軟磁性材料は、軟磁性合金粉末を扁平化処理することで作製することができる。
【0027】
軟磁性合金粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法又はガス噴霧水アトマイズ法などのアトマイズ法で作製するのが簡便である。本発明においては、D50が大きくHcが小さな扁平粉が得られやすいことから、ガスアトマイズ法で製造された軟磁性合金粉末を用いることが好ましい。原料組成は重量%で9.3≦Si≦9.7、5.7≦Al≦6.1、残りFeとする。組成分析方法は、精度が高ければ問題ないが、本実施例ではSiは重量法、AlはICP法とした。
【0028】
軟磁性合金粉末は、不活性雰囲気中で熱処理することが好ましい。熱処理することで結晶粒径が大きくなり、D50が大きくHcが小さな扁平粉が得られやすくなる。また、Ar雰囲気などの不活性雰囲気中で熱処理することで、酸化、窒化を防ぐことができる。
ただし、熱処理温度が低いと結晶粒成長しないか又は長時間を要し、熱処理温度が高いか保持時間が長いと、軟磁性合金粉末が激しく凝集又は焼結してしまうため、扁平化処理が困難になる。
【0029】
次に、上記熱処理粉末を扁平化する。
扁平化方法は、特に制限はなく、例えば、アトライタ、ボールミル、振動ミル等を用いて行なうことができる。中でも、ボールミルや振動ミルに比べ、短時間で処理できるアトライタを用いることが好ましい。また、扁平化処理は有機溶媒を用いて湿式で行なうことが好ましい。
【0030】
有機溶媒を添加することにより脆い軟磁性合金粉末を用いた場合でも、その粒子径が大きく、十分に扁平化された扁平粉を高い歩留りで作製できる。
【0031】
上記有機溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、アセトン、メタノール及び炭素数2〜4の1価アルコールを用いることができる。
【0032】
有機溶媒の添加量は、熱処理粉末100質量部に対して、200〜2000質量部であることが好ましく、500〜1000質量部であることがより好ましい。有機溶媒の添加量が200質量部未満では、扁平粉の粒径が小さくなる傾向があり、2000質量部を超えると、処理時間が長くなり生産性が低下する。
【0033】
扁平粉の粒径を大きくするために、有機溶媒と共に扁平化助剤を用いてもよい。扁平化助剤としては、例えば、ステアリン酸等の脂肪酸を好適に用いることができる。扁平化助剤の添加量は、熱処理粉末100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部であることがより好ましい。扁平化助剤の添加量が5質量部を超えても扁平粉の粒径はそれ以上大きくならない上に、有機溶媒の回収利用が困難になり、熱処理炉の汚染が激しくなる。また、有機溶媒として炭素数2〜4の1価アルコール類を使用した場合、扁平化助剤を添加しなくても粒径の大きな扁平粉が得られる。
【0034】
扁平化時間は、アスペクト比が20以上50以下になる時間とする。扁平粉のアスペクト比が大きくなるにつれ、かさ密度BDは小さくなるため、アスペクト比の代用特性として、扁平粉のかさ密度BDを用いることができる。経験上センダスト組成でアスペクト比が20〜50になるかさ密度BDは、0.15〜0.50Mg/mである。かさ密度BDは、JIS K−5101に準拠する方法でカサ比重測定器を用いて測定することができる。
【0035】
扁平粉の50%粒子径D50及びアスペクト比は、次の方法で測定した値とする。
50はフランホーファーの回折理論を利用したレーザー回折式の粒度分布測定装置により測定し、体積分布の積算で50%になるときの粒径とする。本実施例では、乾式分散ユニットを有するSympatec社製、商品名「HELOS&RODOS」を用いた測定値とした。
【0036】
アスペクト比は扁平粉を樹脂埋め後、研磨面と垂直な方向の磁束を有する磁石の上で硬化し、鏡面加工後、断面をSEMで観察した20点の扁平粉の厚さの平均値tを用いて「D50/t」の値とした。
【0037】
扁平化処理後、得られた扁平状軟磁性材料を不活性雰囲気中で熱処理し、保磁力Hcを60A/m以下にする。熱処理温度は高い方が好ましいが、900℃を超えると凝集又は焼結し、シート化が困難になる。保持時間は積載量により選択するが、積載位置によらず所定の温度に到達する時間とする。保磁力Hcは市販のHcメーター(本実施例では、東北特殊鋼株式会社製、商品名「K−HC1000」)を用いて測定することができる。
