特許第6493598号(P6493598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6493598調光装置、調光装置の管理方法、および、調光装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6493598
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】調光装置、調光装置の管理方法、および、調光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20190325BHJP
   E06B 9/24 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   G02F1/13 505
   E06B9/24 C
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-94150(P2018-94150)
(22)【出願日】2018年5月15日
【審査請求日】2018年6月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】東 祐輔
【審査官】 鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/066555(WO,A1)
【文献】 特開2017−223950(JP,A)
【文献】 特開平04−336531(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/041278(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/067640(WO,A1)
【文献】 特表2016−506539(JP,A)
【文献】 特開2017−128727(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0301237(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0177380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1334
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備えた調光シートを備え、
前記調光層は、前記駆動電圧が印加されていないときに前記第2状態であり、
JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、前記調光シートの透過像鮮明度であり、
前記調光層が前記第2状態であるときに、前記調光シートの透過像鮮明度が70%以下であり、
相互に異なる透過像鮮明度を前記駆動電圧に変換するための情報を用いて前記調光シートの不透明さを複数の階調で変更する制御部をさらに備える
調光装置。
【請求項2】
透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の配向層と、前記一対の配向層を挟む一対の透明電極層と、を備えた調光シートを備え、
前記調光層は、前記駆動電圧が印加されているときに前記第2状態であり、
JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、前記調光シートの透過像鮮明度であり、
記調光層前記第2状態であるときに、前記調光シートの透過像鮮明度が70%以下であり、
相互に異なる透過像鮮明度を前記透明電極層に印加する電圧に変換するための情報を用いて前記調光シートの不透明さを複数の階調で変更する制御部をさらに備える
調光装置。
【請求項3】
透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無
に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備えた調光シートを備え、
前記調光層は、前記駆動電圧が印加されていないときに前記第2状態であり、
前記調光層が前記第2状態であるときに、前記調光シートのクラリティ(clarity)が89.1%以下であり、
前記クラリティは、前記調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに入射した平行光の光軸に対して直進する直進光の光量を光量lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量lとするときに、以下の式(1)によって算出され
100×(l−l)/(l+l) … 式(1)
相互に異なるクラリティを前記駆動電圧に変換するための情報を用いて前記調光シートの不透明さを複数の階調で変更する制御部をさらに備える
調光装置。
【請求項4】
明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の配向層と、前記一対の配向層を挟む一対の透明電極層と、を備えた調光シートを備え、
前記調光層は、前記駆動電圧が印加されているときに前記第2状態であり、
記調光層前記第2状態であるときに、前記調光シートのクラリティ(clarity)が89.1%以下であり
前記クラリティは、前記調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに入射した平行光の光軸に対して直進する直進光の光量を光量lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量lとするときに、以下の式(1)によって算出され
100×(l−l)/(l+l) … 式(1)
相互に異なるクラリティを前記透明電極層に印加する電圧に変換するための情報を用いて前記調光シートの不透明さを複数の階調で変更する制御部をさらに備える
調光装置。
【請求項5】
前記調光層が前記第2状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した前記調光シートのヘイズ(haze)が、95%以上である
請求項1から4のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項6】
