特許第6493658号(P6493658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493658
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】高撥水性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20190325BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20190325BHJP
   C08J 7/06 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   C23C16/42
   C08J7/12 ZCFD
   C08J7/06 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-229892(P2014-229892)
(22)【出願日】2014年11月12日
(65)【公開番号】特開2016-94507(P2016-94507A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年11月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、岡山県、電池関連プロジェクト推進研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000156042
【氏名又は名称】株式会社麗光
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(72)【発明者】
【氏名】中山 弘
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−235979(JP,A)
【文献】 特開2004−217966(JP,A)
【文献】 特開2013−044021(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/091097(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
B29C 71/04
C08J 7/00−7/02,7/12−7/18
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に互いに向かい合うように高融点金属触媒体と高分子フィルムとを設置する工程と、
前記高融点金属触媒体を加熱する工程と、
前記加熱した前記高融点金属触媒体にアルキルシランと酸素と水素とを含む混合ガスを接触させることにより発生したラジカルを前記高分子フィルムに照射する工程とを含み、
前記ラジカルを前記高分子フィルムに照射する工程は、前記高分子フィルム上にSiOCH層を形成する工程を含み、
前記SiOCH層は、Si−C結合と、Si−O結合と、Si−H結合とを含む表面改質高分子フィルムの製造方法によって表面改質高分子フィルムを製造する工程と、
前記表面改質高分子フィルムに撥水化処理を行う工程とを含み、
前記撥水化処理を行う工程は、前記加熱した前記高融点金属触媒体にアルキルシランとフルオロカーボンと水素とを含む混合ガスを接触させることにより発生したラジカルを前記表面改質高分子フィルムに照射し、前記表面改質高分子フィルム上にSiCFH層を形成することにより水の接触角が90°以上の高撥水性フィルムを形成する工程を含む、高撥水性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記表面改質高分子フィルムを製造する工程において、前記高分子フィルムは、ロールツーロールで搬送される、請求項1に記載の高撥水性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記表面改質高分子フィルムを製造する工程において、前記アルキルシランがモノメチルシランを含む、請求項1または請求項2に記載の高撥水性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記表面改質高分子フィルムを製造する工程において、前記混合ガスがアンモニアを含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高撥水性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質高分子フィルムの製造方法、高親水性フィルムの製造方法および高撥水性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば非特許文献1には、高分子の表面改質技術として、プライマー処理、グラフト重合、コロナ放電処理、プラズマ処理およびレーザ処理が開示されている。プライマー処理は、有機高分子材料からなる高分子の表面に低粘度の液体を塗布して乾燥させることにより高分子の表面を改質する処理である。また、グラフト重合、コロナ放電処理、プラズマ処理およびレーザ処理は、それぞれ、高分子の表面に電磁波または物体を照射することによって、高分子の表面を改質する処理である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】岩森 暁、「高分子表面加工学−表面改質・加工・コーティング−」、技報堂出版、2005年6月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プライマー処理においては、別途、低粘度の液体が必要になって処理コストが増加するとともに、プライマー処理による高分子の表面改質効果が不十分となることがあった。
【0005】
また、グラフト重合、コロナ放電処理、プラズマ処理およびレーザ処理においては、プライマー処理よりも優れた表面改質効果が得られるが、電子線、放射線、プラズマ、原子、分子、電子、イオンまたはレーザ光の照射によって高分子表面がダメージを受けることがあった。
【0006】
そのため、従来においては、ダメージを低減しつつ、高い表面改質効果を生じさせることが要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで開示された実施形態は、真空容器内に互いに向かい合うように高融点金属触媒体と高分子フィルムとを設置する工程と、高融点金属触媒体を加熱する工程と、加熱した高融点金属触媒体にアルキルシランと酸素と水素とを含む混合ガスを接触させることにより発生したラジカルを高分子フィルムに照射する工程とを含み、ラジカルを高分子フィルムに照射する工程は高分子フィルム上にSiOCH層を形成する工程を含み、SiOCH層は、Si−C結合と、Si−O結合と、Si−H結合とを含む、表面改質高分子フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
ここで開示された実施形態によれば、ダメージを低減しつつ、高い表面改質効果を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の表面改質高分子フィルムの製造方法のフローチャートである。
図2】実施形態の表面改質高分子フィルムの製造に用いられる触媒CVD装置の一例の構成を模式的に示す図である。
図3】SiOCH層の形成の推測されるメカニズムを図解する図である。
図4】SiOCH層の形成の推測されるメカニズムを図解する図である。
図5】SiOCH層の形成の推測されるメカニズムを図解する図である。
図6】SiOCH層の形成の推測されるメカニズムを図解する図である。
図7】実施形態の表面改質高分子フィルムの一例の構成を模式的に示す図である。
図8】実施形態の表面改質高分子フィルムの変形例の構成を模式的に示す図である。
図9】実施形態の表面改質高分子フィルムの製造方法の変形例の構成を模式的に示す図である。
図10】実施形態の親水化処理を行う工程を図解する図である。
図11】実施形態の撥水化処理を行う工程を図解する図である。
図12】実験例1のSiOCH層のFTIRスペクトルである。
図13】(a)および(b)は、実験例2の表面改質高分子フィルムのSiOCH層の表面の座標により特定された正方形状の領域を図解する模式的な平面図である。
図14】(a)および(b)は、実験例2の表面改質高分子フィルムのSiOCH層の表面の水の接触角θの測定方法を図解する図である。
図15】(a)および(b)は、実験例2の表面改質高分子フィルムのSiOCH層の表面の座標により特定された正方形状の領域ごとの水の接触角θを示す図である。
図16】SiOCH層を形成する前のPENフィルムと、実験例2と同様にしてロールツーロール方式でPENフィルム上にSiOCH層を形成した表面改質高分子フィルムのSiOCH層とについて、それぞれ、紫外光を10分間照射した後の水の接触角θについての測定結果である。
図17】PENとSiOCH/PENとについての紫外光の照射時間と水の接触角との関係を示す図である。
図18】実験例4のSiOCH層のFTIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について説明する。なお、実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0011】
