(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加工機に取付可能なホルダと、外周部に螺旋状のねじ山部が形成され任意の向きで前記ホルダに組付けられたタップとを有し、前記ホルダの基準位置を基準とした前記タップのねじ山部の特定位置を割り出し、ワークにめねじ加工を施す加工方法であって、
前記タップの任意の向きに配置されている前記ねじ山部の特定のすくい面における特定のねじ山部分の頂点位置を把握する第1工程と、
前記タップの周りに、当該タップの軸心を中心に角度位置が放射状に印された筒型の角度ゲージを遊嵌し、前記角度ゲージに印された角度位置から前記タップの軸心を中心とした前記特定のねじ山部分の有る特定のすくい面の位置と前記基準となるホルダの基準位置との間のずれ角を把握する第2工程と、
前記ねじ山部のピッチに基づいて単位角度あたりの長さ量を前記ずれ角に乗じることで、前記ホルダの基準位置に沿う特定のねじ山部の位置を割り出す第3工程と、
前記第3工程で割り出した前記特定のねじ山部の位置を前記加工機に入力して前記タップの切り始め位置を調整する第4工程と、
を有することを特徴とする加工方法。
前記第3工程において割り出された特定のねじ山部の位置を前記ねじ山部のピッチの整数倍分加減することで、前記タップの切り始め位置を調整することを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン(自動車に搭載)のシリンダヘッド(ワーク)は、スパークプラグを装着するために、プラグ孔を有している。このプラグ孔のめねじの加工は、タップツールを用いて行われる。
タップツールの多くは、マシングセンター加工機などの加工機に取付可能なホルダと、同ホルダの先端部に植え込まれたタップとを有していて、加工機のツール取付部にホルダを固定した後、加工機により、ホルダ(タップを含む)を回転、タップ先端をプラグ孔の下孔へ送ることにより、タップ外周部に有する螺旋状のねじ山部にて、下孔にめねじが加工され、プラグ孔が形成される。
【0003】
プラグ孔には、エンジンの気筒間の燃焼ばらつきの解消、着火性の改善、エンジンの燃焼効率の向上などのため、スパークプラグの中心電極の周りに配置されている側電極(接地電極)の向きを特定の向きに合わせることが求められる。
そのためプラグ孔は、所定の位相で正確に加工される必要がある。
また、このようなタップツールにおいては、プラグ孔にねじ加工を施す前の段階で、タップに位相調整を施したり、所定位相の基準となるねじ山部の特定位置を割り出したりすることが行われている事例がある(いずれもプリセット)。例えば特許文献1では、タップのねじ山部のすくい面を位置決める回転方向用位置決め治具を用いて、タップの回転方向の位置を決め、さらに投影機を用いてタップ長を調整している。特許文献2では、タップのねじ山部に螺挿されるキャップを用意し、同キャップとホルダとの所定位置にそれぞれマーキングを施しておく。そして、キャップをねじ山部に被せて螺挿により締め付ける。その後、それぞれのマーキングが一致するまで、キャップを緩めることにより、ホルダを基準としたねじ山部の特定位置を割り出し、更にタップの軸方向の長さを調整する調整機構を備えたホルダを用いることでタップ長を調整している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前者(特許文献1)によるプリセットは、タップのねじ山部のすくい面を位置決める治具を用いて、実際にタップツールの向きを調整する技術なので、非常に煩雑な作業を要する。
後者(特許文献2)によるプリセットは、キャップにはタップと螺合させる為に嵌め合い代(隙間)が必要であり、その分、タップの軸方向の長さにばらつきが生じ、高い精度で、特定ねじ山部の位置の割り出しが行えない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、簡単、且つ高い精度で、タップの切り始め位置となる、ホルダの基準位置を基準とした特定のねじ山部の位置を割り出し、加工機にてワークに所望形状のめねじ加工が施せる加工方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、加工機に取付可能なホルダと、外周部に螺旋状のねじ山部が形成され任意の向きでホルダに組付けられたタップとを有し、ホルダの基準位置を基準としたタップのねじ山部の特定位置を割り出し、ワークにめねじ加工を施す加工方法であって、タップの任意の向きに配置されているねじ山部の特定のすくい面における特定のねじ山部分の頂点位置を把握する第1工程と、タップの周りに、当該タップの軸心を中心に角度位置が放射状に印された筒型の角度ゲージを遊嵌し、この角度ゲージに印された角度位置からタップの軸心を中心とした特定のねじ山部分の有る特定のすくい面の位置と基準となるホルダの基準位置との間のずれ角を把握する第2工程と、ねじ山部のピッチに基づいて単位角度あたりの長さ量をずれ角に乗じることで、ホルダの基準位置に沿う特定のねじ山部の位置を割り出す第3工程と、第3工程で割り出した特定のねじ山部の位置を加工機に入力してタップの切り始め位置を調整する第4工程、を有するものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タップをホルダに固定した後は、タップに触れずに、タップの切り始めの基準となる、ホルダの基準位置を基準とした特定のねじ山部の位置を割り出すことができる。
これにより、ねじ山部の特定位置の割り出しを高精度に行うことができる。しかも、特定のねじ山部の位置は、角度ゲージで把握したずれ角に単位角度あたりのタップの軸心方向長さ量を乗じて換算することで、容易且つ迅速に割り出される。これにより、割り出した特定のねじ山部の位置を加工機に入力してタップの切り始め位置を適宜調整することで、適切な状態での加工が可能となり、容易にワークに所望形状の加工を施すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を
図1から
図7に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1は、例えば自動車(車両)用エンジンのシリンダヘッド(ワーク)に配置されているスパークプラグ装着用の下孔にめねじ加工を施すのに用いられるタップツール1を示している。
タップツール1は、
図1および
図2に示されるようにホルダ3とタップ5とを有して構成される。このうちホルダ3は、例えば基端側から逆円錐台形の台座7、フランジ部9、短柱形の台部11、筒形のタップ受入れ部13、円盤形のタップ固定具15を連ねて形成される。そして、台座7の外周部の一部には加工機と位置決めされる切欠き部17が設けられる。
【0011】
タップ5は、
図1および
図2に示されるように例えば細長く延びる杆状部21と、同杆状部21の先端外周部に形成された螺旋状のねじ山部23とを有して構成される。ねじ山部23は、杆状部21の軸心を中心に略十字形状に分かれている。ねじ山部23は、先端面側の食いつき部V1となる不完全ねじ部24aと同不完全ねじ部24aの基端側に続く符号V2で示す完全ねじ部24bとを有する(
図3参照)。略十字形状に分かれた各ねじ山片23aの端(周方向)にはすくい面23bが形成される(
図5参照)。
【0012】
上記杆状部21の基端側(ねじ山部23と反対側)が、タップ固定具15、タップ受入れ部13の中心部に形成されているタップ差込み穴25に差し込まれる。そして、タップ固定具15にて杆状部21がホルダ3に固定され、ねじ山部23をホルダ3から突き出た位置に配置している(
図1参照)。
このタップツール1の台座7、フランジ部9、台部11が、
図7に示されるように例えばマシングセンター加工機で構成される加工機41のツール取付部であるところの主軸部43に装着されることによって、加工機41によるタップ5の回転、タップ5の送りにより、シリンダヘッド26(ワーク)のプラグ孔の下孔27にめねじが加工される。
【0013】
ここで、加工機41は、数値制御でねじ加工を行うので、例えば
図7のように制御部45につながる入力パネル47に、補正値を入力すると、同補正値に基づき、タップ5が所定の位相となるように調整される。つまり、加工機41は、タップ5が所定位相となるよう、タップ5の回転方向の向き、タップ5の軸方向位置の調整が行われる。
このとき、加工機41の主軸部43は、ホルダ3と一体、ホルダ3はタップ5と一体であるから、ホルダ3の基準位置を基準とした螺旋状のねじ山部23の特定位置を割り出すことにより、タップ5の切り始め位置は一定に調整されることがわかる。つまり、加工機41にタップツール1を装着する前の段階で(単品のとき)、ホルダ3の基準位置を基準としたねじ山部23の特定位置を割り出しておくと(プリセット)、割り出した位置を加工機41に入力することにより、数値制御により所定の位相、すなわちタップ5の切り始め位置の調整が行われる。
【0014】
そのため、単品のタップツール1、すなわち任意の向きでタップ5が組み付けられたタップツール1から、ホルダ3の基準位置を基準としたねじ山部23の特定位置を割り出す方法を用いている。この方法には、タップ5に触れずに、ねじ山部23の特定位置を割り出す方法が用いられる。
このタップツール1のプリセットについて説明すると、
図2に示されるようにタップ5を任意の向きでホルダ3のタップ差込み穴25へ同穴25の底につくまで差し込み、タップ固定具15で、タップ5を固定する。このときのツール長、例えばホルダ端面となるフランジ部9の下端とツール先端となるタップ5先端との間の長さT1を「100mm」とする(