透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備える調光シートを備えた調光装置を管理する調光装置の管理方法であって、
JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、前記調光シートの透過鮮明度であり、
前記調光層が正常であるか否かを判定することを含み、
前記調光層が正常であると判定する条件に、前記調光層が前記第2状態であるときに、前記調光シートの透過鮮明度が70%以下であることを含む
調光装置の管理方法。
【請求項7】
透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備える調光シートを備えた調光装置を管理する調光装置の管理方法であって、
前記調光層が正常であるか否かを判定することを含み、
前記調光層が正常であると判定する条件に、前記調光層が前記第2状態であるときに、クラリティ(clarity)が89.1%以下であることを含み、
前記クラリティは、前記調光層を透過した光のなかで、前記調光層に入射した平行光の光軸に対して直進する直進光の光量を光量lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量lとするときに、以下の式(1)によって算出される
100×(l−l)/(l+l) … 式(1)
調光装置の管理方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の調光装置の管理方法を含む調光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光装置、および、調光装置の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光装置は、調光層と、調光層の厚さ方向において調光層を挟む一対の透明電極と、一対の透明電極間に電圧を印加する駆動回路とを備える。調光層は、複数のドメインを含むポリマーネットワークと、ポリマーネットワーク内に充填され、複数の液晶分子を含む液晶組成物とを含む。調光装置では、調光層に対して液晶分子を駆動する駆動電圧が印加されている状態であるか、あるいは、印加されていない状態であるかに応じて、調光層の状態が、透明の状態と白濁した状態との間で切り替わる。調光装置は、調光層の状態を透明な状態と白濁した状態との間で切り替えることによって、調光層を挟む2つの空間において、一方の空間から他方の空間に向けた像の視認性を変える。調光層が白濁した状態とは、調光層で光が散乱している状態であるから、調光層におけるヘイズ(JIS K 7136:2000)の値を用いて評価されていた(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−31870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、調光装置は、調光層が白濁した状態であることによって、一方の空間に存在する人物や物体などの被写体が他方の空間に存在する人物によって視認されることを抑える。つまり、調光装置は、一方の空間に存在する被写体のプライバシーを、他方の空間に存在する人物から保護することを本質的、根源的な機能として持つ。
【0005】
一方で、調光装置において、建物の窓、ドア、および、壁、車両のフロントドアガラス、車両のリアドアガラス、および、車両のサンルーフガラスなどの各種の対象に対する適用が検討されている。この場合、例えば、調光層が区画する空間での照明の輝度範囲が広がるため、高輝度の照明が配置されると、空間内に存在する被写体のプライバシーが保護され難くなる。また、例えば、調光層と被写体との間の距離の範囲が広がるため、調光層と被写体との距離が短い場合にも、空間内に存在する被写体のプライバシーが保護され難くなる。それゆえに、上述した調光装置では、調光層が白濁した状態においてさらに調光層を介した被写体の視認性を低くすることが望まれている。
【0006】
本発明は、濁った状態の調光層を介した被写体の視認性を低下させることを可能とした調光装置、および、調光装置の管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための調光装置は、透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備えた調光シートを備える。前記調光層は、前記駆動電圧が印加されていないときに前記第2状態である。JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、前記調光シートの透過像鮮明度である。そして、前記調光層が前記第2状態であるときに、前記調光シートの透過像鮮明度が70%以下である。
【0008】
上記課題を解決するための調光装置は、透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の配向層と、前記一対の配向層を挟む一対の透明電極層と、を備えた調光シートと、前記駆動電圧の印加の有無を切り替える駆動回路と、を備える。前記調光層は、前記駆動電圧が印加されているときに前記第2状態である。JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、前記調光シートの透過像鮮明度である。そして、前記駆動回路は、前記調光層を前記第2状態にするときに、前記調光シートの透過像鮮明度が70%以下となる前記駆動電圧を前記透明電極層に印加する。
【0009】
上記各構成によれば、調光層が濁った状態であるときに、調光シートの透過像鮮明度が70%以下であるため、調光層が濁った状態において調光シートを介した視認性を低下させることができる。
【0010】
上記課題を解決するための調光装置は、透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備えた調光シートを備える。前記調光層は、前記駆動電圧が印加されていないときに前記第2状態である。そして、前記調光層が前記第2状態であるときに、前記調光シートのクラリティ(clarity)が89.1%以下である。前記クラリティは、前記調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに入射した平行光の光軸に対して直進する直進光の光量を光量lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量lとするときに、以下の式(1)によって算出される。