<表面改質高分子フィルムの製造方法>
図1に、実施形態の表面改質高分子フィルムの製造方法のフローチャートを示す。図1に示すように、実施形態の表面改質高分子フィルムの製造方法は、高融点金属触媒体と高分子フィルムとを設置する工程(S1a)と、高融点金属触媒体を加熱する工程(S2a)と、ラジカルを高分子フィルムに照射する工程(S3a)とを含んでおり、S1a、S2aおよびS3aの順に行われる。なお、実施形態の表面改質高分子フィルムの製造方法には、S1a〜S3a以外の工程が含まれていてもよい。
【0012】
<高融点金属触媒体と高分子フィルムとを設置する工程>
まず、高融点金属触媒体と高分子フィルムとを設置する工程(S1a)を行う。工程(S1a)は、たとえば図2に示すように、まず真空容器11内に高融点金属触媒体12を設置し、その後、高融点金属触媒体12と向かい合うようにして高分子フィルム10を支持台13上に設置することにより行われる。なお、真空容器11は、容器内部の圧力を低減することができる容器であれば特に限定されない。また、高融点金属触媒体12と高分子フィルム10とは完全に向かい合って設置される必要はなく、実質的に向かい合うように設置されればよい。
【0013】
高融点金属触媒体12は、加熱されることによって、ガスの少なくとも一部をラジカルに分解することができる金属であれば特に限定されず、たとえばタンタル(Ta)またはタングステン(W)等を用いることができる。
【0014】
高分子フィルム10も特に限定されず、用途に応じて適宜用いることができ、たとえばポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムまたはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどを用いることができる。
【0015】
<高融点金属触媒体を加熱する工程>
次に、高融点金属触媒体を加熱する工程(S2a)を行う。工程(S2a)は、たとえば、電源14から高融点金属触媒体12に電流を流すことによって生じる抵抗加熱により高融点金属触媒体12を加熱することにより行うことができる。高融点金属触媒体12は、たとえば、ガスの少なくとも一部をラジカルに分解することができる温度にまで加熱することができる。
【0016】
<ラジカルを高分子フィルムに照射する工程>
次に、ラジカルを高分子フィルムに照射する工程(S3a)を行う。工程(S3a)は、たとえば以下のようにして行うことができる。まず、真空容器11の上部のガス導入口11aからアルキルシランと酸素と水素とを含む混合ガスを導入する。次に、当該混合ガスは、工程(S2a)において加熱された高融点金属触媒体12に接触してラジカルを発生させる。次に、ラジカルは、高分子フィルム10に照射され、高分子フィルム10上に珪素(Si)と酸素(O)と炭素(C)と水素(H)とを含む膜(SiOCH層)が形成されて表面改質高分子フィルムが得られる。なお、SiOCH層は、Si−C結合と、Si−O結合と、Si−H結合とを含んでいれば、その他の結合を含んでいてもよい。
【0017】
その後、SiOCH層の形成に寄与しなかったラジカルは、真空容器11の下部のガス排出口11bから排出される。
【0018】
<SiOCH層の形成のメカニズム>
SiOCH層の形成のメカニズムは、以下のように推測される。まず、図3に示すように、高分子フィルム10の表面のC−H結合が、工程(S3a)で発生したラジカル中の水素を含むラジカル(たとえば、・H)により切断され、結果としてH2分子が生成される。これにより、図4に示すように、高分子フィルム10の表面のCに未結合の結合手が形成される。なお、水素を含むラジカルは、混合ガス中の水素が、加熱された高融点金属触媒体12に接触することにより発生する。
【0019】
次に、図5に示すように、高分子フィルム10の表面のCの未結合の結合手にSiH3基が結合する。SiH3基の結合は、工程(S3a)でアルキルシランが分解して発生した水素化珪素を含むラジカル(たとえば、・SiH3)がCの未結合の結合手に結合することにより形成される。図3図5に示されるC−H結合からC−Si結合への置換は、以下の表1に示すように、C−Si結合の結合解離エンタルピー(451kJ/mol)がC−H結合の結合解離エンタルピー(338kJ/mol)よりも大きいことによるものと考えられる。
【0020】
【表1】
【0021】
次に、図6に示すように、高分子フィルム10の表面上にシロキサン(Si−O−Si)結合が形成される。シロキサン結合は、工程(S3a)で酸素が分解して発生した酸素を含むラジカル(たとえば、・O)がSi−H結合に置換して、Si−O結合を形成することにより形成される。