図1参照)。
【0015】
この状態からプリセットが始まる。まず、任意の向きに配置されているねじ山部23の特定のすくい面23bにおける特定のねじ山部分23cの頂点位置(高さ)を把握する工程を行う(本願の第1工程)。この工程は、例えば投影機(図示しない)を用いて、例えば
図1中の矢視Aのようにタップ5の先端部を投影し、例えば
図3に示されるような投影機の画面上に映し出し、画面上の十字形の指標31a,31b及び新たに画面上に設けた指標31c,31dを用いて、すくい面23bの特定のねじ山のフランクを基準に特定の山部の頂点位置を把握する。このときには、曖昧となる不完全ねじ部24aではなく、完全ねじ部24bで、それも完全ねじ部24bのうちの先端に位置するねじ山部分である1山目のねじ山部分23cの頂点位置(高さ)を把握する。ここでは、ねじ山部分23cの頂点高さからホルダ端面であるところのフランジ部9の下端までのツール長T2を把握し、例えば「96mm」であるとする。
図3中の符号Pは、ねじ山部23のピッチを示している。
【0016】
つぎに、ねじ山部分23cが存在する特定のすくい面23bと、ホルダ3の基準位置、例えば切欠き部17との間の位相を把握する。これには、
図4に示されるようなタップ5の外径より、内径が大きい筒型のゲージ、例えば台部11の外周面に嵌挿可能な円筒型の角度ゲージ35を用いる。
例えば角度ゲージ35は、例えばタップ長さと同等の長さ寸法をもつ円筒形部材で形成され、一端面には
図5にも示されるように例えば角度位置を示す複数の角度指標37が放射状に印されている。例えば角度指標37のうち特定の一本は、他よりも太い線で印されている。そして、この太い線は、角度ゲージ35の外周面まで延び、さらに軸心方向に沿って反対側の端面まで延びていて、ホルダ3の基準位置に合わせるための基線37aとしている。
【0017】
特定のすくい面23bとホルダ3の基準位置との間の位相(角度の差)を把握する場合、まず、この角度ゲージ35を、
図4に示されるようにタップ先端側からタップ5の周りへ差し込み、太線で印される指標37(37a)を切欠き部17の中心位置に印したマークMに合わせつつ台部11の外周部に嵌め、フランジ部9の上端と突き当たるまで挿入する。なお、このマークMは、ホルダ3の基準位置(切欠き部17の中心位置)に対応してフランジ部9上に設けられている。これにより、角度ゲージ35は、ホルダ3の基準位置たる切欠き部17の中心位置に位置決めされながら、タップ5の周りに遊嵌される。ちなみに
図4中の符号aは、太線の基線37aを延長した仮想の延長線を示している。
【0018】
そして、角度ゲージ35を端面方向から目視し、角度指標37から、
図4および
図5に示されるように特定のねじ山部分23cの有る特定のすくい面23bの位置と、切欠き部17を延長した線上に配置してある基線37aの位置との角度を読み取り、両者間の角度が何度であるかを把握する。これにより、特定のすくい面23bの、ホルダ3の基準位置に対するずれ角θが把握される(第2工程)。ずれ角θの把握を終えたら、角度ゲージ35を取り外す。
【0019】
つぎに、上述したねじ山部23のピッチPに基づいて単位角度あたりの長さ量(タップ5の軸方向長さ量)をずれ角θに乗じることで、角度ゲージ35の基線37a(切欠き部17の位置を示唆する指標)上に存在(配置)される特定のねじ山部23xの位置(高さ)を割り出す(
図5,6参照)。なお、請求項1における「ホルダの基準位置に沿う」とは、角度ゲージ35の基線37a(切欠き部17の位置を示唆する指標)上に存在することを意味する。
【0020】
例えば、ねじ山部23のピッチPが「1.5mm」であるとすると、角度1°で約0.004mmの高さと換算できる。例えば
図5および
図6のように把握されたずれ角θが「90°」であると、特定のすくい面23bとホルダ3の基準位置間の角度による高さ違いαは、「0.375mm」となる。これにより、基線37a(ホルダ3の基準位置)上に存在される特定のねじ山部23の高さT3(特定のねじ山部の位置)は、「96mm(T2)−0.375mm(α)=95.625mm」という具合に、特定のねじ山部分23cの頂点位置(高さT2)に基づき求められる。つまり、タップ5の切り始め位置の基準となる、ホルダ3の基準位置を基準としたタップ5のねじ山部23の特定位置23xが割り出される(第3工程)。
【0021】
つぎに、タップツール1を用いて、シリンダヘッド26の下孔27(プラグ孔)にめねじを加工する際のタップ位置の設定方法について説明する。
加工機41の主軸部43に、タップツール1を装着する。タップツール1は、ホルダ3の切欠き部17との嵌合により、一定の向きに組み付けられる。