100×(l−l)/(l+l) … 式(1)
【0011】
上記課題を解決するための調光装置は、駆動電圧を出力する駆動回路と、透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、前記駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の配向層と、前記一対の配向層を挟む一対の透明電極層と、を備えた調光シートを備える。前記調光層は、前記駆動電圧が印加されているときに前記第2状態である。そして、前記駆動回路は、前記調光層を前記第2状態とするときに、前記調光シートのクラリティ(clarity)が89.1%以下となる前記駆動電圧を前記透明電極層に印加する。前記クラリティは、前記調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに入射した平行光の光軸に対して直進する直進光の光量を光量lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量lとするときに、上記の式(1)によって算出される。
【0012】
上記各構成によれば、調光層が濁った状態であるときに、調光シートのクラリティが89.1%以下であるため、調光層が濁った状態において調光シートを介した視認性を低下させることができる。
【0013】
上記調光装置において、前記調光層が前記第2状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した前記調光シートのヘイズ(haze)が、95%以上であってもよい。上記構成によれば、調光シート越しに観察された被写体の輪郭における鮮明さを低下させることに加え、被写体と被写体の周りとのコントラストを低下させることもできる。それゆえに、調光層が第2状態である場合に、調光シートによる被写体の隠蔽性をより高めることができる。
【0014】
上記課題を解決するための調光装置の管理方法は、透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に従う液晶分子の配向の切り替えによって切り替える調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備える調光シートを備えた調光装置を管理する調光装置の管理方法である。JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、前記調光シートの透過率鮮明度である。そして、前記調光層が正常であるか否かを判定することを含み、前記調光層が正常であると判定する条件に、前記調光層が前記第2状態であるときに、前記調光シートの透過率鮮明度が70%以下であることを含む。
【0015】
上記課題を解決するための調光装置の管理方法は、透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に従う液晶分子の配向の切り替えによって切り替える調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備える調光シートを備えた調光装置を管理する調光装置の管理方法である。そして、前記調光層が正常であるか否かを判定することを含み、前記調光層が正常であると判定する条件に、前記調光層が前記第2状態であるときに、クラリティ(clarity)が89.1%以下であることを含む。前記クラリティは、前記調光層を透過した光のなかで、前記調光層に入射した平行光の光軸に対して直進する直進光の光量を光量lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量lとするときに、上記の式(1)によって算出される。
【0016】
上記各管理方法によれば、調光層が濁った状態であるときに、調光シートの透過像鮮明度が70%以下である、あるいは、クラリティが89.1%以下である。そのため、調光装置の製造段階や、調光装置の使用段階において、調光層が濁った状態において調光シートを介した視認性を低下させることが可能な調光装置を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る調光装置、および、調光装置の管理方法によれば、濁った状態の調光層を介した被写体の視認性を確実に低下させることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】調光装置の第1の構成において調光層に駆動電圧が印加されていない状態を示す断面図。
図2】調光装置の第1の構成において調光層に駆動電圧が印加されている状態を示す断面図。
図3】調光装置の第2の構成において調光層に駆動電圧が印加されていない状態を示す断面図。
図4】調光装置の第2の構成において調光層に駆動電圧が印加されている状態を示す断面図。
図5】透過像鮮明度の測定装置の構成を測定対象である調光装置とともに模式的に示す図。
図6】透過像鮮明度の測定装置において受光される光量のグラフ。
図7】クラリティの測定装置の構成を測定対象である調光装置とともに模式的に示す図。
図8】試験例における各調光装置のヘイズ、透過像鮮明度、および、クラリティの各々の値を示すグラフ。
図9】調光装置の隠蔽性を評価するときの評価方法を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から図9を参照して、調光装置、および、調光装置の管理方法の一実施形態を説明する。以下では、調光装置の構成、透過像鮮明度の測定方法、クラリティ(clarity)の測定方法、調光装置の管理方法、および、試験例を順に説明する。なお、本実施形態では、調光シート越しに存在するもの、つまり調光シートによって秘匿したいものを総称して被写体と表す。被写体には、例えば、人物、装置、および、静物などが含まれる。
【0020】
[調光装置の構成]
図1から図4を参照して、調光装置の構成を説明する。
