【実施例】
【0031】
<実験例1>
まず、
図2に示す触媒CVD装置(MDF製MD−201)の真空容器11内にタングステンからなる高融点金属触媒体12を設置し、その後、高融点金属触媒体12と向かい合うようにして分析用Si単結晶ウェハー(図示せず)を支持台13上に設置した。
【0032】
次に、真空容器11内の圧力を10Paに減圧した後に、タングステンからなる高融点金属触媒体12を1400℃に加熱した。その後、ガス導入口11aから真空容器11内にモノメチルシラン(流量2sccm)と10体積%の酸素を含有したアルゴン(流量5sccm)と水素(流量200sccm)との混合ガスを導入した。これにより、混合ガスが1400℃に加熱された金属触媒体12に接触してラジカルが発生し、当該ラジカルが分析用Si単結晶ウェハーに照射した。このような触媒CVD法により、SiOCH層を分析用Si単結晶ウェハー上に51分45秒間成長させた。
【0033】
そして、分析用Si単結晶ウェハー上に成長したSiOCH層のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)による分析を行った。その結果を
図12に示す。
図12の横軸は波数[cm
-1]を示し、縦軸は吸収強度[a.u.]を示している。
図12に示すように、実験例1のSiOCH層のFTIRスペクトルには、Si−C結合(
図12の(i))、Si−O結合(
図12の(ii))、Si−CH
3結合(
図12の(iii))、Si−H結合(
図12の(iv))ならびにC−H結合(
図12の(v)および(vi))にそれぞれ対応する吸収ピークが確認された。
【0034】
<実験例2>
まず、
図9に示す触媒CVD装置(富士機械工業(株)製モデルR2R−65−02)の真空容器11内にタングステンからなる高融点金属触媒体12を設置し、その後、ロール15,16間に掛け渡されたPENフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製のPEN−Q65HA)からなる高分子フィルム10を高融点金属触媒体12と向かい合うように設置した。
【0035】
次に、真空容器11内の圧力を40Paに減圧した後に、タングステンからなる高融点金属触媒体12を1150℃に加熱した。その後、ガス導入口11aから真空容器11内にモノメチルシラン(流量20sccm)と3体積%の酸素を含有したアルゴン(流量334sccm)と水素(流量1000sccm)との混合ガスを導入した。これにより、混合ガスが1150℃に加熱された金属触媒体12に接触してラジカルが発生し、当該ラジカルが高分子フィルム10に照射した。このような触媒CVD法により、SiOCH層を高分子フィルム10上に成長させた。なお、実験例2においては、ロール15,16間に掛け渡された高分子フィルム10をロール16からロール15に搬送しながらSiOCH層を成長させた。高分子フィルム10の全長は6mとした。また、ロール15,16による高分子フィルム10の引張り張力を30Nとして、0.1m/分の搬送速度で搬送した。
【0036】
次に、上記のようにしてロールツーロール方式で製造された高分子フィルム10とSiOCH層との積層体からなる表面改質高分子フィルムの
図13(a)に示すSiOCH層の表面(縦:約20cm×横:約30cm)を
図13(b)に示すように縦2cm×横2cmの正方形状の領域に分割した。ここで、表面改質高分子フィルムのSiOCH層の表面の分割された正方形状の領域は、横の座標1〜15および縦の座標a〜jでそれぞれ特定できるようにした。
【0037】
そして、上記のようにして分割された正方形状の領域のそれぞれについて水の接触角θ
c[°]を測定した。たとえば
図14(a)に示すように、水滴41の高さβが十分に測定できる場合には、水の接触角θ
cは、水滴41の幅αを用いて、θ
c=2tan
-1(2β/α)の式で算出した。
【0038】
また、たとえば
図14(b)に示すように、水滴41が非常に薄く、水滴41の高さβが十分に測定できない場合には、水の接触角θ
cは、以下のようにして算出した。まず、積分法を用いると水滴41の体積Vは、V=π×(3α
2β+4β
3)/24の式で表されるが、αはβよりも十分に大きいため、β
3の項を無視すると、β=(8V)/(πα
2)の式が導かれる。そして、β=(8V)/(πα
2)の式を、θ
c=2tan
-1(2β/α)の式に代入することによって、水の接触角θ
cを算出した。
【0039】
図15(a)および