<磁性シート>
【0038】
磁性シートは、上記扁平状軟磁性材料を用いて作製する。本発明の磁性シートの作製方法について一例を示すと次のようになる。
【0039】
扁平状軟磁性材料とバインダーとしてポリウレタン樹脂、希釈溶剤としてトルエン、キシレン、酢酸ブチル等から選択される溶剤と、メチルエチルケトン等の溶剤との混合溶剤を含む磁性塗料を混練する。混練方法は特に限定されないが、本実施例ではプラネタリーミキサーを用いた。混練終了直前に硬化剤としてイソシアネート化合物を加え、最後に真空脱泡し塗料に含まれる気泡を除去する。
【0040】
バインダーの配合比は、扁平状軟磁性材料100重量部に対し、好ましくは8重量部以上22重量部以下の範囲内に、さらに好ましくは8重量部以上18重量部以下の範囲内に設定される。
【0041】
硬化剤の添加量は、バインダー100重量部に対して5重量部以上30重量部以下の範囲内に、さらに好ましくは10重量部以上20重量部以下の範囲内に設定される。
【0042】
希釈溶剤の添加量は、塗料粘度が一定範囲になるように調整する。塗料粘度の範囲は400〜1500mPa・sが好ましい。塗料粘度が400mPa・s未満であると、塗布直後に行なう磁場配向の痕跡が残りやすく、塗料粘度が1500mPa・sを超えると、乾燥後のシート表面に凹凸が残りやすく外観が悪くなる。
【0043】
上記磁性塗料をドクターブレード法でベースフィルム上に所定の厚さで塗布し、磁場配向後、乾燥する。ベースフィルムは特に限定されないが本実施例では厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
【0044】
磁場配向後のシートを乾燥する。乾燥方法は自然乾燥でも加熱による強制乾燥でも良いが、充填率アップのためには自然乾燥が好ましい。
【0045】
乾燥後の磁性シートは、扁平粉の充填率及び磁気特性により評価する。充填率は扁平粉の真密度を7.0Mg/mとし、磁性シートを外径18mm、内径10mmの金型を用いてロット毎に6枚ずつトロイダル形状に打ち抜き、1枚ずつその重量とスピンドル径が6mmのマイクロメーターを用いて測定した厚さから密度を求め、バインダーの混合量、密度を考慮して体積%として算出した。
【0046】
磁気特性は上記トロイダル形状の試料を6枚重ねてインピーダンスアナライザ(Agilent Technologies社製、商品名「E4991A」)と付属のテストフィクスチャー(16454A)を用いて1ターン法で測定した。
【0047】
また、μ´の温度特性は、上記トロイダルを10枚重ねて、上下を厚紙で保護し、直径0.2mmの被覆銅線を20ターン巻き、恒温槽内に配置後、インピーダンスアナライザ(YOKOGAWA・HEWLETT・PACKARD社製、商品名「4192A LF IMPEDANCE ANALYZER」)を用いて1MHzの周波数で測定した。測定値は、巻線の浮遊容量の影響で2割程度大きくなっているため、相対値の比較になる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1〜4及び比較例1、2)
【表1】
【0051】
表1に記載した原料組成と特許請求範囲、及び結晶磁気異方性定数K=0、飽和磁歪定数λ=0のラインを図4に示す。
【0052】
表1に記載した原料組成のFe−Si−Al合金をガスアトマイズ法で作製し、Ar雰囲気中1000℃で2時間処理し、熱処理粉末を得た。
熱処理粉末に対し、質量比で5.7倍のIPA(イソプロピルアルコール)を添加し、アトライタを用いて8時間扁平化処理を行い、扁平粉を得た。
扁平粉の熱処理は、Ar雰囲気中で800℃、2時間行った。
【0053】
熱処理後の扁平粉100質量部、バインダー樹脂(ポリウレタン樹脂)14質量部、硬化剤(イソシアネート化合物)2質量部、希釈剤(トルエン、MEK混合溶媒)150質量部を混合しスラリーを作製した。上記スラリーをPETフィルム上に塗布して、同極を対向させた磁場中を通すことで磁場配向を行い、磁性シート層を形成した。乾燥後、磁性シート層をPETフィルムから剥がし、得られた磁性シートの充填率及び磁気特性を評価した。磁性シートの厚さは特に限定されないが、本実施例では50μm程度になるように調整した。