本実施形態における調光装置には、以下に説明する第1の構成と第2の構成とが含まれる。
【0021】
[第1の構成]
図1および図2を参照して、調光装置の第1の構成を説明する。
図1は、調光装置の第1の構成において、駆動電圧が印加されていない状態を示す。駆動電圧は、調光層に含まれる液晶分子の配向を切り替えるための電圧である。これに対して、図2は、調光装置の第1の構成において、駆動電圧が印加されている状態を示す。
【0022】
図1が示すように、調光装置10は、調光シートを備える。調光シートは、調光層11と、一対の透明電極層12とを備える。調光層11は、ポリマーネットワーク11Aと、液晶組成物11Bとを備える。ポリマーネットワーク11Aは、複数のドメイン11Dを含む。各ドメイン11Dは、ポリマーネットワーク11A内に形成された空隙である。空隙は、ポリマーネットワーク11Aによって孤立した空間であってもよいし、他の空隙と繋がる空間であってもよい。液晶組成物11Bは、ドメイン11D内に充填され、複数の液晶分子11BLを含む。
【0023】
一対の透明電極層12は、調光層11の厚さ方向において、調光層11を挟む。各透明電極層12は、可視光領域の光に対する透過性を有する。各透明電極層12を形成する材料には、例えば、透明導電性酸化物(TCO)、および、導電性ポリマーなどを挙げることができる。
【0024】
調光装置10は、一対の透明基材13をさらに備える。一対の透明基材13は、調光層11の厚さ方向において、一対の透明電極層12を挟む。各透明基材13は、可視光領域の光に対する透過性を有する。各透明基材13を形成する材料には、例えば、ガラス、および、合成樹脂などを挙げることができる。
【0025】
調光層11は、透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とに切り替わる。調光層11において、液晶分子11BLを駆動する駆動電圧の印加の有無に応じて液晶分子11BLの配向が切り替わることによって、第1状態と第2状態とが切り替わる。調光層11は、駆動電圧が印加されていないときに第2状態である。上述したように、図1が示す調光装置10において、一対の透明電極層12には駆動電圧が印加されていない。このとき、各ドメイン11D内に位置する複数の液晶分子11BLの配向方向はランダムである。そのため、一対の透明基材13のいずれかから調光装置10に入射した光は、調光層11において等方的に散乱される。それゆえに、調光層11は濁った状態、すなわち第2状態である。第2状態は、調光層11において最も不透明な状態である。なお、第2状態の調光層11は、白色に濁った状態であってもよいし、調光層11が色素を有して有色に濁った状態であってもよい。
【0026】
調光層11が第2状態であるときに、JIS K 7374:2007に準拠した調光シートの透過像鮮明度は、70%以下である。透過像鮮明度は、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度である。これにより、調光層11が濁った状態であるときに、調光シートの透過像鮮明度が70%以下であるため、調光層11が濁った状態において調光シートを介した視認性を低下させることができる。調光層11が第2状態であるときに、調光シートの透過像鮮明度は、60.5%以下であることが好ましい。調光層11が第2状態である場合に、調光シートの視認性をより低下させることができる。
【0027】
また、調光層11が第2状態であるときに、調光シートのクラリティ(clarity)が89.1%以下である。これにより、調光シートの透過像鮮明度が70%以下である場合と同等の効果を得ることができる。調光層11が第2状態であるときに、調光シートのクラリティは、82.9%以下であることが好ましい。これにより、調光シートの像鮮明度が60.5%以下である場合と同等の効果を得ることができる。調光シートにおいて、透過像鮮明度およびクラリティのいずれか一方のみが各パラメータにおける上述した好適な範囲に含まれてもよいし、透過像鮮明度およびクラリティの両方が、各パラメータにおける上述した好適な範囲に含まれてもよい。
【0028】
調光層11が第2状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した調光シートのヘイズ(haze)が、95%以上であることが好ましい。これにより、調光シート越しに観察された被写体の輪郭における鮮明さを低下させることに加え、被写体と被写体の周りとのコントラストを低下させることもできる。それゆえに、調光層11が第2状態である場合に、調光装置10による被写体の隠蔽性をより高めることができる。
【0029】
図2が示すように、駆動回路10Dが調光層11に駆動電圧を印加することによって、複数の液晶分子11BLの配向が、ランダムな配向から、光を透過する方向である例えば垂直配向に変わる。言い換えれば、各液晶分子11BLは、調光層11が広がる平面に対して、液晶分子11BLの長軸がほぼ垂直であるように、ドメイン11D内に位置している。そのため、一対の透明基材13のいずれかから調光シートに入射した光は、調光層11においてほぼ散乱されることなく調光層11を透過する。それゆえに、調光層11は透明の状態、すなわち第1状態である。
【0030】
[第2の構成]
図3および図4を参照して、調光装置の第2の構成を説明する。
図3は、調光装置の第2の構成において、駆動電圧が印加されていない状態を示し、これに対して、図4は、調光装置の第2の構成において、駆動電圧が印加されている状態を示している。
【0031】
図3が示すように、調光装置20が備える調光シートは、調光層11、一対の透明電極層12、および、一対の透明基材13に加えて、一対の配向層21を備える。一対の配向層21は、調光層11の厚さ方向において調光層11を挟み、かつ、調光層11の厚さ方向において一対の透明電極層12よりも中央部寄りに位置している。言い換えれば、一方の配向層21は調光層11と一方の透明電極層12との間に位置し、かつ、他方の配向層21は調光層11と他方の透明電極層12との間に位置している。
【0032】