【0022】
さらに、酸素を含むラジカルおよび水素を含むラジカルが引き続き供給されることによって、図7に示すように、Si−H結合の一部がSi−OH結合に置換される。これは、上記の表1に示すようにSi−O結合の結合解離エンタルピー(799kJ/mol)がSi−H結合の結合解離エンタルピー(299kJ/mol)よりも大きいことによるものと考えられる。
【0023】
以上により、高分子フィルム10と、高分子フィルム10の表面上に形成されたSiOCH層21とを含む表面改質高分子フィルム20が形成される。なお、表面改質高分子フィルム20のSiOCH層21は、図7に示す構成を有していてもよく、図8に示すようにシロキサン結合とC−O−C結合とがSiOCH層21の厚さ方向において交互に現れるネットワーク状の構成を有していてもよい。
【0024】
なお、上記においては、支持台13上に高分子フィルム10を設置した状態で高分子フィルム10の表面上にSiOCH層21を形成したが、たとえば図9に示すように、一対のロール15,16に高分子フィルム10を掛け渡して、ロール15からロール16に高分子フィルム10をロールツーロールで搬送しながら高分子フィルム10上にSiOCH層21を連続的に形成することによって、表面改質高分子フィルム20を連続的に製造することが好ましい。この場合には、表面改質高分子フィルム20を効率的に製造することができる。
【0025】
また、上記において、アルキルシランはモノメチルシランを含むことが好ましい。この場合には、高親水性フィルムおよび高撥水性フィルムの製造に好適な表面改質高分子フィルム20を製造することができる。
【0026】
また、上記において、アルキルシランと酸素と水素とを含む混合ガスはアンモニアを含むことがさらに好ましい。この場合には、高融点金属触媒体12の周囲にアンモニアを存在させることができるため、酸素を含むラジカルと高融点金属触媒体12との反応を抑制することができる。これにより、高融点金属触媒体12を構成する金属の酸化物が気化して表面改質高分子フィルム20に取り込まれるのを抑制することができる。
【0027】
<親水化処理を行う工程>
上記のようにして製造された表面改質高分子フィルム20に親水化処理を行うことによって、高親水性フィルムを製造することができる。表面改質高分子フィルム20の親水化処理は、たとえば図10に示すように、酸素および水蒸気を含む雰囲気中で表面改質高分子フィルム20に紫外光31を照射することにより行うことができる。これにより表面における水との接触角θがたとえば30°以下の高親水性フィルムを製造することができる。
【0028】
紫外光31の照射により表面改質高分子フィルム20の表面が親水化する理由としては紫外光31は雰囲気中の酸素からオゾンを生成し、当該オゾンが表面改質高分子フィルム20の表面のSi−H結合を酸化して、より親水性の高いSi−OH結合を形成することによるものと考えられる。なお、紫外光31としては、波長1nm以上400nm以下の光を照射することができる。
【0029】
<撥水化処理を行う工程>
上記のようにして製造された表面改質高分子フィルム20に撥水化処理を行うことによって、高撥水性フィルムを製造することができる。表面改質高分子フィルム20の撥水化処理は、上記の表面改質高分子フィルム20の形成のためのアルキルシランと酸素と水素とを含む混合ガスの導入を停止して、引き続き、真空容器11内にガス導入口11aからアルキルシランとフルオロカーボン(フッ素(F)とCとの化合物)と水素とを含む混合ガスを導入することにより行うことができる。これにより、たとえば図11に示すようにSiOCH層21上にSiとCとFとHとを含む膜(SiCFH層22)が形成され、表面改質高分子フィルム20と、表面改質高分子フィルム20上のSiCFH層22とを含む高撥水性フィルム23を製造することができる。高撥水性フィルム23の表面における水との接触角θはたとえば90°以上とすることができる。
【0030】
<作用効果>
実施形態においては、アルキルシランと酸素と水素とを含む混合ガスを高融点金属触媒体12に接触させてラジカルを発生させ、高分子フィルム10に照射する触媒CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、高分子フィルム10上にSiOCH層21を形成して表面改質高分子フィルム22を得ている。したがって、実施形態においては、従来のグラフト重合、コロナ放電処理、プラズマ処理およびレーザ処理と比べて高分子フィルム10に与えられるダメージを低減しつつ、SiOCH層21の形成による高い表面改質効果を得ることができる。