【0054】
図5に、表1に記載した実施例1〜4、比較例1,2の原料のSi組成と磁性シートのμ´(23℃)の関係を示す。実施例1〜4は、μ´(23℃)は220を超える高い値が得られているが、比較例1,2はμ´(23℃)は220以下の低い値しか得られていない。
【0055】
図6に、表1に記載した実施例1〜4、比較例1,2の磁性シートのμ´の温度特性を示す。μ´(23℃)が大きな実施例1〜4のμ´の温度特性は、μ´のピーク温度が常温付近にあることが分かる。また、実施例1aおよび4aについても実施例1〜4と同様に好適な温度特性の挙動を示した。
【0056】
図7に、表1に記載した実施例1〜4、比較例1,2の原料のSi組成と磁性シートのμ´のピーク温度の関係を示す。Si組成の僅かな変化でμ´のピーク温度が大きく変化することが分かる。
【0057】
(実施例5〜8及び比較例3〜7)
表2に示すように、実施例2〜4と同じ原料組成で、扁平化時間の異なる扁平粉を作製した。扁平化時間が短いとアスペクト比が小さく、μ´のピーク温度が低下するため、請求項の範囲から外れることがある。
【0058】
【表2】
【0059】
図8に、表2に記載した実施例2〜8及び比較例3〜7の扁平粉のアスペクト比とμ´(23℃)の関係を示す。
扁平粉のアスペクト比が20〜50である実施例2〜8では、μ´(23℃)は220を超える高い値となるが、アスペクト比が20未満の比較例3〜5は、220以下の低い値にしかならない。また、扁平粉のアスペクト比は20〜50であるが、磁性シートのμ´のピーク温度が0℃未満の比較例6,7も、220以下の低い値にしかならない。
【0060】
図9に、アスペクト比の異なる扁平粉を用いた磁性シートのμ´の温度特性を示す。比較例4、実施例7,8,3の順に扁平粉のアスペクト比は大きくなるが、この順にμ´のピーク温度が高くなり、高温側のμ´が大きくなっている。
【0061】
(実施例9,10及び比較例8,9)
【表3】
【0062】
表3に記載した原料組成と特許請求範囲、及び結晶磁気異方性定数K=0、飽和磁歪定数λ=0のラインを図10に示す。
【0063】
表3に記載した原料組成のFe−Si−Al合金をガスアトマイズ法で作製し、Ar雰囲気中1000℃で2時間処理し、熱処理粉末を得た。熱処理粉末に対し、質量比で5.7倍のIPA(イソプロピルアルコール)を添加し、アトライタを用いて8時間扁平化処理を行い、扁平粉を得た。扁平粉の熱処理は、Ar雰囲気中で800℃、2時間行った。
【0064】
熱処理後の扁平粉100質量部、バインダー樹脂(ポリウレタン樹脂)14質量部、硬化剤(イソシアネート化合物)2質量部、希釈剤(トルエン、MEK混合溶媒)150質量部を混合しスラリーを作製した。上記スラリーをPETフィルム上に塗布して、同極を対向させた磁場中を通すことで磁場配向を行い、磁性シート層を形成した。乾燥後、磁性シート層をPETフィルムから剥がし、得られた磁性シートの充填率及び磁気特性を評価した。
【0065】
図11に、表3に記載した原料のAl組成と磁性シートのμ´(23℃)の関係を示す。実施例9,10は、請求項の組成を満たしており、μ´(23℃)は220を超える高い値が得られているが、比較例8,9は請求項の組成範囲から外れているためμ´(23℃)は220以下の低い値しか得られていない。
【0066】
(実施例11,12及び比較例10〜12)
【表4】
【0067】
表4は、実施例4の扁平粉をふるい分級し、評価した結果である。扁平粉のD50と扁平粉のHc及びシートのμ´の関係を図12に示す。
扁平粉の粒径が小さくなると、Hcが大きくなるため、シートのμ´は低下する。シートのμ´を220以上にするためには扁平粉の粒径を50μm以上にする必要がある。
一方、扁平粉の粒径が大きくなると、Hcは小さくなるもののシートの表面が粗くなりみかけ上の充填率が低下するため、シートのμ´は低下する。シートのμ´を220以上にするためには扁平粉の粒径を100μm以下にする必要がある。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12