各配向層21が垂直配向層である場合、駆動電圧が印加されていない状態で、各ドメイン11Dに含まれる液晶分子11BLの配向は垂直配向である。言い換えれば、各液晶分子11BLは、調光層11が広がる平面に対して、液晶分子11BLの長軸がほぼ垂直であるように、ドメイン11D内に位置している。そのため、一対の透明基材13のいずれかから調光シートに入射した光は、調光層11においてほぼ散乱されることなく調光層11を透過する。それゆえに、調光層11は透明、すなわち第1状態である。
【0033】
図4が示すように、調光層11に駆動電圧が印加されていることによって、複数の液晶分子11BLの配向が変わる。例えば、複数の液晶分子11BLの配向は、垂直配向から水平配向に変わる。このとき、各液晶分子11BLは、液晶分子11BLの長軸が、調光層11が広がる平面に沿って延びるように、ドメイン11D内に位置している。そのため、一対の透明基材13のいずれかから調光シートに入射した光は、調光層11において散乱される。それゆえに、調光層11は濁った状態、すなわち第2状態である。
【0034】
こうした調光シートにおいても、上述した調光シートと同様、調光層11が第2状態であるときに、調光シートの透過像鮮明度であって、JIS K 7374:2007に準拠し、かつ、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、70%以下である。また、調光層11が第2状態であるときに、透過像鮮明度は、60.5%以下であることが好ましい。言い換えれば、駆動回路10Dは、調光層11を第2状態とするときに、調光シートの透過像鮮明度が70%以下となる駆動電圧を透明電極層12に印加する。
【0035】
さらには、調光層11が第2状態であるときに、調光シートのクラリティが89.1%以下であり、好ましくは82.9%以下である。言い換えれば、駆動回路10Dは、調光層11を第2状態とするときに、調光シートのクラリティが89.1%以下となる駆動電圧を透明電極層12に印加する。なお、調光シートにおいても、透過像鮮明度およびクラリティのいずれか一方のみが各パラメータにおける上述した好適な範囲に含まれてもよいし、透過像鮮明度およびクラリティの両方が、各パラメータにおける上述した好適な範囲に含まれてもよい。調光層11が第2状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した調光シートのヘイズ(haze)が、95%以上であることが好ましい。
【0036】
なお、調光層11でのドメインサイズが小さく、かつ、調光層11でのドメイン数密度が高いほど、調光シートの透過像鮮明度は下がる。そのため、調光シートの透過像鮮明度が70%以下である構成は、例えば、調光層11でのドメインサイズを縮小し、かつ、調光層11のドメイン数密度を増大させるように、ポリマーネットワーク11Aを形成することによって実現可能となる。
【0037】
[透過像鮮明度の測定方法]
図5および図6を参照して、透過像鮮明度の測定方法を説明する。上述したように、本実施形態における透過像鮮明度は、JIS K 7374:2000に準拠する方法によって測定された値である。以下では、透過像鮮明度の測定方法を透過像鮮明度の測定に用いられる測定装置の一例とともに説明する。
【0038】
図5が示すように、透過像鮮明度の測定装置30は、光源31、光学くし32、および、受光部33を備える。測定装置30において、測定対象である調光シートは、光源31と光学くし32との間に配置される。透過像鮮明度の測定時において、光学くし32は、光源31、調光シート、および、光学くし32が並ぶ方向に対して直交する平面に沿って一定の速度で移動する。光学くし32では、光を遮蔽する遮蔽部32aにおける光学くし32の移動方向に沿う幅が、光学くし目幅である。光学くし32では、光学くし32が移動する方向において、遮蔽部32aの幅とスリットの幅とが互いに等しい。本実施形態において、光学くし目幅は0.125mmである。
【0039】
図6が示すように、光学くし32を透過する光量、言い換えれば受光部33が受光する光量は、周期的に変化する。受光部33が受光する光量の最大値が最高光量Mであり、光量の最小値が最低光量mである。最高光量Mは、調光シートを透過した光が光学くし32によって遮蔽されなかったときに得られる光量である。最低光量mは、調光シートを透過した光が光学くし32によって遮蔽されたときに得られる光量である。
【0040】
光学くし目幅がnであるときの透過像鮮明度C(n)(%)は、最高光量Mおよび最低光量mを用いて、以下の式(2)によって算出することができる。
C(n) =100×(M−m)/(M+m) … 式(2)
【0041】
[クラリティの測定方法]
図7を参照して、クラリティの測定方法を説明する。図7は、クラリティの測定に用いられる測定装置の一例を模式的に示している。
【0042】
図7が示すように、クラリティの測定装置40は、照射部41、受光部42、および、積分球43を備える。照射部41は、光源41Aとレンズ41Bとを備える。光源41Aは白色LEDであり、レンズ41Bは、光源41Aが放出した光を平行光に変換する。受光部42は、中央センサー42Cと、外周センサー42Rとを備える。中央センサー42Cおよび外周センサー42Rは、それぞれ環状を有する。外周センサー42Rは、中央センサー42Cの外側に位置している。なお、測定装置40は、測定対象のクラリティを測定だけでなく、ヘイズの測定にも用いることが可能である。測定装置40の積分球43は、ヘイズの測定時にのみ用いられる。
【0043】
測定装置40において、調光シートは、照射部41と積分球43との間に配置される。レンズ41Bから射出された平行光の光束における直径は、本実施形態では14mmである。調光シートを透過した光には、調光層11に入射した平行光LPの光軸に対して直進する直進光LSと、平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光LNSとが含まれる。受光部42では、中央センサー42Cが直進光LSを受光し、外周センサー42Rが狭角散乱光LNSを受光する。中央センサー42Cが受光した直進光LSの光量をlに設定し、外周センサー42Rが受光した狭角散乱光LNSの光量をlに設定する。
【0044】