そして、加工機41の入力パネル47から、例えば規定量のツール長T1に対する特定のねじ山部23xの高さの差(100mm(T1)−95.625mm(T3)=4.375mm)を補正量として入力することにより、この補正量に基づき主軸部43を介してタップツール1の位置を数値制御により変位(主軸部43の回転、送りなど)させ、4.375mm分の補正が行われる。これにより、タップ先端の切り始め位置が所定箇所に設定される。すなわち、例えば、タップツール1の位置を4.375mm分ワークに対して近づけることでタップ先端の切り始め位置は所定箇所に設定され、タップ5とワークであるシリンダヘッド26とのなす距離を規定寸法に調整する(第4工程)。
【0022】
このような設定により、シリンダヘッド26のプラグ孔の下孔27には、特定のスパークプラグの向きに合わせた、めねじの加工が行われる。
また、タップ5を装着した加工機41の状況に応じ、タップ5の切り始め位置を変えることもある。
例えば規定量のツール長をもつタップ5のとき、
図7(a)に示されるようにシリンダヘッド26の下孔27の座面とタップ先端の切り始め位置との距離Lが所定に規定されるとする。
【0023】
このときタップ先端の位置が、下孔27の座面に接近される場合、下孔27の座面とタップ端との干渉を避けることが求められる。この場合、
図6の二点鎖線に示されるように先の割り出された特定のねじ山部23xの位置を前方側(先端方向、もしくはワークに近づく方向)へ変更する。すなわち、この特定のねじ山部23xの位置(T3)の値に、ねじ山部23のピッチPの整数倍(n×P)を加え、タップ5のツール長T1(端面の位置)を超えたときの仮想のねじ山部23の特定位置(高さ)を求める(T4)。例えば今回、100.125mm(95.625mm+(1.5mm×3))として、加わるピッチP分、T3からT4へ変更する。これにより、
図7(b)のようにタップ先端は、規定量のツール長のときよりも0.125mm分退避した位置に配置される。つまり、シリンダヘッド26(ワーク)にタップ先端が干渉することなく、適切に加工が行われる。
【0024】
タップ先端の位置が、例えば許容範囲内に収まる場合は、先の完全ねじ部24bの1山目のねじ山部分23cに基づき割り出された特定のねじ山部23の位置、すなわちツール長T3に基づき、角度分の高さ(1°=0.0004mm)が補正される。
タップ先端の位置が、例えば下孔27の座面から過剰に離れる場合、上述した接近するときとは反対に、割り出された特定のねじ山部23xの位置を後方側(基端方向、もしくはワークから遠ざかる方向)へねじ山部23のピッチP分、減らした位置に変更して設定する。これにより、補正量が上述した「4.375mm」よりも大きくなり、タップツール1の位置をワークに対してさらに近づけてタップ先端の切り始め位置が所定箇所に設定され、タップとワークとのなす距離が規定寸法に調整される(
図7(c)参照)。
【0025】
以上を整理すると、筒型の角度ゲージ35を用いた加工方法により、容易に、タップ5の切り始めの基準となる、ホルダ3の基準位置(切欠き部17)を基準とした特定のねじ山部23xの位置(高さ)を割り出すことができる。
それ故、ねじ山部23の特定位置の割り出しを、タップ5に触れずに高精度に行うことができる。しかも、特定のねじ山部23xの位置(高さ)は、角度ゲージ35で把握したずれ角θに単位角度あたりのタップ5の軸心方向長さ量を乗じて換算することにより、容易且つ迅速に割り出されるから、ここで割り出した特定のねじ山部23xの位置(高さ)を加工機41に入力してタップ5の切り始め位置を適宜調整することで、ワークに所望形状のめねじが加工され、所望形状に加工されたワークが容易に得られる。
【0026】
また割り出された特定のねじ山部23xの位置T3は,ねじ山部23のピッチP分、整数倍加減することにより、加工機41にタップツール1を装着した状況に応じて、タップ5の切り始め位置を適切に調整することができる。
そのうえ、完全ねじ部24bの先端に位置する1山目の特定ねじ山部23xの頂角位置を把握することにより、高精度な割り出しがタップ先端部付近で行えるので、タップ5の切り始め位置が適切に設定しやすい。
【0027】
なお、上述した一実施形態における各構成および組合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能であることはいうまでもない。また本発明は、上述した一実施形態によって限定されることはなく、「特許請求の範囲」によってのみ限定されることはいうまでもない。例えば一実施形態では、ホルダの切欠き部の位置をホルダの基準位置として用いたが、これに限らず、他のホルダの部位をホルダの基準位置の基準として用いて、特定のねじ山部の位置を割り出すようにしてもよい。