図15(b)に、座標により特定された正方形状の領域ごとの水の接触角θ
cを示す。実験例2の表面改質高分子フィルムのSiOCH層の表面の水の接触角θ
cの平均値は70.9[°]であった。
【0040】
<実験例3>
SiOCH層を形成する前のPENフィルム(PEN)と、実験例2と同様のロールツーロール方式でPENフィルム上にSiOCH層を形成した表面改質高分子フィルム(SiOCH/PEN)のSiOCH層とについて、それぞれ、紫外線ランプから波長185nmの紫外光と波長254nmの紫外光とを同時に10分間照射した後に、実験例2と同様にして水の接触角θ
cを測定した。その結果を
図16に示す。
【0041】
図16に示すように、PENは、紫外光の照射前の水の接触角θ
cは76.4°であり、紫外光の照射前の水の接触角θ
cは13.6°であった。また、SiOCH/PENは、紫外光の照射前の水の接触角θ
cはそれぞれ70.1°および64.3°であり、紫外光の照射前の水の接触角θ
cはそれぞれ8.3°および5.6°であった。したがって、SiOCH/PENは、PENと比べて、紫外光の照射により、水の接触角θ
cを低減(親水化)できることが確認された。
【0042】
また、
図17に、PENおよびSiOCH/PENに対して、紫外光を、それぞれ、0分間、1分間、2分間、5分間および10分間照射したときの水の接触角θ
cの変化を示している。
図17に示すように、PENおよびSiOCH/PENのいずれにおいても、紫外光の照射時間が5分間までは紫外光の照射により水の接触角θ
cが直線状に低下するが、紫外光の照射時間が5分を超えても水の接触角θ
cはあまり変わらないことが確認された。
【0043】
<実験例4>
まず、実験例1と同様にして、触媒CVD法により、SiOCH層を分析用Si単結晶ウェハー上に51分45秒間成長させた後に、モノメチルシランと酸素を含有したアルゴンと水素との混合ガスの導入を停止した。
【0044】
次に、
図2に示す触媒CVD装置(MDF製MD−201)の真空容器11内の圧力を300Paまで上昇させた後に、タングステンからなる高融点金属触媒体12を1500℃に加熱した。
【0045】
その後、ガス導入口11aから真空容器11内にモノメチルシラン(流量1sccm)とC
4F
8からなるフルオロカーボン(流量200sccm)と水素(流量100sccm)と窒素(流量100sccm)との混合ガスを導入した。これにより、混合ガスが1500℃に加熱された金属触媒体12に接触してラジカルが発生し、当該ラジカルが分析用Si単結晶ウェハーに照射した。このような触媒CVD法により、SiCFH層を分析用Si単結晶ウェハー上に30分間成長させた。
【0046】
そして、分析用Si単結晶ウェハー上に成長したSiCFH層のFTIRによる分析を行った。その結果を
図18に示す。
図18の横軸は波数[cm
-1]を示し、縦軸は吸収強度[a.u.]を示している。
図18に示すように、実験例4のSiCFH層のFTIRスペクトルには、Si−C結合(
図18の(Vii))およびC−F結合(
図18の(Viii))にそれぞれ対応する吸収ピークが確認された。
【0047】
次に、実験例2と同様にして、実験例4のSiCFH層の水の接触角θ
cを測定した。その結果を表2に示す。なお、表2において、実験例4のSiCFH層の水の接触角θ
cはサンプルAとして示されている。
【0048】
また、混合ガスにおけるモノメチルシラン、C
4F
8、水素および窒素の流量ならびに真空容器11内の成長圧力を変更してSiCFH層(サンプルB〜K)を成長させ、実験例2と同様にして、SiCFH層の水の接触角θ
cを測定した。その結果も併せて表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、モノメチルシランの流量が0sccmとされたサンプルDの水の接触角θ
cは58.0°となり撥水性が低かったが、その他のサンプルの水の接触角θ
cは70°以上、特にサンプルA〜C、E〜G、JおよびKの水の接触角θ
cは90°以上という高い撥水性を有していることが確認された。
【0051】
以上のように本発明の実施形態および実験例について説明を行なったが、上述の実施形態および実験例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0052】
今回開示された実施形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。