クラリティは、調光層11を透過した光のなかで、調光層11に入射した平行光LPの光軸に対して直進する直進光LSの光量を光量lとし、平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光LNSの光量を光量lとするときに、以下の式(1)によって算出される。
100×(l−l)/(l+l) … 式(1)
【0045】
ここで、上述したように、測定装置40を用いて調光シートにおけるヘイズを測定することが可能である。なお、ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠する方法によって測定される。また、測定装置40を用いてヘイズを測定する場合には、積分球43内に配置された受光部によって、調光シートを透過した光を受光する。
【0046】
ヘイズとは、測定対象を通過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°以上それた透過光の百分率のことである。言い換えれば、ヘイズの測定において、上述した平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°未満の光が平行光であり、±2.5°以上の光が広角散乱光である。広角散乱光の透過率を拡散透過率Tとし、平行光の透過率を平行透過率Tとし、平行透過率Tと拡散透過率Tとの和を全光透過率Tとする。このとき、ヘイズは、全光透過率T中の拡散透過率Tの割合である。
【0047】
上述したように、1つの測定装置40を用いて調光シートのクラリティとヘイズとを測定することが可能ではある。しかしながら、クラリティとヘイズとは、調光シートにおける全く異なる性質を数値化するためのパラメータである。また、透過像鮮明度は、クラリティが数値化する性質と同等の性質を数値化するためのパラメータであることから、透過像鮮明度とヘイズとは、調光シートにおける全く異なる性質を数値化するためのパラメータである。
【0048】
つまり、ヘイズとは広角散乱光を用いて調光シートの状態を評価するパラメータである。そのため、ヘイズによれば、調光シートを目視によって観察した場合に、観察者が知覚する調光シート全体の濁り度合い、例えば、調光シート全体の白茶け度合いを評価することが可能である。これにより、観察者が、調光シートを介して被写体を視認したときには、調光シートにおけるヘイズの値が大きいほど、調光シート越しの被写体と、被写体の周囲とのコントラストが低下し、観察者には被写体がかすんで見える。このように、ヘイズとは、あくまで調光シートの濁り度合いを評価するためのパラメータである。
【0049】
これに対して、クラリティとは狭角散乱光を用いて調光シートの状態を評価するパラメータである。そのため、クラリティによれば、調光シートを通した被写体の像において、被写体における非常に微小な部分が、どの程度鮮明であるかを評価することが可能である。これにより、観察者が、調光シートを介して被写体を視認したときには、調光シートにおけるクラリティの値が小さいほど、調光シート越しの被写体における輪郭がぼやける、言い換えれば、被写体の鮮明さが低下する。このように、クラリティとは、調光シートを介して視認された被写体の像における鮮明さを評価するものであり、ヘイズとは全く異なる性質を評価するものである。すなわち、クラリティによれば、ヘイズによって評価することのできない調光シートの性質を評価することが可能である。
【0050】
上述したように、ヘイズとは、調光シート全体の濁り度合いを評価するパラメータである。そのため、調光シートにおける不透明さをヘイズによって評価した場合には、調光シートの濁り度合いは十分であっても、調光シート越しに視認された被写体の輪郭が鮮明であることもある。言い換えれば、ヘイズによって評価された調光シートには、調光シートを介して視認された被写体の輪郭を不鮮明にする能力が不足したシートが含まれ得る。また言い換えれば、ヘイズの値が同程度である複数の調光シートには、クラリティの値が互いに異なる調光シートが含まれ得る。これらの調光シートでは、濁り度合いは互いにほぼ等しい一方で、調光シート越しに視認された被写体において、輪郭のぼやけ度合いが互いに異なる。そして、こうした輪郭のぼやけ度合いの差は、調光シートが観察者によって目視された場合に、不透明さの度合いの違いとして観察者に知覚される。結果として、ヘイズの値による不透明さの評価と、目視による不透明さの評価との間に乖離が生じる。
【0051】
この点で、調光シートの不透明さをクラリティによって評価した場合には、クラリティが小さいほど、調光シート越しに観察した被写体における輪郭のぼやけ度合いが高まる。それゆえに、クラリティによる不透明さの評価と、目視による不透明さの評価との間に、乖離が生じることが抑えられる。
【0052】
ここで、調光シートが車両の窓ガラスや、建築物の窓ガラスに適用されることがある。この場合、調光シートには、調光シートが第2状態である、すなわち濁った状態であることによって、車両内や建築物内に滞在する被写体におけるプライバシーの保護性が高いことが求められる。プライバシーの保護性が高いとは、車両内や建築物内に滞在する被写体の特定が困難であること、あるいは、被写体が滞在しているか否かの判断が困難である程度に、調光シートによる隠蔽性が高いことを意味する。
【0053】
クラリティを用いて調光シートの不透明さを評価することによれば、調光シート越しに視認された被写体の輪郭がぼやける程度に濁った調光シートを選択することができる。そのため、クラリティの値によって、プライバシーの保護性の高低を測ることができ、結果として、プライバシーの保護性が高い調光シートを得ることが可能である。
【0054】
クラリティが上述した範囲であることによって、調光シートを介して視認される被写体の像における不鮮明さが確実に担保される。このような調光シートは、特に、調光シートから被写体までの距離が近い場合や、被写体を照明する光源の照明範囲が狭い、あるいは、被写体への照射光量が大きい場合に好適に使用される。
【0055】
上述したように、調光シートの不透明さは、ヘイズによって評価されていた。しかしながら、用途が多様化する調光シートにおいて、用途に関わらず被写体に対するプライバシーの保護性を高める上では、調光シートの不透明さをヘイズによって評価することは好適ではない場合が認められた。そのため、調光シートが満たすべき新たなパラメータとしてクラリティが見出された。さらには、クラリティにおいて、プライバシーの保護性を高める上で好適な数値の範囲が見出された。本実施形態における調光シート、および、調光シートを備える調光装置とは、こうした経過によってはじめて導かれるものである。