【実施例】
【0031】
<実験例1>
まず、図2に示す触媒CVD装置(MDF製MD−201)の真空容器11内にタングステンからなる高融点金属触媒体12を設置し、その後、高融点金属触媒体12と向かい合うようにして分析用Si単結晶ウェハー(図示せず)を支持台13上に設置した。
【0032】
次に、真空容器11内の圧力を10Paに減圧した後に、タングステンからなる高融点金属触媒体12を1400℃に加熱した。その後、ガス導入口11aから真空容器11内にモノメチルシラン(流量2sccm)と10体積%の酸素を含有したアルゴン(流量5sccm)と水素(流量200sccm)との混合ガスを導入した。これにより、混合ガスが1400℃に加熱された金属触媒体12に接触してラジカルが発生し、当該ラジカルが分析用Si単結晶ウェハーに照射した。このような触媒CVD法により、SiOCH層を分析用Si単結晶ウェハー上に51分45秒間成長させた。
【0033】
そして、分析用Si単結晶ウェハー上に成長したSiOCH層のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)による分析を行った。その結果を図12に示す。図12の横軸は波数[cm-1]を示し、縦軸は吸収強度[a.u.]を示している。図12に示すように、実験例1のSiOCH層のFTIRスペクトルには、Si−C結合(図12の(i))、Si−O結合(図12の(ii))、Si−CH3結合(図12の(iii))、Si−H結合(図12の(iv))ならびにC−H結合(図12の(v)および(vi))にそれぞれ対応する吸収ピークが確認された。
【0034】
<実験例2>
まず、図9に示す触媒CVD装置(富士機械工業(株)製モデルR2R−65−02)の真空容器11内にタングステンからなる高融点金属触媒体12を設置し、その後、ロール15,16間に掛け渡されたPENフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製のPEN−Q65HA)からなる高分子フィルム10を高融点金属触媒体12と向かい合うように設置した。
【0035】
次に、真空容器11内の圧力を40Paに減圧した後に、タングステンからなる高融点金属触媒体12を1150℃に加熱した。その後、ガス導入口11aから真空容器11内にモノメチルシラン(流量20sccm)と3体積%の酸素を含有したアルゴン(流量334sccm)と水素(流量1000sccm)との混合ガスを導入した。これにより、混合ガスが1150℃に加熱された金属触媒体12に接触してラジカルが発生し、当該ラジカルが高分子フィルム10に照射した。このような触媒CVD法により、SiOCH層を高分子フィルム10上に成長させた。なお、実験例2においては、ロール15,16間に掛け渡された高分子フィルム10をロール16からロール15に搬送しながらSiOCH層を成長させた。高分子フィルム10の全長は6mとした。また、ロール15,16による高分子フィルム10の引張り張力を30Nとして、0.1m/分の搬送速度で搬送した。
【0036】
次に、上記のようにしてロールツーロール方式で製造された高分子フィルム10とSiOCH層との積層体からなる表面改質高分子フィルムの図13(a)に示すSiOCH層の表面(縦:約20cm×横:約30cm)を図13(b)に示すように縦2cm×横2cmの正方形状の領域に分割した。ここで、表面改質高分子フィルムのSiOCH層の表面の分割された正方形状の領域は、横の座標1〜15および縦の座標a〜jでそれぞれ特定できるようにした。
【0037】
そして、上記のようにして分割された正方形状の領域のそれぞれについて水の接触角θ[°]を測定した。たとえば図14(a)に示すように、水滴41の高さβが十分に測定できる場合には、水の接触角θは、水滴41の幅αを用いて、θ=2tan-1(2β/α)の式で算出した。
【0038】
また、たとえば図14(b)に示すように、水滴41が非常に薄く、水滴41の高さβが十分に測定できない場合には、水の接触角θは、以下のようにして算出した。まず、積分法を用いると水滴41の体積Vは、V=π×(3α2β+4β3)/24の式で表されるが、αはβよりも十分に大きいため、β3の項を無視すると、β=(8V)/(πα2)の式が導かれる。そして、β=(8V)/(πα2)の式を、θ=2tan-1(2β/α)の式に代入することによって、水の接触角θを算出した。
【0039】
図15(a)および図15(b)に、座標により特定された正方形状の領域ごとの水の接触角θを示す。実験例2の表面改質高分子フィルムのSiOCH層の表面の水の接触角θの平均値は70.9[°]であった。