【0056】
なお、上述した透過像鮮明度を用いて調光シートの不透明さを評価した場合にも、クラリティを用いて調光シートの不透明さを評価した場合と同等の効果を得ることができる。すなわち、透過像鮮明度によれば、透過像鮮明度による不透明さの評価と、目視による不透明さの評価とに乖離が生じることが抑えられる。
【0057】
[調光装置の管理方法]
調光装置の管理方法は、調光装置の製造方法や、調光装置の制御方法に用いられる。調光装置の管理方法は、調光層11が正常であるか否かの判定を行う。調光層11が正常であると判定する条件の一例は、下記条件1を含む。また、調光層11が正常であると判定する条件の他の例は、下記条件2を含む。さらに、調光層11が正常であると判定する条件の他の例は、下記条件1、および、条件2の両方を含む。
【0058】
(条件1)調光層11が第2状態であるときに、JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの調光シートの透過像鮮明度が、70%以下である。
(条件2)調光層11が前記第2状態であるときに、クラリティが89.1%以下である。クラリティは、上述した式(1)によって算出される。
【0059】
調光装置の管理方法が調光装置の製造方法に用いられる場合、調光装置の製造方法は、調光シートの透過像鮮明度を測定することと、透過像鮮明度が条件1を満たす調光シートを正常であると判定することとを含む。また、調光装置の管理方法が調光装置の製造方法に用いられる場合、調光装置の製造方法は、調光シートの透過像鮮明度を測定することと、透過像鮮明度が条件2を満たす調光シートを正常であると判定することとを含む。
【0060】
調光装置の管理方法が調光装置の制御方法に用いられる場合、調光装置の制御方法は、調光シートの透過像鮮明度が条件1を満たす所定の駆動電圧を、駆動回路が調光シートに印加することを含む。また、調光装置の管理方法が調光装置の制御方法に用いられる場合、調光装置の制御方法は、調光シートの透過像鮮明度が条件2を満たす所定の駆動電圧を、駆動回路が調光シートに印加することを含む。
【0061】
これらの製造方法によっても、調光シートの不透明さを、調光シート越しの被写体における輪郭のぼやけ具合、言い換えれば不鮮明さによって評価することができる。また、これらの制御方法によっても、調光シートの不透明さが、調光シート越しの被写体における輪郭のぼやけ具合、言い換えれば不鮮明さを十分とするように調光装置を駆動できる。そのため、調光シートの不透明さを調光シートの濁り度合いによって評価したり制御したりする場合よりも、目視による不透明さの評価との乖離を抑えることができる。
【0062】
[試験例]
図8および図9を参照して、試験例を説明する。
[目視評価と各パラメータとの関係]
5つの調光シートを準備し、各調光シートが第2状態であるときの透明度を目視によって評価した。各調光シートとして、上述した第1の構成の調光シートを準備した。透明度を目視によって評価したときには、第2状態である調光シートの背面から80cmの位置に光量が約3500lmの蛍光灯を配置し、調光シートの前面から20cmの位置から目視によって観察した。このとき、観察者の視点、調光シート、および、蛍光灯を同一直線上に配置した。この状態において、蛍光灯の視認性が最も低い、言い換えれば対象物が最も見難いものから順に順位付けをした。
【0063】
各調光シートについて、各調光シートが第2状態であるときのクラリティ、透過像鮮明度、および、ヘイズを測定した。透過像鮮明度の測定には、写像性測定機(ICM‐1T、スガ試験機(株)製)を用い、かつ、JIS K 7374:2007に準拠した方法を用いた。ヘイズの測定には、ヘーズメーター(NDH7000SD、日本電色工業(株)製)を用い、かつ、JIS K 7136:2000に準拠した方法を用いた。クラリティの測定には、ヘイズ・透明性測定器(ヘイズガードi、BYK−Gardner社製)を用いた。
【0064】
目視による順位付けの結果と、クラリティ、透過像鮮明度、および、ヘイズの各々の測定結果とは、図8に示す通りであった。
図8が示すように、クラリティの値は、目視による順位が高い調光シートから順に、49.0%、64.6%、66.8%、75.8%、81.7%であることが認められた。また、透過像鮮明度の値は、目視による順位が高い調光シートから順に、30.4%、36.5%、42.6%、51.5%、56.2%であることが認められた。このように、クラリティの値、および、透過像鮮明度の値は、目視による順位が高いほど、低い値であることが認められた。すなわち、クラリティおよび透過像鮮明度は、観察者が目視によって知覚する透明度、言い換えれば不透明さを高い精度で引き写すことが可能なパラメータであることが認められた。
【0065】
これに対して、ヘイズの値は、目視による準備が高い調光シートから順に、98.5%、98.2%、98.5%、97.9%、98.1%であることが認められた。このように、ヘイズの値は、クラリティの値および透過像鮮明度の値に比べて、目視による順位との相関性が低いことが認められた。すなわち、ヘイズは、観察者が目視によって知覚する透明度、言い換えれば不透明さとは乖離が生じやすいパラメータであることが認められた。
【0066】
[調光シートによる隠蔽性]
試験例1から試験例10の調光シートを準備し、図9に示す方法で、各調光シートの隠蔽性を評価した。なお、試験例1から試験例10の調光シートとして、第1の構成の調光シートを準備した。
【0067】
試験例1から試験例10の調光シートにおいて、クラリティ、透過像鮮明度、および、ヘイズを測定した。なお、クラリティ、透過像鮮明度、および、ヘイズの各々は、上述した5つの調光シートにおいて各パラメータの値を測定したときと同じ条件で測定した。各調光シートにおいて、クラリティ、透過像鮮明度、および、ヘイズの測定結果は、以下の表1に示す通りであった。
【0068】
【表1】
【0069】
図9が示すように、高さ方向における光源Lと観察者OBとの間の差を高さHに設定した。調光シートの前面と観察者OBとの間の距離を第1距離D1に設定し、調光シートの背面と光源Lとの間の距離を第2距離D2に設定し、光源Lと観察対象51との間の距離を第3距離D3に設定した。そして、高さHを150cmに設定し、第1距離D1および第2距離D2を50cmに設定し、第3距離D3を100cmに設定した。このとき、光源Lとして、光量が約3500lmである蛍光灯を用いた。また、観察対象51として、白色の正方形と黒色の正方形とが、横方向および縦方向の両方において交互に並ぶチェックパターン(byko-charts、BYK社製)を用いた。なお、各正方形において、一辺の長さが31mmであった。
【0070】
15人の被験者によって、試験例1から試験例10の各々の調光シート越しにチェックパターンを視認することが可能であるか否かを評価した。なお、調光シート越しに観察対象51を観察したときに、観察対象51において、白色の正方形と黒色の正方形との境界が不鮮明である場合を「○」とし、白色の正方形と黒色の正方形との境界が鮮明である場合を「×」とした。評価結果は、以下の表2に示す通りであった。
【0071】
【表2】
【0072】
表2が示すように、試験例8の調光シートによれば、1名の被験者が調光シートによる隠蔽性が高いと判断することが認められた。また、試験例6の調光シートによれば、10名の被験者、言い換えれば被験者の2/3が調光シートによる隠蔽性が高いと判断することが認められた。また、試験例2の調光シートによれば、全ての被験者が調光シートによる隠蔽性が高いと判断することが認められた。
【0073】
こうした結果から、高い隠蔽性を有した調光シートにおいて、調光シートのクラリティが89.1%以下であり、好ましくは82.9%以下であり、さらに好ましくは72.7%以下であることが認められた。また、高い隠蔽性を有した調光シートにおいて、調光シートの透過像鮮明度が70.0%以下であり、好ましくは69.5%以下であり、さらに好ましくは50.6%以下であることが認められた。
【0074】
なお、調光シートとして第2の構成の調光シートを準備した場合には、調光層に対して、液晶分子の駆動電圧として液晶分子の配向が電圧の増大で変化し難い程度の電圧である飽和電圧を印加した状態で、第2状態を評価することができる。
【0075】
以上説明したように、調光シート、および、調光シートの管理方法における一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)調光シートの不透明を、調光シート越しの被写体における輪郭のぼやけ具合、言い換えれば不鮮明さによって評価することができる。そのため、調光シートの不透明さを調光シートの濁り度合いによって評価したり制御したりする場合よりも、目視による不透明さの評価との乖離を抑えることができる。
【0076】
(2)調光層11が第2状態である調光シートを観察者OBが観察した場合に、観察者OBが、調光シートが不透明であると判断する確実性をより高めることができる。
(3)調光シート越しに観察された被写体の輪郭における鮮明さを低下させることに加え、被写体と被写体の周りとのコントラストを低下させることもできる。それゆえに、調光層11が第2状態である場合に、調光シートによる被写体の隠蔽性をより高めることができる。
【0077】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・調光装置は、調光シートの不透明さを複数の階調で変更する制御部をさらに備えることも可能である。この際、調光装置の駆動を制御する制御部は、相互に異なる透過像鮮明度を駆動電圧に変換するためのテーブルなどの情報を備え、外部の操作機器などから指定される透過像鮮明度に対応づけられた駆動電圧を駆動回路に印加させる。あるいは、調光装置の駆動を制御する制御部は、相互に異なるクラリティを駆動電圧に変換するためのテーブルなどの情報を備え、外部の操作機器などから指定される透過像鮮明度に対応付けられた駆動電圧を駆動回路に印加させる。これらの制御部を備える調光装置によれば、調光シートの不透明さを目視による不透明さに基づいて複数段に変更することが可能であるから、調光装置の利用者の意図に準じた不透明さを調光装置で実現することが可能となる。
【0078】
・第2の構成の調光装置20において、調光シートに対して飽和電圧よりも小さい駆動電圧が印加されたときに、調光シートにおける透過像鮮明度が70%以下であってもよいし、調光シートにおけるクラリティが89.1%以下であってもよい。
【0079】
・上記実施形態は平面状の調光シートを想定している。ここで、本発明に係る調光シートは、PETなどの樹脂フィルムをベース材として使用している。そのため、本発明に係る調光シートは可撓性を有する。つまり、本発明に係る調光シートは、曲面加工にも優れた適応を示す。例えば、自由曲面に加工する場合、本発明に係る調光シートは少なくとも曲率が最大となる領域において上記の各条件を満たすことが望ましい。
【符号の説明】
【0080】
10,20…調光装置、11…調光層、11A…ポリマーネットワーク、11B…液晶組成物、11BL…液晶分子、11D…ドメイン、12…透明電極層、13…透明基材、21…配向層、30,40…測定装置、31,41A,L…光源、32…光学くし、32a…遮蔽部、33…受光部、41…照射部、41B…レンズ、42…受光部、42C…中央センサー、42R…外周センサー、43…積分球、51…観察対象、OB…観察者。
【要約】
【課題】濁った状態の調光層を介した被写体の視認性を低下させることを可能とした調光装置、および、調光装置の管理方法を提供する。
【解決手段】透明な状態である第1状態と、濁った状態である第2状態とを、駆動電圧の印加の有無に応じた液晶分子の配向の切り替わりで切り替え可能に構成された調光層11と、調光層11を挟む一対の透明電極層12とを備えた調光シートを備え、調光層11は、駆動電圧が印加されていないときに第2状態であり、JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、調光シートの透過像鮮明度であり、調光層11が第2状態であるときに、調光シートの透過像鮮明度が70%以下である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9