【0040】
<実験例3>
SiOCH層を形成する前のPENフィルム(PEN)と、実験例2と同様のロールツーロール方式でPENフィルム上にSiOCH層を形成した表面改質高分子フィルム(SiOCH/PEN)のSiOCH層とについて、それぞれ、紫外線ランプから波長185nmの紫外光と波長254nmの紫外光とを同時に10分間照射した後に、実験例2と同様にして水の接触角θを測定した。その結果を図16に示す。
【0041】
図16に示すように、PENは、紫外光の照射前の水の接触角θは76.4°であり、紫外光の照射前の水の接触角θは13.6°であった。また、SiOCH/PENは、紫外光の照射前の水の接触角θはそれぞれ70.1°および64.3°であり、紫外光の照射前の水の接触角θはそれぞれ8.3°および5.6°であった。したがって、SiOCH/PENは、PENと比べて、紫外光の照射により、水の接触角θを低減(親水化)できることが確認された。
【0042】
また、図17に、PENおよびSiOCH/PENに対して、紫外光を、それぞれ、0分間、1分間、2分間、5分間および10分間照射したときの水の接触角θの変化を示している。図17に示すように、PENおよびSiOCH/PENのいずれにおいても、紫外光の照射時間が5分間までは紫外光の照射により水の接触角θが直線状に低下するが、紫外光の照射時間が5分を超えても水の接触角θはあまり変わらないことが確認された。
【0043】
<実験例4>
まず、実験例1と同様にして、触媒CVD法により、SiOCH層を分析用Si単結晶ウェハー上に51分45秒間成長させた後に、モノメチルシランと酸素を含有したアルゴンと水素との混合ガスの導入を停止した。
【0044】
次に、図2に示す触媒CVD装置(MDF製MD−201)の真空容器11内の圧力を300Paまで上昇させた後に、タングステンからなる高融点金属触媒体12を1500℃に加熱した。
【0045】
その後、ガス導入口11aから真空容器11内にモノメチルシラン(流量1sccm)とC48からなるフルオロカーボン(流量200sccm)と水素(流量100sccm)と窒素(流量100sccm)との混合ガスを導入した。これにより、混合ガスが1500℃に加熱された金属触媒体12に接触してラジカルが発生し、当該ラジカルが分析用Si単結晶ウェハーに照射した。このような触媒CVD法により、SiCFH層を分析用Si単結晶ウェハー上に30分間成長させた。
【0046】
そして、分析用Si単結晶ウェハー上に成長したSiCFH層のFTIRによる分析を行った。その結果を図18に示す。図18の横軸は波数[cm-1]を示し、縦軸は吸収強度[a.u.]を示している。図18に示すように、実験例4のSiCFH層のFTIRスペクトルには、Si−C結合(図18の(Vii))およびC−F結合(図18の(Viii))にそれぞれ対応する吸収ピークが確認された。
【0047】
次に、実験例2と同様にして、実験例4のSiCFH層の水の接触角θを測定した。その結果を表2に示す。なお、表2において、実験例4のSiCFH層の水の接触角θはサンプルAとして示されている。
【0048】
また、混合ガスにおけるモノメチルシラン、C48、水素および窒素の流量ならびに真空容器11内の成長圧力を変更してSiCFH層(サンプルB〜K)を成長させ、実験例2と同様にして、SiCFH層の水の接触角θを測定した。その結果も併せて表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、モノメチルシランの流量が0sccmとされたサンプルDの水の接触角θは58.0°となり撥水性が低かったが、その他のサンプルの水の接触角θは70°以上、特にサンプルA〜C、E〜G、JおよびKの水の接触角θは90°以上という高い撥水性を有していることが確認された。
【0051】
以上のように本発明の実施形態および実験例について説明を行なったが、上述の実施形態および実験例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0052】
今回開示された実施形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
11 真空容器、11a ガス導入口、11b ガス排気口、12 高融点金属触媒体、13 支持台、14 電源、15,16 ロール、20 表面改質高分子フィルム、21 SiOCH層、22 SiCFH層、23 高撥水性フィルム、31 紫外光、41 水滴。
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